カテゴリー: 相続・資産承継

財産の把握、配分、納税資金、管理と引継ぎを考えるための解説です。

  • 事業承継計画に含める項目とは|株式・経営・財産・家族の意向をどう一枚にまとめるか

    事業承継計画に含める項目とは|株式・経営・財産・家族の意向をどう一枚にまとめるか

    事業承継計画とは、「いつ、誰に、何を、どのような方法で引き継ぐか」を時間軸に沿って整理した計画です。

    ただし、計画に何を書けばよいかは意外と分かりにくいものです。経営者の交代時期だけを書いた計画では、株式や財産、家族の意向といった論点が抜け落ちます。反対に、税金の対策だけを並べた計画では、会社の経営がどう続くのかが見えません。

    この記事では、事業承継計画に含めるべき項目を、経営・所有(株式)・財産・家族の4つの視点と、それらをつなぐ目的と時間軸から整理します。

    事業承継計画とは

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、親族内承継や従業員承継の場合の準備ステップとして「事業承継計画の策定」を位置付けています。ガイドラインでは、計画を次のような考え方で作ることが示されています。

    • 現経営者が、後継者とともに作成する
    • 10年後を見据えた中長期の視点で、現経営者の引退時期を定め、そこから後継者の育成に必要な期間を逆算する
    • 策定した計画は、主要な取引先や金融機関などにも示し、理解を得る

    ガイドラインには、10カ年版・5カ年版の計画様式も付録として掲載されています。様式では、事業計画(売上高・経常利益など)、会社の定款や株式、現経営者と後継者それぞれの年齢・役職・後継者教育・株式や財産の分配などを、年ごとに記入する形になっています。

    AEGISでは、この考え方を土台に、オーナーの意思決定に必要な論点が漏れなく並ぶよう、計画を次の6つのブロックで構成することをおすすめしています。

    ブロック書くこと中心となる問い
    1. 目的と方針承継の目的、承継先の方向性なぜ、何を残したいのか
    2. 時間軸引退時期、各段階の目標年いつまでに、何を終えるのか
    3. 経営事業計画、経営体制、後継者の育成と権限の移行誰が、どう会社を率いるのか
    4. 所有(株式)現在と目標の持株比率、移転の方法と時期誰が会社を支配するのか
    5. 財産個人財産の配分、事業用不動産、貸付金、保証、納税資金何を、誰に、どう渡すのか
    6. 家族と関係者家族の意向、後継者以外への配慮、関係者への共有誰の理解が必要か

    以下、それぞれのブロックで何を書けばよいかを見ていきます。

    1. 目的と方針:計画の「前提」を書く

    最初に書くべきは、具体的な対策ではなく、承継の目的と方針です。

    • 事業を継続する前提か、どのような形で継続したいか
    • 承継先の方向性(親族、社内の役員・従業員、社外の第三者)
    • オーナーとして大切にしたい価値観や、事業を通じて残したいもの

    この部分は短くても構いません。しかし、ここが言葉になっていないと、後のブロックで判断が割れたときに立ち返る基準がなくなります。

    2. 時間軸:引退時期から逆算する

    次に、現経営者の引退時期(代表者を退く時期、経営から完全に離れる時期)を仮に置き、そこから逆算して各段階の目標年を決めます。

    • 後継者の入社・役員就任・代表者就任の目標年
    • 株式の移転を始める年と、完了させたい年
    • 現経営者が会長職などに就く期間と、その役割

    事業承継ガイドラインでも、後継者の育成を含めた移行期間は3年以上を要するケースが半数を超えるとされています。時間軸を先に置くことで、「今年やるべきこと」が具体的になります。

    3. 経営:会社をどう率いていくか

    経営のブロックには、承継期間中の事業計画と、経営体制の移行を書きます。

    • 事業計画:売上高・利益などの中長期の目標と、主な取組み
    • 経営体制:役員構成、幹部社員の役割、意思決定の仕組み
    • 後継者の育成:社内での経験(部門の担当、役員としての経験など)、社外での学び
    • 権限の移行:どの権限を、いつ後継者に渡すか

    事業計画は、現経営者だけで作るのではなく、後継者が主体的に関わることが望まれます。承継後にその計画を実行するのは後継者だからです。計画づくりの過程そのものが、現経営者と後継者の認識をすり合わせる機会になります。

    4. 所有(株式):誰が会社を支配するか

    所有のブロックは、事業承継計画の中でも特に重要です。会社の重要な意思決定は株主総会で行われ、役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要になるからです(会社法309条・341条)。

    書いておきたい項目は次のとおりです。

    • 現在の株主構成:株主ごとの持株数と議決権比率
    • 目標の株主構成:承継完了時点で、後継者がどの程度の議決権を持つか
    • 移転の方法:贈与、売買、相続(遺言による承継を含む)などのうち、どれをどの時期に用いるか
    • 定款の確認事項:株式の譲渡制限、相続人等に対する売渡請求の定め、種類株式の活用の要否など

    法人版事業承継税制(特例措置)を利用する可能性がある場合は、計画の中にその検討を位置付けておく必要があります。この制度を使うには、令和9年(2027年)9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが求められます(中小企業庁)。本記事で扱う事業承継計画と、制度上の「特例承継計画」は別のものですが、方針が整理されていれば制度上の計画も作りやすくなります。

    5. 財産:会社と個人の財産をどう渡すか

    事業承継では、株式以外の財産も同時に動きます。とくにオーナー個人の財産に占める自社株式の割合が大きい場合、後継者以外の家族に何を渡すか、納税資金をどう確保するかが論点になります。

    • 個人財産の全体像:自社株式、不動産、金融資産、保険などの概要
    • 事業用不動産:会社が使う不動産を誰が所有し、会社とどのような条件で貸し借りするか
    • 会社との債権債務:オーナーから会社への貸付金、会社からオーナーへの貸付金
    • 経営者保証:会社の借入れに対する保証を、承継時にどう扱うか
    • 納税資金:贈与税・相続税の見込み額と、その資金をどう確保するか

    相続が発生した場合、相続税の申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。納税資金の見通しは、計画の中で具体的に確認しておきたい項目です。

    6. 家族と関係者:誰の理解が必要か

    最後のブロックは、数字では表しにくいものの、計画の実現性を左右する部分です。

    • 家族の意向:後継者候補本人の意思、配偶者や他の子の考え
    • 公平性への配慮:株式を後継者に集中させる場合、他の家族に何を渡すか
    • 意思の残し方:遺言の作成や、その内容を家族とどこまで共有するか
    • 関係者への共有:幹部社員、主要取引先、金融機関に、いつ、何を伝えるか

    株式を後継者に集中させる設計は、他の相続人の遺留分との関係が問題になることがあります。経営承継円滑化法には遺留分に関する民法の特例(後継者が贈与を受けた自社株式を遺留分の算定基礎から除外する合意や、その価額を合意時点で固定する合意)も設けられていますが、推定相続人全員の書面による合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可という手続きが必要となるため、利用の可否は個別に確認が必要です。いずれにしても、家族の理解を得るプロセスを計画に組み込んでおくことが大切です。

    計画をまとめるときの形

    6つのブロックの内容は、最終的に「年ごとの一覧」にまとめると、全体の流れが一目で分かります。たとえば次のようなイメージです。

    項目1年目3年目5年目7年目10年目
    現経営者の役割代表取締役代表取締役会長会長退任
    後継者の役割部門責任者取締役代表取締役代表取締役代表取締役
    後継者の議決権比率確認・設計段階的移転過半数3分の2以上移転完了
    財産・不動産全体把握不動産の所有形態を検討実行——
    家族・関係者家族と方針共有幹部社員へ共有取引先・金融機関へ共有——

    ※上記は説明のための例です。実際の時期や比率は、会社と家族の状況によって大きく異なります。

    実務上注意したいポイント

    • 最初から完璧を目指さない:まず書き出し、空欄を「未決事項」として見える化することに意味があります。
    • 定期的に見直す:業績や家族の状況、税制は変わります。少なくとも年に一度は計画を見直すことが望まれます。
    • 税金の対策を計画の中心にしない:税負担の軽減は、方針を実現する手段の一つとして位置付けます。
    • 経営と所有の時期を分けてもよい:代表者の交代と株式の移転は、必ずしも同時である必要はありません。

    AEGISの視点

    事業承継計画を作るとき、多くの会社では「経営」の計画と「株式・税金」の計画が別々に作られがちです。前者は経営者と後継者が、後者は税理士などの専門家が担当し、両者が十分につながらないまま進むことがあります。

    AEGISは、事業承継計画を「経営・所有・財産・家族を一つの時間軸に並べる設計図」と考えています。会社の株式をどう移すかは、事業用不動産の所有形態や、オーナー個人の資産の配分、さらには家族の生活や社会への還元のあり方とも結び付いています。これらを一枚の上に並べることで、初めて「どこで判断がぶつかるか」が見えてきます。

    計画は、作った時点で完成するものではありません。オーナーと後継者、家族が同じ一枚を見ながら対話を重ね、状況に応じて書き換えていくこと——その積み重ねこそが、事業承継の実質だとAEGISは考えています。

    事業承継をどこから始めればよいか、全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で、後継者が未定の段階で進められる準備は「後継者が決まる前にできる準備」で解説しています。

    承継に関わる資産構造や評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 事業承継計画は、「いつ、誰に、何を、どのような方法で引き継ぐか」を時間軸で整理したものです。
    • 経営の交代時期だけでなく、株式(所有)、財産、家族の意向までを含めて整理することが重要です。
    • AEGISでは、目的と方針・時間軸・経営・所有・財産・家族と関係者の6つのブロックで構成することをおすすめしています。
    • 計画は後継者とともに作り、関係者と共有し、定期的に見直していくものです。
    • 具体的な内容は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 事業承継計画は、誰が作るものですか?

    中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、現経営者が後継者とともに作成することが示されています。税務や法務の論点も多いため、専門家の支援を受けながら進めるのが一般的ですが、計画の方針そのものはオーナーと後継者が自ら考えることが重要です。

    Q. 事業承継計画と、事業承継税制の「特例承継計画」は同じものですか?

    別のものです。事業承継計画は、会社や家族が承継を進めるための全体計画です。一方、特例承継計画は、法人版事業承継税制(特例措置)の適用を受けるために都道府県に提出する書類で、提出期限は令和9年(2027年)9月30日とされています。

    Q. 後継者が決まっていなくても、事業承継計画は作れますか?

    承継先が未定の段階でも、目的と方針、時間軸、会社と個人の財産の現状などは書き出せます。後継者に関する欄は「未決事項」として残し、後継者が決まった段階で具体化していく方法が現実的です。

    Q. 計画はどのくらいの頻度で見直すべきですか?

    業績、家族の状況、税制などの変化に応じて見直すことが望まれます。少なくとも年に一度、決算の確定後などに計画と実績を照らし合わせる機会を設けると、計画が形骸化しにくくなります。

    Q. 家族の意向が一致しない場合はどうすればよいですか?

    まずは、意向が一致しない点を計画上の「未決事項」として明確にすることが出発点です。そのうえで、株式と他の財産の配分、遺言の内容などを組み合わせて調整の余地を探ります。対立が深い場合は、早い段階から第三者を交えて話し合うことも検討に値します。

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    参考資料・出典

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  • 相続土地国庫帰属制度で土地を手放すには|引き取られない土地の要件・負担金・相続放棄や売却との比較

    相続土地国庫帰属制度で土地を手放すには|引き取られない土地の要件・負担金・相続放棄や売却との比較

    相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した土地を、一定の要件を満たす場合に、負担金を納めて国に引き取ってもらう制度です。令和5年(2023年)4月27日に始まりました(法務省)。

    ただし、どのような土地でも引き取ってもらえるわけではありません。建物が残っている土地や境界がはっきりしない土地は申請の段階で却下され、崖や埋設物などがあって管理に過大な費用がかかる土地は審査で不承認となります。また、審査手数料に加えて、原則20万円の負担金を納める必要があります。

    この記事では、制度を使える人と使えない土地、費用と手続の流れを整理したうえで、相続放棄・売却・活用と比べて、どのような土地なら国庫帰属を選ぶ意味があるかを、オーナーの判断の視点から解説します。

