カテゴリー: 自社株・資本設計

株価の考え方と株主構成、議決権、配当等を解説します。目的に合う評価と権利設計を考えるための情報です。

  • 非上場株式を財団に寄附する前に決めること|議決権・配当・運営体制と税務の確認ポイント

    非上場株式を財団に寄附する前に決めること|議決権・配当・運営体制と税務の確認ポイント

    オーナーが保有する自社の非上場株式を財団に寄附し、その配当を社会貢献の原資にする——事業承継と社会貢献を結びつける方法として、こうした構想が検討されることがあります。

    ただし、株式の寄附は、現金の寄附とは性質が大きく異なります。株式には議決権と配当を受け取る権利が付いているため、寄附をした瞬間に、会社の株主構成と財団の財源の両方が同時に変わるからです。

    結論から言えば、非上場株式を財団に寄附する前には、少なくとも次の3点を決めておく必要があります。

    1. 議決権:財団が持つ株式の議決権を、誰が、どのような手順で行使するのか
    2. 配当:会社の配当方針と財団の予算を、どのように結びつけるのか
    3. 運営体制:寄附者や会社から独立した判断が、財団の中でどう担保されるのか

    そのうえで、寄附に伴う税金の扱いを確認します。この記事では、それぞれの論点を、オーナーの意思決定の順番に沿って整理します。

    株式を寄附すると何が起きるか

    非上場株式を財団に寄附すると、次の変化が同時に起こります。

    変化する対象起きること
    会社財団が株主となり、株主総会で議決権を行使する立場になる
    後継者後継者が確保できる議決権の割合が、寄附した分だけ相対的に変わる
    財団配当が主な収入源となり、会社の業績と配当方針に財団の活動が左右される
    寄附者と家族寄附した株式は寄附者の財産から外れ、家族が相続する財産の構成が変わる
    税務寄附者に対するみなし譲渡課税、財団に対する課税などの論点が生じる

    このうち、税務の論点は最後に確認すればよいものではありませんが、議決権・配当・運営体制の設計が固まっていないと、税制の要件を満たせるかどうかも判断できません。まずは株式の寄附によって何を実現したいのかを整理することが出発点です。

    財団設計の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    決めること1:議決権をどう行使するか

    財団の議決権は理事会の判断で行使される

    財団が保有する株式の議決権は、通常、理事会の決議などに基づいて代表理事が行使します。財団は寄附者の持ち物ではないため、寄附者や会社の経営陣が、財団の議決権行使を直接指示できる関係にはありません。

    この点は、寄附を検討するオーナーにとって重要な意味を持ちます。

    • 経営陣と財団の考えが一致している間は、財団は安定的な株主として機能しやすい
    • しかし、創業家と経営陣の対立、第三者からの買収提案、増資などの場面では、財団がどう判断するかが会社の行方を左右し得る
    • 財団の理事に会社の役員が多く就いていると、財団の判断の独立性や、会社法上の支配関係が問題になることがある

    つまり、「財団に寄附すれば安定株主になってくれる」とは限りません。財団がどのような方針で議決権を行使するのかを、あらかじめ議決権行使の方針として定めておくなど、財団の独立性と会社の安定の両立を考えておく必要があります。

    後継者の議決権への影響

    寄附する株式の割合によっては、後継者が単独で確保できる議決権が過半数や3分の2を下回ることもあります。事業承継の計画上、後継者がどの程度の議決権を持つべきかを先に決め、その範囲内で寄附の規模を考えるのが順序です。

    議決権と配当を切り分けて設計する考え方(種類株式の活用など)については、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で扱っています。寄附する株式を議決権のない株式にするなどの設計も考えられますが、会社法上の手続や評価・税務への影響を個別に確認する必要があります。

    保有割合の上限にも注意

    税制や公益認定の基準には、財団が保有できる株式の割合に関わるものがあります。たとえば国税庁は、株式の寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けるための判定の一つとして、寄附によって公益法人等が保有することになる株式(寄附前から保有するものを含む)が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超えないことを示しています(租税特別措置法施行令第25条の17第6項)。また、公益法人については、他の団体の意思決定に関与できる株式等を保有する場合、その会社の議決権の過半数を有していないことが公益認定の基準とされています(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)。前者は「発行済株式総数」、後者は「議決権」を基準とする別々のルールです。寄附の規模を考える際には、両方の上限を確認しておくことが欠かせません。

    決めること2:配当と財団の予算をどう結びつけるか

    株式の寄附は「配当が公益に使われること」が前提

    株式は、建物や土地のように公益目的事業にそのまま使うことができない財産です。そのため、株式を寄附した場合には、その株式から生じる配当の全部が、継続して公益目的事業に充てられるかどうかが、税制の適用上の重要な判断材料になります。

    裏を返すと、次のような状態は注意が必要です。

    • 会社が無配、または配当が毎年定期的に支払われない
    • 配当を受け取っても、財団の公益目的事業に使い切れず、使途が定まらないまま残る
    • 配当金が財団の事務所や役員のための施設に使われる

    会社の配当方針と財団の活動計画をすり合わせる

    会社側にとって、配当は成長投資や財務の安定とのバランスで決めるものです。一方、財団側は、一定の配当がなければ助成や事業を継続できません。両者の利害は、時に対立します。

    寄附の前に、次の点を経営陣・後継者と共有しておくことが望まれます。

    • 会社の配当方針(安定配当か、業績連動か)
    • 財団の活動に必要な年間予算の目安と、配当が想定を下回った場合の対応
    • 配当の決定に財団が株主としてどう関わるか

    配当の変動を財団がどう吸収するか、運営資金の考え方は、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で詳しく扱っています。

    決めること3:財団の運営体制をどう組むか

    株式を寄附する財団では、運営体制が「財団が会社やオーナー家から独立しているか」を示す要素になります。国税庁は、寄附に係る非課税の承認の判定の考え方として、次のような点を示しています。

    • 理事・監事・評議員のうち、親族関係がある人などの占める割合が、それぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあること
    • 寄附者、法人の役員等やその親族等に対して、施設の利用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任などで特別の利益を与えないこと
    • 解散した場合の残余財産が、国・地方公共団体や他の公益法人等に帰属する旨の定款の定めがあること
    • 寄附者やその親族が役員となっている会社の株式を寄附する場合は、その議決権の行使にあたり、あらかじめ理事会で理事総数の3分の2以上の承認を得る旨の定款の定めがあること(租税特別措置法第40条関係通達18)

    運営体制の設計では、次の点も検討しておきたいところです。

    • 評議員・理事に、会社や創業家から独立した有識者をどの程度迎えるか
    • 会社の役員が財団の理事を兼ねる場合、利益相反の場面でどう判断するか
    • 助成先の選考を、誰がどのような基準で行うか

    運営体制を自ら組まないという選択肢

    ここまでの運営体制を寄附者の家族だけで整え、何十年も維持するのは簡単ではありません。株式の寄附先として、自ら財団を設立する代わりに、独立した役員構成と事務局をすでに備えた財団の中に基金を設ける方法もあります。AEGISでは、この考え方に基づき、一定額の配当が確実に見込まれる株式等を、専門家の確認と理事会の決定を経て受け入れるアイジスレガシー財団を設立しています。

    議決権のない配当優先株式を寄附する設計と組み合わせれば、後継者の議決権を保ちながら、配当を社会貢献の財源に充てることができます。後継者が財団の理事や事務局として運営を担う必要もありません。ただし、この場合も、本記事で見てきた議決権・配当・税務の確認は同じように必要です。

    税務上の確認ポイント

    寄附者:みなし譲渡と非課税の特例

    個人が株式を法人に寄附すると、寄附した時の時価で譲渡があったものとみなされ、取得時からの値上がり益に所得税が課されるのが原則です。創業者が保有する自社株式は、取得価額が低く値上がり益が大きいことが多いため、この点は特に重要です。

    公益法人等への寄附で、一定の要件を満たし国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税が非課税となる特例があります(租税特別措置法第40条)。国税庁によれば、主な要件は次のとおりです。

    要件内容
    公益の増進への寄与寄附が教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること
    公益目的事業への供用寄附財産が、寄附の日から2年を経過する日までに、公益目的事業の用に直接供されること(またはその見込みであること)
    不当減少でないこと寄附により、寄附者の所得税や、寄附者の親族等の相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと

    承認申請は、原則として寄附の日から4か月以内に、寄附者の所得税の納税地を所轄する税務署に提出します。また、公益財団法人など一定の法人への寄附で、寄附者がその法人の役員等やその親族等に該当しないことなどを要件とする「承認特例」もあり、こちらは申請から一定期間内に判断がなければ承認があったものとみなされます(原則1か月。株式などの寄附は、受け手が国立大学法人等である場合を除き3か月。租税特別措置法施行令第25条の17第8項)。

    承認を受けた後でも、寄附財産が公益目的事業に直接供されなくなった場合などには承認が取り消され、寄附者または財団に所得税が課されることがあります。

    財団:持分の定めのない法人への課税

    財団への寄附によって、寄附者の親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、財団を個人とみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。運営体制の設計は、この判定とも直結します。

    相続後に寄附する場合

    相続や遺贈で取得した株式を、相続税の申告期限までに公益財団法人などに寄附した場合には、その株式を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。ただし、公益認定を受けていない一般財団法人への寄附は対象外です。生前に寄附するか、遺言で寄附するか、相続人が寄附するかによって、適用される制度が変わります。

    株式の評価

    非上場株式の寄附では、寄附時の株式の時価をどう算定するかが、みなし譲渡の計算や各種判定の前提になります。みなし譲渡の計算に用いる時価は、所得税基本通達59-6により、一定の条件のもとで財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価方法の例により算定するとされています。評価方法は会社の規模や株主の立場によって異なるため、寄附の計画段階で確認しておく必要があります。

    実務上注意したいポイント

    • 事業承継の計画と一体で考える:寄附の規模は、後継者が確保すべき議決権から逆算します。事業承継の全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    • 受け手の財団の状態を先に整える:寄附を受ける財団の定款、役員構成、公益認定の有無によって、使える税制が変わります。寄附の時点で要件を満たしている必要がある点に注意が必要です。一般財団法人と公益財団法人の違いは、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で解説しています。

    • 家族の理解を得る:寄附した株式は家族が相続する財産から外れます。遺留分を含め、家族との合意形成を先行させることが望まれます。

    • 一度に全部を寄附しない選択肢:寄附の規模や時期を段階的に分けることで、会社・財団双方の変化を確かめながら進めることもできます。

    AEGISの視点

    自社株式を財団に寄附するという判断は、「相続税をどう減らすか」という発想から語られることがあります。しかしAEGISは、この判断を「会社の所有の一部を、家族ではなく社会に託す」という承継の設計として捉えています。

    会社は創業者一人のものではなく、従業員、取引先、地域とともに育ってきた存在です。その会社が生み出す利益の一部を、財団を通じて社会に還していく仕組みは、承継を合理的に突き詰めた先に現れる、一つの自然な形だとAEGISは考えています。

    ただし、そのためには、財団が会社や創業家の「別の財布」になってはいけません。議決権の行使、配当の使い道、運営体制のいずれにおいても、財団が自らの目的に沿って独立して判断できることが、税制上の要件を満たすためにも、想いを長く続けるためにも不可欠です。株式の寄附を検討する際の税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 非上場株式を財団に寄附すると、会社の株主構成と財団の財源が同時に変わります。
    • 寄附の前に、議決権の行使方法、配当と財団予算の関係、財団の運営体制の3点を決めておくことが重要です。
    • 寄附者には原則としてみなし譲渡課税が生じますが、国税庁長官の承認を受けた場合の非課税特例(租税特別措置法第40条)があります。承認申請は原則として寄附の日から4か月以内です。
    • 国税庁は、株式の寄附について、財団が保有する株式が発行済株式総数の2分の1を超えないことを判定要素の一つとして示しています。
    • 財団を個人とみなして課税する仕組み(相続税法第66条第4項)もあり、運営体制の設計と税務は切り離せません。

    具体的な適用可否や設計は、会社の状況、家族構成、財団の状態などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 自社株を財団に寄附すれば、相続税の対象から外れますか?

    寄附した株式は寄附者の財産ではなくなりますが、寄附によって家族の相続税・贈与税の負担が不当に減少すると認められる場合には、財団に贈与税などが課される仕組みがあります。また、寄附者にはみなし譲渡による所得税の論点もあります。「寄附すれば非課税」と単純には言えないため、要件の確認が必要です。

    Q. 財団に寄附した株式の議決権は、寄附者が行使できますか?

    財団が保有する株式の議決権は、財団の理事会の決議などに基づいて行使されるのが通常であり、寄附者が直接行使するものではありません。寄附者が財団を通じて会社を支配するような設計は、税制上・公益認定上の要件と合わない可能性があります。

    Q. 会社が無配の場合でも、株式を財団に寄附できますか?

    寄附自体は可能ですが、配当がなければ財団の財源にならず、みなし譲渡の非課税特例の適用上も問題となる可能性があります。株式の寄附では、配当の全部が継続して公益目的事業に充てられるかどうかが重要な判断材料とされているためです。配当方針とあわせて検討する必要があります。

    Q. 承認申請の期限を過ぎてしまうとどうなりますか?

    承認申請書は、原則として寄附の日から4か月以内(その前に所得税の確定申告期限が到来する場合はその期限まで)に提出する必要があります。期限内に申請しなければ、非課税の特例を受けることはできません。寄附の実行前に、申請の準備を整えておくことが重要です。

    Q. 一般財団法人に株式を寄附する場合と、公益財団法人に寄附する場合で違いはありますか?

    あります。たとえば、相続財産を寄附した場合の相続税の非課税特例は、公益財団法人などが対象で、公益認定を受けていない一般財団法人は対象外です。みなし譲渡の非課税特例でも、手続が迅速な承認特例は公益財団法人など一定の法人に限られます。受け手の法人の状態によって選択肢が変わります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
  • 財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか|寄附後の運用ルールと議決権行使方針のつくり方

    財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか|寄附後の運用ルールと議決権行使方針のつくり方

    自社株を財団に寄附した後、その株式の議決権は、寄附者でも会社の経営陣でもなく、財団自身が、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使するものになります。

    そのため寄附後に必要になるのは、「財団がどのような考え方で議決権を使うのか」をあらかじめ文書にした議決権行使方針と、それを運用する理事会の手続・利益相反の管理・会社との対話の仕組みです。これらが整っていれば、財団は会社にとって予見可能性の高い株主になり、同時に寄附者の家族や経営陣から独立した存在であり続けられます。

    この記事では、寄附「後」の運用ルールに焦点を当て、議決権行使方針に何を書き、どのような場面でどう考えるかを整理します。寄附「前」に決めておくこと(寄附する株式の割合や税務の要件など)は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で扱っています。

    寄附後、財団は株主として会社とどう関わるか

    財団は「独立した株主」になる

    財団が株式を持つと、他の株主と同じように、株主総会での議決権、配当を受け取る権利、会社の情報を求める権利などを持ちます。一方で、財団には持分を持つ人がいません。寄附をしたオーナーであっても、財団の財産や議決権を自分のものとして扱うことはできません。

    財団が保有する株式の議決権は、一般に、理事会の決議などに基づいて代表理事がまとめて行使します。理事は財団に対して、財団の目的に沿って誠実に職務を行う責任を負っています。つまり議決権の行使は、「寄附者や経営陣の意向に従うこと」ではなく、「財団の目的にとって何が適切か」を理事会が判断することです。

