カテゴリー: 税務・会計

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  • 個人保有の不動産を法人へ移す前の比較|移転時の税金・借地権・管理・承継をどう比べるか

    個人保有の不動産を法人へ移す前の比較|移転時の税金・借地権・管理・承継をどう比べるか

    資産管理会社を設立したあと、あるいは設立を検討する段階で、多くのオーナーが直面するのが「今、個人で持っている不動産を会社に移すべきか」という問いです。

    法人で家賃を受け取れば毎年の税負担が軽くなる可能性がある一方で、不動産を移すには、その時点で税金や費用がかかります。さらに、建物だけを移して土地を個人に残す場合には、土地の貸し借りをどう整理するかという、借地権特有の論点が生じます。

    結論から言えば、移転の判断は「移転時に一度かかる負担」と「移転後に毎年続く効果」を、管理の手間と将来の承継まで含めて比べることが基本です。この記事では、比較の際に確認すべき項目を、移す方法ごとに整理します。

    不動産を法人へ移す主な方法

    個人の不動産を法人に関与させる方法は、大きく次のように分けられます。

    方法内容移転時の負担会社に入る収入
    移さない(管理委託・一括借上げ)所有は個人のまま、会社が管理や転貸を担う小さい管理料・転貸差額に限られる
    建物のみを売買建物を会社に売り、土地は個人に残す中程度(建物分)+借地権の整理家賃収入の大部分
    土地・建物を売買不動産全体を会社に売る大きい(土地分を含む)家賃収入の全体
    現物出資不動産を会社に出資し、株式を受け取る売買と同様に譲渡所得の課税が生じ得る家賃収入
    贈与不動産を会社に無償で移す時価で譲渡したものとみなされる家賃収入

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した比較です。実際の負担は物件の状況によって大きく異なります。

    実務では、移転時の負担を抑えつつ家賃収入を会社に移すため、建物だけを会社に売却し、土地は個人に残す方法が検討されることが多くあります。ただし、この方法には後述する借地権の整理が欠かせません。

    移転時にかかる税金と費用

    個人側:譲渡所得の課税

    不動産を会社に売却すると、売却益(譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額)に対して、個人に譲渡所得の課税が生じます。国税庁によれば、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える土地・建物の譲渡は長期譲渡所得となり、所得税15%(ほかに復興特別所得税として所得税額の2.1%)と住民税5%が課されます(国税庁 No.3208)。所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、所得税30%(ほかに復興特別所得税)と住民税9%が課されます(国税庁 No.3211)。令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%(令和8年分までは2.1%)に引き下げられ、あわせて防衛特別所得税(同1%)が課されます(財務省「令和8年度税制改正の解説」)。

    建物は減価償却によって帳簿上の価額(取得費)が下がっているため、取得から年数が経っている場合、売却価額によっては譲渡益が生じることがあります。土地は取得時期が古いほど取得費が低く、譲渡益が大きくなりやすい点に注意が必要です。

    時価より低い価額での移転には注意

    同族の会社だからといって、価額を自由に決められるわけではありません。国税庁によれば、法人に対する贈与や、時価の2分の1未満の価額による譲渡は、時価で資産の譲渡があったものとみなされます(国税庁 No.3105)。

    また、時価の2分の1以上の価額であっても、同族会社への譲渡が同族会社等の行為計算の否認(所得税法157条)に該当する場合には、時価で譲渡所得を計算されることがあります(所得税基本通達59-3)。さらに、時価より著しく低い価額で同族会社に譲渡して会社の株式の価額が増加した場合には、他の株主がその増加分を譲渡者から贈与により取得したものとして扱われることもあります(相続税法基本通達9-2)。買い取る会社の側でも、時価より低い価額で取得した場合には、その差額が受贈益として扱われることがあります。移転価額は、不動産鑑定評価などの客観的な根拠をもって説明できるものにしておくことが基本です。

    会社側:登録免許税・不動産取得税

    会社が不動産を取得すると、所有権移転登記の登録免許税と、不動産取得税(都道府県税)の負担が生じ得ます。

    国税庁によれば、売買による所有権移転登記の登録免許税は、課税標準(原則として固定資産課税台帳に登録された価格)の1,000分の20とされ、土地については令和11年3月31日までの登記は1,000分の15に軽減されています(国税庁 No.7191)。

    不動産取得税は、地方税法上の標準税率が4%で、土地と住宅は令和9年3月31日までの取得について3%とされ、宅地等(宅地評価土地)は同日までの取得について課税標準を価格の2分の1とする特例があります(地方税法73条の15、附則11条の2・11条の5)。実際の税率や軽減措置の適用は、不動産の種類や取得時期によって異なるため、所在地の都道府県で確認が必要です。

    その他の費用

    このほか、次のような費用や手続きも比較に含めておく必要があります。

    • 不動産鑑定評価など、移転価額の根拠をつくる費用
    • 司法書士報酬などの登記費用
    • 建物の譲渡に関する消費税(売り手である個人が消費税の課税事業者である場合など)
    • 物件に紐づく借入金の扱い(金融機関との協議、借換えの要否)
    • 入居者・管理会社への貸主変更の通知、敷金の引継ぎ、火災保険などの名義変更

    建物だけを移す場合:借地権の整理が要になる

    なぜ借地権が問題になるのか

    建物を会社に移し、土地を個人に残すと、「会社が個人の土地の上に建物を所有している」状態になります。これは、税務上、会社が個人から土地を借りている関係です。

    借地権の取引慣行がある地域では、土地を借りて建物を建てる(所有する)ときに、借主が地主に権利金を支払うのが通常とされています。権利金を支払わずに土地を借りると、借主である会社が、本来支払うべき借地権相当額の利益を受けたもの(受贈益)として課税されるおそれがあります。

    主な整理の方法

    権利金を授受しない場合の主な整理の方法は、次のとおりです。

    方法内容主な留意点
    権利金を支払う会社が個人に借地権の対価を支払う会社に資金が必要。個人側は受け取った権利金の額によって課税関係が生じる
    相当の地代を支払う権利金の代わりに、土地の価額に対しおおむね年6%程度の地代(「相当の地代」)を支払う(相続税では自用地としての価額の過去3年平均、法人税では更地価額が基準)地代が高くなり、会社の収益を圧迫しやすい
    土地の無償返還に関する届出将来、土地を無償で返還する旨を契約で定め、税務署に届け出る地代の水準によって、個人の土地や会社の株式の評価に影響する
    使用貸借地代を支払わない(固定資産税相当額以下を含む)法人が関わる貸借では、個人間の使用貸借と同じ扱いにはならない点に注意

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した比較です。

    国税庁によれば、「土地の無償返還に関する届出」は、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、法人と借地人の連名で、遅滞なく提出する手続です。土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとされています(国税庁「土地の無償返還に関する届出」、法人税基本通達13-1-7)。

    地代の水準が、相続・株式評価にも影響する

    どの方法で整理するか、地代をいくらにするかは、移転時の課税だけでなく、将来の相続にも関わります。

    • 地主である個人の側:土地は「会社に貸している土地」として評価されることになり、地代の授受の状況や届出の有無によって評価の方法が異なります。国税庁の通達では、相当の地代を収受している場合や「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価するとされています。なお、無償返還の届出があっても地代を受け取らない使用貸借の場合は、自用地としての価額で評価されます。
    • 会社の側:地主である個人が、土地を借りている同族会社の同族関係者である場合には、自用地としての価額の20%相当額を借地権の価額として、その会社の株式の評価上、純資産価額に算入する取扱いがあります(昭和43年の国税庁通達を、昭和60年の通達で無償返還の届出がある場合にも適用)。土地の評価が下がる分の一部が、株式の評価に反映される仕組みです。
    • 小規模宅地等の特例:国税庁によれば、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%の減額とされていますが、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象から除かれます(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け〔特定貸付事業〕を続けていた場合を除く)。また、特定同族会社事業用宅地等の対象となる法人の事業からは、不動産貸付業や駐車場業などが除かれています(国税庁 No.4124)。

    建物を会社に移したあとも、土地をどう持ち、どの条件で会社に貸すかによって、オーナー個人の相続の姿が変わります。

    移転後の効果と、移転時の負担を比べる

    移転の判断では、移転時に一度かかる負担と、移転後に毎年続く効果を、同じ時間軸の上で比べることが大切です。

    1. 移転時の負担を合計する:譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税、鑑定・登記などの費用
    2. 毎年の効果を見積もる:個人と法人の税負担の差、家族への報酬による分配、会社の維持コスト
    3. 何年で回収できるかを見る:移転時の負担を、毎年の効果で何年かけて取り戻せるか
    4. その期間、物件を持ち続けるかを確認する:大規模修繕、建替え、売却の予定と整合しているか

    たとえば、近い将来に売却や建替えを予定している物件を移転すると、効果が出る前に次の負担が生じることがあります。反対に、長期保有を前提とする収益性の高い物件では、移転時の負担を時間をかけて回収できる場合もあります。

    管理と承継の観点で確認したいこと

    管理:会社として物件を運営できるか

    移転後は、会社が貸主として入居者との契約、修繕、会計を担うことになります。誰が実際に管理を担うのか、管理会社との契約をどうするのか、会社としての記帳や決算を継続できるかを、移転前に確認しておく必要があります。

    承継:不動産が「株式」に置き換わる

    不動産を会社に移すと、オーナーが将来引き継ぐ財産は、個々の不動産から会社の株式に置き換わります。

    • 共有を避けやすくなる:不動産を複数の相続人で共有する事態は避けやすくなります。
    • 一方で、株式が分散すると意思決定が難しくなる:相続人が株式を分けて持つと、物件の売却や借入れなど会社の重要な判断がまとまらなくなることがあります。
    • 特定の物件を特定の相続人に渡しにくくなる:個人で持っていれば「この物件は長男に」と分けられたものが、会社の中では一体になります。

    どの物件を会社に移し、どの物件を個人に残すかは、家族の誰に何を渡したいかという承継の方針と合わせて決めることが重要です。会社の株式と経営権の承継については、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 全物件を一度に移さない:物件ごとに移転時の負担と効果は異なります。効果の大きい物件から段階的に検討する方法もあります。
    • 移転価額の根拠を残す:同族間の取引では、価額の妥当性が問われやすくなります。鑑定評価などの資料を保存しておきます。
    • 借入金の扱いを先に金融機関と相談する:物件に担保が設定されている場合、所有者の変更には金融機関の理解が必要です。
    • 契約書と届出をそろえる:土地の賃貸借契約書、無償返還の定め、届出書の控えなど、借地関係を説明できる書類を整えておきます。
    • 相続税の試算を移転前後で比較する:土地の評価、小規模宅地等の特例、会社の株式評価の変化を合わせて確認します。

    AEGISの視点

    不動産の法人化は、「法人のほうが税率が低いから移す」という単純な話ではありません。AEGISは、個人から法人への移転を「同じ不動産について、所有者・収益の受け手・管理の担い手・将来の承継者を組み替える設計」と捉えています。

    建物だけを移すのか、土地も移すのか、それとも移さずに管理だけを会社に任せるのか。この選択は、毎年の税負担だけでなく、地代という形で個人と会社の間に新しい資金の流れをつくり、土地と建物の所有者を分け、相続のときの財産の姿を変えます。どの方法が正解かは、物件の収益性、保有期間の見通し、家族の構成と意向によって異なります。

    だからこそ、移転を検討するときには、税額の試算から始めるのではなく、まず「この物件を、今後誰が、どのくらいの期間、どのような目的で持つのか」を言葉にしてみることをおすすめします。その答えが、移すべき物件と、移し方を自然に絞り込んでくれます。

    資産管理会社の設立タイミングを含む全体像は関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、個人保有と法人保有の基本的な比較は「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で解説しています。

    不動産の評価や法人との関係を含む不動産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産を法人へ移す判断は、「移転時に一度かかる負担」と「移転後に毎年続く効果」を同じ時間軸で比べることが基本です。
    • 移転時には、個人の譲渡所得税、会社の登録免許税・不動産取得税などがかかり得ます。時価の2分の1未満の価額による法人への譲渡は、時価で譲渡したものとみなされます。
    • 建物だけを移す場合は、借地権の整理(権利金・相当の地代・土地の無償返還に関する届出など)が欠かせません。
    • 整理の方法や地代の水準は、個人の土地の評価、会社の株式評価、小規模宅地等の特例にも影響します。
    • 不動産は会社の株式に置き換わるため、どの物件を移すかは承継の方針と合わせて決めることが重要です。

    具体的な課税関係や最適な方法は、物件の状況や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 建物だけを会社に売れば、譲渡所得税はかかりませんか?

    建物の売却でも、売却価額が建物の取得費(減価償却後の金額)を上回れば、譲渡所得の課税が生じます。また、価額を低く設定しすぎると、時価で譲渡したものとみなされたり、会社側で受贈益が生じたりすることがあります。客観的な根拠のある価額で移転することが大切です。

    Q. 「土地の無償返還に関する届出書」は、地主が個人でも出せますか?

    国税庁の手続案内では、土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとされています。届出は、契約書で将来の無償返還が定められていることを前提に、法人と借地人(または土地所有者)の連名で、遅滞なく提出します。

    Q. 会社が個人に地代を払わなければ、問題はありませんか?

    法人が関わる土地の貸し借りでは、個人間の使用貸借と同じようには扱われず、借地権の認定課税の問題が生じることがあります。地代を支払わない場合でも、無償返還の定めと届出などによって整理しておく必要があります。また、地代の有無は、相続時の土地や株式の評価にも影響します。

    Q. 不動産を会社に移すと、小規模宅地等の特例は使えなくなりますか?

    一概には言えません。土地を個人に残して会社に貸す場合には、貸付事業用宅地等として特例の対象となる可能性がありますが、相続開始前3年以内に新たに貸し付けた宅地等は原則として対象外とされています(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け〔特定貸付事業〕を続けていた場合を除く)。移転の前後で適用区分がどう変わるかを確認することが大切です。

    Q. すべての物件を一度に会社へ移したほうがよいですか?

    必ずしもそうではありません。物件ごとに、移転時の負担、毎年の効果、今後の保有期間の見通しが異なります。効果の大きい物件から段階的に検討する方法や、新たに取得する物件から会社で購入する方法も選択肢になります。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.7-34、P.132-140
    • 『実務家のための要点・譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】』塩野入文雄 著、法令出版、P.3-7
  • 個人版事業承継税制で個人事業を引き継ぐ|対象資産・要件・小規模宅地等の特例との選び方

    個人版事業承継税制で個人事業を引き継ぐ|対象資産・要件・小規模宅地等の特例との選び方

    個人で営む事業の土地・建物・設備を後継者に引き継ぐとき、一定の要件を満たせば、その事業用資産にかかる贈与税・相続税の全額の納税を猶予し、後継者の死亡などにより免除する制度があります。これが「個人版事業承継税制」(個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除)です。

    ただし、この制度は「申告のときに選べばよい」ものではありません。事前の計画提出、都道府県知事の認定、青色申告の継続といった手続きが前提で、承継後も長く事業を続けることが求められます。また、事業用の宅地については、相続税の「小規模宅地等の特例」とどちらを使うかという選択の問題もあります。

    この記事では、個人事業の後継者が制度を使えるかどうかを判断するために、対象資産・期限・要件・小規模宅地等の特例との関係・猶予が打ち切られる場面を順に整理します。

    個人版事業承継税制とは

    個人版事業承継税制は、青色申告をしている個人事業者の後継者として、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」)の認定を受けた人が、先代事業者から事業用資産を贈与または相続等で取得した場合に、その資産にかかる贈与税・相続税の納税を猶予する制度です(国税庁「個人版事業承継税制のあらまし」)。

    会社の株式を引き継ぐ「法人版事業承継税制」と対になる制度ですが、引き継ぐ対象が株式ではなく、個人が所有する土地・建物・減価償却資産そのものである点が大きく異なります。法人なら株式を移せば会社の資産はまとめて移りますが、個人事業では資産を一つずつ後継者に移す必要があるため、制度もそれを前提に組み立てられています。

