カテゴリー: 不動産

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  • 事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと|期間・中途解約・賃料改定・原状回復・転用をどう決めるか

    事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと|期間・中途解約・賃料改定・原状回復・転用をどう決めるか

    土地に建物を建てて、店舗や事務所、物流施設などの事業者に一括で貸す活用は、一般に「建て貸し」と呼ばれます。事業者の希望に合わせて建物を建てることから、「オーダーメイド賃貸」「リースバック方式」と呼ばれることもあります。

    建て貸しでは、オーナーが建物への投資と借入れを引き受け、その回収を一つの事業者からの賃料に頼ることになります。そのため、収支が成り立つかどうかは、賃料の額だけでなく、契約期間、中途解約、賃料の改定、原状回復、事業者が撤退した後の建物の扱いといった契約条項で大きく変わります。

    この記事では、事業者から建て貸しの提案を受けたオーナーが、契約書に署名する前に確認しておきたい点を整理します。

    建て貸しとは:土地だけを貸す場合との違い

    事業者に土地を提供する方法は、大きく「土地だけを貸す(借地)」と「建物を建てて貸す(建て貸し)」に分かれます。

    項目土地だけを貸す(借地)建物を建てて貸す(建て貸し)
    建物の所有者事業者オーナー
    オーナーの投資原則なし建築費(借入れを伴うことが多い)
    収入地代家賃(地代より高い水準になりやすい)
    契約に適用される主なルール借地借家法の借地の規定借地借家法の建物賃貸借の規定
    事業者が撤退したとき原則として更地で戻る(定期借地の場合)建物がオーナーの手元に残る

    建て貸しは、借地より高い収入を得られる可能性がある一方で、建物と借入れのリスクをオーナーが負う形です。定期借地で土地だけを貸す場合の考え方は、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」で整理しています。

    なお、住宅の分野で「リースバック」というと、自宅を売却した後もその家を借りて住み続ける仕組みを指すことが一般的です。土地活用でいう建て貸しとは別のものなので、提案書の用語は中身で確認しましょう。

    最初に決まること:普通建物賃貸借か、定期建物賃貸借か

    建て貸しの契約は、借地借家法の「建物の賃貸借」に当たります。ここで最初に確認したいのが、普通建物賃貸借(普通借家)と定期建物賃貸借(定期借家)のどちらで契約するかです。この選択によって、後に説明する中途解約や賃料改定の考え方が大きく変わります。

    項目普通建物賃貸借定期建物賃貸借
    契約の終了期間満了時も、オーナーからの更新拒絶には正当事由が必要期間満了により更新なく終了
    契約の方式定めなし公正証書による等の書面。更新がない旨の事前説明(書面の交付)が必要
    終了の通知更新しない場合は期間満了の1年前から6か月前までに通知期間1年以上の場合、満了の1年前から6か月前までに終了の通知が必要
    賃料の増減請求特約にかかわらず、賃料が不相当になれば増減を請求できる賃料改定に関する特約があれば、増減請求の規定は適用されない
    賃借人に不利な特約更新等に関する規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効方式等を満たせば、更新がない旨を定められる

    ※借地借家法第26条〜第30条・第32条・第38条をもとにAEGISが整理。

    普通建物賃貸借では、契約期間が満了しても、オーナーの側から契約を終わらせるには正当事由が必要です。建物を建てて貸す以上、長く借りてもらうこと自体は望ましいことですが、将来、別の用途に建て替えたい、土地を売却したいといったときに、契約を終わらせにくいという面があります。

    定期建物賃貸借は、期間満了で確実に終了させられる一方、方式や事前説明、終了の通知の手続を一つでも欠くと、定期建物賃貸借としての効力を主張できなくなるおそれがあります。契約書の作成段階で、方式と手続の流れを確認しておきましょう。

    確認1:契約期間と借入期間はそろっているか

    建て貸しでは、建築費を金融機関から借り入れることが多く、賃料で返済を賄う前提で計画が組まれます。ここで確認したいのは、契約期間と借入期間の関係です。

    • 契約期間が借入期間より短い場合、契約終了後の返済を、次の借り手からの賃料や手元資金で賄う必要があります。
    • 契約期間中であっても、中途解約が認められていれば、実質的な契約期間はさらに短くなります。
    • 建物の耐用年数や、大規模修繕が必要になる時期も、期間の設計に関わります。

    提案書では「20年契約」のように長期の期間が示されていても、中途解約の条項によって実際に賃料が保証される期間はそれより短いことがあります。期間と解約条項は必ずセットで読みましょう。

    確認2:中途解約をどう定めるか

    中途解約は、建て貸しの契約で最も重要な条項の一つです。事業者は、業績や事業戦略の変化に応じて撤退できるよう、解約の余地を求めることが一般的です。一方、オーナーにとっては、解約は投資の回収計画が途中で崩れることを意味します。

    確認したい点は次のとおりです。

    • 中途解約ができない期間(解約不能期間)を設けるか、その長さ
    • 解約できる場合の予告期間
    • 解約時の違約金や、残りの期間の賃料の一部を支払う定めの有無
    • 建設協力金や保証金の残額との精算の方法

    定期建物賃貸借について、借地借家法は居住用の建物(床面積200㎡未満)に限り、転勤や療養などやむを得ない事情があるときに賃借人からの中途解約を認めています。事業用の建て貸しはこれに当たらないため、中途解約の可否と条件は、契約の定めによって決まることになります。だからこそ、契約書の文言が重要です。

    確認3:賃料の水準と改定の方法

    長期の契約では、契約時の賃料がそのまま続くとは限りません。

    普通建物賃貸借では、借地借家法により、賃料が経済事情の変動などによって不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求できるとされています。つまり、「一定期間は賃料を減額しない」と定めても、事業者から減額を求められる可能性は残ります。一方、定期建物賃貸借では、賃料の改定に関する特約を定めれば、この増減請求の規定は適用されません。

    確認しておきたいのは次の点です。

    • 賃料を固定するのか、一定期間ごとに見直すのか
    • 見直す場合の基準(固定資産税などの負担、物価の指標、周辺の賃料水準など)
    • 賃料が下がった場合に、借入れの返済に支障が出ないか

    賃料改定の条項は、事業者との力関係が表れやすい部分です。収支計画では、賃料が一定程度下がった場合のシナリオも作っておくと安心です。

    確認4:建設協力金・保証金の扱い

    建て貸しでは、事業者がオーナーに対して、建築費の一部として建設協力金を預ける形がとられることがあります。オーナーにとっては借入れを抑えられる利点がありますが、性格としては事業者からの借入れであり、契約期間中に分割で返還していくのが一般的です。

    • 返還の方法(賃料との相殺か、別途の支払いか)と期間
    • 利息の有無
    • 中途解約時に、未返還の残額をどう精算するか
    • 建物や土地に担保を設定するか

    賃料と相殺して返還する仕組みの場合、事業者が途中で撤退すると、オーナーは賃料収入を失う一方で、残額の扱いをめぐって協議が必要になることがあります。協力金の返還条件と中途解約の条項は、必ず一緒に確認しましょう。

    また、オーナーに相続が起きたときに建設協力金の返還債務が残っていれば、相続人が引き継ぐことになります。相続税の計算では、被相続人の債務で確実と認められるものは遺産から控除できるとされていますが(国税庁 No.4126)、具体的な扱いは契約の内容に応じて確認が必要です。

    確認5:原状回復と内装・設備の所有区分

    事業者の仕様に合わせた建物では、内装や設備の多くを事業者が自ら施工することがあります。契約終了時に揉めやすいのが、どこまでを元に戻すのか、誰の費用で行うのかです。

    住宅の賃貸借では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が、通常の使用による損耗や経年変化は賃貸人の負担とする考え方を示しています。ただし、このガイドラインは民間賃貸住宅を対象としたものです。事業用の建て貸しでは、契約で原状回復の範囲を具体的に定めておくことがより重要になります。

    • オーナーが施工する部分(躯体・外装・基本設備)と、事業者が施工する部分(内装・専用設備)の区分
    • 契約終了時に、事業者が施工した部分を撤去するか、そのまま残すか
    • 残す場合に、事業者から買取りを求められないか

    借地借家法には、賃借人がオーナーの同意を得て付加した造作を、契約終了時に時価で買い取るよう請求できる「造作買取請求権」の定めがありますが、これは特約で排除できるものとされています。契約書でどう定めているかを確認しておきましょう。

    確認6:撤退後の転用と、オーナー側の売却・相続

    建て貸しの建物は、特定の事業者の業態に合わせた造りになっていることが多く、事業者が撤退した後、次の借り手が見つかるか、ほかの用途に転用できるかが、出口の価値を左右します。

    • 天井高、床の荷重、駐車場の台数など、ほかの業態でも使える汎用性があるか
    • 用途を変える場合に、建築の手続や都市計画上の制限がないか(たとえば、用途を変更して床面積200㎡を超える一定の特殊建築物とする場合は、原則として建築確認の手続が必要です〔建築基準法87条〕)
    • 事業者の承諾なく、オーナーが土地・建物を売却できるか

    建物の賃貸借は、登記がなくても建物の引渡しがあれば、その後に建物を取得した人に対しても効力があるとされています。つまり、オーナーが建物を売却したり、相続が起きたりしても、賃貸借契約は新しい所有者に引き継がれるのが原則です。売却や相続の場面では、契約の内容がそのまま資産の価値と流動性に影響します。

    撤退の可能性をあらかじめ事業計画に織り込む考え方は、関連記事「土地活用の事業計画で撤退基準を決める」で解説しています。

    税金と承継で押さえておきたいこと

    建て貸しは、相続税の評価にも影響します。建物を建てて貸している土地は「貸家建付地」として、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を掛けた額を差し引いて評価します(国税庁 No.4614)。また、要件を満たせば、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(200㎡までの部分について50%の減額)の対象となりえますが、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象外とされています。ただし、相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、新たに貸し始めた土地でも対象になります(国税庁 No.4124)。貸付用不動産の評価の見直し(通達案)で建物が新しい評価の対象になっても、この特例は使えると考えられます。

    ただし、評価が下がることと、財産として分けやすいことは別の問題です。一つの事業者に一括で貸している建物は、相続人の間で分けにくく、契約の残存期間や事業者の状況によって売却価格も大きく変わります。

    契約前のチェックリスト

    確認項目確認したい内容
    契約の型普通建物賃貸借か定期建物賃貸借か。定期の場合の方式・事前説明・終了通知
    期間契約期間・解約不能期間と、借入期間・耐用年数・大規模修繕時期の関係
    中途解約予告期間、違約金、残存期間の賃料の扱い
    賃料固定か改定か、改定の基準、減額時の返済への影響
    建設協力金・保証金返還方法、利息、中途解約時の精算、担保
    原状回復施工区分、撤去の範囲、造作の扱い
    転用・売却建物の汎用性、用途変更の制約、売却時の承諾
    承継相続人が契約と債務を引き継げるか、分け方

    AEGISの視点

    建て貸しの提案書には、多くの場合、長期の契約期間と安定した賃料、建築費と返済の計画が示されています。AEGISは、提案書を読むときに「賃料がいくら入るか」よりも先に、「どのような場合に、その賃料が途絶えるか」を契約書から読み取ることが大切だと考えています。

    中途解約、賃料改定、建設協力金の精算、原状回復——これらの条項は、いずれも「事業者の事業がうまくいかなくなったとき」に意味を持ちます。そして、その局面で建物と借入れを抱えるのはオーナーです。事業者の事業計画や財務を確認することと、契約条項でリスクの分担を決めておくことは、表裏一体の作業です。

    また、建て貸しの契約は20年、30年と続くことが多く、その間にオーナー側の相続が起きることを前提に考える必要があります。契約と建物、借入れ、建設協力金の返還債務を、誰がどのように引き継ぐのか。建て貸しを「土地の活用」としてだけでなく、家族が引き継ぐ事業の一つとして設計することが、長く続く土地活用につながると考えています。介護施設や保育所など、公的制度に支えられた事業者に貸す場合の特有の論点は「介護・保育施設に土地を貸すときの考え方」で整理しています。

    土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

    貸家建付地の評価や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 建て貸しは、オーナーが建物への投資と借入れを引き受け、一つの事業者からの賃料で回収する土地活用です。
    • 普通建物賃貸借か定期建物賃貸借かによって、契約の終了、賃料の増減請求、手続の要件が大きく変わります。
    • 契約期間と借入期間、中途解約の条件、賃料改定の方法、建設協力金の精算は、セットで確認することが大切です。
    • 事業用の原状回復は、住宅向けのガイドラインに頼らず、施工区分と撤去の範囲を契約で具体的に定めておきましょう。
    • 事業者の撤退後の転用のしやすさと、オーナー側の売却・相続まで見通して契約を判断することが重要です。

    よくある質問

    Q. 建て貸しの契約は、普通建物賃貸借と定期建物賃貸借のどちらがよいですか?

    一概には言えません。普通建物賃貸借は事業者にとって安心感があり、長く借りてもらいやすい一方、オーナーから契約を終わらせるには正当事由が必要です。定期建物賃貸借は期間満了で確実に終了させられ、賃料改定の特約も定められますが、方式や事前説明、終了通知の手続を守る必要があります。将来の土地の使い方や借入期間とあわせて選ぶことが大切です。

    Q. 20年契約なら、20年間の賃料は保証されているのですか?

    契約期間が20年でも、中途解約が認められている場合は、事業者が予告期間を経て解約できる可能性があります。違約金の定めがあっても、残りの期間の賃料全額が支払われるとは限りません。契約期間と解約不能期間、違約金の内容を一緒に確認しましょう。

    Q. 「賃料を減額しない」という特約を入れておけば安心ですか?

    普通建物賃貸借では、借地借家法により、賃料が不相当になった場合には契約の条件にかかわらず増減を請求できるとされているため、減額しない特約があっても減額を求められる可能性は残ります。定期建物賃貸借で賃料改定に関する特約を定めた場合は、この増減請求の規定は適用されません。

    Q. 建設協力金を受け取ると、何に注意すればよいですか?

    建設協力金は事業者からの借入れの性格を持ち、契約期間中に返還していくのが一般的です。返還方法、利息の有無、中途解約時の残額の精算を確認してください。賃料と相殺して返還する仕組みでは、事業者が撤退した場合の扱いが特に重要です。オーナーの相続時には、返還債務が相続人に引き継がれます。

    Q. 事業者が撤退したら、建物はどうなりますか?

    建物はオーナーの所有として残ります。次の事業者を探すか、ほかの用途に転用するか、取り壊すかを検討することになりますが、建物が特定の業態に合わせた造りの場合、転用に大きな費用がかかることがあります。契約前に、建物の汎用性と撤退時の原状回復の範囲を確認しておくことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、P.425-427、P.452-453
    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、大蔵財務協会、P.210-215
  • 資産管理会社はいつ設立を検討すべきか|税率差だけで決めないための比較の軸

    資産管理会社はいつ設立を検討すべきか|税率差だけで決めないための比較の軸

    賃貸不動産からの収入が増えてくると、「そろそろ資産管理会社を作ったほうがよいのでは」と考えるオーナーは少なくありません。個人の所得税は累進課税であるため、収入が増えるほど税負担が重くなり、法人で受けたほうが有利に見える場面が出てくるからです。

    ただし、資産管理会社は一度作ると、その会社自体を管理し、いずれは次の世代に引き継ぐ必要がある「もう一つの財産」です。税率の差だけを見て設立すると、維持の手間や、不動産を移すときの税金、将来の株式の承継といった論点が後から表面化することがあります。

    結論から言えば、資産管理会社の設立を検討するタイミングは、「所得水準」「不動産の移し方」「家族と承継の見通し」の3つがそろって見えたときです。この記事では、設立の判断に必要な比較の軸を整理し、関連する論点への入口をまとめます。

    資産管理会社とは

    資産管理会社とは、一般に、オーナーやその家族が不動産や有価証券などの財産を保有・管理するために設立する会社をいいます。法律上の特別な会社形態があるわけではなく、多くは株式会社や合同会社として設立され、オーナー一族が株式(持分)を持ちます。

