カテゴリー: 税務・会計

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  • 相続税を払いすぎていたときの更正の請求|期限・要件・手続の流れと、見直しを検討するときの考え方

    相続税を払いすぎていたときの更正の請求|期限・要件・手続の流れと、見直しを検討するときの考え方

    相続税の申告を終えた後に、「土地の評価がもっと低くなるはずだった」「使えるはずの特例を適用していなかった」と気づくことがあります。このように、申告した税額が過大だった場合に、税務署長に税額の減額を求める手続が「更正の請求」です。

    結論から言えば、相続税の更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内に行うことができます。また、申告後に遺産分割がまとまったなど一定の事由が生じた場合には、その事由を知った日の翌日から4か月以内に行える特則もあります(国税庁)。

    ただし、請求すれば必ず税金が戻るわけではありません。税務署は請求の内容を調査したうえで判断します。この記事では、更正の請求の期限・要件・手続の流れと、見直しを検討するときに押さえておきたい考え方を整理します。

    更正の請求とは

    更正の請求とは、提出した申告書の税額等が、税法の規定に従っていなかったことや計算に誤りがあったことにより過大であった場合に、その減額(更正)を税務署長に求める手続です(国税通則法第23条、国税庁)。

    これに対し、税額が少なすぎたことに気づいた場合は「修正申告」を行います。更正の請求と修正申告は、方向が逆の手続です。

    更正の請求を受けた税務署長は、その請求に基づいて調査を行い、税額等を更正するか、更正をすべき理由がない旨を通知することとされています(国税通則法第23条第4項)。

    更正の請求ができる期限

    更正の請求の期限は、請求の理由によって異なります。

    区分主な場面期限
    通常の更正の請求土地の評価誤り、特例の適用誤り、計算誤りなど法定申告期限から5年以内
    後発的な事由による更正の請求(国税通則法)申告の前提となった事実が判決等で異なると確定した場合など事由が生じた日の翌日から2か月以内
    相続税法の特則(相続税法第32条)未分割だった財産の分割、相続人の異動、遺留分侵害額の請求に基づき支払う金銭の額の確定、遺言書の発見・遺贈の放棄など事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内

    ※国税庁「相続税及び贈与税の更正の請求手続」等をもとにAEGISが整理。後発的な事由の具体的な範囲は個別に確認が必要です。

    「法定申告期限から5年」の数え方

    相続税の法定申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月を経過する日です(国税庁 No.4205)。更正の請求の5年は、実際に申告書を提出した日からではなく、この法定申告期限から数えます。たとえば、期限より早く申告していても、期限が延びるわけではありません。相続の開始からおおよそ5年10か月が一つの目安になります。

    なお、この5年の期間は、法定申告期限が平成23年12月2日以後に到来する相続税について適用されています(国税庁)。

    遺産分割がまとまった場合の4か月

    申告期限までに遺産分割がまとまらず、法定相続分で申告した場合、その後に分割がまとまって税額が減るときは、分割を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求を行います(国税庁 No.4208)。

    特に、申告期限までに分割されていない財産には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が原則として適用されません。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておき、期限から3年以内に分割がまとまれば、更正の請求によってこれらの特例を適用した税額に見直すことができます(国税庁 No.4158)。この4か月の期限は見落とされやすいため注意が必要です。

    払いすぎが生じやすい典型的な場面

    更正の請求の理由として多いのは、次のような場面です。

    • 土地の評価:土地の形状(不整形・間口が狭いなど)、道路との関係、利用状況による評価の減額要素が反映されていない
    • 特例・控除の適用:要件を満たしていた特例や控除が適用されていない
    • 財産の計上:相続財産ではない財産(家族名義で実際に家族のものだった財産など)が含まれていた、債務や葬式費用の控除が漏れていた
    • 非上場株式の評価:会社の規模の区分や評価方式の判定に誤りがあった

    一方で、申告後に財産の価値が下がったことは、それだけでは申告時点の評価の誤りにはなりません。相続税の評価は、原則として相続開始の時点で行うためです。

    手続の流れ

    更正の請求は、おおむね次の流れで進みます。

    1. 申告内容の確認:申告書と評価の根拠資料を確認し、過大となっている可能性がある箇所を特定します。
    2. 更正の請求書の作成:請求の内容と理由を記載し、理由の基礎となる事実を証明する書類(土地の測量図や現況の資料、評価の計算書など)を添付します(国税庁)。
    3. 提出:相続税の更正の請求は、e-Taxのほか、内容によっては書面で提出することもできます(国税庁)。
    4. 税務署による調査:税務署は、請求の内容が正しいかを調査します。書類の確認に加えて、質問や現地の確認が行われることもあります。
    5. 結果の通知:税額が更正されると通知があり、過大だった税額が還付されます。理由がないと判断されれば、その旨の通知があります。

    相続税は相続人ごとに申告・納税するため、更正の請求も、税額が過大となった相続人がそれぞれ行うのが基本です。複数の相続人に影響する場合は、家族で方針を共有して進めることが大切です。

    実務上注意したいポイント

    調査では、他の論点が確認されることもある

    更正の請求を受けた税務署は、請求の内容を調査します。その過程で、当初の申告の他の部分に誤り(たとえば財産の計上漏れ)が見つかれば、結果として税額が増えることもあり得ます。見直しは、減額できる点だけでなく、申告全体を点検する機会と考えることが大切です。

    事実を偽った請求には重いペナルティがある

    事実を隠したり偽ったりして、そのところに基づいて更正の請求書を提出していた場合には、重加算税の対象となることが法律に定められています(国税通則法第68条。令和7年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から適用)。根拠のない請求を勧める話には、慎重に対応する必要があります。

    還付の時期と金額

    更正が行われると、払いすぎていた税額が還付されます。還付金には、一定の場合に「還付加算金」が付くことがありますが、その計算の対象となる期間は法律で定められています。更正の請求に基づく更正の場合は、原則として、更正の請求があった日の翌日から3か月を経過する日と、更正があった日の翌日から1か月を経過する日のいずれか早い日の翌日からが計算の対象となります(国税通則法第58条第1項第2号)。還付の時期や金額は、調査の状況によって変わります。

    還付の手続きを依頼するときの留意点

    相続税の還付の手続きをする場合、その方の専門性やこれまでの実績、かかる時間や成功報酬の体系・料率などを確認してから依頼するようにしましょう。

    見直しを検討するかどうかの判断軸

    申告の見直しを検討するときは、次の4つの観点から整理すると、判断がしやすくなります。

    1. 根拠の具体性:どの財産の、どの評価や特例に誤りがあると考えられるのかが、資料で説明できるか
    2. 金額の見込み:見直しによって減る可能性がある税額は、どの程度か
    3. 期限の余裕:法定申告期限から5年、または特則の4か月の期限まで、資料の準備と検討に十分な期間があるか
    4. 費用と負担:現地の確認や測量、専門家への依頼の費用、調査への対応にかかる時間と家族の負担はどの程度か

    特に土地の評価は、申告時には把握できなかった現地の状況(がけ地、道路との高低差、利用上の制約など)が見直しの手掛かりになることがあります。一方で、財産の多くが預貯金や上場株式で、評価に判断の余地が小さい場合には、見直しの効果は限られます。財産の構成を踏まえて、見直しに見合う可能性があるかを見極めることが出発点です。

    AEGISの視点

    更正の請求は、「払いすぎた税金を取り戻す手続」として紹介されることが多いものです。もちろん、正しい税額に直すことは納税者の権利であり、根拠があれば積極的に検討すべきものです。

    ただしAEGISは、更正の請求を検討するときこそ、「還付の可能性」と「見直しの費用・時間・家族の負担」を冷静に比べることが大切だと考えています。土地の評価の見直しには、現地の確認や測量などの費用がかかることがあります。減額の見込みが小さければ、費用が上回ることもあります。また、相続人が複数いる場合には、誰がどの程度の還付を受けるかによって、家族の受け止め方も変わります。

    もう一つ大切なのは、見直しの結果を「次の相続」に生かすことです。土地の評価の考え方や特例の要件、財産の帰属の整理は、二次相続や事業承継の設計にもつながります。申告の見直しを、資産の全体を点検し直す機会として位置付けると、得られるものはより大きくなります。

    申告書を依頼先から受け取ったときに確認したい点は関連記事「依頼した相続税申告書のセルフチェック」で、還付をうたう営業への向き合い方は「相続税の還付をうたう営業を受けたら」で、土地評価の見直しの確認点は「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。

    土地や非上場株式の評価など、資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    申告済みの相続税について、更正の請求ができるかどうかを確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 更正の請求は、申告した相続税額が過大だった場合に、税務署長に減額を求める手続です。
    • 期限は原則として法定申告期限から5年以内です。遺産分割がまとまったなど相続税法の特則に当たる場合は、その事由を知った日の翌日から4か月以内に行います。
    • 請求書には、理由の基礎となる事実を証明する書類を添付します。税務署は調査したうえで、更正するか理由がない旨を通知します。
    • 申告後の値下がりは、それだけでは更正の理由になりません。見直しの過程で他の誤りが見つかる可能性もあります。
    • 還付の見込みと、費用・時間・家族の負担を比べたうえで、検討することが大切です。

    よくある質問

    Q. 相続税の更正の請求は、いつまでできますか?

    原則として、法定申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月を経過する日)から5年以内です。申告後に遺産分割がまとまった場合など、相続税法に定める一定の事由がある場合には、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に行う特則があります。

    Q. 更正の請求をすると、必ず税務調査が行われますか?

    税務署は、更正の請求の内容が正しいかを調査したうえで判断します。調査の方法は、書類の確認だけの場合もあれば、質問や現地の確認が行われる場合もあります。請求の理由を裏付ける資料を、最初からそろえておくことが大切です。

    Q. 申告後に土地の価格が下がりました。更正の請求はできますか?

    相続税の評価は、原則として相続開始の時点で行います。申告後に価格が下がったことだけでは、申告時の評価が誤っていたことにはならないため、それだけを理由とする更正の請求は難しいと考えられます。申告時点の評価に誤りがなかったかどうかを確認することが出発点です。

    Q. 相続人の一人だけで更正の請求をすることはできますか?

    相続税は相続人ごとに申告・納税するため、更正の請求も、税額が過大となった人がそれぞれ行うのが基本です。ただし、財産の評価の見直しは他の相続人の税額にも影響することが多いため、家族で方針を共有して進めることが望まれます。

    Q. 見直しを依頼するときは、どのような点を確認すればよいですか?

    見直しの根拠(どの財産のどの評価や特例の誤りか)、費用の計算方法(成功報酬の対象や率)、税務署の調査があった場合の対応の範囲を確認します。還付の可能性だけでなく、費用や手間を含めて判断することが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用した制度などを確認し、見直しや還付の可能性を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行までを一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、第2章(印刷 p.117-120)
    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、Chapter 3(印刷 p.70-83)、Chapter 18(印刷 p.201)
  • 遺産分割が後から決まったときの相続税の手続|未分割申告・分割見込書・4か月以内の更正の請求

    遺産分割が後から決まったときの相続税の手続|未分割申告・分割見込書・4か月以内の更正の請求

    相続人どうしの話し合いがまとまらない、相続人の一人と連絡が取れない、評価の難しい財産があって分け方を決めきれない——遺産分割が相続税の申告期限に間に合わないことは、決して珍しくありません。

    結論から言えば、遺産分割がまとまっていなくても、相続税の申告と納税は期限どおりに行う必要があります。そのうえで、①未分割のまま申告するときは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えないこと、②後から使えるようにするには申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておくこと、③分割が決まったら、税額が減る人は分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求を、税額が増える人は修正申告を行うこと、の3点が手続の骨格になります。

    この記事では、未分割申告から分割確定後の手続までを時系列で整理し、期限を逃しやすい場面と、分割を「やり直す」ときの注意点を解説します。

    未分割でも申告期限は延びない

    相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。遺産分割が終わっていないことは、この期限を延ばす理由にはなりません。

    申告期限までに分割されていない財産があるときは、各相続人が民法の法定相続分(または包括遺贈の割合)に従って財産を取得したものとして課税価格を計算し、申告します(相続税法55条、国税庁 No.4208)。実際には誰がどの財産を受け取るか決まっていなくても、計算上は「法定相続分で分けた」と仮定して税額を出すということです。

    この仮定には、次のような実務上の影響があります。

    • 各相続人がそれぞれ納税する:法定相続分に応じた税額を、各相続人が期限までに納める必要があります。遺産の預金を自由に引き出せない段階では、手元資金からの立替えが必要になることもあります。
    • 特例を前提にした税額にならない:後述のとおり、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、未分割の財産には原則として適用できません。そのため、分割後に比べて申告時の税額が大きくなりやすい点に注意が必要です。

    未分割のときに使えない2つの特例

    国税庁は、申告期限までに分割されていない財産について、次の2つの特例は適用できないと案内しています(No.4208)。

    特例内容の概略未分割の場合
    配偶者の税額の軽減配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、1億6千万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税がかからない仕組み(No.4158)申告期限までに分割されていない財産は、原則として計算の対象外
    小規模宅地等の特例被相続人等の事業用・居住用・貸付用の宅地等について、一定の面積まで評価額を減額する仕組み(特定居住用は330㎡まで80%減額など。No.4124)未分割の宅地等には適用できない

    どちらも、相続税額に大きく影響する特例です。とくに配偶者がいる相続では、未分割のままでは配偶者分の税額軽減が使えないため、いったんは相当の納税が必要になることがあります。

    後から特例を使うための「申告期限後3年以内の分割見込書」

    未分割の財産であっても、申告期限から3年以内に分割された場合には、分割後に修正申告や更正の請求を通じて、これらの特例を適用できます(No.4208、No.4158)。

    そのために欠かせないのが、当初の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくことです(No.4158)。分割が見込めない事情や、分割の見込みを記載する書類で、これを出しておくことが、後から特例を受けるための前提になります。

    3年以内に分割できない「やむを得ない事情」があるとき

    遺産分割をめぐる訴訟や、家庭裁判所での調停・審判が続いているなど、3年以内に分割できない事情がある場合もあります。このようなときは、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、やむを得ない事情がある旨の承認申請書を税務署長に提出し、承認を受ける必要があります(相続税法施行令4条の2)。承認を受けた場合は、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割すれば、特例の対象とすることができます(No.4158)。

    やむを得ない事情として政令に定められているのは、訴えの提起、調停・審判の申立て、民法に基づく分割の禁止などです。単に話し合いが長引いているだけでは該当しない可能性があるため、3年の期限が近づいたら、状況を早めに整理しておくことが大切です。

    分割が決まったら:修正申告と更正の請求

    遺産分割が成立すると、各相続人の実際の取得財産に基づいて税額を計算し直します。当初の申告額との差に応じて、手続は次のように分かれます(No.4208、PwC『完全ガイド』第2章)。

    分割後の状況手続期限の目安
    当初の申告より税額が増える相続人がいる修正申告法律上の提出期限は定められていない(相続税法31条1項)。ただし放置すると税務署長による更正の対象となるため、速やかに
    当初の申告より税額が減る相続人がいる更正の請求分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内(相続税法32条1項1号、No.4208)
    当初は申告不要だったが、分割で申告が必要になった期限後申告速やかに(相続税法30条)