    会社の株式の承継で同様の制度を使うかどうかは、関連記事「法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断」で整理しています。

    制度の期限:いつまでに何をするか

    まず確認したいのは期限です。国税庁のパンフレット(令和8年7月)では、次のように示されています。

    • 対象となる贈与・相続等の期間:平成31年1月1日から令和10年12月31日まで
    • 個人事業承継計画の提出期限:令和10年9月30日まで(提出先は先代事業者の主たる事務所がある都道府県)

    個人事業承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正の大綱で「2年6月延長する」とされ、これを反映したものです。なお、贈与・相続等の期間(令和10年12月31日まで)が延長されたわけではない点に注意が必要です。

    個人事業承継計画には、後継者の氏名や承継までの事業計画などを記載し、認定経営革新等支援機関(税理士、金融機関など)の所見を付けて提出します。パンフレットでは、贈与や相続の後であっても、円滑化法の認定申請のときまでは計画を提出できるとされています。

    そのうえで、承継が起きた後には都道府県知事の円滑化法の認定を受けます。申請期限は、贈与の場合は贈与を受けた年の翌年1月15日まで、相続の場合は相続開始後8か月以内です。相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)より早く到来するため、相続が起きてから準備を始めると時間的な余裕はほとんどありません。

    対象になる事業用資産

    猶予の対象となる「特定事業用資産」は、先代事業者の事業の用に供されていた資産で、贈与や相続の日の属する年の前年分の、事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていたものです。

    区分対象の範囲
    宅地等400㎡まで
    建物床面積800㎡まで
    上記以外の減価償却資産固定資産税の課税対象とされているもの、自動車税・軽自動車税で営業用の標準税率が適用されるもの、一定の無形固定資産や生物など

    いくつかの点を押さえておきましょう。

    • 事業所得の事業が対象です。前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に載っていることが前提のため、不動産所得となる賃貸業は対象になりません。
    • 先代事業者と生計を一にする親族が所有する資産も対象になり得ます。たとえば、配偶者名義の土地の上に先代事業者が建物を建てて事業をしている場合の土地などです。この場合、最初の承継から1年以内の承継に限られます。
    • 在庫や預金、売掛金などは対象外です。対象は土地・建物・減価償却資産に限られます。
    • 事業ごとに資産の全部を引き継ぐことが前提です。贈与の場合、その事業に係る特定事業用資産の全てを贈与する必要があり、一部だけを渡すと適用を受けられません。

    なお、法人版と異なり後継者の数に上限はなく、複数の事業を営んでいる場合に事業ごとに異なる後継者が引き継ぐことも想定されています。

    後継者と先代事業者の主な要件

    要件は贈与と相続で一部異なります。代表的なものは次のとおりです。

    後継者(贈与の場合) – 贈与の日に18歳以上であること – 円滑化法の認定を受けていること – 贈与の直前に、その事業(同種・類似の業務や、事業に必要な知識・技能を習得するための学校での修学を含む)に従事していたこと – 贈与から1か月以内に開業届を出し、2か月以内に青色申告の承認申請をすること

    後継者(相続の場合) – 円滑化法の認定を受けていること – 相続開始の直前に、その事業に従事していたこと(先代事業者が60歳未満で亡くなった場合を除く) – 相続税の申告期限までに青色申告の承認を受けていること

    先代事業者 – 贈与・相続の年、その前年、前々年の確定申告書を青色申告書で提出していること – 贈与の場合は、廃業届を提出していること(または提出見込みであること)

    ここで重要なのが青色申告の種類です。対象となる青色申告は、正規の簿記の原則による記帳に基づくもの(55万円、電子申告等の場合は65万円の青色申告特別控除の適用に係るもの)に限られます。簡易な記帳による10万円控除の青色申告では要件を満たしません。日々の記帳の仕方が、数年後の承継に影響するということです。

    また、資産の大半が有価証券や自ら使っていない不動産、預金などで占められる事業(資産保有型事業)や、運用収入が大半を占める事業(資産運用型事業)、性風俗関連特殊営業は対象外です。

    小規模宅地等の特例とどちらを使うか

    個人事業の承継で最も悩ましいのが、相続税の小規模宅地等の特例との関係です。

    小規模宅地等の特例では、亡くなった方が事業に使っていた宅地(特定事業用宅地等)について、400㎡まで評価額を80%減額できます。一方、個人版事業承継税制は、宅地等400㎡までの相続税の全額を猶予します。

    両者の関係は次のように整理されています(国税庁パンフレット、措置法通達70の6の10-17)。

    小規模宅地等の特例で選んだ宅地個人版事業承継税制への影響
    特定事業用宅地等その被相続人から取得した特定事業用資産について、個人版事業承継税制は使えない
    特定同族会社事業用宅地等個人版の宅地等の限度面積が「400㎡-その面積」になる
    貸付事業用宅地等一定の算式で限度面積が調整される
    特定居住用宅地等(自宅の敷地)個人版の宅地等の限度面積は400㎡のまま

    つまり、自宅の敷地に小規模宅地等の特例を使い、事業用の土地・建物・設備に個人版事業承継税制を使う組み合わせは可能ですが、事業用の宅地に小規模宅地等の特例を使うと、建物や設備も含めて個人版事業承継税制は使えなくなります。

    どちらを選ぶかは、次のような観点で比較します。

    比較の観点小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)個人版事業承継税制
    効果宅地の評価額を80%減額(税額が確定的に減る)対象資産の相続税を全額猶予(条件を満たし続ければ免除)
    対象宅地等のみ宅地等・建物・減価償却資産
    事前手続不要個人事業承継計画の提出、円滑化法の認定
    承継後の負担申告期限まで事業継続・保有長期の事業継続、3年ごとの継続届出、担保提供
    打ち切られた場合—猶予税額と利子税の納付

    建物や設備の評価額が小さく、宅地が中心であれば、手続きが簡便で効果が確定する小規模宅地等の特例が合理的な場合が多いと考えられます。反対に、工場の建物や大型の機械設備など、宅地以外の事業用資産の評価額が大きい場合には、個人版事業承継税制の検討余地が広がります。いずれも具体的な試算と、後継者が長く事業を続けられるかの見通しを合わせて判断することになります。

    猶予が打ち切られる場面と、続ける間の負担

    納税猶予は、承継後の状況によって打ち切られることがあります。国税庁のパンフレットでは、主に次のような場合が示されています。

    • 猶予税額の全額を納付する場合:事業を廃止した場合(やむを得ない理由がある場合を除く)、資産保有型事業等に該当した場合、事業所得の総収入金額がゼロになった場合、青色申告の承認が取り消された場合など
    • 一部を納付する場合:特定事業用資産を事業の用に供さなくなった場合など(その部分に対応する税額)

    また、猶予を受けている間は、3年ごとに継続届出書を税務署に提出する必要があり、提出しないと猶予税額の全額と利子税を納めることになります。猶予を受けるときには、猶予税額と利子税に見合う担保の提供も求められます。

    一方、後継者が亡くなった場合や、一定期間経過後に次の後継者へ資産を一括して贈与した場合、重い障害や要介護状態などやむを得ない理由で事業を続けられなくなった場合などには、猶予税額の全部または一部が免除される仕組みも用意されています。

    実務上注意したいポイント

    • 期限は「計画」と「認定」の二段階:計画の提出期限(令和10年9月30日)と、贈与・相続の期限(令和10年12月31日)は別のものです。承継の予定時期から逆算して準備します。
    • 青色申告の種類を今から確認する:先代事業者が前々年から正規の簿記による青色申告をしていることが要件です。10万円控除の青色申告であれば、早めに記帳方法を見直す必要があります。
    • 貸借対照表に載っていない資産は対象外:事業に使っている資産が帳簿に計上されているか、名義と実態が一致しているかを確認します。
    • 許認可や契約は税制とは別に引き継ぐ:個人事業の承継では、先代が廃業し、後継者が新たに開業する形になります。許認可や取引契約、借入金の扱いは、税制とは別に一つずつ確認が必要です。
    • 遺言で資産の行き先を決めておく:相続で承継する場合、遺産分割がまとまらなければ認定や申告に間に合わないおそれがあります。

    個人事業主が遺言で何を備えておくべきかは、関連記事「個人事業主が遺言で備えること」で扱っています。

    AEGISの視点

    個人版事業承継税制は、使えれば税負担の面で大きな効果がある制度です。しかし、AEGISはこの制度を「税金を猶予する仕組み」である以上に、「後継者が長く事業を続けることを国と約束する仕組み」だと考えています。猶予を受けた後、事業をやめる、事業の形を変える、資産を手放すといった選択には、猶予税額の納付という重みが伴います。

    そのため、制度を使うかどうかの判断は、税額の比較から始めるのではなく、後継者がこの事業をどのくらいの期間、どのような形で続けたいのかを確認するところから始めるべきだと考えます。将来、法人化や事業の譲渡、事業内容の転換を考えているのであれば、その可能性も含めて小規模宅地等の特例や生前の贈与など他の選択肢と比べる必要があります。

    また、個人事業の承継は、資産の移転だけでは完結しません。屋号、取引先との契約、許認可、従業員との雇用関係、事業用の借入れと担保、そして後継者以外の家族への配慮——これらを一つずつ引き継ぐ段取りを組むことが、税制の適用以上に事業の継続を左右します。第三者への承継も視野に入れる場合は、関連記事「個人事業を第三者に譲る方法」も参考になります。

    事業承継の全体像は「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    事業用資産の評価や相続税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人版事業承継税制は、個人事業の土地・建物・減価償却資産にかかる贈与税・相続税の全額を猶予し、一定の場合に免除する制度です。
    • 対象となる贈与・相続等は令和10年12月31日まで、個人事業承継計画の提出期限は令和10年9月30日までです(令和8年度税制改正の大綱で計画提出期限を延長)。
    • 宅地等は400㎡まで、建物は床面積800㎡までなどの範囲があり、正規の簿記による青色申告が前提です。
    • 事業用宅地に小規模宅地等の特例を使うと、個人版事業承継税制は使えません。自宅の敷地への小規模宅地等の特例とは併用が可能です。
    • 承継後も事業の継続や3年ごとの届出が求められ、事業の廃止などで猶予が打ち切られることがあります。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 不動産賃貸業を営んでいる場合も使えますか?

    使えません。この制度は事業所得に係る青色申告の事業を対象としており、特定事業用資産は前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていたものに限られます。賃貸業の所得は不動産所得となるため、対象外です。

    Q. 個人事業承継計画を出さずに相続が起きたら、もう使えませんか?

    国税庁のパンフレットでは、贈与や相続の後であっても、円滑化法の認定申請のときまでは個人事業承継計画を提出できるとされています(提出期限は令和10年9月30日)。ただし、相続の場合の認定申請は相続開始後8か月以内であり、その間に後継者の要件や青色申告の承認なども整える必要があるため、事前に準備しておくことが現実的です。

    Q. 後継者が複数いる場合はどうなりますか?

    法人版事業承継税制と異なり、後継者の人数に上限はありません。複数の事業を営んでいる場合に事業ごとに異なる後継者が引き継ぐことも想定されています。なお、宅地等400㎡・建物800㎡の面積は、各後継者が取得した面積の合計で判定します。

    Q. 承継後に法人化(法人成り)したいときはどうなりますか?

    最初の贈与税(または相続税)の申告期限の翌日から5年を経過した後に、特例の対象となった事業用資産の全てを現物出資して会社を設立する場合には、移転の日から1か月以内に申請して税務署長の承認を受けることで、取得した株式等について猶予が継続する扱いがあります(租税特別措置法70条の6の8第6項)。法人化の予定がある場合は、時期と方法によって扱いが変わるため、承継前に確認しておくことが重要です。

    Q. 猶予を受けた税金は、最終的に払わなくてよいのですか?

    後継者が亡くなった場合などには猶予税額が免除されます。一方、事業の廃止や青色申告の承認取消しなどで猶予が打ち切られた場合は、猶予税額と利子税を納付することになります。「最終的に免除されるかどうか」は、承継後の事業の続け方によって決まります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け、次世代へ引き継ぐための準備として、事業資金・民事信託(いわゆる家族信託)・遺言・契約・金融機関対応を確認します。
    • 事業承継:後継者、経営権、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.1085-1090、P.1233-1234
    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.29-31
  • 黒字廃業を選ぶ前に比較したいこと|清算・第三者への引継ぎ・事業の一部譲渡を、手取り・人・資産の行き先で比べる

    黒字廃業を選ぶ前に比較したいこと|清算・第三者への引継ぎ・事業の一部譲渡を、手取り・人・資産の行き先で比べる

    「業績は悪くない。でも継ぐ人がいないから、自分の代で終わりにしよう」——黒字のまま会社をたたむ、いわゆる黒字廃業を考えるオーナーは少なくありません。中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、廃業は事業承継と並ぶ検討対象として取り上げられています。

    廃業は、決して後ろ向きな選択ではありません。ただ、黒字の会社には、取引先、従業員の技能、顧客との関係、事業用の不動産など、会社をたたむと失われてしまう価値があります。結論から言えば、黒字廃業を決める前に、少なくとも「清算した場合の手取り」と「引き継いだ場合の手取り」、そして「人と資産がどこへ行くか」を並べて比べることが大切です。

    この記事では、廃業(清算)の流れと課税のしくみを確認したうえで、第三者への引継ぎ、事業の一部譲渡などの選択肢と比べる考え方を整理します。

    黒字廃業とは何か

    黒字廃業とは、利益が出ていて資産が負債を上回っている会社が、後継者の不在や経営者の高齢化などを理由に、事業をやめて会社を解散・清算することをいいます。債務超過で事業を続けられなくなる廃業とは異なり、借入をすべて返したうえで、残った財産を株主に分配できるのが特徴です。

    だからこそ、「借金がないうちに、きれいにたたみたい」という考えには合理性があります。一方で、その会社を必要としている人がいる場合や、事業として買い手がつく場合には、廃業以外の選択肢の方が、オーナー自身にとっても関係者にとっても望ましい結果になることがあります。

    会社をたたむ流れ

    株式会社の廃業は、一般に次のような流れで進みます。

    1. 方針の決定と準備:従業員、取引先、金融機関への説明の時期と順番を決める
    2. 解散:株主総会の特別決議(原則として出席株主の議決権の3分の2以上)で会社を解散し、清算人を選任する
    3. 清算:取引を終了し、資産を売却・回収し、債務を支払う。債権者に対しては、2か月以上の期間を定めて債権の申出を求める官報公告と、知れている債権者への個別の催告を行う
    4. 残余財産の分配:すべての債務を支払った後に残った財産を株主に分配する
    5. 清算結了:清算事務を終え、登記を行う

    税務面では、解散した日で事業年度が区切られ、清算中の事業年度、残余財産が確定した事業年度ごとに申告が必要になります。清算中も法人税の申告は続き、資産の売却で生じた利益にも課税されます。申告期限は、解散の日までの事業年度や清算中の事業年度は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内、残余財産が確定した事業年度は確定の日の翌日から1か月以内(その期間内に残余財産の最後の分配を行う場合は、その前日まで)です。手続には相応の期間がかかるため、廃業を決めた時点から逆算して準備することが欠かせません。

    清算するとき、税金はどこにかかるか

    黒字廃業で見落とされやすいのが、清算時の課税です。課税は「会社の段階」と「株主の段階」の二つで考えます。

    会社の段階:資産の売却益への課税

    清算の過程で、不動産や有価証券などを売却して利益が出れば、会社に法人税等がかかります。長年保有している土地や建物に含み益がある場合、この負担は小さくありません。

    株主の段階:みなし配当

    残余財産の分配を受けた株主は、分配額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分が配当とみなされ(みなし配当。所得税法25条)、配当所得として課税されます。配当所得は原則として総合課税の対象となるため、他の所得と合算され、分配額が大きいほど高い税率が適用されやすくなります。

    これに対し、会社の株式をそのまま第三者に売却する場合、非上場株式の譲渡益は申告分離課税で、税率は所得税・住民税をあわせて20%(ほかに復興特別所得税)です。同じ会社の価値を現金化するのでも、「清算して分配を受ける」か「株式を売る」かで、税金のかかり方が大きく変わる点は、比較のうえで重要です。