    不動産オーナーの場合、資産管理会社の関わり方には大きく次のような形があります。

    関わり方不動産の所有者会社が受け取る収入特徴
    管理を受託する個人のまま管理料移転の負担は小さいが、会社に移る収入は管理業務の対価の範囲に限られる
    一括で借り上げて転貸する個人のまま転貸による家賃差額収入の一部を会社に移せるが、賃料設定の合理性が問われる
    建物を会社が所有する土地は個人、建物は会社など家賃収入収入の大部分が会社に入るが、建物の移転時の税金や、土地の貸し借りの整理が必要
    土地・建物とも会社が所有する会社家賃収入移転時の負担が大きく、資金調達の検討も必要
    新たに取得する不動産から会社で買う会社家賃収入既存物件を動かさずに始められる

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。実際にどの形が適しているかは、物件の状況や家族構成によって異なります。

    どの形をとるかによって、会社に入る収入の大きさも、最初にかかる費用も、将来の承継の形も変わります。「資産管理会社を作るかどうか」は、実は「どの形で、どこまで法人に移すか」という問いと一体です。

    なぜ資産管理会社が検討されるのか

    資産管理会社が検討される主な理由は、次の3つに整理できます。

    1. 個人と法人の税率構造の違い

    個人の所得税は超過累進税率で、国税庁によれば税率は5%から45%までの7段階に分かれ、課税所得金額が4,000万円以上の部分には45%が適用されます(令和8年4月1日現在法令等)。これに住民税(所得割は原則10%)が加わります。

    一方、法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人であれば年800万円以下の所得部分に15%の軽減税率があり(所得が年10億円を超える事業年度は17%)、それ以外の部分は23.2%とされています(国税庁、令和7年4月1日現在法令等)。実際の負担は、法人住民税や法人事業税なども含めて考える必要があります。

    このため、不動産所得が大きいオーナーほど、収入を法人で受けることで、個人の高い税率が適用される部分を減らせる可能性があります。

    2. 家族への所得の分配

    法人で収入を受けると、実際に業務に従事している家族に、その職務に見合った役員報酬や給与を支払うことができます。所得が一人に集中しないことで、家族全体としての税負担や、将来の納税資金の準備に違いが生じます。ただし、報酬や給与は実際の職務内容に見合っていることが前提です。

    3. 個人に財産が積み上がるスピードの調整

    不動産を個人で持ち続けると、毎年の手取り収入がオーナー個人の財産として積み上がり、将来の相続財産を増やします。法人で受ける形にすると、収入の一部は会社に蓄積され、オーナー個人の財産の増え方が変わります。ただし、会社に蓄積された財産は、オーナーが保有する株式の評価に反映されるため、「相続税の対象から外れる」わけではない点に注意が必要です。

    設立の判断で比較すべき5つの軸

    資産管理会社の設立は、税率の比較だけでは判断できません。AEGISでは、次の5つの軸で比較することをおすすめしています。

    比較の軸確認すること見落としやすい点
    ① 所得と税負担不動産所得の水準、他の所得との合計、今後の見通し借入金の返済が進むと、所得と手元資金の関係が変わる
    ② 設立・維持の負担設立費用、税理士報酬、法人住民税の均等割、記帳・決算の手間赤字でも毎年かかる費用がある
    ③ 不動産の移し方管理委託・転貸・建物移転・新規取得のどれを選ぶか移転時に譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税などがかかり得る
    ④ 資金の流れ会社と個人の間の貸し借り、役員報酬、配当の設計会社のお金と個人のお金の境界が曖昧になりやすい
    ⑤ 会社の承継株主構成、議決権、株式の評価、後継者会社が「承継しにくい財産」になることがある

    以下、それぞれの軸について見ていきます。

    ① 所得と税負担:一時点ではなく「今後10年」で見る

    設立の判断でまず確認するのは、不動産所得の水準と、給与所得や事業所得など他の所得との合計です。累進税率のどの段階に該当しているかによって、法人で受けることの効果は大きく異なります。

    ここで注意したいのは、判断を一時点の所得で行わないことです。借入金で取得した物件は、当初は減価償却費や支払利息が大きく所得が小さく見えても、年数の経過とともに所得が増えていくことがあります。反対に、大規模修繕や建替えの時期には支出が増えます。今後10年程度の収支の見通しの中で、どの時期に法人化の効果が大きくなるかを見ることが大切です。

    ② 設立・維持の負担:毎年かかるコストを見込む

    法人を設立すると、設立時の登記費用などのほか、毎年の決算・申告、記帳、会社としての手続きが必要になります。法人住民税には、所得がなくても課される均等割があります。税理士などの専門家に依頼する費用も継続的に発生します。

    法人化による税負担の軽減額が、これらの維持コストを安定的に上回るかどうかは、設立前に確認しておきたい点です。また、役員報酬を支払う場合には、社会保険の取扱いも含めて、個人と会社を合わせた手取りで比較することが必要です。

    ③ 不動産の移し方:移転時の税金と、土地の貸し借り

    既に個人で保有している不動産を会社に移す場合、売買などの移転に伴って、個人側には譲渡所得の課税、会社側には登録免許税や不動産取得税などの負担が生じ得ます。また、時価より著しく低い価額で法人に移すと、時価で譲渡したものとみなされる規定もあります(国税庁 No.3105)。

    さらに、建物だけを会社に移して土地を個人に残す場合には、土地の貸し借りを税務上どう整理するか(借地権の問題)が重要な論点になります。移転の方法ごとの比較は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で詳しく解説しています。

    既存物件を動かさず、今後新たに取得する物件から会社で購入するという始め方もあります。移転時の負担を避けられる一方、会社に信用力がない段階での借入れなど、資金調達面の検討が必要です。

    ④ 資金の流れ:会社と個人の境界を最初に決める

    資産管理会社では、オーナー個人と会社の間でお金の貸し借りが生じやすく、事業会社を別に経営している場合には、会社同士の資金移動も起こります。こうした資金の流れは、利息や契約の整え方によって税務上の取扱いが変わることがあります。

    設立の時点で「会社のお金」と「個人のお金」の境界、報酬や配当の考え方を決めておくと、後の整理が格段に楽になります。詳しくは関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で解説しています。

    ⑤ 会社の承継:「会社を誰に渡すか」まで考える

    資産管理会社を作ると、オーナーが将来引き継ぐ財産は、不動産そのものから「会社の株式」に置き換わります。株式であれば分けやすいと考えられがちですが、株式が相続人に分散すると、会社の意思決定(物件の売却や借入れ、役員の選任など)が難しくなることがあります。

    また、不動産を多く保有する会社の株式は、相続税の評価上、「土地保有特定会社」などの特定の評価会社に該当し、純資産価額を中心に評価されることがあります。会社の株式と経営権を次の世代にどう渡すかについては、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。

    設立を検討しやすいタイミングの例

    上記の5つの軸を踏まえると、次のような場面は、資産管理会社の設立を具体的に検討しやすいタイミングといえます。

    • 不動産所得が増え、個人の税率が高い段階に達しているとき:他の所得と合わせて、累進税率の高い部分に該当している状態が続く見込みがある場合
    • 新たな物件の取得を予定しているとき:既存物件を移さずに、新規取得分から法人で始められる
    • 借入金の返済が進み、所得が増えてきたとき:減価償却や利息の効果が小さくなり、税負担が重く感じられるようになった段階
    • 家族が不動産の管理に関わり始めたとき:配偶者や子が実際に管理業務を担い始め、役割と報酬を整理する必要が出てきた場合
    • 相続・承継の方針を考え始めたとき:誰に、どの財産を、どの形で渡すかを整理する中で、所有形態を見直す必要が出てきた場合

    反対に、所得がそれほど大きくない段階や、近い将来に物件の売却を予定している場合、家族の方針が定まっていない場合には、設立を急ぐ必要がないこともあります。

    実務上注意したいポイント

    相続税の特例との関係を確認する

    個人が保有する土地には、一定の要件のもとで相続税の課税価格を減額する「小規模宅地等の特例」があります。国税庁によれば、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%、特定同族会社事業用宅地等は400㎡まで80%の減額とされていますが、特定同族会社事業用宅地等の対象となる法人の事業からは、不動産貸付業や駐車場業などが除かれています(国税庁 No.4124)。

    資産管理会社を設立して土地や建物の所有関係を変えると、こうした特例の適用区分も変わり得ます。所有形態の変更を検討する際は、相続税への影響もあわせて確認することが大切です。

    「会社が持つ財産」と「株式の価値」はつながっている

    法人化しても、会社の財産が増えれば、オーナーが保有する株式の評価も上がります。会社に利益を貯めるのか、報酬や配当として個人に移すのか、その配分は税負担と承継の両面から考える必要があります。

    実態のある会社として運営する

    資産管理会社は、記帳や契約、意思決定の記録など、会社としての実態を備えて運営することが前提です。家族への報酬も、実際の職務に見合ったものである必要があります。形式だけの会社では、期待していた効果が得られないだけでなく、税務上の問題につながることもあります。

    AEGISの視点

    資産管理会社は、節税の手法として語られることの多いテーマです。しかしAEGISは、資産管理会社を「不動産の所有と経営を、家族の中でどう分担し、どう引き継いでいくかを形にする器」と捉えています。

    同じ不動産でも、個人で持つか、法人で持つかによって、毎年の税負担だけでなく、キャッシュフローの使い道、管理の担い手、売却や建替えの意思決定の仕方、そして次の世代への渡し方が変わります。税率の差は判断材料の一つにすぎず、本当に問うべきは「この不動産を、誰が、どのような責任と権限をもって持ち続けるのか」という所有の設計です。

    そのためAEGISでは、資産管理会社の設立を単独の対策として切り出すのではなく、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理したうえで、その中に会社をどう位置付けるかを考えることを重視しています。最初の一歩は、精緻な税額試算よりも、保有不動産の一覧と、家族それぞれの役割や意向を書き出してみることです。

    不動産の評価や、法人との関係を含む不動産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社の設立は、「作るかどうか」ではなく「どの形で、どこまで法人に移すか」という所有形態の選択です。
    • 判断の軸は、所得と税負担、設立・維持の負担、不動産の移し方、資金の流れ、会社の承継の5つです。
    • 税率の比較は一時点ではなく、今後10年程度の収支の見通しの中で行うことが大切です。
    • 既存不動産の移転には税負担や借地権の整理が伴うため、新規取得分から法人で始める方法も選択肢になります。
    • 会社を作ると、将来引き継ぐ財産は「株式」に置き換わります。株主構成や議決権まで含めて設計することが重要です。

    具体的にどの形が適しているかは、所得の状況、保有不動産の内容、家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 不動産所得がいくらになったら、資産管理会社を作るべきですか?

    一律の金額基準はありません。個人の税率は他の所得との合計で決まり、法人化の効果は、設立・維持の費用、不動産の移し方、家族への報酬の有無などによって大きく変わります。現在の所得だけでなく、今後10年程度の収支の見通しの中で比較することが現実的です。

    Q. 既に持っている不動産も、会社に移さないと意味がないのですか?

    必ずしもそうではありません。管理の受託や一括借上げのように所有者を変えずに会社を関与させる方法や、今後新たに取得する物件から会社で購入する方法もあります。既存物件の移転には譲渡所得税などの負担が生じ得るため、移す場合と移さない場合を比較したうえで判断することが大切です。

    Q. 資産管理会社を作れば、相続税は必ず下がりますか?

    必ず下がるとは言えません。会社に蓄積された財産は株式の評価に反映されますし、土地の所有関係を変えることで小規模宅地等の特例の適用区分が変わることもあります。相続税への影響は、所有形態の変更前後を比較して確認する必要があります。

    Q. 家族を役員にして報酬を払えば、所得を分散できますか?

    家族が実際に管理業務などに従事しており、その職務に見合った報酬であれば、報酬の支払いを通じて所得が家族に分配されることになります。ただし、実態のない報酬や、職務内容に比べて過大な報酬は、税務上の問題につながる可能性があります。

    Q. 資産管理会社の株式は、誰が持つのがよいですか?

    一概には言えません。オーナーが全株を持つ方法、子などの後継者が設立時から株式を持つ方法などがあり、相続税の負担、会社の意思決定の安定性、家族間の公平などの観点から比較が必要です。設立時の株主構成は後から変えるのに手間がかかるため、最初の段階で慎重に検討することが望まれます。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 個人保有の不動産を法人へ移す前の比較|移転時の税金・借地権・管理・承継をどう比べるか

    個人保有の不動産を法人へ移す前の比較|移転時の税金・借地権・管理・承継をどう比べるか

    資産管理会社を設立したあと、あるいは設立を検討する段階で、多くのオーナーが直面するのが「今、個人で持っている不動産を会社に移すべきか」という問いです。

    法人で家賃を受け取れば毎年の税負担が軽くなる可能性がある一方で、不動産を移すには、その時点で税金や費用がかかります。さらに、建物だけを移して土地を個人に残す場合には、土地の貸し借りをどう整理するかという、借地権特有の論点が生じます。

    結論から言えば、移転の判断は「移転時に一度かかる負担」と「移転後に毎年続く効果」を、管理の手間と将来の承継まで含めて比べることが基本です。この記事では、比較の際に確認すべき項目を、移す方法ごとに整理します。

    不動産を法人へ移す主な方法

    個人の不動産を法人に関与させる方法は、大きく次のように分けられます。

    方法内容移転時の負担会社に入る収入
    移さない(管理委託・一括借上げ)所有は個人のまま、会社が管理や転貸を担う小さい管理料・転貸差額に限られる
    建物のみを売買建物を会社に売り、土地は個人に残す中程度(建物分)+借地権の整理家賃収入の大部分
    土地・建物を売買不動産全体を会社に売る大きい(土地分を含む)家賃収入の全体
    現物出資不動産を会社に出資し、株式を受け取る売買と同様に譲渡所得の課税が生じ得る家賃収入
    贈与不動産を会社に無償で移す時価で譲渡したものとみなされる家賃収入

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した比較です。実際の負担は物件の状況によって大きく異なります。

    実務では、移転時の負担を抑えつつ家賃収入を会社に移すため、建物だけを会社に売却し、土地は個人に残す方法が検討されることが多くあります。ただし、この方法には後述する借地権の整理が欠かせません。

    移転時にかかる税金と費用

    個人側:譲渡所得の課税

    不動産を会社に売却すると、売却益(譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額)に対して、個人に譲渡所得の課税が生じます。国税庁によれば、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える土地・建物の譲渡は長期譲渡所得となり、所得税15%(ほかに復興特別所得税として所得税額の2.1%)と住民税5%が課されます(国税庁 No.3208)。所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、所得税30%(ほかに復興特別所得税)と住民税9%が課されます(国税庁 No.3211)。令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%(令和8年分までは2.1%)に引き下げられ、あわせて防衛特別所得税(同1%)が課されます(財務省「令和8年度税制改正の解説」)。

    建物は減価償却によって帳簿上の価額(取得費)が下がっているため、取得から年数が経っている場合、売却価額によっては譲渡益が生じることがあります。土地は取得時期が古いほど取得費が低く、譲渡益が大きくなりやすい点に注意が必要です。

    時価より低い価額での移転には注意

    同族の会社だからといって、価額を自由に決められるわけではありません。国税庁によれば、法人に対する贈与や、時価の2分の1未満の価額による譲渡は、時価で資産の譲渡があったものとみなされます(国税庁 No.3105)。

    また、時価の2分の1以上の価額であっても、同族会社への譲渡が同族会社等の行為計算の否認(所得税法157条)に該当する場合には、時価で譲渡所得を計算されることがあります(所得税基本通達59-3)。さらに、時価より著しく低い価額で同族会社に譲渡して会社の株式の価額が増加した場合には、他の株主がその増加分を譲渡者から贈与により取得したものとして扱われることもあります(相続税法基本通達9-2)。買い取る会社の側でも、時価より低い価額で取得した場合には、その差額が受贈益として扱われることがあります。移転価額は、不動産鑑定評価などの客観的な根拠をもって説明できるものにしておくことが基本です。

