カテゴリー: 相続・資産承継

財産の把握、配分、納税資金、管理と引継ぎを考えるための解説です。

  • 著作権・印税収入がある人の相続と相続放棄|相続税の評価、放棄したときの権利の行方、管理者の決め方

    著作権・印税収入がある人の相続と相続放棄|相続税の評価、放棄したときの権利の行方、管理者の決め方

    著名人の相続で、相続人が相続放棄をしたことが報じられ、作品の著作権や印税は誰が引き継ぐのか、という点に関心が集まることがあります。作家や作曲家、漫画家、写真家、研究者など、作品からの収入がある人にとっては、決して他人事ではありません。

    結論から言えば、著作権は相続の対象となる財産であり、相続税の課税対象にもなります。評価は国税庁の財産評価基本通達で、過去の印税収入を基に行います。一方、相続人が相続放棄をすると、その人は著作権を含む一切の財産を引き継ぎません。相続人が誰もいない状態になり、最終的に財産が国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権は消滅すると著作権法に定められています。

    この記事では、著作権・印税の相続税評価、相続放棄や限定承認をしたときの権利の行方、そして作品を守り続けるために誰に管理を託すかを整理します。特定の方の事例を論評するものではなく、制度の仕組みと備えを解説するものです。

    著作権は「財産」として相続される

    国税庁は、相続税がかかる財産として、現金や不動産のほか、特許権や著作権など「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」を挙げています(No.4105)。著作権は、作品を複製・上演・放送・翻訳などする権利の束で、ほかの財産と同じように相続人に引き継がれます。

    保護期間は原則として死後70年

    著作権は、作品が創作された時に発生し、原則として著作者の死後70年を経過するまで存続します(著作権法51条)。共同著作物の場合は、最後に亡くなった著作者の死後70年です。保護期間は、TPP11協定の発効に伴い平成30年12月30日から、それまでの死後50年から70年に延長されました(文化庁)。つまり、相続した著作権は、相続人だけでなく、その次の世代まで引き継がれる可能性がある財産です。

    著作者人格権は相続されない

    著作権とは別に、作品の公表や氏名表示、内容の改変について作者の人格的な利益を守る「著作者人格権」があります。これは著作者の一身に専属し、譲渡できず(著作権法59条)、相続もされません。ただし、著作者が亡くなった後も、その人格的利益を害する行為は禁止され(同法60条)、配偶者や子などの遺族が差止め等を請求できる仕組みがあります(同法116条)。

    著作権の相続税評価

    評価の算式

    財産評価基本通達148は、著作権の価額を次の算式で評価すると定めています。

    年平均印税収入の額 × 0.5 × 評価倍率

    • 年平均印税収入の額:課税時期(相続開始時)の属する年の前年以前3年間の印税収入の年平均額
    • 評価倍率:今後の各年の印税収入が年平均印税収入の額であるとして、著作物に精通している人の意見などを基に推算した印税収入期間に応じる、基準年利率による複利年金現価率

    評価は著作者ごとに一括して行うことが原則ですが、個々の著作物ごとに評価することもできます(同通達148)。0.5を乗じるのは、将来の印税収入を見積もることに伴う不確実性を考慮したものと説明されています(武田秀和『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』Q6-7)。

    実務で確認する資料

    評価倍率の基礎となる「印税収入期間」は、出版社やレコード会社など、その作品に精通している人の意見を基に見積もります。実務では、作品ごとに過去3年間の印税の支払明細と、今後の収入見込みを確認することになります。生前の印税収入がほとんどない作品で、今後も収入が見込まれない場合は、評価倍率が零となり、評価額が算出されないこともあります(武田・前掲Q6-8)。

    関連する権利の評価

    権利評価の考え方(財産評価基本通達)
    著作権年平均印税収入の額×0.5×評価倍率(148)
    著作隣接権(実演家・レコード製作者などの権利)著作権の評価を準用(154-2)
    出版権出版業を営む人が持つものは営業権に含めて評価し、それ以外の人が持つものは評価しない(154)

    通達の評価額と「実際の価値」は大きく離れることがある

    財産評価基本通達による著作権の評価は、過去3年の平均印税収入に0.5と評価倍率を掛けるという、相続税の実務で多くの事案を公平かつ簡便に処理するために単純化された方法です。そのため、将来の収入見込みを個別に積み上げて現在の価値に割り引くDCF法や、類似する権利の取引事例から倍率を当てはめるマルチプル法など、実際の価値評価の考え方に照らすと、評価額と時価がかなり離れることがあります。

    たとえば、相続の直前に作品の人気が高まり、今後の収入が大きく伸びる見込みがある場合は、過去3年の実績に基づく評価額は実際の価値を下回りやすくなります。反対に、過去の収入は大きくても今後は急速に減っていく見込みの作品では、評価額が実際に売買できる価値を上回ることもあります。

    この構造は、借地権の目的となっている土地(いわゆる底地)とよく似ています。底地の相続税評価額は、自用地としての価額から借地権の価額を差し引いて求めますが、底地だけを買う人は限られるため、実際に売れる価格はこの評価額を下回ることが少なくありません。それでも、相続税の申告で通達によらずに鑑定評価などの時価で評価するには、その時価を裏付ける十分な根拠が求められ、認められない例も多いため、税務上のリスクを伴います。著作権のように価値の見積もりが難しい財産権も同じで、評価額が実態と合わないと感じても、通達によらない評価を選ぶかどうかは慎重に判断する必要があります。また、評価額と時価の乖離を利用して相続税の負担を大きく軽減するような取引については、通達の定めによらない評価が行われる場合があることにも注意が必要です(財産評価基本通達6、最高裁令和4年4月19日判決)。

    だからこそ、著作権のような目に見えにくい権利や、底地のように評価額と換金できる価値がずれやすい財産は、生前のうちに、相続税評価額と、実際の時価やDCF法・マルチプル法などによる価値評価を並べて適切に比較し、対策が必要かどうかを検討しておくことが大切です。比べてみることで、相続税の負担と納税資金の見通し、誰がどの権利を引き継ぐか、生前の売却や法人への移転、遺言による承継先の指定などを検討する余地があるかが、具体的に見えてきます。底地の評価と整理の方法は関連記事「底地と借地を整理する方法」で、通達によらない評価が問題になる場面は「評価を下げる対策が否認されるとき」で解説しています。

    相続後の印税は誰の収入になるか

    相続後に支払われる印税は、著作権を引き継いだ相続人の収入となり、相続税とは別に、相続人の所得税の申告の対象となるのが一般的です。所得税基本通達35-2は、事業所得に当たらない著作権の使用料に係る所得を、業務に係る雑所得の例示に挙げています。印税の受取口座や出版契約の名義変更、源泉徴収の扱いなど、相続後の事務も早めに確認しておく必要があります。

    相続放棄・限定承認をすると著作権はどうなるか

    相続放棄

    相続放棄は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述して行います(民法915条、裁判所「相続の放棄の申述」)。放棄をした人は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

    そのため、放棄をした人は、借金などの債務だけでなく、著作権を含むすべての財産を引き継ぎません。「借金は引き継がず、著作権だけは引き継ぐ」という選択はできないということです。著作権は、放棄しなかった同順位の相続人や、次の順位の相続人に引き継がれます。

    なお、相続税の計算では、相続放棄をした人がいても、基礎控除額などを計算する際の法定相続人の数は放棄がなかったものとして数えます(No.4152)。一方、放棄をした人が死亡保険金を受け取った場合、その人は相続人ではないため、死亡保険金の非課税の適用は受けられません(No.4114)。

    限定承認

    限定承認は、相続によって得た財産の限度でのみ債務を負担することを留保して相続する方法です(民法922条)。相続人が複数いる場合は、全員が共同して申述する必要があります(民法923条、裁判所「相続の限定承認の申述」)。

    債務の額が分からないが、作品の価値は残したいという場面で検討される方法ですが、税務上の注意点があります。限定承認に係る相続により資産が移転した場合は、その時の時価で譲渡があったものとみなされ(所得税法59条1項)、被相続人の所得として課税される可能性があります。著作権のように取得費が小さい資産では、この影響を事前に確認しておくことが欠かせません。

    相続人がいない場合、著作権は消滅する

    相続人全員が放棄した場合や、もともと相続人がいない場合は、相続財産は法人となり(民法951条)、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が債務の支払などの清算を行います(民法952条、裁判所「相続財産清算人の選任」)。特別の縁故があった人への分与が行われることもあります。

    清算後に残った財産は国庫に帰属します(民法959条)。ただし著作権については、著作権法62条1項1号が、著作権者が死亡し、その著作権が民法959条により国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権は消滅すると定めています。この場合、作品は保護期間内であっても著作権による保護を受けない状態になります。

    相続の状況著作権の行方
    相続人が単純承認した遺言や遺産分割に従って相続人が承継する
    一部の相続人が相続放棄した放棄した人は承継せず、他の相続人が承継する
    相続人全員が限定承認した相続人が承継するが、清算手続とみなし譲渡課税に注意
    相続人全員が放棄した・相続人がいない清算人が清算し、国庫に帰属すべきこととなるときは著作権が消滅する

    相続人がいない場合の手続の全体像は、関連記事「相続人がいない場合、財産はどうなるか」で解説しています。

    作品を守るための「管理者」の決め方

    共有になると管理が止まりやすい

    遺産分割をしないまま、あるいは複数の相続人で著作権を分けると、著作権は共有になります。共有の著作権は、共有者全員の合意がなければ行使できず、持分を譲渡するにも他の共有者の同意が必要です(著作権法65条)。正当な理由なく合意を拒むことはできないとされていますが、映像化や翻訳出版、配信の許諾といった判断のたびに全員の合意が必要になれば、機会を逃すことにもなりかねません。

    備えの選択肢

    作品からの収入がある人は、生前に次のような方法で「誰が判断するか」を決めておくことが考えられます。

    • 遺言で承継者を指定する:著作権を管理する意思と能力のある人に承継させ、遺言執行者を定めておきます。遺言の方式の選び方は「公正証書遺言・自筆証書遺言・法務局保管の比較」で解説しています。
    • 著作権管理事業者に管理を委ねる:作品の利用許諾や使用料の徴収を専門の事業者に委ねる方法です。契約の内容(信託か委任か、対象の範囲)を確認しておきます。
    • 民事信託(いわゆる家族信託)を活用する:著作権を信託財産とし、管理を担う受託者と、印税を受け取る受益者を分けることで、管理と収益の帰属を整理できます。
    • 遺贈や寄附を検討する:相続人がいない場合や、作品を社会に役立てたい場合は、遺言で団体などに遺贈することも選択肢です。法人への遺贈には、所得税法59条によるみなし譲渡課税が生じ得る点に注意します。

    AEGISの視点

    著作権は、不動産や預金と比べて「目に見えにくい財産」です。印税の明細は出版社ごとに分かれ、権利の範囲は契約ごとに異なり、将来の価値は作品の評価次第で大きく変わります。AEGISは、知的財産の承継を「評価の問題」であると同時に「管理の問題」として捉えることが大切だと考えています。

    相続税の評価は過去3年の印税収入と将来の見込みで決まりますが、作品の価値を保ち、さらに高めていけるかどうかは、相続後に誰がどのように判断するかにかかっています。管理者を決めないまま共有にしてしまうと、権利はあっても動かせない状態になりかねません。また、相続人が放棄を選んだ結果として相続人がいなくなれば、作品の著作権そのものが消滅する可能性もあります。

    作品を生み出してきた人の場合、その活動は一種の個人事業でもあります。契約・口座・権利の一覧を作り、承継者と管理の方法を決め、遺言や信託で形にしておく。こうした準備は、家族の負担を減らすだけでなく、作品を社会に残し続けるための備えでもあるとAEGISは考えています。

    相続と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、ネット上の契約やデータの備えは「デジタル資産の相続に備える」で解説しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 著作権は相続の対象となる財産で、相続税の課税対象になります。保護期間は原則として著作者の死後70年です。
    • 相続税評価は、財産評価基本通達148により、前年以前3年間の年平均印税収入×0.5×評価倍率で計算します。著作隣接権は同じ方法を準用し、出版業者以外が持つ出版権は評価しません。
    • 通達の評価は単純化された方法のため、DCF法やマルチプル法などによる価値評価とかなり乖離することがあります。底地と同じく、通達によらない評価には税務上のリスクがあるため、生前に評価額と時価を比較して対策の要否を検討することが大切です。
    • 相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされ、著作権も引き継ぎません。限定承認は全員共同で行い、みなし譲渡課税に注意が必要です。
    • 相続人がいない場合、著作権が国庫に帰属すべきこととなるときは消滅します。
    • 共有の著作権は全員の合意がないと行使できないため、遺言・管理事業者・民事信託などで管理者を決めておくことが大切です。具体的な対応は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 印税収入がほとんどない作品にも相続税がかかりますか?

    著作権の評価は、過去3年間の印税収入と今後の収入見込みに基づいて行います。収入がほとんどなく、今後も見込まれない作品は、評価倍率が零となり評価額が算出されないこともあります。ただし、映像化などで収入が見込まれる場合は評価額が生じるため、作品ごとに出版社等へ確認することが大切です。

    Q. 著作権の評価額が実際の価値と合わないと感じます。別の方法で評価して申告できますか?

    相続税の申告では、財産評価基本通達による評価が原則です。通達による評価が時価を大きく上回るような場合に、鑑定などの根拠を示して時価で申告することが検討されることもありますが、時価を裏付ける十分な根拠が求められ、認められない例も多いのが実情です。相続が起きてから争うのではなく、生前のうちに通達による評価額と、DCF法やマルチプル法などによる価値評価を比べ、承継の方法や納税資金の準備を検討しておくことが大切です。

    Q. 借金が多いので相続放棄したいのですが、著作権だけ引き継ぐことはできますか?

    できません。相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされ、著作権を含むすべての財産を引き継がなくなります。財産の範囲内で債務を負担する限定承認という方法もありますが、相続人全員で共同して行う必要があり、税務上のみなし譲渡の影響も確認が必要です。

    Q. 相続人が全員相続放棄すると、作品はどうなりますか?

    相続財産清算人による清算の後、残った財産は国庫に帰属します。著作権については、国庫に帰属すべきこととなるときに消滅すると定められているため、保護期間内であっても著作権による保護を受けない状態になります。

    Q. 兄弟で著作権を相続した場合、それぞれが自由に利用を許諾できますか?

    共有の著作権は、共有者全員の合意がなければ行使できません。各共有者は正当な理由なく合意を拒めないとされていますが、判断のたびに全員の合意が必要になるため、代表者を決める、遺産分割で一人に集約するなどの整理を検討します。

    Q. 作者が亡くなった後、作品を勝手に改変されたらどうなりますか?

    著作者人格権は相続されませんが、著作者の死後も、その人格的利益を害する行為は禁止されています。配偶者や子など一定の遺族は、差止め等を請求できる仕組みがあります。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。
    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長期に継続し次世代へ引き継ぐ準備として、事業資金・家族信託・遺言・契約・金融機関対応を確認します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、2013年、P.152、171-182
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.68、109
  • 相続人がいない場合、財産はどうなるか|相続財産清算人・特別縁故者・国庫帰属と、遺言で備える方法

