投稿者: AEGIS

  • マンション標準管理規約の改正で所有者に何が変わるか|令和7年改正の要点と、賃貸中・相続した所有者が確認したいこと

    マンション標準管理規約の改正で所有者に何が変わるか|令和7年改正の要点と、賃貸中・相続した所有者が確認したいこと

    国土交通省は、令和7年(2025年)10月17日に「マンション標準管理規約」を改正しました。同じ年の5月に区分所有法などのマンション関係法が改正され、その中核となる改正区分所有法が令和8年(2026年)4月1日に施行されたことに対応するものです。

    結論から言えば、区分所有者が押さえておきたいのは次の3点です。

    • 標準管理規約は「ひな型」であり、自分のマンションの規約は自動的には変わらない
    • ただし、改正区分所有法に反する規約の定めは、施行日から効力を失っている
    • 総会の決め方や、連絡が取れない所有者・海外に住む所有者の扱いが変わり、賃貸中や相続した所有者ほど影響を受けやすい

    この記事では、令和7年改正の主な内容を整理したうえで、自分のマンションで確認したいことと、賃貸に出している所有者・相続でマンションを取得した所有者への影響を解説します。区分所有法そのものの改正内容(建替え・再生の決議要件など)は、関連記事「区分所有法の改正でマンション所有者に何が変わるか」で扱っています。

    標準管理規約とは何か

    マンションの管理規約は、建物や敷地の管理・使用について区分所有者の間で定めるルールです。区分所有法では、規約の設定・変更・廃止は集会(総会)の決議によるとされています(建物の区分所有等に関する法律31条)。

    標準管理規約は、国土交通省が各マンションの管理規約づくりの参考として示しているモデル(ひな型)です。単棟型、団地型、複合用途型(店舗と住宅が併存するもの)の3種類があり、それぞれにコメント(解説)が付いています。

    標準管理規約が改正されても、各マンションの管理規約が自動的に書き換わるわけではありません。自分のマンションの規約を変えるには、総会で規約変更の決議をする必要があります。

    なぜ今回の改正が重要なのか

    今回の改正が重要なのは、区分所有法の改正と連動しているためです。改正区分所有法の附則では、施行の際に効力を有する規約の定めのうち、改正後の法律に抵触するものは、施行日から効力を失うとされています(改正法附則2条3項)。

    例えば、総会の定足数や決議要件について、改正前の法律に合わせて定めていた規約の条文は、改正後の法律に抵触する可能性が高いとされています。そのまま放置すると、規約に書かれている内容と実際に適用されるルールが食い違い、総会運営の混乱や誤解の原因になります。国土交通省も、各マンションで管理規約を見直す必要があるとしています。

    令和7年改正の主な内容

    国土交通省の改正の概要は、大きく三つのグループに整理されています。主な項目は次のとおりです。

    グループ主な改正項目(標準管理規約の条項)区分所有者にとっての意味
    総会の手続き・決議決議要件の見直し(47条:出席者の多数決による特別決議、定足数の見直し、共用部分の変更や再生の決議要件の緩和など)欠席すると、出席者だけで物事が決まりやすくなる
    招集通知に議案の要領を記載(43条)通知で議案の中身を事前に確認できる
    所在等不明区分所有者を決議の母数から除く手続き(67条の3・新設)連絡が取れない所有者がいても決議が進められる
    権利・資金・財産の管理国内管理人の制度を活用する手続き(31条の3・新設)海外に住む所有者は、国内の代理人を届け出る
    専有部分の保存行為の実施を請求できる旨の明確化(23条など)共用部分の工事に関連して、専有部分の工事を求められる場合がある
    修繕積立金の使途の見直し(28条)新しい再生手法の調査・設計、積立金の運用費用、改良工事にも使えることを明確化
    所有者不明・管理不全の専有部分の管理制度の活用(67条の4・67条の5・新設)放置された住戸への対応手段が整う
    共用部分に関する損害賠償請求を理事長が一元的に行使(24条の2・新設)共用部分の不具合への請求をまとめて進めやすくなる
    管理組合の運営など役員の職務代行、欠格条項、本人確認、防災・防火管理者、喫煙ルールなど役員の担い手不足やなりすましへの対応

    ※国土交通省「令和7年マンション標準管理規約改正の概要」をもとにAEGISが整理。項目の詳細は国土交通省の新旧対照表等で確認できます。

    総会の決議:出席者で決まる仕組みへ

    改正区分所有法では、普通決議は出席した区分所有者とその議決権の各過半数で決めるとされ(39条)、規約の変更などの特別決議も、一定の定足数を満たしたうえで出席者の4分の3以上で決めることになりました(31条など)。書面や代理人による議決権の行使は、出席として数えられます(39条2項)。

    標準管理規約もこれに合わせて改められました。これまでは「欠席しても、反対したのと同じ効果になる」場面がありましたが、改正後は欠席者が決議の母数から外れます。総会に関心を持たない所有者が多いマンションでも決議ができるようになった反面、欠席すれば自分の意見が反映されないまま決まることになります。

    連絡が取れない所有者を母数から除く

    相続登記がされないまま所有者が分からない住戸や、所在が分からない所有者がいると、決議に必要な賛成が集まらないことがありました。改正区分所有法では、裁判所の手続きにより、こうした所在等不明区分所有者を集会の決議から除外できる仕組みが設けられ(38条の2)、標準管理規約にもその手続きの規定が置かれました。

    海外に住む所有者と国内管理人

    区分所有者が国内に住所や居所を持たない場合に、専有部分と共用部分の管理に関する事務を行わせるため、国内に住む人を国内管理人として選任できる制度が設けられました(区分所有法6条の2)。国内管理人は、保存行為、総会の招集通知の受領、議決権の行使、管理費などの支払いといった権限を持ちます。

    標準管理規約では、国内管理人を選任した場合にその旨や氏名・住所を理事長に届け出る手続きが定められています。また、コメントでは、規約で国内管理人の選任を義務づける場合の規定例も示されています。

    修繕積立金の使途

    修繕積立金の使い道について、新たな再生手法(建物の更新・売却・取壊しなど)の調査・設計段階の支出、積立金の管理・運用に要する費用、建物や設備の性能を新築時より向上させる改良工事にも充てられることが明確にされました。積立金の水準そのものを考えるときは、関連記事「マンションの管理費・修繕積立金が上がるとき」も参考にしてください。

    管理会社が管理者になる方式への対応

    役員の担い手不足を背景に、管理会社が区分所有法上の管理者に選任される「管理業者管理者方式」をとるマンションもあります。国土交通省は、理事会を置かずにこの方式をとる場合のモデルとして、標準管理規約の「書き換え表」も公表しています。管理会社に広い権限が集まる方式のため、管理者の業務の公正さをどう担保するかが規約上の重要な論点になります。

    自分のマンションで確認したいこと

    規約の見直しが済んでいるか

    国土交通省の資料では、規約改正のための総会の招集手続きを令和8年3月31日までに始めたか、4月1日以降に始めたかで、手続きが異なるとされています。4月1日以降に招集する場合は、改正区分所有法の定足数・決議要件によることになります。また、招集通知は原則として会日の1週間前までに、会議の目的と議案の要領を示して発することとされ(区分所有法35条1項)、規約で短縮することはできなくなりました。

    区分所有者としては、次の点を確認しておくと安心です。

    • 管理組合が、改正区分所有法に合わせた規約変更を済ませたか、または予定しているか
    • 総会の定足数・決議要件の条文が、改正後のルールと食い違っていないか
    • 修繕積立金の使途、国内管理人の届出、所在等不明区分所有者の手続きなどの規定が整っているか

    賃貸に出している所有者への影響

    自分は住まずに賃貸に出している所有者は、総会に出席する機会が少なく、管理組合の情報が届きにくい立場にあります。

    • 総会への関与:出席者の多数決で決まる場面が増えるため、議決権行使書や委任状を確実に提出することが、これまで以上に大切になります。
    • 通知の受け取り先:区分所有法では、所有者が管理者に通知を受ける場所を伝えていない場合、招集通知は専有部分の所在地にあてればよいとされています(35条3項)。賃貸中の住戸に通知が届いても自分の手元に来ないことがないよう、通知先を管理組合に届けておきます。
    • 入居者のルール:占有者(入居者)は、建物の使用方法について、区分所有者が規約や総会決議に基づいて負う義務と同じ義務を負います(区分所有法46条2項)。喫煙ルールなど使用方法に関する規定が変わった場合は、入居者への周知も必要になります。
    • 海外赴任・海外移住:国内に住所がなくなる場合は、国内管理人の選任と届出を検討します。

    相続でマンションを取得した所有者への影響

    相続で取得したマンションは、手続きが後回しになりやすく、「連絡の取れない所有者」になってしまうリスクがあります。

    • 相続登記と管理組合への届出:相続登記は義務化されています。あわせて、管理組合に新しい所有者として届け出て、管理費等の引落口座や通知先を変更します。相続登記の義務化は関連記事「相続登記と住所等変更登記の義務化への対応」で解説しています。

    • 遺産分割が終わるまでの対応:相続人が複数で共有になっている間は、議決権を行使する人を決めておく必要があります。区分所有法では、専有部分が共有の場合、招集通知は議決権を行使すべき者(定めがなければ共有者の一人)にすれば足りるとされています(35条2項)。

    • 管理費の滞納を引き継がない:管理費等の滞納分は、区分所有権を引き継いだ人にも請求できるとされています(区分所有法8条)。相続や購入の前後で、滞納の有無を確認しておきます。

    実務上注意したいポイント

    • 標準管理規約は義務ではない:各マンションの実情に合わせて取捨選択されるため、自分のマンションの規約を直接確認することが基本です。
    • 総会資料と議事録を保管する:規約変更の決議内容は、売却や相続のときに買主や相続人が確認する資料にもなります。
    • 使用細則も確認する:喫煙や防災などは、規約本体ではなく使用細則で定められることがあります。

    AEGISの視点

    標準管理規約の改正は、管理組合の役員だけの話と受け止められがちです。しかし今回の改正の中心にあるのは、「関心を持たない所有者、連絡の取れない所有者がいても、マンションの管理が止まらないようにする」という考え方です。裏を返せば、関与しない所有者の意見は反映されにくくなる、ということでもあります。

    AEGISは、マンションの区分所有権を「建物の一部を持つ権利であると同時に、管理組合という共同体に参加する権利」と考えています。賃貸に出している所有者や、相続で取得した所有者ほど、この参加の側面が弱くなりがちです。通知先の届出、議決権の行使、相続後の手続きといった小さな管理が、資産価値と承継のしやすさを左右します。

    制度の改正を「自分ごと」として点検する考え方は、関連記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で整理しています。マンション管理のルール変更も、保有不動産の点検項目の一つとして位置づけておきたいところです。

    まとめ

    • 国土交通省は、令和7年10月17日にマンション標準管理規約を改正しました。改正区分所有法(令和8年4月1日施行)への対応が中心です。
    • 標準管理規約はひな型ですが、改正区分所有法に抵触する各マンションの規約の定めは、施行日から効力を失っています。
    • 総会の決議は出席者の多数決が基本になり、所在等不明区分所有者の除外、国内管理人、修繕積立金の使途などの規定が整えられました。
    • 賃貸中の所有者は通知先の届出と議決権の行使、相続した所有者は相続登記と管理組合への届出を早めに行うことが大切です。
    • 具体的な影響は、各マンションの規約と管理組合の対応状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. 標準管理規約が改正されたら、自分のマンションの規約も自動的に変わりますか?

    変わりません。標準管理規約は国土交通省が示すひな型で、各マンションの規約を変えるには総会での決議が必要です。ただし、改正区分所有法に抵触する規約の定めは、令和8年4月1日から効力を失っているため、規約の見直しが必要とされています。

    Q. 総会を欠席すると、どのような扱いになりますか?

    改正後は、多くの決議が出席者の多数決で決まる仕組みになりました。欠席すると決議の母数に入らず、自分の意見が反映されないまま決まることになります。書面や代理人による議決権の行使は出席として扱われるため、出席できない場合は議決権行使書や委任状を提出しておくことが大切です。

    Q. 海外に転勤することになりました。マンションの管理はどうなりますか?

    国内に住所や居所がなくなる場合、国内に住む人を国内管理人として選任できます。国内管理人は、総会の招集通知の受領や議決権の行使、管理費等の支払いなどを行えます。管理規約で選任や届出が求められている場合もあるため、自分のマンションの規約を確認しておきましょう。

    Q. 相続したマンションの名義変更が済んでいません。何か問題はありますか?

    相続登記は義務化されており、手続きが遅れると、管理組合から連絡が取れない所有者として扱われるおそれもあります。相続登記とあわせて、管理組合への届出、管理費等の引落口座や通知先の変更を早めに行うことをおすすめします。

    Q. 修繕積立金の使い道が広がると、積立金が足りなくなりませんか?

    改正は、修繕積立金を充てられる支出の範囲を明確にしたもので、積立額そのものを定めるものではありません。使い道が広がる分、長期修繕計画と積立金の収支を定期的に見直し、総会で使途を確認することが一層大切になります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『Q&A マンション標準管理規約の改正(令和7年10月改正)』渡辺晋 著、公益財団法人マンション管理センター 発行、P.9-27、P.60-63、P.72、P.78、P.106-108
  • 財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか|寄附後の運用ルールと議決権行使方針のつくり方

    財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか|寄附後の運用ルールと議決権行使方針のつくり方

    自社株を財団に寄附した後、その株式の議決権は、寄附者でも会社の経営陣でもなく、財団自身が、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使するものになります。

    そのため寄附後に必要になるのは、「財団がどのような考え方で議決権を使うのか」をあらかじめ文書にした議決権行使方針と、それを運用する理事会の手続・利益相反の管理・会社との対話の仕組みです。これらが整っていれば、財団は会社にとって予見可能性の高い株主になり、同時に寄附者の家族や経営陣から独立した存在であり続けられます。

    この記事では、寄附「後」の運用ルールに焦点を当て、議決権行使方針に何を書き、どのような場面でどう考えるかを整理します。寄附「前」に決めておくこと(寄附する株式の割合や税務の要件など)は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で扱っています。

    寄附後、財団は株主として会社とどう関わるか

    財団は「独立した株主」になる

    財団が株式を持つと、他の株主と同じように、株主総会での議決権、配当を受け取る権利、会社の情報を求める権利などを持ちます。一方で、財団には持分を持つ人がいません。寄附をしたオーナーであっても、財団の財産や議決権を自分のものとして扱うことはできません。

    財団が保有する株式の議決権は、一般に、理事会の決議などに基づいて代表理事がまとめて行使します。理事は財団に対して、財団の目的に沿って誠実に職務を行う責任を負っています。つまり議決権の行使は、「寄附者や経営陣の意向に従うこと」ではなく、「財団の目的にとって何が適切か」を理事会が判断することです。

    保有と運営にかかる主な制約

    財団が自社株を持ち続けるうえで、次のような制約があります。いずれも寄附の設計段階で確認すべき事項ですが、寄附後の増資や株式の移動によって状況が変わることがあるため、継続的に確認が必要です。

    • 公益財団法人の場合:公益認定の基準として、他の団体の意思決定に関与できる株式等の保有が制限されており、その会社の株主総会などにおける議決権の過半数を有していない場合に限って保有が認められます(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)。
    • 譲渡所得等の非課税特例を受けた寄附の場合:国税庁は、寄附によって法人が保有することになる株式(寄附前からの保有分を含む)が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超えないことを判定項目の一つとしています。また、理事・監事・評議員のそれぞれについて、親族関係などにある人の割合を3分の1以下とする定めを置くことも求められています。さらに国税庁の通達では、寄附者やその親族が役員となっている会社の株式を寄附する場合、その議決権の行使にあたっては、あらかじめ理事会で理事総数の3分の2以上の承認を得ることを定款で定めておくことが、運営組織が適正かどうかの判定項目として示されています(租税特別措置法第40条関係通達18)。
    • 会社の子会社とみなされないこと:財団の理事の多くを会社の役員が占めるなど、会社が財団の方針決定を支配していると評価される状態になると、財団が会社の子会社とみなされ、株式の保有自体が問題になるおそれがあると指摘されています。

    これらは、財団が会社から独立していることを制度の側から求めるものです。議決権行使方針は、この独立性を運用の場面で具体化するものと位置付けると分かりやすくなります。

    議決権行使方針に書くこと

    議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられた文書ではありません。しかし、財団の理事が交代しても判断の軸がぶれないようにするため、また会社や寄附者の家族に財団の考え方を説明するために、文書化しておく意味は大きいと言えます。