    保有と運営にかかる主な制約

    財団が自社株を持ち続けるうえで、次のような制約があります。いずれも寄附の設計段階で確認すべき事項ですが、寄附後の増資や株式の移動によって状況が変わることがあるため、継続的に確認が必要です。

    • 公益財団法人の場合:公益認定の基準として、他の団体の意思決定に関与できる株式等の保有が制限されており、その会社の株主総会などにおける議決権の過半数を有していない場合に限って保有が認められます(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)。
    • 譲渡所得等の非課税特例を受けた寄附の場合:国税庁は、寄附によって法人が保有することになる株式(寄附前からの保有分を含む)が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超えないことを判定項目の一つとしています。また、理事・監事・評議員のそれぞれについて、親族関係などにある人の割合を3分の1以下とする定めを置くことも求められています。さらに国税庁の通達では、寄附者やその親族が役員となっている会社の株式を寄附する場合、その議決権の行使にあたっては、あらかじめ理事会で理事総数の3分の2以上の承認を得ることを定款で定めておくことが、運営組織が適正かどうかの判定項目として示されています(租税特別措置法第40条関係通達18)。
    • 会社の子会社とみなされないこと:財団の理事の多くを会社の役員が占めるなど、会社が財団の方針決定を支配していると評価される状態になると、財団が会社の子会社とみなされ、株式の保有自体が問題になるおそれがあると指摘されています。

    これらは、財団が会社から独立していることを制度の側から求めるものです。議決権行使方針は、この独立性を運用の場面で具体化するものと位置付けると分かりやすくなります。

    議決権行使方針に書くこと

    議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられた文書ではありません。しかし、財団の理事が交代しても判断の軸がぶれないようにするため、また会社や寄附者の家族に財団の考え方を説明するために、文書化しておく意味は大きいと言えます。

    AEGISでは、次の7つの項目で方針を構成することをおすすめしています。

    項目書くことねらい
    1. 基本的な考え方財団の目的と、株主としての立場(中長期の企業価値と安定した配当を重視する等)個々の判断の拠り所をつくる
    2. 議案の区分定例的な議案と、重要な議案の区分手続の重さを議案に応じて変える
    3. 判断の基準区分ごとに、賛否を判断する際に確認する事項判断の再現性を高める
    4. 決議の手続理事会で決議する事項、決議の要件、外部の意見を求める場合意思決定の正当性を確保する
    5. 利益相反の管理会社の役員を兼ねる理事や、寄附者の家族である理事の扱い財団の判断の独立性を守る
    6. 会社との対話説明を受ける機会、配当方針についての意見交換の方法予見可能性を高め、対立を防ぐ
    7. 記録・開示・見直し議事録の残し方、評議員会への報告、方針の見直し時期説明責任を果たし、方針を更新する

    議案の区分と判断の基準

    議案を、たとえば次のように区分しておくと、すべての議案に同じ重さで向き合う必要がなくなります。

    • 定例的な議案:計算書類の承認、剰余金の配当、通常の役員選任など。会社から事前に説明を受け、財団の基本的な考え方に照らして大きな問題がなければ、理事会で包括的に方針を確認したうえで行使する
    • 重要な議案:定款変更、第三者割当による増資、合併・会社分割などの組織再編、株式の大量取得への対応、財団が保有する株式の売却や買取りの提案など。個別に理事会で審議し、必要に応じて外部の専門家の意見を求める

    判断の基準には、「会社の中長期の存続と成長に資するか」「財団の財源である配当の安定性にどう影響するか」「財団の目的や公益性と矛盾しないか」といった問いを置きます。

    理事会での決議と利益相反の管理

    特別な利害関係がある理事の扱い

    理事会の決議について特別の利害関係を持つ理事は、その決議に加わることができません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)第197条で準用する第95条第2項)。典型的には、その理事自身と財団との取引の承認や、その理事の責任免除などがこれに当たります。

    財団の理事が会社の取締役を兼ねている場合、会社の役員選任議案に関する財団の議決権行使の決議に、その理事が参加できるかが問題になります。専門書籍では、会社の役員選任は財団とは別の法人の問題であり、財団の利益と直接衝突するとは限らないため、参加できると考えられるとする見解が示されています。

    ただし、法的に参加が可能かどうかと、運用として望ましいかどうかは別の問題です。財団の判断の独立性を外部に説明する観点からは、次のような運用ルールを方針に書いておくことが考えられます。

    • 会社の役員を兼ねる理事は、会社の役員人事や役員報酬、自身が関わる取引に関する議案では、意見を述べたうえで審議・決議から外れる
    • 寄附者の家族である理事が多数を占めないよう、理事の構成を定期的に確認する
    • 会社の経営陣と財団の考えが対立した場合に、外部の理事を中心に検討する体制を決めておく

    財団と会社の取引

    財団が会社と取引をする場合(会社から寄附や協賛を受ける、会社の施設を借りる、会社に業務を委託する等)、理事がその会社を代表していれば、財団と理事との利益相反取引として理事会の承認が必要になることがあります(一般法人法第197条で準用する第84条第1項)。承認を得るときは、取引の重要な事実を開示し、利害関係のある理事は決議に加わらないことが原則です。

    公益財団法人には、設立者や理事・評議員、その親族などの法人関係者や、株式会社などの営利事業者に特別の利益を与えないことも求められています(認定法5条3号・4号、同法施行令1条)。株式寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けた場合は、寄附者やその親族などに特別の利益を与えないことも要件です(租税特別措置法施行令25条の17第6項)。会社と財団の関係が「持ちつ持たれつ」になりすぎないよう、取引の条件を記録し、説明できる状態にしておくことが大切です。

    配当方針との関係

    自社株の寄附によって設立された財団は、多くの場合、配当を主な財源とします。そのため財団は、配当を期待する株主という立場から会社と向き合うことになります。

    ここで注意したいのは、財団が配当の増額を求めることだけが、財団の目的にかなうわけではないという点です。会社の成長投資が損なわれれば、長い目で見て配当の源泉が細ります。一方で、税制上の非課税特例を受けた寄附の場合、株式から生じる配当が継続して公益目的事業に充てられることが前提とされているため、無配が続くと財団の活動だけでなく、税制上の取扱いにも影響するおそれがあります。

    そこで方針には、次のような事項を書いておくとよいでしょう。

    • 会社の配当方針(安定配当か、業績連動か)について、毎年説明を受ける機会を設ける
    • 減配・無配の提案があった場合に、会社の事業計画と財団の資金計画の両方を確認したうえで賛否を判断する
    • 配当の見込みを財団の予算や積立ての計画にどう反映するかを、事務局と理事会で共有する

    配当の変動を財団の資金計画でどう受け止めるかは、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」と「公益法人の財務規律をオーナー目線で読む」で解説しています。

    場面別に考える議決権行使

    財団の議決権が問われるのは、平時よりも、会社の転機となる場面です。代表的な場面と、検討したい点を整理します。

    場面財団として確認したいこと方針で決めておきたいこと
    定時株主総会(役員選任・配当)会社の業績と事業計画、配当の水準と理由定例議案として包括的に確認する範囲
    第三者割当による増資資金の使い道、財団の持株比率の低下が配当や財団の位置付けに与える影響重要議案として個別審議する
    合併・事業譲渡などの組織再編事業の継続性、雇用、財団が持つ株式の価値と配当への影響外部の意見を求めるかどうか
    株式の買取り・売却の提案価格の妥当性、税制上の取扱い、財団の財源への影響売却を検討する条件と手続
    創業家と経営陣の意見の対立双方の説明、会社の中長期の利益利害関係のある理事の扱いと、外部理事中心の検討体制
    減配・無配の提案会社の資金需要と回復の見通し、財団の活動への影響財団の資金計画との照合手順

    いずれの場面でも、「どちらの味方をするか」ではなく、「財団の目的と会社の中長期の存続にとって何が適切か」を問うことが、財団の議決権行使の基本になります。

    実務上注意したいポイント

    • 方針の原案は寄附の前につくる:寄附後の最初の理事会で方針を採択できるよう、原案を寄附の検討段階で用意しておくと、寄附直後の空白期間を避けられます。
    • 方針で理事を縛りすぎない:理事は、その時点の状況に照らして財団のために判断する責任を負います。方針は判断の拠り所であって、結論をあらかじめ決めておくものではありません。
    • 寄附者は「指示」ではなく「目的」で関わる:寄附者が議決権の行使を指示することはできません。寄附者の想いは、財団の目的や方針の基本的な考え方に込めておくことが現実的です。
    • 持株比率の変化を定期的に確認する:増資や自己株式の取得によって、財団の持株比率や議決権比率は変わります。保有制限や子会社に当たるかどうかの判断に影響するため、毎年確認しておきましょう。
    • 記録を残す:議決権行使の判断理由を議事録に残しておくことは、評議員会や行政庁、社会への説明の基礎になります。

    AEGISの視点

    自社株を財団に寄附するとき、多くのオーナーは「財団が安定株主として会社を支えてくれる」ことを期待します。しかし、財団が安定株主として機能するのは、創業家・経営陣・財団の考えが一致している間に限られることが少なくありません。対立や買収提案、増資といった場面でこそ、財団の判断の仕方が問われます。

    AEGISは、財団の議決権を「会社のために使う議決権」ではなく、「財団の目的のために、会社の中長期の存続を見守る議決権」と捉えています。そのためには、財団の独立性を形だけでなく運用で示すことが欠かせません。議決権行使方針、理事会の手続、利益相反の管理、会社との対話の4つがそろって初めて、財団は会社にとって信頼できる株主になり、寄附者の想いを世代を超えて守る器になります。

    自社株の承継と財団への寄附は、別々の手続として進められがちです。しかし、後継者が持つ議決権と財団が持つ議決権の関係は、承継後の会社の意思決定の形そのものです。株式の評価や資本構成の設計とあわせて、寄附後の運用まで一つの設計図で考えることをおすすめします。財団全体の設計は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    なお、財団に議決権を持たせること自体を避けたい場合は、寄附する株式を議決権のない配当優先株式にする設計も考えられます。財団は配当を受け取る株主として社会貢献の財源を確保し、会社の意思決定は後継者が担うという役割の分け方です。自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に寄附する場合も、この考え方は同じです。ただし、議決権のない株式であっても、定款の定め方によっては一定の場面で種類株主総会の決議が必要になることがあるため、その場面での財団の判断の仕方は、本記事の考え方に沿って整理しておく必要があります。

    財団と株式承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 財団が保有する自社株の議決権は、寄附者や経営陣の意向ではなく、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使されます。
    • 公益財団法人の議決権の過半数保有の制限、非課税特例における2分の1・3分の1の基準、子会社とみなされるリスクなど、財団の独立性を求める制約があります。
    • 寄附後は、基本的な考え方・議案の区分・判断基準・決議手続・利益相反の管理・会社との対話・記録と見直しを含む議決権行使方針を文書化しておくことが有効です。
    • 配当方針については、財団は配当を期待する株主として、会社の成長投資とのバランスを見ながら対話することが大切です。
    • 具体的な制約の適用や手続は、財団の形態・持株比率・寄附時の税務の取扱いによって異なるため、個別に確認してください。

    よくある質問

    Q. 寄附したオーナーは、財団の議決権行使に意見を言えますか?

    寄附者が財団の議決権の行使を指示することはできません。寄附者が財団の理事や評議員を務めている場合は、その立場で議論に参加することになりますが、親族等の割合の制限や利益相反の管理に従う必要があります。寄附者の想いは、財団の目的や議決権行使方針の基本的な考え方に反映しておくことが現実的です。

    Q. 議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられていますか?

    法律で一律に作成が義務付けられた文書ではありません。ただし、理事の交代があっても判断の軸を保ち、会社や寄附者の家族、行政庁に財団の考え方を説明するうえで、文書にしておく意味は大きいと考えられます。理事会で採択し、定期的に見直すことをおすすめします。

    Q. 財団の理事が会社の取締役を兼ねていても問題ありませんか?

    兼任そのものが直ちに禁止されるわけではありませんが、会社の役員が財団の理事の多くを占めると、財団が会社の子会社とみなされるおそれや、財団の判断の独立性が疑われるおそれがあります。兼任する理事の人数を限ったうえで、会社の役員人事や自身が関わる取引の議案では決議から外れるなどの運用ルールを設けておくことが望まれます。

    Q. 会社が増資をすると、財団にどのような影響がありますか?

    財団が増資に応じなければ、財団の持株比率や議決権比率は下がります。配当の総額が変わらなくても、財団の会社における位置付けが変わるほか、保有制限や子会社に当たるかどうかの判断にも影響することがあります。第三者割当による増資は重要議案として、資金の使い道と財団への影響を個別に審議することが望まれます。

    Q. 財団が保有する株式を売却することはできますか?

    財団が株式を売却すること自体は可能ですが、寄附時に譲渡所得等の非課税特例を受けている場合は、売却による買換えや管理の方法について税制上の手続や要件が関わることがあります。また、売却は財団の財源と会社の株主構成の両方に影響します。売却を検討する条件と手続を方針に定め、事前に専門家と税務上の取扱いを確認してください。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団運営・税務・実行後の管理を整理します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附等の目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会
    • 『公益認定の判断基準と実務』出口正之 著、全国公益法人協会
  • 相続対策と事業承継を一体で考える|会社の株式と個人の財産を別々に設計しないための全体像

    相続対策と事業承継を一体で考える|会社の株式と個人の財産を別々に設計しないための全体像

    事業オーナーの方から、「事業承継は会社の顧問税理士と、相続対策は銀行や不動産会社と、それぞれ相談している」というお話を伺うことがあります。窓口が分かれること自体は自然なことです。しかし、会社の株式とオーナー個人の財産を別々に設計すると、あとで両者がぶつかることがあります。

    結論から言えば、事業オーナーにとって相続対策と事業承継は、同じ一つの財産を別の角度から見ているにすぎません。自社株式は「会社の支配権」であると同時に「相続財産」でもあり、会社が使う土地は「事業の基盤」であると同時に「個人の財産」でもあるからです。

    この記事では、なぜ一体で考える必要があるのか、どのような順番で全体を設計すればよいのかを、相続・資産承継カテゴリの入口として整理します。

    相続対策と事業承継は、なぜ切り離せないのか

    事業承継は「経営と株式を後継者に引き継ぐこと」、相続対策は「個人の財産を家族に円滑に引き継ぐこと」と説明されることが一般的です。ところが事業オーナーの場合、次のような理由から両者は重なり合います。

    • 財産の多くが自社株式である:業績のよい会社ほど株式の評価額は高くなりますが、非上場株式は簡単に売却できません。評価は高いのに換金できない財産が、相続財産の中心にあることになります。
    • 会社が使う資産を個人が持っている:本社や工場の土地・建物をオーナー個人が所有し、会社に貸しているケースは少なくありません。
    • 会社と個人の間に貸し借りがある:オーナーから会社への貸付金は、相続が起きればオーナーの相続財産になります。会社の借入れに対する経営者保証も、承継時の論点です。
    • 後継者以外の家族がいる:株式を後継者に集めれば、他の家族には別の財産を渡す必要が出てきます。

    つまり、「株式を誰に渡すか」という事業承継の判断は、そのまま「他の財産を誰にどう分けるか」「相続税をどう納めるか」という相続の判断に波及します。片方だけを先に固めると、もう片方の選択肢が狭まってしまうのです。