    役員退職金をどう考えるか

    清算の前にオーナーが役員を退任し、退職金を受け取ることもあります。退職所得は、収入金額から退職所得控除額を差し引いた額の2分の1が課税の対象となり、他の所得と分離して計算されます(役員等としての勤続年数が5年以下の場合などには、2分の1の計算が適用されない場合があります)。退職金を支払えば会社に残る財産は減るため、残余財産の分配との組み合わせで手取りが変わります。ただし退職金の額には、職務や在任期間に照らした相当性が求められます。

    廃業以外の選択肢

    後継者が親族や社内にいなくても、会社や事業を引き継ぐ方法はあります。

    • 第三者への株式譲渡(M&A):会社ごと譲り渡す方法です。従業員の雇用や取引先との契約が、原則としてそのまま会社に残ります。
    • 事業譲渡:会社の事業の全部または一部を、他の会社に譲り渡す方法です。不採算部門を残して主要な事業だけを引き継いでもらうこともできます。譲渡後に会社を清算する場合は、上記の清算時の課税も合わせて考えます。
    • 事業の一部の引継ぎ:会社全体の買い手が見つからなくても、特定の取引先、技術、ブランド、店舗などを、同業者や取引先に引き継いでもらう方法があります。
    • 役員・従業員への承継:社内に意欲のある人材がいれば、資金調達の工夫で承継できることがあります。
    • 社会貢献の形での承継:事業や財産の一部を、地域や社会のために生かす形(財団の活用など)で残すことを考えるオーナーもいます。

    第三者への引継ぎについては、公的な相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」で相談することもできます(中小企業基盤整備機構の事業承継・引継ぎポータルサイトで案内されています)。

    5つの視点で比べる

    比べる視点清算(廃業)第三者への株式譲渡事業の全部・一部の譲渡
    オーナーの手取り残余財産の分配(みなし配当中心)+役員退職金株式の譲渡代金(申告分離課税)+役員退職金会社が受け取る譲渡代金を、清算等で受け取る
    従業員雇用は終了。再就職支援が課題原則として雇用は継続引き継がれる事業の範囲で継続
    取引先・顧客供給の停止。代替先の確保が必要原則として取引は継続譲渡対象の取引は継続
    事業用不動産売却・賃貸・自己利用など行き先を決める会社所有なら会社ごと移る。オーナー個人所有なら賃貸・売却の条件を決める譲渡対象に含めるか、残して活用するかを決める
    時間と不確実性自分で進められるが、手続に一定の期間買い手探しに時間がかかり、成立しないこともある部分的でも成立しやすい場合がある

    ※上表は一般的な傾向を整理したものです。実際の手取りや影響は、会社の資産構成・株主構成・契約内容によって大きく異なります。

    「手取り」は税引後で比べる

    M&Aの提示額と清算時の残余財産を、税引前の金額で比べると判断を誤ります。清算は会社段階と株主段階の二重の課税を受けやすく、株式譲渡は分離課税の対象になるため、最終的にオーナーの手元に残る金額で比べることが基本です。

    「人」の行き先を数字と同じ重さで考える

    黒字廃業では、従業員の雇用、取引先の供給網、顧客へのサービスが途切れます。オーナーにとって、長年支えてくれた人たちの行き先は、手取りと同じくらい重要な判断材料になるはずです。

    「不動産」の行き先を先に決める

    工場や店舗、事務所の土地・建物は、廃業後の扱いを決めないと遊休資産になります。オーナー個人が所有して会社に貸している場合は、廃業によって賃料収入がなくなり、相続の対象として残ることになります。売却・賃貸・別の事業への活用など、廃業とセットで行き先を検討します。

    実務上注意したいポイント

    • 伝える順番を設計する:廃業の情報が先に広がると、従業員の離職や取引の打切りが早まり、清算時の資産価値が下がることがあります。
    • 経営者保証と借入を確認する:黒字廃業でも、借入の返済と保証の解除を確認しておく必要があります。
    • 許認可や契約の終了手続:事業に関する許認可、リース、賃貸借、取引基本契約の解約条件を一覧にします。
    • 決める前に「売れるか」を確かめる:廃業を決める前に、M&Aや事業の一部譲渡の可能性を一度確認しておくと、比較の材料がそろいます。

    AEGISの視点

    黒字廃業の相談を受けるとき、AEGISがまずお聞きするのは、「会社の何を終わらせたいのか、何を残したいのか」という問いです。

    オーナーが終わらせたいのは、多くの場合、「自分が経営の責任を負い続けること」です。必ずしも、事業そのものや、従業員の仕事、地域とのつながりまで終わらせたいわけではありません。そう整理すると、経営の責任からは退きつつ、事業や人、不動産を別の形で生かす道が見えてくることがあります。事業を第三者に引き継ぐ、事業の一部を取引先に託す、不動産を地域の需要に合う事業に活用する、財産の一部を社会貢献に充てる——選択肢は「継ぐか、たたむか」の二択ではありません。

    一方で、比較したうえで廃業を選ぶことも、十分に尊重されるべき判断です。大切なのは、手取り・人・資産の行き先を並べたうえで、オーナーが納得して選んだと言える状態をつくることだとAEGISは考えています。

    承継方法そのものの比較は「親族内承継・従業員承継・M&Aの比較」で、会社売却の準備は「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で、社会貢献の形で財産を生かす考え方は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    清算時の課税や株式・不動産の承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 黒字廃業は合理的な選択肢の一つですが、会社をたたむと失われる価値があるため、引き継ぐ選択肢と比較してから決めることが大切です。
    • 清算では、会社段階での資産売却益への課税と、株主段階でのみなし配当(原則総合課税)を考える必要があります。
    • 株式を第三者に売却する場合は、譲渡益に申告分離課税が適用されるため、税引後の手取りで比べることが基本です。
    • 比較の視点は、オーナーの手取り、従業員、取引先・顧客、事業用不動産、時間と不確実性の5つです。
    • 具体的な税額や手続は、会社の資産構成・株主構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 黒字のうちに廃業すれば、税金はかかりませんか?

    かかります。清算中の資産の売却益には会社に法人税等がかかり、株主が残余財産の分配を受けると、資本金等の額を超える部分はみなし配当として課税されます。黒字であるほど残余財産が大きくなり、株主段階の税負担も大きくなりやすい点に注意が必要です。

    Q. 小さな会社でも、M&Aで引き継いでもらえることはありますか?

    会社の規模が小さくても、取引先、技術、許認可、店舗などに価値があれば、同業者などが引き継ぎを検討することがあります。会社全体の譲渡が難しくても、事業の一部だけを引き継いでもらう方法もあります。公的な相談窓口として事業承継・引継ぎ支援センターがあります。

    Q. 廃業と決めたら、まず誰に伝えるべきですか?

    一般には、家族と主要な関係者で方針を固めたうえで、金融機関や顧問の専門家と手順を確認し、従業員、取引先の順に伝えることが多いといえます。伝える時期を誤ると、従業員の離職や取引の打切りが先行するおそれがあるため、順番を事前に設計しておくことが大切です。

    Q. 会社が使っている土地や建物が社長個人のものの場合、どうなりますか?

    会社が廃業すると賃料収入がなくなり、不動産は個人の財産として残ります。売却、他者への賃貸、別の事業への活用、相続まで含めて、廃業と同時に行き先を検討しておくことが望まれます。

    Q. 廃業と比べるとき、何から調べればよいですか?

    まず、清算した場合の残余財産と税引後の手取りの見込みを把握することです。そのうえで、会社や事業の一部に引き継ぎ手がいるかを確認すると、比較の材料がそろいます。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 事業承継:後継者・経営権・株式・資金・ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどの方法を比較しながら承継計画を検討します。
    • M&A:会社売却の方針や取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『これだけ!組織再編&事業承継税制(第3版)』佐藤信祐・長谷川太郎 著、中央経済社、P.155-166
    • 『専門家のための事業承継入門 事例で学ぶ!事業承継フレームワーク』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房、P.2-29(第1章)
  • 資産管理会社と事業会社の資金管理|会社間・オーナー間の貸し借りをどう整理するか

    資産管理会社と事業会社の資金管理|会社間・オーナー間の貸し借りをどう整理するか

    事業会社を経営しながら資産管理会社も持っているオーナーにとって、「どの会社のお金を、どこに、どう動かしてよいのか」は、日常的に生じる悩みの一つです。事業会社の資金繰りが厳しいときに資産管理会社から融通する、オーナーが個人の資金を会社に入れる、会社がオーナーに立て替える——いずれも同族のグループでは自然に起こる資金移動です。

    しかし、会社とオーナー、会社と会社は、税務上はそれぞれ別の人格です。グループの中のお金の移動であっても、取引ごとに「貸付なのか、出資なのか、贈与なのか」が問われ、利息の有無や契約の整え方によって課税関係が変わることがあります。

    この記事では、資産管理会社・事業会社・オーナー個人の間で生じやすい資金移動を類型ごとに整理し、日頃から管理しておきたいポイントを解説します。

    なぜ資金管理が論点になるのか

    オーナー一族が複数の会社を持つと、それぞれの会社とオーナー個人の間に、次のような取引が生まれやすくなります。

    • 事業会社が、資産管理会社の保有する土地・建物を借りて使う
    • 資産管理会社が、事業会社に運転資金を貸し付ける
    • オーナー個人が、会社に資金を貸し付ける(いわゆる役員借入金)
    • 会社が、オーナー個人に資金を貸し付ける(いわゆる役員貸付金)
    • 会社が、オーナーや家族に役員報酬・給与・配当を支払う

    一つひとつは小さな取引でも、長年積み重なると、各社の決算書に多額の貸付金・借入金が残り、どの会社がどれだけの財産を持っているのかが分かりにくくなります。そして、それはいずれ、株式の評価や相続財産の範囲、後継者が引き継ぐ会社の健全性に影響します。

    資金移動の類型と主な確認点

    AEGISでは、グループ内の資金移動を次の5つの類型に分けて確認することをおすすめしています。

    類型典型的な例主な確認点
    A. 会社 → オーナー個人への貸付会社がオーナーの私的支出を立て替え、貸付金として残っている利息の設定、返済の実態、給与との区別
    B. オーナー個人 → 会社への貸付会社の資金不足をオーナー個人の資金で補った返済の見通し、相続財産としての扱い
    C. 会社 → 会社への貸付資産管理会社が事業会社に運転資金を貸した利率の合理性、寄附金・受贈益の問題、株主構成
    D. 会社間の不動産の賃貸借事業会社が資産管理会社の建物や土地を借りている賃料水準、土地の貸し借りと借地権の整理
    E. 会社 → 個人への報酬・配当家族への役員報酬、株主への配当職務の実態、会社に残す資金とのバランス

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。

    以下、類型ごとに見ていきます。

    A. 会社からオーナー個人への貸付

    会社がオーナーや役員にお金を貸す場合、無利息や、通常より低い利率で貸し付けると、本来支払うべき利息との差額が、役員が受けた経済的な利益(給与)として扱われる場合があります。

    国税庁によれば、役員や使用人に貸し付けた金銭の利息相当額は、会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金の利率、それ以外の場合は貸付けを行った年ごとに定められた利率によるとされています(令和8年中の貸付けは年1.3%)。そのうえで、次のような場合には、給与として課税しなくてよいとされています(国税庁 No.2606)。

    • 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員や使用人に、合理的と認められる金額や返済期間で貸し付ける場合
    • 会社の借入金の平均調達金利など、合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって貸し付ける場合
    • 上記以外で、利息相当額と実際に支払う利息の差額が、年間5,000円以下である場合

    実務上は、利率よりもむしろ「そもそも貸付として管理されているか」が問題になりがちです。会社の資金で私的な支出を立て替え、そのまま返済されずに残っている状態は、貸付としての実態が問われるおそれがあります。金銭消費貸借契約書を作成し、返済計画どおりに返済されているかを確認することが基本です。

    B. オーナー個人から会社への貸付

    会社の資金が不足したとき、オーナーが個人の資金を会社に貸し付けるのは珍しくありません。ここで見落とされがちなのは、オーナーが会社に貸したお金は、オーナー個人の財産(会社に対する債権)として残るという点です。

    会社への貸付金は、オーナーに相続が発生すれば相続財産に含まれます。財産評価基本通達では、貸付金は原則として元本と既経過利息の合計額で評価され、元本に算入しないのは、債務者の破産手続開始や事業廃止など、回収が不可能または著しく困難と見込まれる場合に限られています(同通達204・205)。会社の財務状況から見て返済の見込みが乏しい貸付金であっても、相続財産として扱われることになり得るため、「返ってこないお金に相続税がかかる」という事態が起こり得ます。

    役員借入金が多額に積み上がっている場合には、次のような点を早めに整理しておくことが大切です。

    • 会社に返済能力があるか、返済計画を立てられるか
    • 返済が難しい場合に、どのような方法で整理するか(整理の方法によっては、会社側に課税関係が生じることもあるため、個別の検討が必要です)
    • 事業承継・相続の計画の中で、貸付金を誰がどう引き継ぐか

    C. 会社から会社への貸付

    資産管理会社から事業会社へ、あるいはその逆に、グループ会社の間で資金を貸し借りすることもよくあります。

    利息を取らない貸付は「経済的利益の供与」になり得る

    会社同士はそれぞれ独立した法人であるため、無利息や著しく低い利率で資金を貸し付けると、本来受け取るべき利息相当額について、貸した側の会社から借りた側の会社への経済的な利益の供与と見られる場合があります。

    国税庁によれば、法人税法上の寄附金には、金銭その他の資産の贈与だけでなく、経済的な利益の無償の供与も含まれるとされています(国税庁 No.5281)。寄附金とされた金額は、損金に算入できる額に限度があります。また、借りた側の会社では、受けた利益が受贈益として益金に算入される場合があります。

    ただし、グループ会社への貸付が無利息であることにも、取引の経緯や目的によってはさまざまな事情があり得ます。法人税基本通達では、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行う、合理的な再建計画に基づく無利息貸付けなど、相当な理由があると認められる場合には寄附金に当たらないとする取扱いも示されています(法人税基本通達9-4-2)。どのような場合に寄附金や受贈益とされるかは個別の事実関係によって判断が分かれるため、利率を決めた根拠を記録に残しておくことが重要です。

    「完全支配関係」がある場合の取扱い

    グループ会社の間に、100%の株式保有関係(完全支配関係)がある場合には、特別な取扱いがあります。国税庁によれば、完全支配関係(法人による完全支配関係に限ります)がある他の内国法人に対して支出した寄附金は、受贈益に対応するものについて、その全額が損金に算入されないとされています(国税庁 No.5281)。

    ここで注意したいのは、この取扱いが「法人による完全支配関係」に限られている点です。たとえば、オーナー個人が資産管理会社と事業会社の株式をそれぞれ100%持っている「兄弟会社」の関係では、取扱いが異なる場合があります。グループの株主構成によって、同じ貸付でも課税関係が変わり得るため、株主構成と資金の流れをあわせて確認することが大切です。

    D. 会社間の不動産の賃貸借

    事業会社が、資産管理会社の保有する本社ビルや工場、店舗などを借りて使っているケースは多く見られます。

    賃料の水準

    賃料が周辺の相場に比べて高すぎたり低すぎたりすると、一方の会社から他方の会社への利益の移転と見られる場合があります。どのような根拠で賃料を決めたのか(周辺相場、固定資産税などの負担、建物の取得価額など)を記録しておくことが基本です。

    土地の貸し借りと借地権

    資産管理会社の土地の上に事業会社が建物を建てる場合のように、会社間で土地を貸し借りすると、借地権の問題が生じることがあります。法人税の取扱いでは、借地権の設定に際して権利金を授受しない場合、一定の地代(相当の地代。土地の更地価額のおおむね年6%程度。法人税基本通達13-1-2、平成元年直法2-2)を収受するか、将来土地を無償で返還する旨を定めて「土地の無償返還に関する届出書」を提出するなどの対応をとらないと、借地権相当額について課税関係が生じることがあります。