    AEGISでは、次の7つの項目で方針を構成することをおすすめしています。

    項目書くことねらい
    1. 基本的な考え方財団の目的と、株主としての立場(中長期の企業価値と安定した配当を重視する等)個々の判断の拠り所をつくる
    2. 議案の区分定例的な議案と、重要な議案の区分手続の重さを議案に応じて変える
    3. 判断の基準区分ごとに、賛否を判断する際に確認する事項判断の再現性を高める
    4. 決議の手続理事会で決議する事項、決議の要件、外部の意見を求める場合意思決定の正当性を確保する
    5. 利益相反の管理会社の役員を兼ねる理事や、寄附者の家族である理事の扱い財団の判断の独立性を守る
    6. 会社との対話説明を受ける機会、配当方針についての意見交換の方法予見可能性を高め、対立を防ぐ
    7. 記録・開示・見直し議事録の残し方、評議員会への報告、方針の見直し時期説明責任を果たし、方針を更新する

    議案の区分と判断の基準

    議案を、たとえば次のように区分しておくと、すべての議案に同じ重さで向き合う必要がなくなります。

    • 定例的な議案:計算書類の承認、剰余金の配当、通常の役員選任など。会社から事前に説明を受け、財団の基本的な考え方に照らして大きな問題がなければ、理事会で包括的に方針を確認したうえで行使する
    • 重要な議案:定款変更、第三者割当による増資、合併・会社分割などの組織再編、株式の大量取得への対応、財団が保有する株式の売却や買取りの提案など。個別に理事会で審議し、必要に応じて外部の専門家の意見を求める

    判断の基準には、「会社の中長期の存続と成長に資するか」「財団の財源である配当の安定性にどう影響するか」「財団の目的や公益性と矛盾しないか」といった問いを置きます。

    理事会での決議と利益相反の管理

    特別な利害関係がある理事の扱い

    理事会の決議について特別の利害関係を持つ理事は、その決議に加わることができません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)第197条で準用する第95条第2項)。典型的には、その理事自身と財団との取引の承認や、その理事の責任免除などがこれに当たります。

    財団の理事が会社の取締役を兼ねている場合、会社の役員選任議案に関する財団の議決権行使の決議に、その理事が参加できるかが問題になります。専門書籍では、会社の役員選任は財団とは別の法人の問題であり、財団の利益と直接衝突するとは限らないため、参加できると考えられるとする見解が示されています。

    ただし、法的に参加が可能かどうかと、運用として望ましいかどうかは別の問題です。財団の判断の独立性を外部に説明する観点からは、次のような運用ルールを方針に書いておくことが考えられます。

    • 会社の役員を兼ねる理事は、会社の役員人事や役員報酬、自身が関わる取引に関する議案では、意見を述べたうえで審議・決議から外れる
    • 寄附者の家族である理事が多数を占めないよう、理事の構成を定期的に確認する
    • 会社の経営陣と財団の考えが対立した場合に、外部の理事を中心に検討する体制を決めておく

    財団と会社の取引

    財団が会社と取引をする場合(会社から寄附や協賛を受ける、会社の施設を借りる、会社に業務を委託する等)、理事がその会社を代表していれば、財団と理事との利益相反取引として理事会の承認が必要になることがあります(一般法人法第197条で準用する第84条第1項)。承認を得るときは、取引の重要な事実を開示し、利害関係のある理事は決議に加わらないことが原則です。

    公益財団法人には、設立者や理事・評議員、その親族などの法人関係者や、株式会社などの営利事業者に特別の利益を与えないことも求められています(認定法5条3号・4号、同法施行令1条)。株式寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けた場合は、寄附者やその親族などに特別の利益を与えないことも要件です(租税特別措置法施行令25条の17第6項)。会社と財団の関係が「持ちつ持たれつ」になりすぎないよう、取引の条件を記録し、説明できる状態にしておくことが大切です。

    配当方針との関係

    自社株の寄附によって設立された財団は、多くの場合、配当を主な財源とします。そのため財団は、配当を期待する株主という立場から会社と向き合うことになります。

    ここで注意したいのは、財団が配当の増額を求めることだけが、財団の目的にかなうわけではないという点です。会社の成長投資が損なわれれば、長い目で見て配当の源泉が細ります。一方で、税制上の非課税特例を受けた寄附の場合、株式から生じる配当が継続して公益目的事業に充てられることが前提とされているため、無配が続くと財団の活動だけでなく、税制上の取扱いにも影響するおそれがあります。

    そこで方針には、次のような事項を書いておくとよいでしょう。

    • 会社の配当方針(安定配当か、業績連動か)について、毎年説明を受ける機会を設ける
    • 減配・無配の提案があった場合に、会社の事業計画と財団の資金計画の両方を確認したうえで賛否を判断する
    • 配当の見込みを財団の予算や積立ての計画にどう反映するかを、事務局と理事会で共有する

    配当の変動を財団の資金計画でどう受け止めるかは、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」と「公益法人の財務規律をオーナー目線で読む」で解説しています。

    場面別に考える議決権行使

    財団の議決権が問われるのは、平時よりも、会社の転機となる場面です。代表的な場面と、検討したい点を整理します。

    場面財団として確認したいこと方針で決めておきたいこと
    定時株主総会(役員選任・配当)会社の業績と事業計画、配当の水準と理由定例議案として包括的に確認する範囲
    第三者割当による増資資金の使い道、財団の持株比率の低下が配当や財団の位置付けに与える影響重要議案として個別審議する
    合併・事業譲渡などの組織再編事業の継続性、雇用、財団が持つ株式の価値と配当への影響外部の意見を求めるかどうか
    株式の買取り・売却の提案価格の妥当性、税制上の取扱い、財団の財源への影響売却を検討する条件と手続
    創業家と経営陣の意見の対立双方の説明、会社の中長期の利益利害関係のある理事の扱いと、外部理事中心の検討体制
    減配・無配の提案会社の資金需要と回復の見通し、財団の活動への影響財団の資金計画との照合手順

    いずれの場面でも、「どちらの味方をするか」ではなく、「財団の目的と会社の中長期の存続にとって何が適切か」を問うことが、財団の議決権行使の基本になります。

    実務上注意したいポイント

    • 方針の原案は寄附の前につくる:寄附後の最初の理事会で方針を採択できるよう、原案を寄附の検討段階で用意しておくと、寄附直後の空白期間を避けられます。
    • 方針で理事を縛りすぎない:理事は、その時点の状況に照らして財団のために判断する責任を負います。方針は判断の拠り所であって、結論をあらかじめ決めておくものではありません。
    • 寄附者は「指示」ではなく「目的」で関わる:寄附者が議決権の行使を指示することはできません。寄附者の想いは、財団の目的や方針の基本的な考え方に込めておくことが現実的です。
    • 持株比率の変化を定期的に確認する:増資や自己株式の取得によって、財団の持株比率や議決権比率は変わります。保有制限や子会社に当たるかどうかの判断に影響するため、毎年確認しておきましょう。
    • 記録を残す:議決権行使の判断理由を議事録に残しておくことは、評議員会や行政庁、社会への説明の基礎になります。

    AEGISの視点

    自社株を財団に寄附するとき、多くのオーナーは「財団が安定株主として会社を支えてくれる」ことを期待します。しかし、財団が安定株主として機能するのは、創業家・経営陣・財団の考えが一致している間に限られることが少なくありません。対立や買収提案、増資といった場面でこそ、財団の判断の仕方が問われます。

    AEGISは、財団の議決権を「会社のために使う議決権」ではなく、「財団の目的のために、会社の中長期の存続を見守る議決権」と捉えています。そのためには、財団の独立性を形だけでなく運用で示すことが欠かせません。議決権行使方針、理事会の手続、利益相反の管理、会社との対話の4つがそろって初めて、財団は会社にとって信頼できる株主になり、寄附者の想いを世代を超えて守る器になります。

    自社株の承継と財団への寄附は、別々の手続として進められがちです。しかし、後継者が持つ議決権と財団が持つ議決権の関係は、承継後の会社の意思決定の形そのものです。株式の評価や資本構成の設計とあわせて、寄附後の運用まで一つの設計図で考えることをおすすめします。財団全体の設計は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    なお、財団に議決権を持たせること自体を避けたい場合は、寄附する株式を議決権のない配当優先株式にする設計も考えられます。財団は配当を受け取る株主として社会貢献の財源を確保し、会社の意思決定は後継者が担うという役割の分け方です。自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に寄附する場合も、この考え方は同じです。ただし、議決権のない株式であっても、定款の定め方によっては一定の場面で種類株主総会の決議が必要になることがあるため、その場面での財団の判断の仕方は、本記事の考え方に沿って整理しておく必要があります。

    財団と株式承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 財団が保有する自社株の議決権は、寄附者や経営陣の意向ではなく、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使されます。
    • 公益財団法人の議決権の過半数保有の制限、非課税特例における2分の1・3分の1の基準、子会社とみなされるリスクなど、財団の独立性を求める制約があります。
    • 寄附後は、基本的な考え方・議案の区分・判断基準・決議手続・利益相反の管理・会社との対話・記録と見直しを含む議決権行使方針を文書化しておくことが有効です。
    • 配当方針については、財団は配当を期待する株主として、会社の成長投資とのバランスを見ながら対話することが大切です。
    • 具体的な制約の適用や手続は、財団の形態・持株比率・寄附時の税務の取扱いによって異なるため、個別に確認してください。

    よくある質問

    Q. 寄附したオーナーは、財団の議決権行使に意見を言えますか?

    寄附者が財団の議決権の行使を指示することはできません。寄附者が財団の理事や評議員を務めている場合は、その立場で議論に参加することになりますが、親族等の割合の制限や利益相反の管理に従う必要があります。寄附者の想いは、財団の目的や議決権行使方針の基本的な考え方に反映しておくことが現実的です。

    Q. 議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられていますか?

    法律で一律に作成が義務付けられた文書ではありません。ただし、理事の交代があっても判断の軸を保ち、会社や寄附者の家族、行政庁に財団の考え方を説明するうえで、文書にしておく意味は大きいと考えられます。理事会で採択し、定期的に見直すことをおすすめします。

    Q. 財団の理事が会社の取締役を兼ねていても問題ありませんか?

    兼任そのものが直ちに禁止されるわけではありませんが、会社の役員が財団の理事の多くを占めると、財団が会社の子会社とみなされるおそれや、財団の判断の独立性が疑われるおそれがあります。兼任する理事の人数を限ったうえで、会社の役員人事や自身が関わる取引の議案では決議から外れるなどの運用ルールを設けておくことが望まれます。

    Q. 会社が増資をすると、財団にどのような影響がありますか?

    財団が増資に応じなければ、財団の持株比率や議決権比率は下がります。配当の総額が変わらなくても、財団の会社における位置付けが変わるほか、保有制限や子会社に当たるかどうかの判断にも影響することがあります。第三者割当による増資は重要議案として、資金の使い道と財団への影響を個別に審議することが望まれます。

    Q. 財団が保有する株式を売却することはできますか?

    財団が株式を売却すること自体は可能ですが、寄附時に譲渡所得等の非課税特例を受けている場合は、売却による買換えや管理の方法について税制上の手続や要件が関わることがあります。また、売却は財団の財源と会社の株主構成の両方に影響します。売却を検討する条件と手続を方針に定め、事前に専門家と税務上の取扱いを確認してください。

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団運営・税務・実行後の管理を整理します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附等の目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会
    • 『公益認定の判断基準と実務』出口正之 著、全国公益法人協会
  • 社会貢献を続ける財団をどう設計するか|寄附者の想いを助成・事業・運営体制に結びつける考え方

    社会貢献を続ける財団をどう設計するか|寄附者の想いを助成・事業・運営体制に結びつける考え方

    事業や資産を築いてきたオーナーが、ある時期から「社会に何かを還したい」と考えるようになることは珍しくありません。その手段として財団の設立が話題にのぼることがありますが、財団は法人をつくった時点で完成するものではありません。寄附者が第一線を退いたあとも、十年、二十年と活動が続いて初めて、想いが社会に届いたと言えます。

    結論から言えば、社会貢献を続ける財団の設計は、「どの法人形態にするか」から始めるのではなく、「何のために、どのような形で、どの資金で、誰が続けるのか」を先に言葉にすることから始まります。法人の種類や税制は、その答えを実現するための手段として後から選ぶものです。

    この記事では、財団設計を5つの要素に分け、それぞれで何を決めておくべきかを、令和6年改正(令和7年4月1日施行)後の公益法人制度と、国税庁が示す寄附税制の考え方を踏まえて整理します。

    財団とはどのような法人か

    財団(財団法人)は、一定の目的のために拠出された財産そのものに法人格を与える仕組みです。株式会社のように出資者が持分を持つ形ではなく、財産を拠出した人であっても、法人の財産に対する持分を持ちません。

    日本の財団法人は、大きく次の2つに分かれます。

    区分成り立ち主な特徴
    一般財団法人一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づき、定款の作成・公証人の認証・財産の拠出・登記によって設立事業内容に法律上の制約は少なく、行政庁の監督は受けない
    公益財団法人一般財団法人が行政庁(内閣府または都道府県)の公益認定を受けたもの公益目的事業を主たる目的とし、行政庁の監督と財務・ガバナンスの基準に服する一方、税制上の優遇がある

    一般財団法人を設立する際には、設立者が拠出する財産の価額の合計が300万円を下回ってはならないとされ、評議員(3人以上)・理事(3人以上)・監事(1人以上)を置くことが必要です。評議員会が理事を選任・解任し、理事会が業務を執行するという、いわば「財産を見守る人」と「財産を使って活動する人」を分けた構造になっています。

    一般財団法人と公益財団法人の違いや、どちらを選ぶかの判断軸については、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で詳しく解説しています。

    なぜ「続ける」ことが難しいのか

    財団の設立手続そのものは、法律に定められた手順に沿って進めることができます。難しいのは、その後の継続です。継続を難しくする要因は、主に次の3つです。

    • 目的と活動のずれ:設立時の想いが抽象的なままだと、寄附者がいなくなった後に「何を優先すべきか」で判断が割れます。一方、財団の目的は設立者の意思を実現するためのものであり、後から自由に書き換えられる性質のものではありません(定款の目的は、設立者が定款で変更を認めた場合や、裁判所の許可を得た場合を除き、評議員会の決議でも変更できないとされています。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第200条)。
    • 財源の不安定さ:基本財産の運用収入や、寄附された株式の配当は、金利や業績によって大きく変動します。収入が減っても、助成の約束や事務局の固定費は残ります。
    • 人の交代:理事や評議員が入れ替わるにつれ、設立時の経緯を知る人が減っていきます。また、寄附者の家族が運営を事実上支配する形は、税制・公益認定の両面で認められにくい設計です。

    つまり財団設計とは、「寄附者がいなくても、想いに沿った判断が自然に行われる仕組み」をあらかじめ組み込むことだと言えます。

    財団設計を構成する5つの要素

    AEGISでは、社会貢献を続ける財団の設計を、次の5つの要素に分けて整理することをおすすめしています。

    要素決めること中心となる問い
    1. 目的(ミッション)解決したい社会課題、支援したい対象、活動の範囲何のために存在するのか
    2. 活動の形助成型・事業型・その併用、対象地域、活動期間どのように社会に届けるのか
    3. 財源拠出する財産の種類と規模、継続収入の見込み何を原資に続けるのか
    4. 運営体制評議員・理事・監事の構成、事務局、意思決定の手順誰が判断し、誰が見守るのか
    5. 器と税制一般財団法人か公益認定か、寄附の方法と時期どの制度を使うのが合理的か

    以下、それぞれの要素で検討したい点を見ていきます。

    1. 目的:想いを「判断の基準」になる言葉にする

    目的は、財団のすべての判断の拠り所です。「社会に役立ちたい」という言葉だけでは、助成先を選ぶ基準にはなりません。

    • 誰の、どのような困りごとを対象にするのか(例:経済的な事情で進学をあきらめる若者、地域の文化財の保存など)
    • なぜその課題なのか(寄附者の経験や事業とのつながり)
    • 活動の範囲(地域、分野、対象年齢など)

    公益認定を目指す場合、公益目的事業は「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」であることが求められます。寄附者の会社の従業員や取引先だけを対象とするような設計は、この考え方と合いにくい点に注意が必要です。

    2. 活動の形:助成型か、事業型か

    財団の活動は、大きく次の2つの形に分けられます。

    • 助成型:奨学金や研究助成、活動団体への助成金など、資金を他者に渡して社会課題の解決を支える形
    • 事業型:財団自らが施設の運営、講座の開催、調査研究などを行う形

