カテゴリー: 相続・資産承継

財産の把握、配分、納税資金、管理と引継ぎを考えるための解説です。

  • 土地区画整理事業の途中で相続が起きたら|仮換地の評価・小規模宅地等の特例・清算金・活用と売却の制約

    土地区画整理事業の途中で相続が起きたら|仮換地の評価・小規模宅地等の特例・清算金・活用と売却の制約

    土地区画整理事業が進行中の土地を相続した場合、相続税の評価は、仮換地が指定されていれば原則として「仮換地」の価額で行い、指定がなければ「従前地」(もともとの土地)の価額で行います。ただし、仮換地が指定されていても使い始められず工事も始まっていない場合は従前地で評価し、工事が長引く場合は95%で評価するなど、事業の進み具合によって扱いが変わります。

    区画整理の事業期間は長期に及ぶことが多く、その途中で相続が起きることは珍しくありません。この記事では、事業の段階ごとに、相続税の評価、小規模宅地等の特例、清算金、そして事業中の活用・売却の制約を整理します。

    土地区画整理事業の基本

    土地区画整理事業は、道路・公園などの公共施設を整備し、土地の区画を整えて宅地の利用価値を高める事業です(土地区画整理法2条)。地権者は土地の一部を道路や公園の用地、事業費に充てる保留地として提供し(いわゆる減歩)、区画が整った新しい土地(換地)を受け取ります。施行者には、個人・組合・区画整理会社・地方公共団体などがあります。

    事業は、おおむね次の流れで進みます。

    1. 都市計画決定・事業計画の決定(認可)
    2. 仮換地の指定:将来の換地の位置と範囲を仮に定める
    3. 建物の移転、道路築造・宅地整地などの工事
    4. 換地処分:従前地の権利が換地に移り、清算金が確定する
    5. 登記、清算金の徴収・交付

    仮換地が指定されると、地権者は従前地を使えなくなる代わりに、仮換地を使ったり貸したりできるようになります(土地区画整理法99条)。ただし、施行者が「使用収益を開始できる日」を別に定めた場合は、その日までは仮換地も使えません。

    事業の段階と相続税評価

    相続税の評価は、財産評価基本通達24-2と国税庁の質疑応答事例「土地区画整理事業施行中の宅地の評価」で、次のように整理されています。

    相続開始時の状況評価の基準補足
    仮換地が指定されていない従前地の価額路線価図で「個別評価」とされている地域は、税務署に申し出て示される価額を用いる
    仮換地が指定され、使用収益できる仮換地の価額清算金で確実なものは加減する
    仮換地の造成工事が施行中で、完了まで1年超の見込み工事完了後の仮換地の価額の95%清算金で確実なものは加減する
    仮換地は指定済みだが、使用収益の開始日が別に定められ、かつ造成工事も行われていない従前地の価額二つの条件をいずれも満たす場合

    ※AEGISが財産評価基本通達24-2と国税庁質疑応答事例をもとに整理したものです。

    清算金を評価に反映する

    換地処分では、地権者間の不均衡を調整するために、金銭で清算金を徴収または交付します(土地区画整理法94条)。相続の時点で金額が確実と見込まれる清算金がある場合は、徴収されるものは仮換地の価額から差し引き、交付されるものは加えて評価します。事業計画や施行者からの通知で、見込額がどの程度確実かを確認しておきましょう。

    「事業中だから大きく下がる」とは限らない

    事業が長期化し、仮換地の指定時期も見通せないような土地では、利用の制約が大きいとして不動産鑑定評価による申告が争われた例があります。国税不服審判所の裁決では、通達による評価の合理性を基本的に認めつつ個別の事情を検討したもの、建築制限を理由とした一律の控除を認めなかったものなど、判断は事案ごとに分かれています。区画整理中であること自体を理由に大きな減額を見込むのではなく、まず通達の定めに沿って段階を正確に把握することが出発点です。

    小規模宅地等の特例はどうなるか

    小規模宅地等の特例は、相続開始の直前に被相続人などの居住や事業に使われていた宅地等が対象です。区画整理中は、従前地も仮換地も使えない期間が生じるため、「相続開始の直前に使っていた」といえるかが問題になります。

    この点について国税庁の通達(租税特別措置法関係通達69の4-3)は、公共事業の施行による仮換地の指定に伴い、相続開始の直前に従前地と仮換地の使用収益がともに禁止されていた場合でも、被相続人などが仮換地を居住や事業に使う予定がなかったと認められる特段の事情がなければ、もともと居住や事業に使っていた従前地は特例の対象に含まれることを示しています。特段の事情の例として、従前地の売買契約を結んでいた場合、代わりの住まいや事業用地を取得していた場合、物納を申請していた場合などが挙げられています。

    ただし、特例を受けるには、取得した親族が申告期限まで居住や事業を続けるなどの要件も必要です。使用収益が禁止されている期間に申告期限を迎える場合、その要件をどう満たすと考えるかは、仮換地の使用開始後の利用計画なども踏まえた個別の判断になります。「将来どう使うか」が決まっていない状態では、特例の適用が難しくなる可能性があるため、相続人の間で仮換地の利用方針を早めに話し合っておくことが重要です。

    事業中の活用と売却の制約

    建築や土地の形を変える行為の制限

    事業計画の認可などの公告があった後、換地処分の公告までの間は、施行地区内で事業の障害となるおそれがある建築物の新築・増改築や土地の形質の変更をするには、都道府県知事等の許可が必要です(土地区画整理法76条)。仮換地の指定を受けた後は、工事と調整しながら仮換地上に建物を建てられるようになりますが、指定前は建築が厳しく制限されると考えておく必要があります。

    このため、事業中の土地活用は、駐車場や資材置場のような一時的な利用が中心になりやすく、本格的な建物の計画は、仮換地の使用収益が始まってから立てるのが一般的です。

    売却するときの注意

    事業中の土地を売る場合、登記上は従前地の売買として行い、買主は仮換地を使うことになります。仮換地そのものに所有権の登記があるわけではないため、売買契約では次の点を明確にしておく必要があります。

    • 対象となる従前地と、それに対応する仮換地の位置・面積
    • 将来の清算金を売主・買主のどちらが受け取る(負担する)か
    • 組合施行の場合の賦課金などの負担
    • 換地処分の見込み時期

    清算金については、仮換地の売買で「清算金は売主に帰属する」と特約していた場合には、課税上も売主に帰属するものとして扱う考え方が国税庁の質疑応答事例で示されています。

    清算金と所得税

    換地処分により土地区画整理法の清算金を受け取った場合は、土地の一部を譲渡したものとして譲渡所得の対象になりますが、収用等の場合の課税の特例の対象とされており、要件を満たせば5,000万円の特別控除などを検討できます。清算金の収入すべき時期は、換地処分の公告があった日の翌日とされています(国税庁質疑応答事例「土地区画整理事業の換地処分により清算金を取得した場合」)。

    相続が起きたときに集めたい資料

    区画整理中の土地の評価や特例の判断は、事業の段階を示す書類がそろっているかどうかで精度が大きく変わります。相続が起きたら、次の資料を施行者や被相続人の書類から集めておくとよいでしょう。

    • 仮換地指定通知書(指定の効力発生日、仮換地の位置・面積)
    • 使用収益開始日の通知(別に定める旨の通知を含む)
    • 仮換地の重ね図など、従前地と仮換地の対応がわかる図面
    • 造成工事の進捗や完了予定がわかる資料
    • 清算金の見込額や換地計画に関する通知
    • 組合施行の場合の賦課金の請求書や総会資料
    • 相続開始直前の従前地・仮換地の利用状況(居住・貸付け・事業)がわかる資料

    これらが手元にないと、相続税の申告期限までに段階の判定ができず、評価や特例の判断が保守的にならざるを得ないことがあります。

    AEGISの視点

    区画整理は、土地の価値を高める一方で、数年から十年以上にわたって「使えない・決められない」期間を生む事業です。AEGISは、区画整理中の土地を持つオーナーにとって大切なのは、事業のスケジュールと家族のスケジュールを重ねて見ることだと考えています。

    仮換地の指定や使用収益の開始がいつ頃になるのか。その時点でオーナーや相続人は何歳で、誰が土地を使い、誰が管理するのか。換地後に賃貸住宅や事業用建物を建てるなら、その資金はどうするのか。こうした見通しがないまま相続を迎えると、評価の段階判定や特例の要件、清算金の扱いで家族が迷うことになります。

    施行者からの通知や事業計画書、清算金の見込額の資料を一か所にまとめ、換地後の活用方針と承継者をあらかじめ決めておくことが、相続時の判断を確かなものにします。

    土地の活用方法の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で、申告後に土地評価を点検する方法は「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で解説しています。

    特例を誰が受けるかの考え方は「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」、相続前の整理は「不動産を相続する前に確認したいこと」もあわせてご覧ください。

    土地の評価や不動産の相続に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 区画整理中の土地は、仮換地の指定がなければ従前地、指定があれば仮換地の価額で評価するのが原則です。
    • 仮換地の造成工事が施行中で完了まで1年超の見込みなら95%で評価し、使用収益の開始日が別に定められ工事も未着手なら従前地で評価します。
    • 確実と見込まれる清算金は、徴収分を差し引き、交付分を加えて評価します。
    • 使用収益が禁止されていても、特段の事情がなければ小規模宅地等の特例の対象になり得ますが、申告期限までの要件には個別の判断が必要です。
    • 事業中は建築や形質変更に許可が必要で、売却では仮換地の範囲と清算金の帰属を契約で明確にすることが重要です。

    よくある質問

    Q. 路線価図に「個別評価」と書かれている土地はどう評価しますか?

    土地区画整理事業の施行地区などで路線価が定められていない地域は、所轄の税務署に個別評価を申し出て、示された価額を基に評価します。示された価額が実際の取引価格と比べて明らかに高いと考えられる場合は、根拠をそろえたうえで鑑定評価などを検討することになりますが、慎重な判断が必要です。

    Q. 仮換地のほうが従前地より狭いのに、評価が高くなることはありますか?

    あります。区画整理では減歩によって面積が減る一方、道路などの整備で土地の利用価値が上がるため、仮換地の価額が従前地より高くなることもあります。評価は仮換地の路線価や個別評価の価額を基に行うため、面積だけで判断しないことが大切です。

    Q. 相続した後、換地処分で清算金を受け取ったら、誰の所得になりますか?

    清算金は換地処分の公告の翌日に確定し、その時点の土地の所有者が受け取るのが原則です。相続後に確定した清算金は、土地を相続した人の譲渡所得の対象になり、収用等の場合の課税の特例を検討できます。相続前に金額が確定していた場合などは扱いが異なることがあるため、確定日と相続開始日の前後関係を確認してください。

    Q. 区画整理中の土地を物納することはできますか?

    物納には、管理や処分に支障がないことなどの要件があります。区画整理中の土地は、仮換地の状況や清算金の扱いなどによって物納の可否の判断が複雑になるため、早い段階で納税資金の確保方法を複数用意しておくのが現実的です。なお、物納を申請していたことは、小規模宅地等の特例の「特段の事情」の例にも挙げられています。

    Q. 仮換地の指定を待たずに、従前地のまま売却したほうがよいですか?

    事業の進み具合によって買い手の評価は大きく変わります。仮換地の位置や使用開始時期が見えない段階では、買い手が限られ価格も下がりやすい一方、換地後には整備された宅地として評価されることもあります。売却の目的(納税資金、分割のためなど)と事業のスケジュールを照らし合わせて判断してください。

    関連するAEGISのソリューション

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.32-35
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント[第3集]』笹岡宏保 著、ぎょうせい、CASE11・CASE13(土地区画整理事業)
    • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい、P.143-144
  • 市街化調整区域の土地を活かす|建築の可否・使える用途・相続税評価・売却の難しさを整理する

    市街化調整区域の土地を活かす|建築の可否・使える用途・相続税評価・売却の難しさを整理する

    市街化調整区域の土地は、原則として建物を建てるための開発や建築が制限されているため、活用の選択肢が限られ、売却も簡単ではありません。一方で、相続税の評価では、こうした制限を反映して評価額を下げる「しんしゃく」の考え方が用意されています。

    活用を考えるときは、まず「その土地で何が建てられるのか(または建てられないのか)」を役所で確かめ、そのうえで建物を前提としない用途と、許可を得られる可能性のある用途を比べていくことになります。この記事では、建築の可否、使える用途、相続税評価、売却の難しさの4つの視点から整理します。

    市街化調整区域とは

    都市計画法では、無秩序な市街化を防ぐため、都市計画区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けることができます(区域区分。いわゆる線引き)。市街化区域が「すでに市街地を形成している区域と、おおむね10年以内に優先的・計画的に市街化を図るべき区域」であるのに対し、市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」とされています(都市計画法7条)。

    このため、市街化調整区域では、道路や上下水道などの整備も市街化区域ほど進んでいないことが多く、土地の価格水準も一般に低くなります。

    建物は建てられるのか:開発許可と建築の制限

    開発行為には許可が必要

    建物を建てる目的で土地の区画や形質を変えること(開発行為)は、都道府県知事等の許可が必要です(都市計画法4条12項・29条)。市街化区域では一定規模未満の開発は許可が不要ですが、市街化調整区域では、規模にかかわらず原則として許可の対象になります。

    さらに、市街化調整区域での開発許可は、技術的な基準に加えて、都市計画法34条に列挙された立地の基準のいずれかに当てはまらなければ受けられません。主なものは次のとおりです。

    • 周辺に住む人の日常生活に必要な店舗や、診療所・保育所などの公益上必要な建築物(1号)
    • 沿道サービス施設(ドライブイン・給油所など)(9号)
    • 市街化区域に隣接・近接し、建築物が連たんする地域のうち、自治体の条例で指定した区域での開発(11号)
    • 自治体の条例で区域・目的・用途を限って定めたもの(12号)
    • 線引きの際に自己の居住・業務用の建築目的で権利を持っていた人が、届出をして一定期間内に行うもの(13号)
    • 開発審査会の議を経て、周辺の市街化を促進するおそれがないと認められたもの(14号)

    11号・12号の条例区域は、災害の防止などを考慮した政令の基準に従って定めることとされており、近年は災害のおそれのある区域を含めない運用が明確にされています。

    開発をしない建築にも許可が必要

    開発許可を受けた区域以外でも、市街化調整区域内で建築物を新築・改築したり用途を変更したりするには、原則として都道府県知事等の許可が必要です(都市計画法43条)。農林漁業用の一定の建築物や、農林漁業を営む人の住宅などは例外とされています(同法29条1項2号)。

    つまり、「今ある建物を建て替えられるか」「倉庫を店舗に変えられるか」も、個別に確認が必要です。過去に許可を得た建物であっても、用途や規模が限定されていることがあります。

    現実的な活用の選択肢

    建築の制限を前提にすると、市街化調整区域の土地活用は「建物を建てない活用」と「許可の見込みがある建物を建てる活用」に分かれます。

    活用方法建物主な確認事項収益性・転用
    資材置場・駐車場として貸す原則なし地目・農地転用、条例、近隣との関係収益は小さいが転用しやすい
    太陽光発電設備建築物でない設備が中心農地法・条例・系統連系・撤去費用長期固定だが設備撤去の負担
    福祉施設・診療所など許可を得て建築34条の該当性、事業者の運営力長期契約・建物の転用が難しい
    沿道サービス・日用品店舗許可を得て建築幹線道路沿いか、周辺の需要立地次第で事業者の需要あり
    農地として続ける・貸す農業用施設のみ農地法・農業委員会収益は小さいが相続での特例の検討余地

