カテゴリー: 税務・会計

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  • 資産管理会社に管理を任せるときの管理料|管理委託・サブリース・不動産所有の3方式と「説明できる実態」のつくり方

    資産管理会社に管理を任せるときの管理料|管理委託・サブリース・不動産所有の3方式と「説明できる実態」のつくり方

    個人で持つ賃貸不動産の管理を資産管理会社に任せ、会社に管理料を支払う。資産管理会社の使い方として、よく検討される形です。

    結論から言えば、管理料は「会社が実際に行っている業務の対価」として説明できる金額でなければなりません。「賃料の何%が相場か」という問いから入るのではなく、会社が何をしているか、それを記録で示せるかから逆算して決めるのが基本です。国税不服審判所の公表裁決事例には、業務の記録がないとして管理料の必要経費算入が認められなかった例もあれば、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例もあります。

    この記事では、資産管理会社に管理を任せる3つの方式(管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式)を比較したうえで、管理料の決め方と、業務の実態を記録として残す方法を整理します。

    資産管理会社に管理を任せる3つの方式

    個人オーナーと資産管理会社の関係は、大きく3つの方式に分けて考えると整理しやすくなります。

    方式お金の流れ会社の収益の源泉主な確認点
    管理委託方式入居者 → オーナー個人。オーナーが会社に管理料を支払う管理料(業務の対価)会社が実際に担う業務と、管理料の水準
    サブリース方式入居者 → 会社。会社がオーナーに借上賃料を支払う転貸賃料と借上賃料の差額借上賃料の水準と、空室リスクを会社が実際に負っているか
    不動産所有方式入居者 → 会社。会社が建物(場合により土地も)を所有賃料収入そのもの移転時の税金、土地の貸し借りの整理

    ※上記はAEGISが論点を整理するために作成した区分です。実際の契約形態は物件ごとに異なります。

    管理委託方式とサブリース方式は、不動産の所有者は個人のままで、会社が管理や賃貸の役割を担う形です。個人の不動産所得の一部を、業務の対価として会社に移すことになります。一方、不動産所有方式は、建物などを会社に移して、賃料収入そのものを会社に帰属させる形です。

    なぜ管理料が問題になりやすいのか

    管理委託方式やサブリース方式で論点になるのは、同族会社との取引では、金額を当事者が自由に決めやすいという点です。

    必要経費として認められるか

    個人の不動産所得の計算上、資産管理会社に支払った管理料が必要経費になるには、その費用が賃貸の業務と直接関係し、業務の遂行上必要であることが求められます。国税不服審判所の裁決事例でも、この「客観的にみて業務の遂行上必要か」という観点から判断されています。

    同族会社の行為計算の否認

    もう一つの論点が、同族会社の行為計算の否認です。同族会社の行為や計算をそのまま認めると、その株主等である個人やその特殊関係者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、税務署長はその行為や計算にかかわらず所得を計算し直すことができる、という仕組みです(所得税法157条1項)。国税不服審判所の公表裁決事例の分類(所得税法157条)には、同族会社への不動産管理料が同業者の水準を大きく上回るとして超過部分が否認された事例や、同族会社に低い賃料で一括して貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例などが並んでいます。

    つまり、管理料には「業務があるか(実態)」と「金額が妥当か(水準)」という二つの問いがある、と整理できます。

    裁決事例から見える判断のポイント

    国税不服審判所が公表している不動産管理料の裁決事例からは、次のような傾向が読み取れます。いずれも個別の事実に基づく判断であり、結論がそのまま他の事案に当てはまるわけではありません。

    • 記録がなければ「業務がない」と判断され得る:賃料の一定割合を管理料として同族会社に支払っていたものの、実際の管理は外部の管理会社や借上会社が担っており、同族会社が業務を行った記録(業務日誌など)が確認できなかった事例では、適正な管理料は零円と判断されました(平成18年6月13日裁決)。
    • 会社が自ら業務を行っていれば認められる:同族会社が賃料の集金と督促、オーナーの指示を受けた賃貸借契約の締結、外部に再委託した点検業務の確認、修繕費の負担などを実際に行っていた事例では、支払った管理費の全額が必要経費と認められました(平成23年9月2日裁決)。
    • 金額は同業者との比較で検証される:同族会社への管理料が過大かどうかが争われた事例では、類似する同業者の管理料の割合などを基に適正額が検討されています。

    ここから言えるのは、管理料の妥当性は、会社の業務内容 → それを示す記録 → その業務に見合う水準の順に確かめられるということです。

    方式ごとに確認したいこと

    管理委託方式:外部の管理会社との「二重構造」に注意

    実務で多いのが、入居者募集や建物管理を外部の不動産管理会社に委託したまま、資産管理会社にも管理料を支払う形です。この場合、資産管理会社には何が残っているのかが問われます。

    • 外部の管理会社と資産管理会社の業務の分担を、書面で明確にする
    • 資産管理会社が担う業務(収支の管理、外部業者への発注と監督、修繕の判断、オーナーへの報告など)を具体的に書き出す
    • 外部の管理会社に支払う管理料と、資産管理会社に支払う管理料の合計が、業務全体に対して過大になっていないか確認する

    サブリース方式:会社が「借り手としてのリスク」を負っているか

    サブリース方式では、会社がオーナーから建物を一括で借り、入居者に転貸します。会社の収益は、転貸賃料と借上賃料の差額です。

    この方式で確認したいのは、借上賃料が実態に照らして低すぎないかと、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負っているかです。満室時の差額が大きくなる設計にしながら、空室時の負担はオーナーに戻るような契約では、会社が借り手として負うべきリスクの実態が乏しく見えます。裁決事例の分類にも、同族会社に著しく低い賃料で貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例が含まれています。

    不動産所有方式:移転時の負担と、土地の整理

    建物を会社に移す不動産所有方式では、管理料の水準という論点は小さくなる一方、移転時の税金や費用、建物だけを移す場合の借地権と地代の整理が中心になります。これらは関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」と「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で扱っています。

    管理料を決める手順

    AEGISでは、管理料を次の順番で検討することをおすすめしています。

    1. 業務の棚卸し:物件ごとに、入居者対応、賃料の管理、修繕、清掃・点検、会計、オーナーへの報告などの業務を一覧にする
    2. 担い手の確認:それぞれの業務を、外部の管理会社・資産管理会社・オーナー本人の誰が担うのかを決める
    3. 体制の確認:資産管理会社の業務を実際に行う人(役員・従業員)と、その時間を見積もる
    4. 水準の比較:同じ業務を外部に委託した場合の料金や、業務にかかる人件費・経費と比べる
    5. 契約書への反映:業務範囲、管理料の算定方法、支払時期、報告の方法を契約書に書く
    6. 記録の継続:業務の記録を日常的に残し、年に一度は業務内容と管理料の関係を見直す

    「賃料の何%」という決め方自体が問題なのではありません。問題になるのは、その割合の根拠を業務の内容で説明できないことです。

    業務の実態を示す記録の例

    業務残しておきたい記録の例
    賃料の管理入金の確認記録、滞納者への督促の記録、月次の収支表
    入居者・契約の対応契約書の作成・更新の記録、入居者からの連絡と対応の記録
    修繕・点検業者への発注書・見積書、点検報告書の確認記録、修繕の判断の経緯
    外部業者の管理外部の管理会社との打合せ記録、業務報告の受領と確認の記録
    オーナーへの報告定期的な収支報告書、修繕計画の提案書

    記録は、税務調査のためだけのものではありません。物件の状況や判断の経緯が残っていれば、オーナーが交代したときにも管理を引き継ぎやすくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 決算前の調整に使わない:会社の利益を整えるために、期末に管理料を増減させる運用は、業務の対価としての説明を難しくします。裁決事例にも、同族会社が利益を確保できるよう年度末に精算する契約が経済的合理性を欠くとされた例があります。
    • 家族役員の報酬とあわせて考える:管理料で会社に移した収益は、多くの場合、家族役員の報酬として個人に戻ります。業務を担う人と報酬を受ける人が一致しているかは、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で確認できます。

    • 物件ごとに方式を選ぶ:すべての物件を同じ方式にする必要はありません。外部管理会社の関与の度合いや、将来の売却・承継の予定に応じて、物件ごとに考える方法もあります。

    • 相続税評価への影響も確認する:方式によって、土地・建物の評価や会社の株式の評価が変わることがあります。管理の方式を変える前に、承継への影響もあわせて確認します。

    AEGISの視点

    管理料の相談では、「何%までなら大丈夫か」という問いがよく出されます。しかしAEGISは、この問いの立て方自体を少し変えることが大切だと考えています。問うべきは「会社は、この物件のために何をしているのか」です。

    資産管理会社が実際に収支を管理し、修繕を判断し、外部業者を監督していれば、その会社は単なる所得の受け皿ではなく、不動産経営の実務を担う主体になります。業務の記録は管理料の根拠になるだけでなく、オーナーが高齢になったときや相続が起きたときに、家族が経営を引き継ぐための手引きにもなります。

    管理料を「税負担を調整する数字」としてではなく、「管理の仕組みをつくる対価」として設計すること。その考え方が、税務の説明力と、不動産経営の継続性の両方を高めるとAEGISは考えています。資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    不動産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社に管理を任せる方式には、管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式があり、論点がそれぞれ異なります。
    • 管理委託方式とサブリース方式では、「業務の実態があるか」と「金額が妥当か」の二つが問われます。
    • 裁決事例では、業務の記録がない場合に管理料が認められなかった例と、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例があります。
    • 管理料は、業務の棚卸しから始め、担い手・体制・水準を確かめ、契約書と日常の記録で裏付けることが基本です。
    • 具体的な取扱いは、物件や契約の内容など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社に支払う管理料の相場は、賃料の何%ですか?

    一律の「適正な割合」が法令や通達で定められているわけではありません。裁決事例では、会社が実際に行っている業務の内容や、類似する同業者の管理料の水準などを基に判断されています。割合から決めるのではなく、業務の内容から説明できる金額にすることが大切です。

    Q. 外部の管理会社に管理を委託している物件でも、資産管理会社に管理料を払えますか?

    払うこと自体は可能ですが、外部の管理会社が担っていない業務を資産管理会社が実際に行っていることが前提です。業務の分担を書面で明確にし、資産管理会社の業務の記録を残しておかないと、管理料の根拠を説明しにくくなります。

    Q. 管理委託方式とサブリース方式は、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。サブリース方式は会社に残る収益が大きくなりやすい一方、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負うことが前提になります。外部の管理会社の関与、物件の収益の安定性、将来の売却や承継の予定などをあわせて比較することをおすすめします。

    Q. 管理料が否認されると、どうなりますか?

    否認された部分は個人の不動産所得の必要経費として認められず、個人の所得が増えることになります。加算税や延滞税が生じる可能性もあります。会社側の処理との関係も含め、具体的な影響は個別事情によって異なります。

    Q. 管理料を払う代わりに、不動産そのものを会社に移したほうがよいですか?

    不動産所有方式は管理料の水準という論点が小さくなる一方、移転時の譲渡所得税や登録免許税・不動産取得税などの負担、土地の貸し借りの整理が必要になります。移転の負担と、移転後の効果を比べて判断することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社(2014年)、第4編「財産管理法人の不動産税務」P.215-217、P.230
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局(2018年)、第1章Ⅳ P.51-53
  • 現物分配で子会社の資産を親会社へ移す|適格現物分配の要件・課税関係と、合併・分割・売買との比べ方

    現物分配で子会社の資産を親会社へ移す|適格現物分配の要件・課税関係と、合併・分割・売買との比べ方

    現物分配とは、会社が株主に対して、金銭ではなく不動産や株式などの「現物」で配当(またはそれに準ずる分配)を行うことです。100%の親子会社の間で行う現物分配は、法人税法上「適格現物分配」に当たれば、子会社側で資産の含み益に課税されず、親会社側でも受け取った資産について課税されない仕組みになっています。

    結論からいえば、現物分配は「100%子会社から親会社へ、事業ではなく個々の資産を移したい」場面で有力な選択肢です。一方で、株主に個人が一人でも含まれると適格にならないこと、不動産を移すと流通税がかかること、会社法上の配当規制を受けることなど、使える場面には明確な条件があります。

    この記事では、現物分配の仕組みと適格要件、課税関係、手続上の注意点を整理したうえで、売買・会社分割・合併といった他の移転手法とどう比べればよいかを解説します。

    現物分配とは:配当を「モノ」で行う仕組み

    会社法では、剰余金の配当を金銭以外の財産で行うこと(いわゆる現物配当)が認められています。法人税法は、これを含め、法人が株主に対して一定の事由により金銭以外の資産を交付することを「現物分配」と定義しています(法人税法2条12号の5の2)。対象となる事由は、通常の剰余金の配当のほか、資本の払戻し、残余財産の分配、自己株式の取得など、いわゆるみなし配当が生じる一定の取引です。

    現物分配の対象になる資産は、土地・建物に限りません。子会社が持つ他の会社の株式、貸付金などの金銭債権、知的財産なども、金銭以外の資産であれば対象になり得ます。

    たとえば、次のような場面で検討されます。

    • 子会社が使わなくなった土地・建物を、親会社(持株会社や資産管理会社)に集約したい
    • 子会社を第三者に売却する前に、買い手が必要としない資産を親会社へ移しておきたい
    • 子会社の下にある孫会社の株式を親会社へ移し、孫会社を子会社にしたい
    • 組織再編の結果として子会社が持つことになった親会社株式を、親会社に戻したい
    • 子会社が親会社に対して持つ貸付金を整理したい

    適格現物分配の要件:「直前に100%」だけを見る

    要件は完全支配関係のみ

    法人税法では、適格現物分配を「内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者が、その現物分配の直前においてその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)のみであるもの」と定めています(法人税法2条12号の15)。

    ポイントは次の3つです。

    1. 受け取る株主が「完全支配関係のある内国法人」だけであること:株主に個人や、100%の関係にない法人が一人でも含まれていると、適格現物分配になりません。
    2. 判定は「直前」の時点で行うこと:合併や会社分割の適格要件と異なり、現物分配の後も完全支配関係が続く見込みであることは求められていません。
    3. 事業を移す必要がないこと:会社分割のように「事業」を単位とする必要がなく、個々の資産だけを移せます。

    2点目は実務上大きな意味を持ちます。たとえば、子会社を売却する直前に、不要な資産を親会社へ現物分配で移すといった使い方では、分割の場合に問題となる「分割後の支配関係の継続」を気にせずに済むためです。

    完全支配関係の判定

    完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します。また、従業員持株会などが保有する株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります(法人税法施行令4条の2第2項)。

    名義株が残っている場合や、株主名簿と実態がずれている場合は、「本当に100%か」の確認から始める必要があります。

    適格現物分配の課税関係

    適格現物分配に該当した場合の課税関係を、出し手(子会社)、受け手(親会社)、源泉徴収の3つの面から整理すると、次のとおりです。

    立場適格現物分配の場合主な根拠
    子会社(現物分配法人)資産を直前の帳簿価額で譲渡したものとして扱い、含み益・含み損は計上しない法人税法62条の5第3項
    親会社(被現物分配法人)資産の移転を受けたことによる収益は益金に算入しない法人税法62条の5第4項
    源泉徴収所得税法上の配当等から除かれるため、源泉徴収は不要所得税法24条1項
    繰越欠損金等支配関係が5年以内に生じた場合などは、親会社側で欠損金の使用制限や特定資産譲渡等損失の損金不算入が課されることがある法人税法57条4項、62条の7

    親会社は、子会社の帳簿価額を引き継ぐ形で資産を受け入れます。つまり、含み益は消えたのではなく、親会社が将来その資産を外部に売却したときなどに実現するという点に注意が必要です。

    また、適格でない現物分配(非適格現物分配)の場合は、子会社側で資産を時価で譲渡したものとして含み損益が課税されるのが原則であり、受け手が個人であれば配当所得として課税されます。個人株主に会社の不動産を現物で配当すると、会社と個人の双方で税負担が生じ得るため、慎重な検討が必要です。

