カテゴリー: 税務・会計

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  • 時価が評価額を下回る土地は鑑定で申告できるか|路線価が高すぎる土地の見極め方、鑑定評価による申告と更正の請求

    時価が評価額を下回る土地は鑑定で申告できるか|路線価が高すぎる土地の見極め方、鑑定評価による申告と更正の請求

    路線価などで評価した額が、実際に売れる価格(時価)を上回ってしまう土地は、不動産鑑定士による鑑定評価額で申告することが考えられます。相続税は財産の「時価」で課税するのが法律上の原則であり、財産評価基本通達による評価額は、その時価を求めるための方法だからです。

    ただし、鑑定評価額で申告すれば必ず認められるわけではありません。国税不服審判所の裁決では、納税者の鑑定評価が合理性を欠くとして採用されなかった例も少なくありません。まずは評価通達の範囲で減額要素を漏れなく反映し、それでも時価を上回る場合に、費用とリスクを見比べて鑑定を検討する、という順番が大切です。

    この記事では、評価額が時価を上回る土地への対応を、申告前と申告後の両面から整理します。

    なぜ評価額が時価を上回ることがあるのか

    相続税法第22条は、相続などで取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています。国税庁の財産評価基本通達は、時価を「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」とし、その価額は通達の定めによって評価した価額によるとしています(評価通達1(2))。

    路線価は、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています(国税庁「令和8年分の路線価等について」)。標準的な土地であれば、評価額は時価より低くなるのが一般的です。違いが生じる仕組みは、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか」で解説しています。

    しかし、評価通達は多くの土地を画一的に評価するための仕組みであり、個々の土地のすべての事情を織り込めるわけではありません。通達に定めのない減価要因を持つ土地や、補正率では価値の低さを十分に反映できない土地では、評価額が時価を上回ることがあります。

    評価額が時価を上回りやすい土地

    実務上、次のような土地で評価額が時価を上回りやすいとされています。

    土地の特徴時価が低くなる理由評価通達で反映できる範囲
    道路に接していない、接道が不十分な土地建物が建てられず、買い手が限られる無道路地の補正などで減額できるが、道路までの距離が短いと減額幅が小さい
    道路との高低差が大きい土地、崖状の土地造成に多額の費用がかかる利用価値の著しい低下(10%減)やがけ地補正などで一部反映
    需要の弱い別荘地・原野化した土地そもそも取引が少ない倍率方式では固定資産税評価額の水準に左右される
    広く、分割しても使いにくい土地開発の負担が大きい地積規模の大きな宅地の評価に該当しない場合は反映しにくい
    市街地の中の山林・傾斜地造成費が高く、宅地化しにくい造成費の控除で一部反映
    建築制限・利用制限のある土地(都市計画道路予定地、埋蔵文化財包蔵地など)利用が制約される一部は補正の定めあり、ないものは個別に検討

    このような土地では、「自分ならこの価格で買うか」と評価額を見直してみることが、時価との逆転に気づくきっかけになります。

    まず評価通達の範囲で下げきる

    鑑定を検討する前に確認したいのは、評価通達で認められている減額要素を見落としていないかです。無道路地としての補正、不整形地の補正、セットバック、がけ地、利用価値が著しく低下している宅地、地積規模の大きな宅地など、通達には多くの減額の定めがあります。

    鑑定を考えたものの、実際には通達上の減額要素が反映されていなかっただけ、というケースもあります。通達による評価を正しく行えば、鑑定と同じ程度まで評価額が下がることもあり、その場合は鑑定費用をかける必要はありません。土地の形状などの減額要素の点検は、親記事「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で解説しています。

    鑑定評価による申告の考え方

    認められるための条件

    評価通達は法律ではなく、国税庁内部の取扱いを示すものです。法律が求めるのは時価による評価であるため、通達による評価額が時価を上回ることが明らかな場合には、時価を示す合理的な根拠に基づいて申告することが考えられます。

    ここで問題になるのは、「鑑定評価額が本当にその土地の時価を表しているか」を、納税者側が合理的に説明できるかです。国税不服審判所の裁決では、次のような理由で納税者の鑑定評価が採用されなかった例が見られます。

    • 画地条件の補正の計算や、減価の割合の根拠を示す資料に不十分な点がある
    • 不動産鑑定評価基準が求める手法(取引事例比較法や収益還元法など)を適切に関連づけていない
    • 鑑定評価額の決定の過程を、鑑定評価書から検証できない

    鑑定評価が認められるかどうかは、結論の金額だけでなく、評価の過程が不動産鑑定評価基準に沿って説明されているかによります。依頼する側も、鑑定評価書がその検証に耐える内容になっているかを確認しておくことが大切です。

    鑑定を検討する順番

    AEGISでは、次の順番で検討することをおすすめしています。

    段階行うこと判断のポイント
    1. 気づく評価額と市場の相場感を比べる不動産会社の査定や、近隣の取引の状況を確認
    2. 通達で下げきる通達上の減額要素を漏れなく反映無道路地・高低差・形状・規模・利用制限などを点検
    3. 差を確かめる通達評価額と想定される時価の差を把握簡易な査定や机上の概算で、差の大きさを確認
    4. 費用対効果を見る税額の減少見込みと鑑定費用を比べる相続税率が高いほど、差が税額に与える影響は大きい
    5. リスクを理解する税務調査で認められない可能性を家族で共有認められなかった場合の追加の税負担も想定
    6. 依頼する相続税の土地評価に詳しい不動産鑑定士に依頼評価の過程が基準に沿って説明されているか確認

    鑑定評価額で申告する場合は、できる限り当初の申告から鑑定評価額を用いることが望ましいと考えられます。税務署からの問い合わせに備えて、鑑定評価書のほか、時価が低い理由を示す資料(役所調査の記録、現地の写真、査定書など)を整えておきます。

    売却した価格は時価の根拠になるか

    相続後に実際にその土地を売却した場合、その売却価格は時価を考える有力な材料になります。ただし、売り急いだことによる値下げや、相続から売却までの時間の経過、買主との特殊な関係などがあると、売却価格がそのまま相続の時点の時価とは認められないこともあります。売却価格を根拠にする場合も、取引の経緯を説明できるようにしておくことが大切です。

    申告後に気づいた場合:更正の請求

    すでに通達による評価額で申告を終えた後に、時価がそれを大きく下回ることに気づいた場合は、更正の請求を検討します。法定申告期限から5年以内であれば、税額が過大であったことを理由に更正の請求ができます(国税通則法第23条)。

    更正の請求では、納税者の側で、当初の評価が時価を上回っていたことを示す必要があります。鑑定評価書を添付するのが一般的ですが、当初申告の場合と同様に、評価の合理性が問われます。更正の請求の手続きと期限は、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    なお、相続の後に地価が下落したり災害で価値が下がったりした場合は、相続の時点の時価の問題とは別の論点です。そのような場合の考え方は、関連記事「申告後に相続財産の価値が下がったときにできること」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 時価が評価額より高い土地とのバランス:同じ相続で、評価額が時価より低い土地と高い土地が混在していることがあります。特定の土地だけ鑑定で下げる判断は、全体の説明として一貫しているかも確認します。
    • 遺産分割の基準との関係:遺産分割は時価を基準に話し合われることが多く、評価額と時価が逆転している土地を誰が引き継ぐかは、公平性の問題にもなります。
    • 鑑定費用と期間:鑑定には費用と時間がかかります。申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までのスケジュールに余裕を持って検討します。
    • 土地の活用・売却の判断にもつなげる:時価が低い土地は、相続後に持ち続けるか、売却や活用を検討するかの判断も必要になります。
    • 具体的な判断は個別に:鑑定評価が認められるかは、土地の事情と評価の内容によって異なります。

    AEGISの視点

    評価額が時価を上回る土地は、相続税の計算上だけでなく、家族にとっても「持ち続けるほど負担になりやすい財産」であることが多いものです。建物が建てられない、造成に費用がかかる、買い手がいない。こうした土地は、相続税を多く納めたうえに、その後の管理費や固定資産税の負担も続きます。

    AEGISは、こうした土地の評価の見直しを、税額の問題であると同時に、その土地を今後どうするかを決める機会と考えています。鑑定を検討する過程で把握した時価や利用上の制約は、相続後に売却するのか、活用するのか、別の相続人が引き継ぐのかを判断する材料にもなります。評価の議論で終わらせず、不動産の今後の方針までつなげることが大切です。

    不動産の評価や相続税の申告に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    申告済みの土地について、評価を見直せるかどうかを確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税は時価で課税するのが原則で、評価通達による評価額は時価を求めるための方法です。
    • 接道や高低差、規模、利用制限などの事情がある土地では、評価額が時価を上回ることがあります。
    • まず評価通達の範囲で減額要素を漏れなく反映し、それでも時価を上回る場合に鑑定評価を検討します。
    • 鑑定評価額による申告は、評価の過程が合理的に説明できる場合に認められる余地があり、不採用となった裁決例も多くあります。
    • 申告後に気づいた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます。
    • 費用対効果とリスクを家族で共有したうえで判断することが大切です。

    よくある質問

    Q. 路線価で評価した額が売れる価格より高い場合、そのまま申告しなければなりませんか?

    必ずしもそうではありません。相続税は時価で課税するのが原則であり、評価通達による評価額が時価を上回ることを合理的に示せる場合は、不動産鑑定評価額などで申告することが考えられます。ただし、まずは評価通達で認められている減額要素が反映されているかを確認することが先です。

    Q. 鑑定評価額で申告すれば、必ず認められますか?

    必ず認められるわけではありません。取引事例の選び方や補正の計算、評価手法の適用に不適切な点があるとして、鑑定評価が採用されなかった裁決例があります。相続税の土地評価に詳しい不動産鑑定士に依頼し、評価の過程を説明できるようにしておくことが大切です。

    Q. 鑑定費用をかける価値があるかは、どう判断すればよいですか?

    通達評価額と想定される時価の差に、相続税の税率を掛けた額が、税額の減少の目安になります。この目安と鑑定費用を比べ、さらに認められなかった場合の追加の税負担の可能性も考えて判断します。差が小さい場合は、鑑定を行わない判断も合理的です。

    Q. 申告後に評価額が高すぎたと気づいた場合、どうすればよいですか?

    法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求ができます。鑑定評価書などで、当初の評価額が時価を上回っていたことを示す必要があります。期限が近い場合は、早めに検討を始めることをおすすめします。

    Q. 相続後に売った価格が評価額より低い場合、その価格で申告し直せますか?

    売却価格は時価を考える有力な材料になりますが、売り急ぎや相続からの時間の経過などがあると、そのまま相続の時点の時価とは認められないこともあります。売却の経緯を含めて、相続の時点の時価として説明できるかを確認する必要があります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『相続税・贈与税 土地評価実務テキスト』鎌倉靖二 著、税務研究会出版局(2014年)Ⅴ「財産評価基本通達に従った評価額が時価よりも高くなる場合とその対処法」、ワンポイントQ&A
    • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい(2023年)15「時価」
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2012年)CASE6・CASE11
  • 個人で買うか、資産管理会社で買うか|「次の1件」の購入名義を決める前に確認したい6つの項目

    個人で買うか、資産管理会社で買うか|「次の1件」の購入名義を決める前に確認したい6つの項目

    すでに個人で賃貸物件を持っている方や、資産管理会社を設立した方が次の物件を検討するとき、「今回は個人と会社のどちらで買うべきか」という問いに必ず突き当たります。「法人で買えば税負担を抑えられる」と聞くこともあるかもしれません。

    結論から言えば、購入名義は税率だけでは決まりません。税負担に加えて、融資の受けやすさ、管理の手間、売却したときの課税と資金の取り出し方、家族への引き継ぎ方まで並べて比べる必要があります。しかも名義は、あとから変えようとすると譲渡の課税や登記の費用がかかるため、購入前に決めることが最も負担の少ない選択になります。

    この記事は、個人保有と法人保有の考え方を比べた親記事を踏まえ、「次の1件」の名義を実際に決めるための確認項目をチェックリストとしてまとめたものです。

    先に整理しておきたい3つの前提

    チェックリストに入る前に、次の3点を整理しておくと、判断がぶれにくくなります。

    1. この物件の収益を、誰がいつ使うのか:毎年の生活費に充てるのか、再投資に回すのか、将来の家族のために蓄えるのか。
    2. すでに持っている資産と借入れの全体像:個人と会社それぞれの物件、借入残高、毎年の所得。
    3. 将来、誰に引き継ぎたいのか:配偶者、子、複数の子に分けるのか。

    この3点は、以下の6項目のすべてに関係します。

    チェック1:税負担は「毎年の税率」と「取り出すときの税」をセットで見る

    個人で物件を持つ場合、賃料から経費を差し引いた不動産所得は、給与所得などと合算して累進税率で課税されます。所得が高い方ほど、追加の不動産所得にかかる税率も高くなります。

    会社で持つ場合は、法人税等が課されます。法人税の税率は23.2%で、資本金1億円以下の中小法人などは所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率が適用されます(法人税法第66条。租税特別措置法第42条の3の2により、令和9年3月31日までに開始する事業年度は15%。所得が年10億円を超える事業年度は17%)。このほか、地方法人税や住民税・事業税などもかかります。

    ただし、比べるべきは税率の差だけではありません。会社に残った利益を個人が使うには、役員報酬や配当として受け取る段階で、もう一度個人の税金がかかります。会社の利益を再投資や返済に回し、個人がすぐに使わないのであれば、法人保有の税率の差が生きやすくなります。反対に、収益の多くを個人の生活費に充てるのであれば、差は小さくなります。

    チェック2:融資は「誰の信用で借りるか」を確認する

    金融機関の審査の見方は、名義によって変わります。

    • 個人で借りる場合:給与などの収入、勤務先や勤続年数、既存の借入れと返済の負担割合など、個人の属性が重視されます。
    • 会社で借りる場合:会社の決算書(収益力・純資産・借入れの状況)が審査の中心になります。ただし、設立して間もない資産管理会社は決算の実績が乏しく、実際には代表者個人の収入や資産、連帯保証を前提に審査されることが少なくありません。

    確認したいのは、次の点です。

    • 今回の物件を会社で買う場合、金融機関は会社と個人のどちらの何を見るか
    • 代表者の連帯保証が求められるか
    • 個人で借りた場合に、将来の自宅購入など個人の借入れの枠にどう影響するか

    会社の決算書が融資にどう影響するかは、関連記事「資産管理会社の決算書が融資に与える影響」で詳しく整理しています。

    チェック3:管理の実態とコストを見積もる

    会社で物件を持つと、会社としての記帳・決算・法人税の申告、役員の任期管理や登記、決算を承認する手続きなどが毎年発生します。所得がなくても住民税の均等割はかかり、税理士などへの報酬も必要です。

    一方で、すでに資産管理会社がある場合は、物件を1件追加しても固定的なコストはあまり増えません。「会社を新たにつくってから買う」のか「既存の会社で買う」のかで、法人保有の負担感は大きく変わります。

    チェック4:売却時の課税と、売却代金の行き先

    物件を売却したときの課税の仕組みは、個人と会社で大きく異なります。

    個人の場合、土地・建物の譲渡所得は他の所得と分けて課税され(分離課税)、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わります。所得税の税率は長期15%・短期30%で、このほか復興特別所得税と住民税がかかります(国税庁タックスアンサーNo.1440)。売却代金は、税金を納めた後、そのまま個人の資金になります。

    会社の場合、売却益は会社のその年の所得に含まれ、他の収益や費用と合わせて法人税等が計算されます。所有期間による税率の区分はありません。一方で、売却代金は会社のお金であり、個人が使うには役員報酬・配当・会社への貸付金の返済などの形で取り出す必要があります。取り出し方によって、個人側の課税が変わります。

    会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し方は、関連記事「会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し」で扱います。

