相続した財産を寄附したときの相続税の非課税|申告期限までの寄附、対象となる法人、寄附後2年の要件と所得税の扱い

公園の小道を歩きながら話す年配の男性と女性担当者

相続で受け取った財産の一部を、亡くなった家族がお世話になった病院や母校、地域の団体などに寄附したいと考える方は少なくありません。

このとき、相続税の申告期限までに、国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すれば、寄附した財産は相続税の課税対象から外れます(租税特別措置法70条)。ただし、寄附先の法人の種類、寄附のタイミング、寄附した財産が「相続で取得した財産そのもの」であること、寄附後2年間の使われ方など、いくつもの要件があります。また、相続税とは別に、所得税の寄附金控除や、不動産・株式を寄附したときの「みなし譲渡」も検討が必要です。

この記事では、相続人が自らの判断で寄附する場合の制度に絞って、要件と注意点を整理します。

制度の概要:寄附した財産は相続税の計算に入れない

相続や遺贈で財産を取得した人が、その財産を相続税の申告書の提出期限までに、国・地方公共団体や、公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定める法人に贈与(寄附)した場合、その財産の価額は相続税の課税価格の計算の基礎に算入しません(租税特別措置法70条1項)。認定NPO法人への寄附(同条10項)や、公益信託の信託財産とするための支出(同条3項)にも、同様の特例があります。

亡くなった方が遺言で寄附する「遺贈寄附」とは異なり、この特例は相続人が相続後に自分の判断で寄附する場面で使います。遺言がなくても、相続人の意思で社会に財産をつなぐことができる制度です。遺言による寄附については、関連記事「遺贈寄附とは何か」で解説しています。

寄附先として対象になる法人・ならない法人

特例の対象となる寄附先は限られています。国税庁のタックスアンサーNo.4141などをもとに整理すると、次のとおりです。

区分主な寄附先特例の対象
国・地方公共団体国、都道府県、市区町村など対象
特定の公益法人公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、一定の学校法人、更生保護法人、独立行政法人、国立大学法人、日本赤十字社など対象
認定NPO法人所轄庁の認定を受けた特定非営利活動法人(特定非営利活動に係る事業に関連する寄附に限る)対象
公益信託公益信託の信託財産とするための支出対象
公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人非営利型法人を含む対象外
認定を受けていないNPO法人—対象外
これから設立する法人公益法人を設立するための財産の提供対象外

※AEGIS作成。法人の範囲の詳細は租税特別措置法施行令40条の3と国税庁の情報で確認が必要です。

特に注意したいのは、寄附の時点で既に存在し、対象法人に当たっていることが必要な点です。国税庁の通達では、特例の対象法人を設立するための財産の提供には適用がないとされています。故人の名を冠した財団を新たに作る場合は、この特例ではなく、別の制度や設計を検討することになります。

また、病院や施設への寄附を考える場合、その運営主体が対象法人に当たるかどうかを事前に確認することが欠かせません。医療法人や一般の財団法人などは、対象の範囲に含まれないことがあります。

要件1:相続税の申告期限までに寄附すること

寄附は、相続税の申告書の提出期限までに行う必要があります。申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。

期限までに「寄附の意思を決めた」だけでは足りず、実際に財産の移転を終えている必要があります。不動産や株式の場合は、名義変更などの手続に時間がかかることもあるため、遺産分割の協議と並行して、寄附先との調整を早めに始めることが大切です。

要件2:相続で取得した財産そのものを寄附すること

対象となるのは、相続や遺贈で取得した財産です。生命保険金や退職手当金のように、相続税法上、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も含まれます。

一方、国税庁の通達では、次のような整理が示されています。

寄附する財産扱い
相続した預貯金を払い戻した金銭相続で取得した財産に当たるものとして扱う
相続した建物の焼失による火災保険金(被相続人が契約者のもの)同上
相続した財産の収用等に伴って取得した財産同上
相続した財産を売却して得た代金当たらない
相続した投資信託を解約して得た金銭当たらない
被相続人から生前に贈与され、相続税の計算に加算される財産含まれない

※AEGIS作成(国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」70-1-5、70-1-6をもとに整理)。

代償分割で受け取った代償金の場合

遺産分割で、不動産などを取得した相続人が他の相続人に金銭(代償金)を支払う「代償分割」を行うことがあります。代償金を受け取った相続人がその金銭を寄附する場合、その代償金が「相続で取得した財産そのもの」に当たるかが問題になります。

代償金は、被相続人の財産ではなく、他の相続人が自らの財産から支払うものです。通達が、相続財産を売却した代金でさえ対象外としていることを踏まえると、代償金を寄附した場合に特例の対象とされるかは慎重に考える必要があり、対象外と判断される可能性を前提に計画することが現実的です。寄附を予定している場合は、遺産分割の段階で、寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得する分け方を検討する余地があります。

要件3:寄附後2年間の使われ方

寄附を受けた法人が、寄附の日から2年を経過した日までに対象法人に当たらなくなった場合や、寄附された財産をその日までに公益を目的とする事業に使っていない場合、使わなくなった場合には、特例は適用されません(租税特別措置法70条2項)。この場合、寄附した相続人は、2年を経過した日の翌日から4か月以内に修正申告をして相続税を納める必要があります(同条6項)。

寄附した財産そのものでなく、法人がその財産を売却し、代金を公益目的の事業に充てた場合について、国税庁の質疑応答事例は、売却代金が現実に公益目的の事業に充てられたのであれば、事業の用に供されたことになるとしています。