    ※AEGISが法令と一般的な事例をもとに整理したものです。可否は自治体の基準や個別の事情で大きく異なります。

    開発行為は「建築物の建築または特定工作物の建設のための区画形質の変更」と定義されているため、建物を建てない資材置場や駐車場、地上設置の太陽光発電設備などは、開発許可の対象にならない場合があります。ただし、農地であれば農地法の転用許可が必要ですし、自治体の条例や盛土の規制、景観の規制がかかることもあります。

    福祉施設などを建てて事業者に貸す活用は、地域に必要とされる施設を支える意義がある一方、建物の用途が限定されるため、事業者が撤退したときに次の借り手を見つけにくいリスクがあります。

    相続税ではどう評価されるか

    雑種地は「状況が類似する付近の土地」から比べる

    資材置場や駐車場として使っている土地は、一般に雑種地として評価されます。雑種地は、状況が類似する付近の土地の価額を基に、位置や形状の差を考慮して評価します(財産評価基本通達82)。

    市街化調整区域内の雑種地では、まず周囲の状況から「何と比べるか」を決めます(国税庁質疑応答事例「市街化調整区域内にある雑種地の評価」)。

    • 周囲が純農地・純山林などの地域:農地・山林などの価額を基に評価(資材置場・駐車場として使われている場合は、農地等の価額に造成費相当額を加える方法が原則。ただし宅地を基にした価額が上限)
    • 周囲に宅地が多い地域:付近の宅地の価額を基に評価(宅地比準)し、法的な規制を「しんしゃく割合(減価率)」として考慮

    しんしゃく割合の目安

    宅地比準で評価する場合のしんしゃく割合は、市街化の影響度と土地の利用状況で個別に判定するのが原則ですが、国税庁の質疑応答事例には目安となる区分が示されています。

    周囲の状況(市街化の影響度)しんしゃく割合の目安
    農地・山林等と宅地の中間的な地域(建物の建築が難しい)50%
    店舗等の建築が可能な幹線道路沿いや、市街化区域との境界付近30%
    宅地と同等の取引実態がある地域(郊外型店舗が建ち並ぶ地域など)0%

    ※国税庁質疑応答事例の区分を、AEGISが読みやすく言い換えたものです。都市計画法34条11号の条例区域内は、この表によらず個別に判定します。

    固定資産税の評価額にすでに「調整区域であること」が織り込まれていても、それは市街化区域との価格差を反映したものであり、相続税評価でいう建築制限のしんしゃくとは意味が異なることがあります。役所で建築の可否を確認し、どの区分に当たるかを根拠をもって判断することが重要です。

    大きな土地の評価減は原則として使えない

    面積の大きな宅地の評価を下げる「地積規模の大きな宅地の評価」は、市街化調整区域に所在する宅地は原則として対象外です。ただし、都市計画法34条10号または11号に基づいて宅地分譲の開発ができる区域は除かれます(国税庁タックスアンサーNo.4609)。

    評価額が時価を上回ることもある

    市街化調整区域の土地は、買い手が限られるため、通達どおりに計算した評価額が実際に売れる価格を上回ることがあります。そのような場合は、不動産鑑定評価などで時価を示す方法も検討対象になりますが、費用と効果、説明の根拠を慎重に比べる必要があります。

    売却が難しい理由と備え

    市街化調整区域の土地が売りにくいのは、次のような理由が重なるためです。

    • 買主が建物を建てられないか、建てられる人や用途が限られる
    • 金融機関の担保評価が低く、買主が融資を受けにくい
    • 道路・上下水道などのインフラ整備に費用がかかることがある
    • 農地の場合、買主が農業者などに限られることがある

    相続のときにこの土地しか分ける財産がない、あるいは納税資金のために売却を予定している、という場合は、売却に想定以上の時間がかかることを前提に計画を立てておく必要があります。隣接地の所有者や、資材置場・事業用地を探す事業者など、買い手になり得る相手を早めに把握しておくことも一つの備えです。

    AEGISの視点

    市街化調整区域の土地は「使い道がない土地」と見られがちですが、AEGISは「誰にとって価値があるか」から考え直すことが大切だと考えています。建物を建てたい人には価値が低くても、資材や車両を置く場所を探す事業者、幹線道路沿いでサービスを提供したい事業者、地域の福祉施設を運営する法人にとっては、必要な土地であることがあります。

    同時に、活用の判断と相続の判断を切り離さないことも重要です。評価額がしんしゃくで下がっても、売れない・貸せない土地を相続人が持ち続ければ、固定資産税や管理の負担が続きます。どの相続人がその土地を引き継ぎ、どう使うのか。地域の需要に応える事業として活用できるのか、それとも早めに手放す準備をするのか。土地の性格を正しく把握したうえで、家族の資産全体の中で役割を決めることが、将来の負担を軽くします。

    事業として土地を活かす具体的な方法は、アイジスソーシャルインパクトの土地活用ページでも紹介しています。

    土地の活用方法の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で、農地の場合の選択肢は「相続した農地・生産緑地をどうするか」で解説しています。

    福祉施設への貸付けを検討する場合は「介護・保育施設に土地を貸すときの考え方」、評価額と売却価格の関係は「不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか」もあわせてご覧ください。

    土地の評価や不動産の相続に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」で、開発も建築も原則として許可が必要です。
    • 許可が得られるのは、都市計画法34条の立地基準に当てはまる場合などに限られ、自治体の条例や基準で大きく異なります。
    • 建物を建てない資材置場・駐車場・太陽光などは、開発許可の対象外となる場合がありますが、農地法や条例の確認が必要です。
    • 雑種地の相続税評価では、周囲の状況に応じて比べる土地を決め、宅地比準の場合は建築制限をしんしゃく割合(目安50%・30%・0%)で考慮します。
    • 地積規模の大きな宅地の評価は、原則として使えません。
    • 売却には時間がかかることが多いため、相続や納税資金の計画に織り込んでおきましょう。

    よくある質問

    Q. 市街化調整区域の土地に家を建てることはできますか?

    原則として建てられませんが、都市計画法34条の基準に当てはまる場合や、自治体の条例で指定された区域、農家の住宅などの例外があります。線引き前からの経緯や周辺の状況によって判断が変わるため、市町村や都道府県の開発許可の窓口で個別に確認してください。

    Q. 調整区域の雑種地は、必ず50%しんしゃくできますか?

    必ずではありません。しんしゃく割合は、周囲の市街化の影響度と土地の利用状況によって判定します。建物の建築が難しい地域では50%、店舗等の建築が可能な幹線道路沿いなどでは30%、宅地と同等の取引実態がある地域では0%という目安があり、条例で指定された区域は個別に判定します。

    Q. 資材置場として貸している土地の相続税評価はどうなりますか?

    雑種地として評価したうえで、借主が賃借権を持つ場合は、その賃借権の価額を差し引いて評価します。賃借権の価額は、契約の内容や残存期間によって異なり、賃貸借期間が短く更新が見込まれない場合などは差し引けないこともあります。

    Q. 市街化調整区域の土地は、相続土地国庫帰属制度で手放せますか?

    制度の要件を満たせば申請できますが、建物がある土地、資材置場などとして人に貸している(使用収益の権利が設定されている)土地、土壌汚染や境界争いがある土地などは申請できず、承認された場合も10年分の管理費用を基にした負担金が必要です。売却や隣地所有者への譲渡など、他の方法と比べて検討するのが現実的です。

    Q. 調整区域にある古い倉庫を、別の用途で貸すことはできますか?

    建物の用途を変更するには、原則として都道府県知事等の許可が必要です。過去の許可で用途が限定されていることも多いため、まず当時の許可の内容を確認し、新しい用途が許可の基準に当てはまるかを窓口で相談してください。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.25-31
    • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい、P.112-121
    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、P.453-458
  • 駐車場経営の税金と相続|月極・コインパーキング・一括貸しで所得区分・消費税・相続税評価はどう変わるか

    駐車場経営の税金と相続|月極・コインパーキング・一括貸しで所得区分・消費税・相続税評価はどう変わるか

    駐車場経営は、建物を建てずに始められ、やめるときも土地が戻りやすい活用方法です。その一方で、相続税の評価はほとんど下がらず、小規模宅地等の特例も「舗装などの構築物があるか」で使えるかどうかが分かれます。また、同じ駐車場でも、自分で月極駐車場を経営するのか、コインパーキング事業者に土地を一括で貸すのかによって、所得の区分・消費税・相続税評価の扱いが変わります。

    この記事では、駐車場経営の代表的な3つの形を比べながら、税金と相続で何が変わるのか、そして「次の活用までのつなぎ」として駐車場を選ぶときに何を考えるべきかを整理します。

    駐車場経営の3つの形

    駐車場経営は、オーナーが何を提供し、誰が利用者と契約するかで、大きく次の3つに分かれます。

    形利用者と契約する人オーナーの収入設備の負担
    ① 月極駐車場を自ら経営オーナー利用者からの駐車料オーナー(舗装・区画・照明など)
    ② 時間貸し駐車場を自ら経営オーナー利用者からの料金オーナー(精算機・ゲートなど)
    ③ 事業者への一括貸し事業者事業者からの地代事業者が設備を設置する例が多い

    ※AEGISが一般的な契約形態をもとに整理したものです。実際の契約内容によって扱いが変わります。

    ①②はオーナー自身が「駐車場業」を営む形、③は土地を事業者に貸す形です。この違いが、以下の税務上の扱いの違いにつながります。

    所得税:不動産所得か、事業所得・雑所得か

    有料駐車場の所得は、オーナーが自己の責任で他人の車を保管しているかどうかで区分されます(所得税基本通達27-2)。

    • 車を保管する責任を負わない場合(月極で区画を使わせるだけ、など):不動産所得
    • 保管の責任を負う場合(管理人を置いて車両を預かる形態など):事業所得または雑所得

    一般的な月極駐車場や、事業者への一括貸しは不動産所得になることが多いでしょう。不動産所得であれば、アパートなどの賃貸と合わせて所得を計算します。舗装費用やフェンス、精算機などは構築物・器具備品として減価償却の対象になり、取得価額が一度に経費になるわけではない点に注意が必要です。

    消費税:駐車場は「土地の貸付け」とは限らない

    消費税では、土地の貸付けは原則として非課税です。ただし、駐車場など施設の利用に伴って土地が使われる場合は、非課税の土地の貸付けに当たりません(国税庁タックスアンサーNo.6201、消費税法基本通達6-1-5)。

    • 舗装・区画・フェンスなど駐車場としての整備をしたうえで貸す月極駐車場や時間貸し駐車場:駐車場という施設の貸付けとして課税
    • 駐車場としての整備をせず、車両の管理もしないで更地のまま使わせる場合:土地の貸付けとして非課税

    事業者に一括貸しする場合は、オーナーが整備した土地を貸すのか、更地を貸して事業者が自ら舗装や精算機を設けるのかで、地代の扱いが分かれ得ます。課税売上げが増えると、消費税の納税義務やインボイスへの対応も検討が必要になるため、契約前に「誰が、何を設置するか」を整理しておきましょう。

    相続税評価:駐車場は「自用地」評価が基本

    自ら経営する月極駐車場

    土地の所有者が自ら月極駐車場などを経営している場合、その土地は自用地としての価額で評価し、利用者の権利(賃借権)を差し引くことはできません(国税庁タックスアンサーNo.4627)。駐車場の利用契約は車を保管する契約であり、土地そのものを利用させる賃貸借とは性質が異なるため、利用者の権利は土地に及ばないと考えられているからです。契約期間の長短によってもこの扱いは変わりません。

    なお、地目は登記上の地目にかかわらず現況で判定され、駐車場は一般に雑種地に当たります。ただし、市街地にある宅地と変わらない状態の駐車場は、宅地と同じように路線価などを基に評価されます。

    事業者に一括で貸している土地

    事業者に土地を貸し、事業者が駐車場を経営している場合は、土地の賃貸借として、自用地としての価額から賃借権の価額を差し引いて評価します(財産評価基本通達86・87、国税庁質疑応答事例「雑種地の賃借権の評価」)。

    賃借権の価額は、賃借権の登記がある、権利金などの一時金を受け取っている、堅固な構築物の所有を目的とする、といった「地上権に準ずる」ものかどうかで計算方法が異なります。アスファルト舗装は撤去が容易なため、一般に堅固な構築物とはされにくく、その場合の控除額は残存期間に応じた小さな割合にとどまります。また、賃貸借期間が1年以下で更新が見込まれないものなどは、賃借権を評価せず自用地として評価します(国税庁質疑応答事例「臨時的な使用に係る賃借権の評価」)。

    つまり、一括貸しにしても、評価額の下がり方はわずかだと考えておくのが現実的です。

    アパートに付属する駐車場

    アパートやマンションの敷地内・隣接地にある駐車場は、評価単位の判断が問題になります。入居者専用で建物と一体として使われている駐車場は、建物の敷地と一体で貸家建付地として評価できる場合がある一方、入居者以外にも貸している駐車場や、道路を隔てて離れている駐車場は、別の評価単位として自用地で評価されることがあります。国税不服審判所でも判断が争われてきた論点で、利用者の範囲や配置の実態が重視されます。

    小規模宅地等の特例:構築物の有無がポイント

    駐車場業は、小規模宅地等の特例の「貸付事業」に含まれます。要件を満たせば、貸付事業用宅地等として200㎡まで50%の減額を受けられる可能性があります(租税特別措置法69条の4、同法施行令40条の2、国税庁タックスアンサーNo.4124)。

    ただし、この特例の対象は「建物または構築物の敷地」として使われている宅地等に限られます。

    駐車場の状態小規模宅地等の特例(貸付事業用)
    土のまま・整備なしの青空駐車場構築物がないため、原則として対象外
    アスファルト舗装・区画線・フェンス等を設置構築物の敷地として対象になり得る
    事業者が舗装・設備を設置して一括借り構築物の敷地として対象になり得る(貸付けの実態を確認)

    ※AEGISが国税庁の資料をもとに整理した目安です。砂利敷きなど中間的な状態は、現況により判断が分かれます。

    あわせて、次の点も確認が必要です。

    • 相続開始前3年以内に新たに貸付けを始めた土地は、原則として対象外です(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付けを続けていた場合の例外があります)。
    • 取得した親族が相続税の申告期限まで貸付けを引き継ぎ、土地を持ち続けることが必要です。
    • 自宅や事業用の土地にも特例を使う場合は、限度面積の調整計算があり、駐車場に50%減額を使うより、自宅に80%減額を使うほうが有利なこともあります。

    転用のしやすさと出口

    駐車場の大きな利点は、将来の選択肢を残しやすいことです。借地借家法の借地権は「建物の所有を目的とする」土地の賃借権などを指すため、駐車場として土地を貸す契約には、建物を建てる借地のような強い保護は及ばないのが一般的です。

    とはいえ、事業者への一括貸しには、契約期間・中途解約の予告期間・原状回復(舗装や設備の撤去)・違約金などの条項があります。相続や売却、建物の建築を数年以内に考えているなら、解約の条件が出口の時期と合っているかを確認しておくことが重要です。