    助成型は少人数の事務局でも始めやすい一方、助成先の選考・評価の仕組みが質を左右します。事業型は社会への関与が直接的である反面、人員や施設などの固定費が大きくなります。最初は助成型で小さく始め、経験を積んでから事業を加えていくという段階的な設計も考えられます。

    3. 財源:拠出財産と継続収入の両方を見る

    財団の財源は、大きく「拠出された財産から生まれる果実(運用収入・配当など)」「継続的な寄附」「事業収入」に分けられます。どの財産をどれだけ拠出するかは、活動の規模から逆算して考える必要があります。

    とくに自社株式を拠出する場合は、配当が財団の主な収入源になるため、会社の配当方針と財団の予算が密接に結びつきます。株式の寄附で検討すべき論点は関連記事「非上場株式を財団に寄附する際の検討事項」で、寄附後の運営資金の考え方は「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で整理しています。

    4. 運営体制:寄附者の家族が「支配しない」設計

    財団は持分のない法人であるため、寄附者やその家族が法人を私的に支配できる状態は、税制上も公益認定上も問題視されます。たとえば国税庁は、公益法人等への財産の寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けるための判定の一つとして、理事・監事・評議員のうち親族等の占める割合がそれぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあることや、寄附者などに特別の利益を与えないことなどを示しています。

    運営体制では、次の点を設計しておきたいところです。

    • 評議員・理事・監事に、どのような立場・専門性の人を迎えるか
    • 寄附者やその家族は、どの役割で、どの程度関与するか
    • 助成先や事業の選定を、誰がどのような手順で決めるか(選考委員会の設置など)
    • 事務局の担い手(専任職員、外部委託など)

    5. 器と税制:手段として選ぶ

    最後に、一般財団法人のままで活動するか、公益認定を受けるかを判断します。公益認定を受けると寄附税制上の優遇が受けやすくなる一方、財務や情報開示の基準に継続して対応する必要があります。これらの比較は、上記の4つの要素が固まっているほど判断しやすくなります。

    自ら財団をつくらないという選択肢

    ここまでの5つの要素は、どれも「自ら財団を設立する」場合に、寄附者とその家族が引き受けることになる仕事です。評議員・理事・監事を選び、評議員会と理事会を開き、事務局を置き、毎年の会計と報告を整え、公益認定を目指すならその基準を満たし続ける。財団は寄附者が第一線を退いた後も続くことが前提のため、この運営は後継者や次の世代に引き継がれていきます。

    社会貢献への想いはあっても、ここまでの体制を一族で担い続けるのは重い、と感じる方は少なくありません。そうした場合の選択肢として、自ら財団を設立せず、運営体制をすでに備えた財団の中に、寄附者の名前や想いを冠した基金(冠基金)を設ける方法があります。

    AEGISでは、この考え方を形にする器として、一般財団法人アイジスレガシー財団を設立しました。寄附者ごとに法人をつくるのではなく、一つの財団の中に寄附者の目的に沿った基金を設け、助成や奨学の形で社会につなぐ仕組みです。金銭のほか、一定額の配当が確実に見込まれる株式等の寄附も、専門家の確認と理事会の決定を経て受け入れ、配当を原資に支援を続ける設計をとっています。

    比べる点自ら財団を設立する既存の財団に冠基金を設ける
    設立の手続定款の作成、財産の拠出、評議員・理事・監事の選任などが必要財団との間で基金の目的や条件を合意する
    毎年の運営評議員会・理事会の開催、事務局、会計・報告を自ら担う受け手の財団が担う(所定の事務運営費は寄附者が負担)
    次の世代の負担理事や事務局として運営を引き継ぐ人が必要後継者が財団運営の実務を担う必要はない
    想いの反映目的や事業を自由に設計できる財団と合意した目的の範囲で、基金ごとに支援の分野や対象を定める
    規模の目安設立時の拠出300万円以上(法律上の下限)に加え、運営費を賄える財源受け手の財団の基準による(アイジスレガシー財団の冠基金は、元本を使う方式で500万円以上の金銭寄附、配当・利子収入を原資とする方式で年額200万円以上の収入が確実に見込まれること)

    自ら財団をつくる方法には、目的や事業を自由に設計できるという大きな利点があります。一方、既存の財団を使う方法は、自由度の一部と引き換えに、設立と運営の負担を大きく軽くし、後継者に財団運営の実務を背負わせない選択です。どちらがよいかは想いの大きさではなく、「どの程度の規模で、どれだけ独自に、誰が続けるのか」という5つの要素への答えによって決まります。なお、税務上の取扱いは、寄附の時期、受け手の財団の認定・承認の状況、寄附する財産の内容によって異なるため、どちらの方法でも個別の確認が必要です。

    自社株式を寄附する場合には、議決権のない配当優先株式などを寄附し、議決権のある株式は後継者に承継する設計と組み合わせることで、後継者の経営権を保ったまま、会社の利益の一部を社会に還元することもできます。アイジスレガシー財団の仕組みや基金の種類は、アイジスレガシー財団のホームページで紹介しています。

    押さえておきたい税制の基本

    財団への寄附には、寄附をする個人と、寄附を受ける法人の双方に税務上の論点があります。ここでは、設計段階で知っておきたい基本だけを整理します。

    財産を寄附した個人:みなし譲渡と非課税の特例

    個人が土地・建物・株式などを法人に寄附すると、寄附した時の時価で譲渡があったものとみなされ、それまでの値上がり益に所得税が課されるのが原則です。ただし、公益法人等への寄附で一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税が非課税となる特例があります(租税特別措置法第40条)。承認申請は、原則として寄附の日から4か月以内に、寄附者の所得税の納税地を所轄する税務署に提出します。

    国税庁は、この承認の要件として、寄附が公益の増進に著しく寄与すること、寄附財産が寄附の日から2年を経過する日までに公益目的事業の用に直接供されること、寄附者や親族等の税負担を不当に減少させる結果とならないことなどを示しています。

    寄附を受けた法人:持分の定めのない法人への課税

    持分の定めのない法人(一般財団法人など)に財産が寄附され、それによって寄附者の親族等の相続税や贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。国税庁の通達では、運営組織が適正であるか、特別の利益を与えていないかなどが、その判定の考え方として示されています。

    相続財産を寄附する場合

    相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに公益財団法人などの一定の法人に寄附した場合、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。ただし、寄附を受けた法人が2年以内に公益目的事業に用いないなどの場合には適用されません。また、この特例の対象法人には、公益認定を受けていない一般財団法人は含まれません。

    いずれの制度も、要件や手続きが細かく定められており、寄附の時期・方法・受け手の法人の状態によって結論が変わります。設計の初期段階から、どの制度の適用を前提にするかを確認しておくことが重要です。

    令和7年4月からの公益法人制度改革

    公益法人制度は、令和6年5月に成立した公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(認定法)の改正により、令和7年4月1日から新しい制度に移行しています。内閣府は改正のポイントとして、次の3点を挙げています。

    • 財務規律の柔軟化・明確化:単年度で収支を均衡させる考え方(いわゆる収支相償)を見直し、中期的(5年間)に収支の均衡を図る考え方へ。将来の公益目的事業を充実させるための「公益充実資金」の創設、「遊休財産」から「使途不特定財産」への名称変更など
    • 行政手続の簡素化・合理化:収益事業等の内容の変更を認定事項から届出事項へ変更するなど
    • 自律的ガバナンスの充実と透明性の向上:外部理事・外部監事の導入(外部理事は、収益の額と費用・損失の額がいずれも3,000万円未満の小規模法人を除く)、定期提出書類の原則公表、区分経理の原則義務付けなど

    財団を設計する立場から見ると、この改正は「中長期の計画に沿って資金を積み立て、柔軟に使う」ことを認める方向である一方、「外部の目を入れた運営と情報開示」をより強く求めるものです。寄附者の想いを長く続けるうえでは、むしろ後押しになる面が大きいと言えます。

    実務上注意したいポイント

    設立前に「10年後の姿」を書いてみる

    設立時の熱意だけで進めると、数年後に財源や担い手の問題に直面することがあります。10年後にどの程度の規模で、誰が運営し、どのような成果が出ていればよいかを、一枚に書き出してみることをおすすめします。

    寄附は一度に行う必要はない

    財産の拠出は、設立時に全額を行う必要はありません。最初は小さな規模で設立し、活動の手応えを確かめながら、生前の寄附や遺言による寄附を段階的に組み合わせる設計も考えられます。ただし、寄附の方法と時期によって適用できる税制が異なる点には注意が必要です。

    事業承継と切り離さない

    自社株式や事業用の不動産を財団に拠出する場合、それは会社の株主構成や、後継者が確保できる議決権に直接影響します。財団の設計は、事業承継の計画と一体で検討することが欠かせません。事業承継の全体像は、関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    AEGISの視点

    AEGISは、社会貢献を「合理的な承継の帰結」と捉えています。

    事業や資産を次の世代に引き継ぐことを突き詰めて考えると、「家族に何を残すか」と同時に、「家族に残す必要のないもの、家族だけでは活かしきれないものをどうするか」という問いに行き当たります。会社の株式、地域とのつながり、創業者が大切にしてきた価値観——それらを社会の側に託すことは、承継を考え抜いた結果として、自然に選ばれる選択肢の一つです。

    その意味で、財団は節税の道具でも、名誉のための記念碑でもありません。寄附者の想いを、寄附者がいなくなった後も社会の中で働き続けるかたちに置き換える「器」です。器が長く使われるためには、目的の言葉、財源の見通し、判断する人の仕組みが、器そのものと同じくらい丁寧に設計されている必要があります。

    AEGISでは、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理し、その中に社会への還元を位置付けることを大切にしています。財団に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 財団は、拠出された財産に法人格を与える仕組みで、一般財団法人と、公益認定を受けた公益財団法人があります。
    • 社会貢献を続けるには、「目的・活動の形・財源・運営体制・器と税制」の5つを設計することが大切です。
    • 自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団の中に冠基金を設ける方法もあり、設立・運営の負担や後継者が担う実務を大きく軽くできます。
    • 法人の種類や税制は、目的や活動の形が固まった後に、手段として選ぶのが合理的です。
    • 財産の寄附には、みなし譲渡の非課税特例(租税特別措置法第40条)や持分の定めのない法人への課税(相続税法第66条第4項)など、寄附者・法人双方の税務論点があります。
    • 公益法人制度は令和7年4月1日から新制度に移行し、財務規律の柔軟化とガバナンス・透明性の強化が進められています。

    具体的な設計や税制の適用可否は、寄附する財産の種類、家族構成、事業承継の方針などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 財団をつくるには、どのくらいの財産が必要ですか?

    一般財団法人の設立には、設立者が拠出する財産の価額の合計が300万円以上であることが必要です。ただし、これは法律上の最低限であり、実際に必要な規模は、助成や事業の内容と、それを何年続けたいかによって大きく異なります。活動計画から逆算して検討することが大切です。

    Q. 財団を設立すれば、相続税や所得税はかからないのですか?

    一概には言えません。個人が株式や不動産を法人に寄附すると、原則として値上がり益に所得税が課されます。また、寄附を受けた法人の運営が寄附者の家族に私的に支配されているような場合などには、法人に贈与税や相続税が課されることがあります。非課税となる特例には要件と手続きがあり、適用できるかどうかは個別に確認が必要です。

    Q. 寄附者の家族が理事になることはできますか?

    なることはできますが、家族が運営を支配する形は避ける必要があります。たとえば国税庁は、寄附に係る譲渡所得等の非課税の承認の判定において、役員等のうち親族等の占める割合がそれぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあることなどを示しています。公益認定の基準にも、役員構成に関する制限があります。

    Q. 最初から公益財団法人として設立できますか?

    公益財団法人は、一般財団法人が行政庁の公益認定を受けることで成立します。そのため、まず一般財団法人を設立し、その後に公益認定を申請するのが基本的な流れです。

    Q. 自分で財団をつくらずに、社会貢献を長く続ける方法はありますか?

    あります。運営体制を備えた既存の財団の中に、寄附者の名前や想いを冠した基金を設ける方法です。目的や事業を自由に設計できる範囲は自ら設立する場合より限られますが、理事会・評議員会の運営や会計・報告を寄附者の家族が担う必要がなく、後継者に財団運営の負担を残さずに済みます。基金を設ける基準や事務運営費、税務上の取扱いは、受け手の財団や寄附の内容によって異なるため、事前の確認が必要です。

    Q. 財団の目的は、後から変更できますか?

    財団は設立者の意思を実現するための法人であるため、目的の変更には制約があります。設立時に、目的を狭すぎず広すぎない言葉で定めておくことが重要です。どの程度の変更が可能かは、定款の定めや法人の状況によって異なるため、個別の確認が必要です。

    関連するAEGISのソリューション

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
  • 株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか|配当の変動に備え、活動を続けるための資金設計

    株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか|配当の変動に備え、活動を続けるための資金設計

    株式を寄附して財団をつくると、多くの場合、その株式の配当が財団の主な収入源になります。設立時には「毎年これくらいの配当があれば、この規模の助成ができる」という見通しを立てますが、会社の業績や配当方針は、10年、20年のうちに必ず変わります。

    結論から言えば、株式寄附を前提とする財団の資金設計で大切なのは、「配当がいくらあるか」ではなく、「配当が想定を下回った年にも、活動と法人運営を続けられるか」という視点です。そのためには、収入を一つに頼らないこと、固定費を把握すること、そして制度が認める積立ての仕組みを活用して年ごとの変動をならすことが必要になります。

    この記事では、財団の収入と支出の構造を整理したうえで、配当の変動にどう備えるかを、令和7年4月施行の公益法人制度改革の内容も踏まえて解説します。

    財団のお金の流れを整理する

    財団の資金設計は、収入と支出を次のように分けて考えると見通しやすくなります。

    収入の4つの源泉

    源泉主な内容特徴
    財産から生まれる果実寄附された株式の配当、預金・債券の利息、不動産の賃料元本を維持しながら毎年得られるが、金利や業績で変動する
    継続的な寄附設立者・家族・会社・一般の方からの寄附、会費外部からの支援を広げられるが、毎年の確実性は低い
    事業収入講座の受講料、施設の利用料など公益目的事業の対価公益目的事業では、対価は事業に必要な費用の範囲が基本となる
    収益事業の利益公益目的事業以外の事業(不動産賃貸など)からの利益財源を補えるが、法人税の課税対象となり、本来の目的とのバランスが必要

    支出の3つの層

    層主な内容考え方
    公益目的事業費助成金、奨学金、自主事業の費用財団の存在意義そのもの。規模は収入に応じて調整し得る
    法人運営費事務局の人件費、事務所費、役員会・評議員会の運営、会計・監査、行政への提出書類の作成活動の規模にかかわらず毎年発生する固定費
    将来への備え将来の事業拡充や、収入が減った年のための積立て変動をならし、活動を途切れさせないための原資

    株式寄附型の財団で見落とされやすいのは、2番目の法人運営費です。助成の規模を小さくしても、評議員会・理事会の開催、決算と監査、行政庁への定期提出書類などの事務は毎年必要です。配当が減った年に最初に圧迫されるのは、この固定費の部分です。

    財団の全体設計については、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    配当収入に頼る財団が抱えるリスク

    株式の配当を主な財源とする財団には、次のようなリスクがあります。

    • 業績連動による変動:配当を業績に連動させる会社では、業績が落ちた年に配当が大きく減ることがあります。
    • 無配のリスク:会社が大規模な投資や業績悪化で無配になると、財団の収入がほぼ途絶えることがあります。
    • 会社と財団の利害の対立:会社にとっては内部留保や成長投資が合理的でも、財団にとっては配当が必要という場面が生じ得ます。
    • 税制上の要件との関係:株式を寄附して譲渡所得等の非課税の承認を受けた場合、その株式から生じる配当の全部が継続して公益目的事業に充てられることが重要な判断材料になります。配当が毎年定期的に生じない株式は、公益目的事業の用に直接供されているとは扱われない可能性があります。

    株式の寄附そのものに伴う議決権・配当・運営体制の論点は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する際の検討事項」で詳しく解説しています。

    公益財団法人の財務規律:令和7年4月からの考え方

    公益財団法人の場合、資金設計は公益認定の財務基準と切り離せません。令和6年改正(令和7年4月1日施行)により、財務規律は次のように見直されました。資金の変動に備えるうえで、いずれも重要な仕組みです。

    中期的収支均衡

    改正前は、公益目的事業の収入がその費用を上回らないよう、単年度ごとに収支を合わせる考え方(いわゆる収支相償)が運用されていました。改正後は、公益目的事業の収入と適正な費用について、5年間で均衡が図られるようにする「中期的収支均衡」の考え方に改められ(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律14条、同法施行規則15条)、過去に生じた赤字も通算して判定されることになりました。

