相続した賃貸アパートやマンションの相続税評価を見直すときは、「どの部分が、相続の時点で貸していると扱えるか」と「どの範囲を1つの土地として評価するか」の2点を中心に確認します。
賃貸物件の敷地は「貸家建付地」として、自分で使っている土地より低く評価されます。その減額の大きさを決めるのが「賃貸割合」です。相続の時点でたまたま空室があった部分を、一時的な空室として賃貸中と扱えるかどうかで、評価額が変わります。また、複数の建物や駐車場がある敷地では、評価の単位の分け方によっても結果が変わります。
この記事では、賃貸物件特有の評価の論点を、申告後に見直すときの確認の順番に沿って整理します。土地の形状などによる一般的な減額要素は、親記事「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で扱っています。
貸家建付地と貸家の評価の基本
国税庁のタックスアンサー(No.4614)によれば、貸家建付地とは、所有する土地に建てたアパートやビルを他人に貸している場合の、その敷地をいいます。評価は次の算式によります。
貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 -(自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借地権割合と借家権割合は、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認します。建物(貸家)も、固定資産税評価額を基にした価額から、借家権割合と賃貸割合に応じた分を差し引いて評価します(財産評価基本通達93)。
この減額が認められるのは、借家人が建物とその敷地をある程度支配しており、所有者が自由に使えず、売るときも借家人付きの価格になるからです。逆にいえば、相続の時点で実際に貸していない部分には、原則として減額は及びません。国税庁の質疑応答事例でも、借家人が退去して空き家となっている家屋の敷地は、たとえ賃貸用に建てた建物であっても、自用地として評価するとされています。
確認点1:賃貸割合と「一時的な空室」
賃貸割合の計算
賃貸割合は、アパートなどの各独立部分(壁や扉で区切られ、独立して貸せる部屋)の床面積の合計のうち、相続の時点で賃貸されている部分の床面積の割合です。20室のうち4室が空室なら、各室の広さが同じであれば賃貸割合は80%になり、その分だけ減額が小さくなります。
一時的な空室として扱える場合
ただし、継続的に賃貸されてきた部屋が、相続の時点でたまたま空いていただけと認められる場合は、賃貸されているものとして扱って差し支えないとされています。国税庁は、その判断の目安として次の事実関係を挙げています(No.4614、質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」)。
| 確認する事実 | 見直しのときに確かめたい資料 |
|---|---|
| 相続の前から継続的に賃貸されてきたか | 過去の賃貸借契約書、入居者の履歴 |
| 退去後、速やかに入居者の募集をしたか | 管理会社への募集依頼の記録、募集広告 |
| 空室の間、他の用途に使っていないか | 物置・自己使用などがないことの確認 |
| 空室の期間が、例えば1か月程度など一時的か | 退去日と次の入居日の記録 |
| 相続後の賃貸が一時的なものではないか | 相続後の入居状況、賃貸借契約書 |
国税庁の質疑応答事例では、学生向けアパートで卒業による退去が重なり、相続の時点で半分ほどが空室だったものの、新入居者を募集し月末には満室になっていたケースで、空室部分を賃貸中に含めて計算して差し支えないとしています。
「1か月程度」は目安であり、総合判断
「1か月程度」という期間は例示であり、これを超えたら直ちに認められないというものではありません。国税不服審判所の裁決では、20室中4室が2か月から1年11か月空いていた賃貸マンションについて、速やかな修繕と募集、定期的な補修、周辺に競合物件が多い事情などを総合して一時的な空室と認め、賃貸割合を100%とした例があります(平成20年6月12日裁決)。
一方で、空室が長期間続き、相続後も貸付けの用に供されずに売却された事案では、一時的な空室とは認められなかった例もあります(平成21年3月25日裁決)。
結論を分けるのは、空室の期間の長さそのものより、「賃貸を続ける意思と行動が、記録で確認できるか」です。申告の見直しでは、当初の申告で空室を一律に除外していないか、逆に長期の空室を根拠なく賃貸中としていないか、の両面を確認します。
確認点2:一括借上げ(サブリース)の扱い
建物を管理会社などに一括で貸し、その会社が入居者に転貸する一括借上げ(サブリース)の場合、所有者から見た借家人は一括借上げをした会社です。建物全体を一括で貸しているため、各部屋に入居者がいるかどうかにかかわらず、建物全体が賃貸されていると考えられ、賃貸割合は高くなる傾向があります。
見直しでは、次の点を確認します。
- 相続の時点で一括借上げの契約が有効に続いていたか(契約期間、更新、解約の有無)
- 契約の対象がどの建物・どの部屋か(建物の一部だけが対象になっていないか)
