カテゴリー: 事業承継

会社を誰に、どのように引き継ぐか。経営権、株式、資金、ご家族への配慮を整理するための解説をまとめています。

  • 資産管理会社の株式と経営権の承継|会社の中身だけでなく「会社そのもの」をどう引き継ぐか

    資産管理会社の株式と経営権の承継|会社の中身だけでなく「会社そのもの」をどう引き継ぐか

    資産管理会社をつくるとき、多くのオーナーは「どの不動産を会社に入れるか」「会社でどう収益を受けるか」に関心を向けます。しかし、会社をつくった瞬間から、オーナーが次の世代に引き継ぐ財産は、個々の不動産から会社の株式と、会社を動かす権限(経営権)へと置き換わっています。

    資産管理会社の承継で問われるのは、会社が持つ不動産をどう評価するかだけではありません。誰が株式を持ち、誰が議決権を行使し、誰が役員として物件の管理や借入れの判断を担うのか——「会社そのもの」をどう引き継ぐかが本当の論点です。

    この記事では、資産管理会社の承継を「株式(財産)」「議決権(支配)」「役員と実務(経営)」の3つに分けて、確認すべきポイントを整理します。

    資産管理会社の承継で引き継ぐもの

    資産管理会社の承継で次の世代に渡すものを分解すると、次のようになります。

    引き継ぐもの内容主な論点
    株式(財産)会社の財産価値に対する持分株式の評価額、贈与・相続の税負担、納税資金
    議決権(支配)株主総会で会社の重要事項を決める権利株式の分散、議決権の集約、家族間の意見対立
    役員の地位(経営)代表者・取締役として会社を運営する立場誰が代表者になるか、交代の時期
    管理の実務物件管理、入居者対応、金融機関・管理会社との関係、会計情報の引継ぎ、担い手の確保
    オーナーとの関係会社への貸付金、会社に貸している土地、保証貸付金の相続、土地の貸し借りの継続

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。

    事業会社の事業承継と同じく、資産管理会社でも「株式を渡すこと」と「経営を任せること」は別の問題です。株式だけを移しても、物件の管理や借入れの判断を担える人がいなければ、会社は機能しません。

    株式(財産):資産管理会社の株式はどう評価されるか

    取引相場のない株式としての評価

    資産管理会社の株式は、通常、上場していない「取引相場のない株式」として、相続税・贈与税の計算上評価されます。国税庁によれば、取引相場のない株式は、株式を取得した人の立場や会社の規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などにより評価します(国税庁 No.4638)。

    なお、国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しており、資産管理会社については純資産価額方式で評価することを前提に、その判定方法(土地保有特定会社と株式等保有特定会社の整理統合など)が論点とされています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。

    「特定の評価会社」に該当しやすい

    資産管理会社は、総資産の多くを土地や株式で保有していることが多いため、相続税の評価上、「特定の評価会社」に該当する場合があります。財産評価基本通達では、次のような会社が定められています。

    区分判定の基準(総資産価額に占める割合)
    株式等保有特定会社株式・出資・新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上
    土地保有特定会社(大会社など)土地等の価額の合計額の割合が70%以上
    土地保有特定会社(中会社など)土地等の価額の合計額の割合が90%以上

    ※土地保有特定会社の判定では、小会社であっても総資産価額が一定以上の会社は、大会社・中会社と同じ基準で判定されます(財産評価基本通達189)。

    特定の評価会社に該当すると、原則として純資産価額方式により評価されるなど、一般の会社とは異なる方法で評価されます。純資産価額方式は、会社が持つ資産を相続税評価額で評価し直し、負債などを差し引いて株価を求める方法です。つまり、会社が持つ不動産の価値や、会社に蓄積された利益が、そのまま株価に反映されやすいということです。

    評価のために資産構成を動かすことには注意

    評価会社の判定に関しては、課税時期の前に合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが特定の評価会社と判定されることを免れるためと認められる場合には、その変動はなかったものとして判定する取扱いがあります(財産評価基本通達189なお書。株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定が対象)。株価を下げることだけを目的にした資産の組替えは、期待した結果にならない可能性があります。

    オーナーとの土地の貸し借りも株価に影響する

    資産管理会社がオーナー個人の土地を借りて建物を所有している場合、会社が持つ借地権を株式の評価上どう扱うかについて、地代の授受の状況や「土地の無償返還に関する届出書」の有無に応じた取扱いがあります。たとえば、相当の地代を支払っている場合や、無償返還の届出をしたうえで地代を支払っている(賃貸借の)場合で、オーナーが会社の同族関係者であるときは、オーナーの土地(貸宅地)が自用地価額の80%で評価される一方、土地の自用地としての価額の20%相当額を借地権の価額として、会社の株式評価上の純資産価額に算入するとされています(国税庁の昭和43年・昭和60年の通達)。土地をオーナー個人に残して建物だけを会社に移したケースでは、オーナー個人の土地の評価と、会社の株式の評価をセットで確認する必要があります。この論点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」でも解説しています。

    非上場株式の評価方法の全体像は、関連記事「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。

    議決権(支配):株式の分散をどう防ぐか

    資産管理会社でも議決権の集約は重要

    株式会社の重要事項は、株主総会で決まります。役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。

    資産管理会社の場合、株主総会や取締役会で決めることには、物件の売却・購入、建替え、多額の借入れ、役員報酬、配当などがあります。相続によって株式が複数の相続人に分かれると、これらの判断がまとまらず、物件の修繕や売却が進まなくなることがあります。不動産の共有を避けるために会社をつくったのに、今度は株式の「共有」状態で同じ問題が起こる——資産管理会社の承継で最も避けたい事態の一つです。

    分散を防ぐための主な手段

    議決権の分散を防ぐ手段としては、次のようなものが検討されます。

    • 生前に後継者へ株式を移転する:贈与や売買により、後継者が議決権の過半数(または3分の2以上)を確保できるようにする
    • 遺言で承継先を定める:株式を誰に相続させるかを明確にしておく
    • 定款を整える:株式の譲渡制限や、相続人等に対する売渡請求の定めを置く
    • 種類株式などを活用する:議決権と財産権を分けて設計する(議決権のない株式を後継者以外に渡す など)
    • 株主間の取り決めを結ぶ:家族間で議決権の行使や株式の譲渡について合意しておく

    どの手段にも、税負担、他の相続人の遺留分、手続きの負担などの論点があり、組み合わせて検討するのが一般的です。議決権と配当を分けて設計する考え方は、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で解説しています。

    設立時の株主構成が出発点

    資産管理会社の承継で見落とされがちなのは、設立時にどの株主構成でスタートしたかが、その後の承継の難易度を大きく左右することです。オーナーが全株を持つ形で設立すれば、会社に蓄積された財産はオーナーの株式の価値として相続財産に反映されます。後継者が設立時から株式を持つ形にすれば、その後の財産の増加は後継者の株式に帰属します。

    ただし、どちらが適しているかは、オーナー自身の生活資金、家族間の公平、会社の意思決定の安定性などによって異なります。家族内で意見の対立が生じても会社の運営が止まらないよう、議決権の配分や行使の方法をあらかじめ検討しておくことが重要です。

    役員と実務(経営):誰が会社を動かすか

    代表者の交代と株式の移転は別に設計できる

    事業会社と同様に、代表者を交代する時期と株式を移転する時期は、必ずしも同じである必要はありません。たとえば、後継者を早めに取締役に就任させて実務に関わらせ、株式は段階的に移していく設計も考えられます。

    管理実務の「見える化」

    資産管理会社では、オーナーが一人で物件の情報や関係者とのやり取りを抱えていることが少なくありません。承継に備えて、次のような情報を一覧にしておくことが大切です。

    • 保有物件ごとの所在地、取得時期、借入金、担保、賃貸借契約、管理会社
    • 修繕の履歴と今後の修繕計画
    • 金融機関、税理士、管理会社など関係者の連絡先と担当範囲
    • 会社とオーナー個人の間の貸付金・借入金、土地の賃貸借契約、届出書類の控え
    • 会社の定款、株主名簿、議事録

    これらが整理されていないと、株式を承継しても、後継者が会社を運営できない状態に陥ることがあります。

    オーナー個人との関係も引き継ぐ

    オーナーが会社に資金を貸し付けている場合、その貸付金はオーナーの相続財産になり得ます。また、オーナー個人の土地を会社が借りている場合は、土地を相続する人と会社の株式を相続する人が異なると、地代や土地の利用をめぐって利害が対立する可能性があります。土地を相続する人と、株式を相続する人の組み合わせも、承継の設計の一部として考えておく必要があります。

    実務上注意したいポイント

    事業承継税制の対象になるとは限らない

    非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する法人版事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出期限が令和9年(2027年)9月30日とされています(中小企業庁)。ただし、この制度には対象となる会社の要件があり、現預金などの「特定資産」が帳簿価額で総資産の70%以上を占める資産保有型会社や、特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上を占める資産運用型会社は、3年以上継続して商品の販売等の業務を行い、親族外の常時使用従業員が5人以上いて、その従業員が勤務する事務所等を所有または賃借しているといった事業実態の要件を満たさない限り、対象となりません(租税特別措置法70条の7・70条の7の5、同法施行令40条の8・40条の8の5)。資産管理会社の株式について制度の利用を考える場合は、要件に該当するかを個別に確認する必要があります。

    子どもごとに会社を分けるという選択肢

    後継者が複数いる場合、物件を複数の資産管理会社に分け、それぞれの会社を別々の子に承継させる方法が検討されることもあります。一方で、会社の数が増えるほど維持の手間は増え、どの会社が何を持っているのかが分かりにくくなります。複数の会社がある場合には、機能を整理して集約する選択肢もあります。

    株価の上昇を前提に計画する

    資産管理会社は、収益が会社に蓄積されるほど株価が上がりやすい構造です。株式の移転を先送りにすると、移転時の税負担が大きくなる可能性があります。会社に利益を残すのか、報酬や配当として個人に移すのかという配分とあわせて、株式移転の時期を考えることが大切です。

    AEGISの視点

    資産管理会社は「つくること」よりも「引き継ぐこと」のほうが難しい——AEGISはそう考えています。

    会社をつくることで、不動産の共有や細分化を避け、管理を一元化することができます。しかしその効果は、株式と議決権が次の世代にうまく引き継がれて初めて実現します。株式が分散し、意思決定ができなくなれば、会社は不動産を守る器ではなく、家族の対立の舞台になってしまいます。

    そのためAEGISでは、資産管理会社を「家族が共有する財産を、ルールに基づいて運営するための仕組み」として捉え、株式の評価と税負担だけでなく、誰が会社を支配し、誰が実務を担い、家族がどのように関わるのかを一体で設計することを重視しています。会社の定款や株主構成は、いわば家族の財産に関する「ルールブック」です。そのルールを、オーナーの意思が明確なうちに整えておくことが、資産管理会社の承継の出発点です。

    資産管理会社の設立から承継までの全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継の考え方は「自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継」で解説しています。

    株式の評価や承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社を設立すると、次の世代に引き継ぐのは不動産ではなく、会社の株式・議決権・役員の地位・管理の実務です。
    • 資産管理会社は土地保有特定会社や株式等保有特定会社に該当しやすく、会社の資産や蓄積された利益が株価に反映されやすい構造です。
    • 株式が相続人に分散すると、物件の売却や借入れなどの意思決定が難しくなります。生前の移転、遺言、定款、種類株式などを組み合わせて議決権の集約を検討します。
    • 代表者の交代と株式の移転は別々に設計でき、管理実務の情報を一覧にしておくことが承継の前提になります。
    • 土地を相続する人と株式を相続する人の組み合わせ、オーナーの貸付金の扱いも、承継の設計に含める必要があります。

    具体的な評価額や承継の方法は、会社の資産構成や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社の株式は、どのように評価されますか?

    相続税・贈与税の計算上は、通常、取引相場のない株式として評価されます。資産管理会社は土地や株式の保有割合が高いことが多く、土地保有特定会社や株式等保有特定会社に該当すると、原則として純資産価額方式により評価されるなど、一般の会社とは異なる方法になります。

    Q. 土地保有特定会社とは何ですか?

    財産評価基本通達で定められた特定の評価会社の一つで、総資産価額に占める土地等の価額の割合が一定以上の会社をいいます。大会社などでは70%以上、中会社などでは90%以上が基準とされ、小会社でも総資産価額が一定以上であれば判定の対象となります。

    Q. 資産管理会社の株式を、複数の子どもに均等に相続させてもよいですか?

    可能ですが、株式が分散すると、物件の売却や借入れ、役員の選任などの意思決定が難しくなることがあります。均等に分ける場合には、議決権のない株式の活用や株主間の取り決めなど、意思決定の方法をあわせて設計しておくことが望まれます。

    Q. 後継者に役員を任せれば、株式はまだ移さなくてもよいですか?

    代表者の交代と株式の移転は別々に設計できます。ただし、株式をオーナーが持ち続けると、会社に利益が蓄積されるほど株価が上がり、将来の移転時の税負担が大きくなる可能性があります。経営の移行と株式の移転の時期を、それぞれ計画的に決めることが大切です。

    Q. 資産管理会社でも事業承継税制は使えますか?

    一概には言えません。法人版事業承継税制には対象となる会社の要件があり、資産の保有や運用が中心の会社は、一定の場合に対象とならない仕組みがあります。制度の利用を検討する場合は、特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)も踏まえ、要件を個別に確認する必要があります。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和8年版 非上場株式の評価の仕方と記載例』松本好正 著、一般財団法人大蔵財務協会、P.194-205
  • M&Aの前に整えたい会計・契約・組織|買い手の調査に「説明できる会社」にするための準備

    M&Aの前に整えたい会計・契約・組織|買い手の調査に「説明できる会社」にするための準備

    M&A(会社売却)の交渉が進むと、買い手は会社の中身を詳しく調べます。これをデュー・ディリジェンス(以下DD)といいます。DDでは、決算書や税務申告書だけでなく、株主名簿、取引先との契約書、就業規則、議事録など、多くの資料の提出と質問への回答が短期間に求められます。

    結論から言えば、M&Aの前に整えるべきことは、会社の実態を、資料と言葉で「説明できる状態」にしておくことです。問題がまったくない会社はありません。大切なのは、問題を事前に把握し、買い手に説明できるよう準備しておくことです。この記事では、買い手から確認される事項を「会計」「契約」「組織」の3つに分け、売り手として何を整えておけばよいかを解説します。

    買い手は何を確認するのか

    DDの目的

    買い手にとってDDは、買収してよいか、どのような条件なら買収できるかを判断するための調査です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月改訂)でも、DDは譲り受け側が対象企業のリスクを精査するために行うものとされ、財務、法務のほか、ビジネス、税務、人事労務などの分野が挙げられています。

    DDで見つかった事項は、次のような形で条件に反映されます。

    • 価格の引下げ
    • 取引の方法(株式譲渡か事業譲渡かなど)の変更
    • クロージングまでに解消すべき条件の追加
    • 最終契約での表明保証や補償の追加
    • 取引そのものの見送り

    つまり、DDで初めて見つかった問題は、売り手にとって交渉上の不利につながりやすいのです。

    売り手が準備すべき理由

    DDは、一般に数週間から数か月程度の短い期間に集中して行われます。日常業務を続けながら、限られた人員で膨大な資料要求に対応するのは、想像以上に負担の大きい作業です。

    そのため、売り手側でも事前に自社を点検し、強みとリスクを把握しておくことが有効です。これは売り手側が行う自己点検という意味で、セラーズDD(売り手DD)と呼ばれることもあります。中小M&Aガイドラインでも、譲り渡し側の事前の取組みとして、株式や事業用資産の整理・集約といった「見える化」「磨き上げ」が挙げられています。

    会計:数字の「実態」を説明できるか

    買い手は決算書の数字をそのまま信用するのではなく、資産・負債の実際の価値と、会社の本来の収益力を確かめようとします。

    貸借対照表:資産と負債の実態

    • 売掛金:長期間回収されていないもの、取引先の経営状況から回収が見込みにくいものがないか
    • 在庫:長く動いていない在庫、陳腐化した在庫が帳簿価額のまま残っていないか
    • 不動産:帳簿価額と時価の乖離、事業に使っていない土地・建物の有無
    • 退職金:従業員の退職給付や役員退職慰労金について、必要な引当てや規程があるか
    • 簿外の負債:未払いの残業代、保証債務、係争中の案件など、帳簿に載っていない負担がないか

    これらを時価や回収可能性で見直した貸借対照表は「実態貸借対照表」と呼ばれ、価格の議論の土台になります。売り手側で先に把握しておけば、買い手の指摘に慌てることがなくなります。

    損益計算書:本来の収益力

    買い手は、一時的な損益や、オーナー経営に特有の費用を除いた「正常な収益力」を見ようとします。

    • 単発の大口取引や、災害・補助金などの一時的な要因
    • オーナー個人に関係する費用(車両、保険、交際費など)が含まれていないか
    • 役員報酬の水準が、売却後の経営体制と比べて妥当か
    • 関係会社やオーナー一族との取引条件が、通常の取引と比べて妥当か

    オーナー関連の費用を整理しておくと、本来の収益力が見えやすくなり、価格の議論も建設的になります。

    税務:過去の申告を説明できるか

    株式譲渡の場合、会社の過去の税務上の問題は、売却後もそのまま会社に残ります。そのため買い手は、過去数期分の税務申告の内容や、税務調査の履歴を確認します。

    • 過去の税務調査で指摘を受けた事項と、その後の対応
    • 役員給与、オーナー一族との取引、会社資産の私的利用など、税務上の論点になりやすい事項
    • 繰越欠損金の有無と発生の経緯
    • 消費税、源泉所得税など、法人税以外の税目の処理