    配当が多い年に収入が費用を上回っても、その後の年度で公益目的事業に充てていけば、中期的に均衡させることができます。単年度の配当の増減に、事業の規模を毎年合わせる必要性は小さくなったと言えます。

    公益充実資金

    将来の公益目的事業を充実させるために積み立てる資金として、「公益充実資金」が創設されました。従来の特定費用準備資金と資産取得資金を統合したもので、積立額は中期的収支均衡の判定上、費用とみなされます。

    たとえば、数年後に奨学金の対象を広げる計画や、拠点となる施設を取得する計画がある場合、その目的に沿って計画的に積み立てることができます。

    また、公益認定等ガイドラインでは、既存の事業を続けるための将来の収支変動への備えや、保有する株式の配当が減少傾向にあり今後も続く可能性が高いなど、将来の収入減少が合理的に見込まれる場合の積立ても可能とされています。株式寄附型の財団では、配当の見通しを根拠とともに説明できるかが鍵になります。ただし、繰越金や予備費のような単なる備えは対象になりません。

    使途不特定財産と公益目的事業継続予備財産

    公益法人は、使い道が定まっていない財産(使途不特定財産)を過大に保有することが制限されています。保有の上限は、原則として過去5年間の公益目的事業費の平均額(1年分相当)とされています。

    そのうえで改正により、災害その他の予見しがたい事由が生じても公益目的事業を継続するために必要な財産を「公益目的事業継続予備財産」として、この上限の計算から除外できるようになりました。保有する場合は、その額と理由を自ら公表する必要があります。対象は自然災害や感染症のまん延、国際情勢の急変など予見しがたい事態への備えであり、通常の配当の増減には中期的収支均衡や公益充実資金で対応するのが基本です。それでも、こうした事態で配当収入が途絶えても事業を続けるための資金を、必要性と限度額を説明したうえで持てるようになった点は、株式寄附型の財団にとって意味のある変更です。

    区分経理と情報開示

    公益法人には、公益目的事業・収益事業等・法人運営の3つに区分して経理することが原則として求められるようになり、定期提出書類も原則として公表されることになりました。資金の流れを「事業」と「運営」に分けて説明できるように設計しておくことが、これまで以上に重要になっています。

    一般財団法人と公益財団法人で求められる基準の違いは、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で解説しています。

    配当の変動に備える資金設計の考え方

    AEGISでは、株式寄附型の財団の資金設計を、次の4つの層で考えることをおすすめしています。

    層目的具体的な設計
    1. 運営費の確保法人として存続し続ける法人運営費の数年分を、配当以外の安定した資産(預金など)で確保する
    2. 中核事業の維持毎年必ず続けたい活動を守る配当が想定の下限でも続けられる規模を「中核事業」として定める
    3. 変動の吸収配当の増減をならす中期的収支均衡の範囲で、多い年の収入を後の年度の事業に充てる。減収が合理的に見込まれる場合は公益充実資金で備え、災害など予見しがたい事態には公益目的事業継続予備財産を検討
    4. 将来の拡充活動を育てる配当が想定を上回った年に、目的を定めて公益充実資金として積み立てる

    この設計のポイントは、「配当の想定」を一つの数字で置かないことです。過去の配当実績や会社の配当方針から、楽観・標準・悲観の幅で収入を見積もり、悲観的な想定でも層1と層2が守られるかを確認しておくと、寄附後の運営が安定しやすくなります。

    財源を一つに頼らない

    株式の配当だけに頼らず、次のような組み合わせを検討することも有効です。

    • 寄附する財産の一部を金銭や配当の安定した資産にする
    • 設立者や家族による継続的な寄附を、計画的に組み込む
    • 公益財団法人として、外部からの寄附を受けやすい体制を整える

    公益社団法人・公益財団法人への個人の寄附は、所得税の寄附金控除の対象となるほか、一定の要件を満たす法人への寄附では、所得控除に代えて税額控除を選ぶこともできます(国税庁タックスアンサーNo.1266)。外部からの寄附を広げることは、財源の分散であると同時に、財団の活動を社会と共有することでもあります。

    一般財団法人の場合の注意点

    公益認定を受けていない一般財団法人には、公益法人のような財務規律は課されません。その一方で、2事業年度連続して純資産額が300万円未満となった場合には解散することとされています。また、財団は評議員会の決議によって自由に解散できる法人ではありません。赤字が続いても簡単には畳めない以上、資金が尽きる前に手を打つ設計が必要です。

    実務上注意したいポイント

    • 寄附前に5年分の資金計画を作る:寄附の規模を決める前に、配当の想定幅と、支出の3つの層を並べた資金計画を作成します。
    • 会社の配当方針を文書で共有する:会社の経営陣・後継者と、配当についての基本的な考え方を確認しておきます。財団が株主として配当の決定にどう関わるかも整理しておきたい点です。
    • 配当の受け取り後の管理方法を決める:株式の寄附について非課税の承認を受ける場合、承認の種類によっては、寄附財産を一定の基金に組み入れて管理することが要件となるなど、管理方法が税制と結びつきます。国税庁の通達では、基金に組み入れた株式の配当金は全額を基金に組み入れ、定められた事業に充てる必要があるものの、受領後直ちに充てる必要はないとされています。受け取った配当をいつ、どのように公益目的事業に充てるかの手順を、あらかじめ決めておくことが大切です。
    • 事務局の担い手を確保する:資金があっても、事務を担う人がいなければ財団は動きません。外部の専門家への委託を含め、法人運営費として見込んでおきます。

    AEGISの視点

    財団の運営資金というと、「どれだけ大きな財産を寄附するか」に目が向きがちです。しかしAEGISは、財団の資金設計を「寄附者がいなくなった後も、財団が自分の足で立ち続けられるようにする設計」と捉えています。

    株式の配当は、会社が事業を通じて生み出した価値の一部が、財団を経由して社会に流れていく経路です。その経路が太く安定していることは理想ですが、会社にも好不調の波があります。会社の判断を財団の都合で縛らず、財団の活動を会社の業績で途切れさせない——その両立を可能にするのが、収入の分散と、制度が認める積立ての仕組みを組み合わせた資金設計です。

    会社・財団・家族のいずれかに無理を強いる設計は、長くは続きません。事業と資産と承継を一つの全体像で捉え、その中で財団の資金の流れを位置付けることが大切だとAEGISは考えています。財団や寄附に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 株式寄附型の財団では、配当が主な財源になる一方、会社の業績や配当方針によって収入が大きく変動します。
    • 財団の支出は「公益目的事業費・法人運営費・将来への備え」の3層で捉え、特に毎年必要な法人運営費を把握しておくことが重要です。
    • 公益財団法人では、令和7年4月から、5年間で収支の均衡を図る中期的収支均衡、公益充実資金、公益目的事業継続予備財産などの仕組みが導入され、変動をならす設計がしやすくなりました。
    • 運営費の確保、中核事業の維持、変動の吸収、将来の拡充の4層で資金を設計し、配当の想定を幅で見積もることが有効です。
    • 一般財団法人は財務規律の制約が少ない反面、純資産が一定額を下回ると解散する仕組みがあり、資金の枯渇に注意が必要です。

    具体的な資金計画は、寄附する財産、会社の配当方針、財団の活動内容などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 配当が多すぎて使い切れない年は、どうすればよいですか?

    公益財団法人の場合、令和7年4月からは5年間で収支の均衡を図る考え方になったため、多い年の収入を後の年度の公益目的事業に充てていくことができます。将来の具体的な事業計画がある場合は、公益充実資金として積み立てる方法もあります。一方で、株式寄附について非課税の承認を受けている場合は、配当を公益目的事業に充てることが求められるため、承認の条件もあわせて確認が必要です。

    Q. 会社が無配になった場合、財団はどうなりますか?

    配当以外の収入や積み立てた資金で、法人運営と中核の事業を続けることになります。無配が続くと、助成の縮小や、場合によっては財団の存続にも影響します。また、非課税の承認を受けて寄附された株式の場合は、承認の取消しにつながる可能性もあるため、早めに専門家と状況を確認することが望まれます。

    Q. 財団の運営には、毎年どのくらいの費用がかかりますか?

    活動の規模や事務局体制によって大きく異なります。少なくとも、評議員会・理事会の運営、決算・会計処理、公益財団法人であれば行政庁への定期提出書類の作成などの費用が毎年発生します。寄附の規模を決める前に、これらの固定費を見積もっておくことが重要です。なお、自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団の中に基金を設ける場合は、こうした機関運営や会計の負担は受け手の財団が担い、寄附者は財団が定める事務運営費を負担する形になります(たとえばアイジスレガシー財団の冠基金では、所定の事務運営費を寄附者が負担します)。

    Q. 設立者が毎年寄附を続けることは問題ありませんか?

    継続的な寄附自体は、財源を安定させる有効な方法です。ただし、寄附を通じて設立者や家族が財団を私的に支配する関係にならないよう、運営体制を整えておく必要があります。寄附の方法や財産の種類によって税務上の扱いも異なるため、事前の確認が望まれます。

    Q. 財団が収益事業を行って財源を補うことはできますか?

    可能です。ただし、収益事業から生じた所得には法人税が課されます。公益財団法人の場合は、公益目的事業が主たる目的であることや、費用全体に占める公益目的事業の費用の割合(公益目的事業比率)を50%以上とする基準などとの関係にも配慮が必要です。収益事業はあくまで公益目的事業を支える手段として位置付けることが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
  • 会社売却後の資産をどう守り、どう使うか|手取りの確定・資金の仕分け・器・相続・社会貢献を順番に設計する

    会社売却後の資産をどう守り、どう使うか|手取りの確定・資金の仕分け・器・相続・社会貢献を順番に設計する

    会社を売却した直後のオーナーは、人生で最も大きな資金を手にする一方で、「何から決めればよいか分からない」状態に置かれがちです。

    結論から言えば、売却直後に運用先を決めるのではなく、①確定した手取りを把握し、②資金を用途と時間軸で仕分け、③個人と法人のどちらで持つかを決め、④相続と贈与の計画を引き直し、⑤社会への還元を考えるという順番で設計することが、資産を守り、生かすための近道です。

    会社の株式という「事業と一体の財産」が、現預金という「自由に動かせる財産」に変わることで、税金、家族、運用、相続のすべての前提が変わります。この記事では、売却後に初めて生じる論点を、オーナーの意思決定の順に整理します。売却前の準備や取引の方法については、別の記事で扱っています。

    会社売却で、財産の「性質」はどう変わるのか

    売却後の設計を考える前に、財産の性質がどう変わったかを確認しておくと、なぜ計画の引き直しが必要なのかが分かります。

    観点売却前(自社株式が中心)売却後(現預金が中心)
    換金のしやすさ換金が難しく、売却には相手が必要いつでも使え、移すことも容易
    相続税の評価評価方法により時価と異なる評価額になることがある原則として額面どおりの金額で評価される
    家族への分けやすさ経営権と結び付き、分けにくい金額で分けやすい
    毎年の収入役員報酬や配当として会社から受け取る会社からの収入がなくなり、運用や取り崩しが中心になる
    目減りの要因事業の業績物価上昇、運用の失敗、浪費、勧誘によるトラブル

    とくに見落とされやすいのが、毎年の収入の構造が変わることと、相続税の評価の前提が変わることです。売却前に組み立てていた生活設計や相続対策は、売却を境にいったん白紙に戻して考える必要があります。

    第1段階:確定した手取りを把握する

    最初に行うべきは、売却代金のうち「自由に使える金額」を確定させることです。契約書に書かれた譲渡価格と、実際に手元に残る金額は一致しません。

    税金と、その支払時期

    個人が非上場株式を譲渡して得た利益は、他の所得と分けて課税される申告分離課税の対象で、税率は所得税15%・住民税5%の合計20%です。平成25年から令和29年までの各年分は、さらに基準所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります(国税庁 タックスアンサーNo.1463)(令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%に引き下げられ、新たに防衛特別所得税〔同1%〕が併せて課されます。合計の負担率は変わりません〔国税庁 タックスアンサーNo.1522・No.1000〕)。

    注意したいのは、これらの税金を実際に納めるのは売却の翌年になることです。売却代金を受け取ってから納税までの間に、資金を別の用途に回してしまうと、納税資金が不足するおそれがあります。役員退職金を受け取った場合は、その課税関係も合わせて確認します。

    受取りが確定していない部分

    売却契約によっては、代金の一部が一定期間預けられたり、業績に応じて後から支払われたり、売却後に判明した問題について売主が補償を求められたりすることがあります。売却後に価格が事後的に調整される例もあり、これらは「確定した手取り」から除いて考えるのが安全です。

    申告・届出の確認

    売却した年は所得が大きくなるため、一定の基準を超える財産を持つ人は、「財産債務調書」の提出が必要になる場合があります。国税庁の説明では、退職所得を除く各種所得の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において財産の価額の合計額が3億円以上、または国外転出特例の対象となる有価証券等の価額の合計額が1億円以上である人などが対象とされ、提出期限は翌年の6月30日です(国税庁 タックスアンサーNo.7457)。売却の翌年の確定申告と合わせて確認しておきたい手続きです。

    第2段階:資金を「用途」と「時間軸」で仕分ける

    手取りが見えたら、次は資金を一つの塊として扱わず、用途と使う時期によって仕分けます。AEGISでは、次の5つに分けて考えることをおすすめしています。

    区分使う時期の目安置き方の考え方確認したいこと
    1. 納税・確定待ち資金翌年まで元本が減らない形で、他と分けて保管税額、補償・価格調整の可能性
    2. 生活資金今後数年〜生涯必要な時期に必要な額を引き出せる形役員報酬がなくなった後の年間支出
    3. 次の事業・挑戦の資金時期は未定すぐに動かせる余地を残す新事業、出資、再雇用などの方針
    4. 長期の運用資金10年以上分散を基本に、目的と許容できる変動幅を決める運用の目的、判断する人、見直しの頻度
    5. 次世代・社会への資金生前〜相続時贈与・寄附・相続のどれで渡すかを決めてから動かす家族の状況、社会貢献の意向

    この仕分けの目的は、運用で失ってはいけないお金と、時間をかけて増やすお金を最初に分けておくことです。とくに1と2の区分を先に確保しておけば、4の運用で一時的に価値が下がっても、生活や納税に影響しません。

    不動産への投資を考える場合も、物件を選ぶ前に、投資の規模、保有の形、借入れの有無、将来の売却や承継までを先に設計しておくことが大切です。売却資金が手元にあると、勧められた物件をそのまま購入しやすくなるため、注意が必要です。

    第3段階:資金を「どの器」で持つかを決める

    売却代金は、株主であったオーナー個人が受け取ります。その資金を個人のまま持つか、資産管理会社などの法人に移して持つかは、重要な分かれ道です。

    個人で持つ場合

    運用益は個人の所得として課税され、財産は相続の対象としてそのまま残ります。仕組みが分かりやすく、維持の費用もかかりません。一方で、相続が起きたときには、預金や有価証券、不動産がそのまま遺産分割の対象となり、家族が分け方を協議することになります。

    資産管理会社で持つ場合

    個人の資金を法人に移す方法としては、出資(株式の取得)や、会社への貸付けが考えられます。法人で運用や不動産賃貸を行えば、その所得は法人の所得として課税され、家族に資金を渡すときは、役員報酬や配当などの形をとることになります。財産は「会社の株式」として承継されるため、承継の方法を設計しやすくなる面があります。

    ただし、資産管理会社は節税のための箱ではなく、家族の資産を継続的に管理する仕組みとして考えることが大切です。法人を維持する費用や事務、家族を役員にする場合の実態、株式を誰が持つかといった論点が生じるため、個人で持つ場合と並べて比較したうえで判断します。資産管理会社を検討するときの比較の軸は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    資産の規模が大きく、家族の人数も多い場合は、資産管理会社という「器」とは別に、家族の考え方を共有する場や、運用の方針を決めて見直す仕組み(いわゆるファミリーオフィスの機能)を持つことも選択肢になります。器と仕組みは別物であり、器だけを作っても、家族の合意がなければ資産は守れません。

    第4段階:相続と贈与の計画を引き直す

    会社を売却すると、相続の前提が大きく変わります。

    • 相続税の評価が変わる:自社株式は評価方法により時価と異なる評価額になることがありますが、現預金は原則として額面で評価されます。売却前に試算した相続税額は、そのままでは使えません。
    • 納税資金と分け方の課題が変わる:換金しにくい自社株式が現預金に変わることで、納税資金の不安は小さくなる一方、相続財産の総額や家族間の分け方を改めて検討する必要があります。
    • 遺言の内容を見直す:売却前の遺言で「自社株式を後継者に」と定めていた場合、その財産はもう存在しません。遺言は、売却後の財産構成に合わせて書き直すことが望まれます。