    相続で解決すべき4つの課題

    AEGISでは、事業オーナーの相続・資産承継を、次の4つの課題に分けて整理しています。

    課題中心となる問い事業オーナーに特有の論点
    分ける誰に、何を渡すか自社株式を後継者に集中させたときの、他の家族とのバランス
    納める相続税をどう支払うか換金しにくい自社株式・不動産が中心で、現預金が少ない
    続ける事業と資産の管理をどう続けるか後継者が経営に必要な議決権を確保できるか
    減らす税負担をどう適正に抑えるか株式の評価や移転の時期・方法の選択

    多くの相続対策は「減らす」から語られます。しかし、税負担を抑えるために株式を家族に広く分散させれば「続ける」が損なわれ、評価額を下げることだけに注力すれば「納める」「分ける」の準備が後回しになります。AEGISでは、「分ける」「納める」「続ける」の見通しを立てたうえで、その範囲内で「減らす」を考える順番をおすすめしています。

    まず押さえたい相続税の基本ルール

    全体を設計するうえで、最低限知っておきたい相続税のルールを確認します(いずれも国税庁タックスアンサー、令和8年4月1日現在法令等)。

    • 基礎控除:相続税の計算では、遺産の総額から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引きます。これを超える部分に相続税がかかります。
    • 計算の流れ:基礎控除後の金額をいったん法定相続分で分けたものとして税額を計算し、その合計(相続税の総額)を、実際に財産を取得した割合に応じて各人に割り振ります。
    • 申告と納税の期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
    • 延納:金銭で一度に納めることが難しい場合、税額が10万円を超えることや担保の提供などの要件を満たせば、分割での納付(延納)を申請できます。ただし延納期間中は利子税がかかります。

    ここで重要なのは、相続税の計算方法そのものよりも、10か月という期限の中で、遺産の分け方を決め、納税資金を用意しなければならないという時間的な制約です。自社株式や不動産が財産の中心であるほど、この制約は重くなります。相続税の概算に必要な情報については、関連記事(相続税の概算に必要な情報)で整理しています。

    財産の種類ごとに見える論点

    事業オーナーの財産を種類ごとに見ると、それぞれが「事業」と「相続」の両面を持っていることが分かります。

    財産の種類事業承継の視点相続の視点
    自社株式後継者の議決権・経営の安定評価額が高くなりやすく、換金しにくい
    会社が使う不動産(個人所有)事業の継続に不可欠後継者以外が相続すると、会社との賃貸関係が不安定になり得る
    賃貸用不動産管理の担い手が必要収益を生むが、分割しにくく共有になりやすい
    金融資産(現預金・上場株式等)直接の関係は薄い納税資金や、後継者以外への配分の原資になる
    会社への貸付金会社の資金繰りに影響額面で相続財産になり、回収の見通しが問題になる
    生命保険—死亡保険金のうち一定額(500万円×法定相続人の数)は非課税。納税資金・分割の調整に使える

    たとえば、相続財産の大部分が自社株式で、現預金が少ないケースを考えてみます。株式を後継者に集めると、他の家族に渡す財産が足りず、後継者は多額の相続税を負担することになります。後継者が納税資金を用意できなければ、結果として会社が株式を買い取る(自己株式の取得)などの形で会社の資金が使われ、事業の財務に影響が及ぶこともあります。

    財産の種類ごとの組み合わせ方は、関連記事(自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継)で詳しく解説しています。

    財産を「いつ」「どの方法で」移すか

    財産を次世代に移す方法は、大きく分けて次のとおりです。

    • 相続(遺言を含む):亡くなったときに移る。遺言で、誰に何を渡すかを指定できます。
    • 生前贈与:生きているうちに無償で移す。贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの方式があります。
    • 売買:対価を受け取って移す。後継者や資産管理会社などに買い取ってもらう方法です。
    • 制度の活用:非上場株式について、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「法人版事業承継税制」などがあります。特例措置を使う場合の特例承継計画の提出期限は、令和9年(2027年)9月30日とされています(中小企業庁)。

    どの方法にも長所と制約があり、財産の種類や家族の状況によって適したものは異なります。また、生前贈与のルールは令和5年度の税制改正で大きく変わり、相続前の贈与を相続財産に加える期間が段階的に延びつつあります。贈与と相続の使い分けについては、関連記事(生前贈与と相続をどう使い分けるか)で解説しています。

    一体で設計するための6つのステップ

    AEGISでは、相続対策と事業承継を一つの計画として整理するために、次の順番で進めることをおすすめしています。

    1. 財産と関係の棚卸し:個人の財産、会社の株主構成、会社と個人の貸し借りや保証、関係会社などを一覧にします。財産や会社が多い場合の整理の仕方は、関連記事(複数の会社・資産にまたがる財産の整理)で扱っています。

    2. 現時点の相続税の試算:「今、相続が起きたら」を前提に概算します。精緻さよりも、規模感と納税資金の過不足を把握することが目的です。

    3. 方針の言語化:事業を誰に、どのような形で継ぐか。家族それぞれに何を残したいか。社会や地域に何を還元したいか。
    4. 配分案(分ける)と納税資金の見通し(納める):株式・不動産・金融資産を誰に配分するか、相続税をどの財産で納めるかを、仮の案として組み立てます。
    5. 手段の選択(減らす・続ける):贈与・売買・遺言・制度の活用などを、配分案を実現する手段として位置付けます。
    6. 定期的な見直し:株価、不動産の価値、家族の状況、税制は変わります。試算と配分案は、少なくとも年に一度は見直します。

    ポイントは、ステップ5の「手段」から始めないことです。「この節税策がよいと聞いた」という入口から始めると、方針や配分との整合が確認されないまま実行されてしまうことがあります。

    事業承継そのものの進め方は、関連記事(事業承継は何から始めるべきか)で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    税負担の軽減を目的に株式を分散させない

    相続税を抑える目的で自社株式を多くの家族に少しずつ移すと、その時点の税負担は軽く見えても、次の世代で議決権がまとまらず、後継者の経営判断が難しくなることがあります。株式の移転は、税額だけでなく、承継後の株主構成から逆算して設計することが大切です。

    「贈与したつもり」と「制度の要件」のずれに注意する

    生前贈与は計画的に行えば有効な手段ですが、制度ごとに要件や相続時の扱いが異なります。たとえば、相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には、相続時に小規模宅地等の特例を適用できません(国税庁 No.4124)。事業用や居住用の土地を贈与で移すかどうかは、相続時の評価への影響も含めて判断する必要があります。

    相続人が海外に住んでいる場合

    相続人の中に海外在住の方がいると、課税される財産の範囲や手続きが国内だけの相続と異なる場合があります。該当する可能性がある場合は、早めに論点を確認しておくことが望まれます(関連記事:海外在住の相続人がいる場合の準備)。

    不動産の名義と登記を整えておく

    令和6年4月から、相続登記の申請が義務化されています(法務省)。相続により不動産の所有権を取得した人は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となります(不動産登記法76条の2・164条)。先代から名義が変わっていない不動産が残っていると、相続時の手続きや売却に時間がかかります。棚卸しの段階で登記の状況も確認しておくと安心です。

    AEGISの視点

    事業オーナーの相続を、AEGISは「会社と個人の境界線を、次の世代に合わせて引き直す機会」と捉えています。

    オーナーが一代で築いた事業では、会社の財産と個人の財産、経営判断と家族の事情が、良くも悪くも一体となって動いてきました。それがオーナーの強さでもあります。しかし次の世代では、後継者が経営を担い、他の家族は株主や財産の受け手になるなど、役割が分かれていきます。そのとき、どの財産を会社に置き、どの財産を個人で持ち、誰がどの立場で関わるのかを設計し直す必要があります。

    その設計図は、税金の計算だけでは描けません。事業の将来、不動産の収益性や所有のあり方、家族一人ひとりの生活、そしてオーナーが事業を通じて社会に何を残したいか——たとえば財産の一部を公益のために役立てるという選択も、全体像の中で初めて合理的に位置付けられます。AEGISが事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として扱うのは、そのためです。

    自社株式の一部を財団に寄附する場合も、議決権のない配当優先株式を寄附し、議決権のある株式は後継者に承継するといった設計をとれば、後継者の経営権を損なわずに社会への還元を組み込めます。自ら財団を設立する代わりに、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に基金を設ける形なら、相続後に家族や後継者が財団の運営を担う必要もありません。寄附に伴う税務上の取扱いは、寄附の時期や財団の状況によって異なるため、個別の確認が前提です。

    相続・事業承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 事業オーナーにとって、相続対策と事業承継は同じ財産を別の角度から見たものであり、切り離して設計すると両者がぶつかります。
    • 相続の課題は「分ける・納める・続ける・減らす」の4つ。税負担の軽減(減らす)は、他の3つの見通しを立てたうえで考えるのが基本です。
    • 相続税の申告・納税期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内。自社株式や不動産が中心の財産ほど、納税資金の準備が重要になります。
    • 進め方は「棚卸し → 試算 → 方針 → 配分と納税資金 → 手段 → 見直し」の順が基本です。
    • 具体的な対策の適否は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続対策と事業承継は、どちらを先に考えるべきですか?

    どちらか一方を先に確定させるのではなく、同時に全体を見渡すことをおすすめします。具体的には、まず個人と会社の財産・株主構成を一覧にし、現時点の相続税を概算したうえで、事業を誰にどう継ぐかの方針と、家族への配分の方針を並べて検討します。

    Q. 相続税がかからない見込みなら、相続対策は不要ですか?

    相続税がかからなくても、「分ける」と「続ける」の課題は残ります。たとえば、自社株式が複数の相続人に分かれて相続されると、後継者の経営に影響が出ることがあります。また、株価や不動産の価値は変動するため、試算は定期的に見直すことが望まれます。

    Q. 自社株式で相続税を納めることはできますか?

    相続税は金銭で一括して納めるのが原則で、それが難しい場合に延納(分割払い)や物納という例外的な方法があります。ただし、いずれも要件があり、非上場株式で納めることは簡単ではありません。自社株式が財産の中心である場合は、生前から納税資金の確保を計画しておくことが重要です。

    Q. 会社が使っている土地を個人で持っていますが、何か問題はありますか?

    それ自体が問題というわけではありません。ただし、相続時にその土地を後継者以外の家族が相続すると、会社との賃貸関係や賃料をめぐって調整が必要になることがあります。土地を誰が相続するか、会社や資産管理会社が所有する形にするかなどを、事業承継の計画と合わせて検討しておくとよいでしょう。

    Q. 生命保険は相続対策として有効ですか?

    死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかからない仕組みがあり(相続人が受け取る場合)、納税資金の確保や、後継者以外の家族への配分の調整に役立つことがあります。ただし、保険料の負担者や受取人の設定によって課税関係が変わるため、全体の配分案の中で位置付けることが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 持株会社(ホールディングス)をつくる目的|承継・株価・グループ経営への影響と、つくる前に確認したいこと

    持株会社(ホールディングス)をつくる目的|承継・株価・グループ経営への影響と、つくる前に確認したいこと

    持株会社(ホールディングス)とは、他の会社の株式を保有し、その会社を支配・管理することを主な役割とする会社です。中小企業でも、事業承継の準備として「ホールディングス化」が提案されることが増えています。

    結論からいえば、持株会社は「株主を一本化する」「グループの経営と所有を分けて整理する」「後継者への承継の器を用意する」といった目的があってはじめて効果を発揮する仕組みです。株価が下がるかどうかだけで判断すると、つくった後に評価が思ったように下がらない、維持コストが増える、組織が複雑になる、といったことが起こり得ます。

    この記事では、持株会社をつくる目的を整理したうえで、つくり方ごとの手続と課税、自社株の評価への影響、後継者の取得資金への影響を順に見ていきます。

    持株会社をつくる目的を整理する

    持株会社の目的は、大きく次の4つに分けられます。どれを主な目的にするかで、つくり方も、その後の運営も変わります。

    目的期待すること確認したいこと
    1. 株主の一本化事業会社の株主を持株会社1社にまとめ、意思決定を安定させる持株会社自体の株主構成をどう設計するか
    2. グループ経営の整理複数の事業会社を兄弟会社として並べ、管理・資金配分を一元化する管理コストと、各社の独立性のバランス
    3. 承継の器後継者が持株会社の株式を持つ形で、グループ全体を承継する後継者が持株会社の株式を取得する方法と資金
    4. 資産と事業の分離不動産や余剰資金を持株会社側に置き、事業会社を身軽にする移転時の課税、各社の株価への影響

    「株価対策になると聞いた」という理由だけで設立を急ぐ前に、まずこの表のどれに当てはまるのか、目的を言葉にしておくことが大切です。不動産を中心とした資産管理会社の設立判断との違いは、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    持株会社のつくり方と課税

    持株会社のつくり方には、主に次の4つがあります。

    1. 株式移転(持株会社を新しく設立する)

    株式移転とは、既存の事業会社の株主が持つ株式をすべて新設する会社に移し、その対価として新設会社の株式を受け取る手続です。会社法上、事業会社では株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法804条1項、309条2項12号)。

    • 株主(個人)の課税:株式移転により新設会社の株式だけを受け取る場合、所得税法上、旧株の譲渡はなかったものとして扱われ、その時点で譲渡所得課税は生じません(所得税法57条の4第2項)。
    • 会社の課税:完全支配関係や支配関係が継続する見込みであるなど、税制適格要件を満たせば、事業会社の資産を時価評価する必要はありません。
    • 資金:新たな資金は不要ですが、オーナーが持株会社の株式を持つ形になるだけで、オーナーの手元に現金は入りません。

    2. 株式交換(既存の会社を親会社にする)

    すでにある会社(たとえばオーナーの資産管理会社)を親会社とし、事業会社をその100%子会社にする方法です。これも原則として株主総会の特別決議が必要です。親会社が事業会社の株式の3分の2以上を直接保有している場合には、少数株主に金銭を交付しても税制適格要件のうち金銭等不交付要件の対象とならない取扱いがあり、少数株主の整理と組み合わせて使われることもあります。

    3. 株式の買取り(持株会社が株式を買う)

    オーナーが設立した持株会社が、オーナーや他の株主から事業会社株式を買い取る方法です。売り手であるオーナーには株式の譲渡所得が生じ、持株会社は買取資金(多くは金融機関からの借入れ)が必要になります。その代わり、オーナーは現金を受け取ることができ、他の家族への財産の配分や納税資金に充てる余地が生まれます。

    4. 会社分割・現物出資(事業を子会社に出す)

    既存の会社の事業を新しい子会社に分割で移し、元の会社を持株会社にする方法です。事業や従業員、契約を移すため、許認可や債権者保護手続などの確認事項が多くなります。

    自社株の評価への影響

    持株会社をつくると、オーナーや後継者が持つ株式は「事業会社の株式」から「持株会社の株式」に置き換わります。相続税・贈与税の計算では、持株会社の株式を財産評価基本通達に従って評価することになり、ここに思わぬ落とし穴があります。

    株式等保有特定会社

    財産評価基本通達では、会社の総資産(相続税評価額ベース)のうち株式等の価額の合計額の割合が50%以上の会社を「株式等保有特定会社」とし、原則として純資産価額方式(またはS1+S2方式)で評価します(財産評価基本通達189(2)、189-3)。持株会社は資産の大部分が子会社株式であることが多いため、この区分に該当しやすく、事業会社の株式を直接持っていた頃に使えた類似業種比準方式が使えなくなる場合があります。