    更正の請求と修正申告では、期限の考え方が異なります。税額が減る人の更正の請求は「4か月以内に限り」できる手続で、この期間を過ぎると相続税法32条による更正の請求はできません(国税通則法23条による通常の更正の請求の期間内であれば認められる場合があることは、後述のとおりです)。一方、税額が増える人の修正申告は「提出することができる」とされ、法律上の期限はありません。ただし、他の相続人の更正の請求に基づいて税務署長が更正をした場合には、税額が増える相続人についても税務署長が更正(または決定)を行うこととされています(相続税法35条3項。原則として、更正の請求があった日から1年を経過した日と、国税通則法70条による更正の期間制限の日とのいずれか遅い日まで)。

    ポイントは、同じ分割でも、相続人ごとに「増える人」と「減る人」が出ることです。たとえば、配偶者が多くを取得する分割になれば、配偶者は特例の適用で税額が減る一方、他の相続人は取得額が増えて税額が増えることがあります。家族全体で手続をそろえて進めないと、一部の人だけが手続を終え、残りが期限を過ぎてしまうといったことが起こり得ます。

    期限は特例によって違うことがある

    分割後の更正の請求の期限は、原則として「分割を知った日の翌日から4か月以内」です。ただし、特例ごとに次のような違いがあり、注意が必要です。

    • 配偶者の税額軽減:国税庁の相続税法基本通達32-2は、分割後に配偶者の税額軽減を適用する更正の請求について、相続税法32条による更正の請求のほか国税通則法23条による更正の請求もできるとし、期限を「分割が行われた日から4か月を経過する日」と「申告期限から5年を経過する日」のいずれか遅い日としています。
    • 小規模宅地等の特例:租税特別措置法通達69の4-26は、申告期限後に分割された宅地等について特例を受けるための更正の請求は、分割の日の翌日から4か月以内に限られることを明らかにしています。国税不服審判所の令和3年6月22日裁決でも、この期間を過ぎた更正の請求は認められないと判断されました(『相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説(令和7年版)』で確認)。

    「申告から5年以内なら更正の請求ができる」という一般的な理解のまま、小規模宅地等の特例の手続を後回しにすると、適用の機会そのものを失うおそれがあります。分割成立の日を起点に、特例ごとの期限を一覧にしておくことをおすすめします。

    分割を「やり直す」ときの注意点

    いったん成立した遺産分割を、後になって相続人全員の合意でやり直したいという相談もあります。ここでは、税務上の扱いが分かれる点に注意が必要です。

    • 遺言と異なる遺産分割:遺言で特定の相続人に財産を与えるとされていても、相続人全員の協議で遺言と異なる分割をした場合、国税庁は、受遺者が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当とし、受遺者から他の相続人への贈与税の対象にはならないと案内しています(No.4176)。
    • 成立した分割の再配分:相続税法基本通達19の2-8のただし書では、当初の分割により共同相続人に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合、その再配分により取得した財産は、配偶者の税額軽減の対象となる「分割」により取得したものとはならないとされています。つまり、やり直しによって財産が移った部分は、相続ではなく相続人間の贈与などとして課税される可能性があります。

    当初の分割の効力そのものに問題がある場合など、個別の事情によって判断が分かれることもあります。やり直しを検討するときは、実行する前に税務上の位置付けを確認することが欠かせません。

    未分割の期間中に確認しておきたいこと

    分割が長引くときほど、次の点を早めに確認しておくと、後の手続が円滑になります。

    • 納税資金の手当て:法定相続分による税額を各自が納める必要があります。延納などの納付方法も含めて検討します。
    • 財産の管理:賃貸不動産の賃料や預金の管理、会社の株式の議決権行使など、分割前でも運営が止まらない財産の扱いを決めておきます。
    • 二次相続への備え:分割前に相続人の一人が亡くなる場合もあります。配偶者が分割前に亡くなったときの税額軽減や小規模宅地等の特例の扱いについては、国税庁の通達に取扱いが定められています(相続税法基本通達19の2-5、措置法通達69の4-25)。
    • 期限の一覧化:申告期限、分割見込書の提出、3年の期限と承認申請の期限、分割成立後4か月の期限を、一つの表にまとめておきます。

    AEGISの視点

    未分割申告は、多くの場合「やむを得ず選ぶ手続」です。しかしAEGISは、未分割の期間を「分け方を決めるための時間」と同時に「期限を管理するための時間」として捉えることが大切だと考えています。

    未分割の相続では、話し合いの中身に意識が集中し、手続の期限が後回しになりがちです。けれども、分割見込書を出していなかった、3年の期限を過ぎてから承認申請を検討した、分割成立から4か月を過ぎて小規模宅地等の特例の更正の請求をしようとした——このような場面では、分け方の結論にかかわらず、家族全体の税負担が大きく変わってしまいます。

    また、分け方そのものも、税額だけで決めるものではありません。配偶者の今後の生活、二次相続の見通し、事業や不動産を誰が引き継ぐのか、納税資金をどう確保するのか。これらを同時に並べることで、合意に近づく分け方が見えてくることがあります。

    未分割で申告した相続について、分割後の手続や特例の適用に漏れがないかを確認したい場合は、申告書と分割協議書を並べて点検することから始めるのが現実的です。資産税務や承継に関するAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    相続と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、払いすぎた相続税を取り戻す手続の全般は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。配偶者の取得割合をどう考えるかは「二次相続まで見通した遺産の分け方」もあわせてご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 遺産分割がまとまっていなくても、相続税の申告・納税の期限(10か月以内)は延びません。未分割の財産は法定相続分で取得したものとして計算します。
    • 未分割の財産には、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例が原則として適用できません。
    • 後から特例を使うためには、当初の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、原則として申告期限から3年以内に分割することが必要です。3年以内に分割できないやむを得ない事情がある場合は、期限内に承認申請を行います。
    • 分割が決まったら、税額が増える人は修正申告、減る人は原則として4か月以内に更正の請求を行います。小規模宅地等の特例は、この4か月を過ぎると適用できなくなるおそれがあります。
    • 成立した分割のやり直しは、贈与などとして課税される可能性があります。具体的な取扱いは個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 遺産分割がまとまらないと、申告期限は延長されますか?

    延長されません。申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。期限までに分割されていない財産は、法定相続分で取得したものとして計算して申告・納税し、分割が決まった後に修正申告や更正の請求で精算します。

    Q. 「申告期限後3年以内の分割見込書」を出し忘れた場合はどうなりますか?

    国税庁は、未分割の財産について後から配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受けるために、この見込書を申告書等に添付するよう案内しています。出し忘れに気づいた場合の対応は状況によって異なるため、できるだけ早く、申告を担当した税理士や税務署に確認することをおすすめします。

    Q. 分割が決まって相続税が減る場合、いつまでに手続すればよいですか?

    原則として、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求を行います(相続税法32条1項1号)。なお、税額が増える相続人の修正申告には法律上の期限はありませんが、他の相続人の更正の請求に基づく更正が行われると、税務署長による更正の対象となります。配偶者の税額軽減については、通達上、申告期限から5年以内であればそれより後でも認められる場合がありますが、小規模宅地等の特例については4か月以内に限られるとされています。分割成立の日を起点に、早めに手続を進めることが大切です。

    Q. 相続人の一人が分割に応じないまま3年が過ぎそうです。どうすればよいですか?

    遺産分割の調停・審判の申立てや訴えの提起など、政令で定めるやむを得ない事情がある場合は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に承認申請を行うことで、事情がなくなった後4か月以内の分割まで特例の対象とすることができます。単に協議が長引いているだけでは認められない可能性があるため、法的手続の要否も含めて早めに検討します。

    Q. 一度まとまった遺産分割を、家族全員の合意でやり直しても問題ありませんか?

    民法上は合意による再分割が問題になる場面がありますが、税務上は、当初の分割で取得した財産を再配分した部分が、相続ではなく贈与などとして課税される可能性があります。やり直しを検討する場合は、実行前に税務上の扱いを確認してください。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.93-94、112-113、117-120
    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、2025年、P.151-156
  • 一般財団法人と公益認定の違い|設立のしやすさ・税制・運営の負担をどう比べるか

    一般財団法人と公益認定の違い|設立のしやすさ・税制・運営の負担をどう比べるか

    財団の設立を考え始めると、早い段階で「一般財団法人のままでよいのか、公益認定を目指すべきか」という問いに出会います。

    結論から言えば、両者の違いは「行政庁の公益認定を受け、その基準を守り続ける代わりに、税制上の優遇と社会的な信頼を得るかどうか」にあります。公益財団法人は一般財団法人と別の法人をつくるのではなく、一般財団法人が公益認定を受けることで移行する仕組みです。

    どちらが優れているということはなく、財団で何をしたいのか、どの財産をどう寄附したいのか、どこまで運営の負担を引き受けられるのかによって、適した形が変わります。この記事では、両者の違いを項目ごとに整理し、判断の軸を示します。

    一般財団法人と公益財団法人の関係

    現在の制度では、法人をつくること(設立)と、公益性を認めること(公益認定)が分かれています。

    • 一般財団法人:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)に基づき、定款の作成、公証人による定款の認証、財産の拠出、設立の登記によって成立します。公益性の審査はありません。
    • 公益財団法人:一般財団法人のうち、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(認定法)に基づいて、行政庁(内閣府または都道府県)から公益認定を受けた法人です。認定を受けると、名称が「公益財団法人」に変わります。

    つまり、公益財団法人を目指す場合でも、まずは一般財団法人として設立し、その後に公益認定を申請するのが基本的な流れです。

    財団という器をどのように設計すればよいか、全体像は関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    項目別に見る主な違い

    両者の違いを、オーナーの意思決定に関わる項目ごとに整理すると、次のようになります。

    項目一般財団法人公益財団法人
    成立の方法定款認証・財産拠出・登記(準則主義)一般財団法人が行政庁の公益認定を受けて移行
    行政庁の監督なしあり(定期提出書類、報告徴求、立入検査など)
    事業内容法律上の制約は少ない(収益事業も可能)公益目的事業を主たる目的とすることが必要
    財務の基準一般法人法上の規律が中心中期的収支均衡、公益目的事業比率、使途不特定財産の保有制限など
    役員構成一般法人法上の機関設計(評議員・理事・監事)上記に加え、親族等や同一団体関係者の割合制限、外部理事・外部監事など
    情報開示一般法人法上の計算書類の公告等定期提出書類が行政庁により原則公表される
    法人税税務上の区分により異なる(非営利型法人は収益事業のみ課税、それ以外は全所得課税)収益事業のみ課税(公益目的事業は非課税)
    寄附者の税制優遇は限定的寄附金控除・税額控除、相続財産を寄附した場合の非課税特例などの対象

    以下、特に判断に影響の大きい項目を補足します。

    設立のしやすさ:一般財団法人の要件

    一般財団法人は、次のような要件を満たせば、行政庁の許可なく設立できます。

    • 設立者が定款を作成し、公証人の認証を受けること
    • 設立者が拠出する財産の価額の合計が300万円以上であること(一般法人法153条2項)
    • 評議員3人以上、理事3人以上、監事1人以上を置き、評議員会・理事会を設けること
    • 主たる事務所の所在地で設立の登記をすること

    なお、一般財団法人は、2事業年度連続して貸借対照表上の純資産額が300万円未満となった場合には解散することとされています(同法202条2項)。設立時だけでなく、存続中も一定の財産規模を保つ必要がある点に注意が必要です。

    公益認定を受けるための主な基準

    公益認定は、認定法に定める基準に適合すると認められた場合に行われます。主な考え方は次のとおりです。

    公益目的事業を主たる目的とすること

    公益目的事業とは、学術、技芸、慈善などの認定法に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいいます。特定の会社の従業員や会員だけを対象とする事業は、原則としてこの考え方に合いません。令和6年12月に全面的に見直された「公益認定等ガイドライン」では、公益目的事業かどうかを判断する考え方が明確化され、奨学金事業などが事業の例として追加されています。

    財務の基準を満たし続けること

    公益法人は、公益目的事業の収入を適正な費用に充て、財産をため込みすぎないことが求められます。令和7年4月1日施行の改正により、次のように見直されました。

    • 単年度で収支を合わせる考え方(いわゆる収支相償)から、5年間で収支の均衡を図る「中期的収支均衡」へ
    • 将来の公益目的事業を充実させるための「公益充実資金」を創設(積立てを費用とみなす)
    • 「遊休財産」を「使途不特定財産」に改称し、その保有上限を算定する際、災害などに備える「公益目的事業継続予備財産」を除外

    あわせて、費用全体に占める公益目的事業の費用の割合(公益目的事業比率)を毎事業年度50%以上とすることも求められます(認定法15条)。

    ガバナンスの基準を満たすこと

    役員構成についても基準があります。理事・監事それぞれについて、同一の親族等が占める割合や、他の同一の団体の関係者が占める割合に制限が設けられています。さらに改正により、次の基準が加わりました。

    • 外部理事:理事のうち1人以上を法人外部の人材とすること(最終事業年度の収益の額と費用・損失の額がいずれも3,000万円未満の法人は適用除外)
    • 外部監事:監事のうち1人以上を法人外部の人材とすること(小規模法人の適用除外はなし)
    • 理事と監事の特別利害関係の排除:理事と監事が配偶者や3親等以内の親族などの関係にないこと

    財団の場合、財産を拠出した設立者は「外部」の人材とは扱われない点も押さえておきたいところです。

    税制の違い:法人と寄附者の両面から

    法人の税金

    公益財団法人は、法人税法上の収益事業から生じた所得にのみ法人税が課され、公益目的事業は非課税です。一方、一般財団法人は、非営利性が徹底されているなど一定の要件を満たす「非営利型法人」であれば収益事業のみが課税対象となりますが、それ以外の一般財団法人は株式会社と同様にすべての所得が課税対象となります。

    寄附をする人の税金

    寄附者にとっての違いは、さらに大きくなります。

    • 寄附金控除・税額控除:公益社団法人・公益財団法人への寄附は、所得税の寄附金控除の対象となる特定寄附金に含まれます。また、一定の要件を満たす公益社団法人等への寄附は、所得控除に代えて税額控除(寄附金額から2,000円を差し引いた額の40%、所得税額の25%が上限)を選択できます(国税庁タックスアンサーNo.1266)。
    • 相続財産を寄附した場合:相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに公益財団法人などに寄附した場合、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。公益認定を受けていない一般財団法人は、この特例の対象に含まれません。
    • 株式や不動産を寄附した場合のみなし譲渡:個人が法人に財産を寄附すると、原則として時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税が課されます。公益法人等への寄附で国税庁長官の承認を受けた場合は非課税となる特例があり、国税庁によれば、一般的な要件による「一般特例」は公益財団法人のほか非営利性が徹底された一般財団法人なども対象となりますが、手続が迅速な「承認特例」は公益財団法人など一定の法人に限られます。

    また、一般財団法人に財産を寄附した結果、寄附者の親族等の相続税や贈与税の負担が不当に減少すると認められる場合には、法人を個人とみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)が課される仕組みもあります(相続税法第66条第4項)。

