小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか|貸付事業用と特定同族会社事業用を分ける「地代・会社の事業・役員」

敷地の図面と土地模型を確認する男女の手元

オーナー個人が土地を持ち、その上の建物を資産管理会社が持つ。あるいは、個人が建物ごと会社に貸し、会社が入居者に転貸する。資産管理会社を使う不動産オーナーには、こうした「個人と会社が一つの土地にまたがる形」がよく見られます。

結論から言うと、この場合の小規模宅地等の特例は、①会社から相当の対価(地代・家賃)を受け取っているか、②会社がその土地で何の事業をしているか、③土地を取得した親族が申告期限まで役員であり、土地を持ち続けるか、の3点で区分が決まります。結果は大きく、「特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで80%減額)」「貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)」「特例の対象外」の3つに分かれます。

この記事では、資産管理会社が関わる土地について、どの順番で区分を判定すればよいかを整理します。

小規模宅地等の特例の区分をおさらいする

小規模宅地等の特例は、亡くなった方(被相続人)やその方と生計を一にしていた親族(あわせて「被相続人等」)の事業や居住に使われていた宅地等について、一定の面積まで相続税の課税価格を減額する制度です(租税特別措置法第69条の4)。国税庁によれば、区分ごとの限度面積と減額割合は次のとおりです。

区分限度面積減額割合
特定事業用宅地等400㎡80%
特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
特定居住用宅地等330㎡80%
貸付事業用宅地等200㎡50%

資産管理会社が関わる場面で問題になるのは、主に特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等です。どちらになるかで、減額割合が80%か50%か、限度面積が400㎡か200㎡かが変わります。

なお、特例を使えるのは個人が相続などで取得した宅地等です。会社が所有している土地は会社の財産であり、相続で引き継がれるのは会社の株式ですから、この特例の対象にはなりません。会社所有の土地は、株式の評価を通じて相続税に反映されます。

取得する相続人ごとの要件(配偶者・同居親族など)や、複数の土地をどう選ぶかについては、関連記事「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で解説しています。

判定の第1関門:会社から「相当の対価」を受け取っているか

最初に確認したいのは、個人と会社の間で、地代や家賃が相当の対価として支払われているかどうかです。

特例でいう「貸付事業」や、特定同族会社事業用宅地等の前提となる「被相続人等の事業」は、不動産の貸付けが相当の対価により継続的に行われていることが前提とされています。国税庁の措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度で、相当の対価に至らない金額しか受け取っていない場合は「無償」と同じに扱うとされています。

つまり、次のような場合は、どの区分にも当たらず特例の対象外になる可能性が高いといえます。

  • 会社が個人の土地に建物を建て、地代を払っていない(使用貸借)
  • 地代は払っているが、土地の固定資産税程度にとどまっている

資産管理会社を設立したとき、「家族の会社だから地代は少なくてよい」と考えて低い地代のまま何年も経っているケースは珍しくありません。地代の水準は、借地権の課税(会社への受贈益の認定など)や土地の相続税評価にも関わります。土地の無償返還に関する届出や相当の地代の考え方は、関連記事「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で整理しています。

判定の第2関門:会社はその土地で何の事業をしているか

相当の対価を受け取っている場合、次に確認するのは会社の事業の内容です。

会社が貸付以外の事業に使っている場合

国税庁によれば、特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前から申告期限まで、一定の法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業を除く)に使われていた宅地等をいいます。

ここでいう「一定の法人」とは、相続開始の直前に、被相続人とその親族等が発行済株式の総数(または出資の総額)の50%超を持っている法人です(申告期限に清算中の法人を除く。租税特別措置法69条の4第3項3号、同法施行令40条の2)。

具体的には、次の2つの形が対象になります(措置法通達69の4-23)。

  • 被相続人が、土地をその法人に相当の対価で貸していた(法人が建物を所有)
  • 被相続人(または生計を一にする親族)が所有する建物を、その法人に相当の対価で貸していた場合の、その建物の敷地(生計を一にする親族が所有する建物の場合は、その親族が敷地を被相続人から無償で借りていたときに限ります)

資産管理会社と同じ株主構成の事業会社(たとえば、店舗や工場、事務所として使う会社)が使っている土地は、この区分に当たる可能性があります。また、法人の社宅の敷地は、親族だけが使っている場合を除き、法人の事業そのものに使われているものとして扱われます(同69の4-24)。