    チェック5:家族への承継は「物件を渡す」か「株式を渡す」か

    承継の方法は、名義によって根本的に違います。

    個人で持つ場合は、物件そのものを相続や贈与で引き継ぎます。相続税の計算では、要件を満たせば貸付事業用宅地等として、200㎡までの部分について評価額を50%減額できる小規模宅地等の特例があります。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地等は、一定の場合を除いて対象外とされています(国税庁タックスアンサーNo.4124)。また、物件は分けにくいため、相続人が複数いると共有や分割の問題が起こりやすくなります。

    会社で持つ場合は、物件ではなく会社の株式を引き継ぎます。株式は数を分けて少しずつ贈与することができ、物件を動かさずに承継を進められる利点があります。株式の評価では、会社の資産を相続税評価額で評価し直して計算する方法(純資産価額)が使われることが多く、その際、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、通常の取引価額で評価することとされています(財産評価基本通達185)。購入直後の物件については、相続税評価額による評価の差が株価に反映されない点に注意が必要です。

    チェック6:あとから名義を変えるコストを知っておく

    「まず個人で買い、あとで会社に移せばよい」と考える方もいます。しかし、個人から会社へ物件を移すと、原則として個人に譲渡所得の課税が生じ、会社側では不動産取得税や登録免許税がかかります。借入れがある場合は、金融機関の承諾や借換えも必要です。

    個人保有の物件を法人へ移す前に比べるべき点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で整理しています。

    購入名義を決めるためのチェックリスト

    ここまでの項目を、購入前に埋める一枚にまとめると次のようになります。

    確認項目個人で買う場合に確認すること会社で買う場合に確認すること
    毎年の税負担給与等と合算した税率で、追加の所得にかかる税負担法人税等の負担と、その利益を個人が受け取るときの税負担
    収益の使い道生活費に充てるか、再投資するか会社に残して再投資・返済に回せるか
    融資個人の返済負担割合、今後の個人の借入れへの影響審査で見られるのは会社の決算か個人か、連帯保証の有無
    管理の手間確定申告、帳簿の管理記帳・決算・申告・登記、均等割と専門家報酬
    売却時所有期間5年の区分による分離課税、売却代金は個人へ会社の所得として課税、売却代金の取り出し方
    承継物件そのものの分け方、小規模宅地等の特例の要件株式の分け方と評価、取得後3年以内の物件の評価
    名義変更後で会社に移すときの譲渡課税と移転コスト会社の解散・清算まで見通した出口

    すべての欄を埋める必要はありません。空欄のまま残った項目こそ、専門家と一緒に確認すべき論点です。

    AEGISの視点

    購入名義の判断でよく見られるのは、「法人のほうが税率が低いから」という一点で決めてしまうケースです。しかし、名義は一度決めると、その物件の融資、管理、売却、承継のすべてに影響し続けます。

    AEGISは、購入名義を「その物件の収益とリスクを、誰のバランスシートに置くか」という設計の問題として考えています。個人に置けば個人の信用と相続財産に、会社に置けば会社の決算と株式の価値に結び付きます。どちらにも長所と制約があり、正解は家族の状況と資産全体の構成によって変わります。だからこそ、1件ごとに場当たり的に決めるのではなく、「個人で持つ物件」「会社で持つ物件」の役割分担を先に描き、その方針に沿って次の1件の名義を決めることをおすすめしています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    個人保有と法人保有の比較の考え方は、親記事「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で、資産管理会社の設立を検討するタイミングは関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。会社員や医師の方は、関連記事「会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に」もあわせてご覧ください。不動産と資産管理会社に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 購入名義は税率だけでなく、融資・管理・売却・承継・名義変更のコストまで並べて決めます。
    • 法人保有の税率の差は、利益を会社に残して再投資や返済に回すほど生きやすく、個人がすぐ使う場合は小さくなります。
    • 設立間もない資産管理会社の融資は、代表者個人の信用と連帯保証が前提になることが少なくありません。
    • 承継は、個人保有なら物件そのもの、会社保有なら株式を引き継ぎます。それぞれ評価や特例の要件が異なります。
    • 名義は購入前に決めるのが最も負担が少なく、具体的な有利・不利は個別事情によって異なります。
    • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

    よくある質問

    Q. 法人で買えば、必ず税負担は軽くなりますか?

    必ずとは言えません。会社の利益に対する税率が個人より低くても、その利益を役員報酬や配当で受け取れば個人の税金がかかります。会社の維持費用もかかるため、収益の使い道と所得の水準によって結果は変わります。

    Q. 資産管理会社を設立したばかりでも、会社名義で融資を受けられますか?

    金融機関によっては可能ですが、決算の実績がないため、代表者個人の収入・資産や連帯保証を前提に審査されることが多いのが実情です。どの書類で何を見られるかを、事前に金融機関に確認しておくことをおすすめします。

    Q. 個人で持つ物件と会社で持つ物件を混在させてもよいですか?

    問題ありません。むしろ、自宅に近い物件や長く持ち続けたい物件は個人、収益を再投資に回す物件は会社というように、役割を分けて持つ考え方もあります。大切なのは、物件ごとの名義の理由を説明できることです。

    Q. 会社で物件を買えば、相続税の評価はすぐに下がりますか?

    会社が取得してから3年以内の土地や建物は、株式の評価の計算上、通常の取引価額で評価することとされています。購入直後に評価が下がることを前提にした判断は避けたほうがよいでしょう。

    Q. 名義を決める前に、最低限そろえておく資料は何ですか?

    個人と会社それぞれの所有物件と借入残高の一覧、直近の確定申告書と決算書、検討中の物件の収支見込み、家族構成と承継の希望です。これらがそろうと、チェックリストの多くの項目を具体的な数字で比べられます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 不動産の最適保有設計(POD):取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の紹介・仲介から取得後の管理までをつなぎます。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、第4編「財産管理法人の不動産税務」
  • 飲食料品の消費税率引下げで事業者は何に備えるか|価格表示・レジ・請求書・テイクアウト・申告と資金繰りの準備

    飲食料品の消費税率引下げで事業者は何に備えるか|価格表示・レジ・請求書・テイクアウト・申告と資金繰りの準備

    令和8年(2026年)9月15日、飲食料品の消費税率を令和9年(2027年)4月1日から令和11年(2029年)3月31日までの2年間、臨時的に1%(国税0.78%・地方消費税0.22%相当)に引き下げることを柱とする大綱が決定されました。国税庁も特設サイトで事業者向けのQ&Aやリーフレットを公表しています。

    ただし、この記事を作成した2026年10月10日時点で、引下げを定める法律の成立は確認できていません。国税庁のQ&Aも「法案が国会で可決・成立した場合」の内容として示されています。以下は大綱と国税庁資料に基づく「予定されている内容」であり、今後の国会審議で変わる可能性があります。

    そのうえで、事業者が今から準備しておきたいことを先に挙げると、次の5つです。

    1. 自社の売上がどの税率に当たるかを品目・提供方法ごとに洗い出す(飲食料品1%、外食・酒類10%など)
    2. レジ・受発注・請求書のシステムが1%の税率と、8%・1%の混在に対応できるかを確認する
    3. 価格表示(総額表示)をいつ、どう切り替えるかを決める
    4. 納付税額と還付の見通しを試算し、簡易課税・免税事業者の特例を使うかを判断する
    5. 資金繰り(中間申告、還付の時期、価格改定による売上の変化)を織り込む

    何が変わる予定か

    大綱によれば、引下げの対象は現在8%の軽減税率が適用されている飲食料品です。対象範囲そのものは変えず、税率だけを臨時的に下げる設計です。

    区分現在令和9年4月1日〜令和11年3月31日(予定)
    飲食料品(酒類を除く。テイクアウト・宅配を含む)8%1%
    外食(店内飲食)10%10%(変更なし)
    ケータリング・出張料理(有料老人ホーム等での提供を含む)10%10%(変更なし)
    酒類10%10%(変更なし)
    新聞(週2回以上発行・定期購読)8%8%(変更なし)
    医薬品・医薬部外品等10%10%(変更なし)

    ※大綱(令和8年9月15日)と国税庁「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げに関するQ&A」(令和8年9月)をもとにAEGISが整理。法律の成立により確定します。

    あわせて、大綱では「就業者負担軽減支援金」という所得に応じた給付制度の導入も示されています。消費税率の引下げは、令和11年度の支援金の本格導入までの「つなぎ」と位置付けられています。

    価格表示:総額表示の義務は続く

    消費者に対する価格表示では、税込価格を表示する「総額表示」が義務付けられています。大綱では、引下げ期間中も税抜価格だけの表示や「+税」だけの表示は引き続き認められないとしています。

    一方で、夜間の値札の貼替えが間に合わない、商品パッケージに価格が印字されているといった事情に配慮し、総額表示にすぐ対応することが困難な事情がある場合に限り、誤認を防ぐ措置を講じたうえで、次の期間は本来とは異なる税率での税込価格を表示できる特例が示されています。

    • 令和9年4月1日〜5月31日、令和11年2月1日〜3月31日:8%に基づく税込価格の表示
    • 令和9年2月1日〜3月31日、令和11年4月1日〜5月31日:1%に基づく税込価格の表示

    つまり、切替えの前後に一定の猶予はあるものの、「どの時点で、どの売場・どのチャネルの表示を切り替えるか」の計画は必要です。店頭、チラシ、ECサイト、メニュー表、自動販売機など、価格が表示されている場所をすべて洗い出しておきます。

    レジ・請求書:1%と8%・10%の混在に備える

    レジと受発注システム

    税率が変わるのは飲食料品だけなので、同じ店舗の中で1%と10%(酒類や日用品)が混在します。レジの商品マスタの税率設定、税率ごとの集計、レシートの表示を変更できるかを、早めにシステム会社に確認します。大綱では、レジの改修やスマートレジへの移行を行う中小企業等への支援も示されています。

    国税庁のQ&Aでは、4月1日の0時から1時までの販売を、継続して適用している売上計上の基準により3月31日の売上げとして計上している場合は、8%を適用して差し支えないとされています。営業時間が日付をまたぐ店舗は、自社の計上基準を確認しておきましょう。

    請求書・インボイス

    1%の対象品目は軽減税率の対象品目のままなので、適格請求書(インボイス)には「軽減税率の対象品目である旨」を記載し、適用税率は1%、消費税額等は1%で計算します。8%の取引(3月31日以前の取引など)と1%の取引が同じ請求書に混在する場合は、請求書を分けるか、同じ請求書の中で区分して記載します。

    インボイス制度の経過措置の見直しとあわせて取引先との関係を見直す場合は、関連記事「インボイス経過措置の縮小と取引の見直し」も参考になります。

    経過措置:定期供給契約と通信販売

    契約変更が難しい取引に配慮して、次の取引は1%ではなく従来どおり8%とする経過措置が示されています。

    • 令和9年1月1日前に締結した定期供給契約に基づき、4月1日前に対価を受け取っている4月1日以後の飲食料品の譲渡(受け取った部分に限る)
    • 令和9年1月1日前に販売条件を提示し、4月1日前に申込みを受けた通信販売による4月1日以後の飲食料品の譲渡

    この経過措置は選択制ではありません。1%を前提とした契約や販売条件であることが確認できる場合などは、1%が適用されます。定期便や予約販売を扱う事業者は、令和9年1月前後の契約・販売条件の示し方を検討しておく必要があります。

    テイクアウトと店内飲食:税率差が9ポイントに広がる

    現在も、テイクアウトは8%、店内飲食は10%と税率が異なります。引下げ期間中は、これが1%と10%になり、差が大きく広がります。

    飲食店では、次の点を検討しておきたいところです。

    • 価格の設定方法:テイクアウトと店内飲食で税込価格を変えるのか、本体価格を調整して税込価格をそろえるのか
    • 意思確認のオペレーション:注文時に持ち帰りか店内かを確認する手順と、レシートの区分
    • 販売チャネルの見直し:テイクアウト・デリバリーの比重をどうするか

    大綱では、外食と中食・内食の税率差による影響を見極めたうえで、テイクアウト等の多角化の支援を講ずることも示されています。

    申告と納付税額:業態によって影響が逆になる

    消費税の納付税額は、原則として「売上げに係る消費税額-仕入れに係る消費税額」で計算します(一般課税)。税率が下がるのが売上げ側か仕入れ側かによって、影響は業態ごとに大きく異なります。

    業態の例売上げの税率主な仕入れの税率納付税額の方向性(一般課税の場合)
    食品スーパー・食料品店飲食料品1%食品1%、包材・光熱費・家賃等10%売上税額が大きく減り、還付になる可能性がある
    飲食店(店内飲食中心)10%食材1%、その他10%食材の仕入税額が減り、納付税額が増える方向
    食品メーカー・卸売飲食料品1%原材料1%、設備・資材等10%還付になる可能性がある
    農林漁業者農産物等1%資材・燃料等10%還付になる可能性がある(簡易課税・免税事業者では回収できない仕入税額が問題に)

    ※AEGISが方向性を整理したものです。実際の税額は取引の構成によって異なります。

    簡易課税・免税事業者の特例

    簡易課税制度を選んでいる事業者は、現行の仕組みのままだと、売上税額が少なくても一定の納付税額が生じ、還付も受けられません。そこで大綱では、次の特例が示されています。

    • 簡易課税の計算の特例:1%の飲食料品の売上げに対応する仕入控除税額を、業種区分にかかわらず、その売上税額と同額とする(2割特例・3割特例も同様)
    • 簡易課税をやめる特例:令和9年4月1日を含む課税期間中に不適用届出書を出せば、その課税期間から一般課税に移れる。簡易課税の2年間継続適用の要件は適用しない
    • 課税事業者になる特例:飲食料品の譲渡を行う免税事業者は、令和9年4月1日を含む課税期間中に課税事業者選択届出書を出せば、その課税期間から課税事業者になれる(その後原則2年間は課税事業者として申告が必要)

    還付を受けるために一般課税や課税事業者を選ぶと、帳簿・インボイスの管理負担が増え、一定期間は戻れないこともあります。「還付額」と「事務負担・継続期間」を比べて判断することが大切です。

    中間申告の特例

    消費税の中間申告は、原則として前年の納付税額をもとに計算するため、引下げで納付税額が減る事業者は中間納付が過大になります。大綱では、令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間について、直前の課税期間の飲食料品の取引に1%を適用したものとして計算した税額で、仮決算による中間申告ができる特例が示されています(令和11年4月以後は逆に8%に戻した計算ができる特例)。

    資金繰りへの影響

    引下げは、事業者の資金の流れにも影響します。

    • 還付の時期:還付は申告をしてから受け取るため、還付になる事業者でも、それまでの期間は資金が先に出ていきます。課税期間の短縮の手続は現行制度どおり使えるとされています。
    • 価格改定:税込価格を下げれば売上高(税込)は減ります。本体価格を据え置くのか、税込価格を据え置くのかで、粗利と資金の残り方が変わります。
    • 在庫:3月31日以前に仕入れた飲食料品は、4月1日以後に販売しても仕入れの税率は8%です。仕入れと販売の税率がずれる時期の利益と納税を試算しておきます。
    • 終了時の戻り:令和11年4月には税率が戻る予定です。2年後の価格改定とシステム変更も、最初の計画に含めておきます。

    月次の資金繰り表に、中間申告・確定申告の時期と金額の見込みを入れておくと、税率の変更が資金に与える影響を早く把握できます。作り方は関連記事「資金繰り表の作り方」で解説しています。

    準備のスケジュール

    時期(予定)主な準備
    〜令和8年12月対象品目と税率の洗い出し、システム会社への確認、定期便・通販の販売条件の見直し、納付・還付の試算
    令和9年1月経過措置の基準日(1月1日)を踏まえた契約・販売条件の提示
    令和9年2〜3月価格表示の切替計画の実行、インボイス登録や届出の要否の最終判断
    令和9年4月1日引下げ開始(予定)。レジ・請求書の税率切替え
    令和9年4月以後中間申告の特例の要否判断、価格・販売チャネルの検証
    令和11年3月31日引下げ終了(予定)。4月からの税率の戻りへの対応

