一般社団法人を使った資産承継は今も使えるか|特定一般社団法人等への相続税課税と、財産を移すときの税金

若い夫婦と子どもが専門家と相談する様子

「一般社団法人には持分がないので、財産を移しておけば相続税がかからない」——こうした説明を聞いたことがあるかもしれません。

結論からいうと、この考え方は、そのままでは現在通用しません。平成30年度税制改正で相続税法66条の2が設けられ、親族が理事の過半を占めるなどの「特定一般社団法人等」では、理事が亡くなったときに法人そのものに相続税が課されるようになりました。また、財産を法人に移す段階でも、贈与税・所得税・法人税の課税関係を個別に検討する必要があります。

一方で、一般社団法人は、公益的な活動や長期の財産管理の「器」としては今も意味のある選択肢です。この記事では、課税の見直しの内容と、それを踏まえた一般社団法人の使い方を整理します。

なぜ「相続税がかからない」と言われたのか

株式会社の場合、オーナーが会社の株式を持っていれば、その株式は相続財産になります。これに対して一般社団法人・一般財団法人には、出資者が持つ「持分」がありません。理事や社員が亡くなっても、法人の財産が誰かの相続財産になることはありません。

この仕組みに着目して、次のような手法が広まりました。

  • 親族を理事とする一般社団法人を設立する
  • 不動産や自社株などを、その法人に売却または贈与する
  • 法人の運営は親族が担い、次の世代は理事の交代で引き継ぐ

財産を法人に移した後は、世代が変わっても相続税の課税機会がなくなる、という発想です。これに対して、相続税の公平な負担の観点から問題視する指摘があり、税制による手当てが行われました。

現在の課税関係:3つの段階で考える

一般社団法人を使った資産承継の課税は、財産を移すとき、法人が保有している間、理事が亡くなったときの3つの段階で整理すると理解しやすくなります。

段階主な課税根拠ポイント
財産を移すとき(個人→法人)個人:みなし譲渡の所得税/法人:受贈益への法人税、一定の場合は贈与税・相続税所得税法59条、相続税法66条4項売買の場合も価格が時価より低いと課税関係が生じ得る
法人が保有している間法人の所得に対する法人税法人税法非営利型法人かどうかで課税範囲が変わる
理事が亡くなったとき特定一般社団法人等に相続税相続税法66条の2同族理事の割合と、理事退任後の期間で判定

※AEGIS作成。具体的な課税関係は財産の種類や法人の区分によって異なります。

財産を移すとき

個人が不動産や株式を法人に贈与すると、所得税法59条により、時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税が課税されます。法人に著しく低い価額で売却した場合も、同様の扱いとなることがあります。

さらに、持分の定めのない法人に財産を贈与・遺贈した場合で、贈与者の親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少すると認められるときは、法人を個人とみなして贈与税・相続税が課されます(相続税法66条4項)。不当減少に当たらないとされるには、運営組織が適正で役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定めがあること、特別の利益を与えないこと、残余財産の帰属先の定めがあることなどの要件をすべて満たす必要があります(相続税法施行令33条3項)。

一般社団法人・一般財団法人の場合は、これに加えて、贈与の時点で定款に上記の定めがあること、贈与前3年以内に贈与者等へ特別の利益を与えていないこと、贈与前3年以内に重加算税等を課されていないことのいずれかを欠くと、不当減少と認められるものとされています(同条4項)。

理事が亡くなったとき:特定一般社団法人等への相続税

相続税法66条の2は、次のように定めています。

  • 対象:一般社団法人・一般財団法人のうち、公益社団・公益財団法人や非営利型法人などを除いたもの(一般社団法人等)
  • 特定一般社団法人等に当たる要件(いずれか)
  • 理事の相続開始の直前に、同族理事の数が理事総数の2分の1を超えていること
  • 相続開始前5年以内に、同族理事が理事総数の2分の1を超える期間の合計が3年以上あること
  • 課税の対象となる死亡:理事である者のほか、理事でなくなった日から5年を経過していない者の死亡を含む
  • 課税額の考え方:法人の純資産額を「同族理事の数+1」で割った金額を、亡くなった理事から遺贈により取得したものとみなし、法人を個人とみなして相続税を課す

「同族理事」とは、亡くなった理事の配偶者、三親等内の親族その他一定の特殊の関係がある者である理事をいいます(国税庁タックスアンサーNo.4143)。法人に財産を移した時点で贈与税等が課されていた場合は、その税額を控除する仕組みもあります。

つまり、親族中心で運営する一般社団法人ほど、理事の相続のたびに課税が生じ得る構造になっています。理事を退任しても5年間は対象に残るため、相続直前に退任するといった方法も実効性が限られます。

税務否認のリスク

条文上の要件を外形的に避けても、それで安心とはいえません。たとえば、同族理事の割合を下げるために、運営の実態がない第三者を名目上の理事に就けるような方法は、理事会の運営実態によっては形式だけのものと評価されるおそれがあります。

また、法人に移した財産を親族が実質的に自由に使っている場合には、特別の利益の提供に当たるとして、移転時の非課税の前提が崩れることも考えられます。租税回避を目的とした取引であると判断された場合には、個別の規定に加えて、取引の実質に即した課税が問題になる余地もあります。

一般社団法人を使う場合は、税の要件を満たすことよりも、法人として実態のある運営ができるかを先に問う必要があります。

それでも一般社団法人を使う意味

課税の見直しは、一般社団法人という器そのものを否定するものではありません。たとえば次のような場面では、一般社団法人が有力な選択肢になり得ます。

  • 公益的な活動の器として使う:非営利型法人や公益法人として、親族以外の理事を含む体制で運営する。理事の過半を親族が占めない以上、特定一般社団法人等には当たりません
  • 民事信託(いわゆる家族信託)の受託者として使う:個人の受託者に代わり、法人が長期にわたって財産を管理する
  • 地域や業界の共同事業の器として使う:特定の家族の財産承継ではなく、複数の関係者で事業を運営する