    どちらを選ぶか:4つの判断軸

    AEGISでは、一般財団法人のままでいるか、公益認定を目指すかを、次の4つの軸で考えることをおすすめしています。

    判断軸一般財団法人が向く場合公益認定が向く場合
    1. 事業の性質対象が限定的、または収益事業の比重が大きい不特定多数の利益のための事業が中心
    2. 財源の集め方設立者・関係者の拠出で完結する広く外部からの寄附を受けたい
    3. 寄附する財産金銭中心で、税制の特例を前提としない株式・不動産など値上がり益のある財産や、相続財産を寄附したい
    4. 運営の負担事務局体制が小さく、行政への報告負担を避けたい外部役員の招へい、定期提出書類、情報開示に対応できる

    特に、自社株式などを寄附して財団の財源とする場合は、寄附の時期や受け手の法人の状態によって税制上の扱いが大きく変わります。この論点は関連記事「非上場株式を財団に寄附する際の検討事項」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    「まず一般、後で公益」の場合も設計は公益基準で

    いったん一般財団法人として設立し、活動実績を積んでから公益認定を申請するという進め方は現実的です。ただし、その場合でも、定款・役員構成・会計の仕組みは、最初から公益認定の基準を意識しておくと、後の移行がスムーズになります。公益認定申請の際には、認定法に適合させるための定款変更(評議員会の特別決議)が必要です。

    公益認定は「受けて終わり」ではない

    公益財団法人は、毎事業年度、事業計画書などは事業年度の開始日の前日までに、事業報告などは事業年度経過後3か月以内に行政庁に提出し(認定法22条1項)、財務やガバナンスの基準を満たし続ける必要があります。基準に適合しなくなった場合には、公益認定が取り消されることがあります。継続的な事務の担い手を、設立段階から想定しておくことが大切です。

    一般財団法人の自由度は「監督がない」ことの裏返し

    一般財団法人は事業の自由度が高い一方で、行政の監督や外部の目が入りにくい形でもあります。寄附者の想いを長く守るためには、法律上の義務がなくても、外部の有識者を役員に迎える、活動内容を公表するなど、自ら規律を設けることが望まれます。

    「自ら財団を持たない」という選択肢もある

    一般財団法人と公益財団法人のどちらにするかを比べる前に、そもそも自ら財団を設立する必要があるかを確かめておくことも大切です。どちらの形でも、評議員・理事・監事の選任、機関の運営、会計と報告を続ける体制が必要で、その運営は寄附者が退いた後、後継者や次の世代に引き継がれます。

    寄附の目的が助成や奨学であれば、運営体制を備えた既存の財団の中に、寄附者の名前や想いを冠した基金を設ける方法もあります。AEGISでは、この考え方を形にする器としてアイジスレガシー財団を設立しています。目的や事業を設計する自由度は自ら設立する場合より限られますが、設立と運営の負担を大きく軽くでき、後継者に財団運営の実務を背負わせずに済みます。比較の考え方は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    AEGISの視点

    一般財団法人か公益財団法人かという選択は、税制上の有利・不利で語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、この選択を「財団を、誰に対して説明責任を負う存在にするか」という設計の問いと捉えています。

    一般財団法人は、設立者の意思をそのまま形にしやすい器です。公益財団法人は、行政と社会に対して説明責任を負う代わりに、外部からの寄附や信頼を集めやすい器です。寄附者の想いを、寄附者の家族や会社の外に広げていきたいのであれば、公益認定の基準は「負担」ではなく、想いを社会と共有するための共通言語として機能します。

    財団の形は、事業承継や資産承継の計画とも連動します。会社の株式をどうするか、家族に何を残すか、社会に何を託すかを一つの全体像として整理したうえで、器を選ぶことが合理的だとAEGISは考えています。財団に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 公益財団法人は、一般財団法人が行政庁の公益認定を受けて移行した法人です。設立と公益認定は別の手続きです。
    • 一般財団法人は、拠出財産300万円以上などの要件を満たせば登記で設立でき、行政庁の監督を受けません。
    • 公益財団法人は、公益目的事業を主たる目的とし、財務・ガバナンス・情報開示の基準を満たし続ける必要があります。令和7年4月からは中期的収支均衡や外部理事・外部監事などの新しい基準が適用されています。
    • 寄附者側の税制(寄附金控除・税額控除、相続財産の寄附の特例、みなし譲渡の非課税特例の承認特例など)は、公益財団法人の方が利用できる範囲が広くなります。
    • どちらを選ぶかは、事業の性質・財源の集め方・寄附する財産・運営の負担の4つの軸で判断するのが合理的です。

    具体的な選択は、寄附する財産や活動内容などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 一般財団法人と公益財団法人では、名称以外に何が一番違いますか?

    最も大きな違いは、行政庁の公益認定と監督を受けるかどうかです。公益財団法人は、財務やガバナンスの基準を満たし続ける義務を負う代わりに、法人税や寄附者の税制で優遇を受けられます。

    Q. 公益認定の申請は、設立後どのくらいでできますか?

    一般財団法人として設立した後であれば、申請自体は可能です。ただし、認定にあたっては事業計画や財務の見込み、運営体制などが審査されるため、事業の実態や体制が整ってから申請するのが一般的です。具体的な審査期間は個別の状況によって異なります。

    Q. 公益財団法人になると、自由に事業ができなくなりますか?

    公益目的事業を主たる目的とする必要があり、財務の基準も守る必要があります。ただし、令和7年4月施行の改正により、収益事業等の内容の変更が認定事項から届出事項になるなど、手続の柔軟化も図られています。

    Q. 一般財団法人でも寄附の税制優遇は受けられますか?

    一般財団法人への寄附は、公益財団法人に比べて税制上の優遇が限定的です。ただし、株式や不動産を寄附した場合のみなし譲渡の非課税特例(租税特別措置法第40条)のうち一般特例は、非営利性が徹底された一般財団法人なども対象となり得ます。適用には国税庁長官の承認が必要で、要件の確認が欠かせません。

    Q. 公益認定を受けた後に、一般財団法人に戻ることはできますか?

    公益認定の取消しを受けた場合などには、一般財団法人として存続することになります。その際、定款の定めに従い、公益目的事業のために取得した財産の残額(公益目的取得財産残額)に相当する額を、取消しの日から1か月以内に類似の事業を目的とする他の公益法人や国・地方公共団体などに贈与する必要があるなど、財産面の影響が生じます。公益認定を受けるかどうかは、こうした点も踏まえて判断することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『Q&A各種法人の事業承継の実務』東京弁護士会親和全期会 編、新日本法規出版
  • 申告後に相続財産の価値が下がったときにできること|相続税は見直せるのか、使える制度と代替策

    申告後に相続財産の価値が下がったときにできること|相続税は見直せるのか、使える制度と代替策

    相続した株式の株価が申告の頃から大きく下がってしまった、相続した土地を売ろうとしたら相続税の評価額を大きく下回る価格しかつかなかった——「相続税は相続した時の価値で払ったのに、今の価値はこれほど低い。税金は見直してもらえないのか」という相談は少なくありません。

    結論から言えば、相続後の市況による値下がりを理由に、相続税そのものを見直すことは原則としてできません。相続税は、相続により財産を取得した時点の価額で計算する仕組みだからです。

    ただし、値下がりのように見えて実は当初の評価の前提に誤りがあった場合や、災害によって財産が被害を受けた場合には、税額が変わる可能性があります。また、相続税を見直せない場合でも、売却や納税の方法を工夫することで、値下がりの影響を和らげられることがあります。この記事では、その線引きと選択肢を整理します。

    なぜ値下がりしても相続税は変わらないのか

    相続税法22条は、相続などで取得した財産の価額を「財産の取得の時における時価」によると定めています。相続の場合、取得の時とは原則として被相続人が亡くなった日(相続開始日)です。

    相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。この間に株価や地価が動いても、評価の基準となる日は相続開始日のままです。専門書でも、相続後の経済情勢による価額の変動による損益は考慮されないことが説明されています(武田秀和『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』Q1-8)。

    なお、上場株式の評価には、相続開始日の終値と、相続開始月・前月・前々月の各月の終値の月平均額のうち、最も低い価額を使える仕組みがあります(No.4632)。ただしこれは相続開始前の株価の動きを反映するもので、相続後の値下がりを反映するものではありません。

    「値下がり」と「評価の誤り」を区別する

    申告後に税額を見直す手続として、更正の請求があります。国税通則法23条1項による更正の請求は、申告書の計算が法律の規定に従っていなかったことや計算に誤りがあったことにより税額が過大である場合に、法定申告期限から5年以内に限り認められるものです。

    つまり、更正の請求の対象になるのは「相続開始時点の評価が正しくなかった」場合です。「相続開始時点の評価は正しかったが、その後に値下がりした」場合は、原則として対象になりません。

    ただし、値下がりをきっかけに申告内容を見直すと、評価の前提に誤りが見つかることがあります。

    気づいたこと相続税の見直し考え方
    相続後に株価・地価が市況で下がった原則としてできない評価の基準日は相続開始日(相続税法22条)
    売却価格が評価額を大きく下回り、調べると土地の形状・道路・利用状況などの減額要素が評価に反映されていなかった更正の請求を検討できる相続開始時点の評価の誤り(国税通則法23条1項)
    非上場株式の評価で、会社規模の判定や資産・負債の計上に誤りがあった更正の請求を検討できる同上
    申告期限前に地震・火災などで財産が被害を受けた被害部分を控除して計算できる場合がある災害減免法6条
    申告期限後に地震・火災などで財産が被害を受けた被害部分に対応する税額が免除される場合がある災害減免法4条

    土地評価で見落とされやすい減額要素については関連記事「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で、更正の請求の手続全般は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    災害で財産が被害を受けた場合の取扱い

    市況による値下がりとは異なり、地震・風水害・火災などの災害で相続財産が被害を受けた場合には、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」(災害減免法)による救済があります。

    申告期限前に被害を受けた場合

    相続税の申告期限前に、相続で取得した財産が災害で甚大な被害を受けたときは、被害を受けた部分の価額を控除して財産の価額を計算します(災害減免法6条)。課税価格の計算の基礎となる財産の価額(債務控除後)または動産等の価額のうち、被害を受けた部分の割合が10分の1以上であることが要件です(同法施行令12条)。保険金や損害賠償金で補てんされる部分は控除の対象から除かれ、適用を受けるには申告書に適用を受ける旨や被害の状況、被害額を記載する必要があります(同条。国税庁 No.8006では、被害の状況や被害額等を記載した「相続税等の財産の価額の計算明細書」を申告書に添付するよう案内されています。武田・前掲Q1-8、Q1-9)。

    申告期限後に被害を受けた場合

    申告期限後に被害を受けたときは、すでに確定した税額のうち、被害があった日以後に納付すべき税額で被害を受けた部分に対応するものが免除されます(災害減免法4条)。延滞税や加算税は免除の対象外です。適用を受けるには、課税価格の計算の基礎となった財産の価額のうち被害を受けた部分の割合が10分の1以上であることなどの要件を満たし、災害のやんだ日から2か月以内に申請書(国税庁 No.8006では「相続税等の免除承認申請書」)を税務署長に提出する必要があります(災害減免法施行令11条)。

    ここでいう被害は、建物や家財の損壊・滅失といった物的な損害を指し、地価の下落のような経済的価値の減少は含まれないとされています(武田・前掲Q1-9に収録の計算明細書の注記)。災害の影響で地価や株価が下がっただけでは、この制度の対象にならない点に注意が必要です。

    相続税を見直せないときに検討したい3つの選択肢

    相続税そのものが変わらない場合でも、次のような制度や判断によって、値下がりの影響を和らげられることがあります。

    1. 売却するなら「取得費加算の特例」の期限を意識する

    相続した財産を売却する場合、一定の期間内であれば、支払った相続税のうちその財産に対応する部分を、譲渡所得の計算上の取得費に加算できます(取得費加算の特例。国税庁 No.3267)。期間は、相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。

    ただし、この特例は譲渡益を限度に加算する仕組みで、売却しても譲渡損失となる資産には効果がありません(No.3267、『要点 譲渡所得』第Ⅱ部第6章)。値下がりした資産を売却するか保有を続けるか、どの資産から売却するかを考えるときは、資産ごとの取得費(被相続人の取得価額の引継ぎ)と含み益・含み損を確認したうえで、3年の期限内に判断する必要があります。

    2. 納税資金が足りないなら「物納」の要件を確認する

    相続税は金銭で納付するのが原則ですが、延納によっても金銭で納付することが困難な事由があるなどの要件を満たす場合には、相続財産そのもので納める物納が認められています。物納財産を国が収納する価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となった財産の価額とされています(国税庁 No.4214)。上場株式は不動産などとともに第1順位の物納財産です(No.4214)。

    このため、相続後に大きく値下がりした上場株式などを物納すると、相続税評価額で税額に充てられる可能性があります(山本和義・水品志麻『上場株式等の相続と有利な物納選択』第三章・第四章)。ただし、物納は「延納によっても金銭で納付することが困難」であることが前提で、預貯金や収入の状況によっては認められません。値下がりを理由に自由に選べる制度ではない点に注意が必要です。物納の申請期限は相続税の納期限(または納付すべき日)までです(No.4214)。

    3. 分割前なら、値下がりのリスクを分け方に織り込む

    遺産分割がまだ終わっていない場合は、分け方の段階で値動きの大きい財産をどう扱うかを話し合うことができます。相続税は相続開始時の評価額で計算されるため、値下がりしやすい財産を取得した相続人は、他の相続人より実質的な負担が重くなりがちです。評価額だけで公平を図るのではなく、売却可能性や収益性、納税資金の確保の見通しも含めて分け方を検討することが、後の不満を防ぐことにつながります。

    AEGISの視点

    申告後の値下がりの相談を受けると、AEGISはまず「税額を見直せるか」と「これからどう動くか」を分けて考えることにしています。

    相続税は、相続開始という一時点の評価で確定する税金です。その後の値動きを税額に反映させる仕組みは、災害のような限られた場面にしかありません。しかし、値下がりをきっかけに申告書を読み直すと、土地の利用状況や評価単位、非上場株式の評価の前提など、相続開始時点の評価そのものに見直しの余地が見つかることもあります。感覚的な「高すぎる」を、相続開始時点の事実に照らした「評価の誤り」と、市況による「事後の変動」に仕分けることが、最初の一歩です。

    一方で、見直しの対象にならない値下がりについては、売却の時期と方法、納税資金の確保、家族の中で誰がそのリスクを負うかという判断が中心になります。取得費加算の特例の期限、物納の要件、二次相続の見通しなど、税務と資産の管理を同じ表の上で検討することが、損失を広げないための現実的な方法だとAEGISは考えています。資産税務や承継に関するAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    相続税と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、納税資金の準備方法の比較は「相続税の納税資金をどう準備するか」で解説しています。

    値下がりではなく、申告時の評価そのものに見直しの余地がないかを確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税は、相続により財産を取得した時点の時価で計算します。相続後の市況による値下がりを理由に、相続税を見直すことは原則としてできません。
    • 更正の請求の対象になるのは、相続開始時点の評価や計算に誤りがあった場合です。値下がりをきっかけに、土地や非上場株式の評価の前提を点検する意味はあります。
    • 災害で財産が被害を受けた場合は、申告期限の前後に応じて、災害減免法による控除や免除を受けられる場合があります。地価や株価の下落のような経済的価値の減少は対象外です。
    • 見直しができない場合でも、取得費加算の特例の期限、物納の要件、分け方の工夫などで影響を和らげられることがあります。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続した株式が申告期限までに半値になりました。相続開始時の株価で申告しなければなりませんか?

