投稿者: AEGIS

  • 一般社団法人を使った資産承継は今も使えるか|特定一般社団法人等への相続税課税と、財産を移すときの税金

    一般社団法人を使った資産承継は今も使えるか|特定一般社団法人等への相続税課税と、財産を移すときの税金

    「一般社団法人には持分がないので、財産を移しておけば相続税がかからない」——こうした説明を聞いたことがあるかもしれません。

    結論からいうと、この考え方は、そのままでは現在通用しません。平成30年度税制改正で相続税法66条の2が設けられ、親族が理事の過半を占めるなどの「特定一般社団法人等」では、理事が亡くなったときに法人そのものに相続税が課されるようになりました。また、財産を法人に移す段階でも、贈与税・所得税・法人税の課税関係を個別に検討する必要があります。

    一方で、一般社団法人は、公益的な活動や長期の財産管理の「器」としては今も意味のある選択肢です。この記事では、課税の見直しの内容と、それを踏まえた一般社団法人の使い方を整理します。

    なぜ「相続税がかからない」と言われたのか

    株式会社の場合、オーナーが会社の株式を持っていれば、その株式は相続財産になります。これに対して一般社団法人・一般財団法人には、出資者が持つ「持分」がありません。理事や社員が亡くなっても、法人の財産が誰かの相続財産になることはありません。

    この仕組みに着目して、次のような手法が広まりました。

    • 親族を理事とする一般社団法人を設立する
    • 不動産や自社株などを、その法人に売却または贈与する
    • 法人の運営は親族が担い、次の世代は理事の交代で引き継ぐ

    財産を法人に移した後は、世代が変わっても相続税の課税機会がなくなる、という発想です。これに対して、相続税の公平な負担の観点から問題視する指摘があり、税制による手当てが行われました。

    現在の課税関係:3つの段階で考える

    一般社団法人を使った資産承継の課税は、財産を移すとき、法人が保有している間、理事が亡くなったときの3つの段階で整理すると理解しやすくなります。

    段階主な課税根拠ポイント
    財産を移すとき(個人→法人)個人:みなし譲渡の所得税/法人:受贈益への法人税、一定の場合は贈与税・相続税所得税法59条、相続税法66条4項売買の場合も価格が時価より低いと課税関係が生じ得る
    法人が保有している間法人の所得に対する法人税法人税法非営利型法人かどうかで課税範囲が変わる
    理事が亡くなったとき特定一般社団法人等に相続税相続税法66条の2同族理事の割合と、理事退任後の期間で判定

    ※AEGIS作成。具体的な課税関係は財産の種類や法人の区分によって異なります。

    財産を移すとき

    個人が不動産や株式を法人に贈与すると、所得税法59条により、時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税が課税されます。法人に著しく低い価額で売却した場合も、同様の扱いとなることがあります。

    さらに、持分の定めのない法人に財産を贈与・遺贈した場合で、贈与者の親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少すると認められるときは、法人を個人とみなして贈与税・相続税が課されます(相続税法66条4項)。不当減少に当たらないとされるには、運営組織が適正で役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定めがあること、特別の利益を与えないこと、残余財産の帰属先の定めがあることなどの要件をすべて満たす必要があります(相続税法施行令33条3項)。

    一般社団法人・一般財団法人の場合は、これに加えて、贈与の時点で定款に上記の定めがあること、贈与前3年以内に贈与者等へ特別の利益を与えていないこと、贈与前3年以内に重加算税等を課されていないことのいずれかを欠くと、不当減少と認められるものとされています(同条4項)。

    理事が亡くなったとき:特定一般社団法人等への相続税

    相続税法66条の2は、次のように定めています。

    • 対象:一般社団法人・一般財団法人のうち、公益社団・公益財団法人や非営利型法人などを除いたもの(一般社団法人等)
    • 特定一般社団法人等に当たる要件(いずれか)
    • 理事の相続開始の直前に、同族理事の数が理事総数の2分の1を超えていること
    • 相続開始前5年以内に、同族理事が理事総数の2分の1を超える期間の合計が3年以上あること
    • 課税の対象となる死亡:理事である者のほか、理事でなくなった日から5年を経過していない者の死亡を含む
    • 課税額の考え方:法人の純資産額を「同族理事の数+1」で割った金額を、亡くなった理事から遺贈により取得したものとみなし、法人を個人とみなして相続税を課す

    「同族理事」とは、亡くなった理事の配偶者、三親等内の親族その他一定の特殊の関係がある者である理事をいいます(国税庁タックスアンサーNo.4143)。法人に財産を移した時点で贈与税等が課されていた場合は、その税額を控除する仕組みもあります。

    つまり、親族中心で運営する一般社団法人ほど、理事の相続のたびに課税が生じ得る構造になっています。理事を退任しても5年間は対象に残るため、相続直前に退任するといった方法も実効性が限られます。

    税務否認のリスク

    条文上の要件を外形的に避けても、それで安心とはいえません。たとえば、同族理事の割合を下げるために、運営の実態がない第三者を名目上の理事に就けるような方法は、理事会の運営実態によっては形式だけのものと評価されるおそれがあります。

    また、法人に移した財産を親族が実質的に自由に使っている場合には、特別の利益の提供に当たるとして、移転時の非課税の前提が崩れることも考えられます。租税回避を目的とした取引であると判断された場合には、個別の規定に加えて、取引の実質に即した課税が問題になる余地もあります。

    一般社団法人を使う場合は、税の要件を満たすことよりも、法人として実態のある運営ができるかを先に問う必要があります。

    それでも一般社団法人を使う意味

    課税の見直しは、一般社団法人という器そのものを否定するものではありません。たとえば次のような場面では、一般社団法人が有力な選択肢になり得ます。

    • 公益的な活動の器として使う:非営利型法人や公益法人として、親族以外の理事を含む体制で運営する。理事の過半を親族が占めない以上、特定一般社団法人等には当たりません
    • 民事信託(いわゆる家族信託)の受託者として使う:個人の受託者に代わり、法人が長期にわたって財産を管理する
    • 地域や業界の共同事業の器として使う:特定の家族の財産承継ではなく、複数の関係者で事業を運営する

    いずれの場合も、財産を「自分の家族のために持たせ続ける」ことを目的とするなら、資産管理会社など他の器と比較したうえで選ぶことが現実的です。

    比較項目一般社団法人(非営利型以外)一般社団法人(非営利型・公益)資産管理会社(株式会社)
    持分・株式なしなし株式あり(相続財産になる)
    理事が亡くなったときの課税同族理事が過半等なら法人に相続税原則として対象外株式が相続税の対象
    財産を移すときの課税みなし譲渡、受贈益課税、一定の場合は贈与税等要件を満たせば贈与税等は課されない(みなし譲渡は別途)みなし譲渡、受贈益課税、株主への贈与の問題
    家族による運営・支配可能だが課税の対象になりやすい親族等は役員の3分の1以下などの制約株主として支配できる
    財産を家族に戻すこと剰余金分配はできない剰余金分配・残余財産の家族への帰属はできない配当・役員報酬・清算で可能

    ※AEGIS作成。非営利型法人・公益法人の要件、法人税の課税範囲は個別に確認が必要です。

    既に一般社団法人を持っている場合の確認事項

    過去に資産承継の目的で一般社団法人を設立している場合は、次の点を確認することをおすすめします。

    1. 理事の構成:現在と過去5年間の同族理事の割合
    2. 理事の年齢と退任の時期:退任後5年以内の死亡も対象になること
    3. 法人の純資産額:保有する不動産・株式などの時価ベースの把握
    4. 財産を移したときの課税関係:当時の贈与税・所得税の申告状況
    5. 財産の使われ方:親族に特別の利益を与えていないか
    6. 今後の方針:公益的な運営に転換するのか、資産管理会社など他の器に組み替えるのか

    組み替えには新たな課税が生じることもあるため、現状の課税リスクと、組み替えのコストを比べて判断することになります。

    AEGISの視点

    一般社団法人を使った資産承継の見直しは、「持分がなければ相続税がかからない」という形式に頼った設計の限界を示しています。AEGISは、法人の器を選ぶときに、誰のために、何のために財産を持つのかを最初に言葉にすることが欠かせないと考えています。

    家族のために財産を残したいのであれば、株式という形で所有を見える化し、評価と納税資金を計画的に準備する資産管理会社のほうが、長い目で見て説明のつく設計になることが少なくありません。反対に、財産の一部を社会のために使い続けたいのであれば、親族以外の理事を迎え、公益的な運営を本気で担う法人として設計する必要があります。中間的な「家族が支配する、持分のない法人」は、税制の上でも運営の上でも最も不安定な形になりやすいといえます。

    財団・社団を社会貢献に生かす全体像は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で、非営利型法人の要件は「非営利型の一般財団法人とは」で、受託者としての使い方は「一般社団法人を受託者にする民事信託」で解説しています。資産管理会社を検討する場合は「資産管理会社はいつ設立すべきか」もあわせてご覧ください。

    資産税務や財団・社団に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 一般社団法人に財産を移せば相続税がかからない、という手法は、平成30年度税制改正(相続税法66条の2)で大きく見直されました。
    • 同族理事が理事総数の2分の1を超えるなどの特定一般社団法人等では、理事(退任後5年以内を含む)が亡くなると、法人に相続税が課されます。
    • 財産を移す段階でも、みなし譲渡の所得税、法人の受贈益課税、一定の場合の贈与税・相続税を検討する必要があります。
    • 名目だけの理事構成など、形式的な回避策は税務上否認されるリスクがあります。
    • 一般社団法人は、公益的な活動や民事信託の受託者など、目的に合った使い方では今も有力な選択肢です。家族のための資産承継なら、資産管理会社など他の器との比較が欠かせません。

    よくある質問

    Q. 理事に親族以外の人を加えれば、特定一般社団法人等に当たらなくなりますか?

    同族理事の割合が2分の1以下になり、過去5年間の要件にも当たらなければ、条文上は特定一般社団法人等に該当しません。ただし、運営に関与しない人を名目上の理事にするだけでは、実態を問われるおそれがあります。理事会を実際に機能させられるかを含めて検討する必要があります。

    Q. 高齢の理事が早めに退任すれば、相続税の課税を避けられますか?

    理事でなくなった日から5年を経過していない人が亡くなった場合も、課税の対象になります。退任のタイミングだけで課税を避けることには限界があり、法人の運営体制そのものを見直すことが基本です。

    Q. 非営利型の一般社団法人であれば、相続税の問題はありませんか?

    非営利型法人は、相続税法66条の2の対象となる一般社団法人等から除かれています。ただし、非営利型法人であり続けるには、剰余金を分配しないことや理事の親族等の割合を3分の1以下とすることなどの要件を継続して満たす必要があり、要件を外れると扱いが変わります。

    Q. 一般社団法人に自社株を持たせると、会社の株式評価に影響しますか?

    株主の構成が変わるため、同族株主の判定や議決権の考え方に影響が及ぶ可能性があります。法人が保有する株式の扱いは個別の検討が必要で、事業承継全体の設計の中で確認することが大切です。

    Q. 既にある一般社団法人を解散すると、財産はどうなりますか?

    残余財産の帰属は定款の定めや社員総会の決議によりますが、非営利型法人などでは国や公益法人等に帰属させる定めが必要です。解散や財産の移転には新たな課税が生じることもあるため、解散する前に課税関係を確認する必要があります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会、第2章 P.24、P.66-73、第4章 P.309-334
  • 資産管理会社と事業会社の資金管理|会社間・オーナー間の貸し借りをどう整理するか

    資産管理会社と事業会社の資金管理|会社間・オーナー間の貸し借りをどう整理するか

    事業会社を経営しながら資産管理会社も持っているオーナーにとって、「どの会社のお金を、どこに、どう動かしてよいのか」は、日常的に生じる悩みの一つです。事業会社の資金繰りが厳しいときに資産管理会社から融通する、オーナーが個人の資金を会社に入れる、会社がオーナーに立て替える——いずれも同族のグループでは自然に起こる資金移動です。

    しかし、会社とオーナー、会社と会社は、税務上はそれぞれ別の人格です。グループの中のお金の移動であっても、取引ごとに「貸付なのか、出資なのか、贈与なのか」が問われ、利息の有無や契約の整え方によって課税関係が変わることがあります。

    この記事では、資産管理会社・事業会社・オーナー個人の間で生じやすい資金移動を類型ごとに整理し、日頃から管理しておきたいポイントを解説します。

    なぜ資金管理が論点になるのか

    オーナー一族が複数の会社を持つと、それぞれの会社とオーナー個人の間に、次のような取引が生まれやすくなります。

    • 事業会社が、資産管理会社の保有する土地・建物を借りて使う
    • 資産管理会社が、事業会社に運転資金を貸し付ける
    • オーナー個人が、会社に資金を貸し付ける(いわゆる役員借入金)
    • 会社が、オーナー個人に資金を貸し付ける(いわゆる役員貸付金)
    • 会社が、オーナーや家族に役員報酬・給与・配当を支払う

    一つひとつは小さな取引でも、長年積み重なると、各社の決算書に多額の貸付金・借入金が残り、どの会社がどれだけの財産を持っているのかが分かりにくくなります。そして、それはいずれ、株式の評価や相続財産の範囲、後継者が引き継ぐ会社の健全性に影響します。

    資金移動の類型と主な確認点

    AEGISでは、グループ内の資金移動を次の5つの類型に分けて確認することをおすすめしています。

    類型典型的な例主な確認点
    A. 会社 → オーナー個人への貸付会社がオーナーの私的支出を立て替え、貸付金として残っている利息の設定、返済の実態、給与との区別
    B. オーナー個人 → 会社への貸付会社の資金不足をオーナー個人の資金で補った返済の見通し、相続財産としての扱い
    C. 会社 → 会社への貸付資産管理会社が事業会社に運転資金を貸した利率の合理性、寄附金・受贈益の問題、株主構成
    D. 会社間の不動産の賃貸借事業会社が資産管理会社の建物や土地を借りている賃料水準、土地の貸し借りと借地権の整理
    E. 会社 → 個人への報酬・配当家族への役員報酬、株主への配当職務の実態、会社に残す資金とのバランス

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。

    以下、類型ごとに見ていきます。

    A. 会社からオーナー個人への貸付

    会社がオーナーや役員にお金を貸す場合、無利息や、通常より低い利率で貸し付けると、本来支払うべき利息との差額が、役員が受けた経済的な利益(給与)として扱われる場合があります。

    国税庁によれば、役員や使用人に貸し付けた金銭の利息相当額は、会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金の利率、それ以外の場合は貸付けを行った年ごとに定められた利率によるとされています(令和8年中の貸付けは年1.3%)。そのうえで、次のような場合には、給与として課税しなくてよいとされています(国税庁 No.2606)。

    • 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員や使用人に、合理的と認められる金額や返済期間で貸し付ける場合
    • 会社の借入金の平均調達金利など、合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって貸し付ける場合
    • 上記以外で、利息相当額と実際に支払う利息の差額が、年間5,000円以下である場合

    実務上は、利率よりもむしろ「そもそも貸付として管理されているか」が問題になりがちです。会社の資金で私的な支出を立て替え、そのまま返済されずに残っている状態は、貸付としての実態が問われるおそれがあります。金銭消費貸借契約書を作成し、返済計画どおりに返済されているかを確認することが基本です。

