個人で持つ賃貸不動産の管理を資産管理会社に任せ、会社に管理料を支払う。資産管理会社の使い方として、よく検討される形です。
結論から言えば、管理料は「会社が実際に行っている業務の対価」として説明できる金額でなければなりません。「賃料の何%が相場か」という問いから入るのではなく、会社が何をしているか、それを記録で示せるかから逆算して決めるのが基本です。国税不服審判所の公表裁決事例には、業務の記録がないとして管理料の必要経費算入が認められなかった例もあれば、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例もあります。
この記事では、資産管理会社に管理を任せる3つの方式(管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式)を比較したうえで、管理料の決め方と、業務の実態を記録として残す方法を整理します。
資産管理会社に管理を任せる3つの方式
個人オーナーと資産管理会社の関係は、大きく3つの方式に分けて考えると整理しやすくなります。
| 方式 | お金の流れ | 会社の収益の源泉 | 主な確認点 |
|---|---|---|---|
| 管理委託方式 | 入居者 → オーナー個人。オーナーが会社に管理料を支払う | 管理料(業務の対価) | 会社が実際に担う業務と、管理料の水準 |
| サブリース方式 | 入居者 → 会社。会社がオーナーに借上賃料を支払う | 転貸賃料と借上賃料の差額 | 借上賃料の水準と、空室リスクを会社が実際に負っているか |
| 不動産所有方式 | 入居者 → 会社。会社が建物(場合により土地も)を所有 | 賃料収入そのもの | 移転時の税金、土地の貸し借りの整理 |
※上記はAEGISが論点を整理するために作成した区分です。実際の契約形態は物件ごとに異なります。
管理委託方式とサブリース方式は、不動産の所有者は個人のままで、会社が管理や賃貸の役割を担う形です。個人の不動産所得の一部を、業務の対価として会社に移すことになります。一方、不動産所有方式は、建物などを会社に移して、賃料収入そのものを会社に帰属させる形です。
なぜ管理料が問題になりやすいのか
管理委託方式やサブリース方式で論点になるのは、同族会社との取引では、金額を当事者が自由に決めやすいという点です。
必要経費として認められるか
個人の不動産所得の計算上、資産管理会社に支払った管理料が必要経費になるには、その費用が賃貸の業務と直接関係し、業務の遂行上必要であることが求められます。国税不服審判所の裁決事例でも、この「客観的にみて業務の遂行上必要か」という観点から判断されています。
同族会社の行為計算の否認
もう一つの論点が、同族会社の行為計算の否認です。同族会社の行為や計算をそのまま認めると、その株主等である個人やその特殊関係者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、税務署長はその行為や計算にかかわらず所得を計算し直すことができる、という仕組みです(所得税法157条1項)。国税不服審判所の公表裁決事例の分類(所得税法157条)には、同族会社への不動産管理料が同業者の水準を大きく上回るとして超過部分が否認された事例や、同族会社に低い賃料で一括して貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例などが並んでいます。
つまり、管理料には「業務があるか(実態)」と「金額が妥当か(水準)」という二つの問いがある、と整理できます。
裁決事例から見える判断のポイント
国税不服審判所が公表している不動産管理料の裁決事例からは、次のような傾向が読み取れます。いずれも個別の事実に基づく判断であり、結論がそのまま他の事案に当てはまるわけではありません。
- 記録がなければ「業務がない」と判断され得る:賃料の一定割合を管理料として同族会社に支払っていたものの、実際の管理は外部の管理会社や借上会社が担っており、同族会社が業務を行った記録(業務日誌など)が確認できなかった事例では、適正な管理料は零円と判断されました(平成18年6月13日裁決)。
- 会社が自ら業務を行っていれば認められる:同族会社が賃料の集金と督促、オーナーの指示を受けた賃貸借契約の締結、外部に再委託した点検業務の確認、修繕費の負担などを実際に行っていた事例では、支払った管理費の全額が必要経費と認められました(平成23年9月2日裁決)。
- 金額は同業者との比較で検証される:同族会社への管理料が過大かどうかが争われた事例では、類似する同業者の管理料の割合などを基に適正額が検討されています。
ここから言えるのは、管理料の妥当性は、会社の業務内容 → それを示す記録 → その業務に見合う水準の順に確かめられるということです。
方式ごとに確認したいこと
管理委託方式:外部の管理会社との「二重構造」に注意
実務で多いのが、入居者募集や建物管理を外部の不動産管理会社に委託したまま、資産管理会社にも管理料を支払う形です。この場合、資産管理会社には何が残っているのかが問われます。