- 契約の相手方と実際の運営の実態が一致しているか
一括借上げの契約内容の読み方は、関連記事「賃貸管理を委託するときの契約の確認点」で解説しています。
確認点3:複数棟の評価単位
土地は「1画地」ごとに評価します。国税庁の質疑応答事例「宅地の評価単位」では、貸家建付地を評価する場合において貸家が数棟あるときは、原則として各棟の敷地ごとに1画地とするとされていますが、借地権が同一の契約により締結されている場合には、複数棟の借地権を一体で評価するのが原則です。
評価単位の分け方は、間口・奥行・形状による補正や、地積規模の大きな宅地の評価の適用判定に影響します。そのため、次のような点で当初の申告と異なる判断があり得ます。
- 一括借上げで複数棟を1通の契約で貸している場合:多くの場合一体評価が認められますが、国税不服審判所の裁決には、5棟の共同住宅が1通の契約で一括借上げされていても、各棟の敷地ごとに1画地として評価するのが相当とした例があります(平成26年4月25日裁決)。契約が1つであることだけで、敷地全体を1単位とできるわけではありません。
- 遺産分割で複数の相続人が分けて取得した場合:取得者ごとに分けて評価するのが原則ですが、分割後の土地が通常の用途に使えないなど著しく不合理な分割の場合は、分割前の単位で評価します(質疑応答事例「宅地の評価単位」)。
- 通路・植栽・ゴミ置場など共用部分:どの棟の敷地に含めるかを、現地の利用状況で確認します。
確認点4:敷地内の駐車場
アパートの敷地内にある駐車場の扱いは、利用者によって変わります。
- 入居者専用の駐車場で、建物の敷地と一体として利用されている場合:建物の敷地と合わせて貸家建付地として評価する考え方があります。
- 外部の人にも貸している駐車場:駐車場部分は借家人の権利が及ばないため、原則として自用地としての評価に近くなります。実務では、建物と駐車場を1つの評価単位としたうえで、土地の面積を基準に賃貸割合を調整して、駐車場部分を自用地として扱う方法がとられることもあります。
- 塀などで区切られ、別に貸している駐車場:別の評価単位として扱うのが一般的です。
駐車場の扱いは現地の状況による判断が大きく、裁決でも判断が分かれています。駐車場経営そのものの税金と評価は、関連記事「駐車場経営の税金と相続」で解説しています。
見直しの進め方
賃貸物件の評価を見直すときは、次の順番で確認すると効率的です。
| 順番 | 確認すること | 主な資料 |
|---|---|---|
| 1 | 相続の時点の入居状況(部屋ごと) | レントロール、賃貸借契約書 |
| 2 | 空室の部屋ごとの退去日・募集・再入居の記録 | 管理会社の記録、募集広告 |
| 3 | 一括借上げ契約の有無と内容 | 一括借上げ契約書 |
| 4 | 建物の棟数と、敷地の区分・共用部分 | 登記事項証明書、配置図、現地写真 |
| 5 | 駐車場の利用者と区画、契約形態 | 駐車場契約書、区画図 |
| 6 | 当初申告の評価明細書との突き合わせ | 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書 |
見直しの結果、当初の申告で評価額が過大だったと判明した場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができます(国税通則法第23条)。反対に、評価が過少だった場合は修正申告が必要になります。更正の請求の手続きは、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。
実務上注意したいポイント
- 相続後の記録を残す:一時的な空室の判断では、相続後の入居状況も考慮されます。相続後すぐの募集・入居の記録を残しておくことが大切です。
- 「満室扱い」は根拠とセットで:賃貸割合を100%とする場合は、空室ごとに一時的といえる事情を説明できるようにしておきます。
- 小規模宅地等の特例との関係:賃貸物件の敷地は、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の対象になる場合があります。評価を見直すときは、特例の適用面積や選択の見直しもあわせて検討します。
- 個別の判断が多い:評価単位や駐車場の扱いは事実関係で結論が変わります。具体的な適用は個別事情によって異なります。
AEGISの視点
賃貸物件の評価は、計算式そのものは単純です。しかし、賃貸割合や評価単位の判断は、相続の時点の「賃貸経営の実態」をどう記録し、説明できるかにかかっています。
AEGISは、賃貸物件の評価の見直しを、申告書の数字の点検にとどまらず、相続前後の賃貸経営の記録を読み解く作業と考えています。退去後すぐに募集していたか、修繕を続けていたか、管理会社とどのような契約を結んでいたか。こうした日々の運営の積み重ねが、評価の結論を支える根拠になります。
裏を返せば、オーナーが生前から入居状況・募集・修繕の記録を整えておくことは、相続後の家族を助けることにもつながります。不動産管理の質と相続税の評価は、別々のテーマに見えて、実は一つながりのものです。
不動産の評価や相続税の申告に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
