法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断|期限が迫る今、確認したい要件・継続リスク・代替手段

ビル模型と資料、グラフを映すノートパソコンを前にした手元

法人版事業承継税制(特例措置)は、後継者が自社株式を贈与や相続で取得したときの贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の場合に免除する制度です。この特例措置を使うには、令和9年(2027年)9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります(中小企業庁)。

期限が近づくと、「とりあえず計画だけ出しておくべきか」「そもそも自社は使うべきか」という相談が増えます。結論から言えば、判断の中心は税額の大小だけではありません。「猶予を受けた後も、何年にもわたって制度の要件を守り続ける経営を選ぶか」という問いです。

この記事では、制度のしくみを確認したうえで、使う場合に引き受けることになる継続要件とリスク、使わない場合の代替手段を比べ、オーナーが判断するための軸を整理します。

法人版事業承継税制(特例措置)とは

事業承継税制には、平成21年度に創設された「一般措置」と、平成30年度税制改正で期間を区切って設けられた「特例措置」があります。中小企業庁の説明によると、特例措置には次のような特徴があります。

  • 納税猶予の対象となる株式数の上限が撤廃され、猶予割合が100%に拡大されている
  • 親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)への贈与・相続が対象になる
  • 雇用が8割を下回った場合でも、一定の手続(認定経営革新等支援機関の指導など)を経れば猶予が継続できる
  • 経営環境の悪化など事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合、5年経過後の売却・廃業時の価額などに基づいて猶予税額を再計算し、差額が免除される仕組みがある

特例措置の対象は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等で取得した株式です。特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正の大綱で1年6月延長され、令和9年9月30日とされています。贈与・相続の期間そのものは延長されていない点に注意が必要です。

「計画の提出」と「制度の適用」は別の段階

特例承継計画は、後継者の氏名や承継までの経営の見通しなどを記載し、認定経営革新等支援機関(税理士、金融機関など)の所見を付けて提出する書類です。計画を提出しただけで、贈与や相続の際に必ず制度を使わなければならないわけではありません。一方、計画を提出していなければ、期限後に特例措置を選ぶ余地はなくなります。

そのため実務では、「使うかどうかはまだ決められないが、選択肢を残すために計画を出す」という判断もあり得ます。ただし、計画の作成には後継者の特定や経営の見通しの整理が必要で、形式だけ整えればよいものではありません。

制度のしくみ:猶予は「免除」ではない

制度の大まかな流れは次のとおりです。

  1. 特例承継計画を都道府県に提出する
  2. 先代経営者から後継者へ株式を贈与する(または相続が発生する)
  3. 都道府県の認定を受け、贈与税・相続税の申告とあわせて納税猶予の手続を行う
  4. 認定の有効期間(申告期限の翌日から5年)中は、年1回、都道府県に年次報告書を、税務署に継続届出書を提出する
  5. その後も、税務署に3年に一度、継続届出書を提出する
  6. 先代経営者や後継者の死亡などの一定の事由が生じたときに、猶予税額が免除される

贈与で制度を使った場合、先代経営者が亡くなると猶予されていた贈与税は免除されますが、その株式は相続で取得したものとみなされて相続税の対象になります。このとき、要件を満たせば相続税の納税猶予に切り替えることができます。

ここで押さえておきたいのは、猶予は税金がなくなることではなく、「条件付きで支払いを先送りしている状態」だという点です。条件が崩れれば、猶予されていた税額に利子税を加えて納めることになります。

使う場合に引き受けること:継続要件と猶予が打ち切られる場面

制度を使うかどうかを考えるときは、適用時の要件よりも、適用後に何ができなくなるかを先に確認することが大切です。

猶予が打ち切られる主な場面

租税特別措置法では、次のような場合に猶予期限が確定し、猶予税額の全部または一部を利子税とあわせて納めることになります。範囲は、申告期限の翌日から5年間(認定の有効期間に相当する期間)中か、その経過後かによって異なります。