    会社法上の手続と、税金以外のコスト

    配当としてのルールに従う

    現物分配は会社法上は剰余金の配当などとして行うため、配当の手続と規制に従います。

    • 決議:剰余金の配当は原則として株主総会で決めます。配当財産が金銭以外で、株主に金銭分配請求権(現物に代えて金銭を求める権利)を与えない場合は、株主総会の特別決議が必要です(会社法454条4項、309条2項10号)。100%子会社であれば、親会社の意思決定だけで決議が整います。
    • 分配可能額:配当として交付する財産の帳簿価額の総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはなりません(会社法461条1項)。含み益のある不動産でも、判定は帳簿価額で行います。分配可能額が足りない場合は、資本金や準備金の減少などを先に検討する必要があります。
    • 親会社株式の処分:子会社は、持っている親会社株式を相当の時期に処分しなければなりません(会社法135条3項)。現物分配は、この処分の手段として使われることがあります。

    流通税は別に考える

    法人税で課税が生じなくても、不動産を移す場合は登記にかかる登録免許税が生じます。また、地方税法は、合併や一定の要件を満たす分割による不動産の取得を不動産取得税の非課税としていますが(地方税法73条の7第2号)、現物分配は同条の非課税の対象として掲げられていません。不動産を移す場合は、流通税の見込み額を含めて比較することが欠かせません。

    他の移転手法とどう比べるか

    100%子会社から親会社へ資産を移す方法は、現物分配だけではありません。代表的な手法を、オーナーが比べるべき観点で並べると次のようになります。

    比較の観点適格現物分配売買(グループ法人税制)適格分割型分割適格合併
    移すもの個々の資産個々の資産事業単位(権利義務の承継)会社全体
    対価なし(配当)時価の代金が必要株式(または無対価)株式(または無対価)
    含み損益の扱い簿価で移転(親会社が引き継ぐ)一定の資産は売り手側で繰延べ、後で売り手側に戻る簿価で移転簿価で移転
    移転後の100%関係の継続求められない関係が切れると繰延べた損益が実現継続見込みが必要―
    子会社の存続存続存続存続消滅
    会社法上の制約分配可能額の範囲内通常の取引債権者保護手続など債権者保護手続など

    売買の場合は、完全支配関係がある法人間の譲渡としてグループ法人税制が適用され、土地や帳簿価額1,000万円以上の固定資産などの「譲渡損益調整資産」について、売り手側で譲渡損益が繰り延べられます(法人税法61条の11、法人税法施行令122条の12)。ただし、繰り延べられた損益は、買い手側で売却や償却が行われたときや、両社の100%関係が切れたときに、売り手側で実現します。現物分配では、含み損益は受け手の親会社が引き継ぐ点が異なります。

    どの手法がよいかは、移したい資産が「事業」か「資産」か、移転後に子会社を売却・清算する予定があるか、親会社に買取資金があるか、子会社の分配可能額は足りるか、によって変わります。売買によるグループ内取引の詳細は、関連記事「グループ法人税制と資産管理会社」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 株主構成をまず確認する:子会社に個人株主(役員や親族、名義株主)が少しでも残っていると、適格現物分配になりません。先に株式を集約する必要があるかを確認します。
    • 株価への影響を見ておく:資産が子会社から親会社へ移ると、それぞれの会社の資産構成が変わります。親会社の総資産に占める株式や土地の割合が変われば、相続税評価上の会社区分(株式等保有特定会社・土地保有特定会社など)の判定にも影響します。なお、類似業種比準方式の利益金額の計算では、適格現物分配により受けた収益は、原則として「益金に算入されなかった剰余金の配当等」に加算する必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。
    • 欠損金と含み損の制限:親会社と子会社の支配関係が5年以内に生じた場合などには、親会社側の欠損金の使用や、移転資産の含み損の損金算入に制限がかかることがあります。
    • 親会社に借入れがある場合:不動産を親会社へ移すと、賃貸収入や管理の責任も親会社に移ります。金融機関との契約上の制限(担保・財務制限条項など)も確認します。
    • 目的を記録に残す:グループ内の資産移転は、税負担の回避だけを目的としているように見えないよう、経営上の目的と意思決定の経緯を議事録などで残しておくことが望まれます。

    AEGISの視点

    現物分配は、条文の上では「配当」の一形態にすぎません。しかし、オーナー企業のグループにとっては、「どの会社に、どの資産を持たせるか」を組み替えるための道具になります。

    AEGISは、現物分配を検討するとき、税金がかかるかどうかより先に、「移した後に、その資産を誰が管理し、誰が承継するのか」を考えることが大切だと考えています。子会社の不動産を持株会社に集めれば、事業会社の売却や後継者への承継はしやすくなるかもしれません。一方で、持株会社の資産構成が変わり、株価や将来の相続税の見込みが変わることもあります。

    また、含み益は親会社に引き継がれるだけで、なくなるわけではありません。将来売却するのか、長く保有して賃貸するのかによって、移転先としてふさわしい会社は変わります。グループ全体の資産の置き場所を一枚の図にし、移転の前後で「税・資金・管理・承継」の4つがどう変わるかを比べてから手法を選ぶことが、遠回りのようで確実な進め方です。

    会社と会社の間のお金の貸し借りを含めたグループ内の資金管理の全体像は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で、グループ全体の再編の順番は「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。

    株式の持合いを解消する場面での考え方は、「株式を持ち合うグループ会社の承継と評価」も参考になります。

    グループ内の資産移転と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 現物分配とは、配当などを金銭以外の資産で行うことで、法人税法上は一定の事由による金銭以外の資産の交付をいいます。
    • 現物分配の直前に完全支配関係がある内国法人だけが受け取る場合は適格現物分配となり、子会社は簿価で譲渡したものとされ、親会社の収益は益金不算入、源泉徴収も不要です。
    • 合併や分割と異なり、移転後の完全支配関係の継続は求められません。一方、個人株主が一人でもいると適格になりません。
    • 会社法上は配当として、決議要件と分配可能額の規制を受けます。不動産を移す場合は登録免許税や不動産取得税も見込んでおく必要があります。
    • 売買・分割・合併との違いは、含み損益を誰が引き継ぐか、移転後の関係継続の要否、対価の要否にあります。具体的な選択は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. オーナー個人が100%持っている会社から、オーナー個人へ不動産を現物分配できますか?

    会社法上は可能ですが、受け取るのが個人であるため適格現物分配には当たりません。会社側では不動産を時価で譲渡したものとして含み損益が計算され、個人側では原則として配当所得として課税されます。個人へ資産を移す場合は、売買や役員退職金との組合せなど、他の方法も含めて比較することが大切です。

    Q. 兄弟会社(同じオーナーが持つ2つの会社)の間で、現物分配を使って資産を移せますか?

    現物分配は株主に対して行うものなので、兄弟会社の一方から他方へ直接資産を移す手段にはなりません。兄弟会社間で資産を移す場合は、売買(グループ法人税制の対象になり得ます)や会社分割などを検討します。持株会社を設けて親子関係にしたうえで現物分配を使う、という順番で考えることもあります。

    Q. 子会社の売却直前に現物分配をしても、適格になりますか?

    適格現物分配の要件は「現物分配の直前に完全支配関係があること」で、その後の継続は求められていません。そのため、売却を予定していることだけで不適格になるわけではありません。ただし、取引全体として不自然な点がないか、売却価格の算定や買い手との交渉にどう影響するかは、個別に確認が必要です。

    Q. 含み益のある土地を現物分配すると、含み益はどうなりますか?

    適格現物分配の場合、子会社では含み益に課税されず、親会社は子会社の帳簿価額で土地を受け入れます。含み益は親会社に引き継がれ、親会社がその土地を将来売却したときなどに課税対象となります。

    Q. 現物分配に株主総会の決議は必要ですか?

    剰余金の配当として行う場合は、原則として株主総会の決議が必要です。株主に金銭分配請求権を与えない現物配当は特別決議となります。100%子会社であれば、株主は親会社だけなので、親会社の判断で手続を進めることができます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学・西村美智子・中島礼子・松下欣親・金井孝晃 著、中央経済社、2012年、序章(P.1-19)、第Ⅱ部第1章(P.92-99)、第Ⅱ部第7章(P.269-292)
    • 『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第6版)』牧口晴一・齋藤孝一 著、中央経済社、2024年、第1編第7章(P.288-319)
  • 相続した財産を寄附したときの相続税の非課税|申告期限までの寄附、対象となる法人、寄附後2年の要件と所得税の扱い

    相続した財産を寄附したときの相続税の非課税|申告期限までの寄附、対象となる法人、寄附後2年の要件と所得税の扱い

    相続で受け取った財産の一部を、亡くなった家族がお世話になった病院や母校、地域の団体などに寄附したいと考える方は少なくありません。

    このとき、相続税の申告期限までに、国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すれば、寄附した財産は相続税の課税対象から外れます(租税特別措置法70条)。ただし、寄附先の法人の種類、寄附のタイミング、寄附した財産が「相続で取得した財産そのもの」であること、寄附後2年間の使われ方など、いくつもの要件があります。また、相続税とは別に、所得税の寄附金控除や、不動産・株式を寄附したときの「みなし譲渡」も検討が必要です。

    この記事では、相続人が自らの判断で寄附する場合の制度に絞って、要件と注意点を整理します。

    制度の概要:寄附した財産は相続税の計算に入れない

    相続や遺贈で財産を取得した人が、その財産を相続税の申告書の提出期限までに、国・地方公共団体や、公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定める法人に贈与(寄附)した場合、その財産の価額は相続税の課税価格の計算の基礎に算入しません(租税特別措置法70条1項)。認定NPO法人への寄附(同条10項)や、公益信託の信託財産とするための支出(同条3項)にも、同様の特例があります。

    亡くなった方が遺言で寄附する「遺贈寄附」とは異なり、この特例は相続人が相続後に自分の判断で寄附する場面で使います。遺言がなくても、相続人の意思で社会に財産をつなぐことができる制度です。遺言による寄附については、関連記事「遺贈寄附とは何か」で解説しています。

    寄附先として対象になる法人・ならない法人

    特例の対象となる寄附先は限られています。国税庁のタックスアンサーNo.4141などをもとに整理すると、次のとおりです。

    区分主な寄附先特例の対象
    国・地方公共団体国、都道府県、市区町村など対象
    特定の公益法人公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、一定の学校法人、更生保護法人、独立行政法人、国立大学法人、日本赤十字社など対象
    認定NPO法人所轄庁の認定を受けた特定非営利活動法人(特定非営利活動に係る事業に関連する寄附に限る)対象
    公益信託公益信託の信託財産とするための支出対象
    公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人非営利型法人を含む対象外
    認定を受けていないNPO法人—対象外
    これから設立する法人公益法人を設立するための財産の提供対象外

    ※AEGIS作成。法人の範囲の詳細は租税特別措置法施行令40条の3と国税庁の情報で確認が必要です。

    特に注意したいのは、寄附の時点で既に存在し、対象法人に当たっていることが必要な点です。国税庁の通達では、特例の対象法人を設立するための財産の提供には適用がないとされています。故人の名を冠した財団を新たに作る場合は、この特例ではなく、別の制度や設計を検討することになります。

    また、病院や施設への寄附を考える場合、その運営主体が対象法人に当たるかどうかを事前に確認することが欠かせません。医療法人や一般の財団法人などは、対象の範囲に含まれないことがあります。

    要件1:相続税の申告期限までに寄附すること

    寄附は、相続税の申告書の提出期限までに行う必要があります。申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。

    期限までに「寄附の意思を決めた」だけでは足りず、実際に財産の移転を終えている必要があります。不動産や株式の場合は、名義変更などの手続に時間がかかることもあるため、遺産分割の協議と並行して、寄附先との調整を早めに始めることが大切です。

    要件2:相続で取得した財産そのものを寄附すること

    対象となるのは、相続や遺贈で取得した財産です。生命保険金や退職手当金のように、相続税法上、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も含まれます。

    一方、国税庁の通達では、次のような整理が示されています。

    寄附する財産扱い
    相続した預貯金を払い戻した金銭相続で取得した財産に当たるものとして扱う
    相続した建物の焼失による火災保険金(被相続人が契約者のもの)同上
    相続した財産の収用等に伴って取得した財産同上
    相続した財産を売却して得た代金当たらない
    相続した投資信託を解約して得た金銭当たらない
    被相続人から生前に贈与され、相続税の計算に加算される財産含まれない

    ※AEGIS作成(国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」70-1-5、70-1-6をもとに整理)。

    代償分割で受け取った代償金の場合

    遺産分割で、不動産などを取得した相続人が他の相続人に金銭(代償金)を支払う「代償分割」を行うことがあります。代償金を受け取った相続人がその金銭を寄附する場合、その代償金が「相続で取得した財産そのもの」に当たるかが問題になります。

    代償金は、被相続人の財産ではなく、他の相続人が自らの財産から支払うものです。通達が、相続財産を売却した代金でさえ対象外としていることを踏まえると、代償金を寄附した場合に特例の対象とされるかは慎重に考える必要があり、対象外と判断される可能性を前提に計画することが現実的です。寄附を予定している場合は、遺産分割の段階で、寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得する分け方を検討する余地があります。

    要件3:寄附後2年間の使われ方

    寄附を受けた法人が、寄附の日から2年を経過した日までに対象法人に当たらなくなった場合や、寄附された財産をその日までに公益を目的とする事業に使っていない場合、使わなくなった場合には、特例は適用されません(租税特別措置法70条2項)。この場合、寄附した相続人は、2年を経過した日の翌日から4か月以内に修正申告をして相続税を納める必要があります(同条6項)。

    寄附した財産そのものでなく、法人がその財産を売却し、代金を公益目的の事業に充てた場合について、国税庁の質疑応答事例は、売却代金が現実に公益目的の事業に充てられたのであれば、事業の用に供されたことになるとしています。

    要件4:税負担を不当に減少させないこと

    寄附によって、寄附した人やその親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合は、特例は適用されません。たとえば、寄附した人や親族が、寄附先の法人を通じて特別の利益を受けている場合が該当します。

    寄附した相続人が寄附先の法人の理事を務めていることだけで直ちに不当減少となるわけではなく、法人の運営組織の適正さ、役員に占める親族等の割合、特別の利益の有無などの要件に照らして判断されます。家族が関わる法人への寄附は、要件を満たしているかを事前に確認しておくことが大切です。

    手続:申告書への記載と書類の添付

    特例を受けるには、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、寄附した財産の明細書(申告書第14表)や、寄附を受けた法人が発行する書類(寄附を受けた旨・年月日・財産の明細・使用目的を記載したもの)などを添付する必要があります(租税特別措置法70条5項)。添付がない場合は特例を受けられません。

    寄附先には、これらの書類の発行を依頼する必要があるため、寄附の段階で受領書類の内容を確認しておくと安心です。

    所得税との関係:寄附金控除とみなし譲渡

    相続税の非課税とは別に、所得税の扱いも確認が必要です。

    寄附する財産相続税所得税
    現金・預貯金要件を満たせば課税価格に算入しない寄附金控除の対象となり得る
    不動産・株式など要件を満たせば課税価格に算入しない法人への寄附は時価でのみなし譲渡課税が原則。非課税にするには措置法40条の承認が必要。承認を受けた場合の寄附金控除の対象額は取得価額

    ※AEGIS作成。

    国税庁の質疑応答事例では、相続税の非課税の特例の適用を受けた寄附であっても、所得税の寄附金控除の対象になるとされています。

    一方、不動産や株式を法人に寄附すると、寄附した相続人に所得税の「みなし譲渡」が生じるのが原則です。相続税の非課税と、譲渡所得の非課税は別々の制度で、別々の要件と手続があります。譲渡所得の非課税を受けるには、国税庁長官の承認が必要で、寄附財産を公益目的事業に「直接」使うことなど、相続税の特例より厳しい要件があります。詳しくは関連記事「財団に土地や株式を寄附したときの譲渡所得の非課税」で解説しています。