    AEGISの視点

    駐車場は、収益・評価・転用のどれをとっても「大きく稼ぐ」「大きく評価を下げる」活用ではありません。AEGISは、駐車場を「時間を買う活用」と位置付けて検討することが大切だと考えています。

    たとえば、相続までの間に土地の使い方を決めきれないとき、売却の時期を見極めたいとき、隣地の取得や区画整理など周辺の状況が変わるのを待つとき。こうした場面で駐車場は、固定資産税などの保有コストを賄いながら、選択肢を閉じずにおける手段になります。

    一方で、相続税の負担が大きく、納税資金の準備が課題であれば、駐車場のままにしておくこと自体がリスクになる場合もあります。評価がほとんど下がらない土地を、どの相続人が、どの特例と組み合わせて引き継ぐのか。駐車場経営の判断は、土地単体ではなく、資産全体と承継の計画の中で行うべきものです。

    土地の活用方法の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で、評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。

    相続人ごとの特例の違いは「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」、事業者との契約条項の読み方は「事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと」もあわせてご覧ください。

    土地の評価や不動産の相続に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 駐車場経営は、自ら経営する月極・時間貸しと、事業者への一括貸しで、税務の扱いが異なります。
    • 所得税は、車の保管責任を負わなければ不動産所得、負えば事業所得または雑所得です。
    • 消費税は、駐車場として整備した土地の利用は課税、整備のない更地の貸付けは非課税が原則です。
    • 自ら経営する駐車場は自用地評価です。一括貸しは賃借権を差し引けますが、下がり方はわずかです。
    • 小規模宅地等の特例(200㎡まで50%減額)は、舗装などの構築物がある駐車場が対象で、3年以内の新規貸付けなどの制限があります(3年を超えて事業的規模の貸付けを続けていれば例外あり)。
    • 駐車場は「選択肢を残す活用」です。契約の解約条件と、相続・売却の時期を合わせて考えましょう。

    よくある質問

    Q. 青空駐車場をアスファルト舗装すれば、小規模宅地等の特例を使えますか?

    舗装などの構築物があれば、構築物の敷地として特例の対象になり得ます。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業に使い始めた土地は原則として対象外となるため(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け〔特定貸付事業〕を続けていた場合を除く)、舗装をきっかけに新たに駐車場経営を始めた場合は、時期の要件にも注意が必要です。舗装費用と特例による減額効果、収益の見込みを比べて判断してください。

    Q. 一括貸しにすると、自分で経営するより相続税は下がりますか?

    一括貸しでは賃借権を差し引けるため評価額はわずかに下がりますが、賃借権の割合は小さく、大きな差にはなりにくいのが一般的です。賃貸借期間が1年以下で更新が見込まれない契約などでは、賃借権を差し引けないこともあります。相続税だけでなく、収入の安定性や管理の手間で比べるのが現実的です。

    Q. 駐車場収入にも消費税がかかりますか?

    舗装や区画などを整備して駐車場として使わせる場合は、消費税の課税対象になります。課税売上高が一定額を超えると納税義務が生じるため、アパートなど他の事業の課税売上げとあわせて確認してください。整備をしない更地を貸す場合は、土地の貸付けとして非課税になるのが原則です。

    Q. アパートの入居者用駐車場は、アパートの敷地と一緒に評価できますか?

    入居者専用で、建物と一体として利用されている駐車場であれば、建物の敷地と一体で貸家建付地として評価できる場合があります。入居者以外の利用者がいる、道路で隔てられているなどの事情があると、別の評価単位として自用地で評価されることがあるため、利用の実態を確認しておくことが大切です。

    Q. 駐車場をやめて建物を建てたいとき、契約上の注意点はありますか?

    自ら経営する月極駐車場であれば、利用者との契約に定めた予告期間で解約するのが一般的です。事業者への一括貸しでは、中途解約の可否や予告期間、違約金、設備の撤去費用の負担などが契約で定められているため、建築計画の時期から逆算して確認しておく必要があります。

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    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。
    • 事業型不動産活用:保有不動産に合う事業を判定し、事業モデルの選定・開業・運営を支援します(AEGIS SOCIAL IMPACT)。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、第7章(雑種地及び雑種地の上に存する権利)、P.453-472
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント』笹岡宏保 著、ぎょうせい、CASE26(賃貸マンションに隣接する入居者専用駐車場の評価単位)
  • 相続した農地・生産緑地をどうするか|続ける・貸す・転用するを、特定生産緑地と納税猶予から比べる

    相続した農地・生産緑地をどうするか|続ける・貸す・転用するを、特定生産緑地と納税猶予から比べる

    相続した農地をどうするかは、「農業を続ける」「農地のまま貸す」「宅地などに転用する・売却する」の3つの方向から考えるのが基本です。ただし、宅地とは異なり、農地には生産緑地の指定、相続税の納税猶予、農地法の許可といった固有の制度が重なっています。どの選択肢を選ぶかによって、過去に猶予された相続税と利子税の納付が必要になったり、固定資産税の負担が大きく変わったりすることがあります。

    この記事では、主に都市部の市街化区域内にある農地、とくに生産緑地を相続した方を想定して、判断の前に確認したいことと、3つの選択肢の比べ方を整理します。

    まず確認したい4つのこと

    選択肢を比べる前に、相続した農地が「どのような状態にあるか」を確認します。同じ農地でも、次の4点によって取れる選択肢が大きく変わります。

    1. 区域:市街化区域か、市街化調整区域か。三大都市圏の特定市に当たるか
    2. 生産緑地の指定:生産緑地か。特定生産緑地の指定を受けているか、その指定期限はいつか
    3. 納税猶予の適用:今回の相続や過去の相続で、相続税の納税猶予を受けている(受けようとしている)か
    4. 家族の意向:農業を続けたい相続人がいるか、誰が農地を取得するか

    生産緑地かどうかは、市区町村の都市計画の担当課で確認できます。固定資産税の課税明細書や名寄帳の記載から分かる場合もあります。

    生産緑地と特定生産緑地の仕組み

    生産緑地とは

    生産緑地は、市街化区域内の農地のうち、良好な生活環境の確保に効用があり、一定の規模(原則500㎡以上、市区町村の条例により300㎡以上まで引下げ可能)を備えた農地について、都市計画で指定されるものです。指定されると、建物の新築や宅地の造成などには市町村長の許可が必要になり、農業に必要な施設などを除いて、原則として農地以外には使えなくなります。

    その代わり、固定資産税では、市街化区域内の農地に適用される宅地並みの課税に対し、生産緑地には軽減措置が講じられています。また、後で説明する相続税の納税猶予の対象にもなります。

    買取りの申出と行為制限の解除

    生産緑地の所有者は、次のいずれかに当たる場合、市町村長に対して時価での買取りを申し出ることができます。

    • 生産緑地の告示の日から30年を経過したとき(特定生産緑地は指定期限日以後)
    • 農業の主たる従事者が死亡したとき、または農業に従事できない故障を有するに至ったとき

    申出の日から3か月以内に所有権の移転が行われなかった場合には、行為の制限が解除され、宅地への転用などが可能になります。

    特定生産緑地とは

    平成29年の生産緑地法の改正で、告示から30年を迎える前に、市町村長が所有者の同意を得て特定生産緑地に指定できる制度が設けられました。特定生産緑地は、買取りの申出ができる時期が10年先送りされ、さらに10年ごとに指定期限を延長できます。

    特定生産緑地の指定を受けなかった生産緑地は、買取りの申出をしない場合でも、これまでの税制上の措置が受けられなくなるとされています。指定期限がいつ到来し、延長するかどうかは、相続した後の判断に直結する論点です。

    相続税の納税猶予の仕組み

    どのような制度か

    農業を営んでいた被相続人などから、一定の相続人が農地等を相続し、農業を続ける場合には、一定の要件のもとで、農地等の価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税の納税が猶予されます(国税庁 No.4147)。三大都市圏の特定市の市街化区域内にある農地は、生産緑地地区内の農地など一定のものに限って対象になります。

    猶予された税額が免除される場合

    猶予された相続税は、農業を続けた相続人が死亡した場合などに免除されます。市街化区域外の農地では、申告期限の翌日から20年間農業を続けた場合も免除の対象になりますが、生産緑地など都市営農農地等(東京都の特別区や三大都市圏の特定の市の市街化区域内にある、生産緑地地区内の農地など)を有する相続人は、この20年での免除の対象外とされています(租税特別措置法70条の6)。つまり、都市部の生産緑地で納税猶予を受ける場合は、原則として生涯にわたり農業を続けることが前提になります。

    猶予が打ち切られる場合

    次のような場合には、猶予されていた相続税の全部または一部と、利子税をあわせて納付する必要があります。

    • 特例の対象となった農地等の面積の20%を超えて、譲渡・贈与・転用などをした場合(20%以下の場合は、その割合に応じて納付)
    • 農業経営を廃止した場合
    • 3年ごとの継続届出書を提出しなかった場合
    • 生産緑地について買取りの申出をした場合
    • 特定生産緑地の指定を受けなかった場合、指定期限の延長をしなかった場合、指定が解除された場合

    利子税は、猶予期間に応じて計算されるため、猶予を受けてから年数が経っているほど負担が大きくなりえます。なお、相続時精算課税の適用を受ける農地等には、この特例は使えません(国税庁 No.4147)。

    相続税の評価:生産緑地は利用の制限を反映する

    生産緑地は、生産緑地でないものとして評価した価額から、買取りの申出ができるまでの期間に応じた割合(5%〜35%)を控除して評価します(財産評価基本通達40-3)。課税時期に買取りの申出ができる生産緑地は5%の控除です。農業の主たる従事者が亡くなった場合には、相続人は買取りの申出ができる状態になるため、控除の割合が小さくなることがあります。

    市街化区域内の農地の評価は、宅地であるとした場合の価額から宅地造成費を差し引く方法が基本で、宅地に近い水準の評価になることが少なくありません。また、小規模宅地等の特例は、建物や構築物の敷地である宅地等が対象で、農地は対象外とされています(国税庁 No.4124)。農地の相続では、評価額が高いわりに特例による減額が見込めず、納税資金をどう確保するかが大きな論点になります。納税資金の準備の考え方は、関連記事「相続税の納税資金をどう準備するか」で整理しています。

    3つの選択肢を比べる

    項目農業を続ける農地のまま貸す転用・売却する
    生産緑地の指定維持(特定生産緑地の指定・延長)維持買取りの申出→制限解除
    相続税の納税猶予継続(都市部では原則終身)一定の貸付けなら継続しうる打切り(猶予税額と利子税を納付)
    固定資産税軽減措置が続く軽減措置が続く宅地並みの課税へ
    家族の負担営農の担い手が必要借り手の確保と契約管理開発・活用・売却の判断と資金
    将来の自由度低い低い(ただし営農の負担は軽い)高い

    ※AEGIS作成。具体的な扱いは、区域・指定の状況・納税猶予の適用の有無によって異なります。

    農業を続ける

    相続人の中に農業を続けたい人がいる場合は、最も制度に沿った選択肢です。納税猶予を受ければ、相続時の納税負担を大きく抑えられます。一方で、都市部の生産緑地では猶予が原則として終身にわたり、途中で営農をやめれば利子税を含めた納付が必要になります。その相続人が、本当に生涯農業を続けられるかを、家族で現実的に話し合うことが出発点です。

    農地のまま貸す

    自ら耕作するのは難しいが、農地としては残したい場合の選択肢です。従来、農地を貸すと農地法の規定により契約が更新されやすく、返してもらいにくいことが、貸付けをためらう理由になっていました。

    平成30年に制定された都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)では、生産緑地地区内の農地について、市町村長の認定を受けた事業計画に従って貸し付ける場合、農地法の許可が不要とされ、農地法の法定更新の規定も適用されないこととされています。さらに、この仕組みによる貸付け(認定都市農地貸付け)や、市民農園としての貸付け(農園用地貸付け)、農地中間管理事業の仕組みを使った貸付け(特定貸付け)では、一定の要件のもとで相続税の納税猶予が継続されます。貸付けの方法を誤ると猶予が打ち切られるおそれがあるため、制度の要件に沿った貸し方かどうかを事前に確認することが大切です。

    転用・売却する

    宅地として活用したり売却したりする場合は、生産緑地の買取りの申出を行い、市町村が買い取らず、ほかの農業者へのあっせんも成立しなければ、3か月後に行為の制限が解除されます。市街化区域内の農地の転用は、農業委員会への届出で足りるのが原則です。

    ただし、納税猶予を受けている場合は、買取りの申出の時点で猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税の納付が必要になります。また、生産緑地でなくなれば固定資産税は宅地並みの課税になり、保有コストが上がります。解除後に土地をどう使うか(売却、定期借地、賃貸住宅、事業用地など)の計画と、納付に必要な資金の見通しを申出の前に立てておくことが重要です。土地を貸す場合の考え方は、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」で解説しています。

    判断の順番

    順番確認すること主な確認先
    1区域、生産緑地・特定生産緑地の指定と指定期限市区町村の都市計画の担当課
    2過去の相続を含む納税猶予の適用状況、打切り時の税額と利子税の見込み過去の申告書、税理士
    3相続人の営農の意向と、担い手の有無家族、農業委員会
    4貸付けの可能性(都市農地貸借法、市民農園など)市区町村、農業委員会
    5転用した場合の活用・売却の見通しと収支不動産・建築の専門家
    6相続税の納税資金と、ほかの財産を含めた分け方税理士、家族

    実務上注意したいポイント

    • 主たる従事者の死亡と買取りの申出:相続をきっかけに買取りの申出ができるようになりますが、相続人が納税猶予を受ける場合には、申出が猶予の打切り事由になります。申出の要否は、納税猶予の方針と一体で判断しましょう。
    • 指定期限の管理:特定生産緑地の指定期限の延長をしなかった場合も、納税猶予の打切り事由になります。期限を家族で共有しておくことが大切です。
    • 申告期限との関係:相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。納税猶予を受けるかどうかは、この期間内に、遺産分割とあわせて判断する必要があります。納税猶予を受ける相続人は、申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められることについて農業委員会の証明を受けることや、申告期限までに担保を提供することが必要です(租税特別措置法70条の6、同法施行令40条の7)。
    • 相続による取得の届出:相続で農地を取得した場合、農地法の許可は不要ですが、農業委員会への届出が必要です。

    具体的な適用の可否や税額は、農地の状況と家族の事情によって異なります。

    AEGISの視点

    都市部の農地の相続では、「今回の相続税をいくら抑えられるか」に目が向きがちです。納税猶予は確かに大きな効果がありますが、AEGISは、猶予を受けることは、将来の土地の使い方を長期にわたって固定する選択でもあると考えています。

    生産緑地で納税猶予を受ければ、農業を続ける相続人は原則として生涯その選択に縛られます。途中で営農が難しくなったとき、貸付けで猶予を継続できるのか、転用して猶予税額と利子税を納めるのか。その判断の時点で、手元に資金があるか、ほかの財産で対応できるかによって、取れる選択肢は変わります。

    そこでAEGISは、農地を「誰が、いつまで、どのような形で関わるか」という時間軸の上で設計することをおすすめしています。営農を続ける期間、貸付けに切り替える可能性、転用するとしたらその後の活用の姿、そしてそのときの納税資金。これらを、宅地や金融資産などほかの財産の分け方と一緒に考えることで、家族にとって無理のない選択が見えてきます。自宅や賃貸物件の敷地など、小規模宅地等の特例の対象となる土地を誰が取得するかとの組み合わせは「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で解説しています。