    相続税の評価の基準は相続開始時点のため、申告期限までの値下がりは原則として評価に反映されません。上場株式は、相続開始日の終値と、相続開始月以前3か月の各月の月平均額のうち最も低い価額で評価できますが、これは相続開始前の株価を対象とするものです。納税資金の確保が難しい場合は、延納や物納の要件を確認します。

    Q. 相続した土地が評価額より大幅に安くしか売れませんでした。更正の請求はできますか?

    売却価格が低かったことだけを理由に更正の請求をすることは、原則としてできません。ただし、売却の過程で、道路の条件や土地の形状、利用上の制約など、相続開始時点から存在していた減額要素が評価に反映されていなかったことが分かれば、評価の誤りとして更正の請求を検討できます。法定申告期限から5年以内という期限があります。

    Q. 地震で相続した建物が損壊しました。相続税はどうなりますか?

    申告期限前の被害であれば、被害を受けた部分の価額を控除して計算できる場合があります。申告期限後の被害であれば、被害割合などの要件を満たすと、被害を受けた部分に対応する税額が免除される場合があり、災害のやんだ日から2か月以内に申請が必要です。保険金などで補てんされた部分は除かれます。

    Q. 値下がりした相続財産を売ると、取得費加算の特例は使えますか?

    取得費加算の特例は、譲渡益の範囲内で相続税額の一部を取得費に加算する制度です。売却しても譲渡損失となる場合には、その資産について特例の効果はありません。特例を使うには、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却し、確定申告で手続する必要があります。

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    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、2013年、P.26-34
    • 『相続税の物納制度が大改正! 上場株式等の相続と有利な物納選択』山本和義・水品志麻 著、清文社、2017年、P.123-126、141-142、149
    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.401-403、409、413-414
  • 海外移住と国外転出時課税|株式に税金がかかるのはどんな場合か、納税猶予・帰国時の取消し・家族への相続まで

    海外移住と国外転出時課税|株式に税金がかかるのはどんな場合か、納税猶予・帰国時の取消し・家族への相続まで

    海外に移住する(日本に住所も居所もなくなる)ときに、1億円以上の有価証券等を持っていて、かつ出国前10年以内に日本に5年を超えて住んでいた方は、株式を売っていなくても、出国の時に売ったものとみなして含み益に所得税がかかります。これを「国外転出時課税」といいます。

    ポイントは次の3つです。

    • 対象は株式や投資信託などの有価証券等で、上場・非上場を問いません。オーナー経営者の場合、自社株だけで1億円を超えることもあります。
    • 一定の手続をとれば、納めるべき所得税について最長10年の納税猶予を受けられ、期間内に帰国すれば課税の取消しを求めることもできます。
    • 自分は日本に住んだままでも、海外に住む家族に株式等を贈与したり、相続で引き継がせたりする場合にも同じ仕組みが働きます。

    制度の詳細は国税庁が公表している情報と法令で確認できますが、手続の期限が短く、出国前にしかできない準備が多いのが特徴です。この記事では、海外移住を検討する方が出国前に確認しておきたいことを整理します。

    国外転出時課税とは

    国外転出時課税は、平成27年度税制改正で創設され、平成27年7月1日以後の国外転出、贈与、相続・遺贈に適用されています(国税庁タックスアンサーNo.1478)。

    背景には、含み益のある株式を持ったまま、株式の譲渡益に課税しない国へ移住してから売却すると、日本でも移住先でも課税されない状態が生じうるという問題がありました。そこで、日本を離れる時点までに生じた含み益について、日本で課税する仕組みが設けられています。

    この制度は、次の3つの場面で働きます。

    場面何が起きたときか誰が申告するか申告の期限の目安
    国外転出(出国)本人が日本に住所・居所を有しなくなるとき本人納税管理人の届出をした場合は出国した年分の確定申告期限、しない場合は出国の時まで(準確定申告)
    国外転出(贈与)本人が国外に住む人に対象資産を贈与したとき贈与した本人贈与した年分の確定申告期限
    国外転出(相続)本人が亡くなり、国外に住む相続人等が対象資産を取得したとき亡くなった本人の相続人相続の開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日まで(準確定申告)

    ※国税庁タックスアンサーNo.1478・No.1467・No.1468をもとにAEGISが整理。個別の手続は最新の国税庁情報で確認してください。

    対象になる人:2つの要件

    国外転出時課税の対象になるのは、次の両方に当てはまる居住者です(所得税法60条の2第5項)。

    1. 国外転出の時に持っている対象資産の価額の合計が1億円以上であること
    2. 国外転出の日前10年以内に、日本に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超えていること

    2つ目の期間の計算では、一定の在留資格(出入国管理及び難民認定法の別表第一の在留資格)で在留していた期間は含めないこととされています(所得税法施行令170条3項)。そのため、主に影響を受けるのは、長く日本に住んでいる方です。

    1億円の判定は、対象資産の合計で行います。上場株式だけでなく、非上場株式、投資信託、匿名組合への出資なども合算します。オーナー経営者の場合、自社株の価額だけで1億円を超えていることに気づいていないケースもあるため、まず現在の株価の水準を確認することが出発点になります。

    対象になる資産

    対象資産は、次のとおりです(所得税法60条の2、国税庁タックスアンサーNo.1478)。

    • 有価証券(株式、投資信託など。上場・非上場を問いません)
    • 匿名組合契約の出資の持分
    • 未決済の信用取引・発行日取引
    • 未決済のデリバティブ取引(先物取引、オプション取引など)

    一方で、不動産や金地金、預金などは、この制度の対象資産ではありません。また、新株予約権のうち、株式を無償または有利な価額で取得できる権利を表示する一定のもの(国内源泉所得を生ずべきもの)は対象から除かれています。ストック・オプションを持つ方の扱いは、別の論点として確認が必要です。

    課税の仕組み:「売ったもの」とみなされる

    いつの価額で計算するか

    国外転出時課税では、出国の時に対象資産を売った(決済した)ものとみなして、含み益を譲渡所得等として計算します。基準となる価額は、手続によって次のように変わります(所得税法60条の2第1項)。

    • 出国した年分の確定申告書を提出する時までに納税管理人の届出をした場合など:国外転出の時の価額
    • それ以外の場合:国外転出の予定日から起算して3か月前の日の価額(その日より後に取得したものは取得時の価額)

    非上場株式の場合は、市場の価格がないため、所得税の考え方に沿った「時価」を算定する必要があります。株価の算定には時間がかかるため、出国の予定が決まったら早めに着手することが重要です。

    申告の方法

    国税庁の案内では、申告の方法は次のように分かれています。

    • 出国の時までに納税管理人の届出をした場合:出国した年分の確定申告期限までに、他の所得とあわせて確定申告・納税をします。
    • 納税管理人の届出をしないで出国する場合:出国の時までに、その年の1月1日から出国の時までの所得にこの制度による所得を含めて、準確定申告・納税をします。

    納税管理人とは、日本に住所等を有しない納税者に代わって、申告書の提出や税金の納付などを行う人です。後で述べる納税猶予を受けるためにも、納税管理人の届出が前提になります。

    納税猶予:最長10年、ただし担保が必要

    国外転出時課税は、実際には売却していない株式に課税されるため、納税資金が大きな負担になります。そこで、一定の手続をとった場合には、国外転出の日から5年間(延長の届出をすれば最長10年間)、納税を猶予する特例があります(所得税法137条の2、国税庁タックスアンサーNo.1478)。

    主な要件は次のとおりです。

    • 出国の時までに、所轄の税務署に納税管理人の届出をすること
    • 確定申告書に納税猶予の適用を受ける旨を記載し、所定の明細書・計算書を添付すること
    • 確定申告書の提出期限までに、猶予される所得税額と利子税額に相当する担保を提供すること

    猶予期間中は、毎年12月31日時点で持っている対象資産について、継続して適用を受ける旨の届出書を翌年3月15日までに提出する必要があります。この届出を忘れると、猶予が打ち切られ、猶予されていた税額を納めることになります。また、猶予期間中に対象資産を売ったり贈与したりした場合は、その部分について猶予が終了します。猶予期間が終わって納付する場合には、利子税もかかります。

    担保の用意は実務上の大きな論点です。非上場株式を担保として提供する場合には、事前の準備が必要になることがあります。出国の直前に検討を始めると間に合わないことがあるため、時間に余裕を持って税務署や専門家と相談しておくことが望まれます。

    帰国したときの取消し

    国外転出時課税の申告をした方が、国外転出の日から5年以内(納税猶予の期限延長の届出をしている場合は10年以内)に帰国し、その時まで引き続き持っている対象資産があるときは、その資産について課税がなかったものとして取り消すことができます。取り消すには、帰国の日から4か月以内に更正の請求または修正申告をする必要があります(所得税法153条の2、国税庁タックスアンサーNo.1478)。

    このほか、5年以内に対象資産を居住者に贈与した場合や、本人が亡くなって対象資産を取得した相続人等が全員居住者となった場合なども、一定の要件のもとで取消しの対象になります。

    「数年で戻るかもしれない」という移住の場合は、納税猶予と帰国時の取消しを組み合わせた見通しを立てておくことが、資金計画のうえで重要になります。

    国外の家族に贈与・相続で渡る場合

    贈与の場合

    1億円以上の対象資産を持つ一定の居住者が、国外に住む家族に対象資産を贈与すると、贈与した本人に、その資産を売ったものとみなした所得税がかかります(所得税法60条の3、国税庁タックスアンサーNo.1467)。受け取った家族には、別途、贈与税の課税関係が生じます。

    相続の場合

    1億円以上の対象資産を持つ一定の居住者が亡くなり、国外に住む相続人等が対象資産を取得した場合も、亡くなった本人がその資産を売ったものとみなして所得税が課税されます(国税庁タックスアンサーNo.1468)。申告は相続人が準確定申告として行い、その期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までです。

    相続の場合の納税猶予では、対象資産を取得した国外に住む相続人等の全員が、準確定申告書の提出期限までに納税管理人の届出をすることなどが要件になります。遺産分割の内容によって、国外に住む相続人が対象資産を取得するかどうかが変わるため、遺言の内容や分割の方針と、この制度の関係を事前に確認しておくことが大切です。海外に住む相続人がいる場合の手続全般は、関連記事「海外在住の相続人がいる場合の準備」で解説しています。

    移住しても、日本の相続税・贈与税がすぐ外れるわけではない

    国外転出時課税は所得税の制度ですが、移住を考える際には相続税・贈与税の扱いもあわせて確認が必要です。たとえば、日本国籍を有する相続人は、国外に住んでいても、相続開始前10年以内に日本に住所があった場合のほか、その期間に日本に住所がなくても被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人でない場合などは、国外の財産も含めて日本の相続税の対象になります(国税庁タックスアンサーNo.4138、相続税法1条の3)。「移住すれば日本の相続税がかからなくなる」とは限らない点に注意が必要です。海外に財産を持つ場合の相続準備は、関連記事「海外に財産がある人の相続準備」で整理しています。

    出国前に確認したいチェックリスト

    時期の目安確認すること
    移住を検討し始めたとき対象資産の合計が1億円以上か(自社株・投資信託を含む)、過去10年の国内居住期間
    出国の半年〜1年前非上場株式の価額の算定、税額の試算、納税猶予を使うかどうかと担保の候補
    出国の数か月前納税管理人の選任、会社の役員・株主としての関わり方、ストック・オプションの扱い
    出国の時まで納税管理人の届出(納税猶予を受ける場合は必須)、申告方法の確定
    出国後毎年の継続適用届出書の提出、帰国の可能性と取消しの期限管理
    家族への承継国外に住む家族への贈与・相続の予定、遺言・遺産分割の方針との整合

    実務上注意したいポイント

    • 「売っていないから税金はかからない」と考えない:課税されるのは含み益で、売却代金は手元にありません。納税資金や担保の準備が必要です。
    • 期限が短い:納税管理人の届出は出国の時まで、帰国時の取消しは帰国から4か月以内など、期限の短い手続が続きます。
    • ストック・オプションを持っている場合:国外転出時課税の対象資産から除かれる新株予約権がある一方、税制適格ストック・オプションの要件や、行使して取得した株式の扱いなど別の論点があります。関連記事「ストックオプションで人材を集める」もあわせてご覧ください。
    • 所得が大きくなる年の影響:みなし譲渡による所得が大きい年は、所得が非常に大きい人を対象とする課税の特例(租税特別措置法41条の19)など、他の制度との関係も確認しておきたいところです。
    • 移住先の税制も確認する:移住先の国が、日本で課税された含み益をどう扱うかは国によって異なります。

    AEGISの視点

    海外移住は、生活・事業・家族のあり方そのものを変える大きな決断です。国外転出時課税は、その決断に伴う「出口の税金」の一つにすぎませんが、手続の期限が出国の時点に集中しているため、準備が後手に回りやすい制度でもあります。

    AEGISは、この制度を「移住の可否を決める税金」ではなく、資産の持ち方と承継の順番を見直すきっかけと考えています。たとえば、自社株を誰がいつ持つのか、会社の経営にどこまで関わり続けるのか、家族のうち誰が国外に住む可能性があるのかによって、税金の発生する場面も、選ぶべき手続も変わります。移住の前に、事業承継や相続の計画と一緒に全体を並べて確認することが、後からの選択肢を狭めないための近道です。

    税制改正を自分の計画に引きつけて点検する考え方は、Pillar記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で解説しています。

    まとめ

    • 国外転出時課税は、1億円以上の有価証券等を持ち、出国前10年以内に5年を超えて日本に住んでいた方が出国するときに、含み益に所得税がかかる制度です。
    • 対象資産は株式・投資信託などの有価証券等や未決済のデリバティブ取引等で、非上場株式も含まれます。
    • 納税管理人の届出や担保の提供などの手続をとれば、最長10年の納税猶予を受けられ、期間内に帰国すれば課税の取消しを求めることもできます。
    • 国外に住む家族への贈与や、相続で国外に住む相続人が対象資産を取得する場合にも同じ仕組みが働きます。
    • 具体的な税額や手続の可否は、資産の内容や家族の状況によって異なります。出国の予定が決まる前から準備を始めることが大切です。

    よくある質問

    Q. 持っている株式が1億円未満なら、国外転出時課税はかかりませんか?

    国外転出の時に持っている対象資産の価額の合計が1億円未満であれば、国外転出時課税は適用されません。ただし、判定は上場株式だけでなく、非上場株式や投資信託なども合算して行います。自社株の評価額によっては1億円を超えることがあるため、事前に確認が必要です。

