自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継|財産の「性質」から役割を決める設計の考え方

地球儀、住宅模型、積み上げた硬貨、ビル模型を並べる女性

事業オーナーの財産は、多くの場合、自社株式・不動産・金融資産の3つで構成されています。承継の相談では「株式は後継者に」「不動産は長男に」「預金は均等に」というように、財産の種類ごとに行き先を決めていく方法がよく見られます。

しかし、財産の種類ごとに個別に決めていくと、全体として「納税資金が足りない」「後継者以外の家族に渡すものがない」「共有になった不動産が動かせない」といった問題が後から見つかることがあります。

結論から言えば、組み合わせの設計は財産の種類ではなく「性質」から出発し、それぞれの財産に「経営を続ける」「家族に分ける」「税金を納める」のどの役割を担わせるかを決めることが出発点です。この記事では、その考え方と設計の手順を整理します。

3つの財産は、性質がまったく違う

まず、自社株式・不動産・金融資産の性質を、承継の観点から比べてみます。

性質自社株式(非上場)不動産金融資産(現預金・上場株式等)
換金のしやすさ低い(買い手が限られる)中程度(時間がかかる)高い
分けやすさ分けられるが、分けると議決権も分散する物理的・権利的に分けにくく、共有になりやすい分けやすい
管理・支配の担い手必要(経営判断・議決権行使)必要(修繕・賃貸管理・売却判断)比較的少ない
評価と時価のずれ評価方法によって大きく変わる相続税評価額と売却価格が異なることが多い小さい
収益配当(会社の方針次第)賃料(賃貸用の場合)利息・配当

この表から分かるのは、自社株式と不動産は「持つ人に役割を求める財産」であり、金融資産は「調整に使える財産」だということです。

財産に「役割」を割り当てる

性質の違いを踏まえると、承継の場面で財産が担う役割は次の3つに整理できます。

1. 経営を続けるための財産

自社株式と、会社が事業に使っている不動産(本社・工場・店舗の土地建物など)です。これらは、後継者が経営を安定して続けるために、後継者または後継者が支配する会社に集めることが基本になります。

会社の重要事項は株主総会で決まるため、後継者が議決権をどの程度確保できるかが承継の安定性を左右します。また、会社が使う不動産を後継者以外の家族が相続すると、会社は家族から土地を借り続けることになり、賃料や将来の売却をめぐって調整が必要になる場合があります。

2. 家族に分けるための財産

後継者以外の家族の生活や、家族間のバランスを保つための財産です。分けやすく、管理の負担が少ない金融資産が中心になります。賃貸不動産も候補になりますが、複数人で共有すると売却や大規模修繕の判断がまとまりにくくなるため、1物件を1人が相続するなど、共有を避ける工夫が必要です。

3. 税金を納めるための財産

相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、金銭で納めるのが原則です(国税庁 No.4205)。換金しやすい金融資産や、相続人が受け取る死亡保険金(「500万円×法定相続人の数」までは非課税、国税庁 No.4114)が、この役割を担います。不動産を売却して納税資金をつくる場合は、売却に時間がかかることを見込み、どの不動産を売るかを事前に決めておくことが大切です。

組み合わせを考えるときの典型的な課題

財産の大半が自社株式の場合

後継者に株式を集めると、他の家族に渡す財産が不足し、後継者は換金できない株式に対して多額の相続税を負担することになります。この場合の選択肢として、たとえば次のような方向性が考えられます。

  • 生前に金融資産を計画的に蓄え、他の家族への配分と納税資金に充てる
  • 後継者が他の家族に金銭を支払う形で遺産を分ける(代償分割)ための資金を準備する
  • 法人版事業承継税制の利用を検討する(特例措置を使う場合の特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日、中小企業庁)
  • 株式の一部を会社や持株会社が買い取る形で、オーナー側に資金を確保する

どの方法にも資金負担や要件、会社の財務への影響があるため、組み合わせて検討することになります。

なお、自社株式の評価方法は、国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、評価額を前提にした配分や納税資金の計画は、今後の改正に注意して見直すことが大切です。

不動産が多く、現預金が少ない場合

不動産オーナーに多いのが、総資産に占める現預金の少なさです。相続税の納税資金だけでなく、不動産を相続しない家族とのバランスをとるための資金も不足しがちです。所有不動産を一覧にして、物件ごとの収益と相続税評価額、売却のしやすさを把握し、「持ち続ける不動産」「生前に売却・組み替える不動産」「相続後に売却する不動産」を区分しておくと、判断がしやすくなります。

事業用・居住用の土地がある場合

一定の要件を満たす事業用や居住用の宅地等は、相続税の計算で評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」の対象になり得ます。減額の割合と限度面積は区分ごとに異なり、特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等は400㎡まで80%、特定居住用宅地等は330㎡まで80%、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%とされています(国税庁 No.4124)。

この特例は、誰がその宅地を取得するか、取得した人が事業や居住を継続するかなどの要件によって適用の可否が変わります。また、相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には適用できません。どの土地を誰に渡すかという配分の判断が、そのまま税額に影響する点に注意が必要です。

所有の「器」を組み合わせる

組み合わせの設計では、財産を誰に渡すかだけでなく、誰が(どの主体が)持つかも選択肢になります。

所有の器向いている場面留意点
個人で保有管理が簡単な財産、相続時の特例を使いたい土地相続時に分割・共有の問題が生じやすい
資産管理会社賃貸不動産をまとめて管理し、収益を家族に配分したい場合設立・運営コスト、会社の株式の承継設計が必要
持株会社事業会社の株式を集約し、所有と経営を整理したい場合株式の買取資金の調達、管理コストの増加