    土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

    農地の評価や納税猶予など資産税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続した農地は、「続ける」「農地のまま貸す」「転用・売却する」の3つの方向から考えます。
    • 生産緑地は原則として農地以外に使えませんが、告示から30年経過(特定生産緑地は指定期限日以後)や主たる従事者の死亡などで買取りの申出ができ、3か月で行為制限が解除されます。
    • 都市部の生産緑地で相続税の納税猶予を受ける場合、原則として終身の営農が前提となり、買取りの申出や特定生産緑地の指定を受けないことなどで猶予が打ち切られ、利子税を含めた納付が必要になります。
    • 都市農地貸借法による貸付けなど一定の貸付けでは、農地のまま貸しながら納税猶予を継続できる場合があります。
    • 生産緑地の相続税評価は利用制限を反映して減額されますが、小規模宅地等の特例は使えないため、納税資金の計画が重要です。

    よくある質問

    Q. 父が亡くなりました。生産緑地はすぐに売却できますか?

    農業の主たる従事者が亡くなった場合は、市町村長に買取りの申出ができます。市町村が買い取らず、あっせんも成立しないまま申出から3か月が経過すると、行為の制限が解除され、売却や転用が可能になります。ただし、相続人が納税猶予を受ける場合は申出が猶予の打切り事由になるため、納税猶予を受けるかどうかと一緒に判断してください。

    Q. 特定生産緑地の指定を受けないと、どうなりますか?

    特定生産緑地の指定を受けなかった生産緑地は、買取りの申出をしない場合でも、これまでの税制上の措置が受けられなくなるとされています。また、納税猶予を受けている場合は、指定を受けなかったことや、指定期限の延長をしなかったことが猶予の打切り事由になります。指定期限の到来前に、家族で方針を確認しておきましょう。

    Q. 納税猶予を受けている生産緑地を、人に貸すことはできますか?

    都市農地貸借法に基づく認定都市農地貸付けや、市民農園としての農園用地貸付けなど、一定の貸付けであれば、要件のもとで納税猶予が継続されます。一方、制度の要件に沿わない貸付けは猶予の打切り事由になりえます。貸し付ける前に、制度上の手続と要件を確認してください。

    Q. 納税猶予が打ち切られると、どのくらいの負担になりますか?

    猶予されていた相続税額に加え、猶予期間に応じた利子税を納付する必要があります。利子税の割合は、都市営農農地等の有無などによって異なり、特例基準割合に応じて軽減される仕組みもあります。猶予期間が長いほど負担は大きくなりうるため、具体的な金額は過去の申告内容を基に試算することが大切です。

    Q. 生産緑地にも小規模宅地等の特例は使えますか?

    使えません。小規模宅地等の特例は、建物や構築物の敷地として使われている宅地等が対象で、農地は対象外とされています。生産緑地の相続税評価には、買取りの申出ができるまでの期間に応じた減額の仕組みがありますが、納税資金の計画は別途立てておく必要があります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、P.416-426
    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.42-47
    • 『〔机上調査→現地調査→役所調査→評価〕4STEPで身につく〈入門〉土地評価の実務』風岡範哉・田中泰男 著、清文社、P.376-391
  • 不動産を相続する前に、残す・売る・組み替えるを考える|評価と時価の差、分けやすさ、納税資金、承継後の運営から選ぶ

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    相続を見据えて不動産をどうするかは、「残す」「売る」「組み替える」のどれが正解かではなく、物件ごとに役割を決める作業です。判断の軸は、相続税評価額と市場価格の差、家族で分けやすいか、納税資金をどう用意するか、引き継いだ人が運営し続けられるか、の4つに整理できます。

    そのうえで、時期の問題があります。国税庁は2026年9月に、課税時期前5年以内に取得・新築した貸付用不動産を「通常の取引価額」で評価する通達案を公表しました(令和9年1月1日以後の相続等に適用予定、意見募集中で最終通達は未発遣)。相続の直前に賃貸物件を買い足す「組み替え」は、これまでと同じ前提では考えにくくなっています。

    この記事では、相続前の現状把握を終えた方が、次に「どう動くか」を選ぶための考え方を整理します。

    「残す・売る・組み替える」は物件ごとに選ぶ

    相続財産に占める不動産の比重は大きく、国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月)では、相続財産の金額のうち土地が7兆4,074億円、家屋が1兆1,901億円で、合計24兆5,415億円に対し土地だけで約3割(30.2%)を占めています。不動産の扱いが相続全体の結果を左右しやすいのはこのためです。

    不動産の選択肢は、大きく次の3つです。

    • 残す:現状のまま保有し、誰が引き継ぐかを決めておく
    • 売る:相続前に売却して現金化する、または相続後に売却して納税や分割に充てる
    • 組み替える:売却と購入を組み合わせる(買い替え)、保有の主体を個人から法人に移す(法人化)、分けやすい資産に置き換える

    ここで大切なのは、すべての不動産に同じ答えを出す必要はないということです。収益力の高い物件は残し、収益が低く分けにくい物件は売る、という判断は自然です。まずは物件ごとに「この不動産は家族にとってどんな役割を持つのか」を言葉にしておくと、選択の理由が説明しやすくなります。

    現状の確認事項(評価・収益性・共有・納税資金)については、関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で整理しています。

    判断の4つの軸

    AEGISでは、物件ごとの判断を次の4つの軸で整理することをおすすめしています。

    判断の軸確かめること「残す」に向く状態「売る・組み替える」を検討したい状態
    1. 評価と時価の差相続税評価額と、実際に売れる価格の関係時価が評価額を十分に上回る評価額が時価に近い、または時価を上回る
    2. 分けやすさ相続人の数、物件の数、分割できる形か相続人ごとに引き継ぐ物件を割り当てられる1棟を複数人で共有するしかない
    3. 納税資金相続税の見込み額と、手元の金融資産金融資産や保険で納税できる見込みがある納税のために売却が避けられない
    4. 承継後の運営管理の手間、修繕、借入れ、後継者の意向引き継ぐ人が運営を続けられる管理できる人がいない、大規模修繕が迫る

    それぞれの軸を順に見ていきます。

    1. 評価と時価の差

    相続税の土地評価の基準となる路線価は、国税庁によれば地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています(「令和8年分の路線価等について」)。一般的な土地では、相続税評価額は市場価格より低くなりやすいといえます。賃貸している土地や建物は、借家人の権利を考慮してさらに評価が下がります。

    一方で、形状が悪い土地、道路づけに問題がある土地、需要の弱い地域の土地などでは、評価額が実際に売れる価格を上回ることもあります。このような不動産を「相続税評価額が低いから」と残しても、家族にとっては評価額以上の価値を持たないことになります。

    • 時価が評価額を大きく上回る物件:残すことで相続税の計算上は有利に働きやすい
    • 評価額と時価が近い、または逆転している物件:相続前の売却や組み替えを比較する価値がある

    評価額が時価を上回る土地の扱いは、関連記事「時価が評価額を下回る土地は鑑定で申告できるか」で詳しく解説しています。

    2. 分けやすさ

    相続人が複数いるのに、大きな不動産が1つしかない場合、選択肢は「共有で相続する」「1人が相続して他の相続人に代償金を払う」「売却して代金を分ける」のいずれかになりがちです。

    共有は、その場では公平に見えても、将来の売却・建替え・大規模修繕のたびに共有者全員の調整が必要になります。共有者に次の相続が起きれば、関係者はさらに増えます。相続前の段階で、

    • 物件を分けられる形にしておく(区分できる建物、分筆できる土地など)
    • 相続人の数に合わせて、物件の数や種類を調整する
    • 代償金を払う人の資金の当てを確認しておく

    といった準備をしておくと、相続後の選択肢が広がります。

    3. 納税資金

    相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 タックスアンサーNo.4205)。不動産が中心の財産構成では、この期限までに現金を用意できるかが重要な論点になります。

    相続後に不動産を売って納税する場合、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できる特例があります(租税特別措置法第39条、国税庁 タックスアンサーNo.3267)。売却益にかかる所得税・住民税を抑える効果があるため、「相続後に売る」という選択肢を検討するときの前提になります。ただし、売却が10か月の納付期限に間に合わない場合は、延納などの手当てが別に必要です。

    取得費加算の要件と計算は、関連記事「相続した不動産を売ったときの取得費加算」で、納税資金の準備方法の比較は「相続税の納税資金をどう準備するか」で解説しています。

    4. 承継後の運営のしやすさ

    賃貸不動産は、引き継いだ後も入居者対応、修繕、借入れの返済、確定申告が続きます。相続税の計算だけで「残す」を選ぶと、運営の負担を引き継ぐ人に集中させることになりかねません。

    • 引き継ぐ予定の人は、賃貸経営を続ける意思と時間があるか
    • 築年数から見て、近い将来に大規模修繕や建替えが必要か
    • 借入れの残高と返済期間は、賃料収入とのバランスがとれているか
    • 管理会社との契約内容を、引き継ぐ人が理解しているか

    運営を続けられる人がいない物件は、相続の前後どちらで売るかを含めて検討しておく必要があります。

    「売る」を選ぶとき:相続前か、相続後か

    売ると決めた場合でも、「相続前に本人が売る」か「相続後に相続人が売る」かで、税金と手続きが変わります。

    相続前に売る場合は、売却益に所得税・住民税がかかり、手元に残った現金が相続財産になります。現金は不動産より相続税評価額が高くなる(時価がそのまま評価額になる)ため、相続税の計算上は不利に働くことがあります。一方で、売り急ぐ必要がなく、本人の意思で売却条件を決められる、分けやすい財産に変わる、といった利点があります。

    相続後に売る場合は、相続税は不動産の評価額で計算されたうえで、売却時に取得費加算の特例を使える可能性があります。ただし、相続人どうしで売却の時期や価格に合意できないと、売却そのものが進まないおそれがあります。また、相続税の納付期限までに売却できるとは限りません。

    どちらが有利かは、相続税率、売却益の大きさ、相続人の関係、売却の難易度によって変わります。概算で両方の手取りを比べてから判断することが大切です。

    「組み替える」を選ぶとき:3つの型と注意点

    組み替えには、主に次の3つの型があります。

    組み替えの型ねらい主な注意点
    買い替え収益性の低い物件を、収益性や流通性の高い物件に替える売却時の譲渡所得課税、取得費用、借入れの増加、令和9年以後の評価見直し(通達案)
    法人化保有の主体を資産管理会社に移し、所得の分散や承継のしやすさを図る個人から法人への譲渡時の課税、登録免許税・不動産取得税、会社の株式の評価と承継
    現金化・分けやすい資産への置き換え分割と納税をしやすくする相続税評価額が上がる場合がある、運用先の選択

    買い替えと、令和9年以後の評価見直し

    これまで、相続前に賃貸用の不動産を購入すると、購入価格と相続税評価額の差によって相続税が軽くなる効果が注目されてきました。しかし、国税庁が2026年9月18日に意見募集を始めた「貸付用不動産の評価について(案)」では、次の考え方が示されています。

    • 課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産は、課税時期の「通常の取引価額」に相当する金額で評価する
    • ただし、取得価額がその時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は取得価額に地価変動率を乗じた金額、建物は取得価額から償却費相当額を控除した金額の、それぞれ80%で評価できる
    • 不動産小口化商品についても、別に評価方法を定める
    • 令和9年1月1日以後の相続・遺贈・贈与で取得した財産に適用する

    案の段階であり、意見募集は2026年10月18日まで、最終的な通達はまだ定められていません。それでも、「相続直前に買えば評価が大きく下がる」という前提は、今後は成り立ちにくいと考えておくのが現実的です。買い替えを検討する場合は、評価の効果よりも、収益性、修繕負担、売却のしやすさといった物件そのものの力で判断する姿勢が一層重要になります。

    制度の内容は関連記事「貸付用不動産の相続税評価の見直しとは」で、購入による対策の損得は「相続税評価額が低い不動産なら、必ず相続対策になるのか」で解説しています。

    法人化

    資産管理会社に不動産を移すと、賃料収入が会社に入るため、役員報酬などを通じて家族に所得を分けることができます。また、相続の対象が不動産そのものではなく会社の株式になるため、分け方の設計の幅が広がることもあります。

    一方で、個人から会社に不動産を売る時点で、売却益への課税や移転のコストが発生します。会社の株式の評価や、会社をどう運営していくかという新たな論点も生まれます。法人化は相続のためだけに行うものではなく、長く保有する前提の物件で、所得と運営の両面から意味があるかを確かめて判断したい選択肢です。

    実務上注意したいポイント

    • 物件ごとの一覧を作る:評価額の目安、市場価格の目安、賃料収入、借入残高、築年数、引き継ぐ予定の人を1枚にまとめると、4つの軸で比べやすくなります。
    • 評価額だけで判断しない:相続税が下がっても、収益が低い、分けにくい、売れない物件では、家族の負担が残ります。
    • 相続直前の駆け込みを避ける:評価の見直し(通達案)に加え、評価通達の定めによらない評価が行われる場合もあります(最高裁令和4年4月19日判決)。行動の目的と経緯を説明できるようにしておくことが大切です。
    • 家族と方針を共有する:売る・残すの判断は、相続人の生活や意向と結びつきます。本人の判断の理由を、遺言やメモで残しておくと、相続後の対立を避けやすくなります。
    • 具体的な税額は個別に試算する:売却益、相続税率、特例の適用の可否で結論が変わります。

    AEGISの視点

    不動産の相続対策というと、「評価額をいくら下げられるか」に関心が集まりがちです。しかしAEGISは、相続前の不動産の見直しを「家族が引き継いだ後も、無理なく持ち続けられるポートフォリオに整える作業」と考えています。

    評価額を下げることは、手段の一つにすぎません。評価が下がっても、収益が低く、分けにくく、運営できる人のいない不動産を残せば、相続税は軽くなっても家族の負担は重くなります。逆に、評価額がやや高くても、収益力があり、引き継ぐ人が決まっている不動産は、家族にとって大切な財産であり続けます。

    令和9年以後の貸付用不動産の評価見直し(通達案)は、評価の差だけに頼る対策の見直しを促すものです。AEGISは、この変化を「不動産そのものの力で判断する」という本来の姿に立ち返る機会と捉えています。税(Tax)、所有の形(Ownership)、承継(Succession)を一枚の表で並べ、物件ごとに役割を決めること。それが、残す・売る・組み替えるを選ぶための出発点です。

    相続対策と事業承継を一体で考える全体像は、関連記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産の評価や承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続前の不動産は、「残す・売る・組み替える」を物件ごとに選びます。
    • 判断の軸は、評価と時価の差、分けやすさ、納税資金、承継後の運営のしやすさの4つです。
    • 売る場合は、相続前と相続後で税金と手続きが変わります。相続後の売却では取得費加算の特例が使える可能性があります。
    • 組み替えには、買い替え・法人化・現金化の型があり、それぞれ固有の注意点があります。
    • 課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産の評価見直し(令和9年1月1日以後の相続等に適用予定・通達案)により、相続直前の購入による対策の効果は小さくなる見込みです。
    • 具体的な判断は、個別の試算と家族の意向の確認を踏まえて行うことが大切です。