    ※法律の成立と、国税庁の最新のQ&A・様式を必ず確認してください。

    AEGISの視点

    税率の引下げは「税金が安くなる」ニュースとして受け止められがちです。しかし事業者にとっては、価格・システム・申告・資金繰りが同時に動く「経営のイベント」です。しかも2年後には元に戻る予定のため、切替えは実質的に2回あります。

    AEGISが特に重視しているのは、業態によって影響の向きが逆になるという点です。食料品を売る事業者は還付が生じる可能性がある一方、店内飲食が中心の飲食店は納付税額が増える方向に動きます。同業者のニュースや一般的な解説をそのまま自社に当てはめず、自社の売上と仕入れの税率構成から試算することが、判断の出発点になります。

    また、簡易課税や免税の特例を使うかどうかは、引下げ期間の2年間だけでなく、その後の申告方法や事務体制にまで影響します。税額の多寡だけで決めず、経理体制や取引先との関係を含めて判断することが大切だとAEGISは考えています。

    制度改正の情報を、大綱・法律・通達の段階ごとにどう読み分けるかは、関連記事「制度改正の情報はどう追い、いつ相談するか」で整理しています。改正情報を自社の計画に引き寄せて点検する考え方は「税制改正は自分の承継計画に関係するか」をご覧ください。

    まとめ

    • 大綱では、飲食料品の消費税率を令和9年4月1日から2年間、1%に引き下げる案が示されています。2026年10月10日時点で法律の成立は確認できていません。
    • 外食・酒類・ケータリングは10%のままで、テイクアウトと店内飲食の税率差は大きく広がります。
    • 総額表示の義務は続きます。切替前後の一定期間に限り、困難な事情がある場合の表示の特例が示されています。
    • 業態によって納付税額への影響は逆になります。簡易課税・免税事業者の特例、中間申告の特例を使うかを試算して判断します。
    • 価格改定・在庫・還付の時期・2年後の戻りを資金繰りに織り込み、準備のスケジュールを早めに立てることが大切です。

    よくある質問

    Q. 飲食料品の消費税率引下げは、もう決まったのですか?

    2026年9月15日に大綱が決定され、国税庁も特設サイトで事業者向けの資料を公表しています。ただし、この記事の作成時点(2026年10月10日)では法律の成立は確認できておらず、国税庁のQ&Aも法案の成立を前提とした内容として示されています。国会審議の結果を確認する必要があります。

    Q. 飲食店の店内飲食も1%になりますか?

    大綱と国税庁のQ&Aによれば、外食(店内飲食)は対象外で10%のままです。テイクアウトや宅配のように、現在8%の軽減税率が適用されている飲食料品の譲渡が1%の対象になります。

    Q. 免税事業者ですが、何か手続は必要ですか?

    免税事業者のままであれば、消費税の申告は不要です。ただし、仕入れにかかった消費税の還付を受けたい場合は課税事業者になる必要があります。大綱では、飲食料品の譲渡を行う免税事業者が、令和9年4月1日を含む課税期間中に届出をすれば、その課税期間から課税事業者になれる特例が示されています。その後原則2年間は課税事業者として申告が必要になる点も踏まえて判断します。

    Q. 簡易課税を選んでいる場合はどうなりますか?

    大綱では、1%の飲食料品の売上げに対応する仕入控除税額を、業種区分にかかわらず売上税額と同額とする特例が示されています。これにより、飲食料品の売上げ部分の納付税額は実質的に生じない計算になります。還付を受けたい場合は、一般課税に移る特例も示されています。

    Q. 3月中に仕入れて4月に売る商品の税率はどうなりますか?

    国税庁のQ&Aでは、3月31日以前の仕入れは、販売が4月1日以後であっても8%とされています。販売は1%になるため、切替時期の在庫については、仕入れと販売の税率差を踏まえて利益と納税を試算しておくと安心です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年(令和7年12月時点の法令に基づく)、Chapter 1 消費税

    その他参考資料

    • 自由民主党「飲食料品消費税率の臨時的な引き下げと就業者負担支援金導入に向けた大綱を決定」(2026年9月15日)
      https://www.jimin.jp/news/policy/214205.html
      確認日:2026-10-10
  • 相続した賃貸物件の評価を見直すときの確認点|賃貸割合と一時的な空室、一括借上げ、複数棟、駐車場

    相続した賃貸物件の評価を見直すときの確認点|賃貸割合と一時的な空室、一括借上げ、複数棟、駐車場

    相続した賃貸アパートやマンションの相続税評価を見直すときは、「どの部分が、相続の時点で貸していると扱えるか」と「どの範囲を1つの土地として評価するか」の2点を中心に確認します。

    賃貸物件の敷地は「貸家建付地」として、自分で使っている土地より低く評価されます。その減額の大きさを決めるのが「賃貸割合」です。相続の時点でたまたま空室があった部分を、一時的な空室として賃貸中と扱えるかどうかで、評価額が変わります。また、複数の建物や駐車場がある敷地では、評価の単位の分け方によっても結果が変わります。

    この記事では、賃貸物件特有の評価の論点を、申告後に見直すときの確認の順番に沿って整理します。土地の形状などによる一般的な減額要素は、親記事「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で扱っています。

    貸家建付地と貸家の評価の基本

    国税庁のタックスアンサー(No.4614)によれば、貸家建付地とは、所有する土地に建てたアパートやビルを他人に貸している場合の、その敷地をいいます。評価は次の算式によります。

    貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 -(自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

    借地権割合と借家権割合は、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認します。建物(貸家)も、固定資産税評価額を基にした価額から、借家権割合と賃貸割合に応じた分を差し引いて評価します(財産評価基本通達93)。

    この減額が認められるのは、借家人が建物とその敷地をある程度支配しており、所有者が自由に使えず、売るときも借家人付きの価格になるからです。逆にいえば、相続の時点で実際に貸していない部分には、原則として減額は及びません。国税庁の質疑応答事例でも、借家人が退去して空き家となっている家屋の敷地は、たとえ賃貸用に建てた建物であっても、自用地として評価するとされています。

    確認点1:賃貸割合と「一時的な空室」

    賃貸割合の計算

    賃貸割合は、アパートなどの各独立部分(壁や扉で区切られ、独立して貸せる部屋)の床面積の合計のうち、相続の時点で賃貸されている部分の床面積の割合です。20室のうち4室が空室なら、各室の広さが同じであれば賃貸割合は80%になり、その分だけ減額が小さくなります。

    一時的な空室として扱える場合

    ただし、継続的に賃貸されてきた部屋が、相続の時点でたまたま空いていただけと認められる場合は、賃貸されているものとして扱って差し支えないとされています。国税庁は、その判断の目安として次の事実関係を挙げています(No.4614、質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」)。

    確認する事実見直しのときに確かめたい資料
    相続の前から継続的に賃貸されてきたか過去の賃貸借契約書、入居者の履歴
    退去後、速やかに入居者の募集をしたか管理会社への募集依頼の記録、募集広告
    空室の間、他の用途に使っていないか物置・自己使用などがないことの確認
    空室の期間が、例えば1か月程度など一時的か退去日と次の入居日の記録
    相続後の賃貸が一時的なものではないか相続後の入居状況、賃貸借契約書

    国税庁の質疑応答事例では、学生向けアパートで卒業による退去が重なり、相続の時点で半分ほどが空室だったものの、新入居者を募集し月末には満室になっていたケースで、空室部分を賃貸中に含めて計算して差し支えないとしています。

    「1か月程度」は目安であり、総合判断

    「1か月程度」という期間は例示であり、これを超えたら直ちに認められないというものではありません。国税不服審判所の裁決では、20室中4室が2か月から1年11か月空いていた賃貸マンションについて、速やかな修繕と募集、定期的な補修、周辺に競合物件が多い事情などを総合して一時的な空室と認め、賃貸割合を100%とした例があります(平成20年6月12日裁決)。

    一方で、空室が長期間続き、相続後も貸付けの用に供されずに売却された事案では、一時的な空室とは認められなかった例もあります(平成21年3月25日裁決)。

    結論を分けるのは、空室の期間の長さそのものより、「賃貸を続ける意思と行動が、記録で確認できるか」です。申告の見直しでは、当初の申告で空室を一律に除外していないか、逆に長期の空室を根拠なく賃貸中としていないか、の両面を確認します。

    確認点2:一括借上げ(サブリース)の扱い

    建物を管理会社などに一括で貸し、その会社が入居者に転貸する一括借上げ(サブリース)の場合、所有者から見た借家人は一括借上げをした会社です。建物全体を一括で貸しているため、各部屋に入居者がいるかどうかにかかわらず、建物全体が賃貸されていると考えられ、賃貸割合は高くなる傾向があります。

    見直しでは、次の点を確認します。

    • 相続の時点で一括借上げの契約が有効に続いていたか(契約期間、更新、解約の有無)
    • 契約の対象がどの建物・どの部屋か(建物の一部だけが対象になっていないか)
    • 契約の相手方と実際の運営の実態が一致しているか

    一括借上げの契約内容の読み方は、関連記事「賃貸管理を委託するときの契約の確認点」で解説しています。

    確認点3:複数棟の評価単位

    土地は「1画地」ごとに評価します。国税庁の質疑応答事例「宅地の評価単位」では、貸家建付地を評価する場合において貸家が数棟あるときは、原則として各棟の敷地ごとに1画地とするとされていますが、借地権が同一の契約により締結されている場合には、複数棟の借地権を一体で評価するのが原則です。

    評価単位の分け方は、間口・奥行・形状による補正や、地積規模の大きな宅地の評価の適用判定に影響します。そのため、次のような点で当初の申告と異なる判断があり得ます。

    • 一括借上げで複数棟を1通の契約で貸している場合:多くの場合一体評価が認められますが、国税不服審判所の裁決には、5棟の共同住宅が1通の契約で一括借上げされていても、各棟の敷地ごとに1画地として評価するのが相当とした例があります(平成26年4月25日裁決)。契約が1つであることだけで、敷地全体を1単位とできるわけではありません。
    • 遺産分割で複数の相続人が分けて取得した場合:取得者ごとに分けて評価するのが原則ですが、分割後の土地が通常の用途に使えないなど著しく不合理な分割の場合は、分割前の単位で評価します(質疑応答事例「宅地の評価単位」)。
    • 通路・植栽・ゴミ置場など共用部分:どの棟の敷地に含めるかを、現地の利用状況で確認します。

    確認点4:敷地内の駐車場

    アパートの敷地内にある駐車場の扱いは、利用者によって変わります。

    • 入居者専用の駐車場で、建物の敷地と一体として利用されている場合:建物の敷地と合わせて貸家建付地として評価する考え方があります。
    • 外部の人にも貸している駐車場:駐車場部分は借家人の権利が及ばないため、原則として自用地としての評価に近くなります。実務では、建物と駐車場を1つの評価単位としたうえで、土地の面積を基準に賃貸割合を調整して、駐車場部分を自用地として扱う方法がとられることもあります。
    • 塀などで区切られ、別に貸している駐車場:別の評価単位として扱うのが一般的です。

    駐車場の扱いは現地の状況による判断が大きく、裁決でも判断が分かれています。駐車場経営そのものの税金と評価は、関連記事「駐車場経営の税金と相続」で解説しています。

    見直しの進め方

    賃貸物件の評価を見直すときは、次の順番で確認すると効率的です。

    順番確認すること主な資料
    1相続の時点の入居状況(部屋ごと)レントロール、賃貸借契約書
    2空室の部屋ごとの退去日・募集・再入居の記録管理会社の記録、募集広告
    3一括借上げ契約の有無と内容一括借上げ契約書
    4建物の棟数と、敷地の区分・共用部分登記事項証明書、配置図、現地写真
    5駐車場の利用者と区画、契約形態駐車場契約書、区画図
    6当初申告の評価明細書との突き合わせ土地及び土地の上に存する権利の評価明細書

    見直しの結果、当初の申告で評価額が過大だったと判明した場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができます(国税通則法第23条)。反対に、評価が過少だった場合は修正申告が必要になります。更正の請求の手続きは、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 相続後の記録を残す:一時的な空室の判断では、相続後の入居状況も考慮されます。相続後すぐの募集・入居の記録を残しておくことが大切です。
    • 「満室扱い」は根拠とセットで:賃貸割合を100%とする場合は、空室ごとに一時的といえる事情を説明できるようにしておきます。
    • 小規模宅地等の特例との関係:賃貸物件の敷地は、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の対象になる場合があります。評価を見直すときは、特例の適用面積や選択の見直しもあわせて検討します。
    • 個別の判断が多い:評価単位や駐車場の扱いは事実関係で結論が変わります。具体的な適用は個別事情によって異なります。

    AEGISの視点

    賃貸物件の評価は、計算式そのものは単純です。しかし、賃貸割合や評価単位の判断は、相続の時点の「賃貸経営の実態」をどう記録し、説明できるかにかかっています。

    AEGISは、賃貸物件の評価の見直しを、申告書の数字の点検にとどまらず、相続前後の賃貸経営の記録を読み解く作業と考えています。退去後すぐに募集していたか、修繕を続けていたか、管理会社とどのような契約を結んでいたか。こうした日々の運営の積み重ねが、評価の結論を支える根拠になります。

    裏を返せば、オーナーが生前から入居状況・募集・修繕の記録を整えておくことは、相続後の家族を助けることにもつながります。不動産管理の質と相続税の評価は、別々のテーマに見えて、実は一つながりのものです。

    不動産の評価や相続税の申告に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    申告済みの賃貸物件の評価について、見直しの余地を確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 賃貸物件の敷地は貸家建付地として、借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じて減額して評価します。
    • 相続の時点で空室だった部屋も、継続的な賃貸と速やかな募集など一定の事実関係から一時的な空室と認められれば、賃貸中として扱えます。「1か月程度」は例示です。
    • 一括借上げでは借家人が借上げ会社となり、賃貸割合は高くなる傾向がありますが、契約の有効性と範囲の確認が必要です。
    • 複数棟の貸家は、原則として各棟の敷地ごとに評価単位を分けます。一括借上げの契約が1通でも同様と判断された裁決例があります。
    • 駐車場は、入居者専用か外部貸しかなどで扱いが変わります。
    • 評価が過大だった場合は、法定申告期限から5年以内に更正の請求ができます。

    よくある質問

    Q. 相続のときに空室があった部屋は、必ず自用として評価されるのですか?

    必ずではありません。継続的に賃貸されてきた部屋で、退去後すぐに募集を行い、他の用途に使わず、相続後も賃貸が続いているなど、一時的な空室と認められる事情があれば、賃貸中として扱って差し支えないとされています。

    Q. 空室の期間が1か月を超えていると、一時的な空室とは認められませんか?

    国税庁が示す「1か月程度」は例示です。国税不服審判所の裁決には、最長1年11か月の空室を含めて、募集や修繕の状況、周辺の競合状況などを総合して一時的な空室と認めた例があります。ただし、長期の空室が続き相続後も貸されていない場合は認められなかった例もあり、事実関係によって判断されます。

    Q. 一括借上げ(サブリース)の物件は、空室があっても賃貸割合100%になりますか?

    一括借上げ契約により建物全体を借上げ会社に貸している場合、所有者から見た借家人は借上げ会社であり、建物全体が賃貸されていると考えられます。ただし、相続の時点で契約が有効に続いていたか、対象の範囲はどこかなどを契約書で確認する必要があります。

    Q. 同じ敷地に2棟のアパートがあります。評価単位は1つですか、2つですか?

    貸家建付地を評価する場合、貸家が数棟あるときは、原則として各棟の敷地ごとに1画地として評価します。2棟をまとめて1つの契約で一括借上げしている場合でも、各棟ごとに分けるのが相当とした裁決例があります。

