定款とは、会社の目的や株式、機関(株主総会・取締役など)の基本ルールを定めた、会社の「憲法」にあたる文書です。
資産管理会社の定款は、設立のときに一般的なひな形をもとに作り、その後は一度も読み返していない、ということが少なくありません。家族だけが株主で、オーナーが一人で意思決定しているうちは、それでも問題は表に出ません。しかし、株式が相続で家族に分かれたとき、オーナーが判断できなくなったとき、家族の意見が割れたときに、定款に何が書いてあるかが会社の動き方を決めます。
この記事では、資産管理会社の設立時や見直しのときに確認したい定款の項目を、①株式の譲渡制限、②相続人等に対する売渡請求、③機関設計、④役員の任期、⑤株主総会の運営、⑥株主ごとの権利の設計の順に整理します。最後にチェックリストをまとめています。
なぜ資産管理会社の定款を見直すのか
資産管理会社の株式は、オーナーの相続財産の中で大きな割合を占めることがあります。会社の中身(不動産や預金)は動かなくても、株式という「会社そのもの」は、相続や贈与のたびに家族の間で移っていきます。
株式の承継で何を引き継ぐかの全体像は、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。本記事はその中でも、ルールとしての定款に焦点を当てます。
定款の見直しが特に必要になりやすいのは、次のような場面です。
- オーナーから子へ、株式の贈与や遺言による承継を始めるとき
- 配偶者や子を役員に加える、または役員から外すとき
- 兄弟姉妹など複数の家族が株主になる見込みがあるとき
- 古い会社で、旧商法時代の定款をそのまま使っているとき
1. 株式の譲渡制限と承認機関
譲渡制限は「誰が株主になるか」を管理する仕組み
非公開会社の多くは、定款で「株式を譲渡により取得するには会社の承認を要する」と定めています(会社法第107条)。これにより、株主が株式を第三者に売ろうとしても、会社の承認がなければ、取得者は原則として会社との関係で株主として扱われません。
ただし、譲渡制限は株式の売却そのものを禁止する制度ではありません。株主は承認を請求する際に、承認しない場合には会社または会社が指定する買取人が買い取るよう、あわせて請求できます。その請求があれば、会社が承認しないときは、会社自身または指定買取人がその株式を買い取らなければなりません(同第138条・第140条)。株主になる人を選べる代わりに、買取りの資金と手続きが必要になるという点を押さえておきたいところです。
承認機関を誰にするか
譲渡を承認するかどうかは、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会が決めるのが原則で、定款で別段の定めをすることもできます(同第139条)。
承認請求を受けてから2週間以内(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)に承認するかどうかを通知しないと、承認したものとみなされます(同第145条)。この期間を意識して、実務では承認機関を「代表取締役」とする定款も見られますが、専門書籍では、取締役会より下位の機関を承認機関とすることの有効性には学説上の争いがあると指摘されています。
取締役会を置かない資産管理会社では、株主総会を承認機関としたうえで、次のような手当てをしておく方法が考えられます。
- 株主総会の招集通知の期間を定款で短くしておく(非公開会社は原則1週間前まで、取締役会を置かない会社は定款でさらに短縮できます。同第299条)
- 承認請求を会社所定の書面で行うよう定め、会社は請求があれば書面を交付する旨もあわせて定める
2. 相続人等に対する売渡請求
相続による株式の移転は、譲渡制限では止められない
相続は「譲渡」ではないため、譲渡制限があっても、株式は相続人に当然に引き継がれます。そこで会社法は、相続その他の一般承継で譲渡制限株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すよう請求できる旨を、定款で定めることができるとしています(同第174条)。
制度の主な流れは次のとおりです。
- 請求のたびに、株主総会で請求する株式の数と相手方を決める(同第175条第1項)。この決議は特別決議です(同第309条第2項)
- 請求の相手方となる相続人は、その株主総会で議決権を行使できない(同第175条第2項)
- 会社が相続などがあったことを知った日から1年を経過すると、請求できない(同第176条第1項)
- 価格は当事者の協議で決め、まとまらなければ、請求の日から20日以内に裁判所に価格決定を申し立てることができる(同第177条)
なお、会社が買い取る形になるため、分配可能額の範囲内でしか取得できないという制約(財源規制)があります。
オーナー自身の相続にも使われ得る
