税制改正は自分の承継計画に関係するか|改正情報を「自分ごと」として点検する考え方

モニターのグラフを示して経営者に説明する専門家

毎年12月頃になると「税制改正大綱」のニュースが流れ、相続税や贈与税、事業承継税制に関する見出しも目にします。しかし、その改正が自社や家族の承継計画にどのような影響を与えるのかは、ニュースを読むだけではなかなか判断できません。

結論から言えば、税制改正は「何が変わったか」よりも「自分の計画のどの前提に触れるか」で読むことが大切です。承継計画は、財産の評価額、制度の期限、税額の計算方法、手続の段取りといった、いくつもの前提の上に組み立てられています。改正がそのどれに触れるのかを仕分けできれば、「関係がある改正」と「当面は関係が薄い改正」を落ち着いて見分けられるようになります。

この記事では、税制改正を自分ごととして点検するための考え方と手順を、令和8年度税制改正の大綱に盛り込まれた資産課税の項目を具体例として解説します。

税制改正はどのように決まり、いつ効力を持つのか

まず押さえておきたいのは、ニュースで報じられる「大綱」の段階では、まだ改正は確定していないということです。税制改正は、おおむね次のような段階を経て効力を持ちます。

段階主な内容令和8年度改正の例
税制改正の大綱政府として改正の方針と内容を決定令和7年12月26日 閣議決定
法律案の提出・成立国会で審議され、成立・公布される所得税法等の一部を改正する法律案:令和8年2月20日提出、3月31日成立・公布(令和8年法律第12号)
政令・省令法律の細目(要件や手続など)を定める財務省が順次公表
通達・FAQ等国税庁が法令の解釈や取扱いを示す財産評価基本通達の改正など

※上表の日付は財務省ウェブサイトの掲載情報によります。

相続税・贈与税で特に注意したいのが、財産の評価です。相続税法は、相続等で取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めていますが、具体的な評価方法の多くは国税庁の「財産評価基本通達」に委ねられています。そのため、評価に関するルールは、法律の改正だけでなく、通達の改正によっても変わります。改正情報を追うときは、「法律で決まるもの」と「通達で決まるもの」があることを意識しておくと、情報の確度を判断しやすくなります。

改正が承継計画に影響する4つの経路

AEGISでは、税制改正が承継計画に影響する経路を、次の4つに分けて考えています。

経路何が変わるか承継計画への影響の例
1. 期限制度の適用期限、計画や届出の提出期限「いつまでに何をするか」という時間軸が変わる
2. 評価財産の評価方法・評価額同じ財産を持っていても、税額の見込みが変わる
3. 計算加算期間、控除額、税率などの計算の仕組み贈与と相続の使い分けの前提が変わる
4. 手続申告・届出・書類の要件準備すべき資料や段取りが変わる

改正のニュースを見たら、まず「これは4つのうちどれに当たるか」を考えてみてください。それだけで、確認すべきことが具体的になります。

さらに忘れてはならないのは、税制改正は税金以外の判断にも波及することです。たとえば評価方法が変われば、不動産を個人で持つか法人で持つか、どの財産を誰に渡すかといった所有と分配の設計にも影響することがあります。税額の増減だけを見て終わりにしないことが重要です。

具体例:令和8年度税制改正の大綱に盛り込まれた資産課税の項目

ここでは、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)のうち、資産・事業の承継に関係しやすい項目を、上の4つの経路で整理します。

項目大綱の内容(要旨)経路
非上場株式等の納税猶予の特例(法人版事業承継税制の特例措置)特例承継計画の提出期限を1年6月延長期限
個人の事業用資産の納税猶予(個人版事業承継税制)個人事業承継計画の提出期限を2年6月延長期限
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置令和8年3月31日までとされている信託等可能期間を延長せずに終了(同日までに拠出された金銭等には引き続き適用)期限・計算
相続税等の財産評価の適正化被相続人等が課税時期前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産などについて、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価(令和9年1月1日以後の相続等から)評価