いずれの場合も、財産を「自分の家族のために持たせ続ける」ことを目的とするなら、資産管理会社など他の器と比較したうえで選ぶことが現実的です。

比較項目一般社団法人(非営利型以外)一般社団法人(非営利型・公益)資産管理会社(株式会社)
持分・株式なしなし株式あり(相続財産になる)
理事が亡くなったときの課税同族理事が過半等なら法人に相続税原則として対象外株式が相続税の対象
財産を移すときの課税みなし譲渡、受贈益課税、一定の場合は贈与税等要件を満たせば贈与税等は課されない(みなし譲渡は別途)みなし譲渡、受贈益課税、株主への贈与の問題
家族による運営・支配可能だが課税の対象になりやすい親族等は役員の3分の1以下などの制約株主として支配できる
財産を家族に戻すこと剰余金分配はできない剰余金分配・残余財産の家族への帰属はできない配当・役員報酬・清算で可能

※AEGIS作成。非営利型法人・公益法人の要件、法人税の課税範囲は個別に確認が必要です。

既に一般社団法人を持っている場合の確認事項

過去に資産承継の目的で一般社団法人を設立している場合は、次の点を確認することをおすすめします。

  1. 理事の構成:現在と過去5年間の同族理事の割合
  2. 理事の年齢と退任の時期:退任後5年以内の死亡も対象になること
  3. 法人の純資産額:保有する不動産・株式などの時価ベースの把握
  4. 財産を移したときの課税関係:当時の贈与税・所得税の申告状況
  5. 財産の使われ方:親族に特別の利益を与えていないか
  6. 今後の方針:公益的な運営に転換するのか、資産管理会社など他の器に組み替えるのか

組み替えには新たな課税が生じることもあるため、現状の課税リスクと、組み替えのコストを比べて判断することになります。

AEGISの視点

一般社団法人を使った資産承継の見直しは、「持分がなければ相続税がかからない」という形式に頼った設計の限界を示しています。AEGISは、法人の器を選ぶときに、誰のために、何のために財産を持つのかを最初に言葉にすることが欠かせないと考えています。

家族のために財産を残したいのであれば、株式という形で所有を見える化し、評価と納税資金を計画的に準備する資産管理会社のほうが、長い目で見て説明のつく設計になることが少なくありません。反対に、財産の一部を社会のために使い続けたいのであれば、親族以外の理事を迎え、公益的な運営を本気で担う法人として設計する必要があります。中間的な「家族が支配する、持分のない法人」は、税制の上でも運営の上でも最も不安定な形になりやすいといえます。

財団・社団を社会貢献に生かす全体像は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で、非営利型法人の要件は「非営利型の一般財団法人とは」で、受託者としての使い方は「一般社団法人を受託者にする民事信託」で解説しています。資産管理会社を検討する場合は「資産管理会社はいつ設立すべきか」もあわせてご覧ください。

資産税務や財団・社団に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 一般社団法人に財産を移せば相続税がかからない、という手法は、平成30年度税制改正(相続税法66条の2)で大きく見直されました。
  • 同族理事が理事総数の2分の1を超えるなどの特定一般社団法人等では、理事(退任後5年以内を含む)が亡くなると、法人に相続税が課されます。
  • 財産を移す段階でも、みなし譲渡の所得税、法人の受贈益課税、一定の場合の贈与税・相続税を検討する必要があります。
  • 名目だけの理事構成など、形式的な回避策は税務上否認されるリスクがあります。
  • 一般社団法人は、公益的な活動や民事信託の受託者など、目的に合った使い方では今も有力な選択肢です。家族のための資産承継なら、資産管理会社など他の器との比較が欠かせません。

よくある質問

Q. 理事に親族以外の人を加えれば、特定一般社団法人等に当たらなくなりますか?

同族理事の割合が2分の1以下になり、過去5年間の要件にも当たらなければ、条文上は特定一般社団法人等に該当しません。ただし、運営に関与しない人を名目上の理事にするだけでは、実態を問われるおそれがあります。理事会を実際に機能させられるかを含めて検討する必要があります。

Q. 高齢の理事が早めに退任すれば、相続税の課税を避けられますか?

理事でなくなった日から5年を経過していない人が亡くなった場合も、課税の対象になります。退任のタイミングだけで課税を避けることには限界があり、法人の運営体制そのものを見直すことが基本です。

Q. 非営利型の一般社団法人であれば、相続税の問題はありませんか?

非営利型法人は、相続税法66条の2の対象となる一般社団法人等から除かれています。ただし、非営利型法人であり続けるには、剰余金を分配しないことや理事の親族等の割合を3分の1以下とすることなどの要件を継続して満たす必要があり、要件を外れると扱いが変わります。

Q. 一般社団法人に自社株を持たせると、会社の株式評価に影響しますか?

株主の構成が変わるため、同族株主の判定や議決権の考え方に影響が及ぶ可能性があります。法人が保有する株式の扱いは個別の検討が必要で、事業承継全体の設計の中で確認することが大切です。

Q. 既にある一般社団法人を解散すると、財産はどうなりますか?

残余財産の帰属は定款の定めや社員総会の決議によりますが、非営利型法人などでは国や公益法人等に帰属させる定めが必要です。解散や財産の移転には新たな課税が生じることもあるため、解散する前に課税関係を確認する必要があります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会、第2章 P.24、P.66-73、第4章 P.309-334

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。