不動産の購入・保有・売却を一体で考える|所有形態・収益・承継までつなぐ判断の順番

建物模型と資料・電卓、グラフを映すノートパソコンを前に説明する手元

不動産を買うときは不動産会社や金融機関、持っている間は管理会社、確定申告は税理士、相続のときは司法書士や税理士——。不動産に関わる判断は、場面ごとに相談先が分かれるのが普通です。それぞれの専門家は自分の担当範囲では最善を尽くしますが、その結果として、購入時の判断が売却や相続の段階で足かせになることが少なくありません。

結論から言えば、不動産は購入する時点で「誰が、何のために、いつまで持ち、どのように手放すか(または引き継ぐか)」を仮置きしておくことが、最も確実な備えになります。この記事では、不動産の「購入 → 保有 → 売却・承継」を一つの流れとして捉え、各段階で何を確認すべきかを整理します。

なぜ不動産の判断は分断されやすいのか

不動産は、金額が大きく、保有期間が長く、関わる制度が多い資産です。一つの物件をめぐって、次のような異なる「ものさし」が同時に存在します。

  • 市場の価格:実際に売買が成立する価格
  • 収益の価値:賃料などから生まれる収益力
  • 税務上の評価:相続税・贈与税や固定資産税を計算するための評価額
  • 金融機関の評価:融資の担保としての評価

これらは目的が違うため、同じ不動産でも数字が一致しません。購入時には市場価格と収益だけを見て判断し、相続のときに初めて税務上の評価や納税資金の問題に気づく——こうした「時間差」が、判断の分断を生みます。

さらに、不動産の判断には家族が関わります。購入時は本人の判断だけで決められても、相続後は複数の相続人の合意が必要になることがあります。時間の経過とともに、意思決定に関わる人が増えていくのも不動産の特徴です。

不動産の一生を3つの局面で整理する

AEGISでは、不動産に関わる判断を次の3つの局面に分け、それぞれの局面が次の局面にどうつながるかを意識することをおすすめしています。

局面主な判断お金・税務の論点次の局面へのつながり
購入目的、物件、所有する人(名義)、資金計画取得費用、借入れ、取得費の記録名義と持分が、保有中の収益の帰属と将来の相続財産を決める
保有収益の管理、修繕、借入れの返済、評価の把握不動産所得、手元資金、相続税評価収益の蓄積先と評価額が、売却・承継の選択肢を左右する
売却・承継売るか、持ち続けるか、誰に引き継ぐか譲渡所得、相続税、納税資金次の世代の「購入」の出発点になる

この表のポイントは、右端の列です。各局面の判断は、その場で完結せず、必ず次の局面の前提条件になります。

購入時に決めておきたいこと

目的を言葉にする

不動産を買う目的は、自宅、賃貸収入、事業用、資産の保全、将来の承継などさまざまです。目的によって、重視すべき指標も保有期間も変わります。たとえば賃貸収入が目的なら、実際に手元に残る資金(キャッシュフロー)が中心になり、事業用であれば事業との一体性が重要になります。

目的が曖昧なまま購入すると、保有中や売却時に「何を基準に判断するか」が定まりません。

誰の名義で持つかを決める

購入時の最も重要な判断の一つが、所有する人(所有主体)です。

  • 個人で単独所有する
  • 夫婦や親子で共有する
  • 法人(資産管理会社や事業会社)が所有する

名義は、賃料などの収益が誰に帰属するか、どの税金がかかるか、そして将来の相続で何が相続財産になるかを決めます。個人で持てば不動産そのものが相続財産になり、法人で持てば相続財産になるのはその法人の株式です。

一度決めた名義を後から変えるには、売買や贈与などの手続きが必要になり、その時点で税金や費用が生じることがあります。個人と法人のどちらで持つかの比較は、関連記事「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で詳しく解説しています。

出口を仮置きする

購入時点で、将来の出口を仮に決めておきます。「10年程度で売却する」「子に引き継ぐ」「建替えを前提に長期保有する」などです。出口が仮置きされていれば、借入れの期間や修繕の方針、名義の選び方にも一貫性が生まれます。

購入時の記録を残す

売却時の税金(譲渡所得)は、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。購入時の契約書や費用の領収書は、売却や相続のずっと後になって必要になる書類です。保有期間が長くなるほど、記録の散逸が問題になります。

