資産管理会社をつくるとき、多くのオーナーは「どの不動産を会社に入れるか」「会社でどう収益を受けるか」に関心を向けます。しかし、会社をつくった瞬間から、オーナーが次の世代に引き継ぐ財産は、個々の不動産から会社の株式と、会社を動かす権限(経営権)へと置き換わっています。
資産管理会社の承継で問われるのは、会社が持つ不動産をどう評価するかだけではありません。誰が株式を持ち、誰が議決権を行使し、誰が役員として物件の管理や借入れの判断を担うのか——「会社そのもの」をどう引き継ぐかが本当の論点です。
この記事では、資産管理会社の承継を「株式(財産)」「議決権(支配)」「役員と実務(経営)」の3つに分けて、確認すべきポイントを整理します。
資産管理会社の承継で引き継ぐもの
資産管理会社の承継で次の世代に渡すものを分解すると、次のようになります。
| 引き継ぐもの | 内容 | 主な論点 |
|---|---|---|
| 株式(財産) | 会社の財産価値に対する持分 | 株式の評価額、贈与・相続の税負担、納税資金 |
| 議決権(支配) | 株主総会で会社の重要事項を決める権利 | 株式の分散、議決権の集約、家族間の意見対立 |
| 役員の地位(経営) | 代表者・取締役として会社を運営する立場 | 誰が代表者になるか、交代の時期 |
| 管理の実務 | 物件管理、入居者対応、金融機関・管理会社との関係、会計 | 情報の引継ぎ、担い手の確保 |
| オーナーとの関係 | 会社への貸付金、会社に貸している土地、保証 | 貸付金の相続、土地の貸し借りの継続 |
※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。
事業会社の事業承継と同じく、資産管理会社でも「株式を渡すこと」と「経営を任せること」は別の問題です。株式だけを移しても、物件の管理や借入れの判断を担える人がいなければ、会社は機能しません。
株式(財産):資産管理会社の株式はどう評価されるか
取引相場のない株式としての評価
資産管理会社の株式は、通常、上場していない「取引相場のない株式」として、相続税・贈与税の計算上評価されます。国税庁によれば、取引相場のない株式は、株式を取得した人の立場や会社の規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などにより評価します(国税庁 No.4638)。
なお、国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しており、資産管理会社については純資産価額方式で評価することを前提に、その判定方法(土地保有特定会社と株式等保有特定会社の整理統合など)が論点とされています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。
「特定の評価会社」に該当しやすい
資産管理会社は、総資産の多くを土地や株式で保有していることが多いため、相続税の評価上、「特定の評価会社」に該当する場合があります。財産評価基本通達では、次のような会社が定められています。
| 区分 | 判定の基準(総資産価額に占める割合) |
|---|---|
| 株式等保有特定会社 | 株式・出資・新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上 |
| 土地保有特定会社(大会社など) | 土地等の価額の合計額の割合が70%以上 |
| 土地保有特定会社(中会社など) | 土地等の価額の合計額の割合が90%以上 |
※土地保有特定会社の判定では、小会社であっても総資産価額が一定以上の会社は、大会社・中会社と同じ基準で判定されます(財産評価基本通達189)。
特定の評価会社に該当すると、原則として純資産価額方式により評価されるなど、一般の会社とは異なる方法で評価されます。純資産価額方式は、会社が持つ資産を相続税評価額で評価し直し、負債などを差し引いて株価を求める方法です。つまり、会社が持つ不動産の価値や、会社に蓄積された利益が、そのまま株価に反映されやすいということです。
評価のために資産構成を動かすことには注意
評価会社の判定に関しては、課税時期の前に合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが特定の評価会社と判定されることを免れるためと認められる場合には、その変動はなかったものとして判定する取扱いがあります(財産評価基本通達189なお書。株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定が対象)。株価を下げることだけを目的にした資産の組替えは、期待した結果にならない可能性があります。
オーナーとの土地の貸し借りも株価に影響する
資産管理会社がオーナー個人の土地を借りて建物を所有している場合、会社が持つ借地権を株式の評価上どう扱うかについて、地代の授受の状況や「土地の無償返還に関する届出書」の有無に応じた取扱いがあります。たとえば、相当の地代を支払っている場合や、無償返還の届出をしたうえで地代を支払っている(賃貸借の)場合で、オーナーが会社の同族関係者であるときは、オーナーの土地(貸宅地)が自用地価額の80%で評価される一方、土地の自用地としての価額の20%相当額を借地権の価額として、会社の株式評価上の純資産価額に算入するとされています(国税庁の昭和43年・昭和60年の通達)。土地をオーナー個人に残して建物だけを会社に移したケースでは、オーナー個人の土地の評価と、会社の株式の評価をセットで確認する必要があります。この論点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」でも解説しています。
非上場株式の評価方法の全体像は、関連記事「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。
議決権(支配):株式の分散をどう防ぐか
資産管理会社でも議決権の集約は重要
株式会社の重要事項は、株主総会で決まります。役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。