    Q. 不動産や預金を持ったまま移住した場合も課税されますか?

    不動産や預金は国外転出時課税の対象資産ではありません。ただし、移住後に日本の不動産を売却した場合や、日本で賃貸収入を得る場合などは、非居住者としての課税関係が生じます。また、相続税・贈与税の扱いは別途確認が必要です。

    Q. 納税猶予を受けると、税金は払わなくてよくなるのですか?

    納税猶予は、納める時期を先に延ばす仕組みであり、税金が免除されるわけではありません。猶予期間が終われば、猶予された税額と利子税を納める必要があります。期間内に帰国して取消しの手続をとった場合や、一定の事由に該当した場合には、課税が取り消されたり税額が減額されたりすることがあります。

    Q. 帰国したら、自動的に課税が取り消されますか?

    自動的には取り消されません。国外転出の日から5年以内(延長の届出をしている場合は10年以内)に帰国し、引き続き対象資産を持っている場合に、帰国の日から4か月以内に更正の請求または修正申告をすることで取り消すことができます。

    Q. 親が日本に住んだまま亡くなり、海外に住む子が株式を相続した場合はどうなりますか?

    親が1億円以上の対象資産を持つなどの要件に当てはまる場合、海外に住む子が対象資産を取得すると、親がその資産を売ったものとみなして所得税が課税され、相続人が準確定申告を行います。子には、別途日本の相続税の課税関係も生じます。遺産分割の内容によって課税の有無が変わることがあるため、遺言や分割の方針とあわせて確認が必要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『世界の相続専門弁護士・税理士による 国際相続とエステート・プランニング』中田朋子・水谷猛雄・withersworldwide 著、税務経理協会、2017年、第2部第2章(P.193-201)、第2部第3章(P.234-235)
  • 依頼した相続税申告書のセルフチェック|家族が確認したい表の読み方と10の確認項目

    依頼した相続税申告書のセルフチェック|家族が確認したい表の読み方と10の確認項目

    相続税の申告を税理士に依頼し、完成した申告書の控えを受け取った。何十ページにもなる書類を前に、「専門家が作ったのだから大丈夫だろう」と、そのまま保管していないでしょうか。

    相続税の申告書は、税理士が作成していても、申告するのは相続人自身です。そして、財産の存在や生前の贈与、家族の事情といった申告の前提となる事実は、家族のほうがよく知っていることも少なくありません。

    結論から言えば、家族が行うセルフチェックの目的は、税額の計算を検算することではなく、「申告書に載っている財産・債務・贈与・特例の前提が、家族の知っている事実と一致しているか」を確かめることです。この記事では、申告書を構成する主な表の役割と、確認したい10の項目を整理します。

    申告書の全体像:まず「どの表に何が書いてあるか」を知る

    相続税の申告書は、複数の表で構成されています。国税庁の「相続税の申告書等の様式一覧(令和8年分用)」には、第1表から第15表までの各表と付表が掲載されています。すべてを読み込む必要はありませんが、主な表の役割を知っておくと、確認すべき場所が分かります。

    表主な内容家族が見るポイント
    第1表相続税の申告書(各人の課税価格・納付税額など)相続人全員が記載されているか、各人の取得額が分け方と合っているか
    第2表相続税の総額の計算書法定相続人の数と基礎控除額
    第4表の2暦年課税分の贈与税額控除額の計算書生前贈与で納めた贈与税が反映されているか
    第5表配偶者の税額軽減額の計算書配偶者の取得財産と軽減の適用
    第9表・第10表生命保険金・退職手当金などの明細書受け取った保険金・退職金が漏れていないか
    第11表相続税がかかる財産の合計表(明細は第11表の付表1〜4)知っている財産がすべて載っているか
    第11・11の2表の付表1小規模宅地等についての課税価格の計算明細書特例を適用した土地と取得者
    第13表債務及び葬式費用の明細書借入金・未払金・葬式費用の計上
    第14表加算される暦年課税分の贈与財産価額などの明細書生前贈与の記載
    第15表相続財産の種類別価額表財産全体の構成

    おすすめの読み方は、第15表で財産全体の構成をつかむ → 第11表・第13表・第14表で中身を確認する → 第1表・第2表で人数と各人の金額を確認する → 第5表と付表1で特例を確認するという順番です。

    確認したい10の項目

    国税庁は、申告の準備として、相続人の確認、遺言書の確認、遺産と債務の把握、遺産の評価、遺産の分割、申告と納税という流れを示しています(No.4202)。また、「相続税の申告のためのチェックシート」や「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」も公表しています。これらを手がかりに、家族の立場で確認しやすい項目を10に整理しました。

    【人】相続人と人数

    1. 相続人が正しく記載されているか
    第1表に記載された相続人が、戸籍で確認した相続人と一致しているかを確認します。相続放棄をした人がいる場合も、基礎控除額などを計算する際の法定相続人の数は、放棄がなかったものとして数えます。また、養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか法定相続人の数に含めません(No.4152)。

    2. 2割加算の対象者が正しく扱われているか
    配偶者・父母・子など一親等の血族以外の人(兄弟姉妹、甥・姪、代襲相続人ではない孫養子など)が財産を取得した場合は、相続税額が2割加算されます(No.4157)。誤りやすい事例集でも、兄弟姉妹や孫が取得した場合の2割加算が取り上げられています。

    【財産】漏れと名義

    3. 不動産がすべて載っているか
    固定資産税の課税明細書や名寄帳と、第11表の不動産を突き合わせます。先代名義のままの不動産、共有持分、他の市区町村にある土地、建物だけを所有している場合の借地権などは、漏れやすいとされています(東北篤『ここが違う!プロが教える土地評価の要諦』第1章)。

    4. 家族名義の預貯金・有価証券の扱いを確認したか
    誤りやすい事例集には、被相続人以外の名義の預貯金の取扱いが挙げられています。名義が家族であっても、実質的に被相続人の財産と判断されるものは相続財産になり得ます。税理士にどのような前提で判断したかを聞いておくと安心です。

    5. 生命保険金・退職金が明細に載っているか
    死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税ですが、相続人以外の人が受け取った保険金には非課税の適用はありません(No.4114)。受け取った保険金・退職金の支払通知と、第9表・第10表を照合します。

    【贈与】生前贈与の加算

    6. 生前贈与が漏れなく記載されているか
    相続などで財産を取得した人が、被相続人から暦年課税による贈与を受けていた場合、一定期間内の贈与財産は相続税の課税価格に加算されます。加算期間は段階的に7年へ延長されており、経過措置があります(No.4161)。相続時精算課税を選択して受けた贈与も加算の対象です(No.4103)。家族が把握している贈与(贈与税の申告書の控え、通帳の記録)と第14表を照らし合わせます。

    【債務】控除の漏れと過大計上

    7. 債務・葬式費用が適切に計上されているか
    誤りやすい事例集では、未納の固定資産税・住民税、お墓の購入費用に係る借入金、団体信用生命保険により返済が免除される住宅ローンの扱いなどが取り上げられています。控除できるもの・できないものの線引きがあるため、計上の有無だけでなく、その根拠を確認します。

    【特例】適用の前提

    8. 小規模宅地等の特例の対象地と取得者は合っているか
    特例は、宅地の利用区分(事業用・居住用・貸付用)と、取得した人の要件の組合せで適用の可否や減額割合が決まります(No.4124)。付表1に記載された土地の利用状況や、取得者の居住・保有の状況が、家族の知っている事実と合っているかを確認します。

    9. 配偶者の税額軽減の前提は合っているか
    配偶者の税額軽減は、申告期限までに分割された財産などが対象で、申告書の提出が適用の前提です(No.4158)。第5表に記載された配偶者の取得財産が、遺産分割協議書と一致しているかを確認します。分割がまとまっていない場合の手続は「遺産分割が後から決まったときの相続税の手続」で解説しています。

    【分割・納税】書類どうしの整合

    10. 分割協議書・申告書・納付書が一致しているか
    第1表の各人の取得額が遺産分割協議書と一致しているか、各人の納付税額と納付の期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内。No.4205)を確認します。延納や物納を予定している場合は、その申請の準備も同じ期限までに必要です。

    気になる点が見つかったら

    セルフチェックで疑問が生じても、それがすぐに誤りを意味するとは限りません。評価の方法や財産の判断には専門的な根拠があることが多いため、まずは作成した税理士に、どのような前提で判断したのかを尋ねることから始めます。そのうえで、次のように対応します。

    • 申告期限前:前提の修正が必要であれば、申告書を修正してから提出します。
    • 申告期限後で税額が過大だった場合:法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求を検討できます(国税通則法23条)。手続の詳細は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。
    • 申告期限後で税額が過少だった場合:修正申告を検討します。税務調査で確認されやすい点は「相続税の税務調査で指摘されやすい点」で整理しています。

    土地評価の専門的な見直しの観点は「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」も参考になります。

    AEGISの視点

    相続税の申告は、税理士と家族の共同作業です。税理士は評価や計算の専門家ですが、財産の存在、贈与のいきさつ、土地の実際の使われ方、家族の暮らし方といった事実は、家族からの情報がなければ正確に反映できません。AEGISは、申告書のセルフチェックを「専門家を疑う作業」ではなく、「家族の知っている事実を申告書に正しく届ける最後の機会」と考えています。

    申告書を読み解くことには、もう一つの意味があります。相続税の申告書には、家族の財産の全体像と、それぞれが何を受け継いだかが一覧になっています。これは、次の世代の相続(二次相続)や、不動産・事業の今後の持ち方を考えるうえでの出発点にもなります。申告が終わったら控えをしまい込むのではなく、家族の資産の「現在地」として活用していくことをおすすめします。資産税務や承継に関するAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    相続と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

    セルフチェックで気になる点が見つかった場合や、土地の評価を専門家の目で確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税の申告書は税理士が作成していても、申告するのは相続人自身です。前提となる事実の確認は家族にしかできない部分があります。
    • まず第15表で全体像をつかみ、第11表・第13表・第14表で財産・債務・贈与を、第1表・第2表で人数と各人の金額を、第5表と付表1で特例を確認します。
    • 確認したい項目は、相続人と人数、2割加算、不動産の漏れ、家族名義の預貯金、保険金・退職金、生前贈与、債務・葬式費用、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、分割協議書との整合の10項目です。
    • 疑問があれば、まず作成した税理士に判断の前提を確認します。申告後に誤りが分かった場合は、更正の請求や修正申告を検討します。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 税理士が作った申告書を家族がチェックする必要はありますか?

    申告の内容に責任を負うのは申告する相続人自身です。税額の計算を検算する必要はありませんが、財産の漏れや生前贈与の有無、土地の使われ方など、家族しか知らない事実が正しく反映されているかを確認する意味は大きいといえます。

    Q. どの表から読めばよいですか?

    財産全体の構成が分かる第15表から読むと全体像をつかみやすくなります。次に、財産の合計と明細(第11表とその付表)、債務・葬式費用(第13表)、生前贈与(第14表)を確認し、最後に第1表・第2表で相続人の人数と各人の税額を確認する順番がおすすめです。

    Q. 自分の名義の預金が相続財産に入っています。誤りではないのですか?

    名義が家族であっても、資金の出どころや管理の状況から、実質的に被相続人の財産と判断されるものは相続財産になり得ます。国税庁の誤りやすい事例集でも取り上げられている論点です。税理士にどのような事実に基づいて判断したかを確認してください。

    Q. 申告した後で財産の漏れに気づきました。どうすればよいですか?

    申告期限前であれば、申告書を修正して提出します。申告期限後に漏れが分かり税額が増える場合は、修正申告を検討します。反対に、評価の誤りなどで税額が過大だった場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます。

    Q. 申告書の控えは、申告が終わった後も保管しておくべきですか?

    保管しておくことをおすすめします。申告後に更正の請求や修正申告を検討する場面、税務調査への対応、相続した財産を売却するときの取得費の確認、さらに次の世代の相続(二次相続)の準備など、申告書の控えと評価の明細、遺産分割協議書を参照する機会は少なくありません。電子データで受け取った場合も、家族が見つけられる場所にまとめておくと安心です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資料収集・現地調査から評価まで ここが違う!プロが教える土地評価の要諦(第4版)』東北篤 著、清文社、2024年、第1章(P.1-5)
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.68、116-117
    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、P.20-21

  • 老人ホームに入った親の自宅と小規模宅地等の特例|要介護認定・施設の種類・入居後の使い方で決まる適用の可否

    老人ホームに入った親の自宅と小規模宅地等の特例|要介護認定・施設の種類・入居後の使い方で決まる適用の可否

    親が老人ホームに入居し、そのまま施設で亡くなった場合でも、一定の条件を満たせば、実家の敷地に小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等・330㎡まで80%減額)を使える可能性があります。

    条件は大きく3つです。①親が相続開始の直前に要介護認定・要支援認定などを受けていたこと、②入居していたのが法令で定められた施設・住まいであること、③入居後に実家を貸したり、事業に使ったり、新しく別の人が住んだりしていないこと。そのうえで、実家の敷地を「誰が取得するか」についての通常の要件も満たす必要があります。

    高齢の親が施設で暮らすことは今では珍しくありません。それだけに、この論点は相続税の申告で確認が欠かせないものの一つです。この記事では、施設に入居していた親の自宅について、特例が使えるかどうかを分ける点と、申告後に見直したい視点を整理します。

    なぜ老人ホームへの入居が問題になるのか

    小規模宅地等の特例は、相続開始の直前に被相続人(亡くなった方)や同じ生計の親族の居住の用や事業の用に使われていた宅地等について、一定の面積まで評価額を減額する制度です(租税特別措置法69条の4)。自宅の敷地であれば、要件を満たすと330㎡まで80%減額されます。

    ここでのポイントは「相続開始の直前」の利用状況で判定するという点です。親が施設に移って実家が空き家になっていれば、形式的には、亡くなった時点で実家に住んでいなかったことになります。

    ただ、介護が必要になって施設に入ることは、本人の意思で生活の拠点を移したとは言い切れません。そこで平成25年度の税制改正などで手当てがされ、一定の事由で施設に入居した場合には、入居する直前まで住んでいた家の敷地を、亡くなる直前の居住用の宅地等と同じように扱う仕組みが設けられています(租税特別措置法施行令40条の2第2項・第3項)。

    特例の対象になるための3つの条件

    国税庁の案内(タックスアンサーNo.4124)と施行令の規定をもとに、条件を整理します。

    条件1:相続開始の直前に要介護認定等を受けていたこと

    対象となるのは、次のいずれかの認定を受けていた方です。

    • 介護保険法の要介護認定または要支援認定
    • 介護保険法施行規則に定める一定の方(いわゆる事業対象者として国税庁が示している区分)
    • 障害者総合支援法の障害支援区分の認定

    注意したいのは判定の時期です。認定を受けていたかどうかは、入居した時点ではなく、相続開始の直前で判定します(措置法通達69の4-7の3)。入居時には自立していた方が、施設で暮らすうちに認定を受けた場合も対象になり得ます。

    また国税庁の質疑応答事例では、施設に入っていた方が要介護認定の申請中に亡くなり、亡くなった後に認定が出たケースについて、認定の効力が申請日にさかのぼることから、認定を受けていた方として扱って差し支えないとしています。申請の記録や認定通知は、申告の際に確認すべき資料になります。