たとえば賃貸不動産を資産管理会社に移せば、相続の対象は個々の不動産ではなく会社の株式になり、不動産を物理的に分けずに済む面があります。一方で、移転時には譲渡や登記の税金・費用がかかり、会社の株式を誰がどれだけ持つかという新しい設計課題が生まれます。器を変えることは目的ではなく、承継後の管理と意思決定をどう分担するかを実現する手段として検討することが大切です。

組み合わせを設計する手順

  1. 財産を性質で棚卸しする:種類・評価額だけでなく、換金性、分けやすさ、管理の担い手の要否、収益、事業との関係を一覧にします。
  2. 相続税を概算し、納税資金の過不足を見る:現時点で相続が起きた場合の税額と、換金しやすい財産の額を比べます。
  3. 「経営」「分ける」「納める」の3つの役割に財産を割り当てる:まず経営を続けるための財産を後継者側に置き、残りで家族への配分と納税資金を組み立てます。
  4. 不足を埋める手段を検討する:生前の資金づくり、贈与、売却や組み替え、保険、所有の器の変更、制度の活用などを比較します。
  5. 配分案を家族と共有し、定期的に見直す:株価や不動産価値の変動、家族の状況に応じて更新します。

生前贈与と相続のどちらで移すかは財産ごとに判断が分かれるため、関連記事(生前贈与と相続をどう使い分けるか)もあわせてご覧ください。財産や会社が多く、一覧にすること自体が難しい場合は、関連記事(複数の会社・資産にまたがる財産の整理)で整理の方法を解説しています。

実務上注意したいポイント

  • 評価額の低さだけで財産を選ばない:相続税評価額が低い財産は税額の面では有利に見えますが、換金しにくかったり、分けにくかったりすることがあります。
  • 「均等」が「公平」とは限らない:同じ評価額でも、自社株式と預金では受け取る側にとっての価値や使い勝手がまったく違います。家族が納得できるかどうかは、金額だけでは決まりません。
  • 共有はできるだけ避ける:不動産や株式を複数人で共有すると、次の世代でさらに権利が細分化され、意思決定が難しくなります。
  • 会社との貸し借りを整理する:オーナーから会社への貸付金は相続財産になります。回収の見込みや、資本への振替などの整理を早めに検討します。

AEGISの視点

AEGISは、財産の組み合わせを「財産ごとに、次の世代で誰がその財産に責任を持つかを決めること」と考えています。

自社株式には経営の責任が、不動産には管理と活用の責任が伴います。金融資産は、その責任を担わない家族への配分や、納税という一度きりの大きな支出を支える役割を持ちます。財産を評価額だけで並べると、この「責任の重さ」の違いが見えなくなります。

また、不動産は持ち方を変えることで、承継のしやすさが大きく変わる財産でもあります。個人で持つか、会社で持つか、事業と組み合わせて活用するか——不動産の所有のあり方を事業承継と同じ時間軸で考えることが、財産全体の組み合わせを無理のないものにします。相続・事業承継の全体像は親記事(相続対策と事業承継を一体で考える)で解説しています。

自社株式や事業用不動産の評価・承継に関わる税務の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 自社株式・不動産・金融資産は、換金性・分けやすさ・管理の担い手の要否が大きく異なります。
  • 組み合わせの設計は、財産に「経営を続ける」「家族に分ける」「税金を納める」の役割を割り当てることから始めます。
  • 自社株式と事業用不動産は後継者側に集めるのが基本で、金融資産が家族への配分と納税資金の調整役になります。
  • 小規模宅地等の特例など、誰がどの財産を取得するかで税額が変わる制度がある点に注意が必要です。
  • 所有の器(個人・資産管理会社・持株会社)の選択も、承継後の管理と意思決定から逆算して検討します。具体的な設計は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 自社株式は必ず後継者1人に集めるべきですか?

経営の安定の観点からは、後継者が必要な議決権を確保できるようにすることが基本です。ただし、議決権のない株式の活用など、配当や財産的価値を他の家族にも配分する設計の余地もあります。会社の状況と家族の意向に応じて検討します。

Q. 不動産を兄弟で共有して相続するのは避けるべきですか?

共有自体が禁止されているわけではありませんが、売却や建替え、大規模修繕の判断に共有者の合意が必要になり、次の世代でさらに権利が細分化されるおそれがあります。物件ごとに取得者を分ける、資産管理会社にまとめるなど、共有を避ける方法を先に検討することをおすすめします。

Q. 金融資産が少ない場合、納税資金はどう準備すればよいですか?

生前からの資金の積み立て、生命保険の活用、売却する不動産の事前の選定、延納制度の検討などが考えられます。どの方法が適しているかは財産の構成や家族の状況によって異なるため、まず相続税の概算と納税資金の過不足を把握することが出発点です。

Q. 会社が使っている土地は、会社に買い取ってもらうべきですか?

選択肢の一つですが、譲渡に伴う所得税等の負担や会社の資金負担、小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性などを比較する必要があります。オーナー個人が持ち続けて後継者が相続する方法と比べ、事業の継続性と税負担の両面から判断します。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。