    国税庁によれば、土地の無償返還に関する届出は、法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させる場合で、契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められているときに、法人と借地人の連名で、遅滞なく提出する手続とされています(国税庁「土地の無償返還に関する届出」、法人税基本通達13-1-7)。個人と法人の間の土地の貸し借りについては、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」でも解説しています。

    E. 報酬・配当と会社に残す資金

    会社からオーナーや家族に資金を移す正規の経路は、役員報酬・給与・配当などです。資産管理会社で家族に報酬を支払う場合は、その家族が実際に管理業務などに従事しており、職務内容に見合った金額であることが前提です。

    また、会社にどれだけの資金を残し、どれだけを個人に移すかは、税負担だけでなく、将来の修繕・建替え資金、借入金の返済、そして株式の評価にも関わります。この配分の考え方は、関連記事「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で解説しています。

    日頃から管理しておきたい5つのこと

    グループ内の資金移動は、後からまとめて整理しようとすると、取引の経緯が分からなくなり、説明が難しくなります。AEGISでは、次の5つを日常的な管理項目とすることをおすすめしています。

    1. 取引ごとに契約書を作る:金銭消費貸借契約書、賃貸借契約書、管理委託契約書など、取引の内容を書面にする
    2. 利率・賃料の根拠を残す:借入金の調達金利、周辺相場、固定資産税額など、金額を決めた根拠を記録する
    3. 返済を契約どおりに実行する:返済計画を立て、実際の入出金と照合する
    4. 会社間・個人との残高を一覧にする:決算ごとに、各社の貸付金・借入金・未払金などの残高と相手先を一表にまとめる
    5. 意思決定の記録を残す:取締役会や株主総会など、会社としての意思決定の記録を整える(取締役と会社との取引には、株主総会〔取締役会設置会社では取締役会〕の承認などの会社法上の手続きが必要となる場合があります。会社法356条・365条)

    特に4の一覧表は、オーナー一族の財産の全体像を把握するうえで有効です。会社が増えるほど、個々の決算書だけでは資金の流れが見えにくくなるためです。

    実務上注意したいポイント

    「とりあえず仮払金」を放置しない

    用途が決まらないまま「仮払金」「立替金」として処理された資金は、時間が経つほど性質の説明が難しくなります。決算までに、貸付金・費用・報酬などのいずれに当たるのかを整理しておくことが大切です。

    赤字の会社への資金融通は慎重に

    業績の悪い会社に資金を貸し付ける場合、回収可能性が問題になります。回収できない貸付金は、貸した側の会社やオーナー個人の財産として残り続け、後から整理しようとすると課税関係が生じることもあります。

    株主構成とセットで考える

    資金の流れの税務上の取扱いは、会社同士の資本関係(完全支配関係の有無など)によって変わることがあります。会社の設立や株式の移転を検討する際には、グループ内の資金の流れへの影響もあわせて確認することが望まれます。

    AEGISの視点

    資産管理会社と事業会社の資金管理は、一見すると経理の問題に見えます。しかしAEGISは、これを「グループ全体の財産を、誰がどこで持っているかを明確にしておくこと」、すなわち所有の設計の一部と捉えています。

    会社とオーナーの間の貸し借りが整理されていないと、事業承継や相続の場面で「この貸付金は誰が引き継ぐのか」「この会社の株価はなぜこんなに高いのか」といった問いに、すぐには答えられなくなります。反対に、日頃から資金の流れが整理されていれば、どの会社に財産を集め、どの会社をどの後継者に渡すのかといった承継の設計を、具体的に考えられるようになります。

    税務上のリスクを避けることは大切ですが、それ以上に重要なのは、資金の流れを家族と後継者が理解できる形にしておくことです。グループ全体の財産の一覧表を、決算のたびに更新していくこと——それが、複数の会社を持つオーナーにとって最も確実な準備だとAEGISは考えています。

    資産管理会社の設立や位置付けを含む全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    法人との関係を含む資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 同じグループ内の資金移動でも、会社とオーナー、会社と会社は税務上それぞれ別の人格として扱われます。
    • 会社から役員への無利息・低利の貸付は、利息相当額が給与として扱われる場合があります(例外となる場合の基準は国税庁が示しています)。
    • オーナーから会社への貸付金は、オーナーの相続財産になり得ます。返済の見通しを早めに整理することが大切です。
    • 会社間の無利息貸付などは、寄附金・受贈益の問題が生じ得ます。完全支配関係の取扱いは「法人による完全支配関係」に限られる点に注意が必要です。
    • 契約書・金額の根拠・返済の実行・残高一覧・意思決定の記録の5つを、日頃から管理しておくことが基本です。

    具体的な取扱いは、取引の経緯や会社の状況などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社から事業会社に無利息でお金を貸してもよいですか?

    貸すこと自体は可能ですが、無利息や著しく低い利率の場合、本来受け取るべき利息相当額が寄附金や受贈益として扱われる場合があります。取扱いは取引の目的や経緯、会社同士の資本関係によって異なるため、利率を決めた根拠を記録し、個別に確認することが大切です。

    Q. 社長が会社から借りているお金に利息を付けないと、どうなりますか?

    利息相当額と実際の利息との差額が、社長が受けた経済的利益として給与扱いになる場合があります。国税庁は、利息相当額の基準となる利率や、合理的な利率を定めている場合、差額が年間5,000円以下の場合など、課税しなくてよい場合を示しています。

    Q. 社長が会社に貸しているお金は、相続のときにどうなりますか?

    会社に対する貸付金(債権)として、相続財産に含まれることになり得ます。会社の財務状況によって返済が難しい場合でも相続財産として扱われ得るため、相続の前に返済計画や整理の方法を検討しておくことが望まれます。

    Q. 兄弟会社の間の資金のやり取りでも注意が必要ですか?

    注意が必要です。完全支配関係がある法人間の寄附金・受贈益の特別な取扱いは「法人による完全支配関係」に限られるため、オーナー個人が各社の株式を持つ兄弟会社の関係では、取扱いが異なる場合があります。株主構成と資金の流れをあわせて確認することが大切です。

    Q. 事業会社が資産管理会社の土地に建物を建てる場合、何に注意すべきですか?

    土地の貸し借りに伴う借地権の課税関係が論点になります。権利金を授受しない場合には、相当の地代の収受や、土地の無償返還に関する届出書の提出などの対応を検討する必要があります。いずれを選ぶかによって、将来の株式評価などにも影響し得るため、事前に整理しておくことが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 税務顧問と経営管理:税務申告・会計・納税予測・資金繰りをつなぎ、継続的な経営管理を支援します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    勤務先から給与を受けている会社員や勤務医でも、資産管理会社を設立すること自体は可能です。高い給与所得に不動産収入などが上乗せされ、所得税の累進税率が重くなってきた方が、法人化を検討するのは自然な流れといえます。

    ただし、給与所得者の場合は、自ら事業を営むオーナーとは前提が違います。本業の勤務先には就業規則があり、社会保険にはすでに加入しており、借入れの審査では「勤務先からの給与」が信用の土台になっています。こうした事情を確認しないまま会社をつくると、税金以外のところで思わぬ制約にぶつかることがあります。

    この記事では、給与所得者が資産管理会社をつくる前に確認したい論点を、勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬と確定申告・法人での借入れの5つに絞って整理します。

    給与所得者にとって、資産管理会社で変わるもの・変わらないもの

    最初に押さえておきたいのは、資産管理会社に移せるのは「資産から生じる所得」であり、本業の給与は移せないという点です。勤務先から受ける給与は、会社をつくっても引き続き本人の給与所得として課税されます。

    資産管理会社が検討される主な理由は、次のように整理できます。

    • 税率構造の違い:所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる超過累進税率で、最高税率は45%です(国税庁 No.2260)。一方、中小法人の法人税は、所得のうち年800万円以下の部分と超える部分で税率が分かれる仕組みです(国税庁 No.5759)。
    • 所得の行き先を分けられる:不動産収入などを会社に帰属させれば、その所得は本人の給与所得に上乗せされなくなります。
    • 家族への配分と財産の蓄積先:会社から家族に役員報酬を支払ったり、利益を会社に留めたりすることで、本人個人に財産が積み上がるスピードを調整できます。

    一方で、給与所得者ならではの「失うもの」もあります。たとえば、個人で保有する賃貸不動産の不動産所得が赤字になった場合、その損失は原則として給与所得などと損益通算できます(土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は除かれます。国税庁 No.2250)。会社で保有すると、会社の赤字は会社の中にとどまり、本人の給与所得とは通算できません。購入初期に赤字が出やすい物件を個人で持つか会社で持つかは、この点も含めて比べる必要があります。損益通算の考え方は、関連記事「高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと」で詳しく扱っています。

    比べる項目個人で保有する場合資産管理会社で保有する場合
    資産からの所得給与所得と合算され、累進税率で課税会社の所得として法人税等で課税
    赤字が出た場合原則として給与所得と損益通算できる(例外あり)会社の中で処理され、本人の給与とは通算できない
    家族への配分贈与などの方法に限られる職務の実態に応じた役員報酬などで配分できる
    本人の手続確定申告で不動産所得を申告会社の決算・申告に加え、本人の申告内容も変わり得る
    勤務先との関係一般に不動産賃貸の規模・態様が論点役員就任や報酬受領が副業・兼業の規定に触れないかが論点
    承継不動産そのものを相続・贈与会社の株式を相続・贈与

    ※上記は一般的な整理です。具体的な有利・不利は、所得の水準、物件の収支、家族構成によって変わります。

    資産管理会社の設立を検討すべきタイミングや比較の軸の全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。本記事は、そのうち給与所得者に固有の論点に絞っています。

    確認点1:勤務先の就業規則と副業・兼業の扱い

    最初に確認したいのは、勤務先の就業規則や服務規程です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的には労働者の自由であるとしたうえで、会社が副業・兼業を制限できる場合として、次のようなケースを挙げています。

    • 本業への労務提供に支障がある場合
    • 業務上の秘密が漏れる場合
    • 競業により勤務先の利益が害される場合
    • 勤務先の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

    ガイドラインは、雇用されて働く形だけでなく、起業や役員への就任など、労働基準法が適用されない形の副業・兼業も視野に入れています。また、会社が副業・兼業について届出制を設けることが望ましいとしています。

    資産管理会社の場合、確認したいのは次のような点です。

    • 役員就任の扱い:就業規則で、他社の役員に就くことが届出制か許可制か、あるいは制限されているか
    • 株主になるだけの場合:出資して株主になるだけなのか、役員として業務を執行するのかで、規程上の扱いが異なることがあります
    • 競業の可能性:勤務先が不動産・金融関連の業種である場合、会社の事業目的や取引先が勤務先と重ならないか
    • 公的な勤務先の場合:公務員は、営利企業の役員を兼ねることや報酬を得て他の事業に従事することが法律で制限され、承認・許可が必要とされています(国家公務員法103条・104条、地方公務員法38条)。公的な医療機関に勤務する場合も、法令や勤務先の規程に基づく別の制限があるため、個別に確認が必要です

    本人が役員に就けない場合に、家族だけを役員にする設計も考えられます。ただし、実際の意思決定を本人が行い、家族は名義だけという状態では、会社の実態や家族への報酬の妥当性が問われかねません。

    確認点2:家族を役員にするときは「職務の実態」を先に決める

    給与所得者が資産管理会社をつくる場合、配偶者や親などの家族を役員にして、会社から報酬を支払う設計がよく検討されます。所得を家族に分けることで、家族全体の税負担を抑え、家族の手元に将来の納税資金を蓄える効果が期待されるからです。

    ただし、役員報酬が会社の損金になるには、定期同額給与などの要件を満たす必要があり、職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は損金に算入されません(国税庁 No.5211)。定期同額給与の額の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行うことが求められます。

    家族を役員にする前に、次の点を言葉にしておくことをおすすめします。

    • 誰が、どの業務(物件の管理、入居者や管理会社とのやり取り、資金管理、帳簿の確認など)を担うのか
    • 報酬の水準は、その業務の内容と量に見合っているか
    • 家族が他に勤務先を持つ場合、その勤務先の規定や、扶養の範囲などに影響しないか

    家族役員の報酬設計は、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で詳しく扱います。

    確認点3:社会保険は「二つ目の勤務先」として扱われる

    見落とされやすいのが社会保険です。日本年金機構によれば、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所とされています。つまり、資産管理会社も、役員に報酬を支払う形をとれば、社会保険の手続が必要になる可能性があります。

    本人が勤務先で社会保険に加入したまま、資産管理会社からも役員報酬を受ける場合は、二つの事業所で被保険者となる形になり得ます。厚生労働省のガイドラインでは、複数の事業所で被保険者の要件を満たす場合、いずれかの保険者を選択し、各事業所の報酬に応じて保険料を按分する仕組みが示されています。資産管理会社からの報酬を増やすと、本業の勤務先にも影響が及ぶ手続が生じ得るということです。

    設計の例社会保険で確認したいこと
    本人も家族も報酬なし会社に利益が残る一方、個人への資金配分の手段が限られる
    家族のみに報酬家族の加入の要否と、家族の他の勤務先・扶養への影響
    本人にも報酬本業との二以上の事業所勤務の手続と、保険料負担の増減

    社会保険の加入要件や手続は、役員の勤務の実態や報酬の額によって判断されます。設計の段階で、社会保険の取扱いを確認してから報酬額を決める順番が安全です。

    確認点4:役員報酬と確定申告の関係を整理する

    給与所得者は、通常は勤務先の年末調整で手続が完結しています。しかし資産管理会社をつくると、本人の申告が変わることがあります。国税庁 No.1900では、給与所得者でも確定申告が必要になる場合として、次のようなケースが示されています。

    • 給与の年間収入金額が2,000万円を超える場合
    • 2か所以上から給与を受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える場合
    • 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている場合

    最後の点は、資産管理会社と本人の間で、土地や建物を貸したり、お金を貸したりするケースで関係します。会社をつくったからといって、本人の申告の手間がなくなるわけではありません。

    また、会社から本人に役員報酬を支払うと、その報酬は本業の給与と合わせて給与所得として課税されます。会社に移した所得を、報酬として本人に戻しすぎると、累進税率の負担が元に戻ることになります。会社に残す金額、家族に配分する金額、本人が受け取る金額のバランスを、数年単位で試算して決めることが大切です。高所得者の所得の種類ごとの税金のかかり方は、関連記事「高所得者の所得税・住民税の全体像」で整理しています。

    確認点5:法人での借入れは「個人の信用」とセットで考える

    給与所得者が不動産を取得するとき、融資の審査では勤務先や給与の安定性が重視されることが多いといわれます。設立したばかりの資産管理会社には事業の実績がないため、会社名義で借り入れる場合でも、本人の収入や資産、本人による保証が審査の前提となることが一般的です。

    借入れについては、次の点を事前に確認しておきたいところです。

    • 会社名義の借入れに、本人が保証人となる場合の範囲と期間
    • 個人名義の借入れが残っている場合、会社での新たな借入れとの関係
    • 将来、転職や独立、勤務先の退職などで本人の収入が変わった場合の影響
    • 会社と本人の間でお金を貸し借りする場合の契約・利息・返済の取り決め

    最後の点は、会社と個人の資金の境界にかかわる論点です。考え方は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 設立の順番:すでに個人で保有する不動産を会社へ移す場合は、移転時の譲渡所得課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。新たに取得する物件から会社で持つのか、既存の物件も移すのかを、先に決めておきます。
    • 土地の貸し借り:本人が土地を持ち、会社が建物を持つ形では、個人と法人の間の土地の貸し借りに借地権の課税の問題が生じます。法人が関わる貸し借りでは、個人間のような使用貸借の考え方がそのままは通用しない点に注意が必要です。
    • 会社の実態:管理の業務を誰がどう担っているか、会社の帳簿や契約が整っているかは、報酬や取引の妥当性を説明する土台になります。
    • 維持の負担:会社には、決算・申告や登記などの維持費用が毎年かかります。所得の規模に対して負担が見合うかを確認します。

    AEGISの視点

    給与所得者の資産管理会社は、「税率の差」から語られることがほとんどです。しかしAEGISは、給与所得者にとっての本当の論点は、本業のキャリアと、資産の保有形態と、家族の役割をどう両立させるかにあると考えています。

    勤務先の規定や社会保険は、税金の計算には現れませんが、一度設計した会社の形を後から変えるのは簡単ではありません。役員構成や報酬の設計を変えると、手続や家族の働き方にも影響が及びます。さらに、資産管理会社の株式は将来、相続や贈与の対象になります。いま誰が株主になり、誰が役員を務めるかは、10年後・20年後の承継の形にもつながります。

    そのため、資産管理会社をつくるかどうかを決める前に、①本業で今後どのような働き方をしていくか、②家族の誰がどこまで関わるか、③不動産をどの規模まで持つか、の3点を先に話し合っておくことをおすすめします。会社は、その答えを実現するための器として設計するのが順番だと考えています。

    まとめ

    • 給与所得者でも資産管理会社はつくれますが、会社に移せるのは資産から生じる所得で、本業の給与は移せません。
    • 個人保有なら不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できる場合がありますが、会社で保有するとその効果はなくなります。
    • 勤務先の副業・兼業の規定(役員就任・競業など)を最初に確認します。
    • 家族を役員にする場合は、職務の実態と報酬水準の妥当性を先に決めます。
    • 役員報酬を支払うと、社会保険の手続や本人の確定申告にも影響が生じ得ます。
    • 法人での借入れは、本人の信用や保証とセットで考える必要があります。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 会社員が資産管理会社の役員になると、副業禁止の規定に違反しますか?