    事業計画:将来を説明できるか

    買い手が最終的に判断するのは、「この投資を回収できるか」です。過去の決算書しかないと、買い手は将来を過去の延長、あるいはそれ以下として見積もりがちです。今後3〜5年程度の事業計画を、前提とともに示せるようにしておくと、将来についての建設的な議論がしやすくなります。

    契約:引き継がれる約束事を把握しているか

    株式:取引の「対象そのもの」

    株式譲渡では、株式そのものが取引の対象です。株式の権利関係に疑問があると、取引自体が成り立たなくなることもあります。

    • 株主名簿:作成・更新されているか、実際の株主と一致しているか
    • 株主の変遷:設立から現在までの相続・売買・贈与などを、書類で裏付けられるか
    • 名義株:名義上の株主と実際の出資者が異なる株式がないか
    • 株券:株券を発行する会社か、発行している場合に株券がどこにあるか(株券発行会社では、株式の譲渡は株券を交付しなければ効力を生じません〔会社法128条1項〕)
    • 税務申告書との整合:法人税申告書に記載された株主の情報と、株主名簿や実態が一致しているか

    亡くなった株主の名義のままになっている、相続人の間で株式の帰属が決まっていない、といった問題は、売却の検討をきっかけに表面化することが少なくありません。親族間の話し合いが必要になる場合もあるため、早めの確認が重要です。

    取引先との契約

    • チェンジ・オブ・コントロール条項:株主の変更や経営権の移動があった場合に、相手方への通知・承諾が必要になる、あるいは契約を解除できるとする定めがないか
    • 契約期間・更新・解除の条件:主要な契約がいつまで続くのか
    • 競業避止・独占条項:M&A後の事業展開を制約する定めがないか
    • 口頭だけの取引:契約書がないまま継続している重要な取引がないか

    チェンジ・オブ・コントロール条項は、買い手のDDで初めて指摘されると対応が後手に回ります。主要な契約については、売り手側で事前に条項を確認しておきたいところです。

    不動産・借入れ・許認可

    • 不動産:会社が使う土地・建物は、会社所有か、オーナー個人所有か、第三者からの賃借か。オーナー個人との間に賃貸借契約書があるか
    • 借入れ:金融機関との契約に、財務内容に関する制限条項(コベナンツ)や、株主変更に関する定めがないか。経営者保証の有無
    • 許認可:事業に必要な許認可が、株主や代表者の変更後も維持できるか
    • 知的財産:商標や特許が会社名義で登録されているか

    組織:会社の運営ルールが機能しているか

    意思決定の記録

    取締役会や株主総会の議事録が作成・保管されているかは、法務DDで必ず確認される事項です。重要な取引(オーナーとの不動産売買や貸借など)について、必要な機関決定とその記録があるかも見られます。意思決定の記録は、税務上の説明資料としても重要です。

    労務管理

    近年、労務に関する事項は、DDで特に重視される分野の一つになっています。

    • 労働時間を客観的に把握しているか
    • 残業代を適正に計算・支払っているか(端数の切捨てや固定残業代の運用など)
    • 就業規則や各種規程が実態と合っているか
    • 社会保険・労働保険の手続きが適正か
    • 有給休暇の取得状況

    中小企業では許容されてきた運用が、買い手の基準では問題になる場合があります。未払いの残業代などは、簿外の負債として価格に影響することもあります。

    人材と組織体制

    • 社長以外のキーパーソンは誰か、売却後も残る見込みがあるか
    • 組織図と権限の分担が明確か
    • 経理を担う人材がいるか、DDの際に協力を得られるか

    関係会社

    本業との関係が薄い関連会社や、オーナー一族が持つ会社との取引がある場合、それらを売却の対象に含めるのか、事前に整理するのかを決めておく必要があります。

    準備の進め方:一覧化から始める

    ここまでの内容を、売り手側の準備チェック表としてまとめると次のようになります。

    領域準備しておきたい資料よく論点になる事項
    会計決算書・勘定科目内訳・試算表(過去数期分)、固定資産台帳、在庫の明細回収困難な売掛金、滞留在庫、不動産の含み損益、退職金の引当て
    税務法人税・消費税等の申告書(過去数期分)、税務調査の記録役員給与、オーナー関連取引、繰越欠損金
    株式株主名簿、定款、株券の発行状況、株式の異動に関する書類名義株、相続未了の株式、所在不明の株主
    契約主要取引先との契約書、不動産の賃貸借契約、借入契約、リース契約チェンジ・オブ・コントロール条項、オーナー個人との賃貸借、経営者保証
    組織議事録、就業規則・各種規程、組織図、労働時間の記録未払残業代、規程と運用の乖離、キーパーソンの離職
    将来事業計画(3〜5年程度)、事業の強みを説明する資料計画の前提の妥当性、社長依存の度合い

    ※上記は一般的な例です。業種や会社の状況によって、確認される資料や論点は異なります。

    準備は、次の順で進めると効率的です。

    1. 一覧化:上の表を手掛かりに、自社にある資料とない資料を洗い出す
    2. 優先順位付け:取引の成否に関わるもの(株式の権利関係など)から着手する
    3. 説明の準備:すぐに解消できない問題は、経緯と対応方針を説明できるようにしておく
    4. 更新の仕組み化:決算ごとに資料を更新し、いつでも出せる状態を保つ

    実務上注意したいポイント

    直前の「取り繕い」は逆効果になり得る

    売却の直前に経費を絞って利益を大きく見せる、問題を伏せて交渉を進める、といった対応は、DDや売却後の調査で判明した場合、信頼を損ない、交渉の打ち切りや損害賠償の問題につながるおそれがあります。最終契約では、売り手が会社の状況について一定の事項が真実であることを表明し、違反があった場合に補償する「表明保証」の条項が設けられるのが一般的です。分かっている問題は、早めに把握し、開示の仕方を含めて準備しておくことが望まれます。

    秘密の管理と協力者の確保

    DDの対応には、経理や総務の担当者の協力が欠かせません。一方で、売却の検討が広く知られると、従業員や取引先の不安を招くことがあります。誰に、いつ、どこまで伝えるかを、あらかじめ考えておきましょう。

    取引の方法によって確認される範囲が変わる

    株式譲渡では会社の権利義務がそのまま引き継がれるため、買い手は会社全体を調査します。事業譲渡では、引き継ぐ資産・負債や契約を個別に選ぶため、確認の焦点が変わります。方法の違いについては、関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」で解説しています。

    AEGISの視点

    M&Aの準備として会計・契約・組織を整える作業は、言い換えれば、会社の「ガバナンスの棚卸し」です。株主名簿を整え、会社と個人の取引を契約書で明確にし、意思決定を記録に残す。これらは、売却のためだけでなく、親族や社内への承継、金融機関との関係、そして相続のときにも、同じように求められるものです。

    とくにオーナー経営の会社では、会社と個人、会社と関係会社の間に、長年の経緯で生まれた取引や資産の関係が積み重なっています。それらを一つずつ説明できる形にしていくと、どの資産を会社に残し、どの資産を個人や資産管理会社で持つべきかという、オーナー家全体の所有設計の論点が見えてきます。AEGISは、M&Aの準備を、事業と資産と承継を同時に見直す機会として捉えることを大切にしています。

    会社売却の準備をいつから、どのような順で進めるかの全体像は、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。また、買い手の立場から見た確認事項は「会社を買う前に確認したいリスク」で整理しています。

    まとめ

    • M&Aでは、買い手が財務・税務・法務・労務などをDDで調査し、その結果が価格や条件に反映されます。
    • 売り手として整えるべきことは、会社の実態を資料と言葉で説明できる状態にしておくことです。
    • 会計では実態の資産・負債と本来の収益力、契約では株式の権利関係と主要な契約条項、組織では意思決定の記録と労務管理が主な論点です。
    • 準備は、一覧化・優先順位付け・説明の準備・更新の仕組み化の順で進めると効率的です。
    • 問題を隠すのではなく、事前に把握して説明できるようにしておくことが、交渉を円滑にします。

    どの事項が自社にとって重要かは、業種や会社の状況などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. DDではどのくらいの資料を求められますか?

    案件や買い手によって異なりますが、決算書・税務申告書・勘定科目の明細、株主名簿や定款、主要な契約書、議事録、就業規則など、会社の財務・法務・労務の全般にわたる資料が求められるのが一般的です。資料ごとに優先順位と提出期限を買い手と確認しながら進めると、対応しやすくなります。

    Q. 名義株があると、M&Aはできないのですか?

    直ちにできなくなるわけではありませんが、誰が真の株主かを明確にしないまま株式を譲渡すると、後に権利をめぐる争いが生じるおそれがあります。そのため、買い手は名義株の整理を求めるのが通常です。経緯の確認や関係者との合意、税務上の取扱いの検討が必要になるため、早めに着手することが望まれます。

    Q. 売り手が自分で事前調査(セラーズDD)をする必要はありますか?

    必須ではありませんが、自社の問題点を先に把握できれば、解消できるものは事前に解消し、解消できないものは説明の準備ができます。買い手のDDで初めて問題を指摘されて価格を引き下げられる事態を避けるためにも、主要な論点だけでも事前に点検しておく価値はあります。

    Q. チェンジ・オブ・コントロール条項がある契約は、M&Aの障害になりますか?

    条項の内容によって影響は異なります。事後の通知で足りるものから、事前の承諾が必要なもの、契約解除の理由になり得るものまでさまざまです。重要な取引先との契約にこうした条項がある場合は、その内容と、相手方への伝え方・タイミングを事前に検討しておく必要があります。

    Q. 労務の問題が見つかった場合、どうなりますか?

    未払いの残業代などが見つかった場合、金額を見積もって価格に反映したり、クロージングまでの是正を条件としたり、表明保証の対象にしたりといった対応がとられるのが一般的です。事前に労働時間の管理や賃金計算の方法を点検し、必要に応じて是正しておくことが望まれます。

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    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産設計までを整理します。

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  • M&A後に売り手オーナーが担う役割と条件|引継ぎの期間・立場・報酬とアーンアウトをどう考えるか

    M&A後に売り手オーナーが担う役割と条件|引継ぎの期間・立場・報酬とアーンアウトをどう考えるか

    会社の売却交渉が進むと、買い手から「売却後もしばらくは会社に残ってほしい」と求められることがよくあります。取引先や従業員との関係、社長にしか分からないノウハウなど、オーナーの存在そのものが会社の価値の一部になっているからです。

    結論から言えば、売却後に残るかどうかは「善意の協力」ではなく、売却の条件の一部として扱うべきものです。残る期間、立場と権限、報酬、終わり方、競業の制限、退職金や経営者保証との関係、そして業績に応じて代金が追加されるアーンアウトを設けるかどうか。これらを最終契約の前に具体的に決めておくことが、売却後のトラブルを防ぎ、オーナー自身の次の人生設計を守ることにつながります。

    この記事では、クロージング(株式の引渡しと代金の決済)の後に、売り手のオーナーが担う役割と、その条件の考え方を整理します。

    なぜ買い手は「残ってほしい」と言うのか

    中小企業の価値は、経営者個人に強く結び付いていることが少なくありません。買い手が売り手オーナーの関与を求める主な理由は次のとおりです。

    • 取引先との関係:主要な取引先が「社長だから」取引を続けている場合、引継ぎがないと取引が離れるおそれがあります。
    • 従業員の安心:経営者が突然いなくなると、幹部や従業員の退職が続くことがあります。
    • ノウハウの承継:見積り、仕入れ、技術、業界の慣行など、文書化されていない知識の引継ぎが必要です。
    • 許認可の要件:業種によっては、経験や資格のある人が役員として在籍していることが営業の条件になり、買い手側の人材がそろうまで残ってもらう必要が生じます。

    裏返せば、こうした依存の度合いが大きいほど、残る期間は長くなりがちです。売却の数年前から社長依存を減らしておくことの意味は、M&AのPillar記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    残り方の主な形

    売却後の関与の仕方は、大きく次の四つに分けて考えると整理しやすくなります。

    残り方主な立場期間の目安確認したいこと
    ①短期の引継ぎ顧問、嘱託など数か月程度出社頻度、引継ぎの範囲、終了時期
    ②役員として残る取締役、会長など(代表権なしが多い)1年前後〜数年権限の範囲、報酬、退職金の扱い
    ③経営者として続ける代表取締役社長などとして経営を担う数年経営の裁量、業績目標、解任・退任の条件
    ④関与しないなしクロージングと同時に退任引継ぎ資料の整備、取引先への挨拶

    実務書では、引継ぎ期間は数か月から半年程度とする例が多く、実際には出社の頻度が徐々に減り、予定より早く引継ぎを終える例も少なくないとされています。一方、許認可の要件や後任の確保の事情から、1年を超えて役員として残る例もあります。

    どの形を選ぶかは、オーナーの意向(すぐに離れたいのか、見届けたいのか)、年齢と体力、売却後にやりたいこと、そして買い手の体制によって決まります。売り手の希望と買い手の期待がずれたまま契約すると、売却後の関係がこじれやすいため、交渉の早い段階で率直にすり合わせることが大切です。

    契約で決めておきたい条件

    残る場合には、少なくとも次の項目を書面で合意しておくことが望まれます。

    項目決めておくこと
    期間開始日と終了日、延長の有無と決め方
    立場と権限役職、代表権の有無、決裁できる範囲、報告の相手
    業務の内容取引先への同行、技術の指導、後任の育成など具体的な役割
    勤務の形常勤か非常勤か、出社の頻度、勤務場所
    報酬金額、支払方法、業績との連動の有無
    終了の条件途中で終わる場合(双方の事情)の扱い、報酬の精算
    競業避止・秘密保持制限の期間・地域・事業の範囲
    その他経費・車両・執務室の扱い、経営者保証の解除時期

    報酬の考え方

    役員として残る場合は役員報酬、顧問として関与する場合は顧問料として支払われるのが一般的です。顧問料は、契約の内容や関与の実態によって、税務上給与として扱われる場合とそうでない場合があります。報酬の金額は、引継ぎの業務量に見合った水準とし、売却代金の上乗せのような性格にならないよう注意します。

    役員退職金との関係

    売却後に役員として残る場合、その時点で役員退職金を受け取れるかが問題になります。法人税基本通達9-2-32では、分掌変更などで役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同様の事情がある場合には退職給与として扱えるとし、常勤から非常勤への変更や報酬のおおむね50%以上の減少などを例示しています。ただし、代表権がある人や経営上主要な地位を占める人は除かれており、肩書を変えても実態として経営に深く関わっていれば、退職給与と認められないおそれがあります。

    そのため、短期の引継ぎであればクロージング時に退任して退職金を受け取り、顧問として関与する形が、長く役員として残る場合は実際に退任するときに退職金を支給する形が検討されます。後者では、退職金の支給がそれだけ先になり、その間に会社や買い手の経営が悪化すれば支払われないリスクが生じます。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、役員退職慰労金のクロージング後払いは最終契約で留意すべき事項の一つとして取り上げられています。退職金と株式の対価の配分については、関連記事「会社売却と役員退職金の組み合わせ」で詳しく扱っています。

    アーンアウトとは何か

    アーンアウトとは、売却代金を「クロージング時に支払う確定額」と「一定期間後の業績などの条件を達成した場合に追加で支払う額」に分ける取決めです。条件を達成すれば追加の支払いがあり、達成しなければ支払いはありません。

    どんなときに検討されるか

    売り手と買い手の間で、会社の将来の業績の見方が大きく分かれるときに検討されます。たとえば、直近で業績が急に伸びている、立ち上げたばかりの新事業がある、一時的な要因で業績が落ち込んでいる、といった場面です。売り手は見込みどおりの成果が出れば対価を受け取れ、買い手は見込みが外れた場合の払い過ぎを避けられます。

    一方、中小M&Aガイドライン(第3版)は、アーンアウト条項について、デュー・ディリジェンスや当事者間の調整を十分に行ったうえで、確定していない具体的なリスクに対応して設けるべきものであり、調整が不十分な段階で評価額の差を埋める目的などで設けることには慎重であるべき、という趣旨を示しています。

    売り手が確認したい点

    • 何を指標にするか:売上高、利益など、どの数字を、どの時点で、どう計算して判定するかを明確にします。会計方針の変更や、買い手グループからの費用の配賦で数字が動かないよう、計算方法を具体的に定めます。
    • 期間は長すぎないか:期間が長いほど、景気や買い手の経営判断など、売り手が左右できない要因の影響が大きくなります。中小M&Aガイドライン(第3版)では、評価の期間はクロージング後3年以内とされることが多いと説明されており、実務書でも短期間が望ましいとする見方が示されています。
    • 売り手が経営に関与できるか:売り手が業績に責任を持てない立場なのに、業績を条件に代金が決まるのは不合理です。アーンアウトを受け入れるなら、売却後の役割と権限がそれに見合っているかを確認します。
    • 数字を確認する方法:判定の根拠となる資料を売り手が確認できる手段や、意見が分かれた場合の解決方法を決めておきます。
    • 受け取れない可能性を織り込む:追加の支払いは「受け取れたら幸い」と考え、売却後の資金計画には確定額だけを入れておくのが安全です。

    税金の扱いは事前に確認する

    アーンアウトで追加に受け取る代金が、株式の譲渡所得として扱われるのか、別の所得として扱われるのか、またどの年の所得になるのかは、契約の定め方や条件の内容によって判断が分かれ得る論点です。株式の譲渡所得であれば申告分離課税で、税率は所得税15%・住民税5%に復興特別所得税が加わります(国税庁 タックスアンサーNo.1463)が、そのように扱われるかは個別の確認が必要です。条件の設計段階から、税務と法務の専門家に確認しておくことが欠かせません。