    B. オーナー個人から会社への貸付

    会社の資金が不足したとき、オーナーが個人の資金を会社に貸し付けるのは珍しくありません。ここで見落とされがちなのは、オーナーが会社に貸したお金は、オーナー個人の財産(会社に対する債権)として残るという点です。

    会社への貸付金は、オーナーに相続が発生すれば相続財産に含まれます。財産評価基本通達では、貸付金は原則として元本と既経過利息の合計額で評価され、元本に算入しないのは、債務者の破産手続開始や事業廃止など、回収が不可能または著しく困難と見込まれる場合に限られています(同通達204・205)。会社の財務状況から見て返済の見込みが乏しい貸付金であっても、相続財産として扱われることになり得るため、「返ってこないお金に相続税がかかる」という事態が起こり得ます。

    役員借入金が多額に積み上がっている場合には、次のような点を早めに整理しておくことが大切です。

    • 会社に返済能力があるか、返済計画を立てられるか
    • 返済が難しい場合に、どのような方法で整理するか(整理の方法によっては、会社側に課税関係が生じることもあるため、個別の検討が必要です)
    • 事業承継・相続の計画の中で、貸付金を誰がどう引き継ぐか

    C. 会社から会社への貸付

    資産管理会社から事業会社へ、あるいはその逆に、グループ会社の間で資金を貸し借りすることもよくあります。

    利息を取らない貸付は「経済的利益の供与」になり得る

    会社同士はそれぞれ独立した法人であるため、無利息や著しく低い利率で資金を貸し付けると、本来受け取るべき利息相当額について、貸した側の会社から借りた側の会社への経済的な利益の供与と見られる場合があります。

    国税庁によれば、法人税法上の寄附金には、金銭その他の資産の贈与だけでなく、経済的な利益の無償の供与も含まれるとされています(国税庁 No.5281)。寄附金とされた金額は、損金に算入できる額に限度があります。また、借りた側の会社では、受けた利益が受贈益として益金に算入される場合があります。

    ただし、グループ会社への貸付が無利息であることにも、取引の経緯や目的によってはさまざまな事情があり得ます。法人税基本通達では、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行う、合理的な再建計画に基づく無利息貸付けなど、相当な理由があると認められる場合には寄附金に当たらないとする取扱いも示されています(法人税基本通達9-4-2)。どのような場合に寄附金や受贈益とされるかは個別の事実関係によって判断が分かれるため、利率を決めた根拠を記録に残しておくことが重要です。

    「完全支配関係」がある場合の取扱い

    グループ会社の間に、100%の株式保有関係(完全支配関係)がある場合には、特別な取扱いがあります。国税庁によれば、完全支配関係(法人による完全支配関係に限ります)がある他の内国法人に対して支出した寄附金は、受贈益に対応するものについて、その全額が損金に算入されないとされています(国税庁 No.5281)。

    ここで注意したいのは、この取扱いが「法人による完全支配関係」に限られている点です。たとえば、オーナー個人が資産管理会社と事業会社の株式をそれぞれ100%持っている「兄弟会社」の関係では、取扱いが異なる場合があります。グループの株主構成によって、同じ貸付でも課税関係が変わり得るため、株主構成と資金の流れをあわせて確認することが大切です。

    D. 会社間の不動産の賃貸借

    事業会社が、資産管理会社の保有する本社ビルや工場、店舗などを借りて使っているケースは多く見られます。

    賃料の水準

    賃料が周辺の相場に比べて高すぎたり低すぎたりすると、一方の会社から他方の会社への利益の移転と見られる場合があります。どのような根拠で賃料を決めたのか(周辺相場、固定資産税などの負担、建物の取得価額など)を記録しておくことが基本です。

    土地の貸し借りと借地権

    資産管理会社の土地の上に事業会社が建物を建てる場合のように、会社間で土地を貸し借りすると、借地権の問題が生じることがあります。法人税の取扱いでは、借地権の設定に際して権利金を授受しない場合、一定の地代(相当の地代。土地の更地価額のおおむね年6%程度。法人税基本通達13-1-2、平成元年直法2-2)を収受するか、将来土地を無償で返還する旨を定めて「土地の無償返還に関する届出書」を提出するなどの対応をとらないと、借地権相当額について課税関係が生じることがあります。

    国税庁によれば、土地の無償返還に関する届出は、法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させる場合で、契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められているときに、法人と借地人の連名で、遅滞なく提出する手続とされています(国税庁「土地の無償返還に関する届出」、法人税基本通達13-1-7)。個人と法人の間の土地の貸し借りについては、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」でも解説しています。

    E. 報酬・配当と会社に残す資金

    会社からオーナーや家族に資金を移す正規の経路は、役員報酬・給与・配当などです。資産管理会社で家族に報酬を支払う場合は、その家族が実際に管理業務などに従事しており、職務内容に見合った金額であることが前提です。

    また、会社にどれだけの資金を残し、どれだけを個人に移すかは、税負担だけでなく、将来の修繕・建替え資金、借入金の返済、そして株式の評価にも関わります。この配分の考え方は、関連記事「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で解説しています。

    日頃から管理しておきたい5つのこと

    グループ内の資金移動は、後からまとめて整理しようとすると、取引の経緯が分からなくなり、説明が難しくなります。AEGISでは、次の5つを日常的な管理項目とすることをおすすめしています。

    1. 取引ごとに契約書を作る:金銭消費貸借契約書、賃貸借契約書、管理委託契約書など、取引の内容を書面にする
    2. 利率・賃料の根拠を残す:借入金の調達金利、周辺相場、固定資産税額など、金額を決めた根拠を記録する
    3. 返済を契約どおりに実行する:返済計画を立て、実際の入出金と照合する
    4. 会社間・個人との残高を一覧にする:決算ごとに、各社の貸付金・借入金・未払金などの残高と相手先を一表にまとめる
    5. 意思決定の記録を残す:取締役会や株主総会など、会社としての意思決定の記録を整える(取締役と会社との取引には、株主総会〔取締役会設置会社では取締役会〕の承認などの会社法上の手続きが必要となる場合があります。会社法356条・365条)

    特に4の一覧表は、オーナー一族の財産の全体像を把握するうえで有効です。会社が増えるほど、個々の決算書だけでは資金の流れが見えにくくなるためです。

    実務上注意したいポイント

    「とりあえず仮払金」を放置しない

    用途が決まらないまま「仮払金」「立替金」として処理された資金は、時間が経つほど性質の説明が難しくなります。決算までに、貸付金・費用・報酬などのいずれに当たるのかを整理しておくことが大切です。

    赤字の会社への資金融通は慎重に

    業績の悪い会社に資金を貸し付ける場合、回収可能性が問題になります。回収できない貸付金は、貸した側の会社やオーナー個人の財産として残り続け、後から整理しようとすると課税関係が生じることもあります。

    株主構成とセットで考える

    資金の流れの税務上の取扱いは、会社同士の資本関係(完全支配関係の有無など)によって変わることがあります。会社の設立や株式の移転を検討する際には、グループ内の資金の流れへの影響もあわせて確認することが望まれます。

    AEGISの視点

    資産管理会社と事業会社の資金管理は、一見すると経理の問題に見えます。しかしAEGISは、これを「グループ全体の財産を、誰がどこで持っているかを明確にしておくこと」、すなわち所有の設計の一部と捉えています。

    会社とオーナーの間の貸し借りが整理されていないと、事業承継や相続の場面で「この貸付金は誰が引き継ぐのか」「この会社の株価はなぜこんなに高いのか」といった問いに、すぐには答えられなくなります。反対に、日頃から資金の流れが整理されていれば、どの会社に財産を集め、どの会社をどの後継者に渡すのかといった承継の設計を、具体的に考えられるようになります。

    税務上のリスクを避けることは大切ですが、それ以上に重要なのは、資金の流れを家族と後継者が理解できる形にしておくことです。グループ全体の財産の一覧表を、決算のたびに更新していくこと——それが、複数の会社を持つオーナーにとって最も確実な準備だとAEGISは考えています。

    資産管理会社の設立や位置付けを含む全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    法人との関係を含む資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 同じグループ内の資金移動でも、会社とオーナー、会社と会社は税務上それぞれ別の人格として扱われます。
    • 会社から役員への無利息・低利の貸付は、利息相当額が給与として扱われる場合があります(例外となる場合の基準は国税庁が示しています)。
    • オーナーから会社への貸付金は、オーナーの相続財産になり得ます。返済の見通しを早めに整理することが大切です。
    • 会社間の無利息貸付などは、寄附金・受贈益の問題が生じ得ます。完全支配関係の取扱いは「法人による完全支配関係」に限られる点に注意が必要です。
    • 契約書・金額の根拠・返済の実行・残高一覧・意思決定の記録の5つを、日頃から管理しておくことが基本です。

    具体的な取扱いは、取引の経緯や会社の状況などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社から事業会社に無利息でお金を貸してもよいですか?

    貸すこと自体は可能ですが、無利息や著しく低い利率の場合、本来受け取るべき利息相当額が寄附金や受贈益として扱われる場合があります。取扱いは取引の目的や経緯、会社同士の資本関係によって異なるため、利率を決めた根拠を記録し、個別に確認することが大切です。

    Q. 社長が会社から借りているお金に利息を付けないと、どうなりますか?

    利息相当額と実際の利息との差額が、社長が受けた経済的利益として給与扱いになる場合があります。国税庁は、利息相当額の基準となる利率や、合理的な利率を定めている場合、差額が年間5,000円以下の場合など、課税しなくてよい場合を示しています。

    Q. 社長が会社に貸しているお金は、相続のときにどうなりますか?

    会社に対する貸付金(債権)として、相続財産に含まれることになり得ます。会社の財務状況によって返済が難しい場合でも相続財産として扱われ得るため、相続の前に返済計画や整理の方法を検討しておくことが望まれます。

    Q. 兄弟会社の間の資金のやり取りでも注意が必要ですか?

    注意が必要です。完全支配関係がある法人間の寄附金・受贈益の特別な取扱いは「法人による完全支配関係」に限られるため、オーナー個人が各社の株式を持つ兄弟会社の関係では、取扱いが異なる場合があります。株主構成と資金の流れをあわせて確認することが大切です。

    Q. 事業会社が資産管理会社の土地に建物を建てる場合、何に注意すべきですか?

    土地の貸し借りに伴う借地権の課税関係が論点になります。権利金を授受しない場合には、相当の地代の収受や、土地の無償返還に関する届出書の提出などの対応を検討する必要があります。いずれを選ぶかによって、将来の株式評価などにも影響し得るため、事前に整理しておくことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    勤務先から給与を受けている会社員や勤務医でも、資産管理会社を設立すること自体は可能です。高い給与所得に不動産収入などが上乗せされ、所得税の累進税率が重くなってきた方が、法人化を検討するのは自然な流れといえます。

    ただし、給与所得者の場合は、自ら事業を営むオーナーとは前提が違います。本業の勤務先には就業規則があり、社会保険にはすでに加入しており、借入れの審査では「勤務先からの給与」が信用の土台になっています。こうした事情を確認しないまま会社をつくると、税金以外のところで思わぬ制約にぶつかることがあります。

    この記事では、給与所得者が資産管理会社をつくる前に確認したい論点を、勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬と確定申告・法人での借入れの5つに絞って整理します。

    給与所得者にとって、資産管理会社で変わるもの・変わらないもの

    最初に押さえておきたいのは、資産管理会社に移せるのは「資産から生じる所得」であり、本業の給与は移せないという点です。勤務先から受ける給与は、会社をつくっても引き続き本人の給与所得として課税されます。

    資産管理会社が検討される主な理由は、次のように整理できます。

    • 税率構造の違い:所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる超過累進税率で、最高税率は45%です(国税庁 No.2260)。一方、中小法人の法人税は、所得のうち年800万円以下の部分と超える部分で税率が分かれる仕組みです(国税庁 No.5759)。
    • 所得の行き先を分けられる:不動産収入などを会社に帰属させれば、その所得は本人の給与所得に上乗せされなくなります。
    • 家族への配分と財産の蓄積先:会社から家族に役員報酬を支払ったり、利益を会社に留めたりすることで、本人個人に財産が積み上がるスピードを調整できます。

    一方で、給与所得者ならではの「失うもの」もあります。たとえば、個人で保有する賃貸不動産の不動産所得が赤字になった場合、その損失は原則として給与所得などと損益通算できます(土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は除かれます。国税庁 No.2250)。会社で保有すると、会社の赤字は会社の中にとどまり、本人の給与所得とは通算できません。購入初期に赤字が出やすい物件を個人で持つか会社で持つかは、この点も含めて比べる必要があります。損益通算の考え方は、関連記事「高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと」で詳しく扱っています。

    比べる項目個人で保有する場合資産管理会社で保有する場合
    資産からの所得給与所得と合算され、累進税率で課税会社の所得として法人税等で課税
    赤字が出た場合原則として給与所得と損益通算できる(例外あり)会社の中で処理され、本人の給与とは通算できない
    家族への配分贈与などの方法に限られる職務の実態に応じた役員報酬などで配分できる
    本人の手続確定申告で不動産所得を申告会社の決算・申告に加え、本人の申告内容も変わり得る
    勤務先との関係一般に不動産賃貸の規模・態様が論点役員就任や報酬受領が副業・兼業の規定に触れないかが論点
    承継不動産そのものを相続・贈与会社の株式を相続・贈与

    ※上記は一般的な整理です。具体的な有利・不利は、所得の水準、物件の収支、家族構成によって変わります。

    資産管理会社の設立を検討すべきタイミングや比較の軸の全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。本記事は、そのうち給与所得者に固有の論点に絞っています。

    確認点1:勤務先の就業規則と副業・兼業の扱い

    最初に確認したいのは、勤務先の就業規則や服務規程です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的には労働者の自由であるとしたうえで、会社が副業・兼業を制限できる場合として、次のようなケースを挙げています。

    • 本業への労務提供に支障がある場合
    • 業務上の秘密が漏れる場合
    • 競業により勤務先の利益が害される場合
    • 勤務先の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

    ガイドラインは、雇用されて働く形だけでなく、起業や役員への就任など、労働基準法が適用されない形の副業・兼業も視野に入れています。また、会社が副業・兼業について届出制を設けることが望ましいとしています。

    資産管理会社の場合、確認したいのは次のような点です。

    • 役員就任の扱い:就業規則で、他社の役員に就くことが届出制か許可制か、あるいは制限されているか
    • 株主になるだけの場合:出資して株主になるだけなのか、役員として業務を執行するのかで、規程上の扱いが異なることがあります
    • 競業の可能性:勤務先が不動産・金融関連の業種である場合、会社の事業目的や取引先が勤務先と重ならないか
    • 公的な勤務先の場合:公務員は、営利企業の役員を兼ねることや報酬を得て他の事業に従事することが法律で制限され、承認・許可が必要とされています(国家公務員法103条・104条、地方公務員法38条)。公的な医療機関に勤務する場合も、法令や勤務先の規程に基づく別の制限があるため、個別に確認が必要です

    本人が役員に就けない場合に、家族だけを役員にする設計も考えられます。ただし、実際の意思決定を本人が行い、家族は名義だけという状態では、会社の実態や家族への報酬の妥当性が問われかねません。

    確認点2:家族を役員にするときは「職務の実態」を先に決める

    給与所得者が資産管理会社をつくる場合、配偶者や親などの家族を役員にして、会社から報酬を支払う設計がよく検討されます。所得を家族に分けることで、家族全体の税負担を抑え、家族の手元に将来の納税資金を蓄える効果が期待されるからです。