    相続土地国庫帰属制度とは

    この制度は、所有者不明土地の発生を予防することを目的に設けられました。「遠方に住んでいて使う予定がない」「周囲に迷惑をかけないよう管理し続ける負担が大きい」といった理由で、相続した土地を手放したいというニーズが高まっていることが背景にあります(法務省)。

    それまで、相続した土地だけを手放す一般的な方法はほとんどありませんでした。相続放棄をすれば土地を受け継がずに済みますが、預貯金や自宅などほかの財産もすべて受け継げなくなります。売却や寄附は、買い手や受け手が見つからなければ成立しません。国庫帰属制度は、「ほかの財産は相続したうえで、特定の土地だけを国に引き渡す」ための選択肢として位置付けられます。

    申請できる人

    • 相続または遺贈(相続人に対する遺贈)によって土地の所有権を取得した人
    • 制度が始まる前(令和5年4月27日より前)に相続した土地も対象です
    • 共有の土地は、共有者全員で申請する必要があります。共有者全員で共同申請する場合は、相続以外の方法で持分を取得した共有者も加わることができます

    一方で、売買や生前贈与で取得した土地は対象外です(法務省Q&A)。親から生前に贈与を受けた土地を後から手放したいと考えても、この制度は使えません。この点は、生前の財産移転を検討する段階で知っておきたいポイントです。

    引き取ってもらえない土地:却下要件と不承認要件

    制度の利用で最も重要なのが、対象外となる土地の要件です。法務省は、申請の段階で直ちに却下となる土地と、審査の結果として不承認となる土地を分けて示しています(相続土地国庫帰属法2条3項・4条・5条)。

    申請の段階で却下される土地

    • 建物がある土地
    • 担保権や使用収益権(抵当権、賃借権など)が設定されている土地
    • 通路など、他人による利用が予定されている土地
    • 土壌汚染されている土地
    • 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地

    審査の結果、不承認となる土地

    • 一定の勾配・高さがある崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
    • 土地の管理・処分を妨げる工作物、車両、樹木などが地上にある土地
    • 除去しなければならない有体物が地下にある土地
    • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
    • その他、通常の管理・処分に過分な費用・労力がかかる土地

    要件を見ると分かるとおり、国が引き取るのは「更地で、境界が明らかで、権利関係が整理され、特別な管理を要しない土地」が基本です。裏返せば、申請の前に建物の解体、抵当権の抹消、境界の確認、残置物の撤去などを所有者側で済ませておく必要がある場合が少なくありません。

    費用:審査手数料と負担金

    費用金額・内容納めるタイミング
    審査手数料土地1筆あたり14,000円(収入印紙。却下・不承認でも返還されない)申請時
    負担金国有地となった後の10年分の標準的な管理費用を考慮して算定。原則20万円承認とあわせて届く負担金の額の通知を受けた日から30日以内
    申請前の準備費用建物の解体、境界の確認・測量、残置物の撤去、抵当権の抹消など(土地の状況による)申請前

    負担金は原則20万円ですが、市街化区域や用途地域内の一部の宅地、農用地区域などの一部の田畑、森林は、面積に応じて算定されます(法務省。算定方法は同法施行令5条で、土地の区分と面積の区分ごとに定められています)。隣接する同じ区分の2筆以上の土地は、一つの土地とみなして負担金を算定するよう申し出ることもできます(同施行令6条)。具体的な金額は、法務省が公表している算定方法で事前に確認しておくとよいでしょう。

    見落とされやすいのは、表の3行目の「申請前の準備費用」です。建物の解体費用は、構造や立地、地中の杭や埋設物の有無によって大きく変わります。境界標が見当たらない土地では、測量や隣地所有者との立会いが必要になることもあります。制度の手数料と負担金だけで比較すると、総額の見積りを誤るおそれがあります。

    手続の流れ

    1. 事前相談:土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局で相談できます
    2. 承認申請:申請書と添付書類を提出し、審査手数料を納めます。申請書の作成を代行できる専門家は、弁護士・司法書士・行政書士とされています
    3. 審査:書面審査に加え、法務局の担当者による現地調査が行われることがあります。標準処理期間は8か月とされ、事案によってはそれを超えることもあります
    4. 承認・負担金の納付:承認とあわせて負担金の額が通知され、その通知を受けた日から30日以内に負担金を納めると、その時点で土地の所有権が国に移ります。期限までに納めないと承認の効力が失われます(同法10条・11条)

    なお、偽りその他不正の手段で承認を受けたことが判明した場合は、承認が取り消され、損害賠償責任を負う可能性があるとされています(法務省Q&A)。申請時に把握している土地の状況は、正確に伝えることが前提です。

    運用状況から見えること

    法務省の統計(令和8年8月31日現在)によると、制度開始からの申請件数は5,997件、そのうち国庫に帰属した件数は3,119件です。一方、却下は85件、不承認は100件、取下げは1,139件となっています。

    取下げの主な理由を見ると、「有効活用の見込みが生じた」が586件と最も多く、「却下・不承認であることが判明した」が405件と続きます。申請をきっかけに隣地所有者や自治体などとの話が進み、結果として国庫帰属以外の形で土地の行き先が決まるケースが少なくないことがうかがえます。

    申請件数を地目別に見ると、田・畑が2,335件、宅地が2,091件、山林が902件です。農地や山林など、売却が難しい土地の受け皿として使われている様子が読み取れます。

    相続放棄・売却・活用との比較

    使わない土地を相続したとき、国庫帰属は選択肢の一つにすぎません。AEGISでは、次のように整理して比較することをおすすめしています。

    選択肢向いている場面主な注意点
    活用する(貸す・事業に使う)立地や需要があり、収益化の見込みがある初期投資・管理体制・撤退時の扱い
    売却する(隣地所有者への売却を含む)買い手が見つかる、または隣地に需要がある価格の折り合い、測量・解体などの売却準備
    寄附する(自治体・団体など)受け手に具体的な利用目的がある受け手が限られ、成立は相手次第
    国庫帰属売却・活用が難しく、要件を満たす状態にできる相続・遺贈で取得した土地に限る。手数料・負担金・準備費用
    相続放棄財産全体として負債が多い、または相続したい財産がない土地だけを選んで放棄することはできない。期限あり

    相続放棄との違い

    相続放棄は、家庭裁判所への申述によって、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことにする手続です。申述は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければなりません(裁判所)。

    相続放棄は「財産全体を受け継ぐかどうか」の判断であり、特定の土地だけを放棄することはできません。これに対して国庫帰属は、相続した後に、土地を一筆ごとに手放すかどうかを判断できる制度です。期限も設けられていないため、相続後しばらく管理してみてから判断することもできます。

    売却・活用との順番

    国庫帰属は負担金を支払って手放す方法です。売却できれば対価を受け取れますし、活用できれば収益が生まれます。そのため一般的には、「活用・売却の可能性を確かめる → 難しければ寄附や国庫帰属を検討する」という順番で考えるのが自然です。統計で「有効活用の見込みが生じた」ことによる取下げが多いことも、この順番が実務的であることを示しています。

    実務上注意したいポイント

    • 相続登記を先に済ませる:国庫帰属を申請するにも、相続した土地の権利関係を明確にしておく必要があります。相続登記の申請は義務化されており、期限があります。
    • 共有のまま相続しない:共有の土地は共有者全員でなければ申請できません。遺産分割の段階で、手放す予定の土地を誰が取得するかを決めておくと、後の手続が進めやすくなります。
    • 境界と現況の確認を早めに行う:境界標の有無、越境物、残置物、地中の埋設物などは、売却する場合も国庫帰属を申請する場合も確認が必要です。
    • 固定資産税と管理責任は帰属まで続く:国庫に帰属するまでは所有者です。審査期間中も草刈りや安全確認などの管理は欠かせません。
    • 具体的な可否は法務局で確認する:要件への該当性は土地ごとに判断されます。申請前に法務局の相談を活用すると、準備の範囲を見極めやすくなります。

    AEGISの視点

    国庫帰属制度は、「相続した土地は持ち続けるしかない」という状況に出口を設けた点で、意義の大きい制度です。一方でAEGISは、この制度を「最後の出口」として位置付け、その手前で検討すべきことを先に整理することが大切だと考えています。

    使っていない土地にも、隣地の所有者にとっては価値がある、地域の事業者が駐車場や資材置き場として求めている、といった需要が隠れていることがあります。立地や面積によっては、賃貸以外の事業で活用できる場合もあります。また、負担金と準備費用を払って手放すことと、低い価格でも売却することのどちらが合理的かは、土地ごとの管理コストや将来の見通しによって変わります。

    さらに、この制度は相続・遺贈で取得した土地が対象です。将来、子どもが使わないと分かっている土地がある場合、生前贈与で渡すと国庫帰属を使えなくなる点も含めて、「誰に、どの財産を、どの方法で渡すか」を相続全体の設計の中で考える必要があります。遺言で手放す予定の土地の取得者を定めておくことも、相続人の負担を減らす一つの方法です。

    相続した実家が空き家になった場合の売却・賃貸・保有の比較は関連記事「相続した実家が空き家になったときの選択肢」で、相続登記の義務化への対応は「相続登記と住所等変更登記の義務化への対応」で解説しています。農地を相続した場合の考え方は「相続した農地・生産緑地をどうするか」も参考になります。制度改正を自分の承継計画にどう当てはめるかは、「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で全体像を整理しています。

    不動産の承継や評価にかかわる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 相続土地国庫帰属制度は、相続・遺贈で取得した土地を、要件を満たせば負担金を納めて国に引き取ってもらう制度です(令和5年4月27日開始)。
    • 建物がある土地、担保権が設定された土地、境界が不明な土地などは申請段階で却下され、崖や埋設物などがある土地は不承認となります。
    • 費用は審査手数料(1筆14,000円)と負担金(原則20万円、一部の土地は面積に応じて算定)に加え、解体や測量などの準備費用がかかることがあります。
    • 相続放棄は財産全体の判断、国庫帰属は土地ごとの判断です。活用・売却の可能性を確かめたうえで、出口の一つとして検討するのが現実的です。
    • 具体的な可否は土地ごとに異なるため、法務局での事前相談を活用することが望まれます。

    よくある質問

    Q. 相続してから何年も経っている土地でも申請できますか?

    申請できます。制度が始まった令和5年4月27日より前に相続した土地も対象とされています(法務省Q&A)。国庫帰属の申請には期限がないため、相続してから時間が経った土地でも検討できます。

    Q. 親から生前に贈与を受けた土地は対象になりますか?

    対象になりません。この制度を利用できるのは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈)で土地を取得した人です。売買や生前贈与で取得した土地は対象外とされています。

    Q. 古い家が建ったままの土地でも申請できますか?

    建物がある土地は、申請の段階で却下される要件に当たります。原則として建物を解体してから申請することになります。解体を予定している場合の扱いは、申請予定の法務局に事前に相談しておくと安心です。

    Q. 兄弟で共有している土地はどうなりますか?

    共有の土地は、共有者全員で申請する必要があります。共有者のうち一人でも同意しない場合は申請できません。手放す可能性のある土地は、遺産分割の段階で単独の取得者を決めておくことも検討に値します。

    Q. 負担金はいつ、いくら払うのですか?

    負担金は原則20万円で、承認とあわせて届く負担金の額の通知を受けた日から30日以内に納めます。一部の宅地・農地と森林は面積に応じて算定されます。期限までに納めないと承認の効力が失われるため、資金をあらかじめ準備しておくことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、2023年(2024年第5刷)、第4章 土地の調査・土壌汚染の調査(印刷 p.196-197、p.282)、第10章 建物解体(印刷 p.444-445)
  • 相続税で差し引ける債務と葬式費用の範囲|借入金・未払いの税金・入院費・葬儀の費用はどこまで控除できるか

    相続税で差し引ける債務と葬式費用の範囲|借入金・未払いの税金・入院費・葬儀の費用はどこまで控除できるか

    相続税の計算では、亡くなった方(被相続人)が相続開始の時点で負っていた確実な債務と、葬式費用を、遺産の額から差し引くことができます。これを「債務控除」といいます。