    会社側:登録免許税・不動産取得税

    会社が不動産を取得すると、所有権移転登記の登録免許税と、不動産取得税(都道府県税)の負担が生じ得ます。

    国税庁によれば、売買による所有権移転登記の登録免許税は、課税標準(原則として固定資産課税台帳に登録された価格)の1,000分の20とされ、土地については令和11年3月31日までの登記は1,000分の15に軽減されています(国税庁 No.7191)。

    不動産取得税は、地方税法上の標準税率が4%で、土地と住宅は令和9年3月31日までの取得について3%とされ、宅地等(宅地評価土地)は同日までの取得について課税標準を価格の2分の1とする特例があります(地方税法73条の15、附則11条の2・11条の5)。実際の税率や軽減措置の適用は、不動産の種類や取得時期によって異なるため、所在地の都道府県で確認が必要です。

    その他の費用

    このほか、次のような費用や手続きも比較に含めておく必要があります。

    • 不動産鑑定評価など、移転価額の根拠をつくる費用
    • 司法書士報酬などの登記費用
    • 建物の譲渡に関する消費税(売り手である個人が消費税の課税事業者である場合など)
    • 物件に紐づく借入金の扱い(金融機関との協議、借換えの要否)
    • 入居者・管理会社への貸主変更の通知、敷金の引継ぎ、火災保険などの名義変更

    建物だけを移す場合:借地権の整理が要になる

    なぜ借地権が問題になるのか

    建物を会社に移し、土地を個人に残すと、「会社が個人の土地の上に建物を所有している」状態になります。これは、税務上、会社が個人から土地を借りている関係です。

    借地権の取引慣行がある地域では、土地を借りて建物を建てる(所有する)ときに、借主が地主に権利金を支払うのが通常とされています。権利金を支払わずに土地を借りると、借主である会社が、本来支払うべき借地権相当額の利益を受けたもの(受贈益)として課税されるおそれがあります。

    主な整理の方法

    権利金を授受しない場合の主な整理の方法は、次のとおりです。

    方法内容主な留意点
    権利金を支払う会社が個人に借地権の対価を支払う会社に資金が必要。個人側は受け取った権利金の額によって課税関係が生じる
    相当の地代を支払う権利金の代わりに、土地の価額に対しおおむね年6%程度の地代(「相当の地代」)を支払う(相続税では自用地としての価額の過去3年平均、法人税では更地価額が基準)地代が高くなり、会社の収益を圧迫しやすい
    土地の無償返還に関する届出将来、土地を無償で返還する旨を契約で定め、税務署に届け出る地代の水準によって、個人の土地や会社の株式の評価に影響する
    使用貸借地代を支払わない(固定資産税相当額以下を含む)法人が関わる貸借では、個人間の使用貸借と同じ扱いにはならない点に注意

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した比較です。

    国税庁によれば、「土地の無償返還に関する届出」は、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、法人と借地人の連名で、遅滞なく提出する手続です。土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとされています(国税庁「土地の無償返還に関する届出」、法人税基本通達13-1-7)。

    地代の水準が、相続・株式評価にも影響する

    どの方法で整理するか、地代をいくらにするかは、移転時の課税だけでなく、将来の相続にも関わります。

    • 地主である個人の側:土地は「会社に貸している土地」として評価されることになり、地代の授受の状況や届出の有無によって評価の方法が異なります。国税庁の通達では、相当の地代を収受している場合や「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価するとされています。なお、無償返還の届出があっても地代を受け取らない使用貸借の場合は、自用地としての価額で評価されます。
    • 会社の側:地主である個人が、土地を借りている同族会社の同族関係者である場合には、自用地としての価額の20%相当額を借地権の価額として、その会社の株式の評価上、純資産価額に算入する取扱いがあります(昭和43年の国税庁通達を、昭和60年の通達で無償返還の届出がある場合にも適用)。土地の評価が下がる分の一部が、株式の評価に反映される仕組みです。
    • 小規模宅地等の特例:国税庁によれば、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%の減額とされていますが、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象から除かれます(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け〔特定貸付事業〕を続けていた場合を除く)。また、特定同族会社事業用宅地等の対象となる法人の事業からは、不動産貸付業や駐車場業などが除かれています(国税庁 No.4124)。

    建物を会社に移したあとも、土地をどう持ち、どの条件で会社に貸すかによって、オーナー個人の相続の姿が変わります。

    移転後の効果と、移転時の負担を比べる

    移転の判断では、移転時に一度かかる負担と、移転後に毎年続く効果を、同じ時間軸の上で比べることが大切です。

    1. 移転時の負担を合計する:譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税、鑑定・登記などの費用
    2. 毎年の効果を見積もる:個人と法人の税負担の差、家族への報酬による分配、会社の維持コスト
    3. 何年で回収できるかを見る:移転時の負担を、毎年の効果で何年かけて取り戻せるか
    4. その期間、物件を持ち続けるかを確認する:大規模修繕、建替え、売却の予定と整合しているか

    たとえば、近い将来に売却や建替えを予定している物件を移転すると、効果が出る前に次の負担が生じることがあります。反対に、長期保有を前提とする収益性の高い物件では、移転時の負担を時間をかけて回収できる場合もあります。

    管理と承継の観点で確認したいこと

    管理:会社として物件を運営できるか

    移転後は、会社が貸主として入居者との契約、修繕、会計を担うことになります。誰が実際に管理を担うのか、管理会社との契約をどうするのか、会社としての記帳や決算を継続できるかを、移転前に確認しておく必要があります。

    承継:不動産が「株式」に置き換わる

    不動産を会社に移すと、オーナーが将来引き継ぐ財産は、個々の不動産から会社の株式に置き換わります。

    • 共有を避けやすくなる:不動産を複数の相続人で共有する事態は避けやすくなります。
    • 一方で、株式が分散すると意思決定が難しくなる:相続人が株式を分けて持つと、物件の売却や借入れなど会社の重要な判断がまとまらなくなることがあります。
    • 特定の物件を特定の相続人に渡しにくくなる:個人で持っていれば「この物件は長男に」と分けられたものが、会社の中では一体になります。

    どの物件を会社に移し、どの物件を個人に残すかは、家族の誰に何を渡したいかという承継の方針と合わせて決めることが重要です。会社の株式と経営権の承継については、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 全物件を一度に移さない:物件ごとに移転時の負担と効果は異なります。効果の大きい物件から段階的に検討する方法もあります。
    • 移転価額の根拠を残す:同族間の取引では、価額の妥当性が問われやすくなります。鑑定評価などの資料を保存しておきます。
    • 借入金の扱いを先に金融機関と相談する:物件に担保が設定されている場合、所有者の変更には金融機関の理解が必要です。
    • 契約書と届出をそろえる:土地の賃貸借契約書、無償返還の定め、届出書の控えなど、借地関係を説明できる書類を整えておきます。
    • 相続税の試算を移転前後で比較する:土地の評価、小規模宅地等の特例、会社の株式評価の変化を合わせて確認します。

    AEGISの視点

    不動産の法人化は、「法人のほうが税率が低いから移す」という単純な話ではありません。AEGISは、個人から法人への移転を「同じ不動産について、所有者・収益の受け手・管理の担い手・将来の承継者を組み替える設計」と捉えています。

    建物だけを移すのか、土地も移すのか、それとも移さずに管理だけを会社に任せるのか。この選択は、毎年の税負担だけでなく、地代という形で個人と会社の間に新しい資金の流れをつくり、土地と建物の所有者を分け、相続のときの財産の姿を変えます。どの方法が正解かは、物件の収益性、保有期間の見通し、家族の構成と意向によって異なります。

    だからこそ、移転を検討するときには、税額の試算から始めるのではなく、まず「この物件を、今後誰が、どのくらいの期間、どのような目的で持つのか」を言葉にしてみることをおすすめします。その答えが、移すべき物件と、移し方を自然に絞り込んでくれます。

    資産管理会社の設立タイミングを含む全体像は関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、個人保有と法人保有の基本的な比較は「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で解説しています。

    不動産の評価や法人との関係を含む不動産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産を法人へ移す判断は、「移転時に一度かかる負担」と「移転後に毎年続く効果」を同じ時間軸で比べることが基本です。
    • 移転時には、個人の譲渡所得税、会社の登録免許税・不動産取得税などがかかり得ます。時価の2分の1未満の価額による法人への譲渡は、時価で譲渡したものとみなされます。
    • 建物だけを移す場合は、借地権の整理(権利金・相当の地代・土地の無償返還に関する届出など)が欠かせません。
    • 整理の方法や地代の水準は、個人の土地の評価、会社の株式評価、小規模宅地等の特例にも影響します。
    • 不動産は会社の株式に置き換わるため、どの物件を移すかは承継の方針と合わせて決めることが重要です。

    具体的な課税関係や最適な方法は、物件の状況や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 建物だけを会社に売れば、譲渡所得税はかかりませんか?

    建物の売却でも、売却価額が建物の取得費(減価償却後の金額)を上回れば、譲渡所得の課税が生じます。また、価額を低く設定しすぎると、時価で譲渡したものとみなされたり、会社側で受贈益が生じたりすることがあります。客観的な根拠のある価額で移転することが大切です。

    Q. 「土地の無償返還に関する届出書」は、地主が個人でも出せますか?

    国税庁の手続案内では、土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとされています。届出は、契約書で将来の無償返還が定められていることを前提に、法人と借地人(または土地所有者)の連名で、遅滞なく提出します。

    Q. 会社が個人に地代を払わなければ、問題はありませんか?

    法人が関わる土地の貸し借りでは、個人間の使用貸借と同じようには扱われず、借地権の認定課税の問題が生じることがあります。地代を支払わない場合でも、無償返還の定めと届出などによって整理しておく必要があります。また、地代の有無は、相続時の土地や株式の評価にも影響します。

    Q. 不動産を会社に移すと、小規模宅地等の特例は使えなくなりますか?

    一概には言えません。土地を個人に残して会社に貸す場合には、貸付事業用宅地等として特例の対象となる可能性がありますが、相続開始前3年以内に新たに貸し付けた宅地等は原則として対象外とされています(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け〔特定貸付事業〕を続けていた場合を除く)。移転の前後で適用区分がどう変わるかを確認することが大切です。

    Q. すべての物件を一度に会社へ移したほうがよいですか?

    必ずしもそうではありません。物件ごとに、移転時の負担、毎年の効果、今後の保有期間の見通しが異なります。効果の大きい物件から段階的に検討する方法や、新たに取得する物件から会社で購入する方法も選択肢になります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.7-34、P.132-140
    • 『実務家のための要点・譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】』塩野入文雄 著、法令出版、P.3-7
  • 会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    勤務先から給与を受けている会社員や勤務医でも、資産管理会社を設立すること自体は可能です。高い給与所得に不動産収入などが上乗せされ、所得税の累進税率が重くなってきた方が、法人化を検討するのは自然な流れといえます。

    ただし、給与所得者の場合は、自ら事業を営むオーナーとは前提が違います。本業の勤務先には就業規則があり、社会保険にはすでに加入しており、借入れの審査では「勤務先からの給与」が信用の土台になっています。こうした事情を確認しないまま会社をつくると、税金以外のところで思わぬ制約にぶつかることがあります。

    この記事では、給与所得者が資産管理会社をつくる前に確認したい論点を、勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬と確定申告・法人での借入れの5つに絞って整理します。

    給与所得者にとって、資産管理会社で変わるもの・変わらないもの

    最初に押さえておきたいのは、資産管理会社に移せるのは「資産から生じる所得」であり、本業の給与は移せないという点です。勤務先から受ける給与は、会社をつくっても引き続き本人の給与所得として課税されます。

    資産管理会社が検討される主な理由は、次のように整理できます。

    • 税率構造の違い:所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる超過累進税率で、最高税率は45%です(国税庁 No.2260)。一方、中小法人の法人税は、所得のうち年800万円以下の部分と超える部分で税率が分かれる仕組みです(国税庁 No.5759)。
    • 所得の行き先を分けられる:不動産収入などを会社に帰属させれば、その所得は本人の給与所得に上乗せされなくなります。
    • 家族への配分と財産の蓄積先:会社から家族に役員報酬を支払ったり、利益を会社に留めたりすることで、本人個人に財産が積み上がるスピードを調整できます。

    一方で、給与所得者ならではの「失うもの」もあります。たとえば、個人で保有する賃貸不動産の不動産所得が赤字になった場合、その損失は原則として給与所得などと損益通算できます(土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は除かれます。国税庁 No.2250)。会社で保有すると、会社の赤字は会社の中にとどまり、本人の給与所得とは通算できません。購入初期に赤字が出やすい物件を個人で持つか会社で持つかは、この点も含めて比べる必要があります。損益通算の考え方は、関連記事「高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと」で詳しく扱っています。

    比べる項目個人で保有する場合資産管理会社で保有する場合
    資産からの所得給与所得と合算され、累進税率で課税会社の所得として法人税等で課税
    赤字が出た場合原則として給与所得と損益通算できる(例外あり)会社の中で処理され、本人の給与とは通算できない
    家族への配分贈与などの方法に限られる職務の実態に応じた役員報酬などで配分できる
    本人の手続確定申告で不動産所得を申告会社の決算・申告に加え、本人の申告内容も変わり得る
    勤務先との関係一般に不動産賃貸の規模・態様が論点役員就任や報酬受領が副業・兼業の規定に触れないかが論点
    承継不動産そのものを相続・贈与会社の株式を相続・贈与

    ※上記は一般的な整理です。具体的な有利・不利は、所得の水準、物件の収支、家族構成によって変わります。

    資産管理会社の設立を検討すべきタイミングや比較の軸の全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。本記事は、そのうち給与所得者に固有の論点に絞っています。

    確認点1:勤務先の就業規則と副業・兼業の扱い

    最初に確認したいのは、勤務先の就業規則や服務規程です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的には労働者の自由であるとしたうえで、会社が副業・兼業を制限できる場合として、次のようなケースを挙げています。

    • 本業への労務提供に支障がある場合
    • 業務上の秘密が漏れる場合
    • 競業により勤務先の利益が害される場合
    • 勤務先の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

    ガイドラインは、雇用されて働く形だけでなく、起業や役員への就任など、労働基準法が適用されない形の副業・兼業も視野に入れています。また、会社が副業・兼業について届出制を設けることが望ましいとしています。

    資産管理会社の場合、確認したいのは次のような点です。

    • 役員就任の扱い:就業規則で、他社の役員に就くことが届出制か許可制か、あるいは制限されているか
    • 株主になるだけの場合:出資して株主になるだけなのか、役員として業務を執行するのかで、規程上の扱いが異なることがあります
    • 競業の可能性:勤務先が不動産・金融関連の業種である場合、会社の事業目的や取引先が勤務先と重ならないか
    • 公的な勤務先の場合:公務員は、営利企業の役員を兼ねることや報酬を得て他の事業に従事することが法律で制限され、承認・許可が必要とされています(国家公務員法103条・104条、地方公務員法38条)。公的な医療機関に勤務する場合も、法令や勤務先の規程に基づく別の制限があるため、個別に確認が必要です

    本人が役員に就けない場合に、家族だけを役員にする設計も考えられます。ただし、実際の意思決定を本人が行い、家族は名義だけという状態では、会社の実態や家族への報酬の妥当性が問われかねません。

    確認点2:家族を役員にするときは「職務の実態」を先に決める

    給与所得者が資産管理会社をつくる場合、配偶者や親などの家族を役員にして、会社から報酬を支払う設計がよく検討されます。所得を家族に分けることで、家族全体の税負担を抑え、家族の手元に将来の納税資金を蓄える効果が期待されるからです。

    ただし、役員報酬が会社の損金になるには、定期同額給与などの要件を満たす必要があり、職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は損金に算入されません(国税庁 No.5211)。定期同額給与の額の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行うことが求められます。