    ただし、役員報酬が会社の損金になるには、定期同額給与などの要件を満たす必要があり、職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は損金に算入されません(国税庁 No.5211)。定期同額給与の額の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行うことが求められます。

    家族を役員にする前に、次の点を言葉にしておくことをおすすめします。

    • 誰が、どの業務(物件の管理、入居者や管理会社とのやり取り、資金管理、帳簿の確認など)を担うのか
    • 報酬の水準は、その業務の内容と量に見合っているか
    • 家族が他に勤務先を持つ場合、その勤務先の規定や、扶養の範囲などに影響しないか

    家族役員の報酬設計は、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で詳しく扱います。

    確認点3:社会保険は「二つ目の勤務先」として扱われる

    見落とされやすいのが社会保険です。日本年金機構によれば、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所とされています。つまり、資産管理会社も、役員に報酬を支払う形をとれば、社会保険の手続が必要になる可能性があります。

    本人が勤務先で社会保険に加入したまま、資産管理会社からも役員報酬を受ける場合は、二つの事業所で被保険者となる形になり得ます。厚生労働省のガイドラインでは、複数の事業所で被保険者の要件を満たす場合、いずれかの保険者を選択し、各事業所の報酬に応じて保険料を按分する仕組みが示されています。資産管理会社からの報酬を増やすと、本業の勤務先にも影響が及ぶ手続が生じ得るということです。

    設計の例社会保険で確認したいこと
    本人も家族も報酬なし会社に利益が残る一方、個人への資金配分の手段が限られる
    家族のみに報酬家族の加入の要否と、家族の他の勤務先・扶養への影響
    本人にも報酬本業との二以上の事業所勤務の手続と、保険料負担の増減

    社会保険の加入要件や手続は、役員の勤務の実態や報酬の額によって判断されます。設計の段階で、社会保険の取扱いを確認してから報酬額を決める順番が安全です。

    確認点4:役員報酬と確定申告の関係を整理する

    給与所得者は、通常は勤務先の年末調整で手続が完結しています。しかし資産管理会社をつくると、本人の申告が変わることがあります。国税庁 No.1900では、給与所得者でも確定申告が必要になる場合として、次のようなケースが示されています。

    • 給与の年間収入金額が2,000万円を超える場合
    • 2か所以上から給与を受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える場合
    • 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている場合

    最後の点は、資産管理会社と本人の間で、土地や建物を貸したり、お金を貸したりするケースで関係します。会社をつくったからといって、本人の申告の手間がなくなるわけではありません。

    また、会社から本人に役員報酬を支払うと、その報酬は本業の給与と合わせて給与所得として課税されます。会社に移した所得を、報酬として本人に戻しすぎると、累進税率の負担が元に戻ることになります。会社に残す金額、家族に配分する金額、本人が受け取る金額のバランスを、数年単位で試算して決めることが大切です。高所得者の所得の種類ごとの税金のかかり方は、関連記事「高所得者の所得税・住民税の全体像」で整理しています。

    確認点5:法人での借入れは「個人の信用」とセットで考える

    給与所得者が不動産を取得するとき、融資の審査では勤務先や給与の安定性が重視されることが多いといわれます。設立したばかりの資産管理会社には事業の実績がないため、会社名義で借り入れる場合でも、本人の収入や資産、本人による保証が審査の前提となることが一般的です。

    借入れについては、次の点を事前に確認しておきたいところです。

    • 会社名義の借入れに、本人が保証人となる場合の範囲と期間
    • 個人名義の借入れが残っている場合、会社での新たな借入れとの関係
    • 将来、転職や独立、勤務先の退職などで本人の収入が変わった場合の影響
    • 会社と本人の間でお金を貸し借りする場合の契約・利息・返済の取り決め

    最後の点は、会社と個人の資金の境界にかかわる論点です。考え方は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 設立の順番:すでに個人で保有する不動産を会社へ移す場合は、移転時の譲渡所得課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。新たに取得する物件から会社で持つのか、既存の物件も移すのかを、先に決めておきます。
    • 土地の貸し借り:本人が土地を持ち、会社が建物を持つ形では、個人と法人の間の土地の貸し借りに借地権の課税の問題が生じます。法人が関わる貸し借りでは、個人間のような使用貸借の考え方がそのままは通用しない点に注意が必要です。
    • 会社の実態:管理の業務を誰がどう担っているか、会社の帳簿や契約が整っているかは、報酬や取引の妥当性を説明する土台になります。
    • 維持の負担:会社には、決算・申告や登記などの維持費用が毎年かかります。所得の規模に対して負担が見合うかを確認します。

    AEGISの視点

    給与所得者の資産管理会社は、「税率の差」から語られることがほとんどです。しかしAEGISは、給与所得者にとっての本当の論点は、本業のキャリアと、資産の保有形態と、家族の役割をどう両立させるかにあると考えています。

    勤務先の規定や社会保険は、税金の計算には現れませんが、一度設計した会社の形を後から変えるのは簡単ではありません。役員構成や報酬の設計を変えると、手続や家族の働き方にも影響が及びます。さらに、資産管理会社の株式は将来、相続や贈与の対象になります。いま誰が株主になり、誰が役員を務めるかは、10年後・20年後の承継の形にもつながります。

    そのため、資産管理会社をつくるかどうかを決める前に、①本業で今後どのような働き方をしていくか、②家族の誰がどこまで関わるか、③不動産をどの規模まで持つか、の3点を先に話し合っておくことをおすすめします。会社は、その答えを実現するための器として設計するのが順番だと考えています。

    まとめ

    • 給与所得者でも資産管理会社はつくれますが、会社に移せるのは資産から生じる所得で、本業の給与は移せません。
    • 個人保有なら不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できる場合がありますが、会社で保有するとその効果はなくなります。
    • 勤務先の副業・兼業の規定(役員就任・競業など)を最初に確認します。
    • 家族を役員にする場合は、職務の実態と報酬水準の妥当性を先に決めます。
    • 役員報酬を支払うと、社会保険の手続や本人の確定申告にも影響が生じ得ます。
    • 法人での借入れは、本人の信用や保証とセットで考える必要があります。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 会社員が資産管理会社の役員になると、副業禁止の規定に違反しますか?

    一概には言えません。勤務先の就業規則で、他社の役員就任をどう扱っているか(届出制・許可制・制限など)によって異なります。厚生労働省のガイドラインでは、副業・兼業は原則として自由とされつつ、本業への支障や競業、秘密の漏洩などがある場合は制限できるとされています。まずは勤務先の規程を確認することが出発点です。

    Q. 自分は役員にならず、配偶者だけを役員にすれば問題ありませんか?

    勤務先の規定上の問題は小さくなる可能性がありますが、配偶者が実際に会社の業務を担っていることが前提です。意思決定を本人が行い、配偶者は名義だけという状態では、役員報酬の妥当性や会社の実態が問われるおそれがあります。

    Q. 資産管理会社から役員報酬を受け取ると、社会保険はどうなりますか?

    法人の事業所は社会保険の強制適用事業所とされているため、役員報酬の支払いに伴って加入の要否を確認する必要があります。本業の勤務先と合わせて二つの事業所で被保険者となる場合は、保険者の選択や保険料の按分などの手続が生じ得ます。報酬額を決める前に確認しておくことをおすすめします。

    Q. 勤務医が資産管理会社をつくる場合に、特に注意することはありますか?

    基本的な論点は会社員と同じですが、勤務先が公的な医療機関である場合は、兼業に関する法令や規程による制限がないかを個別に確認する必要があります。また、勤務医は給与水準が高く、会社から本人に報酬を戻すと累進税率の負担が大きくなりやすいため、会社に残す金額と家族への配分のバランスが重要になります。

    Q. 不動産を購入してから会社をつくるのと、会社をつくってから購入するのとでは、どちらがよいですか?

    すでに個人で取得した不動産を会社へ移すと、移転時に譲渡所得の課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。今後取得する物件を会社で持つ方針であれば、取得前に会社の設計を済ませておくほうが、移転の負担を避けやすくなります。ただし、購入初期の赤字を給与所得と通算したい場合など、個人で持つ理由がある物件もあるため、物件ごとに比べることが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、第Ⅰ部第2章 P.85-87、P.92-93
    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、第4編 P.218、P.229-230
  • 土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは|資産管理会社の株価が高くなりやすい理由と、判定で確認すべきこと

    土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは|資産管理会社の株価が高くなりやすい理由と、判定で確認すべきこと

    資産管理会社の株式を評価すると、「思っていたより株価が高い」と感じることがあります。その大きな理由の一つが、特定の評価会社という区分です。

    土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは、相続税・贈与税で非上場株式を評価するときに、総資産に占める土地等や株式等の割合が一定以上の会社を、一般の会社とは別に扱う区分です。財産評価基本通達189に定められています。これらに当たると、上場会社の株価と比べる「類似業種比準方式」を使えず、原則として会社の財産の価値を積み上げる「純資産価額方式」で評価されます。

    資産の大半が不動産や有価証券である資産管理会社は、まさにこの区分に当たりやすい会社です。この記事では、判定の基準、評価方法、判定を左右する要因を整理し、オーナーが何を確認すべきかを解説します。

    特定の評価会社とは

    非上場株式(取引相場のない株式)は、原則として、会社を規模に応じて大会社・中会社・小会社に区分し、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用で評価します(国税庁 No.4638)。評価方法の全体像は、関連記事「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。

    ただし、資産の構成や営業の状況が一般の会社と大きく異なる会社に、上場会社との比較を前提とする方式をそのまま当てはめると、適正な評価にならないおそれがあります。そこで財産評価基本通達189は、次の6つを「特定の評価会社」として定め、それぞれに評価方法を設けています。

    1. 比準要素数1の会社
    2. 株式等保有特定会社
    3. 土地保有特定会社
    4. 開業後3年未満の会社等(比準要素数0の会社を含む)
    5. 開業前又は休業中の会社
    6. 清算中の会社

    複数に当たる場合は、番号が後のものが優先されるとされています。資産管理会社で特に問題になるのが、2と3です。設立して間もない資産管理会社であれば、4に当たることもあります。

    土地保有特定会社の判定基準

    土地保有特定会社は、会社の各資産を財産評価基本通達で評価した価額(相続税評価額)の合計のうち、土地等の価額の合計が占める割合(土地保有割合)で判定します。土地等には、土地のほか借地権など土地の上に存する権利も含まれます。

    判定の基準は、会社の規模によって異なります。

    会社の規模土地保有割合
    大会社70%以上
    中会社90%以上
    小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が卸売業20億円以上、それ以外の業種15億円以上70%以上
    小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が卸売業7,000万円以上、小売・サービス業4,000万円以上、それ以外の業種5,000万円以上(上の行に当たらないもの)90%以上
    上記以外の小会社該当しない

    ※財産評価基本通達189(3)をもとにAEGISが整理。会社規模は通達178の区分によります。

    ここで押さえておきたいのは、割合の計算は相続税評価額で行う一方、小会社の基準額は帳簿価額で判定するという点です。路線価が上がれば土地保有割合も上がりますし、帳簿上の総資産が基準額を下回る小規模な会社は、土地の割合が高くても土地保有特定会社には当たりません。

    また、判定の基礎となる土地等は、保有目的や期間を問わず会社が持つすべての土地等が対象とされています。販売用の土地(たな卸資産)も含まれます。

    株式等保有特定会社の判定基準

    株式等保有特定会社は、相続税評価額で計算した総資産のうち、株式等の価額の合計が占める割合が50%以上の会社です。土地保有特定会社と異なり、会社の規模にかかわらず一律の基準です。

    ここでいう株式等は、株式、出資および新株予約権付社債で、所有目的や所有期間を問いません。国税庁の質疑応答事例では、外国株式や株式制のゴルフ会員権、証券会社が商品として保有する株式は含まれる一方、証券投資信託の受益証券や匿名組合の出資は含まれないとされています。また、専門書籍の解説では、上場不動産投資信託(会社型)の投資口は含まれるとする整理が示されています。

    株式等保有特定会社になりやすいのは、次のような資産管理会社です。

    • オーナーが経営する事業会社の株式を保有している(いわゆる持株会社型)
    • 上場株式などの金融資産を会社で運用している
    • 不動産を売却して、その資金で有価証券を保有している

    当てはまると、どのように評価されるか

    区分同族株主等が取得する場合同族株主等以外が取得する場合
    土地保有特定会社純資産価額方式配当還元方式
    株式等保有特定会社純資産価額方式(納税者の選択によりS1+S2方式も可)配当還元方式
    開業後3年未満の会社等純資産価額方式配当還元方式

    ※財産評価基本通達189-3・189-4、国税庁 No.4638 をもとにAEGISが整理。

    S1+S2方式とは、会社が持つ株式等とその配当がなかったものとして、会社の規模に応じた原則的な方法で評価した部分(S1)と、株式等だけを純資産価額方式に準じて評価した部分(S2)を合計する方法です。事業の実態がある会社について、その部分に類似業種比準方式の考え方を反映させる趣旨と考えられます。

    純資産価額方式では、会社の資産と負債を相続税評価額に置き換えて1株あたりの価額を計算します。その際、次の点が評価額に影響します。

    • 評価差額に対する法人税額等相当額の控除:相続税評価額と帳簿価額の差(含み益)に一定割合を掛けた金額を差し引きます。国税庁の現行の財産評価基本通達186-2では、この割合は38%とされています(防衛特別法人税を含む税率の合計に相当する割合)。
    • 3年以内に取得した不動産:会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地等や家屋等は、路線価などではなく、課税時期の通常の取引価額に相当する金額で評価します(同185)。
    • 議決権割合50%以下の場合:株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計が50%以下であれば、純資産価額の80%で評価します(同185)。

    法人税等の税率の変更が法人税額等相当額の割合にどう反映されているかは、関連記事「防衛特別法人税は中小企業にどう影響するか」もあわせてご覧ください。

    資産管理会社の株価が高くなりやすい理由

    一般の事業会社では、類似業種比準方式の比重が大きいと、会社の利益や配当の水準が株価に強く反映されます。これに対して特定の評価会社は、原則として純資産価額で評価されるため、会社が持つ財産の相続税評価額がほぼそのまま株価に表れます。

    資産管理会社は、もともと賃貸収入から生じた利益を会社に蓄積していく仕組みです。不動産や預金、有価証券が積み上がるほど純資産が増え、特定の評価会社に当たればそれがそのまま株価に反映されます。さらに、会社で不動産を取得した直後は、上記の3年ルールにより通常の取引価額で評価されるため、取得による評価の引下げ効果も限られます。

    なお、国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しており、第6回会議の資料では、土地保有特定会社と株式等保有特定会社を「資産管理会社」に整理し、有価証券や賃貸不動産、現預金などの特定資産の割合(帳簿価額ベース)で判定して純資産価額方式で評価する案が論点として示されています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。

    判定が変わる主な要因

    土地保有割合や株式等保有割合は、日々の資産の動きで変わります。判定に影響する要因を整理すると、次のとおりです。

    要因判定への影響の方向確認したいこと
    不動産の取得・売却土地保有割合が上下する取得後3年以内の評価、売却代金の使い道
    事業会社株式・有価証券の保有株式等保有割合が上がる持株会社としての役割、配当の流れ
    現預金の増減割合の分母が変わる納税資金・修繕資金としての必要額
    路線価・株価の変動相続税評価額ベースの割合が動く毎年の評価額の推移
    会社規模区分の変化判定基準(70%・90%)が変わる従業員数・取引金額・総資産(帳簿価額)
    設立からの年数・比準要素開業後3年未満等に該当するか設立日、配当・利益・純資産の状況