    生前に家族へ資金を渡す方法としては、暦年課税による贈与と相続時精算課税による贈与があります。暦年課税の贈与については、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算される仕組みが設けられ、経過措置も定められています(加算期間は令和9年1月1日以後の相続から段階的に延び、7年となるのは令和13年1月1日以後の相続から。国税庁 タックスアンサーNo.4161)。相続時精算課税には、年110万円の基礎控除が設けられています(国税庁 タックスアンサーNo.4103)。どちらを使うかは、渡したい金額や時期、受け取る家族の状況によって変わります。詳しくは関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」で整理しています。

    相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります(国税庁 タックスアンサーNo.4205)。売却によって財産が分かりやすい形になった今こそ、財産の一覧と、誰に何を渡すかの方針を家族と共有しておく好機です。

    第5段階:社会への還元を考える

    事業を通じて地域や社会に支えられてきたオーナーの中には、売却で得た資金の一部を社会に還元したいと考える方も少なくありません。寄附、基金への拠出、公益信託、財団の設立など方法はさまざまですが、どの方法を選ぶにしても、確定した手取りと、家族のための資金を確保した後の範囲で考えることが基本です。自ら財団を設立せず、既存の財団の中に名前や想いを冠した基金を設ける方法もあり、AEGISではそのための器としてアイジスレガシー財団を設立しています。方法ごとの違いは、関連記事「会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法」で比較しています。

    実務上注意したいポイント

    • 判断を急がない:売却直後は、金融商品や投資案件の提案が集中しがちです。納税資金と生活資金を分けて確保したら、残りの資金については、方針が固まるまで判断を保留する期間を設けることも有効です。
    • 「元本保証」「高利回り」の勧誘に注意する:未公開株や海外の投資案件など、仕組みが分からないものには手を出さないことが原則です。
    • 家族への共有の範囲を決める:売却代金の額をどこまで家族に伝えるかは、家族関係にも影響します。共有する内容と時期を意識的に決めておきます。
    • 記録を残す:売却契約書、精算の明細、税金の計算資料は、補償の請求や税務の確認に備えて保管しておきます。
    • 具体的な取扱いは個別事情で異なる:税額や手続きは、売却の方法、受け取った対価の内容、家族構成によって変わります。

    AEGISの視点

    会社売却は、オーナーにとって「事業の承継」の終わりであると同時に、「資産の承継」の始まりです。多くの場合、売却までは事業と取引条件に全力が注がれ、売却後の資金の行き先は、売却が終わってから考えることになります。

    AEGISは、売却後の設計を「事業オーナーから資産オーナーへの役割の転換」と捉えています。事業を経営してきたときは、会社の業績を見れば家族の資産の状態がおおむね分かりました。売却後は、運用、不動産、資産管理会社、相続、社会貢献といった複数の要素を、自分で組み立てて管理していく立場に変わります。そのためAEGISでは、運用の商品を選ぶ前に、資金の仕分け、持つ器、家族への渡し方、社会への還元を一枚の設計図に並べることを大切にしています。

    そして、この設計図は売却前から描き始めることができます。売却の条件と、売却後の資金の使い道を同時に考えておけば、受け取り方や時期の選択肢も広がります。売却に向けた準備の全体像は、M&AのPillar記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    資産の構造や承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 会社売却によって、財産は換金しにくい自社株式から、自由に動かせる現預金へと性質が変わり、税金・相続・生活設計の前提が変わります。
    • 最初に、税金と受取りが確定していない部分を除いた「確定した手取り」を把握します。株式の譲渡益にかかる税金を納めるのは売却の翌年です。
    • 資金は、納税・生活・次の挑戦・長期運用・次世代と社会の5つの用途と時間軸で仕分けると、守るべき資金と増やす資金を区別できます。
    • 個人で持つか資産管理会社で持つかは、税率だけでなく、管理の仕組みと承継の方法を含めて比較します。
    • 相続税の試算、遺言、贈与の計画は、売却後の財産構成に合わせて引き直します。

    よくある質問

    Q. 売却代金を受け取ったら、すぐに運用を始めるべきですか?

    急ぐ必要はありません。まず、翌年に納める税金や、価格調整・補償の可能性がある資金、当面の生活資金を分けて確保することが先です。そのうえで、運用の目的や許容できる価値の変動幅を決めてから、長期の資金の運用を考える順番が、結果として資産を守ることにつながります。

    Q. 売却した翌年に、何か手続きが必要になりますか?

    株式の譲渡益について確定申告を行い、所得税等と住民税を納めることになります。また、所得や財産が一定の基準を超える場合には、財産債務調書の提出が必要になることがあります。売却の年の年末時点の財産の状況を、早めに整理しておくとよいでしょう。

    Q. 売却代金を資産管理会社に移せば、税金は軽くなりますか?

    一概には言えません。法人で運用すれば所得は法人の所得として課税されますが、家族に資金を渡す段階での課税や、法人の維持費用も生じます。税負担の比較だけで判断するのではなく、管理の仕組みや株式の承継まで含めて比較することが大切です。

    Q. 売却前に作った遺言は、そのままでよいですか?

    見直しをおすすめします。自社株式を誰に相続させるかを定めた遺言は、売却によって前提が変わります。現預金や新たに取得した資産を含めた財産構成に合わせて、家族への配分の考え方を改めて整理し、遺言に反映させることが望まれます。

    Q. 売却で得た資金の一部を寄附したい場合、いつ考えればよいですか?

    納税資金と家族のための資金の見通しが立った後に、方法と時期を検討するのが基本です。売却の年に寄附するか、時間をかけて段階的に寄附するかによって、税制上の扱いや社会への関わり方も変わるため、方法の比較とあわせて検討します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • M&A:会社売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部・辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社・岩崎隼人 編著、東峰書房、2025年、第Ⅰ部第2章(印刷 p.81-96)
    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、第18章(印刷 p.304-320)
  • 相続対策と事業承継を一体で考える|会社の株式と個人の財産を別々に設計しないための全体像

    相続対策と事業承継を一体で考える|会社の株式と個人の財産を別々に設計しないための全体像

    事業オーナーの方から、「事業承継は会社の顧問税理士と、相続対策は銀行や不動産会社と、それぞれ相談している」というお話を伺うことがあります。窓口が分かれること自体は自然なことです。しかし、会社の株式とオーナー個人の財産を別々に設計すると、あとで両者がぶつかることがあります。

    結論から言えば、事業オーナーにとって相続対策と事業承継は、同じ一つの財産を別の角度から見ているにすぎません。自社株式は「会社の支配権」であると同時に「相続財産」でもあり、会社が使う土地は「事業の基盤」であると同時に「個人の財産」でもあるからです。

    この記事では、なぜ一体で考える必要があるのか、どのような順番で全体を設計すればよいのかを、相続・資産承継カテゴリの入口として整理します。

    相続対策と事業承継は、なぜ切り離せないのか

    事業承継は「経営と株式を後継者に引き継ぐこと」、相続対策は「個人の財産を家族に円滑に引き継ぐこと」と説明されることが一般的です。ところが事業オーナーの場合、次のような理由から両者は重なり合います。

    • 財産の多くが自社株式である:業績のよい会社ほど株式の評価額は高くなりますが、非上場株式は簡単に売却できません。評価は高いのに換金できない財産が、相続財産の中心にあることになります。
    • 会社が使う資産を個人が持っている:本社や工場の土地・建物をオーナー個人が所有し、会社に貸しているケースは少なくありません。
    • 会社と個人の間に貸し借りがある:オーナーから会社への貸付金は、相続が起きればオーナーの相続財産になります。会社の借入れに対する経営者保証も、承継時の論点です。
    • 後継者以外の家族がいる:株式を後継者に集めれば、他の家族には別の財産を渡す必要が出てきます。

    つまり、「株式を誰に渡すか」という事業承継の判断は、そのまま「他の財産を誰にどう分けるか」「相続税をどう納めるか」という相続の判断に波及します。片方だけを先に固めると、もう片方の選択肢が狭まってしまうのです。

    相続で解決すべき4つの課題

    AEGISでは、事業オーナーの相続・資産承継を、次の4つの課題に分けて整理しています。

    課題中心となる問い事業オーナーに特有の論点
    分ける誰に、何を渡すか自社株式を後継者に集中させたときの、他の家族とのバランス
    納める相続税をどう支払うか換金しにくい自社株式・不動産が中心で、現預金が少ない
    続ける事業と資産の管理をどう続けるか後継者が経営に必要な議決権を確保できるか
    減らす税負担をどう適正に抑えるか株式の評価や移転の時期・方法の選択

    多くの相続対策は「減らす」から語られます。しかし、税負担を抑えるために株式を家族に広く分散させれば「続ける」が損なわれ、評価額を下げることだけに注力すれば「納める」「分ける」の準備が後回しになります。AEGISでは、「分ける」「納める」「続ける」の見通しを立てたうえで、その範囲内で「減らす」を考える順番をおすすめしています。

    まず押さえたい相続税の基本ルール

    全体を設計するうえで、最低限知っておきたい相続税のルールを確認します(いずれも国税庁タックスアンサー、令和8年4月1日現在法令等)。

    • 基礎控除:相続税の計算では、遺産の総額から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引きます。これを超える部分に相続税がかかります。
    • 計算の流れ:基礎控除後の金額をいったん法定相続分で分けたものとして税額を計算し、その合計(相続税の総額)を、実際に財産を取得した割合に応じて各人に割り振ります。
    • 申告と納税の期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
    • 延納:金銭で一度に納めることが難しい場合、税額が10万円を超えることや担保の提供などの要件を満たせば、分割での納付(延納)を申請できます。ただし延納期間中は利子税がかかります。

    ここで重要なのは、相続税の計算方法そのものよりも、10か月という期限の中で、遺産の分け方を決め、納税資金を用意しなければならないという時間的な制約です。自社株式や不動産が財産の中心であるほど、この制約は重くなります。相続税の概算に必要な情報については、関連記事(相続税の概算に必要な情報)で整理しています。

    財産の種類ごとに見える論点

    事業オーナーの財産を種類ごとに見ると、それぞれが「事業」と「相続」の両面を持っていることが分かります。

    財産の種類事業承継の視点相続の視点
    自社株式後継者の議決権・経営の安定評価額が高くなりやすく、換金しにくい
    会社が使う不動産(個人所有)事業の継続に不可欠後継者以外が相続すると、会社との賃貸関係が不安定になり得る
    賃貸用不動産管理の担い手が必要収益を生むが、分割しにくく共有になりやすい
    金融資産(現預金・上場株式等)直接の関係は薄い納税資金や、後継者以外への配分の原資になる
    会社への貸付金会社の資金繰りに影響額面で相続財産になり、回収の見通しが問題になる
    生命保険—死亡保険金のうち一定額(500万円×法定相続人の数)は非課税。納税資金・分割の調整に使える

    たとえば、相続財産の大部分が自社株式で、現預金が少ないケースを考えてみます。株式を後継者に集めると、他の家族に渡す財産が足りず、後継者は多額の相続税を負担することになります。後継者が納税資金を用意できなければ、結果として会社が株式を買い取る(自己株式の取得)などの形で会社の資金が使われ、事業の財務に影響が及ぶこともあります。

    財産の種類ごとの組み合わせ方は、関連記事(自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継)で詳しく解説しています。

    財産を「いつ」「どの方法で」移すか

    財産を次世代に移す方法は、大きく分けて次のとおりです。

    • 相続(遺言を含む):亡くなったときに移る。遺言で、誰に何を渡すかを指定できます。
    • 生前贈与:生きているうちに無償で移す。贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの方式があります。
    • 売買:対価を受け取って移す。後継者や資産管理会社などに買い取ってもらう方法です。
    • 制度の活用:非上場株式について、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「法人版事業承継税制」などがあります。特例措置を使う場合の特例承継計画の提出期限は、令和9年(2027年)9月30日とされています(中小企業庁)。

    どの方法にも長所と制約があり、財産の種類や家族の状況によって適したものは異なります。また、生前贈与のルールは令和5年度の税制改正で大きく変わり、相続前の贈与を相続財産に加える期間が段階的に延びつつあります。贈与と相続の使い分けについては、関連記事(生前贈与と相続をどう使い分けるか)で解説しています。

    一体で設計するための6つのステップ

    AEGISでは、相続対策と事業承継を一つの計画として整理するために、次の順番で進めることをおすすめしています。

    1. 財産と関係の棚卸し:個人の財産、会社の株主構成、会社と個人の貸し借りや保証、関係会社などを一覧にします。財産や会社が多い場合の整理の仕方は、関連記事(複数の会社・資産にまたがる財産の整理)で扱っています。

    2. 現時点の相続税の試算:「今、相続が起きたら」を前提に概算します。精緻さよりも、規模感と納税資金の過不足を把握することが目的です。

    3. 方針の言語化:事業を誰に、どのような形で継ぐか。家族それぞれに何を残したいか。社会や地域に何を還元したいか。
    4. 配分案(分ける)と納税資金の見通し(納める):株式・不動産・金融資産を誰に配分するか、相続税をどの財産で納めるかを、仮の案として組み立てます。
    5. 手段の選択(減らす・続ける):贈与・売買・遺言・制度の活用などを、配分案を実現する手段として位置付けます。
    6. 定期的な見直し:株価、不動産の価値、家族の状況、税制は変わります。試算と配分案は、少なくとも年に一度は見直します。

    ポイントは、ステップ5の「手段」から始めないことです。「この節税策がよいと聞いた」という入口から始めると、方針や配分との整合が確認されないまま実行されてしまうことがあります。

    事業承継そのものの進め方は、関連記事(事業承継は何から始めるべきか)で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    税負担の軽減を目的に株式を分散させない

    相続税を抑える目的で自社株式を多くの家族に少しずつ移すと、その時点の税負担は軽く見えても、次の世代で議決権がまとまらず、後継者の経営判断が難しくなることがあります。株式の移転は、税額だけでなく、承継後の株主構成から逆算して設計することが大切です。

    「贈与したつもり」と「制度の要件」のずれに注意する

    生前贈与は計画的に行えば有効な手段ですが、制度ごとに要件や相続時の扱いが異なります。たとえば、相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には、相続時に小規模宅地等の特例を適用できません(国税庁 No.4124)。事業用や居住用の土地を贈与で移すかどうかは、相続時の評価への影響も含めて判断する必要があります。

    相続人が海外に住んでいる場合

    相続人の中に海外在住の方がいると、課税される財産の範囲や手続きが国内だけの相続と異なる場合があります。該当する可能性がある場合は、早めに論点を確認しておくことが望まれます(関連記事:海外在住の相続人がいる場合の準備)。

    不動産の名義と登記を整えておく

    令和6年4月から、相続登記の申請が義務化されています(法務省)。相続により不動産の所有権を取得した人は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となります(不動産登記法76条の2・164条)。先代から名義が変わっていない不動産が残っていると、相続時の手続きや売却に時間がかかります。棚卸しの段階で登記の状況も確認しておくと安心です。

    AEGISの視点

    事業オーナーの相続を、AEGISは「会社と個人の境界線を、次の世代に合わせて引き直す機会」と捉えています。

    オーナーが一代で築いた事業では、会社の財産と個人の財産、経営判断と家族の事情が、良くも悪くも一体となって動いてきました。それがオーナーの強さでもあります。しかし次の世代では、後継者が経営を担い、他の家族は株主や財産の受け手になるなど、役割が分かれていきます。そのとき、どの財産を会社に置き、どの財産を個人で持ち、誰がどの立場で関わるのかを設計し直す必要があります。

    その設計図は、税金の計算だけでは描けません。事業の将来、不動産の収益性や所有のあり方、家族一人ひとりの生活、そしてオーナーが事業を通じて社会に何を残したいか——たとえば財産の一部を公益のために役立てるという選択も、全体像の中で初めて合理的に位置付けられます。AEGISが事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として扱うのは、そのためです。

    自社株式の一部を財団に寄附する場合も、議決権のない配当優先株式を寄附し、議決権のある株式は後継者に承継するといった設計をとれば、後継者の経営権を損なわずに社会への還元を組み込めます。自ら財団を設立する代わりに、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に基金を設ける形なら、相続後に家族や後継者が財団の運営を担う必要もありません。寄附に伴う税務上の取扱いは、寄附の時期や財団の状況によって異なるため、個別の確認が前提です。

    相続・事業承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 事業オーナーにとって、相続対策と事業承継は同じ財産を別の角度から見たものであり、切り離して設計すると両者がぶつかります。
    • 相続の課題は「分ける・納める・続ける・減らす」の4つ。税負担の軽減(減らす)は、他の3つの見通しを立てたうえで考えるのが基本です。
    • 相続税の申告・納税期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内。自社株式や不動産が中心の財産ほど、納税資金の準備が重要になります。
    • 進め方は「棚卸し → 試算 → 方針 → 配分と納税資金 → 手段 → 見直し」の順が基本です。
    • 具体的な対策の適否は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続対策と事業承継は、どちらを先に考えるべきですか?