  • 後継者が代表者でなくなった場合(5年間の期間中に限ります。やむを得ない理由がある場合を除きます)
  • 猶予の対象となった株式を譲渡した場合(5年間の期間中は猶予税額の全部、経過後は一部の譲渡であれば譲渡した部分に対応する額)
  • 会社を解散した場合
  • 資本金や準備金を減少した場合(欠損の填補に充てる場合など一定の場合を除きます)、一定の組織再編(合併による消滅、株式交換等による完全子会社化など)を行った場合
  • 会社が、賃貸不動産・有価証券・現預金などの特定資産の割合が総資産の70%以上の会社(資産保有型会社)、または特定資産からの運用収入が総収入の75%以上の会社(資産運用型会社)に該当した場合(商品の販売などの事業を行い、親族外の従業員が5人以上いて、その事務所や店舗を所有・賃借しているなど、事業実態がある会社は除かれます)

つまり、制度を使った会社では、将来のM&A、組織再編、資本の組み替え、不動産の持ち方の変更などが、猶予の打ち切りと直結しやすいということです。

次の世代でも制度を使い続ける前提になる

猶予が免除される典型的な場面は、後継者が亡くなったときや、後継者が次の後継者に株式を贈与し、その次の後継者も納税猶予を受けるときです。言い換えると、一度制度を使うと、その次の承継でも制度を使い続けることが、猶予税額を確定させない前提になりやすいということです。今の承継だけでなく、次の世代の承継の姿まで想像しておく必要があります。

手続と管理の負担

認定の有効期間中の毎年の報告、その後の継続届出、要件を満たしているかの定期的な確認が必要です。担当者の交代や顧問の変更があっても、この管理は途切れさせられません。

使わない場合の代替手段

制度を使わない場合でも、自社株式の承継には複数の方法があります。それぞれ、税負担だけでなく、資金や柔軟性の面で性格が異なります。

方法主なしくみ向いている場面注意したいこと
暦年課税による贈与年110万円の基礎控除を超える部分に贈与税株価が比較的低く、時間をかけて移せる相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される(経過措置あり)
相続時精算課税による贈与特別控除2,500万円と基礎控除110万円を超える部分に一律20%、相続時に贈与時の価額で精算株価の上昇が見込まれ、早めに移したい一度選ぶと暦年課税に戻れない
売買(後継者が買い取る)売り手に株式の譲渡所得課税後継者に資金調達力がある、他の家族との公平を保ちたい後継者側の資金負担、価格の妥当性
相続後に会社が株式を買い取る一定の要件のもと、みなし配当課税の特例相続人の納税資金を会社の資金で手当てしたい会社の資金余力、相続税の申告期限の翌日以後3年以内などの要件
承継制度を使わず相続で承継相続税を通常どおり納付納税資金の準備ができている申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)までの資金確保
株式の一部を財団に寄附(社会貢献を軸にした承継)議決権のない配当優先株式などを財団に寄附し、議決権のある株式は後継者に承継社会に還元したい意思があり、経営権は後継者に集めたい寄附した株式は戻らない。種類株式の手続、みなし譲渡課税など税務の個別確認

※税率・控除額・要件は本記事の制度基準日時点の国税庁の説明に基づいています。個別の適用可否は事情により異なります。

このほか、株価の水準そのものや株主構成を見直す方法(役員退職金の支給時期、資本構成の整理など)を組み合わせることもあります。代替手段の多くは「すぐに税負担が軽くなる」ものではありませんが、承継後の経営判断を縛らないという大きな利点があります。

社会貢献を軸にした承継という選択肢

代替手段の一つとして、株式の一部を財団に寄附し、その配当を社会貢献に充てる方法もあります。たとえば、議決権のない配当優先株式(種類株式)を設けてその株式を財団に寄附し、議決権のある株式は後継者に承継する設計です。後継者は会社の意思決定に必要な議決権を確保したまま、承継する株式の範囲を整理でき、会社の利益の一部は配当を通じて助成や奨学として社会に還元されます。