    ※AEGISが判定の考え方を整理したものです。

    判定を免れるための資産の組替えは否認され得る

    財産評価基本通達189は、課税時期前に合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが株式等保有特定会社や土地保有特定会社と判定されることを免れるためと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定すると定めています。専門書籍では、直前に借入れをして総資産を膨らませるようなケースが例として挙げられています。

    評価の時点だけを意識した資産の動かし方は、かえって税務上のリスクを高めます。資産の構成を変える場合は、事業上・資産管理上の目的があることが前提です。

    オーナーが確認しておきたいこと

    • 毎期の判定を記録する:決算のたびに、相続税評価額ベースの土地保有割合・株式等保有割合と会社規模区分を試算し、推移を把握します。
    • 会社の役割を確認する:持株会社なのか、不動産賃貸会社なのか、金融資産の運用会社なのかで、どの特定会社に当たりやすいかが変わります。
    • 不動産の取得時期を把握する:3年以内に取得した不動産がある間は、評価額が高めに出る前提で計画します。
    • 株式の移転時期と組み合わせる:贈与や売買で株式を移す時期は、評価額の見通しとあわせて検討します。
    • 持合いの有無を確認する:グループ会社どうしで株式を持ち合っている場合は、評価の計算がさらに複雑になります。詳しくは関連記事「株式を持ち合うグループ会社の承継と評価」をご覧ください。

    AEGISの視点

    特定の評価会社に当たること自体は、悪いことではありません。会社の財産の実態に合った評価方法が適用されているとも言えます。問題は、オーナーが株価の水準を把握しないまま、資産を会社に積み上げ続けてしまうことです。

    AEGISは、資産管理会社の株価を「会社に何を、どれだけ持たせるか」という所有設計の結果として捉えています。土地保有特定会社になるかどうかを気にして資産を組み替えるより、会社が担う役割、蓄積した資金の使い道(修繕、借入返済、役員報酬や配当)、株式を誰にいつ移すかを先に決め、その結果として株価の推移を確認する順番が大切だと考えています。

    資産管理会社の株式と経営権を誰にどう引き継ぐかは「資産管理会社の株式と経営権の承継」で、そもそも資産管理会社をいつ設立すべきかは「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    非上場株式の評価や資産構造の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 土地保有特定会社・株式等保有特定会社は、財産評価基本通達189に定める「特定の評価会社」の一部です。
    • 土地保有特定会社は、相続税評価額ベースの土地保有割合が大会社70%以上、中会社90%以上(小会社は帳簿価額の総資産と業種により70%・90%・非該当)の会社です。
    • 株式等保有特定会社は、会社規模にかかわらず株式等の割合が50%以上の会社です。
    • 当てはまると、同族株主等は原則として純資産価額方式で評価され、資産管理会社の株価は会社の財産の評価額をほぼそのまま反映します。
    • 合理的な理由のない資産の組替えは、判定上なかったものとされることがあります。具体的な判定と評価は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 賃貸マンションを持つ資産管理会社は、必ず土地保有特定会社になりますか?

    必ずではありません。判定は総資産に占める土地等の割合で行い、建物や預金、その他の資産が多ければ割合は下がります。また、小会社で帳簿価額の総資産が業種ごとの基準額を下回る場合は、土地の割合にかかわらず該当しません。毎期の決算をもとに試算して確認することが大切です。

    Q. 事業会社の株式を資産管理会社に持たせると、どうなりますか?

    資産管理会社の総資産に占める株式等の割合が50%以上になると、株式等保有特定会社に当たり、原則として純資産価額方式で評価されます。納税者の選択により、S1+S2方式で評価することもできます。持株会社にする目的や配当の流れとあわせて検討する必要があります。

    Q. 判定を避けるために、相続の前に借入れをして資産を増やしてもよいですか?

    財産評価基本通達では、合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが特定の評価会社と判定されることを免れるためと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定するとされています。評価だけを目的とした資産の組替えは避け、事業上の目的に沿って判断することが重要です。

    Q. 家族以外の役員などが株式を相続した場合も、純資産価額で評価されますか?

    同族株主等以外の株主が取得した株式は、土地保有特定会社や株式等保有特定会社であっても、配当還元方式で評価されます。ただし、誰が同族株主等に当たるかは議決権割合などで判定されるため、株主構成をもとに確認が必要です。

    Q. 純資産価額方式で計算するとき、含み益にかかる税金は考慮されますか?

    相続税評価額と帳簿価額の差額(評価差額)に対する法人税額等相当額を控除して計算します。国税庁の現行の財産評価基本通達186-2では、この割合は38%とされています。この割合は、令和8年4月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した株式等の評価から適用されます(会社の決算期ではなく取得の時=課税時期で判定します)。それより前に取得した場合は従来の割合(37%)で評価します。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和8年版 非上場株式の評価の仕方と記載例』松本好正 著、一般財団法人大蔵財務協会、P.194-213
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、P.180-181
  • 資産管理会社の定款で決めておきたいこと|譲渡制限・売渡請求・役員任期・機関設計のチェックリスト

    資産管理会社の定款で決めておきたいこと|譲渡制限・売渡請求・役員任期・機関設計のチェックリスト

    定款とは、会社の目的や株式、機関(株主総会・取締役など)の基本ルールを定めた、会社の「憲法」にあたる文書です。

    資産管理会社の定款は、設立のときに一般的なひな形をもとに作り、その後は一度も読み返していない、ということが少なくありません。家族だけが株主で、オーナーが一人で意思決定しているうちは、それでも問題は表に出ません。しかし、株式が相続で家族に分かれたとき、オーナーが判断できなくなったとき、家族の意見が割れたときに、定款に何が書いてあるかが会社の動き方を決めます。

    この記事では、資産管理会社の設立時や見直しのときに確認したい定款の項目を、①株式の譲渡制限、②相続人等に対する売渡請求、③機関設計、④役員の任期、⑤株主総会の運営、⑥株主ごとの権利の設計の順に整理します。最後にチェックリストをまとめています。

    なぜ資産管理会社の定款を見直すのか

    資産管理会社の株式は、オーナーの相続財産の中で大きな割合を占めることがあります。会社の中身(不動産や預金)は動かなくても、株式という「会社そのもの」は、相続や贈与のたびに家族の間で移っていきます。

    株式の承継で何を引き継ぐかの全体像は、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。本記事はその中でも、ルールとしての定款に焦点を当てます。

    定款の見直しが特に必要になりやすいのは、次のような場面です。

    • オーナーから子へ、株式の贈与や遺言による承継を始めるとき
    • 配偶者や子を役員に加える、または役員から外すとき
    • 兄弟姉妹など複数の家族が株主になる見込みがあるとき
    • 古い会社で、旧商法時代の定款をそのまま使っているとき

    1. 株式の譲渡制限と承認機関

    譲渡制限は「誰が株主になるか」を管理する仕組み

    非公開会社の多くは、定款で「株式を譲渡により取得するには会社の承認を要する」と定めています(会社法第107条)。これにより、株主が株式を第三者に売ろうとしても、会社の承認がなければ、取得者は原則として会社との関係で株主として扱われません。

    ただし、譲渡制限は株式の売却そのものを禁止する制度ではありません。株主は承認を請求する際に、承認しない場合には会社または会社が指定する買取人が買い取るよう、あわせて請求できます。その請求があれば、会社が承認しないときは、会社自身または指定買取人がその株式を買い取らなければなりません(同第138条・第140条)。株主になる人を選べる代わりに、買取りの資金と手続きが必要になるという点を押さえておきたいところです。

    承認機関を誰にするか

    譲渡を承認するかどうかは、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会が決めるのが原則で、定款で別段の定めをすることもできます(同第139条)。

    承認請求を受けてから2週間以内(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)に承認するかどうかを通知しないと、承認したものとみなされます(同第145条)。この期間を意識して、実務では承認機関を「代表取締役」とする定款も見られますが、専門書籍では、取締役会より下位の機関を承認機関とすることの有効性には学説上の争いがあると指摘されています。

    取締役会を置かない資産管理会社では、株主総会を承認機関としたうえで、次のような手当てをしておく方法が考えられます。

    • 株主総会の招集通知の期間を定款で短くしておく(非公開会社は原則1週間前まで、取締役会を置かない会社は定款でさらに短縮できます。同第299条)
    • 承認請求を会社所定の書面で行うよう定め、会社は請求があれば書面を交付する旨もあわせて定める

    2. 相続人等に対する売渡請求

    相続による株式の移転は、譲渡制限では止められない

    相続は「譲渡」ではないため、譲渡制限があっても、株式は相続人に当然に引き継がれます。そこで会社法は、相続その他の一般承継で譲渡制限株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すよう請求できる旨を、定款で定めることができるとしています(同第174条)。

    制度の主な流れは次のとおりです。

    • 請求のたびに、株主総会で請求する株式の数と相手方を決める(同第175条第1項)。この決議は特別決議です(同第309条第2項)
    • 請求の相手方となる相続人は、その株主総会で議決権を行使できない(同第175条第2項)
    • 会社が相続などがあったことを知った日から1年を経過すると、請求できない(同第176条第1項)
    • 価格は当事者の協議で決め、まとまらなければ、請求の日から20日以内に裁判所に価格決定を申し立てることができる(同第177条)

    なお、会社が買い取る形になるため、分配可能額の範囲内でしか取得できないという制約(財源規制)があります。

    オーナー自身の相続にも使われ得る

    この制度で注意したいのは、定款の定めは株主全員に適用されるという点です。専門書籍では、少数株主より先に支配株主(オーナー)に相続が起きた場合、後継者が相続した株式に対して、残りの株主の決議で売渡請求がされ得るリスクが指摘されています。売渡請求の決議では相続人側が議決権を行使できないため、少数株主だけで特別決議が成立してしまう構図になり得るからです。

    家族だけの資産管理会社でも、オーナーの兄弟姉妹や前の世代から引き継いだ親族が株主に残っている場合は、同じ構図が生じ得ます。売渡請求の定めを置くかどうかは、現在の株主構成と、誰に先に相続が起きるかを想定したうえで判断する必要があります。代わりの方法として、種類株式(取得条項付株式など)や、遺言・民事信託(いわゆる家族信託)による承継先の指定を組み合わせる考え方もあります。

    株式が遺産分割前に相続人の共有になったときに議決権がどう扱われるかは、関連記事「株式が相続人の共有になったときの議決権行使」をご覧ください。

    3. 機関設計:取締役会を置くか

    株式会社には、取締役を1人以上置かなければなりません。取締役会、監査役、会計参与などは、定款の定めによって置くことができる任意の機関です(同第326条)。

    資産管理会社では、意思決定を簡素にするため、取締役会を置かず、取締役1人〜数人と株主総会だけの構成にすることが一般的です。この場合、会社の重要な事項の多くは株主総会で決めることになり、株式(議決権)を持つ人が会社を動かす構造がより直接的になります。

    一方、家族の複数人が役員として関わり、日常の判断を役員の合議で行いたい場合は、取締役会の設置も選択肢です。ただし、取締役会を置くと、譲渡承認や招集手続などのルールも変わるため、定款全体を整合させる必要があります。

    4. 役員の任期

    取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです。非公開会社(監査等委員会設置会社などを除く)は、定款によって選任後10年以内まで伸ばすことができます(同第332条)。

    資産管理会社では、役員変更の手間を減らすために10年とすることが多いですが、長い任期には注意点もあります。

    • 役員はいつでも株主総会の決議で解任できますが、正当な理由がない解任の場合、会社は損害賠償を求められることがあります(同第339条)
    • 家族の関係が変わったときに、任期の長さが役員の入替えの負担になることがある
    • 任期が長いと、役員の構成を定期的に見直す機会がなくなりやすい

    承継を見据えると、後継者がいつ役員に就くかも定款・任期と一緒に考えたい論点です。たとえば、個人が持つ土地を同族会社の事業に使っている場合、相続した親族が相続税の申告期限に役員であることが、小規模宅地等の特例(特定同族会社事業用宅地等)の要件になります。詳しくは関連記事「小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか」で解説しています。

    5. 株主総会の運営と決議要件

    定款の変更や売渡請求の決定などの重要事項は、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成。定足数は定款で3分の1以上まで引き下げ可能)で行います(同第309条第2項)。役員の選任・解任は普通決議ですが、定足数を定款で引き下げる場合も3分の1を下回ることはできません(同第341条)。

    家族の株主が増えるほど、総会の開催や決議の成立が難しくなります。次の点を確認しておきます。

    • 定足数や決議要件を定款でどう定めているか
    • 招集の期間と方法(書面・メール等)
    • 株主総会の議事録を毎年きちんと残しているか

    6. 株主ごとの権利の設計

    非公開会社では、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について、株主ごとに異なる取扱いを定款で定めることができます(同第109条第2項、いわゆる属人的な定め)。また、議決権のない株式や取得条項付株式などの種類株式を発行する方法もあります。

    たとえば、議決権は後継者に集め、配当を受ける権利は他の家族にも残す、といった設計が考えられます。具体的な方法の比較は、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で解説しています。

    定款チェックリスト

    項目確認すること見直しのきっかけ
    目的現在と将来の事業(賃貸・管理・売買など)が含まれているか事業内容の追加、物件の取得方針の変更
    株式の譲渡制限承認機関は誰か、承認請求の方式を定めているか株主が増える、取締役会の設置・廃止
    相続人等に対する売渡請求定めの有無と、オーナー自身の相続時の影響株式の承継開始、少数株主の存在
    機関設計取締役会・監査役の有無、取締役の人数家族役員の追加、意思決定の方法の変更
    役員の任期任期の年数と、次の改選時期後継者の役員就任、家族関係の変化
    株主総会招集期間・方法、定足数・決議要件株主の分散、遠方に住む株主の発生
    株主ごとの権利属人的な定め・種類株式の有無と内容議決権と財産権を分けたいとき
    事業年度決算期が資金計画・申告の負担と合っているか賃料の入金時期、繁忙期との関係

    ※AEGISが資産管理会社の定款確認のために整理したものです。

    定款を変更するには、株主総会の特別決議が必要です。登記事項に関わる変更であれば、変更登記も必要になります。定款を変えるだけでなく、実際の運営(総会の開催、議事録、株主名簿)が定款どおりに行われているかもあわせて確認することが大切です。

    AEGISの視点

    資産管理会社は、事業会社のように取引先や従業員がいない分、会社のルールが意識されにくい会社です。しかし、AEGISは、資産管理会社こそ定款が重要になると考えています。会社の中にある不動産や資金は、最終的には株式を通じて家族の誰かが支配するものだからです。

    定款は、オーナーが元気なうちに、家族の将来の関係を想定して書いておくことができる数少ない道具です。誰が株主になり、誰が役員を務め、意見が割れたときにどう決めるのか。こうした問いへの答えを、遺言やファミリーとしての話し合いと組み合わせて定款に落とし込んでおくことで、相続の後も会社が家族の資産を守る器として機能し続けると考えています。

    資産管理会社をいつ・何のために設立するかの全体像は、「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    まとめ

    • 資産管理会社の定款は、株式の相続・分散、オーナーの判断能力の低下、家族間の対立に備えるためのルールです。
    • 譲渡制限では、承認機関と、2週間以内に通知しないと承認したとみなされる点に注意します。
    • 相続人等に対する売渡請求は、株式の分散を防ぐ一方で、オーナー自身の相続時に使われるリスクもあります。
    • 機関設計と役員の任期は、後継者がいつ役員に就くかとあわせて検討します。
    • 定款の変更は株主総会の特別決議で行い、実際の運営が定款どおりかも確認します。具体的な定め方は会社と家族の状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. 家族だけの資産管理会社でも、株式の譲渡制限は必要ですか?