    Q. 評価の誤りに気づいた場合、いつまでに手続きをすればよいですか?

    評価が過大で税額を多く納めていた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求ができます。期限が近い場合は、早めに資料を集めて検討することをおすすめします。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2012年)CASE18・CASE19
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント[第3集]』笹岡宏保 著、ぎょうせい(2018年)CASE2
    • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい(2023年)1「評価単位、地目判定」
  • 個人事業をたたむときの手続と残った資産|廃業届・消費税・青色申告の取りやめから、在庫・設備・借入れの整理まで

    個人事業をたたむときの手続と残った資産|廃業届・消費税・青色申告の取りやめから、在庫・設備・借入れの整理まで

    個人事業の廃業は、税務署に廃業届を出せば終わり、というものではありません。①届出、②最後の確定申告、③残った資産と借入れの後始末、④廃業後の生活資金の4つを、順番に片づけていく作業です。

    とくに注意したいのは、事業をやめても、事業用の借入れや保証、売れ残った在庫や設備、廃業後に届く請求書は、そのまま経営者個人に残るという点です。会社と違い、個人事業では事業の財産と個人の財産が法的に分かれていないためです。

    この記事では、後継者がいない個人事業を廃業する場面を前提に、何をいつまでに行うか、税金がどこにかかるかを整理します。廃業を決める前に、事業を第三者に譲る道がないかを確認したい場合は、関連記事「個人事業を第三者に譲る方法」をご覧ください。

    廃業を決める前に確認したいこと

    中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)は、廃業の相談を受けてもすぐに手続に進むのではなく、まず経営状況を見える化し、事業の継続や引継ぎの可能性を探ることを求めています。そのうえで、やむを得ず廃業を選ぶ場合には、債務超過などに追い込まれる前に、ある程度の余力があるうちに計画的に事業を終える「円滑な廃業」に向けた準備が望ましいとしています。

    廃業を決める前に、次の3点を確認しておくと、その後の判断がぶれにくくなります。

    • 引き継げるものはないか:設備、取引先、技術、従業員などは、事業全体ではなくても、経営資源として誰かに引き継げる場合があります。事業承継・引継ぎ支援センターは、こうした経営資源の引継ぎの相談にも応じています。
    • 資産と負債の差し引き:在庫・設備・売掛金を現金化し、借入金・買掛金・未払いの税金を払った後に、いくら残るか(あるいは足りないか)。
    • 廃業後の生活資金:廃業後の収入源と、当面の生活費をどう確保するか。

    会社を清算する場合との違いは、関連記事「黒字廃業を選ぶ前に比較したいこと」で解説しています。

    廃業の手続一覧

    税金に関する主な手続を、期限とともに整理すると次のとおりです。

    手続内容期限の目安
    個人事業の開業・廃業等届出書事業を廃止したことを税務署に届け出る(所得税法第229条)廃止した日の属する年分の確定申告期限まで
    所得税の青色申告の取りやめ届出書青色申告をやめる場合に提出する(同法第151条第1項)取りやめようとする年分の確定申告期限まで
    給与支払事務所等の廃止の届出書従業員への給与の支払をやめる場合(同法第230条)廃止の日から1か月以内
    事業廃止届出書(消費税)消費税の課税事業者が事業を廃止した場合(消費税法第57条第1項第3号)速やかに
    予定納税額の減額の承認申請廃業で所得が減る見込みの場合(所得税法第111条)第1期・第2期分はその年の7月15日まで(第2期分のみの場合は別の期限)
    廃業した年の確定申告1月1日から廃業日までの事業所得などを申告する翌年3月15日まで(原則)

    なお、青色申告の承認を受けている人が業務の全部を廃止した場合、廃止した年の翌年分以後は承認の効力が失われます(所得税法第151条第2項)。インボイス(適格請求書発行事業者)の登録を受けている場合は、事業廃止届出書を提出すると、事業を廃止した日の翌日に登録の効力が失われます(消費税法第57条の2第10項第2号)。

    このほか、個人事業税・住民税に関する都道府県・市区町村への届出、営業許可などの許認可の廃止の届出、従業員がいる場合の社会保険・雇用保険の手続、取引先や金融機関への連絡も必要です。許認可の廃止は、所管の役所ごとに期限や書式が異なるため、一覧を作って漏れを防ぎます。

    最後の確定申告で注意したいこと

    在庫:売っても、自分で使っても収入になる

    廃業時に残った商品や原材料(棚卸資産)は、売却すれば事業所得の収入になります。売らずに自分や家族のために使った場合も、その時の価額で収入に計上する必要があります(所得税法第39条)。消費税の課税事業者であれば、事業用の資産を家事のために消費・使用した場合も、消費税の課税対象とみなされます(消費税法第4条第5項第1号)。

    設備・車両:売却すると譲渡所得

    事業で使っていた機械・車両・備品などの固定資産を売却した場合は、原則として事業所得ではなく譲渡所得として扱われます。売却価格と帳簿上の未償却残高の差額などから所得を計算します。課税事業者であれば、売却代金は消費税の課税対象にもなります。売却できずに廃棄する場合は、除却に伴う損失の扱いも確認します。

    廃業後に生じた費用・損失

    廃業した後に、事業に関する費用の請求が届いたり、売掛金が回収できなくなったりすることがあります。こうした費用や損失で、事業を続けていれば必要経費になったはずのものは、廃業した年分またはその前年分の必要経費に算入できます(所得税法第63条)。すでに確定申告を済ませている場合は、その事実が生じた日の翌日から2か月以内に、更正の請求をすることができます(同法第152条)。

    廃業後もしばらくは、請求書や回収の状況を記録しておくことが大切です。

    残った資産と借入れをどう整理するか

    資産の行き先を決める

    廃業時の資産は、大きく「売る」「譲る」「自分で使う」「処分する」のいずれかに振り分けます。

    資産主な選択肢確認したいこと
    在庫売り切る、同業者に譲る、家事用に使う自家消費は収入計上、課税事業者は消費税も
    機械・車両・備品売却、同業者・後進に譲る、廃棄譲渡所得、消費税、廃棄費用の負担
    売掛金回収、回収不能分の整理廃業後の貸倒れは所得税法第63条の対象となり得る
    店舗・事務所(自己所有)貸す、売る、自宅として使う用途が変わることによる相続税の特例の適用の変化
    店舗・事務所(賃借)解約、原状回復解約予告期間、原状回復費用、保証金の精算

    自己所有の店舗を廃業後に人に貸す場合、収入は不動産所得になり、新たに届出が必要になることがあります。また、店舗兼住宅の敷地など、事業用として相続税の特例を受けられた可能性のある土地は、廃業によって扱いが変わります。将来の相続まで見据えて、使い方を決めることが大切です。

    借入れは個人に残る

    個人事業の借入れは、経営者個人の債務です。廃業しても返済義務はなくならないため、資産の売却代金や預金で返済するか、返済計画を金融機関と協議します。家族が保証人になっている場合は、その保証も残ります。

    返済が難しい場合や、保証の整理が必要な場合に利用できる仕組みとして、中小M&Aガイドラインの参考資料では、商工会議所等の「経営安定特別相談室」、「経営者保証に関するガイドライン」、地域経済活性化支援機構の特定支援業務(事業の債務と保証債務の一体的な整理)、日本弁護士連合会の相談窓口などが紹介されています。事業承継ガイドラインでは、信用保証協会の「自主廃業支援保証」など、廃業に必要な資金を支える制度にも触れています。返済に行き詰まってからではなく、廃業を決めた段階で金融機関や専門家に相談することが、取引先への影響を抑え、手元に残る財産を守ることにつながります。

    従業員と取引先への説明

    中小企業庁のアンケート調査では、廃業時に苦労したこととして、顧客・販売先への説明や従業員の処遇が上位に挙がっています。廃業の時期を決めたら、従業員の再就職先の相談、取引先への告知の時期、仕入れの停止の時期を逆算して計画します。

    廃業後の生活資金

    廃業後の生活を支える制度として、小規模企業共済があります。独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する、小規模事業者のための退職金制度で、廃業時に共済金を受け取ることができます。中小機構の案内によると、共済金を一括で受け取る場合は退職所得、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得として扱われます。加入している場合は、受取方法によって税負担や手取りが変わるため、廃業の時期とあわせて受取方法を検討します。

    廃業までのスケジュール例

    1. 廃業の1年〜半年前:資産・負債の一覧化、引継ぎ先の可能性の確認、金融機関への相談
    2. 3か月前:従業員・取引先への説明、仕入れの調整、賃借物件の解約予告
    3. 廃業日:営業の終了、在庫・設備の処分、最終の売上・経費の締め
    4. 廃業後1か月以内:給与支払事務所等の廃止届出、許認可や社会保険の手続、消費税の事業廃止届出書
    5. 翌年3月15日まで:廃業した年の確定申告、開業・廃業等届出書と青色申告の取りやめ届出書の提出(未提出の場合)
    6. その後:廃業後に届いた費用・回収不能の売掛金があれば、更正の請求を検討

    ※期限は原則的なものです。個別の事情により異なる場合があります。

    実務上注意したいポイント

    • 届出の期限は手続ごとに違う:所得税の届出は確定申告期限まで、給与支払事務所等の廃止は1か月以内など、期限がそろっていません。
    • 消費税の最後の申告を忘れない:課税事業者は、廃業した年の消費税の申告も必要です。
    • 帳簿・書類は保存を続ける:廃業後も、法定の期間は帳簿や書類を保存する必要があります。
    • 個別事情で結論が変わる:資産の処分方法や税額は、事業の内容と資産の状況によって異なります。

    AEGISの視点

    個人事業の廃業相談では、「手続を早く終わらせたい」という声をよく聞きます。もちろん手続を正しく終えることは大切ですが、AEGISは、廃業を「事業の財産を、家族の財産と生活に組み替える作業」と捉えることが大切だと考えています。

    個人事業では、店舗の土地や建物、車、預金が、事業用と家計用の両方を兼ねていることが少なくありません。廃業によって、それらの役割が変わります。店舗を貸すのか売るのか、借入れをどの資産で返すのか、共済金をどう受け取るのかといった選択は、廃業後の生活だけでなく、将来の相続の形にも影響します。

    また、廃業を決めた後でも、設備や顧客を引き継いでくれる相手が見つかることがあります。手続に進む前に一度立ち止まり、「残せるものは何か」を確認することをおすすめします。事業承継の全体像は、Pillar記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    生前に事業用資産の行き先を決めておく方法については、関連記事「個人事業主が遺言で備えること」も参考になります。

    まとめ

    • 個人事業の廃業は、届出・最後の確定申告・資産と借入れの整理・生活資金の4つを順番に進めます。
    • 所得税の開業・廃業等届出書は、廃止した年分の確定申告期限までに提出します。消費税の課税事業者は事業廃止届出書も必要です。
    • 在庫の自家消費は収入に計上し、設備の売却は原則として譲渡所得になります。
    • 廃業後に生じた事業の費用・損失は、廃業年またはその前年の必要経費にでき、2か月以内に更正の請求ができます。
    • 借入れは個人に残るため、廃業を決めた段階で金融機関や支援機関に相談することが大切です。

    よくある質問

    Q. 廃業届はいつまでに出せばよいですか?

    所得税の「個人事業の開業・廃業等届出書」は、事業を廃止した日の属する年分の確定申告期限までに提出します(所得税法第229条)。ただし、給与支払事務所等の廃止の届出は1か月以内、消費税の事業廃止届出書は速やかに提出するなど、手続ごとに期限が異なるため注意が必要です。

    Q. 青色申告をしていた場合、何か手続が必要ですか?

    青色申告をやめる場合は、取りやめようとする年分の確定申告期限までに「青色申告の取りやめ届出書」を提出します。なお、業務の全部を廃止した場合は、廃止した年の翌年分以後、青色申告の承認は効力を失います。廃業した年の確定申告は、青色申告として行うことができます。

    Q. 売れ残った商品を家で使った場合も、税金がかかりますか?

    はい。棚卸資産を家事のために消費した場合は、その時の価額を事業所得の収入に計上します(所得税法第39条)。消費税の課税事業者であれば、消費税の課税対象にもなります。少額でも記録を残しておくことが大切です。

    Q. 廃業した後に、仕事で使っていた機械の修理代の請求が来ました。経費にできますか?

    事業を続けていれば必要経費になったはずの費用であれば、廃業した年分またはその前年分の必要経費に算入できます(所得税法第63条)。すでに確定申告を済ませている場合は、請求が確定した日の翌日から2か月以内に更正の請求ができます。

    Q. 借入金が残ったまま廃業できますか?

    廃業すること自体は可能ですが、借入金は個人の債務としてそのまま残ります。資産の売却などで返済しきれない見込みであれば、早めに金融機関と返済方法を協議し、必要に応じて経営安定特別相談室などの支援機関や弁護士への相談を検討してください。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け、次の世代へ引き継ぐための事業資金、民事信託(いわゆる家族信託)、遺言、契約、金融機関対応などを確認します。
    • 税務顧問と経営管理:税務申告・会計・納税予測・資金繰りをつなげて、経営の判断を支援します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍・その他資料

    • 中小企業庁『中小M&Aガイドライン(第3版)』参考資料8「円滑な廃業を支援する施策」、p.1-2
    • 『税理士のための 所得税重要ポイント実務ガイド 〜令和2年3月申告用〜』天池&パートナーズ税理士事務所 編、税務研究会出版局、P.49
  • 農業経営を子に引き継ぐときの準備|農地等の納税猶予(贈与税・相続税)の使い方と打切り、施設の敷地、法人化との比較

    農業経営を子に引き継ぐときの準備|農地等の納税猶予(贈与税・相続税)の使い方と打切り、施設の敷地、法人化との比較

    農業経営を子に引き継ぐときは、「農地をどう渡すか」と「農業経営そのもの(施設・機械・販路・人)をどう渡すか」を一緒に設計することが大切です。

    農地については、後継者が農業を続けることを条件に、贈与税や相続税の納税を猶予する制度があります。親が元気なうちに農地をまとめて後継者に贈与する「生前一括贈与」の納税猶予と、相続のときに使う相続税の納税猶予の2つです。どちらも負担を大きく抑えられる可能性がある一方、農業をやめたり農地を手放したりすると猶予が打ち切られ、利子税とあわせて納税が必要になるという性格を持っています。

    この記事では、2つの納税猶予の違いと打切りの仕組み、倉庫や直売所など農地以外の敷地の扱い、法人化との比較を、農業経営の承継という視点から整理します。相続した農地や生産緑地を「続ける・貸す・転用する」の観点から比べたい場合は、関連記事「相続した農地・生産緑地をどうするか」もあわせてご覧ください。

    農業経営の承継で引き継ぐもの

    農業経営は、多くの場合、個人事業として営まれています。経営者個人が農地や施設を所有し、自分の名前で販売先と取引しているため、承継では資産と契約を一つずつ後継者に移す必要があります。

    引き継ぐもの主な内容相続税での主な扱い・確認点
    農地・採草放牧地田、畑、果樹園など一定の要件のもとで農地等の納税猶予の対象
    温室などの敷地耕作に使われている温室等の敷地農地に当たる場合は納税猶予の対象となり得る
    倉庫・作業場の敷地農機具置き場や農作業用の建物の敷地(宅地)小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)の対象となり得る
    直売所・加工施設などの敷地生産緑地内に許可を得て設けた施設など農地として扱われるか、個別の確認が必要
    機械・設備トラクター、乾燥機、ハウス設備など通常の評価。事業用資産としての承継も検討
    販路・契約・ノウハウ出荷先、農協との取引、栽培技術、地域との関係税務上の評価とは別に、計画的な引継ぎが必要

    税金の制度は「どの土地が、何の用途に使われているか」で分かれます。承継の準備は、まず土地ごとの用途と所在地(市街化区域かどうか、生産緑地かどうか)を一覧にすることから始まります。