    家族を役員にする前に、次の点を言葉にしておくことをおすすめします。

    • 誰が、どの業務(物件の管理、入居者や管理会社とのやり取り、資金管理、帳簿の確認など)を担うのか
    • 報酬の水準は、その業務の内容と量に見合っているか
    • 家族が他に勤務先を持つ場合、その勤務先の規定や、扶養の範囲などに影響しないか

    家族役員の報酬設計は、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で詳しく扱います。

    確認点3:社会保険は「二つ目の勤務先」として扱われる

    見落とされやすいのが社会保険です。日本年金機構によれば、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所とされています。つまり、資産管理会社も、役員に報酬を支払う形をとれば、社会保険の手続が必要になる可能性があります。

    本人が勤務先で社会保険に加入したまま、資産管理会社からも役員報酬を受ける場合は、二つの事業所で被保険者となる形になり得ます。厚生労働省のガイドラインでは、複数の事業所で被保険者の要件を満たす場合、いずれかの保険者を選択し、各事業所の報酬に応じて保険料を按分する仕組みが示されています。資産管理会社からの報酬を増やすと、本業の勤務先にも影響が及ぶ手続が生じ得るということです。

    設計の例社会保険で確認したいこと
    本人も家族も報酬なし会社に利益が残る一方、個人への資金配分の手段が限られる
    家族のみに報酬家族の加入の要否と、家族の他の勤務先・扶養への影響
    本人にも報酬本業との二以上の事業所勤務の手続と、保険料負担の増減

    社会保険の加入要件や手続は、役員の勤務の実態や報酬の額によって判断されます。設計の段階で、社会保険の取扱いを確認してから報酬額を決める順番が安全です。

    確認点4:役員報酬と確定申告の関係を整理する

    給与所得者は、通常は勤務先の年末調整で手続が完結しています。しかし資産管理会社をつくると、本人の申告が変わることがあります。国税庁 No.1900では、給与所得者でも確定申告が必要になる場合として、次のようなケースが示されています。

    • 給与の年間収入金額が2,000万円を超える場合
    • 2か所以上から給与を受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える場合
    • 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている場合

    最後の点は、資産管理会社と本人の間で、土地や建物を貸したり、お金を貸したりするケースで関係します。会社をつくったからといって、本人の申告の手間がなくなるわけではありません。

    また、会社から本人に役員報酬を支払うと、その報酬は本業の給与と合わせて給与所得として課税されます。会社に移した所得を、報酬として本人に戻しすぎると、累進税率の負担が元に戻ることになります。会社に残す金額、家族に配分する金額、本人が受け取る金額のバランスを、数年単位で試算して決めることが大切です。高所得者の所得の種類ごとの税金のかかり方は、関連記事「高所得者の所得税・住民税の全体像」で整理しています。

    確認点5:法人での借入れは「個人の信用」とセットで考える

    給与所得者が不動産を取得するとき、融資の審査では勤務先や給与の安定性が重視されることが多いといわれます。設立したばかりの資産管理会社には事業の実績がないため、会社名義で借り入れる場合でも、本人の収入や資産、本人による保証が審査の前提となることが一般的です。

    借入れについては、次の点を事前に確認しておきたいところです。

    • 会社名義の借入れに、本人が保証人となる場合の範囲と期間
    • 個人名義の借入れが残っている場合、会社での新たな借入れとの関係
    • 将来、転職や独立、勤務先の退職などで本人の収入が変わった場合の影響
    • 会社と本人の間でお金を貸し借りする場合の契約・利息・返済の取り決め

    最後の点は、会社と個人の資金の境界にかかわる論点です。考え方は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 設立の順番:すでに個人で保有する不動産を会社へ移す場合は、移転時の譲渡所得課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。新たに取得する物件から会社で持つのか、既存の物件も移すのかを、先に決めておきます。
    • 土地の貸し借り:本人が土地を持ち、会社が建物を持つ形では、個人と法人の間の土地の貸し借りに借地権の課税の問題が生じます。法人が関わる貸し借りでは、個人間のような使用貸借の考え方がそのままは通用しない点に注意が必要です。
    • 会社の実態:管理の業務を誰がどう担っているか、会社の帳簿や契約が整っているかは、報酬や取引の妥当性を説明する土台になります。
    • 維持の負担:会社には、決算・申告や登記などの維持費用が毎年かかります。所得の規模に対して負担が見合うかを確認します。

    AEGISの視点

    給与所得者の資産管理会社は、「税率の差」から語られることがほとんどです。しかしAEGISは、給与所得者にとっての本当の論点は、本業のキャリアと、資産の保有形態と、家族の役割をどう両立させるかにあると考えています。

    勤務先の規定や社会保険は、税金の計算には現れませんが、一度設計した会社の形を後から変えるのは簡単ではありません。役員構成や報酬の設計を変えると、手続や家族の働き方にも影響が及びます。さらに、資産管理会社の株式は将来、相続や贈与の対象になります。いま誰が株主になり、誰が役員を務めるかは、10年後・20年後の承継の形にもつながります。

    そのため、資産管理会社をつくるかどうかを決める前に、①本業で今後どのような働き方をしていくか、②家族の誰がどこまで関わるか、③不動産をどの規模まで持つか、の3点を先に話し合っておくことをおすすめします。会社は、その答えを実現するための器として設計するのが順番だと考えています。

    まとめ

    • 給与所得者でも資産管理会社はつくれますが、会社に移せるのは資産から生じる所得で、本業の給与は移せません。
    • 個人保有なら不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できる場合がありますが、会社で保有するとその効果はなくなります。
    • 勤務先の副業・兼業の規定(役員就任・競業など)を最初に確認します。
    • 家族を役員にする場合は、職務の実態と報酬水準の妥当性を先に決めます。
    • 役員報酬を支払うと、社会保険の手続や本人の確定申告にも影響が生じ得ます。
    • 法人での借入れは、本人の信用や保証とセットで考える必要があります。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 会社員が資産管理会社の役員になると、副業禁止の規定に違反しますか?

    一概には言えません。勤務先の就業規則で、他社の役員就任をどう扱っているか(届出制・許可制・制限など)によって異なります。厚生労働省のガイドラインでは、副業・兼業は原則として自由とされつつ、本業への支障や競業、秘密の漏洩などがある場合は制限できるとされています。まずは勤務先の規程を確認することが出発点です。

    Q. 自分は役員にならず、配偶者だけを役員にすれば問題ありませんか?

    勤務先の規定上の問題は小さくなる可能性がありますが、配偶者が実際に会社の業務を担っていることが前提です。意思決定を本人が行い、配偶者は名義だけという状態では、役員報酬の妥当性や会社の実態が問われるおそれがあります。

    Q. 資産管理会社から役員報酬を受け取ると、社会保険はどうなりますか?

    法人の事業所は社会保険の強制適用事業所とされているため、役員報酬の支払いに伴って加入の要否を確認する必要があります。本業の勤務先と合わせて二つの事業所で被保険者となる場合は、保険者の選択や保険料の按分などの手続が生じ得ます。報酬額を決める前に確認しておくことをおすすめします。

    Q. 勤務医が資産管理会社をつくる場合に、特に注意することはありますか?

    基本的な論点は会社員と同じですが、勤務先が公的な医療機関である場合は、兼業に関する法令や規程による制限がないかを個別に確認する必要があります。また、勤務医は給与水準が高く、会社から本人に報酬を戻すと累進税率の負担が大きくなりやすいため、会社に残す金額と家族への配分のバランスが重要になります。

    Q. 不動産を購入してから会社をつくるのと、会社をつくってから購入するのとでは、どちらがよいですか?

    すでに個人で取得した不動産を会社へ移すと、移転時に譲渡所得の課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。今後取得する物件を会社で持つ方針であれば、取得前に会社の設計を済ませておくほうが、移転の負担を避けやすくなります。ただし、購入初期の赤字を給与所得と通算したい場合など、個人で持つ理由がある物件もあるため、物件ごとに比べることが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

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    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、第Ⅰ部第2章 P.85-87、P.92-93
    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、第4編 P.218、P.229-230
  • 土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    オーナー個人が持つ土地の上に、資産管理会社や事業会社が建物を建てる、あるいは建物だけを会社に移す。こうした形は、所有と運営を分けたり、家族で収益を分担したりする目的でよく検討されます。

    このとき必ず問題になるのが、会社が個人の土地を「借りている」ことの税務上の扱いです。権利金を払わずに土地を借りると、会社が借地権という財産を無償で受け取ったとみなされ、思わぬ課税を受けることがあります。

    結論から言えば、権利金を授受しない場合の主な整理の方法は、「相当の地代を支払う」か「土地の無償返還に関する届出書を提出する」かのどちらかです。そして、どちらを選ぶか、地代をいくらにするかによって、会社の課税だけでなく、オーナーの相続時の土地の評価と、会社の株式の評価まで変わります。この記事では、その仕組みと、選択の際に確認したい点を整理します。

    なぜ「借地権」が問題になるのか

    借地権は権利金を払って取得するのが前提

    建物を所有する目的で土地を借りると、借主には借地借家法による強い保護が与えられます。そのため、借地権の取引慣行がある地域では、土地を貸す際に、地主が借主から権利金を受け取るのが通常とされてきました。財産評価の上でも、借地権は相続税の課税対象となる独立した財産として扱われ、路線価図には地域ごとの借地権割合が示されています。

    税務上の取扱いは、この「権利金を払って借地権を取得するのが通常の取引である」という前提に立っています。

    権利金なしで借りると、会社に受贈益が生じるおそれ

    個人が土地を貸す場合、所得税では、権利金を受け取らなかったからといって、受け取ったものとみなして個人に課税する仕組みは基本的にありません。一方、借主が法人の場合は、本来支払うべき権利金を支払わずに借地権を得たとして、その相当額を受贈益(会社の益金)として課税される可能性があります。これがいわゆる借地権の認定課税です。

    ただし、次のいずれかの対応をしていれば、この認定課税は行われない取扱いになっています。

    • 権利金に代えて、相当の地代を支払う(法人税基本通達13-1-2)
    • 将来、土地を無償で返還することを契約で定め、土地の無償返還に関する届出書を提出する(法人税基本通達13-1-7)

    選択肢を比べる

    権利金を授受しない場合を中心に、主な選択肢を整理すると次のようになります。

    選択肢会社の借地権の認定課税地主(個人)の土地の相続税評価会社の株式評価への影響主な留意点
    A. 相当の地代を支払う生じない原則として自用地価額の80%地主が同族関係者となっている同族会社なら、自用地価額の20%を借地権として純資産価額に算入地代が高く、会社の収支を圧迫しやすい。地代の改訂方法の選択が必要
    B. 無償返還届出+地代を支払う(賃貸借)生じない自用地価額の80%同上(同族会社の場合、20%を純資産価額に算入)地代水準の決め方と、届出の提出・保管
    C. 無償返還届出+地代なし(使用貸借)生じない自用地価額(100%)借地権の計上なし地主側に地代収入がない。土地の評価は下がらない
    D. 何もしない(権利金・相当の地代・届出なし)生じるおそれ借地権の価額を控除した貸宅地評価会社に借地権が計上される設立・移転時に会社側で受贈益課税の可能性

    ※AEGISが論点整理のために作成した比較です。評価の取扱いは国税庁の個別通達(昭和60年直資2-58ほか、昭和43年直資3-22)に基づく原則的な内容で、権利金の一部授受がある場合など個別事情により異なります。「地主の土地の評価」は個人が相続する土地(貸宅地)の話、「株式評価への影響」は土地を借りている会社の株式の話で、20%の算入は、被相続人(地主)が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合の取扱いです。

    以下、A〜Cの中身を順に見ていきます。

    相当の地代とは

    自用地価額のおおむね年6%

    相当の地代とは、権利金を授受しない代わりに支払う、通常より高い水準の地代です。相続税の取扱いを定めた国税庁の個別通達(いわゆる相当地代通達)では、借地権が設定されている土地の自用地としての価額の過去3年間の平均額に対し、おおむね年6%程度の地代とされています。

    法人税の取扱い(法人税基本通達13-1-2)も、土地の更地価額に対する一定割合の地代を相当の地代としています。通達本文は「おおむね年8%程度」としていますが、平成元年の個別通達(平成元年直法2-2)により当分の間「年6%」と読み替えられ、更地価額は相続税評価額やその過去3年間の平均額によることもできるとされています。どちらの税目でも、土地の価額をどの時点・どの方法で算定するかが地代の水準を左右するため、算定の根拠を残しておくことが大切です。

    地代を据え置くか、改訂していくか

    相当の地代を支払う場合、地価が変動したときに地代をどうするかを決めておく必要があります。法人税基本通達13-1-8は、地主が法人である場合について、地代の改訂方法を契約書で次のいずれかに定めることとしています。

    • 土地の価額の上昇に応じて地代を順次改訂する方法:借地権の価値は借主側に生じないと整理されます
    • それ以外の方法(地代を据え置くなど):地価が上がると、相当の地代との差が生じ、借主側に借地権の価値が自然に発生していく考え方になります

    地主が法人の場合、どちらを選ぶかは借主と連名で遅滞なく税務署に届け出ることとされ、届出がない場合は後者の方法を選択したものとして扱われます。地主が個人で借主が会社の場合も、会社が借地権を譲渡したり土地を返還したりするときの借地権の価額は、改訂方法がどちらかによって扱いが分かれる(法人税基本通達13-1-15)ため、契約書で改訂方法を明確にしておくことが大切です。地代を据え置いたまま年数が経つと、相続時の土地や株式の評価が当初の想定と異なってくる点に注意が必要です。

    土地の無償返還に関する届出とは

    「将来、無償で返す」と約束し、税務署に届け出る

    土地の無償返還に関する届出は、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、土地所有者と借地人が連名で、遅滞なく届け出る手続です(国税庁 手続名C1-63、法人税基本通達13-1-7)。契約書の写しと、土地の価額の計算の明細などを添付します。

    国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとしています。個人の土地に会社が建物を持つ場面でも、この届出によって、権利金を授受せず相当の地代も支払わない形を選べることになります。

    地代を払うか、払わないか

    無償返還の届出をしたうえで、地代をどうするかは別に決めます。ここが、相続時の評価を分ける大きな分岐点です。

    • 地代を支払う(賃貸借):地主の土地は「貸宅地」として、自用地価額の80%で評価されます(相当地代通達8)
    • 地代を支払わない(使用貸借):届出が出ていても、土地は自用地価額(100%)で評価されます(同通達8の(注))。地代を受け取っていても、その額が固定資産税などの公租公課に相当する程度以下で、実質的に使用貸借にすぎないと認められる場合も同様です

    地代を受け取らない使用貸借は、地主に収入がない分、所得税の負担は生じませんが、土地の評価は下がりません。反対に地代を受け取る場合は、地主の不動産所得が増える一方、会社の費用になります。どちらが望ましいかは、オーナー個人と会社の所得の状況、そして将来の承継の形とあわせて判断することになります。

    相続税評価への影響:「下がった分」はどこへ行くか

    ここで見落とされがちなのが、会社の株式の評価です。

    相当の地代を支払っている場合や、無償返還の届出をして地代を支払っている場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価されます。一方、その土地を借りている会社が、被相続人が同族関係者となっている同族会社である場合、その会社の株式を純資産価額で評価する際には、自用地価額の20%相当額を借地権の価額として純資産に算入する取扱いがあります(昭和43年直資3-22、相当地代通達6・8)。この取扱いは、地主の土地が80%で評価される場合のものです。地代を受け取らない使用貸借で土地が自用地価額(100%)で評価される場合には、土地の評価は下がりません。

    数字で見ると、次のようなイメージです。

    項目金額のイメージ
    土地の自用地価額1億円
    地主(個人)の土地の評価:貸宅地 80%8,000万円
    会社の株式評価で純資産に算入される借地権相当額:20%2,000万円
    個人と会社を通じた合計1億円

    ※説明のための単純化した例です。株式の評価は純資産価額方式だけで決まるとは限らず、会社の規模や資産構成によって異なります。また、株式の評価方法は国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しているため、今後の通達改正に注意が必要です。