    条件2:法令で定める施設・住まいに入居していたこと

    対象となる施設・住まいは、法令で列挙されています。国税庁No.4124の案内によると、要介護認定等を受けていた方については次のとおりです。

    • 認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居(いわゆるグループホーム)、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム
    • 介護老人保健施設、介護医療院
    • サービス付き高齢者向け住宅

    障害支援区分の認定を受けていた方については、障害者支援施設(施設入所支援が行われるもの)や共同生活援助を行う住居が対象です。

    裏を返すと、名称が「ホーム」であっても、法令上の届出・登録の対象となっていない住まいや、一般の賃貸住宅・親族の家に移った場合は、この取扱いの対象にならない可能性があります。入居先が上のどれに当たるのかは、契約書や施設の届出・登録の状況で確認するのが確実です。

    条件3:入居後に実家を別の用途に使っていないこと

    入居後の実家の使い方も重要です。次の場合は、特例の対象から外れます(施行令40条の2第3項)。

    • 実家を事業の用(賃貸を含む)に使った場合
    • 実家に新たに、被相続人等(被相続人と同じ生計の親族)以外の人が住んだ場合

    一方、入居の直前に被相続人と生計を一にしていて、その家に引き続き住んでいる親族は、ここでいう「被相続人等」に含めて扱われます。入居前から同居していた子がそのまま住み続けている場合は、入居後に生計が別になっても、それだけで対象外にはなりません。

    国税庁の質疑応答事例では、特別養護老人ホームに入所し、一度も戻らずに亡くなるまで実家が空き家だったケースについて、実家の敷地は居住用の宅地等に当たるとされています。空き家のまま維持していたことは、この条件との関係では問題になりません。

    入居後の実家の状況と判定の目安を、AEGISで一覧にまとめると次のとおりです。

    入居後の実家の状況居住用の宅地等として扱われるか確認したいこと
    空き家のまま管理していた扱われる(他の条件を満たす場合)入居先・認定の確認
    入居前から同居していた生計一の親族が住み続けた扱われる入居直前の生計の状況
    入居後に、別に暮らしていた子の家族が新たに住んだ扱われない住み始めた時期と生計の状況
    入居後に第三者へ賃貸した扱われない(居住用としては対象外)貸付事業用宅地等の要件は別途検討
    一部だけを賃貸した賃貸部分は対象外となり得る利用区分ごとの面積

    ※個別の事実関係によって結論が変わることがあります。

    取得する人の要件は通常どおり

    上の3つの条件は、「この敷地は被相続人の居住の用に供されていた宅地等として扱うか」という入口の話です。特定居住用宅地等として80%減額を受けるには、さらに誰が取得するかの要件を満たす必要があります。

    • 配偶者が取得する場合:取得者ごとの要件はありません。
    • その家に住んでいた親族(入居前から同居し、住み続けている子など)が取得する場合:相続開始の直前から申告期限まで引き続き住み、申告期限まで保有することが必要です。
    • それ以外の親族が取得する場合:いわゆる「家なき子」の要件として、配偶者がいないこと、被相続人の家に住んでいた相続人(相続の放棄があった場合は放棄がなかったものとした相続人)がいないこと、取得者が相続開始前3年以内に自分や配偶者・三親等内の親族などが所有する家に住んでいないこと、取得者が今住んでいる家を過去に所有していたことがないこと、申告期限まで保有することなど、国税庁No.4124に列挙された要件をすべて満たすことが必要です。

    施設入居で実家が空き家になり、配偶者もすでに亡くなっている場合、別居の子が取得するときは「家なき子」の要件に当てはまるかが論点になります。子が持ち家に住んでいれば、この要件は満たしません。

    取得者の違いによって特例の使い方がどう変わるかは、関連記事「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で詳しく整理しています。

    判断が分かれやすい場面

    実務では、次のような場面で判断が難しくなります。

    • 入居後に実家を建て替えた:同居していた親族が老朽化した家を建て替えて住み続けた場合など、取扱いについて解説が示されている場面もありますが、建て替えの時期や住み始めた人によって結論が変わり得ます。個別の確認が必要です。
    • 二世帯住宅の一部が空いた:親の居住部分を入居後に貸した場合、その部分は居住用としては対象外になり得ます。二世帯住宅の敷地の扱いそのものは、関連記事「二世帯住宅の敷地と小規模宅地等の特例」で取り上げます。

    • 入居先が条件2の施設に当たるか不明:住宅型の施設などで、法令上の位置付けがはっきりしない場合があります。契約書と、自治体への届出・登録の有無を確認します。

    • 認定の記録が残っていない:相続人が介護保険の手続を把握していないこともあります。認定の有無と時期は、自治体や施設に確認できる場合があります。

    申告後に見直したい視点

    すでに申告を終えている場合も、特例の判断を点検する意味はあります。たとえば、施設に入居していたことを理由に特例を使わずに申告していたものの、実際には条件を満たしていた、というケースです。

    AEGISでは、申告後の点検を次の順で行うことをおすすめしています。

    点検の順番確認すること確認資料の例
    1. 施設入居先が法令で定める施設・住まいに当たるか入居契約書、施設の重要事項説明書
    2. 認定相続開始の直前に要介護認定等を受けていたか(申請中の場合は認定の時期)介護保険被保険者証、認定通知
    3. 入居後の実家賃貸・事業利用・新たな居住者がいなかったか公共料金の記録、賃貸借契約の有無
    4. 取得者配偶者・住み続けた親族・家なき子のいずれの要件を満たすか遺産分割協議書、住民票、登記事項証明書
    5. 面積・選択他の宅地との選択や限度面積の計算は適切か申告書の明細

    当初の申告で税額が過大だった場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます(国税通則法23条1項)。一方で、要件を満たしていなかったのに特例を使っていた場合は、修正申告が必要になることもあります。見直しは「増える方向」と「減る方向」の両面で行うことが大切です。更正の請求の期限や手続の流れは、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    なお、相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、その土地には原則として特例を使えません。申告期限から3年以内に分割されれば、その時点で特例を受ける手続をとることができます(国税庁No.4208)。

    入居前後にご家族ができる準備

    相続が起きてから資料を探すのは大変です。親が施設に入る段階で、次の点を家族で共有しておくと、判断がしやすくなります。

    • 入居先の種類と契約書の保管場所
    • 要介護認定等の申請・認定の記録
    • 実家を空き家のまま維持するのか、貸すのか、家族が住むのか(貸す・住む場合は特例への影響を事前に確認する)
    • 実家を将来誰が引き継ぐのか(遺言の要否を含めて)

    とくに、空き家になった実家を「管理が大変だから」と貸し出すかどうかは、相続税の面では大きな分かれ目です。賃料収入、管理の手間、建物の傷み、将来の売却の可能性とあわせて判断したい事項です。

    AEGISの視点

    老人ホームと小規模宅地等の特例の論点は、条文の要件を当てはめれば答えが出るように見えます。しかし実際には、親が施設に入ってから亡くなるまでの数年間に、家族が実家をどう扱ったかで結論が決まります。その時期は、介護や見舞い、施設とのやりとりで家族が最も忙しい時期でもあります。

    AEGISは、この論点を「相続が起きた後の申告の技術」ではなく、入居の時点から始まる実家の管理と承継の設計として考えています。実家を空き家のまま維持するコスト、貸した場合の収入と特例を失う影響、将来その家に住む家族がいるのか、売却するならいつか。これらは相続税だけでなく、家族の生活と資産全体の判断です。

    申告を終えた後も、判断の前提になった事実を確かめ直すことで、見落としに気づくことがあります。資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でも考え方を紹介しています。

    不動産を相続する前に全体として確認したいことは、親記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で整理しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 老人ホームに入居していた親の自宅でも、条件を満たせば小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)を使える可能性があります。
    • 条件は、①相続開始の直前に要介護認定等を受けていたこと、②法令で定める施設・住まいに入居していたこと、③入居後に実家を事業用に使ったり、新たに別の人が住んだりしていないこと、の3つです。
    • 要介護認定等は入居時ではなく相続開始の直前で判定します。
    • 入口の条件に加えて、配偶者・住み続けた親族・家なき子など、取得者の要件を満たす必要があります。
    • 申告後も、施設・認定・入居後の利用・取得者の順で点検すると、見落としや誤りに気づきやすくなります。具体的な適用可否は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 親が老人ホームに入るときは要介護認定を受けていませんでした。特例は使えませんか?

    使える可能性があります。要介護認定等を受けていたかどうかは、入居時ではなく相続開始の直前で判定します(措置法通達69の4-7の3)。施設で暮らすうちに認定を受け、その後に亡くなった場合は、他の条件を満たせば対象になり得ます。

    Q. サービス付き高齢者向け住宅に住んでいた場合も対象になりますか?

    サービス付き高齢者向け住宅は、国税庁の案内で対象となる住まいに含まれています。ただし、要介護認定等を受けていたことなど他の条件も必要です。入居先が法令上どの施設・住まいに当たるかは、契約書や登録の状況で確認してください。

    Q. 親の入居後、空き家の実家を管理のために貸していました。特例は使えますか?

    入居後に実家を賃貸など事業の用に使った場合は、居住用の宅地等としての特例の対象から外れます。貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)として別の要件を満たすかどうかは検討の余地がありますが、要件は別に確認が必要です。

    Q. 入居前から同居していた子が、そのまま実家に住み続けています。問題はありませんか?

    入居の直前に親と生計を一にしていて、その家に引き続き住んでいる親族は、入居後の「新たな居住者」には当たりません。その子が実家の敷地を取得し、申告期限まで住み続けて保有すれば、特定居住用宅地等として特例を使える可能性があります。

    Q. すでに申告を済ませましたが、施設に入っていたため特例を使いませんでした。今からでも見直せますか?

    法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求を検討できます。施設の種類、要介護認定等の状況、入居後の実家の使い方、取得者の要件を資料で確認したうえで判断します。

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    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.76-79、P.83-84
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.103-104
  • 代償分割で遺産を分けるときの代償金と税金|代償金の決め方、各相続人の相続税、不動産で支払うときの譲渡所得

    代償分割で遺産を分けるときの代償金と税金|代償金の決め方、各相続人の相続税、不動産で支払うときの譲渡所得

    代償分割とは、ある相続人が不動産などの遺産を現物で取得し、その代わりに他の相続人へ金銭などを支払う遺産分割の方法です。実家や事業用の土地のように、分けにくく、売りたくない財産を一人に集めるときに使われます。

    税金の面で押さえたい結論は3つです。第一に、相続税は代償金を払った人は取得した財産から代償金を差し引き、受け取った人は代償金を加えて計算します。第二に、代償金を不動産の「時価」で決めた場合は、相続税評価額との差を調整する計算方法が認められています。第三に、代償金の代わりに自分の不動産を渡すと、渡した人に譲渡所得の課税が生じます。

    この記事では、代償金の決め方から、相続税・所得税の扱い、資金の準備と書類の作り方まで、代償分割を選ぶときに確認したい点を整理します。

    代償分割とは:他の分け方との違い

    遺産の分け方には、主に次の3つがあります。

    分け方内容向いている場面注意点
    現物分割財産をそのまま分ける財産の種類や数が多い価値の差が埋まりにくい
    換価分割売却して代金を分ける誰も使う予定のない不動産売却の手間・譲渡所得税・売り時の問題
    代償分割一人が取得し、他の人に代償金を払う住み続けたい・事業で使う不動産代償金の資金と金額の合意

    代償分割は、不動産を手放さずに相続人間の公平を図れる点が大きな利点です。その反面、代償金を払う人に資金がなければ成立しないこと、代償金の額をどう決めるかで意見が分かれやすいことが課題になります。

    国税庁は、代償分割を「共同相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもの」と説明しています(タックスアンサーNo.4173、相続税法基本通達11の2-9(注))。代償金を払う人は、遺産を現物で取得した相続人であることが前提です。

    代償金の額はどう決めるか

    金額は相続人の合意で決められる

    代償金の額に、法律で決められた基準はありません。遺産分割は相続人全員の合意で行うものなので、法定相続分どおりでなくても、全員が納得すればその金額で成立します。

    ただし、合意の出発点として「その不動産をいくらとみるか」は避けて通れません。ここで問題になるのが、時価(実際に売買される価格)と相続税評価額の違いです。土地の相続税評価額は路線価などで計算され、一般に時価より低くなることが多いとされます。

    • 相続税評価額を基準にすると、代償金は低くなり、受け取る側が不満を持ちやすい
    • 時価を基準にすると、代償金は高くなり、払う側の資金負担が重くなる

    実務では、不動産会社の査定や不動産鑑定などで時価の目安を把握し、それを基に話し合うことが多くあります。評価額と時価がずれる理由は、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか」で解説しています。

    時価で決めると、相続税の計算でずれが生じる

    代償金を時価で決めたのに、相続税は評価額で計算すると、払った人と受け取った人の課税価格のバランスが崩れることがあります。この点について、相続税の計算では調整の方法が用意されています(次章)。

    代償分割をしたときの相続税の計算

    基本の計算

    代償分割があった場合の各人の相続税の課税価格は、次のように計算します(相続税法基本通達11の2-9、国税庁No.4173)。

    • 代償金を払った人:取得した財産の価額 - 支払った代償財産の価額
    • 代償金を受け取った人:取得した財産の価額 + 受け取った代償財産の価額

    小規模宅地等の特例などを使う財産は、特例で減額した後の価額を基に計算します(国税庁No.4152)。

    時価を基に代償金を決めた場合の調整

    代償財産の価額は、原則として代償債務の額(相続開始の時における金額)です。ただし、代償分割の対象となった財産が特定され、代償金がその財産の代償分割の時の時価を基に決められている場合は、次の算式で代償財産の価額を計算します(相続税法基本通達11の2-10)。

    代償財産の価額 = 代償金の額 × (その財産の相続開始時の相続税評価額 ÷ その財産の代償分割時の時価)

    また、相続人全員の協議に基づいて、この算式に準じた方法や他の合理的な方法で計算して申告した場合は、その申告した額が認められます。

    AEGISで仮の数字を置いて、調整の有無による違いを比べると次のとおりです。

    前提:遺産は土地のみ(相続税評価額6,000万円、代償分割時の時価8,000万円)。相続人は兄弟2人。兄が土地を取得し、弟に時価の半分の4,000万円を代償金として支払う。

    項目調整しない場合調整する場合
    代償財産の価額4,000万円4,000万円 × 6,000万円 ÷ 8,000万円 = 3,000万円
    兄(払った人)の課税価格6,000万円 - 4,000万円 = 2,000万円6,000万円 - 3,000万円 = 3,000万円
    弟(受け取った人)の課税価格4,000万円3,000万円
    課税価格の合計6,000万円6,000万円

    ※説明のための仮定の数字です。小規模宅地等の特例などは考慮していません。

    課税価格の合計は変わらないため、相続税の総額は同じです。変わるのは各人の負担の割り振りです。時価で半分ずつ分けたのであれば、相続税も半分ずつ負担する形に近づけるのが自然でしょう。調整しないと、代償金を受け取った弟の負担が重くなります。

