資産管理会社は、つくるときよりも閉じるときのほうが論点が見えにくいものです。保有していた不動産を売り終えた、引き継ぐ家族がいない、会社を維持する手間に見合わなくなった。こうした理由で、会社をたたむことを考える場面があります。
結論から言えば、資産管理会社を閉じるときは、「会社の財産をどう処分するか」と「株主が何をどの形で受け取るか」を、手続より先に決めておくことが重要です。解散・清算では、会社側で財産の処分に伴う課税が生じ、株主側では受け取った残余財産の一部がみなし配当として配当所得になることがあります。不動産をそのまま株主に分配する場合は、会社が時価で手放したものとして扱われる点にも注意が必要です。
この記事では、解散・清算の手続の流れ、会社と株主それぞれの税務、不動産の扱い、休眠させる場合との比較を、承継の視点を交えて整理します。
資産管理会社を閉じる選択肢
会社を「使わなくなった」ときの選択肢は、解散・清算だけではありません。
| 選択肢 | 概要 | 主な検討ポイント |
|---|---|---|
| 解散・清算 | 会社を解散し、財産を換価・弁済して残りを株主に分配し、法人格を消滅させる | 会社側の譲渡益課税、株主側のみなし配当、手続の期間と費用 |
| 休眠 | 事業を止めたまま会社を残す | 申告や地方税の負担、登記の放置によるみなし解散 |
| 存続して承継 | 株式を次世代に移し、会社を使い続ける | 株式の評価、議決権の集約、管理の担い手 |
| 他の会社との統合 | 合併などで別の会社にまとめる | 組織再編の税務、繰越欠損金の扱い |
※AEGISが比較のために作成した整理です。どの選択肢が適するかは、会社の財産・負債・株主構成によって異なります。
会社の株式を次世代に引き継いで使い続ける選択肢は、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で扱っています。この記事では、主に解散・清算を中心に見ていきます。
解散・清算の手続の流れ
株式会社は、株主総会の特別決議によって解散できます(会社法471条3号・309条2項11号)。解散すると、会社は清算の目的の範囲でのみ存続し、清算人が財産の整理を進めます。一般的な流れ(いわゆる通常清算)は次のとおりです。
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| 1. 解散の決議 | 株主総会で解散と清算人の選任を決議する |
| 2. 解散・清算人の登記 | 法務局へ解散と清算人選任の登記を申請する(登録免許税は解散3万円、清算人選任9千円) |
| 3. 財産の調査 | 清算人が財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受ける |
| 4. 債権者への公告・催告 | 官報で債権の申出を求める公告をし、知れている債権者には個別に催告する(申出期間は2か月以上) |
| 5. 換価と弁済 | 不動産などの財産を売却・回収し、債務を弁済する |
| 6. 残余財産の分配 | 残った財産を株主に分配する |
| 7. 決算報告・結了登記 | 決算報告を株主総会で承認し、清算結了の登記をする(登録免許税2,000円) |
法務局の記載例でも示されているとおり、債権者の申出期間があるため、清算人の就任から2か月以内に清算が終わることはありません。実際には、不動産の売却や税務申告の時期を含めて、少なくとも数か月の期間を見込んでおくことが現実的です。
会社に債務が多く、財産で弁済しきれないおそれがある場合は、裁判所の監督の下で行う特別清算などの手続が問題になります。この記事では、資産超過の会社の通常清算を前提にしています。
会社側の税務:清算中も「通常どおり」課税される
事業年度が区切られる
事業年度の途中で解散すると、事業年度開始の日から解散の日までが一つの事業年度となり、その後は清算中の事業年度として申告が続きます。申告期限は、解散の日までの事業年度や清算中の事業年度は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内ですが、残余財産が確定した日の属する事業年度は、確定の日の翌日から1か月以内(その期間内に残余財産の最後の分配を行う場合は、その前日まで)と短くなります(法人税法14条・74条)。解散の時期によって、申告の回数と時期が変わる点に注意が必要です。
財産を処分すれば譲渡益に課税される
平成22年度の税制改正以降、清算中の事業年度の所得も、通常の事業年度と同じように計算します。そのため、清算の過程で不動産を売却すれば、帳簿価額と売却価額との差額(譲渡益)に法人税等がかかります。長く保有した土地など、含み益の大きい財産を持つ資産管理会社では、この負担が清算の判断に大きく影響します。
なお、財産で債務を弁済しきれない場合には、期限切れとなった欠損金を損金に算入できる特例もあります。適用の可否は財産と債務の状況によって異なります。
株主側の税務:残余財産の分配とみなし配当
清算の最後に、株主は残余財産の分配を受けます。個人株主の場合、受け取った金額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得になります(所得税法25条1項4号)。残りの部分は、株式の譲渡があったものとして、取得費との差額が譲渡損益として扱われます。