    どちらか一方を先に確定させるのではなく、同時に全体を見渡すことをおすすめします。具体的には、まず個人と会社の財産・株主構成を一覧にし、現時点の相続税を概算したうえで、事業を誰にどう継ぐかの方針と、家族への配分の方針を並べて検討します。

    Q. 相続税がかからない見込みなら、相続対策は不要ですか?

    相続税がかからなくても、「分ける」と「続ける」の課題は残ります。たとえば、自社株式が複数の相続人に分かれて相続されると、後継者の経営に影響が出ることがあります。また、株価や不動産の価値は変動するため、試算は定期的に見直すことが望まれます。

    Q. 自社株式で相続税を納めることはできますか?

    相続税は金銭で一括して納めるのが原則で、それが難しい場合に延納(分割払い)や物納という例外的な方法があります。ただし、いずれも要件があり、非上場株式で納めることは簡単ではありません。自社株式が財産の中心である場合は、生前から納税資金の確保を計画しておくことが重要です。

    Q. 会社が使っている土地を個人で持っていますが、何か問題はありますか?

    それ自体が問題というわけではありません。ただし、相続時にその土地を後継者以外の家族が相続すると、会社との賃貸関係や賃料をめぐって調整が必要になることがあります。土地を誰が相続するか、会社や資産管理会社が所有する形にするかなどを、事業承継の計画と合わせて検討しておくとよいでしょう。

    Q. 生命保険は相続対策として有効ですか?

    死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかからない仕組みがあり(相続人が受け取る場合)、納税資金の確保や、後継者以外の家族への配分の調整に役立つことがあります。ただし、保険料の負担者や受取人の設定によって課税関係が変わるため、全体の配分案の中で位置付けることが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 非営利型の一般財団法人とは|法人税の課税範囲と要件、要件を外れた場合の取扱い

    非営利型の一般財団法人とは|法人税の課税範囲と要件、要件を外れた場合の取扱い

    一般財団法人を設立するとき、意外と見落とされやすいのが「税務上、どの区分の法人になるか」という問題です。同じ一般財団法人でも、法人税法上の非営利型法人に当たれば、課税されるのは法人税法上の収益事業から生じた所得だけです。当たらなければ、株式会社と同じように、受け取った寄附を含むすべての所得が課税の対象になります。

    非営利型法人に当たるための手続は、行政庁の認定ではありません。定款の定めと、理事の構成と、実際の運営が要件を満たしているかどうかで決まります。だからこそ、設立時の設計と、設立後の運営の両方が重要になります。

    この記事では、非営利型の一般財団法人の要件、収益事業課税の仕組み、そして要件を外れた場合に何が起きるかを整理します。

    一般財団法人の税務上の3つの区分

    財団は、法人法上の区分(一般財団法人か公益財団法人か)とは別に、税務上は次の3つに分かれます。公益認定を受けるかどうかの比較は、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で詳しく扱っています。

    項目公益財団法人非営利型の一般財団法人非営利型以外の一般財団法人
    法人税法上の区分公益法人等公益法人等普通法人
    法人税の課税範囲収益事業のみ(公益目的事業は除く)収益事業のみすべての所得
    受け取った寄附収益事業以外なら課税されない収益事業以外なら課税されない受贈益として課税の対象
    寄附者の寄附金控除対象対象外対象外
    現物寄附のみなし譲渡の非課税特例一般特例・承認特例の対象非営利性が徹底された法人は一般特例の対象対象外
    理事の死亡時の相続税課税(特定一般社団法人等)対象外対象外同族理事が過半数などの場合に対象

    この表から分かるとおり、非営利型法人に当たるかどうかは、法人税だけでなく、寄附を受けたときの課税、寄附者の税制、さらには理事の相続税にまで影響します。

    非営利型法人の2つの類型

    法人税法は、一般社団法人・一般財団法人のうち、次のいずれかに当たるものを非営利型法人としています。

    • 非営利性が徹底された法人:事業により利益を得ること、または得た利益を分配することを目的としない法人で、事業を運営する組織が適正であるもの
    • 共益的活動を目的とする法人:会員から受け入れる会費により、会員に共通する利益を図るための事業を行う法人で、事業を運営する組織が適正であるもの

    共益的活動を目的とする法人は、業界団体や同窓会のような「会員のための法人」を想定した類型です。社会貢献を目的とする財団では、非営利性が徹底された法人として設計するのが通常です。なお、現物寄附のみなし譲渡の非課税特例(租税特別措置法第40条)の一般特例は、非営利性が徹底された法人への寄附は対象になり得ますが、共益的活動を目的とする法人への寄附は対象になりません。

    非営利性が徹底された法人の4つの要件

    国税庁の手引によれば、非営利性が徹底された法人に当たるには、次の4つの要件のすべてを満たす必要があります。

    1. 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること

    財団が得た利益を、設立者や理事などに分配しないことを定款で明らかにします。

    2. 解散時の残余財産の帰属先を定款に定めていること

    解散したときに、残余財産を国・地方公共団体や、公益社団法人・公益財団法人など一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めます。財産が設立者の家族に戻る余地を残さないことが求められます。

    3. 定款の定めに反する行為や特別の利益の提供をしたことがないこと

    上記1・2の定款の定めに違反する行為(特定の個人や団体に特別の利益を与えることを含みます)を行うことを決定し、または行ったことがないことが要件です。過去の行為も問われる点が特徴です。

    4. 理事の親族等が理事総数の3分の1以下であること

    各理事について、その理事と、その理事の配偶者・3親等内の親族その他の特殊の関係のある者である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下である必要があります。「特殊の関係のある者」には、事実上婚姻関係にある者、理事の使用人、理事から受ける金銭等で生計を維持している者なども含まれます(法人税法施行規則第2条の2)。また、使用人以外の者で法人の経営に従事している人は、理事とみなして判定するとされています(法人税法施行令第3条第3項)。

    たとえば理事が3人の財団であれば、設立者の家族から理事になれるのは1人までで、残り2人は親族等に当たらない人を選ぶことになります。理事が6人であれば、同じ親族グループからは2人までです。理事の辞任や交代で比率が崩れることもあるため、設立時だけでなく、役員の改選のたびに確認が必要です。

    「特別の利益」とは何か

    要件3の「特別の利益を与えること」について、国税庁の法人税基本通達は、社会通念上不相当な経済的利益の供与や金銭等の交付をいうとし、例を挙げています。専門書の解説をもとに整理すると、次のような行為が典型です。

    • 財団の土地・建物を、特定の人に無償または通常より低い賃料で貸す
    • 無利息または低い利率でお金を貸す
    • 財団の資産を無償または通常より低い価格で譲る
    • 通常より高い賃料で土地・建物を借りる、通常より高い利率でお金を借りる
    • 通常より高い価格で資産を買う、事業に使わない資産を取得する
    • 過大な給与を支払う

    設立者の家族が経営する会社と財団が取引する場合などは、条件が通常の取引と比べて妥当かを、記録とともに確認しておくことが大切です。特別の利益は、収益事業以外の事業で行われたものも含まれます。

    収益事業課税の仕組み

    非営利型法人であっても、すべての所得が非課税になるわけではありません。課税の対象になる「収益事業」とは、販売業・製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいいます(法人税法第2条第13号)。政令では、物品販売業、不動産貸付業、金銭貸付業、請負業、駐車場業など34の事業が定められています(法人税法施行令第5条)。

    財団の活動に引き付けると、次のような点に注意が必要です。

    • 不動産の賃貸や駐車場の運営:財団が保有する不動産を貸して賃料を得る場合、収益事業に当たり、その所得は課税されます。
    • 区分経理:収益事業とそれ以外の事業の収入・費用を区分して経理する必要があります。
    • みなし寄附金は使えない:公益法人では、収益事業から公益目的事業への支出を寄附金とみなして損金に算入する仕組みがありますが、国税庁の手引では、非営利型法人にはこの適用がないとされています。
    • 届出:非営利型法人が新たに収益事業を開始した場合は、開始した日以後2か月以内に、収益事業開始届出書などを所轄税務署に提出します(法人税法第150条)。また、普通法人から非営利型法人になったときなど、区分が変わったときは異動の届出が必要です。

    財団の財源として配当や賃料をどう組み合わせるかは、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で整理しています。

    要件を外れた場合の取扱い

    非営利型法人の要件は、行政庁の認定を受けるものではないため、要件を欠いた時点で自動的に普通法人になります。このとき、次の3つの影響を考えておく必要があります。

    1. 移行時に、過去の非課税の蓄積に課税される

    公益法人等である非営利型法人が普通法人に該当することになった場合、その日より前の収益事業以外の事業から生じた所得の累積額(累積所得金額)を、移行した事業年度の益金に算入する仕組みがあります(法人税法第64条の4)。専門書の解説によれば、これは実質的に、収益事業以外の事業で蓄えてきた正味財産に課税する仕組みです。寄附を受けて財産を積み上げてきた財団ほど、移行時の課税が大きくなり得ます。また、区分が変わった時点で事業年度が区切られ、決算と申告が必要になります。

    2. 特別の利益を与えた場合は、元に戻れない

    理事の構成のように内部の事情で変えられる要件は、満たし直せば再び非営利型法人になり得ます。しかし、国税庁の法人税基本通達は、特別の利益に係る要件を欠いて普通法人となった法人は、その後に再び非営利型法人に該当することはないとしています。特別の利益の提供は、取り返しのつかない要件違反だと理解しておく必要があります。

    3. 理事の相続税にも影響する

    一般社団法人・一般財団法人のうち、同族理事が理事総数の2分の1を超えるなどの要件に当たる「特定一般社団法人等」については、理事が死亡した場合に、法人を個人とみなして相続税を課す仕組みがあります(相続税法第66条の2)。非営利型法人は、この対象から除かれています。非営利型の要件を外れると、この相続税の課税の対象となる可能性が生じます。

    設立時・運営時のチェックポイント

    時期確認すること
    設立時定款に剰余金の分配禁止と残余財産の帰属先を定めたか/理事の親族等が3分の1以下か
    毎年の運営理事の改選で比率が崩れていないか/関係者との取引条件は通常の水準か/収益事業の区分経理と申告をしているか
    新しい事業の開始時その事業が収益事業に当たるか/届出が必要か
    寄附を受けるとき寄附者や家族に特別の利益を与える条件が付いていないか

    AEGISの視点

    非営利型の一般財団法人は、公益認定の重い手続を経ずに、法人税の面では公益法人等として扱われる、使い勝手の良い器です。一方でAEGISは、その使い勝手の良さが、行政庁の監督がない分、自ら規律を保ち続けなければならないことの裏返しでもあると考えています。

    特に、オーナー家族が設立する財団では、「家族のための財団」に見えてしまう運営が、税務上の要件違反に直結します。理事の3分の1要件は、家族だけで財団を動かさないための仕組みです。特別の利益の禁止は、財団の財産が家族の財産と混ざらないための仕組みです。これらを「税務上の要件」としてではなく、財団の信頼を守るためのガバナンスとして設計に組み込むことが大切です。

    また、非営利型法人は寄附者の寄附金控除の対象にならないため、広く寄附を集めて活動を拡大したい場合には、いずれ公益認定を目指すという選択肢も視野に入ります。今は非営利型で始め、活動の実績を積んでから公益認定を受ける。その道筋を最初から描いておくことが、財団の設計の質を高めるとAEGISは考えています。財団設計の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    財団の法人税や寄附に関する資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 一般財団法人は、税務上の非営利型法人に当たれば、法人税の課税が収益事業の所得に限られます。当たらなければ、受け取った寄附を含むすべての所得が課税対象です。
    • 財団では通常、非営利性が徹底された法人として、剰余金の分配禁止・残余財産の帰属先の定款の定め、特別の利益の禁止、理事の親族等3分の1以下の4要件を満たすように設計します。
    • 非営利型でも、不動産貸付など34の収益事業の所得は課税され、みなし寄附金の適用はありません。
    • 要件を外れると、累積所得金額の益金算入による課税が生じ得るほか、特別の利益を与えた場合は再び非営利型法人に戻れず、理事の相続税の課税対象となる可能性もあります。
    • 具体的な判定は、定款・役員構成・取引の実態によって異なります。

    よくある質問

    Q. 非営利型法人になるには、税務署の承認が必要ですか?

    承認や認定は必要ありません。要件を満たしていれば非営利型法人に当たり、満たさなければ普通法人になります。ただし、区分が変わったときや収益事業を開始したときには、所轄税務署への届出が必要です。

    Q. 設立者が理事長を務めることはできますか?

    できます。ただし、設立者とその配偶者・3親等内の親族などである理事の合計数を、理事総数の3分の1以下に収める必要があります。理事を3人とする場合、設立者以外の2人は親族等に当たらない人とすることになります。

    Q. 非営利型の財団に寄附すると、寄附者は寄附金控除を受けられますか?

    一般に、非営利型の一般財団法人への寄附は、所得税の寄附金控除の対象になりません。ただし、株式や不動産などの現物の寄附については、非営利性が徹底された法人であれば、国税庁長官の承認を受けた場合のみなし譲渡の非課税特例(一般特例)の対象になり得ます。

    Q. 財団が賃貸不動産を持つと、非営利型ではなくなりますか?

    不動産の賃貸を行っても、そのことだけで非営利型法人でなくなるわけではありません。ただし、不動産貸付業は収益事業に当たるため、その所得には法人税が課されます。賃料の水準が設立者の家族などに有利な条件になっていると、特別の利益の問題が生じるおそれがあります。

    Q. 非営利型の要件を一時的に外れてしまった場合、どうなりますか?

    要件を欠いた時点で普通法人となり、それまでの収益事業以外の事業の累積所得金額が益金に算入される課税が生じ得ます。理事構成のように満たし直せる要件であれば再び非営利型法人になり得ますが、特別の利益を与えたことによる場合は、再び非営利型法人に該当することはないとされています。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団の活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団の運営・税務・実行後の管理を整理します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
  • 資産管理会社に管理を任せるときの管理料|管理委託・サブリース・不動産所有の3方式と「説明できる実態」のつくり方

    資産管理会社に管理を任せるときの管理料|管理委託・サブリース・不動産所有の3方式と「説明できる実態」のつくり方

    個人で持つ賃貸不動産の管理を資産管理会社に任せ、会社に管理料を支払う。資産管理会社の使い方として、よく検討される形です。

    結論から言えば、管理料は「会社が実際に行っている業務の対価」として説明できる金額でなければなりません。「賃料の何%が相場か」という問いから入るのではなく、会社が何をしているか、それを記録で示せるかから逆算して決めるのが基本です。国税不服審判所の公表裁決事例には、業務の記録がないとして管理料の必要経費算入が認められなかった例もあれば、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例もあります。

    この記事では、資産管理会社に管理を任せる3つの方式(管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式)を比較したうえで、管理料の決め方と、業務の実態を記録として残す方法を整理します。

    資産管理会社に管理を任せる3つの方式

    個人オーナーと資産管理会社の関係は、大きく3つの方式に分けて考えると整理しやすくなります。

    方式お金の流れ会社の収益の源泉主な確認点
    管理委託方式入居者 → オーナー個人。オーナーが会社に管理料を支払う管理料(業務の対価)会社が実際に担う業務と、管理料の水準
    サブリース方式入居者 → 会社。会社がオーナーに借上賃料を支払う転貸賃料と借上賃料の差額借上賃料の水準と、空室リスクを会社が実際に負っているか
    不動産所有方式入居者 → 会社。会社が建物(場合により土地も)を所有賃料収入そのもの移転時の税金、土地の貸し借りの整理

    ※上記はAEGISが論点を整理するために作成した区分です。実際の契約形態は物件ごとに異なります。

    管理委託方式とサブリース方式は、不動産の所有者は個人のままで、会社が管理や賃貸の役割を担う形です。個人の不動産所得の一部を、業務の対価として会社に移すことになります。一方、不動産所有方式は、建物などを会社に移して、賃料収入そのものを会社に帰属させる形です。