    差し引けるかどうかの分かれ目は、おおむね次の3点です。

    • 亡くなった方自身の債務か(相続人が相続後に負担する手続費用は対象外)
    • 相続開始の時点で存在し、確実といえるか(時効が完成した債務や、単なる保証は原則として対象外)
    • 葬式そのものに伴う費用か(香典返し・墓地や墓石・法要の費用は対象外)

    借入金のように分かりやすいものだけでなく、未払いの入院費や施設利用料、亡くなった年の固定資産税・住民税、準確定申告で納める所得税なども対象になり得ます。一方で、細かな支出ほど申告から漏れやすいのも実情です。この記事では、控除できるもの・できないものを整理し、資料のそろえ方と、申告後に漏れに気づいた場合の考え方までをまとめます。

    債務控除とは:相続税は「差し引いた後の財産」にかかる

    相続税は、相続や遺贈で取得した財産の価額から、被相続人の債務と葬式費用のうちその人が負担した部分を差し引いた金額をもとに計算します(相続税法13条)。借入金を引き継いだ人は、その分だけ実際に受け取る財産の価値が小さくなるため、その負担を課税価格に反映させる仕組みです。

    債務控除ができるのは、原則として相続人と包括受遺者(遺言で遺産の全部や一定割合を受け取る人)で、実際にその債務や葬式費用を負担した人です。相続や遺贈で財産を取得したときに日本に住所がないなど、一定の場合には差し引ける債務の範囲が限られ、葬式費用は差し引けません(国税庁 タックスアンサーNo.4126)。

    誰がいくら負担したかが決まっていない段階では、法定相続分や包括遺贈の割合に応じて負担したものとして扱われます(相続税法基本通達13-3)。遺産分割の中で「どの債務を誰が引き継ぐか」を決めると、その結果が各人の相続税額にも反映されます。

    差し引ける債務の条件

    相続開始の時点で存在し、「確実」であること

    差し引ける債務は、相続開始の際に現に存在する被相続人の債務で、確実と認められるものに限られます(相続税法13条・14条)。

    • 書面による証拠が必ずしも必要というわけではありません。ただし、金額が確定していない債務は、相続開始時の状況から確実と認められる範囲の金額に限られます(相続税法基本通達14-1)。
    • 相続開始の時点ですでに消滅時効が完成している債務は、確実な債務にあたらないものとして扱われます(同14-4)。
    • 保証債務は原則として差し引けません。主たる債務者が弁済できない状態で、保証人が支払わなければならず、しかも求償しても返ってくる見込みがない部分に限って差し引けます。連帯債務は、自分の負担部分が明らかであればその金額を差し引けます(同14-3)。

    主な債務の扱い

    項目扱いの目安確認したい資料
    金融機関からの借入金相続開始日の残高を差し引ける(団体信用生命保険などの保険金で完済され、相続人が引き継がない部分は除く)残高証明書、返済予定表、団体信用生命保険の加入状況が分かる資料
    未払いの入院費・医療費亡くなった時点で未払いの分は差し引ける請求書・領収書(診療期間が分かるもの)
    施設利用料・公共料金・クレジットカード亡くなった方名義の契約で、未払いの分は差し引ける請求書、利用明細、引落し記録
    準確定申告で納める所得税差し引ける準確定申告書の控え
    固定資産税・住民税亡くなった方に課されたもので、未納の部分は差し引ける納税通知書、納付記録
    事業の未払金・預り敷金確実なものは差し引ける帳簿、賃貸借契約書
    生前に買った墓石・仏壇の未払代金差し引けない(非課税財産に関する債務)—
    保証債務原則差し引けない(例外あり)保証契約書、主たる債務者の状況
    相続人の責任で生じた延滞税・加算税差し引けない—

    ※AEGISが整理した目安です。個別の可否は、契約内容や事実関係によって異なります。

    税金の債務:所得税・固定資産税・住民税

    税金は、亡くなった後に納付することになったものでも債務として差し引けるのが特徴です。

    準確定申告で納める所得税

    年の途中で亡くなった方に申告すべき所得があった場合、相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、その年1月1日から亡くなった日までの所得について申告と納税をします(準確定申告。国税庁 タックスアンサーNo.2022)。この所得税は、亡くなった時点ではまだ確定していませんが、債務として差し引くことができます(相続税法14条2項、同法施行令3条)。

    ただし、相続人の責任で生じた延滞税や加算税は差し引けません(同施行令3条ただし書)。準確定申告の期限管理は、相続税の計算にもつながるということです。

    固定資産税

    固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)の所有者に、その年度分が課されます(地方税法359条)。そのため、亡くなった方が1月1日時点の所有者であれば、亡くなった年度の固定資産税は亡くなった方に課された税金です。相続開始の時点で納期が来ていない分を含め、未納の部分は債務控除の対象として確認します。国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」でも、納税通知書が相続開始日に届いていなくても、亡くなった年分の未納の固定資産税・住民税は債務控除の対象として第13表に記入する例が示されています。

    なお、亡くなった方以外の人が所有する不動産に課された固定資産税は、亡くなった方の債務ではないため差し引けません。

    住民税

    個人の住民税も、1月1日が賦課期日です(地方税法318条)。亡くなった年の1月1日に住所があった方には、前年の所得に対する住民税が課されており、相続開始時点で未納の部分は差し引けます。一方、翌年の1月1日には亡くなった方は存在しないため、亡くなった年の所得に対する住民税は課されず、差し引く対象もありません。

    医療費・施設利用料:所得税の医療費控除との関係

    亡くなった後に病院から請求された入院費は、診療を受けた時点で亡くなった方に支払義務が生じていたものであれば、相続開始時に未払いだった債務として差し引けます。介護施設の利用料や、亡くなった方名義で契約していた公共料金・通信料なども同じ考え方です。

    注意したいのは、所得税の医療費控除との関係です。医療費控除は実際に支払った年に適用されるため、亡くなった後に支払った医療費は、亡くなった方の準確定申告の医療費控除には含められません。ただし、診療を受けた時点で亡くなった方と生計を一にしていた相続人が支払った場合は、その相続人の医療費控除の対象になるとされています(国税庁 質疑応答事例「死亡した父親の医療費」)。相続税と所得税で、同じ支出の扱いを別々に確認する必要があります。

    差し引ける葬式費用・差し引けない費用

    葬式費用は債務ではありませんが、相続税の計算では差し引くことが認められています(相続税法13条1項2号)。国税庁が示している範囲は次のとおりです(タックスアンサーNo.4129、相続税法基本通達13-4・13-5)。

    差し引けるもの差し引けないもの
    通夜・告別式など葬式の費用香典返しの費用
    火葬・埋葬・納骨の費用墓石・墓地の購入費、墓地の借入料
    遺体や遺骨の運搬・回送の費用初七日・四十九日など法要(法会)の費用
    読経料などお寺へのお礼医学上・裁判上の特別な処置の費用
    葬式の前後の出費で通常葬式に伴うもの—

    実務で迷いやすいのは次のような点です。

    • お布施など領収書が出ない支出:支払った日、相手、金額、名目をメモに残し、申告の根拠として保管します。
    • 葬儀と法要を同じ日に行った場合:法要の費用は葬式費用に含まれないため、見積書や請求書で葬儀分と法要分を区分しておくと説明しやすくなります。
    • 会社が負担した社葬の費用:相続人が負担したものではないため、相続税の葬式費用にはなりません。

    相続を放棄した人・遺贈を受けた人の場合

    相続を放棄した人は相続人ではないため、原則として債務控除はできません。ただし、放棄した人が現実に葬式費用を負担した場合には、遺贈によって取得した財産(たとえば相続税の計算上、遺贈により取得したものとみなされる生命保険金)の価額から、その負担額を差し引いても差し支えないとされています(相続税法基本通達13-1)。

    遺言で特定の財産だけを受け取る人(特定受遺者)で相続人でない人は、原則として債務控除の対象外です。誰がどの費用を負担するかは、遺産分割や遺言の内容とあわせて決めておくことが大切です。

    相続後の手続費用は「債務」ではない

    相続開始後に生じる次のような費用は、亡くなった方の債務ではないため差し引けません。

    • 遺言執行の費用や、相続財産の管理のための費用(相続税法基本通達13-2)
    • 相続登記の登録免許税や司法書士報酬
    • 相続税申告を依頼した税理士の報酬

    これらは「遺産から支払うかどうか」と「相続税で差し引けるかどうか」が別の問題です。遺産から支払ったとしても、相続税の計算上は控除されません。

    申告後に漏れに気づいたら

    債務控除の漏れは、申告後に気づくことが少なくありません。後から届いた入院費の請求、年度途中に届く固定資産税の納税通知書、準確定申告で確定した所得税などが典型です。

    相続税を払いすぎていた場合は、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって税額の見直しを求めることができます(国税通則法23条1項)。反対に、差し引けないものを差し引いていた場合は、修正申告が必要になります。

    詳しい期限と手続は、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で、申告書を家族が確認するときの見方は「依頼した相続税申告書のセルフチェック」で解説しています。

    AEGISの視点

    債務控除は、相続税の計算の中では地味な項目です。しかし、AEGISは債務控除を「亡くなった方の生活と事業の最後の記録」と捉えています。入院費や施設の利用料、公共料金、税金の未納分、事業の未払金は、亡くなる直前まで何にお金がかかっていたかを示しています。これを丁寧に拾うことは、税額の正確さだけでなく、ご家族が相続の全体像を理解することにもつながります。

    また、債務を誰が引き継ぐかは、遺産分割と一体で考えるべき論点です。借入金のある賃貸不動産を引き継ぐ人と、その借入金を負担する人がずれると、収益とキャッシュフローの関係が崩れます。納税資金の計画も、差し引ける債務の見込みによって変わります。

    相続税の概算の段階から、財産の一覧と並べて「債務の一覧」を作っておくこと。AEGISは、これが申告の正確さと家族の納得の両方を支える基礎になると考えています。相続税の概算に必要な情報の全体像は、親記事「相続税の概算に必要な情報とは」で整理しています。資産税務や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    債務や葬式費用の計上漏れを含め、申告済みの相続税を見直したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税では、被相続人が相続開始時に負っていた確実な債務と、葬式費用を遺産から差し引けます。
    • 準確定申告の所得税、亡くなった方に課された固定資産税・住民税の未納分、未払いの入院費や施設利用料も対象になり得ます。
    • 香典返し、墓地・墓石の購入費、法要の費用、相続後の手続費用は差し引けません。
    • 保証債務は原則として差し引けず、時効が完成した債務も対象外です。
    • 申告後に漏れに気づいた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます。
    • 具体的な可否は、契約内容や事実関係によって異なります。

    よくある質問

    Q. 亡くなった後に届いた入院費の請求書は、相続税で差し引けますか?

    診療を受けた時点で亡くなった方に支払義務が生じていた入院費であれば、相続開始時に未払いだった債務として差し引けます。請求書は診療期間が分かる形で保管しておきましょう。なお、所得税の医療費控除は別の問題で、亡くなった後に支払った分は準確定申告の医療費控除には含められません。

    Q. 亡くなった年の固定資産税は、全額差し引けますか?

    亡くなった方がその年の1月1日時点の所有者であれば、その年度の固定資産税は亡くなった方に課された税金です。相続開始時点で納めていなかった部分は、納期が来ていない分も含めて債務控除の対象として確認します。すでに納めた分は預金が減っているため、二重に差し引かないよう注意が必要です。

    Q. 四十九日の法要や香典返しの費用は差し引けますか?

    どちらも差し引けません。国税庁は、香典返しの費用と、初七日などの法事の費用を葬式費用に含めないとしています。一方、通夜や告別式、火葬、読経料などのお礼は差し引けます。

    Q. 墓石を生前に注文して、代金が未払いのまま亡くなりました。差し引けますか?

    差し引けません。墓所や墓石などは相続税がかからない財産であり、その取得のための未払代金も債務控除の対象から外されています(相続税法13条3項、相続税法基本通達13-6)。

    Q. 相続税の申告後に、借入金の計上漏れに気づきました。どうすればよいですか?

    相続税を払いすぎている状態ですので、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって見直しを求めることができます。債務の存在と金額を示す資料(契約書、残高証明書など)をそろえたうえで、申告を担当した税理士に相談するのが一般的な進め方です。