    寄附金控除と税額控除の選び方は「寄附金控除と税額控除はどちらを選ぶか」で整理しています。

    AEGISの視点

    相続財産の寄附は、相続税の申告期限という限られた時間の中で、遺産分割・納税資金の確保・寄附先の選定を同時に進める作業です。AEGISは、この特例を「相続税を減らす方法」ではなく、故人や家族の想いを、相続手続の流れの中で社会につなぐための仕組みとして捉えています。

    実務上は、どの財産を、誰が取得し、どこへ寄附するかを遺産分割と一体で設計することが鍵になります。寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得しておけば、代償金の扱いのような論点を避けやすくなります。また、不動産や株式をそのまま寄附するのか、相続した預貯金で寄附するのかによって、所得税の負担や手続は大きく変わります。

    寄附の想いが生前から明確であれば、遺言による遺贈寄附や、財団の設計を含めて検討する選択肢も広がります。財団・寄附の全体像は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    相続税と寄附に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すると、その財産は相続税の課税価格に算入されません(措置法70条)。
    • 公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人や、これから設立する法人への寄附は対象外です。
    • 対象は相続で取得した財産そのものです。預貯金の払戻金は対象となる一方、相続財産の売却代金は対象外とされており、代償金も慎重な検討が必要です。
    • 寄附後2年以内に法人が要件を外れたり、財産が公益目的に使われなかったりすると、修正申告が必要になります。
    • 不動産・株式の寄附では、所得税のみなし譲渡と措置法40条の承認を別に検討する必要があります。

    よくある質問

    Q. 相続税の申告期限を過ぎてから寄附した場合はどうなりますか?

    この特例は、申告期限までの寄附が要件です。期限後に寄附した場合は特例の対象にならず、寄附した財産も含めて相続税が計算されます。寄附を考えている場合は、早めに寄附先を決めて手続を進めることが大切です。

    Q. 父が理事をしていた一般財団法人に、相続した預金を寄附したいのですが対象になりますか?

    公益認定を受けていない一般財団法人は、特例の対象となる法人に含まれません。公益財団法人であれば対象となり得ますが、寄附する相続人や親族が特別の利益を受けていないかなど、不当減少に当たらないことの確認も必要です。

    Q. 受け取った生命保険金を寄附しても特例の対象になりますか?

    生命保険金や退職手当金のように、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も、特例の対象となる財産に含まれるとされています。申告期限までに対象法人に寄附すれば、適用を受けられる可能性があります。

    Q. 代償分割で受け取った代償金を寄附したい場合はどうすればよいですか?

    代償金は他の相続人の財産から支払われるもので、相続財産そのものではありません。特例の対象とされない可能性があるため、寄附を予定している財産は、寄附する相続人が遺産分割で直接取得する形を検討することが考えられます。

    Q. 相続した土地をそのまま公益財団法人に寄附すると、税金はかかりませんか?

    相続税は、要件を満たせばその土地の価額が課税価格に算入されません。ただし、所得税では法人への寄附は時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得が課税されるのが原則です。非課税にするには、寄附の日から原則4か月以内に措置法40条の承認申請を行い、承認を受ける必要があります。

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団活用や非上場株式寄附の適合性を、経営権・配当・財団運営・税務・実行後の管理の観点から整理します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会、第4章 P.531-536
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版、第3章 P.311-314
  • 資産管理会社の解散・清算を考えるとき|手続の流れ、残余財産とみなし配当、不動産の扱い、休眠との比較

    資産管理会社の解散・清算を考えるとき|手続の流れ、残余財産とみなし配当、不動産の扱い、休眠との比較

    資産管理会社は、つくるときよりも閉じるときのほうが論点が見えにくいものです。保有していた不動産を売り終えた、引き継ぐ家族がいない、会社を維持する手間に見合わなくなった。こうした理由で、会社をたたむことを考える場面があります。

    結論から言えば、資産管理会社を閉じるときは、「会社の財産をどう処分するか」と「株主が何をどの形で受け取るか」を、手続より先に決めておくことが重要です。解散・清算では、会社側で財産の処分に伴う課税が生じ、株主側では受け取った残余財産の一部がみなし配当として配当所得になることがあります。不動産をそのまま株主に分配する場合は、会社が時価で手放したものとして扱われる点にも注意が必要です。

    この記事では、解散・清算の手続の流れ、会社と株主それぞれの税務、不動産の扱い、休眠させる場合との比較を、承継の視点を交えて整理します。

    資産管理会社を閉じる選択肢

    会社を「使わなくなった」ときの選択肢は、解散・清算だけではありません。

    選択肢概要主な検討ポイント
    解散・清算会社を解散し、財産を換価・弁済して残りを株主に分配し、法人格を消滅させる会社側の譲渡益課税、株主側のみなし配当、手続の期間と費用
    休眠事業を止めたまま会社を残す申告や地方税の負担、登記の放置によるみなし解散
    存続して承継株式を次世代に移し、会社を使い続ける株式の評価、議決権の集約、管理の担い手
    他の会社との統合合併などで別の会社にまとめる組織再編の税務、繰越欠損金の扱い

    ※AEGISが比較のために作成した整理です。どの選択肢が適するかは、会社の財産・負債・株主構成によって異なります。

    会社の株式を次世代に引き継いで使い続ける選択肢は、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で扱っています。この記事では、主に解散・清算を中心に見ていきます。

    解散・清算の手続の流れ

    株式会社は、株主総会の特別決議によって解散できます(会社法471条3号・309条2項11号)。解散すると、会社は清算の目的の範囲でのみ存続し、清算人が財産の整理を進めます。一般的な流れ(いわゆる通常清算)は次のとおりです。

    段階主な内容
    1. 解散の決議株主総会で解散と清算人の選任を決議する
    2. 解散・清算人の登記法務局へ解散と清算人選任の登記を申請する(登録免許税は解散3万円、清算人選任9千円)
    3. 財産の調査清算人が財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受ける
    4. 債権者への公告・催告官報で債権の申出を求める公告をし、知れている債権者には個別に催告する(申出期間は2か月以上)
    5. 換価と弁済不動産などの財産を売却・回収し、債務を弁済する
    6. 残余財産の分配残った財産を株主に分配する
    7. 決算報告・結了登記決算報告を株主総会で承認し、清算結了の登記をする(登録免許税2,000円)

    法務局の記載例でも示されているとおり、債権者の申出期間があるため、清算人の就任から2か月以内に清算が終わることはありません。実際には、不動産の売却や税務申告の時期を含めて、少なくとも数か月の期間を見込んでおくことが現実的です。

    会社に債務が多く、財産で弁済しきれないおそれがある場合は、裁判所の監督の下で行う特別清算などの手続が問題になります。この記事では、資産超過の会社の通常清算を前提にしています。

    会社側の税務:清算中も「通常どおり」課税される

    事業年度が区切られる

    事業年度の途中で解散すると、事業年度開始の日から解散の日までが一つの事業年度となり、その後は清算中の事業年度として申告が続きます。申告期限は、解散の日までの事業年度や清算中の事業年度は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内ですが、残余財産が確定した日の属する事業年度は、確定の日の翌日から1か月以内(その期間内に残余財産の最後の分配を行う場合は、その前日まで)と短くなります(法人税法14条・74条)。解散の時期によって、申告の回数と時期が変わる点に注意が必要です。

    財産を処分すれば譲渡益に課税される

    平成22年度の税制改正以降、清算中の事業年度の所得も、通常の事業年度と同じように計算します。そのため、清算の過程で不動産を売却すれば、帳簿価額と売却価額との差額(譲渡益)に法人税等がかかります。長く保有した土地など、含み益の大きい財産を持つ資産管理会社では、この負担が清算の判断に大きく影響します。

    なお、財産で債務を弁済しきれない場合には、期限切れとなった欠損金を損金に算入できる特例もあります。適用の可否は財産と債務の状況によって異なります。

    株主側の税務:残余財産の分配とみなし配当

    清算の最後に、株主は残余財産の分配を受けます。個人株主の場合、受け取った金額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得になります(所得税法25条1項4号)。残りの部分は、株式の譲渡があったものとして、取得費との差額が譲渡損益として扱われます。

    受け取った残余財産の内訳個人株主での扱い(概要)
    資本金等の額に対応する部分株式の譲渡収入として、取得費との差額を譲渡損益として扱う
    それを超える部分(会社に蓄積された利益など)みなし配当として配当所得

    非上場株式の配当は、原則として総合課税の対象となり、支払時に20.42%(所得税及び復興特別所得税)の源泉徴収が行われます。配当所得は他の所得と合算して税率が決まるため、会社に長年蓄積された利益を一度に受け取ると、その年の個人の所得税負担が大きくなることがあります。高所得のオーナーほど、この影響を事前に試算しておくことが大切です。

    不動産をどう処分するか:売却か、現物で受け取るか

    資産管理会社の財産の中心が不動産である場合、清算の進め方は大きく二つに分かれます。

    進め方会社側株主側向いている場面
    会社が売却して現金で分配売却益に法人税等現金を受け取り、みなし配当等を計算不動産を手放す方針が決まっている
    不動産を株主に現物で分配時価で譲渡したものとして譲渡益に法人税等不動産を時価で受け取ったものとして、みなし配当等を計算家族が不動産を持ち続けたい

    ここで見落とされやすいのが、現物で分配しても会社の課税はなくならないことです。完全支配関係にある内国法人の間であれば、一定の要件のもとで帳簿価額のまま資産を移転できる「適格現物分配」という制度がありますが、分配を受ける者に個人が含まれる場合は対象になりません。個人株主に不動産を分配すると、会社は時価で譲渡したものとして課税され、株主は時価を基にみなし配当等を計算することになります。

    さらに、不動産を個人で受け取ると、所有権移転の登記費用や不動産取得税などの負担も生じ得ます。現物分配を選ぶ場合は、会社での譲渡益課税、個人でのみなし配当、移転の費用を合わせて、売却した場合と比較することが欠かせません。

    不動産を個人と法人のどちらで持つかという比較は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」の視点を逆向きに当てはめると整理しやすくなります。

    休眠させる場合との比較

    解散・清算の手間と税負担を考え、会社を休眠させて残す選択もあります。ただし、休眠は「何もしなくてよい状態」ではありません。

    • 事業を止めても法人は存続するため、税務申告や地方税の取扱いを確認する必要があります
    • 法務省によれば、最後の登記から12年を経過した株式会社は「休眠会社」として整理作業の対象となり、官報公告から2か月以内に登記や届出をしないと、みなし解散の登記がされます
    • みなし解散の後も3年以内であれば、株主総会の特別決議で会社を継続できますが、登記を怠った代表者には100万円以下の過料が科される可能性があります

    休眠は、将来また会社を使う予定がある場合の一時的な選択肢としては考えられます。一方、使う見込みがないまま残すと、管理の負担と、株式の承継という課題が先送りされることになります。

    承継の視点で考えておきたいこと

    資産管理会社を清算すると、オーナーの財産は「会社の株式」から「現金や不動産」へと形を変えます。この変化は、相続の準備にも影響します。

    • 財産の性質が変わる:株式として評価されていた財産が、現金や不動産として個人の財産になります。相続税の評価や遺産の分け方も変わります。
    • 役員退職金の検討:会社を閉じる前に、長年会社の業務を担った役員に退職金を支払うかどうかも論点です。考え方は関連記事「役員退職金はいつ・いくら支給するか」で扱っています。

    • 清算のタイミング:オーナーの相続が近い時期に清算を進めると、手続の途中で相続が起きる可能性もあります。清算に要する期間を見込み、余裕を持って判断することが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 株主名簿と資本金等の額を確認する:みなし配当の計算には、株主ごとの持株数と、会社の資本金等の額が必要です。古い会社ほど、記録の確認に時間がかかります。
    • オーナーとの貸し借りを整理する:オーナーから会社への貸付金や、会社からオーナーへの貸付金は、清算の過程で弁済・回収する必要があります。
    • 賃貸借契約や借地関係を整理する:入居者との契約や、オーナー個人の土地を会社が借りている関係は、解散前に処理の方針を決めておきます。
    • 複数年で試算する:会社の譲渡益課税、個人のみなし配当、翌年以降の個人の不動産所得まで含めて、数年単位で比較します。

    AEGISの視点

    資産管理会社の相談は、設立の段階に集中しがちです。しかしAEGISは、会社をつくるときに「どう閉じるか」まで想定しておくことが、資産管理会社の設計の一部だと考えています。

    会社を閉じる局面では、会社に蓄積された利益が個人に戻り、不動産の所有者が変わり、家族が受け取る財産の形が変わります。これは税金の問題であると同時に、家族の財産をどう引き継ぐかという承継の問題です。清算するか、休眠させるか、株式のまま引き継ぐかは、オーナー個人の財産全体と家族の意向を見たうえで判断したいところです。

    資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    資産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社を閉じる選択肢には、解散・清算、休眠、存続して承継、他の会社との統合があります。
    • 解散・清算は、解散決議と登記、財産の調査、債権者への公告・催告(2か月以上)、換価と弁済、残余財産の分配、結了登記の順に進みます。
    • 清算中も会社の所得は通常どおり計算され、不動産を売却すれば譲渡益に課税されます。
    • 個人株主が受け取る残余財産のうち、資本金等の額を超える部分はみなし配当として配当所得になります。
    • 不動産を現物で分配しても会社の譲渡益課税はなくならないため、売却する場合と合わせて比較が必要です。
    • 具体的な取扱いは、会社の財産・負債・株主構成など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社の解散から清算結了まで、どのくらいの期間がかかりますか?

