高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと|損益通算・減価償却・借入れ・出口・名義の5つのチェック

マンション模型とグラフ資料・電卓を前に検討する男女

給与や役員報酬が高い方のもとには、「不動産を買えば所得税が戻る」「将来の年金代わりになる」といった投資用不動産の提案が届くことがあります。不動産は長期の資産形成の手段として有力な選択肢の一つですが、税金の仕組みを部分的にだけ見て購入を決めると、想定と違う結果になることがあります。

結論から言えば、高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいのは、①損益通算できる範囲、②減価償却が売却時に何をもたらすか、③借入れを何で返すか、④出口の税率と時期、⑤誰の名義で持つかの5つです。この記事では、高所得者の所得構成から見た購入前のチェックポイントを整理します。

前提:高所得者の税負担の構造

個人の所得税は、給与所得や不動産所得などを合算して税率を掛ける「総合課税」が基本です。所得税の税率は5%から45%までの7段階で、課税所得が4,000万円を超える部分には45%が適用されます(国税庁 No.2260)。これに住民税などが加わります。

一方、不動産を売ったときの利益(譲渡所得)は、他の所得と分けて税率を掛ける「分離課税」です。売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えれば長期譲渡所得として所得税15%・住民税5%、5年以下なら短期譲渡所得として所得税30%・住民税9%が基本です(ほかに復興特別所得税。国税庁 No.3208・No.3211)。

高所得者にとっての不動産投資の税務は、毎年の不動産所得は高い累進税率の中で計算され、売却益は別の税率で課税されるという、二つの異なる仕組みの組合せで成り立っています。この構造を押さえることが、すべてのチェックの出発点です。

チェック1:損益通算できる範囲を確認する

不動産所得が赤字になった場合、その赤字は給与所得などの黒字と差し引きできます。これを損益通算といいます。高所得者向けの提案で「税金が戻る」と説明されるのは、主にこの仕組みです。

ただし、不動産所得の赤字のすべてが損益通算できるわけではありません。国税庁は、次のような部分は他の所得と損益通算できないとしています(国税庁 No.2250)。

  • 別荘など、生活に通常必要でない資産の貸付けに係る損失
  • 不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分
  • 国外中古建物から生じた損失のうち、簡便法などで計算した耐用年数による減価償却費に相当する部分(令和3年分以後。租税特別措置法41条の4の3)

借入れで土地付きの物件を買う場合、利子のうち土地部分に対応する額は損益通算の対象から外れます。購入前のシミュレーションで、建物と土地の利子を区別しているかを確認することが大切です。

チェック2:減価償却は「税の繰延べ」でもある

建物や設備は、取得価額を耐用年数にわたって少しずつ経費にする減価償却の対象です。現金の支出を伴わない経費のため、帳簿上は赤字でも手元資金は減っていない、という状態が生まれます。

ここで見落とされやすいのが、売却時の取扱いです。建物の取得費は、購入代金などから所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します(国税庁 No.3252)。つまり、保有中に経費として計上した減価償却費の分だけ、売却時の譲渡所得が大きくなるのです。

局面減価償却の影響適用される税率のイメージ
保有中不動産所得を減らす(赤字なら給与等と損益通算)総合課税の累進税率
売却時建物の取得費が減り、譲渡所得が増える分離課税(長期・短期)

高い累進税率の所得を減らし、売却時に分離課税の税率で課税されるという意味では、税負担の時期と率が変わる効果はあります。しかし、それは税金が「なくなる」ことではありません。売却時期が5年以内だと短期譲渡所得として高い税率がかかり、売却価格が下がっていれば、手元に残る資金は想定を下回ります。保有中の税の減少と売却時の税の増加を、一つの試算の中で通しで見ることが欠かせません。

チェック3:借入れを何で返すかを確認する

投資用不動産の多くは借入れを使って購入します。ここで確認したいのは、借入れの元本返済は経費にならないという点です。経費になるのは利子と減価償却費などであり、元本の返済は税引後の手取りから行うことになります。

  • 年数が経つと、利子が減って経費が少なくなる一方、元本返済は続きます。
  • 減価償却が終わる時期には経費が大きく減り、課税所得が増える一方で、手元資金は増えない状態が生じやすくなります。
  • 空室、賃料の下落、修繕費の増加、金利の上昇が重なると、返済のために給与収入を充てる必要が出てきます。

購入前には、満室想定だけでなく、空室や修繕、金利上昇を織り込んだ場合に、返済原資を家賃収入だけでまかなえるかを確認します。「給与で補えば大丈夫」という前提は、収入が変化したときに崩れやすいものです。

チェック4:出口の時期と方法を仮置きする

出口とは、その不動産をいつ、どのように手放すか、あるいは誰に引き継ぐかということです。

  • 売却する場合:所有期間5年の境目、減価償却で下がった取得費、売却時の市場環境を踏まえて手取りを試算します。
  • 持ち続けて相続する場合:相続税の評価額と、相続人が管理を引き継げるかどうかを確認します。

なお、令和8年度税制改正の大綱では、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得または新築した一定の貸付用不動産について、通常の取引価額に相当する金額で評価する見直しが示されています(令和9年1月1日以後の相続等が対象。財務省)。購入して間もない時期の相続で評価額が大きく下がることを前提にした計画は、見直しが必要になる可能性があります。この見直しは2026年10月9日時点で通達案の段階にあり、通達案では、不動産特定共同事業等により小口化された貸付用不動産(特定小口化商品)についても通常の取引価額で評価する方針が示されています。また、取得価額が適正な場合は、取得価額を基に計算した額の80%で評価する方法も示されています。具体的な取扱いは、最終的な通達で確認が必要です。