| 受け取った残余財産の内訳 | 個人株主での扱い(概要) |
|---|---|
| 資本金等の額に対応する部分 | 株式の譲渡収入として、取得費との差額を譲渡損益として扱う |
| それを超える部分(会社に蓄積された利益など) | みなし配当として配当所得 |
非上場株式の配当は、原則として総合課税の対象となり、支払時に20.42%(所得税及び復興特別所得税)の源泉徴収が行われます。配当所得は他の所得と合算して税率が決まるため、会社に長年蓄積された利益を一度に受け取ると、その年の個人の所得税負担が大きくなることがあります。高所得のオーナーほど、この影響を事前に試算しておくことが大切です。
不動産をどう処分するか:売却か、現物で受け取るか
資産管理会社の財産の中心が不動産である場合、清算の進め方は大きく二つに分かれます。
| 進め方 | 会社側 | 株主側 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 会社が売却して現金で分配 | 売却益に法人税等 | 現金を受け取り、みなし配当等を計算 | 不動産を手放す方針が決まっている |
| 不動産を株主に現物で分配 | 時価で譲渡したものとして譲渡益に法人税等 | 不動産を時価で受け取ったものとして、みなし配当等を計算 | 家族が不動産を持ち続けたい |
ここで見落とされやすいのが、現物で分配しても会社の課税はなくならないことです。完全支配関係にある内国法人の間であれば、一定の要件のもとで帳簿価額のまま資産を移転できる「適格現物分配」という制度がありますが、分配を受ける者に個人が含まれる場合は対象になりません。個人株主に不動産を分配すると、会社は時価で譲渡したものとして課税され、株主は時価を基にみなし配当等を計算することになります。
さらに、不動産を個人で受け取ると、所有権移転の登記費用や不動産取得税などの負担も生じ得ます。現物分配を選ぶ場合は、会社での譲渡益課税、個人でのみなし配当、移転の費用を合わせて、売却した場合と比較することが欠かせません。
不動産を個人と法人のどちらで持つかという比較は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」の視点を逆向きに当てはめると整理しやすくなります。
休眠させる場合との比較
解散・清算の手間と税負担を考え、会社を休眠させて残す選択もあります。ただし、休眠は「何もしなくてよい状態」ではありません。
- 事業を止めても法人は存続するため、税務申告や地方税の取扱いを確認する必要があります
- 法務省によれば、最後の登記から12年を経過した株式会社は「休眠会社」として整理作業の対象となり、官報公告から2か月以内に登記や届出をしないと、みなし解散の登記がされます
- みなし解散の後も3年以内であれば、株主総会の特別決議で会社を継続できますが、登記を怠った代表者には100万円以下の過料が科される可能性があります
休眠は、将来また会社を使う予定がある場合の一時的な選択肢としては考えられます。一方、使う見込みがないまま残すと、管理の負担と、株式の承継という課題が先送りされることになります。
承継の視点で考えておきたいこと
資産管理会社を清算すると、オーナーの財産は「会社の株式」から「現金や不動産」へと形を変えます。この変化は、相続の準備にも影響します。
- 財産の性質が変わる:株式として評価されていた財産が、現金や不動産として個人の財産になります。相続税の評価や遺産の分け方も変わります。
-
役員退職金の検討:会社を閉じる前に、長年会社の業務を担った役員に退職金を支払うかどうかも論点です。考え方は関連記事「役員退職金はいつ・いくら支給するか」で扱っています。
-
清算のタイミング:オーナーの相続が近い時期に清算を進めると、手続の途中で相続が起きる可能性もあります。清算に要する期間を見込み、余裕を持って判断することが大切です。
実務上注意したいポイント
- 株主名簿と資本金等の額を確認する:みなし配当の計算には、株主ごとの持株数と、会社の資本金等の額が必要です。古い会社ほど、記録の確認に時間がかかります。
- オーナーとの貸し借りを整理する:オーナーから会社への貸付金や、会社からオーナーへの貸付金は、清算の過程で弁済・回収する必要があります。
- 賃貸借契約や借地関係を整理する:入居者との契約や、オーナー個人の土地を会社が借りている関係は、解散前に処理の方針を決めておきます。
- 複数年で試算する:会社の譲渡益課税、個人のみなし配当、翌年以降の個人の不動産所得まで含めて、数年単位で比較します。
AEGISの視点
資産管理会社の相談は、設立の段階に集中しがちです。しかしAEGISは、会社をつくるときに「どう閉じるか」まで想定しておくことが、資産管理会社の設計の一部だと考えています。
会社を閉じる局面では、会社に蓄積された利益が個人に戻り、不動産の所有者が変わり、家族が受け取る財産の形が変わります。これは税金の問題であると同時に、家族の財産をどう引き継ぐかという承継の問題です。清算するか、休眠させるか、株式のまま引き継ぐかは、オーナー個人の財産全体と家族の意向を見たうえで判断したいところです。
資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。