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    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.105-107
    • 『第10版 Q&A事業承継をめぐる非上場株式の評価と相続対策』デロイトトーマツ税理士法人 編、清文社、2020年、P.58
  • 不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項|保有不動産と承継計画の何を見直すか

    不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項|保有不動産と承継計画の何を見直すか

    不動産は、多くのオーナーにとって財産の中で大きな割合を占めます。そのため、不動産の相続税評価に関する制度が変わると、相続税の見込み額だけでなく、誰に何を渡すか、納税資金をどう確保するか、どの形で保有するかといった承継計画の前提にまで影響が及ぶことがあります。

    結論から言えば、制度変更があったときは、「評価額がいくら変わるか」を計算する前に、「自分の不動産のうち、どれが対象になり得るか」を取得時期・取得方法・保有形態の3つの軸で仕分けることから始めるのが確実です。この記事では、近年の制度変更の例を踏まえ、保有不動産と承継計画の点検事項を整理します。

    不動産の相続税評価はどのように決まり、なぜ変わるのか

    相続税法は、相続や贈与で取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています。この時価の具体的な算定方法は、国税庁の財産評価基本通達で定められており、土地であれば路線価方式や倍率方式、建物であれば固定資産税評価額を基にした方法などが用いられます。

    不動産の評価が変わる要因は、大きく3つあります。

    変わる要因内容頻度の目安
    評価の基準となる価格の更新路線価や評価倍率などが毎年公表される毎年
    通達の改正評価方法そのものが見直される不定期(必要に応じて)
    税制改正特例の要件、加算期間、評価の考え方などが変わる毎年度の改正で項目ごと

    このうち、承継計画の前提を大きく揺るがしやすいのは、評価方法そのものの見直しです。近年は、相続税評価額と市場で取引される価格との差(乖離)に着目した見直しが続いています。

    近年の制度変更の例

    例1:居住用の区分所有財産(分譲マンション)の評価

    国税庁は、令和5年9月28日付で「居住用の区分所有財産の評価について」という通達を定めました。近年の取引実態等を踏まえ、分譲マンションの一室について、築年数、総階数、所在階、敷地持分の狭小度を反映した「評価乖離率」を基に補正を行う仕組みです。令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産に適用されています。

    なお、地階を除く階数が2以下の建物や、居住用の専有部分が3室以下ですべてを所有者やその親族が居住用に使っているものなどは、対象外とされています。

    例2:貸付用不動産の評価の見直し(令和8年度税制改正の大綱・国税庁の通達案)

    令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)では、「相続税等の財産評価の適正化」として、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、次の見直しを行うとされました。

    • 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する(課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができる)
    • 不動産特定共同事業契約や、信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する
    • 令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用する(ただし、1つ目の見直しは、改正を通達に定める日までに、被相続人等が5年前から所有している土地に新築をした家屋〔建築中のものを含む〕には適用しない)

    具体的な取扱いは通達で定められます。国税庁が公表した通達案「貸付用不動産の評価について」では、大綱の内容が次のように具体化されています(2026年10月9日時点では意見公募中で、最終通達は出ていません)。

    • 対象は、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築された貸付用不動産(借家権の目的となっている家屋とその敷地)。取得の時期は原則として引渡しの時で判定する
    • 取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は「取得価額×地価変動率」、建物は「取得価額-償却費」の100分の80で評価できる
    • 収用・交換・一定の買換えで取得したものや、5年以内に取得したものではない建物の増改築部分などは対象外
    • 経過措置として、通達制定日までに、その日前5年以内に取得したものではない土地や、5年以内に相続等で取得した土地に新築した家屋(建築中を含む)は対象外。通達制定日はまだ決まっていない(AEGISは、意見公募の締切(2026年10月18日)を踏まえ、10月下旬から11月上旬になる可能性が高いとみています)
    • 「特定小口化商品」は、元本等相当額の90%などを使う簡便な方法がある

    例3:生前贈与の加算期間の延長

    不動産を生前に贈与する計画にも、制度変更は影響します。令和5年度の改正により、暦年課税の贈与を相続財産に加算する期間は相続開始前3年から7年へと段階的に延びており、国税庁によれば、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内の贈与が加算の対象となります。

    制度変更があったときの点検事項

    制度変更の情報に接したら、保有不動産を次の観点で点検します。AEGISでは、評価の前に「仕分け」を行うことを重視しています。

    点検1:取得時期と取得方法

    • 不動産ごとに、いつ、どのような方法で取得したか(購入、新築、相続、贈与など)を一覧にします。
    • 貸付用不動産の評価の見直しのように、「課税時期前5年以内」「対価を伴う取引」といった条件が付く改正では、取得時期と取得方法がそのまま対象かどうかの判断材料になります。
    • 自分が所有している土地に建物を新築した場合など、取得の経緯によって扱いが分かれる可能性がある点にも注意が必要です。

    点検2:保有形態

    • 個人で直接保有しているか、共有か、不動産小口化商品(不動産特定共同事業契約に基づくものなど)や信託受益権の形で保有しているかを確認します。
    • 大綱と通達案では、不動産特定共同事業契約などに基づく貸付用不動産は、取得時期にかかわらず見直しの対象になるとされています。保有している商品の契約形態を、契約書や事業者の説明資料で確認しておきましょう。
    • 資産管理会社など法人を通じて保有している場合に、制度変更がどのように影響するかは、改正の内容に即して個別に確認する必要があります。

    点検3:評価額と時価の関係

    • 不動産ごとに、相続税評価額の目安と、実際に売却した場合の価格の目安を並べてみます。
    • 両者の差が大きい不動産ほど、評価方法の見直しの影響を受けやすい傾向があります。
    • 相続税評価額と売却価格がなぜ異なるのかについては、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

    点検4:承継計画上の役割

    • その不動産を「誰に」「どの方法で」渡す計画になっているかを確認します。
    • 評価額が変われば、相続人間の配分のバランスが変わることがあります。不動産を後継者に、金融資産を他の家族に、といった配分を考えている場合は特に注意が必要です。
    • 生前贈与を予定している場合は、加算期間の延長も含めて、贈与のタイミングと方法を見直します。

    点検5:納税資金と収益性

    • 評価額が上がる見込みなら、相続税の見込み額と、それを支払う資金(金融資産、不動産収入、売却の可能性)を改めて確認します。
    • 同時に、その不動産の収益性(賃料収入、空室、修繕費、借入金の返済)を確認します。評価の変化をきっかけに、保有を続けるべきか、組み替えるべきかを考える機会にもなります。

    点検の結果は、次のような一覧にまとめると全体が見えやすくなります。

    不動産取得時期・方法保有形態評価の目安時価の目安承継の予定収益・納税資金のメモ
    自宅昭和○年 新築個人単独——配偶者居住用
    賃貸マンション令和○年 購入個人単独——長男借入残あり
    小口化商品令和○年 購入契約に基づく持分——未定換金性を確認

    ※上表は記入例のイメージです。実際の項目は保有資産に応じて調整してください。

    実務上注意したいポイント

    評価の有利・不利だけで判断しない

    不動産の取得や保有は、評価額の差だけで判断すべきものではありません。賃貸経営としての収益性、修繕や管理の負担、売却のしやすさ、家族の意向など、多くの要素が関わります。評価方法の見直しは、こうした要素を改めて点検するきっかけと捉えるのが健全です。

    特例の要件も合わせて確認する

    不動産の相続では、小規模宅地等の特例が大きな影響を持つことがあります。国税庁によれば、特定居住用宅地等は330㎡まで80%、特定事業用宅地等は400㎡まで80%、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%を減額できるとされていますが、区分ごとに要件があり、適用には申告が必要です。評価方法の見直しと特例の要件は、セットで確認しておきましょう。

    確定した情報で最終判断する

    大綱の段階では、細部が通達で定まる前です。売買や贈与など取り消しにくい行動は、確定した情報を一次情報で確認してから判断することをおすすめします。改正情報の追い方は、関連記事「制度改正の情報をどう追い、いつ相談するか」で解説しています。

    AEGISの視点

    不動産の評価に関する制度変更が続く背景には、「相続税評価額と実際の価値の差」をどう扱うかという問題意識があります。評価額の低さを主な理由として不動産を取得する考え方は、その前提自体が見直しの対象になり得る、ということです。

    AEGISは、不動産を「評価額で選ぶもの」ではなく、「所有の目的と、事業・家族・承継の中での役割で選ぶもの」と考えています。賃貸不動産であれば、安定した収益を生み、管理できる体制があり、将来誰がどのように引き継ぐかが描けているか。自宅であれば、家族の暮らしをどう守るか。そうした役割が明確な不動産は、評価の方法が変わっても、計画全体が揺らぐことは少なくなります。

    制度変更は、保有不動産の一つひとつに「なぜ持っているのか」を問い直す機会です。取得時期・保有形態・評価と時価・承継上の役割・収益性を一枚に並べることで、税務だけでなく、所有と承継の設計を見直すことができます。不動産の購入・保有・売却を一体で考える視点は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    税制改正が承継計画に与える影響の全体像は、親記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で整理しています。

    不動産の評価や資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産の相続税評価は、路線価等の更新、通達の改正、税制改正によって変わります。
    • 近年は、分譲マンションの評価の見直し(令和6年1月1日以後)や、令和8年度大綱で示された貸付用不動産の評価の見直し(令和9年1月1日以後の相続等)など、評価額と市場価格の乖離に着目した見直しが続いています。
    • 制度変更時は、まず取得時期・取得方法・保有形態で対象になり得る不動産を仕分けます。
    • そのうえで、評価と時価の関係、承継計画上の役割、納税資金と収益性を点検します。
    • 細部は通達で定まります。取り消しにくい行動は、確定した一次情報を確認してから判断します。

    個々の不動産への影響は、取得の経緯や保有形態など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 貸付用不動産の評価の見直しは、いつから適用されますか?

    令和8年度税制改正の大綱では、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用するとされています。国税庁の通達案でも、令和9年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価に適用するとされています。2026年10月9日時点で最終通達は出ていないため、発遣後に確認が必要です。

    Q. 以前から持っている賃貸不動産も対象になりますか?

    大綱と通達案では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築した貸付用不動産が対象とされています。それより前から持っている物件は、原則として対象になりません。一方、不動産特定共同事業契約などに基づく貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず対象とされています。保有している不動産がどちらに当たるかは、取得時期や契約形態によって異なります。

    Q. 分譲マンションの評価はどう変わりましたか?

    令和6年1月1日以後の相続等で取得した居住用の区分所有財産については、築年数や所在階などを反映した評価乖離率を基に補正する方法が導入されました。階数が2以下の建物や、親族の居住用で3室以下のものなど、対象外となるケースもあります。

    Q. 評価方法が変わったら、すぐに不動産を売却したほうがよいですか?

    評価方法の変更だけを理由に売却を急ぐことはおすすめしません。売却には譲渡所得税や取引費用がかかり、収益源を手放すことにもなります。収益性、管理負担、承継の予定、納税資金などを総合的に点検したうえで判断することが重要です。

    Q. 制度変更の点検は、どのくらいの頻度で行えばよいですか?

    税制改正の大綱や通達の改正が公表されたとき、そして少なくとも年に一度、承継計画を見直すタイミングで点検するのが目安です。不動産の取得や売却、家族の状況の変化があったときにも見直すことをおすすめします。

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    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 不動産の最適活用:立地や建物、周辺需要から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較し、判断に必要な条件を整理します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 生前贈与の加算期間7年への延長で何が変わるか|経過措置・100万円控除と贈与計画の見直し方

    生前贈与の加算期間7年への延長で何が変わるか|経過措置・100万円控除と贈与計画の見直し方

    令和5年度の税制改正により、暦年課税で贈与した財産を相続財産に加え戻す期間(生前贈与加算の期間)は、相続開始前3年から7年へ段階的に延びます。延長の影響が実際に表れ始めるのは、令和9年(2027年)1月1日以後に開始する相続からです。