事業承継税制と比べると、代表者の継続、株式の保有、資産構成といった要件を何年も守り続ける仕組みではないため、将来の売却・再編・資本の組み替えを判断する自由度を保ちやすい点が特徴です。また、自ら財団を設立すると、理事会・評議員会の運営や事務局、会計・報告を一族で担い、後継者にも引き継ぐことになりますが、運営体制をすでに備えた財団の中に基金を設ける形であれば、その負担を後継者に負わせずに済みます。AEGISでは、この考え方を形にする器としてアイジスレガシー財団を設立しています。

一方で、寄附した株式は家族の手元には戻りません。種類株式の導入には定款変更などの会社法上の手続が必要で、配当を続けられる会社の収益力も前提になります。寄附した個人のみなし譲渡課税とその非課税特例、財団側への課税の有無など、税務上の取扱いは寄附の時期、財団の認定・承認の状況、株式の内容によって異なるため、個別の確認が欠かせません。社会に還元したいという意思があってこそ成り立つ方法であり、税負担の軽減だけを目的に選ぶものではありません。財団の設計の考え方は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

生前贈与と相続の使い分けについては、関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」で詳しく整理しています。

判断のための5つの問い

「使う・使わない」を考えるときは、次の5つの問いに順に答えていくと、自社の位置が見えやすくなります。

  1. 株式の評価額と、制度を使わない場合の税負担はどの程度か 評価額が大きく、通常の方法では納税資金の手当てが難しい場合ほど、制度の意味は大きくなります。逆に、評価額がそれほど大きくなければ、手続と管理の負担に見合わないこともあります。
  2. 後継者は決まっていて、代表者として長く経営を担う見込みか 後継者の意思や家族の合意が固まっていない段階で制度を前提にすると、後から身動きが取りにくくなります。
  3. 今後10年程度で、会社の売却・再編・資本の組み替えを考える可能性はあるか その可能性が高いほど、制度の縛りは重くなります。
  4. 会社の資産構成は、賃貸不動産や金融資産に偏っていないか、今後偏る予定はないか 不動産の取得や事業の縮小で資産構成が変わると、制度の前提が崩れるおそれがあります。
  5. 次の世代の承継まで、制度を使い続ける体制を想像できるか 孫の世代や社外の後継者への承継も視野に入れて考えます。
判断の方向当てはまりやすい状況
制度の活用を前向きに検討評価額が大きい/後継者が確定し長期の経営を担う/売却・再編の予定がない/事業用資産が中心
慎重に比較・代替手段も検討評価額がそれほど大きくない/後継者が未確定/将来の売却や再編の可能性がある/賃貸不動産や金融資産が多い

※上表は考え方の整理のための例示です。実際の判断は、税額試算と会社・家族の個別事情によります。

実務上注意したいポイント

  • 期限は計画の提出期限と、贈与・相続の期限の二つ:計画は令和9年9月30日まで、贈与・相続は令和9年12月31日までです。計画を出しても、期間内に贈与を実行しなければ特例措置の対象にはなりません。
  • 組織再編や資本の整理は適用前に検討する:持株会社の設立やグループ会社の整理などを考えているなら、制度を適用する前に方針を決めておく必要があります。
  • 他の家族との公平を確認する:株式を後継者に集中させる設計は、遺留分など家族間の調整を伴います。
  • 毎年の税制改正を確認する:延長や要件の見直しが続いている制度です。最新の情報は中小企業庁・国税庁の発表で確認してください。
  • 株式の評価方法の見直しにも注意する:国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、株式の評価額を前提にした判断は今後の改正に注意して見直してください。

AEGISの視点

事業承継税制の相談では、「使えば税金がゼロになるなら使うべきではないか」という問いから始まることが少なくありません。しかしAEGISは、この制度を「税負担の先送りと引き換えに、経営と所有の自由度を一定期間預ける仕組み」と捉えています。

制度に合う会社では、非常に力のある仕組みです。後継者が覚悟を持って長く経営を担い、事業そのものを磨いていく会社であれば、猶予の条件は事業の方向とぶつかりにくいからです。反対に、将来の売却や再編、不動産を活用した事業の組み替えなど、選択肢を広く持っておきたい会社では、制度の縛りが判断の足かせになることがあります。