    相続人がいない場合、財産はどうなるか|相続財産清算人・特別縁故者・国庫帰属と、遺言で備える方法

    子どもがいない、配偶者に先立たれた、兄弟姉妹もすでに亡くなっている——いわゆる「おひとりさま」の相続では、亡くなった後の財産を誰が引き継ぐのかが大きな関心事です。相続人がいないまま亡くなった人の財産が国庫に入るケースが増えていると報じられることもあり、自分の財産の行方を考え始める方が増えています。

    結論から言えば、相続人がいない場合、財産は家庭裁判所が選任する相続財産清算人による清算を経て、残った分が最終的に国庫に帰属します。その途中で、生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人などの「特別縁故者」に財産が分与されることもありますが、それは家庭裁判所の判断によるもので、本人の意思どおりになるとは限りません。

    自分の財産を、お世話になった人や応援したい団体に引き継いでもらいたいのであれば、遺言などで生前に意思を形にしておくことが最も確実な方法です。この記事では、相続人がいない場合の手続の流れと、備え方の全体像を整理します。

    「相続人がいない」とはどのような状態か

    民法上の相続人は、配偶者(常に相続人)と、①子、②直系尊属(父母や祖父母など)、③兄弟姉妹の順位で定められています(国税庁 No.4132)。子が先に亡くなっている場合は孫などの直系卑属が、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合はその子が代わりに相続人となる場合があります(兄弟姉妹の場合は、その子までに限られます。民法887条2項・889条2項)。

    「相続人がいない」状態になるのは、主に次のような場合です。

    • 配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹(とその代襲者)が、いずれもいない
    • 相続人となる人全員が相続放棄をした(放棄した人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。民法939条)

    なお、長年連れ添った内縁のパートナーや、養子縁組をしていない配偶者の連れ子、親しい友人などは、どれほど関係が深くても法律上の相続人にはなりません。この点が、相続人がいない場合の備えを考える出発点になります。

    相続人がいない場合の手続の流れ

    相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人とされ(民法951条)、次のような流れで清算が進みます。なお、「相続財産清算人」は、令和3年の民法改正(令和3年法律第24号)により、従来の「相続財産管理人」から改められたものです。

    段階内容期間・期限の目安
    1. 相続財産清算人の選任利害関係人(債権者、受遺者、特別縁故者など)または検察官の請求により、家庭裁判所が選任(民法952条1項)申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
    2. 選任と相続人捜索の公告家庭裁判所が、清算人の選任と、相続人がいれば一定期間内に権利を主張すべき旨を公告(民法952条2項)6か月以上
    3. 債権者・受遺者への公告清算人が、相続債権者・受遺者に請求の申出をすべき旨を公告し、債務の支払などを行う(民法957条)2か月以上(2の期間内に満了)
    4. 特別縁故者への分与特別の縁故があった人の請求により、家庭裁判所が相当と認めるときに財産の全部または一部を分与(民法958条の2)2の期間満了後3か月以内に請求
    5. 国庫への帰属処分されなかった財産は国庫に帰属(民法959条)—

    清算人の選任の申立てには、収入印紙800円や郵便切手、官報公告料のほか、相続財産が手続費用に不足する可能性がある場合には予納金が必要になることがあります(裁判所「相続財産清算人の選任」)。つまり、誰かが申し立てなければ手続は始まらず、財産も債務も宙に浮いたままになる可能性があるということです。賃貸住宅の明渡しや、未払いの医療費・税金の支払、不動産の管理など、周囲の人が困る場面も生じます。

    特別縁故者への財産分与

    相続人がいない場合でも、次のような人は、家庭裁判所に財産の分与を請求できます(民法958条の2、裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」)。

    • 被相続人と生計を同じくしていた人(内縁のパートナーなど)
    • 被相続人の療養看護に努めた人
    • その他、被相続人と特別の縁故があった人

    ただし、分与するかどうか、どの財産をどれだけ分与するかは、家庭裁判所が「相当と認めるとき」に判断します。本人が生前に「この人に財産を残したい」と考えていたとしても、その意思が反映される保証はありません。請求の期限も、相続人捜索の公告期間の満了後3か月以内と限られています。

    特別縁故者が受け取った財産と相続税

    特別縁故者が分与を受けた財産は、被相続人から遺贈により取得したものとみなされ、分与を受けた時の時価で相続税の対象になります(相続税法4条1項)。申告期限は、分与があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法29条)。

    相続人がいない場合の基礎控除額は3,000万円(法定相続人の数が0人)となります(PwC『完全ガイド』第2章、相続税法基本通達15-1)。また、被相続人の配偶者・父母・子など一親等の血族以外の人が財産を取得した場合は、相続税額が2割加算されます(国税庁 No.4157)。特別縁故者として財産を受け取る人の多くは、この2割加算の対象になると考えられます。

    相続人がいない人が生前にできる備え

    相続人がいない場合の手続は、財産を「本人の意思とは無関係に」清算する仕組みです。自分の意思を反映させるには、生前の準備が欠かせません。

    備えの方法できること注意点
    遺言(遺贈)財産を渡したい人や団体を指定できる方式の要件を満たす必要がある。遺言執行者を定めておくと実行が円滑
    遺贈寄附公益法人・NPO・自治体などに財産を遺す受け取れる財産の種類(不動産など)を事前に確認する
    死後事務委任契約葬儀・納骨・医療費の精算・契約の解約などを第三者に託す遺言では定められない事務を補う。公正証書での作成が望ましいとされる
    任意後見・財産管理契約判断能力や体力が低下したときの財産管理を託す死亡によって終了するため、死後の事務とは別に準備が必要
    民事信託(いわゆる家族信託)生前から財産の管理を託し、死後の帰属先も定められる受託者となる人・法人の確保が前提

    遺言で財産の行き先を決める

    相続人がいない人にとって、遺言は財産の行き先を決める中心的な手段です。遺言で財産を受け取る人(受遺者)を決めておけば、その部分は清算の手続を経ずに受遺者へ渡すことができます。財産全体を受け取る人を指定する方法(包括遺贈)と、特定の財産ごとに指定する方法(特定遺贈)があり、どちらを選ぶかで受遺者の負う責任や手続が変わります。包括遺贈を受けた人は、相続人と同一の権利義務を有するとされています(民法964条・990条)。遺言を確実に実行してもらうため、遺言執行者を定めておくことも重要です。

    遺言の保管については、法務局で自筆証書遺言を保管する制度があり、保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要となるほか、死亡後に指定した人へ遺言書が保管されている旨を通知する仕組みもあります(法務省「自筆証書遺言書保管制度」)。遺言の方式の選び方は「公正証書遺言・自筆証書遺言・法務局保管の比較」で解説しています。

    遺贈寄附と税務上の注意

    社会に役立ててほしいという思いがある場合は、遺言で公益法人などに財産を遺す遺贈寄附も選択肢です。ただし、法人に対して不動産や株式などを遺贈すると、その時の時価で譲渡があったものとみなされ、被相続人の所得として課税される場合があります(所得税法59条1項)。寄附先の受入れ条件とあわせて、事前に確認しておくことが大切です。遺贈寄附の方法は「遺贈寄附とは何か、遺言で財産の一部を社会に遺す方法」で解説しています。

    死後の事務を託す

    遺言で定められるのは、主に財産の行き先に関することです。葬儀や納骨、病院や施設の費用の精算、住居の明渡し、デジタルデータの消去や各種契約の解約などは、死後事務委任契約で第三者に託しておく必要があります。財産管理などの委任契約は、特約がなければ本人の死亡によって終了するため、死後の事務は別途契約しておく必要があります(『税理士のためのポケットブック 2026』Chapter 9)。詳しくは「死後事務委任契約とは」で解説しています。

    AEGISの視点

    相続人がいない人の相続は、「財産が国に入ってしまう」という結果だけが注目されがちです。しかしAEGISは、より大きな問題は本人の意思が届かないまま、手続が誰の主導でも始まらない状態が生じることだと考えています。清算人の選任は利害関係人などが申し立てなければ始まらず、その間、自宅や賃貸不動産、会社の株式などは管理する人のいない状態になりかねません。

    とくに、不動産や事業を持つ人の場合、その影響は家族の外にも及びます。入居者や取引先、従業員がいる財産こそ、誰に、どのように引き継ぐかを早めに決めておく意味があります。財産の一覧を作り、受け取ってほしい人や団体を決め、遺言・死後事務委任・任意後見を組み合わせて「生前から亡くなった後まで」を切れ目なく設計する。そのうえで、社会貢献につなげたい財産があれば、寄附先の受入れ条件や税務を確認しておく。こうした準備は、本人の思いを形にするだけでなく、周囲の人の負担を減らすことにもつながります。

    相続と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続人がいない場合、相続財産は法人となり、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が清算を行います。残った財産は最終的に国庫に帰属します。
    • 相続人捜索の公告(6か月以上)や債権者への公告(2か月以上)を経るため、手続には時間がかかります。申立てをする人がいなければ手続は始まりません。
    • 特別縁故者への分与は家庭裁判所の判断によるもので、本人の意思どおりになるとは限りません。分与を受けた財産は遺贈とみなされ、相続税の対象になります。
    • 自分の意思で財産の行き先を決めるには、遺言(遺言執行者の指定を含む)、遺贈寄附、死後事務委任契約、任意後見などを組み合わせて備えることが大切です。具体的な方法は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続人がいない場合、財産はすぐに国のものになりますか?

    すぐにはなりません。相続財産清算人が選任され、相続人の捜索や債権者への支払、特別縁故者への分与の手続を経たうえで、処分されなかった財産が国庫に帰属します。公告の期間だけでも合計で数か月以上かかります。

    Q. 内縁の妻(夫)は財産を受け取れますか?

    内縁のパートナーは法律上の相続人ではありません。相続人がいない場合は、特別縁故者として家庭裁判所に財産分与を請求できる可能性がありますが、分与されるかどうかは裁判所の判断によります。確実に財産を渡したい場合は、遺言で遺贈しておくことが重要です。

    Q. 特別縁故者として財産を受け取った場合、相続税はかかりますか?

    分与を受けた財産は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象になります。申告期限は、分与があったことを知った日の翌日から10か月以内です。一親等の血族や配偶者以外の人が取得するため、相続税額の2割加算の対象になると考えられます。

    Q. 兄弟姉妹が全員相続放棄した場合も、相続人がいない状態になりますか?

    はい。相続放棄をした人は初めから相続人とならなかったものとみなされるため、順位の相続人全員が放棄し、ほかに相続人がいなければ、相続人がいない状態になります。

    Q. 遺言があれば、相続財産清算人の手続は不要になりますか?

    財産全体の受け取り手を遺言で指定し、遺言執行者を定めておけば、清算人による手続を経ずに遺言を実行できる場合が多くなります。一部の財産だけを指定した遺言では、残りの財産について清算の手続が必要になることがあります。遺言の内容は、財産全体を見渡して設計することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.71、109
    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、P.126-127
  • 相続放棄をすると相続税の計算で何が変わるか|基礎控除・生命保険金の非課税・2割加算・配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例

    相続放棄をすると相続税の計算で何が変わるか|基礎控除・生命保険金の非課税・2割加算・配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例

    相続放棄をしても、相続税の基礎控除などの計算に使う「法定相続人の数」は、放棄がなかったものとして数えます。 そのため、放棄によって基礎控除が増えたり減ったりすることはありません。

    一方で、放棄した人自身は、生命保険金・死亡退職金の非課税、借入金などの債務控除、相次相続控除を使えなくなります。また、子の全員が放棄して兄弟姉妹が新たに相続人になった場合、その兄弟姉妹が財産を取得すると相続税額の2割加算の対象になります。配偶者の税額軽減は、放棄した配偶者でも遺贈などで取得した財産があれば使えます。

    著名人の相続で相続放棄が報じられたこともあり、放棄の影響に関心を持つ方が増えています。この記事では、相続放棄が相続税の計算のどこに、どう影響するのかを項目ごとに整理します。

    相続放棄の基本:法律上の効果

    相続放棄は、家庭裁判所に申述して行う手続です。原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります(民法915条1項)。

    放棄をした人は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。プラスの財産もマイナスの財産も引き継がず、放棄した人の子が代わりに相続する代襲相続も生じません。

    その結果、相続人の顔ぶれが変わることがあります。たとえば子の全員が放棄すると、次の順位である親などの直系尊属が、直系尊属もいなければ兄弟姉妹が相続人になります(民法889条1項)。

    ここで注意したいのは、放棄をしても相続税と無関係になるとは限らないことです。死亡保険金のように、放棄した人が受け取れる財産があるからです。

    放棄した人が受け取る生命保険金・死亡退職金

    被相続人が保険料を負担していた生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産であり、相続放棄をしても受け取ることができます。ただし、相続税の計算では相続または遺贈により取得したものとみなされます(相続税法3条1項1号)。放棄した人は相続人ではないため、遺贈により取得したものとして扱われます。

    このとき、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、相続人が受け取った保険金にだけ適用されます。国税庁は、ここでいう相続人に相続を放棄した人は含まれないとしています(タックスアンサーNo.4114)。死亡退職金の非課税枠も同様です(No.4117)。

    つまり、

    • 非課税枠の金額の計算(法定相続人の数)には、放棄した人も数に入る
    • 非課税枠を使える人からは、放棄した人は外れる

    という二つの面があります。放棄した人が保険金の受取人になっている場合、その人の受取分には非課税枠が使われず、全額が課税対象になります。生命保険の契約の形と受取人の決め方が与える影響は、関連記事「生命保険を相続対策に使うときの考え方」で詳しく扱っています。

    項目別に見る、相続放棄の影響

    相続税の計算の主な項目について、放棄がどう影響するかをAEGISで一覧にまとめました。

    項目放棄の影響根拠
    基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)法定相続人の数は放棄がなかったものとして数える相続税法15条2項、No.4152
    生命保険金・死亡退職金の非課税枠枠の計算は放棄がなかったものとした人数。放棄した人の受取分には非課税なし相続税法12条1項6号・7号、No.4114、No.4117
    相続税の総額の計算放棄がなかったものとした相続分で按分して計算No.4152
    債務控除放棄した人は差し引けない。ただし現実に負担した葬式費用は遺贈で取得した財産から差し引いてよい相続税法基本通達13-1
    相続税額の2割加算放棄で相続人になった兄弟姉妹など、一親等の血族・配偶者以外は対象。放棄した代襲相続人(孫)も対象相続税法18条、No.4157、質疑応答事例
    配偶者の税額軽減配偶者が放棄しても、遺贈などで取得した財産があれば適用あり相続税法基本通達19の2-3
    未成年者控除・障害者控除放棄がなかったものとした場合の相続人であれば対象になり得るNo.4164、No.4167
    相次相続控除放棄した人には適用なしNo.4168

    以下、ポイントを補足します。

    基礎控除と相続税の総額は「放棄がなかったもの」で計算する

    基礎控除の計算に使う法定相続人の数は、相続の放棄があっても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数です(相続税法15条2項)。また、相続税の総額を計算するときも、各法定相続人が法定相続分で取得したと仮定して計算します(No.4152)。