    なお、売却後に問題が見つかって代金を返す「価格の事後調整」や、表明保証に基づく補償は、アーンアウトとは逆向きのお金の流れです。その仕組みと税務の違いは、関連記事「表明保証と売主の責任」で扱います。

    競業避止と秘密保持

    株式譲渡の契約では、売り手が一定期間、売却した会社と競合する事業を行わないことを約束する「競業避止義務」が定められるのが一般的です。買い手にとっては、取引先やノウハウが売り手とともに流出しないための重要な約束です。

    売り手として確認したいのは、制限の期間・地域・事業の範囲が、売却後に予定している活動と両立するかです。売却後に新しい事業を始めたい、別の会社の役員に就きたい、といった計画がある場合は、交渉の段階で伝え、範囲を調整しておく必要があります。職業選択の自由との関係で、過度に広く長い制限は効力が争われる可能性もありますが、まずは自分の計画と合う内容で合意することが基本です。秘密保持の義務も、売却後に続く期間と対象を確認しておきます。

    経営者保証の解除

    会社の借入れにオーナーが個人保証をしている場合、売却後にその保証をいつ、どのように外すかは、残り方と並ぶ重要な条件です。中小M&Aガイドライン(第3版)も、譲り渡し側の経営者保証の扱いについて、売却前の会社の信用力・ガバナンスによる解除や、買い手の信用力などを踏まえた解除・買い手側への移行といった考え方を示しています。

    売却後に会社を離れるのに保証だけが残る状態は避けるべきです。保証の一覧を作り、解除の時期と方法を契約に定め、買い手と金融機関の協議の進み具合を確認します。保証を外すための準備の考え方は、関連記事「経営者保証を外して事業承継する方法」も参考になります。

    実務上注意したいポイント

    • 「何でも手伝う」と言わない:善意の約束は期間も範囲も曖昧になりがちです。具体的な役割を書面で決めます。
    • 権限と責任を一致させる:経営の決定権を持たないのに、業績の責任だけを負う形は避けます。
    • 社内外への伝え方をそろえる:誰が新しい経営者なのか、売り手は何を担うのかを、買い手と一緒に従業員や取引先へ伝えます。役割が曖昧だと、社内の指示系統が混乱します。
    • 終わり方を先に決める:期間満了や途中終了の扱いを決めておくと、気持ちよく離れることができます。
    • 具体的な判断は個別事情で異なる:契約の文言によって、税務上・法務上の結論が変わることがあります。

    AEGISの視点

    売却後の引継ぎは、契約書では数行の条項になりがちですが、オーナーにとっては「自分が育てた会社を、どう手放すか」という最後の仕事です。AEGISは、売却後の役割を「会社の価値を買い手に確実に引き渡すための仕上げ」であると同時に、「オーナー自身が次の人生に移るための移行期間」と考えています。

    そのため、残る期間や報酬だけでなく、退職金の受け取り時期、アーンアウトの有無、保証の解除時期といった条件が、売却後の資金計画にどう影響するかを一体で確認することが大切です。確定していない受取額を前提に、寄附や投資、家族への贈与を急いでしまうと、計画が崩れることがあります。売却後の資産の設計は、関連記事「会社売却後の資産をどう守り、どう使うか」で整理しています。

    関わり続ける期間がいつか終わることを前提に、その終わり方まで設計しておく。それが、買い手にも従業員にも、そしてオーナー自身にも納得のいく引継ぎにつながります。

    まとめ

    • 売却後に残るかどうかは、売却の条件の一部として、期間・立場・権限・報酬・終わり方を最終契約の前に決めておくことが大切です。
    • 残り方には、短期の引継ぎ、役員として残る、経営者として続ける、関与しない、といった形があり、オーナーの意向と買い手の体制で決まります。
    • 役員として長く残る場合は、退職金の受け取り時期が先になり、その間の支払いの確実性が論点になります。
    • アーンアウトは評価の差を安易に埋める手段ではなく、指標・期間・確認方法・税務を慎重に設計する必要があります。
    • 競業避止の範囲と経営者保証の解除時期も、売却後の計画と両立するよう確認します。

    よくある質問

    Q. 売却後の引継ぎ期間は、どのくらいが一般的ですか?

    数か月から半年程度とする例が多いとされています。実際には、最初の1か月ほどは頻繁に出社し、その後は徐々に頻度を下げていく形がよく見られます。許認可の要件や後任の事情で、1年を超えて役員として残る場合もあります。

    Q. 売却後に顧問として残る場合、報酬はどう決めればよいですか?

    引継ぎの業務量や関与の頻度に見合った水準で決めるのが基本です。売却代金の一部を報酬に振り替えるような設計は、税務上の扱いが問題になるおそれがあります。期間と業務内容を契約で定め、それに対応する報酬とすることが大切です。

    Q. アーンアウトを提案されました。受け入れるべきですか?

    一概には言えません。業績の見方に差があり、売り手が売却後も経営に関わる場合には合理的なこともありますが、指標や計算方法、期間、数字の確認手段が曖昧だと、受け取れない可能性や紛争の原因になります。追加の代金の税務上の扱いも含めて、専門家とともに条件を確認したうえで判断することが望まれます。

    Q. 競業避止義務は、どの程度の期間が定められますか?

    契約によって異なり、期間・地域・事業の範囲は交渉で決まります。売却後に新しい事業を始める予定がある場合は、その計画と両立する範囲になっているかを、契約前に必ず確認してください。

    Q. 売却後も役員として残る場合、経営者保証はいつ外れますか?

    自動的に外れるわけではありません。保証の解除の時期と方法を株式譲渡の契約で定め、買い手と金融機関の協議の進み具合を確認する必要があります。会社を離れた後に保証だけが残ることのないよう、早い段階から条件として交渉することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、第6章(印刷 p.78-90)、第8章(印刷 p.136-143)、第18章(印刷 p.315-320)
    • 『企業買収の実務プロセス』木俣貴光 著、中央経済社、2010年、第10章(印刷 p.257-258)
  • M&A仲介を使う前に確認したいこと|手数料・契約条項・買い手の見極めで後悔しないために

    M&A仲介を使う前に確認したいこと|手数料・契約条項・買い手の見極めで後悔しないために

    会社の売却を考え始めると、M&Aの仲介会社やアドバイザーから声がかかることが増えます。多くのオーナーにとって会社の売却は一度きりの経験であり、支援してくれる専門家の存在は欠かせません。一方で、契約の内容や手数料が分かりにくい、売却後に買い手が約束を守らないといったトラブルも指摘されてきました。

    結論から言えば、契約前に確認したいのは次の3点です。①その支援機関は誰の立場で動くのか(仲介かFAか)、②手数料と契約条項(専任・テール・直接交渉の制限)は自分にとって合理的か、③紹介される買い手をどう確認するのか。この記事では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」を踏まえ、オーナーが依頼前に確認しておきたいポイントを整理します。特定の事業者の良し悪しではなく、どの支援機関を選ぶ場合にも共通する確認事項として読んでください。

    M&A支援機関の種類:仲介者とFAの違い

    中小M&Aガイドラインでは、M&Aを支援する機関のうち、譲り渡し側(売り手)と譲り受け側(買い手)の双方と契約してマッチングなどを支援する者を「仲介者」、一方とだけ契約して支援する者を「FA(フィナンシャル・アドバイザー)」と区別しています。このほか、インターネット上で売り手と買い手が出会う場を提供するM&Aプラットフォーマーや、公認会計士・税理士・弁護士などの士業等専門家も支援機関として位置付けられています。

    観点仲介者FA
    契約の相手売り手と買い手の双方売り手または買い手の一方
    立場双方に対して中立・公平に接する依頼者の利益のために助言する
    価格や条件への関与一方に有利な助言はしにくい構造依頼者の立場から価格・条件を助言できる
    手数料売り手・買い手の双方から受け取ることが多い依頼者から受け取る
    向いている場面の例小規模で、条件の対立が少ないと見込まれる案件価格や条件の交渉で、自分の側の助言が必要な案件

    ※一般的な整理です。実際の業務範囲は契約ごとに異なります。

    仲介者は双方から依頼を受けるため、構造的に利益相反のおそれがあります。たとえば成功報酬が譲渡額に連動していれば、仲介者には取引を成立させること自体への動機が働きます。ガイドラインでも、仲介者は利益相反のおそれがある事項を事前に説明すること、両当事者に中立・公平に接することが求められています。

    仲介が悪い、FAが良いということではありません。小規模な案件で、相手探しと手続きの調整が中心であれば、仲介の方が費用面で合理的なこともあります。大切なのは、「この人は自分の味方として価格や条件を助言してくれるのか、それとも中立の調整役なのか」を契約前に理解しておくことです。価格や付随条件について自分の側に立った助言がほしい場合は、仲介者とは別に、税理士・弁護士などの専門家に相談できる体制を用意しておくと安心です。

    契約前に確認したい5つのポイント

    仲介契約・FA契約は、売却活動の「入口」で結ぶ契約です。最初に条件を確認せずに署名すると、後から変えることは容易ではありません。AEGISでは、次の5点を契約前の確認項目として整理しています。

    確認項目確認したいこと見落としたときに起こりうること
    1. 手数料の体系着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の有無と金額、算定基準、最低手数料成約しなくても費用が積み上がる。想定より成功報酬が大きい
    2. 専任条項他の支援機関に並行して依頼できるか、契約期間支援に不満があっても長期間ほかに相談できない
    3. テール条項契約終了後に成約した場合も報酬が発生するか、その期間と対象契約を終えた後の成約でも報酬を請求される
    4. 直接交渉の制限相手方と直接やり取りしてよい範囲知り合いの会社との話が進めにくくなる
    5. 業務の範囲企業価値の算定、調査(DD)対応、契約書作成支援の有無必要な支援が別料金・対象外だと後で分かる

    1. 手数料の体系

    手数料には、契約時に払う着手金、毎月の報酬、基本合意などの節目で払う中間金、成約時の成功報酬といった種類があります。ガイドラインでも、これらの手数料の種類や、成功報酬の算定基準(譲渡額・移動総資産額・純資産額など)、最低手数料について、依頼者が確認すべき事項として解説されています。

    成功報酬は、取引金額が大きくなるほど料率が段階的に下がる「レーマン方式」で計算されることが一般的です。ただし、同じレーマン方式でも、何を基準額にするかで金額は大きく変わります。株式の譲渡額を基準にするのか、会社の負債も含めた「移動総資産」を基準にするのかによって、同じ取引でも報酬額が大きく変わることがあります。最低手数料の定めがある場合、小規模な取引では成功報酬が譲渡額に比べて大きな割合になることもあります。

    仲介の場合には、自分が支払う手数料だけでなく、相手方(買い手)が支払う手数料も確認したい事項です。ガイドライン(第3版)では、仲介者は契約前に、依頼者の手数料に加えて相手方の手数料に関する事項(料率、基準額、最低手数料、報酬の発生時期など)も書面で説明すべきとされています。双方からの手数料の総額が、取引の成立や条件に影響しうるためです。なお、M&A支援機関登録制度のホームページでは、登録された仲介者・FAの手数料の算定基準(報酬基準額や最低手数料など)が公表されており、比較の手掛かりになるとガイドラインでも紹介されています。

    2. 専任条項

    専任条項は、契約期間中、ほかの仲介者やFAに依頼することを制限する条項です。支援機関の側から見れば、労力をかけて相手を探す以上、一定期間は任せてほしいという合理性があります。一方で、期間が長すぎると、支援の質に不満があっても乗り換えられません。契約期間の長さ、途中で解約できる条件、セカンド・オピニオンとして他の専門家に相談することまで制限されるのかを確認しておきましょう。ガイドラインは、専任条項を設ける場合でもその対象範囲を可能な限り限定し、合理的な理由がなければセカンド・オピニオンを許容すべきとしたうえで、契約期間は最長でも6か月〜1年以内を目安とし、依頼者が任意に中途解約できる条項も設けることが望ましいとしています。

    3. テール条項

    テール条項は、契約が終了した後でも、一定期間内に成約した場合には報酬を支払うとする条項です。支援機関が紹介した相手と、契約終了後に当事者同士で成約する「抜け駆け」を防ぐ趣旨があります。確認したいのは、期間がどのくらいか、そしてその対象が「その支援機関が実際に紹介した相手」に限られているかです。対象が広く定められていると、契約終了後に自分で見つけた相手との成約にまで報酬が発生するおそれがあります。ガイドラインは、テール期間は最長でも2年〜3年以内を目安とし、対象はその支援機関が関与・接触し、売り手に紹介した相手(少なくとも企業概要書を送って社名を開示した相手)に限定すべきで、候補先リストや匿名の概要書の提示だけにとどまる相手は対象にすべきでないとしています。

    4. 直接交渉の制限

    支援機関を通さずに相手方と直接交渉することを制限する条項です。情報の行き違いを防ぐ意味がありますが、もともと取引のある会社が候補になっている場合などには、制限の範囲が実情に合うかを確認しておく必要があります。ガイドラインは、制限の対象は原則としてその支援機関が関与・接触し紹介した候補先に、制限される交渉はM&Aに関する目的のものに限定し、制限の有効期間は契約が終了するまでに限るべきとしています。

    5. 提供される業務の範囲

    どこまでの業務が手数料に含まれるのかも確認しましょう。たとえば、企業価値の算定、買い手の調査(デュー・ディリジェンス、DD)への対応支援、基本合意書や最終契約書の検討などです。なお、ガイドラインは、最終契約は可能な限り中小M&Aに知見のある弁護士の関与の下で締結することが望ましいとし、当事者間で生じた紛争の解決への関与は非弁行為(弁護士法72条)に該当し得るとしています。仲介者が契約書のひな形を用意することもありますが、売り手として内容を確認する専門家を別に確保しておくことが望まれます。

    買い手(譲り受け側)をどう確認するか

    ガイドライン第3版の改訂では、最終契約の不履行を意図的に生じさせるような不適切な譲り受け側を市場から排除するため、仲介者・FAに求められる対応が追記されました。背景には、売り手の経営者保証を買い手側に移す想定だったのに移されないといった事例が問題になったことがあります。

    売り手として確認しておきたいのは、次のような点です。

    • 買い手の資金力と信用力:買収資金をどう調達するのか、会社の借入れを引き継ぐ力があるのか
    • 経営者保証の扱い:会社の借入れに付いている自分の個人保証を、いつ、どの方法で解除または移行するのか。最終契約の中で、クロージング(取引の実行)の条件にできるか
    • 対価の支払方法:一括払いか、後払い・分割払いか。後払いがある場合、支払われなかったときの手当てはあるか
    • 買収の目的と実績:過去のM&Aの実績、買収した会社のその後、従業員や取引先の扱いの方針
    • 支援機関の確認姿勢:支援機関が買い手について何を調べ、その結果をどこまで説明してくれるのか。ガイドラインでは、仲介者・FAは契約前に、買い手に対して行う調査の概要(財務状況・コンプライアンス・事業実態など)や、不適切な買い手の情報を業界内で共有する仕組みに参加しているかどうかを説明しなければならないとされています

    書類の確認だけでなく、トップ面談の際に買い手の本社や事業所を訪問したり、過去に買い手のグループに入った会社の経営者の話を聞いたりすることも、相手を知る手掛かりになります。経営者保証の解除が確実と言えない相手であれば、条件がよくても立ち止まる判断も必要です。

    M&A支援機関登録制度をどう見るか

    M&A支援機関登録制度は、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤をつくるため、令和3年8月に創設された国の制度です。中小M&Aガイドラインの遵守を宣言するなどした、仲介業務やFA業務を行う者が登録を受けることができます。国の補助金で専門家の活用費用(仲介・FAの手数料)を補助する場合、登録を受けた支援機関の支援に係るものだけが補助対象とされている点も、ガイドラインで説明されています(ガイドラインの記載は令和5年9月現在の補助金についてのもの)。

    登録の有無は、支援機関を選ぶ際の確認事項の一つになります。ただし、登録はガイドラインを守ることを宣言した事業者であることを示すものであり、個々の担当者の経験や、案件に合った支援ができるかを保証するものではありません。登録の確認に加えて、担当者の実績、手数料と業務範囲の説明の分かりやすさ、利益相反についての説明の有無を、自分の目で確かめることが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 複数の支援機関から説明を受けて比べる:手数料の基準額や業務範囲は事業者ごとに大きく異なります。一社だけの説明で決めず、比較してから契約することが望まれます。
    • 「今なら買い手がいる」という言葉で急がない:売却の判断は、会社の準備状況や家族の意向も含めて行うものです。契約を急がされる場合こそ、条件を確認する時間をとりましょう。
    • 売却前の準備は自分の側で進める:会計・契約・株主構成などの整理は、支援機関に任せきりにせず、売り手自身が主体となって進めることが、交渉力にもつながります。準備の具体的な内容は関連記事「M&Aの前に整えたい会計・契約・組織」で解説しています。

    • 最終契約の条項は専門家と確認する:表明保証や補償など、売却後の責任に関わる条項は、売り手側の専門家に確認してもらうことが重要です。詳しくは関連記事「表明保証と売主の責任」で解説しています。

    AEGISの視点

    M&Aの支援機関を選ぶとき、オーナーは「誰が一番高く売ってくれるか」に目が向きがちです。しかしAEGISは、支援機関選びを「売却の判断を、誰と一緒に考えるか」を決めることだと考えています。