- 外部の管理会社と資産管理会社の業務の分担を、書面で明確にする
- 資産管理会社が担う業務(収支の管理、外部業者への発注と監督、修繕の判断、オーナーへの報告など)を具体的に書き出す
- 外部の管理会社に支払う管理料と、資産管理会社に支払う管理料の合計が、業務全体に対して過大になっていないか確認する
サブリース方式:会社が「借り手としてのリスク」を負っているか
サブリース方式では、会社がオーナーから建物を一括で借り、入居者に転貸します。会社の収益は、転貸賃料と借上賃料の差額です。
この方式で確認したいのは、借上賃料が実態に照らして低すぎないかと、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負っているかです。満室時の差額が大きくなる設計にしながら、空室時の負担はオーナーに戻るような契約では、会社が借り手として負うべきリスクの実態が乏しく見えます。裁決事例の分類にも、同族会社に著しく低い賃料で貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例が含まれています。
不動産所有方式:移転時の負担と、土地の整理
建物を会社に移す不動産所有方式では、管理料の水準という論点は小さくなる一方、移転時の税金や費用、建物だけを移す場合の借地権と地代の整理が中心になります。これらは関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」と「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で扱っています。
管理料を決める手順
AEGISでは、管理料を次の順番で検討することをおすすめしています。
- 業務の棚卸し:物件ごとに、入居者対応、賃料の管理、修繕、清掃・点検、会計、オーナーへの報告などの業務を一覧にする
- 担い手の確認:それぞれの業務を、外部の管理会社・資産管理会社・オーナー本人の誰が担うのかを決める
- 体制の確認:資産管理会社の業務を実際に行う人(役員・従業員)と、その時間を見積もる
- 水準の比較:同じ業務を外部に委託した場合の料金や、業務にかかる人件費・経費と比べる
- 契約書への反映:業務範囲、管理料の算定方法、支払時期、報告の方法を契約書に書く
- 記録の継続:業務の記録を日常的に残し、年に一度は業務内容と管理料の関係を見直す
「賃料の何%」という決め方自体が問題なのではありません。問題になるのは、その割合の根拠を業務の内容で説明できないことです。
業務の実態を示す記録の例
| 業務 | 残しておきたい記録の例 |
|---|---|
| 賃料の管理 | 入金の確認記録、滞納者への督促の記録、月次の収支表 |
| 入居者・契約の対応 | 契約書の作成・更新の記録、入居者からの連絡と対応の記録 |
| 修繕・点検 | 業者への発注書・見積書、点検報告書の確認記録、修繕の判断の経緯 |
| 外部業者の管理 | 外部の管理会社との打合せ記録、業務報告の受領と確認の記録 |
| オーナーへの報告 | 定期的な収支報告書、修繕計画の提案書 |
記録は、税務調査のためだけのものではありません。物件の状況や判断の経緯が残っていれば、オーナーが交代したときにも管理を引き継ぎやすくなります。
実務上注意したいポイント
- 決算前の調整に使わない:会社の利益を整えるために、期末に管理料を増減させる運用は、業務の対価としての説明を難しくします。裁決事例にも、同族会社が利益を確保できるよう年度末に精算する契約が経済的合理性を欠くとされた例があります。
-
家族役員の報酬とあわせて考える:管理料で会社に移した収益は、多くの場合、家族役員の報酬として個人に戻ります。業務を担う人と報酬を受ける人が一致しているかは、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で確認できます。
-
物件ごとに方式を選ぶ:すべての物件を同じ方式にする必要はありません。外部管理会社の関与の度合いや、将来の売却・承継の予定に応じて、物件ごとに考える方法もあります。
- 相続税評価への影響も確認する:方式によって、土地・建物の評価や会社の株式の評価が変わることがあります。管理の方式を変える前に、承継への影響もあわせて確認します。
AEGISの視点
管理料の相談では、「何%までなら大丈夫か」という問いがよく出されます。しかしAEGISは、この問いの立て方自体を少し変えることが大切だと考えています。問うべきは「会社は、この物件のために何をしているのか」です。
資産管理会社が実際に収支を管理し、修繕を判断し、外部業者を監督していれば、その会社は単なる所得の受け皿ではなく、不動産経営の実務を担う主体になります。業務の記録は管理料の根拠になるだけでなく、オーナーが高齢になったときや相続が起きたときに、家族が経営を引き継ぐための手引きにもなります。