要件4:税負担を不当に減少させないこと

寄附によって、寄附した人やその親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合は、特例は適用されません。たとえば、寄附した人や親族が、寄附先の法人を通じて特別の利益を受けている場合が該当します。

寄附した相続人が寄附先の法人の理事を務めていることだけで直ちに不当減少となるわけではなく、法人の運営組織の適正さ、役員に占める親族等の割合、特別の利益の有無などの要件に照らして判断されます。家族が関わる法人への寄附は、要件を満たしているかを事前に確認しておくことが大切です。

手続:申告書への記載と書類の添付

特例を受けるには、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、寄附した財産の明細書(申告書第14表)や、寄附を受けた法人が発行する書類(寄附を受けた旨・年月日・財産の明細・使用目的を記載したもの)などを添付する必要があります(租税特別措置法70条5項)。添付がない場合は特例を受けられません。

寄附先には、これらの書類の発行を依頼する必要があるため、寄附の段階で受領書類の内容を確認しておくと安心です。

所得税との関係:寄附金控除とみなし譲渡

相続税の非課税とは別に、所得税の扱いも確認が必要です。

寄附する財産相続税所得税
現金・預貯金要件を満たせば課税価格に算入しない寄附金控除の対象となり得る
不動産・株式など要件を満たせば課税価格に算入しない法人への寄附は時価でのみなし譲渡課税が原則。非課税にするには措置法40条の承認が必要。承認を受けた場合の寄附金控除の対象額は取得価額

※AEGIS作成。

国税庁の質疑応答事例では、相続税の非課税の特例の適用を受けた寄附であっても、所得税の寄附金控除の対象になるとされています。

一方、不動産や株式を法人に寄附すると、寄附した相続人に所得税の「みなし譲渡」が生じるのが原則です。相続税の非課税と、譲渡所得の非課税は別々の制度で、別々の要件と手続があります。譲渡所得の非課税を受けるには、国税庁長官の承認が必要で、寄附財産を公益目的事業に「直接」使うことなど、相続税の特例より厳しい要件があります。詳しくは関連記事「財団に土地や株式を寄附したときの譲渡所得の非課税」で解説しています。

寄附金控除と税額控除の選び方は「寄附金控除と税額控除はどちらを選ぶか」で整理しています。

AEGISの視点

相続財産の寄附は、相続税の申告期限という限られた時間の中で、遺産分割・納税資金の確保・寄附先の選定を同時に進める作業です。AEGISは、この特例を「相続税を減らす方法」ではなく、故人や家族の想いを、相続手続の流れの中で社会につなぐための仕組みとして捉えています。

実務上は、どの財産を、誰が取得し、どこへ寄附するかを遺産分割と一体で設計することが鍵になります。寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得しておけば、代償金の扱いのような論点を避けやすくなります。また、不動産や株式をそのまま寄附するのか、相続した預貯金で寄附するのかによって、所得税の負担や手続は大きく変わります。

寄附の想いが生前から明確であれば、遺言による遺贈寄附や、財団の設計を含めて検討する選択肢も広がります。財団・寄附の全体像は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

相続税と寄附に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すると、その財産は相続税の課税価格に算入されません(措置法70条)。
  • 公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人や、これから設立する法人への寄附は対象外です。
  • 対象は相続で取得した財産そのものです。預貯金の払戻金は対象となる一方、相続財産の売却代金は対象外とされており、代償金も慎重な検討が必要です。
  • 寄附後2年以内に法人が要件を外れたり、財産が公益目的に使われなかったりすると、修正申告が必要になります。
  • 不動産・株式の寄附では、所得税のみなし譲渡と措置法40条の承認を別に検討する必要があります。

よくある質問

Q. 相続税の申告期限を過ぎてから寄附した場合はどうなりますか?

この特例は、申告期限までの寄附が要件です。期限後に寄附した場合は特例の対象にならず、寄附した財産も含めて相続税が計算されます。寄附を考えている場合は、早めに寄附先を決めて手続を進めることが大切です。

Q. 父が理事をしていた一般財団法人に、相続した預金を寄附したいのですが対象になりますか?

公益認定を受けていない一般財団法人は、特例の対象となる法人に含まれません。公益財団法人であれば対象となり得ますが、寄附する相続人や親族が特別の利益を受けていないかなど、不当減少に当たらないことの確認も必要です。

Q. 受け取った生命保険金を寄附しても特例の対象になりますか?

生命保険金や退職手当金のように、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も、特例の対象となる財産に含まれるとされています。申告期限までに対象法人に寄附すれば、適用を受けられる可能性があります。

Q. 代償分割で受け取った代償金を寄附したい場合はどうすればよいですか?

代償金は他の相続人の財産から支払われるもので、相続財産そのものではありません。特例の対象とされない可能性があるため、寄附を予定している財産は、寄附する相続人が遺産分割で直接取得する形を検討することが考えられます。

Q. 相続した土地をそのまま公益財団法人に寄附すると、税金はかかりませんか?

相続税は、要件を満たせばその土地の価額が課税価格に算入されません。ただし、所得税では法人への寄附は時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得が課税されるのが原則です。非課税にするには、寄附の日から原則4か月以内に措置法40条の承認申請を行い、承認を受ける必要があります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会、第4章 P.531-536
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この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。