地域に会社を残すための事業承継|後継者がいない地元企業を引き継ぐ選択肢と、想いをつなぐ仕組み

暖簾のかかった老舗店舗の前で、作務衣姿の年配の店主と若い店主が腕を組んで並ぶ様子

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後継者がいない地元企業を地域に残す方法は、親族への承継だけではありません。役員・従業員への承継、地元の企業への引継ぎ、ファンドなど外部の資金を入れた承継、財団などによる株式の保有といった選択肢があり、これらを組み合わせることもできます。

大切なのは、「誰に引き継ぐか」を決める前に、「地域に何を残したいのか」を言葉にすることです。雇用なのか、取引先との関係なのか、店や工場という拠点なのか、屋号やサービスなのか。残したいものが明確になれば、それを守る手段——株式の持ち方、契約の条件、財団の目的など——を選べるようになります。

この記事では、地域に会社を残すことを目的とした事業承継の選択肢と、オーナーの想いを承継後もつなぐための仕組みを整理します。

なぜ「地域に残す」ことが論点になるのか

中小企業庁の「事業承継ガイドライン」は、休廃業・解散した企業のうち、直前期の決算で黒字だった、いわゆる黒字廃業が約6割を占める状況が続いていると指摘しています。そして、こうした企業が事業承継を実現できれば、技術やノウハウを次の世代に引き継ぎ、雇用を確保し、地域の経済活動への貢献を続けることにつながるとしています。

地方では、一社の廃業が、従業員の働く場だけでなく、地域の人が日常的に使うサービスや、取引先の仕入れ・販売先の喪失につながることがあります。会社を「売る」か「やめる」かという二択ではなく、地域にとっての役割をどう引き継ぐかという視点が求められる理由です。

廃業・第三者への引継ぎ・事業の一部譲渡を比較する基本的な考え方は、関連記事「黒字廃業を選ぶ前に比較したいこと」で整理しています。本記事では、その中でも「地域に残す」ことを目的にした場合の選択肢と仕組みに焦点を当てます。

まず「何を残したいか」を整理する

地域に会社を残すといっても、オーナーによって守りたいものは異なります。AEGISでは、次の6つの観点で整理することをおすすめしています。

残したいもの具体的な中身守るための主な手段
雇用従業員の雇用と処遇承継先の選定条件、譲渡契約での雇用維持の約束
事業・サービス地域の人が使う商品・サービス事業計画の共有、承継後の経営体制
拠点店舗・工場・事務所の所在地事業用不動産の所有の仕方、賃貸借契約の期間
取引関係地元の仕入先・販売先・協力会社承継先の選定条件、取引継続の方針
屋号・ブランド社名・屋号・地域での信用商号の維持、商標などの権利の承継
想い・理念創業の理念、地域への貢献の姿勢経営理念の明文化、株主構成、財団の目的

すべてを完全に守ることは難しく、たとえば「雇用と拠点の維持」を重視すれば、譲渡価格や承継先の選択肢は狭まることがあります。何を優先し、何を譲れるのかを、早い段階で家族や幹部と共有しておくことが出発点になります。

地域に残すための選択肢

1. 役員・従業員への承継

会社の事業や理念を最もよく知る役員・従業員に引き継ぐ方法です。地域との関係や取引先とのつながりがそのまま残りやすいことが最大の利点です。

一方で、事業承継ガイドラインも指摘するとおり、親族株主の了解、株式を買い取る資金の確保、そして会社の借入れに対する経営者保証の引継ぎが大きな課題になります。資金面では、後継者個人への融資のほか、株式を買い取るための会社を設立し、後継者の出資と金融機関からの借入れ、外部の投資家からの出資を組み合わせる方法もあります。経営者保証については、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則や、事業承継時の保証解除を支援する制度が設けられています。

役員・従業員が株式を取得する具体的な方法は、関連記事「従業員承継(MBO)で後継者が株式を取得する方法」で解説しています。

2. 地元の企業への引継ぎ

同じ地域で事業を営む企業に、株式譲渡や事業譲渡で引き継ぐ方法です。地域の事情をよく知る企業であれば、拠点や取引関係、雇用を維持する動機を持ちやすいと考えられます。

ただし、地域内での引継ぎは、取引先や競合との関係から情報管理に一層の注意が必要です。また、地元企業であることだけを条件にすると、承継先の候補が限られ、価格や条件で妥協を迫られることもあります。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は、仲介者やアドバイザーとの契約、手数料、手続の流れについて確認すべき事項を示しています。

3. ファンドなど外部の資金を入れた承継

後継者候補はいるが資金が足りない場合や、承継後の成長に外部の支援が必要な場合には、投資ファンドなどの出資を受ける方法があります。地域金融機関や公的機関が関わるファンドもあります。