    この仕組みにより、放棄によって相続人の人数が変わっても、相続税の総額そのものは基本的に変わりません。変わるのは、実際に財産を取得した人ごとの税額の割り振りと、各人が使える控除・加算です。

    債務控除は使えないが、葬式費用は例外がある

    借入金などの債務を遺産から差し引く債務控除は、相続人と包括受遺者が対象です(No.4126)。放棄した人は相続人ではないため、債務控除は使えません。ただし、放棄した人が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合は、その人が遺贈により取得した財産(たとえば生命保険金)の価額から差し引いて差し支えないとされています(相続税法基本通達13-1)。

    放棄で兄弟姉妹が相続人になると2割加算がかかる

    相続税額の2割加算は、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)と配偶者以外の人が財産を取得した場合に適用されます(相続税法18条、No.4157)。子が全員放棄して兄弟姉妹が相続人になると、兄弟姉妹が取得した財産にかかる相続税は2割増しになります。

    また、孫が代襲相続人の地位にありながら放棄し、遺贈で財産を受け取った場合は、放棄によって「代襲して相続人となった」とはいえなくなるため、2割加算の対象になるとされています(国税庁 質疑応答事例)。

    配偶者の税額軽減は、放棄しても使える場合がある

    配偶者の税額軽減は、配偶者が実際に取得した財産を基に計算します。配偶者が相続を放棄した場合でも、遺贈により取得した財産(死亡保険金など)があれば、軽減の規定が適用されます(相続税法基本通達19の2-3)。

    生前贈与加算と相続時精算課税

    放棄をしても、相続時精算課税を選択して贈与を受けていた財産は、相続税の計算に取り込まれます(相続税法21条の16)。また、相続や遺贈で財産を取得した人が被相続人から一定期間内に贈与を受けていた場合の生前贈与加算は、放棄した人でも生命保険金など遺贈により取得したものとみなされる財産を受け取っていれば、対象になり得ます(相続税法19条)。

    小規模宅地等の特例への影響

    放棄は、小規模宅地等の特例にも二つの面で関わります。

    一つは、放棄によって新たに相続人になった親族が、自宅の敷地などを取得する場合です。特例は「被相続人の親族」が相続または遺贈で取得することが前提で、放棄した結果として相続人になった兄弟姉妹なども親族に当たります。そのうえで、同居していたか、申告期限まで住み続けて保有するかなど、通常の取得者要件を満たすかどうかで判断します。

    もう一つは、いわゆる「家なき子」の要件の判定です。家なき子の要件の一つに「被相続人の家に住んでいた相続人がいないこと」がありますが、ここでいう相続人は、相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人です(租税特別措置法施行令40条の2第14項、No.4124)。同居していた相続人が放棄しても、それによって家なき子の要件を満たすようになるわけではありません。

    申告期限と手続で確認したいこと

    放棄によって新たに相続人になった人は、自分が相続人になったことを後から知ることになります。相続税の申告期限は「自己のために相続の開始があったことを知った日」の翌日から10か月以内とされ(相続税法27条1項、相続税法基本通達27-4)、いつが起算日になるかは事実関係によって確認が必要です。

    また、遺産分割で「何も取得しない」ことと、家庭裁判所での相続放棄は、法律上の効果が異なります。分割協議で取得しないことにしただけでは相続人の地位は残り、被相続人の債権者は、各相続人に対して法定相続分に応じて権利を行使できるとされています(民法902条の2)。借入金を引き継ぎたくないという目的であれば、家庭裁判所での手続が必要かを早めに確認します。

    相続人が全員放棄した場合に財産がどうなるかは、関連記事「相続人がいない場合、財産はどうなるか」で解説しています。また、著作権や印税収入のように放棄の判断が難しい財産については、関連記事「著作権・印税収入がある人の相続と相続放棄」で取り上げています。

    AEGISの視点

    相続放棄は、借入金などの負債から家族を守るための大切な選択肢です。ただ、「放棄すれば相続とは関係なくなる」と考えて手続を進めると、生命保険金に非課税枠が使えない、後順位の親族に相続権が移って2割加算がかかる、といった影響に後から気づくことがあります。

    AEGISは、相続放棄を一人の判断ではなく、家族全体の相続税と財産の流れを変える選択だと考えています。誰かが放棄すれば、相続人の構成、各人の税額、不動産や会社の株式の行き先、さらに次の相続の形まで変わります。放棄を検討するときは、放棄した場合としなかった場合の両方で、家族全体の手取りと負担を比べることが判断の出発点になります。

    そもそも放棄を検討せざるを得ない状況をつくらないために、生前に財産と負債の全体像を整理し、遺言や民事信託(いわゆる家族信託)で引き継ぎ方を決めておくことも有効です。資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でも考え方を紹介しています。

    相続対策と事業承継の全体像は、親記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で整理しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされますが、相続税の基礎控除や相続税の総額の計算では、放棄がなかったものとした相続人の数・相続分を使います。
    • 放棄した人が受け取る死亡保険金・死亡退職金は遺贈により取得したものとみなされ、非課税枠は使えません。
    • 放棄した人は債務控除と相次相続控除を使えません。ただし、現実に負担した葬式費用は差し引くことが認められています。
    • 放棄によって兄弟姉妹が相続人になると、その人が取得した財産には2割加算がかかります。
    • 配偶者の税額軽減は、放棄した配偶者でも遺贈などで取得した財産があれば適用されます。具体的な税額は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続人の一人が放棄すると、基礎控除は減りますか?

    減りません。基礎控除の計算に使う法定相続人の数は、相続の放棄があっても、その放棄がなかったものとした場合の人数で数えます(相続税法15条2項)。

    Q. 相続放棄をしても、生命保険金は受け取れますか?税金はどうなりますか?

    受け取れます。ただし相続税の計算では遺贈により取得したものとみなされ、相続人ではないため、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えません。受け取った保険金の全額が課税対象になります。

    Q. 子が全員放棄して、私(被相続人の兄)が相続人になりました。何か注意点はありますか?

    兄弟姉妹が財産を取得すると、相続税額の2割加算の対象になります。また、申告期限の起算日、取得する財産に小規模宅地等の特例を使えるかなど、新たに相続人になった立場で確認することがあります。

    Q. 配偶者が相続を放棄すると、配偶者の税額軽減は使えなくなりますか?

    配偶者が相続を放棄しても、遺贈により取得した財産(死亡保険金など)があれば、配偶者の税額軽減の規定は適用されます(相続税法基本通達19の2-3)。

    Q. 遺産分割で何も受け取らないことにすれば、相続放棄と同じですか?

    同じではありません。分割協議で取得しないことにしても相続人の地位は残り、被相続人の債権者は法定相続分に応じて権利を行使できるとされています。負債を引き継がないことが目的であれば、家庭裁判所での相続放棄の手続が必要かを確認します。

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    • 家族信託と遺言:家族信託と遺言を活用し、資産管理と承継の体制を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『第10版 Q&A事業承継をめぐる非上場株式の評価と相続対策』デロイトトーマツ税理士法人 編、清文社、P.4、P.9、P.11
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.74、P.111、P.114
  • 税制改正は自分の承継計画に関係するか|改正情報を「自分ごと」として点検する考え方

    税制改正は自分の承継計画に関係するか|改正情報を「自分ごと」として点検する考え方

    毎年12月頃になると「税制改正大綱」のニュースが流れ、相続税や贈与税、事業承継税制に関する見出しも目にします。しかし、その改正が自社や家族の承継計画にどのような影響を与えるのかは、ニュースを読むだけではなかなか判断できません。

    結論から言えば、税制改正は「何が変わったか」よりも「自分の計画のどの前提に触れるか」で読むことが大切です。承継計画は、財産の評価額、制度の期限、税額の計算方法、手続の段取りといった、いくつもの前提の上に組み立てられています。改正がそのどれに触れるのかを仕分けできれば、「関係がある改正」と「当面は関係が薄い改正」を落ち着いて見分けられるようになります。

    この記事では、税制改正を自分ごととして点検するための考え方と手順を、令和8年度税制改正の大綱に盛り込まれた資産課税の項目を具体例として解説します。

    税制改正はどのように決まり、いつ効力を持つのか

    まず押さえておきたいのは、ニュースで報じられる「大綱」の段階では、まだ改正は確定していないということです。税制改正は、おおむね次のような段階を経て効力を持ちます。

    段階主な内容令和8年度改正の例
    税制改正の大綱政府として改正の方針と内容を決定令和7年12月26日 閣議決定
    法律案の提出・成立国会で審議され、成立・公布される所得税法等の一部を改正する法律案:令和8年2月20日提出、3月31日成立・公布(令和8年法律第12号)
    政令・省令法律の細目(要件や手続など)を定める財務省が順次公表
    通達・FAQ等国税庁が法令の解釈や取扱いを示す財産評価基本通達の改正など

    ※上表の日付は財務省ウェブサイトの掲載情報によります。

    相続税・贈与税で特に注意したいのが、財産の評価です。相続税法は、相続等で取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めていますが、具体的な評価方法の多くは国税庁の「財産評価基本通達」に委ねられています。そのため、評価に関するルールは、法律の改正だけでなく、通達の改正によっても変わります。改正情報を追うときは、「法律で決まるもの」と「通達で決まるもの」があることを意識しておくと、情報の確度を判断しやすくなります。

    改正が承継計画に影響する4つの経路

    AEGISでは、税制改正が承継計画に影響する経路を、次の4つに分けて考えています。

    経路何が変わるか承継計画への影響の例
    1. 期限制度の適用期限、計画や届出の提出期限「いつまでに何をするか」という時間軸が変わる
    2. 評価財産の評価方法・評価額同じ財産を持っていても、税額の見込みが変わる
    3. 計算加算期間、控除額、税率などの計算の仕組み贈与と相続の使い分けの前提が変わる
    4. 手続申告・届出・書類の要件準備すべき資料や段取りが変わる

    改正のニュースを見たら、まず「これは4つのうちどれに当たるか」を考えてみてください。それだけで、確認すべきことが具体的になります。

    さらに忘れてはならないのは、税制改正は税金以外の判断にも波及することです。たとえば評価方法が変われば、不動産を個人で持つか法人で持つか、どの財産を誰に渡すかといった所有と分配の設計にも影響することがあります。税額の増減だけを見て終わりにしないことが重要です。

    具体例:令和8年度税制改正の大綱に盛り込まれた資産課税の項目

    ここでは、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)のうち、資産・事業の承継に関係しやすい項目を、上の4つの経路で整理します。

    項目大綱の内容(要旨)経路
    非上場株式等の納税猶予の特例(法人版事業承継税制の特例措置)特例承継計画の提出期限を1年6月延長期限
    個人の事業用資産の納税猶予(個人版事業承継税制)個人事業承継計画の提出期限を2年6月延長期限
    教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置令和8年3月31日までとされている信託等可能期間を延長せずに終了(同日までに拠出された金銭等には引き続き適用)期限・計算
    相続税等の財産評価の適正化被相続人等が課税時期前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産などについて、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価(令和9年1月1日以後の相続等から)評価

    ※上表は大綱の記載を要約したものです。正確な要件・適用関係は原文と、その後の法令・通達でご確認ください。

    期限が変わる改正:事業承継税制

    法人版事業承継税制の特例措置について、中小企業庁は特例承継計画の提出期限を令和9年(2027年)9月30日としています。大綱の「1年6月延長」と整合する期限です。期限が延びたことで、検討の時間は確保されました。一方で、期限が延びても制度の要件や適用後の継続要件が軽くなったわけではありません。「時間ができたので後回しにする」のではなく、「時間ができたので方針を固める」と受け止めるのが望ましいでしょう。

    評価が変わる改正:貸付用不動産

    大綱では、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、評価を見直す方針が示されました。これを受けて国税庁が公表した通達案「貸付用不動産の評価について」では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築された貸付用不動産(貸家とその敷地)は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価するとされています。取得価額がその取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は「取得価額×地価変動率」、建物は「取得価額-償却費」の100分の80で評価することもできます。また、不動産特定共同事業契約や分割された信託受益権などの「特定小口化商品」の目的となっている貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず同様に評価するとされています。

    この見直しは、令和9年1月1日以後の相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価に適用するとされています。通達案には、収用や一定の買換えなどで取得したものを対象外とする定めや、通達制定日までに以前から持っている土地に新築した建物(建築中を含む)を対象外とする経過措置も設けられています。2026年10月9日時点では意見公募中で最終通達は出ておらず、経過措置の基準となる通達制定日もまだ決まっていません(AEGISは、意見公募の締切(2026年10月18日)を踏まえ、10月下旬から11月上旬になる可能性が高いとみています)。賃貸不動産を保有している、または取得を検討しているオーナーにとっては、「評価」の経路で計画の前提に直接触れる改正といえます。不動産に関する点検の詳細は、関連記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で解説しています。

    過去の改正が「今」効いてくることもある

    改正の影響は、公表された年だけに表れるわけではありません。たとえば、令和5年度の改正により、相続開始前に受けた暦年課税の贈与を相続財産に加算する期間は、3年から7年へと段階的に延びています。国税庁によれば、令和9年1月1日以後の相続から加算対象期間が延び始め、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内が対象になります。また、令和6年1月1日以後の贈与からは、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が設けられています。

    数年前に決まった改正が、これからの贈与や相続のタイミングに影響することもあります。承継計画を見直すときは、「今年の改正」だけでなく「経過措置の途中にある改正」も確認対象に含めておく必要があります。

    改正を「自分ごと」として点検する5つのステップ

    では、実際に改正情報に接したとき、何から確認すればよいでしょうか。AEGISでは次の順番をおすすめしています。

    1. 自分の前提を書き出しておく:保有財産の一覧(種類・取得時期・所有者)、承継計画の時間軸、検討中の制度や対策を、普段から一枚にまとめておきます。前提が見えていないと、改正との照合ができません。
    2. 改正を4つの経路で仕分ける:期限・評価・計算・手続のどれに当たるかを判断し、自分の前提のどこに触れるかを確認します。
    3. 対象と適用時期を確認する:「誰の、どの財産・取引が対象か」「いつ以後の相続・贈与から適用されるか」「経過措置はあるか」を、一次情報で確認します。
    4. 税額だけでなく方針への影響を考える:影響が出る場合、税額の増減だけでなく、所有の形、分配のバランス、納税資金、事業の継続性に波及しないかを検討します。
    5. 確定した内容で計画を更新する:大綱の段階では内容が変わる可能性もあります。法令や通達で確定した内容を確認したうえで、計画を更新します。

    改正情報の具体的な追い方や、専門家に相談するタイミングについては、関連記事「制度改正の情報をどう追い、いつ相談するか」で詳しく解説しています。

    実務上注意したいポイント

    大綱は「方針」であり、確定ではない

    大綱は政府の方針を示すもので、細かな要件は法律・政令・省令・通達で定まります。大綱の要約記事だけを根拠に、急いで売買や贈与を実行するのは避けたほうが安全です。

    情報源の「基準日」を確認する

    書籍や解説記事には、それぞれ前提とする法令の時点があります。たとえば、令和7年12月時点の法令に基づいて作られた実務書では、特例承継計画の提出期限が改正前の日付で記載され、大綱で延長が示された旨が注記として添えられている例もあります。古い情報が誤っているのではなく、基準日が違うのです。国税庁のタックスアンサーにも「令和8年4月1日現在法令等」のように基準日が示されています。