    一概には言えません。勤務先の就業規則で、他社の役員就任をどう扱っているか(届出制・許可制・制限など)によって異なります。厚生労働省のガイドラインでは、副業・兼業は原則として自由とされつつ、本業への支障や競業、秘密の漏洩などがある場合は制限できるとされています。まずは勤務先の規程を確認することが出発点です。

    Q. 自分は役員にならず、配偶者だけを役員にすれば問題ありませんか?

    勤務先の規定上の問題は小さくなる可能性がありますが、配偶者が実際に会社の業務を担っていることが前提です。意思決定を本人が行い、配偶者は名義だけという状態では、役員報酬の妥当性や会社の実態が問われるおそれがあります。

    Q. 資産管理会社から役員報酬を受け取ると、社会保険はどうなりますか?

    法人の事業所は社会保険の強制適用事業所とされているため、役員報酬の支払いに伴って加入の要否を確認する必要があります。本業の勤務先と合わせて二つの事業所で被保険者となる場合は、保険者の選択や保険料の按分などの手続が生じ得ます。報酬額を決める前に確認しておくことをおすすめします。

    Q. 勤務医が資産管理会社をつくる場合に、特に注意することはありますか?

    基本的な論点は会社員と同じですが、勤務先が公的な医療機関である場合は、兼業に関する法令や規程による制限がないかを個別に確認する必要があります。また、勤務医は給与水準が高く、会社から本人に報酬を戻すと累進税率の負担が大きくなりやすいため、会社に残す金額と家族への配分のバランスが重要になります。

    Q. 不動産を購入してから会社をつくるのと、会社をつくってから購入するのとでは、どちらがよいですか?

    すでに個人で取得した不動産を会社へ移すと、移転時に譲渡所得の課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。今後取得する物件を会社で持つ方針であれば、取得前に会社の設計を済ませておくほうが、移転の負担を避けやすくなります。ただし、購入初期の赤字を給与所得と通算したい場合など、個人で持つ理由がある物件もあるため、物件ごとに比べることが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金の動き、税負担、維持費、株式の承継まで確認します。
    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、第Ⅰ部第2章 P.85-87、P.92-93
    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、第4編 P.218、P.229-230
  • 土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    オーナー個人が持つ土地の上に、資産管理会社や事業会社が建物を建てる、あるいは建物だけを会社に移す。こうした形は、所有と運営を分けたり、家族で収益を分担したりする目的でよく検討されます。

    このとき必ず問題になるのが、会社が個人の土地を「借りている」ことの税務上の扱いです。権利金を払わずに土地を借りると、会社が借地権という財産を無償で受け取ったとみなされ、思わぬ課税を受けることがあります。

    結論から言えば、権利金を授受しない場合の主な整理の方法は、「相当の地代を支払う」か「土地の無償返還に関する届出書を提出する」かのどちらかです。そして、どちらを選ぶか、地代をいくらにするかによって、会社の課税だけでなく、オーナーの相続時の土地の評価と、会社の株式の評価まで変わります。この記事では、その仕組みと、選択の際に確認したい点を整理します。

    なぜ「借地権」が問題になるのか

    借地権は権利金を払って取得するのが前提

    建物を所有する目的で土地を借りると、借主には借地借家法による強い保護が与えられます。そのため、借地権の取引慣行がある地域では、土地を貸す際に、地主が借主から権利金を受け取るのが通常とされてきました。財産評価の上でも、借地権は相続税の課税対象となる独立した財産として扱われ、路線価図には地域ごとの借地権割合が示されています。

    税務上の取扱いは、この「権利金を払って借地権を取得するのが通常の取引である」という前提に立っています。

    権利金なしで借りると、会社に受贈益が生じるおそれ

    個人が土地を貸す場合、所得税では、権利金を受け取らなかったからといって、受け取ったものとみなして個人に課税する仕組みは基本的にありません。一方、借主が法人の場合は、本来支払うべき権利金を支払わずに借地権を得たとして、その相当額を受贈益(会社の益金)として課税される可能性があります。これがいわゆる借地権の認定課税です。

    ただし、次のいずれかの対応をしていれば、この認定課税は行われない取扱いになっています。

    • 権利金に代えて、相当の地代を支払う(法人税基本通達13-1-2)
    • 将来、土地を無償で返還することを契約で定め、土地の無償返還に関する届出書を提出する(法人税基本通達13-1-7)

    選択肢を比べる

    権利金を授受しない場合を中心に、主な選択肢を整理すると次のようになります。

    選択肢会社の借地権の認定課税地主(個人)の土地の相続税評価会社の株式評価への影響主な留意点
    A. 相当の地代を支払う生じない原則として自用地価額の80%地主が同族関係者となっている同族会社なら、自用地価額の20%を借地権として純資産価額に算入地代が高く、会社の収支を圧迫しやすい。地代の改訂方法の選択が必要
    B. 無償返還届出+地代を支払う(賃貸借)生じない自用地価額の80%同上(同族会社の場合、20%を純資産価額に算入)地代水準の決め方と、届出の提出・保管
    C. 無償返還届出+地代なし(使用貸借)生じない自用地価額(100%)借地権の計上なし地主側に地代収入がない。土地の評価は下がらない
    D. 何もしない(権利金・相当の地代・届出なし)生じるおそれ借地権の価額を控除した貸宅地評価会社に借地権が計上される設立・移転時に会社側で受贈益課税の可能性

    ※AEGISが論点整理のために作成した比較です。評価の取扱いは国税庁の個別通達(昭和60年直資2-58ほか、昭和43年直資3-22)に基づく原則的な内容で、権利金の一部授受がある場合など個別事情により異なります。「地主の土地の評価」は個人が相続する土地(貸宅地)の話、「株式評価への影響」は土地を借りている会社の株式の話で、20%の算入は、被相続人(地主)が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合の取扱いです。

    以下、A〜Cの中身を順に見ていきます。

    相当の地代とは

    自用地価額のおおむね年6%

    相当の地代とは、権利金を授受しない代わりに支払う、通常より高い水準の地代です。相続税の取扱いを定めた国税庁の個別通達(いわゆる相当地代通達)では、借地権が設定されている土地の自用地としての価額の過去3年間の平均額に対し、おおむね年6%程度の地代とされています。

    法人税の取扱い(法人税基本通達13-1-2)も、土地の更地価額に対する一定割合の地代を相当の地代としています。通達本文は「おおむね年8%程度」としていますが、平成元年の個別通達(平成元年直法2-2)により当分の間「年6%」と読み替えられ、更地価額は相続税評価額やその過去3年間の平均額によることもできるとされています。どちらの税目でも、土地の価額をどの時点・どの方法で算定するかが地代の水準を左右するため、算定の根拠を残しておくことが大切です。

    地代を据え置くか、改訂していくか

    相当の地代を支払う場合、地価が変動したときに地代をどうするかを決めておく必要があります。法人税基本通達13-1-8は、地主が法人である場合について、地代の改訂方法を契約書で次のいずれかに定めることとしています。

    • 土地の価額の上昇に応じて地代を順次改訂する方法:借地権の価値は借主側に生じないと整理されます
    • それ以外の方法(地代を据え置くなど):地価が上がると、相当の地代との差が生じ、借主側に借地権の価値が自然に発生していく考え方になります

    地主が法人の場合、どちらを選ぶかは借主と連名で遅滞なく税務署に届け出ることとされ、届出がない場合は後者の方法を選択したものとして扱われます。地主が個人で借主が会社の場合も、会社が借地権を譲渡したり土地を返還したりするときの借地権の価額は、改訂方法がどちらかによって扱いが分かれる(法人税基本通達13-1-15)ため、契約書で改訂方法を明確にしておくことが大切です。地代を据え置いたまま年数が経つと、相続時の土地や株式の評価が当初の想定と異なってくる点に注意が必要です。

    土地の無償返還に関する届出とは

    「将来、無償で返す」と約束し、税務署に届け出る

    土地の無償返還に関する届出は、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、土地所有者と借地人が連名で、遅滞なく届け出る手続です(国税庁 手続名C1-63、法人税基本通達13-1-7)。契約書の写しと、土地の価額の計算の明細などを添付します。

    国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとしています。個人の土地に会社が建物を持つ場面でも、この届出によって、権利金を授受せず相当の地代も支払わない形を選べることになります。

    地代を払うか、払わないか

    無償返還の届出をしたうえで、地代をどうするかは別に決めます。ここが、相続時の評価を分ける大きな分岐点です。

    • 地代を支払う(賃貸借):地主の土地は「貸宅地」として、自用地価額の80%で評価されます(相当地代通達8)
    • 地代を支払わない(使用貸借):届出が出ていても、土地は自用地価額(100%)で評価されます(同通達8の(注))。地代を受け取っていても、その額が固定資産税などの公租公課に相当する程度以下で、実質的に使用貸借にすぎないと認められる場合も同様です

    地代を受け取らない使用貸借は、地主に収入がない分、所得税の負担は生じませんが、土地の評価は下がりません。反対に地代を受け取る場合は、地主の不動産所得が増える一方、会社の費用になります。どちらが望ましいかは、オーナー個人と会社の所得の状況、そして将来の承継の形とあわせて判断することになります。

    相続税評価への影響:「下がった分」はどこへ行くか

    ここで見落とされがちなのが、会社の株式の評価です。

    相当の地代を支払っている場合や、無償返還の届出をして地代を支払っている場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価されます。一方、その土地を借りている会社が、被相続人が同族関係者となっている同族会社である場合、その会社の株式を純資産価額で評価する際には、自用地価額の20%相当額を借地権の価額として純資産に算入する取扱いがあります(昭和43年直資3-22、相当地代通達6・8)。この取扱いは、地主の土地が80%で評価される場合のものです。地代を受け取らない使用貸借で土地が自用地価額(100%)で評価される場合には、土地の評価は下がりません。

    数字で見ると、次のようなイメージです。

    項目金額のイメージ
    土地の自用地価額1億円
    地主(個人)の土地の評価:貸宅地 80%8,000万円
    会社の株式評価で純資産に算入される借地権相当額:20%2,000万円
    個人と会社を通じた合計1億円

    ※説明のための単純化した例です。株式の評価は純資産価額方式だけで決まるとは限らず、会社の規模や資産構成によって異なります。また、株式の評価方法は国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しているため、今後の通達改正に注意が必要です。

    つまり、オーナーが会社の株式を自分で保有している限り、土地の評価が下がった分は、株式の評価に移るだけという構図になりやすいのです。これは、土地の価額を個人と法人を通じて全体として捉えるという考え方によるものです。評価上の効果を期待して届出や地代を選ぶ場合は、誰が会社の株式を持っているかまで含めて確認する必要があります。

    なお、地代の有無は、小規模宅地等の特例でどの区分に当たるかにも関わります。会社に土地を貸している場合の特例の考え方は、関連記事「小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 契約書と届出をセットで整える:無償返還の定めは契約書に明記されている必要があります。届出書の控えと契約書は、相続の時まで確実に保管しておきます。
    • 「遅滞なく」を意識する:建物の新築や移転のタイミングで、地代・届出の方針を決めておくことが前提です。後から整理しようとすると、すでに借地権の移転があったと見られるおそれがあります。
    • 地代を変えたら評価も変わる:無償返還の届出をした後に地代を無しにする(または有りにする)と、土地の評価が80%と100%の間で変わります。地代の変更は、意思決定として記録を残しておきます。
    • 相当の地代は地価の動きを追う:相当の地代を選んだ場合、改訂方法の選択と、実際の改訂の運用がずれていないかを定期的に確認します。
    • 建物を移す場面とあわせて考える:個人の建物を会社に移す場合は、移転時の譲渡所得や登録免許税なども生じます。移転全体の比較は関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

    AEGISの視点

    無償返還の届出や相当の地代は、税務の手続として語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、これを「土地は個人、建物と事業は会社」という所有の分担を、将来にわたってどう固定するかの意思表示だと考えています。

    届出をして地代を受け取る形にすれば、土地は個人の財産として残りつつ、会社の株式にも一定の価値が乗ります。地代を受け取らない形にすれば、土地の評価は下がりませんが、会社と個人の間で毎年の資金の流れが生じません。どちらが正しいということはなく、土地を相続する人と、会社の株式を引き継ぐ人が同じか別か、会社が将来その土地を買い取る可能性があるかによって、望ましい形は変わります。

    また、所有と運営を分ける設計を土地活用の段階から考える場合は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」も参考になります。資産管理会社を持つかどうか自体の判断は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    土地の貸し借りに関わる評価や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人の土地に会社が建物を持つと、税務上は会社が土地を借りている関係になり、権利金を授受しなければ会社に借地権の認定課税が生じるおそれがあります。
    • 認定課税を避ける主な方法は、相当の地代(自用地価額のおおむね年6%)の支払いと、土地の無償返還に関する届出です。届出は土地所有者が個人でも提出できます。
    • 相当の地代や、届出+地代ありの場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価され、地主(被相続人)が同族関係者となっている同族会社の株式評価では、20%相当額が純資産価額に算入されます。
    • 届出をしても地代なし(使用貸借)であれば、土地は自用地価額で評価されます。
    • どの形を選ぶかは、税負担だけでなく、土地と株式をそれぞれ誰が引き継ぐかとあわせて判断することが重要です。具体的な取扱いは個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 土地の無償返還に関する届出は、いつまでに出せばよいですか?