    開業後3年未満の会社

    新しく設立した持株会社は、開業後3年未満の会社として、原則として純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189(4)、189-4)。設立直後に相続が起きると、評価が想定より高くなることがあります。

    評価差額に対する法人税額等相当額

    純資産価額方式では、資産の含み益(評価差額)に対する法人税額等に相当する金額として38%を控除できます(財産評価基本通達186-2)。この38%は、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した取引相場のない株式等の評価から適用され、それ以前の取得分は従来の37%です。ただし、株式移転・株式交換などにより著しく低い価額で受け入れた株式については、受入れ時の差額部分をこの控除の対象から外す定めがあります(同通達186-2(2))。株式移転で設立した持株会社では、子会社株式の受入価額の決まり方によって、この定めが影響することがあります。

    株式等保有特定会社の判定や、判定で確認すべきことは、関連記事「土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは」で詳しく解説しています。

    後継者の取得資金と、グループ内のお金の流れ

    持株会社が事業会社株式を買い取る方法(つくり方3)は、オーナーの財産を「株式」から「現金」に変え、後継者が持株会社の株式を取得するときの価額を抑える効果が期待される一方、持株会社の借入れが残ります。その返済原資は、事業会社からの配当や経営指導料などになります。

    • 配当:持株会社が100%子会社から受ける配当は、受取配当等の益金不算入の制度により、原則として持株会社で課税されません(法人税法23条1項)。
    • 経営指導料など:持株会社が実際に提供する役務に見合った金額でなければ、税務上問題になり得ます。
    • 返済期間:事業会社の利益水準から見て、無理のない返済計画かを確認します。

    後継者が持株会社の株式を取得する方法(贈与・売買・相続)は、事業会社株式の場合と同じように比較が必要です。後継者に議決権を集める考え方は、関連記事「自社株を後継者に集約する方法」も参考になります。

    つくり方ごとの比較

    比較の観点株式移転株式交換株式の買取り会社分割
    親会社新設既存の会社既存または新設の会社元の会社が親会社になる
    オーナーの手元資金入らない入らない(原則)入る(譲渡所得課税あり)入らない
    親会社の資金負担なしなし(原則)買取資金が必要なし
    主な手続特別決議、登記特別決議、登記株式の譲渡承認など特別決議、債権者保護、労働契約の承継
    評価上の注意開業後3年未満、株式等保有特定会社株式等保有特定会社借入金を含めた純資産、株式等保有特定会社事業を移した子会社の評価区分

    実務上注意したいポイント

    • 持株会社の株主構成を先に決める:持株会社をつくっても、その株主が分散していては目的を果たせません。誰が、どの割合で持株会社の株式を持つのかを先に設計します。
    • 維持コストを見積もる:会社が1社増えれば、決算・申告・登記・役員会の運営などの手間と費用が増えます。
    • 事業承継税制との関係:法人版事業承継税制の利用を検討している場合、持株会社をつくることが要件にどう影響するかを事前に確認する必要があります。
    • 金融機関への説明:既存の借入れの契約や保証の扱いに影響することがあります。
    • 「つくれば下がる」と考えない:評価が下がるかどうかは、子会社の利益・純資産、持株会社の資産構成、設立からの年数によって異なります。

    AEGISの視点

    持株会社は、オーナー企業にとって「承継の器」になり得る仕組みです。しかしAEGISは、持株会社をつくること自体を目的にしないことが大切だと考えています。

    まず問うべきは、「10年後、誰がグループ全体の意思決定を担い、誰がどの財産を引き継いでいるか」です。その姿から逆算して、持株会社が必要か、必要ならどのつくり方が合うかを考えます。たとえば、後継者以外の家族に現金で財産を渡したいなら株式の買取りが候補になり、オーナーの手元資金が不要で株主を一本化したいだけなら株式移転が候補になります。

    また、持株会社は一度つくると簡単には元に戻せません。株価・資金・経営体制・家族への配分という4つの面で、設立前と設立後の姿を並べて比べることが、後悔しない判断につながります。グループの会社が増えすぎた場合の整理の順番は、関連記事「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。

    持株会社と自社株の評価・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 持株会社は、株主の一本化、グループ経営の整理、承継の器、資産と事業の分離などの目的があってはじめて効果を発揮します。
    • つくり方には、株式移転・株式交換・株式の買取り・会社分割などがあり、オーナーの手元資金や親会社の資金負担、手続が異なります。
    • 持株会社の株式は、株式等保有特定会社や開業後3年未満の会社として純資産価額方式で評価されることがあり、「つくれば株価が下がる」とは限りません。
    • 買取り方式では、持株会社の借入れの返済原資を事業会社からの配当などで確保する計画が必要です。
    • 具体的な効果や適否は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 持株会社をつくると、必ず株価は下がりますか?

    必ず下がるわけではありません。持株会社は株式等保有特定会社に該当しやすく、設立直後は開業後3年未満の会社として純資産価額方式で評価されるのが原則です。子会社の利益や純資産の状況、持株会社の資産構成によって結果は変わるため、設立前に試算することが大切です。

    Q. 株式移転で持株会社をつくると、オーナーに税金はかかりますか?

    株式移転により新設される持株会社の株式だけを受け取る場合は、所得税法の特例により、その時点で譲渡所得の課税は生じません。ただし、金銭などを受け取る場合は扱いが異なるため、対価の内容を確認する必要があります。

    Q. 持株会社と資産管理会社は何が違いますか?

    明確な法律上の区別はありません。一般に、事業会社の株式を持ってグループを統括する会社を持株会社、不動産や金融資産を持って管理する会社を資産管理会社と呼ぶことが多く、1社が両方の役割を担うこともあります。目的によって、評価や運営上の注意点が変わります。

    Q. 持株会社が事業会社の株式を買い取る資金は、どう返済するのですか?

    多くの場合、事業会社からの配当を返済原資にします。100%子会社からの配当は、受取配当等の益金不算入の制度により原則として持株会社では課税されません。返済期間と事業会社の利益水準から、無理のない計画かを確認します。

    Q. 持株会社をつくった後、事業会社を売却することはできますか?

    持株会社が事業会社株式を売却することは可能です。その場合、売却益は持株会社に生じ、オーナー個人が直接売却する場合とは課税関係も手元に残る資金の流れも変わります。将来の売却の可能性があるなら、持株会社をつくる前に比較しておくことが望まれます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどを比較しながら承継計画を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『サクサクわかる!株主対策の税務』佐藤信祐 著、清文社、2021年、第16章(P.116-125)、第18章(P.132-137)
    • 『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第6版)』牧口晴一・齋藤孝一 著、中央経済社、2024年、第7編(P.630-645)
    • 『新版〔目的別〕組織再編の最適スキーム 法務・会計・税務』貝沼彩・北山雅一・清水博崇・齊藤修一 著、清文社、2020年、第3章3-3(P.169-171)
  • 法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断|期限が迫る今、確認したい要件・継続リスク・代替手段

    法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断|期限が迫る今、確認したい要件・継続リスク・代替手段

    法人版事業承継税制(特例措置)は、後継者が自社株式を贈与や相続で取得したときの贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の場合に免除する制度です。この特例措置を使うには、令和9年(2027年)9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります(中小企業庁)。

    期限が近づくと、「とりあえず計画だけ出しておくべきか」「そもそも自社は使うべきか」という相談が増えます。結論から言えば、判断の中心は税額の大小だけではありません。「猶予を受けた後も、何年にもわたって制度の要件を守り続ける経営を選ぶか」という問いです。

    この記事では、制度のしくみを確認したうえで、使う場合に引き受けることになる継続要件とリスク、使わない場合の代替手段を比べ、オーナーが判断するための軸を整理します。

    法人版事業承継税制(特例措置)とは

    事業承継税制には、平成21年度に創設された「一般措置」と、平成30年度税制改正で期間を区切って設けられた「特例措置」があります。中小企業庁の説明によると、特例措置には次のような特徴があります。

    • 納税猶予の対象となる株式数の上限が撤廃され、猶予割合が100%に拡大されている
    • 親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)への贈与・相続が対象になる
    • 雇用が8割を下回った場合でも、一定の手続(認定経営革新等支援機関の指導など)を経れば猶予が継続できる
    • 経営環境の悪化など事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合、5年経過後の売却・廃業時の価額などに基づいて猶予税額を再計算し、差額が免除される仕組みがある

    特例措置の対象は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等で取得した株式です。特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正の大綱で1年6月延長され、令和9年9月30日とされています。贈与・相続の期間そのものは延長されていない点に注意が必要です。

    「計画の提出」と「制度の適用」は別の段階

    特例承継計画は、後継者の氏名や承継までの経営の見通しなどを記載し、認定経営革新等支援機関(税理士、金融機関など)の所見を付けて提出する書類です。計画を提出しただけで、贈与や相続の際に必ず制度を使わなければならないわけではありません。一方、計画を提出していなければ、期限後に特例措置を選ぶ余地はなくなります。

    そのため実務では、「使うかどうかはまだ決められないが、選択肢を残すために計画を出す」という判断もあり得ます。ただし、計画の作成には後継者の特定や経営の見通しの整理が必要で、形式だけ整えればよいものではありません。

    制度のしくみ:猶予は「免除」ではない

    制度の大まかな流れは次のとおりです。

    1. 特例承継計画を都道府県に提出する
    2. 先代経営者から後継者へ株式を贈与する(または相続が発生する)
    3. 都道府県の認定を受け、贈与税・相続税の申告とあわせて納税猶予の手続を行う
    4. 認定の有効期間(申告期限の翌日から5年)中は、年1回、都道府県に年次報告書を、税務署に継続届出書を提出する
    5. その後も、税務署に3年に一度、継続届出書を提出する
    6. 先代経営者や後継者の死亡などの一定の事由が生じたときに、猶予税額が免除される

    贈与で制度を使った場合、先代経営者が亡くなると猶予されていた贈与税は免除されますが、その株式は相続で取得したものとみなされて相続税の対象になります。このとき、要件を満たせば相続税の納税猶予に切り替えることができます。

    ここで押さえておきたいのは、猶予は税金がなくなることではなく、「条件付きで支払いを先送りしている状態」だという点です。条件が崩れれば、猶予されていた税額に利子税を加えて納めることになります。

    使う場合に引き受けること:継続要件と猶予が打ち切られる場面

    制度を使うかどうかを考えるときは、適用時の要件よりも、適用後に何ができなくなるかを先に確認することが大切です。

    猶予が打ち切られる主な場面

    租税特別措置法では、次のような場合に猶予期限が確定し、猶予税額の全部または一部を利子税とあわせて納めることになります。範囲は、申告期限の翌日から5年間(認定の有効期間に相当する期間)中か、その経過後かによって異なります。

    • 後継者が代表者でなくなった場合(5年間の期間中に限ります。やむを得ない理由がある場合を除きます)
    • 猶予の対象となった株式を譲渡した場合(5年間の期間中は猶予税額の全部、経過後は一部の譲渡であれば譲渡した部分に対応する額)
    • 会社を解散した場合
    • 資本金や準備金を減少した場合(欠損の填補に充てる場合など一定の場合を除きます)、一定の組織再編(合併による消滅、株式交換等による完全子会社化など)を行った場合
    • 会社が、賃貸不動産・有価証券・現預金などの特定資産の割合が総資産の70%以上の会社(資産保有型会社)、または特定資産からの運用収入が総収入の75%以上の会社(資産運用型会社)に該当した場合(商品の販売などの事業を行い、親族外の従業員が5人以上いて、その事務所や店舗を所有・賃借しているなど、事業実態がある会社は除かれます)

    つまり、制度を使った会社では、将来のM&A、組織再編、資本の組み替え、不動産の持ち方の変更などが、猶予の打ち切りと直結しやすいということです。

    次の世代でも制度を使い続ける前提になる

    猶予が免除される典型的な場面は、後継者が亡くなったときや、後継者が次の後継者に株式を贈与し、その次の後継者も納税猶予を受けるときです。言い換えると、一度制度を使うと、その次の承継でも制度を使い続けることが、猶予税額を確定させない前提になりやすいということです。今の承継だけでなく、次の世代の承継の姿まで想像しておく必要があります。

    手続と管理の負担

    認定の有効期間中の毎年の報告、その後の継続届出、要件を満たしているかの定期的な確認が必要です。担当者の交代や顧問の変更があっても、この管理は途切れさせられません。

    使わない場合の代替手段

    制度を使わない場合でも、自社株式の承継には複数の方法があります。それぞれ、税負担だけでなく、資金や柔軟性の面で性格が異なります。

    方法主なしくみ向いている場面注意したいこと
    暦年課税による贈与年110万円の基礎控除を超える部分に贈与税株価が比較的低く、時間をかけて移せる相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される(経過措置あり)
    相続時精算課税による贈与特別控除2,500万円と基礎控除110万円を超える部分に一律20%、相続時に贈与時の価額で精算株価の上昇が見込まれ、早めに移したい一度選ぶと暦年課税に戻れない
    売買(後継者が買い取る)売り手に株式の譲渡所得課税後継者に資金調達力がある、他の家族との公平を保ちたい後継者側の資金負担、価格の妥当性
    相続後に会社が株式を買い取る一定の要件のもと、みなし配当課税の特例相続人の納税資金を会社の資金で手当てしたい会社の資金余力、相続税の申告期限の翌日以後3年以内などの要件
    承継制度を使わず相続で承継相続税を通常どおり納付納税資金の準備ができている申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)までの資金確保
    株式の一部を財団に寄附(社会貢献を軸にした承継)議決権のない配当優先株式などを財団に寄附し、議決権のある株式は後継者に承継社会に還元したい意思があり、経営権は後継者に集めたい寄附した株式は戻らない。種類株式の手続、みなし譲渡課税など税務の個別確認

    ※税率・控除額・要件は本記事の制度基準日時点の国税庁の説明に基づいています。個別の適用可否は事情により異なります。

    このほか、株価の水準そのものや株主構成を見直す方法(役員退職金の支給時期、資本構成の整理など)を組み合わせることもあります。代替手段の多くは「すぐに税負担が軽くなる」ものではありませんが、承継後の経営判断を縛らないという大きな利点があります。

    社会貢献を軸にした承継という選択肢

    代替手段の一つとして、株式の一部を財団に寄附し、その配当を社会貢献に充てる方法もあります。たとえば、議決権のない配当優先株式(種類株式)を設けてその株式を財団に寄附し、議決権のある株式は後継者に承継する設計です。後継者は会社の意思決定に必要な議決権を確保したまま、承継する株式の範囲を整理でき、会社の利益の一部は配当を通じて助成や奨学として社会に還元されます。

    事業承継税制と比べると、代表者の継続、株式の保有、資産構成といった要件を何年も守り続ける仕組みではないため、将来の売却・再編・資本の組み替えを判断する自由度を保ちやすい点が特徴です。また、自ら財団を設立すると、理事会・評議員会の運営や事務局、会計・報告を一族で担い、後継者にも引き継ぐことになりますが、運営体制をすでに備えた財団の中に基金を設ける形であれば、その負担を後継者に負わせずに済みます。AEGISでは、この考え方を形にする器としてアイジスレガシー財団を設立しています。