    よくある質問

    Q. 相続税評価額が低い不動産は、残した方がよいのですか?

    一般的には、時価が評価額を大きく上回る不動産を残すと、相続税の計算上は有利に働きやすいといえます。ただし、収益が低い、分けにくい、管理できる人がいないといった事情があれば、家族の負担が残ります。評価だけでなく、分けやすさ・納税資金・運営のしやすさをあわせて判断することが大切です。

    Q. 不動産は相続前に売るのと、相続後に売るのとでは、どちらが有利ですか?

    一概には決まりません。相続前に売ると財産が現金になり、相続税の計算上は評価額が高くなることがあります。相続後に売ると、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの売却であれば取得費加算の特例を使える可能性がありますが、相続人の合意や納付期限との関係に注意が必要です。両方の手取りを試算して比べることをおすすめします。

    Q. 令和9年からの評価見直しは、すでに持っている賃貸物件にも関係しますか?

    国税庁の通達案では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産が対象とされています。長く保有している物件は、原則として対象外と考えられます。ただし、案の段階であり、増改築や建築中の扱いなどの細部を含め、最終的な通達の内容を確認する必要があります。

    Q. 共有で相続するのは避けるべきですか?

    共有がすべて悪いわけではありませんが、売却・建替え・大規模修繕のたびに共有者全員の調整が必要になり、次の相続で関係者が増えるおそれがあります。相続前に、物件を分けられる形にしておく、相続人ごとに引き継ぐ物件を割り当てる、といった準備を検討しておくと安心です。

    Q. 法人化すれば相続税は必ず軽くなりますか?

    必ず軽くなるとはいえません。個人から会社に不動産を移す時点で譲渡の課税や移転のコストが生じ、相続の対象は会社の株式に変わります。法人化は、所得の分散や運営のしやすさを含めて、長期の保有を前提に意味があるかを確かめて判断する選択肢です。

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    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の紹介・仲介から取得後の管理までをつなげて考えます。
    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『相続税贈与税土地評価実務の教科書』岡部弘幸 著、比佐善宣 監修、現代書林(2020年)第6章「相続不動産の実務」
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局(2018年)第6章「納税資金問題と事業承継・相続対策」
  • 時価が評価額を下回る土地は鑑定で申告できるか|路線価が高すぎる土地の見極め方、鑑定評価による申告と更正の請求

    時価が評価額を下回る土地は鑑定で申告できるか|路線価が高すぎる土地の見極め方、鑑定評価による申告と更正の請求

    路線価などで評価した額が、実際に売れる価格(時価)を上回ってしまう土地は、不動産鑑定士による鑑定評価額で申告することが考えられます。相続税は財産の「時価」で課税するのが法律上の原則であり、財産評価基本通達による評価額は、その時価を求めるための方法だからです。

    ただし、鑑定評価額で申告すれば必ず認められるわけではありません。国税不服審判所の裁決では、納税者の鑑定評価が合理性を欠くとして採用されなかった例も少なくありません。まずは評価通達の範囲で減額要素を漏れなく反映し、それでも時価を上回る場合に、費用とリスクを見比べて鑑定を検討する、という順番が大切です。

    この記事では、評価額が時価を上回る土地への対応を、申告前と申告後の両面から整理します。

    なぜ評価額が時価を上回ることがあるのか

    相続税法第22条は、相続などで取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています。国税庁の財産評価基本通達は、時価を「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」とし、その価額は通達の定めによって評価した価額によるとしています(評価通達1(2))。

    路線価は、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています(国税庁「令和8年分の路線価等について」)。標準的な土地であれば、評価額は時価より低くなるのが一般的です。違いが生じる仕組みは、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか」で解説しています。

    しかし、評価通達は多くの土地を画一的に評価するための仕組みであり、個々の土地のすべての事情を織り込めるわけではありません。通達に定めのない減価要因を持つ土地や、補正率では価値の低さを十分に反映できない土地では、評価額が時価を上回ることがあります。

    評価額が時価を上回りやすい土地

    実務上、次のような土地で評価額が時価を上回りやすいとされています。

    土地の特徴時価が低くなる理由評価通達で反映できる範囲
    道路に接していない、接道が不十分な土地建物が建てられず、買い手が限られる無道路地の補正などで減額できるが、道路までの距離が短いと減額幅が小さい
    道路との高低差が大きい土地、崖状の土地造成に多額の費用がかかる利用価値の著しい低下(10%減)やがけ地補正などで一部反映
    需要の弱い別荘地・原野化した土地そもそも取引が少ない倍率方式では固定資産税評価額の水準に左右される
    広く、分割しても使いにくい土地開発の負担が大きい地積規模の大きな宅地の評価に該当しない場合は反映しにくい
    市街地の中の山林・傾斜地造成費が高く、宅地化しにくい造成費の控除で一部反映
    建築制限・利用制限のある土地(都市計画道路予定地、埋蔵文化財包蔵地など)利用が制約される一部は補正の定めあり、ないものは個別に検討

    このような土地では、「自分ならこの価格で買うか」と評価額を見直してみることが、時価との逆転に気づくきっかけになります。

    まず評価通達の範囲で下げきる

    鑑定を検討する前に確認したいのは、評価通達で認められている減額要素を見落としていないかです。無道路地としての補正、不整形地の補正、セットバック、がけ地、利用価値が著しく低下している宅地、地積規模の大きな宅地など、通達には多くの減額の定めがあります。

    鑑定を考えたものの、実際には通達上の減額要素が反映されていなかっただけ、というケースもあります。通達による評価を正しく行えば、鑑定と同じ程度まで評価額が下がることもあり、その場合は鑑定費用をかける必要はありません。土地の形状などの減額要素の点検は、親記事「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で解説しています。

    鑑定評価による申告の考え方

    認められるための条件

    評価通達は法律ではなく、国税庁内部の取扱いを示すものです。法律が求めるのは時価による評価であるため、通達による評価額が時価を上回ることが明らかな場合には、時価を示す合理的な根拠に基づいて申告することが考えられます。

    ここで問題になるのは、「鑑定評価額が本当にその土地の時価を表しているか」を、納税者側が合理的に説明できるかです。国税不服審判所の裁決では、次のような理由で納税者の鑑定評価が採用されなかった例が見られます。

    • 画地条件の補正の計算や、減価の割合の根拠を示す資料に不十分な点がある
    • 不動産鑑定評価基準が求める手法(取引事例比較法や収益還元法など)を適切に関連づけていない
    • 鑑定評価額の決定の過程を、鑑定評価書から検証できない

    鑑定評価が認められるかどうかは、結論の金額だけでなく、評価の過程が不動産鑑定評価基準に沿って説明されているかによります。依頼する側も、鑑定評価書がその検証に耐える内容になっているかを確認しておくことが大切です。

    鑑定を検討する順番

    AEGISでは、次の順番で検討することをおすすめしています。

    段階行うこと判断のポイント
    1. 気づく評価額と市場の相場感を比べる不動産会社の査定や、近隣の取引の状況を確認
    2. 通達で下げきる通達上の減額要素を漏れなく反映無道路地・高低差・形状・規模・利用制限などを点検
    3. 差を確かめる通達評価額と想定される時価の差を把握簡易な査定や机上の概算で、差の大きさを確認
    4. 費用対効果を見る税額の減少見込みと鑑定費用を比べる相続税率が高いほど、差が税額に与える影響は大きい
    5. リスクを理解する税務調査で認められない可能性を家族で共有認められなかった場合の追加の税負担も想定
    6. 依頼する相続税の土地評価に詳しい不動産鑑定士に依頼評価の過程が基準に沿って説明されているか確認

    鑑定評価額で申告する場合は、できる限り当初の申告から鑑定評価額を用いることが望ましいと考えられます。税務署からの問い合わせに備えて、鑑定評価書のほか、時価が低い理由を示す資料(役所調査の記録、現地の写真、査定書など)を整えておきます。

    売却した価格は時価の根拠になるか

    相続後に実際にその土地を売却した場合、その売却価格は時価を考える有力な材料になります。ただし、売り急いだことによる値下げや、相続から売却までの時間の経過、買主との特殊な関係などがあると、売却価格がそのまま相続の時点の時価とは認められないこともあります。売却価格を根拠にする場合も、取引の経緯を説明できるようにしておくことが大切です。

    申告後に気づいた場合:更正の請求

    すでに通達による評価額で申告を終えた後に、時価がそれを大きく下回ることに気づいた場合は、更正の請求を検討します。法定申告期限から5年以内であれば、税額が過大であったことを理由に更正の請求ができます(国税通則法第23条)。

    更正の請求では、納税者の側で、当初の評価が時価を上回っていたことを示す必要があります。鑑定評価書を添付するのが一般的ですが、当初申告の場合と同様に、評価の合理性が問われます。更正の請求の手続きと期限は、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    なお、相続の後に地価が下落したり災害で価値が下がったりした場合は、相続の時点の時価の問題とは別の論点です。そのような場合の考え方は、関連記事「申告後に相続財産の価値が下がったときにできること」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 時価が評価額より高い土地とのバランス:同じ相続で、評価額が時価より低い土地と高い土地が混在していることがあります。特定の土地だけ鑑定で下げる判断は、全体の説明として一貫しているかも確認します。
    • 遺産分割の基準との関係:遺産分割は時価を基準に話し合われることが多く、評価額と時価が逆転している土地を誰が引き継ぐかは、公平性の問題にもなります。
    • 鑑定費用と期間:鑑定には費用と時間がかかります。申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までのスケジュールに余裕を持って検討します。
    • 土地の活用・売却の判断にもつなげる:時価が低い土地は、相続後に持ち続けるか、売却や活用を検討するかの判断も必要になります。
    • 具体的な判断は個別に:鑑定評価が認められるかは、土地の事情と評価の内容によって異なります。

    AEGISの視点

    評価額が時価を上回る土地は、相続税の計算上だけでなく、家族にとっても「持ち続けるほど負担になりやすい財産」であることが多いものです。建物が建てられない、造成に費用がかかる、買い手がいない。こうした土地は、相続税を多く納めたうえに、その後の管理費や固定資産税の負担も続きます。

    AEGISは、こうした土地の評価の見直しを、税額の問題であると同時に、その土地を今後どうするかを決める機会と考えています。鑑定を検討する過程で把握した時価や利用上の制約は、相続後に売却するのか、活用するのか、別の相続人が引き継ぐのかを判断する材料にもなります。評価の議論で終わらせず、不動産の今後の方針までつなげることが大切です。

    不動産の評価や相続税の申告に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    申告済みの土地について、評価を見直せるかどうかを確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税は時価で課税するのが原則で、評価通達による評価額は時価を求めるための方法です。
    • 接道や高低差、規模、利用制限などの事情がある土地では、評価額が時価を上回ることがあります。
    • まず評価通達の範囲で減額要素を漏れなく反映し、それでも時価を上回る場合に鑑定評価を検討します。
    • 鑑定評価額による申告は、評価の過程が合理的に説明できる場合に認められる余地があり、不採用となった裁決例も多くあります。
    • 申告後に気づいた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます。
    • 費用対効果とリスクを家族で共有したうえで判断することが大切です。

    よくある質問

    Q. 路線価で評価した額が売れる価格より高い場合、そのまま申告しなければなりませんか?

    必ずしもそうではありません。相続税は時価で課税するのが原則であり、評価通達による評価額が時価を上回ることを合理的に示せる場合は、不動産鑑定評価額などで申告することが考えられます。ただし、まずは評価通達で認められている減額要素が反映されているかを確認することが先です。

    Q. 鑑定評価額で申告すれば、必ず認められますか?

    必ず認められるわけではありません。取引事例の選び方や補正の計算、評価手法の適用に不適切な点があるとして、鑑定評価が採用されなかった裁決例があります。相続税の土地評価に詳しい不動産鑑定士に依頼し、評価の過程を説明できるようにしておくことが大切です。

    Q. 鑑定費用をかける価値があるかは、どう判断すればよいですか?

    通達評価額と想定される時価の差に、相続税の税率を掛けた額が、税額の減少の目安になります。この目安と鑑定費用を比べ、さらに認められなかった場合の追加の税負担の可能性も考えて判断します。差が小さい場合は、鑑定を行わない判断も合理的です。

    Q. 申告後に評価額が高すぎたと気づいた場合、どうすればよいですか?

    法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求ができます。鑑定評価書などで、当初の評価額が時価を上回っていたことを示す必要があります。期限が近い場合は、早めに検討を始めることをおすすめします。

    Q. 相続後に売った価格が評価額より低い場合、その価格で申告し直せますか?

    売却価格は時価を考える有力な材料になりますが、売り急ぎや相続からの時間の経過などがあると、そのまま相続の時点の時価とは認められないこともあります。売却の経緯を含めて、相続の時点の時価として説明できるかを確認する必要があります。

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    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『相続税・贈与税 土地評価実務テキスト』鎌倉靖二 著、税務研究会出版局(2014年)Ⅴ「財産評価基本通達に従った評価額が時価よりも高くなる場合とその対処法」、ワンポイントQ&A
    • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい(2023年)15「時価」
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2012年)CASE6・CASE11
  • 相続税評価額が低い不動産なら、必ず相続対策になるのか|評価差だけでなく借入れ・収益・売却・制度変更まで含めて試算する

    相続税評価額が低い不動産なら、必ず相続対策になるのか|評価差だけでなく借入れ・収益・売却・制度変更まで含めて試算する

    結論からいうと、相続税評価額が購入価格より低い不動産を買っても、それだけで「得」になるとは限りません。相続税が下がる効果は、購入価格と評価額の差から生まれますが、その差は購入した瞬間から、物件の収益性、借入れの負担、将来の売却価格、そして制度の変更によって目減りしていきます。

    さらに、国税庁は2026年9月、課税時期前5年以内に取得・新築した貸付用不動産を「通常の取引価額」で評価する通達案を公表しました(令和9年1月1日以後の相続等に適用予定、意見募集中で最終通達は未発遣)。相続の数年前に賃貸物件を買う対策は、前提そのものが変わろうとしています。

    この記事では、購入型の相続対策の損得を、評価の差だけでなく「家族の手元に最終的に何が残るか」で試算する考え方を整理します。

    なぜ「不動産を買うと相続税が下がる」といわれるのか

    相続税は、財産の「取得の時における時価」で計算するのが原則です(相続税法第22条)。国税庁は、その時価の具体的な評価方法を財産評価基本通達で定めています。

    現金は額面どおりに評価されますが、不動産は次のような仕組みで、購入価格より低く評価されることが多くなります。

    • 土地:路線価で評価します。路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています(国税庁「令和8年分の路線価等について」)が、この記事を投稿する時点においては、都市部の路線価は時価の80%を大きく下回っています。
    • 建物:固定資産税評価額を基に評価します。一般に建築費や購入価格より低くなります。
    • 賃貸している場合:借家人の権利を考慮し、土地は「貸家建付地」、建物は「貸家」として、さらに評価が下がります(国税庁 タックスアンサーNo.4614)。