    ポイントは、「7年前までさかのぼる」のが一律ではないことです。令和9年から令和12年までに開始する相続では、加算の対象は令和6年(2024年)1月1日以後の贈与に限られ、相続開始前7年以内が丸ごと対象になるのは令和13年(2031年)1月1日以後の相続からです。また、延長された部分の贈与には総額100万円まで加算しないという控除が設けられています。

    この記事では、延長の仕組みを具体的な日付と数字で確認し、これから「いつ・誰に」贈与するかをどう見直せばよいかを整理します。暦年課税・相続時精算課税・相続の使い分けそのものは、関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」で解説しています。

    生前贈与加算とは

    生前贈与加算とは、相続や遺贈によって財産を取得した人が、被相続人から一定期間内に暦年課税による贈与を受けていた場合、その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加える仕組みです(相続税法19条、国税庁 No.4161)。

    押さえておきたい基本は次の3点です。

    • 加算される金額は贈与した時の価額です。相続時に値上がり・値下がりしていても、贈与時の価額で加算されます。
    • 基礎控除110万円以下の贈与も加算の対象です。贈与税がかからなかった贈与でも、期間内であれば加え戻されます。
    • 加算された贈与について納めた贈与税は、相続税から差し引かれます(贈与税額控除)。ただし延滞税・加算税などの附帯税は差し引けません。

    つまり、生前贈与加算は「贈与をなかったことにする」制度ではなく、「相続の直前に行った贈与は、相続税の計算では相続財産と同じように扱う」という制度です。この「直前」の範囲が3年から7年に広がるのが今回の改正です。

    加算期間はどう延びるのか

    国税庁は、相続が開始した時期(亡くなった日)ごとに、加算の対象となる贈与の期間を次のように示しています(国税庁 No.4161、令和8年4月1日現在法令等)。

    相続が開始した時期加算の対象となる贈与の期間
    令和8年(2026年)12月31日まで相続開始前3年以内
    令和9年(2027年)1月1日〜令和12年(2030年)12月31日令和6年(2024年)1月1日から死亡の日まで
    令和13年(2031年)1月1日以後相続開始前7年以内

    この表を「亡くなった日」から読むと、加算期間が少しずつ長くなっていく様子が分かります。AEGISで具体的な日付に置き換えると、次のようになります。

    亡くなった日(例)加算の対象となる贈与の始まり加算期間の長さ(目安)
    2026年10月1日2023年10月1日以後3年
    2027年1月1日2024年1月1日以後3年
    2028年7月1日2024年1月1日以後約4年6か月
    2030年12月31日2024年1月1日以後約7年
    2033年4月1日2026年4月1日以後7年

    ※日付の起算の細部(「以内」の数え方)は個別に確認が必要です。上表は仕組みを理解するための目安です。

    ここから分かるのは、令和5年12月31日以前に行った暦年贈与は、延長の影響を受けないということです。延長の対象として新たに加算の網にかかるのは、令和6年1月1日以後に行われた贈与です。

    延長部分の「100万円控除」

    延長によって新たに加算の対象となった部分には、緩和措置があります。国税庁 No.4161 によると、令和9年1月2日以後に開始する相続では、加算対象期間内の贈与のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産(延長された4年分に当たる部分)については、その贈与時の価額の合計額から総額100万円までは加算しないこととされています。

    「毎年100万円」ではなく「延長部分の合計から総額で100万円」である点に注意が必要です。具体例で確認してみます。

    例:父が子に、2024年から2030年まで毎年1月に110万円ずつ(計7回)暦年課税で贈与し、2030年12月に父が亡くなった。子は相続で財産を取得した。

    区分該当する贈与贈与額の合計加算額
    相続開始前3年以内2028年・2029年・2030年の贈与330万円330万円(全額)
    延長部分(3年超〜2024年1月1日以後)2024年〜2027年の贈与440万円340万円(440万円−100万円)
    合計7回770万円670万円

    ※説明のための単純化した例です。いずれも基礎控除以下の贈与で贈与税は納めていないため、贈与税額控除はありません。

    改正前のルール(3年以内)であれば加算は330万円でしたが、この例では670万円になります。基礎控除の範囲内で続けてきた贈与であっても、亡くなる時期によっては相続税の計算上、大部分が相続財産に戻ることがあるわけです。

    加算の対象にならない人・財産

    相続や遺贈で財産を取得しない人

    加算の対象は、相続や遺贈で財産を取得した人です(国税庁 No.4161では、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人も含めています)。たとえば、相続で財産を取得しない孫や子の配偶者が受けた暦年贈与は、原則として加算の対象になりません。ただし、遺言で財産を遺贈したり、死亡保険金の受取人になったりして財産を取得すると、加算の対象になり得ます。贈与を受けた人が「相続で何かを受け取るかどうか」は、遺言や保険の設計とセットで確認する必要があります。

    非課税特例などの適用を受けた部分

    国税庁 No.4161 では、次の部分は加算の対象から除かれています。

    • 贈与税の配偶者控除の適用を受けた(または受けるとした)部分
    • 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた部分
    • 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金・結婚子育て資金のうち、非課税の適用を受けた部分

    ただし、教育資金や結婚子育て資金の一括贈与は、贈与者が亡くなった時点で使い切っていない残額(管理残額)について、時期や受贈者の年齢などに応じて相続税の対象となる別のルールがあります。生前贈与加算とは別の仕組みとして確認が必要です。

    相続時精算課税の贈与

    相続時精算課税を選択した贈与は、生前贈与加算とは別の仕組みで、期間に関係なく相続財産に加算されます。ただし、令和6年1月1日以後の贈与については、年110万円の基礎控除を差し引いた残額が加算の対象とされています(国税庁 No.4103)。基礎控除の範囲内の贈与は加算されない点で、暦年課税の延長部分とは扱いが異なります。

    何が変わるのか:贈与計画への4つの影響

    延長がもたらす変化を、オーナーの贈与計画の視点から整理すると次のとおりです。

    1. 「晩年にまとめて贈与する」効果が薄れる:加算期間が長くなるため、相続の数年前に始めた暦年贈与は、相続税の計算上、相続財産に戻る可能性が高くなります。
    2. 早く始めた贈与ほど、加算の外に出やすい:令和13年以後の相続では、相続開始前7年より前の贈与は加算されません。贈与を「長い時間をかけて行う」ほど、効果が出やすい制度に変わったと言えます。
    3. 「誰に」贈るかの比重が増す:相続や遺贈で財産を取得しない人への贈与は加算の対象外です。一方で、受贈者の範囲を広げることは、家族間の公平や遺留分、2割加算の有無などとも関係します。
    4. 暦年課税と相続時精算課税の比較が変わる:精算課税の年110万円の基礎控除部分は加算されないため、贈与者の年齢や健康状態によっては、精算課税を検討する場面が増えています。ただし精算課税は、一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻れません(国税庁 No.4103)。

    贈与計画を見直す手順

    延長への対応は、「贈与をやめる」か「続ける」かの二択ではありません。AEGISでは、次の順番で確認することをおすすめしています。

    手順確認すること見るポイント
    1. 記録の棚卸し令和6年1月1日以後の暦年贈与の一覧贈与日・贈与者・受贈者・財産・贈与時の価額・申告の有無
    2. 期間の見通し贈与者の年齢と、加算期間に入る贈与の範囲何年後に加算の外に出るか
    3. 受贈者の整理受贈者が相続や遺贈で財産を取得する見込み遺言・死亡保険金の受取人との関係
    4. 方式の比較暦年課税を続けるか、精算課税を選ぶか撤回できないこと、財産の値上がり見込み
    5. 財産の選び方現金・不動産・自社株式のどれを渡すか加算は贈与時の価額で行われること

    とくに手順1は、相続が起きてから困らないための基本です。生前贈与加算は相続人自身が申告で計算に入れる必要があり、贈与の記録がないと、加算漏れや、反対に加算不要な贈与を加えてしまうことにつながります。

    実務上注意したいポイント

    • 贈与の実態を残す:贈与契約書、振込記録、受贈者自身による口座管理など、「あげた・もらった」の実態を残すことが前提です。実態のない贈与は、加算の問題以前に、名義預金として相続財産と判断されるおそれがあります。
    • 加算期間と100万円控除の区分を記録しておく:3年以内の贈与と延長部分の贈与では扱いが異なるため、年ごとの贈与額を一覧で残しておくと申告時に計算しやすくなります。
    • 贈与税を納めた贈与は贈与税額控除を忘れない:基礎控除を超えて贈与税を納めている場合、加算された分に対応する贈与税は相続税から差し引かれます。
    • 教育資金などの一括贈与は別に確認する:管理残額の扱いには独自のルールがあり、受贈者の年齢や贈与の時期で結論が変わります。
    • 個別事情で結論が変わる:どの方法が適しているかは、財産構成・家族構成・贈与者の年齢などによって異なります。

    AEGISの視点

    生前贈与加算の延長は、「贈与で相続税を減らす」という発想そのものを見直すきっかけだとAEGISは考えています。

    加算期間が7年に延びると、贈与の効果は「どれだけ贈与したか」よりも「いつから、誰に、どの財産を、どのような記録とともに渡してきたか」に左右されるようになります。これは、贈与を単発の対策ではなく、家族の資産をどう引き継ぐかという長期の設計の一部として扱う必要が高まったということです。

    たとえば、事業オーナーや不動産オーナーであれば、現金の暦年贈与だけでなく、自社株式や収益不動産をどの時期に、どの方式で移すかが、相続税の計算にも、会社や不動産の経営にも影響します。贈与の計画は、遺言、保険、納税資金、家族間の公平とあわせて一枚の上で見直すことが大切です。

    制度改正を自分の承継計画にどう当てはめるかの全体像は、Pillar記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で、不動産を含む点検の進め方は「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で解説しています。

    資産承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 暦年課税の生前贈与加算の期間は、相続開始前3年から7年へ段階的に延びます。
    • 延長の影響は令和9年1月1日以後の相続から表れ、令和12年までの相続では令和6年1月1日以後の贈与が対象、令和13年以後の相続では相続開始前7年以内が対象です。
    • 延長された部分の贈与は、合計額から総額100万円まで加算されません。
    • 相続や遺贈で財産を取得しない人への贈与や、一定の非課税特例の適用部分は加算の対象外です。
    • 贈与の記録を棚卸しし、期間・受贈者・方式・財産の順に計画を見直すことが出発点です。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 令和5年以前に行った贈与も、7年分さかのぼって加算されますか?