    会社の売却は、価格だけで評価できる取引ではありません。手元に残る金額は、手数料や税金、役員退職金との組み合わせによって変わります。経営者保証が確実に外れるか、従業員や取引先が安心できる相手か、売却後にオーナー家の資産をどう管理していくかも、価格と同じくらい重要な判断要素です。仲介者が中立の立場で調整役を担う場合でも、これらを売り手の立場で一緒に検討する相手がいるかどうかで、判断の質は大きく変わります。

    また、M&Aは承継の選択肢の一つにすぎません。親族内承継や従業員承継と比べたうえで、M&Aが自社に合うのかを先に整理しておくと、支援機関の提案を落ち着いて評価できます。承継方法の比較は関連記事「親族内承継・従業員承継・M&Aの比較」で、売却準備の全体像は「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    まとめ

    • M&Aの支援機関には、売り手・買い手の双方と契約する「仲介者」と、一方とだけ契約する「FA」があり、立場と助言の範囲が異なります。
    • 契約前には、手数料の体系(算定基準・最低手数料・相手方の手数料)、専任条項、テール条項、直接交渉の制限、業務の範囲を確認しましょう。
    • 買い手については、資金力、経営者保証の解除・移行の方法、対価の支払方法、買収の目的と実績を確認し、重要な事項は最終契約の条件に組み込むことが大切です。
    • M&A支援機関登録制度への登録は確認事項の一つですが、支援の質を保証するものではありません。
    • 具体的にどの支援機関・契約条件が適しているかは、会社の規模や状況、オーナーの意向によって異なります。

    よくある質問

    Q. 仲介とFAでは、どちらを選ぶべきですか?

    一概には言えません。小規模で条件の対立が少ない案件では、仲介の方が手続きが早く費用も抑えやすいことがあります。一方、価格や付随条件について自分の側に立った助言がほしい場合はFAが向いています。仲介を選ぶ場合も、利益相反についての説明を受けたうえで、必要に応じて別の専門家に相談できる体制を用意しておくと安心です。

    Q. 手数料は何と比べて判断すればよいですか?

    成功報酬の料率だけでなく、算定の基準額(譲渡額か、負債を含む移動総資産か等)、最低手数料、着手金・月額報酬・中間金の有無を合わせて、「実際にいくら払うことになるか」を試算して比べることが大切です。仲介の場合は、相手方が支払う手数料についても説明を受けておきましょう。

    Q. テール条項がある契約は避けた方がよいですか?

    テール条項自体は、支援機関が紹介した相手との成約を保護するための一般的な条項です。問題になるのは、期間が長すぎる場合や、対象がその支援機関の紹介した相手に限定されていない場合です。ガイドラインは、テール期間の目安を最長でも2年〜3年以内としています。期間と対象範囲を確認し、納得できなければ修正を相談しましょう。

    Q. M&A支援機関登録制度に登録している会社なら安心ですか?

    登録は、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言するなどした事業者であることを示すもので、選ぶ際の確認事項の一つです。ただし、担当者の経験や案件への適合性まで保証するものではないため、手数料・業務範囲・利益相反の説明を自分で確かめることが欠かせません。

    Q. 買い手が経営者保証を外してくれるか不安です。どうすればよいですか?

    最終契約の前に、解除や移行の方法(借入れの返済、借換え、買い手側の保証への切替えなど)と時期を具体的に確認し、クロージングの条件や、実行されなかった場合の解除・補償の条項として契約に盛り込むことが考えられます。取引のある金融機関に事前に相談しておくことも有効です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • M&A:会社売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。
    • 事業承継:後継者・経営権・株式・資金・ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&A等を比較しながら承継計画を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、P.2-15、P.285-291
    • 『企業買収の実務プロセス』木俣貴光 著、中央経済社、2010年、第3章(P.45-58)
  • 会社売却を考えるなら何年前から準備するか|「売れる会社」より先に「渡せる会社」を整える

    会社売却を考えるなら何年前から準備するか|「売れる会社」より先に「渡せる会社」を整える

    「いずれは会社を売ることになるかもしれない」——後継者が見つからない、子どもに継ぐ意思がない、あるいは事業をさらに伸ばせる相手に託したい。理由はさまざまですが、こうした考えが頭をよぎった時点で、実は準備はもう始められます。

    結論から言えば、会社売却(M&A)の準備は、相手探しを始める数年前から、段階的に進めるのが現実的です。M&Aの手続きそのものは一定の期間で進みますが、買い手から確認される事項の多くは、短期間では整えられないものだからです。この記事では、売却を「するかどうか」が決まっていない段階から、何を、どの順番で整えておけばよいかを解説します。

    会社売却の準備とは何をすることか

    会社売却の準備というと、「会社の価値を高めること(いわゆる磨き上げ)」を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろんそれも重要ですが、準備の中心はもう一つあります。それは、会社を第三者に引き渡せる状態にしておくことです。

    中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月改訂)でも、譲り渡し側が事前に取り組む事項として、株式の整理・集約や、事業用資産等の整理・集約(経営者個人の資産と会社の資産の区分など)が挙げられています。つまり、価値を上げる取組みと同じくらい、「誰が会社を持っているのか」「何が会社のもので、何が個人のものか」をはっきりさせることが求められているのです。

    AEGISでは、会社売却の準備を次の2つに分けて考えることをおすすめしています。

    準備の種類目的主な内容
    渡せる状態にする準備取引そのものを成立させる株式の整理、会社と個人の資産・取引の区分、契約関係の確認
    評価される状態にする準備条件(価格・付随条件)を納得できるものにする社長依存の解消、数字の信頼性、事業の強みの見える化

    前者が欠けていると、条件がどれだけ良くても取引が進みません。後者が欠けていると、取引は成立しても、価格や条件の面で譲歩を重ねることになりがちです。

    なぜ「数年前」からの準備が必要なのか

    M&Aの手続き自体は短期集中で進む

    M&Aは一般に、相手先の選定、初期的な交渉、基本合意、買い手による調査(デュー・ディリジェンス、以下DD)、最終契約、クロージング(株式や事業の引渡しと対価の支払い)という流れで進みます。中小M&Aガイドラインでも、意思決定から仲介者・FAの選定、バリュエーション、マッチング、交渉、基本合意、DD、最終契約、クロージング、そしてクロージング後(ポストM&A)までの流れが示されています。

    このうちDDは、数週間から数か月程度の短い期間に、大量の資料提出や質問への回答が集中するのが一般的です。その段階で初めて株主名簿の不備や契約書の欠落に気付いても、整える時間はほとんどありません。

    整えるのに時間がかかるものがある

    一方で、買い手が確認する事項の中には、整えるのに年単位の時間を要するものがあります。

    • 社長への依存:営業、技術、取引先との関係、社内の意思決定が社長に集中している場合、それを幹部社員に移していくには時間がかかります。
    • 株式の分散:親族や元役員、取引先などに株式が分散している場合、譲渡の同意を得たり、買い集めたりするには、相手との関係づくりも含めて時間が必要です。
    • 会社と個人の境界:オーナー個人が所有する土地の上に会社の建物がある、会社とオーナーの間に貸付金や借入金がある、といった関係を整理するには、税務上の検討を含めて段階的に進める必要があります。
    • 数字の信頼性:過去数期分の決算や税務申告は、売却直前に作り直すことはできません。日々の経理の積み重ねがそのまま評価の材料になります。

    時間の余裕は交渉力そのもの

    もう一つの理由は、時間の制約がある売り手は交渉で不利になりやすいことです。経営者の健康問題や借入金の返済期限など、「急いで売らなければならない事情」があると、条件面で譲らざるを得ない場面が増えます。準備に時間をかけることは、相手を選び、条件を比べる余地を確保することでもあります。

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」は、事業承継全般について、経営者がおおむね60歳頃には準備に着手することが望ましいとしています。第三者への売却も事業承継の一つの形であり、この考え方はM&Aにもそのまま当てはまります。

    売却の数年前から整えたい5つのこと

    AEGISでは、会社売却の準備を次の5つの領域で整理しています。いずれも、売却するかどうかが決まっていなくても、会社の経営や承継にとってプラスになるものです。

    1. 社長依存:社長がいなくても会社は回るか

    売却後、売り手の社長は一定の引継期間を経て会社を離れるのが一般的です。買い手が最も気にするのは、社長が抜けた後も売上や組織が維持できるかどうかです。

    • 主要な取引先との窓口は、社長以外にもいるか
    • 見積りや価格決定、採用などの権限は、どこまで幹部に委ねられているか
    • 技術や製品開発の中心が社長一人に集中していないか
    • いわゆる「右腕」となる人材がいるか、その人は売却後も残りそうか

    社長が年に一度しか対応しない業務まで含めると、引継ぎには相応の期間が必要です。権限の移譲は、売却の話が具体化する前から少しずつ進めておくのが理想です。

    2. 株式:誰が、何株、どのような経緯で持っているか

    株式譲渡によるM&Aでは、原則として発行済株式のすべてを買い手に渡すことが前提になります。そのため、次の点を早めに確認しておく必要があります。

    • 株主名簿が作成・更新されているか、実際の株主と一致しているか
    • 設立以来の株主の変遷(相続、売買、贈与など)を書類で説明できるか
    • いわゆる名義株(名義上の株主と実際の出資者が異なる株式)がないか
    • 連絡の取れない株主や、売却に反対しそうな株主がいないか
    • 株券を発行する会社かどうか、発行している場合に株券の所在は明らかか

    相続で取得した株式の帰属が親族間で確定していない、といった問題が売却の検討をきっかけに表面化することもあります。株式の整理は、相続対策や事業承継の観点からも早く着手したい項目です。

    3. 会社と個人の資産:境界線を引けているか

    中小企業では、会社とオーナー個人の資産や取引が混在していることが珍しくありません。売却の際には、何を会社とともに渡し、何を個人の手元に残すのかを明確にする必要があります。

    • 会社が使う土地・建物をオーナー個人が所有していないか(その場合、売却後に売るのか、貸し続けるのか)
    • 会社名義の車両、保険、社宅などに、私的な利用が含まれていないか
    • オーナーと会社の間の貸付金・借入金に、契約書や返済条件があるか
    • 本業との関係が薄い関連会社や資産が、会社の中に含まれていないか

    とくに不動産は、オーナーの相続対策や引退後の生活設計とも深く関わります。「売却後も賃料収入として持ち続けたい」のか、「この機会に現金化したい」のかによって、準備の方向が大きく変わります。

    4. 数字:会社の実態を説明できるか

    買い手は、決算書の数字をそのまま受け取るのではなく、資産の実際の価値や、一時的な要因を除いた本来の収益力を確かめようとします。

    • 回収の見込みが低い売掛金や、長く動いていない在庫がないか
    • 役員や従業員の退職金について、必要な引当てや規程が整っているか
    • 社長個人の経費や、関係者との取引が損益に含まれていないか
    • 税務申告に過去の指摘事項や、未処理の論点が残っていないか
    • 将来3〜5年程度の事業計画を、根拠とともに示せるか

    数字の信頼性は、価格だけでなく、買い手が安心して交渉を続けられるかどうかにも影響します。

    5. 契約と組織:引き継がれる約束事は整っているか

    会社が結んでいる契約や、組織の運営ルールも確認の対象になります。

    • 主要な取引先との契約に、株主が変わった場合の通知・承諾・解除などの定め(チェンジ・オブ・コントロール条項)がないか
    • 事業に必要な許認可が、売却後も維持できるか
    • 就業規則や労働時間の管理、残業代の支払いなどが法令に沿って運用されているか
    • 取締役会・株主総会の議事録など、会社の意思決定の記録が残っているか

    会計・契約・組織の準備については、関連記事「M&Aの前に整えたい会計・契約・組織」で詳しく解説しています。

    準備のタイムライン:逆算で考える

    5つの領域を、売却の時期から逆算して並べると、次のようなイメージになります。

    時期の目安主な取組み
    売却を意識し始めた段階(数年前)方針の整理(売却も選択肢に入れるか)、株式と会社・個人の資産の現状把握、社長依存の洗い出し
    準備期(売却の1〜3年前)権限移譲と幹部の育成、株式の整理・集約、会社と個人の資産・取引の整理、経理と契約書類の整備、事業計画の作成
    実行期(相手探し〜クロージング)相手先の選定、基本合意、DDへの対応、最終契約、引継ぎ
    売却後引継期間の対応、受け取った資金や手元に残した不動産の管理、相続・資産承継の再設計

    ※上記は考え方を示すための例です。実際に必要な期間は、会社の規模や業種、株主構成、オーナーの状況によって大きく異なります。

    ここで大切なのは、「売却後」までを計画に含めることです。売却で得た資金や、個人に残した不動産をどう管理し、次の世代にどう引き継ぐかによって、売却の方法やタイミングの最適解が変わることがあるからです。

    実務上注意したいポイント

    方法によって、オーナーの手取りと買い手の負担が変わる

    会社売却には、株式を譲渡する方法と、事業を譲渡する方法などがあります。株式譲渡では対価はオーナー(株主)個人が受け取り、事業譲渡では会社が受け取ります。どちらを選ぶかで、税金のかかり方や、引き継がれる権利義務の範囲が変わります。

    たとえば、個人が非上場株式を譲渡して得た利益は、他の所得と分けて課税される申告分離課税の対象で、税率は所得税15%・住民税5%です(国税庁 タックスアンサーNo.1463。平成25年から令和29年までの各年分は、別途、基準所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります。令和9年分以後は、復興特別所得税が1.1%に引き下げられ、新たに防衛特別所得税〔同1%〕が併せて課されますが、合計の負担率は変わりません〔国税庁 No.1522〕)。ただし、どの方法が適しているかは、税金だけでなく、買い手の意向や引き継ぐリスクの範囲、オーナーが会社に残したい資産によって変わります。詳しくは関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」をご覧ください。

    支援者の立場を確認する

    M&Aの支援者には、売り手と買い手の双方と契約する「仲介者」と、どちらか一方とだけ契約する「ファイナンシャル・アドバイザー(FA)」があります。中小M&Aガイドラインでも、両者の違いと、仲介者に生じ得る利益相反について整理されています。どちらが良い・悪いではなく、誰の立場で助言しているのかを理解したうえで相談することが大切です。

    秘密の管理と、社内の協力者

    売却の検討は、早い段階で社内外に知られると、従業員や取引先の不安を招くことがあります。一方で、DDの段階では経理担当者などの協力が欠かせません。誰に、いつ、どこまで伝えるかも、準備の一部として考えておきたいポイントです。

    経営者保証の扱い

    会社の借入れにオーナーが個人保証をしている場合、売却後にその保証をどう外すかは重要な論点です。中小M&Aガイドラインでも、経営者保証の取扱いについて留意点が示されています。借入れと保証の状況は、早い段階で一覧にしておきましょう。

    AEGISの視点

    会社売却は、オーナーにとって「会社を手放す」決断であると同時に、「会社の外に移った資産を、どう持ち、どう次へつなぐか」を設計し直す出発点でもあります。

    売却の準備を進めると、会社の中に、事業に直接使われていない不動産や金融資産、関連会社の株式などが含まれていることに気付くことがあります。これらを売却の対象に含めるのか、事前に個人や資産管理会社へ移すのかによって、売却の方法や税負担、そして売却後の家族の資産構造が大きく変わります。会社の価値を高めることと、オーナー家の資産全体を整えることは、別々の作業ではありません。

    AEGISは、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として捉え、会社売却をその中に位置付けて考えることを重視しています。売却するかどうかを決める前に、「もし売るとしたら、何を渡し、何を残したいか」を書き出してみること。それが、遠回りに見えて最も確実な準備の第一歩です。

    なお、承継の方法そのものに迷っている場合は、関連記事「事業承継は何から始めるべきか」や「親族内承継・従業員承継・M&Aの比較」も参考になります。

    売却に伴う税務や、売却後の資産構造に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 会社売却の準備には、「渡せる状態にする準備」と「評価される状態にする準備」の2つがあります。
    • M&Aの手続きは短期集中で進む一方、社長依存・株式・会社と個人の資産・数字・契約の整理には年単位の時間がかかることがあります。
    • 売却の時期から逆算し、数年前から段階的に準備を進めるのが現実的です。
    • 売却の方法によって、オーナーの手取りや引き継がれるリスクの範囲が変わります。
    • 売却後の資金や不動産の持ち方まで含めて計画することが、納得のいく売却につながります。

    具体的に何を、どの順で整えるべきかは、会社の状況やオーナーの意向などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 売却するかどうか決めていなくても、準備を始める意味はありますか?