会社が不動産賃貸をしている場合

一方、典型的な資産管理会社のように、会社が建物を第三者に賃貸している場合は、会社の事業が「不動産貸付業」なので、特定同族会社事業用宅地等には当たりません。

ただし、それで特例が使えなくなるわけではありません。国税庁は、貸付事業用宅地等の中に「一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等」という区分を示しています。個人が会社に相当の対価で土地を貸し、会社がその上の建物で賃貸をしている形は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

また、個人が土地と建物の両方を持ち、建物を一括して会社に貸して、会社が入居者に転貸する形(いわゆるサブリース型)では、個人自身が会社に建物を貸していることになるため、その敷地は個人の貸付事業用の宅地等として判定されます。

判定のまとめ

ここまでを、資産管理会社でよく見られる形ごとに整理すると、次のようになります。

所有の形会社の使い方地代・家賃主に検討する区分
土地:個人/建物:会社会社が第三者へ賃貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用)
土地:個人/建物:会社会社が自ら事業に使用(店舗・事務所など)相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等(法人・役員・保有の要件あり)
土地・建物:個人建物を会社に一括賃貸し、会社が転貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(個人の貸付事業)
土地・建物:個人建物を同族会社が自ら事業に使用相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等
土地:個人/建物:会社問わない無償・固定資産税程度原則として特例の対象外
土地・建物:会社——特例の対象外(株式の評価に反映)

※AEGISが判定の考え方を整理したものです。実際の区分は、契約内容、利用の実態、相続人の状況などによって異なります。

一つの建物を会社が「自社の店舗」と「第三者への賃貸」の両方に使っている場合は、床面積の割合などで、特定同族会社事業用の部分と貸付事業用の部分に分けて判定することになります。

判定の第3関門:申告期限まで「役員」と「保有」を続けられるか

特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかは、相続が起きた時点の状況だけでは決まりません。国税庁によれば、土地を取得した親族について次の要件があります。

  • 法人役員要件:相続税の申告期限において、その法人の役員(清算人を除く)であること
  • 保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで持ち続けていること

あわせて、その土地が申告期限まで引き続き法人の事業に使われていることも必要です。

措置法通達の解説では、同じ土地を兄弟2人が2分の1ずつ相続し、申告期限に一方だけが法人の役員だった事例が示されています。役員である相続人の持分は特定同族会社事業用宅地等として、役員でない相続人の持分は貸付事業用宅地等として、それぞれ選択の候補になる、という整理です。誰が土地を取得し、誰が役員になっているかで、同じ土地でも減額割合が変わるということです。

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。相続人が会社の役員でない場合、この期間内に株主総会で役員に選任されているかどうかが問題になります。役員の選任や任期などの会社の手続きは、関連記事「資産管理会社の定款で決めておきたいこと」で取り上げています。

貸付事業用宅地等についても、取得した親族が申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで貸付事業を行い、土地を持ち続けることが要件です。

注意したい「3年以内の貸付け」と面積の調整

会社に貸し始めて3年以内の土地

貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象から除くというルールがあります。ただし国税庁によれば、相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」(貸付事業のうち、準事業以外のもの)を行っていた被相続人等の、その特定貸付事業に使われた宅地等は、この除外の対象になりません。

措置法通達69の4-24の4では、特定貸付事業に当たるかどうかは、社会通念上「事業」と称するに至る程度の規模で貸付けが行われていたかどうかで判定するとされ、建物の貸付けについては所得税基本通達26-9の取扱い(貸間・アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上であれば、特に反証がない限り事業として行われているものとする)があることが示されています。

資産管理会社を設立して、個人の土地を新たに会社へ貸し始めた直後に相続が起きた場合などは、この3年ルールに当たらないかを確認する必要があります。個人の不動産を会社に移す前に何を比べるべきかは、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