    配偶者が代償金を払う場合

    配偶者が不動産を取得して他の相続人に代償金を払う場合、配偶者の税額軽減の計算でも、配偶者が負担する代償債務は配偶者の課税価格相当額の計算の基礎から差し引くことが示されています(相続税法基本通達19の2-6)。配偶者の取得分が減るため、軽減額にも影響します。二次相続を含めた配偶者の取得の考え方とあわせて検討します。

    代償金を不動産など現物で支払う場合

    代償金を現金ではなく、払う人がもともと持っていた不動産や株式で渡すこともあります。この場合は所得税に注意が必要です。

    • 渡した人:代償債務の履行として資産を移転したことになり、その時の価額で資産を譲渡したものとして譲渡所得が課税されます(所得税基本通達33-1の5、国税庁No.4173)。
    • 受け取った人:その時の価額でその資産を取得したことになります(所得税基本通達38-7(2))。

    渡す資産に含み益があれば、代償分割のために所得税・住民税が生じます。現金の代わりに不動産を渡すことは、資金がなくても成立させやすい反面、思わぬ税負担につながる点に注意が必要です。

    なお、相続した遺産そのもの(たとえば相続した土地の一部)を他の相続人に渡すのであれば、それは現物分割にあたります。どの財産を、どの立場で渡すのかを分割協議書で明確にしておくことが大切です。

    取得した不動産を後で売るときの注意

    代償金を払って不動産を取得した人が、その不動産を後で売る場合、次の点を押さえておきます。

    • 払った代償金は、その不動産の取得費に含まれません(所得税基本通達38-7(1))。相続で取得した資産は被相続人が引き続き所有していたものとみなされ、取得費も引き継ぐのが原則(所得税法60条1項)のため、代償金を多く払っていても、譲渡所得の計算では差し引けません。
    • 相続税の申告期限から3年以内に売る場合の相続税額の取得費加算の特例は、代償金を払った人については、払った代償金を考慮した算式で加算額を計算します(租税特別措置法通達39-7)。

    「いずれ売るかもしれない」不動産を代償分割で取得する場合は、売却時の手取りまで試算しておくと判断を誤りにくくなります。

    代償金の資金と書類の準備

    資金をどう用意するか

    代償金を払う人に十分な資金がない場合、次のような方法が検討されます。

    • 自己資金で支払う
    • 金融機関からの借入れで支払う(取得した不動産を担保にする場合を含む)
    • 分割払いとし、支払期限や回数を決める
    • 生命保険金を充てる(被相続人が保険料を負担し、代償金を払う人を受取人とする契約)

    生命保険金は、受取人固有の財産として受け取るものなので、代償金の原資として使いやすい資金です。生前の保険契約の設計については、関連記事「生命保険を相続対策に使うときの考え方」で扱っています。また、相続税そのものの納税資金の準備は関連記事「相続税の納税資金をどう準備するか」で比較しています。

    一方、代償金を払う人以外の家族が資金を出して代わりに払う場合などは、その資金の移動が贈与と判断されないかの確認が必要です。

    遺産分割協議書に書くこと

    代償分割は、遺産分割協議書の書き方で税務上の扱いが左右されることがあります。少なくとも次の点を明確にします。

    • 誰がどの財産を現物で取得するか
    • その取得の代償として、誰に、いくらを支払うか(代償分割である旨)
    • 支払の期限と方法(分割払いの場合は回数・各回の金額)
    • 時価を基に代償金を決めた場合は、その前提となった価額

    遺産分割とは別の合意として後から金銭のやりとりをすると、代償金ではなく相続人間の贈与とみられるおそれがあります。分割の内容は、協議書の中で一体として定めておくのが基本です。

    AEGISの視点

    代償分割は、「不動産を守る人」と「お金で受け取る人」の間で、家族が折り合いをつけるための方法です。金額の合意だけに目が向きがちですが、AEGISは代償分割を資金・税金・将来の不動産の扱いを一体で決める設計だと考えています。

    代償金を払う人には、借入れの返済や、取得した不動産の維持費が続きます。受け取る人にとっては、相続税の負担が代償金の額に見合っているかが関心事になります。さらに、取得した不動産を将来売るのか、次の世代に引き継ぐのかによって、代償金の決め方の納得感も変わります。

    だからこそ、代償分割を選ぶときは、時価の把握、相続税の調整計算、資金計画、売却時の取得費までを一度に並べて検討することをおすすめします。共有のまま相続して後から解消する方法との比較は、関連記事「共有名義の不動産を解消する方法」で整理しています。資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でも考え方を紹介しています。

    相続対策を会社と個人の財産を通じてどう設計するかの全体像は、親記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 代償分割は、一人が遺産を現物で取得し、他の相続人に代償金などを支払う遺産分割の方法です。
    • 代償金の額は相続人の合意で決められますが、時価と相続税評価額のどちらを基準にするかで金額が大きく変わります。
    • 相続税は、払った人は代償金を差し引き、受け取った人は加えて計算します。時価を基に決めた場合は、評価額との比率で代償財産の価額を調整する方法があります。
    • 代償金の代わりに自分の不動産を渡すと、渡した人に譲渡所得が課税されます。払った代償金は、取得した不動産の取得費には含まれません。
    • 資金の準備と遺産分割協議書の書き方まで含めて検討することが大切です。具体的な取扱いは個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 代償金は法定相続分どおりに払わなければいけませんか?

    その必要はありません。遺産分割は相続人全員の合意で決めるものなので、法定相続分と異なる金額でも、全員が納得すればその内容で分割できます。

    Q. 代償金を時価で決めました。相続税の申告では何に気をつければよいですか?

    時価を基に代償金を決めた場合は、代償金の額に「相続税評価額÷時価」の割合を掛けて代償財産の価額を計算する方法があります(相続税法基本通達11の2-10)。調整しないと、代償金を受け取った人の課税価格が相対的に大きくなるため、相続人全員で計算方法を確認しておくことが大切です。

    Q. 代償金を払うお金がありません。借入れで払っても問題ありませんか?

    借入れで代償金を支払うことを妨げる規定は見当たりません。ただし、返済計画と取得した不動産の収益・維持費を踏まえて無理がないかを確認する必要があります。他の家族が資金を出す場合は、贈与と判断されないかにも注意します。

    Q. 代償金の代わりに自分名義の土地を渡すと、税金はかかりますか?

    渡した人には、その時の価額で土地を譲渡したものとして譲渡所得が課税されます。受け取った人は、その時の価額で土地を取得したことになります。含み益の大きい資産を渡すときは、事前に税負担を試算しておくことが大切です。

    Q. 代償金を払って取得した土地を売るとき、代償金は経費になりますか?

    払った代償金は、譲渡所得の計算上、その土地の取得費には含まれません。相続税額の取得費加算の特例を使う場合も、代償金を考慮した算式で加算額を計算します。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、P.289-293
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.75、P.92-93
  • 親の遺産分割が終わらないうちに次の相続が起きたら|分割の当事者、二つの申告、特例と相次相続控除の考え方

    親の遺産分割が終わらないうちに次の相続が起きたら|分割の当事者、二つの申告、特例と相次相続控除の考え方

    一次相続(たとえば父の相続)の遺産分割がまとまらないうちに、相続人の一人(たとえば母)が亡くなる二次相続が起きた場合、一次相続の遺産分割は、亡くなった母の相続人が母の立場を引き継いで行います。 相続税の申告も二つ必要になり、それぞれに期限があります。

    税金の面では、次の点が判断の軸になります。

    • 一次相続の申告期限前に母が亡くなった場合、母の申告義務は母の相続人が引き継ぎ、その期限は母の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内になります。
    • 二次相続の財産には、母が一次相続で持っていた未分割の遺産の持分も含めて考える必要があります。
    • 母の相続人を交えて一次相続の分割を行い、母の取得分を確定させれば、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を一次相続で使える取扱いがあります。
    • 二次相続では、一次相続で母に課された相続税を基に相次相続控除を使える場合があります。

    この記事では、相続が連続したときの手続の順番と、二つの申告で確認したい論点を整理します。

    まず状況を整理する

    相続が連続したときは、二つの相続の時間関係を最初に確認します。とくに、二次相続が一次相続の申告期限の前か後かで、進め方が変わります。

    状況一次相続の申告二次相続の申告
    A:一次相続の申告期限前に、母が申告しないまま亡くなった母の分は、母の相続人が引き継いで申告する。期限は母の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条2項)母の相続について、通常どおり10か月以内に申告
    B:一次相続を未分割のまま申告した後に、母が亡くなった申告済み。分割が決まった後に、修正申告や更正の請求を検討する母の相続について、通常どおり10か月以内に申告

    いずれの場合も、二次相続の申告には一次相続の遺産をどう扱うかが関わります。

    一次相続の遺産分割は誰が行うのか

    相続人が複数いる場合、遺産は分割されるまで相続人の共有に属し、各相続人は法定相続分などに応じた持分を持ちます(民法898条)。そして、相続人は被相続人の一切の権利義務を承継します(民法896条)。

    この結果、母が一次相続の遺産について持っていた相続人としての地位(遺産分割に加わる立場)は、二次相続によって母の相続人に引き継がれます。一次相続の遺産分割協議は、

    • 一次相続の相続人のうち存命の人
    • 亡くなった母の相続人(母の立場を引き継いだ人)

    の全員で行うことになります。たとえば父の相続人が母・長男・長女で、母が亡くなった場合、母の相続人である長男・長女が母の立場も兼ねて、父の遺産を分けることになります。母に別の相続人(たとえば母の前婚の子)がいれば、その人も当事者になります。

    協議では、父の遺産のうち「母が取得する財産」を決めることもできます。そうして母の取得分として確定させた財産は、母の遺産として、母の相続人の間で改めて分けることになります。

    一次相続の申告:未分割のときの取扱い

    一次相続の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、未分割の財産は、各相続人が法定相続分などに従って取得したものとして課税価格を計算して申告します(相続税法55条)。

    その後に分割が行われ、取得した財産が法定相続分による計算と異なることになった場合は、修正申告(税額が増える人)や、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内の更正の請求(税額が減る人)を行います(相続税法32条1項1号・55条ただし書)。

    未分割のときには小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減を使えませんが、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、3年以内に分割された場合に適用を受けることができます(租税特別措置法69条の4第4項、相続税法19条の2第2項)。未分割申告の流れそのものは、関連記事「遺産分割が後から決まったときの相続税の手続」で詳しく解説しています。

    母の取得分を確定させれば、特例を使える取扱い

    相続が連続したとき、一次相続で「母が取得した」ことを前提とする特例をどう扱うかが問題になります。母は分割前に亡くなっているため、形式的には母が分割で財産を取得することはできないからです。

    この点について、国税庁の通達では次の取扱いが示されています。

    • 小規模宅地等の特例:一次相続の特例対象宅地等が分割される前に共同相続人の一人が亡くなった場合でも、亡くなった人の共同相続人と、一次相続のそれ以外の共同相続人によって分割され、亡くなった人が取得した特例対象宅地等として確定させたものがあれば、その人が分割で取得したものとして扱うことができます(措置法通達69の4-25)。
    • 配偶者の税額軽減:一次相続の財産が分割される前に配偶者が亡くなった場合でも、同様に配偶者の取得した財産として確定させたものがあれば、配偶者が分割で取得したものとして扱うことができます(相続税法基本通達19の2-5)。

    家庭裁判所の調停・審判で分割された場合に、亡くなった人の具体的相続分が金額や割合で示されているだけのときも、その人の共同相続人全員の合意で、対応する財産を特定させれば、同様の扱いができることが示されています。

    ただし、どちらの特例も分割期限の要件は変わりません。一次相続の申告期限から3年以内(やむを得ない事情があり承認を受けた場合はその後の一定期間)に分割することが前提です。二次相続が起きたことで話合いが長引くと、この期限を過ぎてしまうおそれがあります。

    二次相続の申告:一次相続の未分割の遺産をどう含めるか

    二次相続の申告時点で一次相続の分割がまだ終わっていない場合、母は一次相続の遺産について法定相続分などに応じた共有持分を持ったまま亡くなったことになります(民法898条2項)。この持分は、母の遺産として二次相続の課税の対象に含めて考えます。

    評価の時点は、二次相続で取得した時、つまり母の相続開始時です(相続税法22条)。一次相続の時の評価額ではない点に注意が必要です。

    その後、一次相続の分割がまとまり、母の取得分が法定相続分による持分と異なることになれば、二次相続の申告内容にも影響します。母の取得分が増えれば二次相続の税額が増える方向に、減れば減る方向に動きます。このときに、修正申告や更正の請求のどの手続を、いつまでに使えるかは、事実関係によって判断が分かれるため、分割の前に確認しておくことが大切です。

    相次相続控除:短い期間に続いた相続の負担を調整する

    相次相続控除は、二次相続の被相続人(母)が、二次相続の開始前10年以内に開始した一次相続で財産を取得し、相続税を課されていた場合に、母から相続で財産を取得した相続人の相続税額から一定額を控除する制度です(相続税法20条、国税庁No.4168)。控除額は、母が一次相続で課された相続税額を基に、1年につき10%ずつ逓減する計算で求めます。

    一次相続から二次相続までの期間が短いほど、控除額は大きくなります。また、適用対象は相続人に限られ、相続を放棄した人は、遺贈で財産を取得しても適用を受けられません。

    一次相続が未分割のまま法定相続分で申告・納税していた場合でも、母は法定相続分に応じて財産を取得したものとして相続税を課されていることから、相次相続控除の計算の基礎になり得ます。控除の計算は、一次相続の申告内容が修正されると連動して変わるため、二つの申告の数字を一緒に管理します。

    進め方の順番

    AEGISでは、相続が連続したときは次の順で進めることをおすすめしています。

    順番やることポイント
    1二つの相続の期限を一覧にする一次の申告期限(承継した場合は延びた期限)、3年以内の分割期限、二次の申告期限
    2一次相続の当事者を確定する母の相続人(母の前婚の子なども含む)を戸籍で確認
    3一次相続の分割方針を決める母の取得分を確定させるか(特例・軽減との関係)、二次相続の税額への影響を試算
    4一次相続の分割を成立させる母の取得分として確定させる財産を協議書に明記
    5一次相続の修正申告・更正の請求分割を知った日の翌日から4か月以内の手続を確認
    6二次相続の申告と見直し一次の分割結果と相次相続控除を反映

    ポイントは、一次相続の分け方を、二次相続の税額まで含めて決めることです。母の取得分を多くすれば一次相続では配偶者の税額軽減を使えますが、その財産は二次相続で再び課税されます。二次相続まで見通した分け方の考え方は、関連記事「二次相続まで見通した遺産の分け方」で整理しています。

    また、遺産に非上場株式が含まれる場合は、分割されるまでの議決権の行使方法も問題になります。関連記事「株式が相続人の共有になったときの議決権行使」もあわせて確認してください。

    AEGISの視点

    相続が連続すると、家族は短い期間に二度の喪失と、二つの手続を同時に抱えることになります。一次相続の話合いが進まなかった背景には、すでに家族間の意見の違いがあることも多く、そこに二次相続が重なると、当事者が増え、利害もさらに複雑になります。

    AEGISは、この状況を二つの相続を一つの設計図として扱う場面だと考えています。一次相続の分け方は、二次相続の財産と税額を決め、特例を使える期限にも関わります。どちらか一方の申告だけを見て進めると、全体として不利な結果になったり、期限を逃したりするおそれがあります。

    まずは二つの相続の期限と当事者を一覧にし、一次相続の分け方の選択肢ごとに二つの相続税の合計を比べるところから始めることをおすすめします。申告後であっても、分割の確定に合わせて二つの申告を点検し直すことで、見落としに気づくことがあります。資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でも考え方を紹介しています。

    相続対策の全体像は、親記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で整理しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 一次相続の遺産分割前に相続人が亡くなると、その人の相続人が立場を引き継いで一次相続の分割協議に加わります。
    • 一次相続の申告期限前に亡くなった場合、その人の申告義務は相続人が引き継ぎ、期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内になります。
    • 亡くなった人の取得分として確定させれば、一次相続で小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使える取扱いがあります。ただし3年以内の分割などの期限要件は変わりません。
    • 二次相続には、一次相続の未分割の遺産の持分を、二次相続開始時の価額で含めて考えます。
    • 相次相続控除は、一次相続から10年以内であれば、期間に応じて使える場合があります。具体的な手続と税額は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 父の遺産分割の途中で母が亡くなりました。父の遺産は誰が分けるのですか?

