事業承継計画とは、「いつ、誰に、何を、どのような方法で引き継ぐか」を時間軸に沿って整理した計画です。
ただし、計画に何を書けばよいかは意外と分かりにくいものです。経営者の交代時期だけを書いた計画では、株式や財産、家族の意向といった論点が抜け落ちます。反対に、税金の対策だけを並べた計画では、会社の経営がどう続くのかが見えません。
この記事では、事業承継計画に含めるべき項目を、経営・所有(株式)・財産・家族の4つの視点と、それらをつなぐ目的と時間軸から整理します。
事業承継計画とは
中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、親族内承継や従業員承継の場合の準備ステップとして「事業承継計画の策定」を位置付けています。ガイドラインでは、計画を次のような考え方で作ることが示されています。
- 現経営者が、後継者とともに作成する
- 10年後を見据えた中長期の視点で、現経営者の引退時期を定め、そこから後継者の育成に必要な期間を逆算する
- 策定した計画は、主要な取引先や金融機関などにも示し、理解を得る
ガイドラインには、10カ年版・5カ年版の計画様式も付録として掲載されています。様式では、事業計画(売上高・経常利益など)、会社の定款や株式、現経営者と後継者それぞれの年齢・役職・後継者教育・株式や財産の分配などを、年ごとに記入する形になっています。
AEGISでは、この考え方を土台に、オーナーの意思決定に必要な論点が漏れなく並ぶよう、計画を次の6つのブロックで構成することをおすすめしています。
| ブロック | 書くこと | 中心となる問い |
|---|---|---|
| 1. 目的と方針 | 承継の目的、承継先の方向性 | なぜ、何を残したいのか |
| 2. 時間軸 | 引退時期、各段階の目標年 | いつまでに、何を終えるのか |
| 3. 経営 | 事業計画、経営体制、後継者の育成と権限の移行 | 誰が、どう会社を率いるのか |
| 4. 所有(株式) | 現在と目標の持株比率、移転の方法と時期 | 誰が会社を支配するのか |
| 5. 財産 | 個人財産の配分、事業用不動産、貸付金、保証、納税資金 | 何を、誰に、どう渡すのか |
| 6. 家族と関係者 | 家族の意向、後継者以外への配慮、関係者への共有 | 誰の理解が必要か |
以下、それぞれのブロックで何を書けばよいかを見ていきます。
1. 目的と方針:計画の「前提」を書く
最初に書くべきは、具体的な対策ではなく、承継の目的と方針です。
- 事業を継続する前提か、どのような形で継続したいか
- 承継先の方向性(親族、社内の役員・従業員、社外の第三者)
- オーナーとして大切にしたい価値観や、事業を通じて残したいもの
この部分は短くても構いません。しかし、ここが言葉になっていないと、後のブロックで判断が割れたときに立ち返る基準がなくなります。
2. 時間軸:引退時期から逆算する
次に、現経営者の引退時期(代表者を退く時期、経営から完全に離れる時期)を仮に置き、そこから逆算して各段階の目標年を決めます。
- 後継者の入社・役員就任・代表者就任の目標年
- 株式の移転を始める年と、完了させたい年
- 現経営者が会長職などに就く期間と、その役割
事業承継ガイドラインでも、後継者の育成を含めた移行期間は3年以上を要するケースが半数を超えるとされています。時間軸を先に置くことで、「今年やるべきこと」が具体的になります。
3. 経営:会社をどう率いていくか
経営のブロックには、承継期間中の事業計画と、経営体制の移行を書きます。
- 事業計画:売上高・利益などの中長期の目標と、主な取組み
- 経営体制:役員構成、幹部社員の役割、意思決定の仕組み
- 後継者の育成:社内での経験(部門の担当、役員としての経験など)、社外での学び
- 権限の移行:どの権限を、いつ後継者に渡すか
事業計画は、現経営者だけで作るのではなく、後継者が主体的に関わることが望まれます。承継後にその計画を実行するのは後継者だからです。計画づくりの過程そのものが、現経営者と後継者の認識をすり合わせる機会になります。
4. 所有(株式):誰が会社を支配するか
所有のブロックは、事業承継計画の中でも特に重要です。会社の重要な意思決定は株主総会で行われ、役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要になるからです(会社法309条・341条)。
書いておきたい項目は次のとおりです。
- 現在の株主構成:株主ごとの持株数と議決権比率
- 目標の株主構成:承継完了時点で、後継者がどの程度の議決権を持つか
- 移転の方法:贈与、売買、相続(遺言による承継を含む)などのうち、どれをどの時期に用いるか
- 定款の確認事項:株式の譲渡制限、相続人等に対する売渡請求の定め、種類株式の活用の要否など
法人版事業承継税制(特例措置)を利用する可能性がある場合は、計画の中にその検討を位置付けておく必要があります。この制度を使うには、令和9年(2027年)9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが求められます(中小企業庁)。本記事で扱う事業承継計画と、制度上の「特例承継計画」は別のものですが、方針が整理されていれば制度上の計画も作りやすくなります。
5. 財産:会社と個人の財産をどう渡すか
事業承継では、株式以外の財産も同時に動きます。とくにオーナー個人の財産に占める自社株式の割合が大きい場合、後継者以外の家族に何を渡すか、納税資金をどう確保するかが論点になります。
- 個人財産の全体像:自社株式、不動産、金融資産、保険などの概要
- 事業用不動産:会社が使う不動産を誰が所有し、会社とどのような条件で貸し借りするか
- 会社との債権債務:オーナーから会社への貸付金、会社からオーナーへの貸付金
- 経営者保証:会社の借入れに対する保証を、承継時にどう扱うか
- 納税資金:贈与税・相続税の見込み額と、その資金をどう確保するか
相続が発生した場合、相続税の申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。納税資金の見通しは、計画の中で具体的に確認しておきたい項目です。
6. 家族と関係者:誰の理解が必要か
最後のブロックは、数字では表しにくいものの、計画の実現性を左右する部分です。
- 家族の意向:後継者候補本人の意思、配偶者や他の子の考え
- 公平性への配慮:株式を後継者に集中させる場合、他の家族に何を渡すか
- 意思の残し方:遺言の作成や、その内容を家族とどこまで共有するか
- 関係者への共有:幹部社員、主要取引先、金融機関に、いつ、何を伝えるか