    つまり、オーナーが会社の株式を自分で保有している限り、土地の評価が下がった分は、株式の評価に移るだけという構図になりやすいのです。これは、土地の価額を個人と法人を通じて全体として捉えるという考え方によるものです。評価上の効果を期待して届出や地代を選ぶ場合は、誰が会社の株式を持っているかまで含めて確認する必要があります。

    なお、地代の有無は、小規模宅地等の特例でどの区分に当たるかにも関わります。会社に土地を貸している場合の特例の考え方は、関連記事「小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 契約書と届出をセットで整える:無償返還の定めは契約書に明記されている必要があります。届出書の控えと契約書は、相続の時まで確実に保管しておきます。
    • 「遅滞なく」を意識する:建物の新築や移転のタイミングで、地代・届出の方針を決めておくことが前提です。後から整理しようとすると、すでに借地権の移転があったと見られるおそれがあります。
    • 地代を変えたら評価も変わる:無償返還の届出をした後に地代を無しにする(または有りにする)と、土地の評価が80%と100%の間で変わります。地代の変更は、意思決定として記録を残しておきます。
    • 相当の地代は地価の動きを追う:相当の地代を選んだ場合、改訂方法の選択と、実際の改訂の運用がずれていないかを定期的に確認します。
    • 建物を移す場面とあわせて考える:個人の建物を会社に移す場合は、移転時の譲渡所得や登録免許税なども生じます。移転全体の比較は関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

    AEGISの視点

    無償返還の届出や相当の地代は、税務の手続として語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、これを「土地は個人、建物と事業は会社」という所有の分担を、将来にわたってどう固定するかの意思表示だと考えています。

    届出をして地代を受け取る形にすれば、土地は個人の財産として残りつつ、会社の株式にも一定の価値が乗ります。地代を受け取らない形にすれば、土地の評価は下がりませんが、会社と個人の間で毎年の資金の流れが生じません。どちらが正しいということはなく、土地を相続する人と、会社の株式を引き継ぐ人が同じか別か、会社が将来その土地を買い取る可能性があるかによって、望ましい形は変わります。

    また、所有と運営を分ける設計を土地活用の段階から考える場合は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」も参考になります。資産管理会社を持つかどうか自体の判断は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    土地の貸し借りに関わる評価や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人の土地に会社が建物を持つと、税務上は会社が土地を借りている関係になり、権利金を授受しなければ会社に借地権の認定課税が生じるおそれがあります。
    • 認定課税を避ける主な方法は、相当の地代(自用地価額のおおむね年6%)の支払いと、土地の無償返還に関する届出です。届出は土地所有者が個人でも提出できます。
    • 相当の地代や、届出+地代ありの場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価され、地主(被相続人)が同族関係者となっている同族会社の株式評価では、20%相当額が純資産価額に算入されます。
    • 届出をしても地代なし(使用貸借)であれば、土地は自用地価額で評価されます。
    • どの形を選ぶかは、税負担だけでなく、土地と株式をそれぞれ誰が引き継ぐかとあわせて判断することが重要です。具体的な取扱いは個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 土地の無償返還に関する届出は、いつまでに出せばよいですか?

    国税庁の案内では、土地を無償で返還することが定められた後「遅滞なく」提出することとされています。明確な日数の定めはありませんが、建物の新築や会社への移転と同じタイミングで契約書を整え、速やかに提出するのが基本です。

    Q. 土地の持ち主が個人でも、届出は出せますか?

    出せます。国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出できるとしています。土地所有者と借地人(会社)の連名で提出します。

    Q. 相当の地代を払うのと、無償返還の届出をするのとでは、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。相続時の土地の評価(80%)や株式評価への算入(20%)は、両者で同じ扱いになる場面が多い一方、相当の地代は地代が高く、会社の収支や個人の所得に与える影響が大きくなります。地代の水準を柔軟に決めたい場合は届出を選ぶことが多いですが、個人と会社の所得、将来の承継の形とあわせて比較することが大切です。

    Q. 届出を出して地代をゼロにすると、相続税評価はどうなりますか?

    地代を受け取らない使用貸借の場合、無償返還の届出が出ていても、土地は自用地としての価額で評価されます。貸宅地としての80%評価にはなりません。

    Q. すでに届出なしで会社が建物を持っている場合はどうすればよいですか?

    建てた時期、権利金や地代の授受の状況、契約内容によって、借地権が誰に帰属しているかの判断が変わります。過去の経緯を契約書や申告書で確認したうえで、現状をどう整理するかを専門家と検討することをおすすめします。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.5-34、P.115-150
    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、一般財団法人大蔵財務協会、2024年、P.367
  • 自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継|財産の「性質」から役割を決める設計の考え方

    自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継|財産の「性質」から役割を決める設計の考え方

    事業オーナーの財産は、多くの場合、自社株式・不動産・金融資産の3つで構成されています。承継の相談では「株式は後継者に」「不動産は長男に」「預金は均等に」というように、財産の種類ごとに行き先を決めていく方法がよく見られます。

    しかし、財産の種類ごとに個別に決めていくと、全体として「納税資金が足りない」「後継者以外の家族に渡すものがない」「共有になった不動産が動かせない」といった問題が後から見つかることがあります。

    結論から言えば、組み合わせの設計は財産の種類ではなく「性質」から出発し、それぞれの財産に「経営を続ける」「家族に分ける」「税金を納める」のどの役割を担わせるかを決めることが出発点です。この記事では、その考え方と設計の手順を整理します。

    3つの財産は、性質がまったく違う

    まず、自社株式・不動産・金融資産の性質を、承継の観点から比べてみます。

    性質自社株式(非上場)不動産金融資産(現預金・上場株式等)
    換金のしやすさ低い(買い手が限られる)中程度(時間がかかる)高い
    分けやすさ分けられるが、分けると議決権も分散する物理的・権利的に分けにくく、共有になりやすい分けやすい
    管理・支配の担い手必要(経営判断・議決権行使)必要(修繕・賃貸管理・売却判断)比較的少ない
    評価と時価のずれ評価方法によって大きく変わる相続税評価額と売却価格が異なることが多い小さい
    収益配当(会社の方針次第)賃料(賃貸用の場合)利息・配当

    この表から分かるのは、自社株式と不動産は「持つ人に役割を求める財産」であり、金融資産は「調整に使える財産」だということです。

    財産に「役割」を割り当てる

    性質の違いを踏まえると、承継の場面で財産が担う役割は次の3つに整理できます。

    1. 経営を続けるための財産

    自社株式と、会社が事業に使っている不動産(本社・工場・店舗の土地建物など)です。これらは、後継者が経営を安定して続けるために、後継者または後継者が支配する会社に集めることが基本になります。

    会社の重要事項は株主総会で決まるため、後継者が議決権をどの程度確保できるかが承継の安定性を左右します。また、会社が使う不動産を後継者以外の家族が相続すると、会社は家族から土地を借り続けることになり、賃料や将来の売却をめぐって調整が必要になる場合があります。

    2. 家族に分けるための財産

    後継者以外の家族の生活や、家族間のバランスを保つための財産です。分けやすく、管理の負担が少ない金融資産が中心になります。賃貸不動産も候補になりますが、複数人で共有すると売却や大規模修繕の判断がまとまりにくくなるため、1物件を1人が相続するなど、共有を避ける工夫が必要です。

    3. 税金を納めるための財産

    相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、金銭で納めるのが原則です(国税庁 No.4205)。換金しやすい金融資産や、相続人が受け取る死亡保険金(「500万円×法定相続人の数」までは非課税、国税庁 No.4114)が、この役割を担います。不動産を売却して納税資金をつくる場合は、売却に時間がかかることを見込み、どの不動産を売るかを事前に決めておくことが大切です。

    組み合わせを考えるときの典型的な課題

    財産の大半が自社株式の場合

    後継者に株式を集めると、他の家族に渡す財産が不足し、後継者は換金できない株式に対して多額の相続税を負担することになります。この場合の選択肢として、たとえば次のような方向性が考えられます。

    • 生前に金融資産を計画的に蓄え、他の家族への配分と納税資金に充てる
    • 後継者が他の家族に金銭を支払う形で遺産を分ける(代償分割)ための資金を準備する
    • 法人版事業承継税制の利用を検討する(特例措置を使う場合の特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日、中小企業庁)
    • 株式の一部を会社や持株会社が買い取る形で、オーナー側に資金を確保する

    どの方法にも資金負担や要件、会社の財務への影響があるため、組み合わせて検討することになります。

    なお、自社株式の評価方法は、国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、評価額を前提にした配分や納税資金の計画は、今後の改正に注意して見直すことが大切です。

    不動産が多く、現預金が少ない場合

    不動産オーナーに多いのが、総資産に占める現預金の少なさです。相続税の納税資金だけでなく、不動産を相続しない家族とのバランスをとるための資金も不足しがちです。所有不動産を一覧にして、物件ごとの収益と相続税評価額、売却のしやすさを把握し、「持ち続ける不動産」「生前に売却・組み替える不動産」「相続後に売却する不動産」を区分しておくと、判断がしやすくなります。

    事業用・居住用の土地がある場合

    一定の要件を満たす事業用や居住用の宅地等は、相続税の計算で評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」の対象になり得ます。減額の割合と限度面積は区分ごとに異なり、特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等は400㎡まで80%、特定居住用宅地等は330㎡まで80%、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%とされています(国税庁 No.4124)。

    この特例は、誰がその宅地を取得するか、取得した人が事業や居住を継続するかなどの要件によって適用の可否が変わります。また、相続時精算課税で贈与を受けた宅地等には適用できません。どの土地を誰に渡すかという配分の判断が、そのまま税額に影響する点に注意が必要です。

    所有の「器」を組み合わせる

    組み合わせの設計では、財産を誰に渡すかだけでなく、誰が(どの主体が)持つかも選択肢になります。

    所有の器向いている場面留意点
    個人で保有管理が簡単な財産、相続時の特例を使いたい土地相続時に分割・共有の問題が生じやすい
    資産管理会社賃貸不動産をまとめて管理し、収益を家族に配分したい場合設立・運営コスト、会社の株式の承継設計が必要
    持株会社事業会社の株式を集約し、所有と経営を整理したい場合株式の買取資金の調達、管理コストの増加

    たとえば賃貸不動産を資産管理会社に移せば、相続の対象は個々の不動産ではなく会社の株式になり、不動産を物理的に分けずに済む面があります。一方で、移転時には譲渡や登記の税金・費用がかかり、会社の株式を誰がどれだけ持つかという新しい設計課題が生まれます。器を変えることは目的ではなく、承継後の管理と意思決定をどう分担するかを実現する手段として検討することが大切です。

    組み合わせを設計する手順

    1. 財産を性質で棚卸しする:種類・評価額だけでなく、換金性、分けやすさ、管理の担い手の要否、収益、事業との関係を一覧にします。
    2. 相続税を概算し、納税資金の過不足を見る:現時点で相続が起きた場合の税額と、換金しやすい財産の額を比べます。
    3. 「経営」「分ける」「納める」の3つの役割に財産を割り当てる:まず経営を続けるための財産を後継者側に置き、残りで家族への配分と納税資金を組み立てます。
    4. 不足を埋める手段を検討する:生前の資金づくり、贈与、売却や組み替え、保険、所有の器の変更、制度の活用などを比較します。
    5. 配分案を家族と共有し、定期的に見直す:株価や不動産価値の変動、家族の状況に応じて更新します。

    生前贈与と相続のどちらで移すかは財産ごとに判断が分かれるため、関連記事(生前贈与と相続をどう使い分けるか)もあわせてご覧ください。財産や会社が多く、一覧にすること自体が難しい場合は、関連記事(複数の会社・資産にまたがる財産の整理)で整理の方法を解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 評価額の低さだけで財産を選ばない:相続税評価額が低い財産は税額の面では有利に見えますが、換金しにくかったり、分けにくかったりすることがあります。
    • 「均等」が「公平」とは限らない:同じ評価額でも、自社株式と預金では受け取る側にとっての価値や使い勝手がまったく違います。家族が納得できるかどうかは、金額だけでは決まりません。
    • 共有はできるだけ避ける:不動産や株式を複数人で共有すると、次の世代でさらに権利が細分化され、意思決定が難しくなります。
    • 会社との貸し借りを整理する:オーナーから会社への貸付金は相続財産になります。回収の見込みや、資本への振替などの整理を早めに検討します。

    AEGISの視点

    AEGISは、財産の組み合わせを「財産ごとに、次の世代で誰がその財産に責任を持つかを決めること」と考えています。

    自社株式には経営の責任が、不動産には管理と活用の責任が伴います。金融資産は、その責任を担わない家族への配分や、納税という一度きりの大きな支出を支える役割を持ちます。財産を評価額だけで並べると、この「責任の重さ」の違いが見えなくなります。

    また、不動産は持ち方を変えることで、承継のしやすさが大きく変わる財産でもあります。個人で持つか、会社で持つか、事業と組み合わせて活用するか——不動産の所有のあり方を事業承継と同じ時間軸で考えることが、財産全体の組み合わせを無理のないものにします。相続・事業承継の全体像は親記事(相続対策と事業承継を一体で考える)で解説しています。

    自社株式や事業用不動産の評価・承継に関わる税務の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 自社株式・不動産・金融資産は、換金性・分けやすさ・管理の担い手の要否が大きく異なります。
    • 組み合わせの設計は、財産に「経営を続ける」「家族に分ける」「税金を納める」の役割を割り当てることから始めます。
    • 自社株式と事業用不動産は後継者側に集めるのが基本で、金融資産が家族への配分と納税資金の調整役になります。
    • 小規模宅地等の特例など、誰がどの財産を取得するかで税額が変わる制度がある点に注意が必要です。
    • 所有の器(個人・資産管理会社・持株会社)の選択も、承継後の管理と意思決定から逆算して検討します。具体的な設計は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 自社株式は必ず後継者1人に集めるべきですか?