    国税庁の案内では、土地を無償で返還することが定められた後「遅滞なく」提出することとされています。明確な日数の定めはありませんが、建物の新築や会社への移転と同じタイミングで契約書を整え、速やかに提出するのが基本です。

    Q. 土地の持ち主が個人でも、届出は出せますか?

    出せます。国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出できるとしています。土地所有者と借地人(会社)の連名で提出します。

    Q. 相当の地代を払うのと、無償返還の届出をするのとでは、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。相続時の土地の評価(80%)や株式評価への算入(20%)は、両者で同じ扱いになる場面が多い一方、相当の地代は地代が高く、会社の収支や個人の所得に与える影響が大きくなります。地代の水準を柔軟に決めたい場合は届出を選ぶことが多いですが、個人と会社の所得、将来の承継の形とあわせて比較することが大切です。

    Q. 届出を出して地代をゼロにすると、相続税評価はどうなりますか?

    地代を受け取らない使用貸借の場合、無償返還の届出が出ていても、土地は自用地としての価額で評価されます。貸宅地としての80%評価にはなりません。

    Q. すでに届出なしで会社が建物を持っている場合はどうすればよいですか?

    建てた時期、権利金や地代の授受の状況、契約内容によって、借地権が誰に帰属しているかの判断が変わります。過去の経緯を契約書や申告書で確認したうえで、現状をどう整理するかを専門家と検討することをおすすめします。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を、税引後の手残りの観点から設計し、取得後の管理までつなげて検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.5-34、P.115-150
    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、一般財団法人大蔵財務協会、2024年、P.367
  • グループ法人税制と資産管理会社|オーナーが支配する会社どうしで資産を売買するとき、税金の計算はどう変わるか

    グループ法人税制と資産管理会社|オーナーが支配する会社どうしで資産を売買するとき、税金の計算はどう変わるか

    グループ法人税制とは、100%の資本関係(完全支配関係)にある会社どうしの取引について、取引の時点では課税関係を生じさせないようにする一連の仕組みです。平成22年度の税制改正で導入されました。

    オーナーが資産管理会社と事業会社の両方を100%持っている場合、その2社の間で土地や建物を売買すると、売り手の会社の譲渡益(または譲渡損)は、その年度の所得から除かれて繰り延べられます。ここまでは比較的知られていますが、注意が必要なのは次の2点です。

    • 繰り延べられた損益は、いずれ売り手の会社に戻ってくること
    • 個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしでは、寄附金・受贈益の特例は使えないこと

    この記事では、グループ法人税制のうち、オーナー企業で特に問題になりやすい「資産の売買」と「寄附(無償・低額の取引)」を中心に、資産管理会社と事業会社の関係に当てはめて整理します。

    完全支配関係:個人オーナーと親族を含めて判定する

    グループ法人税制の対象になるのは、完全支配関係がある会社どうしの取引です。完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。

    オーナー企業で重要なのは、次の3点です。

    1. 一の者が個人の場合も含まれる:オーナー個人が資産管理会社と事業会社の株式をそれぞれ100%持っていれば、2社は「同一の者による完全支配関係」にある兄弟会社です。
    2. 親族の持分を合算する:一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します(法人税法施行令4条の2第2項)。オーナーと配偶者・子で100%を持っている場合も、完全支配関係になり得ます。
    3. 一定の従業員持株会などは除いて判定する:従業員持株会などが持つ株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります。

    つまり、「グループ」という意識がなくても、家族で株式を持つ会社が複数あれば、知らないうちに完全支配関係にあることがあります。

    資産を売買したとき:譲渡損益の繰延べ

    どの資産が対象になるか

    完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)の間で「譲渡損益調整資産」を譲渡した場合、売り手の会社では、その譲渡利益額または譲渡損失額に相当する金額を所得から除き、繰り延べます(法人税法61条の11第1項)。

    譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含む)、有価証券、金銭債権、繰延資産です。ただし、売買目的有価証券や、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産などは除かれます(法人税法施行令122条の12第1項)。棚卸資産(土地を除く)は対象外です。

    取引は「時価」で行う

    繰延べの対象になるのは、時価で売買したことを前提に計算される譲渡損益です。売買価格そのものは、通常の取引と同じく時価で決める必要があります。買い手の会社は、支払った代金(時価)で資産を受け入れ、減価償却などもその価額を基に行います。

    いつ、どちらに戻ってくるか

    繰り延べた損益は、次のような事由が生じたときに、売り手の会社の所得に戻し入れられます(法人税法61条の11第2項・第3項)。

    • 買い手の会社が、その資産を譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却したとき
    • 売り手と買い手の間の完全支配関係がなくなったとき

    たとえば、事業会社が資産管理会社に建物を売却した場合、資産管理会社がその建物を減価償却するたびに、事業会社側で繰り延べた譲渡益の一部が戻ってきます。また、将来どちらかの会社を第三者に売却したり、株主構成を変えて100%の関係が崩れたりすると、その時点で残りの繰延べ額がまとめて実現します。

    場面売り手の会社(例:事業会社)買い手の会社(例:資産管理会社)
    売買の時点譲渡益(損)を計上し、申告上で同額を減算(加算)して繰り延べる時価で取得。代金の支払い(資金の手当て)が必要
    保有中買い手の減価償却に応じて、繰延べ額の一部を戻し入れ時価を基に減価償却
    外部への売却時残りの繰延べ額を戻し入れ時価との差額で譲渡損益を計上
    100%関係がなくなったとき残りの繰延べ額を一括で戻し入れ―

    「売っても税金がかからない」のではなく、「税金の発生時期が後ろにずれ、その間は売り手の会社に繰延べ額が残る」と理解しておくことが大切です。

    寄附・低額取引:兄弟会社では特例が使えない

    法人による完全支配関係に限られる特例

    時価より低い価額で資産を譲ったり、無償で資金を融通したりすると、税務上は差額が寄附金(出し手)と受贈益(受け手)として扱われるのが原則です。グループ法人税制では、完全支配関係がある会社間の寄附について、出し手で寄附金を損金不算入、受け手で受贈益を益金不算入とする特例があります(法人税法37条2項、25条の2第1項)。

    ただし、この特例は「法人による完全支配関係」に限られています。親会社と100%子会社、あるいは同じ親会社の下にある子会社どうしは対象ですが、オーナー個人が直接100%を持つ兄弟会社どうしは対象外です。なお、個人が親会社を通じて間接に持つ子会社どうしの寄附には特例が適用されることが、法人税基本通達9-4-2の5で確認されています。

    兄弟会社で寄附が生じると

    オーナー個人が直接持つ資産管理会社と事業会社の間で、時価より低い価額の売買や無償の取引をした場合、出し手の会社では寄附金の損金算入限度額を超える部分が損金にならず、受け手の会社では受贈益が益金に算入されるのが原則です。両社で課税が生じ得るうえ、株式の価値が一方から他方へ移ることで、株主である家族の間の財産の移転として別の論点が生じることもあります。

    株主構成譲渡損益の繰延べ(61条の11)寄附金・受贈益の特例(37条2項・25条の2)
    親会社と100%子会社対象対象
    同じ親会社の下の100%子会社どうし対象対象
    オーナー個人(と親族)が直接100%を持つ兄弟会社どうし対象対象外
    持株比率が100%未満の関係会社どうし対象外対象外

    資産管理会社と事業会社でよくある場面

    • 事業会社の本社土地を資産管理会社へ移す:譲渡益は繰り延べられますが、資産管理会社には時価での買取資金が必要です。借入れで賄う場合は、事業会社から受け取る賃料で返済できるかを確認します。資金の流れの整理は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で解説しています。

    • 含み損のある資産をグループ内で売って損を出したい:完全支配関係がある会社へ売っても譲渡損は繰り延べられるため、損失を実現させる手段にはなりません。

    • 管理料・賃料を決める:グループ内の賃料や管理料が時価から離れると、寄附金の問題になり得ます。兄弟会社では特例が使えないため、特に根拠のある金額設定が必要です。管理料の考え方は「資産管理会社に管理を任せるときの管理料」も参考になります。

    • 個人の不動産を会社へ移す:個人と法人の間の取引にはグループ法人税制は適用されません。個人から法人への移転の比較は「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 株主名簿で完全支配関係を確認する:親族の持分の合算や、名義株の有無で判定が変わります。
    • 繰延べ額を管理し続ける:繰り延べた譲渡損益は申告書の別表で管理し、買い手の償却や売却に応じて戻し入れます。担当者が替わっても追えるように記録を残します。
    • 将来の株主構成の変更に注意する:後継者への株式の移転や一部の株式の売却で100%関係が崩れると、繰延べ額が一括で実現します。承継計画と合わせて確認します。
    • 時価の根拠を残す:グループ内の売買でも時価が前提です。不動産鑑定評価などの根拠資料を残しておくことが望まれます。
    • 自社株の評価への影響:グループ内の売買や寄附によって各社の資産と利益が変わり、株価にも影響します。なお、完全支配関係にある親子会社間の寄附に伴う税務調整で親会社の利益積立金額が増減する場合でも、類似業種比準方式の「1株当たりの純資産価額」の計算上、基本的には法人税法の処理どおりに扱い、調整の必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。

    AEGISの視点

    グループ法人税制は、「グループ内で資産を動かしても課税しない」制度と説明されることがあります。しかしAEGISは、オーナー企業にとってこの制度の本質は「課税のタイミングと場所を、グループの株主構成に結び付ける仕組み」だと考えています。

    繰り延べた損益は、100%の関係が続く限り表に出ませんが、承継やM&Aで株主構成を変えた瞬間に戻ってきます。つまり、今日のグループ内取引は、将来の承継やM&Aの選択肢に影響を与えます。また、兄弟会社の寄附のように、制度が適用されない領域では、思わぬ課税が生じることもあります。

    資産管理会社と事業会社の間で資産を動かすときは、「誰がその資産を持ち、どの会社に将来の課税を残すのか」「その会社の株式を誰が承継するのか」を、取引の前に一枚の図で確かめておくことが大切です。グループ内で資産を移す別の方法として、現物分配の考え方は関連記事「現物分配で子会社の資産を親会社へ移す」で解説しています。

    グループ会社間の取引と資産税務・承継の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • グループ法人税制は、完全支配関係にある会社どうしの取引について、その時点の課税を生じさせないようにする仕組みです。
    • 完全支配関係は、オーナー個人が一の者である場合も含み、親族の持分を合算して判定します。
    • 土地・固定資産・有価証券などの譲渡損益調整資産を売買すると、売り手で譲渡損益が繰り延べられ、買い手の償却・売却や100%関係の解消時に売り手へ戻ります。
    • 寄附金・受贈益の特例は「法人による完全支配関係」に限られ、個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしには使えません。
    • 個別の取引の課税関係は、株主構成と取引条件によって異なるため、事前の確認が大切です。

    よくある質問

    Q. 自分(個人)が100%持つ2つの会社の間で土地を売買すると、譲渡益は繰り延べられますか?

    2社がオーナー個人による完全支配関係にあり、土地が譲渡損益調整資産に当たれば、売り手の会社で譲渡益は繰り延べられます。ただし、時価での売買が前提であり、買い手の会社には代金の支払いが必要です。

    Q. グループ内で含み損のある土地を売れば、損失を計上できますか?

    完全支配関係がある会社への売却では、譲渡損も繰り延べられるため、その時点で損失を計上することはできません。買い手の会社がその土地を外部に売却したときなどに、売り手の会社で損失が実現します。

    Q. 兄弟会社の間で、資金を無利息で貸すと問題になりますか?

    個人オーナーが直接持つ兄弟会社の間では、寄附金・受贈益の特例が使えません。無利息であることに合理的な理由がない場合、利息相当額が寄附金や受贈益として扱われる可能性があります。貸付の条件と根拠を整理しておくことが大切です。

    Q. 繰り延べた譲渡益は、いつまで繰り延べられますか?

    期限はありませんが、買い手の会社がその資産を償却・譲渡・除却したときや、両社の完全支配関係がなくなったときに、売り手の会社で戻し入れます。償却資産であれば、償却に応じて少しずつ戻ってきます。

    Q. 帳簿価額が1,000万円未満の資産を売った場合はどうなりますか?

    譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産は、譲渡損益調整資産から除かれているため、繰延べの対象になりません。売却した会社で通常どおり譲渡損益を計上します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 税務顧問と経営管理:税務申告・会計・納税予測・資金繰りをつなぎ、継続的な経営管理を支援します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社、2023年、第13章(P.821-838)
    • 『令和7年版 図解組織再編税制』中村慈美 著、大蔵財務協会、2025年、第8章(P.501-518)

  • 評価を下げる対策が否認されるとき|総則6項・同族会社等の行為計算の否認の判断枠組みと、意思決定の記録の残し方

    評価を下げる対策が否認されるとき|総則6項・同族会社等の行為計算の否認の判断枠組みと、意思決定の記録の残し方

    不動産や会社を使って相続税評価を下げる対策は、通達どおりに評価していれば原則として認められますが、「通達どおりの評価を認めると、他の納税者との間で実質的な租税負担の公平に反する」といえる事情があると、通達によらない評価で課税されることがあります。これが、財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)の問題です。

    また、同族会社を使った取引については、税負担を不当に減らす行為や計算を否認する規定もあります。さらに、通達そのものにも、取得から間もない不動産を時価で評価するといった個別のルールが置かれています。

    この記事では、否認の判断枠組みを整理したうえで、対策を検討するオーナーが「否認されにくい意思決定」をするために、何を考え、何を記録しておくべきかを解説します。

    相続税の評価と「通達」の関係

    相続税法は、相続などで取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています(相続税法22条)。国税庁は、この時価を画一的に算定するための方法を財産評価基本通達で定め、実務ではこの通達に従って評価が行われています。

    不動産の場合、通達による評価額(路線価・固定資産税評価額などを基にした額)は、市場で取引される価格より低くなることが少なくありません。とくに賃貸用の不動産では、借家権や借地権の割合を差し引くため、その差が大きくなります。この差を利用して、借入れで不動産を取得し、相続税の課税価格を圧縮する対策が広く行われてきました。

    一方、通達には次の定めがあります。

    この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。(財産評価基本通達6)

    この「著しく不適当」に当たるかどうかが争われてきたのが、総則6項の問題です。

    最高裁令和4年4月19日判決が示した枠組み

    この問題について、最高裁判所は令和4年4月19日の判決で、次のような考え方を示しました。

    1. 相続税法22条の時価とは、財産の客観的な交換価値をいう。 通達は行政内部の指示にすぎず、国民に対して直接の法的効力を持つものではない。課税価格が客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、通達による評価額を上回る価額で課税しても、それだけで同条に違反するわけではない。
    2. ただし、平等原則がある。 課税庁が通達に従って画一的に評価していることは公知の事実であるから、特定の人についてだけ通達評価額を上回る価額で課税することは、合理的な理由がない限り平等原則に反して違法となる。
    3. 合理的な理由があるといえるのは、通達による画一的な評価を行うことが、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合である。
    4. 通達評価額と鑑定評価額との間に大きな乖離があるというだけでは、その事情があるとはいえない。 その事案では、通達どおりに評価すると相続税がゼロになるほど負担が軽減されることに加え、被相続人と相続人が、不動産の取得とそのための借入れによって相続税の負担が軽くなることを知り、それを期待して行っていたことなどから、その事情があると判断された。

    つまり、否認の判断では、「評価額の乖離」だけでなく、「その取引が何のために行われたか」「税負担がどの程度減ったか」が重視されたといえます。

    否認の根拠は一つではない

    評価を下げる対策が否認される場面は、総則6項だけではありません。主な根拠を整理すると次のようになります。

    根拠何を問題にするか典型的な場面判断のポイント
    財産評価基本通達6(総則6項)通達どおりの評価そのもの相続直前の借入れによる賃貸不動産の取得など実質的な租税負担の公平に反する事情(税負担の軽減の程度、取引の目的・時期など)
    相続税法64条(同族会社等の行為計算の否認)同族会社の行為・計算相続直前の会社間の債権放棄、不自然な資産の移動など株主等の相続税・贈与税の負担を「不当に減少」させる結果となるか(経済的な合理性)
    通達の個別ルール特定の財産の評価方法会社が3年以内に取得した土地・建物、特定の評価会社など定められた要件に当てはまるか

    ※AEGISが法令・通達・判決をもとに整理したものです。

    同族会社等の行為計算の否認

    相続税法64条1項は、同族会社などの行為や計算で、それを認めると株主やその親族などの相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果となるものについて、税務署長がその行為・計算にかかわらず課税価格を計算できると定めています。法人税にも同様の規定があります(法人税法132条)。

    「不当に減少」に当たるかどうかは、その行為が経済的に合理的か、事業上の目的があるかといった観点で判断されると考えられています。資産管理会社や事業会社を使った対策では、会社の事業として説明できる取引か、それともオーナーの相続税を減らすためだけの取引かが問われます。