保有中に見ておきたいこと

収益と手元資金は別物として管理する

賃貸不動産では、帳簿上の利益と手元に残る資金は一致しません。借入金の元本返済は経費にならない一方で、建物の減価償却費は資金の支出を伴わない経費です。返済が進み、減価償却が少なくなる時期には、利益は出ているのに手元資金が減るということも起こります。

保有中は、少なくとも次の点を定期的に確認しておきたいところです。

  • 空室率や賃料の推移
  • 修繕・設備更新の見込みと、その資金
  • 借入れの残高と返済計画
  • 税引き後に手元に残る資金

相続税評価を把握しておく

相続税や贈与税では、財産は取得の時の時価で評価するのが原則とされ(相続税法第22条)、国税庁は財産評価基本通達で具体的な評価方法を定めています。不動産の場合の基本は次のとおりです(国税庁 タックスアンサーNo.4602)。

  • 土地(宅地):路線価が定められている地域は路線価方式、それ以外の地域は固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる倍率方式で評価
  • 建物(家屋):固定資産税評価額に1.0を乗じて評価(つまり固定資産税評価額と同じ)

さらに、アパートなどを建てて貸している土地(貸家建付地)は、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を用いて計算した金額を差し引いて評価します(国税庁 No.4614)。同じ土地でも、使い方によって評価額が変わるということです。

相続税評価額と実際に売れる価格がなぜ違うのかは、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

定期的に「持ち続ける理由」を確認する

保有中は、物件の状態や周辺の環境、家族の状況が少しずつ変わります。年に一度、決算や確定申告の時期などに、「この不動産を持ち続ける理由は今も有効か」を確認することをおすすめします。持ち続ける理由が弱くなった不動産は、売却や組替えの候補になります。

売却を考えるときに確認したいこと

譲渡所得の基本

個人が土地や建物を売却したときの所得(譲渡所得)は、他の所得と分けて税額を計算する分離課税です。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるものは長期譲渡所得、5年以下のものは短期譲渡所得に区分されます(国税庁 No.3202)。

区分所有期間(売却した年の1月1日時点)税率(国税庁による)
長期譲渡所得5年超所得税15%、住民税5%
短期譲渡所得5年以下所得税30%、住民税9%

※このほか復興特別所得税がかかります。居住用財産の特例など、要件を満たす場合に適用できる特例もあります(国税庁 No.3208、No.3211)。

所有期間の判定が「売却した日」ではなく「売却した年の1月1日」を基準にする点は、売却時期を考えるうえで見落としやすいポイントです。

相続した不動産を売る場合

相続した不動産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります(国税庁 No.3267)。相続税の納税資金のために不動産の売却を考える場合には、この期間を意識しておく必要があります。

売る・持つ・組み替えるを比べる

売却を検討するときは、「売った場合の手取り額」だけでなく、「持ち続けた場合に将来得られる収益と、相続時の評価・納税」もあわせて比べることが大切です。売却で得た資金を別の資産に組み替えれば、相続財産の構成も変わります。

承継を見据えて確認したいこと

不動産オーナーにとって、相続は避けて通れない局面です。相続が発生すると、次のような論点が一度に表面化します。

  • 期限:相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。
  • 評価:土地と建物の評価、貸している場合の減額、小規模宅地等の特例を適用できるかどうか。
  • 分割:誰がどの不動産を取得するか。分割が決まらないと、特例が使えない期間が生じることがあります。
  • 納税資金:不動産が財産の多くを占める場合、現金での納付が難しくなることがあります。
  • 登記:相続登記の申請は、令和6年4月1日から義務化されています(法務省)。

相続前に何を確認しておくべきかは、関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で詳しく整理しています。

実務上注意したいポイント

税金を理由に買わない

相続税評価額が市場価格より低くなることを理由に不動産を購入する考え方があります。しかし、税務上の評価だけを基準にすると、収益性や売却のしやすさ、修繕負担といった本来の判断軸が後回しになります。また、評価の方法自体が見直されることもあります。たとえば居住用の分譲マンションについては、令和6年1月1日以後の相続等から新しい評価方法が適用されています(国税庁 No.4667)。

共有は「先送り」になりやすい

相続で不動産を共有にすると、その時点では公平に見えても、売却や建替えなどの判断に複数の共有者の合意が必要になります。さらに次の相続で共有者が増えると、意思決定はより難しくなります。共有を選ぶ場合は、将来の出口まで共有者の間で話し合っておくことが大切です。