    経営の安定の観点からは、後継者が必要な議決権を確保できるようにすることが基本です。ただし、議決権のない株式の活用など、配当や財産的価値を他の家族にも配分する設計の余地もあります。会社の状況と家族の意向に応じて検討します。

    Q. 不動産を兄弟で共有して相続するのは避けるべきですか?

    共有自体が禁止されているわけではありませんが、売却や建替え、大規模修繕の判断に共有者の合意が必要になり、次の世代でさらに権利が細分化されるおそれがあります。物件ごとに取得者を分ける、資産管理会社にまとめるなど、共有を避ける方法を先に検討することをおすすめします。

    Q. 金融資産が少ない場合、納税資金はどう準備すればよいですか?

    生前からの資金の積み立て、生命保険の活用、売却する不動産の事前の選定、延納制度の検討などが考えられます。どの方法が適しているかは財産の構成や家族の状況によって異なるため、まず相続税の概算と納税資金の過不足を把握することが出発点です。

    Q. 会社が使っている土地は、会社に買い取ってもらうべきですか?

    選択肢の一つですが、譲渡に伴う所得税等の負担や会社の資金負担、小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性などを比較する必要があります。オーナー個人が持ち続けて後継者が相続する方法と比べ、事業の継続性と税負担の両面から判断します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 二次相続まで見通した遺産の分け方|配偶者の税額軽減をどこまで使うかを、税・生活・不動産から考える

    二次相続まで見通した遺産の分け方|配偶者の税額軽減をどこまで使うかを、税・生活・不動産から考える

    夫婦の一方が亡くなったときの相続(一次相続)では、配偶者の税額軽減により、配偶者が取得する財産には相続税がほとんどかからないことがあります。しかし、配偶者に多く相続させるほど、その配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)で子どもの税負担が重くなることがあります。

    結論から言えば、配偶者の取得割合は「一次相続の税額が最も少なくなる割合」ではなく、一次と二次を通算した税額、配偶者のこれからの生活資金と住まい、不動産を誰が持つと特例や管理がうまくいくか、の3つを並べて決めるのが基本です。税額だけで最適な割合を探すと、配偶者の生活を細らせてしまうこともあります。

    この記事では、二次相続で税負担が重くなる仕組みと、分け方を決めるときの考え方を整理します。

    二次相続とは

    二次相続とは、一次相続で財産を取得した配偶者が亡くなったときの相続をいいます。一般的には、両親のうち一人目が亡くなったときを一次相続、二人目が亡くなったときを二次相続と呼びます。

    一次相続と二次相続は、税務上はそれぞれ別の相続として計算されます。ただし、一次相続で配偶者に渡した財産は、配偶者が使い切らない限り、二次相続で再び相続税の対象になります。そのため、一次相続の分け方が、二次相続の税額をほぼ決めてしまうという関係にあります。

    なぜ配偶者に多く渡すと二次相続で重くなるのか

    理由は大きく3つあります。

    1. 二次相続では配偶者の税額軽減が使えない

    配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した正味の遺産額が「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税がかからない仕組みです(国税庁 No.4158)。この制度は配偶者がいる相続でしか使えないため、二次相続では、相続人が子どもだけになる典型的なケースでは利用できません。

    2. 相続人の数が減り、基礎控除が小さくなる

    相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。配偶者と子2人の一次相続では法定相続人が3人ですが、二次相続では子2人となり、基礎控除は600万円小さくなります。

    3. 財産が一人に集まり、累進税率が高くなる

    相続税は、課税遺産総額を法定相続分で分けた金額ごとに累進税率(10%〜55%)を適用して計算します(国税庁 No.4152・No.4155)。配偶者の財産に一次相続で受け取った財産が上乗せされると、二次相続の課税遺産総額が大きくなり、より高い税率の区分にかかりやすくなります。

    数字で見る一次・二次の通算税額

    イメージをつかむため、簡単な例で比べてみます。

    前提:夫が亡くなり、財産(課税価格)は2億円。相続人は妻と子2人。二次相続は妻が亡くなったとき(相続人は子2人)とし、一次相続で取得した財産はそのまま残るものと仮定します。財産の値動き、相次相続控除、小規模宅地等の特例などは考慮していません。

    配偶者の取得割合(一次)一次相続の税額二次相続の税額(妻の固有財産なし)通算二次相続の税額(妻の固有財産5,000万円)通算
    0%約2,700万円0円約2,700万円約80万円約2,780万円
    25%約2,025万円約80万円約2,105万円約770万円約2,795万円
    50%約1,350万円約770万円約2,120万円約1,840万円約3,190万円
    100%約540万円約3,340万円約3,880万円約4,920万円約5,460万円

    ※国税庁の速算表・基礎控除の算式に基づきAEGISが試算した説明用の概算です。実際の税額は財産の評価、特例の適用、二次相続までの期間や財産の増減によって大きく変わります。

    この例から読み取れることは、次のとおりです。

    • 配偶者に全財産を相続させると、一次相続の税額は最も小さくなりますが、通算では最も重くなります。
    • 配偶者に固有の財産がない場合は、一部を配偶者が取得する分け方で通算税額が小さくなる傾向があります。
    • 配偶者に固有の財産がある場合は、配偶者の取得を少なくするほど通算税額が小さくなる傾向があります。

    つまり、「法定相続分まで配偶者が取得する」や「1億6千万円まで配偶者に渡す」といった目安が、どの家庭にも最適というわけではありません。配偶者自身の財産の大きさが、分け方を大きく左右します。

    税額以外に必ず確認したい3つのこと

    通算税額が小さくなる割合が分かっても、それだけで決めると後悔につながることがあります。次の3点をあわせて確認します。

    1. 配偶者の生活資金

    配偶者がこれから何年、どのような生活を送るかによって、必要な資金は変わります。介護や住み替えの可能性、医療費なども含めて考えると、配偶者に一定の金融資産を残すことは、税額よりも優先すべき場合があります。また、配偶者が生活の中で使った財産は二次相続の対象から外れるため、「使う予定の資金」を配偶者に渡すことは、税の面からも理にかなっていることが多いといえます。

    2. 配偶者の住まい

    自宅を誰が取得するかは、配偶者の住まいの安心と、子どもへの承継の両方に関わります。令和2年4月1日に施行された民法の改正で創設された配偶者居住権は、配偶者が無償で自宅に住み続ける権利を、遺産分割や遺言による遺贈で取得できる制度です(法務省)。自宅の所有権を子が、居住権を配偶者が取得するという分け方も選択肢の一つになりました。

    配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅するため、二次相続の財産から外れるという性質があります。一方で、設定後は自由に売却しにくくなるなどの制約もあるため、住み替えの可能性や家族関係を踏まえて検討することが大切です。

    3. 不動産の配分と小規模宅地等の特例

    自宅の敷地については、要件を満たせば限度面積330㎡まで評価額を80%減額できる小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)があります(国税庁 No.4124)。この特例は、誰が取得するかによって要件が変わります。

    取得する人主な要件(概要)
    配偶者取得者ごとの要件はない
    同居していた親族申告期限まで引き続き居住し、かつ所有していること
    同居していない親族被相続人に配偶者や同居の相続人がいないこと、一定期間持ち家に住んでいないことなど、複数の要件をすべて満たすこと

    ※国税庁 No.4124 の記載をもとにAEGISが整理。実際の要件は詳細に確認が必要です。

    一次相続で配偶者が自宅を取得すれば特例は使いやすくなります。しかし、二次相続のときに同居している子がいない場合、二次相続では特例を使えない可能性があります。一次相続で使える特例と、二次相続で使えそうな特例をセットで見ることが欠かせません。

    賃貸不動産がある場合は、家賃収入を誰が受け取るかも論点です。配偶者が取得すれば生活資金になりますが、収入が配偶者に積み上がると二次相続の財産も増えていきます。子が取得すれば、収入は子の手元に残ります。

    分け方を決める手順

    AEGISでは、次の順番で検討することをおすすめしています。

    1. 財産と家族の現状を把握する:夫婦それぞれの財産、子の状況、自宅や賃貸不動産の利用状況を一覧にします。
    2. 配偶者に必要な資金と住まいを先に決める:生活資金の目安と、自宅に住み続けるか住み替えるかの方針を決めます。
    3. 配偶者の取得割合を複数パターンで試算する:一次・二次の通算税額を、配偶者の固有財産も含めて比較します。
    4. 不動産の取得者を特例と管理の両面から決める:小規模宅地等の特例の要件、賃貸経営を担える人、共有を避けられるかを確認します。
    5. 納税資金を確認する:一次相続・二次相続それぞれで、申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までに納税できるかを確認します。
    6. 遺言や生前の準備に落とし込む:決めた方針を遺言や家族の話し合いに反映します。

    実務上注意したいポイント

    • 申告期限までに遺産分割がまとまらないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は原則として使えません(国税庁 No.4208)。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、期限から3年以内に分割すれば適用を受けられますが、その場合は分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求が必要です(国税庁 No.4158)。
    • 配偶者の税額軽減は、申告して初めて適用されます。税額がゼロになる場合でも申告書の提出が必要です(国税庁 No.4158)。
    • 二次相続が一次相続から10年以内に起きた場合は、一次相続で配偶者が納めた相続税の一部を二次相続の税額から差し引ける相次相続控除があります(国税庁 No.4168)。一次相続で配偶者が税額を負担していない場合、この控除の効果は限られます。
    • 年齢や健康状態だけで二次相続の時期を想定しないことも大切です。試算は「近い将来」と「長い期間後」の両方で行い、結論が大きく変わらない分け方を探すと判断が安定します。

    AEGISの視点

    二次相続の対策というと、「配偶者に何%渡すと税金が最も少ないか」という問いに注目が集まりがちです。もちろん通算税額の比較は欠かせませんが、AEGISはこの問いを「配偶者の残りの人生と、次の世代への承継を、一つの計画として設計すること」と捉えています。

    配偶者に渡す財産は、配偶者の生活を支えると同時に、いずれ子へ渡る財産でもあります。現金・自宅・賃貸不動産・自社株式など、財産ごとに「配偶者が持つ意味」と「子が早く持つ意味」は異なります。たとえば、生活に使う金融資産は配偶者に、値上がりや収益が見込まれる不動産は早めに子に、という組み合わせは、税と生活の両面で筋の通った考え方になりやすいものです。

    また、二次相続では、親という調整役がいなくなるため、兄弟姉妹間の話し合いが難しくなることがあります。一次相続の時点で、二次相続まで含めた全体の方針を家族で共有しておくことは、税負担以上に大きな意味を持ちます。

    相続税の概算に必要な情報は関連記事「相続税の概算に必要な情報とは」で、納税資金の準備については「相続税の納税資金をどう準備するか」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。

    不動産や自社株式を含む相続の評価・特例の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人の数も減るため、一次相続で配偶者に多く渡すほど二次相続の税負担が重くなりやすくなります。
    • 配偶者の取得割合は、一次と二次の通算税額で比較します。配偶者自身の財産が多いほど、配偶者の取得を抑える方向に働く傾向があります。
    • 税額だけでなく、配偶者の生活資金、住まい(配偶者居住権を含む)、不動産の取得者と小規模宅地等の特例をあわせて検討します。
    • 申告期限までの遺産分割と、特例の適用のための申告が前提になります。
    • 最適な分け方は家族と財産の状況によって大きく異なるため、複数のパターンで試算して判断することが大切です。

    よくある質問

    Q. 配偶者は1億6千万円まで相続税がかからないなら、1億6千万円まで相続させるのが得ですか?

    一次相続の税額だけを見れば有利に見えますが、二次相続まで通算すると不利になることがあります。特に配偶者自身に一定の財産がある場合は、二次相続の税額が大きく増える可能性があります。配偶者の固有財産を含めて、一次・二次の通算で比較することが大切です。

    Q. 二次相続の対策として、配偶者は何も相続しないほうがよいのでしょうか?

    税額の試算でそのような結果になることもありますが、配偶者の生活資金や住まいを確保できなければ本末転倒です。配偶者がこれからの生活で使う資金は、配偶者が取得しても二次相続の負担にはつながりにくいため、生活に必要な額を先に確保したうえで、残りの配分を考える方法が現実的です。

    Q. 配偶者居住権を設定すると、二次相続の税金は少なくなりますか?

    配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅するため、二次相続の財産には含まれません。その意味で二次相続の財産を小さくする効果があります。ただし、自宅の売却や住み替えがしにくくなる、小規模宅地等の特例との関係で有利不利が分かれるなどの論点もあるため、個別の試算と家族の意向を踏まえて判断します。

    Q. 遺産分割がまとまらないまま申告期限が来たらどうなりますか?

    法定相続分で取得したものとして申告し、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は原則として使えません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、その期間内に分割がまとまれば、更正の請求によって特例を適用した税額に見直すことができます。

    Q. 一次相続のときに、二次相続の試算まで必要ですか?

    配偶者の取得割合を決めるうえで、二次相続の試算は欠かせない判断材料です。二次相続の時期や財産の増減は分からないため、いくつかの前提で試算し、どの前提でも大きく不利にならない分け方を探すと、判断が安定します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行までを一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、第2章(印刷 p.112-120)
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、2025年、第Ⅰ部第1章 Q7(印刷 p.123-126)
    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、2025年、措置法第69条の4関係(印刷 p.59-63)
  • 相続税の納税資金をどう準備するか|生命保険・不動産売却・自社株の買取り・延納・物納を比較する

    相続税の納税資金をどう準備するか|生命保険・不動産売却・自社株の買取り・延納・物納を比較する

    相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、金銭で一括して納めるのが原則です(国税庁 No.4205)。財産の大半が自社株式や不動産であるオーナーの家庭では、相続税額そのものよりも、「期限までに現金を用意できるか」が最大の課題になることが少なくありません。

    結論から言えば、納税資金の準備は「生前に用意する手段」と「相続後に使う手段」を組み合わせ、延納・物納は最後の受け皿として位置付けるのが基本です。延納や物納は要件が厳しく、計画の中心に置くと、相続が起きてから選択肢がなくなるおそれがあります。

    この記事では、主な納税手段の要件と特徴を比較し、どの順番で検討すればよいかを整理します。

    まず「足りない額」と「いつ足りないか」を把握する

    納税資金の検討は、手段選びの前に、次の2点を確認することから始まります。

    1. 相続税の見込額:財産の評価と特例の適用を前提にした概算額
    2. 申告期限までに現金化できる財産の額:預貯金、上場有価証券、相続人が受け取る死亡保険金など

    この差額が「不足額」です。不足額は、相続人ごとにも確認が必要です。たとえば、後継者が自社株式を多く相続すると、後継者個人の納税額は大きくなる一方で、手元の現金は少ないということが起こります。相続税は相続人ごとに納めるものであるため、家族全体では足りていても、特定の相続人が払えないという状況に注意が必要です。

    主な納税手段の比較

    手段準備の時期主な特徴主な留意点
    預貯金・金融資産生前最も確実。換金の手間が少ない資産全体に占める割合が小さいことが多い
    生命保険(死亡保険金)生前相続後すぐに現金化でき、受取人を指定できる非課税枠は相続人が受け取る場合に限られる。保険料負担が続く
    不動産の売却生前・相続後大きな金額をつくれる期限内に売れるとは限らない。譲渡所得税がかかる
    相続した非上場株式の発行会社への譲渡(いわゆる金庫株)相続後換金しにくい自社株式を現金化できる会社の資金と分配可能額の範囲が必要。議決権の比率が変わる
    延納(分割払い)相続後(申請)金銭で一括納付が難しい場合に分割できる要件・担保・利子税がある
    物納相続後(申請)延納でも難しい場合に財産で納める要件が厳しく、利用はごく限られている
    法人版事業承継税制(納税猶予)生前の計画と相続後の手続自社株式に係る相続税の納税を猶予適用要件・継続要件があり、取消し時の負担がある

    ※各手段の要件は個別に確認が必要です。表はAEGISが整理したものです。

    以下、それぞれの手段のポイントを見ていきます。

    生前に準備する手段

    生命保険

    被相続人が保険料を負担し、相続人が受け取る死亡保険金は、相続税の対象となる一方で、「500万円×法定相続人の数」までは非課税となります(国税庁 No.4114)。相続後、比較的短い期間で現金を受け取れることが、納税資金として大きな利点です。

    また、受取人を指定できるため、納税資金が必要な相続人(たとえば自社株式を相続する後継者)に現金を届けることができます。ただし、相続人以外の人が受け取る死亡保険金には非課税の適用がないなど、契約の形によって課税関係が変わります。保険の設計については関連記事「生命保険を相続対策に使うときの考え方」で詳しく解説しています。

    不動産の生前売却・組替え

    不動産が多く現預金が少ない場合は、生前に一部の不動産を売却したり、換金しやすい資産に組み替えたりすることが考えられます。生前であれば、売却の時期や価格を落ち着いて選ぶことができます。一方、売却後の現金は相続税評価上の減額がないため、相続税額そのものは増えることがある点も踏まえて判断します。

    会社からの退職金

    オーナー経営者に会社から支払われる死亡退職金は、相続人が受け取る場合に一定額まで非課税の扱いがあり、納税資金として活用されることがあります(国税庁 No.4117)。支給には会社の資金と規程の整備が必要です。

    相続後に使う手段

    相続した不動産の売却

    相続後に不動産を売却して納税資金をつくる場合、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すれば、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります(国税庁 No.3267)。ただし、相続税の納期限までに売却が終わらないことも多いため、延納と組み合わせて計画することもあります。

    相続した非上場株式の発行会社への譲渡

    自社株式は換金しにくい財産です。相続人がこれを発行会社に買い取ってもらう方法は、一般に「金庫株」と呼ばれます。

    通常、株式を発行会社に譲渡すると、対価のうち資本金等の額を超える部分は配当(みなし配当)として課税されます。しかし、相続や遺贈で財産を取得し、納付すべき相続税額がある個人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、相続した非上場株式を発行会社に譲渡した場合には、みなし配当課税を行わず、全額を株式の譲渡所得とする特例があります(国税庁 No.1477)。この場合、上記の取得費加算の特例も検討できます。適用には、譲渡の時までに所定の届出書を発行会社に提出する必要があります。

