不動産は個人と法人のどちらで保有するか|税率だけでなく収益・管理・承継で比べる

住宅模型とビル模型を並べて相談者に説明する専門家

賃貸不動産が増えてくると、「個人で持ち続けるべきか、法人で持つべきか」という問いに行き当たります。よく聞かれるのは「所得が多いなら法人のほうが税金が安い」という説明ですが、それは比較の一部にすぎません。

結論から言えば、個人保有と法人保有の選択は、税負担・手元資金の使い道・管理の負担・承継のしかた・移行にかかるコストの5つの軸で比べて判断するのが基本です。そして、どちらが合うかは、オーナーの所得水準や家族構成、不動産を将来どうしたいかによって変わります。この記事では、両者の違いを整理したうえで、自分の状況に当てはめて考えるための視点を解説します。

個人保有と法人保有の基本的な違い

まず、個人で持つ場合と法人で持つ場合の主な違いを整理します。

項目個人で保有法人で保有
賃料収入にかかる税金不動産所得として、他の所得と合わせて所得税・住民税(所得税は5%〜45%の累進税率)法人の所得として法人税等(中小法人には所得の一定部分に軽減税率あり)
収益の帰属オーナー個人法人。個人が受け取るには役員報酬や配当などの形をとる
売却したとき譲渡所得として分離課税(所有期間5年超かどうかで長期・短期に区分)売却損益は法人のその他の損益と合わせて課税
相続のとき不動産そのものが相続財産になり、土地は路線価等、建物は固定資産税評価額で評価相続財産になるのは法人の株式。取引相場のない株式として評価
運営の手間と費用確定申告が中心法人の設立、会計・決算、法人税等の申告などが必要

(所得税の税率は国税庁 No.2260、法人税の税率は No.5759、譲渡所得の区分は No.3202、不動産の評価は No.4602、株式の評価は No.4638 による)

この表から分かるのは、個人と法人では「税金の計算方法」だけでなく、「お金の流れ」と「相続で引き継ぐものの形」が根本的に違うということです。

比較の軸1:税負担

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進税率で、課税所得に応じて5%から45%までの7段階に分かれています(国税庁 No.2260)。これに住民税が加わります。一方、法人税は所得に対して一定の税率を乗じる仕組みで、中小法人には所得の一定部分について軽減税率が設けられています(国税庁 No.5759)。

このため、オーナーの給与や事業の所得がすでに高く、不動産所得がさらに上乗せされている場合には、法人で持つほうが全体の税負担が抑えられる可能性があります。反対に、所得がそれほど高くない場合は、法人の運営費用を上回るほどの差が生じないこともあります。

ただし、ここでの比較は「法人の段階」の税金だけでは不十分です。法人に残った利益を個人が使うためには、役員報酬や配当として受け取る必要があり、その段階で個人にも課税されます。法人と個人を合わせた全体の税負担で比べることが大切です。

比較の軸2:手元資金と使い道

個人で保有すれば、賃料から税金や経費を差し引いた残りは、そのままオーナー個人の資金になります。生活費や他の投資に自由に使えるのが利点です。

法人で保有すると、利益は法人の中にたまります。次の物件の取得資金や修繕の積立てとして法人内で使うには向いていますが、オーナー個人が自由に使えるお金ではありません。個人に移すには、役員報酬や配当、法人からの借入れなどの形をとることになり、それぞれに税務上の扱いがあります。

また、法人では、家族を役員にして実際の業務に応じた報酬を支払うことで、収益を家族に分けるという考え方もあります。ただし、報酬は業務の実態に見合ったものである必要があり、形式だけの役員就任では認められないことがあります。

「不動産の収益を何に使いたいか」——生活資金なのか、再投資なのか、次世代への資産形成なのか——によって、適した保有形態は変わります。

比較の軸3:管理と運営の負担

法人で不動産を保有すると、次のような手間と費用が継続的に発生します。

  • 法人の設立手続きと費用
  • 帳簿の作成、決算、法人税等の申告
  • 役員の任期管理や株主総会など、会社としての手続き
  • 法人と個人の資金を明確に分けて管理すること

個人の確定申告に比べて、管理の負担は確実に増えます。この負担を「法人化で得られる効果」と比べて、なお見合うかどうかを確認する必要があります。法人と個人の間の資金の貸し借りや、事業会社との資金のやり取りが生じる場合は、その整理も欠かせません。