この制度で注意したいのは、定款の定めは株主全員に適用されるという点です。専門書籍では、少数株主より先に支配株主(オーナー)に相続が起きた場合、後継者が相続した株式に対して、残りの株主の決議で売渡請求がされ得るリスクが指摘されています。売渡請求の決議では相続人側が議決権を行使できないため、少数株主だけで特別決議が成立してしまう構図になり得るからです。
家族だけの資産管理会社でも、オーナーの兄弟姉妹や前の世代から引き継いだ親族が株主に残っている場合は、同じ構図が生じ得ます。売渡請求の定めを置くかどうかは、現在の株主構成と、誰に先に相続が起きるかを想定したうえで判断する必要があります。代わりの方法として、種類株式(取得条項付株式など)や、遺言・民事信託(いわゆる家族信託)による承継先の指定を組み合わせる考え方もあります。
株式が遺産分割前に相続人の共有になったときに議決権がどう扱われるかは、関連記事「株式が相続人の共有になったときの議決権行使」をご覧ください。
3. 機関設計:取締役会を置くか
株式会社には、取締役を1人以上置かなければなりません。取締役会、監査役、会計参与などは、定款の定めによって置くことができる任意の機関です(同第326条)。
資産管理会社では、意思決定を簡素にするため、取締役会を置かず、取締役1人〜数人と株主総会だけの構成にすることが一般的です。この場合、会社の重要な事項の多くは株主総会で決めることになり、株式(議決権)を持つ人が会社を動かす構造がより直接的になります。
一方、家族の複数人が役員として関わり、日常の判断を役員の合議で行いたい場合は、取締役会の設置も選択肢です。ただし、取締役会を置くと、譲渡承認や招集手続などのルールも変わるため、定款全体を整合させる必要があります。
4. 役員の任期
取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです。非公開会社(監査等委員会設置会社などを除く)は、定款によって選任後10年以内まで伸ばすことができます(同第332条)。
資産管理会社では、役員変更の手間を減らすために10年とすることが多いですが、長い任期には注意点もあります。
- 役員はいつでも株主総会の決議で解任できますが、正当な理由がない解任の場合、会社は損害賠償を求められることがあります(同第339条)
- 家族の関係が変わったときに、任期の長さが役員の入替えの負担になることがある
- 任期が長いと、役員の構成を定期的に見直す機会がなくなりやすい
承継を見据えると、後継者がいつ役員に就くかも定款・任期と一緒に考えたい論点です。たとえば、個人が持つ土地を同族会社の事業に使っている場合、相続した親族が相続税の申告期限に役員であることが、小規模宅地等の特例(特定同族会社事業用宅地等)の要件になります。詳しくは関連記事「小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか」で解説しています。
5. 株主総会の運営と決議要件
定款の変更や売渡請求の決定などの重要事項は、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成。定足数は定款で3分の1以上まで引き下げ可能)で行います(同第309条第2項)。役員の選任・解任は普通決議ですが、定足数を定款で引き下げる場合も3分の1を下回ることはできません(同第341条)。
家族の株主が増えるほど、総会の開催や決議の成立が難しくなります。次の点を確認しておきます。
- 定足数や決議要件を定款でどう定めているか
- 招集の期間と方法(書面・メール等)
- 株主総会の議事録を毎年きちんと残しているか
6. 株主ごとの権利の設計
非公開会社では、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について、株主ごとに異なる取扱いを定款で定めることができます(同第109条第2項、いわゆる属人的な定め)。また、議決権のない株式や取得条項付株式などの種類株式を発行する方法もあります。
たとえば、議決権は後継者に集め、配当を受ける権利は他の家族にも残す、といった設計が考えられます。具体的な方法の比較は、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で解説しています。
定款チェックリスト
| 項目 | 確認すること | 見直しのきっかけ |
|---|---|---|
| 目的 | 現在と将来の事業(賃貸・管理・売買など)が含まれているか | 事業内容の追加、物件の取得方針の変更 |
| 株式の譲渡制限 | 承認機関は誰か、承認請求の方式を定めているか | 株主が増える、取締役会の設置・廃止 |
| 相続人等に対する売渡請求 | 定めの有無と、オーナー自身の相続時の影響 | 株式の承継開始、少数株主の存在 |
| 機関設計 | 取締役会・監査役の有無、取締役の人数 | 家族役員の追加、意思決定の方法の変更 |