申告済みの賃貸物件の評価について、見直しの余地を確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。
まとめ
- 賃貸物件の敷地は貸家建付地として、借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じて減額して評価します。
- 相続の時点で空室だった部屋も、継続的な賃貸と速やかな募集など一定の事実関係から一時的な空室と認められれば、賃貸中として扱えます。「1か月程度」は例示です。
- 一括借上げでは借家人が借上げ会社となり、賃貸割合は高くなる傾向がありますが、契約の有効性と範囲の確認が必要です。
- 複数棟の貸家は、原則として各棟の敷地ごとに評価単位を分けます。一括借上げの契約が1通でも同様と判断された裁決例があります。
- 駐車場は、入居者専用か外部貸しかなどで扱いが変わります。
- 評価が過大だった場合は、法定申告期限から5年以内に更正の請求ができます。
よくある質問
Q. 相続のときに空室があった部屋は、必ず自用として評価されるのですか?
必ずではありません。継続的に賃貸されてきた部屋で、退去後すぐに募集を行い、他の用途に使わず、相続後も賃貸が続いているなど、一時的な空室と認められる事情があれば、賃貸中として扱って差し支えないとされています。
Q. 空室の期間が1か月を超えていると、一時的な空室とは認められませんか?
国税庁が示す「1か月程度」は例示です。国税不服審判所の裁決には、最長1年11か月の空室を含めて、募集や修繕の状況、周辺の競合状況などを総合して一時的な空室と認めた例があります。ただし、長期の空室が続き相続後も貸されていない場合は認められなかった例もあり、事実関係によって判断されます。
Q. 一括借上げ(サブリース)の物件は、空室があっても賃貸割合100%になりますか?
一括借上げ契約により建物全体を借上げ会社に貸している場合、所有者から見た借家人は借上げ会社であり、建物全体が賃貸されていると考えられます。ただし、相続の時点で契約が有効に続いていたか、対象の範囲はどこかなどを契約書で確認する必要があります。
Q. 同じ敷地に2棟のアパートがあります。評価単位は1つですか、2つですか?
貸家建付地を評価する場合、貸家が数棟あるときは、原則として各棟の敷地ごとに1画地として評価します。2棟をまとめて1つの契約で一括借上げしている場合でも、各棟ごとに分けるのが相当とした裁決例があります。
Q. 評価の誤りに気づいた場合、いつまでに手続きをすればよいですか?
評価が過大で税額を多く納めていた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができます。期限が近い場合は、早めに資料を集めて検討することをおすすめします。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.4614「貸家建付地の評価」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
確認日:2026-10-10 - 国税庁 質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」(令和7年8月1日現在)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/12.htm
確認日:2026-10-10 - 国税庁 質疑応答事例「貸家が空き家となっている場合の貸家建付地の評価」(令和7年8月1日現在)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/11.htm
確認日:2026-10-10 - 国税庁 質疑応答事例「宅地の評価単位」(令和7年8月1日現在)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/02/01.htm
確認日:2026-10-10 - 国税庁「財産評価基本通達」第3章 家屋及び家屋の上に存する権利(93 貸家の評価)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/03/01.htm
確認日:2026-10-10 - e-Gov法令検索「国税通則法」第23条
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066/20260624_508AC0000000046
確認日:2026-10-10
書籍
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- 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント[第3集]』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2018年)CASE2
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