    2つの納税猶予:生前一括贈与と相続

    農地等の納税猶予には、贈与税の制度(租税特別措置法第70条の4)と相続税の制度(同法第70条の6)があります。国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)をもとに、主な違いを整理すると次のとおりです。

    比較の視点贈与税の納税猶予(生前一括贈与)相続税の納税猶予
    使う場面親が農業を営んでいる間に、後継者へ農地を贈与する農業を営んでいた親から、相続・遺贈で農地を取得する
    渡し方農業に使っている農地の全部(採草放牧地・準農地は一定部分)を、推定相続人の1人にまとめて贈与相続人のうち、要件を満たす「農業相続人」が取得する
    猶予される税額贈与を受けた農地等に係る贈与税農地等の価額のうち、農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税
    免除される主な場面贈与者または受贈者の死亡農業相続人の死亡など
    その後贈与者が死亡すると、農地は相続で取得したものとみなされ相続税の対象に。要件を満たせば相続税の納税猶予に切り替えられる猶予期間中は農業の継続と届出が必要

    生前一括贈与は、親が元気なうちに経営の主導権と農地を後継者に移せるのが特徴です。ただし、農地の全部をまとめて1人に贈与することが前提のため、一部の農地だけを先に渡すことはできません。また、相続時精算課税を選んで贈与を受けた農地は、この納税猶予の対象になりません。

    相続税の納税猶予は、相続の時点で農業を引き継ぐ相続人が農業を続ける場合に使います。農業投資価格は、農地として利用する前提の価格として国税局が定めるもので、国税庁の「財産評価基準書」で確認できます。

    相続税の納税猶予で確認したい主な要件

    • 農業相続人であること:民法上の相続人で、一定の要件を満たすことについて農業委員会の証明を受けた者に限られます。国税庁の質疑応答事例では、包括遺贈を受けた孫は相続人ではないため対象にならないとされています。
    • 申告期限までに分割されていること:申告期限までに遺産分割が終わっていない農地は、原則として対象になりません。
    • 担保を提供すること:猶予を受ける税額に相当する担保が必要です。
    • 対象となる農地であること:市街化区域内の一部の農地(特定市街化区域農地等)は対象外とされるなど、所在地によって扱いが異なります。

    猶予が打ち切られる場面

    納税猶予は「農業を続ける限り」の制度です。次のような場合には、猶予されていた税額の全部または一部について期限が確定し、利子税とあわせて納付が必要になります(租税特別措置法第70条の6第1項・第7項ほか)。

    • 譲渡・転用・貸付け・耕作放棄など:特例を受けた農地について、これらの合計面積が20%を超えると、原則として猶予税額の全部が打ち切られます。20%以下の場合は、その部分に対応する税額が打ち切られます。
    • 農業経営の廃止:特例を受けた農地に係る農業経営をやめた場合です。
    • 継続届出書の未提出:相続税の申告期限の翌日から3年を経過するごとに、農業経営を続けている旨の届出書を税務署長に提出する必要があります(同条第32項)。この届出書には農業委員会の証明を添付するのが通例で、提出がないと猶予が打ち切られることがあります。

    一方で、すべての転用や貸付けが打切りの対象になるわけではありません。たとえば、その農業に係る事務所、作業場、倉庫などの施設の敷地にするための転用は、打切りの対象となる転用から除かれています(租税特別措置法施行令第40条の7)。また、病気などで営農が難しくなった場合の一定の貸付け(営農困難時貸付け)や、農地中間管理事業などによる一定の貸付け(特定貸付け)は、届出などを条件に猶予を続けられる仕組みがあります。

    猶予が免除されるのは原則として農業相続人の死亡時ですが、市街化区域内の一定の農地については、申告期限の翌日から20年を経過した日に免除される場合もあります。いずれにしても、猶予を受けた後継者には、長い期間にわたって農業を続け、手続を欠かさない覚悟が求められることを、家族で共有しておくことが大切です。

    農地以外の敷地をどう扱うか

    倉庫・作業場の敷地は小規模宅地等の特例を検討

    国税庁のタックスアンサー(小規模宅地等の特例のQ&A)では、農機具の収納や農作業を行うための建物の敷地は、他の要件を満たす限り、特例の対象となる事業用の宅地等に当たるとされています。特定事業用宅地等に当たれば、400㎡まで評価額を80%減額できます。一方、耕作に使われている温室などの敷地は農地に当たり、こちらは農地等の納税猶予の対象となり得るとされています。

    土地ごとに「宅地か、農地か」を確認し、使える特例を取り違えないようにすることが大切です。小規模宅地等の特例は、どの相続人が取得するかで適用が変わるため、関連記事「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」もあわせて確認してください。

    直売所・農家レストランを設ける場合

    生産緑地の中には、市町村長の許可を受けて、その地域で生産された農産物を使う製造・加工施設、販売施設、料理を提供する施設を設けられる仕組みがあります(生産緑地法第8条第2項)。農業の6次産業化として後継者が取り組む例もありますが、施設の敷地がそのまま納税猶予の対象である「農地」として扱われるかどうかは、土地の状況や用途地域によって判断が分かれ得ます。猶予を受けている農地や、これから猶予を受けたい農地に施設を設ける場合は、着手前に税務署や農業委員会への確認が欠かせません。

    法人化との比較

    農業経営を法人化して、法人ごと後継者に引き継ぐ方法もあります。法人化には、経営と家計の分離、雇用の確保、取引上の信用といった利点があります。一方、農地を法人に移す場合は、農地法上の要件を満たす法人(農地所有適格法人)であることが必要です。

    納税猶予との関係では、国税庁の質疑応答事例で、特例を受けた農地を農地所有適格法人に出資した場合は打切りの計算から除外される扱いがある一方、貸し付けた場合や譲渡した場合にはその扱いがないとされています。猶予を受けている途中で法人化する場合は、移し方によって打切りの有無が変わるため、慎重な確認が必要です。

    個人の事業用資産全般を対象とした個人版事業承継税制の考え方は、関連記事「個人版事業承継税制で個人事業を引き継ぐ」で解説しています。

    準備の進め方

    1. 土地の一覧をつくる:所在地、地目、現況の用途、市街化区域・生産緑地の別、納税猶予の適用状況
    2. 後継者の意思と経営の形を確認する:農業を一生の仕事として続けるのか、規模を広げるのか、法人化するのか
    3. 生前一括贈与か相続かを比べる:親の年齢と健康状態、経営の主導権を移す時期、他の家族への配分
    4. 農地以外の財産と家族への配分を考える:自宅、金融資産、施設の敷地。後継者以外の子への配慮
    5. 遺言で農地の行き先を確定させる:申告期限までの分割が要件となるため、遺言の有無は特例の使いやすさに直結します

    実務上注意したいポイント

    • 猶予は「免除」ではない:免除までの期間が長く、途中で事情が変われば打切りになり得ます。
    • 既に猶予を受けている農地の扱い:親が過去に相続税の納税猶予を受けている場合、その農地を後継者に贈与・貸付けすると、親の猶予にも影響します。現状の確認が先です。
    • 農業委員会との関係:要件の証明や継続届出の証明など、農業委員会の手続が随所に関わります。
    • 個別事情で結論が変わる:特例の適用可否や税額は、土地の所在と用途、家族の状況によって異なります。

    AEGISの視点

    農業の承継では、納税猶予の制度をどう使うかに目が向きがちです。しかしAEGISは、まず「後継者が、この先何十年、どのような農業経営をしたいのか」を家族で言葉にすることが出発点だと考えています。

    納税猶予は、農業を続ける後継者にとって大きな支えになる一方、使えば長い期間にわたって農地の利用と手続が縛られます。後継者が規模拡大や6次産業化、法人化を構想しているなら、その計画と猶予の要件がぶつからないかを先に確認しておく必要があります。反対に、将来は農地を手放す可能性があるなら、猶予を受けないという判断もあり得ます。

    また、農家の財産は、農地・宅地・自宅が一体になっていることが多く、後継者に農地を集めると、他の子との配分が難しくなります。農業経営の承継は、家族全体の財産承継の中に位置付けて考えることが大切です。事業承継の全体像は、Pillar記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    承継に関わる資産構造や評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 農業経営の承継では、農地と経営(施設・機械・販路・人)を一緒に設計します。
    • 農地等には、生前一括贈与の贈与税の納税猶予と、相続税の納税猶予があります。
    • 譲渡・転用・貸付け・耕作放棄が20%を超える、農業経営を廃止する、3年ごとの継続届出を出さないといった場合には、猶予が打ち切られることがあります。
    • 倉庫・作業場の敷地は小規模宅地等の特例、温室の敷地は納税猶予というように、土地の用途で使える特例が異なります。
    • 法人化や直売所の設置は、猶予との関係を事前に確認したうえで進めることが大切です。

    よくある質問

    Q. 農地の一部だけを先に子へ贈与して、納税猶予を受けることはできますか?

    贈与税の納税猶予(生前一括贈与)は、農業に使っている農地の全部(採草放牧地・準農地は一定部分)を推定相続人の1人に贈与することが前提です。一部の農地だけを贈与した場合は、この特例の対象になりません。

    Q. 孫に農業を継がせたい場合、相続税の納税猶予は使えますか?

    相続税の納税猶予を受けられる農業相続人は、民法上の相続人に限られます。国税庁の質疑応答事例でも、相続人でない孫が包括遺贈で農地を取得した場合は対象にならないとされています。孫を後継者とする場合は、生前の贈与や養子縁組の有無など、別の方法を含めて検討が必要です。

    Q. 納税猶予を受けた農地に、農機具を入れる倉庫を建ててもよいですか?

    その農業に係る事務所、作業場、倉庫などの施設の敷地にするための転用は、打切りの対象となる転用から除かれています。ただし、建物の用途や規模、手続によって判断が分かれることもあるため、着手前に確認することをおすすめします。

    Q. 親が病気で農作業ができなくなったら、納税猶予は打ち切られますか?

    農業経営を廃止したと判断されると打ち切られますが、営農が困難になった場合の一定の貸付けや、農地中間管理事業などによる一定の貸付けについては、届出などを条件に猶予を続けられる仕組みがあります。後継者への生前一括贈与を含め、状況に応じて選択肢を比べます。

    Q. 納税猶予が打ち切られると、どのくらいの負担になりますか?

    打ち切られた部分の猶予税額に加えて、猶予期間に応じた利子税を納める必要があります。猶予期間が長いほど負担は大きくなりやすいため、将来の土地利用の見通しを踏まえて、猶予を受けるかどうか自体を判断することが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け、次の世代へ引き継ぐための事業資金、民事信託(いわゆる家族信託)、遺言、契約、金融機関対応などを確認します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入れ・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.845-872
  • 役員借入金が多い会社の事業承継|社長の貸付金は相続でどう扱われ、承継前に何を整理すべきか

    役員借入金が多い会社の事業承継|社長の貸付金は相続でどう扱われ、承継前に何を整理すべきか

    会社の貸借対照表に「役員借入金」が大きく計上されている会社は少なくありません。創業期や業績が厳しい時期に社長が個人資金を会社に入れた、役員報酬を未払いのまま会社に残した——理由はさまざまですが、事業承継の場面では、この役員借入金が見落とされやすい論点になります。

    結論からいうと、社長が会社に貸しているお金は、社長個人から見れば「会社に対する貸付金債権」という財産です。相続が起きれば相続財産となり、原則として返済されるべき金額(元本)で評価されます。会社に返済する余力がなくても、それだけで評価が下がるわけではありません。

    そのため、役員借入金が多い会社では、承継の前に「返してもらうのか、誰に引き継ぐのか、消してしまうのか」を決めておくことが重要です。この記事では、相続での扱いと、整理の方法ごとの課税の違い、判断の進め方を整理します。

    役員借入金は「会社の負債」であり「社長の財産」でもある

    役員借入金は、同じ一つの貸し借りを、二つの側から見たものです。

    • 会社から見ると:社長に返さなければならない負債(役員借入金)
    • 社長から見ると:会社から返してもらえる財産(貸付金債権)

    承継の場面では、この二面性がそれぞれ別の問題を生みます。社長個人の側では相続財産として相続税の課税対象になり、会社の側では、後継者が経営する会社が先代の相続人に返済義務を負い続けることになります。

    中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、承継に向けた現状把握の項目として、経営者と会社の間の貸借関係を含め、会社と個人の関係を明確にすることが挙げられています。会社とオーナーの資金のやり取り全般の整理については、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で扱っています。本記事では、承継時の処理に絞って考えます。

    相続ではどう評価されるか

    原則は「返済されるべき金額」

    財産評価基本通達では、貸付金や未収入金などの「貸付金債権等」は、元本の価額(返済されるべき金額)と、課税時期までの既経過利息の合計額で評価するとされています(評価通達204)。役員借入金は無利息であることが多いため、実際には帳簿上の残高がそのまま相続財産の価額になるのが通常です。

    回収不能として除外できる場面は限られる

    評価通達205では、債務者について破産手続や民事再生、会社更生、特別清算の開始があった場合、手形交換所等の取引停止処分を受けた場合、事業を廃止したり6か月以上休業したりしている場合など、回収が不可能または著しく困難と見込まれる一定の場合に、その部分を元本の価額に算入しないとしています。

    裏を返せば、会社が赤字である、債務超過であるといった事情だけで、貸付金の評価を下げられるわけではありません。事業を続けている会社に対する役員借入金は、会社に返済余力がなくても額面で相続財産になると考えておく必要があります。

    相続人の側で起きること

    役員借入金が相続財産になると、次のような問題が生じやすくなります。

    • 納税資金の不足:貸付金債権は相続税の課税対象になりますが、すぐに現金化できるとは限りません。
    • 後継者以外の相続人が債権を取得した場合:後継者でない家族が会社に返済を求めることができる立場になり、会社の資金繰りや家族関係に影響します。
    • 遺産分割の難しさ:額面どおりに評価される一方で、実際に回収できるかは会社次第という財産は、家族の間で分け方の合意が得にくくなります。

    相続税の申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。役員借入金が大きい場合は、この期限までの資金の見通しも含めて考える必要があります。

    承継前に検討したい整理の方法

    役員借入金の整理には、いくつかの方法があります。それぞれ、社長個人・会社・他の株主に生じる課税関係が異なります。

    整理の方法社長個人の財産会社への影響主な注意点
    返済を受ける貸付金が現金に変わる(財産額は変わらない)資金が流出する会社の資金繰り、返済原資の確保
    後継者へ贈与する贈与した分だけ財産が減る債権者が後継者に替わる後継者に贈与税、他の家族との公平
    債権放棄(債務免除)する放棄した分だけ財産が減る債務免除益が生じる法人税の課税、株価上昇によるみなし贈与
    DES(債権の株式化)を行う貸付金が株式に変わる負債が資本に変わる債権の時価評価、株式評価への影響
    役員退職金と組み合わせる退職金で清算・充当退職金の損金算入の検討支給額の妥当性、退任の実態
    遺言で行き先を決める相続時に後継者等へ債権者が後継者に替わる相続税は課税される、遺留分

    以下、主な論点を見ていきます。

    返済を受ける

    最も単純なのは、会社の資金で計画的に返済してもらう方法です。ただし、返済を受けても社長個人の財産は「貸付金」から「現金」に変わるだけで、相続財産の総額は減りません。その一方で、現金は納税資金や他の家族への配分に充てやすくなるため、財産の「形」を整える意味があります。会社の資金繰りに無理のない範囲で、返済計画を立てることが前提です。

    後継者へ贈与する

    貸付金債権を、生前に後継者へ贈与する方法です。債権者が後継者に替われば、将来、後継者が経営する会社が他の家族から返済を求められる事態は避けられます。一方で、後継者には贈与税がかかります。暦年課税と相続時精算課税のどちらを使うかによって負担や相続時の扱いが異なるため、関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」もあわせて検討するとよいでしょう。