    「駆け込み」を目的にしない

    適用開始日が示されると、その前に対策を済ませようとする動きが出がちです。しかし、評価の見直しの背景には、評価額と実際の価値との乖離への問題意識があります。改正の趣旨を踏まえずに取引を急ぐと、税務上だけでなく、資産の収益性や流動性の面でも無理が生じることがあります。

    AEGISの視点

    税制改正の情報に接したとき、多くの方は「得をするか、損をするか」を最初に考えます。しかしAEGISは、税制改正を「自分たちの承継計画の前提を点検する、年に一度の機会」と捉えています。

    承継計画は、作った瞬間から少しずつ前提がずれていきます。財産の評価は毎年変わり、家族の状況も変わり、制度も改正されます。改正のニュースは、そのずれに気づくきっかけとして使うのが最も有益です。期限が延びた、評価が変わった、という事実そのものより、「それによって自分たちの計画のどこを見直す必要があるか」を考えることに価値があります。

    そのためにも、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として把握しておくことが欠かせません。全体像が手元にあれば、改正が一つ発表されても、慌てずに「関係がある部分」だけを確認できます。税金は方針を実現するための手段の一つであり、改正によって方針そのものを揺るがせる必要はない——その前提に立つことが、改正に振り回されない承継設計の土台になると考えています。

    事業承継をどこから始めるかは関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で、会社と個人の財産を一体で考える視点は「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

    承継や資産税務、不動産評価に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 税制改正は「何が変わったか」より「自分の計画のどの前提に触れるか」で読むことが大切です。
    • 改正が承継計画に影響する経路は、期限・評価・計算・手続の4つに整理できます。
    • 令和8年度税制改正の大綱では、事業承継税制の計画提出期限の延長、教育資金の一括贈与の非課税措置の終了、貸付用不動産の評価の見直しなどが示されました。
    • 過去の改正の経過措置が、これからの贈与や相続に影響することもあります。
    • 大綱は確定ではありません。法令・通達で確定した内容を一次情報で確認してから計画を更新します。

    具体的な影響の有無や対応は、財産の内容や家族の状況など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 税制改正大綱が出たら、すぐに対策を始めるべきですか?

    まずは影響の有無を確認する段階です。大綱は政府の方針であり、細かな要件は法律や政令・省令、通達で定まります。影響がありそうな項目について適用時期と対象を確認し、確定した内容を踏まえて計画を見直すのが基本的な順番です。期限が近い制度については、確定を待ちながら準備を並行して進めることもあります。

    Q. 相続税の評価方法は、法律で決まっているのですか?

    相続税法は、財産の価額を取得の時の時価によると定めていますが、具体的な評価方法の多くは国税庁の財産評価基本通達で定められています。そのため、評価のルールは通達の改正によって変わることがあります。令和8年度大綱で示された貸付用不動産の評価の見直しも、国税庁が通達案を公表し、通達で定める形で進められています。

    Q. 事業承継税制の期限が延びたなら、急いで検討しなくてもよいですか?

    期限が延びたことで検討の時間は確保されましたが、制度を使うかどうかの判断や、後継者・株式・財産の設計には時間がかかります。中小企業庁によれば、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日です。期限から逆算し、方針の整理を早めに進めておくことが望まれます。

    Q. 自分に関係する改正かどうか、どうすれば分かりますか?

    保有財産の一覧や承継計画など、自分の「前提」を書き出しておくことが出発点です。そのうえで、改正が期限・評価・計算・手続のどれに当たり、自分の前提のどこに触れるかを照らし合わせます。前提が整理されていれば、関係する改正を絞り込みやすくなります。

    Q. 過去の改正も確認する必要がありますか?

    あります。生前贈与の加算期間の延長のように、経過措置によって段階的に影響が表れる改正があるためです。承継計画を見直すときは、その年の改正だけでなく、経過措置の途中にある改正も確認対象に含めることをおすすめします。

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    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 税務顧問と経営管理:税務申告・会計・納税予測・資金繰りをつなぎ、継続的な経営管理を支援します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 災害で被害を受けた土地と相続税|特定非常災害の評価の特例・申告期限の延長・災害減免法をどう使い分けるか

    災害で被害を受けた土地と相続税|特定非常災害の評価の特例・申告期限の延長・災害減免法をどう使い分けるか

    地震や水害などで相続した土地や建物が被害を受けた場合、相続税には被害を評価や税額に反映させるための仕組みが用意されています。主なものは次の3つです。

    • 特定非常災害の評価の特例:大規模な災害として指定された災害の場合に、土地などを「災害の発生直後の価額」で評価できる
    • 申告期限の延長:災害で申告ができない場合に期限が延びる。特定非常災害では申告期限そのものが後ろにずれる特例もある
    • 災害減免法による軽減・免除:財産が一定以上の被害を受けた場合に、課税価格から被害額を差し引く、または税額を免除する

    どの制度が使えるかは、「相続と災害のどちらが先か」と「災害が申告期限の前か後か」という2つの時点でほぼ決まります。この記事では、時点ごとに使える制度を整理し、申告後に被災した場合の見直しまでを解説します。

    前提:相続税は「相続開始時の時価」で計算する

    相続税の財産評価は、原則として相続開始の時の時価によります。相続開始から申告期限までの約10か月の間に地価が下がっても、原則として評価は変わりません。この原則の例外として、災害については特別な手当てが設けられています。

    ここで押さえておきたいのは、災害による損失には2つの種類があることです。

    • 物理的な損失:地割れや液状化による陥没、建物の倒壊・流失など、財産そのものが傷んだことによる損失
    • 経済的な損失:周辺の道路やライフラインの被害、街並みの損壊などによって、土地の価格そのものが下がる損失

    災害減免法は主に前者を、特定非常災害の評価の特例は主に後者を手当てする仕組みと整理すると、全体が理解しやすくなります。

    時点別に見る、使える制度

    相続と災害の関係主に検討する制度申告・手続のポイント
    相続 → 災害(申告期限前)特定非常災害の評価の特例(指定された災害の場合)、災害減免法6条申告書に特例を受ける旨や被害の状況を記載。期限延長の対象になることが多い
    相続 → 災害(申告期限後)災害減免法4条(税額の免除)災害のやんだ日から2か月以内に免除承認申請書を提出
    災害 → 相続(同じ年の年末まで)特定非常災害発生日以後に取得した財産の評価(通達)指定された災害で、特定地域内の土地等が対象
    災害 → 相続(翌年以降)通常の評価(その年の路線価等に被害が反映)物理的な損失の有無を個別に確認

    ※AEGISが制度の関係を整理したものです。各制度の要件は以下で確認してください。

    特定非常災害の評価の特例

    どのような災害が対象か

    「特定非常災害」とは、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の規定により、特定非常災害として指定された非常災害です。すべての災害が対象になるわけではなく、大規模な災害について個別に指定されます。指定の状況は内閣府のホームページで公表されています(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

    相続の後に災害が起きた場合(租税特別措置法69条の6)

    特定非常災害の発生日より前に相続や遺贈で財産を取得し、相続税の申告期限が発生日以後である場合、特定地域内にある土地や借地権など(特定土地等)で、発生日に所有していたものは、相続開始時の時価ではなく「特定非常災害の発生直後の価額」で評価することができます(租税特別措置法69条の6)。

    「特定地域」とは、その災害で被災者生活再建支援法の適用を受ける地域(適用がない場合は財務大臣が指定する地域)をいいます。発生直後の価額は、国税局長が地域ごとに「調整率」を定めている場合、その年の路線価や評価倍率に調整率を掛けて計算できます。

    非上場株式でも、特定地域内にあった不動産などの資産が保有資産の10分の3以上を占める会社の株式(特定株式等)は、同様に発生直後の価額で評価できます。

    この特例は、申告書(期限後申告書・修正申告書を含む)や更正の請求書に適用を受ける旨を記載した場合に限り適用されます(同条3項)。

    災害の後に相続が起きた場合

    特定非常災害の発生日以後、その年の12月31日までに相続などで取得した特定地域内の土地等は、発生直後の価額に準じて評価することができます。地割れなどで土地の形状が変わった場合には、さらに原状回復費用に相当する額を差し引いて評価できます(国税庁「特定非常災害発生日以後に相続等により取得した財産の評価について」)。

    その年の路線価は1月1日時点の価格をもとに定められているため、年の途中で起きた災害の影響が反映されていません。この取扱いは、そのずれを埋めるためのものです。

    被災した家屋の評価

    被災した家屋で、被災後の現況に応じた固定資産税評価額がまだ付けられていないものは、災害直前の家屋の評価額から、条例に基づいて適用された固定資産税の軽減・免除の割合に相当する額を差し引いて評価することができます。被災後に修理をした場合は、その費用の一定割合を加えます(同通達)。

    申告期限の延長

    災害による期限の延長(国税通則法11条)

    災害などやむを得ない理由で期限までに申告や納付ができないときは、その理由がやんだ日から2か月以内に限り、期限が延長されます(国税通則法11条)。延長の方法には、国税庁長官が地域と期日を指定する地域指定と、税務署長への申請による個別指定などがあります(国税庁 タックスアンサーNo.8001)。

    地域指定は納税地で判断されるため、被災地に不動産を持っていても、相続人の納税地が指定地域の外にある場合は自動的には延長されません。その場合は個別指定の申請を検討します。

    特定非常災害の場合の申告期限の特例(租税特別措置法69条の8)

    同じ被相続人から財産を取得した人のうち一人でも69条の6の評価の特例を受けられる人がいる場合、相続税の申告期限が「特定日」より前であれば、申告期限は特定日まで延びます。特定日とは、その災害による国税通則法11条の延長後の期限と、特定非常災害発生日の翌日から10か月を経過する日の、いずれか遅い日です(租税特別措置法69条の8)。

    災害直後は、土地の状況の把握や調整率の公表を待つ必要があり、通常の申告期限では評価が難しいことへの手当てと考えられます。

    災害減免法による軽減・免除

    災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(災害減免法)は、特定非常災害に限らず、災害一般に適用される制度です。

    対象となる被害の程度

    次のいずれかに該当する場合に適用されます(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

    • 課税価格の計算の基礎となった財産の価額(債務控除後)のうち、被害を受けた部分の価額(保険金や損害賠償金で補てんされた額を除く)の割合が10分の1以上
    • 動産等(動産・建物などの不動産〔土地等を除く〕・立木)の価額のうち、被害を受けた部分の割合が10分の1以上

    土地の地価下落そのものは、ここでいう被害には含まれにくい点に注意が必要です。土地については、地割れなど物理的な損失があった場合の原状回復費用の見積額が、被害額として扱われる考え方がとられています。

    申告期限の前に被災した場合(災害減免法6条)

    財産の価額から、被害を受けた部分の価額を差し引いて課税価格を計算します。申告書に、被害の状況や被害額を記載した計算明細書を添付して提出します。

    申告期限の後に被災した場合(災害減免法4条)

    すでに税額は確定していますが、災害のあった日以後に納付すべき相続税のうち、被害を受けた部分に対応する税額が免除されます。延滞税などの附帯税や、災害の時点ですでに滞納していた税額は対象外です。免除を受けるには、災害のやんだ日から2か月以内に、免除承認申請書を所轄の税務署長に提出します。

    延納中の相続税がある場合も、災害のあった日以後に納付すべき部分は免除の対象になり得ます。期限が短いため、被災後は早めに確認することが大切です。

    申告後に被災した場合の見直し

    すでに申告を終えていても、次のような場合は見直しの余地があります。

    • 申告期限前に申告書を提出し、その後・申告期限前に被災した:特定非常災害の評価の特例は、更正の請求書に記載して適用を受けることもできます(租税特別措置法69条の6第3項)。災害減免法6条の適用も含め、更正の請求による見直しを検討します。
    • 申告期限後に被災した:災害減免法4条の免除承認申請(2か月以内)が中心です。
    • 相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が被災した:令和6年1月1日以後の災害で一定の要件を満たす場合、相続税の課税価格に加算する価額から被害額を差し引ける措置があり、原則として災害発生日から3年を経過する日までに承認申請が必要です(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

    なお、相続した財産が災害で損害を受けた場合、所得税の雑損控除の対象になることもあります(国税庁 タックスアンサーNo.1110)。相続税と所得税の両面から確認しておきたいところです。

    申告後に財産の価値が下がった場合の考え方全般は、関連記事「申告後に相続財産の価値が下がったときにできること」で、更正の請求の期限と手続は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    AEGISの視点

    災害時の相続税の特例は、手続の期限が短く、要件も時点によって細かく分かれています。しかし、AEGISは、被災した不動産の相続で本当に大切なのは「評価をいくら下げられるか」より先に、「その不動産をこれからどうするか」だと考えています。

    被災した土地は、再建する、売却する、当面は更地として管理する、といった選択を迫られます。その判断には、保険金の受取り、建物の解体や修繕の費用、借入金の返済、相続税の納税資金と延納の可否、さらに相続人の生活の拠点がどこにあるかが関わります。評価の特例は、その判断を支える前提条件の一つにすぎません。

    また、被災直後に何より役立つのは記録です。被害の写真、自治体などが発行する被害の証明書類、修繕の見積書、保険の支払通知を、早い段階から整理しておくこと。これが、評価の特例・災害減免法・所得税の雑損控除のいずれにも共通する土台になります。

    制度変更や特例が保有不動産と承継計画のどこに影響するかを点検する考え方は、親記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で整理しています。相続税申告の土地評価全般の見直しは「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」も参考にしてください。資産税務や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 災害時の相続税の扱いは、「相続と災害のどちらが先か」「災害が申告期限の前か後か」で使える制度が変わります。
    • 特定非常災害に指定された災害では、特定地域内の土地等を「発生直後の価額」(路線価等×調整率)で評価できる特例があります。
    • 特定非常災害では、申告期限が「発生日の翌日から10か月を経過する日」などまで延びる特例もあります。
    • 災害減免法は災害一般が対象で、被害割合が10分の1以上の場合に、申告期限前なら課税価格から被害額を差し引き、申告期限後なら税額が免除されます(申請は2か月以内)。
    • 申告後でも、更正の請求や免除の申請で見直せる場合があります。具体的な適用は、被害の内容と時点によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続した土地が水害に遭いました。どの災害でも評価の特例は使えますか?