    いいえ。延長によって新たに加算の対象となるのは、令和6年1月1日以後に行われた暦年課税の贈与です。令和8年12月31日までに開始する相続では従来どおり相続開始前3年以内の贈与が対象で、令和9年以後に開始する相続でも、令和12年までは令和6年1月1日以後の贈与に限られます。

    Q. 100万円の控除は、毎年100万円ずつ差し引けるのですか?

    いいえ。延長部分(相続開始前3年以内より前)の贈与の合計額から、総額で100万円まで加算しないという仕組みです。年ごとに100万円を差し引くものではありません。相続開始前3年以内の贈与には、この控除はありません。

    Q. 孫への贈与も加算の対象になりますか?

    孫が祖父母の相続で財産を取得しない場合は、原則として加算の対象になりません。ただし、遺言で孫に財産を遺贈した場合や、孫が死亡保険金の受取人になった場合などは、加算の対象となり得ます。

    Q. 暦年贈与はもう意味がないのでしょうか?

    そうとは限りません。加算されるのは加算期間内の贈与に限られ、期間より前の贈与は加算されません。また、相続で財産を取得しない人への贈与は加算の対象外です。贈与を早めに、計画的に行うことの意味はむしろ大きくなったと言えます。どの方法が適しているかは、贈与者の年齢や財産構成によって異なります。

    Q. 相続時精算課税に切り替えたほうがよいですか?

    精算課税の年110万円の基礎控除部分は加算されないため、検討の価値がある場面は増えています。一方で、いったん選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻れないことや、基礎控除を超える部分は期間に関係なく相続財産に加算されることなど、注意点もあります。財産の種類や値上がりの見込みを含めて比較することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.21
    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.59、P.457-465
  • 相続登記と住所等変更登記の義務化への対応|期限・過料・相続人申告登記・スマート変更登記の使い方

    相続登記と住所等変更登記の義務化への対応|期限・過料・相続人申告登記・スマート変更登記の使い方

    不動産の登記は、かつては「必要になったときにすればよい」ものでした。しかし所有者不明土地の問題を背景に法律が改正され、現在は次の2つが法律上の義務になっています(法務省)。

    • 相続登記:令和6年(2024年)4月1日から義務化。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請。施行日前の相続で未登記のものは、原則として令和9年(2027年)3月31日までに申請が必要です(取得を知った日が施行日より後なら、その日から3年以内)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。
    • 住所等変更登記:令和8年(2026年)4月1日から義務化。住所や氏名が変わった日から2年以内に申請。施行日前の変更も対象で、令和10年(2028年)3月末までに登記が必要です。正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象になります。

    どちらの義務にも、負担を軽くするための簡易な方法(相続人申告登記、スマート変更登記)が用意されています。この記事では、2つの義務の内容を確認したうえで、「自分の場合は何を、いつまでにすればよいか」を状況別に整理します。

    2つの義務の全体像

    項目相続登記住所等変更登記
    開始時期令和6年4月1日令和8年4月1日
    義務の内容相続で取得した不動産の名義を相続人に変える登記された所有者の住所・氏名の変更を反映する
    期限取得を知った日から3年以内(法定相続分での登記や相続人申告登記の後に遺産分割が成立したときは、分割の日から3年以内に分割内容の登記)変更の日から2年以内
    施行日前の分令和9年3月31日まで令和10年3月末まで
    過料10万円以下5万円以下
    簡易な方法相続人申告登記スマート変更登記(検索用情報の申出)

    ※期限の細部や個別事情による扱いは、法務省・法務局の案内で確認してください。

    相続登記の義務

    誰が、何を、いつまでに

    相続によって土地や建物を取得した相続人は、自分が相続人であることを知り、かつその不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。相続人に対する遺贈で取得した場合も同様です。また、法定相続分での相続登記や相続人申告登記をした後に遺産分割が成立した場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に沿った登記を行う必要があります(不動産登記法76条の2・76条の3、法務省)。

    令和6年4月1日より前に開始した相続も対象です。施行日前の相続で登記が済んでいない不動産は、相続の開始と取得を知った日と施行日(令和6年4月1日)のいずれか遅い日から3年以内、つまり多くの場合は令和9年3月31日までの申請が求められています(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則5条6項)。親や祖父母の名義のまま残っている不動産がある場合は、この期限が当面の目安になります。

    「正当な理由」があれば過料の対象にならない

    期限内に申請できなくても、正当な理由があれば過料の対象にはなりません。法務省は、例として次のような場合を挙げています。

    • 相続人が極めて多数で、戸籍謄本等の収集や相続人の把握に時間がかかる場合
    • 遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合
    • 申請義務を負う相続人自身に重い病気などの事情がある場合
    • 配偶者からの暴力等の被害者で、避難を余儀なくされている場合
    • 経済的に困窮しており、登記に必要な費用を負担する能力がない場合

    過料は、いきなり科されるものではありません。法務省の説明では、登記官が義務違反を把握した場合にまず申請を催告し、それでも正当な理由なく申請がないときに裁判所へ通知し、裁判所が過料を科するかどうかを判断する流れです。

    相続人申告登記という選択肢

    遺産分割がまとまらず、期限内に名義を確定できない場合に使えるのが相続人申告登記です。登記官に対し、「所有者について相続が開始したこと」と「自分がその相続人であること」を申し出ることで、相続登記の申請義務を果たしたことになります(法務省)。

    • 相続人が単独で申し出ることができ、他の相続人の協力は不要です
    • 添付するのは申出書と戸籍謄本等・住所証明情報などで、通常の相続登記に比べて戸籍等の収集の負担が軽くなっています
    • 登録免許税はかかりません。オンラインでも申し出ることができます

    ただし、相続人申告登記は「誰が所有者か」を確定させる登記ではありません。不動産の売却や担保の設定をするには、別途、相続登記が必要です。また、申告後に遺産分割が成立した場合は、分割の日から3年以内に分割内容に沿った登記を申請する必要があり、その段階では相続人申告登記で代えることはできません。

    住所等変更登記の義務

    誰が、何を、いつまでに

    不動産の所有権の登記名義人は、住所や氏名・名称に変更があった日から2年以内に変更登記を申請する必要があります。令和8年4月1日より前の変更も対象で、変更の日と施行日のいずれか遅い日から2年以内、つまり令和10年3月末までに登記が必要です(不動産登記法76条の5、同附則5条7項、法務省)。

    引越しや婚姻による氏の変更があっても登記を放置している例は少なくありません。法務省は、所有者不明土地の原因の約3分の1が住所等の変更登記がされていないことにあると説明しています。

    スマート変更登記

    この義務の負担を軽くするのがスマート変更登記です。所有者があらかじめ「検索用情報」(生年月日、メールアドレス、国籍、不動産の地番などの情報)を法務局に申し出ておくと、法務局が定期的(2年に1回程度)に住民基本台帳ネットワークへ照会し、住所や氏名の変更を確認したときは職権で変更登記を行います(法務省)。

    • 職権で登記をする前に意思確認の通知が届き、1か月以内に回答する仕組みです
    • スマート変更登記による変更登記には、登録免許税等の費用はかかりません
    • 検索用情報を申し出ておけば、住所等が変わるたびに自分で申請しなくても、義務違反に問われることはなくなるとされています
    • これから不動産を取得する人は申請書に記載して申し出ることができ、すでに所有している人も申し出ることができます

    法人が所有する不動産

    会社などの法人が所有する不動産では、登記に会社法人等番号が登記されていれば、商業・法人登記で本店の移転などをした際に、法務局が職権で不動産の住所等の変更登記を行う仕組みとされています。会社法人等番号が登記されていない不動産は、従来どおり申請が必要です(法務省)。なお、令和6年4月1日の時点で法人が所有権の登記名義人となっている不動産については、登記官が職権で会社法人等番号を登記できるとされています(同附則5条5項)。資産管理会社などで古くから保有している不動産は、番号が登記されているかを確認しておくと安心です。

    状況別:何を、いつまでにするか

    AEGISで、よくある状況ごとに対応を整理すると次のとおりです。

    状況当面の期限(目安)主な対応
    令和6年3月以前の相続。遺産分割は済んでいるが名義は親のまま令和9年3月31日分割内容に沿って相続登記を申請
    令和6年3月以前の相続。遺産分割がまとまっていない令和9年3月31日相続人申告登記で義務を果たしつつ、分割協議を進める
    令和6年4月以後の相続取得を知った日から3年遺産分割のうえ相続登記。間に合わなければ相続人申告登記
    祖父母など数代前の名義のまま令和9年3月31日(正当な理由に当たる場合あり)戸籍の収集と相続人の把握を早めに始める
    令和8年3月以前に引越し・改姓したが登記は旧住所のまま令和10年3月末住所等変更登記を申請し、あわせて検索用情報を申し出る
    法人所有不動産の本店移転・商号変更変更から2年(施行前の変更は令和10年3月末)会社法人等番号の登記の有無を確認
    これから不動産を取得する取得時登記申請時に検索用情報を申し出る

    ※期限は法務省の案内に基づく目安です。正当な理由の有無や期限の起算点は、個別の事情によって異なります。

    登記をしないことの、過料以外の不利益

    義務化で注目されるのは過料ですが、オーナーにとっては次のような実務上の不利益のほうが大きいことがあります。

    • 売却・担保設定ができない:名義が被相続人のままでは、売却や融資の担保に使うことができません。資金が必要になったときにすぐ動けなくなります。
    • 相続人が増えていく:登記をしないまま次の相続が起きると、権利を持つ人が増え、話し合いがより難しくなります。共有の解消や国への引渡しを検討する場面でも、名義の整理が前提になります。
    • 固定資産税の通知が届く相手:固定資産税は、原則として1月1日現在に固定資産課税台帳に所有者として登録されている人に課されます。名義の整理が遅れると、誰が税を負担し、誰が管理するのかが曖昧になりがちです。
    • 財産の把握が難しくなる:相続税の申告や遺産分割では、どの不動産を誰が持っているかを正確に把握する必要があります。古い名義のままの土地は見落とされやすくなります。

    費用の目安

    相続による所有権の移転登記には、登録免許税がかかります。税率は、相続による土地の所有権移転で不動産の価額の1,000分の4です(不動産の価額は原則として固定資産課税台帳の価格)。このほか、戸籍謄本等の取得費用や、司法書士に依頼する場合の報酬がかかります。

    一定の場合には登録免許税の免税措置も設けられています(相続登記の前に相続人が亡くなった場合の登記や、価額が一定額以下の土地の相続登記など)。現行法では令和9年3月31日までに受ける登記が対象とされているため(租税特別措置法84条の2の2)、利用を考える場合は最新の要件を確認してください。相続人申告登記とスマート変更登記には、登録免許税はかかりません(法務省)。

    実務上注意したいポイント

    • まず「名義の棚卸し」から:固定資産税の課税明細書や名寄帳、登記事項証明書で、名義が誰になっているか、住所が最新かを一覧にします。
    • 相続人申告登記は「時間を買う」手段:義務は果たせますが、名義は確定しません。売却や担保設定の予定があるなら、遺産分割と相続登記を急ぐ必要があります。
    • 遺産分割の期限とも連動させる:相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに分割がまとまれば、登記も同じ流れで進められます。
    • 住所変更は「ついで」に済ませる:相続登記や売却の際に、関係する不動産の住所等もまとめて確認し、検索用情報の申出までしておくと、その後の手間を減らせます。

    AEGISの視点

    登記の義務化は、手続の問題に見えて、実は「その不動産を、誰が、どう持ち続けるのか」を決めることを促す制度だとAEGISは考えています。

    名義が親のまま、住所が古いままの不動産は、多くの場合、遺産分割や所有形態の検討が先送りされてきた不動産でもあります。期限が来たからといって、とりあえず相続人全員の共有名義で登記してしまうと、次の世代で共有の問題をさらに複雑にすることがあります。

    義務を果たす手段(相続人申告登記・スマート変更登記)と、所有を決める手続(遺産分割・相続登記)を区別したうえで、期限までに「どこまで決めるか」を計画することが大切です。収益不動産であれば、管理会社や金融機関との契約、税務の手続とも足並みをそろえる必要があります。

    不動産を相続する前に整理しておきたい論点は「不動産を相続する前に確認したいこと」、賃貸物件を引き継いだ後の手続は「親から賃貸経営を引き継ぐときの実務」、使わない土地を手放す制度は「相続土地国庫帰属制度で土地を手放す」で解説しています。制度改正全体の点検の考え方は、Pillar記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」をご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続登記は令和6年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が必要です。施行日前の相続で未登記のものは令和9年3月31日までが目安です。
    • 住所等変更登記は令和8年4月1日から義務化され、変更から2年以内の申請が必要です。施行日前の変更は令和10年3月末までに登記が必要です。
    • 正当な理由なく怠ると、相続登記は10万円以下、住所等変更登記は5万円以下の過料の対象になります。
    • 相続人申告登記やスマート変更登記を使えば、負担を抑えて義務を果たせます。ただし相続人申告登記では名義は確定しません。
    • まず名義の棚卸しを行い、遺産分割・所有形態の検討とあわせて期限までの計画を立てることが大切です。

    よくある質問

    Q. 亡くなった親の名義のままの土地が何年も前からあります。今からでも過料になりますか?

    令和6年4月1日より前に開始した相続も義務の対象で、令和9年3月31日までの申請が目安とされています。過料は、登記官からの催告を経ても正当な理由なく申請しない場合に、裁判所が判断するものです。まずは期限までに相続登記、または相続人申告登記を行うことを検討してください。

    Q. 遺産分割の話し合いがまとまりません。どうすればよいですか?

    相続人申告登記を使えば、相続人の一人が単独で、相続登記の申請義務を果たすことができます。ただし名義は確定しないため、売却などはできません。また、その後に遺産分割が成立したときは、成立の日から3年以内に分割内容に沿った登記を申請する必要があります。