    債権放棄(債務免除)する

    社長が会社に対する債権を放棄すると、社長個人の財産はその分減ります。しかし、会社の側では債務が消える分だけ債務免除益が生じ、法人税の課税対象(益金)になります(法人税法22条2項)。繰越欠損金があれば相殺できる場合もありますが、欠損金の範囲を超える放棄は会社に税負担を生じさせます。

    さらに注意したいのが、他の株主へのみなし贈与です。相続税法9条(みなし贈与)の取扱いを定めた相続税法基本通達9-2では、同族会社が対価を受けずに債務の免除を受けたことにより、その会社の株式の価額が増加した場合には、株主が、その増加した部分に相当する金額を、債務の免除をした者から贈与によって取得したものとして取り扱うとされています。社長以外の家族が株主になっている会社では、債権放棄が家族への贈与として課税される可能性があるということです。

    なお、会社が法的な整理手続に入ったり、債権者集会の協議などで再建のために負債整理に入ったりするなど、資力を喪失した場合には、債務超過額に相当する部分は贈与として扱わないとされています(同通達9-3)。ただし、単に一時的に債務超過となっているだけの場合はこれに当たらないとされています。

    DES(債権の株式化)を行う

    DES(デット・エクイティ・スワップ)は、社長の貸付金を会社に現物出資し、株式に置き換える方法です。負債が資本に変わるため会社の財務内容は改善しますが、税務上は、出資された債権を時価で評価する必要があります。会社が実質的に債務超過であれば債権の時価は額面を下回り、その差額が会社の債務消滅益として課税される可能性があります。

    また、社長個人の財産は「貸付金」から「自社株式」に変わるため、相続時には自社株式の評価の問題になります。専門書籍では、DESの実行から相続までの期間が短い場合に、株式の評価方法について課税当局から指摘を受けた事例も紹介されています。承継直前の駆け込みではなく、時間的な余裕をもって検討すべき方法といえます。

    役員退職金と組み合わせる

    先代が退任する際に支給する役員退職金を、役員借入金の返済と組み合わせて整理する考え方もあります。退職金の支給額や時期の考え方は、関連記事「役員退職金はいつ・いくら支給するか」で整理しています。

    M&Aで第三者に承継する場合

    第三者への株式譲渡では、役員借入金はクロージング時に全額精算されるのが一般的です。専門書籍でも、譲渡契約で貸借関係を特定し、完済を実行の条件として明記する実務が紹介されています。会社に返済原資がない場合は、買い手が資金を手当てすることもあります。

    借入金を放棄してその分を株式の譲渡価格に上乗せする方法も考えられますが、売り手にとっては、本来は課税されない貸付金の回収が、課税対象となる株式の譲渡代金に置き換わることになり、会社の側にも債務免除益が生じます。一般には選択しにくい方法とされています。

    実務上注意したいポイント

    • まず残高の内訳を確認する:いつ、何のために生じた借入金か、未払の役員報酬が含まれていないかを確認します。契約書や議事録がない場合は、この機会に整えます。
    • 会社に返済する力があるかを見極める:返済計画が現実的でなければ、贈与・DES・放棄などとの組み合わせを検討します。
    • 株主構成を確認してから放棄を検討する:社長以外の株主がいる会社では、債権放棄が株主へのみなし贈与になる可能性があります。
    • 反対方向の貸し借りも確認する:会社から社長への貸付金(役員貸付金)がある場合は、相殺の可否や利息の扱いも含めて整理します。
    • 遺言で行き先を決めておく:整理が間に合わない場合でも、遺言で後継者に債権を取得させておけば、他の家族が会社の債権者になる事態を避けられます。

    AEGISの視点

    役員借入金は、多くの場合、オーナーが会社を支えてきた歴史そのものです。苦しい時期に個人の資金を入れ、報酬を後回しにしてきた結果として残っているものだからこそ、オーナー自身が「いずれ返してもらう財産」とは意識していないこともあります。

    しかし承継の場面では、この「意識されていない財産」が、相続税の課税対象になり、場合によっては家族と会社の間の債権債務として残ります。AEGISは、役員借入金を単なる会計上の残高ではなく、事業承継計画の「財産」と「家族」の両方にまたがる論点として扱うべきだと考えています。

    整理の方法に唯一の正解はありません。会社の資金繰り、株主構成、後継者と他の家族への配分、オーナー自身の老後資金——これらを並べて、返済・贈与・放棄・株式化・退職金のどれを、いつ、どの程度組み合わせるかを決めることが大切です。一度に解決しようとせず、数年単位の計画として進めることで、会社にも家族にも無理のない形を選びやすくなります。事業承継計画の中での位置づけは、関連記事「事業承継計画に含める項目とは」も参考になります。

    事業承継の全体像は「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    自社株の評価や承継時の資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 役員借入金は、社長個人から見れば会社に対する貸付金債権であり、相続財産になります。
    • 相続税の評価は、原則として返済されるべき金額(元本)と既経過利息の合計で、会社の業績が悪いだけでは評価は下がりません。
    • 整理の方法には、返済・贈与・債権放棄・DES・役員退職金との組み合わせ・遺言などがあり、それぞれ課税関係が異なります。
    • 債権放棄は会社に債務免除益を生じさせ、同族会社では他の株主へのみなし贈与となる可能性があります。
    • どの方法が適するかは、会社の資金繰りや株主構成、家族の状況によって異なるため、時間をかけて計画的に整理することが大切です。

    よくある質問

    Q. 会社が債務超過なら、役員借入金はゼロ評価にできますか?

    原則としてできません。財産評価基本通達で元本に算入しないとされているのは、破産や民事再生などの法的手続の開始、事業の廃止や長期の休業など、回収が不可能または著しく困難と見込まれる一定の場合に限られます。事業を継続している会社が債務超過というだけでは、通常はこれに当たらないと考えられます。

    Q. 役員借入金を放棄すれば、相続税は減りますか?

    社長個人の財産は放棄した分だけ減ります。ただし、会社には債務免除益が生じて法人税の課税対象となり、同族会社で株式の価額が増加した場合には、他の株主がその増加分を社長から贈与により取得したものとして扱われる可能性があります。会社と株主を含めた全体の負担で判断することが必要です。

    Q. 未払いの役員報酬が役員借入金になっている場合も同じですか?

    未払の報酬を会社に貸し付けた形で残している場合も、社長個人から見れば会社に対する債権として財産になります。未払の報酬にどのような所得税の課税関係が生じているかも含め、残高の成り立ちを確認したうえで整理方法を検討します。

    Q. 後継者に役員借入金を引き継がせる一番簡単な方法は何ですか?

    遺言で貸付金債権を後継者に取得させる方法は、手続き上は比較的簡単です。ただし相続税は課税されますし、他の相続人の遺留分にも配慮が必要です。生前に贈与する方法や、計画的な返済と組み合わせる方法と比べて検討するとよいでしょう。

    Q. 役員借入金は事業承継税制の対象になりますか?

    法人版事業承継税制の対象は、一定の要件を満たす非上場株式等です。役員借入金(貸付金債権)はその対象ではありません。DESによって株式に置き換えた場合の扱いは、制度の要件との関係で個別に確認が必要です。

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    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『Q&A 非上場株式の評価と戦略的活用スキーム』伊藤俊一 著、ロギカ書房、P.68-72、P.141
    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、P.159、P.187-188
  • 財団に土地や株式を寄附したときの譲渡所得の非課税|措置法40条の承認要件・申請期限・承認後の管理

    財団に土地や株式を寄附したときの譲渡所得の非課税|措置法40条の承認要件・申請期限・承認後の管理

    個人が土地・建物・株式などを法人に寄附すると、お金を受け取っていなくても、寄附した時の時価で売ったものとみなして所得税(譲渡所得)が課税されるのが原則です。これを「みなし譲渡」といいます。

    この課税を受けないための制度が、租税特別措置法(措置法)40条です。国や地方公共団体への寄附は手続なしで非課税になりますが、公益財団法人などの公益法人等への寄附は、国税庁長官の承認を受けて初めて非課税になります。承認は、寄附の日から原則4か月以内に申請しなければならず、承認を受けた後も、寄附した財産が公益目的事業に使われ続けることが求められます。

    この記事では、措置法40条の承認制度に絞って、要件・申請期限・承認後の管理・取消しと課税・買換えの扱いを整理します。

    なぜ寄附した人に税金がかかるのか

    所得税法59条は、個人が法人に財産を贈与・遺贈した場合、その時の価額で譲渡があったものとみなすと定めています。長年保有して値上がりした土地や、創業時から持っている自社株を寄附すると、取得した時から寄附した時までの値上がり益に課税されることになります。

    寄附をする人から見ると、財産を手放したうえに税金を負担するという、直感に反する結果です。そこで措置法40条は、公益の増進に役立つ寄附について、一定の要件のもとでこの課税を行わないこととしています。

    寄附先譲渡所得の扱い手続
    国・地方公共団体課税されない(措置法40条1項前段)特に要件・手続なし
    公益法人等(公益社団・公益財団法人、特定一般法人、社会福祉法人・学校法人など公益を目的とする事業を行う法人、公益信託の受託者)国税庁長官の承認を受けた場合に課税されない(同項後段)承認申請が必要
    上記以外の法人(会社、非営利型でない一般社団・一般財団法人など)原則どおりみなし譲渡課税—

    ※AEGIS作成。対象法人の詳細は国税庁の手引き・通達で確認が必要です。

    なお、「特定一般法人」とは、非営利性が徹底された一般社団・一般財団法人(剰余金を分配しない旨や残余財産の帰属先の定款の定め、理事の親族等の割合が3分の1以下であることなどの要件を満たす法人)を指します。

    承認を受けるための基本的な要件

    措置法40条の承認を受けるには、政令で定める要件をすべて満たす必要があります(租税特別措置法施行令25条の17)。考え方としては次の3つです。

    1. 公益の増進に著しく寄与すること:寄附を受けた法人の公益目的事業が、その地域や分野で社会的に認識される程度の規模を持ち、受益が特定の人に偏らず、営利企業的に運営されていないことなどが判断材料とされています。
    2. 寄附から2年以内に公益目的事業の用に直接使われること:寄附した財産そのもの(一定の代替資産を含みます)が、寄附の日から2年を経過する日までに、受け取った法人の公益目的事業に直接使われる、または使われる見込みであることが必要です。建物の建設に通常2年を超えるなどやむを得ない事情があれば、国税庁長官が認める日まで延長されます。
    3. 寄附者や親族の税負担を不当に減少させないこと:寄附によって、寄附者の所得税や、親族などの相続税・贈与税が不当に軽くなる結果にならないことです。

    「直接使う」の意味に注意

    2の要件で誤解が多いのは、「直接」の意味です。国税庁の質疑応答事例では、次のような場合は公益目的事業の用に直接供されているとは認められないとされています。

    • 寄附を受けた土地を他の法人に無償で貸している場合
    • 寄附を受けた土地に建物を建てて第三者に貸し、賃料を奨学金に充てている場合
    • 配当が行われていない株式(無配株)を寄附した場合

    株式の寄附では、その配当を公益目的事業に充てることが前提になります。会社の配当方針が寄附の可否に直結するため、株式の寄附を検討する場合は、配当の見通しと財団の事業計画をあわせて確認する必要があります。

    「不当減少」にならないための条件

    国税庁の手引きでは、寄附者やその親族が法人を私的に支配していないことを前提に、次のような条件を満たせば不当減少に当たらないものとして扱うとされています。

    • 運営組織が適正で、定款等に役員等のうち親族等の割合を3分の1以下とする定めがあること
    • 寄附者や役員等、その親族等に特別の利益を与えないこと
    • 解散時の残余財産が国・地方公共団体や他の公益法人等に帰属する旨の定めがあること
    • 公益に反する事実がないこと
    • 株式の寄附の場合、寄附後に法人が保有するその会社の株式が発行済株式総数の2分の1を超えないこと

    最後の株式保有割合の条件は、自社株を財団に寄附する事業承継の設計で特に重要です。議決権のない株式も含めて判定される点に留意が必要です。

    一般特例と承認特例:2つのルート

    措置法40条の承認には、すべての公益法人等を対象とする「一般特例」と、一定の法人に限って手続を簡素化した「承認特例」があります。

    比較項目一般特例承認特例
    対象となる受け手公益法人等全般公益社団・公益財団法人、国立大学法人等、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人等、公益信託の受託者
    主な要件公益増進への著しい寄与、2年以内の直接使用、不当減少でないこと寄附者が受け手の役員等・社員やその親族等でないこと、寄附財産を一定の基金で管理するか、不可欠特定財産として定款に定めること など
    審査の期間個別に審査申請から1か月以内(株式等は原則3か月以内)に承認・不承認の決定がなければ、承認があったものとみなされる
    向いている場面寄附者自身が理事等として関わる財団への寄附など第三者として、既存の公益法人等に寄附する場合

    ※AEGIS作成。要件の詳細は租税特別措置法施行令25条の17と国税庁の手引きで確認が必要です。

    オーナーが自ら設立し理事を務める財団に寄附する場合、承認特例は使えず、一般特例で審査を受けることになるのが一般的です。一般特例は審査に時間を要することがあるため、寄附の実行時期と申請準備のスケジュールを逆算しておくことが大切です。

    申請期限:寄附から4か月以内が原則

    承認申請書は、寄附の日から4か月以内(その期間が経過する前に、寄附した年分の所得税の確定申告期限が到来する場合は、その期限まで)に、納税地の所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出します(租税特別措置法施行令25条の17第1項、国税庁タックスアンサーNo.3108)。

    申請書には、寄附を受ける法人が記載内容を確認したことを証する書類を添付します。法人側の協力が欠かせないため、寄附者だけで準備を進めることはできません。期限内に申請できなかった場合、国税庁長官がやむを得ない事情があると認めるなど限られた場合を除き、非課税の扱いは受けられません。

    年末に寄附をすると、翌年3月の確定申告期限が先に来るため、実質的な準備期間が短くなる点にも注意が必要です。

    承認後に求められる管理

    承認を受けて終わりではありません。措置法40条は、承認後に一定の事実が生じた場合、国税庁長官が承認を取り消すことができると定めています。

    取消しと課税の関係

    生じた事実課税される人根拠
    寄附から2年以内に公益目的事業に直接使われなかった寄附をした人(承認取消し時に寄附があったものとみなす)措置法40条2項
    いったん直接使った後、使わなくなった、など寄附を受けた公益法人等(法人を寄附者とみなして所得税を課税)措置法40条3項

    ※AEGIS作成。

    取消しによる課税は、寄附から何年も後に起こり得ます。寄附者側としては、財団の運営が寄附時の想定どおりに続くかどうかに、自らの税務リスクが一定期間結びついていることを理解しておく必要があります。

    財産を入れ替えたいとき:買換えの扱い

    寄附を受けた法人が、寄附財産を売却して別の資産に替えると、原則として「直接使わなくなった」ことになり得ます。措置法40条5項は、例外として次のような場合に承認を継続できる仕組みを設けています。

    • 公益目的事業に2年以上直接使ってきた財産を譲渡し、譲渡代金の全額で同種の資産や土地等(買換資産)を取得する場合で、譲渡の日の前日までに所定の書類を提出したとき(買換資産は、原則として譲渡の翌日から1年以内に公益目的事業に直接使うことが必要)
    • 一定の基金などで管理している寄附財産を譲渡し、代金の全額で取得した資産(特定買換資産)を同じ方法で管理し続ける場合で、同様に書類を提出したとき

    このほか、法人の合併や解散、公益認定の取消しなどの場面にも、承認を引き継ぐための手続が用意されています。いずれも「事前に書類を出す」ことが前提になっているため、財団の運営担当者が制度を理解していることが重要です。