    あります。社長依存の解消、株式の整理、会社と個人の資産の区分、経理や契約書類の整備は、売却だけでなく、親族や社内への承継、さらには日々の経営にとっても役立つ取組みです。売却を選ばなかった場合にも無駄になりにくい準備から始めるのが現実的です。

    Q. 会社売却の手続きには、どのくらいの期間がかかりますか?

    相手先の探索から基本合意、DD、最終契約、クロージングまでの期間は、案件によって大きく異なります。ただ、手続きが始まってから整えられることは限られるため、手続きの期間とは別に、事前の準備期間を確保しておくことが重要です。

    Q. 業績が良いうちに売るべきでしょうか?

    一般に、買い手は将来の収益力や事業の継続性を重視するため、業績が安定している時期のほうが選択肢は広がりやすいと考えられます。ただし、売却の時期は業績だけでなく、オーナーの年齢や健康、家族の意向、後継候補の有無などを総合して判断するものです。

    Q. 会社が使っている土地を個人で持っています。売却前に何をすべきですか?

    まず、売却後もその土地を持ち続けて会社に貸すのか、買い手や会社に売却するのかという方針を考えることが出発点です。現在の賃貸借の契約内容や賃料の水準、借地権の扱いなども確認が必要になります。この判断はオーナーの相続対策や引退後の収入とも関係するため、売却の条件と切り離さずに検討することが望まれます。

    Q. 仲介者とFAは、どちらに相談すべきですか?

    中小M&Aガイドラインでは、仲介者は売り手・買い手の双方と、FAはどちらか一方と契約して支援する者と整理されています。それぞれに特徴があるため、どちらを選ぶかよりも、支援者がどの立場で、どのような報酬体系で関与するのかを確認し、納得したうえで相談することが大切です。

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    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産設計までを整理します。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 事業承継で経営権と株式をどう設計するか|社長交代と株式移転の時期は同じでなくてよいのか

    事業承継で経営権と株式をどう設計するか|社長交代と株式移転の時期は同じでなくてよいのか

    「社長の座は息子に譲ったが、株式はまだ自分が持っている」——中小企業の事業承継では、こうした状態がよく見られます。

    結論から言えば、経営を任せる時期と株式を移す時期は、同じである必要はありません。むしろ、両者をあえてずらし、段階的に移していく設計は合理的な選択肢の一つです。

    ただし、その「ずれ」の期間に誰が最終的な決定権を持ち、何が起きたらどうするかを決めておかないと、後継者の経営は不安定になり、相続のときに思わぬ問題が表面化します。

    この記事では、経営権と株式の関係を整理したうえで、時期の組み合わせ方と、設計の際に確認しておきたい論点を解説します。

    「経営権」と「株式」は何が違うのか

    事業承継の文脈で使われる「経営権」という言葉には、実は二つの意味が混ざっています。

    区分中身誰が決めるか
    経営の地位代表取締役として業務を執行し、日々の経営判断を行う立場取締役会や株主総会で選ばれる
    支配の権限株主総会で議決権を行使し、役員の選任・解任や重要事項を決める力株式(議決権)の保有割合で決まる

    会社の重要事項は株主総会で決まります。役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。つまり、社長であっても株主総会で過半数を握っていなければ、最終的には株主の意向で交代させられる可能性があるということです。

    中小企業では、オーナーが「社長」と「大株主」を兼ねているため、この二つの違いを意識する機会はあまりありません。しかし、事業承継ではこの二つを別々のタイミングで渡すことが多いため、違いを理解しておくことが設計の出発点になります。

    社長交代と株式移転の組み合わせ方

    経営の地位と株式を移す順番には、大きく4つのパターンがあります。

    パターン内容向いている場面注意点
    同時に移す代表者交代と同時に、株式の大半を後継者へ移す後継者の経験が十分で、株価や納税資金の見通しが立っている一度に移すと税負担や資金負担が大きくなりやすい
    経営を先に移す先に社長を交代し、株式は数年かけて移す後継者に経営経験を積ませたい、株式の移転を分散したい移行期間中の決定権の所在をあいまいにしない
    株式を先に移す現経営者が社長を続けながら、株式を先に後継者へ移す株価が低い時期を活用したい、相続に備えて所有を早く固めたい株主となった後継者と社長との意思の調整が必要
    段階的に並行して移す役職・権限と株式を、節目ごとに少しずつ移す承継期間を長く取れる場合各段階の目標を事前に決めておかないと停滞しやすい

    どのパターンが正しいということはありません。後継者の経験、株価の水準と今後の見通し、家族構成、現経営者の年齢や健康状態によって、適した組み合わせは変わります。

    「ずれ」の期間に起きること

    経営と株式の移転をずらす場合、問題になりやすいのは移行期間の過ごし方です。

    株式の譲渡時期を決めないまま社長を交代した場合

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、社長交代の際に株式の譲渡時期などを具体的に取り決めなかったことが、後のトラブルにつながった事例が紹介されています。社長を譲った側は「いずれ渡すつもり」、受けた側は「いずれもらえるはず」と考えていても、その「いずれ」が言葉になっていなければ、状況が変わったときに認識の違いが表面化します。

    現経営者に相続が発生した場合

    株式を移し終える前に現経営者が亡くなると、株式は相続財産となります。相続人が複数いれば、遺産分割が終わるまで株式は相続人全員の共有の状態になり、議決権の行使も共有者間の調整が必要になります。共有株式の権利を行使するには、原則として共有者の中から権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければなりません(会社法106条)。遺言がなければ、後継者が株式を確実に取得できるとは限りません。

    株価が上がり続けた場合

    後継者が経営を担い、業績を伸ばすほど、株式の評価額は上がるのが一般的です。株式の移転を後回しにすると、後継者は「自分が上げた株価」に見合う税負担や買取資金を負うことになりかねません。

    現経営者の判断能力が低下した場合

    株式を現経営者が持ち続けている間に、健康上の理由で判断能力が低下すると、株主総会での議決権行使そのものが難しくなることがあります。経営は後継者が担っているのに、重要事項を決められないという状態が生じ得ます。

    設計で確認したい6つの論点

    経営と株式の設計にあたっては、次の論点を一つずつ確認していくと全体像がつかみやすくなります。

    1. 時間軸:いつ、何を渡すか

    代表者交代、会長職などへの移行、株式移転の開始と完了——それぞれの目標時期を、現経営者の引退時期から逆算して置きます。事業承継ガイドラインでも、引退時期を定めてから後継者育成に必要な期間を逆算する考え方が示されています。

    2. 議決権の目標:後継者がどこまで持つか

    後継者が安定して経営するために、どの時点でどの程度の議決権を持つべきかを決めます。過半数を確保すれば役員の選任などを単独で決められ、3分の2以上を確保すれば定款変更などの特別決議も単独で可決できる、という区切りが一つの目安になります。

    3. 移転の方法:贈与・売買・相続をどう組み合わせるか

    株式を移す方法には、生前の贈与、後継者や会社への売却、遺言による相続・遺贈などがあります。それぞれ、税負担、後継者の資金負担、他の家族との関係への影響が異なります。株式の評価方法によって移転時の金額が変わるため、評価の考え方も併せて確認しておきます(関連記事:非上場株式の評価方法をどう検討するか)。

    4. 移行期間の決定権:誰が最終判断をするか

    経営を先に移す場合、現経営者が大株主であり続ける期間の役割分担を決めておきます。日常の経営判断は後継者に任せ、現経営者は株主として何を確認・承認するのか。口約束ではなく、書面で整理しておくことが望まれます。議決権と配当を分けて設計する種類株式などの仕組みが検討されることもあります(関連記事:議決権と配当を分けて設計できるか)。

    5. 他の家族への配慮:株式以外に何を渡すか

    株式を後継者に集める場合、後継者以外の家族には株式以外の財産をどう配分するかを考える必要があります。オーナーの財産の多くが自社株式である場合は、他の相続人の遺留分との関係も検討が必要です。

    6. 制度と期限:使える制度を確認する

    非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「法人版事業承継税制(特例措置)」を検討する場合、令和9年(2027年)9月30日までに「特例承継計画」を都道府県へ提出する必要があり、対象は平成30年(2018年)1月1日から令和9年(2027年)12月31日までの贈与・相続等とされています(中小企業庁)。この制度を視野に入れるかどうかで、株式移転の時期の設計も変わってきます。

    実務上注意したいポイント

    • 「いずれ」を日付に置き換える:株式の移転時期は、目標年だけでも書面に残しておくことで、移行期間の認識違いを防げます。
    • 遺言で「万が一」に備える:株式の移転が完了するまでの間に相続が起きた場合に備え、株式を誰に承継させるかを遺言で明確にしておくことが検討に値します。
    • 定款を確認する:株式の譲渡制限や、相続人等に対する売渡請求の定めなど、定款の内容によって承継の進め方が変わることがあります。
    • 後継者の負担を見積もる:株式を売買で移す場合は後継者の資金調達、贈与や相続で移す場合は納税資金を、早い段階で見積もっておきます。

    AEGISの視点

    事業承継の相談では、「いつ社長を譲るか」と「株式をどう移すか」が、別々の場で、別々の人と話されていることが少なくありません。前者は経営の問題として、後者は税金の問題として扱われるからです。

    AEGISは、経営の地位と株式を「一つの時間軸の上で、意図的にずらして設計するもの」と考えています。ずれがあること自体は問題ではありません。問題になるのは、ずれが「結果としてそうなっている」だけで、その期間の役割や、想定外の事態が起きたときの手当てが決まっていない状態です。

    さらに、株式の移し方は、会社が使う不動産を誰が持つか、オーナー個人の金融資産を家族にどう配分するか、事業を通じて社会に何を残すかといった問いとも結びついています。株式だけを切り出して最適化するのではなく、経営・所有・財産・家族を同じ一枚の上に並べたうえで、株式の移転時期を決めることが、後継者にとっても家族にとっても納得しやすい承継につながるとAEGISは考えています。

    たとえば、議決権のある株式は後継者に、議決権のない配当優先株式は財団に寄附するという設計をとれば、経営権を後継者に集めたまま、会社の利益の一部を配当を通じて社会に還元できます。自ら財団を設立する代わりに、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に基金を設ける形であれば、後継者に財団運営の実務を背負わせることもありません。種類株式の手続や寄附に伴う税務の確認は必要ですが、経営と所有を分けて考えるからこそ選べる承継の形の一つです。

    事業承継の全体像は「事業承継は何から始めるべきか」で、経営と株式の移行を年ごとに整理する方法は「事業承継計画に含める項目とは」で解説しています。

    株式の評価や承継に伴う資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 「経営権」には、代表者として経営する地位と、株主として会社を支配する権限の二つの意味があります。
    • 社長交代と株式移転の時期は同じである必要はなく、段階的にずらす設計も合理的な選択肢です。
    • ずらす場合は、移行期間の決定権、相続や判断能力低下への備え、株価上昇の影響を事前に検討することが重要です。
    • 時間軸、議決権の目標、移転の方法、移行期間の決定権、家族への配慮、制度と期限の6つの論点で整理すると全体像がつかみやすくなります。
    • 具体的な設計は、会社の状況や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 社長を交代したら、株式もすぐに渡さなければなりませんか?

    その必要はありません。代表者の交代と株式の移転は別の手続きであり、時期をずらすことができます。ただし、株式を移す時期や方法について、現経営者と後継者の間で具体的に合意しておかないと、後に認識の違いが生じることがあります。

    Q. 後継者には、どのくらいの議決権を持たせるべきですか?

    一つの目安は、役員の選任などの普通決議を単独で可決できる過半数と、定款変更などの特別決議を単独で可決できる3分の2以上です。最終的にどこまで集めるかは、他の株主の状況や家族への配慮も踏まえて決めることになります。

    Q. 株式を先に後継者へ渡し、自分は社長を続けることはできますか?

    可能です。株価が低い時期に株式を移しておきたい場合などに検討されます。ただし、株主となった後継者が議決権を持つことになるため、経営方針について事前に十分にすり合わせておくことが前提になります。

    Q. 株式を移し終える前に自分が亡くなったらどうなりますか?

    株式は相続財産となり、遺言がなければ相続人の間で遺産分割を行うことになります。分割が終わるまでは株式が相続人の共有状態となり、議決権の行使にも調整が必要です。移転の途中で相続が起きた場合に備え、遺言の作成を検討しておくことが望まれます。

    Q. 事業承継税制を使う予定がなくても、計画は必要ですか?

    必要です。事業承継税制は株式移転の税負担に関わる制度の一つにすぎません。制度の利用の有無にかかわらず、経営と株式をいつ、どの順番で移すかを整理しておくことが、承継を円滑に進める基礎になります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 地域に会社を残すための事業承継|後継者がいない地元企業を引き継ぐ選択肢と、想いをつなぐ仕組み

    地域に会社を残すための事業承継|後継者がいない地元企業を引き継ぐ選択肢と、想いをつなぐ仕組み

    後継者がいない地元企業を地域に残す方法は、親族への承継だけではありません。役員・従業員への承継、地元の企業への引継ぎ、ファンドなど外部の資金を入れた承継、財団などによる株式の保有といった選択肢があり、これらを組み合わせることもできます。

    大切なのは、「誰に引き継ぐか」を決める前に、「地域に何を残したいのか」を言葉にすることです。雇用なのか、取引先との関係なのか、店や工場という拠点なのか、屋号やサービスなのか。残したいものが明確になれば、それを守る手段——株式の持ち方、契約の条件、財団の目的など——を選べるようになります。

    この記事では、地域に会社を残すことを目的とした事業承継の選択肢と、オーナーの想いを承継後もつなぐための仕組みを整理します。

    なぜ「地域に残す」ことが論点になるのか

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン」は、休廃業・解散した企業のうち、直前期の決算で黒字だった、いわゆる黒字廃業が約6割を占める状況が続いていると指摘しています。そして、こうした企業が事業承継を実現できれば、技術やノウハウを次の世代に引き継ぎ、雇用を確保し、地域の経済活動への貢献を続けることにつながるとしています。

    地方では、一社の廃業が、従業員の働く場だけでなく、地域の人が日常的に使うサービスや、取引先の仕入れ・販売先の喪失につながることがあります。会社を「売る」か「やめる」かという二択ではなく、地域にとっての役割をどう引き継ぐかという視点が求められる理由です。

    廃業・第三者への引継ぎ・事業の一部譲渡を比較する基本的な考え方は、関連記事「黒字廃業を選ぶ前に比較したいこと」で整理しています。本記事では、その中でも「地域に残す」ことを目的にした場合の選択肢と仕組みに焦点を当てます。

    まず「何を残したいか」を整理する

    地域に会社を残すといっても、オーナーによって守りたいものは異なります。AEGISでは、次の6つの観点で整理することをおすすめしています。

    残したいもの具体的な中身守るための主な手段
    雇用従業員の雇用と処遇承継先の選定条件、譲渡契約での雇用維持の約束
    事業・サービス地域の人が使う商品・サービス事業計画の共有、承継後の経営体制
    拠点店舗・工場・事務所の所在地事業用不動産の所有の仕方、賃貸借契約の期間
    取引関係地元の仕入先・販売先・協力会社承継先の選定条件、取引継続の方針
    屋号・ブランド社名・屋号・地域での信用商号の維持、商標などの権利の承継
    想い・理念創業の理念、地域への貢献の姿勢経営理念の明文化、株主構成、財団の目的

    すべてを完全に守ることは難しく、たとえば「雇用と拠点の維持」を重視すれば、譲渡価格や承継先の選択肢は狭まることがあります。何を優先し、何を譲れるのかを、早い段階で家族や幹部と共有しておくことが出発点になります。

    地域に残すための選択肢

    1. 役員・従業員への承継

    会社の事業や理念を最もよく知る役員・従業員に引き継ぐ方法です。地域との関係や取引先とのつながりがそのまま残りやすいことが最大の利点です。

    一方で、事業承継ガイドラインも指摘するとおり、親族株主の了解、株式を買い取る資金の確保、そして会社の借入れに対する経営者保証の引継ぎが大きな課題になります。資金面では、後継者個人への融資のほか、株式を買い取るための会社を設立し、後継者の出資と金融機関からの借入れ、外部の投資家からの出資を組み合わせる方法もあります。経営者保証については、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則や、事業承継時の保証解除を支援する制度が設けられています。

    役員・従業員が株式を取得する具体的な方法は、関連記事「従業員承継(MBO)で後継者が株式を取得する方法」で解説しています。

    2. 地元の企業への引継ぎ

    同じ地域で事業を営む企業に、株式譲渡や事業譲渡で引き継ぐ方法です。地域の事情をよく知る企業であれば、拠点や取引関係、雇用を維持する動機を持ちやすいと考えられます。

    ただし、地域内での引継ぎは、取引先や競合との関係から情報管理に一層の注意が必要です。また、地元企業であることだけを条件にすると、承継先の候補が限られ、価格や条件で妥協を迫られることもあります。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は、仲介者やアドバイザーとの契約、手数料、手続の流れについて確認すべき事項を示しています。

    3. ファンドなど外部の資金を入れた承継

    後継者候補はいるが資金が足りない場合や、承継後の成長に外部の支援が必要な場合には、投資ファンドなどの出資を受ける方法があります。地域金融機関や公的機関が関わるファンドもあります。

    ファンドは、いずれ投資した資金を回収する出口が必要になるため、数年後に株式が再び動くことを前提に考える必要があります。出資を受ける前に、出口の方針や、その時点での承継先の選び方について確認しておくことが重要です。

    4. 財団などによる株式保有を組み合わせる

    オーナーが保有する株式の一部を財団に寄附し、財団が長期の株主として会社を見守る方法です。株式の配当は財団の財源となり、地域の教育・福祉・文化などの公益活動に使われます。会社の利益が、配当を通じて地域に還元される仕組みと言えます。

    ただし、財団は会社の経営を支配するための器ではありません。公益財団法人は原則として会社の議決権の過半数を持てないこと(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)、譲渡所得等の非課税特例を受ける寄附では保有株式が発行済株式の2分の1を超えないこと(租税特別措置法施行令第25条の17第6項)など、財団の独立性を求める制約があります。財団は、経営を担う後継者(役員・従業員や承継先の企業)と組み合わせる長期の株主として位置付けるのが現実的です。

    財団が議決権を持つことによる影響を避けたい場合は、寄附する株式を議決権のない配当優先株式(種類株式)にする設計も考えられます。経営に必要な議決権は後継者が持ち、財団は配当を受け取って地域の活動を支える、という役割の分け方です。また、財団を自ら設立すると、理事会・評議員会の運営や事務局、会計・報告を長く担い続ける人が必要になります。自ら財団をつくらず、運営体制を備えた既存の財団の中に、オーナーの名前や想いを冠した基金を設ける方法もあり、AEGISでもそのための器としてアイジスレガシー財団を設立しています。いずれの場合も、種類株式の手続や、寄附に伴う税務の取扱いは個別に確認が必要です。

