土地を事業の場として活用するとき、「土地や建物は誰が持ち、事業は誰が運営するのか」という問いは避けて通れません。オーナー個人が土地を持ち、事業はオーナーが関わる会社が運営する——このように所有と運営を分ける設計は、事業型の土地活用や、同族会社が使う不動産の扱いでよく見られる形です。
結論から言えば、所有と運営を分ける意味は、「事業のリスクと成果」と「土地という資産」を切り分け、それぞれを適した人に、適した形で引き継げるようにすることにあります。ただし、分ければ自動的に有利になるわけではありません。分けた両者の間の貸し借りの条件を適切に設計しなければ、税務上の思わぬ課税や、承継時の混乱を招くことがあります。
所有と運営を分ける、とはどういう形か
所有と運営の分け方には、いくつかの典型的な形があります。
| 形 | 土地 | 建物 | 事業の運営 | 両者の関係 |
|---|---|---|---|---|
| A | オーナー個人 | 運営会社 | 運営会社 | 個人が会社に土地を貸す |
| B | オーナー個人 | オーナー個人 | 運営会社 | 個人が会社に建物を貸す |
| C | 資産管理会社 | 資産管理会社 | 運営会社 | 会社間で土地・建物を貸す |
| D | 運営会社 | 運営会社 | 運営会社 | 分けない(参考) |
どの形をとるかによって、誰が建物の投資を負担するか、誰に家賃・地代が入るか、相続のときに何を誰が引き継ぐかが変わります。不動産を個人と法人のどちらで持つかの比較や、資産管理会社の活用は、それぞれ別の論点として検討が必要です。
分けることの意味
1. 事業のリスクと土地を切り分けられる
事業には、業績の変動や撤退の可能性があります。土地と事業を同じ主体が持っていると、事業の不振がそのまま土地の処分につながることもあります。所有と運営を分けておけば、事業を見直す場面でも、土地を家族の資産として維持しやすくなります。
2. 承継の担い手を分けられる
土地を引き継ぐ人と、事業を担う人が同じとは限りません。たとえば、土地は家族全体の資産として承継しつつ、事業は経営を担える後継者や外部の事業者に委ねる、という組み立てが可能になります。
3. 事業の売却・提携・入れ替えがしやすくなる
運営会社の株式や事業を他者に引き継ぐ場合でも、土地は手元に残せます。逆に、事業者を入れ替えて土地を別の事業に使うことも検討しやすくなります。
4. 収益の性格を区別して管理できる
土地・建物から得る地代・家賃と、事業から得る利益を分けて管理することで、それぞれの採算が見えやすくなります。
分けるときに確認したいこと
地代・家賃の水準と契約
所有者と運営会社が同族関係にある場合、地代や家賃をいくらにするかは、当事者だけで決められてしまいます。しかし、その水準は税務上の扱いに影響します。周辺の相場や、事業がその家賃を負担できるかを踏まえて設定し、契約書で条件を明確にしておくことが基本です。
借地権の課税関係:法人が関わる土地の貸し借り
特に注意したいのが、形A(個人の土地に運営会社が建物を建てる)のように、建物の所有を目的として土地を貸す場合です。
土地の貸し借りでは、権利金や地代の授受の有無・水準によって、借地権の課税関係が変わります。個人間の無償の貸し借り(使用貸借)については、国税庁の通達で、建物の所有を目的とする使用貸借による使用権の価額は零として取り扱い、その土地を相続などで取得した場合は自用地として評価する旨が示されています。
一方、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間と同じ考え方にはならず、権利金を授受しないことが借地権の認定課税につながることがあります。こうした場面のために、契約で将来土地を無償で返還することを定め、その旨を税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」という手続(法人税基本通達13-1-7を根拠とするもの)が設けられています。届出の有無や地代の水準によって、借地権の課税関係や、相続時の土地の評価、運営会社の株式評価への影響が変わるため、形Aを選ぶ場合は契約の段階から確認しておく必要があります。
国税庁の通達では、土地の自用地としての価額に対しおおむね年6%程度の地代を「相当の地代」としています(法人税の取扱いでも、当分の間は年6%とされています)。権利金を受け取らずに相当の地代を受け取っている場合や、賃貸借で「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価されます。あわせて、被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合には、自用地としての価額の20%相当額が借地権の価額としてその会社の株式評価上の純資産価額に算入されます。土地と株式の両方を同じ家族が承継する場合、土地の評価が下がった分の一部が株式の評価に移る、と捉えると全体像をつかみやすくなります。
相続時の評価と小規模宅地等の特例
所有と運営を分けると、相続のときに土地がどの区分で評価されるかも変わります。
- 個人の土地・建物を運営会社に貸している場合(形B)、土地は貸家の敷地として評価が検討されます。
- 個人の土地を運営会社に貸し、会社が建物を持つ場合(形A)、土地は貸宅地として扱われ、上記の届出や地代の条件によって評価が変わります(相当の地代や無償返還の届出がある場合は自用地としての価額の80%、地代を受け取らない使用貸借で無償返還の届出がある場合は自用地としての価額)。
小規模宅地等の特例についても、国税庁によれば、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等は「特定同族会社事業用宅地等」として400㎡まで80%の減額の対象となり得ます。この区分では、相続税の申告期限においてその宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、申告期限まで宅地等を保有することなどの要件があります。また、被相続人などから法人への土地(または建物)の貸付けが、相当の対価を得て継続的に行うものなど特例上の「事業」に当たることが前提とされており、無償(使用貸借)で貸している場合はこの区分の対象になりません。一方、運営会社の事業が不動産貸付業等にあたる場合や、要件を満たさない場合は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%)として検討されるか、特例の対象外となります。
どの区分に当たるかは、土地・建物を誰が持ち、運営会社にどのような条件で貸しているか、運営会社の事業が何か、誰が引き継ぐかによって変わります。設計の段階で、承継の場面まで想定して確認しておくことが重要です。
会社間・個人と会社間の取引を記録する
所有者と運営会社の間では、賃貸借契約、賃料の支払い、修繕費の負担区分などを、第三者との取引と同じように書面と記録で残しておくことが大切です。後から取引の実態を説明できることが、税務上も、承継時の家族間の理解のうえでも支えになります。
管理の手間とコスト
主体を分ければ、契約管理、会計・申告、資金管理の手間が増えます。分けることで得られる効果が、その手間に見合うかも確認します。
承継の設計:土地と株式をどう引き継ぐか
所有と運営を分けた場合、承継の対象は「土地(または資産管理会社の株式)」と「運営会社の株式」の二つになります。