    なぜ管理料が問題になりやすいのか

    管理委託方式やサブリース方式で論点になるのは、同族会社との取引では、金額を当事者が自由に決めやすいという点です。

    必要経費として認められるか

    個人の不動産所得の計算上、資産管理会社に支払った管理料が必要経費になるには、その費用が賃貸の業務と直接関係し、業務の遂行上必要であることが求められます。国税不服審判所の裁決事例でも、この「客観的にみて業務の遂行上必要か」という観点から判断されています。

    同族会社の行為計算の否認

    もう一つの論点が、同族会社の行為計算の否認です。同族会社の行為や計算をそのまま認めると、その株主等である個人やその特殊関係者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、税務署長はその行為や計算にかかわらず所得を計算し直すことができる、という仕組みです(所得税法157条1項)。国税不服審判所の公表裁決事例の分類(所得税法157条)には、同族会社への不動産管理料が同業者の水準を大きく上回るとして超過部分が否認された事例や、同族会社に低い賃料で一括して貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例などが並んでいます。

    つまり、管理料には「業務があるか(実態)」と「金額が妥当か(水準)」という二つの問いがある、と整理できます。

    裁決事例から見える判断のポイント

    国税不服審判所が公表している不動産管理料の裁決事例からは、次のような傾向が読み取れます。いずれも個別の事実に基づく判断であり、結論がそのまま他の事案に当てはまるわけではありません。

    • 記録がなければ「業務がない」と判断され得る:賃料の一定割合を管理料として同族会社に支払っていたものの、実際の管理は外部の管理会社や借上会社が担っており、同族会社が業務を行った記録(業務日誌など)が確認できなかった事例では、適正な管理料は零円と判断されました(平成18年6月13日裁決)。
    • 会社が自ら業務を行っていれば認められる:同族会社が賃料の集金と督促、オーナーの指示を受けた賃貸借契約の締結、外部に再委託した点検業務の確認、修繕費の負担などを実際に行っていた事例では、支払った管理費の全額が必要経費と認められました(平成23年9月2日裁決)。
    • 金額は同業者との比較で検証される:同族会社への管理料が過大かどうかが争われた事例では、類似する同業者の管理料の割合などを基に適正額が検討されています。

    ここから言えるのは、管理料の妥当性は、会社の業務内容 → それを示す記録 → その業務に見合う水準の順に確かめられるということです。

    方式ごとに確認したいこと

    管理委託方式:外部の管理会社との「二重構造」に注意

    実務で多いのが、入居者募集や建物管理を外部の不動産管理会社に委託したまま、資産管理会社にも管理料を支払う形です。この場合、資産管理会社には何が残っているのかが問われます。

    • 外部の管理会社と資産管理会社の業務の分担を、書面で明確にする
    • 資産管理会社が担う業務(収支の管理、外部業者への発注と監督、修繕の判断、オーナーへの報告など)を具体的に書き出す
    • 外部の管理会社に支払う管理料と、資産管理会社に支払う管理料の合計が、業務全体に対して過大になっていないか確認する

    サブリース方式:会社が「借り手としてのリスク」を負っているか

    サブリース方式では、会社がオーナーから建物を一括で借り、入居者に転貸します。会社の収益は、転貸賃料と借上賃料の差額です。

    この方式で確認したいのは、借上賃料が実態に照らして低すぎないかと、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負っているかです。満室時の差額が大きくなる設計にしながら、空室時の負担はオーナーに戻るような契約では、会社が借り手として負うべきリスクの実態が乏しく見えます。裁決事例の分類にも、同族会社に著しく低い賃料で貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例が含まれています。

    不動産所有方式:移転時の負担と、土地の整理

    建物を会社に移す不動産所有方式では、管理料の水準という論点は小さくなる一方、移転時の税金や費用、建物だけを移す場合の借地権と地代の整理が中心になります。これらは関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」と「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で扱っています。

    管理料を決める手順

    AEGISでは、管理料を次の順番で検討することをおすすめしています。

    1. 業務の棚卸し:物件ごとに、入居者対応、賃料の管理、修繕、清掃・点検、会計、オーナーへの報告などの業務を一覧にする
    2. 担い手の確認:それぞれの業務を、外部の管理会社・資産管理会社・オーナー本人の誰が担うのかを決める
    3. 体制の確認:資産管理会社の業務を実際に行う人(役員・従業員)と、その時間を見積もる
    4. 水準の比較:同じ業務を外部に委託した場合の料金や、業務にかかる人件費・経費と比べる
    5. 契約書への反映:業務範囲、管理料の算定方法、支払時期、報告の方法を契約書に書く
    6. 記録の継続:業務の記録を日常的に残し、年に一度は業務内容と管理料の関係を見直す

    「賃料の何%」という決め方自体が問題なのではありません。問題になるのは、その割合の根拠を業務の内容で説明できないことです。

    業務の実態を示す記録の例

    業務残しておきたい記録の例
    賃料の管理入金の確認記録、滞納者への督促の記録、月次の収支表
    入居者・契約の対応契約書の作成・更新の記録、入居者からの連絡と対応の記録
    修繕・点検業者への発注書・見積書、点検報告書の確認記録、修繕の判断の経緯
    外部業者の管理外部の管理会社との打合せ記録、業務報告の受領と確認の記録
    オーナーへの報告定期的な収支報告書、修繕計画の提案書

    記録は、税務調査のためだけのものではありません。物件の状況や判断の経緯が残っていれば、オーナーが交代したときにも管理を引き継ぎやすくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 決算前の調整に使わない:会社の利益を整えるために、期末に管理料を増減させる運用は、業務の対価としての説明を難しくします。裁決事例にも、同族会社が利益を確保できるよう年度末に精算する契約が経済的合理性を欠くとされた例があります。
    • 家族役員の報酬とあわせて考える:管理料で会社に移した収益は、多くの場合、家族役員の報酬として個人に戻ります。業務を担う人と報酬を受ける人が一致しているかは、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で確認できます。

    • 物件ごとに方式を選ぶ:すべての物件を同じ方式にする必要はありません。外部管理会社の関与の度合いや、将来の売却・承継の予定に応じて、物件ごとに考える方法もあります。

    • 相続税評価への影響も確認する:方式によって、土地・建物の評価や会社の株式の評価が変わることがあります。管理の方式を変える前に、承継への影響もあわせて確認します。

    AEGISの視点

    管理料の相談では、「何%までなら大丈夫か」という問いがよく出されます。しかしAEGISは、この問いの立て方自体を少し変えることが大切だと考えています。問うべきは「会社は、この物件のために何をしているのか」です。

    資産管理会社が実際に収支を管理し、修繕を判断し、外部業者を監督していれば、その会社は単なる所得の受け皿ではなく、不動産経営の実務を担う主体になります。業務の記録は管理料の根拠になるだけでなく、オーナーが高齢になったときや相続が起きたときに、家族が経営を引き継ぐための手引きにもなります。

    管理料を「税負担を調整する数字」としてではなく、「管理の仕組みをつくる対価」として設計すること。その考え方が、税務の説明力と、不動産経営の継続性の両方を高めるとAEGISは考えています。資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    不動産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社に管理を任せる方式には、管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式があり、論点がそれぞれ異なります。
    • 管理委託方式とサブリース方式では、「業務の実態があるか」と「金額が妥当か」の二つが問われます。
    • 裁決事例では、業務の記録がない場合に管理料が認められなかった例と、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例があります。
    • 管理料は、業務の棚卸しから始め、担い手・体制・水準を確かめ、契約書と日常の記録で裏付けることが基本です。
    • 具体的な取扱いは、物件や契約の内容など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社に支払う管理料の相場は、賃料の何%ですか?

    一律の「適正な割合」が法令や通達で定められているわけではありません。裁決事例では、会社が実際に行っている業務の内容や、類似する同業者の管理料の水準などを基に判断されています。割合から決めるのではなく、業務の内容から説明できる金額にすることが大切です。

    Q. 外部の管理会社に管理を委託している物件でも、資産管理会社に管理料を払えますか?

    払うこと自体は可能ですが、外部の管理会社が担っていない業務を資産管理会社が実際に行っていることが前提です。業務の分担を書面で明確にし、資産管理会社の業務の記録を残しておかないと、管理料の根拠を説明しにくくなります。

    Q. 管理委託方式とサブリース方式は、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。サブリース方式は会社に残る収益が大きくなりやすい一方、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負うことが前提になります。外部の管理会社の関与、物件の収益の安定性、将来の売却や承継の予定などをあわせて比較することをおすすめします。

    Q. 管理料が否認されると、どうなりますか?

    否認された部分は個人の不動産所得の必要経費として認められず、個人の所得が増えることになります。加算税や延滞税が生じる可能性もあります。会社側の処理との関係も含め、具体的な影響は個別事情によって異なります。

    Q. 管理料を払う代わりに、不動産そのものを会社に移したほうがよいですか?

    不動産所有方式は管理料の水準という論点が小さくなる一方、移転時の譲渡所得税や登録免許税・不動産取得税などの負担、土地の貸し借りの整理が必要になります。移転の負担と、移転後の効果を比べて判断することが大切です。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 不動産管理と実行管理:賃料・空室・修繕・返済・会計・税務をつなぎ、収益不動産の管理を支援します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社(2014年)、第4編「財産管理法人の不動産税務」P.215-217、P.230
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局(2018年)、第1章Ⅳ P.51-53
  • 現物分配で子会社の資産を親会社へ移す|適格現物分配の要件・課税関係と、合併・分割・売買との比べ方

    現物分配で子会社の資産を親会社へ移す|適格現物分配の要件・課税関係と、合併・分割・売買との比べ方

    現物分配とは、会社が株主に対して、金銭ではなく不動産や株式などの「現物」で配当(またはそれに準ずる分配)を行うことです。100%の親子会社の間で行う現物分配は、法人税法上「適格現物分配」に当たれば、子会社側で資産の含み益に課税されず、親会社側でも受け取った資産について課税されない仕組みになっています。

    結論からいえば、現物分配は「100%子会社から親会社へ、事業ではなく個々の資産を移したい」場面で有力な選択肢です。一方で、株主に個人が一人でも含まれると適格にならないこと、不動産を移すと流通税がかかること、会社法上の配当規制を受けることなど、使える場面には明確な条件があります。

    この記事では、現物分配の仕組みと適格要件、課税関係、手続上の注意点を整理したうえで、売買・会社分割・合併といった他の移転手法とどう比べればよいかを解説します。

    現物分配とは:配当を「モノ」で行う仕組み

    会社法では、剰余金の配当を金銭以外の財産で行うこと(いわゆる現物配当)が認められています。法人税法は、これを含め、法人が株主に対して一定の事由により金銭以外の資産を交付することを「現物分配」と定義しています(法人税法2条12号の5の2)。対象となる事由は、通常の剰余金の配当のほか、資本の払戻し、残余財産の分配、自己株式の取得など、いわゆるみなし配当が生じる一定の取引です。

    現物分配の対象になる資産は、土地・建物に限りません。子会社が持つ他の会社の株式、貸付金などの金銭債権、知的財産なども、金銭以外の資産であれば対象になり得ます。

    たとえば、次のような場面で検討されます。

    • 子会社が使わなくなった土地・建物を、親会社(持株会社や資産管理会社)に集約したい
    • 子会社を第三者に売却する前に、買い手が必要としない資産を親会社へ移しておきたい
    • 子会社の下にある孫会社の株式を親会社へ移し、孫会社を子会社にしたい
    • 組織再編の結果として子会社が持つことになった親会社株式を、親会社に戻したい
    • 子会社が親会社に対して持つ貸付金を整理したい

    適格現物分配の要件:「直前に100%」だけを見る

    要件は完全支配関係のみ

    法人税法では、適格現物分配を「内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者が、その現物分配の直前においてその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)のみであるもの」と定めています(法人税法2条12号の15)。

    ポイントは次の3つです。

    1. 受け取る株主が「完全支配関係のある内国法人」だけであること:株主に個人や、100%の関係にない法人が一人でも含まれていると、適格現物分配になりません。
    2. 判定は「直前」の時点で行うこと:合併や会社分割の適格要件と異なり、現物分配の後も完全支配関係が続く見込みであることは求められていません。
    3. 事業を移す必要がないこと:会社分割のように「事業」を単位とする必要がなく、個々の資産だけを移せます。

    2点目は実務上大きな意味を持ちます。たとえば、子会社を売却する直前に、不要な資産を親会社へ現物分配で移すといった使い方では、分割の場合に問題となる「分割後の支配関係の継続」を気にせずに済むためです。

    完全支配関係の判定

    完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します。また、従業員持株会などが保有する株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります(法人税法施行令4条の2第2項)。

    名義株が残っている場合や、株主名簿と実態がずれている場合は、「本当に100%か」の確認から始める必要があります。

    適格現物分配の課税関係

    適格現物分配に該当した場合の課税関係を、出し手(子会社)、受け手(親会社)、源泉徴収の3つの面から整理すると、次のとおりです。

    立場適格現物分配の場合主な根拠
    子会社(現物分配法人)資産を直前の帳簿価額で譲渡したものとして扱い、含み益・含み損は計上しない法人税法62条の5第3項
    親会社(被現物分配法人)資産の移転を受けたことによる収益は益金に算入しない法人税法62条の5第4項
    源泉徴収所得税法上の配当等から除かれるため、源泉徴収は不要所得税法24条1項
    繰越欠損金等支配関係が5年以内に生じた場合などは、親会社側で欠損金の使用制限や特定資産譲渡等損失の損金不算入が課されることがある法人税法57条4項、62条の7

    親会社は、子会社の帳簿価額を引き継ぐ形で資産を受け入れます。つまり、含み益は消えたのではなく、親会社が将来その資産を外部に売却したときなどに実現するという点に注意が必要です。

    また、適格でない現物分配(非適格現物分配)の場合は、子会社側で資産を時価で譲渡したものとして含み損益が課税されるのが原則であり、受け手が個人であれば配当所得として課税されます。個人株主に会社の不動産を現物で配当すると、会社と個人の双方で税負担が生じ得るため、慎重な検討が必要です。

    会社法上の手続と、税金以外のコスト

    配当としてのルールに従う

    現物分配は会社法上は剰余金の配当などとして行うため、配当の手続と規制に従います。

    • 決議:剰余金の配当は原則として株主総会で決めます。配当財産が金銭以外で、株主に金銭分配請求権(現物に代えて金銭を求める権利)を与えない場合は、株主総会の特別決議が必要です(会社法454条4項、309条2項10号)。100%子会社であれば、親会社の意思決定だけで決議が整います。
    • 分配可能額:配当として交付する財産の帳簿価額の総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはなりません(会社法461条1項)。含み益のある不動産でも、判定は帳簿価額で行います。分配可能額が足りない場合は、資本金や準備金の減少などを先に検討する必要があります。
    • 親会社株式の処分:子会社は、持っている親会社株式を相当の時期に処分しなければなりません(会社法135条3項)。現物分配は、この処分の手段として使われることがあります。

    流通税は別に考える

    法人税で課税が生じなくても、不動産を移す場合は登記にかかる登録免許税が生じます。また、地方税法は、合併や一定の要件を満たす分割による不動産の取得を不動産取得税の非課税としていますが(地方税法73条の7第2号)、現物分配は同条の非課税の対象として掲げられていません。不動産を移す場合は、流通税の見込み額を含めて比較することが欠かせません。

    他の移転手法とどう比べるか

    100%子会社から親会社へ資産を移す方法は、現物分配だけではありません。代表的な手法を、オーナーが比べるべき観点で並べると次のようになります。

    比較の観点適格現物分配売買(グループ法人税制)適格分割型分割適格合併
    移すもの個々の資産個々の資産事業単位(権利義務の承継)会社全体
    対価なし(配当)時価の代金が必要株式(または無対価)株式(または無対価)
    含み損益の扱い簿価で移転(親会社が引き継ぐ)一定の資産は売り手側で繰延べ、後で売り手側に戻る簿価で移転簿価で移転
    移転後の100%関係の継続求められない関係が切れると繰延べた損益が実現継続見込みが必要―
    子会社の存続存続存続存続消滅
    会社法上の制約分配可能額の範囲内通常の取引債権者保護手続など債権者保護手続など

    売買の場合は、完全支配関係がある法人間の譲渡としてグループ法人税制が適用され、土地や帳簿価額1,000万円以上の固定資産などの「譲渡損益調整資産」について、売り手側で譲渡損益が繰り延べられます(法人税法61条の11、法人税法施行令122条の12)。ただし、繰り延べられた損益は、買い手側で売却や償却が行われたときや、両社の100%関係が切れたときに、売り手側で実現します。現物分配では、含み損益は受け手の親会社が引き継ぐ点が異なります。