大切なのは、税額の試算だけでなく、「10年後、20年後に会社をどうしていたいか」を先に言葉にすることです。そのうえで制度を使う・使わないを決めれば、どちらを選んでも、その理由を後継者や家族に説明できます。期限が迫っているからこそ、「とりあえず計画だけ」という判断であっても、その位置付けを家族と共有しておくことが望まれます。

事業承継全体の進め方は「事業承継は何から始めるべきか」で、相続対策との一体設計は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、自社株の評価方法は「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。

自社株の評価や承継に伴う資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 法人版事業承継税制(特例措置)を使うには、令和9年9月30日までに特例承継計画を提出する必要があり、対象となる贈与・相続は令和9年12月31日までです。
  • 制度は納税の「猶予」であり、適用後も代表者の継続、株式の保有、資産構成などの条件を守り続ける必要があります。
  • 売却・再編・解散などで猶予が打ち切られることがあり、次の世代でも制度を使い続ける前提になりやすい点が重要です。
  • 暦年贈与、相続時精算課税、売買、相続後の自己株式取得などの代替手段は、税負担は軽くなりにくい一方で、経営判断の自由度を保てます。
  • 社会に還元したい意思があれば、議決権のない株式を財団に寄附し、議決権のある株式を後継者に承継する「社会貢献を軸にした承継」も選択肢になります。
  • 判断の中心は「将来、会社をどうしていたいか」です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 特例承継計画を提出したら、必ず制度を使わなければなりませんか?

計画を提出しても、贈与や相続の際に制度の適用を受けるかどうかは改めて選ぶことができます。一方で、期限までに計画を提出していなければ特例措置を選ぶことはできません。ただし計画には後継者や経営の見通しを記載する必要があるため、方針の整理は欠かせません。

Q. 期限は延長されたと聞きましたが、贈与の期限も延びたのですか?

令和8年度税制改正の大綱で延長されたのは特例承継計画の提出期限で、令和9年9月30日までとされています。特例措置の対象となる贈与・相続の期間は令和9年12月31日までのままです。今後の改正の有無は、中小企業庁や国税庁の最新情報で確認してください。

Q. 制度を使った後に会社を売却することはできますか?

売却そのものは可能ですが、猶予の対象となった株式を譲渡すると、原則として猶予されていた税額と利子税を納めることになります。5年経過後に、経営環境の悪化など事業の継続が困難な一定の事由が生じたうえで親族など特別の関係がある者以外に売却する場合などには、売却価額などに基づいて猶予税額を再計算し差額を免除する仕組みもありますが、将来の売却の可能性があるなら、制度を使う前に慎重に検討しておくことが大切です。

Q. 親族ではない役員に承継する場合も使えますか?

特例措置では、親族外の後継者も対象とされています。贈与で適用を受ける場合、後継者は贈与の時に18歳以上で代表権を有し、贈与の直前に役員であることなどが要件です(一般措置では贈与の日まで3年以上役員であることが必要です)。ただし、贈与による承継が前提になるため、オーナー側の財産や他の家族への配分との関係を整理する必要があります。役員・従業員への承継方法全体は、別の記事で比較しています。

Q. 制度を使わない場合、まず何から考えればよいですか?

まずは自社株式の評価額と、相続が起きた場合の税負担・納税資金の見通しを確認することです。そのうえで、暦年贈与や相続時精算課税、売買、相続後の自己株式取得などのどれを、どの時期に組み合わせるかを検討します。事業の成果の一部を社会に還元したいという考えがあれば、株式の一部を財団に寄附する方法もあわせて比較します。

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  • 事業承継:後継者・経営権・株式・資金・ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどの方法を比較しながら承継計画を検討します。
  • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買などの目的に合う資本設計を検討します。
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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『これだけ!組織再編&事業承継税制(第3版)』佐藤信祐・長谷川太郎 著、中央経済社、P.227-243
  • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.171-276(第3章)

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。