    父の相続人のうち存命の人と、母の相続人(母の立場を引き継いだ人)の全員で分割協議を行います。母に前婚の子など他の相続人がいれば、その人も当事者になります。

    Q. 父の相続税の申告期限前に母が亡くなりました。母の分の申告期限はどうなりますか?

    母が父の相続の申告書を提出しないまま亡くなった場合、その申告は母の相続人が引き継ぎ、期限は母の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内となります(相続税法27条2項)。

    Q. 母が亡くなった後でも、父の相続で配偶者の税額軽減を使えますか?

    母の相続人と父の他の相続人が分割を行い、母が取得した財産として確定させたものがあれば、母が分割で取得したものとして扱うことができます(相続税法基本通達19の2-5)。分割期限の要件は満たす必要があります。

    Q. 父の遺産が未分割のまま、母の相続税の申告期限が来そうです。どう申告しますか?

    母は父の遺産について法定相続分などに応じた共有持分を持っていたことになるため、その持分を母の遺産に含め、母の相続開始時の価額で評価して申告することが考えられます。分割後に取得分が変わった場合の手続は、事前に確認しておくことが大切です。

    Q. 父と母の相続が数年おきに続きました。税負担を調整する仕組みはありますか?

    相次相続控除があります。母が父の相続で相続税を課されていた場合、二次相続が10年以内であれば、母の相続人の相続税額から一定額を控除できます。期間が短いほど控除額は大きくなります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.151-154
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.92-93、P.114
  • 非営利型の一般財団法人とは|法人税の課税範囲と要件、要件を外れた場合の取扱い

    非営利型の一般財団法人とは|法人税の課税範囲と要件、要件を外れた場合の取扱い

    一般財団法人を設立するとき、意外と見落とされやすいのが「税務上、どの区分の法人になるか」という問題です。同じ一般財団法人でも、法人税法上の非営利型法人に当たれば、課税されるのは法人税法上の収益事業から生じた所得だけです。当たらなければ、株式会社と同じように、受け取った寄附を含むすべての所得が課税の対象になります。

    非営利型法人に当たるための手続は、行政庁の認定ではありません。定款の定めと、理事の構成と、実際の運営が要件を満たしているかどうかで決まります。だからこそ、設立時の設計と、設立後の運営の両方が重要になります。

    この記事では、非営利型の一般財団法人の要件、収益事業課税の仕組み、そして要件を外れた場合に何が起きるかを整理します。

    一般財団法人の税務上の3つの区分

    財団は、法人法上の区分(一般財団法人か公益財団法人か)とは別に、税務上は次の3つに分かれます。公益認定を受けるかどうかの比較は、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で詳しく扱っています。

    項目公益財団法人非営利型の一般財団法人非営利型以外の一般財団法人
    法人税法上の区分公益法人等公益法人等普通法人
    法人税の課税範囲収益事業のみ(公益目的事業は除く)収益事業のみすべての所得
    受け取った寄附収益事業以外なら課税されない収益事業以外なら課税されない受贈益として課税の対象
    寄附者の寄附金控除対象対象外対象外
    現物寄附のみなし譲渡の非課税特例一般特例・承認特例の対象非営利性が徹底された法人は一般特例の対象対象外
    理事の死亡時の相続税課税(特定一般社団法人等)対象外対象外同族理事が過半数などの場合に対象

    この表から分かるとおり、非営利型法人に当たるかどうかは、法人税だけでなく、寄附を受けたときの課税、寄附者の税制、さらには理事の相続税にまで影響します。

    非営利型法人の2つの類型

    法人税法は、一般社団法人・一般財団法人のうち、次のいずれかに当たるものを非営利型法人としています。

    • 非営利性が徹底された法人:事業により利益を得ること、または得た利益を分配することを目的としない法人で、事業を運営する組織が適正であるもの
    • 共益的活動を目的とする法人:会員から受け入れる会費により、会員に共通する利益を図るための事業を行う法人で、事業を運営する組織が適正であるもの

    共益的活動を目的とする法人は、業界団体や同窓会のような「会員のための法人」を想定した類型です。社会貢献を目的とする財団では、非営利性が徹底された法人として設計するのが通常です。なお、現物寄附のみなし譲渡の非課税特例(租税特別措置法第40条)の一般特例は、非営利性が徹底された法人への寄附は対象になり得ますが、共益的活動を目的とする法人への寄附は対象になりません。

    非営利性が徹底された法人の4つの要件

    国税庁の手引によれば、非営利性が徹底された法人に当たるには、次の4つの要件のすべてを満たす必要があります。

    1. 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること

    財団が得た利益を、設立者や理事などに分配しないことを定款で明らかにします。

    2. 解散時の残余財産の帰属先を定款に定めていること

    解散したときに、残余財産を国・地方公共団体や、公益社団法人・公益財団法人など一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めます。財産が設立者の家族に戻る余地を残さないことが求められます。

    3. 定款の定めに反する行為や特別の利益の提供をしたことがないこと

    上記1・2の定款の定めに違反する行為(特定の個人や団体に特別の利益を与えることを含みます)を行うことを決定し、または行ったことがないことが要件です。過去の行為も問われる点が特徴です。

    4. 理事の親族等が理事総数の3分の1以下であること

    各理事について、その理事と、その理事の配偶者・3親等内の親族その他の特殊の関係のある者である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下である必要があります。「特殊の関係のある者」には、事実上婚姻関係にある者、理事の使用人、理事から受ける金銭等で生計を維持している者なども含まれます(法人税法施行規則第2条の2)。また、使用人以外の者で法人の経営に従事している人は、理事とみなして判定するとされています(法人税法施行令第3条第3項)。

    たとえば理事が3人の財団であれば、設立者の家族から理事になれるのは1人までで、残り2人は親族等に当たらない人を選ぶことになります。理事が6人であれば、同じ親族グループからは2人までです。理事の辞任や交代で比率が崩れることもあるため、設立時だけでなく、役員の改選のたびに確認が必要です。

    「特別の利益」とは何か

    要件3の「特別の利益を与えること」について、国税庁の法人税基本通達は、社会通念上不相当な経済的利益の供与や金銭等の交付をいうとし、例を挙げています。専門書の解説をもとに整理すると、次のような行為が典型です。

    • 財団の土地・建物を、特定の人に無償または通常より低い賃料で貸す
    • 無利息または低い利率でお金を貸す
    • 財団の資産を無償または通常より低い価格で譲る
    • 通常より高い賃料で土地・建物を借りる、通常より高い利率でお金を借りる
    • 通常より高い価格で資産を買う、事業に使わない資産を取得する
    • 過大な給与を支払う

    設立者の家族が経営する会社と財団が取引する場合などは、条件が通常の取引と比べて妥当かを、記録とともに確認しておくことが大切です。特別の利益は、収益事業以外の事業で行われたものも含まれます。

    収益事業課税の仕組み

    非営利型法人であっても、すべての所得が非課税になるわけではありません。課税の対象になる「収益事業」とは、販売業・製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいいます(法人税法第2条第13号)。政令では、物品販売業、不動産貸付業、金銭貸付業、請負業、駐車場業など34の事業が定められています(法人税法施行令第5条)。

    財団の活動に引き付けると、次のような点に注意が必要です。

    • 不動産の賃貸や駐車場の運営:財団が保有する不動産を貸して賃料を得る場合、収益事業に当たり、その所得は課税されます。
    • 区分経理:収益事業とそれ以外の事業の収入・費用を区分して経理する必要があります。
    • みなし寄附金は使えない:公益法人では、収益事業から公益目的事業への支出を寄附金とみなして損金に算入する仕組みがありますが、国税庁の手引では、非営利型法人にはこの適用がないとされています。
    • 届出:非営利型法人が新たに収益事業を開始した場合は、開始した日以後2か月以内に、収益事業開始届出書などを所轄税務署に提出します(法人税法第150条)。また、普通法人から非営利型法人になったときなど、区分が変わったときは異動の届出が必要です。

    財団の財源として配当や賃料をどう組み合わせるかは、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で整理しています。

    要件を外れた場合の取扱い

    非営利型法人の要件は、行政庁の認定を受けるものではないため、要件を欠いた時点で自動的に普通法人になります。このとき、次の3つの影響を考えておく必要があります。

    1. 移行時に、過去の非課税の蓄積に課税される

    公益法人等である非営利型法人が普通法人に該当することになった場合、その日より前の収益事業以外の事業から生じた所得の累積額(累積所得金額)を、移行した事業年度の益金に算入する仕組みがあります(法人税法第64条の4)。専門書の解説によれば、これは実質的に、収益事業以外の事業で蓄えてきた正味財産に課税する仕組みです。寄附を受けて財産を積み上げてきた財団ほど、移行時の課税が大きくなり得ます。また、区分が変わった時点で事業年度が区切られ、決算と申告が必要になります。

    2. 特別の利益を与えた場合は、元に戻れない

    理事の構成のように内部の事情で変えられる要件は、満たし直せば再び非営利型法人になり得ます。しかし、国税庁の法人税基本通達は、特別の利益に係る要件を欠いて普通法人となった法人は、その後に再び非営利型法人に該当することはないとしています。特別の利益の提供は、取り返しのつかない要件違反だと理解しておく必要があります。

    3. 理事の相続税にも影響する

    一般社団法人・一般財団法人のうち、同族理事が理事総数の2分の1を超えるなどの要件に当たる「特定一般社団法人等」については、理事が死亡した場合に、法人を個人とみなして相続税を課す仕組みがあります(相続税法第66条の2)。非営利型法人は、この対象から除かれています。非営利型の要件を外れると、この相続税の課税の対象となる可能性が生じます。

    設立時・運営時のチェックポイント

    時期確認すること
    設立時定款に剰余金の分配禁止と残余財産の帰属先を定めたか/理事の親族等が3分の1以下か
    毎年の運営理事の改選で比率が崩れていないか/関係者との取引条件は通常の水準か/収益事業の区分経理と申告をしているか
    新しい事業の開始時その事業が収益事業に当たるか/届出が必要か
    寄附を受けるとき寄附者や家族に特別の利益を与える条件が付いていないか

    AEGISの視点

    非営利型の一般財団法人は、公益認定の重い手続を経ずに、法人税の面では公益法人等として扱われる、使い勝手の良い器です。一方でAEGISは、その使い勝手の良さが、行政庁の監督がない分、自ら規律を保ち続けなければならないことの裏返しでもあると考えています。

    特に、オーナー家族が設立する財団では、「家族のための財団」に見えてしまう運営が、税務上の要件違反に直結します。理事の3分の1要件は、家族だけで財団を動かさないための仕組みです。特別の利益の禁止は、財団の財産が家族の財産と混ざらないための仕組みです。これらを「税務上の要件」としてではなく、財団の信頼を守るためのガバナンスとして設計に組み込むことが大切です。

    また、非営利型法人は寄附者の寄附金控除の対象にならないため、広く寄附を集めて活動を拡大したい場合には、いずれ公益認定を目指すという選択肢も視野に入ります。今は非営利型で始め、活動の実績を積んでから公益認定を受ける。その道筋を最初から描いておくことが、財団の設計の質を高めるとAEGISは考えています。財団設計の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    財団の法人税や寄附に関する資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 一般財団法人は、税務上の非営利型法人に当たれば、法人税の課税が収益事業の所得に限られます。当たらなければ、受け取った寄附を含むすべての所得が課税対象です。
    • 財団では通常、非営利性が徹底された法人として、剰余金の分配禁止・残余財産の帰属先の定款の定め、特別の利益の禁止、理事の親族等3分の1以下の4要件を満たすように設計します。
    • 非営利型でも、不動産貸付など34の収益事業の所得は課税され、みなし寄附金の適用はありません。
    • 要件を外れると、累積所得金額の益金算入による課税が生じ得るほか、特別の利益を与えた場合は再び非営利型法人に戻れず、理事の相続税の課税対象となる可能性もあります。
    • 具体的な判定は、定款・役員構成・取引の実態によって異なります。

    よくある質問

    Q. 非営利型法人になるには、税務署の承認が必要ですか?

    承認や認定は必要ありません。要件を満たしていれば非営利型法人に当たり、満たさなければ普通法人になります。ただし、区分が変わったときや収益事業を開始したときには、所轄税務署への届出が必要です。

    Q. 設立者が理事長を務めることはできますか?

    できます。ただし、設立者とその配偶者・3親等内の親族などである理事の合計数を、理事総数の3分の1以下に収める必要があります。理事を3人とする場合、設立者以外の2人は親族等に当たらない人とすることになります。

    Q. 非営利型の財団に寄附すると、寄附者は寄附金控除を受けられますか?

    一般に、非営利型の一般財団法人への寄附は、所得税の寄附金控除の対象になりません。ただし、株式や不動産などの現物の寄附については、非営利性が徹底された法人であれば、国税庁長官の承認を受けた場合のみなし譲渡の非課税特例(一般特例)の対象になり得ます。

    Q. 財団が賃貸不動産を持つと、非営利型ではなくなりますか?

    不動産の賃貸を行っても、そのことだけで非営利型法人でなくなるわけではありません。ただし、不動産貸付業は収益事業に当たるため、その所得には法人税が課されます。賃料の水準が設立者の家族などに有利な条件になっていると、特別の利益の問題が生じるおそれがあります。

    Q. 非営利型の要件を一時的に外れてしまった場合、どうなりますか?

    要件を欠いた時点で普通法人となり、それまでの収益事業以外の事業の累積所得金額が益金に算入される課税が生じ得ます。理事構成のように満たし直せる要件であれば再び非営利型法人になり得ますが、特別の利益を与えたことによる場合は、再び非営利型法人に該当することはないとされています。

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団の活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団の運営・税務・実行後の管理を整理します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会