    「発生直後の価額」で評価する特例は、特定非常災害として指定された災害に限られます。指定されていない災害でも、災害減免法による軽減・免除は、被害の割合などの要件を満たせば利用できます。まずは、その災害が特定非常災害に指定されているかを確認しましょう。

    Q. 被災して申告の準備ができません。申告期限はどうなりますか?

    災害で申告ができない場合は、国税通則法に基づき、地域指定または個別の申請によって期限が延長されます。特定非常災害で評価の特例を受けられる人がいる相続では、申告期限が「発生日の翌日から10か月を経過する日」などまで延びる特例もあります。ご自身の納税地が地域指定の対象かどうかを確認してください。

    Q. 土地の価格が下がっただけでも、災害減免法は使えますか?

    災害減免法は、財産そのものが受けた被害を対象とする制度です。土地については、地割れなど形状が変わったことによる物理的な損失が中心で、周辺の被害による地価の下落は、特定非常災害の評価の特例で手当てされる性質のものと整理されています。

    Q. 相続税を納め終わった後に被災しました。還付はありますか?

    災害減免法4条の免除は、災害のあった日以後に納付すべき税額が対象です。すでに納付を終えた税額は、原則として免除の対象になりません。延納中の場合は、残りの納付分が免除の対象になり得ますので、災害のやんだ日から2か月以内に申請を検討してください。

    Q. 被災した家屋は、どのように評価しますか?

    被災後の固定資産税評価額がまだ付けられていない場合、特定非常災害では、災害直前の評価額から固定資産税の軽減・免除の割合に相当する額を差し引いて評価する方法が示されています。全壊・流失などで価値がない場合も含め、被害の状況を示す資料を残しておくことが重要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野 徹 編、大蔵財務協会、2024年、P.487-510
    • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、2013年、P.26-33
    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」要点 譲渡所得【第一編】』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.410-411
  • 小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか|貸付事業用と特定同族会社事業用を分ける「地代・会社の事業・役員」

    小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか|貸付事業用と特定同族会社事業用を分ける「地代・会社の事業・役員」

    オーナー個人が土地を持ち、その上の建物を資産管理会社が持つ。あるいは、個人が建物ごと会社に貸し、会社が入居者に転貸する。資産管理会社を使う不動産オーナーには、こうした「個人と会社が一つの土地にまたがる形」がよく見られます。

    結論から言うと、この場合の小規模宅地等の特例は、①会社から相当の対価(地代・家賃)を受け取っているか、②会社がその土地で何の事業をしているか、③土地を取得した親族が申告期限まで役員であり、土地を持ち続けるか、の3点で区分が決まります。結果は大きく、「特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで80%減額)」「貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)」「特例の対象外」の3つに分かれます。

    この記事では、資産管理会社が関わる土地について、どの順番で区分を判定すればよいかを整理します。

    小規模宅地等の特例の区分をおさらいする

    小規模宅地等の特例は、亡くなった方(被相続人)やその方と生計を一にしていた親族(あわせて「被相続人等」)の事業や居住に使われていた宅地等について、一定の面積まで相続税の課税価格を減額する制度です(租税特別措置法第69条の4)。国税庁によれば、区分ごとの限度面積と減額割合は次のとおりです。

    区分限度面積減額割合
    特定事業用宅地等400㎡80%
    特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
    特定居住用宅地等330㎡80%
    貸付事業用宅地等200㎡50%

    資産管理会社が関わる場面で問題になるのは、主に特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等です。どちらになるかで、減額割合が80%か50%か、限度面積が400㎡か200㎡かが変わります。

    なお、特例を使えるのは個人が相続などで取得した宅地等です。会社が所有している土地は会社の財産であり、相続で引き継がれるのは会社の株式ですから、この特例の対象にはなりません。会社所有の土地は、株式の評価を通じて相続税に反映されます。

    取得する相続人ごとの要件(配偶者・同居親族など)や、複数の土地をどう選ぶかについては、関連記事「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で解説しています。

    判定の第1関門:会社から「相当の対価」を受け取っているか

    最初に確認したいのは、個人と会社の間で、地代や家賃が相当の対価として支払われているかどうかです。

    特例でいう「貸付事業」や、特定同族会社事業用宅地等の前提となる「被相続人等の事業」は、不動産の貸付けが相当の対価により継続的に行われていることが前提とされています。国税庁の措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度で、相当の対価に至らない金額しか受け取っていない場合は「無償」と同じに扱うとされています。

    つまり、次のような場合は、どの区分にも当たらず特例の対象外になる可能性が高いといえます。

    • 会社が個人の土地に建物を建て、地代を払っていない(使用貸借)
    • 地代は払っているが、土地の固定資産税程度にとどまっている

    資産管理会社を設立したとき、「家族の会社だから地代は少なくてよい」と考えて低い地代のまま何年も経っているケースは珍しくありません。地代の水準は、借地権の課税(会社への受贈益の認定など)や土地の相続税評価にも関わります。土地の無償返還に関する届出や相当の地代の考え方は、関連記事「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で整理しています。

    判定の第2関門:会社はその土地で何の事業をしているか

    相当の対価を受け取っている場合、次に確認するのは会社の事業の内容です。

    会社が貸付以外の事業に使っている場合

    国税庁によれば、特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前から申告期限まで、一定の法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業を除く)に使われていた宅地等をいいます。

    ここでいう「一定の法人」とは、相続開始の直前に、被相続人とその親族等が発行済株式の総数(または出資の総額)の50%超を持っている法人です(申告期限に清算中の法人を除く。租税特別措置法69条の4第3項3号、同法施行令40条の2)。

    具体的には、次の2つの形が対象になります(措置法通達69の4-23)。

    • 被相続人が、土地をその法人に相当の対価で貸していた(法人が建物を所有)
    • 被相続人(または生計を一にする親族)が所有する建物を、その法人に相当の対価で貸していた場合の、その建物の敷地(生計を一にする親族が所有する建物の場合は、その親族が敷地を被相続人から無償で借りていたときに限ります)

    資産管理会社と同じ株主構成の事業会社(たとえば、店舗や工場、事務所として使う会社)が使っている土地は、この区分に当たる可能性があります。また、法人の社宅の敷地は、親族だけが使っている場合を除き、法人の事業そのものに使われているものとして扱われます(同69の4-24)。

    会社が不動産賃貸をしている場合

    一方、典型的な資産管理会社のように、会社が建物を第三者に賃貸している場合は、会社の事業が「不動産貸付業」なので、特定同族会社事業用宅地等には当たりません。

    ただし、それで特例が使えなくなるわけではありません。国税庁は、貸付事業用宅地等の中に「一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等」という区分を示しています。個人が会社に相当の対価で土地を貸し、会社がその上の建物で賃貸をしている形は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

    また、個人が土地と建物の両方を持ち、建物を一括して会社に貸して、会社が入居者に転貸する形(いわゆるサブリース型)では、個人自身が会社に建物を貸していることになるため、その敷地は個人の貸付事業用の宅地等として判定されます。

    判定のまとめ

    ここまでを、資産管理会社でよく見られる形ごとに整理すると、次のようになります。

    所有の形会社の使い方地代・家賃主に検討する区分
    土地:個人/建物:会社会社が第三者へ賃貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用)
    土地:個人/建物:会社会社が自ら事業に使用(店舗・事務所など)相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等(法人・役員・保有の要件あり)
    土地・建物:個人建物を会社に一括賃貸し、会社が転貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(個人の貸付事業)
    土地・建物:個人建物を同族会社が自ら事業に使用相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等
    土地:個人/建物:会社問わない無償・固定資産税程度原則として特例の対象外
    土地・建物:会社——特例の対象外(株式の評価に反映)

    ※AEGISが判定の考え方を整理したものです。実際の区分は、契約内容、利用の実態、相続人の状況などによって異なります。

    一つの建物を会社が「自社の店舗」と「第三者への賃貸」の両方に使っている場合は、床面積の割合などで、特定同族会社事業用の部分と貸付事業用の部分に分けて判定することになります。

    判定の第3関門:申告期限まで「役員」と「保有」を続けられるか

    特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかは、相続が起きた時点の状況だけでは決まりません。国税庁によれば、土地を取得した親族について次の要件があります。

    • 法人役員要件:相続税の申告期限において、その法人の役員(清算人を除く)であること
    • 保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで持ち続けていること

    あわせて、その土地が申告期限まで引き続き法人の事業に使われていることも必要です。

    措置法通達の解説では、同じ土地を兄弟2人が2分の1ずつ相続し、申告期限に一方だけが法人の役員だった事例が示されています。役員である相続人の持分は特定同族会社事業用宅地等として、役員でない相続人の持分は貸付事業用宅地等として、それぞれ選択の候補になる、という整理です。誰が土地を取得し、誰が役員になっているかで、同じ土地でも減額割合が変わるということです。

    相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。相続人が会社の役員でない場合、この期間内に株主総会で役員に選任されているかどうかが問題になります。役員の選任や任期などの会社の手続きは、関連記事「資産管理会社の定款で決めておきたいこと」で取り上げています。

    貸付事業用宅地等についても、取得した親族が申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで貸付事業を行い、土地を持ち続けることが要件です。

    注意したい「3年以内の貸付け」と面積の調整

    会社に貸し始めて3年以内の土地

    貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象から除くというルールがあります。ただし国税庁によれば、相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」(貸付事業のうち、準事業以外のもの)を行っていた被相続人等の、その特定貸付事業に使われた宅地等は、この除外の対象になりません。

    措置法通達69の4-24の4では、特定貸付事業に当たるかどうかは、社会通念上「事業」と称するに至る程度の規模で貸付けが行われていたかどうかで判定するとされ、建物の貸付けについては所得税基本通達26-9の取扱い(貸間・アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上であれば、特に反証がない限り事業として行われているものとする)があることが示されています。

    資産管理会社を設立して、個人の土地を新たに会社へ貸し始めた直後に相続が起きた場合などは、この3年ルールに当たらないかを確認する必要があります。個人の不動産を会社に移す前に何を比べるべきかは、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

    貸付事業用宅地等を選ぶと面積の調整が必要になる

    複数の宅地等に特例を使う場合、貸付事業用宅地等を一つでも選ぶと、限度面積の調整が必要です。国税庁が示す算式は次のとおりです。

    (特定事業用+特定同族会社事業用の面積)×200/400+(特定居住用の面積)×200/330+(貸付事業用の面積)≦200㎡

    自宅の敷地と、会社に貸している土地の両方がある場合、どちらを優先して選ぶかで減額の総額が変わります。区分の判定は、こうした選択の前提になります。

    実務上注意したいポイント

    • 地代・家賃の契約を書面で残す:相当の対価であることを説明できるよう、契約書、金額の決め方、改定の記録を整えておきます。
    • 会社の事業内容を確認する:同じ会社が「自社利用」と「賃貸」を兼ねている場合、どの部分が何に使われているかを図面などで把握しておきます。
    • 株主構成の50%超を確認する:特定同族会社事業用宅地等は、相続開始直前の持株割合で判定されます。株式の移転や増資の計画と合わせて確認します。
    • 後継者の役員就任を準備する:申告期限での役員要件を満たすには、相続人が役員に就任していることが必要です。遺言や事業承継の計画の中で、誰が土地を取得し、誰が役員になるかを揃えておきます。
    • 申告期限までに売却しない:保有継続要件があるため、納税資金のために土地を売る計画がある場合は、特例との関係を先に確認します。
    • 申告の手続を忘れない:特例を使うには、申告書への記載と計算明細書・遺産分割協議書の写しなどの添付が必要です。申告期限までに遺産が分割されていない場合には特例を適用せずに申告し、原則として申告期限から3年以内に分割されたときに、修正申告や更正の請求で特例を適用できる取扱いになっています(国税庁 No.4208)。

    AEGISの視点

    資産管理会社の設計では、どうしても「所得をどう分けるか」「株式の評価がどうなるか」に目が向きがちです。しかし、個人に残した土地の小規模宅地等の特例は、会社との契約の形、会社の事業、相続人の役割という、ふだんは別々に決めている要素の組み合わせで結果が変わります。

    AEGISは、この特例を「相続の直前に当てはめるもの」ではなく、資産管理会社を設計する段階で、土地・建物・会社・相続人の関係を一枚に描いておくための確認項目だと考えています。地代を見直すと会社の収支が変わり、役員を誰にするかは会社の経営体制そのものの問題になります。特例の有利・不利だけで決めるのではなく、会社が長く機能する形と両立しているかを確かめることが大切です。

    資産管理会社をいつ・何のために設立するか、全体像は「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。土地と事業会社を分けて持つ設計の意味は「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」もあわせてご覧ください。

    不動産と会社が絡む資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社が関わる土地の小規模宅地等の特例は、「相当の対価の有無」「会社の事業内容」「申告期限までの役員・保有」の3段階で区分が決まります。
    • 地代が無償や固定資産税程度の場合は、原則として特例の対象外です。
    • 会社が貸付以外の事業に使う土地は特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%)の候補、会社が賃貸に使う土地は貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の候補になります。
    • 特定同族会社事業用宅地等は、被相続人と親族等の持株割合50%超、取得者の申告期限での役員就任と保有継続が要件です。
    • 新たに会社へ貸し始めて3年以内の土地や、限度面積の調整にも注意が必要です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社が持っている土地にも、小規模宅地等の特例は使えますか?

    使えません。小規模宅地等の特例は、個人が相続や遺贈で取得した宅地等が対象です。会社が所有する土地は会社の財産であり、相続で引き継ぐのは会社の株式です。会社所有の土地は、株式の評価(純資産価額など)を通じて相続税に反映されます。

    Q. 資産管理会社に土地を貸していれば、特定同族会社事業用宅地等として80%減額になりますか?

    会社の事業によります。会社がその土地で不動産賃貸をしている場合は、特定同族会社事業用宅地等の対象となる事業から不動産貸付業が除かれているため、80%減額の区分には当たりません。この場合は、相当の対価を受け取っていれば貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

    Q. 地代を固定資産税と同じ額にしている場合はどうなりますか?

    措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度の金額は、相当の対価に至らないものとして無償と同様に扱うとされています。この場合、貸付事業にも同族会社の事業にも当たらず、特例の対象外となる可能性が高いといえます。地代の見直しは、会社の課税や土地の評価にも影響するため、あわせて検討します。

    Q. 土地を相続した子が会社の役員でない場合、特例は使えませんか?

    特定同族会社事業用宅地等の要件は、相続税の申告期限において役員であることです。相続の時点で役員でなくても、申告期限までに役員に就任していれば要件を満たす可能性があります。役員でない場合でも、会社に相当の対価で貸している土地であれば、貸付事業用宅地等の要件を満たすかを確認します。

    Q. 相続の1年前に、資産管理会社に土地を貸し始めました。特例は使えますか?

    貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を原則として除くルールがあります。ただし、被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、その事業に使われた宅地等は除外されません。特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかもあわせて、個別に確認が必要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.67-69、P.133-137、P.143-145、P.198-199
  • 海外在住の相続人がいる場合の準備|課税の範囲・手続書類・納税管理人を整理する

    海外在住の相続人がいる場合の準備|課税の範囲・手続書類・納税管理人を整理する

    子どもが海外で働いている、海外の大学を出てそのまま現地で暮らしている、配偶者の母国に家族で移り住んだ——家族の暮らし方が多様になるにつれ、相続人の中に海外在住の方がいるケースは珍しくなくなりました。

    結論から言えば、海外在住の相続人がいる場合、国内だけの相続と比べて①相続税の課税の範囲、②手続に使う書類、③申告・納税の段取りの3つが変わります。いずれも相続が起きてから調べ始めると時間が足りなくなりやすい論点です。この記事では、それぞれのポイントと、生前に整えておきたい準備を整理します。