| 役員の任期 | 任期の年数と、次の改選時期 | 後継者の役員就任、家族関係の変化 |
| 株主総会 | 招集期間・方法、定足数・決議要件 | 株主の分散、遠方に住む株主の発生 |
| 株主ごとの権利 | 属人的な定め・種類株式の有無と内容 | 議決権と財産権を分けたいとき |
| 事業年度 | 決算期が資金計画・申告の負担と合っているか | 賃料の入金時期、繁忙期との関係 |
※AEGISが資産管理会社の定款確認のために整理したものです。
定款を変更するには、株主総会の特別決議が必要です。登記事項に関わる変更であれば、変更登記も必要になります。定款を変えるだけでなく、実際の運営(総会の開催、議事録、株主名簿)が定款どおりに行われているかもあわせて確認することが大切です。
AEGISの視点
資産管理会社は、事業会社のように取引先や従業員がいない分、会社のルールが意識されにくい会社です。しかし、AEGISは、資産管理会社こそ定款が重要になると考えています。会社の中にある不動産や資金は、最終的には株式を通じて家族の誰かが支配するものだからです。
定款は、オーナーが元気なうちに、家族の将来の関係を想定して書いておくことができる数少ない道具です。誰が株主になり、誰が役員を務め、意見が割れたときにどう決めるのか。こうした問いへの答えを、遺言やファミリーとしての話し合いと組み合わせて定款に落とし込んでおくことで、相続の後も会社が家族の資産を守る器として機能し続けると考えています。
資産管理会社をいつ・何のために設立するかの全体像は、「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。
まとめ
- 資産管理会社の定款は、株式の相続・分散、オーナーの判断能力の低下、家族間の対立に備えるためのルールです。
- 譲渡制限では、承認機関と、2週間以内に通知しないと承認したとみなされる点に注意します。
- 相続人等に対する売渡請求は、株式の分散を防ぐ一方で、オーナー自身の相続時に使われるリスクもあります。
- 機関設計と役員の任期は、後継者がいつ役員に就くかとあわせて検討します。
- 定款の変更は株主総会の特別決議で行い、実際の運営が定款どおりかも確認します。具体的な定め方は会社と家族の状況によって異なります。
よくある質問
Q. 家族だけの資産管理会社でも、株式の譲渡制限は必要ですか?
多くの非公開会社と同様に、定めておくのが一般的です。家族だけの会社でも、相続や離婚、資金の必要などをきっかけに、株式が家族以外の人に渡ろうとする場面はあり得ます。譲渡制限があれば、会社の承認なしに新しい株主が加わることを防ぐことができます。
Q. 相続人等に対する売渡請求の定めは、入れておいたほうがよいですか?
一概には言えません。株式の分散を防ぐ手段になる一方、オーナー自身の相続の際に、後継者が相続した株式に対して他の株主の決議で売渡請求がされ得るリスクがあります。現在の株主構成、誰に先に相続が起きる可能性が高いか、会社の分配可能額などを踏まえて判断します。
Q. 取締役の任期は10年にしておけば安心ですか?
役員変更の手続きは減りますが、任期途中で役員を交代させたいときに、正当な理由がない解任であれば損害賠償を求められることがあります。家族の状況や後継者の就任時期を考え、必ずしも最長にする必要はありません。
Q. オーナーが認知症になった場合、定款で備えられることはありますか?
オーナーが株主総会で議決権を行使できなくなると、会社の重要な意思決定が止まるおそれがあります。定款だけで解決できるわけではありませんが、役員の構成や株主総会の運営ルールを整えておくことに加え、任意後見や民事信託(いわゆる家族信託)による議決権の行使者の準備とあわせて検討することが重要です。
Q. 定款を変更するには、どのような手続きが必要ですか?
株主総会の特別決議が必要です。変更する内容が登記事項に関わる場合は、変更登記も必要になります。変更前に、現行の定款・株主名簿・登記事項が一致しているかを確認しておくと、手続きが円滑に進みます。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- e-Gov法令検索「会社法」(平成17年法律第86号)第107条、第109条、第138条〜第140条、第145条、第174条〜第177条、第299条、第309条、第326条、第332条、第339条、第341条(施行日2026-08-12版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
確認日:2026-10-09
書籍
- 『非公開会社における少数株主対策の実務 会社法から税務上の留意点まで』永吉啓一郎 著、清文社、P.62-79、P.138-149
- 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、P.200-202、P.228-229
