すでに個人で賃貸物件を持っている方や、資産管理会社を設立した方が次の物件を検討するとき、「今回は個人と会社のどちらで買うべきか」という問いに必ず突き当たります。「法人で買えば税負担を抑えられる」と聞くこともあるかもしれません。
結論から言えば、購入名義は税率だけでは決まりません。税負担に加えて、融資の受けやすさ、管理の手間、売却したときの課税と資金の取り出し方、家族への引き継ぎ方まで並べて比べる必要があります。しかも名義は、あとから変えようとすると譲渡の課税や登記の費用がかかるため、購入前に決めることが最も負担の少ない選択になります。
この記事は、個人保有と法人保有の考え方を比べた親記事を踏まえ、「次の1件」の名義を実際に決めるための確認項目をチェックリストとしてまとめたものです。
先に整理しておきたい3つの前提
チェックリストに入る前に、次の3点を整理しておくと、判断がぶれにくくなります。
- この物件の収益を、誰がいつ使うのか:毎年の生活費に充てるのか、再投資に回すのか、将来の家族のために蓄えるのか。
- すでに持っている資産と借入れの全体像:個人と会社それぞれの物件、借入残高、毎年の所得。
- 将来、誰に引き継ぎたいのか:配偶者、子、複数の子に分けるのか。
この3点は、以下の6項目のすべてに関係します。
チェック1:税負担は「毎年の税率」と「取り出すときの税」をセットで見る
個人で物件を持つ場合、賃料から経費を差し引いた不動産所得は、給与所得などと合算して累進税率で課税されます。所得が高い方ほど、追加の不動産所得にかかる税率も高くなります。
会社で持つ場合は、法人税等が課されます。法人税の税率は23.2%で、資本金1億円以下の中小法人などは所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率が適用されます(法人税法第66条。租税特別措置法第42条の3の2により、令和9年3月31日までに開始する事業年度は15%。所得が年10億円を超える事業年度は17%)。このほか、地方法人税や住民税・事業税などもかかります。
ただし、比べるべきは税率の差だけではありません。会社に残った利益を個人が使うには、役員報酬や配当として受け取る段階で、もう一度個人の税金がかかります。会社の利益を再投資や返済に回し、個人がすぐに使わないのであれば、法人保有の税率の差が生きやすくなります。反対に、収益の多くを個人の生活費に充てるのであれば、差は小さくなります。
チェック2:融資は「誰の信用で借りるか」を確認する
金融機関の審査の見方は、名義によって変わります。
- 個人で借りる場合:給与などの収入、勤務先や勤続年数、既存の借入れと返済の負担割合など、個人の属性が重視されます。
- 会社で借りる場合:会社の決算書(収益力・純資産・借入れの状況)が審査の中心になります。ただし、設立して間もない資産管理会社は決算の実績が乏しく、実際には代表者個人の収入や資産、連帯保証を前提に審査されることが少なくありません。
確認したいのは、次の点です。
- 今回の物件を会社で買う場合、金融機関は会社と個人のどちらの何を見るか
- 代表者の連帯保証が求められるか
- 個人で借りた場合に、将来の自宅購入など個人の借入れの枠にどう影響するか
会社の決算書が融資にどう影響するかは、関連記事「資産管理会社の決算書が融資に与える影響」で詳しく整理しています。
チェック3:管理の実態とコストを見積もる
会社で物件を持つと、会社としての記帳・決算・法人税の申告、役員の任期管理や登記、決算を承認する手続きなどが毎年発生します。所得がなくても住民税の均等割はかかり、税理士などへの報酬も必要です。
一方で、すでに資産管理会社がある場合は、物件を1件追加しても固定的なコストはあまり増えません。「会社を新たにつくってから買う」のか「既存の会社で買う」のかで、法人保有の負担感は大きく変わります。
チェック4:売却時の課税と、売却代金の行き先
物件を売却したときの課税の仕組みは、個人と会社で大きく異なります。
個人の場合、土地・建物の譲渡所得は他の所得と分けて課税され(分離課税)、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わります。所得税の税率は長期15%・短期30%で、このほか復興特別所得税と住民税がかかります(国税庁タックスアンサーNo.1440)。売却代金は、税金を納めた後、そのまま個人の資金になります。
会社の場合、売却益は会社のその年の所得に含まれ、他の収益や費用と合わせて法人税等が計算されます。所有期間による税率の区分はありません。一方で、売却代金は会社のお金であり、個人が使うには役員報酬・配当・会社への貸付金の返済などの形で取り出す必要があります。取り出し方によって、個人側の課税が変わります。
会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し方は、関連記事「会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し」で扱います。
チェック5:家族への承継は「物件を渡す」か「株式を渡す」か
承継の方法は、名義によって根本的に違います。
個人で持つ場合は、物件そのものを相続や贈与で引き継ぎます。相続税の計算では、要件を満たせば貸付事業用宅地等として、200㎡までの部分について評価額を50%減額できる小規模宅地等の特例があります。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地等は、一定の場合を除いて対象外とされています(国税庁タックスアンサーNo.4124)。また、物件は分けにくいため、相続人が複数いると共有や分割の問題が起こりやすくなります。
会社で持つ場合は、物件ではなく会社の株式を引き継ぎます。株式は数を分けて少しずつ贈与することができ、物件を動かさずに承継を進められる利点があります。株式の評価では、会社の資産を相続税評価額で評価し直して計算する方法(純資産価額)が使われることが多く、その際、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、通常の取引価額で評価することとされています(財産評価基本通達185)。購入直後の物件については、相続税評価額による評価の差が株価に反映されない点に注意が必要です。
チェック6:あとから名義を変えるコストを知っておく
「まず個人で買い、あとで会社に移せばよい」と考える方もいます。しかし、個人から会社へ物件を移すと、原則として個人に譲渡所得の課税が生じ、会社側では不動産取得税や登録免許税がかかります。借入れがある場合は、金融機関の承諾や借換えも必要です。
個人保有の物件を法人へ移す前に比べるべき点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で整理しています。