    一方で、寄附した株式は家族の手元には戻りません。種類株式の導入には定款変更などの会社法上の手続が必要で、配当を続けられる会社の収益力も前提になります。寄附した個人のみなし譲渡課税とその非課税特例、財団側への課税の有無など、税務上の取扱いは寄附の時期、財団の認定・承認の状況、株式の内容によって異なるため、個別の確認が欠かせません。社会に還元したいという意思があってこそ成り立つ方法であり、税負担の軽減だけを目的に選ぶものではありません。財団の設計の考え方は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    生前贈与と相続の使い分けについては、関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」で詳しく整理しています。

    判断のための5つの問い

    「使う・使わない」を考えるときは、次の5つの問いに順に答えていくと、自社の位置が見えやすくなります。

    1. 株式の評価額と、制度を使わない場合の税負担はどの程度か 評価額が大きく、通常の方法では納税資金の手当てが難しい場合ほど、制度の意味は大きくなります。逆に、評価額がそれほど大きくなければ、手続と管理の負担に見合わないこともあります。
    2. 後継者は決まっていて、代表者として長く経営を担う見込みか 後継者の意思や家族の合意が固まっていない段階で制度を前提にすると、後から身動きが取りにくくなります。
    3. 今後10年程度で、会社の売却・再編・資本の組み替えを考える可能性はあるか その可能性が高いほど、制度の縛りは重くなります。
    4. 会社の資産構成は、賃貸不動産や金融資産に偏っていないか、今後偏る予定はないか 不動産の取得や事業の縮小で資産構成が変わると、制度の前提が崩れるおそれがあります。
    5. 次の世代の承継まで、制度を使い続ける体制を想像できるか 孫の世代や社外の後継者への承継も視野に入れて考えます。
    判断の方向当てはまりやすい状況
    制度の活用を前向きに検討評価額が大きい/後継者が確定し長期の経営を担う/売却・再編の予定がない/事業用資産が中心
    慎重に比較・代替手段も検討評価額がそれほど大きくない/後継者が未確定/将来の売却や再編の可能性がある/賃貸不動産や金融資産が多い

    ※上表は考え方の整理のための例示です。実際の判断は、税額試算と会社・家族の個別事情によります。

    実務上注意したいポイント

    • 期限は計画の提出期限と、贈与・相続の期限の二つ:計画は令和9年9月30日まで、贈与・相続は令和9年12月31日までです。計画を出しても、期間内に贈与を実行しなければ特例措置の対象にはなりません。
    • 組織再編や資本の整理は適用前に検討する:持株会社の設立やグループ会社の整理などを考えているなら、制度を適用する前に方針を決めておく必要があります。
    • 他の家族との公平を確認する:株式を後継者に集中させる設計は、遺留分など家族間の調整を伴います。
    • 毎年の税制改正を確認する:延長や要件の見直しが続いている制度です。最新の情報は中小企業庁・国税庁の発表で確認してください。
    • 株式の評価方法の見直しにも注意する:国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、株式の評価額を前提にした判断は今後の改正に注意して見直してください。

    AEGISの視点

    事業承継税制の相談では、「使えば税金がゼロになるなら使うべきではないか」という問いから始まることが少なくありません。しかしAEGISは、この制度を「税負担の先送りと引き換えに、経営と所有の自由度を一定期間預ける仕組み」と捉えています。

    制度に合う会社では、非常に力のある仕組みです。後継者が覚悟を持って長く経営を担い、事業そのものを磨いていく会社であれば、猶予の条件は事業の方向とぶつかりにくいからです。反対に、将来の売却や再編、不動産を活用した事業の組み替えなど、選択肢を広く持っておきたい会社では、制度の縛りが判断の足かせになることがあります。

    大切なのは、税額の試算だけでなく、「10年後、20年後に会社をどうしていたいか」を先に言葉にすることです。そのうえで制度を使う・使わないを決めれば、どちらを選んでも、その理由を後継者や家族に説明できます。期限が迫っているからこそ、「とりあえず計画だけ」という判断であっても、その位置付けを家族と共有しておくことが望まれます。

    事業承継全体の進め方は「事業承継は何から始めるべきか」で、相続対策との一体設計は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、自社株の評価方法は「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。

    自社株の評価や承継に伴う資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 法人版事業承継税制(特例措置)を使うには、令和9年9月30日までに特例承継計画を提出する必要があり、対象となる贈与・相続は令和9年12月31日までです。
    • 制度は納税の「猶予」であり、適用後も代表者の継続、株式の保有、資産構成などの条件を守り続ける必要があります。
    • 売却・再編・解散などで猶予が打ち切られることがあり、次の世代でも制度を使い続ける前提になりやすい点が重要です。
    • 暦年贈与、相続時精算課税、売買、相続後の自己株式取得などの代替手段は、税負担は軽くなりにくい一方で、経営判断の自由度を保てます。
    • 社会に還元したい意思があれば、議決権のない株式を財団に寄附し、議決権のある株式を後継者に承継する「社会貢献を軸にした承継」も選択肢になります。
    • 判断の中心は「将来、会社をどうしていたいか」です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 特例承継計画を提出したら、必ず制度を使わなければなりませんか?

    計画を提出しても、贈与や相続の際に制度の適用を受けるかどうかは改めて選ぶことができます。一方で、期限までに計画を提出していなければ特例措置を選ぶことはできません。ただし計画には後継者や経営の見通しを記載する必要があるため、方針の整理は欠かせません。

    Q. 期限は延長されたと聞きましたが、贈与の期限も延びたのですか?

    令和8年度税制改正の大綱で延長されたのは特例承継計画の提出期限で、令和9年9月30日までとされています。特例措置の対象となる贈与・相続の期間は令和9年12月31日までのままです。今後の改正の有無は、中小企業庁や国税庁の最新情報で確認してください。

    Q. 制度を使った後に会社を売却することはできますか?

    売却そのものは可能ですが、猶予の対象となった株式を譲渡すると、原則として猶予されていた税額と利子税を納めることになります。5年経過後に、経営環境の悪化など事業の継続が困難な一定の事由が生じたうえで親族など特別の関係がある者以外に売却する場合などには、売却価額などに基づいて猶予税額を再計算し差額を免除する仕組みもありますが、将来の売却の可能性があるなら、制度を使う前に慎重に検討しておくことが大切です。

    Q. 親族ではない役員に承継する場合も使えますか?

    特例措置では、親族外の後継者も対象とされています。贈与で適用を受ける場合、後継者は贈与の時に18歳以上で代表権を有し、贈与の直前に役員であることなどが要件です(一般措置では贈与の日まで3年以上役員であることが必要です)。ただし、贈与による承継が前提になるため、オーナー側の財産や他の家族への配分との関係を整理する必要があります。役員・従業員への承継方法全体は、別の記事で比較しています。

    Q. 制度を使わない場合、まず何から考えればよいですか?

    まずは自社株式の評価額と、相続が起きた場合の税負担・納税資金の見通しを確認することです。そのうえで、暦年贈与や相続時精算課税、売買、相続後の自己株式取得などのどれを、どの時期に組み合わせるかを検討します。事業の成果の一部を社会に還元したいという考えがあれば、株式の一部を財団に寄附する方法もあわせて比較します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 事業承継:後継者・経営権・株式・資金・ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどの方法を比較しながら承継計画を検討します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『これだけ!組織再編&事業承継税制(第3版)』佐藤信祐・長谷川太郎 著、中央経済社、P.227-243
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.171-276(第3章)
  • 事業承継計画に含める項目とは|株式・経営・財産・家族の意向をどう一枚にまとめるか

    事業承継計画に含める項目とは|株式・経営・財産・家族の意向をどう一枚にまとめるか

    事業承継計画とは、「いつ、誰に、何を、どのような方法で引き継ぐか」を時間軸に沿って整理した計画です。

    ただし、計画に何を書けばよいかは意外と分かりにくいものです。経営者の交代時期だけを書いた計画では、株式や財産、家族の意向といった論点が抜け落ちます。反対に、税金の対策だけを並べた計画では、会社の経営がどう続くのかが見えません。

    この記事では、事業承継計画に含めるべき項目を、経営・所有(株式)・財産・家族の4つの視点と、それらをつなぐ目的と時間軸から整理します。

    事業承継計画とは

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、親族内承継や従業員承継の場合の準備ステップとして「事業承継計画の策定」を位置付けています。ガイドラインでは、計画を次のような考え方で作ることが示されています。

    • 現経営者が、後継者とともに作成する
    • 10年後を見据えた中長期の視点で、現経営者の引退時期を定め、そこから後継者の育成に必要な期間を逆算する
    • 策定した計画は、主要な取引先や金融機関などにも示し、理解を得る

    ガイドラインには、10カ年版・5カ年版の計画様式も付録として掲載されています。様式では、事業計画(売上高・経常利益など)、会社の定款や株式、現経営者と後継者それぞれの年齢・役職・後継者教育・株式や財産の分配などを、年ごとに記入する形になっています。

    AEGISでは、この考え方を土台に、オーナーの意思決定に必要な論点が漏れなく並ぶよう、計画を次の6つのブロックで構成することをおすすめしています。

    ブロック書くこと中心となる問い
    1. 目的と方針承継の目的、承継先の方向性なぜ、何を残したいのか
    2. 時間軸引退時期、各段階の目標年いつまでに、何を終えるのか
    3. 経営事業計画、経営体制、後継者の育成と権限の移行誰が、どう会社を率いるのか
    4. 所有(株式)現在と目標の持株比率、移転の方法と時期誰が会社を支配するのか
    5. 財産個人財産の配分、事業用不動産、貸付金、保証、納税資金何を、誰に、どう渡すのか
    6. 家族と関係者家族の意向、後継者以外への配慮、関係者への共有誰の理解が必要か

    以下、それぞれのブロックで何を書けばよいかを見ていきます。

    1. 目的と方針:計画の「前提」を書く

    最初に書くべきは、具体的な対策ではなく、承継の目的と方針です。

    • 事業を継続する前提か、どのような形で継続したいか
    • 承継先の方向性(親族、社内の役員・従業員、社外の第三者)
    • オーナーとして大切にしたい価値観や、事業を通じて残したいもの

    この部分は短くても構いません。しかし、ここが言葉になっていないと、後のブロックで判断が割れたときに立ち返る基準がなくなります。

    2. 時間軸:引退時期から逆算する

    次に、現経営者の引退時期(代表者を退く時期、経営から完全に離れる時期)を仮に置き、そこから逆算して各段階の目標年を決めます。

    • 後継者の入社・役員就任・代表者就任の目標年
    • 株式の移転を始める年と、完了させたい年
    • 現経営者が会長職などに就く期間と、その役割

    事業承継ガイドラインでも、後継者の育成を含めた移行期間は3年以上を要するケースが半数を超えるとされています。時間軸を先に置くことで、「今年やるべきこと」が具体的になります。

    3. 経営:会社をどう率いていくか

    経営のブロックには、承継期間中の事業計画と、経営体制の移行を書きます。

    • 事業計画:売上高・利益などの中長期の目標と、主な取組み
    • 経営体制:役員構成、幹部社員の役割、意思決定の仕組み
    • 後継者の育成:社内での経験(部門の担当、役員としての経験など)、社外での学び
    • 権限の移行:どの権限を、いつ後継者に渡すか

    事業計画は、現経営者だけで作るのではなく、後継者が主体的に関わることが望まれます。承継後にその計画を実行するのは後継者だからです。計画づくりの過程そのものが、現経営者と後継者の認識をすり合わせる機会になります。

    4. 所有(株式):誰が会社を支配するか

    所有のブロックは、事業承継計画の中でも特に重要です。会社の重要な意思決定は株主総会で行われ、役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要になるからです(会社法309条・341条)。

    書いておきたい項目は次のとおりです。

    • 現在の株主構成:株主ごとの持株数と議決権比率
    • 目標の株主構成:承継完了時点で、後継者がどの程度の議決権を持つか
    • 移転の方法:贈与、売買、相続(遺言による承継を含む)などのうち、どれをどの時期に用いるか
    • 定款の確認事項:株式の譲渡制限、相続人等に対する売渡請求の定め、種類株式の活用の要否など

    法人版事業承継税制(特例措置)を利用する可能性がある場合は、計画の中にその検討を位置付けておく必要があります。この制度を使うには、令和9年(2027年)9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが求められます(中小企業庁)。本記事で扱う事業承継計画と、制度上の「特例承継計画」は別のものですが、方針が整理されていれば制度上の計画も作りやすくなります。

    5. 財産:会社と個人の財産をどう渡すか

    事業承継では、株式以外の財産も同時に動きます。とくにオーナー個人の財産に占める自社株式の割合が大きい場合、後継者以外の家族に何を渡すか、納税資金をどう確保するかが論点になります。

    • 個人財産の全体像:自社株式、不動産、金融資産、保険などの概要
    • 事業用不動産:会社が使う不動産を誰が所有し、会社とどのような条件で貸し借りするか
    • 会社との債権債務:オーナーから会社への貸付金、会社からオーナーへの貸付金
    • 経営者保証:会社の借入れに対する保証を、承継時にどう扱うか
    • 納税資金:贈与税・相続税の見込み額と、その資金をどう確保するか

    相続が発生した場合、相続税の申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。納税資金の見通しは、計画の中で具体的に確認しておきたい項目です。

    6. 家族と関係者:誰の理解が必要か

    最後のブロックは、数字では表しにくいものの、計画の実現性を左右する部分です。

    • 家族の意向:後継者候補本人の意思、配偶者や他の子の考え
    • 公平性への配慮:株式を後継者に集中させる場合、他の家族に何を渡すか
    • 意思の残し方:遺言の作成や、その内容を家族とどこまで共有するか
    • 関係者への共有:幹部社員、主要取引先、金融機関に、いつ、何を伝えるか

    株式を後継者に集中させる設計は、他の相続人の遺留分との関係が問題になることがあります。経営承継円滑化法には遺留分に関する民法の特例(後継者が贈与を受けた自社株式を遺留分の算定基礎から除外する合意や、その価額を合意時点で固定する合意)も設けられていますが、推定相続人全員の書面による合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可という手続きが必要となるため、利用の可否は個別に確認が必要です。いずれにしても、家族の理解を得るプロセスを計画に組み込んでおくことが大切です。

    計画をまとめるときの形

    6つのブロックの内容は、最終的に「年ごとの一覧」にまとめると、全体の流れが一目で分かります。たとえば次のようなイメージです。

    項目1年目3年目5年目7年目10年目
    現経営者の役割代表取締役代表取締役会長会長退任
    後継者の役割部門責任者取締役代表取締役代表取締役代表取締役
    後継者の議決権比率確認・設計段階的移転過半数3分の2以上移転完了
    財産・不動産全体把握不動産の所有形態を検討実行——
    家族・関係者家族と方針共有幹部社員へ共有取引先・金融機関へ共有——

    ※上記は説明のための例です。実際の時期や比率は、会社と家族の状況によって大きく異なります。

    実務上注意したいポイント

    • 最初から完璧を目指さない:まず書き出し、空欄を「未決事項」として見える化することに意味があります。
    • 定期的に見直す:業績や家族の状況、税制は変わります。少なくとも年に一度は計画を見直すことが望まれます。
    • 税金の対策を計画の中心にしない:税負担の軽減は、方針を実現する手段の一つとして位置付けます。
    • 経営と所有の時期を分けてもよい:代表者の交代と株式の移転は、必ずしも同時である必要はありません。

    AEGISの視点

    事業承継計画を作るとき、多くの会社では「経営」の計画と「株式・税金」の計画が別々に作られがちです。前者は経営者と後継者が、後者は税理士などの専門家が担当し、両者が十分につながらないまま進むことがあります。

    AEGISは、事業承継計画を「経営・所有・財産・家族を一つの時間軸に並べる設計図」と考えています。会社の株式をどう移すかは、事業用不動産の所有形態や、オーナー個人の資産の配分、さらには家族の生活や社会への還元のあり方とも結び付いています。これらを一枚の上に並べることで、初めて「どこで判断がぶつかるか」が見えてきます。

    計画は、作った時点で完成するものではありません。オーナーと後継者、家族が同じ一枚を見ながら対話を重ね、状況に応じて書き換えていくこと——その積み重ねこそが、事業承継の実質だとAEGISは考えています。

    事業承継をどこから始めればよいか、全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で、後継者が未定の段階で進められる準備は「後継者が決まる前にできる準備」で解説しています。

    承継に関わる資産構造や評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 事業承継計画は、「いつ、誰に、何を、どのような方法で引き継ぐか」を時間軸で整理したものです。
    • 経営の交代時期だけでなく、株式(所有)、財産、家族の意向までを含めて整理することが重要です。
    • AEGISでは、目的と方針・時間軸・経営・所有・財産・家族と関係者の6つのブロックで構成することをおすすめしています。
    • 計画は後継者とともに作り、関係者と共有し、定期的に見直していくものです。
    • 具体的な内容は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 事業承継計画は、誰が作るものですか?