    国内だけの相続と何が変わるのか

    まず、変わる点の全体像を確認しておきましょう。

    論点国内だけの相続海外在住の相続人がいる場合に加わる論点
    課税の範囲原則として国内外の財産すべて相続人の住所・国籍・過去の居住期間、被相続人の状況によって範囲が変わる
    債務・葬式費用の控除原則どおり控除相続人の区分によっては控除できる範囲が限られる
    遺産分割協議の書類印鑑証明書、住民票など署名証明(サイン証明)、在留証明など在外公館等の証明で代替
    申告・納税相続人が自ら申告・納付日本に住所等がない相続人は納税管理人を定めて届け出る
    所得税通常は被相続人の準確定申告のみ一定の場合、有価証券等の含み益に所得税がかかる(国外転出時課税)
    居住国の税制考慮不要相続人が住む国でも課税関係が生じることがある

    以下、順に見ていきます。

    論点1:相続税の課税の範囲はどう決まるか

    相続税の納税義務者は、相続人等の住所、日本国籍の有無、過去の日本での居住期間、そして被相続人の状況などによって区分され、区分ごとに課税される財産の範囲が異なります。国税庁の説明(令和8年4月1日現在法令等)に沿って、海外在住の相続人に関係する部分を整理すると次のとおりです。

    • 原則:相続のときに日本に住所がない相続人は、日本国内にある財産だけが課税対象となります。
    • 例外(国内外すべての財産が課税対象):
    • 相続人が日本国籍を持ち、相続開始前10年以内のいずれかの時に日本に住所があった場合
    • 相続人が日本国籍を持ち、相続開始前10年以内に日本に住所がなかった場合でも、被相続人が「外国人被相続人」または「非居住被相続人」に当たらない場合
    • 相続人が日本国籍を持たない場合でも、被相続人が「外国人被相続人」「非居住被相続人」「非居住外国人」に当たらない場合

    ここでいう「外国人被相続人」は、相続開始の時に在留資格を有し日本に住所があった被相続人を、「非居住被相続人」は、相続開始の時に日本に住所がなかった被相続人のうち一定の人を指します。

    実務上のポイントは、被相続人が日本に住む日本国籍の方である場合、相続人が海外に住んでいても、原則として国内外の財産すべてが課税対象になるということです。「海外に住んでいるから日本の相続税は関係ない」とは限らない点に注意が必要です。

    財産が「国内」か「国外」かの判定

    課税の範囲が国内財産に限られる相続人にとっては、財産がどこにあるかの判定が重要になります。国税庁によれば、たとえば次のように判定します。

    財産の種類所在の判定
    不動産・動産その所在地
    預貯金受け入れをした営業所の所在地
    保険金保険会社等の本店等の所在地
    株式・社債発行法人の本店等の所在地

    債務・葬式費用の控除にも違いがある

    国税庁によれば、相続のときに日本に住所がない相続人のうち一定の要件に当たらない人は、控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用も控除できません。債務を誰が引き継ぐかを考える際には、相続人の区分も合わせて確認しておく必要があります。

    論点2:遺産分割協議と相続手続の書類

    日本の相続手続では、遺産分割協議書に相続人全員が署名・実印を押し、印鑑証明書を添付するのが一般的です。しかし、海外に住む日本人は日本に住民登録がないことが多く、印鑑証明書や住民票を取得できない場合があります。その代わりに使われるのが、在外公館(大使館・総領事館)が発行する証明です。

    署名証明(サイン証明)

    外務省によれば、署名(及び拇印)証明は、申請者の署名が領事の面前でなされたことを証明するもので、日本の印鑑証明に相当します。不動産登記や遺産分割協議などの日本国内の手続に使われます。

    • 領事の面前で署名する必要があるため、本人が在外公館に出向いて申請する必要があり、代理申請や郵便による申請はできません。
    • 証明の形式には、遺産分割協議書などの私文書と証明書を綴り合わせて割り印する形式と、署名そのものを単独で証明する形式があります。どちらが必要かは、提出先(法務局、金融機関など)に事前に確認しておくと安心です。

    在留証明

    外務省によれば、在留証明は、外国に住所を有する日本人について、その住所(生活の本拠)の所在を証明するもので、不動産登記などに使われます。原則として、日本国籍を有し、現地にすでに3か月以上滞在して現に居住していること、日本に住民登録がないことなどが要件です。

    相続人が日本国籍を持たない場合

    相続人が外国籍の場合は、在外公館の証明を使えないため、居住国の公証人の認証を受けた宣誓供述書などで、署名や住所を証明する方法がとられることがあります。必要な書類は国や提出先によって異なるため、早めに確認が必要です。

    不動産の相続登記

    令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。法務省によれば、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由のない違反には10万円以下の過料が科されることがあります。施行日前に発生した相続も対象です。海外在住の相続人がいると書類の取得に時間がかかるため、遺産分割協議と登記の段取りは早めに組んでおきましょう。

    論点3:申告・納税の段取り

    申告期限と提出先

    相続税の申告・納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。申告書は、原則として被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署に提出します。海外在住の相続人がいても、この期限は変わりません。書類のやり取りに国際郵便や在外公館での手続が加わる分、国内だけの相続よりも時間的な余裕が小さくなると考えておきましょう。なお、日本に住んでいる相続人が、申告期限までの間に納税管理人の届出をしないまま海外に転居して日本に住所・居所がなくなる場合は、その日が申告期限となります(相続税法27条1項)。

    納税管理人

    国税庁によれば、日本に住所がない相続人が相続税の課税対象となる財産を取得した場合は、納税管理人を定め、納税地の所轄税務署長に「納税管理人届出書」を提出する必要があります。納税管理人は、日本国内で申告書の提出や納税、税務署からの書類の受け取りなどを本人に代わって行う人です。

    誰に依頼するか(国内に住む親族か、専門家か)、費用や連絡方法をどうするかは、相続が起きてから決めるのでは慌ただしくなります。生前に家族で話し合っておくことが望まれます。

    国外転出時課税(相続により非居住者が有価証券等を取得する場合)

    被相続人が一定の有価証券等を保有していて、それを海外に住む相続人が相続する場合には、所得税の論点も生じます。国税庁によれば、国外転出時課税の対象となるのは、対象となる有価証券等の価額の合計額が1億円以上で、過去10年以内に国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超える人です。相続の場面では、こうした要件に当たる被相続人の対象資産を、非居住者である相続人等が相続により取得した場合、その時に譲渡等があったものとみなして、含み益に所得税が課税されます(一定の要件を満たす場合には課税の取消し等の手続もあります)。

    上場株式や自社株式を多く保有するオーナーで、海外在住の子に株式を承継させる可能性がある場合は、相続税だけでなくこの所得税の負担も見込んでおく必要があります。

    居住国の税制も確認する

    相続人が住む国でも、相続や財産の取得に対して課税される場合があります。日本の相続税では、国外にある財産について現地で相続税に相当する税が課された場合に、一定の限度額の範囲でその税額を日本の相続税額から控除する仕組みがあります(相続税法20条の2)。ただし、この控除の対象は国外にある財産に限られ、居住国の側でどのような調整があるかは国によって異なります。日本と居住国の双方で課税される可能性があるときは、居住国の専門家とも連携して確認することが大切です。

    生前に整えておきたい準備

    海外在住の相続人がいる場合に、生前に進めておきたい準備をまとめます。

    1. 相続人の状況を把握する:国籍、現在の住所、日本を離れた時期(過去10年の居住状況)、在留資格や永住の予定などを整理します。課税の範囲の判断に直結します。
    2. 財産と債務の一覧を作る:国内財産・国外財産の別、所在地、名義を整理します。概算の進め方は、関連記事「相続税の概算に必要な情報とは」で解説しています。

    3. 遺言を検討する:遺言があれば、遺産分割協議に関わる書類のやり取りを減らせる場合があります。誰が何を取得するかを明確にしておくことは、海外在住の相続人の負担軽減にもつながります。遺言と民事信託(いわゆる家族信託)の使い分けは、関連記事「遺言と家族信託の使い分け」で解説しています。

    4. 納税管理人と連絡体制を決めておく:誰が納税管理人になるか、書類の受け渡しや連絡をどう行うかを決めておきます。

    5. 納税資金と送金の段取りを考える:海外在住の相続人が日本の口座を持っていない場合など、納税資金の移動に時間がかかることがあります。
    6. 海外に財産がある場合は現地の手続も確認する:被相続人が海外に財産を持っている場合、その国の相続手続(裁判所の関与が必要な国もあります)が必要になることがあります。

    実務上注意したいポイント

    • 「海外在住だから日本の相続税は関係ない」と決めつけない:被相続人と相続人の状況によって、国内外の財産すべてが課税対象になることがあります。
    • 在外公館での手続には時間がかかる:署名証明は本人の出頭が必要です。相続人が在外公館から遠い地域に住んでいる場合、移動や予約に時間を要することがあります。
    • 書類の要件は提出先ごとに異なる:法務局、金融機関、税務署で求められる書類や形式が異なる場合があります。
    • 情報の基準日を確認する:国際相続の課税関係は、過去に何度か改正されています。古い書籍や記事の情報をそのまま当てはめず、最新の一次情報で確認しましょう。

    AEGISの視点

    海外在住の相続人がいる相続では、税金の計算そのものよりも、「離れて暮らす家族が、限られた時間の中で合意し、手続を完了できるか」が大きな課題になります。書類一つ取り寄せるにも、時差や距離、言語の壁が立ちはだかるからです。

    AEGISは、こうしたケースこそ、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理しておく価値が大きいと考えています。たとえば、日本の不動産を海外在住の子が相続した場合、その不動産を誰が管理し、将来売却するのか保有し続けるのか。自社株式を承継する場合、海外から議決権をどう行使し、会社の意思決定にどう関わるのか。相続税の範囲や手続書類の問題は、こうした「所有と管理の設計」と切り離せません。

    家族がどこに住んでいても、何を、誰に、どのような形で残したいのかを言葉にし、家族と共有しておくこと。それが、国境をまたぐ相続を円滑に進めるための最も確実な準備だと考えています。相続対策と事業承継を一体で考える視点は、親記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

    資産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 海外在住の相続人がいると、相続税の課税の範囲、手続書類、申告・納税の段取りの3つが変わります。
    • 被相続人が日本に住む日本国籍の方である場合、相続人が海外に住んでいても、原則として国内外の財産すべてが課税対象になります。
    • 遺産分割協議などでは、印鑑証明書や住民票に代えて、在外公館の署名証明(本人出頭が必要)や在留証明などを使います。
    • 日本に住所がない相続人は、納税管理人を定めて届け出る必要があります。
    • 有価証券等を多く保有する場合は、国外転出時課税による所得税の負担も確認が必要です。

    具体的な課税関係や必要書類は、相続人と被相続人の状況、居住国などによって異なります。

    よくある質問

    Q. 海外に住んでいる子も、日本の相続税を払う必要がありますか?

    被相続人や相続人の状況によります。国税庁によれば、相続のときに日本に住所がない相続人は原則として国内財産のみが課税対象ですが、日本国籍を持ち相続開始前10年以内に日本に住所があった場合や、被相続人が日本に住む日本国籍の方である場合などは、国内外の財産すべてが課税対象になります。

    Q. 海外在住の相続人は、印鑑証明書の代わりに何を用意すればよいですか?

    日本国籍の方であれば、在外公館で署名証明(サイン証明)を取得するのが一般的です。外務省によれば、署名証明は領事の面前で署名する必要があるため、本人が在外公館に出向いて申請する必要があり、代理や郵送では申請できません。

    Q. 納税管理人とは何ですか?誰がなれますか?

    日本に住所がない納税者に代わって、申告書の提出や納税、税務署からの書類の受け取りなどを行う人です。相続税の課税対象となる財産を取得した海外在住の相続人は、納税管理人を定めて届け出る必要があります。国内に住む親族や専門家に依頼するのが一般的です。

    Q. 海外在住の相続人がいると、申告期限は延びますか?

    相続税の申告・納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内で、相続人が海外にいても原則として変わりません。書類の取得に時間がかかるため、早めに準備を始めることが大切です。

    Q. 生前にできる最も効果的な準備は何ですか?

    相続人の居住状況と財産の全体像を把握したうえで、遺言を作成し、納税管理人や連絡体制を家族と話し合っておくことです。誰が何を取得するかが明確であれば、海外在住の相続人が関わる手続の負担を減らすことができます。

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  • 生命保険を相続対策に使うときの考え方|非課税枠・契約の形・受取人の決め方が遺産分割と納税に与える影響

    生命保険を相続対策に使うときの考え方|非課税枠・契約の形・受取人の決め方が遺産分割と納税に与える影響

    生命保険は、相続対策の中でも取り入れやすい手段の一つです。相続人が受け取る死亡保険金には 「500万円×法定相続人の数」の非課税枠 があり、受取人を指定して、必要な人に現金を届けることもできます。

    ただし、生命保険の効果は「非課税枠」だけで決まるものではありません。誰が保険料を負担し、誰に保険をかけ、誰が受け取るかという契約の形によって、かかる税金の種類が変わります。また、受取人の指定は遺産分割や遺留分の問題とも深く関わります。

    この記事では、生命保険を相続対策に使うときに押さえておきたい税務と法務の要点を、オーナーの判断の視点から整理します。

    死亡保険金の非課税枠

    被相続人が保険料を負担していた生命保険の死亡保険金は、民法上の遺産ではありませんが、相続税法上は相続によって取得したものとみなされ、相続税の対象になります。そのうえで、相続人が受け取った死亡保険金については、次の金額までが非課税とされています(国税庁 No.4114)。

    非課税限度額=500万円×法定相続人の数

    非課税枠を考えるときのポイントは次のとおりです。

    • 相続人以外の人が受け取った死亡保険金には、非課税の適用がありません。たとえば、孫(代襲相続人でない場合)を受取人にすると、非課税枠は使えません。
    • 法定相続人の数は、相続を放棄した人も含めて数えます。ただし、放棄した人は相続人ではなくなるため、その人自身が受け取った保険金には非課税の適用がありません(相続税法12条1項6号、相続税法基本通達12-7)。
    • 養子は、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までが法定相続人の数に含まれます。
    • 非課税枠は、相続人全員の受取額の合計に対する枠で、各人の受取額の割合に応じて配分されます。

    契約の形で変わる税金の種類

    生命保険の課税関係は、保険料の負担者・被保険者・受取人の組合せで決まります(国税庁 No.1750)。

    被保険者保険料の負担者受取人かかる税金相続対策としての主な使い方
    親親子(相続人)相続税非課税枠の活用、納税資金・分割資金の確保
    親子子所得税(一時所得)子が自ら保険料を負担し、受取時の税負担を所得税で考える
    親配偶者子贈与税一般的には避けたい形(受取時に贈与税がかかる)

    ※国税庁 No.1750 をもとにAEGISが整理。

    注意したいのは、契約書上の「契約者」ではなく、実際に保険料を負担した人で判定される点です。たとえば、子が契約者でも、親が保険料を払っていれば親が負担者とみなされます。子が保険料を負担する形をとる場合は、保険料に充てる資金の贈与の事実や、子の口座からの支払いなどを明確にしておく必要があります。