購入名義を決めるためのチェックリスト
ここまでの項目を、購入前に埋める一枚にまとめると次のようになります。
| 確認項目 | 個人で買う場合に確認すること | 会社で買う場合に確認すること |
|---|---|---|
| 毎年の税負担 | 給与等と合算した税率で、追加の所得にかかる税負担 | 法人税等の負担と、その利益を個人が受け取るときの税負担 |
| 収益の使い道 | 生活費に充てるか、再投資するか | 会社に残して再投資・返済に回せるか |
| 融資 | 個人の返済負担割合、今後の個人の借入れへの影響 | 審査で見られるのは会社の決算か個人か、連帯保証の有無 |
| 管理の手間 | 確定申告、帳簿の管理 | 記帳・決算・申告・登記、均等割と専門家報酬 |
| 売却時 | 所有期間5年の区分による分離課税、売却代金は個人へ | 会社の所得として課税、売却代金の取り出し方 |
| 承継 | 物件そのものの分け方、小規模宅地等の特例の要件 | 株式の分け方と評価、取得後3年以内の物件の評価 |
| 名義変更 | 後で会社に移すときの譲渡課税と移転コスト | 会社の解散・清算まで見通した出口 |
すべての欄を埋める必要はありません。空欄のまま残った項目こそ、専門家と一緒に確認すべき論点です。
AEGISの視点
購入名義の判断でよく見られるのは、「法人のほうが税率が低いから」という一点で決めてしまうケースです。しかし、名義は一度決めると、その物件の融資、管理、売却、承継のすべてに影響し続けます。
AEGISは、購入名義を「その物件の収益とリスクを、誰のバランスシートに置くか」という設計の問題として考えています。個人に置けば個人の信用と相続財産に、会社に置けば会社の決算と株式の価値に結び付きます。どちらにも長所と制約があり、正解は家族の状況と資産全体の構成によって変わります。だからこそ、1件ごとに場当たり的に決めるのではなく、「個人で持つ物件」「会社で持つ物件」の役割分担を先に描き、その方針に沿って次の1件の名義を決めることをおすすめしています。
不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。
個人保有と法人保有の比較の考え方は、親記事「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で、資産管理会社の設立を検討するタイミングは関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。会社員や医師の方は、関連記事「会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に」もあわせてご覧ください。不動産と資産管理会社に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 購入名義は税率だけでなく、融資・管理・売却・承継・名義変更のコストまで並べて決めます。
- 法人保有の税率の差は、利益を会社に残して再投資や返済に回すほど生きやすく、個人がすぐ使う場合は小さくなります。
- 設立間もない資産管理会社の融資は、代表者個人の信用と連帯保証が前提になることが少なくありません。
- 承継は、個人保有なら物件そのもの、会社保有なら株式を引き継ぎます。それぞれ評価や特例の要件が異なります。
- 名義は購入前に決めるのが最も負担が少なく、具体的な有利・不利は個別事情によって異なります。
- 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。
よくある質問
Q. 法人で買えば、必ず税負担は軽くなりますか?
必ずとは言えません。会社の利益に対する税率が個人より低くても、その利益を役員報酬や配当で受け取れば個人の税金がかかります。会社の維持費用もかかるため、収益の使い道と所得の水準によって結果は変わります。
Q. 資産管理会社を設立したばかりでも、会社名義で融資を受けられますか?
金融機関によっては可能ですが、決算の実績がないため、代表者個人の収入・資産や連帯保証を前提に審査されることが多いのが実情です。どの書類で何を見られるかを、事前に金融機関に確認しておくことをおすすめします。
Q. 個人で持つ物件と会社で持つ物件を混在させてもよいですか?
問題ありません。むしろ、自宅に近い物件や長く持ち続けたい物件は個人、収益を再投資に回す物件は会社というように、役割を分けて持つ考え方もあります。大切なのは、物件ごとの名義の理由を説明できることです。
Q. 会社で物件を買えば、相続税の評価はすぐに下がりますか?
会社が取得してから3年以内の土地や建物は、株式の評価の計算上、通常の取引価額で評価することとされています。購入直後に評価が下がることを前提にした判断は避けたほうがよいでしょう。
Q. 名義を決める前に、最低限そろえておく資料は何ですか?
個人と会社それぞれの所有物件と借入残高の一覧、直近の確定申告書と決算書、検討中の物件の収支見込み、家族構成と承継の希望です。これらがそろうと、チェックリストの多くの項目を具体的な数字で比べられます。
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- 不動産の最適保有設計(POD):取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の紹介・仲介から取得後の管理までをつなぎます。
- 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- e-Gov法令検索「法人税法」(第66条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034/20261001_508AC0000000012
確認日:2026-10-10 - e-Gov法令検索「租税特別措置法」(第42条の3の2)
https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026/20261001_508AC0000000012
確認日:2026-10-10 - 国税庁 タックスアンサー No.1440「譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
確認日:2026-10-10 - 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
確認日:2026-10-10 - 国税庁「財産評価基本通達」185(純資産価額)
確認日:2026-10-10
書籍
- 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、第4編「財産管理法人の不動産税務」