株式を後継者に集中させる設計は、他の相続人の遺留分との関係が問題になることがあります。経営承継円滑化法には遺留分に関する民法の特例(後継者が贈与を受けた自社株式を遺留分の算定基礎から除外する合意や、その価額を合意時点で固定する合意)も設けられていますが、推定相続人全員の書面による合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可という手続きが必要となるため、利用の可否は個別に確認が必要です。いずれにしても、家族の理解を得るプロセスを計画に組み込んでおくことが大切です。
計画をまとめるときの形
6つのブロックの内容は、最終的に「年ごとの一覧」にまとめると、全体の流れが一目で分かります。たとえば次のようなイメージです。
| 項目 | 1年目 | 3年目 | 5年目 | 7年目 | 10年目 |
|---|---|---|---|---|---|
| 現経営者の役割 | 代表取締役 | 代表取締役 | 会長 | 会長 | 退任 |
| 後継者の役割 | 部門責任者 | 取締役 | 代表取締役 | 代表取締役 | 代表取締役 |
| 後継者の議決権比率 | 確認・設計 | 段階的移転 | 過半数 | 3分の2以上 | 移転完了 |
| 財産・不動産 | 全体把握 | 不動産の所有形態を検討 | 実行 | — | — |
| 家族・関係者 | 家族と方針共有 | 幹部社員へ共有 | 取引先・金融機関へ共有 | — | — |
※上記は説明のための例です。実際の時期や比率は、会社と家族の状況によって大きく異なります。
実務上注意したいポイント
- 最初から完璧を目指さない:まず書き出し、空欄を「未決事項」として見える化することに意味があります。
- 定期的に見直す:業績や家族の状況、税制は変わります。少なくとも年に一度は計画を見直すことが望まれます。
- 税金の対策を計画の中心にしない:税負担の軽減は、方針を実現する手段の一つとして位置付けます。
- 経営と所有の時期を分けてもよい:代表者の交代と株式の移転は、必ずしも同時である必要はありません。
AEGISの視点
事業承継計画を作るとき、多くの会社では「経営」の計画と「株式・税金」の計画が別々に作られがちです。前者は経営者と後継者が、後者は税理士などの専門家が担当し、両者が十分につながらないまま進むことがあります。
AEGISは、事業承継計画を「経営・所有・財産・家族を一つの時間軸に並べる設計図」と考えています。会社の株式をどう移すかは、事業用不動産の所有形態や、オーナー個人の資産の配分、さらには家族の生活や社会への還元のあり方とも結び付いています。これらを一枚の上に並べることで、初めて「どこで判断がぶつかるか」が見えてきます。
計画は、作った時点で完成するものではありません。オーナーと後継者、家族が同じ一枚を見ながら対話を重ね、状況に応じて書き換えていくこと——その積み重ねこそが、事業承継の実質だとAEGISは考えています。
事業承継をどこから始めればよいか、全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で、後継者が未定の段階で進められる準備は「後継者が決まる前にできる準備」で解説しています。
承継に関わる資産構造や評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 事業承継計画は、「いつ、誰に、何を、どのような方法で引き継ぐか」を時間軸で整理したものです。
- 経営の交代時期だけでなく、株式(所有)、財産、家族の意向までを含めて整理することが重要です。
- AEGISでは、目的と方針・時間軸・経営・所有・財産・家族と関係者の6つのブロックで構成することをおすすめしています。
- 計画は後継者とともに作り、関係者と共有し、定期的に見直していくものです。
- 具体的な内容は、会社と家族の個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 事業承継計画は、誰が作るものですか?
中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、現経営者が後継者とともに作成することが示されています。税務や法務の論点も多いため、専門家の支援を受けながら進めるのが一般的ですが、計画の方針そのものはオーナーと後継者が自ら考えることが重要です。
Q. 事業承継計画と、事業承継税制の「特例承継計画」は同じものですか?
別のものです。事業承継計画は、会社や家族が承継を進めるための全体計画です。一方、特例承継計画は、法人版事業承継税制(特例措置)の適用を受けるために都道府県に提出する書類で、提出期限は令和9年(2027年)9月30日とされています。
Q. 後継者が決まっていなくても、事業承継計画は作れますか?
承継先が未定の段階でも、目的と方針、時間軸、会社と個人の財産の現状などは書き出せます。後継者に関する欄は「未決事項」として残し、後継者が決まった段階で具体化していく方法が現実的です。
Q. 計画はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
業績、家族の状況、税制などの変化に応じて見直すことが望まれます。少なくとも年に一度、決算の確定後などに計画と実績を照らし合わせる機会を設けると、計画が形骸化しにくくなります。
Q. 家族の意向が一致しない場合はどうすればよいですか?
まずは、意向が一致しない点を計画上の「未決事項」として明確にすることが出発点です。そのうえで、株式と他の財産の配分、遺言の内容などを組み合わせて調整の余地を探ります。対立が深い場合は、早い段階から第三者を交えて話し合うことも検討に値します。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
確認日:2026-10-07 - 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)について」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
確認日:2026-10-09 - 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「会社法」(施行日2026-08-12版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(施行日2024-03-15版)
https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC0000000033
確認日:2026-10-09