    5. 事業の一部を引き継ぐ

    会社全体の引継ぎが難しい場合でも、地域にとって重要な事業や店舗、技術だけを、事業譲渡などで別の事業者に引き継ぐ方法があります。会社としては清算しても、地域の役割は残るという選択肢です。

    選択肢の比較

    選択肢地域に残りやすいもの主な課題向いている場面
    役員・従業員への承継雇用、取引関係、理念株式取得の資金、経営者保証、経営経験社内に意欲と能力のある人材がいる
    地元企業への引継ぎ拠点、取引関係、雇用候補が限られる、情報管理地域内に事業の相乗効果がある企業がある
    ファンド等の資金を入れた承継事業の継続と成長数年後の出口、経営の自由度後継者候補はいるが資金や経営支援が不足
    財団による株式保有の組合せ理念、地域への利益還元保有・運営の制約、経営を担う人は別に必要承継先が決まり、長期の安定株主と社会還元を両立したい
    事業の一部の引継ぎ重要な事業・サービス会社全体は残らない、従業員の移籍会社全体の承継は難しいが核となる事業がある

    オーナーの想いを承継後もつなぐ仕組み

    株式を手放した後も、オーナーの想いを会社に残すためには、「気持ち」ではなく「仕組み」に置き換えておく必要があります。

    • 経営理念と地域での役割を文書にする:承継先と共有する事業計画の冒頭に、会社が地域で果たしてきた役割を書いておくと、承継後の判断の拠り所になります。
    • 譲渡の条件に織り込む:一定期間の雇用の維持、拠点の継続、屋号の使用などを、譲渡契約の条件として交渉することができます。条件を多く付けるほど、価格や承継先の範囲に影響する点は理解しておく必要があります。
    • 事業用不動産の持ち方を工夫する:店舗や工場の土地・建物をオーナー家が保有し続け、承継先に長期で賃貸する方法をとれば、拠点が地域に残りやすくなります。一方で、賃料や修繕の負担、将来の売却の自由度とのバランスを考える必要があります。
    • 株主構成で支える:経営を担う後継者が議決権の多くを持ち、財団や従業員持株会などが長期の株主として加わる構成にすれば、短期的な利益だけで会社の方向が決まりにくくなります。
    • 家族のルールとして残す:事業や資産に関わる家族の考え方を、家族の話し合いを経てまとめておくことも、想いをつなぐ方法の一つです。関連記事「ファミリー憲章のつくり方」も参考にしてください。

    進め方と相談先

    地域に会社を残すための承継は、準備期間が長いほど選択肢が広がります。一般的には、次の順序で進めます。

    1. 現状と「残したいもの」の整理:会社の財務、株主構成、事業用不動産、借入れと保証、そして残したいものの優先順位を書き出す
    2. 承継先の候補の検討:社内の人材、地元企業、外部の資金などを幅広く検討する
    3. 承継の方法と条件の設計:株式の移し方、資金の確保、保証の扱い、財団の活用の要否を決める
    4. 関係者への説明:従業員、取引先、金融機関、地域の関係者に、時期と内容を考えて伝える
    5. 承継後の見守り:一定期間、旧オーナーが相談役などとして関わるか、財団などを通じて関わるかを決める

    相談先としては、各都道府県に設置されている公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターや、取引のある金融機関、顧問の専門家などがあります。

    実務上注意したいポイント

    • 「地域のため」を理由に後継者に過大な負担を求めない:雇用や拠点の維持を条件にしすぎると、承継後の経営の自由度を奪い、かえって事業の継続を難しくすることがあります。
    • 価格と条件を一体で考える:譲渡価格を高くすることと、地域に残る条件を手厚くすることは、しばしばトレードオフになります。オーナーの手取りと、地域に残るものを並べて比較しましょう。
    • 情報管理を徹底する:地域内での承継の検討は、うわさが広がりやすいものです。従業員や取引先に伝える時期と順序を、あらかじめ決めておくことが重要です。
    • 税務の論点を早めに確認する:株式の譲渡には譲渡所得の課税が、財団への株式の寄附には原則としてみなし譲渡課税と、その非課税特例の要件確認が関わります。承継の方法ごとにオーナーの手取りと税負担を試算しておきましょう。

    AEGISの視点

    後継者がいない会社の承継は、「買い手を探す」話として進められがちです。しかしAEGISは、地域に根差した会社の承継を、「会社が地域で果たしてきた役割を、誰が、どの形で引き継ぐか」を設計することだと考えています。

    その設計では、経営を担う人、株式を持つ人、事業用不動産を持つ人、そして利益の一部を社会に還元する器を、必ずしも同じにする必要はありません。たとえば、経営は従業員出身の後継者が担い、株式の一部を財団が長期に保有して配当を地域の活動に生かし、工場の土地はオーナー家が持ち続けて賃貸する——といったように、役割を分けて組み合わせることで、地域に残せるものは大きく広がります。

    一方で、財団による株式保有は、経営を担う人がいて初めて意味を持つ仕組みです。財団に株式を託すこと自体を目的にせず、事業・経営・所有・社会貢献のそれぞれに担い手を置く一つの設計図として考えることが、オーナーの想いを地域に残すための近道になるとAEGISは考えています。財団が保有する株式の議決権の扱いは関連記事「財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか」で、財団設計の全体像はPillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    まとめ

    • 事業承継ガイドラインは、休廃業・解散企業の約6割が黒字廃業であると指摘しており、承継の実現は雇用や地域の経済活動の維持につながります。
    • 地域に会社を残すには、まず雇用・事業・拠点・取引関係・屋号・理念のうち、何を優先して残したいかを整理することが出発点です。
    • 選択肢には、役員・従業員への承継、地元企業への引継ぎ、ファンド等の資金を入れた承継、財団による株式保有の組合せ、事業の一部の引継ぎがあります。
    • オーナーの想いは、理念の文書化、譲渡の条件、事業用不動産の持ち方、株主構成などの「仕組み」に置き換えることで、承継後もつなぎやすくなります。
    • 具体的な方法の適否や税務の取扱いは、会社と家族の状況によって異なるため、早めに専門家と検討することが望まれます。

    よくある質問

    Q. 後継者がいない場合、まず誰に相談すればよいですか?

    各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターは、事業承継に関する相談や、承継先探しの支援を行う公的な窓口です。そのほか、取引のある金融機関や顧問の税理士・弁護士などに相談する方法もあります。早い段階で現状を整理しておくほど、選べる方法が広がります。

    Q. 地元の企業に譲る場合、雇用の維持を約束してもらえますか?

    譲渡契約の中で、一定期間の雇用の維持や処遇について条件を定めることは可能です。ただし、条件を手厚くするほど、承継先の候補や譲渡価格に影響することがあります。何を条件として必ず求め、何は承継先の判断に委ねるかを、事前に整理しておくことが大切です。

    Q. 従業員が株式を買い取る資金がない場合はどうすればよいですか?

    後継者個人への融資、株式を買い取るための会社を設立して出資と借入れを組み合わせる方法、外部の投資家の出資を受ける方法などがあります。株式の一部を先に移し、残りを段階的に移すことも考えられます。経営者保証については、事業承継時に焦点を当てたガイドラインの特則や、保証の解除を支援する制度も確認しておきましょう。

    Q. 財団に株式を寄附すれば、会社は地域に残りますか?

    財団による株式保有は、長期の株主として会社を見守り、配当を地域の公益活動に生かす仕組みにはなりますが、それだけで会社が地域に残るわけではありません。公益財団法人は議決権の過半数を持てないなど、財団が会社を支配することには制約があります。経営を担う後継者や承継先と組み合わせて考えることが前提になります。

    Q. 承継の準備には、どのくらいの期間が必要ですか?

    会社や承継先の状況によって大きく異なりますが、承継先の検討から条件の交渉、関係者への説明、承継後の引継ぎまで含めると、数年単位の時間を見込んでおくことが望まれます。特に役員・従業員への承継では、後継者の育成や資金の準備に時間がかかるため、早めの着手が重要です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分を整理して承継方法を比較し、社会貢献を取り入れる場合はその適合性も検討します。
    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団運営・税務・実行後の管理を整理します。
    • M&A:会社売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『専門家のための事業承継入門 事例で学ぶ!事業承継フレームワーク』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会
  • 非上場株式を財団に寄附する前に決めること|議決権・配当・運営体制と税務の確認ポイント

    非上場株式を財団に寄附する前に決めること|議決権・配当・運営体制と税務の確認ポイント

    オーナーが保有する自社の非上場株式を財団に寄附し、その配当を社会貢献の原資にする——事業承継と社会貢献を結びつける方法として、こうした構想が検討されることがあります。

    ただし、株式の寄附は、現金の寄附とは性質が大きく異なります。株式には議決権と配当を受け取る権利が付いているため、寄附をした瞬間に、会社の株主構成と財団の財源の両方が同時に変わるからです。

    結論から言えば、非上場株式を財団に寄附する前には、少なくとも次の3点を決めておく必要があります。

    1. 議決権:財団が持つ株式の議決権を、誰が、どのような手順で行使するのか
    2. 配当:会社の配当方針と財団の予算を、どのように結びつけるのか
    3. 運営体制:寄附者や会社から独立した判断が、財団の中でどう担保されるのか

    そのうえで、寄附に伴う税金の扱いを確認します。この記事では、それぞれの論点を、オーナーの意思決定の順番に沿って整理します。

    株式を寄附すると何が起きるか

    非上場株式を財団に寄附すると、次の変化が同時に起こります。

    変化する対象起きること
    会社財団が株主となり、株主総会で議決権を行使する立場になる
    後継者後継者が確保できる議決権の割合が、寄附した分だけ相対的に変わる
    財団配当が主な収入源となり、会社の業績と配当方針に財団の活動が左右される
    寄附者と家族寄附した株式は寄附者の財産から外れ、家族が相続する財産の構成が変わる
    税務寄附者に対するみなし譲渡課税、財団に対する課税などの論点が生じる

    このうち、税務の論点は最後に確認すればよいものではありませんが、議決権・配当・運営体制の設計が固まっていないと、税制の要件を満たせるかどうかも判断できません。まずは株式の寄附によって何を実現したいのかを整理することが出発点です。

    財団設計の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    決めること1:議決権をどう行使するか

    財団の議決権は理事会の判断で行使される

    財団が保有する株式の議決権は、通常、理事会の決議などに基づいて代表理事が行使します。財団は寄附者の持ち物ではないため、寄附者や会社の経営陣が、財団の議決権行使を直接指示できる関係にはありません。

    この点は、寄附を検討するオーナーにとって重要な意味を持ちます。

    • 経営陣と財団の考えが一致している間は、財団は安定的な株主として機能しやすい
    • しかし、創業家と経営陣の対立、第三者からの買収提案、増資などの場面では、財団がどう判断するかが会社の行方を左右し得る
    • 財団の理事に会社の役員が多く就いていると、財団の判断の独立性や、会社法上の支配関係が問題になることがある

    つまり、「財団に寄附すれば安定株主になってくれる」とは限りません。財団がどのような方針で議決権を行使するのかを、あらかじめ議決権行使の方針として定めておくなど、財団の独立性と会社の安定の両立を考えておく必要があります。

    後継者の議決権への影響

    寄附する株式の割合によっては、後継者が単独で確保できる議決権が過半数や3分の2を下回ることもあります。事業承継の計画上、後継者がどの程度の議決権を持つべきかを先に決め、その範囲内で寄附の規模を考えるのが順序です。

    議決権と配当を切り分けて設計する考え方(種類株式の活用など)については、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で扱っています。寄附する株式を議決権のない株式にするなどの設計も考えられますが、会社法上の手続や評価・税務への影響を個別に確認する必要があります。

    保有割合の上限にも注意

    税制や公益認定の基準には、財団が保有できる株式の割合に関わるものがあります。たとえば国税庁は、株式の寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けるための判定の一つとして、寄附によって公益法人等が保有することになる株式(寄附前から保有するものを含む)が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超えないことを示しています(租税特別措置法施行令第25条の17第6項)。また、公益法人については、他の団体の意思決定に関与できる株式等を保有する場合、その会社の議決権の過半数を有していないことが公益認定の基準とされています(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)。前者は「発行済株式総数」、後者は「議決権」を基準とする別々のルールです。寄附の規模を考える際には、両方の上限を確認しておくことが欠かせません。

    決めること2:配当と財団の予算をどう結びつけるか

    株式の寄附は「配当が公益に使われること」が前提

    株式は、建物や土地のように公益目的事業にそのまま使うことができない財産です。そのため、株式を寄附した場合には、その株式から生じる配当の全部が、継続して公益目的事業に充てられるかどうかが、税制の適用上の重要な判断材料になります。

    裏を返すと、次のような状態は注意が必要です。

    • 会社が無配、または配当が毎年定期的に支払われない
    • 配当を受け取っても、財団の公益目的事業に使い切れず、使途が定まらないまま残る
    • 配当金が財団の事務所や役員のための施設に使われる

    会社の配当方針と財団の活動計画をすり合わせる

    会社側にとって、配当は成長投資や財務の安定とのバランスで決めるものです。一方、財団側は、一定の配当がなければ助成や事業を継続できません。両者の利害は、時に対立します。

    寄附の前に、次の点を経営陣・後継者と共有しておくことが望まれます。

    • 会社の配当方針(安定配当か、業績連動か)
    • 財団の活動に必要な年間予算の目安と、配当が想定を下回った場合の対応
    • 配当の決定に財団が株主としてどう関わるか

    配当の変動を財団がどう吸収するか、運営資金の考え方は、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で詳しく扱っています。

    決めること3:財団の運営体制をどう組むか

    株式を寄附する財団では、運営体制が「財団が会社やオーナー家から独立しているか」を示す要素になります。国税庁は、寄附に係る非課税の承認の判定の考え方として、次のような点を示しています。

    • 理事・監事・評議員のうち、親族関係がある人などの占める割合が、それぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあること
    • 寄附者、法人の役員等やその親族等に対して、施設の利用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任などで特別の利益を与えないこと
    • 解散した場合の残余財産が、国・地方公共団体や他の公益法人等に帰属する旨の定款の定めがあること
    • 寄附者やその親族が役員となっている会社の株式を寄附する場合は、その議決権の行使にあたり、あらかじめ理事会で理事総数の3分の2以上の承認を得る旨の定款の定めがあること(租税特別措置法第40条関係通達18)

    運営体制の設計では、次の点も検討しておきたいところです。

    • 評議員・理事に、会社や創業家から独立した有識者をどの程度迎えるか
    • 会社の役員が財団の理事を兼ねる場合、利益相反の場面でどう判断するか
    • 助成先の選考を、誰がどのような基準で行うか

    運営体制を自ら組まないという選択肢

    ここまでの運営体制を寄附者の家族だけで整え、何十年も維持するのは簡単ではありません。株式の寄附先として、自ら財団を設立する代わりに、独立した役員構成と事務局をすでに備えた財団の中に基金を設ける方法もあります。AEGISでは、この考え方に基づき、一定額の配当が確実に見込まれる株式等を、専門家の確認と理事会の決定を経て受け入れるアイジスレガシー財団を設立しています。

    議決権のない配当優先株式を寄附する設計と組み合わせれば、後継者の議決権を保ちながら、配当を社会貢献の財源に充てることができます。後継者が財団の理事や事務局として運営を担う必要もありません。ただし、この場合も、本記事で見てきた議決権・配当・税務の確認は同じように必要です。

    税務上の確認ポイント

    寄附者:みなし譲渡と非課税の特例

    個人が株式を法人に寄附すると、寄附した時の時価で譲渡があったものとみなされ、取得時からの値上がり益に所得税が課されるのが原則です。創業者が保有する自社株式は、取得価額が低く値上がり益が大きいことが多いため、この点は特に重要です。

    公益法人等への寄附で、一定の要件を満たし国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税が非課税となる特例があります(租税特別措置法第40条)。国税庁によれば、主な要件は次のとおりです。

    要件内容
    公益の増進への寄与寄附が教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること
    公益目的事業への供用寄附財産が、寄附の日から2年を経過する日までに、公益目的事業の用に直接供されること(またはその見込みであること)
    不当減少でないこと寄附により、寄附者の所得税や、寄附者の親族等の相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと

    承認申請は、原則として寄附の日から4か月以内に、寄附者の所得税の納税地を所轄する税務署に提出します。また、公益財団法人など一定の法人への寄附で、寄附者がその法人の役員等やその親族等に該当しないことなどを要件とする「承認特例」もあり、こちらは申請から一定期間内に判断がなければ承認があったものとみなされます(原則1か月。株式などの寄附は、受け手が国立大学法人等である場合を除き3か月。租税特別措置法施行令第25条の17第8項)。

    承認を受けた後でも、寄附財産が公益目的事業に直接供されなくなった場合などには承認が取り消され、寄附者または財団に所得税が課されることがあります。

    財団:持分の定めのない法人への課税

    財団への寄附によって、寄附者の親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、財団を個人とみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。運営体制の設計は、この判定とも直結します。

    相続後に寄附する場合

    相続や遺贈で取得した株式を、相続税の申告期限までに公益財団法人などに寄附した場合には、その株式を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。ただし、公益認定を受けていない一般財団法人への寄附は対象外です。生前に寄附するか、遺言で寄附するか、相続人が寄附するかによって、適用される制度が変わります。