書類と情報を一か所にまとめる

契約書、登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、賃貸借契約書、借入れの資料、修繕の履歴。これらが一か所にまとまっているだけで、売却や相続の局面での判断の速さと正確さが大きく変わります。

AEGISの視点

不動産の相談は、「この物件を買うべきか」「いつ売るべきか」「相続税はいくらか」といった個別の問いとして持ち込まれることがほとんどです。しかしAEGISは、不動産を「所有の形を設計する対象」として捉えています。

同じ不動産でも、誰が、どのような形で持つかによって、収益の行き先、税負担、管理のしやすさ、次の世代への引き継ぎ方が大きく変わります。個人で持つのか、法人で持つのか、家族の誰が関与するのか——その選択は、税務だけでなく、収益・管理・承継のすべてに影響します。AEGISでは、所有形態を税務だけでなく収益・管理・承継まで含めて設計する考え方を「Property Ownership Design(不動産所有設計)」と呼び、不動産の判断を事業や金融資産を含めた財産全体の中に位置付けることを重視しています。

税金は、オーナーが決めた方針を実現するための手段の一つです。まず「この不動産で何を実現したいのか」を言葉にし、その上で所有形態や売却・承継の時期を組み立てる。この順番を守ることが、長い保有期間を通じて判断をぶらさない最良の方法だと考えています。

不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

不動産税務・資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 不動産の判断は、購入・保有・売却・承継の局面ごとに分断されやすく、購入時の判断が後の局面の前提条件になります。
  • 購入時には、目的、所有する人(名義)、資金計画、出口の仮置き、記録の保存を意識することが大切です。
  • 保有中は、収益と手元資金を分けて管理し、相続税評価(路線価方式・倍率方式、建物は固定資産税評価額)を把握しておきます。
  • 個人の譲渡所得は、売却した年の1月1日時点で所有期間5年超かどうかで長期・短期に分かれ、税率が異なります。
  • 相続では、10か月の申告期限、評価、分割、納税資金、相続登記の義務化が一度に論点になります。
  • 具体的な判断は、物件の内容や家族構成などの個別事情によって異なります。
  • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

よくある質問

Q. 不動産を買う前に、何を一番に決めるべきですか?

購入の目的と、誰の名義で持つかです。目的が決まれば重視すべき指標や保有期間が定まり、名義が決まれば収益の帰属や将来の相続財産が決まります。物件選びや資金計画は、この2つを前提に考えると判断がぶれにくくなります。

Q. 相続税評価額が低い不動産を買えば、相続対策になりますか?

評価額が市場価格より低くなるケースはありますが、それだけで判断するのは避けたほうがよいと考えます。収益性や売却のしやすさ、修繕負担、家族の意向などを含めて検討する必要があります。評価方法そのものが見直されることもあり、たとえば居住用の分譲マンションは令和6年1月1日以後の相続等から新しい評価方法が適用されています。

Q. 不動産を売るとき、所有期間はどのように数えますか?

個人の土地・建物の譲渡では、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで、長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分されます。実際の売却日ではなく、その年の1月1日が基準になる点に注意が必要です。

Q. 相続した不動産を売って相続税を払うことはできますか?

可能です。その場合、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります。ただし、相続税の納付期限は申告期限と同じく10か月以内のため、売却に時間がかかる場合の資金手当てもあわせて検討が必要です。

Q. 購入・保有・売却を一体で考えるには、どこから始めればよいですか?

まず、現在持っている不動産の一覧を作ることから始めるのが現実的です。物件ごとに、名義、取得時期と取得費、借入れの残高、賃料などの収益、固定資産税評価額を並べるだけでも、どの物件が収益を生み、どの物件が相続や売却の局面で論点になりそうかが見えてきます。

関連するAEGISのソリューション

この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

  • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。
  • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。
  • 不動産管理と実行管理:賃料・空室・修繕・返済・会計・税務をつなぎ、収益不動産の管理を支援します。
  • 不動産オーナーの方へ:3つの独自分析で承継の負担と資金を確認し、不動産ごとの方針を決める支援の流れをまとめています。
  • 高所得者の方へ:所得と資産の両面から、税負担と資産形成を整理する支援をまとめています。
  • 事業オーナーの方へ:会社と株式、ご家族の承継を一つの計画として整理する、AEGISの支援の流れをまとめています。
  • 事業創造型土地活用:土地に合う事業を検討し、開業・運営と相続への備えを一体で設計します。

参考資料・出典

公的資料・一次情報

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。