    どの手法がよいかは、移したい資産が「事業」か「資産」か、移転後に子会社を売却・清算する予定があるか、親会社に買取資金があるか、子会社の分配可能額は足りるか、によって変わります。売買によるグループ内取引の詳細は、関連記事「グループ法人税制と資産管理会社」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 株主構成をまず確認する:子会社に個人株主(役員や親族、名義株主)が少しでも残っていると、適格現物分配になりません。先に株式を集約する必要があるかを確認します。
    • 株価への影響を見ておく:資産が子会社から親会社へ移ると、それぞれの会社の資産構成が変わります。親会社の総資産に占める株式や土地の割合が変われば、相続税評価上の会社区分(株式等保有特定会社・土地保有特定会社など)の判定にも影響します。なお、類似業種比準方式の利益金額の計算では、適格現物分配により受けた収益は、原則として「益金に算入されなかった剰余金の配当等」に加算する必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。
    • 欠損金と含み損の制限:親会社と子会社の支配関係が5年以内に生じた場合などには、親会社側の欠損金の使用や、移転資産の含み損の損金算入に制限がかかることがあります。
    • 親会社に借入れがある場合:不動産を親会社へ移すと、賃貸収入や管理の責任も親会社に移ります。金融機関との契約上の制限(担保・財務制限条項など)も確認します。
    • 目的を記録に残す:グループ内の資産移転は、税負担の回避だけを目的としているように見えないよう、経営上の目的と意思決定の経緯を議事録などで残しておくことが望まれます。

    AEGISの視点

    現物分配は、条文の上では「配当」の一形態にすぎません。しかし、オーナー企業のグループにとっては、「どの会社に、どの資産を持たせるか」を組み替えるための道具になります。

    AEGISは、現物分配を検討するとき、税金がかかるかどうかより先に、「移した後に、その資産を誰が管理し、誰が承継するのか」を考えることが大切だと考えています。子会社の不動産を持株会社に集めれば、事業会社の売却や後継者への承継はしやすくなるかもしれません。一方で、持株会社の資産構成が変わり、株価や将来の相続税の見込みが変わることもあります。

    また、含み益は親会社に引き継がれるだけで、なくなるわけではありません。将来売却するのか、長く保有して賃貸するのかによって、移転先としてふさわしい会社は変わります。グループ全体の資産の置き場所を一枚の図にし、移転の前後で「税・資金・管理・承継」の4つがどう変わるかを比べてから手法を選ぶことが、遠回りのようで確実な進め方です。

    会社と会社の間のお金の貸し借りを含めたグループ内の資金管理の全体像は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で、グループ全体の再編の順番は「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。

    株式の持合いを解消する場面での考え方は、「株式を持ち合うグループ会社の承継と評価」も参考になります。

    グループ内の資産移転と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 現物分配とは、配当などを金銭以外の資産で行うことで、法人税法上は一定の事由による金銭以外の資産の交付をいいます。
    • 現物分配の直前に完全支配関係がある内国法人だけが受け取る場合は適格現物分配となり、子会社は簿価で譲渡したものとされ、親会社の収益は益金不算入、源泉徴収も不要です。
    • 合併や分割と異なり、移転後の完全支配関係の継続は求められません。一方、個人株主が一人でもいると適格になりません。
    • 会社法上は配当として、決議要件と分配可能額の規制を受けます。不動産を移す場合は登録免許税や不動産取得税も見込んでおく必要があります。
    • 売買・分割・合併との違いは、含み損益を誰が引き継ぐか、移転後の関係継続の要否、対価の要否にあります。具体的な選択は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. オーナー個人が100%持っている会社から、オーナー個人へ不動産を現物分配できますか?

    会社法上は可能ですが、受け取るのが個人であるため適格現物分配には当たりません。会社側では不動産を時価で譲渡したものとして含み損益が計算され、個人側では原則として配当所得として課税されます。個人へ資産を移す場合は、売買や役員退職金との組合せなど、他の方法も含めて比較することが大切です。

    Q. 兄弟会社(同じオーナーが持つ2つの会社)の間で、現物分配を使って資産を移せますか?

    現物分配は株主に対して行うものなので、兄弟会社の一方から他方へ直接資産を移す手段にはなりません。兄弟会社間で資産を移す場合は、売買(グループ法人税制の対象になり得ます)や会社分割などを検討します。持株会社を設けて親子関係にしたうえで現物分配を使う、という順番で考えることもあります。

    Q. 子会社の売却直前に現物分配をしても、適格になりますか?

    適格現物分配の要件は「現物分配の直前に完全支配関係があること」で、その後の継続は求められていません。そのため、売却を予定していることだけで不適格になるわけではありません。ただし、取引全体として不自然な点がないか、売却価格の算定や買い手との交渉にどう影響するかは、個別に確認が必要です。

    Q. 含み益のある土地を現物分配すると、含み益はどうなりますか?

    適格現物分配の場合、子会社では含み益に課税されず、親会社は子会社の帳簿価額で土地を受け入れます。含み益は親会社に引き継がれ、親会社がその土地を将来売却したときなどに課税対象となります。

    Q. 現物分配に株主総会の決議は必要ですか?

    剰余金の配当として行う場合は、原則として株主総会の決議が必要です。株主に金銭分配請求権を与えない現物配当は特別決議となります。100%子会社であれば、株主は親会社だけなので、親会社の判断で手続を進めることができます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学・西村美智子・中島礼子・松下欣親・金井孝晃 著、中央経済社、2012年、序章(P.1-19)、第Ⅱ部第1章(P.92-99)、第Ⅱ部第7章(P.269-292)
    • 『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第6版)』牧口晴一・齋藤孝一 著、中央経済社、2024年、第1編第7章(P.288-319)
  • 相続した財産を寄附したときの相続税の非課税|申告期限までの寄附、対象となる法人、寄附後2年の要件と所得税の扱い

    相続した財産を寄附したときの相続税の非課税|申告期限までの寄附、対象となる法人、寄附後2年の要件と所得税の扱い

    相続で受け取った財産の一部を、亡くなった家族がお世話になった病院や母校、地域の団体などに寄附したいと考える方は少なくありません。

    このとき、相続税の申告期限までに、国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すれば、寄附した財産は相続税の課税対象から外れます(租税特別措置法70条)。ただし、寄附先の法人の種類、寄附のタイミング、寄附した財産が「相続で取得した財産そのもの」であること、寄附後2年間の使われ方など、いくつもの要件があります。また、相続税とは別に、所得税の寄附金控除や、不動産・株式を寄附したときの「みなし譲渡」も検討が必要です。

    この記事では、相続人が自らの判断で寄附する場合の制度に絞って、要件と注意点を整理します。

    制度の概要:寄附した財産は相続税の計算に入れない

    相続や遺贈で財産を取得した人が、その財産を相続税の申告書の提出期限までに、国・地方公共団体や、公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定める法人に贈与(寄附)した場合、その財産の価額は相続税の課税価格の計算の基礎に算入しません(租税特別措置法70条1項)。認定NPO法人への寄附(同条10項)や、公益信託の信託財産とするための支出(同条3項)にも、同様の特例があります。

    亡くなった方が遺言で寄附する「遺贈寄附」とは異なり、この特例は相続人が相続後に自分の判断で寄附する場面で使います。遺言がなくても、相続人の意思で社会に財産をつなぐことができる制度です。遺言による寄附については、関連記事「遺贈寄附とは何か」で解説しています。

    寄附先として対象になる法人・ならない法人

    特例の対象となる寄附先は限られています。国税庁のタックスアンサーNo.4141などをもとに整理すると、次のとおりです。

    区分主な寄附先特例の対象
    国・地方公共団体国、都道府県、市区町村など対象
    特定の公益法人公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、一定の学校法人、更生保護法人、独立行政法人、国立大学法人、日本赤十字社など対象
    認定NPO法人所轄庁の認定を受けた特定非営利活動法人(特定非営利活動に係る事業に関連する寄附に限る)対象
    公益信託公益信託の信託財産とするための支出対象
    公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人非営利型法人を含む対象外
    認定を受けていないNPO法人—対象外
    これから設立する法人公益法人を設立するための財産の提供対象外

    ※AEGIS作成。法人の範囲の詳細は租税特別措置法施行令40条の3と国税庁の情報で確認が必要です。

    特に注意したいのは、寄附の時点で既に存在し、対象法人に当たっていることが必要な点です。国税庁の通達では、特例の対象法人を設立するための財産の提供には適用がないとされています。故人の名を冠した財団を新たに作る場合は、この特例ではなく、別の制度や設計を検討することになります。

    また、病院や施設への寄附を考える場合、その運営主体が対象法人に当たるかどうかを事前に確認することが欠かせません。医療法人や一般の財団法人などは、対象の範囲に含まれないことがあります。

    要件1:相続税の申告期限までに寄附すること

    寄附は、相続税の申告書の提出期限までに行う必要があります。申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。

    期限までに「寄附の意思を決めた」だけでは足りず、実際に財産の移転を終えている必要があります。不動産や株式の場合は、名義変更などの手続に時間がかかることもあるため、遺産分割の協議と並行して、寄附先との調整を早めに始めることが大切です。

    要件2:相続で取得した財産そのものを寄附すること

    対象となるのは、相続や遺贈で取得した財産です。生命保険金や退職手当金のように、相続税法上、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も含まれます。

    一方、国税庁の通達では、次のような整理が示されています。

    寄附する財産扱い
    相続した預貯金を払い戻した金銭相続で取得した財産に当たるものとして扱う
    相続した建物の焼失による火災保険金(被相続人が契約者のもの)同上
    相続した財産の収用等に伴って取得した財産同上
    相続した財産を売却して得た代金当たらない
    相続した投資信託を解約して得た金銭当たらない
    被相続人から生前に贈与され、相続税の計算に加算される財産含まれない

    ※AEGIS作成(国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」70-1-5、70-1-6をもとに整理)。

    代償分割で受け取った代償金の場合

    遺産分割で、不動産などを取得した相続人が他の相続人に金銭(代償金)を支払う「代償分割」を行うことがあります。代償金を受け取った相続人がその金銭を寄附する場合、その代償金が「相続で取得した財産そのもの」に当たるかが問題になります。

    代償金は、被相続人の財産ではなく、他の相続人が自らの財産から支払うものです。通達が、相続財産を売却した代金でさえ対象外としていることを踏まえると、代償金を寄附した場合に特例の対象とされるかは慎重に考える必要があり、対象外と判断される可能性を前提に計画することが現実的です。寄附を予定している場合は、遺産分割の段階で、寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得する分け方を検討する余地があります。

    要件3:寄附後2年間の使われ方

    寄附を受けた法人が、寄附の日から2年を経過した日までに対象法人に当たらなくなった場合や、寄附された財産をその日までに公益を目的とする事業に使っていない場合、使わなくなった場合には、特例は適用されません(租税特別措置法70条2項)。この場合、寄附した相続人は、2年を経過した日の翌日から4か月以内に修正申告をして相続税を納める必要があります(同条6項)。

    寄附した財産そのものでなく、法人がその財産を売却し、代金を公益目的の事業に充てた場合について、国税庁の質疑応答事例は、売却代金が現実に公益目的の事業に充てられたのであれば、事業の用に供されたことになるとしています。

    要件4:税負担を不当に減少させないこと

    寄附によって、寄附した人やその親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合は、特例は適用されません。たとえば、寄附した人や親族が、寄附先の法人を通じて特別の利益を受けている場合が該当します。

    寄附した相続人が寄附先の法人の理事を務めていることだけで直ちに不当減少となるわけではなく、法人の運営組織の適正さ、役員に占める親族等の割合、特別の利益の有無などの要件に照らして判断されます。家族が関わる法人への寄附は、要件を満たしているかを事前に確認しておくことが大切です。

    手続:申告書への記載と書類の添付

    特例を受けるには、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、寄附した財産の明細書(申告書第14表)や、寄附を受けた法人が発行する書類(寄附を受けた旨・年月日・財産の明細・使用目的を記載したもの)などを添付する必要があります(租税特別措置法70条5項)。添付がない場合は特例を受けられません。

    寄附先には、これらの書類の発行を依頼する必要があるため、寄附の段階で受領書類の内容を確認しておくと安心です。

    所得税との関係:寄附金控除とみなし譲渡

    相続税の非課税とは別に、所得税の扱いも確認が必要です。

    寄附する財産相続税所得税
    現金・預貯金要件を満たせば課税価格に算入しない寄附金控除の対象となり得る
    不動産・株式など要件を満たせば課税価格に算入しない法人への寄附は時価でのみなし譲渡課税が原則。非課税にするには措置法40条の承認が必要。承認を受けた場合の寄附金控除の対象額は取得価額

    ※AEGIS作成。

    国税庁の質疑応答事例では、相続税の非課税の特例の適用を受けた寄附であっても、所得税の寄附金控除の対象になるとされています。

    一方、不動産や株式を法人に寄附すると、寄附した相続人に所得税の「みなし譲渡」が生じるのが原則です。相続税の非課税と、譲渡所得の非課税は別々の制度で、別々の要件と手続があります。譲渡所得の非課税を受けるには、国税庁長官の承認が必要で、寄附財産を公益目的事業に「直接」使うことなど、相続税の特例より厳しい要件があります。詳しくは関連記事「財団に土地や株式を寄附したときの譲渡所得の非課税」で解説しています。

    寄附金控除と税額控除の選び方は「寄附金控除と税額控除はどちらを選ぶか」で整理しています。

    AEGISの視点

    相続財産の寄附は、相続税の申告期限という限られた時間の中で、遺産分割・納税資金の確保・寄附先の選定を同時に進める作業です。AEGISは、この特例を「相続税を減らす方法」ではなく、故人や家族の想いを、相続手続の流れの中で社会につなぐための仕組みとして捉えています。

    実務上は、どの財産を、誰が取得し、どこへ寄附するかを遺産分割と一体で設計することが鍵になります。寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得しておけば、代償金の扱いのような論点を避けやすくなります。また、不動産や株式をそのまま寄附するのか、相続した預貯金で寄附するのかによって、所得税の負担や手続は大きく変わります。

    寄附の想いが生前から明確であれば、遺言による遺贈寄附や、財団の設計を含めて検討する選択肢も広がります。財団・寄附の全体像は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    相続税と寄附に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すると、その財産は相続税の課税価格に算入されません(措置法70条)。
    • 公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人や、これから設立する法人への寄附は対象外です。
    • 対象は相続で取得した財産そのものです。預貯金の払戻金は対象となる一方、相続財産の売却代金は対象外とされており、代償金も慎重な検討が必要です。
    • 寄附後2年以内に法人が要件を外れたり、財産が公益目的に使われなかったりすると、修正申告が必要になります。
    • 不動産・株式の寄附では、所得税のみなし譲渡と措置法40条の承認を別に検討する必要があります。

    よくある質問

    Q. 相続税の申告期限を過ぎてから寄附した場合はどうなりますか?

    この特例は、申告期限までの寄附が要件です。期限後に寄附した場合は特例の対象にならず、寄附した財産も含めて相続税が計算されます。寄附を考えている場合は、早めに寄附先を決めて手続を進めることが大切です。

    Q. 父が理事をしていた一般財団法人に、相続した預金を寄附したいのですが対象になりますか?

    公益認定を受けていない一般財団法人は、特例の対象となる法人に含まれません。公益財団法人であれば対象となり得ますが、寄附する相続人や親族が特別の利益を受けていないかなど、不当減少に当たらないことの確認も必要です。

    Q. 受け取った生命保険金を寄附しても特例の対象になりますか?

    生命保険金や退職手当金のように、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も、特例の対象となる財産に含まれるとされています。申告期限までに対象法人に寄附すれば、適用を受けられる可能性があります。

    Q. 代償分割で受け取った代償金を寄附したい場合はどうすればよいですか?

    代償金は他の相続人の財産から支払われるもので、相続財産そのものではありません。特例の対象とされない可能性があるため、寄附を予定している財産は、寄附する相続人が遺産分割で直接取得する形を検討することが考えられます。

    Q. 相続した土地をそのまま公益財団法人に寄附すると、税金はかかりませんか?

    相続税は、要件を満たせばその土地の価額が課税価格に算入されません。ただし、所得税では法人への寄附は時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得が課税されるのが原則です。非課税にするには、寄附の日から原則4か月以内に措置法40条の承認申請を行い、承認を受ける必要があります。

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団活用や非上場株式寄附の適合性を、経営権・配当・財団運営・税務・実行後の管理の観点から整理します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会、第4章 P.531-536
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版、第3章 P.311-314