チェック5:誰の名義で持つかを決める

不動産を誰の名義で持つかは、購入後に変えようとすると、売買や贈与として税金や登記費用がかかります。購入前に決めることが重要です。

名義主な特徴確認したいこと
本人(個人)手続きが簡単。不動産所得は本人の他の所得と合算本人の税率、損益通算の範囲、相続時の承継
配偶者・家族所得を家族に分けられる場合がある購入資金の出どころ(贈与にならないか)、管理を誰がするか
共有資金負担に応じて持分を分けられる将来の売却・相続で合意が必要になる
法人(資産管理会社など)法人税率が適用され、役員報酬等で資金を配分できる設立・維持のコスト、借入れの条件、株式の承継

名義の選び方は、税率の比較だけでなく、資金の出どころ、管理の担い手、将来の承継までを含めて判断する必要があります。

購入前のチェックリスト

項目確認すること
所得構成現在の課税所得と税率、今後の収入の見通し
損益通算土地部分の利子の扱い、国外中古建物の該当の有無
減価償却建物と土地の価額の区分、耐用年数、売却時の取得費への影響
返済原資空室・修繕・金利上昇を織り込んだ収支、元本返済の原資
出口売却時期と税率、相続時の評価と承継者
名義個人・家族・共有・法人のどれで持つか
提案内容「税金が戻る」の前提、売却時の税金や修繕費の扱いが含まれているか

実務上注意したいポイント

  • 「節税」を購入理由にしない:税負担の軽減は、保有期間全体で見ると時期がずれているだけの場合があります。物件そのものの収益力と資産価値が判断の中心です。
  • 提案書の前提を確認する:家賃の下落率、空室率、修繕費、売却価格の前提が楽観的になっていないかを確認します。
  • 家族の理解を得ておく:借入れや管理は、本人に万が一のことがあった場合に家族が引き継ぐことになります。

AEGISの視点

高所得者の不動産投資の相談で、AEGISが最初に確認するのは、物件ではなく「その人の所得と資産の全体像の中で、不動産にどのような役割を持たせたいか」です。毎年の手取りを増やしたいのか、将来の年金のように使いたいのか、家族に資産を残したいのかによって、選ぶべき物件も、名義も、借入れの組み方も変わります。

不動産投資の税務は、保有中の損益通算だけを切り取ると魅力的に見えることがあります。しかし、購入・保有・売却・承継までを一本の線で試算すると、税引後に何が残るのかが初めて見えてきます。購入時に記録や名義を整えておけば、将来の売却や承継の選択肢も広がります。AEGISは、物件を選ぶ前に「取得と保有の形」を設計することが、長期の資産形成を安定させると考えています。

不動産の判断の全体像は関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で、個人と法人の比較は「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で解説しています。

税負担と手元資金の関係は「税負担とキャッシュフローをどう両立させるか」、マンションを相続対策として検討する場合の評価の仕組みは「居住用マンションの相続税評価はどう変わったか」もあわせてご覧ください。

不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

まとめ

  • 高所得者の不動産投資は、累進課税の不動産所得と、分離課税の譲渡所得という二つの仕組みの組合せで考える必要があります。
  • 不動産所得の赤字は損益通算できますが、土地取得のための負債の利子相当額などは対象外です。
  • 減価償却は保有中の所得を減らす一方、売却時の取得費を減らし、譲渡所得を増やします。
  • 元本返済は経費にならないため、空室や金利上昇を織り込んだ返済原資の確認が欠かせません。
  • 名義は購入前に、税率だけでなく資金の出どころ・管理・承継まで含めて決めます。具体的な効果は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 不動産所得が赤字になれば、必ず所得税が戻ってきますか?

赤字のうち損益通算できる部分について、給与所得などから差し引くことができます。ただし、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分などは損益通算できません。また、赤字が続くということは、物件の収支が厳しい可能性もあるため、税金だけでなく手元資金の動きを確認することが大切です。

Q. 減価償却費を多く計上すると、売却時に不利になるのですか?

建物の取得費は、購入代金などから減価償却費相当額を差し引いて計算するため、保有中に計上した減価償却費の分だけ売却時の譲渡所得は大きくなります。保有中の税負担と売却時の税負担を合わせて試算し、全体として判断することが必要です。

Q. 5年以内に売却するとどうなりますか?

売った年の1月1日時点の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、所得税30%・住民税9%が基本の税率です(ほかに復興特別所得税)。5年を超える長期譲渡所得の所得税15%・住民税5%と比べて税負担が重くなるため、出口の時期は購入前に仮置きしておくことが望まれます。

Q. 妻の名義で購入すれば、家族全体の税金は減りますか?

所得の低い家族の名義にすると、不動産所得にかかる税率が下がる場合があります。ただし、購入資金を本人が出していれば、その資金について贈与税の問題が生じることがあります。資金の出どころと、実際に誰が管理・運営するのかを整理したうえで判断する必要があります。

Q. 相続対策として投資用マンションを買うのは有効ですか?

相続税評価額と時価の差に着目した対策は、制度の見直しの対象になってきました。令和6年1月1日以後は居住用マンションの評価方法が見直され、令和8年度税制改正の大綱では、取得後5年以内の一定の貸付用不動産を通常の取引価額で評価する見直しも示されています。評価の差だけを目的にした購入は、慎重に検討することが必要です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、P.47-50
  • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、2023年(2024年第5刷)、P.414-415、P.428-429

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。