貸付事業用宅地等を選ぶと面積の調整が必要になる

複数の宅地等に特例を使う場合、貸付事業用宅地等を一つでも選ぶと、限度面積の調整が必要です。国税庁が示す算式は次のとおりです。

(特定事業用+特定同族会社事業用の面積)×200/400+(特定居住用の面積)×200/330+(貸付事業用の面積)≦200㎡

自宅の敷地と、会社に貸している土地の両方がある場合、どちらを優先して選ぶかで減額の総額が変わります。区分の判定は、こうした選択の前提になります。

実務上注意したいポイント

  • 地代・家賃の契約を書面で残す:相当の対価であることを説明できるよう、契約書、金額の決め方、改定の記録を整えておきます。
  • 会社の事業内容を確認する:同じ会社が「自社利用」と「賃貸」を兼ねている場合、どの部分が何に使われているかを図面などで把握しておきます。
  • 株主構成の50%超を確認する:特定同族会社事業用宅地等は、相続開始直前の持株割合で判定されます。株式の移転や増資の計画と合わせて確認します。
  • 後継者の役員就任を準備する:申告期限での役員要件を満たすには、相続人が役員に就任していることが必要です。遺言や事業承継の計画の中で、誰が土地を取得し、誰が役員になるかを揃えておきます。
  • 申告期限までに売却しない:保有継続要件があるため、納税資金のために土地を売る計画がある場合は、特例との関係を先に確認します。
  • 申告の手続を忘れない:特例を使うには、申告書への記載と計算明細書・遺産分割協議書の写しなどの添付が必要です。申告期限までに遺産が分割されていない場合には特例を適用せずに申告し、原則として申告期限から3年以内に分割されたときに、修正申告や更正の請求で特例を適用できる取扱いになっています(国税庁 No.4208)。

AEGISの視点

資産管理会社の設計では、どうしても「所得をどう分けるか」「株式の評価がどうなるか」に目が向きがちです。しかし、個人に残した土地の小規模宅地等の特例は、会社との契約の形、会社の事業、相続人の役割という、ふだんは別々に決めている要素の組み合わせで結果が変わります。

AEGISは、この特例を「相続の直前に当てはめるもの」ではなく、資産管理会社を設計する段階で、土地・建物・会社・相続人の関係を一枚に描いておくための確認項目だと考えています。地代を見直すと会社の収支が変わり、役員を誰にするかは会社の経営体制そのものの問題になります。特例の有利・不利だけで決めるのではなく、会社が長く機能する形と両立しているかを確かめることが大切です。

資産管理会社をいつ・何のために設立するか、全体像は「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。土地と事業会社を分けて持つ設計の意味は「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」もあわせてご覧ください。

不動産と会社が絡む資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 資産管理会社が関わる土地の小規模宅地等の特例は、「相当の対価の有無」「会社の事業内容」「申告期限までの役員・保有」の3段階で区分が決まります。
  • 地代が無償や固定資産税程度の場合は、原則として特例の対象外です。
  • 会社が貸付以外の事業に使う土地は特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%)の候補、会社が賃貸に使う土地は貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の候補になります。
  • 特定同族会社事業用宅地等は、被相続人と親族等の持株割合50%超、取得者の申告期限での役員就任と保有継続が要件です。
  • 新たに会社へ貸し始めて3年以内の土地や、限度面積の調整にも注意が必要です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 資産管理会社が持っている土地にも、小規模宅地等の特例は使えますか?

使えません。小規模宅地等の特例は、個人が相続や遺贈で取得した宅地等が対象です。会社が所有する土地は会社の財産であり、相続で引き継ぐのは会社の株式です。会社所有の土地は、株式の評価(純資産価額など)を通じて相続税に反映されます。

Q. 資産管理会社に土地を貸していれば、特定同族会社事業用宅地等として80%減額になりますか?

会社の事業によります。会社がその土地で不動産賃貸をしている場合は、特定同族会社事業用宅地等の対象となる事業から不動産貸付業が除かれているため、80%減額の区分には当たりません。この場合は、相当の対価を受け取っていれば貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

Q. 地代を固定資産税と同じ額にしている場合はどうなりますか?

措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度の金額は、相当の対価に至らないものとして無償と同様に扱うとされています。この場合、貸付事業にも同族会社の事業にも当たらず、特例の対象外となる可能性が高いといえます。地代の見直しは、会社の課税や土地の評価にも影響するため、あわせて検討します。

Q. 土地を相続した子が会社の役員でない場合、特例は使えませんか?

特定同族会社事業用宅地等の要件は、相続税の申告期限において役員であることです。相続の時点で役員でなくても、申告期限までに役員に就任していれば要件を満たす可能性があります。役員でない場合でも、会社に相当の対価で貸している土地であれば、貸付事業用宅地等の要件を満たすかを確認します。

Q. 相続の1年前に、資産管理会社に土地を貸し始めました。特例は使えますか?

貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を原則として除くルールがあります。ただし、被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、その事業に使われた宅地等は除外されません。特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかもあわせて、個別に確認が必要です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.67-69、P.133-137、P.143-145、P.198-199

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。