    通達に組み込まれた個別ルール

    通達自体にも、評価の乖離を利用した対策に対応するルールがあります。

    • 会社が取得して3年以内の土地・建物:取引相場のない株式を純資産価額で評価する場合、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地等や家屋等は、通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185)。資産管理会社に不動産を買わせても、3年以内であれば株価の計算上は評価が下がらないことになります。
    • 特定の評価会社:資産に占める土地や株式の割合が高い会社は、株価の評価方法が限定されます。
    • 貸付用不動産の評価の見直し(通達案):国税庁は、課税時期前5年以内に購入・新築した貸付用不動産や、小口化商品の対象となっている貸付用不動産を、通常の取引価額に相当する金額で評価する通達の案を公表しています。取得価額が適正な場合は、取得価額を基に計算した額の80%で評価する方法も示されています。案では令和9年1月1日以後の相続等から適用するとされていますが、最終的な通達はまだ定められていません(2026年10月9日時点)。

    否認されやすい対策・されにくい対策

    総則6項の判断は個別の事情によるため、確定的な線引きはできません。ただ、判決の考え方を踏まえると、次のような要素が重なるほど、否認のリスクは高まると考えられます。

    • 相続開始が近い時期(高齢・病気の時期)に行われた
    • 取得資金のほとんどを借入れでまかなっている
    • 取得の目的が、相続税の軽減以外に説明しにくい
    • 通達評価によって相続税が大幅に減る、またはゼロになる
    • 相続後すぐに売却するなど、保有の実態が乏しい

    反対に、事業や資産運用として合理的な目的があり、相続の時期と関係なく計画的に行われ、取得後も継続して保有・運営されている取引は、通達どおりの評価が認められやすいと考えられます。判決自体も、乖離があるだけでは総則6項を適用できないとしています。

    意思決定の記録をどう残すか

    否認されにくくするために大切なのは、取引を「後から説明する」のではなく、「意思決定の時点で、税務以外の理由を記録しておく」ことです。AEGISが重視している記録は次のとおりです。

    記録すること内容の例
    目的収益の確保、事業用地の確保、資産の組換え、家族の生活基盤など
    検討の経緯比較した選択肢、取得しない場合の資産の使い道
    収支・資金計画賃料・経費・返済の見通し、借入れの条件と返済原資
    保有方針何年保有し、誰が運営・管理し、誰に承継するか
    価格の妥当性取得価格の根拠、必要に応じた鑑定・査定
    会社の意思決定取締役会・株主総会の議事録、会社の事業計画との関係

    ※AEGISが作成したチェック項目です。記録があれば否認されないというものではありません。

    ただし、記録はあくまで実態を示すものです。実態のない目的を書き残しても意味はなく、むしろ説明との食い違いが問題になります。

    AEGISの視点

    評価を下げる対策は、オーナーにとって魅力的に見えます。しかしAEGISは、「評価がいくら下がるか」から出発する対策は、最も否認のリスクが高いと考えています。最高裁が問題にしたのは評価の差そのものではなく、「相続税の負担を減らすこと」を目的として取引が組み立てられていた点だからです。

    資産管理会社を設立する、不動産を取得する、借入れをする。これらは本来、収益・管理・承継のための意思決定です。その結果として評価が下がることはあっても、評価を下げることが目的になってしまうと、事業としての合理性が説明できなくなります。

    また、仮に否認されれば、追加の相続税に加えて加算税・延滞税の負担が生じ、家族が長い争いに巻き込まれることもあります。すでに申告を終えた方も、対策の内容と記録を見直し、税務調査で説明できる状態にあるかを確認しておく価値があります。

    資産管理会社の設立を検討する時期と比較の軸は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、通達の見直しの内容は「貸付用不動産の相続税評価の見直しとは」で解説しています。

    土地活用を評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」、調査で問われやすい点は「相続税の税務調査で指摘されやすい点」もあわせてご覧ください。

    資産税務・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 相続税の評価は通達に従うのが原則ですが、通達どおりの評価が「実質的な租税負担の公平に反する」事情がある場合は、通達によらない評価で課税されることがあります(総則6項)。
    • 最高裁令和4年4月19日判決は、評価額の乖離だけでは足りず、税負担の軽減の程度や、取引が相続税の軽減を期待して行われたことなどを踏まえて判断しました。
    • 同族会社を使った不自然な取引は、相続税法64条の行為計算の否認の対象になり得ます。
    • 会社が3年以内に取得した不動産の評価など、通達の個別ルールにも注意が必要です。貸付用不動産の評価見直しは通達案の段階です。なお通達案では、取引相場のない株式を純資産価額で評価する際の会社保有の土地・建物には、この見直しを適用しないとされています。
    • 否認されにくくするには、意思決定の時点で税務以外の目的・収支・保有方針を記録し、その実態を伴わせることが重要です。

    よくある質問

    Q. 借入れで賃貸マンションを買う対策は、もうできないのですか?

    借入れで不動産を取得すること自体が否認されるわけではありません。判決も、評価額の乖離だけでは総則6項を適用できないとしています。ただし、相続直前の取得、税負担の大幅な軽減、相続税の軽減以外に目的が説明しにくいといった事情が重なると、否認のリスクが高まります。今後は貸付用不動産の評価見直し(通達案)の動向にも注意が必要です。

    Q. 総則6項は、納税者が評価を下げるためにも使えますか?

    総則6項は「通達どおりの評価が著しく不適当な場合」の定めで、通達による評価額が時価を大きく上回る土地などでは、不動産鑑定評価などにより時価で申告することが検討されることもあります。ただし、時価の立証には根拠が求められ、認められない例も多いため、鑑定の費用や説明の根拠を慎重に検討する必要があります。

    Q. 資産管理会社を使えば、総則6項の心配はなくなりますか?

    なくなりません。会社が取得した不動産でも、3年以内であれば株価の計算上は通常の取引価額で評価されますし、会社の株式の評価自体に総則6項が問題になることもあります。また、同族会社の行為や計算が株主の相続税を不当に減らすものと認められれば、相続税法64条による否認の対象にもなり得ます。

    Q. すでに申告が終わっている場合、何を確認すればよいですか?

    申告した評価の前提となった取引の目的・時期・資金の流れと、それを説明する資料が残っているかを確認しておくとよいでしょう。税務調査では、取引の経緯について説明を求められることがあります。評価や特例に誤りが見つかった場合は、修正申告や更正の請求の要否を検討することになります。

    Q. 否認された場合、どのくらいの負担になりますか?

    通達によらない価額で課税価格が計算し直され、本来の相続税との差額に加え、過少申告加算税や延滞税がかかる可能性があります。負担の大きさは事案によって異なりますが、対策による軽減額より大きな負担になることもあるため、対策の段階でリスクを見積もっておくことが大切です。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用した制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.143-147(最高裁令和4年4月19日判決の解説)
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会、第4章(社団・財団・信託と税務否認)、P.310-334
    • 『相続税・贈与税 土地評価実務テキスト』鎌倉靖二 著、税務研究会出版局、Ⅴ(財産評価基本通達に従った評価額が時価よりも高くなる場合とその対処法)、P.239-243
  • 生前贈与と相続をどう使い分けるか|暦年課税・相続時精算課税・相続を財産ごとに選ぶ考え方

    生前贈与と相続をどう使い分けるか|暦年課税・相続時精算課税・相続を財産ごとに選ぶ考え方

    「毎年110万円ずつ子どもに贈与しておけば相続税対策になる」——長く語られてきたこの考え方は、令和5年度の税制改正によって前提が変わりつつあります。相続前の贈与を相続財産に加え戻す期間が3年から7年へと段階的に延び、もう一つの贈与の方式である相続時精算課税には、年110万円の基礎控除が新しく設けられました。

    結論から言えば、生前贈与と相続の使い分けは「どちらが得か」ではなく、「どの財産を、いつ、誰に、どの方式で移すか」を財産ごとに決める作業です。この記事では、3つのルート(暦年課税による贈与、相続時精算課税による贈与、相続)の違いを一次情報で確認したうえで、財産の性質に応じた選び方を整理します。

    財産を移す3つのルート

    次世代に財産を移す方法は、税金の面から見ると次の3つに分かれます。

    1. 暦年課税による贈与:1年ごとに、もらった財産の合計から基礎控除を差し引いて贈与税を計算する方式。特に手続きをしなければ、贈与はこの方式になります。
    2. 相続時精算課税による贈与:贈与時には軽い税負担で財産を移し、贈与者が亡くなったときに、贈与財産を相続財産に加えて相続税で精算する方式。受贈者が届出をして選択します。
    3. 相続(遺言による遺贈を含む):亡くなったときに財産が移り、相続税がかかる方式。

    この3つは、どれか一つを選ぶものではありません。贈与者ごと、受贈者ごと、財産ごとに組み合わせることができます。

    暦年課税のしくみと令和5年度改正のポイント

    基本のしくみ

    暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた残りに贈与税がかかります。税率は累進で、直系尊属(父母・祖父母など)からその年の1月1日に18歳以上の人への贈与には「特例税率」、それ以外には「一般税率」が適用されます。最高税率の55%は、特例税率では課税価格4,500万円超、一般税率では3,000万円超の部分にかかります(国税庁 No.4408)。

    生前贈与加算の期間が7年に延びる

    暦年課税で贈与した財産でも、贈与者が亡くなる前の一定期間内のものは、相続税の計算で相続財産に加え戻されます(生前贈与加算)。加算の対象になるのは、相続や遺贈、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が受けた贈与です。加算される金額は贈与時の価額で、基礎控除110万円以下の贈与も対象になります。すでに払った贈与税は相続税から差し引かれます(国税庁 No.4161)。

    令和5年度の税制改正により、この加算期間は次のように段階的に延びます(国税庁 No.4161、令和8年4月1日現在法令等)。

    相続が開始する時期加算の対象となる贈与の期間
    令和8年(2026年)12月31日まで相続開始前3年以内
    令和9年(2027年)1月1日〜令和12年(2030年)12月31日令和6年(2024年)1月1日から死亡の日まで
    令和13年(2031年)1月1日以後相続開始前7年以内

    さらに、令和9年以後に相続が開始する場合、延長された期間(相続開始前3年以内より前)に受けた贈与については、その合計額から総額100万円までは加算しないこととされています。

    つまり、令和6年1月1日以後の暦年課税による贈与は、贈与者がその後7年以内に亡くなれば、相続財産に加え戻される可能性があるということです。「毎年110万円の非課税贈与」は、長い時間をかけて行うほど効果が出る方法に変わったと言えます。

    なお、贈与税の配偶者控除の対象部分や、直系尊属からの住宅取得等資金・教育資金・結婚子育て資金の非課税特例の適用を受けた金額は、加算の対象から除かれています(国税庁 No.4161)。ただし、教育資金の一括贈与の非課税は令和8年3月31日まで、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税は令和9年3月31日までに信託等をした場合が対象とされています(租税特別措置法70条の2の2・70条の2の3)。

    加算の対象にならない人がいる

    生前贈与加算は、相続や遺贈などで財産を取得した人が対象です。たとえば、祖父母から孫への贈与で、孫が祖父母の相続で財産を取得しない場合は、原則として加算の対象になりません。ただし、遺言で孫に財産を遺贈したり、孫を死亡保険金の受取人にしたりすると、加算の対象になり得ます。また、代襲相続人でない孫などが相続や遺贈で財産を取得すると、相続税額が2割加算されます(国税庁 No.4157)。

    相続時精算課税のしくみと令和5年度改正のポイント

    基本のしくみ

    相続時精算課税は、次のような仕組みです(国税庁 No.4103、令和8年4月1日現在法令等)。

    • 対象者:贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母・祖父母など、受贈者はその年の1月1日において18歳以上の、贈与者の直系卑属(子・孫など)。
    • 手続き:贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、「相続時精算課税選択届出書」を提出します。
    • 贈与税の計算:1年間の贈与額から、基礎控除110万円を差し引き、さらに特別控除(累計で2,500万円まで)を差し引いた残額に、一律20%の税率をかけます。
    • 相続時の精算:贈与者が亡くなったとき、贈与財産を贈与時の価額で相続財産に加え、相続税を計算します。払った贈与税は相続税から差し引かれ、引ききれない分は還付を受けられます。
    • 取りやめ不可:一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税に戻すことはできません。

    令和6年1月1日以後の基礎控除110万円

    令和5年度改正の大きな変更点は、令和6年1月1日以後の贈与について、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられたことです。そして、相続時に加算されるのは、基礎控除を差し引いた後の金額です。暦年課税の110万円が加算期間内であれば相続財産に戻るのとは、この点が大きく異なります。

    なお、同じ年に2人以上の特定贈与者(相続時精算課税を選んだ贈与者)から贈与を受けた場合、基礎控除110万円はそれぞれの贈与額に応じて按分します(国税庁 No.4103)。

    また、同じ改正で、相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が災害で一定以上の被害を受けた場合に、相続時に加算する価額から被害相当額を差し引ける特例も設けられています。令和6年1月1日以後に被害を受けた場合が対象で、原則として災害が発生した日から3年を経過する日までに承認申請書を提出し、税務署長の承認を受ける必要があります(租税特別措置法70条の3の3、国税庁 No.8006)。

    精算課税で注意したいこと

    • 価額は贈与時で固定される:将来値上がりする財産なら有利に働く一方、値下がりしても贈与時の価額で相続税が計算されます。
    • 小規模宅地等の特例が使えない:相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には、相続時に小規模宅地等の特例を適用できません(国税庁 No.4124)。自宅や事業用の土地を精算課税で贈与すると、相続で取得した場合よりも評価が高くなることがあります。
    • 相続財産から切り離す効果はない:基礎控除部分を除き、贈与した財産は最終的に相続税の計算に含まれます。

    3つのルートの比較

    項目暦年課税の贈与相続時精算課税の贈与相続
    年間の非課税枠基礎控除110万円(受贈者ごと)基礎控除110万円(令和6年以後)+特別控除2,500万円(累計)—
    税率累進(最高55%)一律20%相続税の累進税率
    相続時の扱い加算期間内の贈与は加算(110万円以下も含む)基礎控除後の金額をすべて加算—
    加算・課税される価額贈与時の価額贈与時の価額相続時の価額
    対象者の制限なし60歳以上→18歳以上の直系卑属—
    小規模宅地等の特例—贈与した宅地等には適用不可要件を満たせば適用可
    選択の取りやめ—不可—

    財産の性質ごとの考え方

    3つのルートの違いを踏まえると、財産の性質によって向き不向きが見えてきます。以下は一般的な考え方であり、実際の判断は全体の配分や税額の試算によって変わります。

    • 将来の値上がりが見込まれる財産(成長している会社の株式など):贈与時の価額で固定できる相続時精算課税が検討対象になります。ただし、会社の業績が下がった場合にも価額は戻らない点に注意が必要です。
    • 自社株式:税額だけでなく、誰に議決権を集めるかが最優先です。後継者に段階的に移すのか、まとめて移すのか、法人版事業承継税制の利用を検討するのかによって、選ぶ方式が変わります。
    • 自宅や事業用の土地:相続時に小規模宅地等の特例を使える可能性がある場合は、贈与より相続で移すほうが有利になることがあります。
    • 収益を生む不動産:贈与後の賃料収入は受贈者のものになるため、贈与者の財産の増加を抑え、受贈者の納税資金づくりにつながる面があります。一方、建物だけを贈与するか土地も含めるか、管理を誰が担うかなど、検討事項は多くなります。
    • 現預金:分割しやすく、暦年課税で長期・少額に分けて移すのに向いています。加算期間の延長を踏まえ、早めに始めることが前提になります。

    実務上注意したいポイント

    贈与は「あげた」「もらった」の実態が必要

    贈与は、あげる人ともらう人の合意によって成り立ちます。親が子の名義で預金をしていても、子がその存在を知らず、通帳や印鑑も親が管理しているような場合は、贈与があったと認められず、親の相続財産として扱われることがあります。贈与契約書の作成や、受贈者自身による管理など、贈与の実態を残しておくことが大切です。