    債権者への公告の期間が2か月以上必要なため、清算人の就任から2か月以内に清算が終わることはありません。不動産の売却や債務の弁済、税務申告の時期によって、少なくとも数か月を見込んでおくことが現実的です。

    Q. 残余財産を受け取ると、必ず税金がかかりますか?

    個人株主の場合、受け取った額のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当として配当所得になります。会社に利益が蓄積されていれば、多くの場合に課税が生じます。株式の取得費との関係で譲渡損益も生じるため、事前に試算しておくことをおすすめします。

    Q. 会社の不動産を、売らずに家族が受け取ることはできますか?

    残余財産として不動産を株主に分配することは可能です。ただし、個人株主への分配は会社が時価で譲渡したものとして扱われ、会社に譲渡益課税が生じます。株主側でもみなし配当等の計算が必要で、登記費用や不動産取得税などもかかり得ます。

    Q. 解散せずに休眠させておけば、費用はかかりませんか?

    休眠中も法人は存続するため、税務申告や地方税の取扱いを確認する必要があります。また、最後の登記から12年を経過すると、休眠会社として整理作業の対象となり、みなし解散の登記がされることがあります。

    Q. オーナーが亡くなった後に、相続人が会社を清算することもできますか?

    株式を相続した相続人が株主として解散を決議し、清算を進めることは可能です。ただし、相続税の申告・納税と清算の手続が重なり、判断の時間も限られます。会社をどうするかは、オーナー自身が元気なうちに方針を決めておくことが望まれます。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社(2023年)、第11章「解散及び清算」P.755-768
    • 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学ほか 著、中央経済社(2012年)、第Ⅰ部第4章「清算」P.76-89、第Ⅱ部第2章「現物分配の定義と適格要件」P.100-113
  • 法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断|期限が迫る今、確認したい要件・継続リスク・代替手段

    法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断|期限が迫る今、確認したい要件・継続リスク・代替手段

    法人版事業承継税制(特例措置)は、後継者が自社株式を贈与や相続で取得したときの贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の場合に免除する制度です。この特例措置を使うには、令和9年(2027年)9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります(中小企業庁)。

    期限が近づくと、「とりあえず計画だけ出しておくべきか」「そもそも自社は使うべきか」という相談が増えます。結論から言えば、判断の中心は税額の大小だけではありません。「猶予を受けた後も、何年にもわたって制度の要件を守り続ける経営を選ぶか」という問いです。

    この記事では、制度のしくみを確認したうえで、使う場合に引き受けることになる継続要件とリスク、使わない場合の代替手段を比べ、オーナーが判断するための軸を整理します。

    法人版事業承継税制(特例措置)とは

    事業承継税制には、平成21年度に創設された「一般措置」と、平成30年度税制改正で期間を区切って設けられた「特例措置」があります。中小企業庁の説明によると、特例措置には次のような特徴があります。

    • 納税猶予の対象となる株式数の上限が撤廃され、猶予割合が100%に拡大されている
    • 親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)への贈与・相続が対象になる
    • 雇用が8割を下回った場合でも、一定の手続(認定経営革新等支援機関の指導など)を経れば猶予が継続できる
    • 経営環境の悪化など事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合、5年経過後の売却・廃業時の価額などに基づいて猶予税額を再計算し、差額が免除される仕組みがある

    特例措置の対象は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等で取得した株式です。特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正の大綱で1年6月延長され、令和9年9月30日とされています。贈与・相続の期間そのものは延長されていない点に注意が必要です。

    「計画の提出」と「制度の適用」は別の段階

    特例承継計画は、後継者の氏名や承継までの経営の見通しなどを記載し、認定経営革新等支援機関(税理士、金融機関など)の所見を付けて提出する書類です。計画を提出しただけで、贈与や相続の際に必ず制度を使わなければならないわけではありません。一方、計画を提出していなければ、期限後に特例措置を選ぶ余地はなくなります。

    そのため実務では、「使うかどうかはまだ決められないが、選択肢を残すために計画を出す」という判断もあり得ます。ただし、計画の作成には後継者の特定や経営の見通しの整理が必要で、形式だけ整えればよいものではありません。

    制度のしくみ:猶予は「免除」ではない

    制度の大まかな流れは次のとおりです。

    1. 特例承継計画を都道府県に提出する
    2. 先代経営者から後継者へ株式を贈与する(または相続が発生する)
    3. 都道府県の認定を受け、贈与税・相続税の申告とあわせて納税猶予の手続を行う
    4. 認定の有効期間(申告期限の翌日から5年)中は、年1回、都道府県に年次報告書を、税務署に継続届出書を提出する
    5. その後も、税務署に3年に一度、継続届出書を提出する
    6. 先代経営者や後継者の死亡などの一定の事由が生じたときに、猶予税額が免除される

    贈与で制度を使った場合、先代経営者が亡くなると猶予されていた贈与税は免除されますが、その株式は相続で取得したものとみなされて相続税の対象になります。このとき、要件を満たせば相続税の納税猶予に切り替えることができます。

    ここで押さえておきたいのは、猶予は税金がなくなることではなく、「条件付きで支払いを先送りしている状態」だという点です。条件が崩れれば、猶予されていた税額に利子税を加えて納めることになります。

    使う場合に引き受けること:継続要件と猶予が打ち切られる場面

    制度を使うかどうかを考えるときは、適用時の要件よりも、適用後に何ができなくなるかを先に確認することが大切です。

    猶予が打ち切られる主な場面

    租税特別措置法では、次のような場合に猶予期限が確定し、猶予税額の全部または一部を利子税とあわせて納めることになります。範囲は、申告期限の翌日から5年間(認定の有効期間に相当する期間)中か、その経過後かによって異なります。

    • 後継者が代表者でなくなった場合(5年間の期間中に限ります。やむを得ない理由がある場合を除きます)
    • 猶予の対象となった株式を譲渡した場合(5年間の期間中は猶予税額の全部、経過後は一部の譲渡であれば譲渡した部分に対応する額)
    • 会社を解散した場合
    • 資本金や準備金を減少した場合(欠損の填補に充てる場合など一定の場合を除きます)、一定の組織再編(合併による消滅、株式交換等による完全子会社化など)を行った場合
    • 会社が、賃貸不動産・有価証券・現預金などの特定資産の割合が総資産の70%以上の会社(資産保有型会社)、または特定資産からの運用収入が総収入の75%以上の会社(資産運用型会社)に該当した場合(商品の販売などの事業を行い、親族外の従業員が5人以上いて、その事務所や店舗を所有・賃借しているなど、事業実態がある会社は除かれます)

    つまり、制度を使った会社では、将来のM&A、組織再編、資本の組み替え、不動産の持ち方の変更などが、猶予の打ち切りと直結しやすいということです。

    次の世代でも制度を使い続ける前提になる

    猶予が免除される典型的な場面は、後継者が亡くなったときや、後継者が次の後継者に株式を贈与し、その次の後継者も納税猶予を受けるときです。言い換えると、一度制度を使うと、その次の承継でも制度を使い続けることが、猶予税額を確定させない前提になりやすいということです。今の承継だけでなく、次の世代の承継の姿まで想像しておく必要があります。

    手続と管理の負担

    認定の有効期間中の毎年の報告、その後の継続届出、要件を満たしているかの定期的な確認が必要です。担当者の交代や顧問の変更があっても、この管理は途切れさせられません。

    使わない場合の代替手段

    制度を使わない場合でも、自社株式の承継には複数の方法があります。それぞれ、税負担だけでなく、資金や柔軟性の面で性格が異なります。

    方法主なしくみ向いている場面注意したいこと
    暦年課税による贈与年110万円の基礎控除を超える部分に贈与税株価が比較的低く、時間をかけて移せる相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される(経過措置あり)
    相続時精算課税による贈与特別控除2,500万円と基礎控除110万円を超える部分に一律20%、相続時に贈与時の価額で精算株価の上昇が見込まれ、早めに移したい一度選ぶと暦年課税に戻れない
    売買(後継者が買い取る)売り手に株式の譲渡所得課税後継者に資金調達力がある、他の家族との公平を保ちたい後継者側の資金負担、価格の妥当性
    相続後に会社が株式を買い取る一定の要件のもと、みなし配当課税の特例相続人の納税資金を会社の資金で手当てしたい会社の資金余力、相続税の申告期限の翌日以後3年以内などの要件
    承継制度を使わず相続で承継相続税を通常どおり納付納税資金の準備ができている申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)までの資金確保
    株式の一部を財団に寄附(社会貢献を軸にした承継)議決権のない配当優先株式などを財団に寄附し、議決権のある株式は後継者に承継社会に還元したい意思があり、経営権は後継者に集めたい寄附した株式は戻らない。種類株式の手続、みなし譲渡課税など税務の個別確認

    ※税率・控除額・要件は本記事の制度基準日時点の国税庁の説明に基づいています。個別の適用可否は事情により異なります。

    このほか、株価の水準そのものや株主構成を見直す方法(役員退職金の支給時期、資本構成の整理など)を組み合わせることもあります。代替手段の多くは「すぐに税負担が軽くなる」ものではありませんが、承継後の経営判断を縛らないという大きな利点があります。

    社会貢献を軸にした承継という選択肢

    代替手段の一つとして、株式の一部を財団に寄附し、その配当を社会貢献に充てる方法もあります。たとえば、議決権のない配当優先株式(種類株式)を設けてその株式を財団に寄附し、議決権のある株式は後継者に承継する設計です。後継者は会社の意思決定に必要な議決権を確保したまま、承継する株式の範囲を整理でき、会社の利益の一部は配当を通じて助成や奨学として社会に還元されます。

    事業承継税制と比べると、代表者の継続、株式の保有、資産構成といった要件を何年も守り続ける仕組みではないため、将来の売却・再編・資本の組み替えを判断する自由度を保ちやすい点が特徴です。また、自ら財団を設立すると、理事会・評議員会の運営や事務局、会計・報告を一族で担い、後継者にも引き継ぐことになりますが、運営体制をすでに備えた財団の中に基金を設ける形であれば、その負担を後継者に負わせずに済みます。AEGISでは、この考え方を形にする器としてアイジスレガシー財団を設立しています。

    一方で、寄附した株式は家族の手元には戻りません。種類株式の導入には定款変更などの会社法上の手続が必要で、配当を続けられる会社の収益力も前提になります。寄附した個人のみなし譲渡課税とその非課税特例、財団側への課税の有無など、税務上の取扱いは寄附の時期、財団の認定・承認の状況、株式の内容によって異なるため、個別の確認が欠かせません。社会に還元したいという意思があってこそ成り立つ方法であり、税負担の軽減だけを目的に選ぶものではありません。財団の設計の考え方は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    生前贈与と相続の使い分けについては、関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」で詳しく整理しています。

    判断のための5つの問い

    「使う・使わない」を考えるときは、次の5つの問いに順に答えていくと、自社の位置が見えやすくなります。

    1. 株式の評価額と、制度を使わない場合の税負担はどの程度か 評価額が大きく、通常の方法では納税資金の手当てが難しい場合ほど、制度の意味は大きくなります。逆に、評価額がそれほど大きくなければ、手続と管理の負担に見合わないこともあります。
    2. 後継者は決まっていて、代表者として長く経営を担う見込みか 後継者の意思や家族の合意が固まっていない段階で制度を前提にすると、後から身動きが取りにくくなります。
    3. 今後10年程度で、会社の売却・再編・資本の組み替えを考える可能性はあるか その可能性が高いほど、制度の縛りは重くなります。
    4. 会社の資産構成は、賃貸不動産や金融資産に偏っていないか、今後偏る予定はないか 不動産の取得や事業の縮小で資産構成が変わると、制度の前提が崩れるおそれがあります。
    5. 次の世代の承継まで、制度を使い続ける体制を想像できるか 孫の世代や社外の後継者への承継も視野に入れて考えます。
    判断の方向当てはまりやすい状況
    制度の活用を前向きに検討評価額が大きい/後継者が確定し長期の経営を担う/売却・再編の予定がない/事業用資産が中心
    慎重に比較・代替手段も検討評価額がそれほど大きくない/後継者が未確定/将来の売却や再編の可能性がある/賃貸不動産や金融資産が多い

    ※上表は考え方の整理のための例示です。実際の判断は、税額試算と会社・家族の個別事情によります。

    実務上注意したいポイント

    • 期限は計画の提出期限と、贈与・相続の期限の二つ:計画は令和9年9月30日まで、贈与・相続は令和9年12月31日までです。計画を出しても、期間内に贈与を実行しなければ特例措置の対象にはなりません。
    • 組織再編や資本の整理は適用前に検討する:持株会社の設立やグループ会社の整理などを考えているなら、制度を適用する前に方針を決めておく必要があります。
    • 他の家族との公平を確認する:株式を後継者に集中させる設計は、遺留分など家族間の調整を伴います。
    • 毎年の税制改正を確認する:延長や要件の見直しが続いている制度です。最新の情報は中小企業庁・国税庁の発表で確認してください。
    • 株式の評価方法の見直しにも注意する:国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、株式の評価額を前提にした判断は今後の改正に注意して見直してください。

    AEGISの視点

    事業承継税制の相談では、「使えば税金がゼロになるなら使うべきではないか」という問いから始まることが少なくありません。しかしAEGISは、この制度を「税負担の先送りと引き換えに、経営と所有の自由度を一定期間預ける仕組み」と捉えています。

    制度に合う会社では、非常に力のある仕組みです。後継者が覚悟を持って長く経営を担い、事業そのものを磨いていく会社であれば、猶予の条件は事業の方向とぶつかりにくいからです。反対に、将来の売却や再編、不動産を活用した事業の組み替えなど、選択肢を広く持っておきたい会社では、制度の縛りが判断の足かせになることがあります。

    大切なのは、税額の試算だけでなく、「10年後、20年後に会社をどうしていたいか」を先に言葉にすることです。そのうえで制度を使う・使わないを決めれば、どちらを選んでも、その理由を後継者や家族に説明できます。期限が迫っているからこそ、「とりあえず計画だけ」という判断であっても、その位置付けを家族と共有しておくことが望まれます。

    事業承継全体の進め方は「事業承継は何から始めるべきか」で、相続対策との一体設計は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、自社株の評価方法は「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。

    自社株の評価や承継に伴う資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 法人版事業承継税制(特例措置)を使うには、令和9年9月30日までに特例承継計画を提出する必要があり、対象となる贈与・相続は令和9年12月31日までです。
    • 制度は納税の「猶予」であり、適用後も代表者の継続、株式の保有、資産構成などの条件を守り続ける必要があります。
    • 売却・再編・解散などで猶予が打ち切られることがあり、次の世代でも制度を使い続ける前提になりやすい点が重要です。
    • 暦年贈与、相続時精算課税、売買、相続後の自己株式取得などの代替手段は、税負担は軽くなりにくい一方で、経営判断の自由度を保てます。
    • 社会に還元したい意思があれば、議決権のない株式を財団に寄附し、議決権のある株式を後継者に承継する「社会貢献を軸にした承継」も選択肢になります。
    • 判断の中心は「将来、会社をどうしていたいか」です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 特例承継計画を提出したら、必ず制度を使わなければなりませんか?

    計画を提出しても、贈与や相続の際に制度の適用を受けるかどうかは改めて選ぶことができます。一方で、期限までに計画を提出していなければ特例措置を選ぶことはできません。ただし計画には後継者や経営の見通しを記載する必要があるため、方針の整理は欠かせません。

    Q. 期限は延長されたと聞きましたが、贈与の期限も延びたのですか?

    令和8年度税制改正の大綱で延長されたのは特例承継計画の提出期限で、令和9年9月30日までとされています。特例措置の対象となる贈与・相続の期間は令和9年12月31日までのままです。今後の改正の有無は、中小企業庁や国税庁の最新情報で確認してください。

    Q. 制度を使った後に会社を売却することはできますか?

    売却そのものは可能ですが、猶予の対象となった株式を譲渡すると、原則として猶予されていた税額と利子税を納めることになります。5年経過後に、経営環境の悪化など事業の継続が困難な一定の事由が生じたうえで親族など特別の関係がある者以外に売却する場合などには、売却価額などに基づいて猶予税額を再計算し差額を免除する仕組みもありますが、将来の売却の可能性があるなら、制度を使う前に慎重に検討しておくことが大切です。

    Q. 親族ではない役員に承継する場合も使えますか?

    特例措置では、親族外の後継者も対象とされています。贈与で適用を受ける場合、後継者は贈与の時に18歳以上で代表権を有し、贈与の直前に役員であることなどが要件です(一般措置では贈与の日まで3年以上役員であることが必要です)。ただし、贈与による承継が前提になるため、オーナー側の財産や他の家族への配分との関係を整理する必要があります。役員・従業員への承継方法全体は、別の記事で比較しています。

    Q. 制度を使わない場合、まず何から考えればよいですか?

    まずは自社株式の評価額と、相続が起きた場合の税負担・納税資金の見通しを確認することです。そのうえで、暦年贈与や相続時精算課税、売買、相続後の自己株式取得などのどれを、どの時期に組み合わせるかを検討します。事業の成果の一部を社会に還元したいという考えがあれば、株式の一部を財団に寄附する方法もあわせて比較します。

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    • 事業承継:後継者・経営権・株式・資金・ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどの方法を比較しながら承継計画を検討します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『これだけ!組織再編&事業承継税制(第3版)』佐藤信祐・長谷川太郎 著、中央経済社、P.227-243
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.171-276(第3章)
  • 家族を資産管理会社の役員にするときの報酬|職務の実態・金額の決め方・社会保険と扶養への影響

    家族を資産管理会社の役員にするときの報酬|職務の実態・金額の決め方・社会保険と扶養への影響

    資産管理会社をつくると、配偶者や子を役員にして報酬を支払う設計がよく検討されます。不動産から生じる収益を家族に分けることで、家族全体の税負担を抑え、家族それぞれの手元に資金を蓄えられるからです。

    ただし、家族への役員報酬は「家族だから払える」ものではなく、「その人が会社のために担っている職務の対価」として説明できる必要があります。役員報酬のうち職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は、会社の損金に算入されません。また、報酬を受け取った家族の社会保険の扶養や、オーナー本人の配偶者控除にも影響が及びます。