※上表は大綱の記載を要約したものです。正確な要件・適用関係は原文と、その後の法令・通達でご確認ください。

期限が変わる改正:事業承継税制

法人版事業承継税制の特例措置について、中小企業庁は特例承継計画の提出期限を令和9年(2027年)9月30日としています。大綱の「1年6月延長」と整合する期限です。期限が延びたことで、検討の時間は確保されました。一方で、期限が延びても制度の要件や適用後の継続要件が軽くなったわけではありません。「時間ができたので後回しにする」のではなく、「時間ができたので方針を固める」と受け止めるのが望ましいでしょう。

評価が変わる改正:貸付用不動産

大綱では、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、評価を見直す方針が示されました。これを受けて国税庁が公表した通達案「貸付用不動産の評価について」では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築された貸付用不動産(貸家とその敷地)は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価するとされています。取得価額がその取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は「取得価額×地価変動率」、建物は「取得価額-償却費」の100分の80で評価することもできます。また、不動産特定共同事業契約や分割された信託受益権などの「特定小口化商品」の目的となっている貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず同様に評価するとされています。

この見直しは、令和9年1月1日以後の相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価に適用するとされています。通達案には、収用や一定の買換えなどで取得したものを対象外とする定めや、通達制定日までに以前から持っている土地に新築した建物(建築中を含む)を対象外とする経過措置も設けられています。2026年10月9日時点では意見公募中で最終通達は出ておらず、経過措置の基準となる通達制定日もまだ決まっていません(AEGISは、意見公募の締切(2026年10月18日)を踏まえ、10月下旬から11月上旬になる可能性が高いとみています)。賃貸不動産を保有している、または取得を検討しているオーナーにとっては、「評価」の経路で計画の前提に直接触れる改正といえます。不動産に関する点検の詳細は、関連記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で解説しています。

過去の改正が「今」効いてくることもある

改正の影響は、公表された年だけに表れるわけではありません。たとえば、令和5年度の改正により、相続開始前に受けた暦年課税の贈与を相続財産に加算する期間は、3年から7年へと段階的に延びています。国税庁によれば、令和9年1月1日以後の相続から加算対象期間が延び始め、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内が対象になります。また、令和6年1月1日以後の贈与からは、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が設けられています。

数年前に決まった改正が、これからの贈与や相続のタイミングに影響することもあります。承継計画を見直すときは、「今年の改正」だけでなく「経過措置の途中にある改正」も確認対象に含めておく必要があります。

改正を「自分ごと」として点検する5つのステップ

では、実際に改正情報に接したとき、何から確認すればよいでしょうか。AEGISでは次の順番をおすすめしています。

  1. 自分の前提を書き出しておく:保有財産の一覧(種類・取得時期・所有者)、承継計画の時間軸、検討中の制度や対策を、普段から一枚にまとめておきます。前提が見えていないと、改正との照合ができません。
  2. 改正を4つの経路で仕分ける:期限・評価・計算・手続のどれに当たるかを判断し、自分の前提のどこに触れるかを確認します。
  3. 対象と適用時期を確認する:「誰の、どの財産・取引が対象か」「いつ以後の相続・贈与から適用されるか」「経過措置はあるか」を、一次情報で確認します。
  4. 税額だけでなく方針への影響を考える:影響が出る場合、税額の増減だけでなく、所有の形、分配のバランス、納税資金、事業の継続性に波及しないかを検討します。
  5. 確定した内容で計画を更新する:大綱の段階では内容が変わる可能性もあります。法令や通達で確定した内容を確認したうえで、計画を更新します。

改正情報の具体的な追い方や、専門家に相談するタイミングについては、関連記事「制度改正の情報をどう追い、いつ相談するか」で詳しく解説しています。

実務上注意したいポイント

大綱は「方針」であり、確定ではない

大綱は政府の方針を示すもので、細かな要件は法律・政令・省令・通達で定まります。大綱の要約記事だけを根拠に、急いで売買や贈与を実行するのは避けたほうが安全です。

情報源の「基準日」を確認する

書籍や解説記事には、それぞれ前提とする法令の時点があります。たとえば、令和7年12月時点の法令に基づいて作られた実務書では、特例承継計画の提出期限が改正前の日付で記載され、大綱で延長が示された旨が注記として添えられている例もあります。古い情報が誤っているのではなく、基準日が違うのです。国税庁のタックスアンサーにも「令和8年4月1日現在法令等」のように基準日が示されています。