    Q. 引越しをしたのに、所有するマンションの登記の住所を変えていません。

    令和8年4月1日より前の住所変更も義務の対象で、令和10年3月末までに変更登記をする必要があります。あわせて検索用情報を申し出ておけば、その後の住所変更はスマート変更登記により法務局が職権で反映し、義務違反に問われることはなくなるとされています。

    Q. 会社名義の不動産も住所変更登記の義務がありますか?

    あります。ただし、不動産の登記に会社法人等番号が登記されていれば、本店移転などの商業登記の内容をもとに、法務局が職権で変更登記を行う仕組みとされています。番号が登記されていない場合は申請が必要なため、保有不動産の登記事項証明書で確認しておくとよいでしょう。

    Q. 相続登記の費用はどのくらいかかりますか?

    主な費用は登録免許税で、相続による土地の所有権移転は不動産の価額(原則として固定資産課税台帳の価格)の1,000分の4です。ほかに戸籍謄本等の取得費用や、専門家に依頼する場合の報酬がかかります。一定の免税措置もありますが、適用期限や要件があるため、最新の情報を確認してください。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.52-53、P.67
  • 遺贈寄附とは何か|遺言で財産の一部を社会に遺す方法と、家族への配慮

    遺贈寄附とは何か|遺言で財産の一部を社会に遺す方法と、家族への配慮

    遺贈寄附とは、遺言によって、亡くなった後に財産の一部(または全部)を公益法人・NPO法人・学校法人・自治体などに寄附することです。

    生前の寄附と違い、手元の資金を減らさずに「最後に社会へ何を遺すか」を決められる点が特徴です。一方で、遺言の書き方、寄附する財産の種類、受け取る団体の選び方によって、税金や手続の負担が大きく変わります。家族がいる場合は、家族の生活や遺留分への配慮も欠かせません。

    この記事では、遺贈寄附の基本的な仕組みと、遺言で寄附を実現するために確認したいことを、税務と家族の両面から整理します。

    遺贈寄附とは:社会に財産を遺す3つのルート

    「亡くなった後の財産を社会に役立てる」方法は、大きく次の3つに分けられます。本人が遺言で決めるのか、家族に託すのかによって、確実性と税務の扱いが異なります。

    ルート誰が寄附を決めるか実現の確実性主な税務の論点
    遺言による寄附(遺贈)本人(遺言で指定)遺言が有効で、受け手が受け入れれば実現現物の場合は本人のみなし譲渡と非課税の特例
    相続人による相続財産の寄附相続人(本人の希望を受けて)相続人の判断に委ねられる相続税の非課税の特例(申告期限までの寄附)
    遺言による公益信託の設定本人(遺言で信託を設定)受託者の引受けと行政庁の認可が必要公益信託の税制

    本記事では、このうち中心となる遺言による寄附と、それを補う相続人による相続財産の寄附を扱います。信託を使う方法は、関連記事「公益信託の新制度と財団の違い」で比較しています。

    財団の設立まで含めた社会貢献の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    特定遺贈と包括遺贈の違い

    民法は、遺言者が遺言によって、財産の全部または一部を「包括」または「特定」の名義で処分できると定めています。遺贈寄附でも、どちらの形で書くかが最初の分かれ目です。

    • 特定遺贈:「〇〇銀行の預金のうち1,000万円を〇〇財団に遺贈する」のように、対象の財産を特定する方法です。受け手は指定された財産だけを受け取ります。
    • 包括遺贈:「財産の3分の1を〇〇法人に遺贈する」のように、割合で指定する方法です。民法上、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つとされるため、借入金などの債務も割合に応じて引き継ぎ、遺産分割の協議にも加わることになります。

    受け手の団体から見ると、包括遺贈は債務の引継ぎや遺産分割への参加という負担を伴います。そのため、金銭による特定遺贈を基本とし、不動産などは換価してから寄附する形(いわゆる清算型の遺贈)を指定する例が多く見られます。不動産や非上場株式の現物は受け入れていない団体もあるため、書く前に受け手の方針を確認しておくことが大切です。

    なお、受遺者は遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できるとされています。受け手が受け取れない財産を指定すると、本人の想いが実現しないまま終わることもあります。

    遺贈寄附にかかる税金

    遺贈寄附の税務は、「どの財産を」「誰が寄附するか」によって変わります。ここでは、オーナーが特に押さえておきたい3つの論点を整理します。

    1. 相続税:寄附した部分は家族の課税対象から外れる

    遺贈によって財産を受け取った法人は、原則として相続税の納税義務者にはなりません(相続税法第1条の3は、納税義務者を個人として定めています)。遺贈寄附した財産は家族が取得しないため、その分は家族の相続税の課税対象に含まれない、というのが基本的な考え方です。

    ただし、受け手が一般財団法人などの持分の定めのない法人で、寄附によって寄附者の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして相続税が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。家族が役員を占める法人に遺贈する場合は、特に注意が必要です。

    2. 所得税:不動産・株式の遺贈には「みなし譲渡」がある

    含み益のある不動産や株式を法人に遺贈すると、亡くなった本人がその財産を時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税がかかるのが原則です(国税庁タックスアンサーNo.3105)。この所得税は、相続人が本人に代わって行う準確定申告で納めることになり、実質的には家族の負担になります。

    公益法人等への遺贈で一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税を非課税とする特例があります(租税特別措置法第40条)。国税庁によれば、遺贈の場合の承認申請は遺贈をした人の相続人と包括受遺者が行い、期限は原則として寄附の日から4か月以内(その前に準確定申告の期限が来る場合はその期限まで)です。

    承認の要件には、寄附財産が原則として2年以内に受け手の公益目的事業に直接使われることなどが含まれます。たとえば、賃貸用の建物を遺贈して受け手がそのまま賃貸し、賃料を活動に充てる形は、「直接使われた」とは扱われないとする解説もあります。現物の遺贈は、受け手がその財産を何に使うかまで決めておく必要があるということです。金銭の遺贈であれば、みなし譲渡の問題は生じません。

    3. 相続人が相続財産を寄附する場合の特例

    遺言がなくても、相続人が本人の希望を受けて、相続した財産を寄附することができます。相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体や公益財団法人などの一定の法人に寄附した場合、または公益信託の信託財産とするために支出した場合には、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(租税特別措置法第70条、国税庁タックスアンサーNo.4141)。

    この特例には、次のような条件があります。

    • 寄附先は、公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、認定NPO法人など一定の法人に限られ、公益認定を受けていない一般財団法人は含まれません
    • 寄附を受けた法人が、2年以内に対象法人でなくなったり、財産を公益目的の事業に使っていなかったりする場合は適用されません
    • 寄附した人や親族が、寄附先を通じて特別の利益を受けている場合は適用されません
    • 相続税の申告書に、寄附した財産の明細書など一定の書類を添付する必要があります

    この特例は、寄附の時点ですでに設立されている法人が対象とされています。「相続後に家族で財団を設立して寄附する」という形では使えない点に注意が必要です。また、相続人の判断に委ねる方法であるため、本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておくほうが確実です。

    受け手をどう選ぶか

    遺贈寄附の受け手を選ぶときは、想いに合う活動をしているかに加え、次の点を確認しておくと安心です。

    • 法人の種類:公益財団法人、認定NPO法人、学校法人、地方公共団体など。法人の種類によって、税の特例の対象になるかどうかが変わります。
    • 遺贈の受入方針:金銭のみか、不動産や有価証券も受け入れるか。換価の手間を受け手が担えるか。
    • 使途の指定:特定の事業や地域に使ってほしい場合、その指定を受け入れてもらえるか。基金や冠の名称を付けられるか。
    • 継続性:遺言を書いてから実際に寄附が行われるまで、何年も空くことがあります。受け手の活動が続いていくか、定期的に見直すことが大切です。

    可能であれば、遺言を書く段階で受け手と事前に相談し、受入れの可否や手続の流れを確認しておくと、死後の行き違いを減らせます。

    家族への配慮と遺留分

    遺贈寄附は、本人の財産を本人の意思で処分するものです。ただし、家族がいる場合には、遺留分に配慮する必要があります。

    民法では、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が認められており、その割合は、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1とされています(これに各自の法定相続分を掛けた割合が、各相続人の遺留分になります)。兄弟姉妹には遺留分がありません。

    遺留分を侵害する遺贈があった場合、遺留分を持つ相続人は、受遺者に対して遺留分侵害額に相当する金銭を請求できます。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年を経過すると行使できなくなります。

    寄附を受けた団体が家族から請求を受けるのは、本人が最も望まない展開でしょう。寄附の割合を決める際は、家族の生活に必要な財産と遺留分を先に確保し、その外側で寄附額を決めるのが基本です。遺言の中に、寄附を選んだ理由や家族への想いを書き添えておく(付言事項)ことも、家族の理解を得るうえで役立ちます。

    遺言の形式と執行の準備

    遺贈寄附は遺言があって初めて実現するため、遺言が確実に見つかり、確実に執行されることが重要です。

    • 遺言の形式:公正証書遺言のほか、自筆証書遺言を法務局で保管する制度もあります。保管制度では、遺言者の死亡後に、遺言者があらかじめ指定した人へ保管の事実を通知する仕組みも設けられています。
    • 遺言執行者の指定:遺言では、遺言を実行する遺言執行者を指定できます。寄附先への連絡、財産の換価、引渡しまでを担う人を決めておくと、家族の負担を軽くできます。
    • 財産の特定:口座や不動産の表示を正確に書き、財産の内容が変わったときは遺言を見直します。

    遺言と民事信託(いわゆる家族信託)をどう組み合わせるかは、関連記事「遺言と家族信託の使い分け」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 金額より先に「割合」と「順番」を決める:家族の生活資金・納税資金・遺留分を確保した後に、寄附に回す部分を決めます。
    • 現物は「使い道」とセットで考える:不動産や株式は、みなし譲渡と非課税の特例の要件を踏まえ、換価して寄附するか現物で寄附するかを決めます。
    • 納税資金を確認する:遺贈寄附で家族の相続税は減りますが、準確定申告の所得税が生じる場合は、その資金をどこから出すかも確認します。
    • 相続人がいない場合は特に早めに:子や兄弟姉妹がいない場合、遺言がなければ財産が最終的に国庫に帰属することもあります。この点は関連記事「相続人がいない場合、財産はどうなるか」で扱っています。

    AEGISの視点

    遺贈寄附は「財産が残ったら寄附する」ものと考えられがちです。しかしAEGISは、遺贈寄附を相続設計の一部として、最初から「何を、誰に、どれだけ遺すか」の中に位置付けるものと考えています。

    家族に渡す財産、会社や事業に残す財産、社会に遺す財産。この3つを同じ一枚の上に並べると、遺留分や納税資金とのぶつかり方、現物で遺すか換価して遺すかといった判断が具体的になります。逆に、寄附だけを切り離して遺言に書き込むと、家族の手続や税負担が想定外に重くなることもあります。

    もう一つ大切なのは、寄附の理由を言葉にすることです。なぜその団体なのか、なぜその割合なのか。その説明が家族に届いていれば、遺贈寄附は家族にとっても誇りになり得ます。財産を遺す行為を、想いを引き継ぐ行為に変えることが、遺贈寄附の本当の価値だとAEGISは考えています。

    遺贈寄附に伴う財産評価やみなし譲渡、相続税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 遺贈寄附とは、遺言によって亡くなった後に財産の一部を公益法人・NPO法人などに寄附することです。
    • 受け手の負担を考え、金銭による特定遺贈や、換価してから寄附する形が多く使われます。包括遺贈では受け手が債務も引き継ぎます。
    • 不動産や株式を法人に遺贈すると本人にみなし譲渡課税が生じ得ますが、国税庁長官の承認を受けた場合の非課税の特例があります(申請は原則4か月以内)。
    • 相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ相続財産を寄附した場合の非課税の特例もありますが、対象法人や2年以内の使用などの条件があります。
    • 家族がいる場合は、遺留分と家族の生活資金を先に確保し、寄附の理由を伝えておくことが大切です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 遺贈寄附は、少額でもできますか?