    この記事では、家族を資産管理会社の役員にするときに、職務の実態をどう整え、金額をどう決め、社会保険や扶養への影響をどう確認するかを整理します。

    役員報酬が損金になるための前提

    まず、法人税の基本的な仕組みを確認しておきます。国税庁によれば、役員に支給する給与のうち会社の損金に算入されるのは、主に次の3つの類型です。

    類型概要資産管理会社での使われ方
    定期同額給与1か月以下の一定期間ごとに、同額を支給する給与毎月の役員報酬として最も一般的
    事前確定届出給与あらかじめ時期と金額を定め、届け出たとおりに支給する給与役員賞与を支給する場合
    業績連動給与利益などの指標に連動する給与で、一定の要件を満たすもの同族会社は、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限り対象となり、同族会社の資産管理会社では使える場面が限られる

    さらに、これらの類型に当てはまる給与であっても、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。家族役員の報酬で問われるのは、主にこの「不相当に高額かどうか」です。

    なお、役員報酬・配当・内部留保の全体的な考え方は、関連記事「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で扱っています。

    「不相当に高額」はどう判断されるか

    役員報酬が過大かどうかは、大きく二つの基準で判定されます(法人税法34条2項、法人税法施行令70条1号)。いずれか多い金額が「不相当に高額な部分」として損金に算入されません。

    • 形式基準:定款や株主総会の決議で定めた役員報酬の限度額(または算定方法)を超えていないか
    • 実質基準:その役員の職務の内容、会社の収益や使用人に対する給与の支給状況、同種・同規模の法人の役員報酬の状況などに照らして、職務の対価として相当な額を超えていないか

    資産管理会社の家族役員で特に重要なのは、実質基準です。たとえば、物件の管理を外部の管理会社にほぼ任せていて、家族役員の業務が月に数回の書類確認にとどまる場合、常勤の役員と同じ水準の報酬を支払えば、職務の内容との釣り合いを説明することは難しくなります。

    専門書でも、同業他社の水準を把握しておくことに加え、その会社自身が、役員の職務内容や貢献を具体的に示せるようにしておくことが重要だと指摘されています。会社の内情を最もよく知っているのは会社自身だからです。

    役員でない家族への給与にも注意

    家族を役員にせず、従業員として給与を支払う場合も同じ問題があります。役員の親族、役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者、役員から生計の支援を受けている者(特殊関係使用人)に支払う給与のうち、不相当に高額な部分は損金に算入されない仕組みがあり(法人税法36条、法人税法施行令72条)、国税庁の法人税基本通達では、その範囲に関わる「生計の支援を受けているもの」などの解釈が示されています。役員か従業員かにかかわらず、家族への報酬・給与には算定の根拠が求められると考えておくのが安全です。

    また、取締役に就任していなくても、会社の経営に実質的に従事している人は、税務上は役員として扱われることがあります(法人税基本通達9-2-1では、相談役や顧問などで実質的に経営に従事している者が例示されています)。肩書きではなく、実際の関わり方で判断される点に注意が必要です。

    職務の実態をどう整え、どう記録するか

    家族役員の報酬の根拠は、「誰が、何を、どのくらい担っているか」です。AEGISでは、報酬を決める前に、職務を次のように書き出すことをおすすめしています。

    家族役員の例担う職務の例残しておきたい記録の例
    配偶者(常勤に近い関与)賃料の入金確認と督促、入居者対応、修繕業者への発注、月次の収支管理業務日誌、入金管理表、発注書、月次報告書
    子(他に勤務先あり)年に数回の取締役会での意思決定、物件の現地確認、資金計画の検討取締役会議事録、現地確認の報告、検討資料
    高齢の親(引継ぎ期間)長年の管理の知見の引継ぎ、主要な取引先との関係の維持引継ぎの記録、面談記録

    ※上記は職務と記録の考え方を示す例です。報酬の水準は、職務の量と内容、会社の収益などを踏まえて個別に検討します。

    ポイントは、職務の量に応じて報酬に差をつけることです。家族全員に同じ額を支払う設計は、職務の違いを説明しにくくなります。また、資産管理会社が受け取る管理料と、家族役員の報酬はつながっています。管理料の根拠となる業務を、実際に家族役員が担っているかも確認したいところです。管理料の考え方は、関連記事「資産管理会社に管理を任せるときの管理料」で扱っています。

    定期同額給与の運用で気をつけたいこと

    毎月の役員報酬を定期同額給与として支払う場合、事業年度の途中で金額を自由に変えることはできません。国税庁によれば、改定が認められるのは、主に次の場合です。

    • 事業年度開始の日から3か月以内の改定
    • 役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更などによる改定(臨時改定事由)
    • 経営状況が著しく悪化したことなどによる減額(業績悪化改定事由)

    資産管理会社では、「今年は利益が多く出たので、期末に家族の報酬を上げる」といった運用は、損金算入の要件から外れるおそれがあります。報酬額は、期首に1年間の収支見込みを立てたうえで決め、株主総会などの決議を記録に残すことが基本です。

    社会保険への影響

    見落とされやすいのが社会保険です。日本年金機構によれば、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。資産管理会社も、役員に報酬を支払う形をとれば、社会保険の手続が必要になる可能性があります。役員が被保険者になるかどうかは、勤務の実態や報酬の内容によって判断されます。

    家族が、オーナー本人や他の家族の健康保険の被扶養者になっている場合は、特に注意が必要です。日本年金機構の案内では、被扶養者として認定される収入の基準は、原則として年間収入130万円未満(60歳以上または一定の障害のある方は180万円未満)で、同居の場合は被保険者の収入の半分未満、別居の場合は被保険者からの仕送り額未満であることなどとされています。19歳以上23歳未満の人(被保険者の配偶者を除く)については、令和7年10月1日以降の認定から150万円未満の基準が示されています。また、令和8年4月1日以降は、一定の条件を満たす場合に、労働契約の内容から見込まれる年間収入で判定する取扱いも示されています。

    確認したいこと影響の例
    家族が被扶養者になっているか役員報酬により基準を超えると、扶養から外れ、自ら保険料を負担する可能性
    配偶者が国民年金の第3号被保険者か被扶養配偶者でなくなると、第3号被保険者の資格にも影響
    家族に他の勤務先があるか勤務先での加入状況と、資産管理会社での加入の要否の整理

    ※社会保険の取扱いは、勤務の実態や報酬の額によって判断されます。設計の段階で確認してから報酬額を決める順番が安全です。

    所得税の扶養・配偶者控除への影響

    オーナー本人の所得税にも影響があります。国税庁によれば、令和8年分以降、配偶者控除の対象となる配偶者は、年間の合計所得金額が62万円以下(給与のみの場合は給与収入136万円以下)であることなどが要件です。また、控除を受けるオーナー本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は適用されません。

    配偶者に役員報酬を支払えば、配偶者の所得が増える一方で、オーナー本人の配偶者控除などが使えなくなる場合があります。家族全体で見たときに、手取りと負担がどう変わるかを、社会保険とあわせて試算することが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 名目だけの役員にしない:登記上は役員でも、会社の業務にまったく関与していない場合、報酬の根拠を説明することは困難です。
    • 報酬は本人が受け取り、本人が管理する:家族役員の報酬が実際には本人の口座に入らない、あるいは本人が自由に使えない状態では、報酬としての実態が疑われかねません。
    • 定款・株主総会での限度額を確認する:形式基準との関係で、役員報酬の総額の限度額を定めている場合は、その範囲内であるかを確認します。
    • 将来の退職金も視野に入れる:長く会社の業務を担う家族役員には、将来の退職金も検討対象になります。在任期間や職務の記録は、その根拠にもなります。
    • 勤務先の規定を確認する:家族が会社員などの場合、勤務先の兼業規定との関係も確認します。給与所得者が資産管理会社をつくる場合の論点は、関連記事「会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に」で整理しています。

    AEGISの視点

    家族への役員報酬は、資産管理会社の効果を説明するときによく挙げられる要素です。しかしAEGISは、これを「所得を分ける手段」としてではなく、「家族が資産の管理に参加する仕組み」として設計することが大切だと考えています。

    家族が実際に賃料の管理や修繕の判断に関わり、その職務に見合った報酬を受け取る。そうした積み重ねは、報酬の根拠を明確にするだけでなく、オーナーが一線を退いたときに家族が資産を引き継ぎ、管理を続けていくための準備にもなります。反対に、名目だけの役員に報酬を払い続けると、税務の説明が難しくなるうえ、いざというときに資産の状況を理解している家族がいないという事態にもなりかねません。

    報酬額は、税負担だけでなく、家族の社会保険や扶養、将来の承継まで含めて決めるもの。そのためにも、まず職務を書き出すところから始めることをおすすめします。資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    まとめ

    • 家族への役員報酬は、その人が担う職務の対価として説明できることが前提です。
    • 役員報酬は定期同額給与などの類型に当てはまる必要があり、職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は損金に算入されません。
    • 役員でない家族への給与や、肩書きのない実質的な経営者への支払にも、同様の考え方が及ぶことがあります。
    • 職務の内容を書き出し、職務の量に応じて報酬に差をつけ、日常の記録を残すことが基本です。
    • 報酬により、家族の社会保険の被扶養者の資格や、オーナー本人の配偶者控除に影響が出ることがあります。
    • 具体的な取扱いは、職務の実態や家族の状況など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 家族役員の報酬は、いくらまでなら問題ありませんか?

    一律の上限はありません。役員の職務の内容、会社の収益、使用人の給与の状況、同種・同規模の法人の役員報酬の水準などに照らして、職務の対価として相当かどうかで判断されます。金額から決めるのではなく、職務の内容から説明できる額にすることが大切です。

    Q. 業務をしていない家族に、少額の役員報酬を払うことはできますか?

    少額であっても、職務の実態がなければ報酬の根拠は説明しにくくなります。年に数回の取締役会での意思決定など、役員としての職務を実際に担っているかを確認し、その内容に見合った額にすることが基本です。

    Q. 期の途中で家族役員の報酬を増やすことはできますか?

    定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります。職務内容の重大な変更などの臨時改定事由がない限り、期の途中で増額すると、増額分が損金に算入されないおそれがあります。

    Q. 配偶者に役員報酬を払うと、扶養から外れますか?

    健康保険の被扶養者の基準は、原則として年間収入130万円未満(60歳以上または一定の障害のある方は180万円未満)などとされています。役員報酬によって基準を超えると、被扶養者から外れる可能性があります。所得税の配偶者控除の要件も別にあるため、両方を確認することが大切です。

    Q. 子どもが学生でも、役員にして報酬を払えますか?

    役員に就任すること自体は可能ですが、学業と両立しながら担える職務の内容と量を具体的に示せるかが問われます。報酬額によっては、親の扶養控除や健康保険の被扶養者の資格にも影響するため、慎重な検討が必要です。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『新版 税務調査事例からみる役員給与実務Q&A』安部和彦 著、清文社(2016年)、第2章 Q2-7(P.32-35)、Q2-46・Q2-47(P.178-184)、Q2-59(P.224-227)
  • 会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法|寄附・基金・公益信託・財団をどう比べるか

    会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法|寄附・基金・公益信託・財団をどう比べるか

    会社を売却し、まとまった資金を手にしたオーナーから、「この資金の一部を社会のために使いたい」という相談を受けることが増えています。長年の事業を支えてくれた地域や業界、次の世代に何かを還元したいという想いは、とても自然なものです。

    結論から言えば、売却資金を社会貢献に生かす方法は、①公益法人などへの直接の寄附、②公益法人などに基金を設ける寄附、③公益信託、④財団の設立の4つに整理できます。どれが適しているかは、「自分がどこまで関わり続けたいか」「どのくらいの期間・規模で続けたいか」「運営の手間と費用をどこまで引き受けられるか」によって決まります。税制はその次に比べるものです。

    この記事では、売却後の「現金」を前提に、4つの方法の違いと、売却の年に確認しておきたい税務の考え方を整理します。株式のまま財団に寄附する方法は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で扱っています。

    まず、売却後の資金の性格を確認する

    社会貢献の方法を考える前に、手元に残る資金がどのようなものかを確認しておきます。

    個人が非上場株式を売却した場合、その譲渡益は他の所得と分けて税金を計算する申告分離課税の対象となり、税率は所得税15%・住民税5%の合計20%に、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わります(国税庁タックスアンサーNo.1463)。令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%(令和8年分までは2.1%)に引き下げられ、あわせて防衛特別所得税(同1%)が課されます(財務省「令和8年度税制改正の解説」)。税金は売却した年の翌年の確定申告で納めるため、売却代金を受け取った時点では、まだ納税前の資金が含まれていることに注意が必要です。

    さらに、売却契約によっては、代金の一部が一定期間預けられたり(エスクロー)、業績に応じて後から支払われたり(アーンアウト)、表明保証に基づく補償の可能性が残ったりします。社会貢献に回す金額は、税金・費用・補償リスクを差し引いた「確定した手取り」から逆算するのが基本です。

    会社売却の準備から売却後の資産管理までの全体像は、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    4つの方法を比べる

    売却資金を社会貢献に生かす4つの方法を、オーナーの意思決定に関わる項目ごとに比べると、次のようになります。

    比較の視点①直接の寄附②基金型の寄附③公益信託④財団の設立
    仕組み既存の公益法人・認定NPO法人などに寄附既存の公益法人などに、目的や名称を定めた基金を設けて寄附受託者に財産を託し、行政庁の認可を受けて公益事務を行う一般財団法人を設立し、必要に応じて公益認定を受ける
    立ち上げの手間小さい小さい〜中程度中程度(受託者・信託管理人の選定と認可)大きい(設立・機関設計・公益認定)
    寄附者の関与寄附した時点でほぼ終わる使途の希望を伝える程度設定時に目的を定め、運営は受託者に委ねる理事・評議員などとして関わり続けられる
    継続性寄附先の活動に依存基金の存続期間に依存信託の目的と財産が続く限り法人として長期に存続し得る
    運営費用ほぼなし管理費が差し引かれる場合あり受託者・信託管理人への報酬人件費・事務所・会計監査など
    向いているケース特定の団体の活動を応援したい名前や目的を残しつつ手間は抑えたい助成・奨学金を長く続けたい自ら事業を運営し、活動を育てたい

    ①直接の寄附:最も簡単で、税制も分かりやすい

    既存の公益法人や認定NPO法人などへの寄附は、最も手間が少ない方法です。寄附先の活動内容や財務を確認したうえで、寄附の目的(使途)を指定できる場合もあります。一方、寄附した後の活動に寄附者が関わることは基本的にありません。

    ②基金型の寄附:名前と目的を残し、運営は任せる

    公益財団法人などの中には、寄附者の名前を冠した基金を設けたり、寄附者の希望を聞きながら助成先を選んだりする仕組みを持つところがあります。海外で「ドナー・アドバイズド・ファンド」と呼ばれる形に近いものです。法的には公益法人への寄附であり、助成先の最終的な決定権は受け手の法人にあります。基金の運営方針や管理費、存続期間は受け手によって異なるため、契約や覚書で確認することが大切です。

    AEGISも、寄附者の名前や想いを冠した基金を設ける器としてアイジスレガシー財団を設立しています。自ら財団を設立する場合と比べて、理事会の運営や事務局を自ら抱える必要がなく、後継者に運営の負担を残さない点が特徴です。基金を設ける基準や事務運営費、寄附金控除などの税務上の扱いは受け手の法人ごとに異なるため、あわせて確認が必要です。

    ③公益信託:組織をつくらずに長く続ける

    令和8年4月から新しい公益信託制度が始まり、受託者の範囲や信託できる財産が広がりました。財団のような組織をつくらずに、奨学金や研究助成などを長く続けたい場合の有力な選択肢です。詳しくは関連記事「公益信託の新制度と財団の違い」で比較しています。

    ④財団の設立:自ら活動を育てる

    売却資金で財団を設立すれば、目的や活動を自ら設計し、理事などとして関わり続けることができます。事業を経営してきた経験を、社会課題の解決に生かしたいオーナーにとっては、最も想いを形にしやすい方法です。ただし、組織を運営する人と費用が長期にわたって必要になります。設計の考え方は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    税制のポイント:現金で寄附する場合