「駆け込み」を目的にしない

適用開始日が示されると、その前に対策を済ませようとする動きが出がちです。しかし、評価の見直しの背景には、評価額と実際の価値との乖離への問題意識があります。改正の趣旨を踏まえずに取引を急ぐと、税務上だけでなく、資産の収益性や流動性の面でも無理が生じることがあります。

AEGISの視点

税制改正の情報に接したとき、多くの方は「得をするか、損をするか」を最初に考えます。しかしAEGISは、税制改正を「自分たちの承継計画の前提を点検する、年に一度の機会」と捉えています。

承継計画は、作った瞬間から少しずつ前提がずれていきます。財産の評価は毎年変わり、家族の状況も変わり、制度も改正されます。改正のニュースは、そのずれに気づくきっかけとして使うのが最も有益です。期限が延びた、評価が変わった、という事実そのものより、「それによって自分たちの計画のどこを見直す必要があるか」を考えることに価値があります。

そのためにも、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として把握しておくことが欠かせません。全体像が手元にあれば、改正が一つ発表されても、慌てずに「関係がある部分」だけを確認できます。税金は方針を実現するための手段の一つであり、改正によって方針そのものを揺るがせる必要はない——その前提に立つことが、改正に振り回されない承継設計の土台になると考えています。

事業承継をどこから始めるかは関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で、会社と個人の財産を一体で考える視点は「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

承継や資産税務、不動産評価に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 税制改正は「何が変わったか」より「自分の計画のどの前提に触れるか」で読むことが大切です。
  • 改正が承継計画に影響する経路は、期限・評価・計算・手続の4つに整理できます。
  • 令和8年度税制改正の大綱では、事業承継税制の計画提出期限の延長、教育資金の一括贈与の非課税措置の終了、貸付用不動産の評価の見直しなどが示されました。
  • 過去の改正の経過措置が、これからの贈与や相続に影響することもあります。
  • 大綱は確定ではありません。法令・通達で確定した内容を一次情報で確認してから計画を更新します。

具体的な影響の有無や対応は、財産の内容や家族の状況など個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 税制改正大綱が出たら、すぐに対策を始めるべきですか?

まずは影響の有無を確認する段階です。大綱は政府の方針であり、細かな要件は法律や政令・省令、通達で定まります。影響がありそうな項目について適用時期と対象を確認し、確定した内容を踏まえて計画を見直すのが基本的な順番です。期限が近い制度については、確定を待ちながら準備を並行して進めることもあります。

Q. 相続税の評価方法は、法律で決まっているのですか?

相続税法は、財産の価額を取得の時の時価によると定めていますが、具体的な評価方法の多くは国税庁の財産評価基本通達で定められています。そのため、評価のルールは通達の改正によって変わることがあります。令和8年度大綱で示された貸付用不動産の評価の見直しも、国税庁が通達案を公表し、通達で定める形で進められています。

Q. 事業承継税制の期限が延びたなら、急いで検討しなくてもよいですか?

期限が延びたことで検討の時間は確保されましたが、制度を使うかどうかの判断や、後継者・株式・財産の設計には時間がかかります。中小企業庁によれば、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日です。期限から逆算し、方針の整理を早めに進めておくことが望まれます。

Q. 自分に関係する改正かどうか、どうすれば分かりますか?

保有財産の一覧や承継計画など、自分の「前提」を書き出しておくことが出発点です。そのうえで、改正が期限・評価・計算・手続のどれに当たり、自分の前提のどこに触れるかを照らし合わせます。前提が整理されていれば、関係する改正を絞り込みやすくなります。

Q. 過去の改正も確認する必要がありますか?

あります。生前贈与の加算期間の延長のように、経過措置によって段階的に影響が表れる改正があるためです。承継計画を見直すときは、その年の改正だけでなく、経過措置の途中にある改正も確認対象に含めることをおすすめします。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。