    多くの非公開会社と同様に、定めておくのが一般的です。家族だけの会社でも、相続や離婚、資金の必要などをきっかけに、株式が家族以外の人に渡ろうとする場面はあり得ます。譲渡制限があれば、会社の承認なしに新しい株主が加わることを防ぐことができます。

    Q. 相続人等に対する売渡請求の定めは、入れておいたほうがよいですか?

    一概には言えません。株式の分散を防ぐ手段になる一方、オーナー自身の相続の際に、後継者が相続した株式に対して他の株主の決議で売渡請求がされ得るリスクがあります。現在の株主構成、誰に先に相続が起きる可能性が高いか、会社の分配可能額などを踏まえて判断します。

    Q. 取締役の任期は10年にしておけば安心ですか?

    役員変更の手続きは減りますが、任期途中で役員を交代させたいときに、正当な理由がない解任であれば損害賠償を求められることがあります。家族の状況や後継者の就任時期を考え、必ずしも最長にする必要はありません。

    Q. オーナーが認知症になった場合、定款で備えられることはありますか?

    オーナーが株主総会で議決権を行使できなくなると、会社の重要な意思決定が止まるおそれがあります。定款だけで解決できるわけではありませんが、役員の構成や株主総会の運営ルールを整えておくことに加え、任意後見や民事信託(いわゆる家族信託)による議決権の行使者の準備とあわせて検討することが重要です。

    Q. 定款を変更するには、どのような手続きが必要ですか?

    株主総会の特別決議が必要です。変更する内容が登記事項に関わる場合は、変更登記も必要になります。変更前に、現行の定款・株主名簿・登記事項が一致しているかを確認しておくと、手続きが円滑に進みます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    • e-Gov法令検索「会社法」(平成17年法律第86号)第107条、第109条、第138条〜第140条、第145条、第174条〜第177条、第299条、第309条、第326条、第332条、第339条、第341条(施行日2026-08-12版)
      https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
      確認日:2026-10-09

    書籍

    • 『非公開会社における少数株主対策の実務 会社法から税務上の留意点まで』永吉啓一郎 著、清文社、P.62-79、P.138-149
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、P.200-202、P.228-229
  • 土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    オーナー個人が持つ土地の上に、資産管理会社や事業会社が建物を建てる、あるいは建物だけを会社に移す。こうした形は、所有と運営を分けたり、家族で収益を分担したりする目的でよく検討されます。

    このとき必ず問題になるのが、会社が個人の土地を「借りている」ことの税務上の扱いです。権利金を払わずに土地を借りると、会社が借地権という財産を無償で受け取ったとみなされ、思わぬ課税を受けることがあります。

    結論から言えば、権利金を授受しない場合の主な整理の方法は、「相当の地代を支払う」か「土地の無償返還に関する届出書を提出する」かのどちらかです。そして、どちらを選ぶか、地代をいくらにするかによって、会社の課税だけでなく、オーナーの相続時の土地の評価と、会社の株式の評価まで変わります。この記事では、その仕組みと、選択の際に確認したい点を整理します。

    なぜ「借地権」が問題になるのか

    借地権は権利金を払って取得するのが前提

    建物を所有する目的で土地を借りると、借主には借地借家法による強い保護が与えられます。そのため、借地権の取引慣行がある地域では、土地を貸す際に、地主が借主から権利金を受け取るのが通常とされてきました。財産評価の上でも、借地権は相続税の課税対象となる独立した財産として扱われ、路線価図には地域ごとの借地権割合が示されています。

    税務上の取扱いは、この「権利金を払って借地権を取得するのが通常の取引である」という前提に立っています。

    権利金なしで借りると、会社に受贈益が生じるおそれ

    個人が土地を貸す場合、所得税では、権利金を受け取らなかったからといって、受け取ったものとみなして個人に課税する仕組みは基本的にありません。一方、借主が法人の場合は、本来支払うべき権利金を支払わずに借地権を得たとして、その相当額を受贈益(会社の益金)として課税される可能性があります。これがいわゆる借地権の認定課税です。

    ただし、次のいずれかの対応をしていれば、この認定課税は行われない取扱いになっています。

    • 権利金に代えて、相当の地代を支払う(法人税基本通達13-1-2)
    • 将来、土地を無償で返還することを契約で定め、土地の無償返還に関する届出書を提出する(法人税基本通達13-1-7)

    選択肢を比べる

    権利金を授受しない場合を中心に、主な選択肢を整理すると次のようになります。

    選択肢会社の借地権の認定課税地主(個人)の土地の相続税評価会社の株式評価への影響主な留意点
    A. 相当の地代を支払う生じない原則として自用地価額の80%地主が同族関係者となっている同族会社なら、自用地価額の20%を借地権として純資産価額に算入地代が高く、会社の収支を圧迫しやすい。地代の改訂方法の選択が必要
    B. 無償返還届出+地代を支払う(賃貸借)生じない自用地価額の80%同上(同族会社の場合、20%を純資産価額に算入)地代水準の決め方と、届出の提出・保管
    C. 無償返還届出+地代なし(使用貸借)生じない自用地価額(100%)借地権の計上なし地主側に地代収入がない。土地の評価は下がらない
    D. 何もしない(権利金・相当の地代・届出なし)生じるおそれ借地権の価額を控除した貸宅地評価会社に借地権が計上される設立・移転時に会社側で受贈益課税の可能性

    ※AEGISが論点整理のために作成した比較です。評価の取扱いは国税庁の個別通達(昭和60年直資2-58ほか、昭和43年直資3-22)に基づく原則的な内容で、権利金の一部授受がある場合など個別事情により異なります。「地主の土地の評価」は個人が相続する土地(貸宅地)の話、「株式評価への影響」は土地を借りている会社の株式の話で、20%の算入は、被相続人(地主)が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合の取扱いです。

    以下、A〜Cの中身を順に見ていきます。

    相当の地代とは

    自用地価額のおおむね年6%

    相当の地代とは、権利金を授受しない代わりに支払う、通常より高い水準の地代です。相続税の取扱いを定めた国税庁の個別通達(いわゆる相当地代通達)では、借地権が設定されている土地の自用地としての価額の過去3年間の平均額に対し、おおむね年6%程度の地代とされています。

    法人税の取扱い(法人税基本通達13-1-2)も、土地の更地価額に対する一定割合の地代を相当の地代としています。通達本文は「おおむね年8%程度」としていますが、平成元年の個別通達(平成元年直法2-2)により当分の間「年6%」と読み替えられ、更地価額は相続税評価額やその過去3年間の平均額によることもできるとされています。どちらの税目でも、土地の価額をどの時点・どの方法で算定するかが地代の水準を左右するため、算定の根拠を残しておくことが大切です。

    地代を据え置くか、改訂していくか

    相当の地代を支払う場合、地価が変動したときに地代をどうするかを決めておく必要があります。法人税基本通達13-1-8は、地主が法人である場合について、地代の改訂方法を契約書で次のいずれかに定めることとしています。

    • 土地の価額の上昇に応じて地代を順次改訂する方法:借地権の価値は借主側に生じないと整理されます
    • それ以外の方法(地代を据え置くなど):地価が上がると、相当の地代との差が生じ、借主側に借地権の価値が自然に発生していく考え方になります

    地主が法人の場合、どちらを選ぶかは借主と連名で遅滞なく税務署に届け出ることとされ、届出がない場合は後者の方法を選択したものとして扱われます。地主が個人で借主が会社の場合も、会社が借地権を譲渡したり土地を返還したりするときの借地権の価額は、改訂方法がどちらかによって扱いが分かれる(法人税基本通達13-1-15)ため、契約書で改訂方法を明確にしておくことが大切です。地代を据え置いたまま年数が経つと、相続時の土地や株式の評価が当初の想定と異なってくる点に注意が必要です。

    土地の無償返還に関する届出とは

    「将来、無償で返す」と約束し、税務署に届け出る

    土地の無償返還に関する届出は、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、土地所有者と借地人が連名で、遅滞なく届け出る手続です(国税庁 手続名C1-63、法人税基本通達13-1-7)。契約書の写しと、土地の価額の計算の明細などを添付します。

    国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとしています。個人の土地に会社が建物を持つ場面でも、この届出によって、権利金を授受せず相当の地代も支払わない形を選べることになります。

    地代を払うか、払わないか

    無償返還の届出をしたうえで、地代をどうするかは別に決めます。ここが、相続時の評価を分ける大きな分岐点です。

    • 地代を支払う(賃貸借):地主の土地は「貸宅地」として、自用地価額の80%で評価されます(相当地代通達8)
    • 地代を支払わない(使用貸借):届出が出ていても、土地は自用地価額(100%)で評価されます(同通達8の(注))。地代を受け取っていても、その額が固定資産税などの公租公課に相当する程度以下で、実質的に使用貸借にすぎないと認められる場合も同様です

    地代を受け取らない使用貸借は、地主に収入がない分、所得税の負担は生じませんが、土地の評価は下がりません。反対に地代を受け取る場合は、地主の不動産所得が増える一方、会社の費用になります。どちらが望ましいかは、オーナー個人と会社の所得の状況、そして将来の承継の形とあわせて判断することになります。

    相続税評価への影響:「下がった分」はどこへ行くか

    ここで見落とされがちなのが、会社の株式の評価です。

    相当の地代を支払っている場合や、無償返還の届出をして地代を支払っている場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価されます。一方、その土地を借りている会社が、被相続人が同族関係者となっている同族会社である場合、その会社の株式を純資産価額で評価する際には、自用地価額の20%相当額を借地権の価額として純資産に算入する取扱いがあります(昭和43年直資3-22、相当地代通達6・8)。この取扱いは、地主の土地が80%で評価される場合のものです。地代を受け取らない使用貸借で土地が自用地価額(100%)で評価される場合には、土地の評価は下がりません。

    数字で見ると、次のようなイメージです。

    項目金額のイメージ
    土地の自用地価額1億円
    地主(個人)の土地の評価:貸宅地 80%8,000万円
    会社の株式評価で純資産に算入される借地権相当額:20%2,000万円
    個人と会社を通じた合計1億円

    ※説明のための単純化した例です。株式の評価は純資産価額方式だけで決まるとは限らず、会社の規模や資産構成によって異なります。また、株式の評価方法は国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しているため、今後の通達改正に注意が必要です。

    つまり、オーナーが会社の株式を自分で保有している限り、土地の評価が下がった分は、株式の評価に移るだけという構図になりやすいのです。これは、土地の価額を個人と法人を通じて全体として捉えるという考え方によるものです。評価上の効果を期待して届出や地代を選ぶ場合は、誰が会社の株式を持っているかまで含めて確認する必要があります。

    なお、地代の有無は、小規模宅地等の特例でどの区分に当たるかにも関わります。会社に土地を貸している場合の特例の考え方は、関連記事「小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 契約書と届出をセットで整える:無償返還の定めは契約書に明記されている必要があります。届出書の控えと契約書は、相続の時まで確実に保管しておきます。
    • 「遅滞なく」を意識する:建物の新築や移転のタイミングで、地代・届出の方針を決めておくことが前提です。後から整理しようとすると、すでに借地権の移転があったと見られるおそれがあります。
    • 地代を変えたら評価も変わる:無償返還の届出をした後に地代を無しにする(または有りにする)と、土地の評価が80%と100%の間で変わります。地代の変更は、意思決定として記録を残しておきます。
    • 相当の地代は地価の動きを追う:相当の地代を選んだ場合、改訂方法の選択と、実際の改訂の運用がずれていないかを定期的に確認します。
    • 建物を移す場面とあわせて考える:個人の建物を会社に移す場合は、移転時の譲渡所得や登録免許税なども生じます。移転全体の比較は関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

    AEGISの視点

    無償返還の届出や相当の地代は、税務の手続として語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、これを「土地は個人、建物と事業は会社」という所有の分担を、将来にわたってどう固定するかの意思表示だと考えています。

    届出をして地代を受け取る形にすれば、土地は個人の財産として残りつつ、会社の株式にも一定の価値が乗ります。地代を受け取らない形にすれば、土地の評価は下がりませんが、会社と個人の間で毎年の資金の流れが生じません。どちらが正しいということはなく、土地を相続する人と、会社の株式を引き継ぐ人が同じか別か、会社が将来その土地を買い取る可能性があるかによって、望ましい形は変わります。

    また、所有と運営を分ける設計を土地活用の段階から考える場合は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」も参考になります。資産管理会社を持つかどうか自体の判断は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    土地の貸し借りに関わる評価や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人の土地に会社が建物を持つと、税務上は会社が土地を借りている関係になり、権利金を授受しなければ会社に借地権の認定課税が生じるおそれがあります。
    • 認定課税を避ける主な方法は、相当の地代(自用地価額のおおむね年6%)の支払いと、土地の無償返還に関する届出です。届出は土地所有者が個人でも提出できます。
    • 相当の地代や、届出+地代ありの場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価され、地主(被相続人)が同族関係者となっている同族会社の株式評価では、20%相当額が純資産価額に算入されます。
    • 届出をしても地代なし(使用貸借)であれば、土地は自用地価額で評価されます。
    • どの形を選ぶかは、税負担だけでなく、土地と株式をそれぞれ誰が引き継ぐかとあわせて判断することが重要です。具体的な取扱いは個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 土地の無償返還に関する届出は、いつまでに出せばよいですか?