    たとえば現金1億円で賃貸物件を買うと、相続財産は「1億円の現金」から「評価額が1億円より低い不動産」に置き換わります。この差が、相続税の計算上の効果になります。

    評価差だけで判断すると見落とす4つのこと

    ここで注意したいのは、相続税の計算上の効果と、家族にとっての経済的な損得は別物だということです。評価差だけを見ていると、次の4つを見落とします。

    1. 時価が下がれば、効果は相殺される

    相続後に家族が実際に受け取るのは、評価額ではなく、その不動産の市場価値です。購入価格には仲介手数料や登記費用、不動産取得税などの取得費用がかかり、購入直後に売れば購入価格を下回ることが一般的です。建物は年数とともに価値が下がり、地域によっては土地の価格も下がります。

    相続税が数百万円軽くなっても、不動産の時価がそれ以上に下がれば、家族の手元に残る財産は減ってしまいます。

    2. 借入れは「負債が残る」ことでもある

    借入れで不動産を買うと、借入金は相続税の計算上、債務として差し引かれます。そのため「借入れで買うと効果が大きい」と説明されることがあります。しかし、借入れによる効果の本体は、あくまで不動産の評価が下がることにあり、借入れそのものが財産を増やすわけではありません。

    引き継いだ家族は、返済を続ける義務も引き継ぎます。金利が上がれば、返済額が増える可能性もあります。賃料収入で返済を賄えるかどうかが、損得を分ける大きな要素です。

    3. 収益が低い物件は、毎年の手取りを減らす

    賃貸物件は、賃料から管理費、修繕費、固定資産税、借入れの利息を差し引いた手取りで評価すべき資産です。空室が続く、修繕費がかさむといった物件は、相続税が軽くなっても毎年の資金を少しずつ失わせます。

    4. 売りたいときに売れるとは限らない

    相続後に納税や分割のために売却しようとしても、立地や築年数によっては買い手がつきにくく、想定より大きく値下げしなければならないことがあります。売却のしやすさ(流動性)は、購入時の利回り以上に重要な判断要素です。

    制度の変化:令和9年以後の評価見直しと「総則6項」

    貸付用不動産の評価見直し(通達案)

    国税庁が2026年9月18日に意見募集を始めた「貸付用不動産の評価について(案)」では、次の考え方が示されています。

    • 課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産は、課税時期の「通常の取引価額」に相当する金額で評価する
    • 取得価額がその時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は「取得価額×地価変動率」、建物は「取得価額-償却費相当額」の、それぞれ80%で評価できる
    • 不動産特定共同事業などで小口化された不動産(いわゆる不動産小口化商品)は、別の方法で評価する
    • 令和9年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産に適用する

    背景として、国税庁は政府税制調査会の専門家会合(令和7年11月13日)で、相続開始前の駆け込み取得の事例では購入価格と通達評価額の乖離が中央値で3倍を超えていたことなどを示しています。

    案の段階であり、意見募集は2026年10月18日までで、最終的な通達はまだ定められていません。それでも、相続の5年以内に買った賃貸不動産は、評価が購入価格の8割程度まで戻る可能性があると考えておくのが現実的です。そうなると、評価差による効果は従来よりも大きく縮小します。

    制度の詳しい内容は、関連記事「貸付用不動産の相続税評価の見直しとは」で解説しています。

    評価通達によらない評価(総則6項)

    財産評価基本通達には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産」は国税庁長官の指示を受けて評価する、という定めがあります(評価通達6項)。

    最高裁令和4年4月19日判決は、相続税の負担を減らすことを期待して借入れにより不動産を購入した事案で、評価通達による画一的な評価が「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」がある場合には、通達を上回る価額(この事案では鑑定評価額)で評価しても違法ではないと判断しました。この事案では、購入と借入れがなければ課税価格の合計が6億円を超えていたのに、申告では基礎控除によって相続税が0円とされていました。

    つまり、通達案の対象にならない場合でも、取得の経緯や目的によっては、通達どおりの評価が認められないことがあります。否認の判断枠組みについては、関連記事「評価を下げる対策が否認されるとき」で解説しています。

    損得を試算するときの考え方

    購入型の対策が本当に得かどうかは、次の項目を並べて試算すると見えてきます。

    試算の項目内容損得への影響
    A. 相続税の軽減額購入しない場合と購入した場合の相続税の差プラス
    B. 取得費用仲介手数料、登記費用、不動産取得税などマイナス
    C. 保有中の手取り賃料-管理費・修繕費・税金・利息プラスにもマイナスにもなる
    D. 時価の変動相続時点・売却時点の市場価値と購入価格の差プラスにもマイナスにもなる
    E. 売却時の税金とコスト譲渡所得課税、仲介手数料などマイナス
    F. 制度変更・否認のリスク評価見直し(通達案)、総則6項による評価Aを縮小・消失させる

    損得の判断は、「A+C+D」から「B+E」を差し引いた結果が、何もしなかった場合と比べてプラスかどうかで考えます。そのうえで、Fのリスクを踏まえて、Aがどの程度まで小さくなっても成り立つかを確かめます。

    ポイントは次のとおりです。

    • Aは最大値ではなく、縮んだ場合でも試算する:通達案が適用されると、5年以内取得の物件のAは大きく減ります。
    • Dは楽観せずに試算する:購入価格どおりに売れる前提を置かず、値下がりした場合も確認します。
    • Cは借入金利の上昇も想定する:返済額が増えても手取りがマイナスにならないかを確かめます。
    • 購入から相続までの期間を考える:期間が短いほど、評価見直しや否認のリスクが高まり、時価の下落を賃料収入で補う時間も短くなります。

    「相続対策として買ってよい不動産」の条件

    評価差による効果を前提にしない場合、相続対策として不動産を持つ意味があるのは、次のような場合です。

    • 相続税がなくても持ちたい物件である:収益性と立地から、投資として成り立つ
    • 引き継ぐ人と役割が決まっている:誰が相続し、どう運営するかが明確
    • 分けやすさや納税資金の計画と整合している:特定の相続人に偏らない、売却で納税資金を作れる
    • 購入の目的と経緯を説明できる:事業上・資産形成上の理由が記録に残っている

    相続対策は、不動産を「買う理由」ではなく、不動産を持つことの「副次的な効果」として位置づけるのが健全です。購入前に確認したいことは、関連記事「高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと」、所有地の活用を評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。

    すでに購入した不動産がある場合

    過去に相続対策として不動産を購入している場合は、次の点を確認しておくとよいでしょう。

    • 取得時期が、相続等の時点から見て5年以内に入る可能性があるか(通達案の対象範囲)
    • 現在の収支と借入残高は健全か、売却した場合の手取りはいくらか
    • 購入の目的や経緯を示す資料(検討資料、事業計画、融資の稟議資料など)が残っているか

    また、すでに相続税の申告を終えている場合でも、不動産の評価に誤りがあったときは、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができます(国税通則法第23条)。申告内容の点検については、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」を参照してください。

    AEGISの視点

    「不動産を買えば相続税が下がる」という説明は、計算の一部だけを切り取ったものです。AEGISは、購入型の相続対策を「相続税の計算」ではなく「家族の財産の総額と質」で評価すべきものと考えています。

    相続税が軽くなっても、不動産の時価が下がり、借入れの返済に追われ、売りたいときに売れなければ、家族の手元に残るものは減ります。逆に、収益力と流動性のある不動産を、引き継ぐ人と役割を決めて持つことは、相続税の効果がなくても家族にとって価値があります。

    令和9年以後の評価見直し(通達案)と、最高裁令和4年判決以降の実務は、評価差だけに頼る対策の時代が終わりつつあることを示しています。だからこそ、購入の判断を「税引後の手残り」と「承継後の運営」から行い、相続税の効果はその結果としてついてくるもの、と捉え直すことが大切だと考えています。

    相続対策と事業承継を一体で考える全体像は、関連記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で、相続前の不動産を残す・売る・組み替える判断は「不動産を相続する前に、残す・売る・組み替えるを考える」で解説しています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産の評価や承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産は購入価格より低く評価されることが多く、その差が相続税の計算上の効果になります。
    • しかし、時価の下落、取得・売却のコスト、借入れの負担、収益性、売却のしやすさによって、家族にとっての損得は変わります。
    • 課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産を通常の取引価額で評価する見直しが、令和9年1月1日以後の相続等に適用される予定です(通達案・最終通達は未発遣)。
    • 通達の対象外でも、取得の経緯によっては評価通達によらない評価が行われることがあります(最高裁令和4年4月19日判決)。
    • 損得は、相続税の軽減額・取得費用・保有中の手取り・時価の変動・売却時のコスト・制度変更のリスクを並べて試算します。
    • 具体的な効果は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 不動産を買えば、相続税は必ず安くなりますか?

    相続税の計算上は、現金より不動産の評価額が低くなることが多いため、税額が下がる場合はあります。ただし、令和9年1月1日以後の相続等では、5年以内に取得した貸付用不動産の評価が見直される予定(通達案)であり、取得の経緯によっては評価通達によらない評価が行われることもあります。また、税額が下がっても、家族の財産全体が増えるとは限りません。

    Q. 借入れで不動産を買うと、効果が大きくなるのですか?

    借入金は債務として差し引かれますが、効果の中心は不動産の評価が下がることにあります。借入れで買う場合は、返済の義務を家族が引き継ぎ、金利上昇の影響も受けます。最高裁令和4年判決の事案も借入れによる購入でした。賃料で返済を賄えるかを含めて判断することが大切です。

    Q. 令和9年より前に相続が起きれば、今の評価方法のままですか?

    国税庁の通達案では、令和9年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産の評価に適用するとされています。それより前の相続等には、現行の評価方法が適用されると考えられますが、最終的な通達の内容を確認する必要があります。なお、現行の評価方法の下でも、評価通達6項による評価が行われる可能性はあります。

    Q. 不動産小口化商品も同じように扱われますか?

    通達案では、不動産特定共同事業などにより小口化された貸付用不動産について、取得時期にかかわらず通常の取引価額で評価する別の定めが置かれています。元本等相当額や鑑定評価額などを基にした評価方法も示されています。最終的な通達の内容を確認したうえで判断してください。

    Q. 相続対策として不動産を買うなら、何を基準に選べばよいですか?

    相続税の効果がなくても持ちたいと思える収益性と立地があるか、引き継ぐ人と運営の方法が決まっているか、売却しやすいか、購入の目的を説明できるか、が基準になります。評価差は結果としての効果と位置づけ、税引後の手残りで判断することをおすすめします。

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    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の紹介・仲介から取得後の管理までをつなげて考えます。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局(2018年)第1章「事業承継・相続対策総論」
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント[第3集]』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2018年)CASE3
  • 相続した賃貸物件の評価を見直すときの確認点|賃貸割合と一時的な空室、一括借上げ、複数棟、駐車場

    相続した賃貸物件の評価を見直すときの確認点|賃貸割合と一時的な空室、一括借上げ、複数棟、駐車場

    相続した賃貸アパートやマンションの相続税評価を見直すときは、「どの部分が、相続の時点で貸していると扱えるか」と「どの範囲を1つの土地として評価するか」の2点を中心に確認します。

    賃貸物件の敷地は「貸家建付地」として、自分で使っている土地より低く評価されます。その減額の大きさを決めるのが「賃貸割合」です。相続の時点でたまたま空室があった部分を、一時的な空室として賃貸中と扱えるかどうかで、評価額が変わります。また、複数の建物や駐車場がある敷地では、評価の単位の分け方によっても結果が変わります。

    この記事では、賃貸物件特有の評価の論点を、申告後に見直すときの確認の順番に沿って整理します。土地の形状などによる一般的な減額要素は、親記事「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で扱っています。

    貸家建付地と貸家の評価の基本

    国税庁のタックスアンサー(No.4614)によれば、貸家建付地とは、所有する土地に建てたアパートやビルを他人に貸している場合の、その敷地をいいます。評価は次の算式によります。

    貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 -(自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

    借地権割合と借家権割合は、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認します。建物(貸家)も、固定資産税評価額を基にした価額から、借家権割合と賃貸割合に応じた分を差し引いて評価します(財産評価基本通達93)。

    この減額が認められるのは、借家人が建物とその敷地をある程度支配しており、所有者が自由に使えず、売るときも借家人付きの価格になるからです。逆にいえば、相続の時点で実際に貸していない部分には、原則として減額は及びません。国税庁の質疑応答事例でも、借家人が退去して空き家となっている家屋の敷地は、たとえ賃貸用に建てた建物であっても、自用地として評価するとされています。

    確認点1:賃貸割合と「一時的な空室」

    賃貸割合の計算

    賃貸割合は、アパートなどの各独立部分(壁や扉で区切られ、独立して貸せる部屋)の床面積の合計のうち、相続の時点で賃貸されている部分の床面積の割合です。20室のうち4室が空室なら、各室の広さが同じであれば賃貸割合は80%になり、その分だけ減額が小さくなります。

    一時的な空室として扱える場合

    ただし、継続的に賃貸されてきた部屋が、相続の時点でたまたま空いていただけと認められる場合は、賃貸されているものとして扱って差し支えないとされています。国税庁は、その判断の目安として次の事実関係を挙げています(No.4614、質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」)。

    確認する事実見直しのときに確かめたい資料
    相続の前から継続的に賃貸されてきたか過去の賃貸借契約書、入居者の履歴
    退去後、速やかに入居者の募集をしたか管理会社への募集依頼の記録、募集広告
    空室の間、他の用途に使っていないか物置・自己使用などがないことの確認
    空室の期間が、例えば1か月程度など一時的か退去日と次の入居日の記録
    相続後の賃貸が一時的なものではないか相続後の入居状況、賃貸借契約書

    国税庁の質疑応答事例では、学生向けアパートで卒業による退去が重なり、相続の時点で半分ほどが空室だったものの、新入居者を募集し月末には満室になっていたケースで、空室部分を賃貸中に含めて計算して差し支えないとしています。

    「1か月程度」は目安であり、総合判断

    「1か月程度」という期間は例示であり、これを超えたら直ちに認められないというものではありません。国税不服審判所の裁決では、20室中4室が2か月から1年11か月空いていた賃貸マンションについて、速やかな修繕と募集、定期的な補修、周辺に競合物件が多い事情などを総合して一時的な空室と認め、賃貸割合を100%とした例があります(平成20年6月12日裁決)。

    一方で、空室が長期間続き、相続後も貸付けの用に供されずに売却された事案では、一時的な空室とは認められなかった例もあります(平成21年3月25日裁決)。

    結論を分けるのは、空室の期間の長さそのものより、「賃貸を続ける意思と行動が、記録で確認できるか」です。申告の見直しでは、当初の申告で空室を一律に除外していないか、逆に長期の空室を根拠なく賃貸中としていないか、の両面を確認します。

    確認点2:一括借上げ(サブリース)の扱い

    建物を管理会社などに一括で貸し、その会社が入居者に転貸する一括借上げ(サブリース)の場合、所有者から見た借家人は一括借上げをした会社です。建物全体を一括で貸しているため、各部屋に入居者がいるかどうかにかかわらず、建物全体が賃貸されていると考えられ、賃貸割合は高くなる傾向があります。

    見直しでは、次の点を確認します。

    • 相続の時点で一括借上げの契約が有効に続いていたか(契約期間、更新、解約の有無)
    • 契約の対象がどの建物・どの部屋か(建物の一部だけが対象になっていないか)
    • 契約の相手方と実際の運営の実態が一致しているか