資産管理会社の場合、株主総会や取締役会で決めることには、物件の売却・購入、建替え、多額の借入れ、役員報酬、配当などがあります。相続によって株式が複数の相続人に分かれると、これらの判断がまとまらず、物件の修繕や売却が進まなくなることがあります。不動産の共有を避けるために会社をつくったのに、今度は株式の「共有」状態で同じ問題が起こる——資産管理会社の承継で最も避けたい事態の一つです。
分散を防ぐための主な手段
議決権の分散を防ぐ手段としては、次のようなものが検討されます。
- 生前に後継者へ株式を移転する:贈与や売買により、後継者が議決権の過半数(または3分の2以上)を確保できるようにする
- 遺言で承継先を定める:株式を誰に相続させるかを明確にしておく
- 定款を整える:株式の譲渡制限や、相続人等に対する売渡請求の定めを置く
- 種類株式などを活用する:議決権と財産権を分けて設計する(議決権のない株式を後継者以外に渡す など)
- 株主間の取り決めを結ぶ:家族間で議決権の行使や株式の譲渡について合意しておく
どの手段にも、税負担、他の相続人の遺留分、手続きの負担などの論点があり、組み合わせて検討するのが一般的です。議決権と配当を分けて設計する考え方は、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で解説しています。
設立時の株主構成が出発点
資産管理会社の承継で見落とされがちなのは、設立時にどの株主構成でスタートしたかが、その後の承継の難易度を大きく左右することです。オーナーが全株を持つ形で設立すれば、会社に蓄積された財産はオーナーの株式の価値として相続財産に反映されます。後継者が設立時から株式を持つ形にすれば、その後の財産の増加は後継者の株式に帰属します。
ただし、どちらが適しているかは、オーナー自身の生活資金、家族間の公平、会社の意思決定の安定性などによって異なります。家族内で意見の対立が生じても会社の運営が止まらないよう、議決権の配分や行使の方法をあらかじめ検討しておくことが重要です。
役員と実務(経営):誰が会社を動かすか
代表者の交代と株式の移転は別に設計できる
事業会社と同様に、代表者を交代する時期と株式を移転する時期は、必ずしも同じである必要はありません。たとえば、後継者を早めに取締役に就任させて実務に関わらせ、株式は段階的に移していく設計も考えられます。
管理実務の「見える化」
資産管理会社では、オーナーが一人で物件の情報や関係者とのやり取りを抱えていることが少なくありません。承継に備えて、次のような情報を一覧にしておくことが大切です。
- 保有物件ごとの所在地、取得時期、借入金、担保、賃貸借契約、管理会社
- 修繕の履歴と今後の修繕計画
- 金融機関、税理士、管理会社など関係者の連絡先と担当範囲
- 会社とオーナー個人の間の貸付金・借入金、土地の賃貸借契約、届出書類の控え
- 会社の定款、株主名簿、議事録
これらが整理されていないと、株式を承継しても、後継者が会社を運営できない状態に陥ることがあります。
オーナー個人との関係も引き継ぐ
オーナーが会社に資金を貸し付けている場合、その貸付金はオーナーの相続財産になり得ます。また、オーナー個人の土地を会社が借りている場合は、土地を相続する人と会社の株式を相続する人が異なると、地代や土地の利用をめぐって利害が対立する可能性があります。土地を相続する人と、株式を相続する人の組み合わせも、承継の設計の一部として考えておく必要があります。
実務上注意したいポイント
事業承継税制の対象になるとは限らない
非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する法人版事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出期限が令和9年(2027年)9月30日とされています(中小企業庁)。ただし、この制度には対象となる会社の要件があり、現預金などの「特定資産」が帳簿価額で総資産の70%以上を占める資産保有型会社や、特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上を占める資産運用型会社は、3年以上継続して商品の販売等の業務を行い、親族外の常時使用従業員が5人以上いて、その従業員が勤務する事務所等を所有または賃借しているといった事業実態の要件を満たさない限り、対象となりません(租税特別措置法70条の7・70条の7の5、同法施行令40条の8・40条の8の5)。資産管理会社の株式について制度の利用を考える場合は、要件に該当するかを個別に確認する必要があります。
子どもごとに会社を分けるという選択肢
後継者が複数いる場合、物件を複数の資産管理会社に分け、それぞれの会社を別々の子に承継させる方法が検討されることもあります。一方で、会社の数が増えるほど維持の手間は増え、どの会社が何を持っているのかが分かりにくくなります。複数の会社がある場合には、機能を整理して集約する選択肢もあります。
株価の上昇を前提に計画する
資産管理会社は、収益が会社に蓄積されるほど株価が上がりやすい構造です。株式の移転を先送りにすると、移転時の税負担が大きくなる可能性があります。会社に利益を残すのか、報酬や配当として個人に移すのかという配分とあわせて、株式移転の時期を考えることが大切です。
AEGISの視点
資産管理会社は「つくること」よりも「引き継ぐこと」のほうが難しい——AEGISはそう考えています。
会社をつくることで、不動産の共有や細分化を避け、管理を一元化することができます。しかしその効果は、株式と議決権が次の世代にうまく引き継がれて初めて実現します。株式が分散し、意思決定ができなくなれば、会社は不動産を守る器ではなく、家族の対立の舞台になってしまいます。
そのためAEGISでは、資産管理会社を「家族が共有する財産を、ルールに基づいて運営するための仕組み」として捉え、株式の評価と税負担だけでなく、誰が会社を支配し、誰が実務を担い、家族がどのように関わるのかを一体で設計することを重視しています。会社の定款や株主構成は、いわば家族の財産に関する「ルールブック」です。そのルールを、オーナーの意思が明確なうちに整えておくことが、資産管理会社の承継の出発点です。