    国税庁の案内では、土地を無償で返還することが定められた後「遅滞なく」提出することとされています。明確な日数の定めはありませんが、建物の新築や会社への移転と同じタイミングで契約書を整え、速やかに提出するのが基本です。

    Q. 土地の持ち主が個人でも、届出は出せますか?

    出せます。国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出できるとしています。土地所有者と借地人(会社)の連名で提出します。

    Q. 相当の地代を払うのと、無償返還の届出をするのとでは、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。相続時の土地の評価(80%)や株式評価への算入(20%)は、両者で同じ扱いになる場面が多い一方、相当の地代は地代が高く、会社の収支や個人の所得に与える影響が大きくなります。地代の水準を柔軟に決めたい場合は届出を選ぶことが多いですが、個人と会社の所得、将来の承継の形とあわせて比較することが大切です。

    Q. 届出を出して地代をゼロにすると、相続税評価はどうなりますか?

    地代を受け取らない使用貸借の場合、無償返還の届出が出ていても、土地は自用地としての価額で評価されます。貸宅地としての80%評価にはなりません。

    Q. すでに届出なしで会社が建物を持っている場合はどうすればよいですか?

    建てた時期、権利金や地代の授受の状況、契約内容によって、借地権が誰に帰属しているかの判断が変わります。過去の経緯を契約書や申告書で確認したうえで、現状をどう整理するかを専門家と検討することをおすすめします。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.5-34、P.115-150
    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、一般財団法人大蔵財務協会、2024年、P.367
  • グループ法人税制と資産管理会社|オーナーが支配する会社どうしで資産を売買するとき、税金の計算はどう変わるか

    グループ法人税制と資産管理会社|オーナーが支配する会社どうしで資産を売買するとき、税金の計算はどう変わるか

    グループ法人税制とは、100%の資本関係(完全支配関係)にある会社どうしの取引について、取引の時点では課税関係を生じさせないようにする一連の仕組みです。平成22年度の税制改正で導入されました。

    オーナーが資産管理会社と事業会社の両方を100%持っている場合、その2社の間で土地や建物を売買すると、売り手の会社の譲渡益(または譲渡損)は、その年度の所得から除かれて繰り延べられます。ここまでは比較的知られていますが、注意が必要なのは次の2点です。

    • 繰り延べられた損益は、いずれ売り手の会社に戻ってくること
    • 個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしでは、寄附金・受贈益の特例は使えないこと

    この記事では、グループ法人税制のうち、オーナー企業で特に問題になりやすい「資産の売買」と「寄附(無償・低額の取引)」を中心に、資産管理会社と事業会社の関係に当てはめて整理します。

    完全支配関係:個人オーナーと親族を含めて判定する

    グループ法人税制の対象になるのは、完全支配関係がある会社どうしの取引です。完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。

    オーナー企業で重要なのは、次の3点です。

    1. 一の者が個人の場合も含まれる:オーナー個人が資産管理会社と事業会社の株式をそれぞれ100%持っていれば、2社は「同一の者による完全支配関係」にある兄弟会社です。
    2. 親族の持分を合算する:一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します(法人税法施行令4条の2第2項)。オーナーと配偶者・子で100%を持っている場合も、完全支配関係になり得ます。
    3. 一定の従業員持株会などは除いて判定する:従業員持株会などが持つ株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります。

    つまり、「グループ」という意識がなくても、家族で株式を持つ会社が複数あれば、知らないうちに完全支配関係にあることがあります。

    資産を売買したとき:譲渡損益の繰延べ

    どの資産が対象になるか

    完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)の間で「譲渡損益調整資産」を譲渡した場合、売り手の会社では、その譲渡利益額または譲渡損失額に相当する金額を所得から除き、繰り延べます(法人税法61条の11第1項)。

    譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含む)、有価証券、金銭債権、繰延資産です。ただし、売買目的有価証券や、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産などは除かれます(法人税法施行令122条の12第1項)。棚卸資産(土地を除く)は対象外です。

    取引は「時価」で行う

    繰延べの対象になるのは、時価で売買したことを前提に計算される譲渡損益です。売買価格そのものは、通常の取引と同じく時価で決める必要があります。買い手の会社は、支払った代金(時価)で資産を受け入れ、減価償却などもその価額を基に行います。

    いつ、どちらに戻ってくるか

    繰り延べた損益は、次のような事由が生じたときに、売り手の会社の所得に戻し入れられます(法人税法61条の11第2項・第3項)。

    • 買い手の会社が、その資産を譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却したとき
    • 売り手と買い手の間の完全支配関係がなくなったとき

    たとえば、事業会社が資産管理会社に建物を売却した場合、資産管理会社がその建物を減価償却するたびに、事業会社側で繰り延べた譲渡益の一部が戻ってきます。また、将来どちらかの会社を第三者に売却したり、株主構成を変えて100%の関係が崩れたりすると、その時点で残りの繰延べ額がまとめて実現します。

    場面売り手の会社(例:事業会社)買い手の会社(例:資産管理会社)
    売買の時点譲渡益(損)を計上し、申告上で同額を減算(加算)して繰り延べる時価で取得。代金の支払い(資金の手当て)が必要
    保有中買い手の減価償却に応じて、繰延べ額の一部を戻し入れ時価を基に減価償却
    外部への売却時残りの繰延べ額を戻し入れ時価との差額で譲渡損益を計上
    100%関係がなくなったとき残りの繰延べ額を一括で戻し入れ―

    「売っても税金がかからない」のではなく、「税金の発生時期が後ろにずれ、その間は売り手の会社に繰延べ額が残る」と理解しておくことが大切です。

    寄附・低額取引:兄弟会社では特例が使えない

    法人による完全支配関係に限られる特例

    時価より低い価額で資産を譲ったり、無償で資金を融通したりすると、税務上は差額が寄附金(出し手)と受贈益(受け手)として扱われるのが原則です。グループ法人税制では、完全支配関係がある会社間の寄附について、出し手で寄附金を損金不算入、受け手で受贈益を益金不算入とする特例があります(法人税法37条2項、25条の2第1項)。

    ただし、この特例は「法人による完全支配関係」に限られています。親会社と100%子会社、あるいは同じ親会社の下にある子会社どうしは対象ですが、オーナー個人が直接100%を持つ兄弟会社どうしは対象外です。なお、個人が親会社を通じて間接に持つ子会社どうしの寄附には特例が適用されることが、法人税基本通達9-4-2の5で確認されています。

    兄弟会社で寄附が生じると

    オーナー個人が直接持つ資産管理会社と事業会社の間で、時価より低い価額の売買や無償の取引をした場合、出し手の会社では寄附金の損金算入限度額を超える部分が損金にならず、受け手の会社では受贈益が益金に算入されるのが原則です。両社で課税が生じ得るうえ、株式の価値が一方から他方へ移ることで、株主である家族の間の財産の移転として別の論点が生じることもあります。

    株主構成譲渡損益の繰延べ(61条の11)寄附金・受贈益の特例(37条2項・25条の2)
    親会社と100%子会社対象対象
    同じ親会社の下の100%子会社どうし対象対象
    オーナー個人(と親族)が直接100%を持つ兄弟会社どうし対象対象外
    持株比率が100%未満の関係会社どうし対象外対象外

    資産管理会社と事業会社でよくある場面

    • 事業会社の本社土地を資産管理会社へ移す:譲渡益は繰り延べられますが、資産管理会社には時価での買取資金が必要です。借入れで賄う場合は、事業会社から受け取る賃料で返済できるかを確認します。資金の流れの整理は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で解説しています。

    • 含み損のある資産をグループ内で売って損を出したい:完全支配関係がある会社へ売っても譲渡損は繰り延べられるため、損失を実現させる手段にはなりません。

    • 管理料・賃料を決める:グループ内の賃料や管理料が時価から離れると、寄附金の問題になり得ます。兄弟会社では特例が使えないため、特に根拠のある金額設定が必要です。管理料の考え方は「資産管理会社に管理を任せるときの管理料」も参考になります。

    • 個人の不動産を会社へ移す:個人と法人の間の取引にはグループ法人税制は適用されません。個人から法人への移転の比較は「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 株主名簿で完全支配関係を確認する:親族の持分の合算や、名義株の有無で判定が変わります。
    • 繰延べ額を管理し続ける:繰り延べた譲渡損益は申告書の別表で管理し、買い手の償却や売却に応じて戻し入れます。担当者が替わっても追えるように記録を残します。
    • 将来の株主構成の変更に注意する:後継者への株式の移転や一部の株式の売却で100%関係が崩れると、繰延べ額が一括で実現します。承継計画と合わせて確認します。
    • 時価の根拠を残す:グループ内の売買でも時価が前提です。不動産鑑定評価などの根拠資料を残しておくことが望まれます。
    • 自社株の評価への影響:グループ内の売買や寄附によって各社の資産と利益が変わり、株価にも影響します。なお、完全支配関係にある親子会社間の寄附に伴う税務調整で親会社の利益積立金額が増減する場合でも、類似業種比準方式の「1株当たりの純資産価額」の計算上、基本的には法人税法の処理どおりに扱い、調整の必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。

    AEGISの視点

    グループ法人税制は、「グループ内で資産を動かしても課税しない」制度と説明されることがあります。しかしAEGISは、オーナー企業にとってこの制度の本質は「課税のタイミングと場所を、グループの株主構成に結び付ける仕組み」だと考えています。

    繰り延べた損益は、100%の関係が続く限り表に出ませんが、承継やM&Aで株主構成を変えた瞬間に戻ってきます。つまり、今日のグループ内取引は、将来の承継やM&Aの選択肢に影響を与えます。また、兄弟会社の寄附のように、制度が適用されない領域では、思わぬ課税が生じることもあります。

    資産管理会社と事業会社の間で資産を動かすときは、「誰がその資産を持ち、どの会社に将来の課税を残すのか」「その会社の株式を誰が承継するのか」を、取引の前に一枚の図で確かめておくことが大切です。グループ内で資産を移す別の方法として、現物分配の考え方は関連記事「現物分配で子会社の資産を親会社へ移す」で解説しています。

    グループ会社間の取引と資産税務・承継の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • グループ法人税制は、完全支配関係にある会社どうしの取引について、その時点の課税を生じさせないようにする仕組みです。
    • 完全支配関係は、オーナー個人が一の者である場合も含み、親族の持分を合算して判定します。
    • 土地・固定資産・有価証券などの譲渡損益調整資産を売買すると、売り手で譲渡損益が繰り延べられ、買い手の償却・売却や100%関係の解消時に売り手へ戻ります。
    • 寄附金・受贈益の特例は「法人による完全支配関係」に限られ、個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしには使えません。
    • 個別の取引の課税関係は、株主構成と取引条件によって異なるため、事前の確認が大切です。

    よくある質問

    Q. 自分(個人)が100%持つ2つの会社の間で土地を売買すると、譲渡益は繰り延べられますか?

    2社がオーナー個人による完全支配関係にあり、土地が譲渡損益調整資産に当たれば、売り手の会社で譲渡益は繰り延べられます。ただし、時価での売買が前提であり、買い手の会社には代金の支払いが必要です。

    Q. グループ内で含み損のある土地を売れば、損失を計上できますか?

    完全支配関係がある会社への売却では、譲渡損も繰り延べられるため、その時点で損失を計上することはできません。買い手の会社がその土地を外部に売却したときなどに、売り手の会社で損失が実現します。

    Q. 兄弟会社の間で、資金を無利息で貸すと問題になりますか?

    個人オーナーが直接持つ兄弟会社の間では、寄附金・受贈益の特例が使えません。無利息であることに合理的な理由がない場合、利息相当額が寄附金や受贈益として扱われる可能性があります。貸付の条件と根拠を整理しておくことが大切です。

    Q. 繰り延べた譲渡益は、いつまで繰り延べられますか?

    期限はありませんが、買い手の会社がその資産を償却・譲渡・除却したときや、両社の完全支配関係がなくなったときに、売り手の会社で戻し入れます。償却資産であれば、償却に応じて少しずつ戻ってきます。

    Q. 帳簿価額が1,000万円未満の資産を売った場合はどうなりますか?

    譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産は、譲渡損益調整資産から除かれているため、繰延べの対象になりません。売却した会社で通常どおり譲渡損益を計上します。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社、2023年、第13章(P.821-838)
    • 『令和7年版 図解組織再編税制』中村慈美 著、大蔵財務協会、2025年、第8章(P.501-518)

  • 評価を下げる対策が否認されるとき|総則6項・同族会社等の行為計算の否認の判断枠組みと、意思決定の記録の残し方

    評価を下げる対策が否認されるとき|総則6項・同族会社等の行為計算の否認の判断枠組みと、意思決定の記録の残し方

    不動産や会社を使って相続税評価を下げる対策は、通達どおりに評価していれば原則として認められますが、「通達どおりの評価を認めると、他の納税者との間で実質的な租税負担の公平に反する」といえる事情があると、通達によらない評価で課税されることがあります。これが、財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)の問題です。

    また、同族会社を使った取引については、税負担を不当に減らす行為や計算を否認する規定もあります。さらに、通達そのものにも、取得から間もない不動産を時価で評価するといった個別のルールが置かれています。

    この記事では、否認の判断枠組みを整理したうえで、対策を検討するオーナーが「否認されにくい意思決定」をするために、何を考え、何を記録しておくべきかを解説します。

    相続税の評価と「通達」の関係

    相続税法は、相続などで取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています(相続税法22条)。国税庁は、この時価を画一的に算定するための方法を財産評価基本通達で定め、実務ではこの通達に従って評価が行われています。

    不動産の場合、通達による評価額(路線価・固定資産税評価額などを基にした額)は、市場で取引される価格より低くなることが少なくありません。とくに賃貸用の不動産では、借家権や借地権の割合を差し引くため、その差が大きくなります。この差を利用して、借入れで不動産を取得し、相続税の課税価格を圧縮する対策が広く行われてきました。

    一方、通達には次の定めがあります。

    この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。(財産評価基本通達6)

    この「著しく不適当」に当たるかどうかが争われてきたのが、総則6項の問題です。

    最高裁令和4年4月19日判決が示した枠組み

    この問題について、最高裁判所は令和4年4月19日の判決で、次のような考え方を示しました。

    1. 相続税法22条の時価とは、財産の客観的な交換価値をいう。 通達は行政内部の指示にすぎず、国民に対して直接の法的効力を持つものではない。課税価格が客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、通達による評価額を上回る価額で課税しても、それだけで同条に違反するわけではない。
    2. ただし、平等原則がある。 課税庁が通達に従って画一的に評価していることは公知の事実であるから、特定の人についてだけ通達評価額を上回る価額で課税することは、合理的な理由がない限り平等原則に反して違法となる。
    3. 合理的な理由があるといえるのは、通達による画一的な評価を行うことが、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合である。
    4. 通達評価額と鑑定評価額との間に大きな乖離があるというだけでは、その事情があるとはいえない。 その事案では、通達どおりに評価すると相続税がゼロになるほど負担が軽減されることに加え、被相続人と相続人が、不動産の取得とそのための借入れによって相続税の負担が軽くなることを知り、それを期待して行っていたことなどから、その事情があると判断された。

    つまり、否認の判断では、「評価額の乖離」だけでなく、「その取引が何のために行われたか」「税負担がどの程度減ったか」が重視されたといえます。

    否認の根拠は一つではない

    評価を下げる対策が否認される場面は、総則6項だけではありません。主な根拠を整理すると次のようになります。

    根拠何を問題にするか典型的な場面判断のポイント
    財産評価基本通達6(総則6項)通達どおりの評価そのもの相続直前の借入れによる賃貸不動産の取得など実質的な租税負担の公平に反する事情(税負担の軽減の程度、取引の目的・時期など)
    相続税法64条(同族会社等の行為計算の否認)同族会社の行為・計算相続直前の会社間の債権放棄、不自然な資産の移動など株主等の相続税・贈与税の負担を「不当に減少」させる結果となるか(経済的な合理性)
    通達の個別ルール特定の財産の評価方法会社が3年以内に取得した土地・建物、特定の評価会社など定められた要件に当てはまるか

    ※AEGISが法令・通達・判決をもとに整理したものです。

    同族会社等の行為計算の否認

    相続税法64条1項は、同族会社などの行為や計算で、それを認めると株主やその親族などの相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果となるものについて、税務署長がその行為・計算にかかわらず課税価格を計算できると定めています。法人税にも同様の規定があります(法人税法132条)。

    「不当に減少」に当たるかどうかは、その行為が経済的に合理的か、事業上の目的があるかといった観点で判断されると考えられています。資産管理会社や事業会社を使った対策では、会社の事業として説明できる取引か、それともオーナーの相続税を減らすためだけの取引かが問われます。