    一括借上げの契約内容の読み方は、関連記事「賃貸管理を委託するときの契約の確認点」で解説しています。

    確認点3:複数棟の評価単位

    土地は「1画地」ごとに評価します。国税庁の質疑応答事例「宅地の評価単位」では、貸家建付地を評価する場合において貸家が数棟あるときは、原則として各棟の敷地ごとに1画地とするとされていますが、借地権が同一の契約により締結されている場合には、複数棟の借地権を一体で評価するのが原則です。

    評価単位の分け方は、間口・奥行・形状による補正や、地積規模の大きな宅地の評価の適用判定に影響します。そのため、次のような点で当初の申告と異なる判断があり得ます。

    • 一括借上げで複数棟を1通の契約で貸している場合:多くの場合一体評価が認められますが、国税不服審判所の裁決には、5棟の共同住宅が1通の契約で一括借上げされていても、各棟の敷地ごとに1画地として評価するのが相当とした例があります(平成26年4月25日裁決)。契約が1つであることだけで、敷地全体を1単位とできるわけではありません。
    • 遺産分割で複数の相続人が分けて取得した場合:取得者ごとに分けて評価するのが原則ですが、分割後の土地が通常の用途に使えないなど著しく不合理な分割の場合は、分割前の単位で評価します(質疑応答事例「宅地の評価単位」)。
    • 通路・植栽・ゴミ置場など共用部分:どの棟の敷地に含めるかを、現地の利用状況で確認します。

    確認点4:敷地内の駐車場

    アパートの敷地内にある駐車場の扱いは、利用者によって変わります。

    • 入居者専用の駐車場で、建物の敷地と一体として利用されている場合:建物の敷地と合わせて貸家建付地として評価する考え方があります。
    • 外部の人にも貸している駐車場:駐車場部分は借家人の権利が及ばないため、原則として自用地としての評価に近くなります。実務では、建物と駐車場を1つの評価単位としたうえで、土地の面積を基準に賃貸割合を調整して、駐車場部分を自用地として扱う方法がとられることもあります。
    • 塀などで区切られ、別に貸している駐車場:別の評価単位として扱うのが一般的です。

    駐車場の扱いは現地の状況による判断が大きく、裁決でも判断が分かれています。駐車場経営そのものの税金と評価は、関連記事「駐車場経営の税金と相続」で解説しています。

    見直しの進め方

    賃貸物件の評価を見直すときは、次の順番で確認すると効率的です。

    順番確認すること主な資料
    1相続の時点の入居状況(部屋ごと)レントロール、賃貸借契約書
    2空室の部屋ごとの退去日・募集・再入居の記録管理会社の記録、募集広告
    3一括借上げ契約の有無と内容一括借上げ契約書
    4建物の棟数と、敷地の区分・共用部分登記事項証明書、配置図、現地写真
    5駐車場の利用者と区画、契約形態駐車場契約書、区画図
    6当初申告の評価明細書との突き合わせ土地及び土地の上に存する権利の評価明細書

    見直しの結果、当初の申告で評価額が過大だったと判明した場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができます(国税通則法第23条)。反対に、評価が過少だった場合は修正申告が必要になります。更正の請求の手続きは、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 相続後の記録を残す:一時的な空室の判断では、相続後の入居状況も考慮されます。相続後すぐの募集・入居の記録を残しておくことが大切です。
    • 「満室扱い」は根拠とセットで:賃貸割合を100%とする場合は、空室ごとに一時的といえる事情を説明できるようにしておきます。
    • 小規模宅地等の特例との関係:賃貸物件の敷地は、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の対象になる場合があります。評価を見直すときは、特例の適用面積や選択の見直しもあわせて検討します。
    • 個別の判断が多い:評価単位や駐車場の扱いは事実関係で結論が変わります。具体的な適用は個別事情によって異なります。

    AEGISの視点

    賃貸物件の評価は、計算式そのものは単純です。しかし、賃貸割合や評価単位の判断は、相続の時点の「賃貸経営の実態」をどう記録し、説明できるかにかかっています。

    AEGISは、賃貸物件の評価の見直しを、申告書の数字の点検にとどまらず、相続前後の賃貸経営の記録を読み解く作業と考えています。退去後すぐに募集していたか、修繕を続けていたか、管理会社とどのような契約を結んでいたか。こうした日々の運営の積み重ねが、評価の結論を支える根拠になります。

    裏を返せば、オーナーが生前から入居状況・募集・修繕の記録を整えておくことは、相続後の家族を助けることにもつながります。不動産管理の質と相続税の評価は、別々のテーマに見えて、実は一つながりのものです。

    不動産の評価や相続税の申告に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    申告済みの賃貸物件の評価について、見直しの余地を確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 賃貸物件の敷地は貸家建付地として、借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じて減額して評価します。
    • 相続の時点で空室だった部屋も、継続的な賃貸と速やかな募集など一定の事実関係から一時的な空室と認められれば、賃貸中として扱えます。「1か月程度」は例示です。
    • 一括借上げでは借家人が借上げ会社となり、賃貸割合は高くなる傾向がありますが、契約の有効性と範囲の確認が必要です。
    • 複数棟の貸家は、原則として各棟の敷地ごとに評価単位を分けます。一括借上げの契約が1通でも同様と判断された裁決例があります。
    • 駐車場は、入居者専用か外部貸しかなどで扱いが変わります。
    • 評価が過大だった場合は、法定申告期限から5年以内に更正の請求ができます。

    よくある質問

    Q. 相続のときに空室があった部屋は、必ず自用として評価されるのですか?

    必ずではありません。継続的に賃貸されてきた部屋で、退去後すぐに募集を行い、他の用途に使わず、相続後も賃貸が続いているなど、一時的な空室と認められる事情があれば、賃貸中として扱って差し支えないとされています。

    Q. 空室の期間が1か月を超えていると、一時的な空室とは認められませんか?

    国税庁が示す「1か月程度」は例示です。国税不服審判所の裁決には、最長1年11か月の空室を含めて、募集や修繕の状況、周辺の競合状況などを総合して一時的な空室と認めた例があります。ただし、長期の空室が続き相続後も貸されていない場合は認められなかった例もあり、事実関係によって判断されます。

    Q. 一括借上げ(サブリース)の物件は、空室があっても賃貸割合100%になりますか?

    一括借上げ契約により建物全体を借上げ会社に貸している場合、所有者から見た借家人は借上げ会社であり、建物全体が賃貸されていると考えられます。ただし、相続の時点で契約が有効に続いていたか、対象の範囲はどこかなどを契約書で確認する必要があります。

    Q. 同じ敷地に2棟のアパートがあります。評価単位は1つですか、2つですか?

    貸家建付地を評価する場合、貸家が数棟あるときは、原則として各棟の敷地ごとに1画地として評価します。2棟をまとめて1つの契約で一括借上げしている場合でも、各棟ごとに分けるのが相当とした裁決例があります。

    Q. 評価の誤りに気づいた場合、いつまでに手続きをすればよいですか?

    評価が過大で税額を多く納めていた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができます。期限が近い場合は、早めに資料を集めて検討することをおすすめします。

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    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2012年)CASE18・CASE19
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント[第3集]』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2018年)CASE2
    • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい(2023年)1「評価単位、地目判定」
  • 土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは|所有と運営を分ける意味と、税務・承継で注意したいこと

    土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは|所有と運営を分ける意味と、税務・承継で注意したいこと

    土地を事業の場として活用するとき、「土地や建物は誰が持ち、事業は誰が運営するのか」という問いは避けて通れません。オーナー個人が土地を持ち、事業はオーナーが関わる会社が運営する——このように所有と運営を分ける設計は、事業型の土地活用や、同族会社が使う不動産の扱いでよく見られる形です。

    結論から言えば、所有と運営を分ける意味は、「事業のリスクと成果」と「土地という資産」を切り分け、それぞれを適した人に、適した形で引き継げるようにすることにあります。ただし、分ければ自動的に有利になるわけではありません。分けた両者の間の貸し借りの条件を適切に設計しなければ、税務上の思わぬ課税や、承継時の混乱を招くことがあります。

    所有と運営を分ける、とはどういう形か

    所有と運営の分け方には、いくつかの典型的な形があります。

    形土地建物事業の運営両者の関係
    Aオーナー個人運営会社運営会社個人が会社に土地を貸す
    Bオーナー個人オーナー個人運営会社個人が会社に建物を貸す
    C資産管理会社資産管理会社運営会社会社間で土地・建物を貸す
    D運営会社運営会社運営会社分けない(参考)

    どの形をとるかによって、誰が建物の投資を負担するか、誰に家賃・地代が入るか、相続のときに何を誰が引き継ぐかが変わります。不動産を個人と法人のどちらで持つかの比較や、資産管理会社の活用は、それぞれ別の論点として検討が必要です。

    分けることの意味

    1. 事業のリスクと土地を切り分けられる

    事業には、業績の変動や撤退の可能性があります。土地と事業を同じ主体が持っていると、事業の不振がそのまま土地の処分につながることもあります。所有と運営を分けておけば、事業を見直す場面でも、土地を家族の資産として維持しやすくなります。

    2. 承継の担い手を分けられる

    土地を引き継ぐ人と、事業を担う人が同じとは限りません。たとえば、土地は家族全体の資産として承継しつつ、事業は経営を担える後継者や外部の事業者に委ねる、という組み立てが可能になります。

    3. 事業の売却・提携・入れ替えがしやすくなる

    運営会社の株式や事業を他者に引き継ぐ場合でも、土地は手元に残せます。逆に、事業者を入れ替えて土地を別の事業に使うことも検討しやすくなります。

    4. 収益の性格を区別して管理できる

    土地・建物から得る地代・家賃と、事業から得る利益を分けて管理することで、それぞれの採算が見えやすくなります。

    分けるときに確認したいこと

    地代・家賃の水準と契約

    所有者と運営会社が同族関係にある場合、地代や家賃をいくらにするかは、当事者だけで決められてしまいます。しかし、その水準は税務上の扱いに影響します。周辺の相場や、事業がその家賃を負担できるかを踏まえて設定し、契約書で条件を明確にしておくことが基本です。

    借地権の課税関係:法人が関わる土地の貸し借り

    特に注意したいのが、形A(個人の土地に運営会社が建物を建てる)のように、建物の所有を目的として土地を貸す場合です。

    土地の貸し借りでは、権利金や地代の授受の有無・水準によって、借地権の課税関係が変わります。個人間の無償の貸し借り(使用貸借)については、国税庁の通達で、建物の所有を目的とする使用貸借による使用権の価額は零として取り扱い、その土地を相続などで取得した場合は自用地として評価する旨が示されています。

    一方、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間と同じ考え方にはならず、権利金を授受しないことが借地権の認定課税につながることがあります。こうした場面のために、契約で将来土地を無償で返還することを定め、その旨を税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」という手続(法人税基本通達13-1-7を根拠とするもの)が設けられています。届出の有無や地代の水準によって、借地権の課税関係や、相続時の土地の評価、運営会社の株式評価への影響が変わるため、形Aを選ぶ場合は契約の段階から確認しておく必要があります。

    国税庁の通達では、土地の自用地としての価額に対しおおむね年6%程度の地代を「相当の地代」としています(法人税の取扱いでも、当分の間は年6%とされています)。権利金を受け取らずに相当の地代を受け取っている場合や、賃貸借で「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価されます。あわせて、被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合には、自用地としての価額の20%相当額が借地権の価額としてその会社の株式評価上の純資産価額に算入されます。土地と株式の両方を同じ家族が承継する場合、土地の評価が下がった分の一部が株式の評価に移る、と捉えると全体像をつかみやすくなります。

    相続時の評価と小規模宅地等の特例

    所有と運営を分けると、相続のときに土地がどの区分で評価されるかも変わります。

    • 個人の土地・建物を運営会社に貸している場合(形B)、土地は貸家の敷地として評価が検討されます。
    • 個人の土地を運営会社に貸し、会社が建物を持つ場合(形A)、土地は貸宅地として扱われ、上記の届出や地代の条件によって評価が変わります(相当の地代や無償返還の届出がある場合は自用地としての価額の80%、地代を受け取らない使用貸借で無償返還の届出がある場合は自用地としての価額)。

    小規模宅地等の特例についても、国税庁によれば、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等は「特定同族会社事業用宅地等」として400㎡まで80%の減額の対象となり得ます。この区分では、相続税の申告期限においてその宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、申告期限まで宅地等を保有することなどの要件があります。また、被相続人などから法人への土地(または建物)の貸付けが、相当の対価を得て継続的に行うものなど特例上の「事業」に当たることが前提とされており、無償(使用貸借)で貸している場合はこの区分の対象になりません。一方、運営会社の事業が不動産貸付業等にあたる場合や、要件を満たさない場合は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%)として検討されるか、特例の対象外となります。

    どの区分に当たるかは、土地・建物を誰が持ち、運営会社にどのような条件で貸しているか、運営会社の事業が何か、誰が引き継ぐかによって変わります。設計の段階で、承継の場面まで想定して確認しておくことが重要です。

    会社間・個人と会社間の取引を記録する

    所有者と運営会社の間では、賃貸借契約、賃料の支払い、修繕費の負担区分などを、第三者との取引と同じように書面と記録で残しておくことが大切です。後から取引の実態を説明できることが、税務上も、承継時の家族間の理解のうえでも支えになります。

    管理の手間とコスト

    主体を分ければ、契約管理、会計・申告、資金管理の手間が増えます。分けることで得られる効果が、その手間に見合うかも確認します。

    承継の設計:土地と株式をどう引き継ぐか

    所有と運営を分けた場合、承継の対象は「土地(または資産管理会社の株式)」と「運営会社の株式」の二つになります。

    • 土地の承継:誰が引き継ぐか、共有にしないか、納税資金をどう確保するか。
    • 運営会社の株式の承継:経営を担う後継者に議決権を集めるか、外部への承継も視野に入れるか。
    • 両者の関係の継続:承継後も賃貸借契約が続くこと、地代・家賃の見直しの方法を、関係者が理解しているか。
    • 意思の残し方:遺言などで、土地と株式の承継の方針を明確にしておくか。

    土地を引き継ぐ人と運営会社を引き継ぐ人が異なる場合、両者の利害は「地代・家賃の水準」で直接ぶつかります。承継の前に、その水準の考え方や見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。

    AEGISの視点

    AEGISは、土地を起点とした事業を設計するとき、「誰が持つか(所有)」と「誰が営むか(運営)」を、最初から別々の問いとして扱うことを大切にしています。

    土地は、家族が長い時間をかけて受け継いできた資産です。一方、事業は、地域の需要や担い手の状況に応じて形を変えていくものです。この二つを一体で持ち続けると、どちらかの事情がもう一方を縛ることがあります。所有と運営を分けることは、土地を守りながら事業に挑戦し、事業を育てながら土地を次の世代に引き継ぐための、承継を前提とした設計だと考えています。

    ただし、その効果は、地代・家賃の設定、借地権の扱い、特例の区分といった細部の設計に支えられて初めて得られます。税務だけを見て形を決めるのではなく、事業の継続性と家族の承継の方針を先に定め、そのうえで税務上の扱いを確認する——その順番が重要です。

    賃貸以外の活用の型は関連記事「土地を貸す以外の活用方法」、選択肢全体の比べ方は「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」、評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産の所有形態や同族会社との取引に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 所有と運営を分ける設計は、事業のリスクと土地という資産を切り分け、それぞれに合った承継を可能にするものです。
    • 典型的には、個人が土地を貸す形、個人が建物を貸す形、資産管理会社が貸す形があります。
    • 法人が関わる土地の貸し借りでは、権利金・地代・無償返還の届出の有無によって借地権の課税関係が変わります。
    • 小規模宅地等の特例の区分も、所有・貸借の形や運営会社の事業内容によって変わります。
    • 承継の前に、地代・家賃の水準と見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。