    寄附金控除との関係

    公益法人等への寄附は、所得税の寄附金控除の対象となる場合があります。ただし、措置法40条の非課税の適用を受ける寄附について、寄附金控除の対象となる金額は寄附時の時価ではなく、その財産の取得価額とされています(国税庁 質疑応答事例「国等に対して相続財産を贈与し、相続税の非課税規定の適用を受けた場合」)。値上がり益に課税しない代わりに、控除額も取得価額にとどめるという関係です。

    寄附金控除と税額控除の選び方については、関連記事「寄附金控除と税額控除はどちらを選ぶか」で整理しています。

    AEGISの視点

    措置法40条は、「寄附した人に課税しない」ための制度ですが、その要件の多くは寄附を受ける側の法人の姿を問うものです。役員構成、定款、事業の実態、財産の使い方、さらに株式の保有割合まで、受け手の法人がどう設計され、どう運営されるかが、寄附者の税負担を左右します。

    AEGISは、措置法40条の承認を「寄附の手続」ではなく、寄附者と法人が長期にわたって共有する約束として捉えています。とくに自社株を財団に寄附する場合、配当方針、議決権の行使、財団の事業計画、理事の構成は一つにつながっています。承認後に配当が途絶えたり、財団の事業が縮小したりすれば、取消しのリスクが現実味を帯びます。寄附の前に、会社と財団の両方の将来像を描いておくことが、制度を使う前提になると考えています。

    非上場株式の寄附で事前に決めておきたい事項は親記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で、財団全体の設計は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。相続で受け取った財産を寄附する場合の相続税の扱いは「相続した財産を寄附したときの相続税の非課税」で扱っています。

    資産税務や財団に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人が土地・株式などを法人に寄附すると、時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税が課税されるのが原則です(所得税法59条)。
    • 国・地方公共団体への寄附は手続なしで非課税、公益法人等への寄附は国税庁長官の承認を受けた場合に非課税になります(措置法40条)。
    • 承認には、公益増進への著しい寄与、2年以内の直接使用、税負担の不当減少がないことが必要です。株式の場合は保有割合2分の1以下などの条件にも注意します。
    • 申請は寄附の日から4か月以内(確定申告期限が先に来る場合はその期限)が原則です。
    • 承認後も、使わなくなった場合などには承認が取り消され、寄附者または法人に課税されることがあります。財産の入れ替えには買換えの手続があります。
    • 具体的な適用可否は、受け手の法人の状況と寄附財産の内容によって異なります。

    よくある質問

    Q. 自分が理事長を務める財団に土地を寄附しても、非課税の承認は受けられますか?

    受けられる可能性はありますが、承認特例は使えず、一般特例の審査を受けることになるのが一般的です。その場合、役員等に占める親族等の割合が3分の1以下であること、寄附者や親族に特別の利益を与えないことなど、財団が私的に支配されていないことが確認されます。財団の役員構成や定款を寄附前に点検しておくことが大切です。

    Q. 寄附した土地を財団が駐車場として貸し、その収入を公益事業に使う場合はどうなりますか?

    国税庁の質疑応答事例では、寄附を受けた土地に建物を建てて第三者に貸し、賃料を奨学金に充てる場合は、公益目的事業の用に直接供されているとは認められないとされています。賃貸して収益を事業に充てる形は、原則として「直接使う」に当たらない点に注意が必要です。

    Q. 承認申請の期限は延ばせますか?

    原則として延長はできません。寄附の日から4か月以内(確定申告期限が先に来る場合はその期限)に、法人の確認書類を添付して提出する必要があります。期限後の提出が認められるのは、国税庁長官がやむを得ない事情があると認める場合など、限られた場面です。

    Q. 承認が取り消されると、誰に税金がかかりますか?

    取消しの理由によって異なります。寄附から2年以内に公益目的事業に直接使われなかった場合は寄附をした人に、いったん使った後に使わなくなった場合などは寄附を受けた法人に、所得税が課税されます。

    Q. 寄附した株式を財団が売却して別の株式に替えることはできますか?

    原則として、寄附財産を売却すると承認が取り消される可能性があります。ただし、一定の基金などで管理している財産を売却し、代金の全額で取得した資産を同じ方法で管理し続ける場合など、事前に書類を提出することで承認が継続する仕組みがあります。売却を予定する場合は、実行前に要件を確認する必要があります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和2年版 租税特別措置法第40条関係通達逐条解説』大野隆太 編、大蔵財務協会、参考1(国税庁「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」の記載のしかた(抜粋))P.317-340
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版、第3章 P.310-311
  • 寄附金控除と税額控除はどちらを選ぶか|認定NPO・公益法人への寄附で税負担の差を比べる考え方

    寄附金控除と税額控除はどちらを選ぶか|認定NPO・公益法人への寄附で税負担の差を比べる考え方

    認定NPO法人や、一定の要件を満たす公益社団法人・公益財団法人などに個人が寄附をした場合、所得税では「寄附金控除(所得控除)」と「税額控除」のどちらか有利な方を選ぶことができます。

    一般的には、所得税の税率が40%未満の方は税額控除の方が有利になりやすく、税率が45%の方は寄附金控除の方が有利になりやすいという目安があります。ただし、税額控除には「所得税額の25%」という上限があり、寄附額が大きい場合や、他の寄附と組み合わせる場合には結論が変わることがあります。

    この記事では、生前に個人として寄附をする場合を前提に、2つの制度の仕組みと比べ方、住民税やふるさと納税との違い、株式などの財産で寄附する場合の入口までを整理します。

    寄附金控除と税額控除の仕組み

    寄附金控除(所得控除)

    寄附金控除は、国や地方公共団体、公益社団法人・公益財団法人、認定NPO法人などに対する「特定寄附金」を支出したときに、所得から差し引く制度です。控除額は次のとおり計算します(国税庁タックスアンサーNo.1150)。

    • 控除額 =(その年の特定寄附金の合計額 と 総所得金額等の40% のいずれか低い金額)− 2,000円

    所得から差し引くため、実際に軽くなる税額は控除額 × その人に適用される所得税率になります。税率の高い人ほど効果が大きくなる仕組みです。

    税額控除

    税額控除は、計算した控除額を所得税額から直接差し引く制度です。対象となるのは、政治活動に関する寄附金、認定NPO法人等に対する寄附金、公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものに限られます。

    認定NPO法人等や、要件を満たす公益社団法人等への寄附の税額控除額は、基本的に次のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.1263、No.1266)。

    • 控除額 =(その年の対象寄附金の合計額 − 2,000円)× 40%
    • 対象寄附金の合計額は、総所得金額等の40%が限度
    • 控除額は、その年の所得税額の25%が限度(認定NPO法人等と公益社団法人等の税額控除を合わせて判定)

    税率に関係なく一律に40%が差し引かれるため、所得税率が40%未満の人にとっては、同じ寄附でも税額控除の方が負担の軽減額が大きくなります。

    2つの制度の比較

    項目寄附金控除(所得控除)税額控除
    対象特定寄附金全般(国・地方公共団体、公益法人等、認定NPO法人等など)政治活動に関する寄附金、認定NPO法人等への寄附金、要件を満たす公益社団法人等への寄附金など
    差し引く対象所得所得税額
    計算(寄附金 − 2,000円)を所得から控除(寄附金 − 2,000円)× 40%を税額から控除
    寄附金の上限総所得金額等の40%総所得金額等の40%
    控除額の上限—所得税額の25%
    効果が大きい人所得税率が高い人所得税率が40%未満の人、小口の寄附
    主な添付書類寄附先の受領証寄附先の受領証明書と、税額控除の対象法人であることの証明書類の写し

    ※2,000円や40%の上限は、他の寄附金控除・税額控除がある場合に調整されます。詳しい計算は国税庁の案内を確認してください。なお、税額控除の対象となる寄附金は「寄附金控除の適用を受けるものを除く」と定められており、同じ年に寄附金控除の対象とする寄附金と税額控除の対象とする寄附金が併存することも条文上想定されています(租税特別措置法第41条の18の3第1項)。

    どちらを選ぶと有利か:比べ方の考え方

    税率による分かれ目

    所得控除の効果は「寄附金 − 2,000円」に所得税率を掛けた金額、税額控除の効果は「寄附金 − 2,000円」に40%を掛けた金額です。したがって、単純化すると次のように比べられます。

    • 所得税率が5%〜33%の人:税額控除の方が有利になりやすい
    • 所得税率が40%の人:ほぼ同じ(復興特別所得税などを含めると細かな差が生じます)
    • 所得税率が45%の人:寄附金控除の方が有利になりやすい

    国税庁の税率表では、課税される所得金額が1,800万円以上4,000万円未満で40%、4,000万円以上で45%とされています(タックスアンサーNo.2260)。

    計算例で確かめる

    次の例は、仕組みを理解するための単純化した計算です(復興特別所得税・住民税は考慮せず、寄附金が総所得金額等の40%以内に収まり、他の寄附はないものとします)。

    前提寄附金控除の場合税額控除の場合有利な方
    課税所得1,000万円(税率33%)、寄附50万円49.8万円 × 33% = 約16.4万円の軽減49.8万円 × 40% = 約19.9万円の軽減(所得税額の25%以内)税額控除
    課税所得5,000万円(税率45%)、寄附500万円499.8万円 × 45% = 約224.9万円の軽減499.8万円 × 40% = 約199.9万円の軽減(所得税額の25%以内)寄附金控除

    ※実際の有利不利は、所得の構成や他の控除、寄附の時期と金額によって変わります。

    上限に当たるときは結論が変わる

    税率だけでは判断できないのが、上限に当たる場合です。

    • 所得税額の25%の上限:寄附額が所得税額に比べて大きいと、税額控除の効果は上限で頭打ちになります。たとえば所得税額が200万円の人は、税額控除で差し引けるのは50万円までです。
    • 総所得金額等の40%の上限:寄附金控除・税額控除のいずれも、対象となる寄附金の額は総所得金額等の40%が限度です。大口の寄附を1年に集中させると、上限を超えた部分は控除の対象になりません。

    大きな金額を寄附する場合は、寄附の年を分ける、寄附先の種類を組み合わせるといった工夫で、上限の中に収めることも検討に値します。

    税額控除を選ぶ前に確認したいこと

    寄附先が税額控除の対象か

    公益社団法人・公益財団法人であれば、どこへの寄附でも税額控除を選べるわけではありません。税額控除の対象となるのは、一定数以上の寄附者から寄附を受けているなど、広く市民から支援を受けていることの要件を満たし、所轄庁等の証明を受けた法人に限られます。寄附の前に、寄附先が税額控除の対象であるかを確認しておきましょう。

    必要な書類と確定申告

    税額控除を受けるには、寄附先から交付を受けた受領証明書に加え、その法人が税額控除の対象であることを所轄庁等が証明した書類の写しが必要になります。いずれの控除も、原則として確定申告で適用を受けます。給与所得者で普段は確定申告をしない方も、寄附の控除を受けるためには申告が必要です。

    住民税とふるさと納税との違い

    住民税は「自治体が指定した寄附」が中心

    ここまでの寄附金控除・税額控除は所得税の制度です。個人住民税では、所得から差し引く寄附金控除はなく、都道府県や市区町村が条例で指定した寄附金などについて、住民税額から一定割合を差し引く仕組みが設けられています。具体的には、対象となる寄附金(総所得金額等の30%が限度)のうち2,000円を超える部分について、道府県民税は4%、市町村民税は6%(指定都市に住所がある場合はそれぞれ2%、8%)を税額から差し引きます(地方税法第37条の2、第314条の7)。寄附先が住所地の自治体の条例で指定されているかどうかで、住民税の軽減の有無が変わります。

    ふるさと納税は「自治体への寄附」

    ふるさと納税は、都道府県や市区町村への寄附です。総務省の説明によれば、所得税の寄附金控除に加え、住民税の基本分と特例分の控除があり、一定の上限の範囲内であれば自己負担が2,000円となる仕組みになっています。確定申告が不要な給与所得者で寄附先が5団体以内の場合には、ワンストップ特例も使えます。

    一方、認定NPO法人や公益法人への寄附は、住民税の特例分のような仕組みがないため、ふるさと納税のように「自己負担2,000円」になるわけではありません。ふるさと納税は返礼品を含めた家計の判断、公益法人・NPOへの寄附は活動内容への共感と税負担の両面から考える判断と、性格が異なると考えるとよいでしょう。ふるさと納税の上限や制度の見直しについては、関連記事「ふるさと納税の見直しで変わったこと」で扱っています。

    株式や不動産で寄附する場合の入口

    ここまでは金銭による寄附を前提にしました。値上がりした株式や不動産で寄附をする場合は、別の論点が加わります。

    • みなし譲渡課税:個人が法人に財産を寄附すると、原則として時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税がかかります。
    • 非課税の特例:公益法人等への寄附で、国税庁長官の承認を受けるなど一定の要件を満たせば、この譲渡所得等を非課税とする特例があります(租税特別措置法第40条)。承認申請には期限があり、寄附後の財産の管理方法などにも要件があります。
    • 寄附金控除の対象額:非課税の特例の適用を受けた場合、寄附金控除や税額控除の対象となる寄附金の額からは、非課税とされた譲渡所得等の金額に相当する部分が除かれます(租税特別措置法第40条第21項)。

    財産による寄附は、寄附金控除・税額控除の選択とあわせて、譲渡所得の課税と非課税特例の適用可否を一体で検討する必要があります。非上場株式を財団に寄附する場合の確認点は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で解説しています。

    また、亡くなった後に遺言で財産を寄附する方法は、生前の寄附とは税制の扱いが異なります。関連記事「遺贈寄附とは何か、遺言で財産の一部を社会に遺す方法」をご覧ください。

    実務上注意したいポイント

    • 寄附の前に「控除の種類」を確認する:同じ「公益財団法人」でも、税額控除の対象かどうかは法人ごとに異なります。寄附先のWebサイトや問い合わせで確認しておきましょう。
    • 受領証は年ごとに整理する:控除は寄附を支払った年分で適用されます。年末の寄附は、受領証の日付と申告年分を確認しておくと安心です。
    • 大口の寄附は複数年で計画する:40%・25%の上限を踏まえ、1年に集中させるか分けるかを試算してから決めることが望まれます。
    • 個人で寄附するか、会社で寄附するかを分けて考える:会社が寄附をする場合は、法人税の損金算入の枠で考えることになり、個人の寄附金控除・税額控除とは仕組みが異なります。誰の名義で寄附するかは、目的と資金の出どころから整理しましょう。
    • 継続的な寄附は家計の計画に組み込む:税の軽減は寄附額の一部にとどまります。寄附は、税負担を減らす手段ではなく、手元資金の使い道の一つとして計画することが大切です。

    AEGISの視点

    寄附の税制は、「どちらの控除が得か」という比較で語られがちです。もちろん、同じ寄附でも選び方によって税負担が変わる以上、比較は欠かせません。しかしAEGISは、寄附の税制を「社会に届ける金額を、無理なく続けるための仕組み」として捉えています。

    高所得者や事業オーナーにとって、寄附は一度きりの行為ではなく、毎年の家計、会社の配当や役員報酬、将来の財団設立や遺贈寄附へとつながる長い取組みになり得ます。今年は金銭で認定NPO法人に寄附し、将来は株式の寄附や財団の設立を検討する、といった段階的な計画の中で、所得控除と税額控除の選択や、上限への収め方を考えることで、寄附はより持続的なものになります。

    寄附の税制を、所得税の申告という一年単位の視点だけでなく、資産と承継の全体像の中に位置付けること。それが、寄附を続ける人にとっての本当の「有利」につながるとAEGISは考えています。財団を通じた社会貢献の全体像は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    寄附や財団に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 認定NPO法人等や、要件を満たす公益社団法人等への寄附は、所得税で「寄附金控除(所得控除)」と「税額控除」のいずれか有利な方を選べます。
    • 寄附金控除は(寄附金 − 2,000円)を所得から、税額控除は(寄附金 − 2,000円)× 40%を税額から差し引きます。
    • 目安として、所得税率40%未満なら税額控除、45%なら寄附金控除が有利になりやすい一方、税額控除には所得税額の25%、寄附金には総所得金額等の40%の上限があります。
    • 住民税は自治体が条例で指定した寄附金などが対象で、ふるさと納税とは仕組みが異なります。
    • 株式や不動産による寄附は、みなし譲渡課税と非課税特例をあわせて検討が必要です。具体的な有利不利は、所得や寄附の状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. 公益財団法人への寄附なら、必ず税額控除を選べますか?

