不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか|路線価・固定資産税評価額・時価の関係

住宅と商業施設が混在する街の俯瞰

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相続税の試算で示された不動産の評価額と、不動産会社から提示された査定価格を見比べて、「なぜこんなに違うのか」と感じたことはないでしょうか。どちらかが間違っているわけではありません。二つの数字は、そもそも異なる目的のために、異なる方法で求められた価格です。

結論から言えば、相続税評価額は「多くの納税者が同じ基準で申告できるように、標準化された方法で求める課税のための価格」であり、売却価格は「その物件を、その時点で、特定の買い手がいくらで買うか」という個別の価格です。この記事では、不動産をめぐる主な価格の関係を整理し、評価額と売却価格に差が生まれる理由、そして令和6年1月から適用されている居住用マンションの評価の見直しについて解説します。

不動産をめぐる主な価格

不動産には、目的に応じていくつもの「価格」があります。相続や売却の判断に関わる主なものを整理します。

価格目的求め方・水準の目安根拠
売却価格(取引価格)実際の売買売り手と買い手の合意で決まる。周辺の取引事例や収益力などを基に査定される個々の取引
路線価相続税・贈与税の土地評価毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定国税庁
固定資産税評価額固定資産税などの課税宅地は地価公示価格等の7割を目途に評価。土地・家屋は3年ごとに評価替え総務省
相続税評価額相続税・贈与税の課税土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額×1.0国税庁

相続税の土地評価では、路線価が定められている地域では路線価に土地の形状などに応じた補正をして面積を乗じ、路線価が定められていない地域では固定資産税評価額に地域ごとの倍率を乗じて評価します。建物は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります(国税庁 No.4602)。

つまり、相続税評価額は、もともと市場価格より低めの水準に設定された基準(路線価や固定資産税評価額)を出発点にしているのです。

相続税評価の原則は「時価」

ここで一つ疑問が生まれます。相続税法では、相続や贈与で取得した財産の価額は、取得の時における時価によるとされています(相続税法第22条)。それなのに、なぜ市場価格より低い水準の評価が使われるのでしょうか。

国税庁は、土地の時価を納税者自身が把握するのは必ずしも容易ではないことから、申告の便宜と課税の公平の観点で、毎年、路線価と評価倍率を定めて公開していると説明しています。路線価が地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途にしているのは、1年間の地価の変動なども考慮したうえでの設定です(国税庁「令和8年分の路線価等について」)。

言い換えれば、相続税評価額は「その物件の本当の時価」をピンポイントで求めるものではなく、全国の土地を同じ基準で、安定的に評価するための仕組みです。

評価額と売却価格に差が生まれる5つの理由

相続税評価額と売却価格の差は、主に次の5つの理由から生まれます。

1. 評価の水準がもともと異なる

前述のとおり、路線価は地価公示価格等の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は7割程度を目途に定められています。市場で地価公示価格程度の取引が成立する地域であれば、それだけで評価額と市場価格の間には一定の差があることになります。

2. 評価の時点がずれている

路線価は毎年1月1日が評価時点であり、固定資産税の土地・家屋の評価は3年ごとに見直され、それ以外の年度は原則として据え置かれます(総務省)。一方、売却価格は売買の時点の市場で決まります。地価が上昇・下落している局面では、この時点のずれが差を大きくします。

3. 標準化された評価では個別性を拾いきれない

路線価は、その道路に面する標準的な宅地を前提にした価格です。相続税評価では、奥行きや間口、形状などに応じた補正を行いますが、眺望、日当たり、周辺の人気、建物の使い勝手といった個別の魅力や欠点まですべてを反映するものではありません。人気の高い立地では売却価格が評価額を大きく上回り、反対に需要の乏しい土地では、売却価格が評価額に届かないこともあります。

4. 建物の評価の考え方が違う

相続税評価では、建物は固定資産税評価額で評価されます。一方、売買の現場では、建物の状態や修繕の履歴、間取り、賃貸物件であれば賃料収入などによって価格が判断されます。特に賃貸物件の売買では、物件が生み出す収益から価格を考える方法が用いられることが多く、評価額とは異なる尺度で値付けされます。

5. 貸している不動産の評価のしかた

アパートなど自分で建てて貸している建物の敷地(貸家建付地)は、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を用いて計算した額を差し引いて評価されます(国税庁 No.4614)。相続税評価では「貸していること」が減額の要因になる一方、市場では満室で安定した賃料を生む物件は収益物件として評価され、必ずしも価格が下がるわけではありません。ここでも二つの価格は別の方向を向くことがあります。

居住用マンションの評価の見直し(令和6年1月1日以後)

評価額と市場価格の差が特に大きくなりやすかったのが、分譲マンションです。マンションは一室あたりの敷地の持分が小さく、建物の固定資産税評価額も市場での取引価格に比べて低くなりやすいため、相続税評価額が市場価格を大きく下回るケースが見られました。

こうした状況を受け、国税庁は「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を定め、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)について、新しい評価方法を適用しています(国税庁 No.4667)。

新しい評価方法の考え方

新しい方法では、従来の方法で求めた建物(区分所有権)と敷地(敷地利用権)の価額に、それぞれ「区分所有補正率」を乗じて評価します。区分所有補正率は、築年数、総階数、所在階、敷地持分の狭さ(敷地持分狭小度)の4つの要素から算出される「評価乖離率」と、その逆数である「評価水準」をもとに決まります。

評価水準区分所有補正率の扱い
0.6未満評価乖離率×0.6を乗じる(評価額が引き上げられる)
0.6以上1以下補正なし
1超評価乖離率を乗じる(評価額が引き下げられる)