    中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、現経営者が後継者とともに作成することが示されています。税務や法務の論点も多いため、専門家の支援を受けながら進めるのが一般的ですが、計画の方針そのものはオーナーと後継者が自ら考えることが重要です。

    Q. 事業承継計画と、事業承継税制の「特例承継計画」は同じものですか?

    別のものです。事業承継計画は、会社や家族が承継を進めるための全体計画です。一方、特例承継計画は、法人版事業承継税制(特例措置)の適用を受けるために都道府県に提出する書類で、提出期限は令和9年(2027年)9月30日とされています。

    Q. 後継者が決まっていなくても、事業承継計画は作れますか?

    承継先が未定の段階でも、目的と方針、時間軸、会社と個人の財産の現状などは書き出せます。後継者に関する欄は「未決事項」として残し、後継者が決まった段階で具体化していく方法が現実的です。

    Q. 計画はどのくらいの頻度で見直すべきですか?

    業績、家族の状況、税制などの変化に応じて見直すことが望まれます。少なくとも年に一度、決算の確定後などに計画と実績を照らし合わせる機会を設けると、計画が形骸化しにくくなります。

    Q. 家族の意向が一致しない場合はどうすればよいですか?

    まずは、意向が一致しない点を計画上の「未決事項」として明確にすることが出発点です。そのうえで、株式と他の財産の配分、遺言の内容などを組み合わせて調整の余地を探ります。対立が深い場合は、早い段階から第三者を交えて話し合うことも検討に値します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 会社分割で事業を切り分けて引き継ぐ|分社型・分割型の違い、手続、適格要件と課税、分割後の株価まで

    会社分割で事業を切り分けて引き継ぐ|分社型・分割型の違い、手続、適格要件と課税、分割後の株価まで

    会社分割とは、会社が営む事業に関する権利義務の全部または一部を、他の会社(既存の会社または新しく設立する会社)に包括的に引き継がせる、会社法上の手続です。

    複数の事業を持つ会社では、「この事業は長男に、あの事業は次男に」「本業は買い手に譲り、不動産は家族に残す」といった形で、事業を切り分けて引き継ぎたいという場面があります。会社分割は、こうした切り分けを、契約や従業員を個別に移し替えることなく行える点に特徴があります。

    結論からいえば、会社分割は「グループ内での切り分け」や「親族への承継」では税制適格になりやすく、「切り分けた後に第三者へ売る」場面では非適格になりやすいという性質があります。どの順番で、どの形の分割を使うかによって、税負担も株価も大きく変わります。この記事では、その判断の材料を整理します。

    会社分割の4つの形

    会社分割は、受け皿となる会社が既存か新設か、分割の対価となる株式を誰が持つかによって、次の4つに分けられます。

    • 吸収分割/新設分割:事業を既存の会社に引き継がせるのが吸収分割、分割により新しく設立する会社に引き継がせるのが新設分割です(会社法2条29号・30号)。
    • 分社型分割/分割型分割:対価の株式を分割した会社自身が持つのが分社型分割(子会社をつくる形)、対価の株式を分割した会社の株主に交付するのが分割型分割(兄弟会社をつくる形)です(法人税法2条12号の9・12号の10)。
    形分割後の関係主な使い道
    新設分社型分割元の会社の下に100%子会社ができる持株会社化、事業ごとの子会社化、子会社株式の売却
    新設分割型分割同じ株主が持つ兄弟会社ができる事業ごとに別々の後継者へ承継、不動産と事業の分離
    吸収分社型分割既存の会社へ事業を移し、その株式を元の会社が持つグループ内の事業の付け替え
    吸収分割型分割既存の会社へ事業を移し、その株式を株主が持つ兄弟会社間の事業の付け替え

    会社法上の手続

    会社分割の手続は、合併とほぼ同じ骨格を持っています。

    1. 分割契約の締結(吸収分割)または分割計画の作成(新設分割)
    2. 株主総会の特別決議による承認(会社法783条1項、804条1項、309条2項12号)。ただし、移す資産の帳簿価額が分割する会社の総資産額の5分の1以下の場合など、株主総会を省略できる簡易分割の定めがあります(会社法784条2項、805条)。
    3. 事前開示・事後開示
    4. 債権者保護手続:官報公告と知れている債権者への個別催告を行い、異議を述べる機会を与えます(会社法789条、799条、810条)。分社型分割では、分割後も分割した会社に請求できる債権者は対象外とされるため、債務を移さない場合などには手続が不要になることがあります。分割型分割では原則として必要です。
    5. 労働契約の承継手続:「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に基づき、対象となる労働者への通知などを行います(同法2条)。会社分割では、個々の労働者の同意がなくても労働契約が承継されるため、その代わりに通知や異議申出の手続が定められています。
    6. 登記

    なお、分割する会社が、引き継がれない債務の債権者を害することを知って分割した場合、その債権者は承継した会社に対して債務の履行を請求できるとする規定もあります(会社法759条4項ほか)。財務状態の悪い会社で「良い事業だけを移す」ような分割には、法的な制約がある点に注意が必要です。

    税制適格要件と課税

    適格分割になれば簿価で移る

    法人税法上、会社分割は原則として資産・負債を時価で移転したものとして扱い、分割した会社で含み損益が課税されます(法人税法62条1項)。ただし、税制適格要件を満たす「適格分割」であれば、帳簿価額で移転したものとして扱われ、その時点では課税されません。

    適格要件は、分割前後の資本関係によって3つの類型があります(法人税法2条12号の11、法人税法施行令4条の3)。

    類型主な要件
    完全支配関係(100%)のある会社間対価として株式以外の資産を交付しないこと、分割型分割では株式を持株割合に応じて交付すること、分割後も完全支配関係が続く見込みであること
    支配関係(50%超)のある会社間上記に加え、分割事業の主要な資産・負債の移転、分割事業の従業者のおおむね80%以上の引継ぎ、分割事業の継続の見込み
    共同で事業を行うための分割上記に加え、事業関連性、事業規模または特定役員の引継ぎ、株式の継続保有などの要件

    オーナーの株主構成で判定する場合、オーナー個人と親族の持分を合わせて完全支配関係・支配関係を判断します。

    「分割後に売る」と非適格になりやすい

    適格要件には「分割後も関係が続く見込み」が含まれます。そのため、分割した直後に、切り出した会社の株式を第三者に売却することが予定されている場合は、完全支配関係や支配関係の継続が見込まれず、非適格分割になりやすくなります。非適格分割では、分割した会社で移転資産の含み益に課税され、分割型分割の場合には株主にみなし配当が生じることもあります(法人税法24条1項2号)。

    M&Aで一部の事業だけを渡す場合は、「切り出した会社を売る」のか「残した会社を売る」のか、あるいは分割ではなく事業譲渡にするのかで、税負担が大きく変わります。株式譲渡と事業譲渡の比較は、関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」で解説しています。

    流通税

    不動産を移す分割では、登録免許税がかかります。不動産取得税については、分割事業の主要な資産・負債の移転、事業の継続、従業者のおおむね80%以上の引継ぎなどの要件を満たす分割による取得は非課税とされています(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。要件を満たさない場合は課税されるため、不動産の多い会社では事前の確認が欠かせません。

    許認可・契約の引継ぎ

    会社分割は包括承継のため、取引先との契約や雇用契約は原則として承継会社に引き継がれます。ただし、契約に「会社分割などの組織再編があれば相手方が解除できる」といった条項(いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項など)がある場合は、相手方との調整が必要です。

    許認可は、業法ごとに扱いが異なります。

    • 分割により当然に承継されるもの
    • 事前に行政庁の認可などを受けることで承継できるもの(たとえば建設業法17条の2は、分割により建設業の全部を承継させる場合の事前認可の制度を定めています)
    • 承継できず、新たな取得が必要なもの

    許認可が承継できない事業を切り出すと、新しい会社で許認可を取り直すまで事業ができないことがあります。どの事業を「移す側」にし、どの事業を「残す側」にするかは、許認可の扱いから逆算して決めることが現実的です。

    分割後の株価への影響

    会社分割の後は、元の会社と新しい会社の株式をそれぞれ評価することになります。相続税・贈与税の評価では、次の点に注意が必要です。

    • 新設会社は開業後3年未満の会社として、原則として純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189(4))。
    • 不動産だけを残した会社は、総資産に占める土地等の割合が高くなり、土地保有特定会社に該当する可能性があります(同通達189(3))。
    • 分社型分割で子会社株式を持つことになった会社は、総資産に占める株式等の割合によって株式等保有特定会社に該当する可能性があります(同通達189(2))。

    分割は株価を「下げる」ための手段ではなく、事業ごとの価値を「見えるようにする」手続だと考えた方が、判断を誤りにくくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 分割の目的と、分割後の株主構成を先に決める:誰がどの会社の株式を持つのかが決まらないと、分社型か分割型かも決まりません。
    • スケジュールに余裕を持つ:債権者保護手続には1か月以上の異議申述期間が必要です。官報掲載や労働者への通知の期限から逆算します。
    • 不動産の扱いを決める:会社分割で事業と不動産を分ける場合、分割後に事業会社が不動産会社から借りる条件(賃料・期間)も同時に決めておきます。会社売却前のオーナー個人所有の不動産の整理は「会社売却の前に整理したいオーナー個人所有の事業用不動産」も参考になります。

    • 金融機関・取引先への説明:借入れや保証をどちらの会社に残すかは、債権者保護手続とあわせて金融機関と調整が必要です。

    AEGISの視点

    会社分割は、事業を「切る」手続であると同時に、家族や関係者との関係を「分ける」手続でもあります。

    AEGISは、会社分割を検討するとき、税制適格になるかどうかより先に、「分けた後のそれぞれの会社が、単独で続いていけるか」を確かめることが大切だと考えています。不動産だけを持つ会社は安定しているように見えても、修繕や借入れの返済を誰が担うのかが曖昧なままでは続きません。事業だけを持つ会社は、賃料負担が増えて利益が圧迫されることもあります。

    また、兄弟それぞれに会社を渡す分割型分割は、相続のときの公平性の議論を先取りするものでもあります。分割の前に、各社の価値と将来の見通しを家族で共有しておくことが、後の争いを防ぐ一番の準備になります。売却を視野に入れるなら、いつから何を準備すべきかの全体像は親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で、グループ全体の整理の順番は「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。

    会社分割と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 会社分割は、事業に関する権利義務を包括的に他の会社へ引き継がせる手続で、分社型・分割型、吸収・新設の組合せで4つの形があります。
    • 手続には、株主総会の特別決議、債権者保護手続、労働契約の承継手続、登記などが必要です。
    • 適格分割なら簿価で移転しますが、分割後に第三者へ売却する予定があると、関係継続の見込みがなく非適格になりやすくなります。
    • 許認可は業法ごとに承継の可否が異なり、どちらの会社に事業を残すかの判断材料になります。
    • 分割後は各社の評価区分(開業後3年未満、土地保有特定会社、株式等保有特定会社)が変わり得ます。具体的な適否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 会社分割と事業譲渡は何が違いますか?

    会社分割は権利義務を包括的に引き継ぐため、契約や雇用を個別に移し替える必要が原則としてありません。事業譲渡は個々の資産・契約を選んで移すため、取引先や従業員の個別の同意が必要になります。一方、事業譲渡は簿外債務を引き継ぎにくいという面があり、目的によって使い分けます。

    Q. 兄弟それぞれに別の事業を承継させるには、どの分割を使いますか?

    一般的には新設分割型分割で兄弟会社をつくり、その後、各会社の株式をそれぞれの後継者に移す方法が検討されます。分割の時点で株主が持株割合に応じて株式を受け取り、その後の贈与や売買で整理します。分割後の株式の移転の予定が適格要件に影響することがあるため、順番の設計が重要です。

    Q. 分割で切り出した会社の株式を売却するとどうなりますか?

    分割後に支配関係が続かない見込みとなるため、非適格分割となる可能性が高くなります。その場合、分割した会社で移転資産の含み益に課税されます。売却を予定している場合は、事業譲渡や、残す側の会社を売る設計なども含めて比較します。

    Q. 会社分割で従業員を移すには、本人の同意が必要ですか?

    会社分割では、分割契約・分割計画に定めた労働契約は、原則として本人の同意なく承継会社に引き継がれます。その代わり、労働契約承継法に基づく通知や、一定の場合の異議申出の手続が定められています。

    Q. 会社分割の手続には、どのくらいの期間がかかりますか?

    債権者保護手続には1か月以上の異議申述期間が必要で、準備や官報掲載の期間を含めると数か月を見込むのが一般的です。許認可の承継に行政庁の手続が必要な場合は、さらに期間を要することがあります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理までを検討します。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどを比較しながら承継計画を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『これだけ!組織再編&事業承継税制(第3版)』佐藤信祐・長谷川太郎 著、中央経済社、2022年、第1編第2章(P.75-112)
    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、第1部第5章(P.59-73)
  • グループ会社を合併や株式交換で整理する|手法の選び方、税制適格の要件、承継・売却を見据えた整理の順番

    グループ会社を合併や株式交換で整理する|手法の選び方、税制適格の要件、承継・売却を見据えた整理の順番

    オーナー企業では、事業の拡大や節目ごとの判断の積み重ねで、関連会社が少しずつ増えていきます。気づけば、休眠に近い会社、不動産だけを持つ会社、株主が少しずつ違う会社が並び、誰も全体像を説明できない――そうしたグループは珍しくありません。

    グループの整理(グループ内再編)とは、合併・株式交換・会社分割・現物分配などの手法を組み合わせて、会社の数と資本関係を目的に合った形に組み替えることです。

    結論からいえば、整理は「どの手法を使うか」より先に「整理した後のグループの姿」と「整理の順番」を決めることが重要です。多くのグループ内再編は税制適格要件を満たしやすい一方、株主構成や支配関係が生じた時期によっては、繰越欠損金が使えなくなる、不動産取得税がかかる、少数株主の扱いで手続が止まる、といった問題が起こります。この記事では、手法の選び方と、承継・売却を見据えた整理の順番を整理します。