    株式の評価

    非上場株式の寄附では、寄附時の株式の時価をどう算定するかが、みなし譲渡の計算や各種判定の前提になります。みなし譲渡の計算に用いる時価は、所得税基本通達59-6により、一定の条件のもとで財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価方法の例により算定するとされています。評価方法は会社の規模や株主の立場によって異なるため、寄附の計画段階で確認しておく必要があります。

    実務上注意したいポイント

    • 事業承継の計画と一体で考える:寄附の規模は、後継者が確保すべき議決権から逆算します。事業承継の全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    • 受け手の財団の状態を先に整える:寄附を受ける財団の定款、役員構成、公益認定の有無によって、使える税制が変わります。寄附の時点で要件を満たしている必要がある点に注意が必要です。一般財団法人と公益財団法人の違いは、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で解説しています。

    • 家族の理解を得る:寄附した株式は家族が相続する財産から外れます。遺留分を含め、家族との合意形成を先行させることが望まれます。

    • 一度に全部を寄附しない選択肢:寄附の規模や時期を段階的に分けることで、会社・財団双方の変化を確かめながら進めることもできます。

    AEGISの視点

    自社株式を財団に寄附するという判断は、「相続税をどう減らすか」という発想から語られることがあります。しかしAEGISは、この判断を「会社の所有の一部を、家族ではなく社会に託す」という承継の設計として捉えています。

    会社は創業者一人のものではなく、従業員、取引先、地域とともに育ってきた存在です。その会社が生み出す利益の一部を、財団を通じて社会に還していく仕組みは、承継を合理的に突き詰めた先に現れる、一つの自然な形だとAEGISは考えています。

    ただし、そのためには、財団が会社や創業家の「別の財布」になってはいけません。議決権の行使、配当の使い道、運営体制のいずれにおいても、財団が自らの目的に沿って独立して判断できることが、税制上の要件を満たすためにも、想いを長く続けるためにも不可欠です。株式の寄附を検討する際の税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 非上場株式を財団に寄附すると、会社の株主構成と財団の財源が同時に変わります。
    • 寄附の前に、議決権の行使方法、配当と財団予算の関係、財団の運営体制の3点を決めておくことが重要です。
    • 寄附者には原則としてみなし譲渡課税が生じますが、国税庁長官の承認を受けた場合の非課税特例(租税特別措置法第40条)があります。承認申請は原則として寄附の日から4か月以内です。
    • 国税庁は、株式の寄附について、財団が保有する株式が発行済株式総数の2分の1を超えないことを判定要素の一つとして示しています。
    • 財団を個人とみなして課税する仕組み(相続税法第66条第4項)もあり、運営体制の設計と税務は切り離せません。

    具体的な適用可否や設計は、会社の状況、家族構成、財団の状態などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 自社株を財団に寄附すれば、相続税の対象から外れますか?

    寄附した株式は寄附者の財産ではなくなりますが、寄附によって家族の相続税・贈与税の負担が不当に減少すると認められる場合には、財団に贈与税などが課される仕組みがあります。また、寄附者にはみなし譲渡による所得税の論点もあります。「寄附すれば非課税」と単純には言えないため、要件の確認が必要です。

    Q. 財団に寄附した株式の議決権は、寄附者が行使できますか?

    財団が保有する株式の議決権は、財団の理事会の決議などに基づいて行使されるのが通常であり、寄附者が直接行使するものではありません。寄附者が財団を通じて会社を支配するような設計は、税制上・公益認定上の要件と合わない可能性があります。

    Q. 会社が無配の場合でも、株式を財団に寄附できますか?

    寄附自体は可能ですが、配当がなければ財団の財源にならず、みなし譲渡の非課税特例の適用上も問題となる可能性があります。株式の寄附では、配当の全部が継続して公益目的事業に充てられるかどうかが重要な判断材料とされているためです。配当方針とあわせて検討する必要があります。

    Q. 承認申請の期限を過ぎてしまうとどうなりますか?

    承認申請書は、原則として寄附の日から4か月以内(その前に所得税の確定申告期限が到来する場合はその期限まで)に提出する必要があります。期限内に申請しなければ、非課税の特例を受けることはできません。寄附の実行前に、申請の準備を整えておくことが重要です。

    Q. 一般財団法人に株式を寄附する場合と、公益財団法人に寄附する場合で違いはありますか?

    あります。たとえば、相続財産を寄附した場合の相続税の非課税特例は、公益財団法人などが対象で、公益認定を受けていない一般財団法人は対象外です。みなし譲渡の非課税特例でも、手続が迅速な承認特例は公益財団法人など一定の法人に限られます。受け手の法人の状態によって選択肢が変わります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
  • 社会貢献を続ける財団をどう設計するか|寄附者の想いを助成・事業・運営体制に結びつける考え方

    社会貢献を続ける財団をどう設計するか|寄附者の想いを助成・事業・運営体制に結びつける考え方

    事業や資産を築いてきたオーナーが、ある時期から「社会に何かを還したい」と考えるようになることは珍しくありません。その手段として財団の設立が話題にのぼることがありますが、財団は法人をつくった時点で完成するものではありません。寄附者が第一線を退いたあとも、十年、二十年と活動が続いて初めて、想いが社会に届いたと言えます。

    結論から言えば、社会貢献を続ける財団の設計は、「どの法人形態にするか」から始めるのではなく、「何のために、どのような形で、どの資金で、誰が続けるのか」を先に言葉にすることから始まります。法人の種類や税制は、その答えを実現するための手段として後から選ぶものです。

    この記事では、財団設計を5つの要素に分け、それぞれで何を決めておくべきかを、令和6年改正(令和7年4月1日施行)後の公益法人制度と、国税庁が示す寄附税制の考え方を踏まえて整理します。

    財団とはどのような法人か

    財団(財団法人)は、一定の目的のために拠出された財産そのものに法人格を与える仕組みです。株式会社のように出資者が持分を持つ形ではなく、財産を拠出した人であっても、法人の財産に対する持分を持ちません。

    日本の財団法人は、大きく次の2つに分かれます。

    区分成り立ち主な特徴
    一般財団法人一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づき、定款の作成・公証人の認証・財産の拠出・登記によって設立事業内容に法律上の制約は少なく、行政庁の監督は受けない
    公益財団法人一般財団法人が行政庁(内閣府または都道府県)の公益認定を受けたもの公益目的事業を主たる目的とし、行政庁の監督と財務・ガバナンスの基準に服する一方、税制上の優遇がある

    一般財団法人を設立する際には、設立者が拠出する財産の価額の合計が300万円を下回ってはならないとされ、評議員(3人以上)・理事(3人以上)・監事(1人以上)を置くことが必要です。評議員会が理事を選任・解任し、理事会が業務を執行するという、いわば「財産を見守る人」と「財産を使って活動する人」を分けた構造になっています。

    一般財団法人と公益財団法人の違いや、どちらを選ぶかの判断軸については、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で詳しく解説しています。

    なぜ「続ける」ことが難しいのか

    財団の設立手続そのものは、法律に定められた手順に沿って進めることができます。難しいのは、その後の継続です。継続を難しくする要因は、主に次の3つです。

    • 目的と活動のずれ:設立時の想いが抽象的なままだと、寄附者がいなくなった後に「何を優先すべきか」で判断が割れます。一方、財団の目的は設立者の意思を実現するためのものであり、後から自由に書き換えられる性質のものではありません(定款の目的は、設立者が定款で変更を認めた場合や、裁判所の許可を得た場合を除き、評議員会の決議でも変更できないとされています。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第200条)。
    • 財源の不安定さ:基本財産の運用収入や、寄附された株式の配当は、金利や業績によって大きく変動します。収入が減っても、助成の約束や事務局の固定費は残ります。
    • 人の交代:理事や評議員が入れ替わるにつれ、設立時の経緯を知る人が減っていきます。また、寄附者の家族が運営を事実上支配する形は、税制・公益認定の両面で認められにくい設計です。

    つまり財団設計とは、「寄附者がいなくても、想いに沿った判断が自然に行われる仕組み」をあらかじめ組み込むことだと言えます。

    財団設計を構成する5つの要素

    AEGISでは、社会貢献を続ける財団の設計を、次の5つの要素に分けて整理することをおすすめしています。

    要素決めること中心となる問い
    1. 目的(ミッション)解決したい社会課題、支援したい対象、活動の範囲何のために存在するのか
    2. 活動の形助成型・事業型・その併用、対象地域、活動期間どのように社会に届けるのか
    3. 財源拠出する財産の種類と規模、継続収入の見込み何を原資に続けるのか
    4. 運営体制評議員・理事・監事の構成、事務局、意思決定の手順誰が判断し、誰が見守るのか
    5. 器と税制一般財団法人か公益認定か、寄附の方法と時期どの制度を使うのが合理的か

    以下、それぞれの要素で検討したい点を見ていきます。

    1. 目的:想いを「判断の基準」になる言葉にする

    目的は、財団のすべての判断の拠り所です。「社会に役立ちたい」という言葉だけでは、助成先を選ぶ基準にはなりません。

    • 誰の、どのような困りごとを対象にするのか(例:経済的な事情で進学をあきらめる若者、地域の文化財の保存など)
    • なぜその課題なのか(寄附者の経験や事業とのつながり)
    • 活動の範囲(地域、分野、対象年齢など)

    公益認定を目指す場合、公益目的事業は「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」であることが求められます。寄附者の会社の従業員や取引先だけを対象とするような設計は、この考え方と合いにくい点に注意が必要です。

    2. 活動の形:助成型か、事業型か

    財団の活動は、大きく次の2つの形に分けられます。

    • 助成型:奨学金や研究助成、活動団体への助成金など、資金を他者に渡して社会課題の解決を支える形
    • 事業型:財団自らが施設の運営、講座の開催、調査研究などを行う形

    助成型は少人数の事務局でも始めやすい一方、助成先の選考・評価の仕組みが質を左右します。事業型は社会への関与が直接的である反面、人員や施設などの固定費が大きくなります。最初は助成型で小さく始め、経験を積んでから事業を加えていくという段階的な設計も考えられます。

    3. 財源:拠出財産と継続収入の両方を見る

    財団の財源は、大きく「拠出された財産から生まれる果実(運用収入・配当など)」「継続的な寄附」「事業収入」に分けられます。どの財産をどれだけ拠出するかは、活動の規模から逆算して考える必要があります。

    とくに自社株式を拠出する場合は、配当が財団の主な収入源になるため、会社の配当方針と財団の予算が密接に結びつきます。株式の寄附で検討すべき論点は関連記事「非上場株式を財団に寄附する際の検討事項」で、寄附後の運営資金の考え方は「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で整理しています。

    4. 運営体制:寄附者の家族が「支配しない」設計

    財団は持分のない法人であるため、寄附者やその家族が法人を私的に支配できる状態は、税制上も公益認定上も問題視されます。たとえば国税庁は、公益法人等への財産の寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けるための判定の一つとして、理事・監事・評議員のうち親族等の占める割合がそれぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあることや、寄附者などに特別の利益を与えないことなどを示しています。

    運営体制では、次の点を設計しておきたいところです。

    • 評議員・理事・監事に、どのような立場・専門性の人を迎えるか
    • 寄附者やその家族は、どの役割で、どの程度関与するか
    • 助成先や事業の選定を、誰がどのような手順で決めるか(選考委員会の設置など)
    • 事務局の担い手(専任職員、外部委託など)

    5. 器と税制:手段として選ぶ

    最後に、一般財団法人のままで活動するか、公益認定を受けるかを判断します。公益認定を受けると寄附税制上の優遇が受けやすくなる一方、財務や情報開示の基準に継続して対応する必要があります。これらの比較は、上記の4つの要素が固まっているほど判断しやすくなります。

    自ら財団をつくらないという選択肢

    ここまでの5つの要素は、どれも「自ら財団を設立する」場合に、寄附者とその家族が引き受けることになる仕事です。評議員・理事・監事を選び、評議員会と理事会を開き、事務局を置き、毎年の会計と報告を整え、公益認定を目指すならその基準を満たし続ける。財団は寄附者が第一線を退いた後も続くことが前提のため、この運営は後継者や次の世代に引き継がれていきます。

    社会貢献への想いはあっても、ここまでの体制を一族で担い続けるのは重い、と感じる方は少なくありません。そうした場合の選択肢として、自ら財団を設立せず、運営体制をすでに備えた財団の中に、寄附者の名前や想いを冠した基金(冠基金)を設ける方法があります。

    AEGISでは、この考え方を形にする器として、一般財団法人アイジスレガシー財団を設立しました。寄附者ごとに法人をつくるのではなく、一つの財団の中に寄附者の目的に沿った基金を設け、助成や奨学の形で社会につなぐ仕組みです。金銭のほか、一定額の配当が確実に見込まれる株式等の寄附も、専門家の確認と理事会の決定を経て受け入れ、配当を原資に支援を続ける設計をとっています。

    比べる点自ら財団を設立する既存の財団に冠基金を設ける
    設立の手続定款の作成、財産の拠出、評議員・理事・監事の選任などが必要財団との間で基金の目的や条件を合意する
    毎年の運営評議員会・理事会の開催、事務局、会計・報告を自ら担う受け手の財団が担う(所定の事務運営費は寄附者が負担)
    次の世代の負担理事や事務局として運営を引き継ぐ人が必要後継者が財団運営の実務を担う必要はない
    想いの反映目的や事業を自由に設計できる財団と合意した目的の範囲で、基金ごとに支援の分野や対象を定める
    規模の目安設立時の拠出300万円以上(法律上の下限)に加え、運営費を賄える財源受け手の財団の基準による(アイジスレガシー財団の冠基金は、元本を使う方式で500万円以上の金銭寄附、配当・利子収入を原資とする方式で年額200万円以上の収入が確実に見込まれること)

    自ら財団をつくる方法には、目的や事業を自由に設計できるという大きな利点があります。一方、既存の財団を使う方法は、自由度の一部と引き換えに、設立と運営の負担を大きく軽くし、後継者に財団運営の実務を背負わせない選択です。どちらがよいかは想いの大きさではなく、「どの程度の規模で、どれだけ独自に、誰が続けるのか」という5つの要素への答えによって決まります。なお、税務上の取扱いは、寄附の時期、受け手の財団の認定・承認の状況、寄附する財産の内容によって異なるため、どちらの方法でも個別の確認が必要です。

    自社株式を寄附する場合には、議決権のない配当優先株式などを寄附し、議決権のある株式は後継者に承継する設計と組み合わせることで、後継者の経営権を保ったまま、会社の利益の一部を社会に還元することもできます。アイジスレガシー財団の仕組みや基金の種類は、アイジスレガシー財団のホームページで紹介しています。

    押さえておきたい税制の基本

    財団への寄附には、寄附をする個人と、寄附を受ける法人の双方に税務上の論点があります。ここでは、設計段階で知っておきたい基本だけを整理します。

    財産を寄附した個人:みなし譲渡と非課税の特例

    個人が土地・建物・株式などを法人に寄附すると、寄附した時の時価で譲渡があったものとみなされ、それまでの値上がり益に所得税が課されるのが原則です。ただし、公益法人等への寄附で一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税が非課税となる特例があります(租税特別措置法第40条)。承認申請は、原則として寄附の日から4か月以内に、寄附者の所得税の納税地を所轄する税務署に提出します。

    国税庁は、この承認の要件として、寄附が公益の増進に著しく寄与すること、寄附財産が寄附の日から2年を経過する日までに公益目的事業の用に直接供されること、寄附者や親族等の税負担を不当に減少させる結果とならないことなどを示しています。

    寄附を受けた法人:持分の定めのない法人への課税

    持分の定めのない法人(一般財団法人など)に財産が寄附され、それによって寄附者の親族等の相続税や贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。国税庁の通達では、運営組織が適正であるか、特別の利益を与えていないかなどが、その判定の考え方として示されています。

    相続財産を寄附する場合

    相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに公益財団法人などの一定の法人に寄附した場合、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。ただし、寄附を受けた法人が2年以内に公益目的事業に用いないなどの場合には適用されません。また、この特例の対象法人には、公益認定を受けていない一般財団法人は含まれません。

    いずれの制度も、要件や手続きが細かく定められており、寄附の時期・方法・受け手の法人の状態によって結論が変わります。設計の初期段階から、どの制度の適用を前提にするかを確認しておくことが重要です。

    令和7年4月からの公益法人制度改革

    公益法人制度は、令和6年5月に成立した公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(認定法)の改正により、令和7年4月1日から新しい制度に移行しています。内閣府は改正のポイントとして、次の3点を挙げています。

    • 財務規律の柔軟化・明確化:単年度で収支を均衡させる考え方(いわゆる収支相償)を見直し、中期的(5年間)に収支の均衡を図る考え方へ。将来の公益目的事業を充実させるための「公益充実資金」の創設、「遊休財産」から「使途不特定財産」への名称変更など
    • 行政手続の簡素化・合理化:収益事業等の内容の変更を認定事項から届出事項へ変更するなど
    • 自律的ガバナンスの充実と透明性の向上:外部理事・外部監事の導入(外部理事は、収益の額と費用・損失の額がいずれも3,000万円未満の小規模法人を除く)、定期提出書類の原則公表、区分経理の原則義務付けなど

    財団を設計する立場から見ると、この改正は「中長期の計画に沿って資金を積み立て、柔軟に使う」ことを認める方向である一方、「外部の目を入れた運営と情報開示」をより強く求めるものです。寄附者の想いを長く続けるうえでは、むしろ後押しになる面が大きいと言えます。

    実務上注意したいポイント

    設立前に「10年後の姿」を書いてみる

    設立時の熱意だけで進めると、数年後に財源や担い手の問題に直面することがあります。10年後にどの程度の規模で、誰が運営し、どのような成果が出ていればよいかを、一枚に書き出してみることをおすすめします。

    寄附は一度に行う必要はない

    財産の拠出は、設立時に全額を行う必要はありません。最初は小さな規模で設立し、活動の手応えを確かめながら、生前の寄附や遺言による寄附を段階的に組み合わせる設計も考えられます。ただし、寄附の方法と時期によって適用できる税制が異なる点には注意が必要です。

    事業承継と切り離さない

    自社株式や事業用の不動産を財団に拠出する場合、それは会社の株主構成や、後継者が確保できる議決権に直接影響します。財団の設計は、事業承継の計画と一体で検討することが欠かせません。事業承継の全体像は、関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    AEGISの視点

    AEGISは、社会貢献を「合理的な承継の帰結」と捉えています。

    事業や資産を次の世代に引き継ぐことを突き詰めて考えると、「家族に何を残すか」と同時に、「家族に残す必要のないもの、家族だけでは活かしきれないものをどうするか」という問いに行き当たります。会社の株式、地域とのつながり、創業者が大切にしてきた価値観——それらを社会の側に託すことは、承継を考え抜いた結果として、自然に選ばれる選択肢の一つです。

    その意味で、財団は節税の道具でも、名誉のための記念碑でもありません。寄附者の想いを、寄附者がいなくなった後も社会の中で働き続けるかたちに置き換える「器」です。器が長く使われるためには、目的の言葉、財源の見通し、判断する人の仕組みが、器そのものと同じくらい丁寧に設計されている必要があります。

    AEGISでは、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理し、その中に社会への還元を位置付けることを大切にしています。財団に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 財団は、拠出された財産に法人格を与える仕組みで、一般財団法人と、公益認定を受けた公益財団法人があります。
    • 社会貢献を続けるには、「目的・活動の形・財源・運営体制・器と税制」の5つを設計することが大切です。
    • 自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団の中に冠基金を設ける方法もあり、設立・運営の負担や後継者が担う実務を大きく軽くできます。
    • 法人の種類や税制は、目的や活動の形が固まった後に、手段として選ぶのが合理的です。
    • 財産の寄附には、みなし譲渡の非課税特例(租税特別措置法第40条)や持分の定めのない法人への課税(相続税法第66条第4項)など、寄附者・法人双方の税務論点があります。
    • 公益法人制度は令和7年4月1日から新制度に移行し、財務規律の柔軟化とガバナンス・透明性の強化が進められています。

    具体的な設計や税制の適用可否は、寄附する財産の種類、家族構成、事業承継の方針などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 財団をつくるには、どのくらいの財産が必要ですか?