    また、贈与税がかかる形(負担者・被保険者・受取人がすべて異なる形)は、受取時に税負担が大きくなりやすいため、意図せずこの形になっていないか、既存の契約を一度点検しておくと安心です。

    受取人の決め方と遺産分割

    保険金は「受取人固有の財産」

    受取人が指定された死亡保険金は、保険契約に基づいて受取人が直接取得するものであり、遺産分割の対象となる遺産とは区別されます。つまり、遺産分割の話し合いを待たずに、受取人が保険金を受け取ることができるのが原則です。この性質は、相続直後の資金が必要な場面で大きな意味を持ちます。

    代償分割の資金として使う

    自社株式や自宅など、分けにくい財産を特定の相続人が取得する場合、その相続人が他の相続人に代わりの金銭を支払う「代償分割」という分け方があります。代償分割では、代償金を支払った人の課税価格は取得した財産からその代償金を差し引いた額、受け取った人の課税価格は代償金を加えた額で計算されます(国税庁 No.4173)。

    このとき、代償金を支払う側(たとえば後継者)を死亡保険金の受取人にしておくと、受け取った保険金を代償金の原資にできます。逆に、後継者以外の家族を受取人にすると、その保険金は遺産分割の外で渡る財産になり、後継者が別途代償金を用意しなければならない状況も起こりえます。受取人の指定は、遺産の分け方とセットで考える必要があります。

    遺留分・特別受益との関係

    死亡保険金は遺産とは区別されるため、原則として遺留分の計算の基礎となる財産や、相続人間の公平を調整する特別受益には含まれないと考えられています。ただし、最高裁判所は、保険金の額や遺産総額に対する割合、各相続人の生活実態などから、相続人間の不公平が著しいと評価すべき特段の事情がある場合には、特別受益に準じて扱う余地があるとの判断を示しています(平成16年の決定)。

    そのため、「保険にすれば遺留分の対象にならない」と考えて、遺産の大部分を保険金の形で特定の相続人に集中させることには注意が必要です。保険金の額は、遺産全体の中でバランスを見ながら決めることが大切です。

    契約中の保険も相続税の対象になる

    保険料を負担していた人が亡くなっても、被保険者が別の人(たとえば配偶者や子)であれば、死亡保険金は支払われません。この場合、亡くなった人が保険料を負担していた「生命保険契約に関する権利」が相続税の対象になります。

    この権利は、原則として相続開始の時に解約した場合に支払われる解約返戻金の額などをもとに評価されます(財産評価基本通達214)。死亡保険金と違い、非課税枠はありません。契約を誰が引き継ぐかは遺産分割で決める必要があり、見落とされやすい財産の一つです。

    目的から保険の役割を整理する

    相続対策として保険を考えるときは、「いくら入るか」より先に、「何のための資金か」を決めると設計がぶれにくくなります。目的ごとに、受取人や金額の考え方は次のように変わります。

    目的受取人の考え方金額の考え方確認したいこと
    相続税の納税資金納税額が大きく、現金が不足する相続人相続人ごとの不足額相続税の概算と、申告期限までに換金できる財産
    代償分割の資金分けにくい財産を取得し、代償金を支払う相続人他の相続人に支払う代償金の見込額遺言や分割の方針と整合しているか
    配偶者の生活資金配偶者当面の生活費や住まいの費用二次相続まで見通した配分か
    事業の継続資金会社(会社契約の場合)借入金の返済や運転資金の見込額個人の保険と役割が重複していないか

    ※AEGISが整理したものです。

    複数の目的を一つの保険で兼ねると、受取人を誰にするかで目的どうしがぶつかることがあります。目的ごとに契約を分けるか、少なくとも「この保険は何のためか」を家族と共有しておくと、相続後の混乱を防ぎやすくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 受取人の見直しを定期的に行う:家族構成の変化(結婚・離婚・死亡)や事業承継の方針変更があっても、受取人がそのままになっていることがあります。
    • 保険金の額は「何のための資金か」から決める:納税資金、代償金、配偶者の生活資金など、目的ごとに必要額を見積もります。非課税枠を埋めることだけを目的にしないことが大切です。
    • 既存の契約を棚卸しする:長年の間に加入した保険は、契約者・被保険者・受取人・保険料の負担者がばらばらになっていることがあります。夫婦や親子の契約を一覧にして、どの保険が相続税・所得税・贈与税のいずれの対象になるのか、契約中の保険の権利が誰の財産になるのかを確認しておくと、相続後の申告漏れや思わぬ課税を防ぐことができます。
    • 保険料の負担が続けられるかを確認する:払込みが続けられず途中で解約すれば、想定した保障は得られません。
    • 商品の仕組みと税制の変更に注意する:課税の取扱いは改正されることがあり、当初の想定どおりの効果が得られない可能性もあります。税の効果を前面に出した商品の検討では、特に慎重な確認が必要です。

    AEGISの視点

    生命保険は、相続税の非課税枠ばかりが注目されがちですが、AEGISは生命保険の本当の価値を、「必要な人に、必要なときに、遺産分割の外で現金を届けられること」にあると考えています。

    自社株式や不動産が財産の中心にあるオーナーの相続では、財産の分けにくさと現金の不足が同時に起こります。後継者が株式を引き継ぎ、他の家族には現金で報いる——その設計を実現する手段として、生命保険は大きな役割を果たします。一方で、受取人の指定を誤ると、保険が家族間の不公平を広げる道具にもなりえます。

    保険は、遺言や遺産分割の方針、納税資金の計画と一体で設計して初めて効果を発揮します。保険証券を家族全員分並べ、「誰の、何のための保険か」を一覧で確認するところから始めることをおすすめします。

    納税資金の手段全体の比較は関連記事「相続税の納税資金をどう準備するか」で、配偶者への配分の考え方は「二次相続まで見通した遺産の分け方」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がありますが、相続人以外の受取人や相続を放棄した人には適用がありません。
    • 保険料の負担者・被保険者・受取人の組合せで、相続税・所得税・贈与税のどれがかかるかが決まります。判定は実際の保険料負担者で行われます。
    • 死亡保険金は受取人固有の財産で、遺産分割を待たずに受け取れるため、代償分割の資金や納税資金として役立ちます。
    • 遺留分・特別受益との関係では、保険金が過大な場合に例外的に考慮される余地があるため、遺産全体のバランスが大切です。
    • 被保険者が存命の契約は「生命保険契約に関する権利」として相続税の対象となり、非課税枠はありません。

    よくある質問

    Q. 非課税枠を使うには、誰を受取人にすればよいですか?

    非課税枠は、相続人が受け取った死亡保険金に適用されます。配偶者や子など相続人を受取人にすることが前提です。そのうえで、納税資金や代償金が必要な人、生活資金が必要な人など、目的に合わせて受取人と金額を決めるのが基本です。

    Q. 相続を放棄しても、死亡保険金は受け取れますか?

    受取人として指定されていれば、相続を放棄しても死亡保険金を受け取ることができます。ただし、相続を放棄した人は相続人ではなくなるため、その人が受け取った保険金には非課税の適用がありません。

    Q. 死亡保険金は遺留分の計算に含まれますか?

    死亡保険金は受取人固有の財産であり、原則として遺留分の計算の基礎となる財産には含まれないと考えられています。ただし、保険金の額が遺産全体に比べて著しく大きいなど特段の事情がある場合には、特別受益に準じて考慮される余地があるとした最高裁判所の判断があります。

    Q. 子が契約者になって保険料を払う形は有効ですか?

    子が実際に保険料を負担していれば、受け取る死亡保険金は子の一時所得となり、相続税の対象とはなりません。ただし、保険料の原資を親から贈与する場合は、贈与の事実と子による支払いを明確にしておく必要があります。どの形が有利かは、家族の所得や財産の状況によって異なります。

    Q. 法人で加入している保険は、相続対策と関係がありますか?

    会社が保険料を負担する保険は、役員の死亡退職金の原資などとして使われることがあります。会社から相続人に支払われる死亡退職金は、個人の死亡保険金とは別の扱いになります。個人の保険と会社の保険をあわせて全体で設計することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、第6章(印刷 p.636-647)
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、2025年、第Ⅰ部第2章 Q10(印刷 p.233-238)
  • 相続税を払いすぎていたときの更正の請求|期限・要件・手続の流れと、見直しを検討するときの考え方

    相続税を払いすぎていたときの更正の請求|期限・要件・手続の流れと、見直しを検討するときの考え方

    相続税の申告を終えた後に、「土地の評価がもっと低くなるはずだった」「使えるはずの特例を適用していなかった」と気づくことがあります。このように、申告した税額が過大だった場合に、税務署長に税額の減額を求める手続が「更正の請求」です。

    結論から言えば、相続税の更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内に行うことができます。また、申告後に遺産分割がまとまったなど一定の事由が生じた場合には、その事由を知った日の翌日から4か月以内に行える特則もあります(国税庁)。

    ただし、請求すれば必ず税金が戻るわけではありません。税務署は請求の内容を調査したうえで判断します。この記事では、更正の請求の期限・要件・手続の流れと、見直しを検討するときに押さえておきたい考え方を整理します。

    更正の請求とは

    更正の請求とは、提出した申告書の税額等が、税法の規定に従っていなかったことや計算に誤りがあったことにより過大であった場合に、その減額(更正)を税務署長に求める手続です(国税通則法第23条、国税庁)。

    これに対し、税額が少なすぎたことに気づいた場合は「修正申告」を行います。更正の請求と修正申告は、方向が逆の手続です。

    更正の請求を受けた税務署長は、その請求に基づいて調査を行い、税額等を更正するか、更正をすべき理由がない旨を通知することとされています(国税通則法第23条第4項)。

    更正の請求ができる期限

    更正の請求の期限は、請求の理由によって異なります。

    区分主な場面期限
    通常の更正の請求土地の評価誤り、特例の適用誤り、計算誤りなど法定申告期限から5年以内
    後発的な事由による更正の請求(国税通則法)申告の前提となった事実が判決等で異なると確定した場合など事由が生じた日の翌日から2か月以内
    相続税法の特則(相続税法第32条)未分割だった財産の分割、相続人の異動、遺留分侵害額の請求に基づき支払う金銭の額の確定、遺言書の発見・遺贈の放棄など事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内

    ※国税庁「相続税及び贈与税の更正の請求手続」等をもとにAEGISが整理。後発的な事由の具体的な範囲は個別に確認が必要です。

    「法定申告期限から5年」の数え方

    相続税の法定申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月を経過する日です(国税庁 No.4205)。更正の請求の5年は、実際に申告書を提出した日からではなく、この法定申告期限から数えます。たとえば、期限より早く申告していても、期限が延びるわけではありません。相続の開始からおおよそ5年10か月が一つの目安になります。

    なお、この5年の期間は、法定申告期限が平成23年12月2日以後に到来する相続税について適用されています(国税庁)。

    遺産分割がまとまった場合の4か月

    申告期限までに遺産分割がまとまらず、法定相続分で申告した場合、その後に分割がまとまって税額が減るときは、分割を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求を行います(国税庁 No.4208)。

    特に、申告期限までに分割されていない財産には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が原則として適用されません。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておき、期限から3年以内に分割がまとまれば、更正の請求によってこれらの特例を適用した税額に見直すことができます(国税庁 No.4158)。この4か月の期限は見落とされやすいため注意が必要です。

    払いすぎが生じやすい典型的な場面

    更正の請求の理由として多いのは、次のような場面です。

    • 土地の評価:土地の形状(不整形・間口が狭いなど)、道路との関係、利用状況による評価の減額要素が反映されていない
    • 特例・控除の適用:要件を満たしていた特例や控除が適用されていない
    • 財産の計上:相続財産ではない財産(家族名義で実際に家族のものだった財産など)が含まれていた、債務や葬式費用の控除が漏れていた
    • 非上場株式の評価:会社の規模の区分や評価方式の判定に誤りがあった

    一方で、申告後に財産の価値が下がったことは、それだけでは申告時点の評価の誤りにはなりません。相続税の評価は、原則として相続開始の時点で行うためです。

    手続の流れ

    更正の請求は、おおむね次の流れで進みます。

    1. 申告内容の確認:申告書と評価の根拠資料を確認し、過大となっている可能性がある箇所を特定します。
    2. 更正の請求書の作成:請求の内容と理由を記載し、理由の基礎となる事実を証明する書類(土地の測量図や現況の資料、評価の計算書など)を添付します(国税庁)。
    3. 提出:相続税の更正の請求は、e-Taxのほか、内容によっては書面で提出することもできます(国税庁)。
    4. 税務署による調査:税務署は、請求の内容が正しいかを調査します。書類の確認に加えて、質問や現地の確認が行われることもあります。
    5. 結果の通知:税額が更正されると通知があり、過大だった税額が還付されます。理由がないと判断されれば、その旨の通知があります。

    相続税は相続人ごとに申告・納税するため、更正の請求も、税額が過大となった相続人がそれぞれ行うのが基本です。複数の相続人に影響する場合は、家族で方針を共有して進めることが大切です。

    実務上注意したいポイント

    調査では、他の論点が確認されることもある

    更正の請求を受けた税務署は、請求の内容を調査します。その過程で、当初の申告の他の部分に誤り(たとえば財産の計上漏れ)が見つかれば、結果として税額が増えることもあり得ます。見直しは、減額できる点だけでなく、申告全体を点検する機会と考えることが大切です。

    事実を偽った請求には重いペナルティがある

    事実を隠したり偽ったりして、そのところに基づいて更正の請求書を提出していた場合には、重加算税の対象となることが法律に定められています(国税通則法第68条。令和7年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から適用)。根拠のない請求を勧める話には、慎重に対応する必要があります。

    還付の時期と金額

    更正が行われると、払いすぎていた税額が還付されます。還付金には、一定の場合に「還付加算金」が付くことがありますが、その計算の対象となる期間は法律で定められています。更正の請求に基づく更正の場合は、原則として、更正の請求があった日の翌日から3か月を経過する日と、更正があった日の翌日から1か月を経過する日のいずれか早い日の翌日からが計算の対象となります(国税通則法第58条第1項第2号)。還付の時期や金額は、調査の状況によって変わります。

    還付の手続きを依頼するときの留意点

    相続税の還付の手続きをする場合、その方の専門性やこれまでの実績、かかる時間や成功報酬の体系・料率などを確認してから依頼するようにしましょう。

    見直しを検討するかどうかの判断軸

    申告の見直しを検討するときは、次の4つの観点から整理すると、判断がしやすくなります。

    1. 根拠の具体性:どの財産の、どの評価や特例に誤りがあると考えられるのかが、資料で説明できるか
    2. 金額の見込み:見直しによって減る可能性がある税額は、どの程度か
    3. 期限の余裕:法定申告期限から5年、または特則の4か月の期限まで、資料の準備と検討に十分な期間があるか
    4. 費用と負担:現地の確認や測量、専門家への依頼の費用、調査への対応にかかる時間と家族の負担はどの程度か

    特に土地の評価は、申告時には把握できなかった現地の状況(がけ地、道路との高低差、利用上の制約など)が見直しの手掛かりになることがあります。一方で、財産の多くが預貯金や上場株式で、評価に判断の余地が小さい場合には、見直しの効果は限られます。財産の構成を踏まえて、見直しに見合う可能性があるかを見極めることが出発点です。