    なぜグループを整理するのか

    整理の目的は、主に次の4つです。

    1. 承継しやすくする:後継者が引き継ぐ株式を一本化し、会社ごとに株主がばらばらな状態を解消する
    2. 売却しやすくする:M&Aの対象とする事業と、オーナー側に残す資産を分ける
    3. 管理コストを下げる:決算・申告・登記などの手間や、会社ごとの固定費を減らす
    4. 経営判断を速くする:会社をまたいだ資金・人・資産の配分を一元的に行えるようにする

    目的が違えば、ゴールの形も違います。承継が目的なら「持株会社の下に事業会社を並べる」形が、売却が目的なら「売る事業を一つの会社にまとめ、売らない資産を別の会社に移す」形が候補になります。

    主な手法とその特徴

    グループ内再編で使われる主な手法を、オーナーが比べるべき観点で整理すると次のとおりです。

    手法何が起こるか向いている場面主な注意点
    合併2つ以上の会社が1つになる会社の数を減らす、休眠会社・赤字会社を整理する繰越欠損金の引継制限、許認可・契約の承継、債権者保護手続
    株式交換既存の会社を100%親会社とする親子関係をつくる関連会社を持株会社や中核会社の傘下に入れる少数株主の扱い、親会社株式の割当て、交換比率の算定
    株式移転新設の持株会社の下に既存の会社を入れる複数の会社を1つの持株会社の下にまとめる新設会社の評価区分、維持コスト
    会社分割事業の一部を他の会社に移す事業と不動産の切り分け、事業の付け替え適格要件(関係の継続)、労働契約の承継、許認可
    現物分配100%子会社の資産を親会社に配当で移す孫会社の子会社化、不要資産の移転分配可能額の範囲内、個人株主がいると不適格
    株式の売買株式を買い集めて資本関係を変える少数株主からの買取り、持合いの解消買取資金、税務上の時価

    持株会社の新設そのものの目的とつくり方は関連記事「持株会社(ホールディングス)をつくる目的」で、会社分割の詳細は「会社分割で事業を切り分けて引き継ぐ」で解説しています。

    税制適格の要件と、グループ内再編で注意したい点

    グループ内再編は適格になりやすい

    法人税法上、合併や分割は原則として資産・負債を時価で移転したものとして扱われますが、税制適格要件を満たせば帳簿価額で移転し、その時点では課税されません。適格要件は、当事者間の関係に応じて次の3つの類型に分かれます(法人税法2条12号の8・12号の11・12号の17ほか、法人税法施行令4条の3)。

    • 完全支配関係(100%)のある会社間:対価として株式以外の資産を交付しないことと、完全支配関係が続く見込みであることが中心です。
    • 支配関係(50%超)のある会社間:これに加えて、従業者のおおむね80%以上の引継ぎや事業の継続の見込みなどが求められます。
    • 共同で事業を行うための再編:さらに事業関連性などの要件が加わります。

    オーナー個人とその親族が株式の過半数を持つ会社どうしは、支配関係のある会社間として判定されるのが通常です。そのため、グループ内再編の多くは、一定の要件を満たせば適格になります。

    繰越欠損金の「5年」に注意する

    注意が必要なのは、赤字会社を含む合併です。適格合併であっても、合併する会社どうしの支配関係が、合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日(または設立の日など)から継続していない場合には、原則として被合併会社の繰越欠損金の引継ぎが制限されます(法人税法57条3項)。合併する側の会社の繰越欠損金の使用や、含み損のある資産の損失の計上にも同様の制限があります(法人税法57条4項、62条の7)。

    つまり、最近買収した会社や、最近支配関係ができた会社との合併では、欠損金が引き継げないことがあるということです。共同事業要件などを満たせば制限がかからない場合もありますが、判定は個別の確認が必要です。

    少数株主がいる場合

    株式交換や合併で少数株主に親会社の株式を交付すると、少数株主がグループの中核会社の株主として残ることになります。親会社が子会社の発行済株式の3分の2以上を直接保有している場合は、少数株主に金銭を交付しても金銭等不交付要件の対象とならない取扱いがあり(法人税法2条12号の8括弧書ほか)、現金を対価とする合併や株式交換で少数株主を整理する方法が検討されることもあります。ただし、少数株主の理解を得ることや、買取価格の妥当性を説明できることが前提です。

    税金以外に確認したいこと

    • 会社法上の手続:合併・株式交換・分割は、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項12号)。規模の小さい再編では簡易手続(会社法796条2項など)が、90%以上の議決権を持つ親会社との再編では略式手続が使える場合があります。合併や分割では債権者保護手続も必要です。
    • 不動産取得税:合併による不動産の取得は非課税です(地方税法73条の7第2号)。分割は一定の要件を満たす場合に限り非課税、現物分配や売買は同条の非課税の対象として掲げられていません。不動産の多いグループでは、手法によって流通税の負担が大きく変わります。
    • 許認可・契約:合併や分割では、許認可の承継に行政庁の手続が必要な業種や、承継できない業種があります。取引先との契約に組織再編を理由とする解除条項がないかも確認します。
    • 自社株の評価:再編後の各社の資産構成や利益が変わると、相続税評価上の会社区分(株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満の会社など)も変わり得ます。

    承継・売却を見据えた整理の順番

    グループ整理は、一度にすべてを行うより、段階を踏む方が失敗しにくくなります。AEGISが考える基本的な順番は次のとおりです。

    段階やること確認したいこと
    1. 現状の可視化全社の株主・持株比率・役員・資産・借入れ・許認可を一覧にする名義株、持合い、休眠会社、保証の有無
    2. 目標の形を決める承継・売却・管理のどれを優先するかを決め、整理後の資本関係図を描く誰がどの会社の株式を持つか
    3. 株主の整理少数株主からの買取り、名義株の整理、持合いの解消買取価格、資金、株主との合意
    4. 資本関係の整理株式交換・株式移転で親子関係を整える適格要件、交換比率
    5. 資産・事業の付け替え会社分割・現物分配・売買で資産と事業を移す流通税、許認可、欠損金
    6. 会社数の削減合併や清算で不要な会社をなくす欠損金の制限、債権者保護

    順番を誤ると、たとえば「先に合併してしまい、後から売却対象の事業を切り出すのに分割が必要になる」「株主の整理をしないまま株式交換をして、少数株主が親会社に残る」といった手戻りが生じます。

    AEGISの視点

    グループ会社が増えるのは、多くの場合、その時々の合理的な判断の結果です。新規事業を別会社にした、不動産を別に持った、取引先の要請で会社を分けた――一つひとつには理由がありました。だからこそ、整理するときには、「なぜその会社があるのか」を一社ずつ確かめるところから始めることが大切だとAEGISは考えています。

    そのうえで、整理後のグループの姿を、税金の面だけでなく、誰が経営し、誰が株式を持ち、どの資産をどの会社に置くかという「所有と承継の設計図」として描きます。組織再編の手法は、その設計図を実現するための道具にすぎません。

    また、再編には時間がかかります。欠損金の5年の判定のように、時間の経過そのものが条件になる要素もあります。承継や売却の時期が見えてきてから慌てて再編するのではなく、数年単位の計画として進めることが、選択肢を広く保つことにつながります。会社売却の準備をいつから始めるかの全体像は、親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。グループ内で個々の資産を移す方法としては、「現物分配で子会社の資産を親会社へ移す」も参考になります。

    グループ再編と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • グループ整理は、承継・売却・管理コスト・経営判断のいずれを優先するかで、目指す形が変わります。
    • 合併・株式交換・株式移転・会社分割・現物分配・株式の売買には、それぞれ向いている場面と注意点があります。
    • グループ内再編は税制適格になりやすい一方、支配関係が5年以内に生じた会社との合併などでは繰越欠損金の制限に注意が必要です。
    • 不動産取得税・許認可・少数株主・自社株の評価など、税金以外の確認事項も手法の選択を左右します。
    • 現状の可視化 → 目標の形 → 株主の整理 → 資本関係 → 資産・事業の付け替え → 会社数の削減、という順番で進めると手戻りが少なくなります。具体的な進め方は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 休眠会社は合併で整理するのと清算するのと、どちらがよいですか?

    休眠会社に資産や繰越欠損金がほとんどなければ、清算の方が手続を単純にできる場合があります。一方、不動産を持っている場合は、合併なら不動産取得税が非課税となるため、合併が有利になることがあります。資産の内容、欠損金の有無、手続の期間を比べて判断します。

    Q. 赤字の子会社を合併すれば、その欠損金を使えますか?

    適格合併であれば、被合併会社の繰越欠損金を引き継げるのが原則です。ただし、支配関係が合併の日の属する事業年度開始の日の5年前から継続していない場合などは、引継ぎが制限されます。共同事業要件などを満たす場合の例外もあるため、個別の確認が必要です。

    Q. 株式交換と株式移転は何が違いますか?

    株式交換は既存の会社を親会社にして他の会社を100%子会社にする手続、株式移転は新しく設立する会社を親会社にする手続です。既存の中核会社や資産管理会社を親会社にしたい場合は株式交換、新しい持株会社をつくりたい場合は株式移転が候補になります。

    Q. 兄弟会社を親子会社に組み替えることはできますか?

    株式交換により、一方の会社を他方の100%子会社にすることができます。オーナー個人とその親族が両社の株式を持っている場合は、グループ内の再編として税制適格要件を満たしやすくなりますが、交換比率の算定や、組み替え後の株価への影響を確認しておく必要があります。

    Q. グループ整理にはどのくらいの期間がかかりますか?

    手法と会社の数によりますが、債権者保護手続には1か月以上の期間が必要で、株主の整理や価格の算定を含めると、1年以上の計画になることも珍しくありません。承継や売却の時期から逆算して、早めに着手することが望まれます。

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    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理までを検討します。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税務からみたM&A・組織再編成のストラクチャー選択』佐藤信祐 著、中央経済社、2022年、第5章(P.257-278)
    • 『新版〔目的別〕組織再編の最適スキーム 法務・会計・税務』貝沼彩・北山雅一・清水博崇・齊藤修一 著、清文社、2020年、第3章(P.162-188)
    • 『令和7年版 図解組織再編税制』中村慈美 著、大蔵財務協会、2025年、第8章(P.501-518)
  • 後継者が決まる前にできる事業承継の準備|今のうちに整えておきたい6つのこと

    後継者が決まる前にできる事業承継の準備|今のうちに整えておきたい6つのこと

    「後継者が決まらないから、事業承継の話はまだ先」——そう考えているオーナーは少なくありません。しかし、事業承継の準備の多くは、誰に継ぐかが決まっていなくても進められるものです。

    むしろ、後継者が未定の期間こそ、承継先が親族であっても、社内の役員・従業員であっても、社外の第三者であっても共通して必要になる「土台づくり」に集中できる時期です。この記事では、後継者が決まる前に整えておきたい準備を6つに整理して解説します。

    結論:後継者未定でも「継げる会社」にする準備はできる

    後継者が決まる前にできる準備は、大きく言えば次の3つの方向に分けられます。

    1. 会社を知る:自社の強み、社長に依存している部分、財務や株主の状況を見える化する
    2. 会社を整える:経営体制や財務を磨き上げ、誰が引き継いでも経営できる状態に近づける
    3. 境界を整える:会社とオーナー個人の財産・債務・保証の関係を整理する

    これらは、後継者候補にとって「引き継ぎたい」と思える会社にすることでもあり、結果として後継者の選択肢を広げることにもつながります。

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」でも、事業承継に向けたステップとして、計画策定や承継の実行の前に「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」と「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」を位置付けています。

    準備1:社長に依存している部分を書き出す

    中小企業では、取引先との関係、技術やノウハウ、重要な判断の多くが社長個人に集中していることがあります。こうした要素は、決算書には表れませんが、事業の価値そのものです。

    まず取り組みたいのは、次のような項目を書き出すことです。

    • 社長が直接担っている取引先・金融機関との関係
    • 社長しか知らない業務の手順や判断基準
    • 社長の承認がなければ動かない意思決定
    • 会社の強みが「人」に依存しているのか、「仕組み」として組織に根付いているのか

    ポイントは、特定の個人と一緒に去ってしまう強みと、仕組みとして会社に定着している強みを見分けることです。前者が多いほど、承継には時間がかかります。後継者が決まる前から、属人的な強みを少しずつ組織の仕組みへ移していくことが、承継をスムーズにします。

    準備2:経営と財務を磨き上げる

    「磨き上げ」とは、事業承継に向けて会社の価値や経営の安定性を高める取り組みです。事業承継ガイドラインでも、本業の競争力強化や経営体制の総点検などが例示されています。

    後継者が未定の段階で特に意識したいのは、次の点です。

    • 決算の透明性:会社の実態が決算書から読み取れる状態か。私的な支出と事業の支出が混在していないか
    • 組織の役割分担:役員・幹部社員の職務や権限が明確か
    • 事業の将来性:今後も収益を生む事業と、見直しが必要な事業を区別できているか

    親族が継ぐ場合でも、社内の人材が継ぐ場合でも、社外へ引き継ぐ場合でも、「中身が分かり、仕組みで回る会社」は評価されやすく、引き継ぐ側の不安も小さくなります。

    準備3:株主構成を把握し、分散を防ぐ

    後継者が誰であれ、会社を安定して経営するには、一定の議決権を確保する必要があります。株主総会の普通決議(役員の選任など)は原則として出席株主の議決権の過半数、特別決議(定款変更など)は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。

    後継者が決まる前に確認しておきたいのは、次のような点です。

    • 株主名簿に記載された株主と、実際の出資者が一致しているか(いわゆる名義株の有無)
    • 親族、元役員、取引先などに株式が分散していないか
    • 定款に、株式の譲渡制限や、相続人等に対する売渡請求の定めがあるか

    株式は、相続のたびに分散が進む傾向があります。分散した株式を後から集約するには、相手方との交渉や買取資金が必要になり、時間がかかります。後継者が決まってから集約を始めるのでは間に合わないことがあるため、早めに状況を把握しておくことが大切です。

    準備4:会社と個人の財産・債務の関係を整理する

    オーナー企業では、会社と個人の財産が入り組んでいることが珍しくありません。

    確認したい関係承継時に起こり得ること
    会社が使う土地・建物をオーナー個人が所有している株式とは別に不動産の承継先を決める必要がある
    オーナーから会社への貸付金がある貸付金は相続財産となり、後継者以外の相続人が取得することもある
    会社の借入れにオーナーが経営者保証をしている後継者が保証を引き継ぐかどうかが論点になる

    経営者保証については、事業承継ガイドラインでも後継者にとって承継の障害になり得ることが指摘されており、金融機関向けには事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則も設けられています。保証の内容や解除の可能性は、金融機関との関係も含めて早めに確認しておきたい項目です。

    準備5:自社株式の評価額と相続税のおおよその水準を知る

    自社株式の評価額は、業績や会社の財産の状況によって変動します。評価額を知らないまま時間が経つと、業績が良いほど評価額が上がり、後から対策の選択肢が狭まることがあります。