    できます。遺言で特定の金額を指定する方法であれば、財産の規模にかかわらず利用できます。受け手の団体によっては最低額や受入れの条件を設けている場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。

    Q. 遺言を書いた後に、寄附先を変えることはできますか?

    遺言は、本人がいつでも新しい遺言を作ることで変更や撤回ができます。受け手の活動内容や本人の考えが変わることもあるため、数年ごとに内容を見直すことが望まれます。

    Q. 自宅などの不動産をそのまま寄附できますか?

    受け手が不動産の受入れに応じれば可能ですが、受け入れていない団体も少なくありません。また、法人への遺贈はみなし譲渡の対象となり、非課税の特例を受けるには、受け手がその不動産を公益目的の事業に直接使うことなどの要件があります。換価して金銭で寄附する方法とあわせて比較することをおすすめします。

    Q. 遺言がなくても、家族が代わりに寄附すれば同じ効果がありますか?

    相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ寄附すれば、その財産を相続税の対象外とする特例があります。ただし、寄附するかどうかは相続人の判断になり、寄附先も既存の一定の法人に限られます。本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておく方が確実です。

    Q. 寄附先の団体が遺留分の請求を受けることはありますか?

    あります。遺贈が相続人の遺留分を侵害している場合、遺留分を持つ相続人は受遺者である団体に金銭の支払いを請求できます。寄附の割合を決める前に遺留分を計算し、家族と話し合っておくことが、団体と家族の双方を守ることにつながります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和2年版 租税特別措置法第40条関係通達逐条解説』大野隆太 編、大蔵財務協会
  • 事業承継は何から始めるべきか|後継者・株式・税金・経営体制を整理する順番

    事業承継は何から始めるべきか|後継者・株式・税金・経営体制を整理する順番

    「そろそろ事業承継を考えなければ」と思ったとき、多くのオーナーが最初に手を付けるのは、後継者を誰にするかという問いか、相続税がいくらかかるかという試算のどちらかです。どちらも重要ですが、いずれか一つから始めると、他の論点が後回しになり、あとで組み直しが必要になることがあります。

    結論から言えば、事業承継は「誰に継ぐか」を決める前に、「何を継ぐのか」を棚卸しすることから始めるのが、遠回りに見えて最も確実です。この記事では、後継者・株式・税金・経営体制という4つの論点を、どの順番で、どの深さまで整理すればよいかを解説します。

    事業承継とは何を引き継ぐことか

    事業承継というと「社長が交代すること」をイメージしがちですが、実際に引き継ぐものはもっと広範囲です。

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継の構成要素を次の3つに整理しています。

    構成要素主な内容
    人(経営)の承継経営権・代表者の地位、経営者としての役割
    資産の承継自社株式、事業用資産、債権・債務など
    知的資産の承継人材、技術・ノウハウ、顧客との関係、経営理念など、貸借対照表に表れない資産

    AEGISでは、オーナーの意思決定という観点から、これをさらに次の4つの視点で捉え直すことをおすすめしています。

    • 経営:誰が会社を率い、意思決定するのか
    • 所有:誰が株式(議決権)を持ち、会社を支配するのか
    • 財産:会社の財産とオーナー個人の財産をどう区分し、どう次世代へ移すのか
    • 家族:後継者以外の家族の意向や公平感をどう扱うのか

    この4つは互いに影響し合います。たとえば「経営は長男に任せたい」という判断(経営)は、「株式を長男に集中させる」という判断(所有)を必要とし、それは「他の相続人に何を渡すか」(財産・家族)という問題を生みます。どれか一つだけを先に確定させると、他の視点で無理が生じるのはこのためです。

    なぜ「早く始める」ことが重要なのか

    事業承継ガイドラインは、経営者がおおむね60歳頃には事業承継の準備に着手することが望ましいとしています。また、後継者の育成を含めた準備には、3年以上を要するケースが半数を超え、10年以上かかるケースも少なくないことが示されています。

    早く始めるべき理由は、単に時間がかかるからだけではありません。

    • 選択肢が多いうちに判断できる:株式の移転方法(贈与・売買・相続など)や時期は、時間があるほど比較・分散ができます。
    • 後継者の育成に時間を充てられる:経営者としての経験は、短期間では身に付きません。
    • 不測の事態に備えられる:健康上の問題などで承継が突然始まると、準備不足のまま相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)を迎えることになります。

    「まだ元気だから」「後継者が決まっていないから」は、準備を先送りする理由にはなりません。後継者が未定でも進められる準備は数多くあります(関連記事:後継者が決まる前にできる準備)。

    最初に整理すべきこと:4つの視点の「現状把握」

    事業承継の第一歩は、現状を正確に知ることです。事業承継ガイドラインも、準備の必要性を認識したあとのステップとして「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」を挙げています。

    AEGISでは、4つの視点ごとに次の項目を確認することから始めます。

    経営:会社は「社長がいなくても」回るか

    • 業績の推移と、今後数年の見通し
    • 社長個人に依存している業務・判断・取引先との関係
    • 幹部社員の役割分担と、意思決定の仕組み

    社長しか知らないこと、社長しか決められないことが多いほど、承継には時間がかかります。

    所有:株式は今、誰が何株持っているか

    • 株主名簿と実際の株主が一致しているか
    • 親族や元役員などに株式が分散していないか
    • 定款に株式の譲渡制限や相続人等に対する売渡請求の定めがあるか

    会社の重要事項は株主総会で決まります。役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。後継者が安定して経営するには、どの程度の議決権を確保できるかを早い段階で把握しておく必要があります。

    財産:会社と個人の境界はどうなっているか

    • 自社株式のおおよその評価額
    • オーナー個人の財産のうち、自社株式・不動産・金融資産の割合
    • 会社が使っている不動産をオーナー個人が所有していないか
    • オーナーから会社への貸付金、会社借入れに対する経営者保証

    中小企業では、会社の事業と個人の財産が密接につながっていることが少なくありません。この境界が曖昧なままだと、株式だけを移しても事業が回らない、あるいは相続のときに想定外の論点が出てくることがあります。

    家族:誰が、何を望んでいるか

    • 後継者候補本人に、継ぐ意思があるか
    • 後継者以外の家族が、会社や財産についてどう考えているか
    • 配偶者や子の生活資金をどう確保するか

    家族の意向は、税金や株価よりも数値化しにくい一方で、承継の成否を最も大きく左右する要素の一つです。

    整理する順番:「方針」→「方法」→「税金」

    現状が見えたら、次は判断の順番です。AEGISでは、次の順で整理することをおすすめしています。

    1. 方針を決める:事業を継続するか、誰に(親族・社内・社外)引き継ぐ方向か、いつ頃を目安にするか
    2. 経営と所有の設計を決める:経営をいつ、誰に任せるか。株式をいつ、どの方法で、誰に移すか
    3. 財産全体の配分を考える:後継者以外の家族に何を渡すか、納税資金をどう確保するか
    4. 税金を最適化する:上記の方針の範囲内で、税負担を抑える方法を検討する

    ここでのポイントは、税金の最適化を最後に置くことです。税負担の軽減は重要ですが、税金を基準に経営や所有の設計を決めると、後継者の経営権が不安定になったり、家族間の公平が損なわれたりすることがあります。税金は「方針を実現するための手段の一つ」として位置付けるのが、長期的に見て合理的です。

    なお、経営を任せる時期と株式を移す時期は、必ずしも同じである必要はありません。たとえば、代表者は早めに交代し、株式は段階的に移すといった設計も考えられます。

    また、株式の引き継ぎ先は家族や社内・社外の後継者だけとは限りません。会社の経営と議決権は後継者に任せ、株式の一部(たとえば議決権のない配当優先株式)を財団に寄附して、配当を社会貢献に充てるという「社会貢献を軸にした承継」の形もあります。自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団に基金を設ける形であれば、後継者に財団運営の負担を残さずに済みます(AEGISが設立したアイジスレガシー財団もその一つです)。事業承継税制との比較は関連記事「法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断」で、財団の設計は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    事業承継税制には期限がある

    非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「法人版事業承継税制(特例措置)」を利用するには、事前に「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。中小企業庁によれば、提出期限は令和9年(2027年)9月30日まで、対象となるのは平成30年(2018年)1月1日から令和9年(2027年)12月31日までの贈与・相続等です。

    制度の利用を検討する可能性があるなら、期限から逆算して早めに方針を整理しておくことが大切です。ただし、この制度は適用後も一定の要件を継続して満たす必要があり、利用が適しているかどうかは会社や家族の状況によって異なります。

    経営者保証も承継の論点になる

    会社の借入れに対する経営者保証は、後継者にとって事業承継の障害になり得ることが、事業承継ガイドラインでも指摘されています。金融機関向けには、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則も設けられています。借入れの状況と保証の有無は、早い段階で確認しておきたい項目です。

    計画は「完成させる」より「共有する」

    事業承継の準備は、資料を作ること自体が目的ではありません。現経営者と後継者候補、家族、幹部社員が、同じ現状認識と方向性を共有できているかが重要です。事業承継計画の具体的な項目については、関連記事(事業承継計画に含める項目)で詳しく解説しています。

    AEGISの視点

    事業承継は、税務の問題として語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、事業承継を「会社の所有と経営の形を、次の世代に合わせて設計し直す機会」と捉えています。

    オーナーが築いてきたものは、会社だけではありません。会社が使う不動産、個人の金融資産、家族との関係、地域や社会とのつながり——それらはすべて、事業承継のときに同時に動きます。会社の株式だけを見て最適化しても、不動産の所有形態や家族の生活資金、あるいはオーナー自身の「事業を通じて社会に何を残したいか」という思いが置き去りになれば、承継は本当の意味で完了しません。

    そのためAEGISでは、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理し、その上で個々の対策を位置付けることを重視しています。最初の一歩は、精緻な計算ではなく、オーナー自身の言葉で「何を、誰に、どのような形で残したいか」を書き出してみることです。

    事業承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 事業承継で引き継ぐのは、経営・所有・財産・家族にまたがる「事業の全体」です。
    • 最初に行うべきは、後継者の決定や税金の試算ではなく、4つの視点での現状把握です。
    • 整理の順番は「方針 → 経営と所有の設計 → 財産全体の配分 → 税金の最適化」が基本です。
    • 準備には年単位の時間がかかります。60歳前後を一つの目安に、早めに着手することが望まれます。
    • 事業承継税制の特例措置を検討する場合は、特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)に注意が必要です。

    具体的にどの対策が適しているかは、会社の状況や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 後継者が決まっていなくても、事業承継の準備は始められますか?

    始められます。株主構成や会社と個人の財産の関係の整理、社長に依存している業務の見える化、自社株式の評価額の把握などは、後継者が誰であっても必要になる準備です。むしろ、これらを進めることで後継者の選択肢が広がることもあります。

    Q. 事業承継は何歳頃から準備すべきですか?

    中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、おおむね60歳頃には準備に着手することが望ましいとされています。後継者の育成を含めると3年以上かかるケースが半数を超えるため、年齢にかかわらず「思い立ったとき」が着手のタイミングと考えるのが現実的です。

    Q. まず相続税の試算から始めるべきではないのですか?

    試算自体は早い段階で行う価値があります。ただし、試算結果だけを基準に対策を決めると、経営権や家族間の公平といった他の重要な要素が後回しになりがちです。試算は現状把握の一部として行い、対策の判断は方針を決めた後に行うのが望ましい順番です。

    Q. 経営を譲るタイミングと株式を渡すタイミングは同じでなければなりませんか?

    同じである必要はありません。代表者の交代と株式の移転を段階的に分けて設計することも可能です。ただし、後継者が経営判断を行うために必要な議決権を、どの時点でどの程度確保できるかは慎重に検討する必要があります。

    Q. 事業承継税制は必ず使ったほうがよいのですか?

    一概には言えません。納税の猶予・免除を受けられる一方で、適用後も一定期間にわたって要件を満たし続ける必要があり、会社の将来の選択肢(組織再編や売却など)に影響することもあります。制度の期限を意識しつつ、自社の方針に合うかどうかを確認したうえで判断することが重要です。制度を使わない場合の選択肢には、贈与や売買のほか、株式の一部を財団に寄附して経営権は後継者に残す、社会貢献を軸にした承継もあります。

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    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    その他参考資料