    AEGISの視点

    更正の請求は、「払いすぎた税金を取り戻す手続」として紹介されることが多いものです。もちろん、正しい税額に直すことは納税者の権利であり、根拠があれば積極的に検討すべきものです。

    ただしAEGISは、更正の請求を検討するときこそ、「還付の可能性」と「見直しの費用・時間・家族の負担」を冷静に比べることが大切だと考えています。土地の評価の見直しには、現地の確認や測量などの費用がかかることがあります。減額の見込みが小さければ、費用が上回ることもあります。また、相続人が複数いる場合には、誰がどの程度の還付を受けるかによって、家族の受け止め方も変わります。

    もう一つ大切なのは、見直しの結果を「次の相続」に生かすことです。土地の評価の考え方や特例の要件、財産の帰属の整理は、二次相続や事業承継の設計にもつながります。申告の見直しを、資産の全体を点検し直す機会として位置付けると、得られるものはより大きくなります。

    申告書を依頼先から受け取ったときに確認したい点は関連記事「依頼した相続税申告書のセルフチェック」で、還付をうたう営業への向き合い方は「相続税の還付をうたう営業を受けたら」で、土地評価の見直しの確認点は「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。

    土地や非上場株式の評価など、資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    申告済みの相続税について、更正の請求ができるかどうかを確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 更正の請求は、申告した相続税額が過大だった場合に、税務署長に減額を求める手続です。
    • 期限は原則として法定申告期限から5年以内です。遺産分割がまとまったなど相続税法の特則に当たる場合は、その事由を知った日の翌日から4か月以内に行います。
    • 請求書には、理由の基礎となる事実を証明する書類を添付します。税務署は調査したうえで、更正するか理由がない旨を通知します。
    • 申告後の値下がりは、それだけでは更正の理由になりません。見直しの過程で他の誤りが見つかる可能性もあります。
    • 還付の見込みと、費用・時間・家族の負担を比べたうえで、検討することが大切です。

    よくある質問

    Q. 相続税の更正の請求は、いつまでできますか?

    原則として、法定申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月を経過する日)から5年以内です。申告後に遺産分割がまとまった場合など、相続税法に定める一定の事由がある場合には、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に行う特則があります。

    Q. 更正の請求をすると、必ず税務調査が行われますか?

    税務署は、更正の請求の内容が正しいかを調査したうえで判断します。調査の方法は、書類の確認だけの場合もあれば、質問や現地の確認が行われる場合もあります。請求の理由を裏付ける資料を、最初からそろえておくことが大切です。

    Q. 申告後に土地の価格が下がりました。更正の請求はできますか?

    相続税の評価は、原則として相続開始の時点で行います。申告後に価格が下がったことだけでは、申告時の評価が誤っていたことにはならないため、それだけを理由とする更正の請求は難しいと考えられます。申告時点の評価に誤りがなかったかどうかを確認することが出発点です。

    Q. 相続人の一人だけで更正の請求をすることはできますか?

    相続税は相続人ごとに申告・納税するため、更正の請求も、税額が過大となった人がそれぞれ行うのが基本です。ただし、財産の評価の見直しは他の相続人の税額にも影響することが多いため、家族で方針を共有して進めることが望まれます。

    Q. 見直しを依頼するときは、どのような点を確認すればよいですか?

    見直しの根拠(どの財産のどの評価や特例の誤りか)、費用の計算方法(成功報酬の対象や率)、税務署の調査があった場合の対応の範囲を確認します。還付の可能性だけでなく、費用や手間を含めて判断することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、第2章(印刷 p.117-120)
    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、Chapter 3(印刷 p.70-83)、Chapter 18(印刷 p.201)
  • デジタル資産の相続に備える|ネット口座・暗号資産・サブスク契約を家族が把握できるようにする方法

    デジタル資産の相続に備える|ネット口座・暗号資産・サブスク契約を家族が把握できるようにする方法

    ネット銀行やネット証券、暗号資産、スマートフォンで管理する各種サービス——こうしたデジタル資産は、紙の通帳や郵送物が残らないため、本人が亡くなると家族が存在に気付けないことがあります。気付かれないまま相続税の申告期限を過ぎれば申告漏れとなり、暗号資産のように本人しか管理方法を知らない財産は、存在が分かっても手が届かないこともあります。

    結論から言えば、デジタル資産への備えは、「何があるか」を家族が分かる一覧と、「どうすれば手続ができるか」の手掛かりを、パスワードそのものとは分けて残しておくことが基本です。

    この記事では、デジタル資産の相続で起こりやすい問題と、生前にできる具体的な準備を整理します。

    デジタル資産とは

    この記事では、インターネット上で口座や契約を管理し、紙の通帳や証書が手元に残りにくい財産や契約を「デジタル資産」と呼びます。大きく分けると、次の3つです。

    1. 金融資産:ネット銀行の預金、ネット証券の株式・投資信託、暗号資産、電子マネーの残高など
    2. 継続的な契約:動画・音楽などのサブスクリプション、クラウドサービス、各種の会員サービスなど
    3. データ・アカウント:写真や文書のデータ、メールやSNSのアカウントなど

    相続税の対象になるのは、主に1の金融資産です。相続税は、現金・預貯金・有価証券など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものにかかり(国税庁 No.4105)、ネット上の口座であるかどうかで扱いは変わりません。暗号資産も、相続や贈与で取得した場合は相続税・贈与税の対象になります(国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」)。

    デジタル資産の相続で起こりやすい問題

    種類家族が困りやすいこと残しておきたい手掛かり
    ネット銀行・ネット証券郵送物がなく、口座の存在に気付けない金融機関名、支店名・口座の種類、登録メールアドレス
    暗号資産交換業者の口座か、自分で管理するウォレットかが分からない。管理方法が分からず手が届かない利用している交換業者名、自己管理の有無と保管場所の手掛かり
    電子マネー・ポイント残高があっても気付かない、手続の可否が分からないサービス名、残高の目安
    サブスク・会員契約解約されず、引落しが続くサービス名、支払方法(どのカード・口座か)
    データ・アカウント大切な写真や仕事のデータを取り出せない残したいデータの保存先、家族に引き継ぎたいかどうか

    ※AEGISが整理したものです。

    気付かれない財産は申告漏れになる

    ネット証券などは、定期的な取引報告が郵送されず、電子交付だけの場合があります。家族が口座の存在を知らなければ、相続税の申告から漏れてしまいます。申告後に見つかれば修正申告が必要になり、加算税や延滞税がかかることもあります。相続税の申告と納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。

    上場株式などは、証券保管振替機構に対して相続人が登録情報の開示を請求し、口座を開設している証券会社等を調べる方法があります。ただし、手続には時間がかかり、すべての財産が対象になるわけではありません。生前に一覧を残しておく方が、家族の負担ははるかに小さくなります。

    暗号資産は「存在」と「管理方法」の両方が必要

    暗号資産を国内の暗号資産交換業者の口座で保有している場合は、相続人が交換業者に相続手続を申し出ることになります。国内で暗号資産と法定通貨の交換サービスを提供する事業者は、金融庁の登録が必要とされています(金融庁)。

    一方、本人が自分でウォレットを管理している場合は、その管理に必要な情報が失われると、相続人であっても資産を動かせなくなるおそれがあります。「どこにあるか」に加え、「どう管理していたか」の手掛かりを残すことが特に重要です。

    暗号資産の評価と、相続後に売却したときの税金

    相続税の計算では、暗号資産は課税時期(亡くなった日)の取引価格で評価します。国税庁のFAQでは、価格等公表者が公表する課税時期の最終の売買価格や、暗号資産交換業者が公表する取引価格をもとに評価する考え方が示されています。

    また、相続人が相続した暗号資産を後で売却した場合、その利益は所得税の対象になります。このときの取得価額は、被相続人が選択していた方法により評価した金額を引き継ぐ考え方がとられています(国税庁FAQ)。相続人が取引履歴を確認できるよう、利用していた交換業者や取引の記録の所在も分かるようにしておくと安心です。

    生前にできる準備

    1. デジタル資産の一覧をつくる

    まず、デジタル資産の一覧を作成します。一覧に書くのは、サービス名、金融機関・交換業者名、登録メールアドレス、おおよその残高、家族にどうしてほしいかです。

    • 金融資産:口座を閉じて相続財産として分けてほしい
    • サブスク・会員契約:解約してほしい
    • データ:残してほしいもの、消去してほしいもの

    複数の会社や不動産を保有している場合は、会社・不動産・金融資産の一覧とあわせて管理すると、家族が全体像をつかみやすくなります。

    2. ID・パスワードは一覧と分けて管理する

    一覧にパスワードまで書き込むと、一覧が第三者の目に触れたときの危険が大きくなります。おすすめしたいのは、次のように「何があるか」と「どう開けるか」を分ける方法です。

    • 一覧には、サービス名と、パスワードの保管場所(どこに、どのような形で保管しているか)だけを書く
    • パスワード自体は、信頼できる家族だけが取り出せる場所に保管する
    • スマートフォンやパソコンのロック解除の方法を、信頼できる家族と共有しておく

    なお、家族であっても、本人のIDとパスワードを使って本人になりすまして手続を行うことは、各サービスの利用規約上認められていないことがあります。パスワードは「存在の確認」や「データの取り出し」の手掛かりと考え、金融資産の相続手続は、各社の相続手続の窓口を通して行うのが基本です。

    3. 遺言と組み合わせる

    デジタル資産を誰に渡すかを決めておきたい場合は、遺言に記載する方法があります。法務局で自筆証書遺言を保管する制度では、遺言者が亡くなった後に、あらかじめ指定した人(最大3名)に遺言書が保管されていることを通知する仕組みも設けられています(法務省)。遺言には財産の帰属を、一覧には手続の手掛かりを、と役割を分けると整理しやすくなります。

    4. 定期的に見直す

    デジタル資産は、口座の開設や解約、サービスの乗り換えが手軽にできる分、一覧がすぐに古くなります。年に一度、たとえば確定申告や誕生日の時期などに、一覧を更新する習慣をつけておくと安心です。

    相続が起きた後に家族が確認したいこと

    一覧が残されていない場合でも、家族が手掛かりを集める方法はあります。

    • スマートフォンやパソコン、メール:金融機関や交換業者からの通知メール、インストールされているアプリ
    • 預金通帳やクレジットカードの明細:ネット口座への送金、サービスの利用料の引落し
    • 確定申告書などの税務書類:暗号資産や株式の取引による所得の申告の有無
    • 金融機関への照会:心当たりのある金融機関に、相続人として残高証明書の発行を依頼する

    いずれも時間がかかるため、相続税の申告期限から逆算して早めに着手することが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 少額の口座も一覧に入れる:残高が少なくても、相続手続が必要になることがあります。使っていない口座は、生前に解約して整理しておくことも検討に値します。
    • 支払方法をセットで記録する:サブスクの多くはクレジットカードや口座引落しで支払われています。カードや口座を止めるだけでは、契約が残ったままになることがあります。
    • 事業用のアカウントを分けて考える:オーナーが会社や個人事業のアカウントを個人名義で管理している場合、事業の継続に支障が出ることがあります。事業用の管理権限は、会社の担当者にも引き継げる体制にしておきます。
    • 評価と申告のために記録を残す:暗号資産やネット証券の取引の記録は、相続税の評価や相続後の所得税の計算に必要になります。

    AEGISの視点

    デジタル資産の備えは、パスワードの管理の問題と思われがちです。しかしAEGISは、これを「家族が財産の全体像にたどり着けるようにする、情報の承継」の問題と捉えています。

    相続対策では、財産の評価や分け方に目が向きがちですが、その前提は「何があるか」が家族に分かっていることです。デジタル資産は、その前提が崩れやすい財産です。一覧があれば、家族は申告期限の中で落ち着いて手続を進めることができ、申告漏れや資産の喪失を防ぐことができます。

    また、資産の規模が大きいほど、ネット証券や暗号資産、海外のサービスなど、管理する口座は増えていく傾向にあります。一覧づくりは、財産の全体を見直し、使っていない口座を整理するよい機会にもなります。

    財産全体の一覧の作り方は関連記事「複数の会社・資産にまたがる財産の整理」で、遺言の方式の選び方は「公正証書遺言・自筆証書遺言・法務局保管の比較」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。

    サブスク契約の解約など、亡くなった後の事務を誰に任せるかについては、関連記事「死後事務委任契約とは」もあわせてご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • ネット銀行・ネット証券・暗号資産などのデジタル資産も、相続税の対象です。郵送物がないため、家族が存在に気付けないことが最大の問題です。
    • 暗号資産は、亡くなった日の取引価格で評価します。自分でウォレットを管理している場合は、管理方法の手掛かりがなければ手が届かないおそれがあります。
    • 生前の準備は、デジタル資産の一覧をつくり、ID・パスワードは一覧と分けて管理することが基本です。
    • 金融資産の相続手続は、各社の相続手続の窓口を通して行います。財産の帰属は遺言で、手続の手掛かりは一覧で残すと整理しやすくなります。
    • 一覧は年に一度など、定期的に見直すことが大切です。

    よくある質問

    Q. ネット銀行の口座が見つからないまま申告してしまったら、どうなりますか?

    後から口座が見つかった場合は、修正申告をして不足する税額を納めることになります。状況に応じて加算税や延滞税がかかることがあります。口座の存在を家族が把握できるよう、生前に一覧を残しておくことが最も確実な対策です。

    Q. 暗号資産は、相続税の計算でどのように評価しますか?

    原則として、亡くなった日(課税時期)の取引価格で評価します。国税庁のFAQでは、価格等公表者が公表する最終の売買価格や、暗号資産交換業者が公表する取引価格をもとに評価する考え方が示されています。具体的な評価は、保有する暗号資産の種類や取引の状況によって確認が必要です。

    Q. パスワードを遺言に書いておけばよいですか?

    遺言は、財産を誰に渡すかを定めるものであり、パスワードの伝達には向きません。遺言は相続人などが内容を確認するため、パスワードを書くと情報管理の面で不安が残ります。パスワードは、一覧とも分けて、信頼できる家族だけが取り出せる形で保管する方法をおすすめします。

    Q. サブスク契約は、相続人が解約しなければなりませんか?

    契約が続いていれば料金の引落しが続くため、相続人が解約手続を行うのが一般的です。誰が手続を担うかを生前に決めておく方法として、亡くなった後の事務を第三者に任せる契約を結んでおくこともあります。一覧にサービス名と支払方法を書いておくだけでも、家族の負担は大きく変わります。

    Q. 家族にデジタル資産の内容を知られたくない場合はどうすればよいですか?

    一覧の内容をすべて生前に共有する必要はありません。一覧の保管場所だけを信頼できる家族や専門家に伝え、亡くなった後に確認してもらう方法もあります。プライバシーと家族の負担のバランスを考えながら、伝える範囲を決めておくとよいでしょう。

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    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『相続税の物納制度が大改正! 上場株式等の相続と有利な物納選択』山本和義・水品志麻 著、清文社、2017年、第一章(印刷 p.2-10)