    後継者が決まる前の段階では、精緻な計算までは必要ありません。次の2点を把握しておくだけでも、判断の材料になります。

    • 現時点での自社株式のおおよその評価額と、その主な要因
    • オーナー個人に相続が発生した場合の相続税のおおよその水準と、納税資金の見通し

    なお、相続税の申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。万一に備えるという意味でも、現状の水準を知っておくことには意味があります。

    準備6:承継の選択肢と「後継者に求める条件」を言葉にする

    後継者が決まらない理由の一つは、オーナー自身が「どのような人に継いでほしいか」を整理しきれていないことにあります。

    • 経営者としてどのような資質・経験を求めるか
    • 経営を任せる人と、株式を持つ人は同じである必要があるか
    • 親族、社内の役員・従業員、社外の第三者のうち、どの選択肢を排除しないか

    事業承継ガイドラインでも、後継者がいない場合の選択肢としてM&Aなどの社外への引継ぎが示されています。最初から選択肢を狭めず、それぞれの可能性を並べて比較できる状態にしておくことが、後の判断を楽にします。

    実務上注意したいポイント

    • 準備を「後継者探し」と同一視しない:上記の準備は、後継者が誰になっても無駄になりません。
    • 税金の対策だけを先行させない:株価を下げる対策などを先に実行すると、承継方針が決まった後に組み直しが必要になることがあります。
    • 期限のある制度を意識する:法人版事業承継税制(特例措置)を利用するには、令和9年(2027年)9月30日までに特例承継計画を都道府県に提出する必要があります(中小企業庁)。利用の可能性があるなら、後継者の目処とあわせて早めに検討しておきたいところです。
    • 万一の事態に備える:オーナーが急に経営できなくなった場合に、誰が会社の意思決定を担い、株式の議決権をどう行使するのかも、後継者が未定の段階から考えておくべき論点です。

    AEGISの視点

    後継者が決まらない期間を、AEGISは「所有と経営の形を、白紙から考え直せる貴重な時間」と捉えています。

    後継者が決まると、多くの場合「その人に株式も経営もすべて渡す」前提で話が進みます。しかし本来、会社を率いる人と、会社を所有する主体は、同じである必要はありません。経営は社内の人材に任せ、株式は家族が保有し続ける。あるいは、会社の不動産は資産管理会社が持ち、事業会社は身軽にする。事業を通じて得た価値の一部を、財団などを通じて社会に還元していく——こうした設計は、後継者が決まってからでは選びにくく、時間のある今だからこそ検討できるものです。

    どの形が適しているかは、事業の性質や家族の状況によって大きく異なります。大切なのは、後継者が決まるのを待つのではなく、どのような人が現れても引き継げる会社と所有の形を、オーナー自身が先に描いておくことです。

    事業承継の全体像や整理の順番については、関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で解説しています。

    まとめ

    • 事業承継の準備の多くは、後継者が決まる前から進められます。
    • 「会社を知る」「会社を整える」「会社と個人の境界を整える」の3方向で準備するのが基本です。
    • 株主構成の整理や経営者保証の確認は、時間がかかるため早めの着手が重要です。
    • 後継者に求める条件や承継の選択肢を言葉にしておくことが、後継者選びを前に進めます。
    • 準備の内容や優先順位は、会社と家族の状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. 後継者がいない場合、廃業するしかないのでしょうか?

    そうとは限りません。親族以外にも、社内の役員・従業員や、M&Aによる社外への引継ぎといった選択肢があります。事業承継ガイドラインでも、後継者がいない場合の選択肢としてM&A等が示されています。どの選択肢が現実的かを比較するためにも、会社の見える化や磨き上げを先に進めておくことが有効です。

    Q. 後継者が決まる前に、自社株式を贈与しておいたほうがよいですか?

    承継先が決まっていない段階で株式を移すと、後から経営権の集中が難しくなるおそれがあります。まずは評価額と株主構成を把握し、方針が定まった段階で移転の方法や時期を検討するのが一般的な順番です。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    Q. 分散している株式は、どのように集約すればよいですか?

    株主との合意による買取り、会社による自己株式の取得、定款の定めに基づく相続人等への売渡請求などの方法が考えられます。ただし、それぞれ手続きや税務上の取扱い、買取資金の確保といった論点があるため、株主構成と会社の状況を踏まえて検討する必要があります。

    Q. 会社が使っている不動産をオーナー個人が持っている場合、何に注意すべきですか?

    株式を後継者に渡しても、不動産が別の相続人に渡ると、会社が事業用不動産を使い続けられるかが不安定になることがあります。不動産の所有者を誰にするか、会社との賃貸借の条件をどうするかを、株式の承継とあわせて考えておくことが大切です。

    Q. 準備は何から手を付けるのが現実的ですか?

    まずは、株主名簿と定款、直近の決算書、オーナー個人の主な財産と保証の一覧をそろえることから始めるのが現実的です。資料がそろうと、どこに課題があるかが見えやすくなります。

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    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    その他参考資料

  • 事業承継は何から始めるべきか|後継者・株式・税金・経営体制を整理する順番

    事業承継は何から始めるべきか|後継者・株式・税金・経営体制を整理する順番

    「そろそろ事業承継を考えなければ」と思ったとき、多くのオーナーが最初に手を付けるのは、後継者を誰にするかという問いか、相続税がいくらかかるかという試算のどちらかです。どちらも重要ですが、いずれか一つから始めると、他の論点が後回しになり、あとで組み直しが必要になることがあります。

    結論から言えば、事業承継は「誰に継ぐか」を決める前に、「何を継ぐのか」を棚卸しすることから始めるのが、遠回りに見えて最も確実です。この記事では、後継者・株式・税金・経営体制という4つの論点を、どの順番で、どの深さまで整理すればよいかを解説します。

    事業承継とは何を引き継ぐことか

    事業承継というと「社長が交代すること」をイメージしがちですが、実際に引き継ぐものはもっと広範囲です。

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継の構成要素を次の3つに整理しています。

    構成要素主な内容
    人(経営)の承継経営権・代表者の地位、経営者としての役割
    資産の承継自社株式、事業用資産、債権・債務など
    知的資産の承継人材、技術・ノウハウ、顧客との関係、経営理念など、貸借対照表に表れない資産

    AEGISでは、オーナーの意思決定という観点から、これをさらに次の4つの視点で捉え直すことをおすすめしています。

    • 経営:誰が会社を率い、意思決定するのか
    • 所有:誰が株式(議決権)を持ち、会社を支配するのか
    • 財産:会社の財産とオーナー個人の財産をどう区分し、どう次世代へ移すのか
    • 家族:後継者以外の家族の意向や公平感をどう扱うのか

    この4つは互いに影響し合います。たとえば「経営は長男に任せたい」という判断(経営)は、「株式を長男に集中させる」という判断(所有)を必要とし、それは「他の相続人に何を渡すか」(財産・家族)という問題を生みます。どれか一つだけを先に確定させると、他の視点で無理が生じるのはこのためです。

    なぜ「早く始める」ことが重要なのか

    事業承継ガイドラインは、経営者がおおむね60歳頃には事業承継の準備に着手することが望ましいとしています。また、後継者の育成を含めた準備には、3年以上を要するケースが半数を超え、10年以上かかるケースも少なくないことが示されています。

    早く始めるべき理由は、単に時間がかかるからだけではありません。

    • 選択肢が多いうちに判断できる:株式の移転方法(贈与・売買・相続など)や時期は、時間があるほど比較・分散ができます。
    • 後継者の育成に時間を充てられる:経営者としての経験は、短期間では身に付きません。
    • 不測の事態に備えられる:健康上の問題などで承継が突然始まると、準備不足のまま相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)を迎えることになります。

    「まだ元気だから」「後継者が決まっていないから」は、準備を先送りする理由にはなりません。後継者が未定でも進められる準備は数多くあります(関連記事:後継者が決まる前にできる準備)。

    最初に整理すべきこと:4つの視点の「現状把握」

    事業承継の第一歩は、現状を正確に知ることです。事業承継ガイドラインも、準備の必要性を認識したあとのステップとして「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」を挙げています。

    AEGISでは、4つの視点ごとに次の項目を確認することから始めます。

    経営:会社は「社長がいなくても」回るか

    • 業績の推移と、今後数年の見通し
    • 社長個人に依存している業務・判断・取引先との関係
    • 幹部社員の役割分担と、意思決定の仕組み

    社長しか知らないこと、社長しか決められないことが多いほど、承継には時間がかかります。

    所有:株式は今、誰が何株持っているか

    • 株主名簿と実際の株主が一致しているか
    • 親族や元役員などに株式が分散していないか
    • 定款に株式の譲渡制限や相続人等に対する売渡請求の定めがあるか

    会社の重要事項は株主総会で決まります。役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。後継者が安定して経営するには、どの程度の議決権を確保できるかを早い段階で把握しておく必要があります。

    財産:会社と個人の境界はどうなっているか

    • 自社株式のおおよその評価額
    • オーナー個人の財産のうち、自社株式・不動産・金融資産の割合
    • 会社が使っている不動産をオーナー個人が所有していないか
    • オーナーから会社への貸付金、会社借入れに対する経営者保証

    中小企業では、会社の事業と個人の財産が密接につながっていることが少なくありません。この境界が曖昧なままだと、株式だけを移しても事業が回らない、あるいは相続のときに想定外の論点が出てくることがあります。

    家族:誰が、何を望んでいるか

    • 後継者候補本人に、継ぐ意思があるか
    • 後継者以外の家族が、会社や財産についてどう考えているか
    • 配偶者や子の生活資金をどう確保するか

    家族の意向は、税金や株価よりも数値化しにくい一方で、承継の成否を最も大きく左右する要素の一つです。

    整理する順番:「方針」→「方法」→「税金」

    現状が見えたら、次は判断の順番です。AEGISでは、次の順で整理することをおすすめしています。

    1. 方針を決める:事業を継続するか、誰に(親族・社内・社外)引き継ぐ方向か、いつ頃を目安にするか
    2. 経営と所有の設計を決める:経営をいつ、誰に任せるか。株式をいつ、どの方法で、誰に移すか
    3. 財産全体の配分を考える:後継者以外の家族に何を渡すか、納税資金をどう確保するか
    4. 税金を最適化する:上記の方針の範囲内で、税負担を抑える方法を検討する

    ここでのポイントは、税金の最適化を最後に置くことです。税負担の軽減は重要ですが、税金を基準に経営や所有の設計を決めると、後継者の経営権が不安定になったり、家族間の公平が損なわれたりすることがあります。税金は「方針を実現するための手段の一つ」として位置付けるのが、長期的に見て合理的です。

    なお、経営を任せる時期と株式を移す時期は、必ずしも同じである必要はありません。たとえば、代表者は早めに交代し、株式は段階的に移すといった設計も考えられます。

    また、株式の引き継ぎ先は家族や社内・社外の後継者だけとは限りません。会社の経営と議決権は後継者に任せ、株式の一部(たとえば議決権のない配当優先株式)を財団に寄附して、配当を社会貢献に充てるという「社会貢献を軸にした承継」の形もあります。自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団に基金を設ける形であれば、後継者に財団運営の負担を残さずに済みます(AEGISが設立したアイジスレガシー財団もその一つです)。事業承継税制との比較は関連記事「法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断」で、財団の設計は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    事業承継税制には期限がある

    非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「法人版事業承継税制(特例措置)」を利用するには、事前に「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。中小企業庁によれば、提出期限は令和9年(2027年)9月30日まで、対象となるのは平成30年(2018年)1月1日から令和9年(2027年)12月31日までの贈与・相続等です。

    制度の利用を検討する可能性があるなら、期限から逆算して早めに方針を整理しておくことが大切です。ただし、この制度は適用後も一定の要件を継続して満たす必要があり、利用が適しているかどうかは会社や家族の状況によって異なります。

    経営者保証も承継の論点になる

    会社の借入れに対する経営者保証は、後継者にとって事業承継の障害になり得ることが、事業承継ガイドラインでも指摘されています。金融機関向けには、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則も設けられています。借入れの状況と保証の有無は、早い段階で確認しておきたい項目です。

    計画は「完成させる」より「共有する」

    事業承継の準備は、資料を作ること自体が目的ではありません。現経営者と後継者候補、家族、幹部社員が、同じ現状認識と方向性を共有できているかが重要です。事業承継計画の具体的な項目については、関連記事(事業承継計画に含める項目)で詳しく解説しています。

    AEGISの視点

    事業承継は、税務の問題として語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、事業承継を「会社の所有と経営の形を、次の世代に合わせて設計し直す機会」と捉えています。

    オーナーが築いてきたものは、会社だけではありません。会社が使う不動産、個人の金融資産、家族との関係、地域や社会とのつながり——それらはすべて、事業承継のときに同時に動きます。会社の株式だけを見て最適化しても、不動産の所有形態や家族の生活資金、あるいはオーナー自身の「事業を通じて社会に何を残したいか」という思いが置き去りになれば、承継は本当の意味で完了しません。

    そのためAEGISでは、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理し、その上で個々の対策を位置付けることを重視しています。最初の一歩は、精緻な計算ではなく、オーナー自身の言葉で「何を、誰に、どのような形で残したいか」を書き出してみることです。

    事業承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 事業承継で引き継ぐのは、経営・所有・財産・家族にまたがる「事業の全体」です。
    • 最初に行うべきは、後継者の決定や税金の試算ではなく、4つの視点での現状把握です。
    • 整理の順番は「方針 → 経営と所有の設計 → 財産全体の配分 → 税金の最適化」が基本です。
    • 準備には年単位の時間がかかります。60歳前後を一つの目安に、早めに着手することが望まれます。
    • 事業承継税制の特例措置を検討する場合は、特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)に注意が必要です。

    具体的にどの対策が適しているかは、会社の状況や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 後継者が決まっていなくても、事業承継の準備は始められますか?

    始められます。株主構成や会社と個人の財産の関係の整理、社長に依存している業務の見える化、自社株式の評価額の把握などは、後継者が誰であっても必要になる準備です。むしろ、これらを進めることで後継者の選択肢が広がることもあります。

    Q. 事業承継は何歳頃から準備すべきですか?

    中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、おおむね60歳頃には準備に着手することが望ましいとされています。後継者の育成を含めると3年以上かかるケースが半数を超えるため、年齢にかかわらず「思い立ったとき」が着手のタイミングと考えるのが現実的です。

    Q. まず相続税の試算から始めるべきではないのですか?

    試算自体は早い段階で行う価値があります。ただし、試算結果だけを基準に対策を決めると、経営権や家族間の公平といった他の重要な要素が後回しになりがちです。試算は現状把握の一部として行い、対策の判断は方針を決めた後に行うのが望ましい順番です。

    Q. 経営を譲るタイミングと株式を渡すタイミングは同じでなければなりませんか?

    同じである必要はありません。代表者の交代と株式の移転を段階的に分けて設計することも可能です。ただし、後継者が経営判断を行うために必要な議決権を、どの時点でどの程度確保できるかは慎重に検討する必要があります。

    Q. 事業承継税制は必ず使ったほうがよいのですか?

    一概には言えません。納税の猶予・免除を受けられる一方で、適用後も一定期間にわたって要件を満たし続ける必要があり、会社の将来の選択肢(組織再編や売却など)に影響することもあります。制度の期限を意識しつつ、自社の方針に合うかどうかを確認したうえで判断することが重要です。制度を使わない場合の選択肢には、贈与や売買のほか、株式の一部を財団に寄附して経営権は後継者に残す、社会貢献を軸にした承継もあります。

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