    通達に組み込まれた個別ルール

    通達自体にも、評価の乖離を利用した対策に対応するルールがあります。

    • 会社が取得して3年以内の土地・建物:取引相場のない株式を純資産価額で評価する場合、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地等や家屋等は、通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185)。資産管理会社に不動産を買わせても、3年以内であれば株価の計算上は評価が下がらないことになります。
    • 特定の評価会社:資産に占める土地や株式の割合が高い会社は、株価の評価方法が限定されます。
    • 貸付用不動産の評価の見直し(通達案):国税庁は、課税時期前5年以内に購入・新築した貸付用不動産や、小口化商品の対象となっている貸付用不動産を、通常の取引価額に相当する金額で評価する通達の案を公表しています。取得価額が適正な場合は、取得価額を基に計算した額の80%で評価する方法も示されています。案では令和9年1月1日以後の相続等から適用するとされていますが、最終的な通達はまだ定められていません(2026年10月9日時点)。

    否認されやすい対策・されにくい対策

    総則6項の判断は個別の事情によるため、確定的な線引きはできません。ただ、判決の考え方を踏まえると、次のような要素が重なるほど、否認のリスクは高まると考えられます。

    • 相続開始が近い時期(高齢・病気の時期)に行われた
    • 取得資金のほとんどを借入れでまかなっている
    • 取得の目的が、相続税の軽減以外に説明しにくい
    • 通達評価によって相続税が大幅に減る、またはゼロになる
    • 相続後すぐに売却するなど、保有の実態が乏しい

    反対に、事業や資産運用として合理的な目的があり、相続の時期と関係なく計画的に行われ、取得後も継続して保有・運営されている取引は、通達どおりの評価が認められやすいと考えられます。判決自体も、乖離があるだけでは総則6項を適用できないとしています。

    意思決定の記録をどう残すか

    否認されにくくするために大切なのは、取引を「後から説明する」のではなく、「意思決定の時点で、税務以外の理由を記録しておく」ことです。AEGISが重視している記録は次のとおりです。

    記録すること内容の例
    目的収益の確保、事業用地の確保、資産の組換え、家族の生活基盤など
    検討の経緯比較した選択肢、取得しない場合の資産の使い道
    収支・資金計画賃料・経費・返済の見通し、借入れの条件と返済原資
    保有方針何年保有し、誰が運営・管理し、誰に承継するか
    価格の妥当性取得価格の根拠、必要に応じた鑑定・査定
    会社の意思決定取締役会・株主総会の議事録、会社の事業計画との関係

    ※AEGISが作成したチェック項目です。記録があれば否認されないというものではありません。

    ただし、記録はあくまで実態を示すものです。実態のない目的を書き残しても意味はなく、むしろ説明との食い違いが問題になります。

    AEGISの視点

    評価を下げる対策は、オーナーにとって魅力的に見えます。しかしAEGISは、「評価がいくら下がるか」から出発する対策は、最も否認のリスクが高いと考えています。最高裁が問題にしたのは評価の差そのものではなく、「相続税の負担を減らすこと」を目的として取引が組み立てられていた点だからです。

    資産管理会社を設立する、不動産を取得する、借入れをする。これらは本来、収益・管理・承継のための意思決定です。その結果として評価が下がることはあっても、評価を下げることが目的になってしまうと、事業としての合理性が説明できなくなります。

    また、仮に否認されれば、追加の相続税に加えて加算税・延滞税の負担が生じ、家族が長い争いに巻き込まれることもあります。すでに申告を終えた方も、対策の内容と記録を見直し、税務調査で説明できる状態にあるかを確認しておく価値があります。

    資産管理会社の設立を検討する時期と比較の軸は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、通達の見直しの内容は「貸付用不動産の相続税評価の見直しとは」で解説しています。

    土地活用を評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」、調査で問われやすい点は「相続税の税務調査で指摘されやすい点」もあわせてご覧ください。

    資産税務・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 相続税の評価は通達に従うのが原則ですが、通達どおりの評価が「実質的な租税負担の公平に反する」事情がある場合は、通達によらない評価で課税されることがあります(総則6項)。
    • 最高裁令和4年4月19日判決は、評価額の乖離だけでは足りず、税負担の軽減の程度や、取引が相続税の軽減を期待して行われたことなどを踏まえて判断しました。
    • 同族会社を使った不自然な取引は、相続税法64条の行為計算の否認の対象になり得ます。
    • 会社が3年以内に取得した不動産の評価など、通達の個別ルールにも注意が必要です。貸付用不動産の評価見直しは通達案の段階です。なお通達案では、取引相場のない株式を純資産価額で評価する際の会社保有の土地・建物には、この見直しを適用しないとされています。
    • 否認されにくくするには、意思決定の時点で税務以外の目的・収支・保有方針を記録し、その実態を伴わせることが重要です。

    よくある質問

    Q. 借入れで賃貸マンションを買う対策は、もうできないのですか?

    借入れで不動産を取得すること自体が否認されるわけではありません。判決も、評価額の乖離だけでは総則6項を適用できないとしています。ただし、相続直前の取得、税負担の大幅な軽減、相続税の軽減以外に目的が説明しにくいといった事情が重なると、否認のリスクが高まります。今後は貸付用不動産の評価見直し(通達案)の動向にも注意が必要です。

    Q. 総則6項は、納税者が評価を下げるためにも使えますか?

    総則6項は「通達どおりの評価が著しく不適当な場合」の定めで、通達による評価額が時価を大きく上回る土地などでは、不動産鑑定評価などにより時価で申告することが検討されることもあります。ただし、時価の立証には根拠が求められ、認められない例も多いため、鑑定の費用や説明の根拠を慎重に検討する必要があります。

    Q. 資産管理会社を使えば、総則6項の心配はなくなりますか?

    なくなりません。会社が取得した不動産でも、3年以内であれば株価の計算上は通常の取引価額で評価されますし、会社の株式の評価自体に総則6項が問題になることもあります。また、同族会社の行為や計算が株主の相続税を不当に減らすものと認められれば、相続税法64条による否認の対象にもなり得ます。

    Q. すでに申告が終わっている場合、何を確認すればよいですか?

    申告した評価の前提となった取引の目的・時期・資金の流れと、それを説明する資料が残っているかを確認しておくとよいでしょう。税務調査では、取引の経緯について説明を求められることがあります。評価や特例に誤りが見つかった場合は、修正申告や更正の請求の要否を検討することになります。

    Q. 否認された場合、どのくらいの負担になりますか?

    通達によらない価額で課税価格が計算し直され、本来の相続税との差額に加え、過少申告加算税や延滞税がかかる可能性があります。負担の大きさは事案によって異なりますが、対策による軽減額より大きな負担になることもあるため、対策の段階でリスクを見積もっておくことが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用した制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.143-147(最高裁令和4年4月19日判決の解説)
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会、第4章(社団・財団・信託と税務否認)、P.310-334
    • 『相続税・贈与税 土地評価実務テキスト』鎌倉靖二 著、税務研究会出版局、Ⅴ(財産評価基本通達に従った評価額が時価よりも高くなる場合とその対処法)、P.239-243
  • 生前贈与と相続をどう使い分けるか|暦年課税・相続時精算課税・相続を財産ごとに選ぶ考え方

    生前贈与と相続をどう使い分けるか|暦年課税・相続時精算課税・相続を財産ごとに選ぶ考え方

    「毎年110万円ずつ子どもに贈与しておけば相続税対策になる」——長く語られてきたこの考え方は、令和5年度の税制改正によって前提が変わりつつあります。相続前の贈与を相続財産に加え戻す期間が3年から7年へと段階的に延び、もう一つの贈与の方式である相続時精算課税には、年110万円の基礎控除が新しく設けられました。

    結論から言えば、生前贈与と相続の使い分けは「どちらが得か」ではなく、「どの財産を、いつ、誰に、どの方式で移すか」を財産ごとに決める作業です。この記事では、3つのルート(暦年課税による贈与、相続時精算課税による贈与、相続)の違いを一次情報で確認したうえで、財産の性質に応じた選び方を整理します。

    財産を移す3つのルート

    次世代に財産を移す方法は、税金の面から見ると次の3つに分かれます。

    1. 暦年課税による贈与:1年ごとに、もらった財産の合計から基礎控除を差し引いて贈与税を計算する方式。特に手続きをしなければ、贈与はこの方式になります。
    2. 相続時精算課税による贈与:贈与時には軽い税負担で財産を移し、贈与者が亡くなったときに、贈与財産を相続財産に加えて相続税で精算する方式。受贈者が届出をして選択します。
    3. 相続(遺言による遺贈を含む):亡くなったときに財産が移り、相続税がかかる方式。

    この3つは、どれか一つを選ぶものではありません。贈与者ごと、受贈者ごと、財産ごとに組み合わせることができます。

    暦年課税のしくみと令和5年度改正のポイント

    基本のしくみ

    暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた残りに贈与税がかかります。税率は累進で、直系尊属(父母・祖父母など)からその年の1月1日に18歳以上の人への贈与には「特例税率」、それ以外には「一般税率」が適用されます。最高税率の55%は、特例税率では課税価格4,500万円超、一般税率では3,000万円超の部分にかかります(国税庁 No.4408)。

    生前贈与加算の期間が7年に延びる

    暦年課税で贈与した財産でも、贈与者が亡くなる前の一定期間内のものは、相続税の計算で相続財産に加え戻されます(生前贈与加算)。加算の対象になるのは、相続や遺贈、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が受けた贈与です。加算される金額は贈与時の価額で、基礎控除110万円以下の贈与も対象になります。すでに払った贈与税は相続税から差し引かれます(国税庁 No.4161)。

    令和5年度の税制改正により、この加算期間は次のように段階的に延びます(国税庁 No.4161、令和8年4月1日現在法令等)。

    相続が開始する時期加算の対象となる贈与の期間
    令和8年(2026年)12月31日まで相続開始前3年以内
    令和9年(2027年)1月1日〜令和12年(2030年)12月31日令和6年(2024年)1月1日から死亡の日まで
    令和13年(2031年)1月1日以後相続開始前7年以内

    さらに、令和9年以後に相続が開始する場合、延長された期間(相続開始前3年以内より前)に受けた贈与については、その合計額から総額100万円までは加算しないこととされています。

    つまり、令和6年1月1日以後の暦年課税による贈与は、贈与者がその後7年以内に亡くなれば、相続財産に加え戻される可能性があるということです。「毎年110万円の非課税贈与」は、長い時間をかけて行うほど効果が出る方法に変わったと言えます。

    なお、贈与税の配偶者控除の対象部分や、直系尊属からの住宅取得等資金・教育資金・結婚子育て資金の非課税特例の適用を受けた金額は、加算の対象から除かれています(国税庁 No.4161)。ただし、教育資金の一括贈与の非課税は令和8年3月31日まで、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税は令和9年3月31日までに信託等をした場合が対象とされています(租税特別措置法70条の2の2・70条の2の3)。

    加算の対象にならない人がいる

    生前贈与加算は、相続や遺贈などで財産を取得した人が対象です。たとえば、祖父母から孫への贈与で、孫が祖父母の相続で財産を取得しない場合は、原則として加算の対象になりません。ただし、遺言で孫に財産を遺贈したり、孫を死亡保険金の受取人にしたりすると、加算の対象になり得ます。また、代襲相続人でない孫などが相続や遺贈で財産を取得すると、相続税額が2割加算されます(国税庁 No.4157)。

    相続時精算課税のしくみと令和5年度改正のポイント

    基本のしくみ

    相続時精算課税は、次のような仕組みです(国税庁 No.4103、令和8年4月1日現在法令等)。

    • 対象者:贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母・祖父母など、受贈者はその年の1月1日において18歳以上の、贈与者の直系卑属(子・孫など)。
    • 手続き:贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、「相続時精算課税選択届出書」を提出します。
    • 贈与税の計算:1年間の贈与額から、基礎控除110万円を差し引き、さらに特別控除(累計で2,500万円まで)を差し引いた残額に、一律20%の税率をかけます。
    • 相続時の精算:贈与者が亡くなったとき、贈与財産を贈与時の価額で相続財産に加え、相続税を計算します。払った贈与税は相続税から差し引かれ、引ききれない分は還付を受けられます。
    • 取りやめ不可:一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税に戻すことはできません。

    令和6年1月1日以後の基礎控除110万円

    令和5年度改正の大きな変更点は、令和6年1月1日以後の贈与について、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられたことです。そして、相続時に加算されるのは、基礎控除を差し引いた後の金額です。暦年課税の110万円が加算期間内であれば相続財産に戻るのとは、この点が大きく異なります。

    なお、同じ年に2人以上の特定贈与者(相続時精算課税を選んだ贈与者)から贈与を受けた場合、基礎控除110万円はそれぞれの贈与額に応じて按分します(国税庁 No.4103)。

    また、同じ改正で、相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が災害で一定以上の被害を受けた場合に、相続時に加算する価額から被害相当額を差し引ける特例も設けられています。令和6年1月1日以後に被害を受けた場合が対象で、原則として災害が発生した日から3年を経過する日までに承認申請書を提出し、税務署長の承認を受ける必要があります(租税特別措置法70条の3の3、国税庁 No.8006)。

    精算課税で注意したいこと

    • 価額は贈与時で固定される:将来値上がりする財産なら有利に働く一方、値下がりしても贈与時の価額で相続税が計算されます。
    • 小規模宅地等の特例が使えない:相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には、相続時に小規模宅地等の特例を適用できません(国税庁 No.4124)。自宅や事業用の土地を精算課税で贈与すると、相続で取得した場合よりも評価が高くなることがあります。
    • 相続財産から切り離す効果はない:基礎控除部分を除き、贈与した財産は最終的に相続税の計算に含まれます。

    3つのルートの比較

    項目暦年課税の贈与相続時精算課税の贈与相続
    年間の非課税枠基礎控除110万円(受贈者ごと)基礎控除110万円(令和6年以後)+特別控除2,500万円(累計)—
    税率累進(最高55%)一律20%相続税の累進税率
    相続時の扱い加算期間内の贈与は加算(110万円以下も含む)基礎控除後の金額をすべて加算—
    加算・課税される価額贈与時の価額贈与時の価額相続時の価額
    対象者の制限なし60歳以上→18歳以上の直系卑属—
    小規模宅地等の特例—贈与した宅地等には適用不可要件を満たせば適用可
    選択の取りやめ—不可—

    財産の性質ごとの考え方

    3つのルートの違いを踏まえると、財産の性質によって向き不向きが見えてきます。以下は一般的な考え方であり、実際の判断は全体の配分や税額の試算によって変わります。

    • 将来の値上がりが見込まれる財産(成長している会社の株式など):贈与時の価額で固定できる相続時精算課税が検討対象になります。ただし、会社の業績が下がった場合にも価額は戻らない点に注意が必要です。
    • 自社株式:税額だけでなく、誰に議決権を集めるかが最優先です。後継者に段階的に移すのか、まとめて移すのか、法人版事業承継税制の利用を検討するのかによって、選ぶ方式が変わります。
    • 自宅や事業用の土地:相続時に小規模宅地等の特例を使える可能性がある場合は、贈与より相続で移すほうが有利になることがあります。
    • 収益を生む不動産:贈与後の賃料収入は受贈者のものになるため、贈与者の財産の増加を抑え、受贈者の納税資金づくりにつながる面があります。一方、建物だけを贈与するか土地も含めるか、管理を誰が担うかなど、検討事項は多くなります。
    • 現預金:分割しやすく、暦年課税で長期・少額に分けて移すのに向いています。加算期間の延長を踏まえ、早めに始めることが前提になります。