    ただし、次の点に注意が必要です。

    • 会社の資金:買取りは会社の分配可能額の範囲内に限られ(会社法461条)、運転資金を圧迫すると事業に影響します。
    • 議決権の比率:会社が取得した自己株式には議決権がないため(会社法308条2項)、後継者が株式を会社に譲渡すると、他の株主の比率が相対的に上がります。後継者の議決権が下がりすぎないかの確認が欠かせません。
    • 会社の手続:特定の株主からの取得には、株主総会の特別決議などの手続が必要です(会社法156条・160条・309条2項2号)。

    延納

    延納は、相続税を金銭で一括納付することが困難な場合に、分割して納める制度です。主な要件は次のとおりです(国税庁 No.4211)。

    • 相続税額が10万円を超えること
    • 金銭で納付することが困難であり、その困難な金額の範囲内であること
    • 延納税額と利子税に相当する担保を提供すること(延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下の場合は不要)
    • 納期限(期限内申告の場合は申告期限)までに延納申請書と担保提供関係書類を提出すること

    延納できる期間と利子税の割合は、相続財産に占める不動産等の割合によって異なり、不動産等の割合が大きいほど長い期間が認められます。利子税の負担が生じるほか、手元の現金を一定額残したうえでの「困難な金額」が対象となるため、申請すれば希望どおりに分割できるわけではありません。

    物納

    物納は、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、相続財産そのもので納める制度です。物納に充てられる財産には順位があり、第1順位が不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式等、第2順位が非上場株式等、第3順位が動産とされています。また、担保権が設定された不動産、境界が明らかでない土地、譲渡制限株式など、管理や処分に不適格な財産は物納できません(国税庁 No.4214)。

    国税庁の公表によると、令和7年度の相続税の物納申請は48件にとどまっています(国税庁「物納処理状況等」)。物納は「最後の受け皿」と考え、計画の前提にしないことが現実的です。

    検討の順番

    AEGISでは、次の順番で検討することをおすすめしています。

    1. 相続税の概算と、相続人ごとの不足額を把握する
    2. 生前に現金化しやすい形を整える:金融資産の確保、生命保険の受取人と金額の見直し、売却候補の不動産の選定と整備
    3. 自社株式の扱いを決める:後継者に集める株式と、相続後に会社へ譲渡する余地のある株式を分け、会社の資金計画と議決権への影響を確認する
    4. 相続後の手段を想定しておく:不動産売却のスケジュール、延納の要件を満たせるか、物納の候補財産が適格か
    5. 定期的に見直す:株価や不動産の評価、家族の状況が変われば不足額も変わります

    実務上注意したいポイント

    • 納期限に間に合わないと延滞税がかかります。延納・物納の申請も納期限までが原則です。
    • 遺産分割がまとまらないと、手段が限られます。分割が決まらない財産は売却しにくく、物納でも権利の帰属に争いがある財産は不適格とされます。
    • 相続人は互いに連帯して納付する責任を負うことがあります。特定の相続人が納税できないと、他の相続人に影響が及ぶ可能性があります。
    • 納税資金のために株式が分散しないよう注意します。換金のために社外の第三者へ株式を売却すると、経営の安定に影響することがあります。

    AEGISの視点

    納税資金の問題は、「相続税をいくら減らすか」とは別の、「いつ、誰が、どの財産で払うか」という資金計画の問題です。相続税額を下げる対策を重ねても、財産が換金しにくい形のままでは、相続後に不本意な売却を迫られることがあります。

    AEGISは、納税資金を考えるときに、財産を「経営を続けるための財産」「家族に分けるための財産」「税金を納めるための財産」に分けて役割を決めることを重視しています。自社株式は経営を続けるための財産として後継者に、納税のための財産はあらかじめ現金や生命保険、売却しやすい不動産として用意する——この役割分担ができていれば、相続後の判断はずっと落ち着いたものになります。

    また、会社による自己株式の取得は、オーナー家の納税資金の問題を会社の財務に移すことでもあります。会社の資金計画や金融機関との関係、議決権の構成まで含めて事前に設計しておくことが、事業と家族の両方を守ることにつながります。

    財産の役割分担の考え方は関連記事「自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継」で、試算に必要な情報は「相続税の概算に必要な情報とは」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。

    自社株式の評価や納税資金を含む承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税は申告期限までに金銭で一括納付するのが原則で、自社株式や不動産が多い家庭では納税資金の準備が重要な課題になります。
    • 生前の手段(金融資産・生命保険・不動産の整理)と相続後の手段(不動産売却・自社株式の発行会社への譲渡・延納・物納)を組み合わせて考えます。
    • 相続した非上場株式を一定期間内に発行会社へ譲渡する場合には、みなし配当課税を行わない特例がありますが、会社の資金と議決権への影響の確認が欠かせません。
    • 延納・物納は要件が厳しく、特に物納の利用は限られています。最後の受け皿として位置付けるのが現実的です。
    • 不足額は家族全体だけでなく、相続人ごとに確認することが大切です。

    よくある質問

    Q. 相続税を期限までに払えないと、どうなりますか?

    納期限の翌日から納付の日までの期間に応じて延滞税がかかります。金銭で一括納付することが難しい場合は、納期限までに延納や物納を申請することができますが、いずれも要件を満たす必要があります。期限が迫ってから慌てないよう、生前に不足額を確認しておくことが大切です。

    Q. 不動産があれば、物納で相続税を払えるのではないですか?

    物納は、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に限られ、担保権の設定がある不動産や境界が明らかでない土地などは物納に適さない財産とされます。実際の利用件数もごく少ないため、物納を前提とした計画は避けたほうがよいでしょう。

    Q. 自社株式を会社に買い取ってもらうと、税金はどうなりますか?

    一定の要件を満たす場合、相続した非上場株式を発行会社に譲渡したときの対価は、みなし配当ではなく株式の譲渡所得として課税されます。さらに、相続税の一部を取得費に加算できる特例を組み合わせられる場合があります。ただし、会社の分配可能額や資金繰り、議決権への影響を事前に確認する必要があります。

    Q. 生命保険と預金では、納税資金としてどちらがよいですか?

    相続人が受け取る死亡保険金には非課税枠があり、受取人を指定して特定の相続人に現金を届けられる点で、預金とは異なる利点があります。一方で保険料の負担や契約の見直しが必要です。どちらか一方ではなく、相続人ごとの不足額に合わせて組み合わせるのが現実的です。

    Q. 納税資金の準備は、いつから始めればよいですか?

    不動産の売却や会社の資金計画には時間がかかるため、相続税の概算ができた段階から始めるのが理想です。株価や不動産の評価は変わるため、一度試算して終わりではなく、定期的に不足額を見直すことが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行までを一体で検討します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、第6章(印刷 p.624-697)
    • 『相続税の物納制度が大改正! 上場株式等の相続と有利な物納選択』山本和義・水品志麻 著、清文社、2017年、第二章(印刷 p.67-78)
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、2025年、第Ⅰ部第1章 Q1・Q2(印刷 p.100-106)
  • 災害で被害を受けた土地と相続税|特定非常災害の評価の特例・申告期限の延長・災害減免法をどう使い分けるか

    災害で被害を受けた土地と相続税|特定非常災害の評価の特例・申告期限の延長・災害減免法をどう使い分けるか

    地震や水害などで相続した土地や建物が被害を受けた場合、相続税には被害を評価や税額に反映させるための仕組みが用意されています。主なものは次の3つです。

    • 特定非常災害の評価の特例:大規模な災害として指定された災害の場合に、土地などを「災害の発生直後の価額」で評価できる
    • 申告期限の延長:災害で申告ができない場合に期限が延びる。特定非常災害では申告期限そのものが後ろにずれる特例もある
    • 災害減免法による軽減・免除:財産が一定以上の被害を受けた場合に、課税価格から被害額を差し引く、または税額を免除する

    どの制度が使えるかは、「相続と災害のどちらが先か」と「災害が申告期限の前か後か」という2つの時点でほぼ決まります。この記事では、時点ごとに使える制度を整理し、申告後に被災した場合の見直しまでを解説します。

    前提:相続税は「相続開始時の時価」で計算する

    相続税の財産評価は、原則として相続開始の時の時価によります。相続開始から申告期限までの約10か月の間に地価が下がっても、原則として評価は変わりません。この原則の例外として、災害については特別な手当てが設けられています。

    ここで押さえておきたいのは、災害による損失には2つの種類があることです。

    • 物理的な損失:地割れや液状化による陥没、建物の倒壊・流失など、財産そのものが傷んだことによる損失
    • 経済的な損失:周辺の道路やライフラインの被害、街並みの損壊などによって、土地の価格そのものが下がる損失

    災害減免法は主に前者を、特定非常災害の評価の特例は主に後者を手当てする仕組みと整理すると、全体が理解しやすくなります。

    時点別に見る、使える制度

    相続と災害の関係主に検討する制度申告・手続のポイント
    相続 → 災害(申告期限前)特定非常災害の評価の特例(指定された災害の場合)、災害減免法6条申告書に特例を受ける旨や被害の状況を記載。期限延長の対象になることが多い
    相続 → 災害(申告期限後)災害減免法4条(税額の免除)災害のやんだ日から2か月以内に免除承認申請書を提出
    災害 → 相続(同じ年の年末まで)特定非常災害発生日以後に取得した財産の評価(通達)指定された災害で、特定地域内の土地等が対象
    災害 → 相続(翌年以降)通常の評価(その年の路線価等に被害が反映)物理的な損失の有無を個別に確認

    ※AEGISが制度の関係を整理したものです。各制度の要件は以下で確認してください。

    特定非常災害の評価の特例

    どのような災害が対象か

    「特定非常災害」とは、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の規定により、特定非常災害として指定された非常災害です。すべての災害が対象になるわけではなく、大規模な災害について個別に指定されます。指定の状況は内閣府のホームページで公表されています(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

    相続の後に災害が起きた場合(租税特別措置法69条の6)

    特定非常災害の発生日より前に相続や遺贈で財産を取得し、相続税の申告期限が発生日以後である場合、特定地域内にある土地や借地権など(特定土地等)で、発生日に所有していたものは、相続開始時の時価ではなく「特定非常災害の発生直後の価額」で評価することができます(租税特別措置法69条の6)。

    「特定地域」とは、その災害で被災者生活再建支援法の適用を受ける地域(適用がない場合は財務大臣が指定する地域)をいいます。発生直後の価額は、国税局長が地域ごとに「調整率」を定めている場合、その年の路線価や評価倍率に調整率を掛けて計算できます。

    非上場株式でも、特定地域内にあった不動産などの資産が保有資産の10分の3以上を占める会社の株式(特定株式等)は、同様に発生直後の価額で評価できます。

    この特例は、申告書(期限後申告書・修正申告書を含む)や更正の請求書に適用を受ける旨を記載した場合に限り適用されます(同条3項)。

    災害の後に相続が起きた場合

    特定非常災害の発生日以後、その年の12月31日までに相続などで取得した特定地域内の土地等は、発生直後の価額に準じて評価することができます。地割れなどで土地の形状が変わった場合には、さらに原状回復費用に相当する額を差し引いて評価できます(国税庁「特定非常災害発生日以後に相続等により取得した財産の評価について」)。

    その年の路線価は1月1日時点の価格をもとに定められているため、年の途中で起きた災害の影響が反映されていません。この取扱いは、そのずれを埋めるためのものです。

    被災した家屋の評価

    被災した家屋で、被災後の現況に応じた固定資産税評価額がまだ付けられていないものは、災害直前の家屋の評価額から、条例に基づいて適用された固定資産税の軽減・免除の割合に相当する額を差し引いて評価することができます。被災後に修理をした場合は、その費用の一定割合を加えます(同通達)。

    申告期限の延長

    災害による期限の延長(国税通則法11条)

    災害などやむを得ない理由で期限までに申告や納付ができないときは、その理由がやんだ日から2か月以内に限り、期限が延長されます(国税通則法11条)。延長の方法には、国税庁長官が地域と期日を指定する地域指定と、税務署長への申請による個別指定などがあります(国税庁 タックスアンサーNo.8001)。

    地域指定は納税地で判断されるため、被災地に不動産を持っていても、相続人の納税地が指定地域の外にある場合は自動的には延長されません。その場合は個別指定の申請を検討します。

    特定非常災害の場合の申告期限の特例(租税特別措置法69条の8)

    同じ被相続人から財産を取得した人のうち一人でも69条の6の評価の特例を受けられる人がいる場合、相続税の申告期限が「特定日」より前であれば、申告期限は特定日まで延びます。特定日とは、その災害による国税通則法11条の延長後の期限と、特定非常災害発生日の翌日から10か月を経過する日の、いずれか遅い日です(租税特別措置法69条の8)。

    災害直後は、土地の状況の把握や調整率の公表を待つ必要があり、通常の申告期限では評価が難しいことへの手当てと考えられます。

    災害減免法による軽減・免除

    災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(災害減免法)は、特定非常災害に限らず、災害一般に適用される制度です。

    対象となる被害の程度

    次のいずれかに該当する場合に適用されます(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

    • 課税価格の計算の基礎となった財産の価額(債務控除後)のうち、被害を受けた部分の価額(保険金や損害賠償金で補てんされた額を除く)の割合が10分の1以上
    • 動産等(動産・建物などの不動産〔土地等を除く〕・立木)の価額のうち、被害を受けた部分の割合が10分の1以上

    土地の地価下落そのものは、ここでいう被害には含まれにくい点に注意が必要です。土地については、地割れなど物理的な損失があった場合の原状回復費用の見積額が、被害額として扱われる考え方がとられています。

    申告期限の前に被災した場合(災害減免法6条)

    財産の価額から、被害を受けた部分の価額を差し引いて課税価格を計算します。申告書に、被害の状況や被害額を記載した計算明細書を添付して提出します。

    申告期限の後に被災した場合(災害減免法4条)

    すでに税額は確定していますが、災害のあった日以後に納付すべき相続税のうち、被害を受けた部分に対応する税額が免除されます。延滞税などの附帯税や、災害の時点ですでに滞納していた税額は対象外です。免除を受けるには、災害のやんだ日から2か月以内に、免除承認申請書を所轄の税務署長に提出します。

    延納中の相続税がある場合も、災害のあった日以後に納付すべき部分は免除の対象になり得ます。期限が短いため、被災後は早めに確認することが大切です。

    申告後に被災した場合の見直し

    すでに申告を終えていても、次のような場合は見直しの余地があります。

    • 申告期限前に申告書を提出し、その後・申告期限前に被災した:特定非常災害の評価の特例は、更正の請求書に記載して適用を受けることもできます(租税特別措置法69条の6第3項)。災害減免法6条の適用も含め、更正の請求による見直しを検討します。
    • 申告期限後に被災した:災害減免法4条の免除承認申請(2か月以内)が中心です。
    • 相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が被災した:令和6年1月1日以後の災害で一定の要件を満たす場合、相続税の課税価格に加算する価額から被害額を差し引ける措置があり、原則として災害発生日から3年を経過する日までに承認申請が必要です(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

    なお、相続した財産が災害で損害を受けた場合、所得税の雑損控除の対象になることもあります(国税庁 タックスアンサーNo.1110)。相続税と所得税の両面から確認しておきたいところです。

    申告後に財産の価値が下がった場合の考え方全般は、関連記事「申告後に相続財産の価値が下がったときにできること」で、更正の請求の期限と手続は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    AEGISの視点

    災害時の相続税の特例は、手続の期限が短く、要件も時点によって細かく分かれています。しかし、AEGISは、被災した不動産の相続で本当に大切なのは「評価をいくら下げられるか」より先に、「その不動産をこれからどうするか」だと考えています。

    被災した土地は、再建する、売却する、当面は更地として管理する、といった選択を迫られます。その判断には、保険金の受取り、建物の解体や修繕の費用、借入金の返済、相続税の納税資金と延納の可否、さらに相続人の生活の拠点がどこにあるかが関わります。評価の特例は、その判断を支える前提条件の一つにすぎません。

    また、被災直後に何より役立つのは記録です。被害の写真、自治体などが発行する被害の証明書類、修繕の見積書、保険の支払通知を、早い段階から整理しておくこと。これが、評価の特例・災害減免法・所得税の雑損控除のいずれにも共通する土台になります。

    制度変更や特例が保有不動産と承継計画のどこに影響するかを点検する考え方は、親記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で整理しています。相続税申告の土地評価全般の見直しは「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」も参考にしてください。資産税務や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 災害時の相続税の扱いは、「相続と災害のどちらが先か」「災害が申告期限の前か後か」で使える制度が変わります。
    • 特定非常災害に指定された災害では、特定地域内の土地等を「発生直後の価額」(路線価等×調整率)で評価できる特例があります。
    • 特定非常災害では、申告期限が「発生日の翌日から10か月を経過する日」などまで延びる特例もあります。
    • 災害減免法は災害一般が対象で、被害割合が10分の1以上の場合に、申告期限前なら課税価格から被害額を差し引き、申告期限後なら税額が免除されます(申請は2か月以内)。
    • 申告後でも、更正の請求や免除の申請で見直せる場合があります。具体的な適用は、被害の内容と時点によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続した土地が水害に遭いました。どの災害でも評価の特例は使えますか?