一方で、法人で保有することで、不動産の管理を個人の判断から会社の意思決定へと移せるという面もあります。オーナーの判断能力が低下したときにも、役員体制が整っていれば会社として運営を続けやすくなります。

比較の軸4:承継のしかた

相続の場面では、個人保有と法人保有の違いが特に大きく表れます。

個人保有の場合は、不動産そのものが相続財産になります。土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価されます(国税庁 No.4602)。複数の不動産を複数の相続人で分ける必要があり、分けにくい場合には共有になりやすいという課題があります。

法人保有の場合は、相続財産になるのは法人の株式です。株式は不動産より分けやすく、生前に少しずつ後継者へ移すこともできます。また、不動産そのものを共有にしなくても、株式の持ち方で家族の持分を表現できます。株式の評価は、取引相場のない株式として、会社の規模や株主の立場に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式などにより行われます(国税庁 No.4638)。不動産を多く持つ会社の場合、評価方法に特別な取扱いがあることにも注意が必要です。たとえば純資産価額方式による計算では、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、路線価等による評価ではなく通常の取引価額で評価するとされています(財産評価基本通達185)。国税庁が公表した貸付用不動産の評価に関する通達案でも、この純資産価額の計算における土地や建物には、課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産の評価の定めは適用しないとされています。なお、取引相場のない株式の評価方法は国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しており、法人が取得した貸付用不動産や3年以内に取得した不動産の取扱いも検討事項に挙げられています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。

ただし、株式に分けやすいということは、議決権が分散しやすいということでもあります。誰が会社の意思決定を担うのか、株式を誰にどれだけ持たせるのかを、承継の設計として考えておく必要があります。

比較の軸5:移行にかかるコスト

すでに個人で持っている不動産を法人に移す場合と、これから購入する不動産を最初から法人で取得する場合とでは、検討すべき内容が大きく異なります。

既存の不動産を個人から法人へ移すと、税務上は個人から法人への売却(または贈与など)になります。このとき次のような論点が生じます。

  • 個人側で、売却益に対する譲渡所得の課税が生じる可能性
  • 不動産の名義変更に伴う登記などの費用や、取得に伴う税金
  • 時価を基準とした価格設定。時価と大きく異なる価格での取引は、個人と法人の双方に想定外の課税関係を生じることがある(たとえば個人が法人へ時価の2分の1未満の価額で譲渡すると、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得が計算されます。所得税法59条1項2号、同法施行令169条)
  • 法人側の取得資金と、借入れの組み直し

新たに購入する不動産であれば、これらの移行コストはかかりません。そのため、「既存の不動産をどうするか」と「今後の購入をどうするか」を分けて考えることが現実的です。個人保有の不動産を法人へ移す前に比べるべき点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で詳しく解説しています。

自分の状況に当てはめるための目安

5つの軸を踏まえると、次のような傾向が考えられます。あくまで検討の出発点としての目安です。

状況検討の方向性
給与・事業所得が高く、不動産所得も大きい法人保有を比較の候補に入れる価値がある
不動産の収益を主に生活資金として使いたい個人保有のほうがお金の流れが単純
今後も物件を買い増していく方針新規取得分から法人で持つ形を検討しやすい
相続人が複数で、不動産の分け方が難しい株式で持つことによる分けやすさを検討する価値がある
物件が少なく、管理の手間を増やしたくない個人保有のままのほうが負担は小さい

※実際の判断には、所得の見通し、借入れの状況、家族構成、物件ごとの事情などを踏まえた試算が必要です。

また、個人か法人かは「すべてをどちらか一方に寄せる」二択ではありません。物件ごとに保有主体を分けたり、土地と建物で所有者を分けたりする形もあります。ただし、土地と建物の所有者が異なる場合は、地代の設定や借地権の取扱いなど、別の税務上の論点が生じるため、慎重な検討が必要です。

実務上注意したいポイント

  • 株主を誰にするかを最初に決める:法人を設立するときの株主構成は、そのまま将来の承継の出発点になります。後から株式を移すと、評価額によっては贈与税などがかかることがあります。
  • 法人と個人のお金を混ぜない:法人の預金と個人の預金を明確に分け、貸し借りがあれば記録を残します。資金の流れが曖昧だと、税務上も承継の場面でも問題になりやすくなります。
  • 借入れと保証を確認する:法人で借入れをする場合、オーナー個人が連帯保証を求められることがあります。承継の際には保証の引継ぎも論点になります。
  • いつ設立するかを考える:法人化の効果が出やすい所得水準や物件数は、オーナーごとに異なります。資産管理会社の設立を検討するタイミングについては、関連記事「資産管理会社の設立を検討するタイミング」で整理しています。