    家族間の公平と遺留分

    特定の子に多くの贈与をすると、他の相続人との公平が問題になることがあります。民法には遺留分の制度があり、一定の生前贈与は遺留分の計算に含まれます。相続人に対する贈与は原則として相続開始前10年間のもの(婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与に限る)、相続人以外の人への贈与は原則として相続開始前1年間のものが対象で、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は、それより前のものも含まれます(民法1044条)。税金の面だけでなく、家族全体の配分の中で贈与を位置付ける必要があります。

    方式の選択は受贈者ごと・贈与者ごと

    相続時精算課税は、受贈者が贈与者ごとに選択します。たとえば「父からは相続時精算課税、祖父母からは暦年課税」といった組み合わせも可能です。一方で、一度選ぶと取りやめられないため、将来の贈与計画全体を見通してから選ぶことが重要です。

    AEGISの視点

    生前贈与の議論は、「年110万円」「税率20%」といった数字から始まりがちです。しかしAEGISは、贈与を「財産の持ち主が変わることで、管理・収益・意思決定の担い手が変わる行為」と捉えています。

    たとえば収益不動産を子に贈与すれば、税負担が変わるだけでなく、修繕や入居者対応を誰が判断するのか、賃料収入を誰がどう使うのかも変わります。自社株式を贈与すれば、株主総会で誰が議決権を行使するのかが変わります。贈与の方式を選ぶ前に、「この財産は、誰が持ち、誰が管理するのが望ましいか」を決めておくことで、税制改正があっても揺らがない承継計画になります。

    令和5年度改正は、短期間の駆け込み的な贈与の効果を小さくし、長い時間軸での計画を求める方向の改正だと言えます。相続・事業承継の全体像は親記事(相続対策と事業承継を一体で考える)で、財産の組み合わせ方は関連記事(自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継)で解説しています。

    贈与の方式を比べる前提として、現時点の相続税の規模感をつかんでおくことも重要です(関連記事:相続税の概算に必要な情報)。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 生前贈与と相続の使い分けは、財産ごとに「いつ、誰に、どの方式で」を決める作業です。
    • 暦年課税の生前贈与加算は、令和9年1月以降段階的に延び、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内の贈与が対象になります(延長部分は総額100万円まで加算しない措置あり)。
    • 相続時精算課税には令和6年1月1日以後、年110万円の基礎控除が設けられ、基礎控除部分は相続財産に加算されません。
    • 精算課税は贈与時の価額で固定され、贈与した宅地等には小規模宅地等の特例が使えないなど、財産によって向き不向きがあります。
    • 具体的な選択は、財産の構成や家族の状況などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 今から暦年課税で贈与を始めても意味はありますか?

    意味はあります。ただし、令和6年1月1日以後の贈与は、贈与者がその後7年以内(経過措置期間中は異なります)に亡くなると相続財産に加え戻される可能性があります。効果を得るには、長い期間をかけて計画的に行うこと、また受贈者が相続や遺贈で財産を取得するかどうかも含めて検討することが必要です。

    Q. 相続時精算課税の基礎控除110万円だけを使うことはできますか?

    できます。相続時精算課税を選択した後は、年110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、その部分は相続時にも加算されません。ただし、一度選択するとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せないため、将来大きな贈与をする可能性も含めて判断する必要があります。

    Q. 暦年課税と相続時精算課税は、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。贈与者の年齢や健康状態、財産の種類と将来の値動き、受贈者が相続で財産を取得するかどうか、小規模宅地等の特例の適用可能性などによって結論が変わります。財産ごと・贈与者ごとに比較することが大切です。

    Q. 孫への贈与は相続対策として有効ですか?

    孫が祖父母の相続で財産を取得しなければ、暦年課税による贈与は原則として生前贈与加算の対象になりません。ただし、遺言で孫に遺贈したり、死亡保険金の受取人を孫にしたりすると加算の対象になり得るほか、相続税額の2割加算の対象になる場合もあります。

    Q. 自社株式は贈与と相続のどちらで渡すべきですか?

    税額だけで決めず、後継者がいつ、どの程度の議決権を持つべきかから逆算することをおすすめします。株価の見通し、後継者の準備状況、他の家族への配分、法人版事業承継税制の利用の可否などを合わせて検討します。

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  • 二次相続まで見通した遺産の分け方|配偶者の税額軽減をどこまで使うかを、税・生活・不動産から考える

    二次相続まで見通した遺産の分け方|配偶者の税額軽減をどこまで使うかを、税・生活・不動産から考える

    夫婦の一方が亡くなったときの相続(一次相続)では、配偶者の税額軽減により、配偶者が取得する財産には相続税がほとんどかからないことがあります。しかし、配偶者に多く相続させるほど、その配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)で子どもの税負担が重くなることがあります。

    結論から言えば、配偶者の取得割合は「一次相続の税額が最も少なくなる割合」ではなく、一次と二次を通算した税額、配偶者のこれからの生活資金と住まい、不動産を誰が持つと特例や管理がうまくいくか、の3つを並べて決めるのが基本です。税額だけで最適な割合を探すと、配偶者の生活を細らせてしまうこともあります。

    この記事では、二次相続で税負担が重くなる仕組みと、分け方を決めるときの考え方を整理します。

    二次相続とは

    二次相続とは、一次相続で財産を取得した配偶者が亡くなったときの相続をいいます。一般的には、両親のうち一人目が亡くなったときを一次相続、二人目が亡くなったときを二次相続と呼びます。

    一次相続と二次相続は、税務上はそれぞれ別の相続として計算されます。ただし、一次相続で配偶者に渡した財産は、配偶者が使い切らない限り、二次相続で再び相続税の対象になります。そのため、一次相続の分け方が、二次相続の税額をほぼ決めてしまうという関係にあります。

    なぜ配偶者に多く渡すと二次相続で重くなるのか

    理由は大きく3つあります。

    1. 二次相続では配偶者の税額軽減が使えない

    配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した正味の遺産額が「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税がかからない仕組みです(国税庁 No.4158)。この制度は配偶者がいる相続でしか使えないため、二次相続では、相続人が子どもだけになる典型的なケースでは利用できません。

    2. 相続人の数が減り、基礎控除が小さくなる

    相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。配偶者と子2人の一次相続では法定相続人が3人ですが、二次相続では子2人となり、基礎控除は600万円小さくなります。

    3. 財産が一人に集まり、累進税率が高くなる

    相続税は、課税遺産総額を法定相続分で分けた金額ごとに累進税率(10%〜55%)を適用して計算します(国税庁 No.4152・No.4155)。配偶者の財産に一次相続で受け取った財産が上乗せされると、二次相続の課税遺産総額が大きくなり、より高い税率の区分にかかりやすくなります。

    数字で見る一次・二次の通算税額

    イメージをつかむため、簡単な例で比べてみます。

    前提:夫が亡くなり、財産(課税価格)は2億円。相続人は妻と子2人。二次相続は妻が亡くなったとき(相続人は子2人)とし、一次相続で取得した財産はそのまま残るものと仮定します。財産の値動き、相次相続控除、小規模宅地等の特例などは考慮していません。

    配偶者の取得割合(一次)一次相続の税額二次相続の税額(妻の固有財産なし)通算二次相続の税額(妻の固有財産5,000万円)通算
    0%約2,700万円0円約2,700万円約80万円約2,780万円
    25%約2,025万円約80万円約2,105万円約770万円約2,795万円
    50%約1,350万円約770万円約2,120万円約1,840万円約3,190万円
    100%約540万円約3,340万円約3,880万円約4,920万円約5,460万円

    ※国税庁の速算表・基礎控除の算式に基づきAEGISが試算した説明用の概算です。実際の税額は財産の評価、特例の適用、二次相続までの期間や財産の増減によって大きく変わります。

    この例から読み取れることは、次のとおりです。

    • 配偶者に全財産を相続させると、一次相続の税額は最も小さくなりますが、通算では最も重くなります。
    • 配偶者に固有の財産がない場合は、一部を配偶者が取得する分け方で通算税額が小さくなる傾向があります。
    • 配偶者に固有の財産がある場合は、配偶者の取得を少なくするほど通算税額が小さくなる傾向があります。

    つまり、「法定相続分まで配偶者が取得する」や「1億6千万円まで配偶者に渡す」といった目安が、どの家庭にも最適というわけではありません。配偶者自身の財産の大きさが、分け方を大きく左右します。

    税額以外に必ず確認したい3つのこと

    通算税額が小さくなる割合が分かっても、それだけで決めると後悔につながることがあります。次の3点をあわせて確認します。

    1. 配偶者の生活資金

    配偶者がこれから何年、どのような生活を送るかによって、必要な資金は変わります。介護や住み替えの可能性、医療費なども含めて考えると、配偶者に一定の金融資産を残すことは、税額よりも優先すべき場合があります。また、配偶者が生活の中で使った財産は二次相続の対象から外れるため、「使う予定の資金」を配偶者に渡すことは、税の面からも理にかなっていることが多いといえます。

    2. 配偶者の住まい

    自宅を誰が取得するかは、配偶者の住まいの安心と、子どもへの承継の両方に関わります。令和2年4月1日に施行された民法の改正で創設された配偶者居住権は、配偶者が無償で自宅に住み続ける権利を、遺産分割や遺言による遺贈で取得できる制度です(法務省)。自宅の所有権を子が、居住権を配偶者が取得するという分け方も選択肢の一つになりました。

    配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅するため、二次相続の財産から外れるという性質があります。一方で、設定後は自由に売却しにくくなるなどの制約もあるため、住み替えの可能性や家族関係を踏まえて検討することが大切です。

    3. 不動産の配分と小規模宅地等の特例

    自宅の敷地については、要件を満たせば限度面積330㎡まで評価額を80%減額できる小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)があります(国税庁 No.4124)。この特例は、誰が取得するかによって要件が変わります。

    取得する人主な要件(概要)
    配偶者取得者ごとの要件はない
    同居していた親族申告期限まで引き続き居住し、かつ所有していること
    同居していない親族被相続人に配偶者や同居の相続人がいないこと、一定期間持ち家に住んでいないことなど、複数の要件をすべて満たすこと

    ※国税庁 No.4124 の記載をもとにAEGISが整理。実際の要件は詳細に確認が必要です。

    一次相続で配偶者が自宅を取得すれば特例は使いやすくなります。しかし、二次相続のときに同居している子がいない場合、二次相続では特例を使えない可能性があります。一次相続で使える特例と、二次相続で使えそうな特例をセットで見ることが欠かせません。

    賃貸不動産がある場合は、家賃収入を誰が受け取るかも論点です。配偶者が取得すれば生活資金になりますが、収入が配偶者に積み上がると二次相続の財産も増えていきます。子が取得すれば、収入は子の手元に残ります。

    分け方を決める手順

    AEGISでは、次の順番で検討することをおすすめしています。

    1. 財産と家族の現状を把握する:夫婦それぞれの財産、子の状況、自宅や賃貸不動産の利用状況を一覧にします。
    2. 配偶者に必要な資金と住まいを先に決める:生活資金の目安と、自宅に住み続けるか住み替えるかの方針を決めます。
    3. 配偶者の取得割合を複数パターンで試算する:一次・二次の通算税額を、配偶者の固有財産も含めて比較します。
    4. 不動産の取得者を特例と管理の両面から決める:小規模宅地等の特例の要件、賃貸経営を担える人、共有を避けられるかを確認します。
    5. 納税資金を確認する:一次相続・二次相続それぞれで、申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までに納税できるかを確認します。
    6. 遺言や生前の準備に落とし込む:決めた方針を遺言や家族の話し合いに反映します。

    実務上注意したいポイント

    • 申告期限までに遺産分割がまとまらないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は原則として使えません(国税庁 No.4208)。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、期限から3年以内に分割すれば適用を受けられますが、その場合は分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求が必要です(国税庁 No.4158)。
    • 配偶者の税額軽減は、申告して初めて適用されます。税額がゼロになる場合でも申告書の提出が必要です(国税庁 No.4158)。
    • 二次相続が一次相続から10年以内に起きた場合は、一次相続で配偶者が納めた相続税の一部を二次相続の税額から差し引ける相次相続控除があります(国税庁 No.4168)。一次相続で配偶者が税額を負担していない場合、この控除の効果は限られます。
    • 年齢や健康状態だけで二次相続の時期を想定しないことも大切です。試算は「近い将来」と「長い期間後」の両方で行い、結論が大きく変わらない分け方を探すと判断が安定します。

    AEGISの視点

    二次相続の対策というと、「配偶者に何%渡すと税金が最も少ないか」という問いに注目が集まりがちです。もちろん通算税額の比較は欠かせませんが、AEGISはこの問いを「配偶者の残りの人生と、次の世代への承継を、一つの計画として設計すること」と捉えています。

    配偶者に渡す財産は、配偶者の生活を支えると同時に、いずれ子へ渡る財産でもあります。現金・自宅・賃貸不動産・自社株式など、財産ごとに「配偶者が持つ意味」と「子が早く持つ意味」は異なります。たとえば、生活に使う金融資産は配偶者に、値上がりや収益が見込まれる不動産は早めに子に、という組み合わせは、税と生活の両面で筋の通った考え方になりやすいものです。

    また、二次相続では、親という調整役がいなくなるため、兄弟姉妹間の話し合いが難しくなることがあります。一次相続の時点で、二次相続まで含めた全体の方針を家族で共有しておくことは、税負担以上に大きな意味を持ちます。

    相続税の概算に必要な情報は関連記事「相続税の概算に必要な情報とは」で、納税資金の準備については「相続税の納税資金をどう準備するか」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。

    不動産や自社株式を含む相続の評価・特例の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人の数も減るため、一次相続で配偶者に多く渡すほど二次相続の税負担が重くなりやすくなります。
    • 配偶者の取得割合は、一次と二次の通算税額で比較します。配偶者自身の財産が多いほど、配偶者の取得を抑える方向に働く傾向があります。
    • 税額だけでなく、配偶者の生活資金、住まい(配偶者居住権を含む)、不動産の取得者と小規模宅地等の特例をあわせて検討します。
    • 申告期限までの遺産分割と、特例の適用のための申告が前提になります。
    • 最適な分け方は家族と財産の状況によって大きく異なるため、複数のパターンで試算して判断することが大切です。

    よくある質問

    Q. 配偶者は1億6千万円まで相続税がかからないなら、1億6千万円まで相続させるのが得ですか?

    一次相続の税額だけを見れば有利に見えますが、二次相続まで通算すると不利になることがあります。特に配偶者自身に一定の財産がある場合は、二次相続の税額が大きく増える可能性があります。配偶者の固有財産を含めて、一次・二次の通算で比較することが大切です。

    Q. 二次相続の対策として、配偶者は何も相続しないほうがよいのでしょうか?

    税額の試算でそのような結果になることもありますが、配偶者の生活資金や住まいを確保できなければ本末転倒です。配偶者がこれからの生活で使う資金は、配偶者が取得しても二次相続の負担にはつながりにくいため、生活に必要な額を先に確保したうえで、残りの配分を考える方法が現実的です。

    Q. 配偶者居住権を設定すると、二次相続の税金は少なくなりますか?

    配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅するため、二次相続の財産には含まれません。その意味で二次相続の財産を小さくする効果があります。ただし、自宅の売却や住み替えがしにくくなる、小規模宅地等の特例との関係で有利不利が分かれるなどの論点もあるため、個別の試算と家族の意向を踏まえて判断します。

    Q. 遺産分割がまとまらないまま申告期限が来たらどうなりますか?

    法定相続分で取得したものとして申告し、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は原則として使えません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、その期間内に分割がまとまれば、更正の請求によって特例を適用した税額に見直すことができます。

    Q. 一次相続のときに、二次相続の試算まで必要ですか?

    配偶者の取得割合を決めるうえで、二次相続の試算は欠かせない判断材料です。二次相続の時期や財産の増減は分からないため、いくつかの前提で試算し、どの前提でも大きく不利にならない分け方を探すと、判断が安定します。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、第2章(印刷 p.112-120)
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、2025年、第Ⅰ部第1章 Q7(印刷 p.123-126)
    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、2025年、措置法第69条の4関係(印刷 p.59-63)