    実務上注意したいポイント

    贈与は「あげた」「もらった」の実態が必要

    贈与は、あげる人ともらう人の合意によって成り立ちます。親が子の名義で預金をしていても、子がその存在を知らず、通帳や印鑑も親が管理しているような場合は、贈与があったと認められず、親の相続財産として扱われることがあります。贈与契約書の作成や、受贈者自身による管理など、贈与の実態を残しておくことが大切です。

    家族間の公平と遺留分

    特定の子に多くの贈与をすると、他の相続人との公平が問題になることがあります。民法には遺留分の制度があり、一定の生前贈与は遺留分の計算に含まれます。相続人に対する贈与は原則として相続開始前10年間のもの(婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与に限る)、相続人以外の人への贈与は原則として相続開始前1年間のものが対象で、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は、それより前のものも含まれます(民法1044条)。税金の面だけでなく、家族全体の配分の中で贈与を位置付ける必要があります。

    方式の選択は受贈者ごと・贈与者ごと

    相続時精算課税は、受贈者が贈与者ごとに選択します。たとえば「父からは相続時精算課税、祖父母からは暦年課税」といった組み合わせも可能です。一方で、一度選ぶと取りやめられないため、将来の贈与計画全体を見通してから選ぶことが重要です。

    AEGISの視点

    生前贈与の議論は、「年110万円」「税率20%」といった数字から始まりがちです。しかしAEGISは、贈与を「財産の持ち主が変わることで、管理・収益・意思決定の担い手が変わる行為」と捉えています。

    たとえば収益不動産を子に贈与すれば、税負担が変わるだけでなく、修繕や入居者対応を誰が判断するのか、賃料収入を誰がどう使うのかも変わります。自社株式を贈与すれば、株主総会で誰が議決権を行使するのかが変わります。贈与の方式を選ぶ前に、「この財産は、誰が持ち、誰が管理するのが望ましいか」を決めておくことで、税制改正があっても揺らがない承継計画になります。

    令和5年度改正は、短期間の駆け込み的な贈与の効果を小さくし、長い時間軸での計画を求める方向の改正だと言えます。相続・事業承継の全体像は親記事(相続対策と事業承継を一体で考える)で、財産の組み合わせ方は関連記事(自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継)で解説しています。

    贈与の方式を比べる前提として、現時点の相続税の規模感をつかんでおくことも重要です(関連記事:相続税の概算に必要な情報)。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 生前贈与と相続の使い分けは、財産ごとに「いつ、誰に、どの方式で」を決める作業です。
    • 暦年課税の生前贈与加算は、令和9年1月以降段階的に延び、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内の贈与が対象になります(延長部分は総額100万円まで加算しない措置あり)。
    • 相続時精算課税には令和6年1月1日以後、年110万円の基礎控除が設けられ、基礎控除部分は相続財産に加算されません。
    • 精算課税は贈与時の価額で固定され、贈与した宅地等には小規模宅地等の特例が使えないなど、財産によって向き不向きがあります。
    • 具体的な選択は、財産の構成や家族の状況などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 今から暦年課税で贈与を始めても意味はありますか?

    意味はあります。ただし、令和6年1月1日以後の贈与は、贈与者がその後7年以内(経過措置期間中は異なります)に亡くなると相続財産に加え戻される可能性があります。効果を得るには、長い期間をかけて計画的に行うこと、また受贈者が相続や遺贈で財産を取得するかどうかも含めて検討することが必要です。

    Q. 相続時精算課税の基礎控除110万円だけを使うことはできますか?

    できます。相続時精算課税を選択した後は、年110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、その部分は相続時にも加算されません。ただし、一度選択するとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せないため、将来大きな贈与をする可能性も含めて判断する必要があります。

    Q. 暦年課税と相続時精算課税は、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。贈与者の年齢や健康状態、財産の種類と将来の値動き、受贈者が相続で財産を取得するかどうか、小規模宅地等の特例の適用可能性などによって結論が変わります。財産ごと・贈与者ごとに比較することが大切です。

    Q. 孫への贈与は相続対策として有効ですか?

    孫が祖父母の相続で財産を取得しなければ、暦年課税による贈与は原則として生前贈与加算の対象になりません。ただし、遺言で孫に遺贈したり、死亡保険金の受取人を孫にしたりすると加算の対象になり得るほか、相続税額の2割加算の対象になる場合もあります。

    Q. 自社株式は贈与と相続のどちらで渡すべきですか?

    税額だけで決めず、後継者がいつ、どの程度の議決権を持つべきかから逆算することをおすすめします。株価の見通し、後継者の準備状況、他の家族への配分、法人版事業承継税制の利用の可否などを合わせて検討します。

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  • 自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継|財産の「性質」から役割を決める設計の考え方

    自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継|財産の「性質」から役割を決める設計の考え方

    事業オーナーの財産は、多くの場合、自社株式・不動産・金融資産の3つで構成されています。承継の相談では「株式は後継者に」「不動産は長男に」「預金は均等に」というように、財産の種類ごとに行き先を決めていく方法がよく見られます。

    しかし、財産の種類ごとに個別に決めていくと、全体として「納税資金が足りない」「後継者以外の家族に渡すものがない」「共有になった不動産が動かせない」といった問題が後から見つかることがあります。

    結論から言えば、組み合わせの設計は財産の種類ではなく「性質」から出発し、それぞれの財産に「経営を続ける」「家族に分ける」「税金を納める」のどの役割を担わせるかを決めることが出発点です。この記事では、その考え方と設計の手順を整理します。

    3つの財産は、性質がまったく違う

    まず、自社株式・不動産・金融資産の性質を、承継の観点から比べてみます。

    性質自社株式(非上場)不動産金融資産(現預金・上場株式等)
    換金のしやすさ低い(買い手が限られる)中程度(時間がかかる)高い
    分けやすさ分けられるが、分けると議決権も分散する物理的・権利的に分けにくく、共有になりやすい分けやすい
    管理・支配の担い手必要(経営判断・議決権行使)必要(修繕・賃貸管理・売却判断)比較的少ない
    評価と時価のずれ評価方法によって大きく変わる相続税評価額と売却価格が異なることが多い小さい
    収益配当(会社の方針次第)賃料(賃貸用の場合)利息・配当

    この表から分かるのは、自社株式と不動産は「持つ人に役割を求める財産」であり、金融資産は「調整に使える財産」だということです。

    財産に「役割」を割り当てる

    性質の違いを踏まえると、承継の場面で財産が担う役割は次の3つに整理できます。

    1. 経営を続けるための財産

    自社株式と、会社が事業に使っている不動産(本社・工場・店舗の土地建物など)です。これらは、後継者が経営を安定して続けるために、後継者または後継者が支配する会社に集めることが基本になります。

    会社の重要事項は株主総会で決まるため、後継者が議決権をどの程度確保できるかが承継の安定性を左右します。また、会社が使う不動産を後継者以外の家族が相続すると、会社は家族から土地を借り続けることになり、賃料や将来の売却をめぐって調整が必要になる場合があります。

    2. 家族に分けるための財産

    後継者以外の家族の生活や、家族間のバランスを保つための財産です。分けやすく、管理の負担が少ない金融資産が中心になります。賃貸不動産も候補になりますが、複数人で共有すると売却や大規模修繕の判断がまとまりにくくなるため、1物件を1人が相続するなど、共有を避ける工夫が必要です。

    3. 税金を納めるための財産

    相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、金銭で納めるのが原則です(国税庁 No.4205)。換金しやすい金融資産や、相続人が受け取る死亡保険金(「500万円×法定相続人の数」までは非課税、国税庁 No.4114)が、この役割を担います。不動産を売却して納税資金をつくる場合は、売却に時間がかかることを見込み、どの不動産を売るかを事前に決めておくことが大切です。

    組み合わせを考えるときの典型的な課題

    財産の大半が自社株式の場合

    後継者に株式を集めると、他の家族に渡す財産が不足し、後継者は換金できない株式に対して多額の相続税を負担することになります。この場合の選択肢として、たとえば次のような方向性が考えられます。

    • 生前に金融資産を計画的に蓄え、他の家族への配分と納税資金に充てる
    • 後継者が他の家族に金銭を支払う形で遺産を分ける(代償分割)ための資金を準備する
    • 法人版事業承継税制の利用を検討する(特例措置を使う場合の特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日、中小企業庁)
    • 株式の一部を会社や持株会社が買い取る形で、オーナー側に資金を確保する

    どの方法にも資金負担や要件、会社の財務への影響があるため、組み合わせて検討することになります。

    なお、自社株式の評価方法は、国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、評価額を前提にした配分や納税資金の計画は、今後の改正に注意して見直すことが大切です。

    不動産が多く、現預金が少ない場合

    不動産オーナーに多いのが、総資産に占める現預金の少なさです。相続税の納税資金だけでなく、不動産を相続しない家族とのバランスをとるための資金も不足しがちです。所有不動産を一覧にして、物件ごとの収益と相続税評価額、売却のしやすさを把握し、「持ち続ける不動産」「生前に売却・組み替える不動産」「相続後に売却する不動産」を区分しておくと、判断がしやすくなります。

    事業用・居住用の土地がある場合

    一定の要件を満たす事業用や居住用の宅地等は、相続税の計算で評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」の対象になり得ます。減額の割合と限度面積は区分ごとに異なり、特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等は400㎡まで80%、特定居住用宅地等は330㎡まで80%、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%とされています(国税庁 No.4124)。

    この特例は、誰がその宅地を取得するか、取得した人が事業や居住を継続するかなどの要件によって適用の可否が変わります。また、相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には適用できません。どの土地を誰に渡すかという配分の判断が、そのまま税額に影響する点に注意が必要です。

    所有の「器」を組み合わせる

    組み合わせの設計では、財産を誰に渡すかだけでなく、誰が(どの主体が)持つかも選択肢になります。

    所有の器向いている場面留意点
    個人で保有管理が簡単な財産、相続時の特例を使いたい土地相続時に分割・共有の問題が生じやすい
    資産管理会社賃貸不動産をまとめて管理し、収益を家族に配分したい場合設立・運営コスト、会社の株式の承継設計が必要
    持株会社事業会社の株式を集約し、所有と経営を整理したい場合株式の買取資金の調達、管理コストの増加

    たとえば賃貸不動産を資産管理会社に移せば、相続の対象は個々の不動産ではなく会社の株式になり、不動産を物理的に分けずに済む面があります。一方で、移転時には譲渡や登記の税金・費用がかかり、会社の株式を誰がどれだけ持つかという新しい設計課題が生まれます。器を変えることは目的ではなく、承継後の管理と意思決定をどう分担するかを実現する手段として検討することが大切です。

    組み合わせを設計する手順

    1. 財産を性質で棚卸しする:種類・評価額だけでなく、換金性、分けやすさ、管理の担い手の要否、収益、事業との関係を一覧にします。
    2. 相続税を概算し、納税資金の過不足を見る:現時点で相続が起きた場合の税額と、換金しやすい財産の額を比べます。
    3. 「経営」「分ける」「納める」の3つの役割に財産を割り当てる:まず経営を続けるための財産を後継者側に置き、残りで家族への配分と納税資金を組み立てます。
    4. 不足を埋める手段を検討する:生前の資金づくり、贈与、売却や組み替え、保険、所有の器の変更、制度の活用などを比較します。
    5. 配分案を家族と共有し、定期的に見直す:株価や不動産価値の変動、家族の状況に応じて更新します。

    生前贈与と相続のどちらで移すかは財産ごとに判断が分かれるため、関連記事(生前贈与と相続をどう使い分けるか)もあわせてご覧ください。財産や会社が多く、一覧にすること自体が難しい場合は、関連記事(複数の会社・資産にまたがる財産の整理)で整理の方法を解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 評価額の低さだけで財産を選ばない:相続税評価額が低い財産は税額の面では有利に見えますが、換金しにくかったり、分けにくかったりすることがあります。
    • 「均等」が「公平」とは限らない:同じ評価額でも、自社株式と預金では受け取る側にとっての価値や使い勝手がまったく違います。家族が納得できるかどうかは、金額だけでは決まりません。
    • 共有はできるだけ避ける:不動産や株式を複数人で共有すると、次の世代でさらに権利が細分化され、意思決定が難しくなります。
    • 会社との貸し借りを整理する:オーナーから会社への貸付金は相続財産になります。回収の見込みや、資本への振替などの整理を早めに検討します。

    AEGISの視点

    AEGISは、財産の組み合わせを「財産ごとに、次の世代で誰がその財産に責任を持つかを決めること」と考えています。

    自社株式には経営の責任が、不動産には管理と活用の責任が伴います。金融資産は、その責任を担わない家族への配分や、納税という一度きりの大きな支出を支える役割を持ちます。財産を評価額だけで並べると、この「責任の重さ」の違いが見えなくなります。

    また、不動産は持ち方を変えることで、承継のしやすさが大きく変わる財産でもあります。個人で持つか、会社で持つか、事業と組み合わせて活用するか——不動産の所有のあり方を事業承継と同じ時間軸で考えることが、財産全体の組み合わせを無理のないものにします。相続・事業承継の全体像は親記事(相続対策と事業承継を一体で考える)で解説しています。

    自社株式や事業用不動産の評価・承継に関わる税務の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 自社株式・不動産・金融資産は、換金性・分けやすさ・管理の担い手の要否が大きく異なります。
    • 組み合わせの設計は、財産に「経営を続ける」「家族に分ける」「税金を納める」の役割を割り当てることから始めます。
    • 自社株式と事業用不動産は後継者側に集めるのが基本で、金融資産が家族への配分と納税資金の調整役になります。
    • 小規模宅地等の特例など、誰がどの財産を取得するかで税額が変わる制度がある点に注意が必要です。
    • 所有の器(個人・資産管理会社・持株会社)の選択も、承継後の管理と意思決定から逆算して検討します。具体的な設計は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 自社株式は必ず後継者1人に集めるべきですか?

    経営の安定の観点からは、後継者が必要な議決権を確保できるようにすることが基本です。ただし、議決権のない株式の活用など、配当や財産的価値を他の家族にも配分する設計の余地もあります。会社の状況と家族の意向に応じて検討します。

    Q. 不動産を兄弟で共有して相続するのは避けるべきですか?

    共有自体が禁止されているわけではありませんが、売却や建替え、大規模修繕の判断に共有者の合意が必要になり、次の世代でさらに権利が細分化されるおそれがあります。物件ごとに取得者を分ける、資産管理会社にまとめるなど、共有を避ける方法を先に検討することをおすすめします。

    Q. 金融資産が少ない場合、納税資金はどう準備すればよいですか?

    生前からの資金の積み立て、生命保険の活用、売却する不動産の事前の選定、延納制度の検討などが考えられます。どの方法が適しているかは財産の構成や家族の状況によって異なるため、まず相続税の概算と納税資金の過不足を把握することが出発点です。

    Q. 会社が使っている土地は、会社に買い取ってもらうべきですか?

    選択肢の一つですが、譲渡に伴う所得税等の負担や会社の資金負担、小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性などを比較する必要があります。オーナー個人が持ち続けて後継者が相続する方法と比べ、事業の継続性と税負担の両面から判断します。

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    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報