AEGISの視点

「個人と法人、どちらが得か」という問いは、税金の比較として語られることがほとんどです。しかしAEGISは、この問いを「誰が、どのような形で、この不動産を持ち続けるのか」という所有の設計の問題として捉えています。

法人で持つことは、税率の選択であると同時に、収益の流れを変え、意思決定の主体を変え、相続で引き継ぐものの形を変えることでもあります。税負担が軽くなっても、オーナーが自由に使える資金が減ったり、株式の分散で将来の意思決定が難しくなったりすれば、その選択は家族全体にとって最適とは言えません。

AEGISでは、所有形態を税務だけでなく収益・管理・承継まで含めて設計する考え方を「Property Ownership Design(不動産所有設計)」と呼んでいます。個人・法人・資産管理会社といった選択肢を、オーナーの事業や金融資産、家族の状況と合わせて一つの全体像の中で比べることが、後から組み直さなくてよい判断につながると考えています。不動産の購入から承継までを通して所有形態を考える全体像は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

不動産の所有形態と税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 個人保有と法人保有は、税金の計算方法だけでなく、お金の流れと相続で引き継ぐものの形が根本的に異なります。
  • 比較は、税負担・手元資金の使い道・管理の負担・承継のしかた・移行コストの5つの軸で行うのが基本です。
  • 税負担は、法人の段階だけでなく、個人が資金を受け取る段階を含めた全体で比べる必要があります。
  • 既存の不動産を法人へ移す場合と、新たに法人で購入する場合とでは、検討すべき内容が大きく異なります。
  • 法人で持つ場合は、株主構成がそのまま承継の出発点になります。
  • 具体的にどちらが適しているかは、所得水準や家族構成、不動産の方針などの個別事情によって異なります。
  • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

よくある質問

Q. 所得がいくら以上なら法人で持つほうが有利になりますか?

一律の基準はありません。個人の所得税は累進税率で、法人税等とは計算の仕組みが異なるため、オーナーの他の所得、不動産所得の額、法人から個人へ資金を移す方法、法人の運営費用などを合わせて試算する必要があります。「法人の段階の税金」だけで比べないことが大切です。

Q. 個人で持っている不動産を、あとから法人に移すことはできますか?

可能ですが、税務上は個人から法人への売却などとして扱われ、個人側で譲渡所得の課税が生じる可能性や、登記などの費用、取得に伴う税金がかかります。時価を基準に取引する必要もあります。新たに購入する不動産を法人で取得する場合とは、検討の内容が大きく異なります。

Q. 法人で持つと、相続税は必ず安くなりますか?

必ず安くなるとは言えません。法人で持つ場合、相続財産になるのは法人の株式で、その評価は会社の規模や資産の内容によって異なります。不動産を多く持つ会社には評価方法に特別な取扱いもあります。相続税の額だけでなく、株式の分けやすさや議決権の集め方といった承継のしやすさも含めて比べることが重要です。

Q. 家族を法人の役員にすれば、収益を家族に分けられますか?

家族が実際に業務に携わり、その内容に見合った報酬であれば、役員報酬として支払うことは考えられます。ただし、業務の実態がないまま報酬を支払うと、税務上認められない可能性があります。報酬の額は、役割と業務の内容に照らして決める必要があります。

Q. 物件ごとに個人と法人で持ち分けてもよいのですか?

可能です。たとえば既存の物件は個人のまま持ち、今後の購入分は法人で取得するといった形は、移行コストを抑えながら法人保有を始める方法の一つです。ただし、土地と建物で所有者を分ける場合などは、地代や借地権の取扱いといった別の論点が生じるため、慎重な検討が必要です。

関連するAEGISのソリューション

この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

  • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。
  • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。
  • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
  • 不動産オーナーの方へ:3つの独自分析で承継の負担と資金を確認し、不動産ごとの方針を決める支援の流れをまとめています。
  • 高所得者の方へ:所得と資産の両面から、税負担と資産形成を整理する支援をまとめています。
  • 事業オーナーの方へ:会社と株式、ご家族の承継を一つの計画として整理する、AEGISの支援の流れをまとめています。

参考資料・出典

公的資料・一次情報

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。