資産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 資産管理会社を閉じる選択肢には、解散・清算、休眠、存続して承継、他の会社との統合があります。
- 解散・清算は、解散決議と登記、財産の調査、債権者への公告・催告(2か月以上)、換価と弁済、残余財産の分配、結了登記の順に進みます。
- 清算中も会社の所得は通常どおり計算され、不動産を売却すれば譲渡益に課税されます。
- 個人株主が受け取る残余財産のうち、資本金等の額を超える部分はみなし配当として配当所得になります。
- 不動産を現物で分配しても会社の譲渡益課税はなくならないため、売却する場合と合わせて比較が必要です。
- 具体的な取扱いは、会社の財産・負債・株主構成など個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 資産管理会社の解散から清算結了まで、どのくらいの期間がかかりますか?
債権者への公告の期間が2か月以上必要なため、清算人の就任から2か月以内に清算が終わることはありません。不動産の売却や債務の弁済、税務申告の時期によって、少なくとも数か月を見込んでおくことが現実的です。
Q. 残余財産を受け取ると、必ず税金がかかりますか?
個人株主の場合、受け取った額のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当として配当所得になります。会社に利益が蓄積されていれば、多くの場合に課税が生じます。株式の取得費との関係で譲渡損益も生じるため、事前に試算しておくことをおすすめします。
Q. 会社の不動産を、売らずに家族が受け取ることはできますか?
残余財産として不動産を株主に分配することは可能です。ただし、個人株主への分配は会社が時価で譲渡したものとして扱われ、会社に譲渡益課税が生じます。株主側でもみなし配当等の計算が必要で、登記費用や不動産取得税などもかかり得ます。
Q. 解散せずに休眠させておけば、費用はかかりませんか?
休眠中も法人は存続するため、税務申告や地方税の取扱いを確認する必要があります。また、最後の登記から12年を経過すると、休眠会社として整理作業の対象となり、みなし解散の登記がされることがあります。
Q. オーナーが亡くなった後に、相続人が会社を清算することもできますか?
株式を相続した相続人が株主として解散を決議し、清算を進めることは可能です。ただし、相続税の申告・納税と清算の手続が重なり、判断の時間も限られます。会社をどうするかは、オーナー自身が元気なうちに方針を決めておくことが望まれます。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 法務局「商業・法人登記の申請書様式(株式会社解散及び清算人選任登記申請書・株式会社清算結了登記申請書)」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html
確認日:2026-10-07 - 法務局「株式会社解散及び清算人選任登記申請書(清算人が1人の場合)記載例」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252663.pdf
確認日:2026-10-07 - 法務局「株式会社清算結了登記申請書 記載例」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365396.pdf
確認日:2026-10-07 - 法務省「休眠会社・休眠一般法人の整理作業について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00082.html
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「会社法」(施行日2026-08-12版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「法人税法」(施行日2026-10-01版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「所得税法」(施行日2026-10-01版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
確認日:2026-10-09 - 国税庁 タックスアンサー No.1330「配当所得」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.1477「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1477.htm
確認日:2026-10-07
書籍
- 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社(2023年)、第11章「解散及び清算」P.755-768
- 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学ほか 著、中央経済社(2012年)、第Ⅰ部第4章「清算」P.76-89、第Ⅱ部第2章「現物分配の定義と適格要件」P.100-113