    「発生直後の価額」で評価する特例は、特定非常災害として指定された災害に限られます。指定されていない災害でも、災害減免法による軽減・免除は、被害の割合などの要件を満たせば利用できます。まずは、その災害が特定非常災害に指定されているかを確認しましょう。

    Q. 被災して申告の準備ができません。申告期限はどうなりますか?

    災害で申告ができない場合は、国税通則法に基づき、地域指定または個別の申請によって期限が延長されます。特定非常災害で評価の特例を受けられる人がいる相続では、申告期限が「発生日の翌日から10か月を経過する日」などまで延びる特例もあります。ご自身の納税地が地域指定の対象かどうかを確認してください。

    Q. 土地の価格が下がっただけでも、災害減免法は使えますか?

    災害減免法は、財産そのものが受けた被害を対象とする制度です。土地については、地割れなど形状が変わったことによる物理的な損失が中心で、周辺の被害による地価の下落は、特定非常災害の評価の特例で手当てされる性質のものと整理されています。

    Q. 相続税を納め終わった後に被災しました。還付はありますか?

    災害減免法4条の免除は、災害のあった日以後に納付すべき税額が対象です。すでに納付を終えた税額は、原則として免除の対象になりません。延納中の場合は、残りの納付分が免除の対象になり得ますので、災害のやんだ日から2か月以内に申請を検討してください。

    Q. 被災した家屋は、どのように評価しますか?

    被災後の固定資産税評価額がまだ付けられていない場合、特定非常災害では、災害直前の評価額から固定資産税の軽減・免除の割合に相当する額を差し引いて評価する方法が示されています。全壊・流失などで価値がない場合も含め、被害の状況を示す資料を残しておくことが重要です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野 徹 編、大蔵財務協会、2024年、P.487-510
    • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、2013年、P.26-33
    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」要点 譲渡所得【第一編】』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.410-411
  • 小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか|貸付事業用と特定同族会社事業用を分ける「地代・会社の事業・役員」

    小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか|貸付事業用と特定同族会社事業用を分ける「地代・会社の事業・役員」

    オーナー個人が土地を持ち、その上の建物を資産管理会社が持つ。あるいは、個人が建物ごと会社に貸し、会社が入居者に転貸する。資産管理会社を使う不動産オーナーには、こうした「個人と会社が一つの土地にまたがる形」がよく見られます。

    結論から言うと、この場合の小規模宅地等の特例は、①会社から相当の対価(地代・家賃)を受け取っているか、②会社がその土地で何の事業をしているか、③土地を取得した親族が申告期限まで役員であり、土地を持ち続けるか、の3点で区分が決まります。結果は大きく、「特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで80%減額)」「貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)」「特例の対象外」の3つに分かれます。

    この記事では、資産管理会社が関わる土地について、どの順番で区分を判定すればよいかを整理します。

    小規模宅地等の特例の区分をおさらいする

    小規模宅地等の特例は、亡くなった方(被相続人)やその方と生計を一にしていた親族(あわせて「被相続人等」)の事業や居住に使われていた宅地等について、一定の面積まで相続税の課税価格を減額する制度です(租税特別措置法第69条の4)。国税庁によれば、区分ごとの限度面積と減額割合は次のとおりです。

    区分限度面積減額割合
    特定事業用宅地等400㎡80%
    特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
    特定居住用宅地等330㎡80%
    貸付事業用宅地等200㎡50%

    資産管理会社が関わる場面で問題になるのは、主に特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等です。どちらになるかで、減額割合が80%か50%か、限度面積が400㎡か200㎡かが変わります。

    なお、特例を使えるのは個人が相続などで取得した宅地等です。会社が所有している土地は会社の財産であり、相続で引き継がれるのは会社の株式ですから、この特例の対象にはなりません。会社所有の土地は、株式の評価を通じて相続税に反映されます。

    取得する相続人ごとの要件(配偶者・同居親族など)や、複数の土地をどう選ぶかについては、関連記事「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で解説しています。

    判定の第1関門:会社から「相当の対価」を受け取っているか

    最初に確認したいのは、個人と会社の間で、地代や家賃が相当の対価として支払われているかどうかです。

    特例でいう「貸付事業」や、特定同族会社事業用宅地等の前提となる「被相続人等の事業」は、不動産の貸付けが相当の対価により継続的に行われていることが前提とされています。国税庁の措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度で、相当の対価に至らない金額しか受け取っていない場合は「無償」と同じに扱うとされています。

    つまり、次のような場合は、どの区分にも当たらず特例の対象外になる可能性が高いといえます。

    • 会社が個人の土地に建物を建て、地代を払っていない(使用貸借)
    • 地代は払っているが、土地の固定資産税程度にとどまっている

    資産管理会社を設立したとき、「家族の会社だから地代は少なくてよい」と考えて低い地代のまま何年も経っているケースは珍しくありません。地代の水準は、借地権の課税(会社への受贈益の認定など)や土地の相続税評価にも関わります。土地の無償返還に関する届出や相当の地代の考え方は、関連記事「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で整理しています。

    判定の第2関門:会社はその土地で何の事業をしているか

    相当の対価を受け取っている場合、次に確認するのは会社の事業の内容です。

    会社が貸付以外の事業に使っている場合

    国税庁によれば、特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前から申告期限まで、一定の法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業を除く)に使われていた宅地等をいいます。

    ここでいう「一定の法人」とは、相続開始の直前に、被相続人とその親族等が発行済株式の総数(または出資の総額)の50%超を持っている法人です(申告期限に清算中の法人を除く。租税特別措置法69条の4第3項3号、同法施行令40条の2)。

    具体的には、次の2つの形が対象になります(措置法通達69の4-23)。

    • 被相続人が、土地をその法人に相当の対価で貸していた(法人が建物を所有)
    • 被相続人(または生計を一にする親族)が所有する建物を、その法人に相当の対価で貸していた場合の、その建物の敷地(生計を一にする親族が所有する建物の場合は、その親族が敷地を被相続人から無償で借りていたときに限ります)

    資産管理会社と同じ株主構成の事業会社(たとえば、店舗や工場、事務所として使う会社)が使っている土地は、この区分に当たる可能性があります。また、法人の社宅の敷地は、親族だけが使っている場合を除き、法人の事業そのものに使われているものとして扱われます(同69の4-24)。

    会社が不動産賃貸をしている場合

    一方、典型的な資産管理会社のように、会社が建物を第三者に賃貸している場合は、会社の事業が「不動産貸付業」なので、特定同族会社事業用宅地等には当たりません。

    ただし、それで特例が使えなくなるわけではありません。国税庁は、貸付事業用宅地等の中に「一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等」という区分を示しています。個人が会社に相当の対価で土地を貸し、会社がその上の建物で賃貸をしている形は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

    また、個人が土地と建物の両方を持ち、建物を一括して会社に貸して、会社が入居者に転貸する形(いわゆるサブリース型)では、個人自身が会社に建物を貸していることになるため、その敷地は個人の貸付事業用の宅地等として判定されます。

    判定のまとめ

    ここまでを、資産管理会社でよく見られる形ごとに整理すると、次のようになります。

    所有の形会社の使い方地代・家賃主に検討する区分
    土地:個人/建物:会社会社が第三者へ賃貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用)
    土地:個人/建物:会社会社が自ら事業に使用(店舗・事務所など)相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等(法人・役員・保有の要件あり)
    土地・建物:個人建物を会社に一括賃貸し、会社が転貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(個人の貸付事業)
    土地・建物:個人建物を同族会社が自ら事業に使用相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等
    土地:個人/建物:会社問わない無償・固定資産税程度原則として特例の対象外
    土地・建物:会社——特例の対象外(株式の評価に反映)

    ※AEGISが判定の考え方を整理したものです。実際の区分は、契約内容、利用の実態、相続人の状況などによって異なります。

    一つの建物を会社が「自社の店舗」と「第三者への賃貸」の両方に使っている場合は、床面積の割合などで、特定同族会社事業用の部分と貸付事業用の部分に分けて判定することになります。

    判定の第3関門:申告期限まで「役員」と「保有」を続けられるか

    特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかは、相続が起きた時点の状況だけでは決まりません。国税庁によれば、土地を取得した親族について次の要件があります。

    • 法人役員要件:相続税の申告期限において、その法人の役員(清算人を除く)であること
    • 保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで持ち続けていること

    あわせて、その土地が申告期限まで引き続き法人の事業に使われていることも必要です。

    措置法通達の解説では、同じ土地を兄弟2人が2分の1ずつ相続し、申告期限に一方だけが法人の役員だった事例が示されています。役員である相続人の持分は特定同族会社事業用宅地等として、役員でない相続人の持分は貸付事業用宅地等として、それぞれ選択の候補になる、という整理です。誰が土地を取得し、誰が役員になっているかで、同じ土地でも減額割合が変わるということです。

    相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。相続人が会社の役員でない場合、この期間内に株主総会で役員に選任されているかどうかが問題になります。役員の選任や任期などの会社の手続きは、関連記事「資産管理会社の定款で決めておきたいこと」で取り上げています。

    貸付事業用宅地等についても、取得した親族が申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで貸付事業を行い、土地を持ち続けることが要件です。

    注意したい「3年以内の貸付け」と面積の調整

    会社に貸し始めて3年以内の土地

    貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象から除くというルールがあります。ただし国税庁によれば、相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」(貸付事業のうち、準事業以外のもの)を行っていた被相続人等の、その特定貸付事業に使われた宅地等は、この除外の対象になりません。

    措置法通達69の4-24の4では、特定貸付事業に当たるかどうかは、社会通念上「事業」と称するに至る程度の規模で貸付けが行われていたかどうかで判定するとされ、建物の貸付けについては所得税基本通達26-9の取扱い(貸間・アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上であれば、特に反証がない限り事業として行われているものとする)があることが示されています。

    資産管理会社を設立して、個人の土地を新たに会社へ貸し始めた直後に相続が起きた場合などは、この3年ルールに当たらないかを確認する必要があります。個人の不動産を会社に移す前に何を比べるべきかは、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

    貸付事業用宅地等を選ぶと面積の調整が必要になる

    複数の宅地等に特例を使う場合、貸付事業用宅地等を一つでも選ぶと、限度面積の調整が必要です。国税庁が示す算式は次のとおりです。

    (特定事業用+特定同族会社事業用の面積)×200/400+(特定居住用の面積)×200/330+(貸付事業用の面積)≦200㎡

    自宅の敷地と、会社に貸している土地の両方がある場合、どちらを優先して選ぶかで減額の総額が変わります。区分の判定は、こうした選択の前提になります。

    実務上注意したいポイント

    • 地代・家賃の契約を書面で残す:相当の対価であることを説明できるよう、契約書、金額の決め方、改定の記録を整えておきます。
    • 会社の事業内容を確認する:同じ会社が「自社利用」と「賃貸」を兼ねている場合、どの部分が何に使われているかを図面などで把握しておきます。
    • 株主構成の50%超を確認する:特定同族会社事業用宅地等は、相続開始直前の持株割合で判定されます。株式の移転や増資の計画と合わせて確認します。
    • 後継者の役員就任を準備する:申告期限での役員要件を満たすには、相続人が役員に就任していることが必要です。遺言や事業承継の計画の中で、誰が土地を取得し、誰が役員になるかを揃えておきます。
    • 申告期限までに売却しない:保有継続要件があるため、納税資金のために土地を売る計画がある場合は、特例との関係を先に確認します。
    • 申告の手続を忘れない:特例を使うには、申告書への記載と計算明細書・遺産分割協議書の写しなどの添付が必要です。申告期限までに遺産が分割されていない場合には特例を適用せずに申告し、原則として申告期限から3年以内に分割されたときに、修正申告や更正の請求で特例を適用できる取扱いになっています(国税庁 No.4208)。

    AEGISの視点

    資産管理会社の設計では、どうしても「所得をどう分けるか」「株式の評価がどうなるか」に目が向きがちです。しかし、個人に残した土地の小規模宅地等の特例は、会社との契約の形、会社の事業、相続人の役割という、ふだんは別々に決めている要素の組み合わせで結果が変わります。

    AEGISは、この特例を「相続の直前に当てはめるもの」ではなく、資産管理会社を設計する段階で、土地・建物・会社・相続人の関係を一枚に描いておくための確認項目だと考えています。地代を見直すと会社の収支が変わり、役員を誰にするかは会社の経営体制そのものの問題になります。特例の有利・不利だけで決めるのではなく、会社が長く機能する形と両立しているかを確かめることが大切です。

    資産管理会社をいつ・何のために設立するか、全体像は「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。土地と事業会社を分けて持つ設計の意味は「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」もあわせてご覧ください。

    不動産と会社が絡む資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社が関わる土地の小規模宅地等の特例は、「相当の対価の有無」「会社の事業内容」「申告期限までの役員・保有」の3段階で区分が決まります。
    • 地代が無償や固定資産税程度の場合は、原則として特例の対象外です。
    • 会社が貸付以外の事業に使う土地は特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%)の候補、会社が賃貸に使う土地は貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の候補になります。
    • 特定同族会社事業用宅地等は、被相続人と親族等の持株割合50%超、取得者の申告期限での役員就任と保有継続が要件です。
    • 新たに会社へ貸し始めて3年以内の土地や、限度面積の調整にも注意が必要です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社が持っている土地にも、小規模宅地等の特例は使えますか?

    使えません。小規模宅地等の特例は、個人が相続や遺贈で取得した宅地等が対象です。会社が所有する土地は会社の財産であり、相続で引き継ぐのは会社の株式です。会社所有の土地は、株式の評価(純資産価額など)を通じて相続税に反映されます。

    Q. 資産管理会社に土地を貸していれば、特定同族会社事業用宅地等として80%減額になりますか?

    会社の事業によります。会社がその土地で不動産賃貸をしている場合は、特定同族会社事業用宅地等の対象となる事業から不動産貸付業が除かれているため、80%減額の区分には当たりません。この場合は、相当の対価を受け取っていれば貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

    Q. 地代を固定資産税と同じ額にしている場合はどうなりますか?

    措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度の金額は、相当の対価に至らないものとして無償と同様に扱うとされています。この場合、貸付事業にも同族会社の事業にも当たらず、特例の対象外となる可能性が高いといえます。地代の見直しは、会社の課税や土地の評価にも影響するため、あわせて検討します。

    Q. 土地を相続した子が会社の役員でない場合、特例は使えませんか?

    特定同族会社事業用宅地等の要件は、相続税の申告期限において役員であることです。相続の時点で役員でなくても、申告期限までに役員に就任していれば要件を満たす可能性があります。役員でない場合でも、会社に相当の対価で貸している土地であれば、貸付事業用宅地等の要件を満たすかを確認します。

    Q. 相続の1年前に、資産管理会社に土地を貸し始めました。特例は使えますか?

    貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を原則として除くルールがあります。ただし、被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、その事業に使われた宅地等は除外されません。特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかもあわせて、個別に確認が必要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.67-69、P.133-137、P.143-145、P.198-199