ファンドは、いずれ投資した資金を回収する出口が必要になるため、数年後に株式が再び動くことを前提に考える必要があります。出資を受ける前に、出口の方針や、その時点での承継先の選び方について確認しておくことが重要です。

4. 財団などによる株式保有を組み合わせる

オーナーが保有する株式の一部を財団に寄附し、財団が長期の株主として会社を見守る方法です。株式の配当は財団の財源となり、地域の教育・福祉・文化などの公益活動に使われます。会社の利益が、配当を通じて地域に還元される仕組みと言えます。

ただし、財団は会社の経営を支配するための器ではありません。公益財団法人は原則として会社の議決権の過半数を持てないこと(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)、譲渡所得等の非課税特例を受ける寄附では保有株式が発行済株式の2分の1を超えないこと(租税特別措置法施行令第25条の17第6項)など、財団の独立性を求める制約があります。財団は、経営を担う後継者(役員・従業員や承継先の企業)と組み合わせる長期の株主として位置付けるのが現実的です。

財団が議決権を持つことによる影響を避けたい場合は、寄附する株式を議決権のない配当優先株式(種類株式)にする設計も考えられます。経営に必要な議決権は後継者が持ち、財団は配当を受け取って地域の活動を支える、という役割の分け方です。また、財団を自ら設立すると、理事会・評議員会の運営や事務局、会計・報告を長く担い続ける人が必要になります。自ら財団をつくらず、運営体制を備えた既存の財団の中に、オーナーの名前や想いを冠した基金を設ける方法もあり、AEGISでもそのための器としてアイジスレガシー財団を設立しています。いずれの場合も、種類株式の手続や、寄附に伴う税務の取扱いは個別に確認が必要です。

5. 事業の一部を引き継ぐ

会社全体の引継ぎが難しい場合でも、地域にとって重要な事業や店舗、技術だけを、事業譲渡などで別の事業者に引き継ぐ方法があります。会社としては清算しても、地域の役割は残るという選択肢です。

選択肢の比較

選択肢地域に残りやすいもの主な課題向いている場面
役員・従業員への承継雇用、取引関係、理念株式取得の資金、経営者保証、経営経験社内に意欲と能力のある人材がいる
地元企業への引継ぎ拠点、取引関係、雇用候補が限られる、情報管理地域内に事業の相乗効果がある企業がある
ファンド等の資金を入れた承継事業の継続と成長数年後の出口、経営の自由度後継者候補はいるが資金や経営支援が不足
財団による株式保有の組合せ理念、地域への利益還元保有・運営の制約、経営を担う人は別に必要承継先が決まり、長期の安定株主と社会還元を両立したい
事業の一部の引継ぎ重要な事業・サービス会社全体は残らない、従業員の移籍会社全体の承継は難しいが核となる事業がある

オーナーの想いを承継後もつなぐ仕組み

株式を手放した後も、オーナーの想いを会社に残すためには、「気持ち」ではなく「仕組み」に置き換えておく必要があります。

  • 経営理念と地域での役割を文書にする:承継先と共有する事業計画の冒頭に、会社が地域で果たしてきた役割を書いておくと、承継後の判断の拠り所になります。
  • 譲渡の条件に織り込む:一定期間の雇用の維持、拠点の継続、屋号の使用などを、譲渡契約の条件として交渉することができます。条件を多く付けるほど、価格や承継先の範囲に影響する点は理解しておく必要があります。
  • 事業用不動産の持ち方を工夫する:店舗や工場の土地・建物をオーナー家が保有し続け、承継先に長期で賃貸する方法をとれば、拠点が地域に残りやすくなります。一方で、賃料や修繕の負担、将来の売却の自由度とのバランスを考える必要があります。
  • 株主構成で支える:経営を担う後継者が議決権の多くを持ち、財団や従業員持株会などが長期の株主として加わる構成にすれば、短期的な利益だけで会社の方向が決まりにくくなります。
  • 家族のルールとして残す:事業や資産に関わる家族の考え方を、家族の話し合いを経てまとめておくことも、想いをつなぐ方法の一つです。関連記事「ファミリー憲章のつくり方」も参考にしてください。

進め方と相談先

地域に会社を残すための承継は、準備期間が長いほど選択肢が広がります。一般的には、次の順序で進めます。

  1. 現状と「残したいもの」の整理:会社の財務、株主構成、事業用不動産、借入れと保証、そして残したいものの優先順位を書き出す
  2. 承継先の候補の検討:社内の人材、地元企業、外部の資金などを幅広く検討する
  3. 承継の方法と条件の設計:株式の移し方、資金の確保、保証の扱い、財団の活用の要否を決める
  4. 関係者への説明:従業員、取引先、金融機関、地域の関係者に、時期と内容を考えて伝える
  5. 承継後の見守り:一定期間、旧オーナーが相談役などとして関わるか、財団などを通じて関わるかを決める

相談先としては、各都道府県に設置されている公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターや、取引のある金融機関、顧問の専門家などがあります。