    選べるとは限りません。税額控除の対象となるのは、広く市民から寄附を受けていることなどの要件を満たし、所轄庁等の証明を受けた法人への寄附に限られます。対象でない公益法人への寄附は、寄附金控除(所得控除)の対象になります。寄附の前に寄附先に確認しておきましょう。

    Q. 所得税率が40%の場合は、どちらを選んでも同じですか?

    単純化するとほぼ同じになりますが、復興特別所得税、寄附によって課税所得が下の税率区分にかかるかどうか、税額控除の25%の上限などによって、細かな差が生じます。金額が大きい場合は、申告の前に両方の方法で試算して比べることをおすすめします。

    Q. 1年に大きな金額を寄附しても、全額が控除の対象になりますか?

    なりません。寄附金控除・税額控除のいずれも、対象となる寄附金はその年の総所得金額等の40%が限度です。さらに税額控除は、控除額が所得税額の25%までに制限されます。大口の寄附は、複数年に分けることも含めて計画するとよいでしょう。

    Q. ふるさと納税と同じように、自己負担2,000円で寄附できますか?

    認定NPO法人や公益法人への寄附は、ふるさと納税のような住民税の特例分の控除がないため、自己負担が2,000円になる仕組みではありません。税の軽減は、所得税の控除と、条例で指定されている場合の住民税の控除の範囲にとどまります。

    Q. 給与所得者でも、寄附の控除を受けるには確定申告が必要ですか?

    所得税の寄附金控除・税額控除は、原則として確定申告で適用を受けます。年末調整では適用されないため、給与所得者の方も、受領証明書などを添えて確定申告を行う必要があります。ふるさと納税のワンストップ特例は、自治体への寄附に限った仕組みです。

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    • 税務顧問と経営管理:税務申告・会計・納税予測・資金繰りをつなぎ、経営と家計の判断を支えます。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
  • 資産管理会社はいつ設立を検討すべきか|税率差だけで決めないための比較の軸

    資産管理会社はいつ設立を検討すべきか|税率差だけで決めないための比較の軸

    賃貸不動産からの収入が増えてくると、「そろそろ資産管理会社を作ったほうがよいのでは」と考えるオーナーは少なくありません。個人の所得税は累進課税であるため、収入が増えるほど税負担が重くなり、法人で受けたほうが有利に見える場面が出てくるからです。

    ただし、資産管理会社は一度作ると、その会社自体を管理し、いずれは次の世代に引き継ぐ必要がある「もう一つの財産」です。税率の差だけを見て設立すると、維持の手間や、不動産を移すときの税金、将来の株式の承継といった論点が後から表面化することがあります。

    結論から言えば、資産管理会社の設立を検討するタイミングは、「所得水準」「不動産の移し方」「家族と承継の見通し」の3つがそろって見えたときです。この記事では、設立の判断に必要な比較の軸を整理し、関連する論点への入口をまとめます。

    資産管理会社とは

    資産管理会社とは、一般に、オーナーやその家族が不動産や有価証券などの財産を保有・管理するために設立する会社をいいます。法律上の特別な会社形態があるわけではなく、多くは株式会社や合同会社として設立され、オーナー一族が株式(持分)を持ちます。

    不動産オーナーの場合、資産管理会社の関わり方には大きく次のような形があります。

    関わり方不動産の所有者会社が受け取る収入特徴
    管理を受託する個人のまま管理料移転の負担は小さいが、会社に移る収入は管理業務の対価の範囲に限られる
    一括で借り上げて転貸する個人のまま転貸による家賃差額収入の一部を会社に移せるが、賃料設定の合理性が問われる
    建物を会社が所有する土地は個人、建物は会社など家賃収入収入の大部分が会社に入るが、建物の移転時の税金や、土地の貸し借りの整理が必要
    土地・建物とも会社が所有する会社家賃収入移転時の負担が大きく、資金調達の検討も必要
    新たに取得する不動産から会社で買う会社家賃収入既存物件を動かさずに始められる

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。実際にどの形が適しているかは、物件の状況や家族構成によって異なります。

    どの形をとるかによって、会社に入る収入の大きさも、最初にかかる費用も、将来の承継の形も変わります。「資産管理会社を作るかどうか」は、実は「どの形で、どこまで法人に移すか」という問いと一体です。

    なぜ資産管理会社が検討されるのか

    資産管理会社が検討される主な理由は、次の3つに整理できます。

    1. 個人と法人の税率構造の違い

    個人の所得税は超過累進税率で、国税庁によれば税率は5%から45%までの7段階に分かれ、課税所得金額が4,000万円以上の部分には45%が適用されます(令和8年4月1日現在法令等)。これに住民税(所得割は原則10%)が加わります。

    一方、法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人であれば年800万円以下の所得部分に15%の軽減税率があり(所得が年10億円を超える事業年度は17%)、それ以外の部分は23.2%とされています(国税庁、令和7年4月1日現在法令等)。実際の負担は、法人住民税や法人事業税なども含めて考える必要があります。

    このため、不動産所得が大きいオーナーほど、収入を法人で受けることで、個人の高い税率が適用される部分を減らせる可能性があります。

    2. 家族への所得の分配

    法人で収入を受けると、実際に業務に従事している家族に、その職務に見合った役員報酬や給与を支払うことができます。所得が一人に集中しないことで、家族全体としての税負担や、将来の納税資金の準備に違いが生じます。ただし、報酬や給与は実際の職務内容に見合っていることが前提です。

    3. 個人に財産が積み上がるスピードの調整

    不動産を個人で持ち続けると、毎年の手取り収入がオーナー個人の財産として積み上がり、将来の相続財産を増やします。法人で受ける形にすると、収入の一部は会社に蓄積され、オーナー個人の財産の増え方が変わります。ただし、会社に蓄積された財産は、オーナーが保有する株式の評価に反映されるため、「相続税の対象から外れる」わけではない点に注意が必要です。

    設立の判断で比較すべき5つの軸

    資産管理会社の設立は、税率の比較だけでは判断できません。AEGISでは、次の5つの軸で比較することをおすすめしています。

    比較の軸確認すること見落としやすい点
    ① 所得と税負担不動産所得の水準、他の所得との合計、今後の見通し借入金の返済が進むと、所得と手元資金の関係が変わる
    ② 設立・維持の負担設立費用、税理士報酬、法人住民税の均等割、記帳・決算の手間赤字でも毎年かかる費用がある
    ③ 不動産の移し方管理委託・転貸・建物移転・新規取得のどれを選ぶか移転時に譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税などがかかり得る
    ④ 資金の流れ会社と個人の間の貸し借り、役員報酬、配当の設計会社のお金と個人のお金の境界が曖昧になりやすい
    ⑤ 会社の承継株主構成、議決権、株式の評価、後継者会社が「承継しにくい財産」になることがある

    以下、それぞれの軸について見ていきます。

    ① 所得と税負担:一時点ではなく「今後10年」で見る

    設立の判断でまず確認するのは、不動産所得の水準と、給与所得や事業所得など他の所得との合計です。累進税率のどの段階に該当しているかによって、法人で受けることの効果は大きく異なります。

    ここで注意したいのは、判断を一時点の所得で行わないことです。借入金で取得した物件は、当初は減価償却費や支払利息が大きく所得が小さく見えても、年数の経過とともに所得が増えていくことがあります。反対に、大規模修繕や建替えの時期には支出が増えます。今後10年程度の収支の見通しの中で、どの時期に法人化の効果が大きくなるかを見ることが大切です。

    ② 設立・維持の負担:毎年かかるコストを見込む

    法人を設立すると、設立時の登記費用などのほか、毎年の決算・申告、記帳、会社としての手続きが必要になります。法人住民税には、所得がなくても課される均等割があります。税理士などの専門家に依頼する費用も継続的に発生します。

    法人化による税負担の軽減額が、これらの維持コストを安定的に上回るかどうかは、設立前に確認しておきたい点です。また、役員報酬を支払う場合には、社会保険の取扱いも含めて、個人と会社を合わせた手取りで比較することが必要です。

    ③ 不動産の移し方:移転時の税金と、土地の貸し借り

    既に個人で保有している不動産を会社に移す場合、売買などの移転に伴って、個人側には譲渡所得の課税、会社側には登録免許税や不動産取得税などの負担が生じ得ます。また、時価より著しく低い価額で法人に移すと、時価で譲渡したものとみなされる規定もあります(国税庁 No.3105)。

    さらに、建物だけを会社に移して土地を個人に残す場合には、土地の貸し借りを税務上どう整理するか(借地権の問題)が重要な論点になります。移転の方法ごとの比較は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で詳しく解説しています。

    既存物件を動かさず、今後新たに取得する物件から会社で購入するという始め方もあります。移転時の負担を避けられる一方、会社に信用力がない段階での借入れなど、資金調達面の検討が必要です。

    ④ 資金の流れ:会社と個人の境界を最初に決める

    資産管理会社では、オーナー個人と会社の間でお金の貸し借りが生じやすく、事業会社を別に経営している場合には、会社同士の資金移動も起こります。こうした資金の流れは、利息や契約の整え方によって税務上の取扱いが変わることがあります。

    設立の時点で「会社のお金」と「個人のお金」の境界、報酬や配当の考え方を決めておくと、後の整理が格段に楽になります。詳しくは関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で解説しています。

    ⑤ 会社の承継:「会社を誰に渡すか」まで考える

    資産管理会社を作ると、オーナーが将来引き継ぐ財産は、不動産そのものから「会社の株式」に置き換わります。株式であれば分けやすいと考えられがちですが、株式が相続人に分散すると、会社の意思決定(物件の売却や借入れ、役員の選任など)が難しくなることがあります。

    また、不動産を多く保有する会社の株式は、相続税の評価上、「土地保有特定会社」などの特定の評価会社に該当し、純資産価額を中心に評価されることがあります。会社の株式と経営権を次の世代にどう渡すかについては、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。

    設立を検討しやすいタイミングの例

    上記の5つの軸を踏まえると、次のような場面は、資産管理会社の設立を具体的に検討しやすいタイミングといえます。

    • 不動産所得が増え、個人の税率が高い段階に達しているとき:他の所得と合わせて、累進税率の高い部分に該当している状態が続く見込みがある場合
    • 新たな物件の取得を予定しているとき:既存物件を移さずに、新規取得分から法人で始められる
    • 借入金の返済が進み、所得が増えてきたとき:減価償却や利息の効果が小さくなり、税負担が重く感じられるようになった段階
    • 家族が不動産の管理に関わり始めたとき:配偶者や子が実際に管理業務を担い始め、役割と報酬を整理する必要が出てきた場合
    • 相続・承継の方針を考え始めたとき:誰に、どの財産を、どの形で渡すかを整理する中で、所有形態を見直す必要が出てきた場合

    反対に、所得がそれほど大きくない段階や、近い将来に物件の売却を予定している場合、家族の方針が定まっていない場合には、設立を急ぐ必要がないこともあります。

    実務上注意したいポイント

    相続税の特例との関係を確認する

    個人が保有する土地には、一定の要件のもとで相続税の課税価格を減額する「小規模宅地等の特例」があります。国税庁によれば、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%、特定同族会社事業用宅地等は400㎡まで80%の減額とされていますが、特定同族会社事業用宅地等の対象となる法人の事業からは、不動産貸付業や駐車場業などが除かれています(国税庁 No.4124)。

    資産管理会社を設立して土地や建物の所有関係を変えると、こうした特例の適用区分も変わり得ます。所有形態の変更を検討する際は、相続税への影響もあわせて確認することが大切です。

    「会社が持つ財産」と「株式の価値」はつながっている

    法人化しても、会社の財産が増えれば、オーナーが保有する株式の評価も上がります。会社に利益を貯めるのか、報酬や配当として個人に移すのか、その配分は税負担と承継の両面から考える必要があります。

    実態のある会社として運営する

    資産管理会社は、記帳や契約、意思決定の記録など、会社としての実態を備えて運営することが前提です。家族への報酬も、実際の職務に見合ったものである必要があります。形式だけの会社では、期待していた効果が得られないだけでなく、税務上の問題につながることもあります。

    AEGISの視点

    資産管理会社は、節税の手法として語られることの多いテーマです。しかしAEGISは、資産管理会社を「不動産の所有と経営を、家族の中でどう分担し、どう引き継いでいくかを形にする器」と捉えています。

    同じ不動産でも、個人で持つか、法人で持つかによって、毎年の税負担だけでなく、キャッシュフローの使い道、管理の担い手、売却や建替えの意思決定の仕方、そして次の世代への渡し方が変わります。税率の差は判断材料の一つにすぎず、本当に問うべきは「この不動産を、誰が、どのような責任と権限をもって持ち続けるのか」という所有の設計です。

    そのためAEGISでは、資産管理会社の設立を単独の対策として切り出すのではなく、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理したうえで、その中に会社をどう位置付けるかを考えることを重視しています。最初の一歩は、精緻な税額試算よりも、保有不動産の一覧と、家族それぞれの役割や意向を書き出してみることです。

    不動産の評価や、法人との関係を含む不動産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社の設立は、「作るかどうか」ではなく「どの形で、どこまで法人に移すか」という所有形態の選択です。
    • 判断の軸は、所得と税負担、設立・維持の負担、不動産の移し方、資金の流れ、会社の承継の5つです。
    • 税率の比較は一時点ではなく、今後10年程度の収支の見通しの中で行うことが大切です。
    • 既存不動産の移転には税負担や借地権の整理が伴うため、新規取得分から法人で始める方法も選択肢になります。
    • 会社を作ると、将来引き継ぐ財産は「株式」に置き換わります。株主構成や議決権まで含めて設計することが重要です。

    具体的にどの形が適しているかは、所得の状況、保有不動産の内容、家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 不動産所得がいくらになったら、資産管理会社を作るべきですか?

    一律の金額基準はありません。個人の税率は他の所得との合計で決まり、法人化の効果は、設立・維持の費用、不動産の移し方、家族への報酬の有無などによって大きく変わります。現在の所得だけでなく、今後10年程度の収支の見通しの中で比較することが現実的です。

    Q. 既に持っている不動産も、会社に移さないと意味がないのですか?

    必ずしもそうではありません。管理の受託や一括借上げのように所有者を変えずに会社を関与させる方法や、今後新たに取得する物件から会社で購入する方法もあります。既存物件の移転には譲渡所得税などの負担が生じ得るため、移す場合と移さない場合を比較したうえで判断することが大切です。

    Q. 資産管理会社を作れば、相続税は必ず下がりますか?

    必ず下がるとは言えません。会社に蓄積された財産は株式の評価に反映されますし、土地の所有関係を変えることで小規模宅地等の特例の適用区分が変わることもあります。相続税への影響は、所有形態の変更前後を比較して確認する必要があります。

    Q. 家族を役員にして報酬を払えば、所得を分散できますか?

    家族が実際に管理業務などに従事しており、その職務に見合った報酬であれば、報酬の支払いを通じて所得が家族に分配されることになります。ただし、実態のない報酬や、職務内容に比べて過大な報酬は、税務上の問題につながる可能性があります。

    Q. 資産管理会社の株式は、誰が持つのがよいですか?

    一概には言えません。オーナーが全株を持つ方法、子などの後継者が設立時から株式を持つ方法などがあり、相続税の負担、会社の意思決定の安定性、家族間の公平などの観点から比較が必要です。設立時の株主構成は後から変えるのに手間がかかるため、最初の段階で慎重に検討することが望まれます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報