    売却後の現金を寄附する場合、株式や不動産と違って、寄附した時点での「みなし譲渡」の問題は生じません。主な論点は、寄附した個人の所得税の扱いです。

    寄附金控除と税額控除

    公益社団法人・公益財団法人や認定NPO法人などへの寄附は、所得税の寄附金控除(所得控除)の対象となります。控除額は、その年の特定寄附金の合計額と、総所得金額等の40%相当額のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額です(国税庁タックスアンサーNo.1150)。

    また、行政庁から一定の証明を受けた公益社団法人等への寄附については、所得控除に代えて、税額控除を選ぶこともできます。税額控除の額は、寄附金の額(総所得金額等の40%が限度)から2,000円を差し引いた額の40%で、所得税額の25%が上限です(国税庁タックスアンサーNo.1266)。所得控除は税率の高い人ほど効果が大きく、税額控除は税率にかかわらず一定の割合で税額が減る、という性格の違いがあります。どちらを選ぶかの考え方は、関連記事「寄附金控除と税額控除の使い分け」で扱います。

    売却の年は「上限の計算の基礎」が大きくなる

    寄附金控除の上限の基準となる「総所得金額等」には、申告分離課税の所得の金額も含まれるとされています(国税庁「税務用語の意味」)。つまり、株式の譲渡益が生じた年は、寄附金控除の上限の計算の基礎が大きくなります。

    ただし、控除によって実際にどれだけ税負担が軽くなるかは、その年の所得の構成や、控除がどの所得から差し引かれるかによって変わります。所得控除は、まず給与所得などの総所得金額から差し引き、引ききれない部分を非上場株式の譲渡所得などから差し引く順序とされています(所得税法第87条第2項、租税特別措置法第37条の10第6項)。また、令和7年分以後は、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合に所得税が加算される特例(租税特別措置法第41条の19、国税庁タックスアンサーNo.2270)があり、大きな売却益が生じた年はこの影響も含めて考える必要があります。「売却の年に寄附すれば必ず有利」とは言い切れないため、寄附の時期と金額は、売却の年と翌年以降に分けて試算してから決めることをおすすめします。住民税についても、自治体の条例で指定された寄附金には税額控除の仕組みがあります(内閣府 公益法人information)。

    財団を設立する場合の注意

    自ら設立した一般財団法人への拠出は、その財団が公益認定を受けていない段階では、寄附金控除の対象となる特定寄附金には当たらないのが一般的です。また、持分の定めのない法人への財産の移転によって親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、法人に贈与税等が課される仕組みもあります(相続税法第66条第4項)。財団を設立する場合は、公益認定を目指すのか、拠出をどの順番で行うのかまで含めて設計する必要があります。

    公益信託に寄附する場合

    内閣府によれば、新しい制度で認可を受けた公益信託に個人が寄附したときは、所得税の寄附金控除を受けられます。法人が寄附した場合も、一般の寄附金とは別枠で損金算入が可能とされています。

    時間軸で考える:一度に寄附しない選択

    売却直後に大きな金額を一度に寄附する必要はありません。むしろ、次のように時間軸で分けて考えると、判断の質が上がります。

    1. 売却直後:納税資金・生活資金・家族への配分・補償リスクへの備えを確保する。
    2. 1〜3年目:直接の寄附や基金型の寄附で、関わりたい分野や団体を試す。活動の現場を知る。
    3. 方針が固まった段階:公益信託や財団の設立など、長く続く器を検討する。
    4. 相続まで見据えて:残りの資金を、遺言による寄附(遺贈寄附)として位置付ける。

    遺言で社会に財産を遺す方法は、関連記事「遺贈寄附とは何か」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 寄附先の確認:法人の種類(公益法人、認定NPO法人など)によって税制の扱いが変わります。寄附の前に、受領証の発行や税額控除の証明の有無を確認します。
    • 家族との合意:売却資金は、相続財産の大きな部分を占めることがあります。寄附の規模は、家族への配分や遺留分との関係も踏まえて決めます。
    • ガバナンス:財団を設立する場合、家族だけで運営すると税務上の要件や公益認定の基準に抵触するおそれがあります。外部の理事や評議員を迎える前提で設計します。
    • 公表の仕方:寄附の事実や金額をどこまで公表するかは、本人と家族の考え方によります。基金の名称などを決める前に、家族の意向も確認しておきます。

    AEGISの視点

    会社の売却は、オーナーにとって「事業を手放す」出来事であると同時に、「資産の形が変わる」出来事です。事業という形で社会と関わってきた財産が、現金という自由度の高い形に変わる。AEGISは、この転換点こそ、社会との関わり方を改めて設計し直す機会だと考えています。

    売却資金の社会貢献を考えるとき、AEGISが大切にしているのは、税制の有利不利より先に「関わり方」を決めることです。寄附して見守るのか、名前と目的を残すのか、自ら活動を率いるのか。関わり方が決まれば、選ぶべき器と、必要な資金の規模、運営を支える人が自然に見えてきます。

    また、売却資金の使い道は、社会貢献だけで完結しません。家族の生活、次の事業への投資、相続への備え。これらと社会貢献を同じ一枚の上に並べ、どの資金に、どの役割を持たせるかを決めることが、売却後の資産設計の要だとAEGISは考えています。

    売却に伴う税務や、寄附・財団に関する資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 売却資金を社会貢献に生かす方法は、直接の寄附、基金型の寄附、公益信託、財団の設立の4つに整理できます。
    • 選び方の中心は、関わり方・継続期間・運営の手間と費用であり、税制はその後に比べます。
    • 寄附に回す金額は、譲渡益に係る税金・費用・補償リスクを差し引いた確定した手取りから逆算します。
    • 現金の寄附は、寄附金控除(所得控除)または一定の場合の税額控除の対象になり得ます。売却の年は控除の上限の計算の基礎が大きくなりますが、実際の効果は試算が必要です。
    • 一度に寄附せず、時間軸で器を選んでいく方法も有効です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 売却した年に寄附すると、税金はどのくらい減りますか?

    寄附金控除は、特定寄附金の合計額と総所得金額等の40%相当額のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額を所得から控除する仕組みです。売却の年は総所得金額等に株式の譲渡益も含まれるため上限は大きくなりますが、実際の軽減額は所得の構成や控除の順序によって変わります。寄附の前に、売却の年と翌年以降のそれぞれで試算することをおすすめします。

    Q. 自分で財団をつくって、そこに売却資金を入れれば税金は軽くなりますか?

    公益認定を受けていない一般財団法人への拠出は、一般に寄附金控除の対象になりません。また、家族だけで運営する財団への拠出は、相続税法上の課税の対象となるおそれもあります。財団は税負担を軽くする手段ではなく、活動を続けるための器として設計することが大切です。

    Q. 基金型の寄附では、助成先を自分で決められますか?

    一般的には、寄附者は希望を伝えることができても、最終的な決定は受け手の法人が行います。法的には公益法人への寄附であり、寄附者が支配する形になると公益性が損なわれるためです。どこまで意向が反映されるかは、受け手の法人の規程や覚書で確認する必要があります。

    Q. 売却代金の一部がエスクローで預けられています。寄附額はどう決めればよいですか?

    エスクローやアーンアウトなど、受取りが確定していない部分は、寄附の原資に含めないのが安全です。補償の請求があった場合に備える必要もあるため、確定した手取りから、納税資金や生活資金を差し引いた範囲で寄附額を決めることをおすすめします。

    Q. 会社を売却する前に株式を寄附する方法と、売却後に現金で寄附する方法は、どちらがよいですか?

    前提が大きく異なります。売却前の株式の寄附は、寄附した株式が売却の対象から外れるため、買い手との交渉や議決権、みなし譲渡と非課税の特例の要件を慎重に検討する必要があります。売却後の現金の寄附は、仕組みが簡単な一方、譲渡益に係る税金を納めた後の資金になります。売却の検討段階から、どちらの方法をとるかを決めておくことが望まれます。

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    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理を検討します。
    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団の活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団の運営・税務・実行後の管理を整理します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『目的&ケース別 M&A・組織再編成の税務ストラクチャー徹底比較』蝋山竜利・中島礼子・小林誠 著、中央経済社
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
  • 相続税で差し引ける債務と葬式費用の範囲|借入金・未払いの税金・入院費・葬儀の費用はどこまで控除できるか

    相続税で差し引ける債務と葬式費用の範囲|借入金・未払いの税金・入院費・葬儀の費用はどこまで控除できるか

    相続税の計算では、亡くなった方(被相続人)が相続開始の時点で負っていた確実な債務と、葬式費用を、遺産の額から差し引くことができます。これを「債務控除」といいます。

    差し引けるかどうかの分かれ目は、おおむね次の3点です。

    • 亡くなった方自身の債務か(相続人が相続後に負担する手続費用は対象外)
    • 相続開始の時点で存在し、確実といえるか(時効が完成した債務や、単なる保証は原則として対象外)
    • 葬式そのものに伴う費用か(香典返し・墓地や墓石・法要の費用は対象外)

    借入金のように分かりやすいものだけでなく、未払いの入院費や施設利用料、亡くなった年の固定資産税・住民税、準確定申告で納める所得税なども対象になり得ます。一方で、細かな支出ほど申告から漏れやすいのも実情です。この記事では、控除できるもの・できないものを整理し、資料のそろえ方と、申告後に漏れに気づいた場合の考え方までをまとめます。

    債務控除とは:相続税は「差し引いた後の財産」にかかる

    相続税は、相続や遺贈で取得した財産の価額から、被相続人の債務と葬式費用のうちその人が負担した部分を差し引いた金額をもとに計算します(相続税法13条)。借入金を引き継いだ人は、その分だけ実際に受け取る財産の価値が小さくなるため、その負担を課税価格に反映させる仕組みです。

    債務控除ができるのは、原則として相続人と包括受遺者(遺言で遺産の全部や一定割合を受け取る人)で、実際にその債務や葬式費用を負担した人です。相続や遺贈で財産を取得したときに日本に住所がないなど、一定の場合には差し引ける債務の範囲が限られ、葬式費用は差し引けません(国税庁 タックスアンサーNo.4126)。

    誰がいくら負担したかが決まっていない段階では、法定相続分や包括遺贈の割合に応じて負担したものとして扱われます(相続税法基本通達13-3)。遺産分割の中で「どの債務を誰が引き継ぐか」を決めると、その結果が各人の相続税額にも反映されます。

    差し引ける債務の条件

    相続開始の時点で存在し、「確実」であること

    差し引ける債務は、相続開始の際に現に存在する被相続人の債務で、確実と認められるものに限られます(相続税法13条・14条)。

    • 書面による証拠が必ずしも必要というわけではありません。ただし、金額が確定していない債務は、相続開始時の状況から確実と認められる範囲の金額に限られます(相続税法基本通達14-1)。
    • 相続開始の時点ですでに消滅時効が完成している債務は、確実な債務にあたらないものとして扱われます(同14-4)。
    • 保証債務は原則として差し引けません。主たる債務者が弁済できない状態で、保証人が支払わなければならず、しかも求償しても返ってくる見込みがない部分に限って差し引けます。連帯債務は、自分の負担部分が明らかであればその金額を差し引けます(同14-3)。

    主な債務の扱い

    項目扱いの目安確認したい資料
    金融機関からの借入金相続開始日の残高を差し引ける(団体信用生命保険などの保険金で完済され、相続人が引き継がない部分は除く)残高証明書、返済予定表、団体信用生命保険の加入状況が分かる資料
    未払いの入院費・医療費亡くなった時点で未払いの分は差し引ける請求書・領収書(診療期間が分かるもの)
    施設利用料・公共料金・クレジットカード亡くなった方名義の契約で、未払いの分は差し引ける請求書、利用明細、引落し記録
    準確定申告で納める所得税差し引ける準確定申告書の控え
    固定資産税・住民税亡くなった方に課されたもので、未納の部分は差し引ける納税通知書、納付記録
    事業の未払金・預り敷金確実なものは差し引ける帳簿、賃貸借契約書
    生前に買った墓石・仏壇の未払代金差し引けない(非課税財産に関する債務)—
    保証債務原則差し引けない(例外あり)保証契約書、主たる債務者の状況
    相続人の責任で生じた延滞税・加算税差し引けない—

    ※AEGISが整理した目安です。個別の可否は、契約内容や事実関係によって異なります。

    税金の債務:所得税・固定資産税・住民税

    税金は、亡くなった後に納付することになったものでも債務として差し引けるのが特徴です。

    準確定申告で納める所得税

    年の途中で亡くなった方に申告すべき所得があった場合、相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、その年1月1日から亡くなった日までの所得について申告と納税をします(準確定申告。国税庁 タックスアンサーNo.2022)。この所得税は、亡くなった時点ではまだ確定していませんが、債務として差し引くことができます(相続税法14条2項、同法施行令3条)。

    ただし、相続人の責任で生じた延滞税や加算税は差し引けません(同施行令3条ただし書)。準確定申告の期限管理は、相続税の計算にもつながるということです。

    固定資産税

    固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)の所有者に、その年度分が課されます(地方税法359条)。そのため、亡くなった方が1月1日時点の所有者であれば、亡くなった年度の固定資産税は亡くなった方に課された税金です。相続開始の時点で納期が来ていない分を含め、未納の部分は債務控除の対象として確認します。国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」でも、納税通知書が相続開始日に届いていなくても、亡くなった年分の未納の固定資産税・住民税は債務控除の対象として第13表に記入する例が示されています。

    なお、亡くなった方以外の人が所有する不動産に課された固定資産税は、亡くなった方の債務ではないため差し引けません。

    住民税

    個人の住民税も、1月1日が賦課期日です(地方税法318条)。亡くなった年の1月1日に住所があった方には、前年の所得に対する住民税が課されており、相続開始時点で未納の部分は差し引けます。一方、翌年の1月1日には亡くなった方は存在しないため、亡くなった年の所得に対する住民税は課されず、差し引く対象もありません。

    医療費・施設利用料:所得税の医療費控除との関係

    亡くなった後に病院から請求された入院費は、診療を受けた時点で亡くなった方に支払義務が生じていたものであれば、相続開始時に未払いだった債務として差し引けます。介護施設の利用料や、亡くなった方名義で契約していた公共料金・通信料なども同じ考え方です。

    注意したいのは、所得税の医療費控除との関係です。医療費控除は実際に支払った年に適用されるため、亡くなった後に支払った医療費は、亡くなった方の準確定申告の医療費控除には含められません。ただし、診療を受けた時点で亡くなった方と生計を一にしていた相続人が支払った場合は、その相続人の医療費控除の対象になるとされています(国税庁 質疑応答事例「死亡した父親の医療費」)。相続税と所得税で、同じ支出の扱いを別々に確認する必要があります。

    差し引ける葬式費用・差し引けない費用

    葬式費用は債務ではありませんが、相続税の計算では差し引くことが認められています(相続税法13条1項2号)。国税庁が示している範囲は次のとおりです(タックスアンサーNo.4129、相続税法基本通達13-4・13-5)。

    差し引けるもの差し引けないもの
    通夜・告別式など葬式の費用香典返しの費用
    火葬・埋葬・納骨の費用墓石・墓地の購入費、墓地の借入料
    遺体や遺骨の運搬・回送の費用初七日・四十九日など法要(法会)の費用
    読経料などお寺へのお礼医学上・裁判上の特別な処置の費用
    葬式の前後の出費で通常葬式に伴うもの—

    実務で迷いやすいのは次のような点です。

    • お布施など領収書が出ない支出:支払った日、相手、金額、名目をメモに残し、申告の根拠として保管します。
    • 葬儀と法要を同じ日に行った場合:法要の費用は葬式費用に含まれないため、見積書や請求書で葬儀分と法要分を区分しておくと説明しやすくなります。
    • 会社が負担した社葬の費用:相続人が負担したものではないため、相続税の葬式費用にはなりません。