管理料を「税負担を調整する数字」としてではなく、「管理の仕組みをつくる対価」として設計すること。その考え方が、税務の説明力と、不動産経営の継続性の両方を高めるとAEGISは考えています。資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。
不動産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 資産管理会社に管理を任せる方式には、管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式があり、論点がそれぞれ異なります。
- 管理委託方式とサブリース方式では、「業務の実態があるか」と「金額が妥当か」の二つが問われます。
- 裁決事例では、業務の記録がない場合に管理料が認められなかった例と、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例があります。
- 管理料は、業務の棚卸しから始め、担い手・体制・水準を確かめ、契約書と日常の記録で裏付けることが基本です。
- 具体的な取扱いは、物件や契約の内容など個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 資産管理会社に支払う管理料の相場は、賃料の何%ですか?
一律の「適正な割合」が法令や通達で定められているわけではありません。裁決事例では、会社が実際に行っている業務の内容や、類似する同業者の管理料の水準などを基に判断されています。割合から決めるのではなく、業務の内容から説明できる金額にすることが大切です。
Q. 外部の管理会社に管理を委託している物件でも、資産管理会社に管理料を払えますか?
払うこと自体は可能ですが、外部の管理会社が担っていない業務を資産管理会社が実際に行っていることが前提です。業務の分担を書面で明確にし、資産管理会社の業務の記録を残しておかないと、管理料の根拠を説明しにくくなります。
Q. 管理委託方式とサブリース方式は、どちらが有利ですか?
一概には言えません。サブリース方式は会社に残る収益が大きくなりやすい一方、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負うことが前提になります。外部の管理会社の関与、物件の収益の安定性、将来の売却や承継の予定などをあわせて比較することをおすすめします。
Q. 管理料が否認されると、どうなりますか?
否認された部分は個人の不動産所得の必要経費として認められず、個人の所得が増えることになります。加算税や延滞税が生じる可能性もあります。会社側の処理との関係も含め、具体的な影響は個別事情によって異なります。
Q. 管理料を払う代わりに、不動産そのものを会社に移したほうがよいですか?
不動産所有方式は管理料の水準という論点が小さくなる一方、移転時の譲渡所得税や登録免許税・不動産取得税などの負担、土地の貸し借りの整理が必要になります。移転の負担と、移転後の効果を比べて判断することが大切です。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- e-Gov法令検索「所得税法」(施行日2026-10-01版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
確認日:2026-10-09 - 国税不服審判所「公表裁決事例要旨(所得税法関係)不動産所得の必要経費/不動産管理料」
https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0402090000.html
確認日:2026-10-07 - 国税不服審判所「公表裁決事例要旨(所得税法関係)同族会社の行為又は計算の否認」
https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/1001000000.html
確認日:2026-10-07 - 国税不服審判所 平成18年6月13日裁決(同族会社に支払った管理料の必要経費算入)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/71/10/index.html
確認日:2026-10-07 - 国税不服審判所 平成23年9月2日裁決(同族会社が自ら管理業務を行っていたと認められた事例)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/84/05/index.html
確認日:2026-10-07
書籍
- 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社(2014年)、第4編「財産管理法人の不動産税務」P.215-217、P.230
- 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局(2018年)、第1章Ⅳ P.51-53