- 土地の承継:誰が引き継ぐか、共有にしないか、納税資金をどう確保するか。
- 運営会社の株式の承継:経営を担う後継者に議決権を集めるか、外部への承継も視野に入れるか。
- 両者の関係の継続:承継後も賃貸借契約が続くこと、地代・家賃の見直しの方法を、関係者が理解しているか。
- 意思の残し方:遺言などで、土地と株式の承継の方針を明確にしておくか。
土地を引き継ぐ人と運営会社を引き継ぐ人が異なる場合、両者の利害は「地代・家賃の水準」で直接ぶつかります。承継の前に、その水準の考え方や見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。
AEGISの視点
AEGISは、土地を起点とした事業を設計するとき、「誰が持つか(所有)」と「誰が営むか(運営)」を、最初から別々の問いとして扱うことを大切にしています。
土地は、家族が長い時間をかけて受け継いできた資産です。一方、事業は、地域の需要や担い手の状況に応じて形を変えていくものです。この二つを一体で持ち続けると、どちらかの事情がもう一方を縛ることがあります。所有と運営を分けることは、土地を守りながら事業に挑戦し、事業を育てながら土地を次の世代に引き継ぐための、承継を前提とした設計だと考えています。
ただし、その効果は、地代・家賃の設定、借地権の扱い、特例の区分といった細部の設計に支えられて初めて得られます。税務だけを見て形を決めるのではなく、事業の継続性と家族の承継の方針を先に定め、そのうえで税務上の扱いを確認する——その順番が重要です。
賃貸以外の活用の型は関連記事「土地を貸す以外の活用方法」、選択肢全体の比べ方は「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」、評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。
不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。
不動産の所有形態や同族会社との取引に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 所有と運営を分ける設計は、事業のリスクと土地という資産を切り分け、それぞれに合った承継を可能にするものです。
- 典型的には、個人が土地を貸す形、個人が建物を貸す形、資産管理会社が貸す形があります。
- 法人が関わる土地の貸し借りでは、権利金・地代・無償返還の届出の有無によって借地権の課税関係が変わります。
- 小規模宅地等の特例の区分も、所有・貸借の形や運営会社の事業内容によって変わります。
- 承継の前に、地代・家賃の水準と見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。
よくある質問
Q. 土地を持つ人と事業を運営する会社を分けると、節税になりますか?
分けること自体が節税を目的とするものではありません。分ける意味は、事業のリスクと土地の切り分けや、承継の担い手を分けられることにあります。税務上の扱いは、地代・家賃の水準や貸し借りの形によって有利にも不利にもなり得るため、個別に確認が必要です。
Q. 自分の土地に、自分が経営する会社の建物を建てる場合、何に注意すべきですか?
建物の所有を目的として法人に土地を貸すことになるため、権利金や地代の扱いによって借地権の認定課税の問題が生じることがあります。契約で将来の無償返還を定めて税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」の手続もあるため、建築前の段階で確認しておくことが大切です。
Q. 家族の会社に土地を無償で貸すことはできますか?
当事者間の契約としては可能ですが、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間の使用貸借と同じ考え方にはならず、税務上の課税関係が生じることがあります。地代の水準や届出の要否を含めて、事前に確認することをおすすめします。
Q. 特定同族会社事業用宅地等とは何ですか?
小規模宅地等の特例の区分の一つで、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等をいいます。国税庁によれば400㎡まで80%の減額の対象となり得ますが、申告期限において宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、宅地等を保有し続けることなどの要件があります。なお、法人への貸付けが無償(使用貸借)の場合は対象になりません。
Q. 土地と運営会社の株式を、別々の子に引き継いでも問題ありませんか?
可能ですが、承継後は地代・家賃の水準をめぐって両者の利害が対立することがあります。承継の前に、賃貸借の条件や見直しのルール、遺言などによる承継方針を明確にしておくことが望まれます。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/731101/01.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁「C1-63 土地の無償返還に関する届出」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_48.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日 直資2-58・直評9、最終改正 平成17年5月31日)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/850605/01.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(昭和43年10月28日 直資3-22ほか)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/681028/01.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4613「貸宅地の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4613.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4614「貸家建付地の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」(平成元年3月30日 直法2-2)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/890330/01.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて 69の4-23(法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/sochiho/080708/69_4/01.htm
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)第69条の4
https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
確認日:2026-10-09