    相続を放棄した人・遺贈を受けた人の場合

    相続を放棄した人は相続人ではないため、原則として債務控除はできません。ただし、放棄した人が現実に葬式費用を負担した場合には、遺贈によって取得した財産(たとえば相続税の計算上、遺贈により取得したものとみなされる生命保険金)の価額から、その負担額を差し引いても差し支えないとされています(相続税法基本通達13-1)。

    遺言で特定の財産だけを受け取る人(特定受遺者)で相続人でない人は、原則として債務控除の対象外です。誰がどの費用を負担するかは、遺産分割や遺言の内容とあわせて決めておくことが大切です。

    相続後の手続費用は「債務」ではない

    相続開始後に生じる次のような費用は、亡くなった方の債務ではないため差し引けません。

    • 遺言執行の費用や、相続財産の管理のための費用(相続税法基本通達13-2)
    • 相続登記の登録免許税や司法書士報酬
    • 相続税申告を依頼した税理士の報酬

    これらは「遺産から支払うかどうか」と「相続税で差し引けるかどうか」が別の問題です。遺産から支払ったとしても、相続税の計算上は控除されません。

    申告後に漏れに気づいたら

    債務控除の漏れは、申告後に気づくことが少なくありません。後から届いた入院費の請求、年度途中に届く固定資産税の納税通知書、準確定申告で確定した所得税などが典型です。

    相続税を払いすぎていた場合は、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって税額の見直しを求めることができます(国税通則法23条1項)。反対に、差し引けないものを差し引いていた場合は、修正申告が必要になります。

    詳しい期限と手続は、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で、申告書を家族が確認するときの見方は「依頼した相続税申告書のセルフチェック」で解説しています。

    AEGISの視点

    債務控除は、相続税の計算の中では地味な項目です。しかし、AEGISは債務控除を「亡くなった方の生活と事業の最後の記録」と捉えています。入院費や施設の利用料、公共料金、税金の未納分、事業の未払金は、亡くなる直前まで何にお金がかかっていたかを示しています。これを丁寧に拾うことは、税額の正確さだけでなく、ご家族が相続の全体像を理解することにもつながります。

    また、債務を誰が引き継ぐかは、遺産分割と一体で考えるべき論点です。借入金のある賃貸不動産を引き継ぐ人と、その借入金を負担する人がずれると、収益とキャッシュフローの関係が崩れます。納税資金の計画も、差し引ける債務の見込みによって変わります。

    相続税の概算の段階から、財産の一覧と並べて「債務の一覧」を作っておくこと。AEGISは、これが申告の正確さと家族の納得の両方を支える基礎になると考えています。相続税の概算に必要な情報の全体像は、親記事「相続税の概算に必要な情報とは」で整理しています。資産税務や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    債務や葬式費用の計上漏れを含め、申告済みの相続税を見直したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税では、被相続人が相続開始時に負っていた確実な債務と、葬式費用を遺産から差し引けます。
    • 準確定申告の所得税、亡くなった方に課された固定資産税・住民税の未納分、未払いの入院費や施設利用料も対象になり得ます。
    • 香典返し、墓地・墓石の購入費、法要の費用、相続後の手続費用は差し引けません。
    • 保証債務は原則として差し引けず、時効が完成した債務も対象外です。
    • 申告後に漏れに気づいた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます。
    • 具体的な可否は、契約内容や事実関係によって異なります。

    よくある質問

    Q. 亡くなった後に届いた入院費の請求書は、相続税で差し引けますか?

    診療を受けた時点で亡くなった方に支払義務が生じていた入院費であれば、相続開始時に未払いだった債務として差し引けます。請求書は診療期間が分かる形で保管しておきましょう。なお、所得税の医療費控除は別の問題で、亡くなった後に支払った分は準確定申告の医療費控除には含められません。

    Q. 亡くなった年の固定資産税は、全額差し引けますか?

    亡くなった方がその年の1月1日時点の所有者であれば、その年度の固定資産税は亡くなった方に課された税金です。相続開始時点で納めていなかった部分は、納期が来ていない分も含めて債務控除の対象として確認します。すでに納めた分は預金が減っているため、二重に差し引かないよう注意が必要です。

    Q. 四十九日の法要や香典返しの費用は差し引けますか?

    どちらも差し引けません。国税庁は、香典返しの費用と、初七日などの法事の費用を葬式費用に含めないとしています。一方、通夜や告別式、火葬、読経料などのお礼は差し引けます。

    Q. 墓石を生前に注文して、代金が未払いのまま亡くなりました。差し引けますか?

    差し引けません。墓所や墓石などは相続税がかからない財産であり、その取得のための未払代金も債務控除の対象から外されています(相続税法13条3項、相続税法基本通達13-6)。

    Q. 相続税の申告後に、借入金の計上漏れに気づきました。どうすればよいですか?

    相続税を払いすぎている状態ですので、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって見直しを求めることができます。債務の存在と金額を示す資料(契約書、残高証明書など)をそろえたうえで、申告を担当した税理士に相談するのが一般的な進め方です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.105-107
    • 『第10版 Q&A事業承継をめぐる非上場株式の評価と相続対策』デロイトトーマツ税理士法人 編、清文社、2020年、P.58
  • 防衛特別法人税は中小企業にどう影響するか|計算の仕組み・基礎控除500万円・申告の流れと資金計画

    防衛特別法人税は中小企業にどう影響するか|計算の仕組み・基礎控除500万円・申告の流れと資金計画

    防衛特別法人税は、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度から、法人税を納める法人に課される新しい税です。税額は、(基準法人税額 − 基礎控除額500万円)× 4% で計算されます(国税庁、根拠法13条・14条)。基準法人税額が基礎控除額以下であれば、税額は生じません。

    結論から言えば、基礎控除が500万円あるため、基準法人税額(後述)が年500万円以下の会社(1年決算の場合)では税額は生じません。中小企業の多くはこの範囲に収まると考えられますが、注意したいのは、税額がゼロでも申告は必要とされていることです。また、利益水準が高い会社や、今後の成長で利益が増える会社では、納税予測や資金計画に織り込んでおく必要があります。

    この記事では、防衛特別法人税の仕組みを確認し、所得水準ごとの影響の目安、申告の流れ、内部留保や配当方針への影響を整理します。

    防衛特別法人税とは

    防衛特別法人税は、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」(以下「根拠法」)に基づいて創設された税で、各事業年度の所得に対する法人税を課される法人が納税義務者になります(国税庁「防衛特別法人税が創設されました」)。

    性格としては、法人税額を基準に一定割合を上乗せする付加税です。会社の所得に直接税率をかけるのではなく、まず通常の方法で計算した法人税額を出し、その金額をもとに計算します。

    なお、個人についても、令和9年分以後の所得税について、基準所得税額に1%の税率で課する防衛特別所得税が創設され、あわせて復興特別所得税の税率が1.1%に引き下げられます(所得税法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第12号〕、令和8年3月31日公布。財務省・国税庁)。オーナー経営者にとっては、会社側と個人側の両方で動きがある点も押さえておきたいところです。

    計算の仕組み

    国税庁の案内に基づき、計算の流れを整理すると次のとおりです。

    手順内容
    1. 基準法人税額を求める所得税額控除・外国税額控除など、法律で定められた一定の税額控除を適用しないで計算した法人税額(根拠法10条)
    2. 基礎控除額を差し引く基準法人税額から500万円を控除(事業年度が1年に満たない場合は、500万円×その事業年度の月数÷12)
    3. 税率をかける残額(課税標準法人税額)に4%をかける

    ポイントは2つあります。

    • 基準法人税額は、すべての税額控除を適用する前の金額ではありません。適用しないで計算するのは、法人税法の所得税額控除・外国税額控除・分配時調整外国税相当額の控除・仮装経理に基づく過大申告の更正に伴う控除と、租税特別措置法の一部の控除(外国子会社合算税制等に係る外国法人税等の控除、産業競争力基盤強化商品〔半導体を除く〕の生産に係る税額控除など)に限られます(根拠法10条)。賃上げ促進税制などそれ以外の税額控除は、適用した後の法人税額が基準法人税額になります。
    • 基礎控除の500万円は「所得」ではなく「法人税額」から差し引くものです。所得金額に置き換えると、かなり大きな利益水準に相当します。

    中小企業への影響の目安

    資本金1億円以下の普通法人の法人税率は、所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%とされています(国税庁 No.5759。15%は租税特別措置法による軽減税率で、現行法では令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象です〔同法42条の3の2〕。所得が年10億円を超える事業年度などには別の税率が適用されます)。この前提で、所得水準ごとの防衛特別法人税の目安をAEGISで試算すると次のとおりです。

    年間の所得金額法人税額(概算)防衛特別法人税(概算)
    1,000万円約166万円0円
    2,000万円約398万円0円
    3,000万円約630万円約5万円
    5,000万円約1,094万円約24万円
    1億円約2,254万円約70万円

    ※1年決算、資本金1億円以下の普通法人で軽減税率の適用対象、税額控除がなく、法人税額=基準法人税額と仮定した概算です。実際の税額は、会社の区分や税額控除の有無、事業年度の月数などによって異なります。地方法人税や法人住民税・事業税などは含めていません。

    この前提では、法人税額が500万円に達するのは所得がおよそ2,400万円を超えるあたりからです。それを超えると、超えた部分の所得に対して、おおむね0.9%強(23.2%×4%)の負担が上乗せされるイメージになります。

    つまり、多くの中小企業にとって、防衛特別法人税そのものの金額は大きくありません。一方で、利益が数千万円から数億円規模の会社では、毎期数十万円から数百万円単位の負担となり得るため、納税予測に組み込む必要があります。

    申告・納付の流れ

    国税庁の案内では、申告・納付について次のように示されています。

    • 申告書の様式:法人税の申告書と一体の様式とされ、防衛特別法人税の記載欄は別の用紙(別葉)になっています。
    • 税額ゼロでも申告が必要:防衛特別法人税額が0円であっても申告は必要です。基礎控除以下の会社でも、申告書の提出を忘れないようにする必要があります。
    • 申告期限:各課税事業年度終了の日の翌日から2か月以内に、納税地の所轄税務署長に提出します。法人税の申告期限の延長を受けている場合は、その延長された期限になります(根拠法25条)。
    • 中間申告:令和9年(2027年)4月1日以後に開始する事業年度から、法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税についても中間申告が必要になります。
    • グループ通算制度:通算法人の場合、基礎控除額は各法人の基準法人税額に応じて配分する仕組みが設けられています。

    最初の対象となる事業年度と申告期限は、決算期によって異なります。1年決算の会社を例に整理すると、次のとおりです。

    決算期最初の対象事業年度初回の申告期限(原則)
    3月決算令和8年4月1日〜令和9年3月31日令和9年5月31日
    6月決算令和8年7月1日〜令和9年6月30日令和9年8月31日
    9月決算令和8年10月1日〜令和9年9月30日令和9年11月30日
    12月決算令和9年1月1日〜令和9年12月31日令和10年2月29日

    ※事業年度終了の日の翌日から2か月以内という原則に基づく目安です。期限が土日祝日に当たる場合の取扱いや、法人税の申告期限の延長を受けている場合の延長後の期限は、個別に確認してください。

    すでに令和8年4月以後に事業年度が始まっている会社では、今期の決算から対象になります。自社の事業年度の開始日を確認し、決算・申告の手順に防衛特別法人税の申告書の作成を組み込んでおくことが大切です。

    資金計画・内部留保・配当方針への影響

    納税予測と資金繰りへの織り込み

    税額が生じる会社では、決算前の納税予測と資金繰り表に、防衛特別法人税を新しい項目として加える必要があります。中間申告が始まる事業年度以降は、期中の納税のタイミングも変わります。利益が基礎控除の境目付近にある会社は、「今期は税額が生じるか」を決算前に確認しておくと安心です。

    役員報酬と会社の利益のバランス

    オーナー企業では、利益を役員報酬として個人に払うか、会社に残すかを検討する場面があります。防衛特別法人税は、会社に残した利益にかかる税負担をわずかに引き上げる要素です。ただし、その影響は所得水準によっては小さく、個人側の所得税・住民税や社会保険料、個人側の改正の動きもあわせて考える必要があります。税率の差だけで報酬水準を決めないことが大切です。

    内部留保と配当方針

    会社に利益を蓄えて将来の投資や借入れの返済に備える方針自体は、防衛特別法人税によって大きく変わるものではありません。一方で、利益水準が高く、内部留保が厚い会社では、配当や役員退職金の時期、設備投資の計画などを含めて、会社と個人の資金配分を見直す機会にもなります。

    資産管理会社や小規模な法人

    不動産を保有する資産管理会社など、所得が大きくない法人では、多くの場合税額は生じません。ただし、申告書の提出は必要とされているため、申告漏れが起きないよう決算・申告の手順に組み込むことがポイントです。

    実務上注意したいポイント

    • 最初の対象事業年度を確認する:令和8年4月1日以後に開始する事業年度が対象です。決算期によって初回の申告時期が異なります。
    • 基準法人税額の範囲を確認する:所得税額控除・外国税額控除など法律で定める一定の控除は適用しないで計算するため、これらの控除を受けている会社は、実際の法人税額より基準法人税額が大きくなることがあります。賃上げ促進税制などその他の税額控除は適用後の金額で計算するため、両者を区別して確認します。
    • 損金にはならない:防衛特別法人税は、法人税と同様に所得の金額の計算上、損金の額に算入されません(根拠法43条による法人税法38条1項の読替え)。
    • ゼロ申告を忘れない:税額が生じなくても申告は必要です。
    • 中間申告の開始時期に備える:令和9年4月1日以後開始の事業年度から、中間申告の対象になる会社があります。
    • 地方税への波及は別途確認する:本記事では国税としての防衛特別法人税を扱っています。住民税・事業税など地方税との関係は、個別に確認してください。

    AEGISの視点

    防衛特別法人税は、多くの中小企業にとって、金額としてのインパクトは限定的です。それでもAEGISがこの改正を取り上げるのは、新しい税が加わるときこそ、税負担とキャッシュフローの全体を見直すよい機会だと考えているからです。

    法人税、地方税、社会保険料、個人の所得税・住民税、そして配当や退職金にかかる税金は、それぞれ別々に議論されがちです。しかしオーナーにとって大切なのは、会社と個人を合わせて、いつ、どれだけの資金が手元に残るかです。新しい税を一つの項目として決算予測と資金繰りに組み込み、利益水準の変化に応じて役員報酬・内部留保・配当の配分を点検する——その習慣が、制度が変わっても揺らがない経営の基盤になるとAEGISは考えています。

    税負担とキャッシュフローの考え方は、Pillar記事「税負担とキャッシュフローをどう両立させるか」で、会社と個人の資金配分は「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で、納税を織り込んだ資金計画は「資金繰り表の作り方」で解説しています。制度改正全体の考え方は「税制改正は自分の承継計画に関係するか」をご覧ください。

    まとめ

    • 防衛特別法人税は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税を課される法人に課されます。
    • 税額は(基準法人税額−基礎控除額500万円)×4%で計算し、基準法人税額は所得税額控除・外国税額控除など法律で定める一定の税額控除を適用しないで計算した法人税額です(すべての税額控除を戻すわけではありません)。
    • 基準法人税額が500万円以下(1年決算の場合)の会社では税額は生じませんが、税額がゼロでも申告は必要です。
    • 申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内で、令和9年4月1日以後開始の事業年度から中間申告の対象になる会社があります。
    • 利益水準が高い会社では、納税予測・資金繰り・役員報酬・内部留保・配当の配分に織り込むことが大切です。

    よくある質問

    Q. いつの決算から関係しますか?

    令和8年4月1日以後に開始する事業年度からです。3月決算の会社であれば令和9年3月期、12月決算の会社であれば令和9年12月期が最初の対象になります。

    Q. 赤字や少額の利益の会社でも申告は必要ですか?

    国税庁の案内では、防衛特別法人税額が0円であっても申告は必要とされています。法人税の申告書と一体の様式になっているため、法人税の申告とあわせて忘れずに提出することが大切です。