    よくある質問

    Q. 土地を持つ人と事業を運営する会社を分けると、節税になりますか?

    分けること自体が節税を目的とするものではありません。分ける意味は、事業のリスクと土地の切り分けや、承継の担い手を分けられることにあります。税務上の扱いは、地代・家賃の水準や貸し借りの形によって有利にも不利にもなり得るため、個別に確認が必要です。

    Q. 自分の土地に、自分が経営する会社の建物を建てる場合、何に注意すべきですか?

    建物の所有を目的として法人に土地を貸すことになるため、権利金や地代の扱いによって借地権の認定課税の問題が生じることがあります。契約で将来の無償返還を定めて税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」の手続もあるため、建築前の段階で確認しておくことが大切です。

    Q. 家族の会社に土地を無償で貸すことはできますか?

    当事者間の契約としては可能ですが、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間の使用貸借と同じ考え方にはならず、税務上の課税関係が生じることがあります。地代の水準や届出の要否を含めて、事前に確認することをおすすめします。

    Q. 特定同族会社事業用宅地等とは何ですか?

    小規模宅地等の特例の区分の一つで、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等をいいます。国税庁によれば400㎡まで80%の減額の対象となり得ますが、申告期限において宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、宅地等を保有し続けることなどの要件があります。なお、法人への貸付けが無償(使用貸借)の場合は対象になりません。

    Q. 土地と運営会社の株式を、別々の子に引き継いでも問題ありませんか?

    可能ですが、承継後は地代・家賃の水準をめぐって両者の利害が対立することがあります。承継の前に、賃貸借の条件や見直しのルール、遺言などによる承継方針を明確にしておくことが望まれます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 事業型不動産活用:保有不動産に合う事業を判定し、事業モデルの選定から開業・運営までを支援します。
    • 事業創造型土地活用:保有する土地・建物に合う事業を検討し、開業・運営から相続の備え、承継までを一体で考えます。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 農業経営を子に引き継ぐときの準備|農地等の納税猶予(贈与税・相続税)の使い方と打切り、施設の敷地、法人化との比較

    農業経営を子に引き継ぐときの準備|農地等の納税猶予(贈与税・相続税)の使い方と打切り、施設の敷地、法人化との比較

    農業経営を子に引き継ぐときは、「農地をどう渡すか」と「農業経営そのもの(施設・機械・販路・人)をどう渡すか」を一緒に設計することが大切です。

    農地については、後継者が農業を続けることを条件に、贈与税や相続税の納税を猶予する制度があります。親が元気なうちに農地をまとめて後継者に贈与する「生前一括贈与」の納税猶予と、相続のときに使う相続税の納税猶予の2つです。どちらも負担を大きく抑えられる可能性がある一方、農業をやめたり農地を手放したりすると猶予が打ち切られ、利子税とあわせて納税が必要になるという性格を持っています。

    この記事では、2つの納税猶予の違いと打切りの仕組み、倉庫や直売所など農地以外の敷地の扱い、法人化との比較を、農業経営の承継という視点から整理します。相続した農地や生産緑地を「続ける・貸す・転用する」の観点から比べたい場合は、関連記事「相続した農地・生産緑地をどうするか」もあわせてご覧ください。

    農業経営の承継で引き継ぐもの

    農業経営は、多くの場合、個人事業として営まれています。経営者個人が農地や施設を所有し、自分の名前で販売先と取引しているため、承継では資産と契約を一つずつ後継者に移す必要があります。

    引き継ぐもの主な内容相続税での主な扱い・確認点
    農地・採草放牧地田、畑、果樹園など一定の要件のもとで農地等の納税猶予の対象
    温室などの敷地耕作に使われている温室等の敷地農地に当たる場合は納税猶予の対象となり得る
    倉庫・作業場の敷地農機具置き場や農作業用の建物の敷地(宅地)小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)の対象となり得る
    直売所・加工施設などの敷地生産緑地内に許可を得て設けた施設など農地として扱われるか、個別の確認が必要
    機械・設備トラクター、乾燥機、ハウス設備など通常の評価。事業用資産としての承継も検討
    販路・契約・ノウハウ出荷先、農協との取引、栽培技術、地域との関係税務上の評価とは別に、計画的な引継ぎが必要

    税金の制度は「どの土地が、何の用途に使われているか」で分かれます。承継の準備は、まず土地ごとの用途と所在地(市街化区域かどうか、生産緑地かどうか)を一覧にすることから始まります。

    2つの納税猶予:生前一括贈与と相続

    農地等の納税猶予には、贈与税の制度(租税特別措置法第70条の4)と相続税の制度(同法第70条の6)があります。国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)をもとに、主な違いを整理すると次のとおりです。

    比較の視点贈与税の納税猶予(生前一括贈与)相続税の納税猶予
    使う場面親が農業を営んでいる間に、後継者へ農地を贈与する農業を営んでいた親から、相続・遺贈で農地を取得する
    渡し方農業に使っている農地の全部(採草放牧地・準農地は一定部分)を、推定相続人の1人にまとめて贈与相続人のうち、要件を満たす「農業相続人」が取得する
    猶予される税額贈与を受けた農地等に係る贈与税農地等の価額のうち、農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税
    免除される主な場面贈与者または受贈者の死亡農業相続人の死亡など
    その後贈与者が死亡すると、農地は相続で取得したものとみなされ相続税の対象に。要件を満たせば相続税の納税猶予に切り替えられる猶予期間中は農業の継続と届出が必要

    生前一括贈与は、親が元気なうちに経営の主導権と農地を後継者に移せるのが特徴です。ただし、農地の全部をまとめて1人に贈与することが前提のため、一部の農地だけを先に渡すことはできません。また、相続時精算課税を選んで贈与を受けた農地は、この納税猶予の対象になりません。

    相続税の納税猶予は、相続の時点で農業を引き継ぐ相続人が農業を続ける場合に使います。農業投資価格は、農地として利用する前提の価格として国税局が定めるもので、国税庁の「財産評価基準書」で確認できます。

    相続税の納税猶予で確認したい主な要件

    • 農業相続人であること:民法上の相続人で、一定の要件を満たすことについて農業委員会の証明を受けた者に限られます。国税庁の質疑応答事例では、包括遺贈を受けた孫は相続人ではないため対象にならないとされています。
    • 申告期限までに分割されていること:申告期限までに遺産分割が終わっていない農地は、原則として対象になりません。
    • 担保を提供すること:猶予を受ける税額に相当する担保が必要です。
    • 対象となる農地であること:市街化区域内の一部の農地(特定市街化区域農地等)は対象外とされるなど、所在地によって扱いが異なります。

    猶予が打ち切られる場面

    納税猶予は「農業を続ける限り」の制度です。次のような場合には、猶予されていた税額の全部または一部について期限が確定し、利子税とあわせて納付が必要になります(租税特別措置法第70条の6第1項・第7項ほか)。

    • 譲渡・転用・貸付け・耕作放棄など:特例を受けた農地について、これらの合計面積が20%を超えると、原則として猶予税額の全部が打ち切られます。20%以下の場合は、その部分に対応する税額が打ち切られます。
    • 農業経営の廃止:特例を受けた農地に係る農業経営をやめた場合です。
    • 継続届出書の未提出:相続税の申告期限の翌日から3年を経過するごとに、農業経営を続けている旨の届出書を税務署長に提出する必要があります(同条第32項)。この届出書には農業委員会の証明を添付するのが通例で、提出がないと猶予が打ち切られることがあります。

    一方で、すべての転用や貸付けが打切りの対象になるわけではありません。たとえば、その農業に係る事務所、作業場、倉庫などの施設の敷地にするための転用は、打切りの対象となる転用から除かれています(租税特別措置法施行令第40条の7)。また、病気などで営農が難しくなった場合の一定の貸付け(営農困難時貸付け)や、農地中間管理事業などによる一定の貸付け(特定貸付け)は、届出などを条件に猶予を続けられる仕組みがあります。

    猶予が免除されるのは原則として農業相続人の死亡時ですが、市街化区域内の一定の農地については、申告期限の翌日から20年を経過した日に免除される場合もあります。いずれにしても、猶予を受けた後継者には、長い期間にわたって農業を続け、手続を欠かさない覚悟が求められることを、家族で共有しておくことが大切です。

    農地以外の敷地をどう扱うか

    倉庫・作業場の敷地は小規模宅地等の特例を検討

    国税庁のタックスアンサー(小規模宅地等の特例のQ&A)では、農機具の収納や農作業を行うための建物の敷地は、他の要件を満たす限り、特例の対象となる事業用の宅地等に当たるとされています。特定事業用宅地等に当たれば、400㎡まで評価額を80%減額できます。一方、耕作に使われている温室などの敷地は農地に当たり、こちらは農地等の納税猶予の対象となり得るとされています。

    土地ごとに「宅地か、農地か」を確認し、使える特例を取り違えないようにすることが大切です。小規模宅地等の特例は、どの相続人が取得するかで適用が変わるため、関連記事「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」もあわせて確認してください。

    直売所・農家レストランを設ける場合

    生産緑地の中には、市町村長の許可を受けて、その地域で生産された農産物を使う製造・加工施設、販売施設、料理を提供する施設を設けられる仕組みがあります(生産緑地法第8条第2項)。農業の6次産業化として後継者が取り組む例もありますが、施設の敷地がそのまま納税猶予の対象である「農地」として扱われるかどうかは、土地の状況や用途地域によって判断が分かれ得ます。猶予を受けている農地や、これから猶予を受けたい農地に施設を設ける場合は、着手前に税務署や農業委員会への確認が欠かせません。

    法人化との比較

    農業経営を法人化して、法人ごと後継者に引き継ぐ方法もあります。法人化には、経営と家計の分離、雇用の確保、取引上の信用といった利点があります。一方、農地を法人に移す場合は、農地法上の要件を満たす法人(農地所有適格法人)であることが必要です。

    納税猶予との関係では、国税庁の質疑応答事例で、特例を受けた農地を農地所有適格法人に出資した場合は打切りの計算から除外される扱いがある一方、貸し付けた場合や譲渡した場合にはその扱いがないとされています。猶予を受けている途中で法人化する場合は、移し方によって打切りの有無が変わるため、慎重な確認が必要です。

    個人の事業用資産全般を対象とした個人版事業承継税制の考え方は、関連記事「個人版事業承継税制で個人事業を引き継ぐ」で解説しています。

    準備の進め方

    1. 土地の一覧をつくる:所在地、地目、現況の用途、市街化区域・生産緑地の別、納税猶予の適用状況
    2. 後継者の意思と経営の形を確認する:農業を一生の仕事として続けるのか、規模を広げるのか、法人化するのか
    3. 生前一括贈与か相続かを比べる:親の年齢と健康状態、経営の主導権を移す時期、他の家族への配分
    4. 農地以外の財産と家族への配分を考える:自宅、金融資産、施設の敷地。後継者以外の子への配慮
    5. 遺言で農地の行き先を確定させる:申告期限までの分割が要件となるため、遺言の有無は特例の使いやすさに直結します

    実務上注意したいポイント

    • 猶予は「免除」ではない:免除までの期間が長く、途中で事情が変われば打切りになり得ます。
    • 既に猶予を受けている農地の扱い:親が過去に相続税の納税猶予を受けている場合、その農地を後継者に贈与・貸付けすると、親の猶予にも影響します。現状の確認が先です。
    • 農業委員会との関係:要件の証明や継続届出の証明など、農業委員会の手続が随所に関わります。
    • 個別事情で結論が変わる:特例の適用可否や税額は、土地の所在と用途、家族の状況によって異なります。

    AEGISの視点

    農業の承継では、納税猶予の制度をどう使うかに目が向きがちです。しかしAEGISは、まず「後継者が、この先何十年、どのような農業経営をしたいのか」を家族で言葉にすることが出発点だと考えています。

    納税猶予は、農業を続ける後継者にとって大きな支えになる一方、使えば長い期間にわたって農地の利用と手続が縛られます。後継者が規模拡大や6次産業化、法人化を構想しているなら、その計画と猶予の要件がぶつからないかを先に確認しておく必要があります。反対に、将来は農地を手放す可能性があるなら、猶予を受けないという判断もあり得ます。

    また、農家の財産は、農地・宅地・自宅が一体になっていることが多く、後継者に農地を集めると、他の子との配分が難しくなります。農業経営の承継は、家族全体の財産承継の中に位置付けて考えることが大切です。事業承継の全体像は、Pillar記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    承継に関わる資産構造や評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 農業経営の承継では、農地と経営(施設・機械・販路・人)を一緒に設計します。
    • 農地等には、生前一括贈与の贈与税の納税猶予と、相続税の納税猶予があります。
    • 譲渡・転用・貸付け・耕作放棄が20%を超える、農業経営を廃止する、3年ごとの継続届出を出さないといった場合には、猶予が打ち切られることがあります。
    • 倉庫・作業場の敷地は小規模宅地等の特例、温室の敷地は納税猶予というように、土地の用途で使える特例が異なります。
    • 法人化や直売所の設置は、猶予との関係を事前に確認したうえで進めることが大切です。

    よくある質問

    Q. 農地の一部だけを先に子へ贈与して、納税猶予を受けることはできますか?

    贈与税の納税猶予(生前一括贈与)は、農業に使っている農地の全部(採草放牧地・準農地は一定部分)を推定相続人の1人に贈与することが前提です。一部の農地だけを贈与した場合は、この特例の対象になりません。

    Q. 孫に農業を継がせたい場合、相続税の納税猶予は使えますか?

    相続税の納税猶予を受けられる農業相続人は、民法上の相続人に限られます。国税庁の質疑応答事例でも、相続人でない孫が包括遺贈で農地を取得した場合は対象にならないとされています。孫を後継者とする場合は、生前の贈与や養子縁組の有無など、別の方法を含めて検討が必要です。

    Q. 納税猶予を受けた農地に、農機具を入れる倉庫を建ててもよいですか?

    その農業に係る事務所、作業場、倉庫などの施設の敷地にするための転用は、打切りの対象となる転用から除かれています。ただし、建物の用途や規模、手続によって判断が分かれることもあるため、着手前に確認することをおすすめします。

    Q. 親が病気で農作業ができなくなったら、納税猶予は打ち切られますか?

    農業経営を廃止したと判断されると打ち切られますが、営農が困難になった場合の一定の貸付けや、農地中間管理事業などによる一定の貸付けについては、届出などを条件に猶予を続けられる仕組みがあります。後継者への生前一括贈与を含め、状況に応じて選択肢を比べます。

    Q. 納税猶予が打ち切られると、どのくらいの負担になりますか?

    打ち切られた部分の猶予税額に加えて、猶予期間に応じた利子税を納める必要があります。猶予期間が長いほど負担は大きくなりやすいため、将来の土地利用の見通しを踏まえて、猶予を受けるかどうか自体を判断することが大切です。

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    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け、次の世代へ引き継ぐための事業資金、民事信託(いわゆる家族信託)、遺言、契約、金融機関対応などを確認します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入れ・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.845-872