資産管理会社の設立から承継までの全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継の考え方は「自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継」で解説しています。
株式の評価や承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 資産管理会社を設立すると、次の世代に引き継ぐのは不動産ではなく、会社の株式・議決権・役員の地位・管理の実務です。
- 資産管理会社は土地保有特定会社や株式等保有特定会社に該当しやすく、会社の資産や蓄積された利益が株価に反映されやすい構造です。
- 株式が相続人に分散すると、物件の売却や借入れなどの意思決定が難しくなります。生前の移転、遺言、定款、種類株式などを組み合わせて議決権の集約を検討します。
- 代表者の交代と株式の移転は別々に設計でき、管理実務の情報を一覧にしておくことが承継の前提になります。
- 土地を相続する人と株式を相続する人の組み合わせ、オーナーの貸付金の扱いも、承継の設計に含める必要があります。
具体的な評価額や承継の方法は、会社の資産構成や家族構成などの個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 資産管理会社の株式は、どのように評価されますか?
相続税・贈与税の計算上は、通常、取引相場のない株式として評価されます。資産管理会社は土地や株式の保有割合が高いことが多く、土地保有特定会社や株式等保有特定会社に該当すると、原則として純資産価額方式により評価されるなど、一般の会社とは異なる方法になります。
Q. 土地保有特定会社とは何ですか?
財産評価基本通達で定められた特定の評価会社の一つで、総資産価額に占める土地等の価額の割合が一定以上の会社をいいます。大会社などでは70%以上、中会社などでは90%以上が基準とされ、小会社でも総資産価額が一定以上であれば判定の対象となります。
Q. 資産管理会社の株式を、複数の子どもに均等に相続させてもよいですか?
可能ですが、株式が分散すると、物件の売却や借入れ、役員の選任などの意思決定が難しくなることがあります。均等に分ける場合には、議決権のない株式の活用や株主間の取り決めなど、意思決定の方法をあわせて設計しておくことが望まれます。
Q. 後継者に役員を任せれば、株式はまだ移さなくてもよいですか?
代表者の交代と株式の移転は別々に設計できます。ただし、株式をオーナーが持ち続けると、会社に利益が蓄積されるほど株価が上がり、将来の移転時の税負担が大きくなる可能性があります。経営の移行と株式の移転の時期を、それぞれ計画的に決めることが大切です。
Q. 資産管理会社でも事業承継税制は使えますか?
一概には言えません。法人版事業承継税制には対象となる会社の要件があり、資産の保有や運用が中心の会社は、一定の場合に対象とならない仕組みがあります。制度の利用を検討する場合は、特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)も踏まえ、要件を個別に確認する必要があります。
関連するAEGISのソリューション
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- 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
- 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。
参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 財産評価基本通達「(特定の評価会社の株式)」(189)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/05.htm
確認日:2026-10-07 - 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)について」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「会社法」(施行日2026-08-12版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「租税特別措置法」(施行日2026-10-01版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「租税特別措置法施行令」(施行日2026-07-31版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043
確認日:2026-10-09 - 国税庁「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日 直資2-58・直評9、最終改正 平成17年5月31日)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/850605/01.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(昭和43年10月28日 直資3-22ほか)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/681028/01.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁『取引相場のない株式の評価に関する有識者会議』資料(第1回〜第6回、2026年4月〜)
確認日:2026-10-09
書籍
- 『令和8年版 非上場株式の評価の仕方と記載例』松本好正 著、一般財団法人大蔵財務協会、P.194-205