    Q. 中小企業でも税額が生じるのはどのくらいの利益からですか?

    税額控除がない資本金1億円以下の普通法人で、軽減税率の適用対象となる会社を前提にすると、法人税額が500万円を超えるのは、年間の所得がおよそ2,400万円を超えるあたりからです。実際には会社の区分や税額控除の有無によって変わるため、自社の数字で確認してください。

    Q. 賃上げ税制などで法人税が少なくなっている場合はどうなりますか?

    賃上げ促進税制の税額控除は、基準法人税額の計算で適用しないこととされている控除には含まれていません(根拠法10条)。そのため、賃上げ促進税制を適用した後の法人税額が基準法人税額となり、控除で法人税が少なくなれば、防衛特別法人税の計算の基礎も小さくなります。一方、所得税額控除や外国税額控除などは適用しないで計算するため、これらの控除を受けている会社では、実際に納める法人税より基準法人税額が大きくなることがあります。

    Q. 防衛特別法人税のために、役員報酬を増やしたほうがよいですか?

    防衛特別法人税だけを理由に役員報酬を変えることはおすすめしません。役員報酬を増やすと個人の所得税・住民税や社会保険料が増える一方、会社の資金は減ります。会社と個人を合わせた手取りと、会社の将来の資金需要を見たうえで判断することが大切です。

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    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.14、P.17-19
  • 個人事業を第三者に譲る方法|譲渡する資産・契約・のれんの税金と、譲った後の手続き

    個人事業を第三者に譲る方法|譲渡する資産・契約・のれんの税金と、譲った後の手続き

    長年営んできた店や事務所を、身内ではない第三者に引き継いでもらう。後継者のいない個人事業主にとって、これは廃業に代わる現実的な選択肢です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、個人事業主は事業を譲り渡す側に含まれるものとして扱われています。

    ただし、個人事業には会社の「株式」がありません。会社であれば株式を売ることで事業をまるごと渡せますが、個人事業では設備、在庫、契約、顧客との関係、従業員、屋号といった事業の構成要素を一つひとつ相手に移すことになります。そのため、何を譲るかの整理、契約や許認可の引継ぎ、譲渡代金の税金、譲った後の廃業手続きまでを、あらかじめ見通しておくことが大切です。

    この記事では、個人事業を第三者に譲るときの全体像を、引き継ぐもの・税金・手続きの順に整理します。

    個人事業の譲渡とは

    個人事業の譲渡は、事業主個人が、事業に使っている資産や契約上の立場などをまとめて相手に売る取引です。会社が事業を売る「事業譲渡」と似ていますが、売り手が個人であり、代金も事業主個人が受け取る点が異なります。

    会社の売却では株式譲渡が選ばれることが多く、その場合は会社と従業員・取引先との関係は原則としてそのまま続きます。株式譲渡と事業譲渡の違いは関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」で解説していますが、個人事業の譲渡では選択肢が事業の譲渡に限られるため、「何を、どの条件で移すか」を個別に決める作業が中心になります。

    譲り受ける側は、同業の個人事業主、近隣で事業を広げたい会社、独立を目指す従業員などさまざまです。譲り受け側が会社であれば、個人事業を会社が引き継ぐ形になります。

    何を譲るのか:譲渡対象を整理する

    最初に、事業を構成するものを洗い出し、譲るもの・残すもの・相手と別に契約するものに分けます。AEGISでは、次のような一覧で整理することをおすすめしています。

    区分具体例移し方・確認したいこと
    設備・備品内装、厨房機器、機械、車両、パソコン時価の目安を確認し、個別に譲渡価額を決める
    在庫商品、材料譲渡日時点で棚卸しを行い、価額を確定する
    不動産自己所有の店舗・事務所・土地売却するか、所有したまま貸すかを選ぶ
    賃借物件テナントとして借りている店舗貸主の承諾、契約の結び直し、敷金の扱い
    取引契約仕入先、販売先、外注先との契約相手方の同意を得て契約上の地位を移す、または結び直す
    顧客との関係顧客名簿、会員、予約個人情報の取扱いに注意し、引継ぎの方法を決める
    従業員雇用している従業員本人の同意を得て新しい雇用主と契約する
    屋号・ブランド店名、ロゴ、ウェブサイト、電話番号使用を認めるか、商標登録の有無、債務との関係
    許認可飲食店営業、各種の登録・許可多くは譲り受け側が新たに取得する必要がある
    のれん立地、顧客基盤、ノウハウ、信用個別資産の合計を超える対価として評価する

    ここで大切なのは、「残すもの」も意識的に決めることです。たとえば、店舗の土地建物を自分で所有している場合、建物ごと売る方法のほかに、所有したまま譲り受け側に貸し、賃料収入を得る方法もあります。売掛金や借入金は、譲渡の対象に含めず、事業主が自分で回収・返済する形をとることも多くあります。どこまでを譲渡対象にするかは、相手と個別に決めます。

    契約・許認可・従業員を引き継ぐときの注意

    個人事業の譲渡では、契約関係が自動的には移りません。相手方の協力が必要になる場面が多いため、スケジュールに余裕を持たせることが大切です。

    賃貸借契約

    テナントとして借りている店舗を譲り受け側が使い続ける場合、借主の立場を移すには原則として貸主の承諾が必要です(民法612条1項)。貸主によっては、新しい借主と契約を結び直し、敷金を一度返還して改めて差し入れてもらう扱いを求めることもあれば、敷金をそのまま引き継ぐ扱いを認めることもあります。どちらになるかで譲渡代金の計算も変わるため、早めに貸主の意向を確認しておきましょう。

    取引先・顧客

    仕入先や販売先との契約は、相手方の同意を得て契約上の地位を移すか、譲り受け側と新たに契約を結んでもらう必要があります。顧客名簿などのデータは譲渡の対象にできても、顧客が引き続き利用してくれるかどうかは別問題です。特に、事業主個人の技術や人柄に顧客がついている業種では、一定期間、前の事業主が一緒に顧客に紹介したり、業務を手伝ったりする引継期間を設けることが、事業価値を保つうえで重要になります。

    許認可

    事業に必要な許可や登録の多くは、事業主個人に与えられたものです。事業を譲っても許認可が自動的に移るとは限らず、譲り受け側が改めて申請する必要がある場合が多くあります。取得までに時間がかかる許認可がある業種では、譲渡日を許認可の取得時期に合わせて決める必要があります。業種ごとの扱いは、所管の行政機関で確認してください。

    従業員

    従業員の雇用契約を譲り受け側に移すには、従業員一人ひとりの同意が必要です。勤務条件が変わる可能性もあるため、譲渡の方針が固まった段階で、丁寧に説明する場を設けることが望まれます。

    屋号

    店名などの屋号を譲り受け側が引き続き使う場合、商法の規定により、前の事業主の事業上の債務について譲り受け側も責任を負うことがあるとされています(商法17条1項。譲り受け側が会社の場合は会社法24条2項・22条)。譲渡後遅滞なく、譲り受け側が債務を引き受けない旨を登記するか、両者から債権者にその旨を通知した場合には、この責任は生じないとされています(商法17条2項)。そのため、屋号を引き継ぐかどうか、引き継ぐ場合に債務をどう扱うかは、譲り受け側にとっても重要な確認事項です。

    譲渡代金の税金:資産ごとに所得の種類が変わる

    個人事業の譲渡で受け取る代金は、まとめて一つの所得になるのではなく、譲った資産の種類ごとに所得の区分が変わります。主な区分は次のとおりです。

    譲った資産所得の区分ポイント
    商品・材料などの在庫(棚卸資産)事業所得通常の売上と同じく事業所得になる
    機械・備品・車両などの事業用資産譲渡所得(総合課税)一部の少額の減価償却資産などは事業所得になる
    土地・建物譲渡所得(分離課税)他の所得と分けて税額を計算する
    のれん(営業権)譲渡所得(総合課税)とされることが多いが、事業所得・雑所得とされる場合もある権利としての実体があるかどうかが問われる

    国税庁によれば、譲渡所得の対象となる資産には土地、借地権、建物、機械器具などが含まれ、事業者の棚卸資産の譲渡は事業所得または雑所得となります。土地・建物等は分離課税、それ以外の資産は総合課税とされています。

    総合課税の譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引き、さらに特別控除(その年の短期・長期の譲渡益の合計に対して50万円)を差し引いて計算します。所有期間が5年を超える資産の譲渡(長期譲渡所得)は、その2分の1が課税の対象となり、他の所得と合算して税額を計算します。

    のれんの扱いは個別に確認が必要

    のれん(営業権)の対価は、一般には総合課税の譲渡所得として扱われることが多いとされています(国税庁の質疑応答事例でも、新聞販売権の譲渡に伴う代償金を営業権の譲渡対価として譲渡所得の収入金額とする取扱いが示されています)。ただし、事業主個人の技能や顧客との信頼関係に強く依存する事業では、譲り渡せる「資産」としての営業権が存在するとは言えないとして、譲渡所得ではなく雑所得と判断された裁決例もあります。士業の業務を承継させた際の対価について、こうした判断が示された例が知られています。国税庁の個別通達でも、税理士が業務を廃止して得意先を他の税理士に引き継いだ対価は、得意先のあっせんの対価として雑所得として取り扱うこととされています(昭和42年7月27日付)。

    のれんの対価がどの所得になるかで、税負担は大きく変わります。のれんとして受け取る金額の根拠(何に対する対価なのか)を契約書で明確にし、引継期間の業務の対価と区別しておくことが大切です。具体的な扱いは事案ごとに異なるため、顧問税理士と事前に確認することをおすすめします。

    消費税

    消費税の課税事業者が事業用の資産を売却した場合、その売却は消費税の課税対象になります。設備やのれんの譲渡には原則として消費税がかかり、土地の譲渡は非課税です。そのため、譲渡代金を資産ごとに区分しておくことは、消費税の計算のうえでも欠かせません。

    譲った後の手続き

    事業を譲った後は、事業主として次のような手続きが必要になります。

    • 個人事業の廃業等届出書:事業を廃止した場合、その年分の確定申告期限までに、納税地の税務署に提出します(所得税法229条、国税庁 タックスアンサーNo.2090)。
    • 消費税・青色申告に関する届出:消費税の課税事業者であった場合や、青色申告をしていた場合は、関連する届出の要否を確認します。
    • 最後の確定申告:廃業した年は、事業所得と、事業用資産の譲渡による譲渡所得などをあわせて申告します。廃業後に生じる費用の扱いにも注意が必要です。
    • 従業員・社会保険・各種契約の整理:雇用保険・社会保険の手続き、電話・リース・保険などの契約の解約や名義変更を行います。

    譲渡代金の受取りと廃業の時期が年をまたぐ場合などは、どの年の所得になるかも確認しておきましょう。

    実務上注意したいポイント

    • 譲渡代金の内訳を契約書で明確にする:設備、在庫、のれん、引継期間の業務の対価などを区分しておくと、所得区分や消費税の判断が明確になり、後の説明もしやすくなります。
    • 帳簿と資産の一覧を整える:設備の取得時期・取得価額・減価償却の状況が分からないと、譲渡所得の計算も買い手の判断も難しくなります。
    • 引継期間の条件を決める:前の事業主が残る期間、役割、報酬、競業を避ける範囲と期間を、契約で合意しておきます。
    • 相談先を早めに確保する:国が設置する事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な相談窓口や、M&Aの支援機関、税理士を組み合わせて相談すると、相手探しと税務・契約の確認を並行して進められます。

    AEGISの視点

    個人事業の譲渡は、会社の売却に比べて規模が小さく、手続きも簡単だと思われがちです。しかしAEGISは、個人事業の譲渡こそ「事業」と「事業主個人の財産・生活」が切り離されていないことを前提に設計すべき取引だと考えています。

    個人事業では、店舗の不動産、事業用の預金、事業の借入れ、家族の働き方が、事業主個人の財産や暮らしと一体になっています。どの資産を譲り、どれを残すかは、譲渡代金の額だけでなく、引退後の収入や、残る不動産を将来どう承継するかという相続の論点とも直結します。たとえば店舗を売らずに貸す選択は、毎年の賃料収入をもたらす一方で、不動産の管理と承継を引き受けることを意味します。

    また、事業の価値の多くが事業主個人に結びついている場合、価値を引き継いでもらうには時間が必要です。後継者となる親族がいる場合には個人版事業承継税制という選択肢もあります(関連記事「個人版事業承継税制で個人事業を引き継ぐ」)。第三者への譲渡と親族への承継、さらに廃業を、早い段階で並べて比べておくことが、最も納得のいく判断につながるとAEGISは考えています。万が一に備えた遺言の準備については関連記事「個人事業主が遺言で備えること」、会社売却の準備の全体像は「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    事業用資産の譲渡や、残す不動産の税務・承継に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人事業には株式がないため、第三者に譲る場合は、設備・在庫・契約・顧客との関係・従業員・屋号などを個別に移す「事業の譲渡」になります。
    • 賃貸借契約や取引契約は相手方の承諾・同意が必要で、許認可は譲り受け側が新たに取得する必要がある場合が多くあります。
    • 譲渡代金は、在庫は事業所得、事業用資産は総合課税の譲渡所得、土地・建物は分離課税の譲渡所得というように、資産ごとに所得区分が変わります。
    • のれん(営業権)の対価は、事業の実態によって所得区分の判断が分かれることがあるため、契約で対価の内容を明確にし、事前に確認することが大切です。
    • 事業を廃止した場合は、その年分の確定申告期限までに廃業等届出書を提出し、関連する届出と最後の確定申告を行います。

    具体的な税務上の取扱いや手続きは、事業の内容や譲渡の条件などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 個人事業でもM&Aの支援を受けられますか?

    受けられます。中小企業庁の中小M&Aガイドラインでも、個人事業主は事業を譲り渡す側に含まれています。小規模な事業の場合は、公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターや、インターネット上のマッチングの場を利用する方法もあります。手数料や支援の範囲は事前に確認しましょう。

    Q. のれん代として受け取った金額には、どのくらい税金がかかりますか?

    総合課税の譲渡所得とされる場合、特別控除(年間50万円)を差し引いた後、所有期間が5年を超えるものは2分の1が課税対象となり、他の所得と合算して累進税率で計算します。ただし、事業主個人への依存度が高い事業では、雑所得と判断された例もあります。税額は他の所得の状況によっても変わるため、個別に試算することが大切です。

    Q. 店舗の建物と土地は売らなければいけませんか?

    必ずしも売る必要はありません。所有したまま譲り受け側に貸す方法もあります。売却すれば一度にまとまった資金を得られ、貸せば賃料収入が続く一方で、管理や将来の相続の論点が残ります。引退後の生活資金と、不動産を誰に引き継ぐかを合わせて検討しましょう。

    Q. 事業を譲った後、廃業の届出はいつまでに出せばよいですか?

    国税庁の案内では、個人事業の廃業等届出書は、事業の廃止等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに、納税地の税務署に提出することとされています。消費税や青色申告に関する届出が必要になる場合もあるため、あわせて確認しましょう。

    Q. 屋号をそのまま使ってもらっても問題はありませんか?

    屋号を引き継ぐことはできますが、譲り受け側が屋号を続けて使う場合、商法の規定により前の事業主の事業上の債務について責任を負うことがあるとされています(商法17条。債務を引き受けない旨の登記や債権者への通知をすれば責任は生じません)。譲り受け側との間で債務の扱いを明確にし、必要な手続きを専門家と確認しておくことが大切です。

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    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け次世代へ引き継ぐ準備として、事業資金・民事信託(いわゆる家族信託)・遺言・契約・金融機関対応を確認します。
    • M&A:事業の売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.14-24
    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、P.192-199
    • 『M&A・組織再編成の税務詳解Q&A』佐藤信祐・松村有紀子・後藤柾哉 著、中央経済社、2020年、Q14-2