    一般財団法人の設立には、設立者が拠出する財産の価額の合計が300万円以上であることが必要です。ただし、これは法律上の最低限であり、実際に必要な規模は、助成や事業の内容と、それを何年続けたいかによって大きく異なります。活動計画から逆算して検討することが大切です。

    Q. 財団を設立すれば、相続税や所得税はかからないのですか?

    一概には言えません。個人が株式や不動産を法人に寄附すると、原則として値上がり益に所得税が課されます。また、寄附を受けた法人の運営が寄附者の家族に私的に支配されているような場合などには、法人に贈与税や相続税が課されることがあります。非課税となる特例には要件と手続きがあり、適用できるかどうかは個別に確認が必要です。

    Q. 寄附者の家族が理事になることはできますか?

    なることはできますが、家族が運営を支配する形は避ける必要があります。たとえば国税庁は、寄附に係る譲渡所得等の非課税の承認の判定において、役員等のうち親族等の占める割合がそれぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあることなどを示しています。公益認定の基準にも、役員構成に関する制限があります。

    Q. 最初から公益財団法人として設立できますか?

    公益財団法人は、一般財団法人が行政庁の公益認定を受けることで成立します。そのため、まず一般財団法人を設立し、その後に公益認定を申請するのが基本的な流れです。

    Q. 自分で財団をつくらずに、社会貢献を長く続ける方法はありますか?

    あります。運営体制を備えた既存の財団の中に、寄附者の名前や想いを冠した基金を設ける方法です。目的や事業を自由に設計できる範囲は自ら設立する場合より限られますが、理事会・評議員会の運営や会計・報告を寄附者の家族が担う必要がなく、後継者に財団運営の負担を残さずに済みます。基金を設ける基準や事務運営費、税務上の取扱いは、受け手の財団や寄附の内容によって異なるため、事前の確認が必要です。

    Q. 財団の目的は、後から変更できますか?

    財団は設立者の意思を実現するための法人であるため、目的の変更には制約があります。設立時に、目的を狭すぎず広すぎない言葉で定めておくことが重要です。どの程度の変更が可能かは、定款の定めや法人の状況によって異なるため、個別の確認が必要です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
  • 相続対策と事業承継を一体で考える|会社の株式と個人の財産を別々に設計しないための全体像

    相続対策と事業承継を一体で考える|会社の株式と個人の財産を別々に設計しないための全体像

    事業オーナーの方から、「事業承継は会社の顧問税理士と、相続対策は銀行や不動産会社と、それぞれ相談している」というお話を伺うことがあります。窓口が分かれること自体は自然なことです。しかし、会社の株式とオーナー個人の財産を別々に設計すると、あとで両者がぶつかることがあります。

    結論から言えば、事業オーナーにとって相続対策と事業承継は、同じ一つの財産を別の角度から見ているにすぎません。自社株式は「会社の支配権」であると同時に「相続財産」でもあり、会社が使う土地は「事業の基盤」であると同時に「個人の財産」でもあるからです。

    この記事では、なぜ一体で考える必要があるのか、どのような順番で全体を設計すればよいのかを、相続・資産承継カテゴリの入口として整理します。

    相続対策と事業承継は、なぜ切り離せないのか

    事業承継は「経営と株式を後継者に引き継ぐこと」、相続対策は「個人の財産を家族に円滑に引き継ぐこと」と説明されることが一般的です。ところが事業オーナーの場合、次のような理由から両者は重なり合います。

    • 財産の多くが自社株式である:業績のよい会社ほど株式の評価額は高くなりますが、非上場株式は簡単に売却できません。評価は高いのに換金できない財産が、相続財産の中心にあることになります。
    • 会社が使う資産を個人が持っている:本社や工場の土地・建物をオーナー個人が所有し、会社に貸しているケースは少なくありません。
    • 会社と個人の間に貸し借りがある:オーナーから会社への貸付金は、相続が起きればオーナーの相続財産になります。会社の借入れに対する経営者保証も、承継時の論点です。
    • 後継者以外の家族がいる:株式を後継者に集めれば、他の家族には別の財産を渡す必要が出てきます。

    つまり、「株式を誰に渡すか」という事業承継の判断は、そのまま「他の財産を誰にどう分けるか」「相続税をどう納めるか」という相続の判断に波及します。片方だけを先に固めると、もう片方の選択肢が狭まってしまうのです。

    相続で解決すべき4つの課題

    AEGISでは、事業オーナーの相続・資産承継を、次の4つの課題に分けて整理しています。

    課題中心となる問い事業オーナーに特有の論点
    分ける誰に、何を渡すか自社株式を後継者に集中させたときの、他の家族とのバランス
    納める相続税をどう支払うか換金しにくい自社株式・不動産が中心で、現預金が少ない
    続ける事業と資産の管理をどう続けるか後継者が経営に必要な議決権を確保できるか
    減らす税負担をどう適正に抑えるか株式の評価や移転の時期・方法の選択

    多くの相続対策は「減らす」から語られます。しかし、税負担を抑えるために株式を家族に広く分散させれば「続ける」が損なわれ、評価額を下げることだけに注力すれば「納める」「分ける」の準備が後回しになります。AEGISでは、「分ける」「納める」「続ける」の見通しを立てたうえで、その範囲内で「減らす」を考える順番をおすすめしています。

    まず押さえたい相続税の基本ルール

    全体を設計するうえで、最低限知っておきたい相続税のルールを確認します(いずれも国税庁タックスアンサー、令和8年4月1日現在法令等)。

    • 基礎控除:相続税の計算では、遺産の総額から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引きます。これを超える部分に相続税がかかります。
    • 計算の流れ:基礎控除後の金額をいったん法定相続分で分けたものとして税額を計算し、その合計(相続税の総額)を、実際に財産を取得した割合に応じて各人に割り振ります。
    • 申告と納税の期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
    • 延納:金銭で一度に納めることが難しい場合、税額が10万円を超えることや担保の提供などの要件を満たせば、分割での納付(延納)を申請できます。ただし延納期間中は利子税がかかります。

    ここで重要なのは、相続税の計算方法そのものよりも、10か月という期限の中で、遺産の分け方を決め、納税資金を用意しなければならないという時間的な制約です。自社株式や不動産が財産の中心であるほど、この制約は重くなります。相続税の概算に必要な情報については、関連記事(相続税の概算に必要な情報)で整理しています。

    財産の種類ごとに見える論点

    事業オーナーの財産を種類ごとに見ると、それぞれが「事業」と「相続」の両面を持っていることが分かります。

    財産の種類事業承継の視点相続の視点
    自社株式後継者の議決権・経営の安定評価額が高くなりやすく、換金しにくい
    会社が使う不動産(個人所有)事業の継続に不可欠後継者以外が相続すると、会社との賃貸関係が不安定になり得る
    賃貸用不動産管理の担い手が必要収益を生むが、分割しにくく共有になりやすい
    金融資産(現預金・上場株式等)直接の関係は薄い納税資金や、後継者以外への配分の原資になる
    会社への貸付金会社の資金繰りに影響額面で相続財産になり、回収の見通しが問題になる
    生命保険—死亡保険金のうち一定額(500万円×法定相続人の数)は非課税。納税資金・分割の調整に使える

    たとえば、相続財産の大部分が自社株式で、現預金が少ないケースを考えてみます。株式を後継者に集めると、他の家族に渡す財産が足りず、後継者は多額の相続税を負担することになります。後継者が納税資金を用意できなければ、結果として会社が株式を買い取る(自己株式の取得)などの形で会社の資金が使われ、事業の財務に影響が及ぶこともあります。

    財産の種類ごとの組み合わせ方は、関連記事(自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継)で詳しく解説しています。

    財産を「いつ」「どの方法で」移すか

    財産を次世代に移す方法は、大きく分けて次のとおりです。

    • 相続(遺言を含む):亡くなったときに移る。遺言で、誰に何を渡すかを指定できます。
    • 生前贈与:生きているうちに無償で移す。贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの方式があります。
    • 売買:対価を受け取って移す。後継者や資産管理会社などに買い取ってもらう方法です。
    • 制度の活用:非上場株式について、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「法人版事業承継税制」などがあります。特例措置を使う場合の特例承継計画の提出期限は、令和9年(2027年)9月30日とされています(中小企業庁)。

    どの方法にも長所と制約があり、財産の種類や家族の状況によって適したものは異なります。また、生前贈与のルールは令和5年度の税制改正で大きく変わり、相続前の贈与を相続財産に加える期間が段階的に延びつつあります。贈与と相続の使い分けについては、関連記事(生前贈与と相続をどう使い分けるか)で解説しています。

    一体で設計するための6つのステップ

    AEGISでは、相続対策と事業承継を一つの計画として整理するために、次の順番で進めることをおすすめしています。

    1. 財産と関係の棚卸し:個人の財産、会社の株主構成、会社と個人の貸し借りや保証、関係会社などを一覧にします。財産や会社が多い場合の整理の仕方は、関連記事(複数の会社・資産にまたがる財産の整理)で扱っています。

    2. 現時点の相続税の試算:「今、相続が起きたら」を前提に概算します。精緻さよりも、規模感と納税資金の過不足を把握することが目的です。

    3. 方針の言語化:事業を誰に、どのような形で継ぐか。家族それぞれに何を残したいか。社会や地域に何を還元したいか。
    4. 配分案(分ける)と納税資金の見通し(納める):株式・不動産・金融資産を誰に配分するか、相続税をどの財産で納めるかを、仮の案として組み立てます。
    5. 手段の選択(減らす・続ける):贈与・売買・遺言・制度の活用などを、配分案を実現する手段として位置付けます。
    6. 定期的な見直し:株価、不動産の価値、家族の状況、税制は変わります。試算と配分案は、少なくとも年に一度は見直します。

    ポイントは、ステップ5の「手段」から始めないことです。「この節税策がよいと聞いた」という入口から始めると、方針や配分との整合が確認されないまま実行されてしまうことがあります。

    事業承継そのものの進め方は、関連記事(事業承継は何から始めるべきか)で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    税負担の軽減を目的に株式を分散させない

    相続税を抑える目的で自社株式を多くの家族に少しずつ移すと、その時点の税負担は軽く見えても、次の世代で議決権がまとまらず、後継者の経営判断が難しくなることがあります。株式の移転は、税額だけでなく、承継後の株主構成から逆算して設計することが大切です。

    「贈与したつもり」と「制度の要件」のずれに注意する

    生前贈与は計画的に行えば有効な手段ですが、制度ごとに要件や相続時の扱いが異なります。たとえば、相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には、相続時に小規模宅地等の特例を適用できません(国税庁 No.4124)。事業用や居住用の土地を贈与で移すかどうかは、相続時の評価への影響も含めて判断する必要があります。

    相続人が海外に住んでいる場合

    相続人の中に海外在住の方がいると、課税される財産の範囲や手続きが国内だけの相続と異なる場合があります。該当する可能性がある場合は、早めに論点を確認しておくことが望まれます(関連記事:海外在住の相続人がいる場合の準備)。

    不動産の名義と登記を整えておく

    令和6年4月から、相続登記の申請が義務化されています(法務省)。相続により不動産の所有権を取得した人は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となります(不動産登記法76条の2・164条)。先代から名義が変わっていない不動産が残っていると、相続時の手続きや売却に時間がかかります。棚卸しの段階で登記の状況も確認しておくと安心です。

    AEGISの視点

    事業オーナーの相続を、AEGISは「会社と個人の境界線を、次の世代に合わせて引き直す機会」と捉えています。

    オーナーが一代で築いた事業では、会社の財産と個人の財産、経営判断と家族の事情が、良くも悪くも一体となって動いてきました。それがオーナーの強さでもあります。しかし次の世代では、後継者が経営を担い、他の家族は株主や財産の受け手になるなど、役割が分かれていきます。そのとき、どの財産を会社に置き、どの財産を個人で持ち、誰がどの立場で関わるのかを設計し直す必要があります。

    その設計図は、税金の計算だけでは描けません。事業の将来、不動産の収益性や所有のあり方、家族一人ひとりの生活、そしてオーナーが事業を通じて社会に何を残したいか——たとえば財産の一部を公益のために役立てるという選択も、全体像の中で初めて合理的に位置付けられます。AEGISが事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として扱うのは、そのためです。

    自社株式の一部を財団に寄附する場合も、議決権のない配当優先株式を寄附し、議決権のある株式は後継者に承継するといった設計をとれば、後継者の経営権を損なわずに社会への還元を組み込めます。自ら財団を設立する代わりに、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に基金を設ける形なら、相続後に家族や後継者が財団の運営を担う必要もありません。寄附に伴う税務上の取扱いは、寄附の時期や財団の状況によって異なるため、個別の確認が前提です。

    相続・事業承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 事業オーナーにとって、相続対策と事業承継は同じ財産を別の角度から見たものであり、切り離して設計すると両者がぶつかります。
    • 相続の課題は「分ける・納める・続ける・減らす」の4つ。税負担の軽減(減らす)は、他の3つの見通しを立てたうえで考えるのが基本です。
    • 相続税の申告・納税期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内。自社株式や不動産が中心の財産ほど、納税資金の準備が重要になります。
    • 進め方は「棚卸し → 試算 → 方針 → 配分と納税資金 → 手段 → 見直し」の順が基本です。
    • 具体的な対策の適否は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続対策と事業承継は、どちらを先に考えるべきですか?

    どちらか一方を先に確定させるのではなく、同時に全体を見渡すことをおすすめします。具体的には、まず個人と会社の財産・株主構成を一覧にし、現時点の相続税を概算したうえで、事業を誰にどう継ぐかの方針と、家族への配分の方針を並べて検討します。

    Q. 相続税がかからない見込みなら、相続対策は不要ですか?

    相続税がかからなくても、「分ける」と「続ける」の課題は残ります。たとえば、自社株式が複数の相続人に分かれて相続されると、後継者の経営に影響が出ることがあります。また、株価や不動産の価値は変動するため、試算は定期的に見直すことが望まれます。

    Q. 自社株式で相続税を納めることはできますか?

    相続税は金銭で一括して納めるのが原則で、それが難しい場合に延納(分割払い)や物納という例外的な方法があります。ただし、いずれも要件があり、非上場株式で納めることは簡単ではありません。自社株式が財産の中心である場合は、生前から納税資金の確保を計画しておくことが重要です。

    Q. 会社が使っている土地を個人で持っていますが、何か問題はありますか?

    それ自体が問題というわけではありません。ただし、相続時にその土地を後継者以外の家族が相続すると、会社との賃貸関係や賃料をめぐって調整が必要になることがあります。土地を誰が相続するか、会社や資産管理会社が所有する形にするかなどを、事業承継の計画と合わせて検討しておくとよいでしょう。

    Q. 生命保険は相続対策として有効ですか?

    死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかからない仕組みがあり(相続人が受け取る場合)、納税資金の確保や、後継者以外の家族への配分の調整に役立つことがあります。ただし、保険料の負担者や受取人の設定によって課税関係が変わるため、全体の配分案の中で位置付けることが大切です。

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    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報