(国税庁 No.4667 を基にAEGISが整理)

つまり、相続税評価額が市場価格の水準と比べて低すぎるマンションは、一定の水準まで評価額が引き上げられることになりました。

対象にならないもの

次のようなものは、この評価方法の対象外とされています(国税庁 No.4667)。

  • 構造上、主として居住の用途に供されていないもの
  • 区分建物の登記がされていないもの
  • 地階を除く階数が2以下のもの
  • 居住用の専有部分が3以下で、その全てを区分所有者またはその親族の居住用に供しているもの
  • 事業用のたな卸商品等に該当するもの

この見直しは、「評価額と市場価格の差」が制度の側から是正されることがある、という事例でもあります。評価額の低さを前提に資産の組み方を決めていた場合は、制度の変更によって前提が変わり得ることを意識しておく必要があります。

場面ごとに、どの価格を見るか

評価額と売却価格はどちらも正しい数字ですが、使う場面が異なります。判断の場面ごとに、どの価格を中心に見るべきかを整理します。

場面中心に見る価格理由
相続税の申告・試算相続税評価額課税価格の計算に用いるため
納税資金のための売却売却価格(手取り額)実際に手元に入る資金が問題になるため
遺産分割の話し合い相続人間で合意した基準(評価額か時価か)どちらの価格を使うかで、相続人間の公平感が変わるため
持ち続けるか売るかの判断売却価格と、持ち続けた場合の収益資産としての実質的な価値を比べるため

特に遺産分割では、ある相続人が評価額の低い不動産を取得し、別の相続人が現金を取得すると、評価額の上では公平でも、実際の価値では不公平に感じられることがあります。分割の基準をどの価格に置くかを、話し合いの最初に確認しておくことが大切です。

実務上注意したいポイント

  • 評価額の低さだけで不動産を選ばない:評価額が市場価格より低いことは事実でも、その不動産が収益を生み、売りたいときに売れるかどうかは別の問題です。
  • 評価額が市場価格を上回ることもある:形状や接道の条件が悪い土地や、需要の乏しい地域の土地などでは、評価額のほうが高くなることもあり得ます。その場合の取扱いは個別に検討が必要です。
  • 制度の変更を前提に点検する:マンションの評価の見直しのように、評価の方法は変わることがあります。制度が変わったときに保有不動産と承継計画の何を見直すべきかは、関連記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で整理しています。

AEGISの視点

不動産の価格の話になると、「評価額を下げれば相続税が下がる」という一点に関心が集まりがちです。しかしAEGISは、評価額と売却価格の差を、「相続税の計算上の価値」と「家族にとっての実質的な価値」のずれとして捉えることが大切だと考えています。

相続税の計算上は有利な不動産でも、売れにくく、収益も乏しく、相続人の誰も使わないのであれば、家族にとっての実質的な価値は小さいかもしれません。反対に、評価額はそれなりに高くても、安定した収益を生み、いつでも売却できる不動産は、納税資金や相続人の生活を支える力を持っています。

AEGISでは、不動産を見るときに、相続税評価額・売却価格・収益力という複数の物差しを並べ、その不動産を誰がどのような形で持ち続けるのかという所有の設計とあわせて判断することを重視しています。相続の前にどのような確認をしておくべきかは関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で、購入から承継までの全体像は「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

不動産の評価や資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 相続税評価額と売却価格は、目的も求め方も異なる価格であり、一致しないのが普通です。
  • 路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は7割を目途に定められており、相続税評価はこれらを出発点にしています。
  • 差が生まれる主な理由は、評価の水準、評価の時点、標準化された評価と個別性、建物の評価の考え方、貸している不動産の評価のしかたです。
  • 令和6年1月1日以後に取得した居住用の分譲マンションには、評価額と市場価格の差を補正する新しい評価方法が適用されています。
  • 相続税の計算には評価額を、売却や保有の判断には売却価格や収益力を、場面に応じて使い分けることが大切です。
  • 具体的な評価額や売却価格は、物件ごとの個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 路線価は、実際に売れる価格の何割くらいですか?

国税庁は、路線価を地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めているとしています。ただし、実際の売却価格は個別の需給で決まるため、地域や物件によって路線価との関係は大きく異なります。一律に「売却価格の8割」と考えることはできません。

Q. 固定資産税評価額と相続税評価額は同じですか?

建物については、相続税評価額は固定資産税評価額に1.0を乗じた額とされているため、同じになります。土地については、路線価地域では路線価を基に評価するため、固定資産税評価額とは異なります。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に地域ごとの倍率を乗じて評価します。

Q. マンションの評価の見直しは、いつから適用されていますか?

令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)から適用されています。評価水準が0.6未満の場合は評価額が引き上げられ、1を超える場合は引き下げられ、その間であれば補正は行われません。

Q. 相続税評価額が売却価格より高い場合はどうなりますか?

形状や接道の条件、需要の状況などにより、相続税評価額が実際に売れる価格を上回ることもあり得ます。相続税の評価は時価が原則であるため、そのような場合の取扱いは、物件の状況や根拠資料に応じて個別に検討する必要があります。

Q. 遺産分割では、評価額と売却価格のどちらを使えばよいですか?

法律で一律に決まっているわけではなく、相続人間で合意した基準を用いるのが一般的です。評価額を基準にすると、不動産を取得する人と現金を取得する人との間で実質的な不公平感が生じることがあるため、話し合いの初めに基準となる価格を確認しておくことをおすすめします。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。