実務上注意したいポイント

  • 「地域のため」を理由に後継者に過大な負担を求めない:雇用や拠点の維持を条件にしすぎると、承継後の経営の自由度を奪い、かえって事業の継続を難しくすることがあります。
  • 価格と条件を一体で考える:譲渡価格を高くすることと、地域に残る条件を手厚くすることは、しばしばトレードオフになります。オーナーの手取りと、地域に残るものを並べて比較しましょう。
  • 情報管理を徹底する:地域内での承継の検討は、うわさが広がりやすいものです。従業員や取引先に伝える時期と順序を、あらかじめ決めておくことが重要です。
  • 税務の論点を早めに確認する:株式の譲渡には譲渡所得の課税が、財団への株式の寄附には原則としてみなし譲渡課税と、その非課税特例の要件確認が関わります。承継の方法ごとにオーナーの手取りと税負担を試算しておきましょう。

AEGISの視点

後継者がいない会社の承継は、「買い手を探す」話として進められがちです。しかしAEGISは、地域に根差した会社の承継を、「会社が地域で果たしてきた役割を、誰が、どの形で引き継ぐか」を設計することだと考えています。

その設計では、経営を担う人、株式を持つ人、事業用不動産を持つ人、そして利益の一部を社会に還元する器を、必ずしも同じにする必要はありません。たとえば、経営は従業員出身の後継者が担い、株式の一部を財団が長期に保有して配当を地域の活動に生かし、工場の土地はオーナー家が持ち続けて賃貸する——といったように、役割を分けて組み合わせることで、地域に残せるものは大きく広がります。

一方で、財団による株式保有は、経営を担う人がいて初めて意味を持つ仕組みです。財団に株式を託すこと自体を目的にせず、事業・経営・所有・社会貢献のそれぞれに担い手を置く一つの設計図として考えることが、オーナーの想いを地域に残すための近道になるとAEGISは考えています。財団が保有する株式の議決権の扱いは関連記事「財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか」で、財団設計の全体像はPillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

まとめ

  • 事業承継ガイドラインは、休廃業・解散企業の約6割が黒字廃業であると指摘しており、承継の実現は雇用や地域の経済活動の維持につながります。
  • 地域に会社を残すには、まず雇用・事業・拠点・取引関係・屋号・理念のうち、何を優先して残したいかを整理することが出発点です。
  • 選択肢には、役員・従業員への承継、地元企業への引継ぎ、ファンド等の資金を入れた承継、財団による株式保有の組合せ、事業の一部の引継ぎがあります。
  • オーナーの想いは、理念の文書化、譲渡の条件、事業用不動産の持ち方、株主構成などの「仕組み」に置き換えることで、承継後もつなぎやすくなります。
  • 具体的な方法の適否や税務の取扱いは、会社と家族の状況によって異なるため、早めに専門家と検討することが望まれます。

よくある質問

Q. 後継者がいない場合、まず誰に相談すればよいですか?

各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターは、事業承継に関する相談や、承継先探しの支援を行う公的な窓口です。そのほか、取引のある金融機関や顧問の税理士・弁護士などに相談する方法もあります。早い段階で現状を整理しておくほど、選べる方法が広がります。

Q. 地元の企業に譲る場合、雇用の維持を約束してもらえますか?

譲渡契約の中で、一定期間の雇用の維持や処遇について条件を定めることは可能です。ただし、条件を手厚くするほど、承継先の候補や譲渡価格に影響することがあります。何を条件として必ず求め、何は承継先の判断に委ねるかを、事前に整理しておくことが大切です。

Q. 従業員が株式を買い取る資金がない場合はどうすればよいですか?

後継者個人への融資、株式を買い取るための会社を設立して出資と借入れを組み合わせる方法、外部の投資家の出資を受ける方法などがあります。株式の一部を先に移し、残りを段階的に移すことも考えられます。経営者保証については、事業承継時に焦点を当てたガイドラインの特則や、保証の解除を支援する制度も確認しておきましょう。

Q. 財団に株式を寄附すれば、会社は地域に残りますか?

財団による株式保有は、長期の株主として会社を見守り、配当を地域の公益活動に生かす仕組みにはなりますが、それだけで会社が地域に残るわけではありません。公益財団法人は議決権の過半数を持てないなど、財団が会社を支配することには制約があります。経営を担う後継者や承継先と組み合わせて考えることが前提になります。

Q. 承継の準備には、どのくらいの期間が必要ですか?

会社や承継先の状況によって大きく異なりますが、承継先の検討から条件の交渉、関係者への説明、承継後の引継ぎまで含めると、数年単位の時間を見込んでおくことが望まれます。特に役員・従業員への承継では、後継者の育成や資金の準備に時間がかかるため、早めの着手が重要です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『専門家のための事業承継入門 事例で学ぶ!事業承継フレームワーク』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房
  • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。